説明

液滴の形態の離散サンプルのエレクトロスプレー及びナノスプレー・イオン化

空気又は油によって分離されたナノリットルのサンプルのプラグは、溶融シリカ・ナノスプレー・エミッタ・ノズルの中に直接送り出されるときに、エレクトロスプレー・イオン化質量分析によって分析することができることが発見された。メタノール中のロイシン・エンケファリン及び水溶の1%酢酸をモデル・サンプルとして用いると、プラグ間のキャリー・オーバーが<0.1%であり、一連のプラグについての信号の相対標準偏差が3%であることが分かった。検出限界は1nMであった。内径75μmのチューブ内の長さ3mmの空隙によって分離された13nLのサンプルを送り出すことによってサンプル分析レート0.8Hzが実現された。分析レートは、イオン・トラップ質量分析計のスキャン時間によって制限された。このシステムは、頑健で迅速で情報の豊富な、セグメント化流れシステム中でサンプルを化学分析する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年6月19日に出願した米国仮特許出願第61/218,454号の利益を主張する。上記出願の開示全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、米国国立科学財団によって授与された助成金CHE−0514638、及び国立衛生研究所によって授与された助成金R37 EB003220に基づく政府支援を得てなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
本欄は、必ずしも従来技術ではない本開示に関連した背景情報を提供する。
【0004】
キャピラリ又はマイクロ流体システム中の多相流は、閉鎖空間内の多くの離散サンプル又は合成反応を分割及び処理するやり方として大きな関心を集めている。共通の構成は、気体又は不混和性液体(すなわち、スペーサ・プラグ)によって分離された一連の水性のプラグ又は液滴(すなわち、サンプル・プラグ)であり、各サンプル・プラグは、個別の小さいバイアル又は反応容器として働くことができるようになっている。
【0005】
フェムトリットルからマイクロリットルのスケールでプラグを形成及び操作する方法が、開発されている。現在、マイクロ流体システム中でプラグのサンプリング、スプリティング、試薬の添加、濃縮、及び希釈などの多くの通常の実験室機能を実行することが可能であるように、これらの方法の高度化が急速に増している。しばしば強調されるのは、そのような操作が、ハイ・スループットで自動的に実行することができることである。これらの小型多相流システムは、例えば臨床的応用、工業的応用、及び環境的応用におけるハイ・スループット・アッセイのためにサンプルの空気セグメント化を使用することができる(セグメント化流れ分析としても知られる)連続流れ分析の普及している技法に起源を有する。
【0006】
多相流の使用及び研究の阻害要因は、プラグの内容を化学的に分析する方法の少なさである。比色法及び蛍光などの光学的方法が、一般に使用される。セグメント化流れを電気泳動分析するシステムが開発されている。これらの方法の欠点は、これらの方法が、分析物を検出可能にするように分析物が標識化されることを必要とするが、分析物が、プラグの内容の化学的同一性に関する情報をほとんど与えないことである。NMRが、プラグを分析するために使用されているが、この方法の感度の低さが、その利用の可能性を制限する。感度の良い、無標識の、情報の豊富な検出が、この技術基盤の発展を大いに助けるであろう。
【0007】
利用可能性のさらなる範囲は、本明細書に記載した説明から明らかになろう。この概要内の説明及び具体的な実例は、例示のために過ぎず、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,690,006号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「Coupling Microdroplet Microreactors with Mass Spectrometry:Reading the Contents of Single Droplets Online」、Luis M.Fidalgo、Graeme Whyte、Brandon T.Ruotolo、Justin L.P.Benesch、Florian Stengel、Chris Abell、Carol V.Robinson及びWilhelm T.S.Huck;Angewandte Chemie、2009、48、3665〜3668
【非特許文献2】Kennedy,R.T.、Jorgenson,J.W. Anal. Chem. 1989年、61、1128〜1135
【非特許文献3】Haskins,W.E.、Wang,Z.、Watson,C.J.、Rostand,R.R.、Witowski,S.R.、Powell,D.H.、Kennedy,R.T Anal Chem 2001年、73、5005〜5014
【非特許文献4】Li,Q.、Zubieta,J.K.、Kennedy,R.T. Anal.Chem. 2009年、81、2242〜2250
【非特許文献5】Valaskovic,G.A.、Kelleher,N.L.、Little,D.P.、Aaserud,D.J.、McLafferty,F.W. Anal.Chem. 1995年、67、3802〜3805
【非特許文献6】Thorsen,T.、Roberts,R.W.、Arnold,F.H.、Quake,S.R. Phys Rev Lett 2001年、86、4163〜4166;Tice,J.D.、Song,H.、Lyon,A.D.、Ismagilov,R.F. Langmuir 2003年、19、9127〜9133
【非特許文献7】Okushima,S.、Nisisako,T.、Torii,T.、Higuchi,T.Langmuir 2004年、20、9905〜9908
【非特許文献8】Garstecki,P.、Fuerstman,M.J.、Stone,H.A.、Whitesides,G.M. Lab Chip 2006年、6、437〜446
【非特許文献9】Kostiainen,R.、Bruins,A.P.、Rapid Commun. Mass Spectrom. 1996年、10、1393〜1399
【非特許文献10】Kostiainen,R.、Kauppila,T.J.、J.Chromatogr. A 2009年、1216、685〜699
【非特許文献11】Shiau,A.K.、Massari,M.E.、Ozbal,C.C. Back to Basics:Label−Free Technologies for Small Molecule Screening. Comb. Chem. High Throughput Screening. 2008年、11、231〜237
【非特許文献12】Ingkaninan,K.、de Best,C.M.、van der Heijden,R.、Hofte,A.J.P.、Karabatak,B.、Irth,H.、Tjaden,U.R.、van der Greef,J.、Verpoorte,R. High−Performance Liquid Chromatography with on−Line Coupled UV, Mass Spectrometric and Biochemical Detection for Identification of Acetylcholinesterase Inhibitors from Natural Products. J Chromatogr A. 2000年、872、61〜73
【非特許文献13】Ozbal,C.C、LaMarr,W.A.、Linton,J.R.、Green,D.F.、Katz,A.、Morrison,T.B.、Brenan,C.J.H. High Throughput Screening Via Mass Spectrometry: A Case Study Using Acetylcholinesterase. Assay and Drug Development Technologies. 2004年、2、373〜381
【非特許文献14】Hu,F.L.、Zhang,H.Y.、Lin,H.Q.、Deng,C. H.、Zhang,X.M. Enzyme Inhibitor Screening by Electrospray Mass Spectrometry with Immobilized Enzyme on Magnetic Silica Microspheres. J.Am.Soc.Mass Spectrom. 2008年、19、865〜873
【非特許文献15】Andrisano,V.、Bartolini,M.、Gotti,R.、Cavrini,V.、Felix,G. Determination of Inhibitors’ Potency (IC50) by a Direct High−Performance Liquid Chromatographic Method on an Immobilised Acetylcholinesterase Column. J Chromatogr B. 2001年、753、375〜383
【非特許文献16】Vinutha, B.、Prashanth,D.、Salma,K.、Sreeja,S.L.、Pratiti,D.、Padmaja,R.、Radhika,S.、Amit,A.、Venkateshwarlu,K、Deepak,M. Screening of Selected Indian Medicinal Plants for Acetylcholinesterase Inhibitory Activity. J Ethnopharmacol. 2007年、109、359〜363
【非特許文献17】Krstic,D.Z.、Colovic,M.、Kralj,M.B.、Franko,M.、Krinulovic,K.、Trebse,P.、Vasic,V. Inhibition of AchE by Malathion and Some Structurally Similar Compounds. J.Enzyme Inhib.Med.Chem.2008年、23、562〜573
【非特許文献18】Alvarez,A.、Alarcon,R.、Opazo,C、Campos,E.O.、Munoz,F.J.、Calderon,F.H.、Dajas,F.、Gentry,M.K.、Doctor,B.P.、De Mello,F.G.、Inestrosa,N.C. Stable Complexes Involving Acetylcholinesterase and Amyloid−Beta Peptide Change the Biochemical Properties of the Enzyme and Increase the Neurotoxicity of Alzheimer’s Fibrils. J.Neurosci.1998年、18、3213〜3223
【非特許文献19】Iwanaga,Y.、Kimura,T.、Miyashita,N.、Morikawa,K.、Nagata,O.、Itoh,Z.、Kondo,Y. Characterization of Acetylcholinesterase Inhibition by Itopride. Jpn.J.Pharmacol. 1994年、66、317〜322
【非特許文献20】Song,H.、Chen,D.L.、Ismagilov,R.F. Reactions in Droplets in Microflulidic Channels. Angew.Chem.−Int.Edit. 2006年、45、7336〜7356
【非特許文献21】Link,D.R.、Anna,S.L.、Weitz,D.A.、Stone,H.A. Geometrically Mediated Breakup of Drops in Microfluidic Devices. Phys.Rev.Lett. 2004年、92、054503
【非特許文献22】Chabert,M.、Dorfman,K.D.、de Cremoux,P.、Roeraade,J.、Viovy,J.L. Automated Microdroplet Platform for Sample Manipulation and Polymerase Chain Reaction. Anal. Chem. 2006年、78、7722〜7728
【非特許文献23】J.Am.Chem.Soc、2005年、127(39) 13458〜13459
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本技術は、一次元のセグメント化されたサンプル・アレイのエレクトロスプレーに関するシステム及び方法を含む。
【課題を解決するための手段】
【0011】
いくつかの実施例では、離散サンプルをエレクトロスプレー・イオン化するシステムは、エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルと、一次元のセグメント化されたサンプル・アレイと、送り出し手段と、電源とを備える。このアレイは、ノズルに直接結合され、このアレイは、第2の媒体を含有するスペーサ・プラグによって分離された第1の媒体を含有する複数のサンプル・プラグを含む。第1の媒体及び第2の媒体は不混和性とすることができ、又は第1の媒体は液体を含んでもよく且つ第2の媒体は気体を含んでもよい。アレイとノズルの直接結合によって、ノズルの入り口でサンプル・プラグをセグメントとして維持し、すなわち、サンプル・プラグは、ノズルに入る前にセグメント化解除されない。送り出し手段は、アレイをエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに送るように動作可能であり、シリンジ・ポンプ、レシプロ・ピストン・ポンプ、ペリスタルティック・ポンプ、気圧ポンプ、電気浸透、又は重力が含まれる適当な手段によって提供され得る。電源は、ノズル内の又はノズルに近接したサンプル・プラグに電気的に結合されると共にスプレー・レシーバにも電気的に結合される。スプレー・レシーバは、質量分析計をさらに備えてもよい。
【0012】
いくつかの実施例では、離散サンプルをエレクトロスプレー・イオン化するシステムを動作させる方法は、ポンプを用いて一次元のセグメント化されたサンプル・アレイをエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに送るステップと、サンプル・プラグをエレクトロスプレーするステップとを含む。一次元のセグメント化されたサンプル・アレイは、オフラインで形成することもでき、このアレイは、エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに直接結合される。一部の場合では、液体クロマトグラフィ・フラクションは、一次元のセグメント化されたサンプル・アレイの形成時に第1のレートで集めることができ、続いて第2のレートで一次元のセグメント化されたサンプル・アレイをエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに送り、第1のレート及び第2のレートは異なる。第1の媒体が水性媒体を含有し、油などの第2の媒体が疎水性媒体を含有するとき、この方法は、第1の媒体をエレクトロスプレーし、第2の媒体をエレクトロスプレーしないようにエレクトロスプレー電圧を調整するステップを含んでもよい。第2の媒体は、ノズルに液滴を形成する可能性があり、この液滴は、エレクトロスプレーされる代わりに次いで除去される。
【0013】
本明細書に記載した図面は、選択した実施例を単に例示するためのものであり、実現可能な全ての実施ではなく、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)流路中のプラグのアレイ及びエレクトロスプレー・エミッタを例示するシステムの概略図である。交流電圧、直流電圧、及びスイッチング電圧が、エレクトロスプレーに用いられてもよい。エレクトロスプレー・プロセス用の対電極であるレシーバは、質量分析計の入口、コーティングされる表面、ウェル・プレート、又はサンプル堆積用のトレイであり得る。この場合、電圧接点は、導電性エミッタ又は導電性コーティングを有する非導電性エミッタを用いることによってスプレーされるサンプル・プラグのところに直接ある。(b)は、サンプル・プラグとの電圧接点がエミッタ・ノズルの遠位端に位置することを除いて、パネル(a)の通りのシステムを示す図である。この構成は、非導電性材料から製造されるエミッタ・ノズルの使用時に特に効果的であり得る。
【図2】流体セグメントの並列構成、並びに単一のエレクトロスプレー・エミッタ及びレシーバを有するシステムの実施例の図である。この場合、単一のエミッタ及びポンプが使用され、各アレイは、エミッタに移される。
【図3】個別のエミッタをそれぞれ備える、流体セグメントチューブの並列構成を有するシステムの実施例の図である。明確にするために付属機器は省略されている。
【図4】個別のエミッタをそれぞれ備える、流体セグメントチューブの二次元アレイを有するシステムの実施例の図である。明確にするために付属機器は省略されている。
【図5】エミッタ・ノズル内又はその前にクロマトグラフィ又は個相抽出カラムを含むシステムの実施例の図である。プラグは、順次装填、抽出及びカラムからの溶出を実行するために使用される。カラムは、充填型、モノリス型、又は中空型であり得る。
【図6】エレクトロスプレー源の前にセグメントを拡大、減少、除去又は追加するための機構を備えるシステの実施例の図である。このシステムは、プラグをエレクトロスプレーにより適合させるようにプラグを化学反応又は化学的に改質させるための試薬を加えるために使用されてもよい。
【図7】(a)内径150μmのTeflon(商標)チューブに保管された長さ3mm(50nL)のプラグの写真である。プラグは、サンプル及び空気を交互に抜き取ることによってFluorinert FC−40で事前に満たされたチューブの中に作製された。(b)は、チューブが油の代わりに空気で事前に満たされたことを除いて(a)と同じである。(c)Teflon(商標)チューブに保管されたプラグのトレインを分析する手法の概要図である。スプレー・ノズルに2kVが印加される。コネクタは、チューブ及びエミッタ・ノズル上にぴったり合うTeflon(商標)チューブである。(d)プラグをエレクトロスプレー・エミッタの中に伝達する。一連の写真は、エミッタ・ノズルに接近するプラグ(左)、入るプラグ(中央)、及び洗い出し(右)を示しており、12秒間隔で撮られたものである。Teflon(商標)チュービングは内径150μmであり、エミッタ・キャピラリは内径50μmであり、プラグは50nLである。流量は200nL/分であった。
【図8】(a)水溶の50%メタノール、1%酢酸に溶解されたロイシン・エンケファリンの濃度を増大させた一連の50nLのプラグについての抽出したイオン電流のグラフである。プラグは、3mmの空気の間隙でセグメント化され、内径150μmのTeflon(商標)チューブから200nL/分で送り出された。イオン信号は、MSに関しては、556→397→278、323、380m/zである。(b)(a)からの100nMのロイシン・エンケファリンの3個のプラグについての抽出したイオン・トレースの拡大図である。左側は、(上)サンプルの出現時、及び(下)空気の出現時のエレクトロスプレー・エミッタ・ノズル、並びに対応する信号を示す図である。
