説明

液滴サイズの制御装置ならびに制御方法

【課題】液滴を用いる化学反応、液滴中に保持した細胞の培養など、容器を用いない微量反応系を実現するための新しい技術を提供する。
【解決手段】液滴を生成するための手段、前記生成された液滴を撥水性面に保持する親水性領域のパターンを配した基板、基板に接する温調装置、基板上に形成した液滴の大きさを測定する測定手段、測定した液滴の大きさをもとに、温調装置の温度を制御する制御装置からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を用いる化学反応、液滴中に保持した細胞の培養など、容器を用いない微量反応系を実現するための新しい技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の生化学反応をはじめとする化学反応は、ある大きさを持つ容器の中で行うのが一般的である。たとえば、RNAライゲーション反応では、蓋のできるマイクロチューブに3’末端リン酸基を持つRNA断片、このRNAに導入したい配列の合成オリゴDNA、RNAリガーゼなどの混合液を入れ、15℃で一昼夜放置して反応を進行させる。
【0003】
また、細胞を観察するには、一般的には、スライドガラス上に細胞を含む溶液をのせ、その上をカバーガラスで覆い、顕微鏡で観察する。あるいは、細胞培養シャーレやマイクロプレート上に所定量の培地を入れ、その中で細胞を培養し、容器の底面を通して細胞を観察するのが一般的である。細胞に対して薬効を見る場合などは、同様にマイクロプレートなどの容器に細胞を入れ、培養し、そこに、影響を見たい薬剤を添加して細胞の状態変化を観察する。
【0004】
細胞を取り扱う技術には、空気中に液滴を形成しその中に確率的に細胞が一個入るような系を作成し、細胞を一細胞ずつ計測したり分離したりする技術がある。これはセルソーターと呼ばれる装置で行われる。セルソーターは蛍光染色処理後の細胞を電荷を持たせた液滴中に1細胞単位で単離して滴下し、この液滴中の細胞の蛍光の有無、光散乱量の大小を基に、液滴が落下する過程で、落下方向に対して法平面方向に高電界を任意の方向に印加することで、液滴の落下方向を制御して、下部に置かれた複数の容器に分画して回収する技術である。この技術について詳しくは非特許文献1に報告されている。
【0005】
【非特許文献1】Kamarck,M.E., Methods Enzymol. 第151 巻第150頁から165頁(1987年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、生化学反応などに用いる反応体積は目的に応じて設定されるが、近年は微量反応が要求されるようになっている。特に計測を目的とした反応では、計測装置の微量化が進んでいるが、それに見合うだけの前処理反応の微量化はなされていないのが現状である。たとえば、キャピラリーDNAシーケンサーでは内径が50μm程度のキャピラリーを用いて試料DNAが電気泳動により分離される。この場合、計測に必要とされる試料体積は数十nlであるが、試料DNAを準備する処理では、実際には、少ない場合でも5μl程度の試料DNAが得られる反応を行っている。ナノLCでも同様である。すなわち、試料を準備する反応は数十μlの容量で行わせ、得られる試料のごく一部を計測に利用しているに過ぎない。
【0007】
従来は、使用されなかった試料の残りはストックしておき、何か問題があるときは、ストックしている試料をもう一度分析装置にかけることが行われていた。しかし、最近、解析装置の信頼性が向上し、残存試料をストックしておく必要性が低くなくなってきていることを考えると、無駄の多い処理といえる。
【0008】
一方、種々の化学合成やスクリーニングに関しても反応液の微量化が進んでいるが、液体ハンドリングは微量になると精度を維持しながら処理を進めることが困難になる。そのため、ビーズを使った固相と液相の界面で反応をおこない、色々な反応の組み合わせを同時に行う技術が開発されている。
【0009】
しかし、必ずしも固相を利用した反応が万能的に使われるとは限らず、液相での反応が必要な場合も多い。それは、固相表面では、反応物の片方が固体表面に固定されているため、反応速度が遅くなり、あるいは、立体障害で反応基質そのものが固相表面の反応基に攻撃できない、ゼータ電位の問題で、不特定なものが固相表面に吸着する、静電反発力で固相表面に近寄れないなど色々な問題があるからである。
