説明

液滴吐出装置および駆動方法

【課題】本発明は,液滴が精度良く吐出され,液滴液量のばらつきが小さくでき,小形な液滴吐出装置およびその駆動方法を提供することを目的とする。
【解決手段】ノズル5に内包された液面検出センサ6を備えた構成にし,ノズル5先端に残存する液量が吸引される工程,所要量の液量が分注される吐出工程,吐出液滴が切り離される吸引工程の手順をとったものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学的分析,免疫学的分析などに用いる試薬分注その他の液体容器内の液体を所定量吸引・分注する際に,容器内の液体を少量かつ正確に吸引し,精度良く分注できるようにした液滴吐出装置および駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のピペット式の液滴吐出装置について図6を用いて説明する。100はステッピングモータ,111はボールねじ,112は駆動筒体,113はピストンロッド,120は高速プランジャー,130はステッピングモータ,140はピペット,145は液体吸引用シリンジ,150は切替弁,160は第2ポート,170は開閉弁,180は加圧・洗浄用シリンジ,190は圧送流路である。
従来のピペット式の液滴吐出装置は,所要量の液を吸引するピペット140と,該ピペット140による吸引分注作業を行う液体吸引用シリンジ145と,該液体吸引用シリンジ145とピペット140を連通接続するピペット側流路200の中途に介装された高速プランジャー120と,前記ピペット側流路200に連通接続された圧送流路190と該圧送流路190の終端部に連通接続された加圧・洗浄用シリンジ180と,前記圧送流路190の中途部に介装された切替弁150から構成されており,前記ピペット140で吸引された液は,所要量づつ分注する構成となっている。(特許文献1)
【0003】
次に液体を吸引する場合について説明する。ピペット140は,ステッピングモータ130により正逆回転制御されるボールねじにより,被吸引液収納容器内の液体中に下降されて浸漬する。この後,高速プランジャー120はONに,切換弁150は第2ポート160を連通状態に,開閉弁170は閉状態にセットする。この状態で加圧・洗浄用シリンジ180は,圧送流路190およびピペット側流路200内を加圧する。被吸引液収納容器内の液体はピストンロッド113が下降し,吸引される。ピストンロッド113は,ステッピングモータ100により正逆回転制御されるボールねじ111に螺合された駆動筒体112に連結されており,昇降制御されている。この時,加圧・洗浄用シリンジ180は,圧送流路190およびピペット側流路200内が洗浄液と空気とが一定の割合となるように駆動制御している。
【0004】
液体を分注する場合について説明する。加圧・洗浄用シリンジ180が圧送流路190およびピペット側流路200内を加圧した後,ピペット140はステッピングモータ130によって該分注位置で下降され,高速プランジャー弁120を所定時間ON状態にすることで,所要量の液体が分注される。この分注量は,高速プランジャー120のON状態の時間で制御されていた。
【特許文献1】特開2004-61153公報(第5頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが従来の液滴分注装置によると,洗浄液と空気が一定の割合になるようにしてピペット側流路は加圧されているが,空気は加圧の際には圧縮し,高速プランジャーを開にした際には膨張することや,周囲の温度や気圧等の環境変化により膨張率が変化すること等で,加圧量が一定でなくなるために,分注量のばらつきが生じていた。
また,液量は高速プランジャーのON状態の開放時間で制御されているが,分注量のばらつきは,液体の表面張力や,分注後にノズル先端に残存する液量が影響するために生じていた。このため,精度良い液量が得られないという問題があった。このような液量のばらつきが生じると,分析結果に定量性が得られず,DNA解析等の定量性を必要とする分析では再試験を行わなければならなくなり,高価な液体が無駄となってしまうという問題が生じていた。