【図9】単一段のMSによるロイシン・エンケファリン及びメト・エンケファリンを交互に含む一連のプラグの分析の図である。プラグは、100nLであり、プラグ間に5mmの空隙があり、200nL/分でエミッタの中に送り出される。(a)プラグのシークエンス全体についての全イオン電流、(b)指示した濃度の556m/zにおけるロイシン・エンケファリンについての抽出したイオンの記録、(c)指示した濃度の574m/zにおけるメト・エンケファリンについての抽出したイオンの記録、(d)ロイシン・エンケファリンのサンプルの溶出中に取得した質量スペクトル。挿入図は、このプラグ中のメト・エンケファリン(574m/z)についての信号が、ノイズをわずかに上回ることを示す拡大図である。(e)メト・エンケファリンのサンプルの溶出中に取得した質量スペクトル。挿入図は、このプラグ中のロイシン・エンケファリン(556m/z)についての信号が、ノイズを上回らないことを示す拡大図である。
【図10】ハイ・スループット・プラグ分析を示す図である。50%メタノール及び1%酢酸のサンプル中の200nMのロイシン・エンケファリンの一連の12個のプラグについての抽出したイオン電流である。各プラグは、容積13nLであり、3mmの空隙によって分離され、600nL/分でエミッタの中に送り出される。イオン信号は、MSに関しては、556→397→278、323、380m/zである。
【図11】Fluorinert FC−77によってセグメント化されたロイシン・エンケファリンの液滴を示す図である。セグメント化流れは、500nL/分でESIスプレーに注入された。スプレー電圧2kVが、コーティングされたノズルに印加された。
【図12】Fluorinert FC−40によってセグメント化されたロイシン・エンケファリンの液滴を示す図である。セグメント化流れは、200nL/分でESIスプレーに注入された。スプレー電圧2kVが、コーティングされたノズルに印加された。
【図13】空気プラグによってセグメント化された100nM、50nM、及び1nMのロイシン・エンケファリンの液滴を示す図である。各液滴に続いて同じサイズの洗浄プラグがあった。セグメント化流れは、200nL/分でESIスプレーに注入され、スプレー電圧2kVが、コーティングされたノズルに印加された。
【図14】流体源から液体を抜き取るための微小位置決め装置及びシリンジ・ポンプの概略図である。
【図15】移動相の流体交換を可能にするセグメント化流れ用の改質流路の実例の図である。これは、サンプルの脱塩又は化学反応のための試薬の添加に用いることができる。
【図16】セグメント化流れを用いてキャピラリLC及びオフラインESI−MSからフラクションを集める手法を示す図である。(A) セグメント化流れは、オイル流と、キャピラリLCからの溶出物とを接続したT接合を用いて発生した。(B)集められた油セグメント化されたフラクションは、HPFA+チュービングに保管され、次いでシリンジ・ポンプによってMSオフラインで注入することができる。(C)長さ約240μmの油プラグによって分離された長さ約400μmのサンプル・プラグ(LCフラクション)を示す内径150μmチュービング内の油セグメント化流れの図である。
【図17】(A)油相としてFC−72を用いて200nL/分で注入された50μMのcAMP(m/z=328)のサンプルの液滴のTIC(上)及びRIC(下)を示す図であって、クロマトグラム全体にわたって雑音のある信号を示しており、サンプルの信号をほとんど示していない図である。(B)油相としてPFDを用いて同じcAMPのサンプルの液滴のTIC(上)及びRIC(下)の図であって、cAMPのサンプル・プラグの離散したセグメント化された信号を示す図である。
【図18】(A)異なるスプレー電圧1.2〜2.0kVを用いて200nL/分で注入された50μMのcAMPのサンプルの油セグメント化された液滴のTIC(上パネル)及びRIC(下パネル)を示す図である。(B)ノズルからただ垂れた1.5kVでノズルで届く油である。(C)2.0kVでESIを受けた油である。油がスプレーされるとき、油の信号がより多いことによりTIC信号がより高くなるが、水性サンプルについてのRICは低く、これは、サンプルのイオンに干渉した油のスプレーを意味する。
【図19】(A)異なる流量50〜400nL/分で注入された50μMのcAMPのサンプルの油セグメント化された液滴のRICを示す図である。400nL/分で、信号が見られないが、これは、油があまりに早くエミッタ・ノズルに蓄積して除去されず、そのためこれによって電圧をブロックし、信号をもたらさないためである。(B)2μL/分で注入された油セグメント化された液滴のRICを示す図である。この場合、油を抽出するために側面のTeflon(商標)チュービングを用いて(Cに図示)、そのような高い流量が使用でき、液滴の信号の高速検出が実現された。このクロマトグラムは、0.26分で35個の液滴の検出を示し、これは周波数約2.2Hzである。
【図20】4つの代謝産物の成分についてのRICの重なった図である。(A)マイクロマスQQQ MSの4つのサンプルのオンライン検出であり、1列で、リンゴ酸、クエン酸、PEP、及びF1,6Pのピークを示す。(B)LIT MSを用いて得られた液滴の形態における4つのサンプルの生のRICである。最後のセグメント化流れ中の油が全容量の3/8を占めるので、500nL/分の同じ流量を用いて、10分のLC溶出物を分析するのに16分かかった。F1,6Pのピークにわたってのフラクションの検出の拡大図が示されている。
【図21】ピーク・パーキングを有したり有しなかったりする、3つの共溶出する成分、フマル酸(m/z115)、コハク酸エステル(m/z117)、及びリンゴ酸(m/z133)のRICの比較図である。クロマトグラムの3つのグループについて異なる時間スケールが、各図の底部に記された。(A)QQQ−MSを用いた3つの化合物のオンライン検出である。(B)元のオンライン検出と同じ流量である500nL/分でのセグメント化流れ中の3つの化合物のオフライン検出である。これらのピークは狭く、1〜5回のスキャンだけで各サンプル・ピークをカバーすることになる。上部の図は、概略的なサンプルの液滴の分布を示した。(C)3つのピークの直前に流量を50nL/分に減少させることによるセグメント化流れ中の3つの化合物のオフライン検出であり、それぞれのサンプルのピークにわたってより多くのスキャン数になっている。
【図22】(A)トリプシン消化CRFのTIC及びRICを示す図である。RICは、m/z623での最も豊富な断片のペプチドのピークを示した。(B)m/z623での第1のピークが、分離のセグメント化流れのMS検出について見られたときに開始されたピーク・パーキングのイベントに対応するTICの拡大図である。MS及びMSの分析は、最も豊富な親イオンを選択することによって手動で実行された。サンプルの液滴の分布が、示されており、この分布は、シリンジ・ポンプによって発生した25nL/分での不安定な灌流流量によるむらであった。MS及びMSについてのTICは、MS信号に比べて低かった。(C)、(D)及び(E)は、ピーク・パーキング領域内のMS、MS及びMSのイベントにそれぞれ対応する質量スペクトルを示す。
【図23】マルチ・ウェル・プレートから空気セグメント化されたサンプル・プラグを発生させるシステムの図である。サンプル・プラグのアレイは、Fluorinert FC−40で事前に満たされた内径75μmのTeflon(商標)チュービングの先端を、マルチ・ウェル・プレートに保管されたサンプル溶液に浸漬し、所望の容量吸引し、チューブを回収し、所望の容量の空気を吸引し、全てのサンプルが装填されるまで次のウェルに移動することによって用意された。チュービングの移動は、自動化された微小位置決め装置を用いて制御され、サンプルの流れは、チュービングの反対側端部に接続されたシリンジ・ポンプを用いて制御された。
【図24】100mMのアセチルコリン、クロルメコート(内部標準又はIS)、及び45μg/mLのAchEを、100μMのAchE阻害剤ネオスチグミンと(A)共に又は(B)なしで、室温で20分間インキュベートした後のクエンチされたAchEアッセイ混合物のESI質量スペクトルを示す図である。AchE阻害は、阻害剤のない対照に対するコリンの信号の減少によって検出される。
【図25】セグメント化流れESI−MSによるAchE阻害剤のスクリーニングを示す図である。(A)ESI−MSによって分析された102個のAchE酵素のアッセイのサンプル・プラグの(上)コリン及び(下)クロルメコートについてのRICトレースである。一連のサンプルは、全て3通りで、AchE阻害についての32個の化合物、及び2つの対照のサンプルを試験した。試験された化合物は、左から右へ、対照1(薬剤は加えられていない)、マラチオン、ネオスチグミン、エセリン、エドロホニウム、イソプロテレノール、ヨヒンビン、UK14,304、DMSO、セリン、アデノシン、サイロニン、GABA、フェニルアラニン、アラニン、プロリン、アルギニン、システイン、リジン、チロシン、グリシン、アルギニン、グルタミン、メチオニン、ロイシン、トリプトファン、イソロイシン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、タウリン、ドーパミン、バリン、対照2(酵素が加えられていない)であった。挿入図は、2つの阻害剤及び1つの不活性化合物についての信号を示す。(B)各サンプルに形成されたコリンの定量化は、コリンのバックグラウンド形成を減じ、(内部標準に比例した)コリンの信号を較正曲線と比較することによって決定された。バーは、誤差バーとして標準偏差±1を有する3通りのサンプルからの平均濃度を示す。
【図26】AchE加水分解の定量化を示す図である。(A)RICトレースからのコリンの信号を定量化する異なる方法の相対標準偏差の比較図である。ピーク高さは、サンプル・プラグにわたって全てのスキャンのうちの最も高いコリン・イオンの強度であり、 相対高さは、コリンのピーク高さとクロルメコートのピーク高さの比であり、ピーク面積は、サンプル・プラグの全てのMSスキャンの下での面積であり、相対面積は、コリンのピーク面積とクロルメコートのピーク面積の比である。誤差バーは、標準偏差±1(n=7)である。平均RSDは、ピーク高さ、ピーク面積、相対高さ、及び相対面積にそれぞれ基づいた計算についての5.9%、28.5%、1.9%、及び1.5%であった。(B)コリンの較正曲線を示す図である。0.9mMのクロルメコート及び様々な濃度コリン(200μM〜10μM)を含有する溶液が、ESI−MS分析のために注入された。コリンのピーク強度は、その濃度と共に非線形に増加し、一方、クロルメコート(IS)ピーク強度は、コリン濃度が高くなるにつれて減少した(規格化したピーク強度が、コリンとクロルメコート共に用いられた)。2つのピーク高さの比(相対ピーク高さ)を用いることによってESI中の電荷の競合によって引き起こされる影響を補正し、それによって比はコリン濃度に線形に比例して増加した。相対ピーク高さに基づいた較正曲線は、傾き0.11mM−1、y切片0.034、及びr0.999を有した。
【図27】セグメント化流れESI−MSを用いて決定される4つのAchE阻害剤の投与量反応曲線を示す図である。様々な阻害剤の濃度を用いてインキュベートしたときのコリンの形成は、ネオスチグミンを除いてS字形の投与量反応曲線にフィットされ、ネオスチグミンは、2箇所の競合曲線にフィットされた。誤差バーは、標準偏差±1(n=3)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここで、実例の実施例を、添付図面を参照してより完全に説明する。本開示が徹底的なものとなるように、そして、その範囲を当業者に十分に伝えるように、実例の実施例は提供されている。本開示の実施例を十分理解するために、具体的な構成要素、システム、及び方法の実例などの多数の具体的な詳細を説明する。具体的な詳細を用いる必要はなく、実例の実施例は、多くの異なる形態で具体化されてもよく、本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではないことが当業者には明らかであろう。
【0016】
キャピラリ又はマイクロ流体システム中の多相流は、閉鎖空間内の多くの離散サンプル又は合成反応を分割及び処理するやり方を与える。そのような構成の一つの実例は、一次元のセグメント化されたサンプル・アレイである。このサンプル・アレイは、気体又は不混和性液体によって分離された一連のプラグ又は液滴を含むことができ、各プラグが、個別の小さいバイアル又は反応容器として働くことができるようになっている。セグメント化流れという用語は、アレイを維持するのに適したチューブ若しくはチャネル又は他の容器内でこのプラグ又は液滴のアレイを流すことによってプラグ又は液滴のアレイを操作することができるシステムに言及するために用いられる。サンプル・プラグ又は液滴のアレイは、第1の相又は媒体内にあり、第2の相又は媒体を含むスペーサ・プラグよって分離されている。第2の相又は媒体は、キャリア相とも呼ばれ、気体又は任意の不混和性液体若しくは部分的不混和性液体であり得る。ある場合では、媒体及び容器表面は、個別のアレイのプラグ同士の間の混合又は接触を最小にするような組成であってもよい。他の場合では、媒体及び表面は、例えば容器の壁に沿った分離したプラグ又は液滴の接触を可能にしてもよい。
【0017】
質量分析(MS)は、セグメント化流れを分析するための魅力的な分析法である。何故なら、質量分析(MS)は、少量のサンプルをハイ・スループットで分析するのに実用上役立つ感度及び速度を有するからである。例えば、MALDI−MS用のプレート上へ又は電子衝撃イオン化−MS用の移動ベルトインタフェース上へサンプルを集めることによって、MSはセグメント化流れに結合されてきた。空気セグメント化されたサンプルのICP−MSは、比較的大きいサンプルのフォーマット(約0.2mLのサンプル)で実証されている。電荷及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化を用いた音場浮遊液滴のMS分析も実証されている。
【0018】
加えて、セグメント化流れのストリームのエレクトロスプレー・イオン化(ESI)−MSを実行するための一つの方法が、開発されている。この方法では、不混和性油によってセグメント化された水滴流を、電気パルスを用いることによって定期的にサンプルし、続いて液滴を水流の中に移動させる。次いでこの水流は、エレクトロスプレー源に向けられた。すなわち、サンプル・プラグは、エレクトロスプレーの前に、セグメント化されたアレイから完全な水流へ移動させられた。この方法はオンライン液滴分析の実現可能性を示したが、ペプチドの検出限界(LOD)は約500μMだった。高いLODは、少なくとも部分的には、水流に移動させられると液滴が希釈化すること、及びエレクトロスプレーされた溶液の高い流量(約3μL/分)によるものであった。水流へ移動した後の液滴の分散は、この手法のスループットも制限した。
【0019】
本技術の原理によれば、例えば図1及び図7に示すように、スペーサ・プラグ(例えば、気体又は不混和性流体)によってセグメント化された一連のサンプル・プラグ(例えば、約1nL〜約50nL)は、低い流量のエレクトロスプレー源の中に直接送り出すことができ、液滴の内容を分析する簡単で頑健で感度の良い方法をもたらすことが分かっている。本システム及び方法は、MSのためにサンプルを導入する新規な手法と考えることができる。MSでは、一次元のセグメント化されたサンプル・アレイがエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに直接結合され、個別のサンプル・プラグがエレクトロスプレー用のノズルに入るように配置される。
【0020】
本システム及び方法では、一次元のセグメント化されたサンプル・アレイは、エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに直接結合される。「直接結合」により、セグメント化されたプラグのアレイを、エレクトロスプレー・エミッタにおいて又はエレクトロスプレー・エミッタを通じて及びノズルから外へ位置付け、送り出し又は流し、それによってセグメント化流れが、ノズルへの入り口で、並びにノズル内で及びノズルを通じて維持されるようにすることに言及する。例えば、一次元のセグメント化されたサンプル・アレイをエレクトロスプレー・イオン化エミッタの先端へ直接結合することによって、エレクトロスプレー・イオン化エミッタの先端へアレイを送る前に、新しい媒体内のサンプル・プラグが移動し合体することが排除される。したがって、一次元のセグメント化されたサンプル・アレイとエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルとの間の直接結合は、サンプルをエレクトロスプレーする前にサンプル・プラグを水流へ移動させる他のプロセスとは異なる。すなわち、直接結合は、セグメント化されたアレイ中のサンプル・プラグが、エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに入り、エレクトロスプレーされる前に、「セグメント化解除」されることを許可しない。また、直接結合によって、エレクトロスプレー・イオン化エミッタの先端を通じてアレイを送る前にスペーサ・プラグが除去されることが排除される。例えば、図1(a)及び図1(b)は、エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルの入り口に、及び/又はエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズル内に位置する一次元のセグメント化されたサンプル・アレイを示している。すなわち、プラグのセグメント化は、ノズルまで及びノズルを通じて維持される。
【0021】
また、本技術は、疎水性媒体又は油性媒体を含むスペーサ・プラグによってセグメント化されたサンプル・プラグのエレクトロスプレーを可能にする。これは、エレクトロスプレー・エミッタ及びノズルに入る前に、所望のサンプルのセグメント又は液滴をセグメント化流れから除去し、このサンプルのセグメント又は液滴を単相流へ移動させることが必要である他の仕組みとは対照的である。このことが、他のものによってなされていたのは、「微小液滴の直接MS分析は、いくつかの理由によって問題がある。主な問題は、キャリア流体の存在に起因するものであり、このキャリア流体は、フッ素油又は鉱油、並びにかなりの量の界面活性剤でしばしば構成される。この連続相は、電荷キャリアを封鎖すると共に安定したテイラーコーンの形成を妨げることの両方によってESIプロセスに干渉する。」(「Coupling Microdroplet Microreactors with Mass Spectrometry:Reading the Contents of Single Droplets Online」、Luis M.Fidalgo、Graeme Whyte、Brandon T.Ruotolo、Justin L.P.Benesch、Florian Stengel、Chris Abell、Carol V.Robinson及びWilhelm T.S.Huck;Angewandte Chemie、2009、48、3665〜3668からの引用)という理由からである。したがって、本システム及び方法は、技術的に実現可能でもあり得ることもないと考えられていたシステム及び方法を可能にする。
【0022】