【0010】
他方、液体での微量反応を実現するためには以下の問題をクリアーしなければならない。1)液の取り扱いが難しくなる、
2)容器を用いるため、体積に対する容器表面積が大きくなり、溶質の吸着が無視できない、
3)プラスチック容器の使用が一般的であるが、容器からの可塑剤や剥離剤が混入する、4)容器内の空隙が大きくなり液の乾燥が無視できない。
【0011】
これは細胞を取り扱うときも同じである。従来は、少なくても数十μlの容量の培養液中で多数の細胞を培養したりハンドリングしたりするのが一般的である。工業生産にかかわる培養では数十リットル以上のものも実用化されている。しかし、極微量の細胞、極限としては1細胞を限られたスペースで培養したり観察したりする技術の重要性が指摘され、そのための冶具も開発されているが、目的に応じては、まだ開発途上ということができる。
【0012】
微量培養に関しては、安田らの特開2002−153260「細胞長期培養顕微観察装置」や特開2004−81086「細胞培養マイクロチャンバー」などがある。反応液を微小な液滴として基板上で取り扱う技術に関しても特開2004−85322「液滴操作装置」がある。
【0013】
基板上で液と基板との接触面積を極力小さくして液滴として取り扱うのは、基板表面への吸着が抑えられるので理想的であるが、気相中に液滴が露出する。このため、溶質濃度を一定にする必要のある化学反応では、液滴の体積変化に伴う速度変化や反応阻害を防ぐことが実用化の上で極めて重要である。
【0014】
上記従来技術のうち、容器を使い微量反応を行う従来の試験管がマイクロプレートになり、更に容器の体積を小さくするといった方向では、前記したように、容器表面の問題が微量になればなるほど大きな問題となるケースが多く、解決することが難しい。そこで、本発明では、基板上における液滴で種々反応を行える信頼のできるシステムと方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、基板上の液滴体積すなわちサイズを一定に保つことで、再現のよい反応を実現する。また、必要に応じて、基板上で液滴のサイズを実質的に非接触で自在に変化させ、液的中の器質や反応性生物の濃度をコントロールし、一連の化学反応あるいは細胞培養が滞りなく進行するようにする。
【発明の効果】
【0016】
細胞や微生物、さらには化学物質等を含有する微量の液体を液滴として操作し、運搬、混合、観察、測定することが可能となる。とくに、液滴のサイズを一定に保つことが可能になることにより、液滴中の反応や細胞培養に携わる基質濃度をコントロールすることができるようになるため、再現のよい反応が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施例1)
上記のように蒸発の影響があるような長時間の反応等の操作を行う場合における液滴サイズのコントロール方法について詳しく述べる。
【0018】
本発明の基本的なアイデアは、液滴サイズの変動が、液滴と気相の界面の微小領域における液滴からの溶媒の蒸発と、気相から液滴への凝集の差に基づくことに着目し、蒸発と凝集がバランスするようにコントロールすることにある。一般的に、溶媒である水の蒸気圧をあげれば液滴は成長し、蒸気圧を下げれば液滴が小さくなる。このため飽和蒸気圧曲線に従い、加湿したり、温度をコントロールしたりすることで液滴サイズを維持コントロールすることが可能である。
【0019】
図1(a)は、実施例1に好適な細胞培養チップ100の平面図、(b)は平面図のA−A位置で矢印方向に見たときの断面図である。1はシリコン基板であり、例えば、その厚さは1mm、大きさは20mm×20mmである。シリコン基板1の上面の領域は疎水性領域3とされ、そのなかに、親水性領域4が周期的に配列される。親水性領域4の大きさは、この領域の一つに収容する細胞の大きさ、あるいは、数によって決定されるが、400μm×400μm程度である。親水性領域4の間隔は、細胞を含む液滴が、お互いに、接触して混ざらないだけの間隔とするが、取り扱いの便を考えると、2000μm程度が良い。もちろん、液滴の径が100μm以下なら親水性領域4の間隔は500μm程度でよく、液滴の大きさと親水性領域のサイズや間隔は目的に応じて決められるべきものである。図1では親水性領域を等間隔で作成する例について示しているが、後に述べるように複数の液滴を基板上で混ぜ合わせて反応を行う場合などは、色々な間隔で親水性領域を作成するケースが有効である。基本的には、液滴同士の最も間隔が狭いケースで、液滴の大きさの倍以上の間隔で基板表面の親水性領域の位置を作れば良い。5は位置決め用のマーカーであり、シリコン基板1の一面に形成される。
