説明

液溜部を備えた分析用具

本発明は、試料を移動させるための流路(8A)と、試料導入口(73A)を有し、かつ流路(8A)に導入する試料を滞留させておくための液溜部(7A)と、を備えた分析用具(1A)に関する。流路(8A)および液溜部(7A)は、双方において吸引力が作用するように構成されている。液溜部(7A)に作用する吸引力は、流路(8A)に作用する吸引力よりも小さく設定される。液溜部(7A)における試料の移動方向に直交する直交方向の断面積は、たとえば流路(8A)における上記直交方向の断面積より大きく設定される。液溜部(7A)の容積は、流路(8A)の容積よりも大きく設定するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料(たとえば血液や尿などの生化学的試料)における特定成分(たとえばグルコース、コレステロールあるいは乳酸)を分析する際に使用される分析用具に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中のグルコース濃度を測定する場合、簡易な手法として、使い捨てとして構成されたバイオセンサを利用する方法が採用されている(たとえば特許文献1および2参照)。本願の図17に示したように、先の文献に記載されたバイオセンサ9Aは、キャピラリ90Aにおいて発生する毛細管力により試料を移動させるように構成されたものである。しかしながら、バイオセンサ9Aでは、試料を吸引口91Aに接触させた状態を維持しなければ試料の吸引が止まってしまう。そのため、皮膚から血液を出液させてキャピラリ90Aに血液を導入する場合には、皮膚に対してバイオセンサ9Aを接触させた状態を比較的に長い時間維持しなければならないため不便である。そればかりか、皮膚に対する接触時間が短か過ぎた場合には、血糖値を測定するのに十分な量の血液がキャピラリ90Aへ導入されないことがある。
【0003】
本願の図18に示したように、分析用具9Bとしては、液溜部92Bを備えたものも提案されている(たとえば特許文献3および4参照)。この分析用具9Bの液溜部92Bは、上方および側方に開放したものであり、毛細管力を生じさせるものではない。したがって、液溜部92Bに十分な量の血液を保持させるためには、液溜部92Bにおける開放部分およびキャピラリ90Bの吸引口91Bを皮膚によって塞いだ状態として皮膚から血液が採取される。皮膚から採取された血液は、液溜部92Bに滞留させられた後に、吸引口91Bを介してキャピラリ90Bの内部に導入される。
【0004】
分析用具9Bでは、液溜部92Bに吸引力が作用しないために、先に説明したバイオセンサ9A(図17参照)と同様に、皮膚に対して分析用具9Bを接触させた状態を比較的に長い時間維持しなければならないため不便である。そればかりか、液溜部92Bに血液を保持させた後にキャピラリ90Bに血液が導入されるように構成されているため、キャピラリ90Bが血液で満たされるまでに比較的に多くの時間を費やしてしまう。また、分析用具9Bでは、採血に当たって液溜部92Bおよび吸引口91Bの双方を塞ぐように皮膚を接触させる必要があるために、採血作業が煩わしいものとなっている。そればかりか、液溜部92Bおよび吸引口91Bの双方を塞ぐことができる皮膚の部位には制限があり、採血部位の制約が大きくなる。
【特許文献1】特開2001−159618号公報
【特許文献2】特開2001−305093号公報
【特許文献3】特表2001−525554号公報
【特許文献4】特開平7−55801号公報
【発明の開示】
【0005】
本発明は、試料を移動させるための流路を備えた分析用具において、流路に対して、短時間で一定量の試料を確実に供給できるようにすることを目的としている。
【0006】
本発明により提供される分析用具は、試料を移動させるための流路と、試料導入口を有し、かつ流路に導入する試料を滞留させておくための液溜部と、を備えた分析用具であって、上記流路および上記液溜部の双方において吸引力が作用し、かつ上記液溜部に作用する吸引力が上記流路に作用する吸引力よりも小さくなるように構成されている。
【0007】
液溜部における試料の移動方向に直交する直交方向の断面積は、たとえば流路における上記直交方向の断面積より大きく設定される。液溜部の容積は、流路の容積よりも大きく設定するのが好ましい。液溜部の容積は、たとえば1μL以上に設定される。より好ましくは、液溜部の容積は2〜4μLに設定され、流路の容積は2μLよりも小さく設定される。
【0008】
