説明

液滴供給システム

【課題】化学的試料および生物学的試料を迅速に、効率的に、かつ高度に制御可能に操作し分析することができる微量流体システムなどの試料操作システムに、このような試料を導入する。
【解決手段】液滴供給ピン13は、液滴吐出ノズル25と、充填管路20と、流体チャンバ21と、必要に応じて液滴を吐出させるアクチュエータ24とを含んでいる。ピン13は、供給システムを形成するように、制御回路を含むホルダに取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2001年6月20日に出願された米国特許仮出願第60/299,515号、2001年9月25日に出願された米国特許仮出願第60/325,040号、2001年12月21日に出願された米国特許出願第10/029,108号、2001年12月21日に出願された米国特許出願第10/028,852号、2001年12月21日に出願された米国特許出願第10/027,484号、2001年12月21日に出願された米国特許出願第10/027,516号、2001年12月21日に出願された米国特許出願第10/027,171号、および2001年12月21日に出願された米国特許出願第10/027,922号に対する優先権を主張するものである。これらの出願はすべて、参照として明示的に本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、液体試料の液滴を形成し供給する液体供給システムに関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
多くの化学産業、バイオメディカル産業、バイオサイエンス産業、および製薬産業では、反応、分離、その後に続く検出段階などの化学工程を試料に対して行う必要がある。化学的試料および生物学的試料を迅速に、効率的に、かつ高度に制御可能に操作し分析することができる微量流体システムなどの試料操作システムに、このような試料を導入することが一般に望ましい。
【0004】
電気泳動システムの方へ、電気泳動システム内で、または電気泳動システム間で、流体、たとえば試料や、アナライトや、試薬や、合成の前駆物質や、緩衝液を連通させる多数の方法が発表されている。一般に、微量流体システムへの液体試料の導入は、試料管路または試料ウェルを通して行われる。微量流体システムに液体試料を導入するために、試料ウェル、試料管路、またはその他の試料導入ポートに液体試料を供給する毛管を設けることができる。毛管を使用することの顕著な欠点は、毛管では本来、注入効率が低く、すなわち、微量流体システムの一部における特定の化学工程に必要な液体の体積と、導入工程に必要な液体の全体積との比が大きいことに関する。さらに、毛管を用いて供給される試料の厳密な体積を調節するのは一般に困難である。さらに、管を満たすのに用いられるのと同じポートが液体試料を吐出するのにも用いられるため、毛管は汚染されやすい。
【0005】
内容が参照として本明細書に組み入れられるMartinskyの米国特許第6,101,946号(特許文献1)は、生化学物質のマイクロアレイを印刷するピン・ベースのシステムを記載している。マイクロアレイ印刷システムは、試料管路と平坦な先端とを有するステンレススチール印刷ピンを含んでいる。ピンは、試料管路を満たし、その後、印刷基板に直接接触して試料を試料管路から印刷基板に供給することによって生化学物質を与える。第6,101,946号特許(特許文献1)に記載されたピン・ベースのシステムの欠点は、供給される試料の量を調節する能力である。ピン・ベースのシステムでは、ピンの先端と印刷基板とを直接接触させる必要があるので、汚染および破壊が起こりやすい。他の欠点は、試料を供給するのに十分な接触が行われるようにこの先端を厳密に位置させるのが困難であることに関する。
【0006】
内容が参照として本明細書に組み入れられるShalonらの米国特許第6,110,426号(特許文献2)は、生物学的試料のマイクロアレイを形成する毛管ディスペンサを記載している。この毛管ディスペンサは、液体試料を保持するようになっている細長い開放された毛管路を含んでいる。管路は、互いの方へ先細りにされ、管路の下方の端部にある先端領域に収束する、間隔を置いて配置され、空間内に同一の広がりを持つ、一対の細長い管路によって形成されている。細長い部材は、互いに対して固定されており、毛管路は一定の体積に制限されている。さらに、獲得され第6,110,426号特許(特許文献2)の毛管ディスペンサから供給される試料の量を調節するのは困難である。