【0020】
親水性領域と疎水性領域の作成方法は、例えば、疎水性のシリコン基板1の上面を酸化して、一旦、全領域を親水性のSiO薄膜とする。その後、疎水性とすべき領域のSiO薄膜をフッ酸で溶解除去して疎水性領域を作成すれば良い。あるいは、基板1の材質が表面があらかじめSiO2薄膜形成してある親水性表面の場合、フッ素系樹脂,シリコン系樹脂等の疎水性材料を、その上に配置することで、疎水性領域を形成すれば良い。この場合は、疎水性領域中に存在する親水性領域が、疎水性材料の厚さだけ低くなったものとなる。
【0021】
あるいは、基板1には、超撥水性を有するフッ素化カーボン(フッ化ピッチ)の粉末を金属メッキするときに混ぜ込み、表面に色々な形状のフッ化ピッチを形成することで接触角145〜170°の超撥水性表面を作成する技術など表面をフラクタルな構造とすることで達成できる。この場合、親水性表面に必要な部分だけ撥水性処理してもよい。水滴を形成する部分には一般的に超親水処理といわれる技術を用いることもできる。超親水性処理としては、TiO多層膜表面にSiO成分の薄い(10−20nm)被覆層を形成することにより、達成される。ただし、酸化チタン膜(TiO)を用いるために、基板1に使用前に紫外線を照射し、TiO表面に水酸基を導入する必要がある。これにより表面はTiOHとなり超親水性となる。この方法で、接触角10°以下の超親水性領域を数週間保持できる。
【0022】
図2は本発明による実施例1の液滴サイズのコントロール装置の概要を示す断面図である。図2の基板1は、上述の疎水性のシリコン基板1の上面を酸化して、一旦、全領域を親水性のSiO薄膜とし、その後、疎水性とすべき領域のSiO薄膜をフッ酸で溶解除去して疎水性領域を作成する方法によったものであり、基板1の親水性領域4が基板1の表面より高い形になっている。親水性領域4の周辺部は、全て、疎水性領域3である。親水性領域4には液滴14が載置されている。15は温調器であり、基板1の温度をコントロールするため、基板1の下面に設けられている。18は温度センサーであり、基板1の温度のモニターのために、基板1と温調器15の接合面に設けられる。19,20は加湿用の水槽であり、基板1の両側に設けられる。21はステージであり、この上に、温調器15と水槽19,20が配置される。さらに、ステージ21の上には透明な容器を逆にした形の上蓋22が設けられる。
【0023】
上蓋22で、ステージ21の上の温調器15、基板1、水槽19,20および基板1の上の液滴14が覆われる。上蓋22とステージ21で囲われた空間は、密封されているわけではないが、閉ざされた空間となる。このために、内部は飽和水蒸気で満たされている。23は駆動装置であり、パソコン41から信号を受けステージ21をXYの任意の方向に移動させることができる。
【0024】
上記温調器15は、例えば、ペルチェ素子が使用できる。ペルチェ素子は、加熱および冷却のいずれに対しても、素子に流す電流の向きで制御できるとともに、加熱および冷却速度を電流の大きさでコントロールすることができる。
【0025】
31はカメラ、例えば、CCDカメラであり、レンズ32,33を介して液滴14を撮影する。この際、光源34を用意し、レンズ32,33の間に設けられたハーフミラー35を介して入れ、矢印36の方向から照明する。なお、液滴14の照明は、ハーフミラー35を使用しないで、上蓋22の上方から、直接光りを当てるものとしても良い。
【0026】