流路および液溜部は、たとえば板材の上に設けられる。この場合、液溜部における上記板材の厚み方向の寸法は、流路における上記厚み方向の寸法よりも大きく設定される。液溜部における幅方向(上記移動方向および上記厚み方向の双方に直交する方向)の寸法と、流路における上記幅方向の寸法とは、たとえば同一または略同一とされる。
【0009】
本発明の分析用具は、たとえば第1板材に対して、1以上のスペーサを介して第2板材を積層した構成を有するものとされる。
【0010】
1以上のスペーサは、たとえば1以上の第1および1以上の第2スペーサを含んでいる。この場合、流路における第1および第2板材の厚み方向の寸法は、たとえば1以上の第1スペーサによって規定され、液溜部における上記厚み方向の寸法は、たとえば1以上の第1および第2スペーサによって規定される。
【0011】
1以上の第1スペーサは、流路における上記幅方向の寸法を規定するように構成してもよい。
【0012】
1以上の第1および第2スペーサは、たとえば液溜部における上記幅方向の寸法を規定する切欠を有するものとされる。この切欠は、たとえば上記移動方向とは反対方向に沿って上記流路から離れる部位ほど、その幅寸法が大きくなされる。
【0013】
1以上の第2スペーサは、たとえば上記厚み方向に重ね合わされた複数のスペーサを含むものとされる。
【0014】
第1板材および第2板材のうちの少なくとも一方は、たとえば上記厚み方向に突出し、かつ液溜部の容積を大きく確保するための膨出部を有するものとされる。この場合、試料導入口は、たとえば上記移動方向と反対方向に向けて開放するものとされる。
【0015】
第1板材および第2板材のうちの少なくとも一方は、たとえば上記厚み方向に窪み、かつ液溜部の容積を大きく確保するための凹部を有するものとされる。この場合、試料導入口は、たとえば上記厚み方向において開放するものとされる。
【0016】
本発明の分析用具においては、たとえば流路および液溜部に作用する吸引力は、毛細管力として作用させられる。
【0017】
本発明の分析用具は、たとえば流路の内部に試料に含まれる対象成分の量に応じた呈色を示す試薬部が設けられ、光学的手法を利用して上記対象成分の分析を行うことができるように構成される。もちろん、電極を利用して分析対象成分の濃度などを電気的物理量に反映させて出力するように構成してもよい。
【0018】
本発明の分析用具は、典型的には、試料として生化学的試料、たとえば血液、尿、唾液、あるいはそれらの調整液を使用する場合に適合するように構成される。ここで、調整液には、少なくとも希釈液、遠心分離して得られる上清、あるいは特定の試薬と混合したものが含まれる。
【0019】
本発明の分析用具は、試料として全血を用いる場合には、たとえば試料導入口に皮膚を密着させて、試料としての全血を皮膚から液溜部に導入するように構成することもできる。この場合、試料導入口は、正多角形または略正多角形、あるいは円形または略円形に形成するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
[図1]本発明の第1の実施の形態に係るグルコースセンサの全体斜視図である。
[図2]図1のII−II線に沿う断面図である。
[図3]図1に示したグルコースセンサの分解斜視図である。
[図4]図1に示したグルコースセンサにおける血液の導入動作を説明するための図2に相当する断面図である。
[図5]グルコースセンサの他の例を示す全体斜視図である。
[図6]図5に示したグルコースセンサの分解斜視図である。
[図7]本発明の第2の実施の形態に係るグルコースセンサの全体斜視図である。
[図8]図7のVIII−VIII線に沿う断面図である。
[図9]本発明の第3の実施の形態に係るグルコースセンサの全体斜視図である。
[図10]図9のX−X線に沿う断面図である。
[図11]本発明の第4の実施の形態に係るグルコースセンサの分解斜視図である。
[図12]図11に示したグルコースセンサの断面図である。
[図13]実施例1の結果を示すグラフである。
[図14]実施例2の結果を示すグラフである。
[図15]実施例3の結果を示すグラフである。
[図16]実施例4の結果を示すグラフである。
[図17]従来のバイオセンサの一例を示す断面図である。
[図18]従来のバイオセンサの他の例を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1ないし図3に示したグルコースセンサ1Aは、使い捨てとして構成されたものであり、比色により血糖値を測定するように構成されたものである。このグルコースセンサ1Aは、基板2Aに対して、スペーサ3A〜5Aを介してカバー6Aを接合した形態を有しており、これらの部材2A〜6Aによって液溜部7Aおよびキャピラリ8Aが規定されている。