また,シリンジと,ピストン駆動用のステッピングモータと,ピストン移動用のボールねじと,高速ブランジャー等からなるサンプル液の制御システムと,切換バルブとピストン駆動用のステッピングモータとボールねじ等からなる加圧・洗浄システムから構成されており,液体は,2つのシステムにより吐出されていたため装置が大きくなっており,複数の軸で同時に分注作業が行われると,装置が大きいために設置スペースに収まらないという問題が生じていた。
本発明はこのような問題点を鑑みてなされたものであり、液滴が精度良く吐出され,液滴液量のばらつきが小さくでき,小形な液滴吐出装置およびその駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するため、本発明は、次のようにしたのである。
請求項1に記載の発明は、シリンジに内包したピストンと,該ピストンに連結したボールねじと,前記,ボールねじを駆動するモータと,液体を吐出するためにシリンジ先端に具備したノズルを備えた液滴吐出装置において,前記ノズルに内包された液面検出センサが備えられたものである。
また,請求項2に記載の発明は,前記液面を検出するセンサが,静電容量を検出する少なくとも1対の金属電極と,前記金属電極に被覆された絶縁層からなり,ノズル先端の内面に具備されたものである。
また,請求項3に記載の発明は,前記ノズルが,ガラスや快削性セラミックなどの絶縁体からなり,先端に少なくとも2つの突起物が形成されたものである。
また,請求項4に記載の発明は,ノズル先端に残存する液量が吸引される吸引工程,所要量の液量が分注される吐出工程,吐出液滴が切り離される吸引工程の手順で処理されるものである。
また,請求項5に記載の発明は,前記吸引,吐出,吸引工程の駆動パターンが,移動量が一定になるように,一定速度領域が加減算により自動演算されるようにしたものである。
また、請求項6に記載の発明は、前記吸引,吐出,吸引工程の駆動パターンが,移動量を一定となるように,減速領域で減速時間が自動演算されるようにしたものである。
また,請求項7に記載の発明は,前記駆動パターンが記憶される駆動パターン保存部と,駆動パターンが生成される指令生成部とからなるものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1から3に記載の発明によると、液面検出センサがノズル先端に残存する液量を検出することにより,ノズル先端にできる液だまりの有無が検出される。
請求項4から6に記載の発明によると,所要量の液量が吐出される工程で,駆動パターンが自動計算で生成されるので,液量のばらつきの減少させる条件が容易に最適化される。
また,請求項7に記載の発明によると,駆動パターンの保存部が備えられたことにより,駆動パターンと液量の関係が容易に比較され,保存された駆動パターンが用いられることで液量の最適化が図れる。
以上のように請求項1から8に記載した発明によると,ノズル先端に残存する液だまりが液面検出センサにより検出され,駆動パターンが最適化されることで,精度良い吐出量を得ることができる。また,ノズル先端に液面検出センサが備えられた簡便な構造からなるので小型化が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の液滴吐出装置の具体的実施例について、図1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明の方法を実施する液滴吐出装置の構成を示す断面図である。図において,1はモータ,2はボールねじ,21はナット,3はピストン,4はシリンジ,5はノズル,6は液面検出センサである。
液滴吐出装置は,モータ1に連結されたボールねじ2と,ボールねじ2に螺合したナット21と,ナット21と連結し,かつシリンジ4内を往復運動するピストン3と,シリンジ4に取り付けられたノズル5と,ノズル先端に配置された液面検出センサ6とから構成されている。
モータ1が正逆に回転すると,ボールねじ2に螺合したナット21に連結されたピストン3は,シリンジ4内を往復運動する。シリンジ4の吐出口に具備されたノズル5を通して,液体は吸引,吐出される。液面検出センサ6はノズル5先端の液体の有無を検出する。
液面検出センサ6は図2に示す構成からなる。ノズル5がガラスや快削性セラミック等の絶縁材料で作製されおり,凸部51は,ノズル5先端に対向するように2箇所に設けられている。また,電極61は対向して凸部51に勘合するように配置されている。
