説明

液浸式研磨装置の研磨液攪拌機構

【目的】簡単な構成で研磨作用部位に於る研磨材の濃度を一定として単位時間当りの研磨材供給量を一定化することができ、研磨工具と被加工物の相対速度制御によって精度の高い研磨量制御を行なうことのできる液浸式研磨装置の研磨液攪拌機構。
【構成】回転駆動される研磨工具31が備えられた回転軸30の先端に、攪拌羽根33が設けられ、液槽20内の研磨材が混入された研磨液50内で研磨工具31によって金型1のレンズ成形面1Aを研磨する際、攪拌羽根33が研磨液50を攪拌する。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、被加工物と回転駆動される研磨工具を研磨材が混入された研磨液中に配置し、研磨液中で研磨作業を行なう液浸式研磨装置に於て、研磨液を攪拌する液浸式研磨装置の研磨液攪拌機構に関する。
【0002】
【従来の技術】
樹脂成形金型の成形面等を平滑面に研磨する方法として、近時、被加工物と回転駆動される研磨工具を精製水にアルミナ等の研磨材を混入した研磨液中に配置し、研磨液中で研磨作業を行なう液浸式と呼ばれる研磨方法がある。
例えばEEM(Elastic Emission Machining)と呼ばれるものでは、弾性体で形成された研磨工具と被加工物の間に研磨液層が介在して研磨工具と被加工物は非接触状態となり、研磨液に混入された研磨材で被加工物表面を研磨するものである。
このような液浸式研磨方法では、研磨工具と被加工物を所定の圧力で近接する方向に加圧した状態で研磨工具と被加工物を相対移動させることによって研磨を行なうが、研磨量は研磨工具と被加工物の相対移動速度によって制御される。つまり、被加工物の研磨面の形状を予め測定して研磨量を設定し、この設定された研磨量に基いて、研磨工具と被加工物の相対移動速度を研磨量が多い部位では遅く、研磨量が少ない部位では速くするものである。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
しかし乍ら、研磨作用中に研磨液中の研磨材が比重差から沈殿することによって研磨作用部位に供給される研磨材の量(濃度)が徐々に変化し、その結果、研磨能率が低下したり、研磨量にムラを生じて精度の高い研磨が行なえないという問題がある。つまり、研磨量は研磨工具と被加工物の相対速度以外に研磨作用部位に供給される研磨材の量によっても左右されるものであり、研磨工具と被加工物の相対移動速度によって研磨量を制御して精度の高い研磨を行なう為には、研磨作用部位に於る研磨材の濃度を一定とする必要があるものである。
【0004】
この為、研磨液を十分攪拌した後研磨作業を行なったり、図2に示す如く研磨液槽20内に攪拌羽根61を備えた攪拌軸60を設けて研磨作業中継続して攪拌を行なう構成が考えられているが、研磨作業前に攪拌するものでは作業中に研磨材が沈殿することによる濃度変化は避けられず、又、研磨液水槽に攪拌軸を設けた構成では、構成が複雑となると共に、研磨材の沈殿は防げるものの攪拌流に沿って研磨材の濃淡が生じてその濃度分布は均一化せず、この研磨材の濃度分布が異なる研磨液中を研磨作用部位が移動することから結果的に研磨作用部位に於る研磨材の濃度が変化し、依然として安定した研磨量が得られないものであった。
尚、図2に於て、1は被加工物,30は工具軸,31は研磨工具,50は研磨液,51は研磨材粒子である。
【0005】
【考案の目的】
本考案は、上記の如き事情に鑑み、簡単な構成で研磨作用部位に於る研磨材の濃度を一定として単位時間当りの研磨材供給量を一定化することができ、研磨工具と被加工物の相対速度制御によって精度の高い研磨量制御を行なうことのできる液浸式研磨装置の研磨液攪拌機構の提供、を目的とする。
【0006】
【課題を解決する為の手段】
上記目的達成の為、本考案に係る液浸式研磨装置の研磨液攪拌機構は、研磨工具が装着される回転軸に、研磨液の攪拌羽根が装着されて構成されている。
これにより、研磨液は研磨作用部位と常に相対位置が一定の攪拌羽根によって攪拌されることとなり、研磨作用部位に於る研磨材の濃度が一定化され、安定した研磨量が得られる。
【0007】
【考案の実施例】
次に、図面に基いて本考案の実施例を説明する。
図1は本考案を適用した液浸式研磨装置の主要部の概略構成図である。
図示液浸式研磨装置は、例えば光学プラスチックによって非球面レンズを成形する為の金型1の、成形するレンズの非球面と対応する凹状非球面に形成されるレンズ成形面1Aを超鏡面に研磨するものであり、直交する水平二方向(X,Y軸方向)及び鉛直方向(Z軸方向)の三方向に移動駆動可能なテーブル10上に、研磨液を収容する上方に開放した液槽20が配設されると共に、テーブル10の側方に該テーブル10とは独立して立設配置された図示しない固定コラムの上端から水平なアーム(図示せず)が液槽20の上側迄延設され、このアームに工具軸30が鉛直に支持されている。工具軸30の下端部は、テーブル10の昇降(Z軸方向の移動)によって液槽20内に位置し得るようになっている。
【0008】
液槽20には、被加工物を支持する支持アーム21が、その先端の被加工物装着部21Aを液槽20内に位置させて設けられ、その被加工物装着部21Aには、被加工物である金型1が装着されている。本実施例に於る金型1は、真鍮素材又は型面(レンズ成形面1A)に電解ニッケルメッキが施され、予め所定の非球面に切削加工されているものである。