【0022】
基板2Aは、液溜部7Aの下面70Aを規定するものであり、長矩形状の形態を有している。この基板2Aは、光を透過しやすいように、PET、PMMA、ビニロンなどの樹脂材料により透明に形成されている。この基板2Aは、液溜部7Aを臨む面の親水性が高いものとされている。このような基板2Aは、たとえば基板2Aの全体をビニロンや高結晶化PVAなどの濡れ性の高い材料により形成し、あるいは基板2Aにおけるキャピラリ8Aを臨む面に親水処理を施すことにより形成することができる。親水処理は、たとえば紫外線を照射することにより、あるいはレシチンなどの界面活性剤を塗布することにより行われる。
【0023】
スペーサ3A,4Aは、液溜部7Aの高さ寸法を確保するとともに液溜部7Aの側面71Aを規定するためのものであり、互いに同一の平面視形状を有している。すなわち、スペーサ3A,4Aは、全体として長矩形状の形態を有するとともに、切欠30A,40Aを有している。切欠30A,40Aは、液溜部7Aの側面71Aを構成し、かつ基板2Aの一部を露出させるためのものである。スペーサ3Aは、たとえば両面テープにより構成されており、透明に形成されている。スペーサ4Aは、たとえば基板2Aと同様に樹脂材
料により透明に形成されている。スペーサ4Aは、液溜部7Aおよびキャピラリ8Aを臨む面が、たとえば基板2Aと同様な手法により、親水性が高いものとされている。
【0024】
スペーサ5Aは、スペーサ3A,4Aとともに液溜部7Aの高さ寸法を確保し、かつキャピラリ8Aの幅寸法および高さ寸法を規定するためのものである。スペーサ5Aは、第1および第2要素50A,51Aを含んでいる。第1および第2要素50A,51Aは、液溜部7Aの側面71Aを構成する切欠52A,53Aを有する同一の形状に形成されている。これらの要素50A,51Aは、スペーサ4A上において、切欠52A,53Aを、スペーサ3A,4Aの切欠30A,40Aに位置合わせした状態で、互いに線対称の関係となるように一定間隔隔てて配置されている。その結果、スペーサ4A上には、スペーサ5A(第1および第2要素50A,51A)によって、基板2Aの長手方向に延びる溝が形成されており、この溝がキャピラリ8Aの下面80Aおよび側面81Aを構成している。
【0025】
カバー6Aは、液溜部7Aおよびキャピラリ8Aの上面72A,82Aを構成するものであり、全体として長矩形状の形態を有している。このカバー6Aは、光を透過しやすいように、PET、PMMA、ビニロンなどの樹脂材料により透明に形成されている。カバー6Aには、キャピラリ8Aの内部の気体を排出するための貫通孔60Aが設けられている。ただし、グルコースセンサ1Aでは、キャピラリ8Aが側方に開放していることから、必ずしも貫通孔60Aを設ける必要はなく、キャピラリ8Aにおける側方に開放した部分からキャピラリ8Aの内部の気体を排出するように構成することもできる。このカバー6Aは、液溜部7Aおよびキャピラリ8Aを臨む面が、たとえば基板2Aと同様な手法により、親水性が高いものとされている。
【0026】
液溜部7Aは、血液をキャピラリ8Aに導入する前に、その血液を保持しておくためのものであり、キャピラリ8Aに繋がっている。この液溜部7Aは、側方に開放した試料導入口73Aを有しており、この試料導入口73Aからキャピラリ8Aに向けた吸引力が作用するように構成されている。液溜部7Aにおいて作用する吸引力は、後述するキャピラリ8Aにおいて作用する吸引力よりも小さく設定されている。
【0027】
液溜部7Aの容積は、キャピラリ8Aの容積よりも大きく設定されている。液溜部7Aの容積は、上述の記載からは明らかであるが、基板2Aとカバー6Aとの間に、スペーサ5Aに加えて、切欠30A,40Aを備えたスペーサ3A,4Aを介在させることにより比較的に大きなものとすることができる。液溜部7Aの容積は、グルコースセンサ1Aが微量血液を用いて血糖値を測定するように構成される場合には、たとえば2〜4μLに設定される。
【0028】
キャピラリ8Aは、毛細管力を発生させ、液溜部7Aに保持された血液を移動させるためのものである。キャピラリ8Aの容積は、上述の記載から分かるように液溜部7Aの容積よりも小さく設定される。グルコースセンサ1Aが微量血液を用いて血糖値を測定するように構成される場合には、キャピラリ8Aの容積は、たとえば2μL以下に設定される。
【0029】