41は、いわゆる、パソコンであり、必要なプログラムを格納しているとともに、温度センサー18から基板1の温度信号を、カメラ31から液滴14のサイズの情報を与えられる。さらに、パソコン41は、使用者による操作信号42が入力される。パソコン41は、これらの情報から、液滴14のサイズが不適当と判断したとき、あるいは、使用者がパソコン41の表示装置(図示しない)を見て、液滴14のサイズ修正の操作信号42を与えたとき、温調器15を構成するペルチェ素子に適当な電流を流す。また、使用者は、カメラ31が見ている液滴14を変更するときは、パソコン41に操作信号42を与え、パソコン41は、駆動装置23に駆動信号を送り、ステージ21を移動させる。
【0027】
図2に示す実施例1の液滴サイズのコントロール装置の操作の概要を示すと以下のようである。
【0028】
パソコン41はカメラ31からの画像データを解析し、基板1上の液滴4の大きさを逐次計算する。液滴が大きくなる方向の場合には、パソコン41は温調器15の温度を上昇させるように指示を出す。液滴の大きさが小さくなる方向の場合は、温調器15の温度を下げるように指示を出す。
【0029】
基板1の温度のモニターは温度センサー18で行い、データはパソコン41に与えられて、カメラ31からの液滴14のサイズのデータとともに温度制御に用いる。親水性領域4が複数あり、液滴14も複数ある場合は、カメラ31の視野にすべての液滴が入らないケースもある。この場合は、代表的な液滴のみをモニターすれば良い。もちろん、より正確には、駆動装置23を用いて基板1の載っているステージ10を移動させ、すべての液滴の大きさを測定し、すべての液滴の平均直径と最小径、最大径を測定し、温度制御を行っても良い。このとき、最小、あるいは、最大の直径を有する液滴のサイズが制御範囲から逸脱してしまうことが予想される場合には、他の液滴の直径が少々制御範囲からずれることがあっても、最小、あるいは、最大の直径を有する液滴の直径を制御範囲内になるように温度を調整したほうが良いケースもある。
【0030】
液滴の温度変動は液滴中の化学反応速度に影響を与えるので、大きくてもプラスマイナス3℃程度にとどめるのが良い。この場合でも、一般的に、化学反応速度が数十パーセント変動する可能性があるが、たとえば、液滴中で細胞を飼う場合に液滴径が変化して塩濃度が数十パーセント変動するより、良い結果を得られる。温調器15としてペルチェ素子を用いることで、簡便に、加熱および冷却のいずれも任意の変化速度で制御できる。ただし、ペルチェ素子は透明でないので、透過光式の光学系を組むことができない。
【0031】
以下は実施例1の具体的なデータ例を示す。たとえば、容器22で囲われた空間の中を25℃一定の水蒸気に保つ。加湿用の水槽19,20には十分な水を張る。容器22で囲われた空間の容積を1辺100mm×100mm、高さ50mmとすると、体積は5×10−4となる。このときの飽和水蒸気圧は31.7hPa、飽和水蒸気量は23.1g/mとなる。よって、容器22で囲われた空間の中には11.6mgの水が水蒸気として存在する。一方、容器22で囲われた空間の温度が23℃の場合は、飽和水蒸気圧は28.1hPa、飽和水蒸気量は20.6g/mである。したがって、短時間で容器22で囲われた空間の温度が25℃から23℃に低下したときは、両者の飽和水蒸気量の差の1.25mg(何故なら(23.1−20.6)g/m×5×10−4=1.25mg)の水が蒸発することを意味する。この結果、液滴のサイズは小さくなることになる。
【0032】
実際、基板1の温度を25℃に設定し、1μlの液滴14を4個基板上にのせる。この状態で、容器22で囲われた空間の温度も25℃となっているものとする。そして、この温度25℃の飽和蒸気圧で安定していて、液滴14の大きさも安定している。次に、基板1の温度を23℃にする。液滴14は基板1に接触しているので速やかに温度変化がおきるが、容器22で囲われた空間の温度は、空気の熱伝導が低いので、ほとんど変化しない。その結果、基板1の温度変化に伴う液滴14の温度変化により、数分で液滴14の直径が1.24mmから1.31mm(温度が低くなると周囲の水分が液滴14に凝集するので大きくなる)に変化しほぼ一定を保つ。
【0033】
すなわち、基板1の温度をコントロールしたときは、短時間で、それと接している液滴14の温度も変化し、液滴14の大きさを自在に変えられる。一方、上述したように、容器22で囲われた空間の温度が急変したときにも、飽和水蒸気圧が変化することによって、液滴14の大きさが変化するが、容器22で囲われた空間の温度は、外的に大きな変化を与えない限り、急変することは無い。逆に言えば、外的な条件の変化により、容器22で囲われた空間の温度が徐々に変化することにより、液滴14のサイズに変化が現れたときには、基板1の温度をコントロールして液滴14の温度を、液滴14のサイズの変化の逆になるように変化させれば、液滴14のサイズの変化を抑制することができる。
