説明

液溜り防止型電着塗装用吊掛治具及び電着塗装方法

【課題】 エアーポケット及び液溜りを防止し、且つ、構造が簡単で安価で、操作性、安全性、経済性に優れた液溜り防止型電着塗装吊掛治具及び電着塗装方法を開発・提供する事。
【解決手段】 逆門型状枠体を2個設け、該枠体一方は上端に吊りフックを有する前側吊掛治具本体とし、他方は上端に高さ調整兼着脱式吊掛用ステーを有する後側吊掛治具本体とし、両吊掛治具本体は全体形状がコ字状枠体の固定部材両側片で前後に所定間隔を保って並設するよう軸で回動可能に軸着し、各固定部材に筒状部を有する被処理製品を一時水平方向に固定係止具を設け、前記両吊掛治具本体に固定部材の遥動角度を規制するストッパーを設け、更に前側吊掛治具本体と各固定部材間に通電用ワイヤーを結線すると共に複数の軸には絶縁用樹脂製フランジ付ブッシングと樹脂製ワッシャーを装着して前側吊掛治具本体と後側吊掛治具本体とを絶縁する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液溜り防止型電着塗装用吊掛治具及び電着塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の塗膜生成するカチオン(陽イオン)電着塗装工程において、ワークの形状や処理方法によってはエアーポケットの発生、又は、処理液溜りの発生により、塗膜不良が生じる。
【0003】
又、エアーポケットにおいて、塗料中に侵漬されたワークに空気が溜まった状態で、又は処理中の電解作用時に生じるガス(水素・酸素)による空気溜まりの状態で電着塗装を行った場合、その部位には塗膜が生成されず、素地露出となる。
【0004】
又、液溜りにおいて、塗料が流れ出せずに液溜りが乗じた部位においては、焼き付け乾燥工程で塗膜の膨れ・硬化不良・ザラ(残留物の付着)が生じる等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
これまでに出願されている電着塗装関係の特許文献を参考の為、紹介する(特許文献1〜2参照)。
【特許文献1】特開2009−185309
【特許文献2】特開2009−161825
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、上記課題を解決する為に、この発明はエアーポケット及び液溜り発生を防止し、且つ、構造が簡単で安価であり、操作性、安全性、経済性に優れた液溜り防止型電着塗装用吊掛治具及び電着塗装方法を開発・提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決する為の手段として、適宜な幅と厚みを有する板材を用い、全体の形状が逆門型状の枠体を2個設け、該枠体の一方は、それぞれ上端に吊りフックを有する前側吊掛治具本体とし、他方は、それぞれ上端に高さ調整兼着脱式吊掛用ステーを有する後側吊掛治具本体とし、これら両吊掛治具本体は、適宜な幅と厚みを有する板材を用い、全体の形状がコ字状の枠体からなる固定部材の両側片で、前後に所定の間隔を保って並設するよう、それぞれ軸で回動可能に軸着し、これら各固定部材には、それぞれ筒状部を有する被処理製品を一時水平方向に固定する為の係止具を設け、且つ、前記両吊掛治具本体には、それぞれ固定部材の揺動角度を規制するストッパーを設け、更に、前側吊掛治具本体と各固定部材間には通電用ワイヤーをそれぞれ結線すると共に、複数の軸には、それぞれ絶縁用の樹脂製フランジ付きブッシングと樹脂製ワッシャーを装着することにより、前側吊掛治具本体と後側吊掛治具本体とを絶縁することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明の効果として、適宜な幅と厚みを有する板材を用い、全体の形状が逆門型状の枠体を2個設け、該枠体の一方は、それぞれ上端に吊りフックを有する前側吊掛治具本体とし、他方は、それぞれ上端に高さ調整兼着脱式吊掛用ステーを有する後側吊掛治具本体とし、これら両吊掛治具本体は、適宜な幅と厚みを有する板材を用い、全体の形状がコ字状の枠体からなる固定部材の両側片で、前後に所定の間隔を保って並設するよう、それぞれ軸で回動可能に軸着し、これら各固定部材には、それぞれ筒状部を有する被処理製品を一時水平方向に固定する為の係止具を設け、且つ、前記両吊掛治具本体には、それぞれ固定部材の揺動角度を規制するストッパーを設け、更に、前側吊掛治具本体と各固定部材間には通電用ワイヤーをそれぞれ結線すると共に、複数の軸には、それぞれ絶縁用の樹脂製フランジ付きブッシングと樹脂製ワッシャーを装着することにより、前側吊掛治具本体と後側吊掛治具本体とを絶縁する事で、エアーポケット及び液溜り発生を確実に防止し、且つ、構造が簡単で安価であり、操作性、安全性、絶縁性、耐久性、経済性に優れる等、極めて有益なる効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の一実施例を示し、(A)は吊掛治具の平面図で、(B)は正面図である。