キャピラリ8Aの内部には、試薬部83Aが設けられている。試薬部83Aは、血液に対して溶解しやすい多孔質の固体状に形成されており、発色剤を含んだものとして構成されている。このため、キャピラリ8Aに血液を導入した場合には、キャピラリ8Aの内部において、グルコースおよび発色剤を含む液相反応系が構築される。
【0030】
発色剤としては、公知の種々のものを用いることができるが、電子授受により発色したときの吸収波長が、血液の吸収波長からずれたものを用いるのが好ましい。発色剤として
は、たとえばMTT(3−(4,5−Dimethyl−2−thiazolyl)−2,5−diphenyl−2H−tetrazolium bromide)を用いることができる。
【0031】
試薬部83Aは、電子伝達物質あるいは酸化還元酵素を含んだものとして構成してもよい。そうすれば、グルコースと発色剤との間の電子授受をより速く行うことができるようになるため、測定時間を短くすることが可能となる。
【0032】
酸化還元酵素としては、たとえばGDHやGODを用いることができ、典型的にはPQQGDHが使用される。電子伝達物質としては、たとえば[Ru(NH]Cl、K[Fe(CN)]あるいはmethoxy−PMS(5−methylphenazinium methylsulfate)を使用することができる。
【0033】
次に、グルコースセンサ1Aを用いたグルコース濃度の測定手法の一例を、図4A〜図4Cを参照しつつ説明する。
【0034】
図4Aに示したように、グルコースセンサ1Aにおいては、血液Bの導入は、皮膚Skを穿刺して皮膚Skから血液Bを出液させた後、試料導入口73Aを血液Bに位置合わせしてグルコースセンサ1Aを皮膚Skに接触させることにより行われる。このような状態でグルコースセンサ1Aを皮膚Skに接触させた場合には、血液Bが試料導入口73Aの縁に接触する。このとき、図4Aおよび図4Bに示したように、液溜部7Aに作用する吸引力によって、液溜部7Aの上面72A、下面70Aおよび側面71Aに沿って血液Bがキャピラリ8Aに向けて移動し、液溜部7Aに血液Bが導入される。
【0035】
血液Bがキャピラリ8Aに到達した場合には、図4Bおよび図4Cに示したように、キャピラリ8Aの内部において生じる毛細管力によって、キャピラリ8Aに血液Bが導入され、移動させられる。血液Bの移動は、血液Bがカバー6Aの貫通孔60Aの縁に到達したときに停止する。キャピラリ8Aに血液Bが供給された場合には、試薬部83Aが血液Bによって溶解させられる。これにより、キャピラリ8Aの内部には、グルコースおよび発色剤を含んだ液相反応系、場合によっては酸化還元酵素や電子伝達物質を含んだ液相反応系が構築される。
【0036】
液相反応系においては、グルコースから取り出された電子が発色剤に供給されて発色剤が発色し、液相反応系が着色される。試薬部83Aにおいて、酸化還元酵素および電子伝達物質が含まれている場合には、酸化還元酵素が血液中のグルコースと特異的に反応してグルコースから電子が取り出され、その電子が電子伝達物質に供給された後に発色剤に供給される。したがって、発色剤の発色の程度(液相反応系の着色の程度)は、グルコースから取り出された電子の量、すなわちグルコース濃度に相関している。
【0037】
液相反応系の着色の程度は、たとえば液相反応系に対してカバー6Aを介して光を照射し、そのときに液相反応系を透過して基板2Aから出射する光を受光することにより検知される。液相反応系に照射する光は、発色剤の発現色における吸収の大きな波長の光のものが採用される。最終的なグルコース濃度は、液相反応系に対して入射させた入射光の強度と、液相反応系を透過した透過光の強度と、に基づいて演算することができる。
【0038】
グルコースセンサ1Aでは、試料導入口73Aが側方にのみ開放しているとともに、上述のように液溜部7Aに対して吸引力が作用するように構成されている。そのため、皮膚Skに対して液溜部7Aを接触させている時間が短い場合であっても、比較的に短い時間において、液溜部7Aに対して血液を導入することが可能となる。
【0039】
グルコースセンサ1Aではさらに、第1に、血液Bを液溜部7Aに保持させた後にキャピラリ8Aに血液Bが導入されるように構成され、第2に、液溜部7Aに作用する吸引力に比べてキャピラリ8Aに作用する吸引力のほうが大きくされ、第3に、液溜部7Aの容積がキャピラリ8Aの容積よりも大きく設定されている。そのため、液溜部7Aにおいて十分な量の血液を保持した後に、血液Bがキャピラリ8Aに到達した時点から短時間で、キャピラリ8Aを血液によって満たすことができる。したがって、グルコースセンサ1Aでは、キャピラリ8Aに対しては、より確実に十分な量の血液Bを導入することができ、精度良くグルコース濃度を測定できるようになる。