【0034】
液滴の大きさを一定に保ちたい場合は、したがって、液滴14の直径の変化をカメラ31で検出し、液滴14の大きさが大きくなる方向であるときは基板の温度を1から2℃上昇させ液滴の水分を蒸発させて液滴を小さくする。これは、容器22で囲われた空間の温度が上昇して、飽和水蒸気圧が低下して、液滴の大きさが所定の大きさより大きくなったことを、温度の制御で打ち消すことを意味する。逆に、液滴の大きさが所定の大きさより小さくなる方向のときは、基板の温度を下げて、液滴を成長させる。すなわち、液滴の大きさを温度コントロールにフィードバックさせることで、基板1の温度を制御すれば、液滴14の直径をほぼ一定に維持することができる。
【0035】
一般に、顕微鏡用湿度コントロール装置としては、試料の置かれた雰囲気の温度をコントロールするが、雰囲気の温度コントロールでは追従性が悪い。これに対し、実施例1のような極微量の液滴を用い、液滴の温度を直接的に制御する系では、液滴サイズのコントロールをリアルタイムで制御することができる。
【0036】
(実施例2)
図3は、基板1上の複数の液滴に対して、個々の液滴のサイズをコントロールする実施例2を説明する概略図である。実施例2では基板1のそれぞれの親水性領域4に対して独立の温調器15が取り付けられ、それぞれの液滴14の位置に温度センサー18が設けられていること、さらに、パソコン41からそれぞれの温調器15に対して、個別に温度制御信号が送られる点を除けば、実施例1と同じ構成である。ただし、図3では、基板1の親水性領域4が基板1の表面より低い形になっている。親水性領域4の周辺部は、全て、疎水性領域3である。なお、各温調器15の間は、温度伝達特性の良くない適当なスペーサで埋められる。
【0037】
実施例2によれば、各液滴14の大きさを常にカメラ7でモニターしている。カメラ7の画像からパソコン41が計算した液滴径からフィードバックをかけ、各液滴14の温調器15を独立に制御する。個々の液滴14近傍の温度はセンサー18で独立にモニターする。この方法で各液滴径の変動を10%以内に抑えることができる。
(実施例3)
図4は、基板50上に2種の液滴を形成し、これを混合した後、所定の位置に搬送するなどの操作を容易に可能とする実施例3を説明する概略図である。
【0038】
図4において、基板50の一面は全体的に疎水性表面とされる一方で、基板50上に、2種の液滴を形成するための二つの親水性領域51,52、2種の液滴を混合するための親水性領域55、混合された液滴を移動後に保持するための親水性領域57が設けられ、さらに、これらの親水性領域間を結ぶ親水性ライン53,54および56が設けられている。基板50は20mm×20mmの超撥水性基板で、親水性領域51,52,55および57の大きさは、この領域で形成する液滴の大きさによって決定されるが、200μm×200μm程度である。親水性ライン53,54および56の幅は2μmである。基板50はステージ59上に設けられた温調器15の上に設けられる。ステージ59は、パソコン41の駆動信号により動作する駆動装置23によりXYの任意の方向に駆動される。ここで、温調器15は、実施例1,2と同様に、基板50の温度をコントロールするため、に設けられている。この場合にも基板50の温度のモニターのために、温度センサーが必要であり、基板50と温調器15の接合面に設けられるが、図が煩雑になるので、表示は省略した。また、パソコン41との信号の授受の表示も省略した。
【0039】
31はカメラ、例えば、CCDカメラであり、レンズ32,33を介して親水性領域51,52に形成される液滴14を撮影する。この際、光源34を用意し、レンズ32,33の間に設けられたハーフミラー35を介して入れ、矢印36の方向から照明する。なお、液滴14の照明は、ハーフミラー35を使用しないで、基板50の上方から、直接、光を当てるものとしても良い。41は、いわゆる、パソコンであり、必要なプログラムを格納しているとともに、カメラ31から液滴14のサイズの情報を与えられるとともに、使用者による操作信号42が入力される。ここで、図示は省略したが、パソコン41には表示装置が設けられ、カメラ31から入力された液滴14が表示される。