【特許文献1】米国特許第6,101,946号
【特許文献2】米国特許第6,110,426号
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、表面な液体試料の液滴を形成し供給する液滴供給システムを提供する。液滴供給システムは、ホルダおよび1つまたは複数の供給ピンを含んでいる。各供給ピンは、先端に格納されている供給された液体試料から液体試料の液滴を形成し吐出する先端を有している。各供給ピンの先端は、供給ピンの先端から液滴を制御可能にかつ選択的に吐出する液滴吐出ノズルを含んでいる。各供給ピン先端は、供給された液体試料を保持する吐出ノズルと流体連通する試料チャンバを含んでいる。先端は、リザーバからの所定の体積の液体試料を先端に満たすように試料と流体連通する充填管路をさらに含んでいる。アクチュエータは、先端に吐出ノズルに隣接して配置され、試料チャンバと連通している。液滴供給システムは、アクチュエータを作動させることによって液滴を形成し吐出ノズルを通して吐出する。
【0008】
供給システムを製造する方法も提供される。例示的な態様によれば、液滴供給システムは、シリコン・ウェハから製造される。フォトリソグラフィ・プロセスを利用して供給ピンの先端に充填管路、試料チャンバ、および吐出ノズルがエッチングされる。液滴を形成して吐出ノズルから吐出できるようにする適切なアクチュエータが先端に取り付けられる。
【0009】
液滴供給システムは、所定量の液体試料を供給ピンの先端を介して供給システムに高速にかつ柔軟に満たすのを可能にする。液滴供給システムは、液体試料を、厳密に調節された体積を有する液滴の形で供給ピンの先端から効率的にかつ高速に供給できるようにする。液滴供給システムは、廃棄物および汚染を軽減しつつ、効率、速度、および制御性を向上させることによって、液体試料の付与を改善する。
【0010】
一局面によれば、供給ピンを含む液滴供給システムが提供される。試料供給システムは、先端を有する供給ピンを含んでいる。先端は、試料チャンバと、先端に、試料と流体連通するように形成され、液体試料を試料チャンバに充填する試料充填管路と、試料チャンバと流体連通し、液体試料の液滴を試料チャンバから吐出する液滴吐出ノズルと、試料チャンバに隣接して配置され、液滴を形成するアクチュエータとを含んでいる。
【0011】
他の局面によれば、2本の相互作用ピンを含む液滴供給システムが提供される。この2ピン液滴供給システムは、互いに近くに位置させられ、互いの間に充填管路を形成する第1のピンおよび供給ピンを含んでいる。供給ピンは、試料充填管路と流体連通するように配置された試料チャンバと、試料チャンバから液滴を吐出する吐出ノズルと、液滴の形成および吐出ノズルからの吐出をトリガするアクチュエータとをさらに含む先端を有している。
【0012】
他の局面によれば、液体試料を供給する方法が提供される。液体試料を供給する方法は、所定の体積の液体試料を先端に満たす充填管路と、試料チャンバと、吐出ノズルと、液滴を形成するアクチュエータとを含む先端を有するピンを含む液滴供給システムを設ける段階を含む。この方法は、アクチュエータを作動させて試料吐出ノズルにおいて液体試料の液滴を生成する段階をさらに含む。
【0013】
他の局面によれば、ホルダと、ホルダに連結された供給ピンのアレイとを含む液体試料供給システムが提供される。アレイ内の各供給ピンは、先端を有すると共に、先端に形成され、所定の体積の試料を保持する試料チャンバと、先端に、試料チャンバと流体連通するように形成され、試料チャンバに液体試料を充填する試料充填管路と、試料チャンバと流体連通し、試料チャンバから液体試料の液滴を吐出する液滴吐出ノズルとを有している。液体試料供給システムは、1本または複数の供給ピンの試料チャンバに結合され、作動した場合に1つまたは複数の液滴を形成するアクチュエータをさらに含んでいる。
【0014】
例示的な態様の詳細な説明
本発明は、流体システム用の試料の液滴を形成し供給する液滴供給システムを提供する。本発明の液滴供給システムは、サブミクロン・サイズの液滴の形での、液体試料の試料操作システムへの厳密な試料取込みおよび供給を可能にする。液滴供給システムは、基本研究環境または商業環境で用いるのに適している。供給システムは、廃棄物および汚染を著しく減らしつつ、液滴を形成し供給する効率、速度、および制御性を高めることによって試料操作システムへの試料の導入を著しく改善する。当業者には、本発明をいくつかの異なる用途および態様で実施することができ、かつ本発明が、本明細書に示されている特定の態様への適用に特に制限されないことが理解されると考えられる。