次に、本技術をより徹底的に説明するために、特定の実験を説明する。サンプル・プラグのリニア(一次元)アレイは、(Fluorinert FC−40)油で満たされた内径75又は150μm×長さ80cmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(例えば、Teflon(商標))チューブの先端を、96ウェル・プレートに保管されたサンプル溶液に浸漬し、チューブの中に所望の容量を抜き取り、ウェルからチューブを取り出し、所望の容量の空気を抜き取り、全てのサンプルが、(例えば、図14に示すように)チューブの中に装填されてしまうまで繰り返すことによって用意された。このやり方で使用及び構成されると、チューブは、一次元のセグメント化されたサンプル・アレイの取扱い、保管、輸送及び送達に有効な装置になる。チュービングの移動は、特注の自動化された微小位置決め装置を用いて制御され、サンプルの流れは、チュービングの反対側端部に接続されたシリンジ・ポンプを用いて制御された。結果として生じるプラグは、プラグの両端を覆う少量の油、及び壁の濡れがほとんどないことを示す凸形メニスカスを有した(図7A)。興味深いことに、油を事前に満たさずにチューブを装填すると、より平らなメニスカスになった(図7B)。
【0023】
質量分析計(LTQ XL、Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)をつなぐために、チューブの出口は、Ptコーティングした溶融シリカのエレクトロスプレー・エミッタ・ノズル(FS360−50−8−CE、New Objective、Woburn、MA)に結合された。このエレクトロスプレー・エミッタ・ノズルは、内径50μmを有し、先端で内径8μmまで引っ張られた。エミッタ・ノズルは、ナノスプレー源(PV−550、New Objective)に取り付けられた(図7C)。次いで、プラグは、分析するためにエミッタ・ノズルの中に直接送り出すことができる。
【0024】
本システム及び方法は、エミッタのタイプに固有の幾何形状又は材料ではない。本明細書で使用される金属コーティングした溶融シリカのエミッタに加えて、例えば、金属エミッタ、平面チップ・エミッタ等などの当業者に知られた他の形式のエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルが、スプレーを発生させるために使用されてもよい。さらに、その結果は、リニア・アレイのセグメント化のための容器、チューブ、又はコンテナに固有の幾何形状又は材料ではない。例えば、Teflon(商標)以外の他の材料のチューブ、及び種々の内径のチャネルが、使用されてもよい。平面の微細加工されたチャネルが、種々の寸法及び流量で使用されてもよい。様々なマイクロ流体デバイスと一般に呼ばれるラブ・オン・チップ装置が、1つ又は複数の一次元のセグメント化されたサンプル・アレイを形成、保管及び操作するために使用されてもよい。また、その結果は、セグメント化されたアレイを形成するために使用される方法に左右されない。
【0025】
一次元のセグメント化されたサンプル・アレイを誘導及び操作するのに用いられる送り出し手段は、所望の流量を発生させる任意の適当な方法であってもよく、シリンジ・ポンプ、レシプロピストン・ポンプ、若しくはペリスタルティック・ポンプ機械装置、気圧、電気浸透、又は重力を使用することが含まれる。流量は、エレクトロスプレーを発生させる任意のものとすることができる。約2nL/分〜約20μL/分の流量が、この手法に適合することが分かっている。流量は、一定の結果を実現し、利点を最大にするように選択することができる。例えば、低流量は、サンプルを保護し、ナノスプレーの利点を実現するのに役立ち、一方、より高い流量は、サンプル・スループットの改善に用いることができる。
【0026】
セグメント化されたサンプルが、直接結合されたエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルの中に送りされたとき、サンプル・プラグは、Teflon(商標)チュービングからエミッタ・ノズルへ移動させられ(例えば、図7D)、連続プラグが合体することなく出口から出てきて、エレクトロスプレー・プルームのパルス、エレクトロスプレー電流、及びイオン信号になる(例えば、図8)。エレクトロスプレー電流は、空気及びサンプル・プラグが、交互に先端を満たしたとき0.0±0.2μアンペア〜1.2±0.2μアンペアで変動した。エレクトロスプレーの信号は、それぞれの新しいプラグがエミッタに入るときに急速に安定し、それによって一連のプラグは、セグメント化されたサンプルをエミッタの中に連続的に送り出すことによって分析することができた(例えば、図8b)。図8aは、ロイシン・エンケファリンを含有する一連のプラグについて抽出されたイオン電流を示す。一連のプラグは、次第により高い濃度になり、200nL/分でエミッタ・ノズルの中に送り出され、その結果、サンプルが25秒間隔で検出された。ロイシン・エンケファリン100nMの一連のプラグについては、信号RSDが、約3.1%(n=20)であった。MS3によって検出されたロイシン・エンケファリンについてのLODは、約1nMだった。この検出限界は、以前の液滴流のESI−MS分析に比べてかなりの改善である。LODの改善は、プラグの直接インジェクションを希釈なしで可能にするシステム、及びイオン化効率を改善するより低い流量との適合性にある程度よるものである。希釈は、サンプル・プラグが水流に移動させられるときに生じ得る。
【0027】
プラグ間のキャリー・オーバーは、異なる濃度のロイシン・エンケファリンで、セグメント化されたサンプル・アレイを用意し、溶媒だけを含有するプラグによってセグメント化されたサンプル・アレイを分離することによって評価された。この実験に基づいて、キャリー・オーバーは、500nMの溶液について<1%で観察され、続いてブランクがあり、そして100nMの溶液について<0.1%で観察された。チューブが油で事前に満たされていなかった場合、キャリー・オーバーは500nMで約4%であった。図9は、ロイシン・エンケファリン及びメト・エンケファリンを異なる濃度で交互に含む一連のプラグから抽出されたイオン・クロマトグラム及び質量スペクトルを示す。図9に例示するように、低いキャリー・オーバーは、異なるサンプルが分析のために連続して入ることを可能にする。低い相互汚染は、ロイシン・エンケファリンのプラグの中にメト・エンケファリンの信号が欠けていることによって実証され、その逆も同じである(例えば、図9b、図9c及び図9d)。キャリー・オーバーのさらなる低減は、フッ化アルカンなどでエミッタ・ノズルの内側を化学的に改質すること(例えば、コーティング)によって可能であり得る。
【0028】
大部分の実験については、サンプルのピーク同士の間の時間においていくらかの変動が観察された。この変動は、主に、サンプル・アレイの作製中に形成される間隙の長さの違いによる。プラグを作製するより精巧な方法によって、この影響を低減又はなくすことができる。その結果は、ここで使用されるプラグ形成方法に限定されない。
【0029】
サンプル分析のスループットは、液滴のサイズ、プラグ同士の間の空隙、及び流量を変えることによって変更することができる。キャピラリの直径を75μmまで減少させることによって、長さ3mmの空隙によって分離された13nLのプラグ(長さ3mm)を作製することができた。このサンプルのアレイをエミッタの中に600nL/分で送り出すことによって、プラグのシークエンスを、0.8Hzで分析することになり、相対標準偏差(RSD)は2.8%であった(例えば、図10参照)。この手法を用いて、長さ30cmのチューブに含まれた50個のサンプルは、1.25分で分析された。
【0030】
流量をさらに増大し、又はキャピラリの直径及びプラグの容量をさらに減少させて、より高い密度のサンプル及びより高いスループットを生じさせることも可能であり得る。スループットのさらなる増加は、サンプルの導入と同じペースを保つのに十分な速さでスペクトルを記録できる質量分析計を必要とすることになる。この実験では、質量分析計は、MS3モードで動作され、スペクトルを収集するのに0.33秒が必要であった。したがって、幅1.2秒である信号ピーク同士にわたって、3〜4個のスペクトルだけが収集された。反対に、各サンプル・プラグがエミッタから溶出するときに、流れ停止又は超低速流(<10nL/分)の条件に流量を変更してもよく、それによって複数の質量のMS実験を可能にすると共に、イオン化効率及び等モル反応に関するナノエレクトロ・スプレーの利益をさらに活用することを可能にする。したがって、その結果は、流量に左右されず、このシステムは、種々の応用の目的を実現するために可変流量で使用されてもよい。
【0031】
一部の場合では、油によって隔離されたサンプル、又は空気−油−空気−サンプルのシークエンスを有するサンプル・トレインを直接注入することによって、同様の結果を得ることができたと判断された。これらの実施例では、油は、エミッタ・ノズルからスプレーすることもできる(実例として図11及び図12参照)。しかし、いくつかの実施例では、油は、スプレーされず、続くサンプル・プラグのエレクトロスプレー用のノズルを綺麗にするために、エミッタ・ノズルから除去又は取り除くことができる。例えば、エレクトロスプレーの条件は、そのような油のスペーサ・プラグが、エミッタ・ノズルで液滴を形成し、エレクトロスプレーされないのに対して、水相のサンプル・プラグは、エレクトロスプレーされるように設定することができる。エレクトロスプレー電圧の変更は、水性サンプル・プラグをスプレーし、油性スペーサ・プラグをスプレーしないためのエレクトロスプレーの条件を設定するやり方の1つである。
【0032】
エレクトロスプレーされることにならないエミッタ・ノズル上の油の液滴を除去するためのいくつかのやり方がある。例えば、エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルは、サンプル物質をノズルに送達するチャネルから分離している同軸のチューブ又はチャネルなどの一体化した流体除去チューブ又はチャネルを備えてもよい。このチューブ又はチャネルを使用してエミッタ・ノズルにある油の液滴を吸い上げることができ、そして次のサンプル・プラグをエミッタ・ノズルからエレクトロスプレーすることができる。エミッタ・ノズルに設けられる分離した一体化した流体除去チューブ又はチャネルは、液滴を除去するキャピラリの吸上作用をもたらすこともでき、又はチューブ又はチャネルを通じての真空の適用によってノズルから余分な流体を除去することができる。
【0033】
詳細には、Valaskovicの米国特許第6,690,006号によって説明されるように、エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルは、一体化した流体除去チューブ又はチャネルを備えてもよい。一体化した流体除去チューブ又はチャネルは、サンルの流体が内部を通じてノズルに供給されるチャネル又はチューブから分離している。この流体除去チューブ又はチャネルは、キャピラリの吸上又はアクティブ真空吸引を可能にして余分な流体をノズルから除去することができる。流体除去チューブ又はチャネルの作用は、アクティブ(オン)又は非アクティブ(オフ)の間で切換可能であり得る。したがって、ノズルが、エレクトロスプレー閾値電圧未満にされているときに、流体除去チャネルのアクションをオンにして、ノズルの中に残っている流体又はノズルを通じて流れ続ける流体を除去することができる。こうすることによって、残っているそのような流体が、「オフ」ノズルの先端で蓄積することが防がれる。これは、ノズル端に蓄積し得るスペーサ・プラグからの油などの余分な流体によって引き起こされる問題を最小にする又はなくす。油性スペーサ・プラグなどの液滴をエミッタ・ノズルから除去するための様々な適当なやり方は、Valaskovicの米国特許第6,690,006号の図2〜5に示されている。これらは、外側チューブを使用して真空によって液滴を取り除き、セグメント化されたアレイを、内側チューブを通じて送る同軸のチューブ構成と、機能ごとに等しい管腔設計を有する平行な多腔構成と、等しくない管腔設計を有する平行な多腔構成と、例えばエミッタの先端に形成する液滴を取り除くためのキャピラリの吸上ロッドを含むキャピラリの吸上設計とを有するノズルを含む。別の実例は、図19(C)に提供されている。図19(C)では、Teflon(商標)チューブが、ノズルの横に配置され、ノズルから油の液滴を抽出するために使用される。
【0034】
油間隙式サンプルの使用は、いくつかの応用における利点を実証することができる。しかし、このシステムは、油又は空隙に限定されず、任意の不混和性流体を含んでもよい。このシステムは、流れのストリームのn個の隔壁にさらに一般化されてもよい。
【0035】
これらの結果は、セグメント化流れストリーム中のサンプルの直接ESI−MS分析が、ほとんどキャリー・オーバーなく、良好な感度で、希釈なしに、高速で実行することができることを示す。ウェルから取り出される全てのサンプルが、質量分析計に使用されるので、サンプルの消費は効率的である。約13nLほどの大きさしかないプラグが、これらの実験に使用されたが、約1nL〜約50nLのプラグを包含する種々のサイズのプラグが、使用されてもよい。サンプル導入のこの手法の重要な利点は、サンプル同士の間のすすぎに費やす時間が最小限であり、全てのサンプル・プラグが自動的にインジェクションされるので、質量分析計のデューティ・サイクルが高いことである。
【0036】
特定の応用のために技術の性能を改善又は変更するために、様々なパターンの一次元のセグメント化されたサンプル・アレイが、使用されてもよい。例えば、エミッタ・ノズルを清掃し、キャリー・オーバーを減少させ、及び/又は閉塞を防ぐために、洗浄液を含むプラグが、サンプル・プラグ同士の間でセグメント化されてもよい。図13は、一つの実例である。分析するためにサンプル同士の間のセグメントの化学組成を変更する一般的な方式は、クロマトグラフィ分離及びオンライン固相抽出に容易に拡張される。例えば、図5である。
【0037】
一つの実例としては、逆相クロマトグラフィが、離散したやり方で実施されてもよい。有機分析物(たんぱく質、ペプチド、代謝産物、有機薬剤等など)を含有するサンプル・プラグは、エレクトロスプレー・エミッタ・ノズルへの流体経路内に収容される適当なクロマトグラフィ・ベッド(実例として、C18基のシリカ材料)を通じて押され、それによって保持される。非常に水性(水90%超)の組成物の次の流体プラグが、無機陽イオン及び陰イオンなどの非保持及び干渉化学種の保持されたサンプルを洗浄する。続くプラグは、保持された分析物をクロマトグラフィ・ベッドから溶出させるのに適当なメタノール又はアセトニトリルなどの水性/有機共溶媒で構成される。そのような溶出は、比較的高い共溶媒組成(有機化合物50%超)の単一のプラグを用いて行われてもよく、保持された(1つ又は複数の)分析物の一段階個相抽出になる。
【0038】
或いは、n個のセグメント(ただし、nは、2〜約100又はそれ以上であってよい)を使用して勾配溶出クロマトグラフィを模倣してもよい。この場合、それぞれの連続的プラグは、共溶媒のより高い割合の組成を有する有機/水性の組成であり、カラムからの離散段階溶出を生じさせる。異なる保持因子を有する化学種が、分離したプラグに溶出するので、このモードは、複雑な混合物の分離に役立つ。この一般的な手法は、当業者に知られた液体クロマトグラフィ分離の他のモードにも役立つ。これらには、順相クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、アフィニティ(リガンド・基質)クロマトグラフィ、キラル・クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、及び金属アフィニティ・クロマトグラフィが含まれるが、これらに限定されない。
【0039】
このMSのためにサンプルを導入する新規な手法は、無標識反応のハイ・スループット・スクリーニング、分離法とESI−MSのオフライン結合、プラグにおいて実行される反応のモニタリング、及び臨床検査薬などの多くの応用に使用できると考えられる。これらの種々の応用は、多相流のマイクロ流体処理を活用することによって可能にされる。
【0040】
本技術は、幅広い応用に、幅広い方法論的変形を伴って使用することができることを理解されたい。例えば、本技術の方法は、サンプル分析の作業の流れの中で一般に使用されるクロマトグラフィ(例えば、図5)、個相抽出、透析(例えば、図15)、濃縮、誘導体化(例えば、図6)、溶媒交換等などの化学的プラグ(例えば、サンプル)を処理する又は取扱う方法と共に使用及び統合されてもよい。プラグ又は液滴が一次元のセグメント化されたサンプル・アレイに形成される前に、プラグ又は液滴に処理が実行されてもよい。連続システム又は統合システム(例えば、図5、図6及び図15)内のオンライン方法及び/又は改質流路を用いて、サンプルのセグメント化中又はセグメント化後に処理を実行することもできる。プラグ又は液滴用の様々なオンライン処理法が知られており、それらが、本セグメント化流れESI−MS法に結合されてもよいことが、当技術分野の当業者には明らかであろう。
【0041】
いくつかの実施例では、クロマトグラフィ又は個相抽出カラムは、エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズル内又はその前に備えられてもよい。例えば、図5である。セグメント化されたサンプル・アレイ中のプラグは、(1つ又は複数の)順次装填、(1つ又は複数の)抽出、及びカラムからの(1つ又は複数の)溶出を実行するために使用される。例えば、そのようなクロマトグラフィ・カラムは、充填型、モノリス型、又は中空型であり得る。このようにして、サンプルのプラグは、親和性、イオン交換、サイズ、逆相等などの特性に基づいてさらに分けることができる。クロマトグラフィ・カラムは、エレクトロスプレー前にサンプル・プラグ中の分析物(1つ又は複数の)からイオンを分離する脱塩カラムとすることもできる。セグメント化されたサンプル・アレイが、第1のクロマトグラフィ分離からのフラクションを含む場合、セグメント化されたサンプル・アレイとエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルの間に配置されるクロマトグラフィ・カラムは、同様の又は異なる特性を用いて追加の分離を行うことができる。例えば、セグメント化されたアレイは、サイズ排除クロマトグラフィ・カラムの出力であってもよく、セグメント化されたサンプル・アレイとエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルの間に配置されるクロマトグラフィ・カラムは、イオン交換クロマトグラフィ・カラムであってもよい。
【0042】