【図2】この発明の一実施例を示し、吊掛治具の背面図である。
【図3】この発明の一実施例を示し、吊掛治具の右側面図である。
【図4】この発明の一実施例を示し、図1(B)のa−a矢視断面図である。
【図5】この発明の一実施例を示し、図1(B)のb−b矢視断面図である。
【図6】この発明の一実施例を示し、(A)は図1(B)のc部拡大断面図で、(B)は図2のd部拡大断面図である。
【図7】この発明の一実施例を示し、(A)製品の平面図で、(B)は一部欠截正面図で、(C)は底面図である。
【図8】この発明の使用例を示し、(A)は吊掛治具に製品を装着時の平面図で、(B)は正面図である。
【図9】この発明の使用例を示し、(A)は塗装処理液内に浸けた時の姿勢図で、(B)は塗装処理液内から取り出し時の姿勢図である。
【図10】この発明の従来例を示し、左側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明を実施するための形態として、適宜な幅と厚みを有する板材を用い、全体の形状が逆門型状の枠体を2個設け、該枠体の一方は、それぞれ上端に吊りフック(1a)を有する前側吊掛治具本体(1)とし、他方は、それぞれ上端に高さ調整兼着脱式吊掛用ステー(2c)を有する後側吊掛治具本体(2)とし、これら両吊掛治具本体(1),(2)は、適宜な幅と厚みを有する板材を用い、全体の形状がコ字状の枠体からなる固定部材(3)の両側片で、前後に所定の間隔を保って並設するよう、それぞれ軸(X)(X')で回動可能に軸着し、これら各固定部材(3)には、それぞれ筒状部を有する被処理製品(AR)を一時水平方向に固定する為の係止具(3a)(3b)を設け、且つ、前記両吊掛治具本体(1),(2)には、それぞれ固定部材(3)の揺動角度を規制するストッパー(2a)を設け、更に、前側吊掛治具本体(1)と各固定部材(3)間には通電用ワイヤー(WI)をそれぞれ結線すると共に、複数の軸(X)(X')には、それぞれ絶縁用の樹脂製フランジ付きブッシング(BU)と樹脂製ワッシャー(W')を装着することにより、前側吊掛治具本体(1)と後側吊掛治具本体(2)とを絶縁することを特徴とする液溜り防止型電着塗装用吊掛治具から構成される。
【実施例1】
【0011】
そこで、この発明の一実施例を図1〜図7に基づいて詳述すると、図1に示すように前側吊掛治具本体(1)は板厚t4.5mm×幅13mmの平板鋼を縦230mm×横185mmの矩形状に折り曲げ形成し、且つ、上端左右に逆U字状の吊りフック(1a)(1a)をそれぞれ溶着し、且つ、前側吊掛治具本体(1)の左右には、上下方向に所定間隔(P)空けて設けた複数の揺動軸部(X)・・(X)をそれぞれ設けたものである。又、後側吊掛治具本体(2)は板厚t4.5mm×幅13mmの平板鋼を縦210mm×横185mmの逆門型状に折り曲げ形成し、且つ、上端左右に高さ調整用ネジ(2b)(2b)をそれぞれ溶着し、且つ、該高さ調整用ネジ(2b)部には高さ調整兼着脱式吊掛用ステー(2c)と固定用のナット(N)(N)をそれぞれ螺着して設けている。又、前記高さ調整兼着脱式吊掛用ステー(2c)は着脱式の為、万が一通電不良を起こした時には、吊掛用ステーの材質を変更する事により、通電不良を解消し、又、上下のダブルナットにより固着されている為、ナットの高さ位置を調整する事で取り付け高さを適宜変更する事も可能である。又、前側吊掛治具本体(1)と複数のコ字状固定部材(3)(3)(3)(3)には通電用ワイヤー(WI)を固定する為のボルト(B)・ワッシャー(W)等の係止部材をそれぞれ螺着して設けて、その係止部材間に通電用ワイヤー(WI)を懸架して連結して設けている。
【0012】
そして、前記の前側吊掛治具本体(1)と後側吊掛治具本体(2)の左右内側には、板厚t4.5mm×幅13mmの平板鋼をコ字状に折り曲げ形成したコ字状遥動部材(3)を挟着し、且つ、各軸部をボルト(B)・ナット(N)・ワッシャー(W)等の係止部材で軸着し、且つ、該軸部には図6(A)(B)に示すように、陽極部材と陰極部材間を絶縁する為の、樹脂製鍔付ブッシング(BU)と樹脂製ワッシャー(W')をそれぞれ軸支して設けている。又、各コ字状固定部材(3)のほぼ中央内側面には、電着塗装する製品(AR)を係止する為のC型係止金具(3a)とY型係止金具(3b)をそれぞれ溶着している。
【0013】
次に、図7(A)(B)(C)は塗装する製品の一例を示し、(A)は平面図で、(B)は正面図で、(C)は底面図である。図面で解るように湾曲した製品の内面部(AR')には、残留塗料(PA')が溜まり易く、タンク内の塗装処理液から取り出す際に製品を傾けて管内の残留塗料(PA')を外に排出する必要がある。
【0014】