【0040】
本実施の形態においては、3つのスペーサ3A〜5Aによって液溜部7Aの高さ寸法ひいては容積が大きく確保されるように構成されていたが、スペーサ3A,4Aを省略し、スペーサ5Aの切欠52A,53Aのみにより液溜部7Aの容積が規定されるように構成することもできる。
【0041】
また、図5に示したように、液溜部7A′の幅寸法W1とキャピラリ8A′の幅寸法W2を同一にし、液溜部7A′の高さ寸法H1を大きく設定することにより、液溜部7A′の容積がキャピラリ8A′の容積よりも大きくなるようにしてもよい。このような液溜部7A′は、図6に示したように、スペーサ3A′,4A′にキャピラリ8A′の幅寸法と同一の幅寸法W3の切欠30A′,40A′を設け、スペーサ5A′における第1および第2要素50A′,51A′の切欠(図3の符号52A,53A参照)を省略することにより形成することができる。
【0042】
次に、本発明の第2の実施の形態について、図7および図8を参照しつつ説明する。
【0043】
図7および図8に示したグルコースセンサ1Bは、基本的な構成が先に説明したグルコースセンサ1A(図1ないし図3参照)と同様であるが、液溜部7Bの構成がグルコースセンサ1Aとは異なっている。
【0044】
液溜部7Bは、カバー6Bの形態を工夫することにより、容積が大きく確保できるように構成されている。すなわち、グルコースセンサ1Bでは、カバー6Bに対して、上方に膨出した膨出部61Bを設けることにより、容積が大きくなるようになされている。
【0045】
次に、本発明の第3の実施の形態について、図9および図10を参照しつつ説明する。
【0046】
図9および図10に示したグルコースセンサ1Cは、環状に形成されたものである。より具体的には、液溜部7Cおよびキャピラリ8Cともに円筒状に形成されているとともに、キャピラリ8Cに比べて液溜部7Cの内径が大きくされている。これにより、液溜部7Cにおいて生じる吸引力に比べて、キャピラリ8Cにおいて生じる吸引力のほうが大きく、キャピラリ8Cの容積に比べて液溜部7Cの容積が大きく設定されている。このような液溜部7Cおよびキャピラリ8Cは、樹脂成形などにより一体に形成することができる。
【0047】
グルコースセンサ1Cでは、液溜部7Cが円筒状に形成されている。その結果、試料導入口73Cは円形とされている。ところで、皮膚を穿刺して血液を出液させた場合には、血液は球状の滴として出液する。したがって、試料導入口73Cの形状を血液における出液時の形状に適合させておけば、より確実に液溜部7Cに血液を導入することができるようになる。このような効果は、試料導入口73Cの形状を円形にした場合に限らず、試料導入口73Cを円形に近い形状あるいは正多角形(典型的には正方形)に形成した場合にも得ることができる。
【0048】
次に、本発明の第4の実施の形態について、図11および図12を参照しつつ説明する。
【0049】
図11および図12に示したグルコースセンサ1Dは、試料導入口73Dが上方に開放した形態を有しているとともに、基板2Dに対して、スペーサ5Dを介してカバー6Dを積層した形態を有している。
【0050】
基板2Dには、キャピラリ8Dに収容されるようにして試薬部83Dが設けられている。基板2Dにはさらに、液溜部7Dを構成する凹部20Dが設けられている。この凹部20Dにより、液溜部7Dの容積を大きく確保することが可能となる。
【0051】
スペーサ5Dには、スリット状の第1開口部52Dおよび円形状の第2開口部53Dが設けられている。第1開口部52Dは、キャピラリ8Dの幅寸法および高さ寸法を規定するものであり、第2開口部53Dは基板2Dの凹部20Dとともに液溜部7Dの容積を規定するものである。
【0052】
このグルコースセンサ1Dでは、カバー6Dにおいて上方に開放して試料導入口73Dが設けられている。すなわち、試料導入口73Dは、比較的に大きな平坦面において、開放した状態で形成されている。したがって、グルコースセンサ1Dでは、液溜部7Dに血液を導入するときに、皮膚との接触面積を大きく確保することができる。そのため、安定した姿勢でグルコースセンサ1Dを皮膚に密着させることができるようになり、試料導入口73Dに対して血液を導入する作業が容易となり、また様々な部位から安定して血液を導入することができるようになる。
【0053】