ここでは,凸部51を設けた絶縁体からなるノズル5を用いて説明したが,別のノズル形状としては図3に示すように,ノズル5は,先端に凸部51が設けられ,アルミニウムやSUS304などの金属材料からされている。金属電極61は,フッ素樹脂等からなる絶縁層62が金属電極61に被膜されており,ノズル5の凸部51に勘合されている。
また,これとは逆に,金属電極61が金属材料で形成され,金属材料からなるノズル5表面がアルマイト処理やフッ素樹脂被膜等の絶縁処理された膜で形成されても良い。
【0010】
ノズル5先端の液体有無は,電極61間の静電容量の変化により求められる。静電容量は,式1に示す関係から求められる。電極61間に液体であるグリセリンがある場合,グリセリンの比誘電率は42.5であるので,静電容量は空気の場合の約42倍を検出される。このように,比誘電率に比例した静電容量が検出されることで,液体の有無が検出される。
【0011】
【数1】

C:静電容量,ε:誘電率,S:対向面積(m2),d:電極間ギャップ(m)
【0012】
液体を吐出する状態を図4を用いて説明する。液体が吸引されると、ノズル5先端には,図4(a)のように液体の表面張力による液だまりが生じている。この時, Highの静電容量が電極61で検出される。
次にノズル5先端に残存する液量を吸引する吸引工程(図4(b))では,液体は電極61間の静電容量の値がLowの値になるまで吸引される。すなわち,空気の状態になるまで吸引され,液体は,完全にノズル5中に入った状態である。
次に液体が分注される吐出工程(図4(c))では,液体はノズル5先端より吐出され,液滴が形成される。静電容量は液滴が残存する状態で,Highの値を示す。
次に液滴を切り離す吸引工程(図4(d))では,液滴は急激に吸引されることで切断され,図示しない測定容器に滴下される。静電容量は,吸引されることでLowの値を示す。
このように,液体が吐出される前に,ノズル5先端に残存する液量が液面検出センサ6により検出され、ノズル5先端に残存する液体が吸引される工程で,液面検出センサ6で液面が検知されない位置まで液体が吸引されることにより,ノズル5先端に残存する液だまりの大きさに関係なく,吐出液量のばらつきは減少する。また,液体が吐出された後に,液滴を切り離す吸引工程が行われることで,液滴の液切れが良くなり,ノズル5先端の液だまりが生じることがないことにより,吐出液量のばらつきは減少する。
【0013】
液滴が吐出される時の駆動パターンの生成方法について図5を用いて説明する。速度台形の速度パターン(点線)から,加速時にオーバシュートを加えた場合(図5(a)),オーバシュート分が設定容量より多く吐出されてしまう。ここで,液滴の吐出現象について考察すると,微量な液滴が吐出されるためには,液体の表面張力との関係から式2から求められる加速度が必要である。このため,加速領域の傾きは調整できない。しかし,一定速度領域は,図5(b)に示すように速度リプルが生じても,液量に脈動は生じるが,液量には影響しない。そこで,この一定速度領域でオーバシュートを含む速度パターンの移動量が,速度台形パターンの移動量と等しくなるように減算計算して求められる。
【0014】
【数2】

r0:管路半径〔m〕,r:液滴半径〔m〕,σ:表面張力〔N/m〕, m:液滴質量(kg),g:重力加速度
【0015】
また,加速領域にオーバシュートを加えた場合の別の駆動パターン生成方法は図6に示すように,減速時間を移動量が一定になるように減速時間を計算して求められる。減速領域は液体が制動すれば良いので,加速度と減速度が一致する必要はない。
このように,液体が吐出される工程で,設定液量が駆動パターンの自動計算で容易に生成されることにより,液量のばらつきが少ない条件が容易に最適化される。
【実施例2】
【0016】
図7(a)に示すように,モータ1の制御装置7は,移動量を設定する指令生成部71と,モータの位置を求めるエンコーダ信号処理部74と,エンコーダ信号処理部74から得られる位置情報と指令を比較しゲインを調整するゲイン調整部72と,ゲインに比例した電流を生成する電流アンプ73と,エンコーダ信号処理部74で求められた位置情報に基づいた駆動速度に換算され,駆動パターンが保存される速度パターン保存部75とから構成されている。
液量の評価結果と駆動パターンが比較されることで,最適な駆動パターンが図7(b)に示すような速度パターンで得られた場合,この速度パターンデータは,速度パターン保存部75に保存されることで,駆動パターンは最適化される。