次にこの発明の吊掛治具(S)への電着塗装製品(AR)の挿着方法及び電着塗装方法について説明すると、まず、挿着方法は図8(A)(B)に示す様に、電着塗装製品(AR)の一方側の段違い筒状部(AR1)を吊掛治具のC型係止金具(3a)に挿着し、且つ、電着塗装製品(AR)の他方側の板状部(AR2)を吊掛治具のY型係止金具(3b)に挿着する。
【0015】
続いて電着塗装方法は吊掛治具(S)へ挿着した電着塗装被処理製品(AR)を図9(A)に示すように塗装処理液の入ったタンク(T)内へ浸ける。そして、吊掛治具(S)の左右の高さ調整兼着脱式吊掛用ステー(2c)(2c)部をタンク(T)の縁部へ引掛けて固定する。そして、所定の時間が経過すると、図9(B)に示すように吊掛治具(S)の吊りフック部を吊り具(F)等を使って持ち上げる。すると、吊掛治具のコ字状固定部材(3)が後方側に傾いて、電着塗装製品(AR)の管内部に溜まった残留塗料(PA')が自然に排出される。
【0016】
図10は従来例を示し、引っ掛け用治具(S')に、電着塗装製品(AR)の段違い筒状部に設けた開口穴部を挿着して引っ掛け、塗装ラインで加工されていた為、図で解るように製品の湾曲管内部に残留塗料(PA')が発生して製品不良を起こしていた。
【産業上の利用可能性】
【0017】
この発明の液溜り防止型電着塗装用吊掛治具は、エアーポケット及び液溜り発生を防止し、且つ、構造が簡単で安価であり、操作性、安全性、経済性に優れている為、多くの自動車部品製造関係市場等に寄与する点で産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0018】
1 前側吊掛治具本体
1a 吊りフック
2 後側吊掛治具本体
2a ストッパー
2b 高さ調整用ネジ
2c 高さ調整兼着脱式吊掛用ステー
3 固定部材
3a C型係止金具
3b Y型係止金具
AR 被処理製品
AR' 被処理製品の筒内面部
AR1 段違い筒状部
AR2 板状部
B ボルト等の係止部材
BU 樹脂製鍔付ブッシング
F 吊り具
N ナット
S 吊掛治具(本発明品)
S' 吊掛治具(従来品)
T タンク
PA 塗装処理液
PA' 製品管内残留塗料
X 軸
X' 軸
W ワッシャー
W' 樹脂製ワッシャー
WI 通電用ワイヤー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
適宜な幅と厚みを有する板材を用い、全体の形状が逆門型状の枠体を2個設け、該枠体の一方は、それぞれ上端に吊りフック(1a)を有する前側吊掛治具本体(1)とし、他方は、それぞれ上端に高さ調整兼着脱式吊掛用ステー(2c)を有する後側吊掛治具本体(2)とし、これら両吊掛治具本体(1),(2)は、適宜な幅と厚みを有する板材を用い、全体の形状がコ字状の枠体からなる固定部材(3)の両側片で、前後に所定の間隔を保って並設するよう、それぞれ軸(X)(X')で回動可能に軸着し、これら各固定部材(3)には、それぞれ筒状部を有する被処理製品(AR)を一時水平方向に固定する為の係止具
(3a)(3b)を設け、且つ、前記両吊掛治具本体(1),(2)には、それぞれ固定部材(3)の揺動角度を規制するストッパー(2a)を設け、更に、前側吊掛治具本体(1)と各固定部材(3)間には通電用ワイヤー(WI)をそれぞれ結線すると共に、複数の軸(X)(X')には、それぞれ絶縁用の樹脂製フランジ付きブッシング(BU)と樹脂製ワッシャー(W')を装着することにより、前側吊掛治具本体(1)と後側吊掛治具本体(2)とを絶縁することを特徴とする液溜り防止型電着塗装用吊掛治具。
【請求項2】
電着塗装時には、複数の筒状部を有する被処理製品(AR)を、それぞれ固定部材(3)に、それぞれ係止具(3a)(3b)を用いて水平方向に並べて装着し、後側吊掛治具本体(2)の吊掛用ステー(2c)を、塗装処理液(PA)の入ったタンク(T)の縁部に係止し、前側吊掛治具本体(1)側を下降させて、傾けて塗装処理液(PA)内に侵漬することにより、被処理製品(AR)を筒内面部(AR')まで侵漬し、且つ、タンク(T)から取り出す際には、前側吊掛治具本体(1)側を上昇させることにより、筒状部を有する被処理製品(AR)の筒内残留塗料(PA')を自然排出可能にすることを特徴とする液溜り防止する電着塗装方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−132554(P2011−132554A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290155(P2009−290155)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(509353595)株式会社コーテックス (1)
【出願人】(509352956)株式会社廣鍍金工業所 (2)
【Fターム(参考)】