以上の実施の形態においては、入射光と透過光の強度に基づいてグルコース濃度を測定できるように構成されたグルコースセンサについて説明したが、本発明は、入射光と反射光の強度に基づいて、グルコース濃度を測定できるように構成されたグルコースセンサについても適用できる。もちろん、本発明は、比色によりグルコース濃度を測定するように構成されたグルコースセンサに限らず、電極法によりグルコース濃度を測定するように構成されたグルコースセンサにも適用することができる。
【0054】
本発明は、血液中のグルコース以外の成分、たとえばコレステロールや乳酸などを分析する場合にも適用でき、また血液以外の試料、たとえば尿や唾液などを分析する場合にも適用できる。
【実施例】
【0055】
以下においては、グルコースセンサにおける液溜部およびキャピラリの容積が血液の導入態様に与える影響について、実施例1〜4として検討した。
(グルコースセンサの作成)
各実施例においては、グルコースセンサとして、図1ないし図3に示した形態のものを使用した。ただし、液溜部7Aおよびキャピラリ8Aにおける幅寸法W1,W2、長さ寸法L1,L2および高さ寸法H1,H2については、各実施例において特定した通りであり、また各実施例においては、試薬部を形成していないグルコースセンサを使用した。
【0056】
基板2A、スペーサ4A、およびカバー6Aとしては、常法にしたがってレシチン処理(親水処理)を施したPET製のものを使用した。スペーサ3A,5Aとしては、両面テープ(商品名「8616S」;大日本インキ(株)製)を用いた。
【実施例1】
本実施例では、キャピラリ8Aの容積を固定化した場合において、液溜部7Aの容積(液溜部7Aの高さ寸法)と、キャピラリ8Aにおいて血液が移動する距離と、の関係について検討した。
【0057】
本実施例においては、下記表1に示した通り、キャピラリ8Aの容積V2および形状が
同一で、液溜部7Aの容積V1(厚み寸法H1)が異なる3種類のグルコースセンサ1−1,1−2,1−3を用いた。キャピラリ8Aにおける血液の移動距離は、液溜部7Aに一定量の血液を導入した後に、血液の移動が停止した時点で測定した。液溜部7Aに対する血液の導入は、パラフィルム上に5μLの血液を載置した状態とした上で、グルコースセンサ1Aの試料導入口73Aを血液に接触させることにより行った。グルコースセンサ1Aは、液溜部7Aへの血液の導入が確認された時点で血液から離した。血液としては、Hct値が42%、60%または70%に調整された全血を用いた。移動距離の測定結果は、図13に示した。
【0058】

【0059】
図13から分かるように、液溜部7Aの厚み寸法H1が比較的に大きく、液溜部7Aの容積V1が比較的に大きく設定されている場合には(センサNo.1−2、1−3)、キャピラリ8Aを血液によって確実に満たすことができた。これに対して、液溜部7Aの厚み寸法H1が比較的に小さく、液溜部7Aの容積V1が比較的に小さく設定されている場合には(センサNo.1−1)、Hct値の大きな血液(Hct60%,70%)については、キャピラリ8Aを血液によって満たすことができなかった。
【0060】
ところで、センサ1−1〜1−3においては、キャピラリ8Aの容積V2が1.5mmに設定されているため、液溜部7Aの高さ寸法H1が240μmの場合に、液溜部7Aの容積V1とキャピラリ8Aの容積V2が一致する。この点からすれば、センサNo.1−2、1−3は液溜部7Aの容積V1がキャピラリ8Aの容積V2よりも大きく設定されている一方、センサNo.1−1は液溜部7Aの容積V1がキャピラリ8Aの容積V2よりも小さく設定されていることとなる。このことと、先の実験結果を踏まえれば、液溜部7Aの容積V1をキャピラリ8Aの容積V2よりも大きく設定することにより、Hct値の大きな血液であっても、液溜部7Aからキャピラリ8Aに対してより確実に血液を導入できることが伺える。実施例2
本実施例では、キャピラリ8Aの容積を固定化した場合において、液溜部7Aの厚み寸法H1(液溜部7Aの容積)と、キャピラリ8Aにおいて血液が一定距離移動するのに要する吸引時間と、の関係を検討した。
【0061】
本実施例においては、グルコースセンサとして、実施例1と同様に、液溜部7Aの厚み寸法H1が異なる3種類のグルコースセンサを用いた(上記表1参照)。吸引時間は、液溜部7Aに一定量の血液を導入した後に、キャピラリ8Aを25mm移動するのに要する時間として測定した。液溜部7Aに対する血液の導入は、実施例1と同様にして行った。血液としては、Hct値を42%に調整した全血を用いた。移動距離の測定結果は、図14に示した。
【0062】