いくつかの実施例では、このシステムは、図6に示すように、流体T字管図の使用などを通じて、エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズル前にセグメントを拡大、セグメントの容量を減少、又はセグメントを追加するための機構を含むことができる。このシステムを使用して、化学反応のための試薬を追加、定量のための標準を追加、及び/又はプラグを化学的に改質して、それらをエレクトロスプレーにより適合させることもできる。セグメント化されたサンプル・アレイが、エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに送られるときに、液体又は気体プラグが、追加及び/又はセグメント化されたサンプル・アレイから除去されてもよい。例えば、一部の場合では、セグメント化されたサンプル・アレイ中の一定数のサンプル・プラグのエレクトロスプレー及び続くMS分析は、必要なくてもよく又は望まれなくてもよい。これらのプラグは、セグメント化されたサンプル・アレイがエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに送られるときに、関心のある特定のサンプル・プラグが、エミッタ・ノズルに到達するまで、流体T字管を介して除去されてもよい。このようにして、サンプルの個数、したがって分析時間を減少させることができる。いくつかの実施例では、図5に示すように、洗浄プラグ又は溶出に用いられるプラグが、クロマトグラフィ・カラムをセグメント化されたサンプル・アレイとエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルとの間に配置された流体T字管を用いてセグメント化されたサンプル・アレイの中に追加されてもよい。
【0043】
本明細書に記載の実験中、典型的には、電圧は一定に保持されたが、スプレー電圧のオン・オフを切り換えてあるセグメントだけをエレクトロスプレーすることができる。この切り換えは、例えば、液滴又はプラグの光学的イメージング、光散乱、蛍光、又は導電性の記録などのシステム内で発生する他の信号と同期してもよい。同様に、交流電圧が、静電スプレーの種々のモードに用いられてもよい。
【0044】
加えて、本技術は、マルチ・ウェル・プレートからサンプルを連続的に装填するために使用されてもよい。現在、チューブ中の一連のセグメントが作製され、次いで、このチューブは、エミッタに接続され、質量分析計につながれる。しかし、エミッタに直接結合された流路の中への連続装填は、ハイ・スループット応用のためにより良い可能性がある。例えば、図23に示すマルチ・ウェル・プレートは加圧されてもよく、又は高さが持ち上げられてもよく、それによって、液滴は、チューブを通じてエミッタ・ノズルへ連続的に移動し、液滴が入口側で作製されるときに、質量分析計の中にエレクトロスプレーされる。或いは、外部場又は蠕動に基づくポンプが、流体を一定に抜き取るために使用されてもよい。
【0045】
またさらに、本技術は、この方法の性能を改善し、作業の流れに組み込むのを助け、新しい応用を可能にする新規なオンライン処理法を開発するために使用することができる。詳細には、本方法及び本システムの態様は、サンプルの脱塩を含む透析(例えば、図15)、抽出、及び定量化のための内部標準の追加(例えば、図6)に用いることができる。
【0046】
セグメント化されたアレイの直接静電スプレー(ES)は、表面コーティングのためのエアロゾルを発生させるES、エレクトロスピンニング・ポリマー繊維、(ナノ)粒子の化学合成、表面上の化合物アレイの作製、画像印刷などを用いるようなESの非質量分析応用に用いることもできる。例えば、エレクトロスプレーされるプラグが、ポリマー繊維のエレクトロスピンニングに適当な液体ポリマー溶液で構成される場合、セグメント化されたスプレーは、それぞれの結果として生じる繊維が所与のプラグに対応した離散した長さの繊維を生産するのに使用することができる。
【0047】
セグメント化されたアレイ及びESシステムは、イメージを保存し、イメージを基板に送達するために使用することもできる。この場合、アレイ中の各プラグ(例えば、各プラグは、適切な色、反射率などの液体インク又は染料で構成され得る)は、結果として生じる印刷画像中の画素に対応する。画像は、基板とエミッタの適切な相対平行移動と結びついたESデポジションによって続いて形成される。
【0048】
システムは、スループット及び機能を改善するために、図2、図3、図4及び図5によって示唆されるような種々の形態で具体化することができる。
【0049】
本技術の実施例は、油セグメント化流れを用いたキャピラリ液体クロマトグラフィ(LC)、及びオフライン・エレクトロスプレー・イオン化質量分析によるフラクション・コレクションをさらに含む(例えば、図16)。キャピラリLCによって分離されたサンプルのオフライン分析及び特性決定は、フラクション・コレクションの従来の手法を用いると問題があった。本技術のシステム及び方法は、ペルフルオロデカリンなどの不混和性油のスペーサ・プラグによってセグメント化された(例えば、内径75μmのLCカラムからの)溶出物のサンプル・プラグを形成することによってナノリットルのフラクションのコレクションを可能にする。セグメント化されたアレイは、例えば、チュービング内に保管することができ、次いでこのチュービングは、サンプルを操作するために使用することができる。
【0050】
オフライン・エレクトロスプレー・イオン化質量分析(ESI−MS)は、サンプルの特性を決定するために使用することができる。ESI−MSは、セグメント化されたプラグをエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに直接送り出すことによって実行することができる。良好な直接注入分析を可能にするスペーサ・プラグの媒体(例えば、オイル型)、ESI電圧、流量の選択を含むパラメータは、性能を最適化するために変更されてもよい。場合によっては、最良の信号は、油のスペーサ・プラグがエレクトロスプレーを形成せず、代わりにエミッタ・ノズルから除去される条件下で得られる。オフライン分析は、分解能を損なうことなくクロマトグラムの保存を示した。これらの方法は、分析中の流量の変更を可能にするように合わせることができる。具体的には、流量の減少は、「ピーク・パーキング」に類似する、選択したフラクションのMS分析時間の延長を可能にするために使用することができる。
【0051】
キャピラリ液体クロマトグラフィ(LC)及びキャピラリ電気泳動(CE)などのマイクロスケールの分離法は、高分解能、高感度、及び質量分析(MS)との効果的な結び付きを含む多数の利点をもたらし得る強力な方法としてよく認識されている。そのような方法の制限には、保管のためのフラクションのコレクション、及びサンプルのフラクションのオフラインのさらなる特性決定が比較的困難であることが含まれる。これらの困難は、発生するナノリットルのより小さいサンプルのフラクションを保管及び操作することの問題に主に起因する。分離法からフラクションをコレクションする従来の方法は、サンプルをウェル又はバイアルに移動させることを一般に伴う。しかし、これらの手法は、実際には、数マイクロリットル以上のフラクションに限定される。本技術を用いると、流れセグメント化に基づいたキャピラリLCからのフラクション・コレクション(すなわち、不混和性油又は気体によって分離されたプラグとしてのサンプルのフラクションのコレクション)、それに続くセグメント化されたサンプル・プラグのオフライン・エレクトロスプレー・イオン化(ESI)−MSが実証される。
【0052】
オンラインESI−MSは、一般に効果的であるが、フラクション・コレクション及びオフラインESI−MSが、以下のときを含む多くの状況において望ましいものであり得る。すなわち、1)オフ・サイト質量分析計の使用時、2)単一のサンプルを分析するための複数の質量分析計の使用時、3)クロマトグラムの一部だけが、MS分析を必要とする時、及び4)遅い分離と迅速なMS分析の多重化時である。オフライン分析は、クロマトグラムのあるフラクションが、ピーク幅より長いMS分析時間を必要とするときにも望ましい。この後者の状況は、プロテオミクス又はメタボロミクスの研究から生じる複雑なサンプルの分析に生じ得るものであり、そこでは、いくつか重なった又は共溶出の化合物に関する化学的な情報を得るために、複数段の質量分析(MS)が使用されてもよい。オンライン分析の使用時に、これらの問題は、クロマトグラフィ分離全体を遅くすることによって回避することができるが、このことは、不必要に分析時間を増加させ、それが、化合物を希釈させ得る。或いは、「ピーク・パーキング」が使用されてもよく、関心のある化合物が溶出するときに、質量スペクトルを集めるための時間をより多くすることを可能にするために移動相の流れが停止又は抑制させられる。ピーク・パーキングは、クロマトグラフィ分離中の流量変更の複雑さ、及び分離への悪影響のために滅多に使用されない。
【0053】
オフライン分析は、これらの制限を回避するのに都合のよい手法を提供する。微細加工したチップに基づいたフラクション・コレクション及びオフラインESI−MS用の市販のシステムが、開発されている。これらのシステムは、ウェル・プレートの上へのフラクション・コレクションを使用し、ESI−MS分析のために1〜10μLのフラクションを必要とする。溶出物をセグメント化流れに分化することは、チップ電気泳動及びキャピラリLCなどの、微小化された分離からフラクションをコレクションする新規なやり方として出現した。キャピラリLCについては、フラクションは、セグメント化流れとして集められて、2次元分離のためのCEに結び付けるのを助けた。これらの実例の両方が、オンライン分析に使用され、オフライン分析を探索せず、又は質量分析に接続されなかった。したがって、これらの手法には、限界があった。フラクションのオフラインESI−MSの実行は、油セグメント化されたサンプルをイオン化源に結び付ける方法の開発を必要とする。
【0054】
本技術によって提供されるように、空気のスペーサ・プラグによってセグメント化されたサンプル・プラグは、ハイ・スループット、サンプル間の低いキャリー・オーバー、及び感度の良いESI−MS分析を実現するために、金属コーティングしたナノESIエミッタ・ノズルの中に直接注入されてもよい。しかしながら、空気セグメント化されたサンプルの使用は、限界も有する。ESIエミッタを通じてサンプル・プラグを送り出すのに必要な圧力があまりに高くて、圧力が空気プラグを圧縮させるときに、セグメント化は、合併する可能性があり、フラクションの混合を可能にする。セグメント化は、Teflon(商標)又はポリジメチルシロキサンのコンテナを通じて空気が蒸発することによって保管中に合併することもあり得る。以下の実験は、油セグメント化されたサンプルのESI−MS分析、及びキャピラリLCからのフラクション・コレクションの応用、それに続くオフラインESI−MSの実例を提供する。
【0055】
以下の化学薬品及び試薬を用いた。アセトニトリル、メタノール、及び水を含有するキャピラリLC溶媒は、Burdick&Jackson(Muskegon、MI)から購入した。Fluorinert(商標)FC−72、FC−77、FC−40、及びペルフルオロデカリンは、Sigma−Aldrichからであった。酢酸及びフッ化水素酸は、Fisher Scientific(Pittsburgh、PA)から購入した。移動相は、毎週用意され、微粒子を除去するために0.02μmのポア・フィルタ(Whatman,Maidstone、England)を用いてフィルタ処理された。溶融シリカ・キャピラリは、Polymicro Technologies(Phoenix、AZ)からであった。小分子代謝産物サンプルのリンゴ酸塩、クエン酸、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、及びフルクトース1,6−二リン酸(F1,6P)、フマル酸、コハク酸エステル、及び環状アデノシン一リン酸(cAMP)は、Sigma−Aldrichからであった。コルチコトロピン放出因子(CRF)は、Phoenix Pharmaceuticals,Inc.(Burlingame、CA)からであった。
【0056】
サンプルは、以下の通りに調製された。代謝産物サンプルの原液は、5mMの濃度で水の中で作製され、次いで−80℃で保管された。次いで、サンプルは、親水性相互作用液体クロマトグラフィ(HILIC)カラム上にインジェクションするために80%のメタノール及び20%の水を用いて原料から希釈された。
【0057】
MSを用いた油セグメント化流れの分析は、以下の通り実行された。油セグメント化流れのESIの初期テストについては、セグメント化されたサンプルは、シリンジ・ポンプ(Fusion 400、Chemyx、Stafford、TX、USA)を用いて500nL/分で、内径100μmのT接合の2つの分離したアームの中にサンプル(pH9.9の50%のアセトニトリル及び50%の酢酸アンモニウムに溶解された50μMのcAMP)及び油を送り出すことによって作製された。このようにして、約7nLの油プラグによって分離された約7nLのサンプル・プラグが形成され、上記Tの第3のアームに接続された内径150μm×外径360μmの高純度ペルフルオロアルコキシ・プラス(HPFA+)チュービング(Upchurch Scientific、Oak Harbor、OR)に送り出された。
【0058】
オフラインESI−MS検出については、サンプルを含有するHPFA+チュービングが、Teflon(商標)コネクタを用いて、先端で内径8μmのPtコーティングした溶融シリカESIエミッタ・ノズル(PicoTip(商標)エミッタFS360−50−8、New Objective、Woburn、MA、USA)に接続された(図16B参照)。エミッタは、線形イオン・トラップ(LIT)MS(LTQ、Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)につながれたナノスプレーESI源(PV−550、New Objective)に取り付けられた。特に明記のない限り、サンプルは、エミッタ・ノズルが1.5kVに保たれた状態で200nL/分で送り出された。フル・スキャンMSが、cAMPサンプル信号をm/z328で示すそのような実験に使用された。全ての他の代謝産物のサンプルも、ネガティブ・モードESIを用いて検出された。
【0059】
キャピラリLC分離は、以下の通り実行された。フラクション・コレクション及びオフラインESI MS分析は、異なるクロマトグラフィ・モードをそれぞれ使用する2つの異なる応用について実行された。第1のものは、親水性相互作用液体クロマトグラフィ(HILIC)による極性代謝産物の分離だった。キャピラリHILICカラムを用意するために、フリットが、非多孔質シリカ(Micra Scientific,Inc.、Northbrook、IL)を長さ15cm、内径75μmの溶融シリカ・キャピラリの一端の中に取り付けることによってまず作製された。所定の位置に粒子を焼結するために、粒子は、炎で手短に加熱された。次いで、Kennedy,R.T.、Jorgenson,J.W. Anal. Chem. 1989年、61、1128〜1135によって説明されるように、キャピラリは、4mLのアセトン中の8mgのLuna NH2粒子(Phenomenex、Torrance, CA)のスラリからパックされた。ESIエミッタ・ノズルは、Sutter P−2000ピペット・プラー(Sutter instruments、Novato、CA)上で2サイクル・プログラム(サイクル1:HEAT 330、FIL 空き、DELAY 128、PULL 空き。サイクル2:HEAT 330、FIL(空き)、DELAY 128、PULL 125)を用いて、内径10μm及び外径360μmの分離キャピラリから引っ張った。次いで、先端を49%フッ化水素酸で100秒間エッチングして、縁の鋭いエレクトロスプレー・エミッタ・ノズルを作製された。分離は、UPLCポンプ(NanoAcquity、Waters、Milford、MA)を用いて実行された。移動相(MP)Aは、アセトニトリルであり、一方、MP Bは、NaOHによってpHが9.9に調整された水溶の5mMの酢酸アンモニウムであった。代謝産物の分離は、22分にわたって、30%から100%までのMP Bの直線移動相勾配で実現された。オンライン検出の間、カラムが、WatersのUniversal NanoFlow Sprayer ESI源を用いてトリプル四重極(QQQ)MS(QuattroUltima、マイクロマス/Waters、Milford、MA)につながれた。オフライン検出が、LITを用いて行われた。
【0060】
リンゴ酸(m/z=133)、クエン酸(m/z=191)、PEP(m/z=167)、及びF1,6P(m/z=339)は、長さ15cm、内径75μmのHILICカラム上に、流量500nL/分で用意された。フル・スキャンMSは、20μMのこれらの4つの完全に分解された分子の1μLのインジェクションの検出で利用された。多重反応モニタリング(MRM)検出については、フマル酸(m/z115)、コハク酸エステル(m/z117)、リンゴ酸、cAMP及びF1,6Pを含む別のセットの代謝産物が使用され、フル・スキャン分析に比べてMRM検出を用いたより高い感度により、サンプル濃度が10μMに下げられた。QQQとLIT MSの両方が、ネガティブ・モードで動作された。QQQの場合、これら5つの代謝産物のMRM検出に用いられる移行は、フマル酸についてはm/z115→m/z71、コハク酸エステルについてはm/z117→m/z73、リンゴ酸についてはm/z133→m/z115、cAMPについてはm/z328→m/z134、及びF1,6Pについてはm/z339→m/z96であるように決定された。LIT MSの場合、これらのサンプルのMRMに用いられる娘イオン・スキャンは、5つの異なるスキャン・イベントを異なる分子の5つの親イオンに設定し、50〜1000m/zの範囲の全ての娘イオンを検出することによって得られた。
【0061】
第2の応用は、逆相キャピラリLCを用いたコルチコトロピン放出因子(CRF)のトリプシン消化物の分離であった。分離エミッタ・ノズルを用いる代わりに、Haskins,W.E.、Wang,Z.、Watson,C.J.、Rostand,R.R.、Witowski,S.R.、Powell,D.H.、Kennedy,R.T Anal Chem 2001年、73、5005〜5014、及びLi,Q.、Zubieta,J.K.、Kennedy,R.T. Anal.Chem. 2009年、81、2242〜2250によって説明されるように、逆相カラムが、一体化したエミッタ先端で作製された。次いで、カラムは、Valaskovic,G.A.、Kelleher,N.L.、Little,D.P.、Aaserud,D.J.、McLafferty,F.W. Anal.Chem. 1995年、67、3802〜3805によって説明されるように、345kPa(500psi)で長さ3cmに、5μmのAtlantis C18逆相粒子(Alltech、Deerfield、IL)のアセトン・スラリー(10mg/mL)でパックされた。1nMのトリプシンのCRFサンプルの2μLが、弱移動相(HO中の2%酢酸)においてWPS−3000TPLオートサンプラ(Dionex、Sunnyvale、CA)によってインジェクションされて、分析物が、カラムのヘッドで積み重なることを可能にした。キャピラリLCシステムは、サンプルの装填及び12分間の脱塩のために高圧(27.58MPa(4000psi))のポンプ(Haskel Inc.、Burbank、CA)を利用し、勾配分離のために低圧(3.45MPa(500psi))のマイクロHPLCポンプ(MicroPro、Eldex Laboratories、Napa、CA)を利用する。MP Aは2%酢酸を含有する水であり、一方、MP Bは2%酢酸を有するメタノールだった。勾配は、7分間、MP Bの10%から90%までになった。オンライン検出とオフライン検出の両方が、LIT MSを使用し、ポジティブ・モードで動作した。
【0062】