このように,ノズル先端に液面検出センサが備えられた簡便な構造からなるので小型化が容易である。また,ノズル先端に残存する液だまりが液面検出センサにより検出され,駆動パターンが最適化されることで,精度良い吐出量が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本装置は,精度良く液滴が吐出されるので DNA解析等の生化学的分析だけでなく,微量液量が取り扱われる免疫学的分析等の分野の分注装置へも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施例を示す液滴吐出装置の側断面図
【図2】本発明の第1の実施例を示す液面検出センサの断面図
【図3】本発明の第1の実施例を示す絶縁膜を具備した液面検出センサの断面図
【図4】本発明の第1の実施例を示す液滴の吐出手順と液面検出センサ出力
【図5】本発明の第1の実施例を示す一定速度領域での補正速度パターン
【図6】本発明の第1の実施例を示す減速領域での補正速度パターン
【図7】本発明の第2の実施例を示す制御装置と速度パターンデータ
【図8】従来の液滴吐出装置を示す図
【符号の説明】
【0019】
1 モータ
2 ボールねじ
21 ナット
3 ピストン
4 シリンジ
5 ノズル
51 凸部
6 液面検出センサ
61 ノズル
62 絶縁層
7 制御装置
71 指令生成部
72 ゲイン調整部
73 電流アンプ
74 エンコーダ信号処理部
75 速度パターン保存部
100 ステッピングモータ
111 ボールねじ
112 駆動筒体
113 ピストンロッド
120 高速プランジャー
130 ステッピングモータ
140 ピペット
145 液体吸引用シリンジ
150 切換弁
160 第2ポート
170 開閉弁
180 加圧・洗浄用シリンジ
190 圧送流路
200 ピペット側流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジに内包されたピストンと,前記シリンジから突出した前記ピストンの端面に連結されたナットと,前記ナットと螺合したボールねじと,前記ボールねじを駆動するモータと,液滴を吐出するために前記シリンジ吐出口先端に具備されたノズルとを備えた液滴吐出装置において,
前記ノズルは液面検出センサを備えたことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記液面検出センサは,静電容量を検出する少なくとも1対の金属電極と,前記金属電極に被覆された絶縁層とからなり,前記ノズル先端の内面に具備されたことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
前記ノズルは,ガラスや快削性セラミックなどの絶縁体からなり,先端に少なくとも2つの突起物が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項4】
請求項1項記載の液滴吐出装置の駆動方法であって,前記ノズル先端に残存する液量が吸引される吸引工程,所要量の液量が分注される吐出工程,吐出液滴が切り離される吸引工程の手順で,液滴が吐出されることを特徴とする液滴吐出装置の駆動方法。
【請求項5】
前記吸引,吐出,吸引工程の駆動パターンは,ピストンの移動量が一定になるように,一定速度領域が加減算により自動演算されるようにしたことを特徴とする請求項4に記載の液滴吐出装置の駆動方法。
【請求項6】
前記吸引,吐出,吸引工程の駆動パターンは,ピストンの移動量が一定となるように,減速領域で減速時間が自動演算されるようにしたことを特徴とする請求項4に記載の液滴吐出装置の駆動方法。
【請求項7】
前記駆動パターンが記憶される駆動パターン保存部と,駆動パターンが生成される指令生成部とからなる制御装置を備えたことを特徴とした請求項4乃至6に記載の液滴吐出装置の駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−138765(P2006−138765A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−329306(P2004−329306)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】