【0015】
本発明の液滴供給システムは、試料を供給するのに直接的な接触を必要とする従来のピン・ベースの供給システム、および毛管ベースの供給システムに勝る顕著な改良を実現する。空気圧またはリモート・アクチュエータによって液滴を生成する毛管ベースの供給は、10ナノリットルから1マイクロリットルの範囲の大形の液滴の形成に限られている。先端の近くにアクチュエータを含む他の毛管ベースのシステムは、先端の後方から充填され、一般に、充填に長時間、すなわち10分から30分かかる。これに対して、本発明の液滴供給システムは、供給ピンの端部に一緒に配置された充填管路および液滴吐出アクチュエータを含んでいる。このように、供給システムの充填が高速に行われる。さらに、本発明の供給システムは、小さなサブナノリットル・サイズの液滴を形成することができる。
【0016】
図1は、例示的な態様の液滴供給システム10を示している。液滴供給システムは、ホルダ12に取り付けられた供給ピン11を含んでいる。液滴供給システム10は、選択された液体試料の液滴を形成し供給して、試料操作システムへの液体試料の制御された導入を可能にする。試料液滴は、形成され、供給ピン11の先端13から衝撃によって押し出される。これについては以下に詳述する。ホルダ12は、液体試料の液滴の形成および先端13から吐出をトリガするアクチュエータに液滴吐出信号を供給する制御回路を含む電子機器15を含んでよい。電気コネクタ16は、電子機器15とアクチュエータとを電気的に接続し、制御回路とアクチュエータとの間で液滴吐出信号を送信する。電子機器15の制御下で液滴を形成し先端13から吐出することについては以下に詳述する。本明細書では、語ホルダは、1つまたは複数の供給ピンを固定的にまたは取外し・交換可能に保持するのに適した任意の構造を含むものである。
【0017】
例示的な態様のピン11は、直径が約1mmの先端13を有する細長い構造を含んでいる。例示的な態様によれば、試料の充填は、供給ピン11の先端13を所望の液体試料を含むリザーバ14に浸漬することによって行われる。当業者には、先端13が、液体のリザーバに浸漬し、リザーバ内に液体を保持するのに適した、たとえば最大で数ミリメートルの任意の直径を有してよいことが認識されると考えられる。
【0018】
供給ピン11の先端13は、所定の体積の生物学的試料または化学的試料を保持する試料チャンバと、試料チャンバを充填する充填管路と、アクチュエータと、吐出ノズルとを含んでいる。先端13は、所定の体積の試料によって各ピンの充填管路および試料チャンバが満たされるように生物学的試料に浸漬される。次いで、液滴供給システム10は微量流体システムや印刷基板などの試料操作システムの流体界面ポートの近くに移動させられる。チャンバ内に配置されたアクチュエータが、試料の液滴を形成し、吐出ノズルを形成するピン先端から供給するように選択的に作動させられる。液滴供給システム10は、所定の、必要に応じて調節可能な速度で液滴を、選択された経路に沿って押し出し、液滴試料を微量流体システムに導入する。
【0019】
図2に示されている本発明の他の態様によれば、ピン供給システム100は、ホルダ120に配置され、複数の試料を同時に形成し供給できるようにする供給ピン11のアレイ110を含んでよい。供給ピン11のアレイを有するピン供給システム100では、各供給ピンを、対応する制御回路150によって個別に制御することができる。または、一群の供給ピンを共通の制御回路によって同時に制御することができる。液滴供給システムは、特定の用途に応じて任意の適切な構成に配置された任意の適切な数の供給ピン11を含んでよい。本発明の例示的な態様のピン供給システムのアレイは、フォトリソグラフィのような任意の適切な微細製造技術を用いて、シリコン・ウェハなどの基板から製造することができる。
【0020】
本発明の例示的な態様の液滴供給システム10は、核酸分子やタンパク質などの生化学物質のアレイ、または他の適切な液体試料を、プロテオミクス、ゲノム科学、スクリーニング、診断、およびその他の用途に使用できるように印刷基板、滴定プレート、微量流体システムまたは装置などの試料操作システムに印刷または排出するスポッティング・システムとして利用することができる。ピン先端13は、液滴を獲得した後、表面に接近させられる。表面は、固体表面または液体を含んでよい。表面は、多孔膜などの多孔構造、または顕微鏡スライドなどの非多孔構造を含んでよい。充填されたピンは、ピン先端13と表面とが直接接触することによって、選択されたスポット体積を有するスポットを表面上に付着させる。例示的な態様によれば、供給されるスポットの体積は、獲得される液滴の体積よりもずっと小さく、一般にサブナノリットルである。ただし、当業者には、本発明がこの範囲に限らないことが認識されると考えられる。