フラクション・コレクションは、以下の通り実行された。オフライン分析については、LC溶出物は、図16に示したシステムを用いてフラクションに集められた。この手法では、カラムからの溶出物は、Tに向けられ、不混和性流体、典型的には全フッ素置換油が、Tの別のアームを通じて流れる。Thorsen,T.、Roberts,R.W.、Arnold,F.H.、Quake,S.R. Phys Rev Lett 2001年、86、4163〜4166;Tice,J.D.、Song,H.、Lyon,A.D.、Ismagilov,R.F. Langmuir 2003年、19、9127〜9133;Okushima,S.、Nisisako,T.、Torii,T.、Higuchi,T.Langmuir 2004年、20、9905〜9908;及びGarstecki,P.、Fuerstman,M.J.、Stone,H.A.、Whitesides,G.M. Lab Chip 2006年、6、437〜446によって説明されるように、ある流量の範囲内で、サンプル及び油の交互且つ規則的な間隔のプラグが形成される。内径50、100及び150μmのポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)のT(Valco、Houston、TX)が、この作業に用いられた。油セグメント化されたフラクションは、内径150μmの長さ60cm×外径360μmの保管用のHPFA+チュービングに集まった。そのようなフラクションを収容するチュービングの図を、図16Cに示す。
【0063】
これらの実験は、以下の結果をもたらした。油セグメント化流れについてのESIの条件に関しては、初期研究は、油セグメント化されたサンプルを良好に直接注入ESI−MSするための条件を特定することに向けられた。研究は、サンプルをセグメント化するのに用いられる不混和性流体、エレクトロスプレー電圧、及び注入流量を、安定した感度の良い直接ESI−MS分析を実現するための重要なパラメータとしてさらに特定した。
【0064】
5つの異なる液体、ヘキサン、FC−72、FC−77、FC−40、及びペルフルオロデカリン(PFD)は、サンプルをセグメント化することが可能な不混和性流体として評価された。ヘキサン、FC−72、及びFC−77は全てが、水性サンプルのエレクトロスプレーに必要なより低い電圧に類似する電圧>−1kVで目に見えるエレクトロスプレーを発生させることが観察された。直接注入中にこれらの流体によってセグメント化された水性cAMPサンプルを分析する試みは、一連のセグメント化を生じなかったが、代わりに、図17A中の実例によって示されるような低い変動するイオン電流を生じさせた。対照的に、FC−40及びPFDは、−1.5kVまでエレクトロスプレーを生じさせなかった。代わりに、これらの油は、エミッタ・ノズルで液滴を形成し、次いで、液滴は、おそらく重力及び界面張力効果よって、ノズルの外側に沿って移動しエミッタから離れた。これらの油の場合、油プラグがノズルを通じて流れたときに信号は観察されず、サンプル信号だけが検出され、このようにしてcAMPを、プラグがエミッタ・ノズルから出ることに対応する一連の離散電流バーストとして検出することが可能になった(図17B)。これらの結果は、不混和セグメント化流体のエレクトロスプレーが、隣接した水性サンプル・プラグからのイオンの形成及び検出に干渉することを示唆する。しかし、この効果のメカニズムは明らかではない。油の性能の違いは、油の粘度に少なくとも一部起因し得る。Kostiainen,R.、Bruins,A.P.、Rapid Commun. Mass Spectrom. 1996年、10、1393〜1399、及びKostiainen,R.、Kauppila,T.J.、J.Chromatogr. A 2009年、1216、685〜699によって示されるように、より高い粘度の流体は、エレクトロスプレーするのがより困難であり、より高い粘度の流体が、これらの場合にうまく使用できた(表1参照)。
【0065】
【表1】

【0066】
PFDは、サンプルのスプレーに干渉しないので、PFDを油又はキャリア相として用いてさらなる実験が行われた。ESI電圧の効果が、50μMのcAMPの一連の水性サンプルをフル・スキャン・モードで注入しながら試験された。図18に示すように、−1.2kV未満の電圧では、cAMPの信号は観察されなかった。この電圧では、水性サンプルも油も、目に見えるエレクトロスプレーを発生させなかった。電圧が−1.5kVまで増加したときに、分析物の信号が、再構成イオン電流(RIC)トレース中に離散バーストとして検出された。全イオン電流(TIC)は、油がエミッタを通じて送り出されたときに信号が得られないことを示す同様のパターンを見せた。これらの信号観察と一致するところでは、この電圧範囲内の水性プラグについてのみ、エレクトロスプレーが観察された。−1.8kVではTICは増加した。しかし、分析物の信号は、RICが減少した。これは、TICの増加がこの電圧でエレクトロスプレーし始める油からの信号によるものであったことを示唆する。cAMPの信号は、油のエレクトロスプレーの到来と共に不規則にもなる。−1.8kVより上でこの傾向は続き、分析物の信号は検出されなくなり、TICは、水性プラグ間で顕著に増加したままである。したがって、最適なESI電圧は、以下の実験に用いられる機器で約−1.5kVであると決定された。このESI電圧及びサンプル流量の場合、油セグメント化されたサンプルの信号は、連続的な水相として直接注入されたサンプルとは統計上異ならなかった。これは、油セグメントの存在がサンプルのESIに干渉しないことを示唆する。
【0067】
これらの結果は、油がエレクトロスプレーを発生させない場合、水性フラクション中のサンプルの検出が最良であるという結論をさらに支持する。所与の油について、その結果は、水性サンプルがエレクトロスプレーを発生させるが、油はエレクトロスプレーを発生させない範囲内で得られることになる。FC−72及びFC−77などの低粘度油については、水性スプレーだけを発生させる電圧がないので、これらの油は、いずれの条件下でも良い結果をもたらさない。
【0068】
200nL/分で灌流させられるそのようなサンプル・プラグのナノESI−MS信号は、サンプル・プラグ幅の38%のRSDを有した(n=30)。顕微鏡下の目視による観察により測定したときT接合において発生するプラグ長さのRSDが3%だったので、この変動性は、プラグ幅の変動によるものではない。発生したプラグの個数は、MSによって検出された個数に常に等しかったので、変動性は、ESIノズル内のプラグの完全な合体によるものでもない。したがって、この変動は、エミッタ・ノズルを通じての流れによって引き起こされるように思われる。可能性のある原因は、1)プラグの部分的合体、及び2)エミッタを通じてのセグメント化流れに関連した流量のばらつきを含む。LCによるフラクション・コレクション中に得られたデータは、以下に述べる通り、前者の場合と相反する。定量的なLC−MS上のこのプラグ幅の変動の潜在的影響は、まだ求められていないが、発明者は、ピーク高さにほとんど影響がないことを観測した。
【0069】
流量の効果は、以下の通り決定された。注入流量の影響を探るために、cAMPのESI信号が、注入流量を変更しつつ一連のプラグから監視された。図19Aに示すように、50nL/分から200nL/分までの流量の増加は、サンプルがより迅速に導入され、より高いスループットを可能にしたことを除いて信号の大きさにほとんど影響を及ぼさなかった。400nL/分より低い流量で、このトレースは、時々のスパイクを伴うが安定である。スパイクの影響は、平均ピーク高さに対して取るに足らないものである。時々の信号の一時的低下は、このタイプの実験に伴う流れの不安定性によるものであり得る。50nL/分において、いくつかの不安定性は、エミッタ・ノズルに関連している可能性がある。これは、使用される先端に対して推奨される低い限界であるからである。図示の全ての信号は、フィルタ処理していない生の信号である。400nL/分まで流量が増加したときには、信号はなくなった。エミッタ・ノズルの観察によって、この信号の喪失がノズルにおける油の蓄積と一致したことが明らかとなった。したがって、より高い流量において、ノズルから出る油相は、十分に速く除去されず、エミッタ・ノズルを塞いだ。
【0070】
油がエミッタ・ノズル上に蓄積するのを防ぐために、図19Cに示すように、長さ20cm、内径50μmのTeflon(商標)チュービングを、先端から約1mmエミッタの隣に配置することによって、油は吸い上げられノズルから離れた。油の液滴がノズルから出てくるとき、上記の通り、油の液滴は孔から離れて移動し、次いでTeflon(商標)チュービングの中に吸い上げられた。このようにして、油はノズル上に蓄積されなかった。結果として、交互の10nLの水性プラグ及び油プラグが、信号を喪失せずに2μL/分までの流量で注入することができた(図19B)。Teflon(商標)吸い上げチュービングの場合、油セグメント化流れのスプレーの安定性は、20〜2000nL/分で維持することができた。
【0071】
使用される最も高い流量において、2.2Hzのレートで液滴が分析された。ハイ・スループット・サンプル分析は、この研究の焦点ではないが、これらの結果は、セグメント化流れのESI−MSが、ハイ・スループット分析への役立つルートであり得ることを示唆する。より高い流量は試みられなかった。これは、スループットがMSのスキャン・レートによって制限されるためである。この実験については、スキャン・レートは、スキャンごとに0.13秒であった。より高いスループットに到達するために、飛行時間型MSなどのより速い検出器を使用してもよい。
【0072】
油セグメント化流れによるキャピラリLCからのフラクション・コレクションは、以下の態様を含んだ。図16(A)に示すように、キャピラリLCカラムからのフラクションは、オイルが移動相に垂直に流れるTの中にカラム溶出物を送り出すことによって形成された。相対流量及びTの寸法を変更することによってフラクション・サイズを変更することが可能である。内径100μmのTを用いると、500nL/分の移動相の流れ、及び300nL/分の油の流れが、約5nLの油プラグによってセグメント化された約7nLのLCフラクション・プラグを発生させた(図16C)。内径50μm及び150μmのTの使用時に、サンプルの液滴のサイズは、それぞれ約2nL及び約35nLであった。この研究については、分離に応じてクロマトグラフィ・ピークごとに5〜18個のフラクションを発生させる7nLの液滴を使用した。一貫したサンプル・プラグ・サイズ(目視により観察された30個のプラグについて4%のRSD)が、発明者らのLC分離条件下で集められた全てのフラクションについて得られた。勾配の始まりの70%アセトニトリルで発生するサンプル・プラグと、勾配の終わりの0%アセトニトリルで発生するサンプル・プラグとについて、明らかな違いは観察されなかった。
【0073】
LC分離成分のオフラインの検出は、以下の通り実行された。オンラインLC−MS検出を用いてフラクションのオフライン検出を比べるために、4つの小分子代謝産物(リンゴ酸、クエン酸、PEP、及びF1,6P)の20μMの混合物が、オンライン及びオフラインの両方でMSにつながれたHILICを用いて分析された。オンライン分析については、成分は、QQQ MSを用いてフル・スキャンによって検出された(図20A)。オフライン分析については、フラクションは、セグメント化されたプラグとして集められ、1時間後にナノESIエミッタ・ノズルを通じて、フル・スキャン・モードで動作したLIT MSに注入された。オフライン・トレースでは(図20B)、個別のLCピークは、10〜18個のフラクションに分割された。フラクションのこの個数は、分解能の喪失を防ぐのに十分である。上記の通り、実験に応じて種々のフラクション容量を生じるための条件を調整することが可能である。
【0074】
オンライン分析及びオフライン分析の比較において、ピーク形状及び相対的サイズは、同じであり、フラクションの保管及び分析中に追加のカラム・バンドの広幅化が生じていないことを示す。この結果は、少なくともこれらの実例については、プラグ間の相互汚染が取るに足らないほど十分に低いという結論を支持する。より低い濃度のプラグ及びピークの尾引きの縁が、それに先立つより高い濃度によって汚染されるので、プラグ間のキャリー・オーバーは、オフライン・マス・クロマトグラム中のピークの尾引きになったが、追加の尾引きは、ピーク中に観察されない。この観察は、ペプチドのサンプル間の低いキャリー・オーバーを示す本明細書に記載した結果に一致する。種々のサンプル及びLC法を用いたさらなる研究が、この結論の一般性を決定するために必要である。
【0075】
これらの結果は、追加のカラム・バンドの広幅化に関して、集められたフラクションが、十分に小さく、形成中に十分に低い混合で作製されたというアイデアも支持する。そのような影響が生じる場合、必要ならば、そのような影響を避けるために、より小さいプラグが発生させられてもよい。分解能も影響を受けない。例えば、クエン酸及びPEPについての分解能(R)は、オンライン検出とオフライン検出の両方について2.0であると計算された。
【0076】
トレース間の最も明らかな違いは、4つのサンプルのピーク全部についての全体の時間が、セグメント化流れのサンプルにおいてより長いことである(オンラインの8分に比べてオフラインは5分)。両方の方法において流量が500nL/分において同じに保たれたので、この違いが生じる。しかし、油とサンプルの容量の比は、3:5である。したがって、油の注入では、オフライン検出におけるサンプル分析時間と比べて3/5の分析時間が追加された。これらの結果は、クロマトグラムの検出が、油セグメント化流れの中でのこれらのサンプルの保管によって影響を受けなかったこと、及びキャピラリLC分離成分は、オフラインでの追加の分析の間、保つことができることを示す。これらの実験では、発明者らは、MS分析の前に1〜2時間サンプルを保管した。本方法及びシステムは、必要ならば、集められたフラクションをより長期間保管するために使用することができる。
【0077】
フラクションのオフライン検出のイオン電流信号のピーク幅を測定することによって、0.036分(n=26)及び0.035分(n=26)で平均ピーク幅をそれぞれ有するサンプル・プラグにおいて、高有機濃度又は低有機濃度のサンプル・プラグに違いがないことが示された。しかし、異なるサンプル・プラグについてのピーク幅RSDは、より高く、高有機溶液中のプラグについて33%(n=26)、又は低有機溶液中のプラグについて37%(n=26)であった。このRSDは、標準的なサンプル・プラグを検出するときのRSDと同様であり、追加の変動性が、分離及びフラクション・コレクションの手続きによらないことを意味する。しかし、前述したように、油セグメント化流れでのナノESIのプロセスのファクタである。
【0078】
オフライン・システムは、2つの実例について、ピーク・パーキングに類似した、選択した成分のMS分析時間を延長するために試験された。第1のものは、比較的遅い質量分析計を用いて共溶出ピークについての複数のMSスペクトル(すなわち、多重反応モニタリング)を得るものであった。複雑なサンプルについては、多重反応モニタリング(MRM)は、目標とされる成分を同時に検出及び定量化するよく見られる方法である。トリプル四重極MSが、種々のMS−MS移行の間で迅速に切り替わる能力のため、一般に、MRM検出に用いられる。しかし、四重極イオン・トラップは、通常、MSにおいてより良いフル・スキャン感度を有し、トリプル四重極MSによっては行うことができないMS分析に用いることができるので、四重極イオン・トラップが、MRMにとって有利であり得る。この手法の制限は、長いスキャン時間のためにイオン・トラップ上のMRMが比較的遅いことである。MRMを用いるオフラインESI−MSの実証のために、それぞれ10μMの5つの代謝産物、フマル酸、コハク酸エステル、リンゴ酸、cAMP、及びF1,6Pの試験混合物が分析された。フマル酸、コハク酸エステル、及びリンゴ酸は、溶出して化合物を共溶出するためのMRMの課題を示すことができた。実験では、フラクションは、7nLのサンプルに対応する0.84秒間隔で集められた(流量は、500nL/分であった)。
【0079】
化合物を3つ共溶出するオンライン検出は、図21Aに示すように、RICを与えた。オフライン検出の第1の場合では、サンプルは、5つの分析物全てについて線形イオン・トラップ上でMS−MS移行を監視しつつ、フラクションを500nL/分で送り出すことによって分析され、図21Bに示すRICを生じた。この条件下では、分析物を3つ共溶出するための合計時間は、約30秒であったが、MRMスキャン時間は、1つの分析物の点ごとに1.8秒であった。したがって、図21Bに示すように、サンプル・プラグにわたるMS−MS移行ごとに1スキャンだけ得ることができた。さらに、全ての化合物が、各プラグにおいて検出できたのではなく、したがって、いくつかのサンプル・プラグについては、特定の化合物の信号が検出されなかった。例えば、図21Bの中央のRICは、計6つのスパイクを示した。これらのスパイクは、コハク酸エステル(m/z117)のピークについての検出された6つの点であった。しかし、4つ目のスパイクと5つ目のスパイクとの間に信号は検出されなかった。一方、サンプル・プラグは、同じ時間に見られ、そのプラグを見失ったことを示す信号を示した。
【0080】
次いで、オフライン実験が繰り返されたが、ピークを共溶出する検出する間、流量は500nL/分から50nL/分へ減少した(図21C)。この条件下では、ピーク幅及び検出時間は、10のファクタによって増加する。これにより、さらに多くのスキャンを、サンプル・プラグごと、及びクロマトグラフィ・バンドごとに取得することが可能になる。コハク酸エステルについては、図21Bに示すように、S/N>3で6つのスキャンだけが、500nL/分で取得されたが、図21Cに示すように、流量の減少によって80を超えるスキャンが取得された。より大きいスキャン回数を用いて、全てのプラグ中の分析物を検出することもできた。一方、高分解能、サンプル濃度の改善、及びイオン化効率の向上などのキャピラリLCの利点は、保たれる。
【0081】
ピーク・パーキングについてオフライン分析を利用する第2の実証として、一つの実例として、ペプチドCRFのトリプシン消化物の分析を用いて化合物の同定のための複数のスペクトルを取得する試験を行った。CRFトリプシンペプチドの分離では、LC分離の流量を100nL/分まで減少させてより良いナノESI感度に到達した。そこで油流量は、60nL/分に下がって、しかも5:3で一定の比を維持した。上記の実験に比べて、異なる流量であるにもかかわらず、液滴のサイズは、7nLで同じであった。100nL/分でのオンライン分離及びフル・スキャンMSの場合、クロマトグラム中の最も優勢なピークは、m/z623を有する断片に対応する(図22A)。しかし、ピークは、わずか約0.3分の幅であり、この幅は、最適化されたCIDを手動で用いて複数段のMSを取得するには不十分であった。この断片のペプチドのシークエンスを確認するために、フラクションが集められ、オフラインESI分析が、100nL/分で実行された。関心のあるピークの溶出中、流量は25nL/分まで減少した。このようにして、0.3分の幅のピークが、約1.8分の幅まで延長され、これによってMS及びMS分析について親イオンの手動選択が可能になった。この時間の間、一連の8個のフラクション(すなわち、サンプル・プラグ)が、エミッタを通じて送り出された。パーキング・イベントは、MS分析が達成された後に終了した。このスペクトルを用いて、Protein Prospector MSプロダクト・データベースとの比較によって、最も豊富なCRFのトリプシン断片は、そのシークエンスが、SEEPPISLDLTFHLLR(シークエンス識別番号1番)であるペプチドCRF1−16であると分かった。このソフトウェアは、ウェブ・アドレス[prospector2.ucsf.edu/]で自由に入手できる。