【0040】
46は液滴14を形成するためのピペットである。ピペット46には液滴を形成すべき液があらかじめ吸い上げられて保持されている。ピペット46の根元部には、チューブ45を介してシリンジポンプ44が設けられ、シリンジポンプ44には駆動装置43が取り付けられている。使用者が、液滴の作成の指示をパソコン41に与えると、駆動装置43が動作し、シリンジポンプ44が駆動装置44により駆動され、ピペット46内の液が押し出され、ピペット46の先端に液滴が形成される。使用者は、ピペット46の液滴を光学的にモニターしながら、液滴が所定の大きさになったら、液滴の形成を止める。
【0041】
ピペット46を基板50の表面に接触する状態で液滴14を形成した場合には、使用者は、ピペット46を上げる指示をパソコン41に与えると、ピペット46の上下動駆動装置47にピペット46を上げる指示が与えられ、ピペット46は上に動き、液滴から離れる。一点差線48は上下動駆動装置47とピペット46との連係を意味する。ピペット46を基板50の表面から離した状態で液滴14を形成した場合には、使用者は、一旦、ピペット46を下げて、基板50の表面の親水性領域に液滴を移した後、ピペット46を上に上げ、液滴から離す。
【0042】
次に、使用者は、他の液滴を形成するために、パソコン41にステージの移動指示を与える。この指示に応じて、パソコン41は駆動装置23に駆動信号を与え、ステージ59は駆動される。使用者は、ピペット46の先端をモニターしておき、ピペット46の先端が他の液滴を形成するべき親水性領域に到達したらステージ59を止める。新しい位置で、上述したように、ピペット46の先端に液滴を形成し、基板50の表面の親水性領域に液滴を形成する。この場合、ピペット46は、新しい液滴に対応した液が吸い上げられたものに交換されているのは、当然である。
【0043】
次に、使用者は、親水性領域51,52に形成された液滴を、親水性領域55に移動させて混合するが、この際、それぞれの親水性領域51と55、親水性領域52と55を結ぶ親水性ライン53,54を利用して移動させる。すなわち、ピペット46の先端を液滴14に接触させて、液滴が親水性ライン上をすべるように、ステージ59を移動させる。その結果、液滴は親水性ライン上をスムーズに移動して、新しい親水性領域に移る。
【0044】
親水性領域51,52に形成された液滴が、親水性領域55に移動されたところで、所定の化学反応が起こることになるが、このためには、液滴の形成、移動に比べて長い時間を要する場合がある。このため、液滴の水分が蒸発してしまう可能性があるので、実施例1,2と同様に、液滴の大きさをモニターしながら、温調器15を制御して、液滴径が一定になるように基板50の温度をコントロールする。もちろん、この制御は、液滴の形成の際にも適用して良い。さらには、図示しないが、実施例1,2と同様に、加湿用の水槽19,20および透明な容器を逆にした形の上蓋22を設けて、化学反応が起こる間の液滴の環境の変化を抑止するのが良い。
【0045】
ここで、二つの液滴が、DNAとDNAにインターカレートする蛍光色素サイバーグリーンIである場合、例えば、それぞれの液滴を親水性領域55に移動させ、合体させ、2分間その位置に滞在させる。その間、液滴径をモニターし、液滴径が一定になるように基板50の温度をコントロールする。その後、親水性ライン56に沿って液滴を親水性領域55から親水性領域57に移動させる。親水性ライン56の途中、あるいは、親水性領域57の位置で、複合され、化学反応を終了した液滴に、レーザー光源61からハーフミラー62を介して照射される光を照射する。液滴が発する蛍光を検出器66で検出することで、液滴内の反応物由来の蛍光量を測定することができる。なお、63,64は光学系を構成するレンズである。なお、この場合も、ピペット46の先端を、複合され、化学反応を終了した液滴に接触させて、液滴が親水性ライン上をすべるように、移動させるのが良いが、液滴径をモニターするための光学系と液滴内の反応物由来の蛍光量を測定するための光学系とを同じ場所に設けることはできないので、ピペット46の上下動駆動装置47が、上下動のみならず、XY方向にもピペット46を移動できるような駆動装置とするのが良い。