図14から分かるように、液溜部7Aの厚み寸法H1が大きいグルコースセンサほど、吸引時間が短く、短時間かつ確実にキャピラリ8Aに血液を導入できることが分かる。
実施例3、実施例4
実施例3および実施例4では、液溜部7Aの容積を固定化した場合において、キャピラリ8Aの容積が吸引時間に与える影響について検討した。
【0063】
実施例3においては、下記表2に示したように、キャピラリ8Aの容積V2は、キャピラリ8Aの幅寸法W2を固定化する一方で、高さ寸法H2および長さ寸法L2を変化させて調整した。一方、実施例4においては、下記表3に示したように、キャピラリ8Aの容積V2は、キャピラリ8Aの長さ寸法L2を固定する一方で、高さ寸法H2および幅寸法W2を変化させて調整した。
【0064】
吸引時間の測定は、実施例2と同様にして行った。血液としては、Hct値が42%、60%または70%に調整された全血を用いた。その結果を図15A〜図15Cおよび図16A〜図16Dに示した。図15Aにはキャピラリ8Aの高さ寸法H2を60μmとしてキャピラリ8Aの長さ寸法L2を変化させた場合の結果を、図15Bにはキャピラリ8Aの高さ寸法H2を90μmとしてキャピラリ8Aの長さ寸法L2を変化させた場合の結果を、図15Cにはキャピラリ8Aの高さ寸法H2を120μmとしてキャピラリ8Aの長さ寸法L2を変化させた場合の結果をそれぞれ示してある。一方、図16Aにはキャピラリ8Aの幅寸法W2を0.75mmとしてキャピラリ8Aの高さ寸法H2を変化させた場合の結果を、図16Bにはキャピラリ8Aの幅寸法W2を1.0mmとしてキャピラリ8Aの高さ寸法H2を変化させた場合の結果を、図16Cにはキャピラリ8Aの幅寸法W2を1.2mmとしてキャピラリ8Aの高さ寸法H2を変化させた場合の結果を、図16Dにはキャピラリ8Aの幅寸法W2を1.5mmとしてキャピラリ8Aの高さ寸法H2を変化させた場合の結果をそれぞれ示してある。
【0065】
なお、図15C、図16Cおよび図16Dにおいては、測定開始から1分経過してもキャピラリ8Aが血液によって満たされなかった場合について、プロット点を省略している。
【0066】

【0067】


【0068】
図15A〜図15D、ならびに図16A〜図16Dから分かるように、キャピラリ8Aの容積V2が大きいほど、吸引時間が長くなり、またHct値の大きな血液ほど吸引時間が長くなり、場合によっては、キャピラリ8Aを血液によって満たせない場合がある。すなわち、実施例1,2の結果と同様に、基本的には、液溜部7Aの容積V1に比べて、キャピラリ8Aの容積を小さくすることが好ましいことが分かる。
【0069】
ただし、実施例4からは、次のことも分かる。すなわち、実施例4においては、キャピラリ8Aの容積V2が液溜部7Aの容積V1よりも小さいグルコースセンサ1Aを用いて検討しているが、キャピラリ8Aの容積V2が液溜部7Aの容積V1よりも小さい場合であっても、キャピラリ8Aに対する血液の吸引が十分に行えないことがある。これは、実施例4においては、キャピラリ8Aの長さ寸法L2を9mmと長く設定しているためであると考えられる。したがって、実施例4の結果からは、キャピラリ8Aの長さ寸法を必要以上に大きくしないほうがよいことが分かる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を移動させるための流路と、試料導入口を有し、かつ流路に導入する試料を滞留させておくための液溜部と、を備えた分析用具であって、
上記流路および上記液溜部の双方において吸引力が作用し、かつ上記液溜部に作用する吸引力が上記流路に作用する吸引力よりも小さくなるように構成されている、液溜部を備えた分析用具。
【請求項2】
上記液溜部における試料の移動方向に直交する直交方向の断面積は、上記流路における上記直交方向の断面積より大きく設定されている、請求項1に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項3】
上記液溜部の容積は、上記流路の容積よりも大きく設定されている、請求項2に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項4】
上記液溜部の容積は2〜4μLに設定され、上記流路の容積は2μL以下に設定されている、請求項3に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項5】
上記流路および液溜部は、板材の上に設けられており、