【0021】
図3は、本発明の第1の態様による液滴供給システム10の供給ピン11の先端13の詳細図である。先端13は、液滴供給システムに液体試料を充填する充填構造と、液体試料の液滴を形成し供給ピンの先端から吐出させる個別の液滴作動構造の両方を含んでいる。図3に示されているように、充填管路20は、先端13に形成され、選択された液体試料を含むリザーバから、充填ノズルとして示されている取込みポート22を通して試料を取り込む。充填管路は好ましくは、毛管力を用いることによって試料を取り込む。充填管路20は、先端13に形成された試料チャンバ21と連通している。試料チャンバ21は、液滴吐出ノズル23を形成する先細りの端部を有している。吐出ノズル23は、試料チャンバ内の液体試料から液滴を形成するようなサイズおよび寸法を有する吐出ポート25を含んでいる。図示のように、吐出ノズルは、試料チャンバ21の近くに試料チャンバ21と流体連通するように位置している。先端は、試料チャンバに隣接し試料チャンバに接触するアクチュエータ24をさらに含んでいる。アクチュエータは、液滴を形成させ吐出ノズル23を通じて吐出させるのに十分な力を試料チャンバにかける。アクチュエータ24は、ピン・ホルダ内の電子機器によって選択的に作動させられ、必要に応じて吐出ノズルから液滴を供給する。図示のように、先端13は、充填管路20の先端に形成された取込みポート22と、液滴吐出ノズル23に形成された吐出ポート25との間に連続的な流路を形成する。当業者には、チャンバが任意の選択された形状を有してよく、チャンバを、特定の用途に応じて配置し、かつ特定の用途に応じた寸法にしてよいことが容易に認識されると考えられる。さらに、供給ピン11は、ピンの先端に形成された複数の試料チャンバを含んでもよい。
【0022】
充填ノズル22を液体試料に浸漬することによって、ピン先端に液体試料が容易に、柔軟に、かつ高速に満たされる。液体試料は、充填管路20を通り、連結された試料チャンバ21に送り込まれる。例示的な態様によれば、充填管路20は、毛管力によって液体試料が自動的に充填管路20を通って試料チャンバ21に引き込まれるようなサイズおよび寸法になっている。他の態様によれば、充填は、アクチュエータ24による汲取り作用によって行われる。充填される試料の体積は、先端がリザーバに浸漬される時間の長さ、充填管路およびチャンバのサイズ、および管路にかけられる力に依存する。充填管路20および試料チャンバ21の内部体積は、先端に充填できる試料の最大体積を定める。当業者には、取込みポート20をいくつかの異なる位置に形成できることが容易に認識されると考えられる。
【0023】
液滴供給システム10は、液滴を供給し、高速にかつ効率的に試料操作システムに排出するかまたは押し出すことができる。先端に液体試料が満たされた後、液滴供給システム10は、必要に応じて、アクチュエータ24を作動させることによって、試料液体の液滴を形成し試料チャンバ21から供給する。例示的な態様によれば、アクチュエータ24は、試料チャンバ21の側壁の、吐出ノズル23のすぐ隣に取り付けられた圧電膜を含んでいる。ホルダ電子機器内の制御回路は、電気コネクタ16を通して印加されアクチュエータ24を導通させる液滴吐出信号を生成する。圧電膜に電圧が印加されると、圧電膜がたわむ。圧電膜がたわむと、試料チャンバ21に対する力が生成され、それによって液滴が生成され、吐出ノズル23から吐出ポート25を通して吐出される。当業者には、アクチュエータ24が圧電アクチュエータに限らず、インク・ジェット印刷システムに用いられる様々なアクチュエータのような、ノズルから液滴を吐出させる任意の適切なアクチュエータを利用できることが認識されると考えられる。たとえば、アクチュエータは、電気機械アクチュエータ、磁気アクチュエータ、熱電アクチュエータ、または液滴を形成して吐出ノズルから吐出させる任意の適切なアクチュエータを含んでよい。
【0024】
例示的な態様によれば、ノズル出口25のサイズおよび形状を含む、吐出ノズル23および試料チャンバ21の形状は、形成される液滴のサイズおよび速度を決定する。充填管路20と試料チャンバ21の組合せ体積は、完全に充填されるたびに供給システムに格納される液体試料の量を決定する。例示的な態様によれば、充填管路20および試料チャンバ21の内部体積は、約1ナノリットルから約10ナノリットルの間である。当業者には、取込みポートを含む充填管路、および試料チャンバが図示の構成に限らず、本発明の範囲から逸脱せずに変更および変形が可能であることが認識されると考えられる