【0082】
本システム及び方法は、オンライン・ピーク・パーキングの簡単な代替を提供する。オンライン・キャピラリLC−MSを用いてピーク・パーキングを実現するために、分離中に流量の減少を可能にするように特製のLC−MSシステムが必要とされる。したがって、関心のピークが、MSに溶出するとき、選択したピークの分析時間を延長するために、LC流量は、通常の流れから減少した流れに切り換えられる。この手法は実現可能であるが、いくつかの問題がある。低流量で勾配に対してうまく流量が切り換わるには、流れシステムに関するかなりのエンジニアリングが必要とされる。また、より大きいエミッタの先端は、これらの条件下で不安定なスプレーをもたらすので、典型的には、最良の結果は、小さいエミッタの先端(1〜2μm)から得られているが、小さいエミッタの先端は、残念なことに、閉塞するのが最も早い。しかし、オフライン手法を用いると、セグメント化流れをMSに注入するためのシリンジ・ポンプの流量を変更するだけでピーク・パーキングの流量を変えることが容易であった。これらの流量の変化は、20nL/分〜2μL/分の範囲にわたって信号強度にほとんど影響を及ぼさなかった。分離及びMS検出を切り離すことによって、分離及びMS分析にとって最適な流量を維持することが可能である。
【0083】
本明細書で説明したこのシステムは、マルチ・ウェル・プレート中のフラクションのコレクションの有用な代替でもある。この手法の主な利点は、マルチ・ウェル・プレートの使用時に非常に難しいナノリットル以下の容量のフラクションのコレクション、操作、及び分析が容易なことである。
【0084】
フラクション・コレクション及びオフライン分析の他の応用が考えられ得る。確立された方法を用いてプラグを分けることによって、種々の質量分析計、NMR、2次元分離、又は他の方法によってプラグを分析することが可能である。さらに、プラグは、後での分析又は再分析のためにプラグが安定である限り保管することができる。このシステムは、MSを多重化するのにもやはり役立ち得る。クロマトグラフィ分離が比較的低い場合、いくつかの分離を並列に実行し、次いでそれらをスループットの改善のために、高速スキャンMS、例えばTOF−MSに迅速に注入することも可能であり得る。
【0085】
本技術は、油セグメント化流れの直接ESI−MS分析のための方法を確立した。キャピラリLCからのフラクション・コレクションと結合されると、この方法は、追加のカラム・バンドの広幅化がなく、集められたフラクションの混合のないオフラインESI MS分析を可能にする。このシステムは、オンライン分析に相当するマス・クロマトグラムをもたらすことが示された。しかし、オフライン分析の場合、MS分析時間をクロマトグラフィ・ピーク幅により良く適合させることが可能である。この場合、選択したフラクションのMS分析をより長くするために流量が遅くされるピーク・パーキングに相当するものを実証した。このシステムは、逆相分離とHILIC分離の両方について適当であることが実証された。この方法は、さらなる操作及び研究のためにマイクロスケールの分離から低い容量の構成要素を保つための一般的な手法を示す。集めたフラクションに複数のアッセイを実行するなどの他の応用もあり得る。2Hzを超える分析レートのためのセグメント化流れESI−MSの能力も、実証された。このことは、創薬及び他の応用におけるハイ・スループット・スクリーニングのためにESI−MSを用いる可能性を示唆する。
【0086】
本技術は、セグメント化流れエレクトロスプレー・イオン化質量分析(ESI−MS)を用いて、酵素阻害剤の迅速で無標識のスクリーニングをさらに提供することができる。ESI−MSは、短い分析時間、及び標識を必要とすることなく化合物を検出する能力の可能性のために、ハイ・スループット・スクリーニングのための魅力的な分析ツールである。スクリーニングのためにESI−MSを使用することの障害は、一般に使用されるフロー・インジェクション分析に関連した比較的大きいサンプルの消費及び遅いサンプル導入レートであった。本技術は、スクリーニング応用のためにスループットを改善すると共にサンプルの消費を減少させるセグメント化流れESI−MS分析を使用する。本方法の実施例では、空隙がサンプル・プラグの間にあるサンプル・プラグのアレイが、マルチ・ウェル・プレートからのキャピラリ・チューブ内で発生する。サンプル・プラグを、ESIエミッタ・ノズルを通じて直接注入して、各サンプル・プラグから離散した一連の質量スペクトルを発生させる。
【0087】
ハイ・スループット・スクリーニング応用のためのセグメント化流れESI−MSの可能性の実証として、この方法は、アセチルコリンエステラーゼの阻害剤についてのスクリーニングに適用された。1μL/分の注入レートで、それぞれ10nLの102個のサンプルが、0.65Hzのサンプル分析レートに対応する2.6分で分析された。内部標準に対するコリンについてのイオン電流が、酵素反応を定量化し、阻害剤を検出するために使用された。この信号は、200μMから10mMまでのコリンで線形であった。アッセイは、Z’>0.8を有し、再現性が、スクリーニングに十分であることを示した。選択した阻害剤の詳細な薬学的投与量反応曲線も、この方法を確認するために、ハイ・スループットで測定された。
【0088】
創薬は、何百万の候補を含む組み合わせライブラリから鉛化合物の同定をしばしば必要とする。ハイ・スループット・スクリーニング(HTS)は、そのような大規模なサンプルの取扱い及び測定に必要である。光学的検出を用いたマルチ・ウェル・プレートにおけるIn vitro生化学アッセイが、HTSの主要なフォーマットである。光学的検出の欠点は、通常、標識又は指標の反応をアッセイに組み込んで検出可能な信号を発生させなければならないことである。これらの要求は、結果として、アッセイ開発の困難の増加、追加の試薬又は複雑な試薬によるコストの増加、及び、試験化合物が試験反応ではなく標識又は指標の反応に影響を及ぼす場合に不正確な結果となる可能性がより大きくなるということを含むいくつかの問題になる。したがって、標識又は指標の反応なしで実行できるハイ・スループット・アッセイが大きな関心である。
【0089】
強力な無標識検出システムは、エレクトロスプレー・イオン化質量分析(ESI−MS)である。実際のところ、酵素及び非共有生体分子結合イベント用の様々なESI−MSアッセイを、スクリーニング応用に用いることができる。ESI−MSによって実現可能なスループットは、質量分析計をマルチ・ウェル・プレートにつなぎ、アッセイごとに個別のインジェクションを実行する必要性によって制限される。この制限は、1つの化合物を一度に試験する標準的な手続きを仮定している。あるアッセイについては、MSは、試験化合物の混合物を一度に分析することができる。現在、ほとんどの場合、個別のサンプルは、フロー・インジェクションによって、すなわち、サンプルをHPLC形式インジェクション・バルブの中に装填され、次いでESIエミッタを通じてサンプルを送り出すことによって質量分析計に導入される。少ない容量を使用し、インジェクション間で低いキャリー・オーバーを有し、低流量を使用し、そして、信頼性の高い急速インジェクション・システムを設計することが大きな難題である。分析ごとにわずか4〜5秒を必要とし、1〜5μLのサンプルを消費する急速システムは、市販されており、Shiau,A.K.、Massari,M.E.、Ozbal,C.C. Back to Basics:Label−Free Technologies for Small Molecule Screening. Comb. Chem. High Throughput Screening. 2008年、11、231〜237によって説明されるようなものである。しかし、より一般のシステムはかなり遅く、サンプルごとに数分を必要とする。HTSについては、サンプルの消費の容量を少なくし、試薬のコストを下げ、スループットをさらに増加させることが望ましい。
【0090】
本システム及び方法を用いると、フロー・インジェクションの必要性が、ハイ・スループットESI−MS用のセグメント化流れ分析を利用することによってなくなる。セグメント化流れは、臨床分析におけるスループットを改善するために長く普及している方法であった。古典的手法においては、個別のサンプルはチューブ内の空気によってセグメント化され、試薬が比色アッセイのために加えられ、サンプルが光検出器を通過した。小型化(例えば、フェムトリットルからナノリットルのサンプル)を可能にする精巧なマイクロフルイディクス、並びにサンプル・プラグ及び液滴を操作する新しい方法の出現と共に、セグメント化流れの関心の復活があった。本明細書で実証したように、セグメント化流れを、ESIエミッタ・ノズルを通じて直接送り出して、離散サンプル・プラグの質量分光分析をハイ・スループット(分析レート0.8Hz)で、プラグ間の低いキャリー・オーバー(<0.1%)で得ることが行われ得る。
【0091】
試験システムとして、アセチルコリンエステラーゼ(AchE)の阻害剤についてのスクリーニングが選択された。AchEは、アセチルコリンのコリンへの変換を触媒し、アセチルコリンの信号伝達をシナプスで終えるための主要因子である。例えば、AchEの阻害は、アルツハイマー病(AD)及び関連した痴呆症の考え得る治療法である。一握りのAchE阻害剤が、AD治療に承認されてきたが、薬理学的特性及び毒物学的特性が改善された化合物の探索は、活発に探求されている状態である。
【0092】
AchE反応は、光学的に容易に検出される成分を発生させないので、酵素を指標反応と結びつけるスクリーニングが必要とされてきた。Ingkaninan,K.、de Best,C.M.、van der Heijden,R.、Hofte,A.J.P.、Karabatak,B.、Irth,H.、Tjaden,U.R.、van der Greef,J.、Verpoorte,R. High−Performance Liquid Chromatography with on−Line Coupled UV, Mass Spectrometric and Biochemical Detection for Identification of Acetylcholinesterase Inhibitors from Natural Products. J Chromatogr A. 2000年、872、61〜73、及びOzbal,C.C、LaMarr,W.A.、Linton,J.R.、Green,D.F.、Katz,A.、Morrison,T.B.、Brenan,C.J.H. High Throughput Screening Via Mass Spectrometry: A Case Study Using Acetylcholinesterase. Assay and Drug Development Technologies. 2004年、2、373〜381によって説明されるように、基体及び/又は反応生成物を直接検出するために、フロー・インジェクションESI−MS及びHPLC−MSを用いて、AchEアッセイが実行できることを実証してきた。自動化されたサンプリング及びインジェクションの使用時に、0.2Hzのスループット及びサンプルの消費1〜5μLが可能であった。本実験は、セグメント化されたアッセイ混合物の直接ESI−MS分析を用いて、わずか10nLのサンプルを消費しつつ、AchE阻害剤のスクリーニングについてのスループット0.65Hzを生じさせ、優れた再現性を実現することができることを実証する。
【0093】
以下の化学薬品及び試薬を用いた。水及びメタノールは、Burdick&Jackson(Muskegon、MI)から購入した。酢酸は、Fisher Scientific(Pittsburgh、PA)から購入した。他の全ての化学薬品は、Sigma(St.Louis、MO)から得られた。
【0094】
AchE活性が、以下の通り測定された。アッセイ条件は、Hu,F.L.、Zhang,H.Y.、Lin,H.Q.、Deng,C. H.、Zhang,X.M. Enzyme Inhibitor Screening by Electrospray Mass Spectrometry with Immobilized Enzyme on Magnetic Silica Microspheres. J.Am.Soc.Mass Spectrom. 2008年、19、865〜873によって説明される方法から修正された。10mMのNHHCOを全てのAchE実験について反応緩衝液として使用した。AchE(電気ウナギ由来、タイプVI−S)が、90μg/mLの溶液で凍結乾燥粉末から毎日用意された。2μLの試験される薬液が、20μLのAchE溶液を用いて混合され、室温に運ばれる前に30分間氷の上でインキュベートされた。次いで、200mMのヨウ化アセチルコリン溶液20μLをAchE溶液に加えて加水分解を開始した。20分のインキュベーション後、1mMのクロルメコートを含有する氷のように冷えた水性混合物180μL、60:40(v/v)メタノール、及び1.5%(v/v)酢酸を、酵素混合物20μLと急速に混合して反応を終了させた。分析用サンプル・チューブに装填するために、各最終クエンチ反応混合物30μLを384ウェル・プレート(Corning、Fisher Scientific、Pittsburg、PA)にピペットで移した。
【0095】
384ウェル・プレート中のサンプルから空気セグメント化されたサンプル・プラグが、図23に示すシステムを用いて発生させられた。内径(i.d.)75μm及び外径(o.d.)360μmのTeflon(商標)チューブ(IDEX Health&Science、Oak Harbor、WA)が、サンプル・プラグのサンプリング及び保管に用いられた。このチュービングの一端は、ボア250μmのPEEKユニオン(Valco Instruments、Houston、TX)を用いて100μLのシリンジ(Hamilton、Fisher Scientific、Pittsburg、PA)に接続された。シリンジ及びTeflon(商標)チュービングは、初めにFluorinert(商標)FC−40(Sigma)で満たされた。シリンジは、PHD200プログラマブル・シリンジ・ポンプ(Harvard Apparatus、Holliston、MA)に取り付けられた。チューブを空気セグメント化されたサンプルで満たすために、コンピュータ・コントロール式xyz−微小位置決め装置(XSlide(商標)assemblies、Velmex Inc.、Bloomfield、NYの社内製)を使用して、Teflon(商標)チュービングの入口をマルチ・ウェル・プレート上のサンプルからサンプルへ移動させると共に、ポンプを一定の吸引速度で動作させた。吸引速度200nL/分を用いることによって、10nLのサンプル・プラグ、及び長さ4mmの空気プラグを生産した。この手続きを用いて、約10分でチューブを100個のサンプルで満たすことができた。サンプル・プラグ・サイズの相対標準偏差は、チューブ内の空気の量を増加させるにつれてサンプリング・レートに影響を及ぼす空気の圧縮率により25%だった。
【0096】
サンプル・プラグの発生後、Teflon(商標)チュービングの入口端部は、内径360の短いTeflon(商標)チュービングを用いて、Ptコーティングした溶融シリカのエレクトロスプレー・エミッタ(FS 360−50−8−CE、New Objective、Woburn、MA)に接続された。このエレクトロスプレー・エミッタは、内径50μmであり、先端で内径8μmまで引っ張られていた。エミッタは、ナノスプレー源(PV−550、New Objective)に取り付けられた。1.0μL/分で動作するシリンジ・ポンプを使用して、ESI−MS分析のために+1.7kVで保たれたエミッタを通じてサンプル・プラグを駆動した。MS分析は、単一段のフル・スキャン・モードで動作されるLTQ XL線形イオン・トラップMS(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA)を用いて、以下の設定、すなわち、自動利得制御(AGC)オン、ネガティブ・モード、50〜300m/zのスキャン・レンジ、及びマイクロ・スキャン数=1で実行された。スキャン時間は、約0.1秒であった。コリン(m/z104)及びクロルメコート(m/z122)のRICが、分析するためにTICから抽出された。ピークのマーキング及び分析が、Qual Browserを用いて自動的に実行された。阻害剤IC50の値を決定するために、GraphPad Prism 3.0(GraphPad Software、San Diego、CA)が、曲線近似及び分析のために使用された。
【0097】
最初の実験は、ESI−MSに適合するAchEアッセイ条件を決定することに向けられた。10mMのNHHCO緩衝液中で、20分間室温でAchEと共にアセチルコリンをインキュベートし、続いてメタノール及び酢酸混合物を加えることによって反応をクエンチすることは、適当であると分かった。このインキュベーション時間の場合、元のアセチルコリンの<10%が消費され、したがって、リニアの加水分解速度を確実にする。溶媒をクエンチすることは、酵素反応を完全に停止させ、MSに適合することが分かった。NHHCOは、ESIに適合している一方で、十分な緩衝を与えた。定量化を改善するために、クロルメコートが、内部標準として働くクエンチ溶液中に含まれた。基体(アセチルコリン)、生成物(コリン)、及び内部標準検出を示す典型的なMSスペクトルは、図24にも示される。使用したエレクトロスプレーの条件下では、スペクトルは、Teflon(商標)チュービングのコーティングに用いられるFluorinert(商標)FC−40からピークに干渉しない。アッセイに加えられた阻害剤は、図24によって示されるようにコリンの信号を減少させた。
【0098】
急速スクリーニングのためのセグメント化流れESI−MS分析は、以下の通り実行された。AchE阻害剤の急速スクリーニングを実証するために、4つの知られたAchE阻害剤を含む32個の化合物、及び28個のランダムに選ばれた化合物のセットが、AchEアッセイ混合物ごとに100μMで試験された。スクリーニングについては、各化合物は、3通りに試験され、合計102個のサンプル(96個のアッセイ・サンプル、加えて酵素が加えられていない3個のブランク、及び試験化合物が加えられていない3個の対照)になった。これらのサンプルは、本明細書に説明した手続きを用いてTeflon(商標)チューブの中にリニア・アレイとして装填された。分析のスループットは、サンプル・プラグの容量、及びESI源の中への流量によって決定され、それによって小さいサンプル容量及び高い流量が、より高いスループットを発生させる。この作業については、10nLのサンプル・プラグ、及び17nLの空隙(又は内径150μmのチュービング内の4mmの間隔)が、生産するのに都合のよい小さい容量として選ばれた。 サンプルは、エミッタを通じて1μL/分で送り出された。これは、空気セグメントの圧縮のため、エミッタ・ノズル内でサンプルを合体させない最も高い流量であった。
【0099】