上記液溜部における上記板材の厚み方向の寸法は、上記流路における上記厚み方向の寸法よりも大きく設定されている、請求項2に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項6】
上記液溜部における幅方向の寸法と、上記流路における上記幅方向の寸法とは、同一または略同一とされている、請求項5に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項7】
第1板材に対して、1以上のスペーサを介して第2板材を積層した構成を有している、請求項2に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項8】
上記1以上のスペーサは、1以上の第1スペーサおよび1以上の第2スペーサを含んでおり、かつ、
上記流路における第1および第2板材の厚み方向の寸法は、上記1以上の第1スペーサによって規定されており、
液溜部における上記厚み方向の寸法は、上記1以上の第1スペーサおよび第2スペーサによって規定されている、請求項7に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項9】
上記1以上の第1スペーサは、上記流路における幅方向の寸法を規定している、請求項8に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項10】
上記1以上の第1および第2スペーサは、上記液溜部における上記幅方向の寸法を規定するための切欠を有している、請求項9に記載の液溜部を有する分析用具。
【請求項11】
上記1以上の第1および第2スペーサの切欠は、上記移動方向とは反対方向に沿って上記流路から離れる部位ほど、その幅寸法が大きくなっている、請求項10に記載の液溜部を有する分析用具。
【請求項12】
上記1以上の第2スペーサは、上記厚み方向に重ね合わされた複数のスペーサを含んでいる、請求項8に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項13】
上記第1板材および上記第2板材のうちの少なくとも一方は、上記第1および第2板材の厚み方向に突出し、かつ上記液溜部の容積を確保するための膨出部を有している、請求項7に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項14】
上記試料導入口は、上記移動方向と反対方向に向けて開放している、請求項13に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項15】
上記第1板材および上記第2板材のうちの少なくとも一方は、上記第1および第2板材の厚み方向に窪み、かつ上記液溜部の容積を確保するための凹部を有している、請求項7に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項16】
上記試料導入口は、上記厚み方向において開放している、請求項15に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項17】
上記流路および上記液溜部に作用する吸引力は、毛細管現象に起因するものである、請求項1に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項18】
上記流路の内部には、試料に含まれる対象成分の量に応じた呈色を示す試薬部が設けられており、光学的手法を利用して上記対象成分の分析を行うことができるように構成されている、請求項1に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項19】
試料として生化学的試料を使用するのに適合するように構成されている、請求項1に記載の液溜部を備えた分析用具。
【請求項20】
試料として全血を用いる場合において、
上記試料導入口に皮膚を密着させて、試料としての血液を皮膚から上記液溜部に導入するように構成されており、かつ、
上記試料導入口は、正多角形または略正多角形、あるいは円形または略円形に形成されている、請求項19に記載の液溜部を備えた分析用具。

【国際公開番号】WO2004/113927
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507214(P2005−507214)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008347
【国際出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】