【0025】
試料チャンバ21の端部に形成された先細りの液滴吐出ノズル23は、液滴が衝撃によって供給ピン11の先端13から押し出されるように、試料チャンバからの液体の流れを加速し、その方向を定めるように構成されている。吐出ノズル23および吐出ポートは、液体が、一般に毛管力によって保持され、アクチュエータ24を適切に作動させることによって必要な場合にのみ押し出されるようなサイズおよび寸法を有している。例示的な態様によれば、吐出ノズル吐出ポート25は、約30μmから約50μmの間の直径を有し、その結果、直径が約45μmで、体積が約35ピコリットルの液滴が得られる。当業者には、これらの寸法の変更が本発明の範囲内であり、体積および寸法を特定の用途に適合するように変更できることが認識されると考えられる。試料チャンバ21および充填チャンバ20は、特定の用途に応じて、任意の選択されたサイズの液滴を、充填1回当たり10個から10,000個生成するようなサイズおよび寸法を有することができる。
【0026】
例示的な態様によれば、液滴吐出ノズル23と取込みポート22は、供給された液体試料を充填し、液体試料を液滴の形で供給する、供給ピン先端13を通る連続的な流路を形成するように、供給先端13上に一緒に製造される。取込みポート22と吐出ノズル23は、先端上に別々に位置しており、したがって、取込みポート22を、それと同時に吐出ノズル23を浸漬する必要なしに試料リザーバに浸漬することができる。図示のように、ノズル22とノズル23はどちらも、供給ピンの先端に形成されているが、充填ノズル22は、吐出ノズル23を越えて所定の距離だけ延びている。このように、吐出ノズルを浸漬する必要も、場合によって汚染する必要もなしに、充填ノズルのみを浸漬することによって所定量の液体試料を先端13に充填することができる。
【0027】
図4は、線A-Aに沿った図3のピン先端13の断面図である。図示のように、先端13はシリコン基板30を含んでいる。例示的な態様によれば、液滴供給システムは、標準的なフォトリソグラフィ・プロセスを用いてシリコン・ウェハから製造される。当業者には、他の材料および製造技術を利用できることが認識されれると考えられる。たとえば、ピン供給システムは、ガラス、プラスチック、または他の任意の適切な材料で作ることができる。
【0028】
例示的な態様の液滴供給システムを形成するには、シリコン基板30を設ける。基板をエッチングして充填管路20、試料チャンバ21、および吐出ノズル23を形成する。充填管路20および試料チャンバ21を形成した後シリコンの頂部層31を基板に結合し、エッチングされた管路およびチャンバを被覆し密封する。アクチュエータ24によって生じた力が試料チャンバ21に移され、液滴を形成し衝撃によって吐出ノズルから押し出すように、頂部層31の外側表面の、試料チャンバ21に隣接した吐出ノズル23に近い位置にアクチュエータ24を配置する。前述のように、アクチュエータ24を制御回路に接続して液滴吐出信号をアクチュエータ24に送信できるようにする電気コネクタを設ける。当業者には、フォトリソグラフィを含む任意の従来の微細製造技術など、様々な異なる方法で先端を製造し構成できることが容易に認識されれると考えられる。
【0029】
液滴供給システム10は、液体試料を与える必要のある様々な用途に利用することができる。試料が供給先端13に充填された後、供給ピン11が試料操作システムの流体界面ポートに接近させられる。例示的な態様の液滴供給システムを利用して液体試料の液滴を形成し、液滴を微量流体システムに導入することができる。たとえば、内容が参照として本明細書に組み入れられる「マイクロスケール仮想壁を形成しこの壁を微量流体用途に用いる方法(Methods For Forming A Microscale Virtual Wall And Use Of Said Wall In Microfluidic Applications)」という名称の米国特許仮出願第60/299,215号に記載されているように、液滴供給システム10を利用して、仮想壁界面ポートを有するマイクロチップに液滴を供給することができる。簡単に言えば、米国特許仮出願第60/299,515号は、微小管路の側壁に仮想壁を形成するようなサイズおよび寸法を持つ開口を含む流体界面ポートを有する微量流体システムを記載している。例示的な態様の液滴供給システムを利用して液滴を形成し仮想壁の方へ押し出して微小管路の内側に液体試料を導入することができる。または、液滴供給システム10を利用して、ウェルのような、微量流体システム内の試料リザーバに液体試料を導入することができる。他の用途によれば、米国特許第6,101,946号に記載されたような、印刷基板上に生化学物質のアレイを印刷するスポッティング用途に液滴供給システムを利用することができる。