これらの条件は、図25Aに示すイオン電流トレースによって示されるように、102個のサンプルを0.65Hzの分析レートに対応する2.6分で分析することを可能にした。各サンプルは、電流バースト、続いてエミッタを通過する空気セグメントに対応するゼロ電流の周期として検出される。図示するように、電流は、サンプルごとに急速に安定化し、サンプルがエミッタを通過するときに安定したままである。阻害剤の存在は、これらのトレースにおける内部標準信号に対するコリンの信号の減少によって容易に見られる。サンプル同士の間の取るに足らないキャリー・オーバーは、種々のコリン濃度のサンプル同士の間の即時の信号のステップ変化によって示される。
【0100】
好ましくは、セグメント化流れ法のスループットは、Ingkaninan,K.、de Best,C.M.、van der Heijden,R.、Hofte,A.J.P.、Karabatak,B.、Irth,H.、Tjaden,U.R.、van der Greef,J.、Verpoorte,R. High−Performance Liquid Chromatography with on−line Coupled UV, Mass Spectrometric and Biochemical Detection for Identification of Acetylcholinesterase Inhibitors from Natural Products. J Chromatogr A. 2000年,872,61〜73;Ozbal,C.C、LaMarr,W.A.、Linton,J.R.、Green,D.F.、Katz,A.、Morrison,T.B.、Brenan,C.J.H. High Throughput Screening Via Mass Spectrometry: A Case Study Using Acetylcholinesterase. Assay and Drug Development Technologies. 2004年、2、373〜381;及びAndrisano,V.、Bartolini,M.、Gotti,R.、Cavrini,V.、Felix,G. Determination of Inhibitors’ Potency (IC50) by a Direct High−Performance Liquid Chromatographic Method on an Immobilised Acetylcholinesterase Column. J Chromatogr B. 2001年、753、375〜383に説明されるように、事前に報告されたフロー・インジェクションAchEアッセイを比較する。これらの方法の速度は、個別のサンプルをインジェクトする必要性、又はアッセイの緩衝液がESI−MSに直接適合しないときの追加の分離ステップによって制限された。
【0101】
本明細書に報告さる方法を用いたスループットのさらなる改善が実現可能である。より少ない容量のサンプルを発生させることにより、所与の流量で各サンプルを分析するのに必要な時間を減少させる。より小さいサンプルは、より小さい内径のサンプルのチュービングを用いることによって、又はウェルからウェルへより速く移動することができるより精巧な位置決め装置を用いることによって用意することができる(本明細書で使用される位置決め装置の比較的遅い変換レートは、より小さいサンプル・プラグを発生させるより短い吸引時間を妨げた)。より高い流量は、分析レートも改善する。本明細書に記載した他の実験では(例えば、図19)、サンプルをセグメント化するための空気に代わってフッ化油を用いることにより、空気圧縮率の制限効果を避けるようにしつつ、より高い流量が可能となることが分かっている。最終的に、分析レートは、使用される質量分析計のスキャン時間によって制限され得る。
【0102】
酵素反応中のコリン生産を定量化するために、図26Aに示すように、4つの異なる測定が評価された。絶対コリン・ピーク領域が、最も高い変動性を有する。このことは、サンプル・プラグのサイズが25%の変動性を有したので驚くべきことではなかった。ピーク高さは、それほど可変性ではないが、時々、エレクトロスプレーの安定性のゆらぎによって影響を受け得る。コリン・ピーク領域、及び内部標準に対する高さは、低い変動性を有し、共に定量化に対して同等に許容可能であることが実証された。
【0103】
エレクトロスプレー中のコリンと内部標準クロルメコートとの間の電荷の競合、及びその定量化への影響も評価された。コリンの信号強度は、一定のクロルメコート濃度を用いて様々なコリン濃度で測定された。図26Bに示すように、コリンの信号は、その濃度と共に非線形に増加し、一方、クロルメコート信号は、コリン濃度の増加と共に減少した。内部標準に対するコリンの信号を用いることによって、線形較正曲線を得ることができ(図26B参照)、内部標準の使用も、ESI中の種々のコリン濃度で電荷の競合を補正するのに役立ったことを実証した。
【0104】
図25Bは、コリン及び内部標準についてのピーク面積比を用いた図25Aに示したアッセイ法の定量化の概要を述べる。知られたAchE阻害剤のうちの4つは、予想通りにコリン生産の減少を示した。興味深いことに、イソプロテレノール及びDMSOは、この濃度でやはりある阻害を示した。DMSOは、コリンとクロルメコートの両方の信号を増加させたが、相対信号強度が使用されたので、定量化は影響を受けなかった。この結果は、アッセイが、ESI−MSプロセスへの影響を一般化された化合物に耐性を有するべきであることを示す。
【0105】
アッセイの再現性は、Z’ファクタを用いて評価することができる。Z’ファクタは、Z’=1.0−(3.0×(sネガ+sポジ)/Rと定義され、ただし、sネガは、ネガティブ・コントロール(阻害剤なし)の反応の標準偏差であり、sポジは、ポジティブ・コントロール(阻害剤あり)の反応の標準偏差であり、Rは、ポジティブ・コントロールとネガティブ・コントロールの平均の間の信号の差異である。0.5を超えるZ’は、一般的に、HTSに関して良好なアッセイとみなされる。発明者の実験では、ネオスチグミン、エセリン、マラチオン、及びエドロホニウムについてのZ’値は、それぞれ0.84、0.83、0.87、及び0.85であった。高いZ’値は、セグメント化流れESI−MSアッセイの優れた再現性の直接的な結果であった。
【0106】
アッセイの別の使用は、図27中のネオスチグミン、エセリン、マラチオン、及びエドロホニウムについて示されるような、知られた阻害剤についての用量反応関係の迅速な決定のためである。この実験については、各阻害剤の10個の異なる濃度0nM〜10mMが、室温で20分間アッセイ混合物と共にインキュベートされた。クエンチされた反応混合物が分析され、絶対コリン形成は、コリン較正曲線から得られた。エセリン、マラチオン、及びエドロホニウムのIC50が計算され、それぞれ63±13nM、480±70μM、63±11μMであった。2箇所のコンペティション・フィッティングに基づいて、ネオスチグミンは、2つのIC50の値、50±25μM及び38±10nMになった。これらの数字は、全体的に、先に報告した値によく一致するが(Vinutha, B.、Prashanth,D.、Salma,K.、Sreeja,S.L.、Pratiti,D.、Padmaja,R.、Radhika,S.、Amit,A.、Venkateshwarlu,K、Deepak,M. Screening of Selected Indian Medicinal Plants for Acetylcholinesterase Inhibitory Activity. J Ethnopharmacol. 2007年、109、359〜363;Krstic,D.Z.、Colovic,M.、Kralj,M.B.、Franko,M.、Krinulovic,K.、Trebse,P.、Vasic,V. Inhibition of AchE by Malathion and Some Structurally Similar Compounds. J.Enzyme Inhib.Med.Chem.2008年、23、562〜573;Alvarez,A.、Alarcon,R.、Opazo,C、Campos,E.O.、Munoz,F.J.、Calderon,F.H.、Dajas,F.、Gentry,M.K.、Doctor,B.P.、De Mello,F.G.、Inestrosa,N.C. Stable Complexes Involving Acetylcholinesterase and Amyloid−Beta Peptide Change the Biochemical Properties of the Enzyme and Increase the Neurotoxicity of Alzheimer’s Fibrils. J.Neurosci.1998年、18、3213〜3223;及びIwanaga,Y.、Kimura,T.、Miyashita,N.、Morikawa,K.、Nagata,O.、Itoh,Z.、Kondo,Y. Characterization of Acetylcholinesterase Inhibition by Itopride. Jpn.J.Pharmacol. 1994年、66、317〜322.によって説明されるように、エセリン72〜109nM、マラチオン370μM、エドロホニウム5.4μM、及びネオスチグミン11.3nM)、実験条件が同一ではないので(例えば、他のアッセイにおける代用基体及び異なるAchEの使用)、これらの数字の直接比較は、適切でない可能性がある。この実験については、120個のサンプル全部(3通りで、40個の別のサンプル)が、セグメント化流れESI−MSによって3分で分析され、酵素の阻害を迅速に定量化する可能性を示した。
【0107】
空気によってセグメント化された個別のナノリットル・プラグのアレイとしてサンプルを用意し、ESI−MSを用いてこのサンプルを順次分析することによって、AchE阻害剤が、スループット1.5秒/サンプルでスクリーニングすることができることを実証した。ここで実現されるスループットは、それが個別のサンプルのフロー・インジェクションを必要としないので、他のスクリーニング方法を超える大きな改善を示した。さらにより高いスループットが、より小さいサンプル・プラグ及びより高い流量を分析することによって可能であり得る。フロー・インジェクションの手法に比べたセグメント化流れ分析の別の利点は、少ないサンプル容量の要求である。インジェクション・ループを満たす又はリンスする必要がないので、わずか10nLのサンプルが、このアッセイにおいて消費された。もちろん、使用される全サンプルは、10nL サンプルを集めるのに必要な容量に依存する。原理的には、本明細書で使用されるものよりもサンプルをもっと少ない容量のウェルから吸引することも可能なはずである。
【0108】
発明者らの実験は、MSによるアッセイ混合物の迅速な分析の可能性を示すが、完全なHTSシステムは、ハイ・スループットについてスクリーンする全ての態様の検討を必要とする。例えば、本実験では、スループット全体が、アッセイのためにサンプルをチューブの中に装填することによって制限された。チューブの平行な装填、及び装填中のより高い流量は、この方法の本態様のスループットを改善するために使用できる手法である。この応用のために、チューブの連続装填を実行し、本明細書に記載したようなESI−MSに伝達することも可能であり得る。試薬のコスト及び時間を節約するために、プラグ中のアッセイ全体を実行することもやはり可能であり得る。Song,H.、Chen,D.L.、Ismagilov,R.F. Reactions in Droplets in Microflulidic Channels. Angew.Chem.−Int.Edit. 2006年、45、7336〜7356;Link,D.R.、Anna,S.L.、Weitz,D.A.、Stone,H.A. Geometrically Mediated Breakup of Drops in Microfluidic Devices. Phys.Rev.Lett. 2004年、92、054503;及びChabert,M.、Dorfman,K.D.、de Cremoux,P.、Roeraade,J.、Viovy,J.L. Automated Microdroplet Platform for Sample Manipulation and Polymerase Chain Reaction. Anal. Chem. 2006年、78、7722〜7728によって説明されるように、プラグを操作するためのいくつかのツールが知られており、ストリームとの混合、試薬の添加、及びスプリッティングが含まれる。したがって、化学ライブラリが一連のプラグとして保管され、この一連のプラグは、次いでMSによって試験及びアッセイされ、マルチ・ウェル・プレートからチュービングへの伝達をバイパスするシステムを想定することが可能である。
【0109】
スループット全体において別に考慮すべきことは、サンプルの用意である。アセチルコリン・アッセイはESIに適合したが、いくつかのアッセイは、分析前に脱塩又は抽出を必要とし得る。マルチ・ウェル・プレート又はセグメント化流れに適合するそのような方法の開発が、この手法の応用を推し進めるために必要である。
【0110】
本システム及び方法は、エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルの様々な適当な配置、及びスプレー電圧の様々な適当な印加を用いることができる。エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルの好ましい実施例は、ノズルの端部に存在するサンプル・プラグが、エレクトロスプレー回路及び電源と電気接触するものである。電源は、ノズル電極と対電極との間に電位(電圧)を発生させ、電気回路を作り出す。
【0111】
エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルは、導電性材料又は非伝導性材料から作製され得る。特に好ましい一つの方法は、白金などの導電性材料の表面コーティングを有する溶融シリカ・チュービングから製造されるエミッタを使用することである。したがって、サンプル・プラグが、エミッタの端部に接触するとき、サンプル・プラグは、エレクトロスプレー電源と直接電気接触することになる。1μL/分より大きい液体流量の使用時は、エレクトロスプレーの当業者に知られた、シース・ガス補助エレクトロスプレーが好ましい。また、対電極に高電圧がかけられ、エミッタ・ノズルが接地電位のままである構成が適当である。
【0112】
電気接触は、接合形式の構成でなすこともできる。この構成では、電圧接点が、ノズル孔の上流に配置された電極を通じてサンプル・プラグに直接形成され、非導電性先端又はノズルの使用を可能にする。この場合、エミッタ・ノズルの端部までの電極の下流の容量が、サンプル・プラグの容量未満であることが好ましく、下流の容量が、サンプル・プラグの容量の50%以下であることが特に好ましい。サンプル・プラグが、フッ化油などの電気絶縁用液体スペーサ媒体によって分離されるこの構成は、特に有利である。前述のように、いくつかの実施例では、油プラグが、ノズルからスプレーするのを防ぐことが好ましい。スペーサ・プラグ、サンプル・プラグ、及び電極後の容量の相対容量は、スペーサ媒体のスプレーを最小にしつつ、サンプル・プラグのスプレーを促進するように制御することができる。この一般的な条件は、サンプル・プラグの容量>電極後ノズルまでの容量>スペーサ・プラグの容量であることが満たされる。これは、サンプル・プラグの容量が電極後の容量の最小限2倍であり、スペーサ・プラグの容量が電極後の容量の半分であれば特に好ましい。
【0113】
適当なエレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルは、鋼鉄、ステンレス鋼、電鋳ニッケル、白金、及び金などの金属;溶融シリカ、ガラスなどの絶縁体;金属コーティングした溶融シリカ又はガラス;ポリプロピレン及びポリエチレン、ポリアナリンなどの導電性ポリマー、並びにカーボン入りポリエチレンなどのポリマーから製造されるものを含む。適当なノズルは、内径(ID)、外径(OD)、及びテーパ形状が幅広く変わってもよい。OD、及びほぼ対応するIDは、1〜10mmから1〜10μmの範囲、及びその中間の範囲であってよい。ノズルのODは、0.5mm未満であることが好ましく、100μm未満であることがより好ましく、0.1〜30μmであることが特に好ましい。
【0114】
本システム及び方法は、一次元のセグメント化されたサンプル・アレイを収容するために様々な材料をさらに用いることができる。セグメントのリニア・アレイは、様々なタイプの容器、チューブ、又はコンテナの間で形成、保管及び/又は伝達することができる。例えば、様々な内径のチュービングが、使用されてもよく、様々な基板中に微細加工されたチャネルが、種々の寸法及び流量で使用されてもよい。ラブ・オン・チップ装置と一般に呼ばれる様々なマイクロ流体デバイスが、1つ又は複数の一次元のセグメント化されたサンプル・アレイを形成、保管及び操作するために使用されてもよい。
【0115】
一次元のセグメント化されたサンプル・アレイのためのコンテナの態様は、述べたように、チューブの観点から述べられているが、様々な他の容器、チャネル、又はコンテナが、使用されてもよい。チューブの表面テクスチャ及び化学組成の観点からの材料の最適な選択は、材料が、チューブ内のキャリアセグメント及びサンプルセグメントに干渉しないようにする。キャリアセグメント及びサンプルセグメントの組成(化学組成、pH)の正確な性質に応じて、ある組み合わせについての所与の材料は、他の組み合わせについては適当ではない可能性がある。適当な組み合わせは、実験的実践、及びチューブ又はチャネルを通じてのセグメントの流れの直接観察によって見出すことができる。チューブ材料は、サンプル・プラグを分離するキャリア(すなわちセグメント化)相によって濡らされ、及びサンプル移動相に対して表面非親和性(surface−phobic)であることが好ましいが、必須ではない。チューブ材料の界面化学が、液体キャリア相の場合はキャリア相と同様の表面エネルギー、及びサンプル相とは異なる表面エネルギーを有することが好ましい。
【0116】
一次元のセグメント化されたサンプル・アレイ用のコンテナの適当な材料には、金属、合成ポリマー、ガラス、又はセラミックスが含まれる。好ましい金属には、ステンレス鋼、白金、金、ニッケル、及び電鋳ニッケルなどのニッケル合金が含まれる。好ましいポリマーには、エンジニアリング熱可塑性及び熱硬化性ポリマーのクラス:ポリエチレン、ポリプロピレン、PEEK(商標)(ポリエーテル・エーテル・ケトン)、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、Ultem(商標)(ポリエーテルイミド)、ポリイミド、Halar(商標)(エチレンクロロトリフルオロエチレン)、Radel(商標)Aポリエーテルサルホン)、Radel(商標)R(ポリフェニルサルホン)、Tefzel(商標)(4フッ化エチレン−エチレン)、及びTeflon(商標)(ポリテトラフルオロエチレン)が含まれる。特に好ましい材料には、ポリジメチルシロキサンなどのRTVシリコーン、Tygon(商標)、Teflon(商標)ETFE、Teflon(商標)FER、Teflon(商標)PFA、及びKel−F(商標)などのフルオロポリマーの1又は複数部を含む可撓性弾性ポリマーが含まれる。好ましいガラスには、ホウケイ酸ガラス、合成溶融シリカ、及びポリイミド・コーティングした溶融シリカ・チュービングが含まれる。好ましいセラミックスには、アルミナ、ジルコニア強化アルミナ、及びMacor(商標)(フッ素金雲母及びホウケイ酸ガラス)が含まれる。