【0046】
なお、図4では、2種の液滴を形成するための二つの親水性領域51,52を設けるものとしたが、これは、一つでも良い。すなわち、最初に形成した液滴を2種の液滴を混合するための親水性領域55に移した後、もう一つの液滴を最初の親水性領域に形成して、これを2種の液滴を混合するための親水性領域55に移して混合しても良いからである。
【0047】
合成するのが3種の液滴であれば、親水性領域51,52を3つの親水性領域としても良いし、一つの親水性領域に液滴を次々に作って、これを順次、次段の親水性領域に送って、合成するものとしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(a)は、実施例1に好適な細胞培養チップ100の平面図、(b)は平面図のA−A位置で矢印方向に見たときの断面図である。
【図2】本発明による実施例1の液滴サイズのコントロール装置の概要を示す断面図である。
【図3】基板1上の複数の液滴に対して、個々の液滴のサイズをコントロールする実施例2を説明する概略図である。
【図4】基板50上に2種の液滴を形成し、これを混合した後、所定の位置に搬送するなどの操作を容易に可能とする実施例3を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0049】
1…シリコン基板、3…疎水性領域、4…親水性領域、5…位置決め用のマーカー、14…液滴、15…温調器、18…温度センサー、19,20…加湿用の水槽、21…ステージ、22…上蓋、23…駆動装置、31…カメラ、32,33…レンズ、34…光源、35…ハーフミラー、41…パソコン、42…操作信号、43…駆動装置、44…シリンジポンプ、45…チューブ、46…ピペット、47…上下動駆動装置、48…一点差線、50…基板、51,52,55,57…親水性領域、53,54,56…親水性ライン、59…ステージ、61…レーザー光源、62…ハーフミラー、63,64…レンズ、66…検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を生成するための手段、前記生成された液滴を撥水性面に保持する親水性領域のパターンを配した基板、基板に接する温調装置、基板上に形成した液滴の大きさを測定する測定手段、測定した液滴の大きさをもとに、温調装置の温度を制御する制御装置からなる液滴サイズの制御装置。
【請求項2】
前記温調装置が、複数の液滴のそれぞれに独立したものであり、液滴のそれぞれを独立に温度制御できるものである請求項1の液滴サイズの制御装置。
【請求項3】
液滴を生成するための手段、前記生成された液滴を撥水性面に保持する親水性領域のパターンを配した基板、前記親水性パターン上で一つの親水性領域から他の親水性領域に液滴を移動させる手段、基板に接する温調装置、基板上に形成した液滴の大きさを測定する測定手段、測定した液滴の大きさをもとに、温調装置の温度を制御する制御装置からなる液滴サイズの制御装置。
【請求項4】
前記親水性領域のパターンが、少なくても親水性の線分を含み、前記基板の親水性の線分からなる請求項3の液滴サイズの制御装置。
【請求項5】
前記温調装置は、前記液滴が滞在しうる基板の親水性領域ごとにそれぞれを独立に温度制御できるものである請求項3の液滴サイズの制御装置。
【請求項6】
前記液滴を移動させる手段が、液滴に接触した液滴を生成するための手段である請求項3の液滴サイズの制御装置。
【請求項7】
基板の親水性領域に形成された液滴を所定の湿度に加湿された環境下に置き、前記液滴を保持している基板の温度をコントロールして、前記液滴の大きさ制御する液滴サイズの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−88034(P2006−88034A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276558(P2004−276558)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(504296024)有限責任中間法人 オンチップ・セロミクス・コンソーシアム (39)
【Fターム(参考)】