【0030】
図5は、本発明の他の態様による液滴供給システム40の詳細分解図であり、この場合、2本の相互作用ピンの先端に充填・液滴作動機構が形成されている。図示のように、液滴供給機構は、2本の別々に移動可能なピン、すなわち、第1のピン41および供給ピン42を用いて形成されている。ピン41および42は、充填管路43および充填ノズル44を各ピンの先端間に形成するように互いに対して位置している。供給ピン42の先端は、充填管路43と流体連通する試料チャンバ45を含んでおり、かつピン42の先端に形成された液滴吐出ノズル46と、液滴吐出ノズル46内の吐出ポート48を通してピン42の先端から吐出される液体試料の液滴を形成するアクチュエータ47とをさらに含んでいる。ピン41および42間の離隔距離Dは、充填時に獲得される試料の量を増減するように変えることができる。たとえば、充填1回当たり試料体積を増やしたい場合、離隔距離が広げられ、それによって充填管路43の体積が増し、より多くの液体試料を格納し、その後供給することが可能になる。
【0031】
例示的な態様の液滴供給システム40は、試料操作システムに液体試料を導入するプロセスを著しく改善する。例示的な構成は、充填管路と試料チャンバとの間のデッドボリュームを制限して、試料をより効率的に利用し、試料の廃棄物を少なくする。アクチュエータを吐出ノズルの近くに配置すると、小さな液滴が形成され、それによって試料供給プロセスの制御性および効率が向上する。流路の素通り(flow-through)構成によって、試料が無駄になることはなく、先端内の充填された液体試料全体が利用される。
【0032】
例示的な態様は、供給される試料の量をデジタルに調節できるようにすることによって液滴の形成を制御する能力を著しく改善する。液滴供給システムは、所定の、厳密に調節される体積を有する液滴を必要に応じて形成し吐出する。供給される試料の体積は、供給される液滴の数を変化させることによって容易に修正される。たとえば、試料の体積を増やす必要がある場合、アクチュエータをより頻繁に作動させてより多くの液滴を生成する。さらに、液体試料の液滴を必要に応じて生成できるので、資源を効率的に利用することができる。
【0033】
液滴供給システムは、試料ディスペンサと基板または流体界面ポートを直接接触させる必要なしに液体試料を供給するのも可能にする。液滴供給システムは、液滴を厳密に形成し、押し出し、その方向を定める。液滴供給システムはさらに、複雑な機構や機械を必要とせずに、調節された体積の液体試料を高速に、容易に、かつ効率的に充填し吐出できるようにする。
【0034】
本発明の液滴供給システムの他の利点は、使用後のシステムの洗浄に関する。個別の取込みポートおよび吐出ポートを含む、流路のフロースルー構成によって、システムに洗浄液を流し、それによって汚染物質を著しく少なくすることができる。液滴供給システムを洗浄する場合、ピン先端が洗浄液にリザーバに浸漬される。アクチュエータを連続的に作動させて、洗浄液を充填管路および試料チャンバに流し、そこから吐出ノズルに流すことができる。汚染物質を供給ピンの先端から洗い流すことによって、例示的な液滴供給システムは、従来の供給システムに勝る顕著な利点をもらす。さらに、シリコンを用いて内側流路を形成することによって、システムを劣化させずにより強力な洗浄液を利用することができる。
【0035】
本発明について、例示的な態様に関して説明した。本発明の範囲から逸脱せずに上記の構成にある種の変更を加えることができるので、上記の説明に含まれるかまたは添付の図面に示されたすべての事項は例示的なものと解釈され、制限的な意味では解釈されないものとする。
【0036】
特許請求の範囲が、本明細書に記載された本発明のすべての一般的な特徴および特定の特徴と、言葉の問題として、これらの特徴間に入ると言える本発明の範囲のすべての記述をカバーすることも理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の開示による液滴供給システムの概略図である。
【図2】ホルダに連結された供給ピンのアレイを含む、本発明の開示による液滴供給システムの斜視図である。