又、液槽20内には、精製水に所定粒径のアルミナ等の研磨材51を所定の割合で混入した研磨液50が、略一杯に収容されている。
【0009】
工具軸30は、図示しない駆動源により所定の回転数で回転駆動されるようになっており、先端(下端)部には球状の研磨工具31が固定されると共に、先端端面に螺着された所定長さの連結棒32を介して所定枚数の所定外形の攪拌羽根33が装着され、該攪拌羽根33は研磨工具31の下方に所定間隔離れて配置されている。
研磨工具31は、所定の弾性(硬度60〜90°)を有する弾性体(例えばポリウレタンゴム)により、研磨対象面(レンズ成形面1A)の曲率より小さな曲率を有する球状に形成されている。そして、工具軸30の、テーブル10の昇降によって研磨液50中に没し得、水平方向の移動によって支持アーム21の被加工物装着部21Aに装着された金型1のレンズ成形面1Aの全面に隈無く接し得るようになっている。
【0010】
攪拌羽根33は、回転によってその回転平面と直交する方向の液流を形成する所謂スクリュウ状であって、研磨作用時の研磨工具31の回転に伴う回転によって上側(研磨工具31側)に向けて液流を形成するように設けられている。
液槽20は、図示しない加圧機構によって図中矢印Pで示す如く常時支持アーム21の被加工物装着部21Aが工具軸30に近接する側に付勢され、これによって、研磨工具31と支持アーム21の被加工物装着部21Aに装着された金型1の研磨面(レンズ成形面1A)とが一定の圧力で圧接されるようになっている。
テーブル10は、当該液浸式研磨装置の図示しない制御装置によって制御移動され、これによって支持アーム21の被加工物装着部21Aに装着された金型1のレンズ成形面1Aの研磨工具31との接触位置(即ち研磨工具31によるレンズ成形面1Aの研磨部位)が移動するようになっている。
【0011】
而して、上記の如く構成された液浸式研磨装置では、工具軸30を所定の回転数で回転駆動すると共に、予め測定された金型1のレンズ成形面1Aの切削加工形状から求められた部位毎に必要な研磨量から導出された部位毎の金型1と研磨工具31の移動相対速度に基いて、制御装置がテーブル10を制御移動させ、研磨を行なう。例えば、旋盤等による回転切削によって研磨前形状に形成された図示の如き凹状の金型1では、切削加工時に於る回転中心に所謂ヘソと呼ばれる微小突起(図示せず)が不可避的に残存するが、このような微小突起等を削除する必要のある部位は削除し得るゆっくりした速度で、形状は正しく表面あらさを平滑として超鏡面に仕上るのみの部位はそれに対応した比較的速い速度で移動させる。
【0012】
ここで、この研磨作用時、工具軸30の回転に伴ってその先端に装着された攪拌羽根33が回転し、図中矢印で示す如く液槽20の底部から上方に向かう(即ち研磨工具31に向かう)液流を形成する。これにより、比重差によって沈殿している又は沈殿しようとする研磨材51は液流に沿って流動して研磨工具31と金型1のレンズ成形面1Aとの接触位置(研磨作用部位)に至り、この研磨作用部位に常に研磨材51を供給するよう作用する。つまり、攪拌羽根33の回転によって研磨工具31に対して常に一定の液流が形成され、この液流によって常に一定濃度の研磨材51が研磨作用部位に供給される(単位時間当り一定量の研磨材51が研磨作用部位に供給される)こととなり、これによって、金型1と研磨工具31の移動相対速度と研磨量との関係が高精度で一定化し、金型1と研磨工具31の移動相対速度を制御することによって研磨量を高精度に規定することができる。
【0013】
尚、上記実施例では、工具軸30の先端に攪拌羽根33を固定装着したものであるが、工具軸30の内部に攪拌羽根33用の軸を挿通し、工具軸30と異なる回転数で回転させたり、研磨部位の上下方向の移動(テーブル10のZ方向移動)に伴なって、液槽20の底部と攪拌羽根33の相対位置が変らないように昇降させる等の構成も考えられるものである。
【0014】
【考案の効果】
以上述べたように、本考案に係る液浸式研磨装置の研磨液攪拌機構によれば、簡単な構成で研磨作用部位に於る研磨材の濃度を一定とすることができ、研磨工具と被加工物の相対速度制御によって安定した研磨量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案に係る液浸式研磨装置の研磨液攪拌機構を適用した液浸式研磨装置の主要部の概略図。
【図2】従来例である液浸式研磨装置の主要部の概略構成図。
【符号の説明】
1…金型(被加工物)
30…回転軸
31…研磨工具
33…攪拌羽根
50…研磨液
51…研磨材

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】被加工物と回転駆動される研磨工具を研磨材が混入された研磨液中に配置し、前記研磨液中で研磨作業を行なう液浸式研磨装置に於て、研磨工具が装着される回転軸に、研磨液の攪拌羽根が装着されていること、を特徴とする液浸式研磨装置の研磨液攪拌機構。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】実開平5−63753
【公開日】平成5年(1993)8月24日
【考案の名称】液浸式研磨装置の研磨液攪拌機構
【国際特許分類】
【出願番号】実願平4−11035
【出願日】平成4年(1992)2月4日
【出願人】(000000527)旭光学工業株式会社 (1,878)