【0117】
チューブは、表面コーティングの塗布を通じて適当な界面化学を有するように変えることもできる。例えば、溶融シリカ・チュービングは、チュービングの表面を疎水性とさせる反応性ペルフルオロ・シラン試薬(FluoroSyl(商標)、Cytonix Corporation)を用いて変えることができる。
【0118】
サンプル・プラグの効率的な輸送を可能にするためには、大部分の材料について、チューブ・チャネルの内側が滑面であることが好ましい。しかし、より新しい分類の生物模倣型の超親水性表面が、サブ・マイクロメートル・スケールで、ナノ複合材処理表面テクスチャによって作製されている。そのようなナノ加工材料は、ガラス基板又はシリカ基板用の適当なコーティングを作製する。一つの実例は、いわゆるナノピン・フィルム(J.Am.Chem.Soc、2005年、127(39) 13458〜13459)であり、塩化コバルト六水和物との反応によるホウケイ酸ガラスの表面上の水酸化コバルト(II)の形成によって生じる。
【0119】
適当なチューブの製造方法には、ドリル加工、機械加工、射出成形、流し込み成形、粉末射出成形、ダイ・フォーミング、絞り成形、及び押出成形といった一般の材料製造法が含まれる。
【0120】
実施例の前述の説明は、例示及び説明のために提供された。実施例の前述の説明は、網羅的とするものではなく、又は本発明を限定するものではない。特定の実施例の個別の要素又は特徴は、その特定の実施例を一般に限定するものではないが、当てはまる場合、交換可能であり、具体的に示されていない又は記載されていない場合でも選択した実施例に使用することができる。この要素又は特徴は、多くのやり方で変更することもできる。そのような変更は、本発明からの逸脱とみなされるべきではなく、そのような全ての修正形態は、本発明の範囲内に包含されるものである。
【0121】
以下のものは、本技術を説明するために使用する用語法の非限定の議論である。
【0122】
見出し(「導入(Introduction)」及び「概要(Summary)」など)、並びに本明細書で使用される小見出しは、本開示内の話題を一般的に系統立てるよう意図されるものに過ぎず、本技術の本開示又はその任意の態様を限定するものではない。詳細には、「導入」に開示した主題は、新規な技術を含んでもよく、従来技術の引例を構成することができない。「概要」に開示した主題は、本技術又はその任意の実施例の範囲全体の網羅的又は完全な開示ではない。特定の実用性を有するような本明細書のある章内の材料に関する分類又は議論は、便宜のためになされるものであり、この材料が任意の所与の組成物内で使用されているときに、その材料が、本明細書中の材料の分類に従って必ず又はただ単に機能しなければならないという推論が引き出されるべきではない。
【0123】
本明細書中の参照文献の引用は、それらの参照文献が従来技術であるとする自白を構成せず、又は本明細書に開示した技術の特許性に関連性がある。本明細書の「詳細な説明」の章に引用された全ての参照文献は、参照により全体で本明細書に組み込まれる。
【0124】
説明及び特定の実例は、本技術の実施例を示すものであるが、例示のためのものに過ぎず、本技術の範囲を限定するものではない。また、所定の特徴を有する複数の実施例の引用は、追加の特徴を有する他の実施例、又は所定の特徴の種々の組み合わせを組み込む他の実施例を除外するものではない。特定の実例は、特段の定めのない限り、この技術の構成及び方法の作製の仕方及び使用の仕方を例示するために与えられ、本技術の所与の実施例が、作製若しくは試験された、又は作製若しくは試験されなかったということを表すものではない。
【0125】
本明細書で使用される場合、単語「望む、所望する(desire)」又は「望ましい(desirable)」は、ある特定の状況下である特定の利益をもたらす本技術の実施例に言及する。しかし、他の実施例も、同じ又は他の状況下で望ましいものであり得る。さらに、所望の実施例の1つ又は複数の引用は、他の実施例が役に立たないと暗示しておらず、本技術の範囲から他の実施例を除外するものではない。
【0126】
本明細書で使用される場合、単語「含む、備える、含む(include)」及びその異体は、非限定とするものであり、それによりリスト中の項目の引用が、本技術の材料、組成、装置、及び方法にやはり役立つものであり得る他の同じ項目を除外しない。同様に、用語「できる、してもよい、し得る、可能性がある(「can」及び「may」)」並びにそれらの異体は、非限定とするものであり、それにより一つの実施例がある要素又は特徴を含むことができる(can又はmay)という引用は、それらの要素又は特徴を含まない本技術の他の実施例を除外しない。
【0127】
オープン・エンドの用語「備える、含む(comprising)」は、含む、備える(including)、含む(containing)、又は有する(having)などの非限定の用語の同義語として、本技術の実施例を説明する及びクレームするために本明細書で使用されるが、代わりに、実施例は、「からなる(consisting of)」又は「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」などのより限定的な用語を用いて説明されてもよい。したがって、材料、構成要素又はプロセスのステップを列挙する任意の所与の実施例について、本技術は、(からなる(consisting of)のために)追加の材料、構成要素又はプロセスを除外する、及び(本質的に〜からなる(consisting essentially of)のために)実施例の重要な特性に影響を及ぼす追加の材料、構成要素又はプロセスを除外するそのような材料、構成要素又はプロセスからなる又は本質的にそのような材料、構成要素又はプロセスからなる実施例も、そのような追加の材料、構成要素又はプロセスが、たとえ本出願に明示的に列挙されていなくても特に含む。例えば、要素A、B及びCを列挙する組成又はプロセスの列挙は、要素Dが、本明細書中で除外されるものとしてたとえ明示的に記載されていななくても、当業界で列挙される可能性のある要素Dを除外したA、B及びCからなる、及び本質的にA、B及びCからなる実施例を特に想定する。
【0128】
本明細書中で言及されるように、全ての組成の割合は、特段の定めのない限り、組成全体の重量による。特段の定めのない限り、範囲の開示は、端点を含み、全ての特異な値、及び範囲全体内のさらに分割された範囲を含む。したがって、例えば、「AからB」又は「約Aから約B」の範囲は、A及びBを含む。特定のパラメータ(温度、分子量、重量パーセント等など)についての値及び値の範囲の開示は、本明細書において役立つ他の値及び値の範囲を除外しない。所与のパラメータについての2つ以上の特定の例示した値が、パラメータのためにクレームされ得る値の範囲の端点を定め得ることが考えられる。例えば、パラメータXが、値Aを有するように本明細書中に例示されると共に値Zを有するようにも例示される場合、パラメータXは、約Aから約Zまで値の範囲を有してもよいことが考えられる。同様に、パラメータについての2つ以上の値の範囲の開示は(そのような範囲が、入れ子になっていようが、部分的に重なっていようが、又は別個であろうが)、開示した範囲の端点を用いてクレームされる可能性のあるこの値の範囲の全ての可能な組み合わせを包含することが考えられる。例えば、パラメータXが、1〜10、又は2〜9、又は3〜8の範囲内の値を有するように本明細書中で例示される場合、パラメータXは、1〜9、1〜8、1〜3、1〜2、2〜10、2〜8、2〜3、3〜10、及び3〜9を含む他の値の範囲を有してもよいとも考えられる。
【0129】
要素又は層が、別の要素又は層「の上(on)にある」、「に係合される」、「に接続される」又は「に結合される」と呼ばれるとき、この要素又は層は、他の要素又は層の直接上にあってもよく、他の要素又は層に直接係合されてもよく、他の要素又は層に直接接続されてもよく、又は他の要素又は層に直接結合されてもよく、或いは介在要素又は介在層が、存在してもよい。本明細書で使用される場合、用語「及び/又は」は、関連して挙げた項目のうちの1つ又は複数の任意及び全部の組み合わせを含む。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
離散サンプルをエレクトロスプレー・イオン化するシステムであって、前記システムは、
エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルと、
前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに直接結合された一次元のセグメント化されたサンプル・アレイであって、前記アレイが、第1の媒体を含有する複数のサンプル・プラグを含み、前記サンプル・プラグが、第2の媒体を含有するスペーサ・プラグによって分離された、サンプル・アレイと、
前記アレイを前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルへ送るように動作可能な送り出し手段と、
前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズル内の又は前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに近接したサンプル・プラグに電気的に結合されると共にスプレー・レシーバに電気的に結合された電源と
を備えるシステム。
【請求項2】
各サンプル・プラグが、約1nL〜約50nLの容量を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイが、チューブ内、又は微細加工された流体デバイスのチャネル内にある、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記チューブの内径が、約75マイクロメートル〜約150マイクロメートルである、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第1の媒体及び第2の媒体が不混和性であり、又は前記第1の媒体が液体を含み且つ前記第2の媒体が気体を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイが、第3の媒体を含有する気体プラグをさらに含み、前記第1の媒体及び前記第2の媒体が不混和性液体を含み、前記第3の媒体が気体を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイが、サンプル・プラグ、続いてスペーサ・プラグ、続いて気体プラグの繰り返し単位を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイが、前記サンプル・プラグとスペーサ・プラグを分離する気体プラグを含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項9】
前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイが、洗浄プラグをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
サンプル・プラグが、前記洗浄プラグと前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルとの間に位置する、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記スプレー・レシーバが、質量分析計を更に備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルで形成された液滴を除去する手段をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項13】
前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルで形成された液滴を除去する前記手段が、前記ノズルから前記液滴を吸い上げるように動作可能である同軸又は平行な管腔、又は前記ノズルから離れるように前記液滴を取り除くように動作可能であるキャピラリの吸上構造を備える、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記第1の媒体が水性媒体を含有し、前記第2の媒体が、約3.5mPa・秒より大きい粘度を有する疎水性媒体を含有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項15】
前記第1の媒体が水性媒体を含有し、前記第2の媒体が疎水性媒体を含有し、エレクトロスプレー電圧が、前記第1の媒体をエレクトロスプレーし、前記第2の媒体をエレクトロスプレーしないように設定される、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記サンプル・プラグが、液体クロマトグラフィ・フラクション、化学ライブラリ、又は一連の反応混合物を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項17】
前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイと前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルの間に配置される透析膜をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイと前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルとの間に配置されるクロマトグラフィ・カラムをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項19】
前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイに結合された流体接合をさらに備え、前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイの一部が、前記流体接合と前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルとの間に配置される、請求項1に記載のシステム。
【請求項20】
前記送り出し手段が、シリンジ・ポンプ、レシプロ・ピストン・ポンプ、ペリスタルティック・ポンプ、気圧ポンプ、電気浸透、又は重力によって提供される、請求項1に記載のシステム。
【請求項21】
ポンプを用いて前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイを前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルへ送るステップと、サンプル・プラグをエレクトロスプレーするステップとを含む、請求項1に記載のシステムを動作させる方法。
【請求項22】
前記送るステップが、約20nL/分〜約20μL/分のレートで実行される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイをオフラインで形成するステップと、続いて前記アレイを前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに直接結合するステップとを含む、請求項1に記載のシステムを動作させる方法。
【請求項24】
前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイをオフラインで形成するステップと、前記アレイを前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに直接結合するステップとの間で少なくとも1時間が経過する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第2の媒体で前記チューブ又はチャネルを事前に満たすステップと、続いて前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイで前記チューブ又はチャネルを満たすステップとを含む、請求項3に記載のシステムを動作させる方法。
【請求項26】
前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイを形成するために第1のレートで前記液体クロマトグラフィ・フラクションの少なくとも一部を集めるステップと、第2のレートで前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイを前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタ・ノズルに送るステップとを含み、前記第1のレート及び前記第2のレートが異なる、請求項16に記載のシステムを動作させる方法。
【請求項27】
前記第1の媒体が水性媒体を含有し、前記第2の媒体が疎水性媒体を含有し、前記方法が、前記第1の媒体をエレクトロスプレーし、前記第2の媒体をエレクトロスプレーしないようにエレクトロスプレー電圧を調整するステップを含む、請求項1に記載のシステムを動作させる方法。
【請求項28】
第4の媒体が、前記流体接合を介してサンプル・プラグに加えられる、請求項19に記載のシステムを動作させる方法。
【請求項29】
前記第4の媒体が酵素を含有する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
液体又は気体が、前記流体接合を介して前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイに導入される、請求項19に記載のシステムを動作させる方法。
【請求項31】
前記質量分析計を用いてエレクトロスプレーされる液滴を分析するステップを含み、ポンプを用いて、前記一次元のセグメント化されたサンプル・アレイを、前記エレクトロスプレー・イオン化エミッタを通じて送ることによって、前記エレクトロスプレーされる液滴を形成する、請求項11に記載のシステムを動作させる方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公表番号】特表2012−530903(P2012−530903A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516349(P2012−516349)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【国際出願番号】PCT/US2010/039233
【国際公開番号】WO2010/148339
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(507238218)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (4)
【出願人】(511308495)
【出願人】(511308509)ニュー オブジェクティブ、インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】