【図3】図1の液滴供給システムに用いられる供給ピンの先端の分解斜視図である。
【図4】図3の供給ピンの先端の断面図である。
【図5】充填管路が2つの相互作用ピン構造によって形成される、液滴供給システムの他の態様の分解詳細図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端を有すると共に、先端に形成され、所定の体積の試料を保持する試料チャンバと、先端に、試料チャンバと流体連通するように形成され、試料チャンバに液体試料を充填する試料充填管路と、試料チャンバと流体連通し、試料チャンバから液体試料の液滴を吐出する液滴吐出ノズルとを有する供給ピンと、
試料チャンバに結合され、作動した場合に液滴を形成するアクチュエータとを含む試料供給システム。
【請求項2】
先端が約0.5mmから約5mmの間の直径を有する、請求項1記載の試料供給システム。
【請求項3】
先端が約1.0mmの直径を有する、請求項2記載の試料供給システム。
【請求項4】
供給ピンを取り付けるホルダをさらに含む、請求項1記載の試料供給システム。
【請求項5】
アクチュエータを作動させる制御回路をさらに含む、請求項4記載の試料供給システム。
【請求項6】
制御回路とアクチュエータを電気的に接続する電気コネクタをさらに含む、請求項5記載の試料供給システム。
【請求項7】
供給ピンが、微細製造技術を用いてシリコン・ウェハ上に形成されている、請求項1記載の試料供給システム。
【請求項8】
充填管路が、吐出ノズルから離して配置されている、請求項1記載の試料供給システム。
【請求項9】
充填管路が、充填管路に液体試料を導入する充填ノズルを含む、請求項1記載の試料供給システム。
【請求項10】
充填ノズルが吐出ノズルを越えて延びており、したがって、先端がリザーバに浸漬されると、吐出ノズルが浸漬されることなく、充填ノズルが、供給された液体に浸漬される、請求項9記載の試料供給システム。
【請求項11】
液滴吐出ノズルが、約30μmから約50μmの間の直径を有する吐出ポートを有する、請求項1記載の試料供給システム。
【請求項12】
アクチュエータが、試料チャンバの側壁に取り付けられた圧電膜を含む、請求項1記載の試料供給システム。
【請求項13】
アクチュエータが、吐出ノズルから液滴を吐出させる電気機械アセンブリを含む、請求項1記載の試料供給システム。
【請求項14】
アクチュエータが、吐出ノズルから液滴を吐出させる磁気アセンブリを含む、請求項1記載の試料供給システム。
【請求項15】
アクチュエータが、吐出ノズルから液滴を吐出させる熱電アセンブリを含む、請求項1記載の試料供給システム。
【請求項16】
充填管路と試料チャンバが、約1ナノリットルから約10ナノリットルの間の組合せ体積を有する、請求項1記載の試料供給システム。
【請求項17】
液滴供給システムにおいて、
先端を有する第1のピンと、
先端を有し、第1のピンと第2のピンとの間に試料充填管路を形成するように第1のピンに隣接するように第1のピンから離して配置された供給ピンであって、試料充填管路と流体連通するように配置された試料チャンバと、試料チャンバから液滴を吐出する吐出ノズルと、液滴の形成および吐出ノズルからの吐出をトリガするアクチュエータとを有する供給ピンとを含む液滴供給システム。
【請求項18】
第1のピンと第2のピンが、試料充填管路のサイズを変化させるように互いに対して移動可能である、請求項17記載の液滴供給システム。
【請求項19】
第1のピンの先端および供給ピンの先端が約0.5mmから約5mmの間の直径を有する、請求項17記載の試料供給システム。
【請求項20】
供給ピンの先端が約1.0mmの直径を有する、請求項19記載の試料供給システム。
【請求項21】
第1のピンおよび供給ピンを取り付けるホルダをさらに含む、請求項17記載の試料供給システム。
【請求項22】
ホルダがアクチュエータを作動させる制御回路を含む、請求項21記載の試料供給システム。
【請求項23】
制御回路とアクチュエータを電気的に接続する電気コネクタをさらに含む、請求項22記載の試料供給システム。
【請求項24】
第1のピンおよび供給ピンがシリコン・ウェハから形成されている、請求項17記載の試料供給システム。
【請求項25】
充填管路が、充填管路に液体試料を導入する充填ノズルを含む、請求項17記載の試料供給システム。
【請求項26】
充填ノズルが吐出ノズルを越えて延びており、したがって、第1のピンの先端および供給ピンの先端がリザーバに浸漬されると、供給先端の吐出ノズルが浸漬されることなく、充填ノズルが、供給された液体に浸漬される、請求項25の試料供給システム。
【請求項27】
液滴吐出ノズルが、約30μmから約50μmの間の直径を有する吐出ポートを有する、請求項17記載の試料供給システム。
【請求項28】
アクチュエータが、試料チャンバの側壁に取り付けられた圧電膜を含む、請求項17記載の試料供給システム。
【請求項29】
アクチュエータが、吐出ノズルから液滴を吐出させる電気機械アセンブリを含む、請求項17記載の試料供給システム。
【請求項30】
アクチュエータが、吐出ノズルから液滴を吐出させる磁気アセンブリを含む、請求項17記載の試料供給システム。
【請求項31】
アクチュエータが、吐出ノズルから液滴を吐出させる熱電アセンブリを含む、請求項17記載の試料供給システム。
【請求項32】
充填管路と試料チャンバが、約1ナノリットルから約10ナノリットルの間の組合せ体積を有する、請求項17記載の試料供給システム。
【請求項33】
液体試料の液滴を形成し供給する方法であって、
所定の体積の液体試料を先端に満たす充填管路と、所定の体積の液体試料を保持する試料チャンバと、吐出ノズルと、前記体積の液体試料から液滴を形成するアクチュエータとを形成する先端を有するピンを含む液滴供給システムを設ける段階と、
アクチュエータを作動させて試料吐出ノズルにおいて液体試料の液滴を生成する段階とを含む方法。
【請求項34】
アクチュエータを作動させる段階の前に先端に液体試料を満たす段階をさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
先端を充填する段階が、供給された液体試料を含むリザーバに先端を浸漬する段階を含む、請求項34記載の方法。
【請求項36】
浸漬段階が、吐出ノズルを浸漬せずに充填管路の取込みポートを浸漬する段階を含む、請求項35記載の方法。
【請求項37】
充填段階が、アクチュエータを作動させて充填管路に液体試料を汲み入れる段階を含む、請求項35記載の方法。
【請求項38】
アクチュエータを作動させる段階が、液滴吐出信号を制御回路からアクチュエータに送信する段階を含む、請求項33記載の方法。
【請求項39】
液体試料の液滴を流体界面ポートに送る段階をさらに含む、請求項33記載の方法。
【請求項40】
液滴を排出するシステムに用いられるピンであって、
先端と、
先端に形成され、所定の体積の試料を保持する試料チャンバと、
先端に、試料チャンバと流体連通するように形成され、試料チャンバに液体試料を充填する試料充填管路と、
試料チャンバと流体連通し、試料チャンバから液体試料の液滴を吐出する液滴吐出ノズルとを含むピン。
【請求項41】
試料チャンバに結合され、作動した場合に液滴を形成するアクチュエータをさらに含む、請求項40記載のピン。
【請求項42】
ホルダと、
ホルダに連結され、各供給ピンが、先端を有すると共に、先端に形成され、所定の体積の試料を保持する試料チャンバと、先端に、試料チャンバと流体連通するように形成され、試料チャンバに液体試料を充填する試料充填管路と、試料チャンバと流体連通し、試料チャンバから液体試料の液滴を吐出する液滴吐出ノズルとを有する供給ピンのアレイと、
1つまたは複数の供給ピンの試料チャンバに結合され、作動した場合に1つまたは複数の液滴を形成するアクチュエータとを含む液体試料供給システム。
【請求項43】
微細化試料供給システムにおいて、
シリコン・ウェハ上に微細化供給ピンであって、先端を有すると共に、先端に形成され、所定の体積の試料を保持する試料チャンバと、先端に、試料チャンバと流体連通するように形成され、試料チャンバに液体試料を充填する試料充填管路と、試料チャンバと流体連通し、試料チャンバから液体試料の液滴を吐出する液滴吐出ノズルとを有する供給ピンと、
試料チャンバに結合され、作動した場合に液滴を形成するアクチュエータとを含む微細化試料供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−249720(P2008−249720A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134614(P2008−134614)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【分割の表示】特願2003−510266(P2003−510266)の分割
【原出願日】平成14年6月20日(2002.6.20)
【出願人】(501063508)サイトノーム インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】