説明

液滴吐出装置

【課題】切り替えに要するインクの量を低減させることができる液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】本発明にかかる液滴吐出装置は、複数種のインクから一種のインクを選択する選択手段と、前記選択手段によって選択されたインクを流通させるインク流路と、前記インク流路を流通させたインクを吐出させるノズルと、前記インク流路のインクを加熱する加熱手段と、を有し、前記インク流路の第1インクを前記選択手段によって選択された第2インクで置き換える際に、前記加熱手段により前記第1インクを加熱させる加熱動作を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置をはじめとする液滴吐出装置では、記録の目的に応じてインクカートリッジを交換することができる。現に装着されているインクカートリッジとは異なるインクによって記録を行いたい場合には、現に装着されているインクカートリッジを一旦取り外し、それに代えて所望のインクが充填されたインクカートリッジを装着しなおすことができる。
【0003】
しかしながら、インクカートリッジの交換は、液滴吐出装置のユーザーにとって煩雑な作業であり、該ユーザーに過大な負担を強いることになる。
【0004】
そこで、特許文献1では、インクカートリッジを交換することなく同一のノズルから吐出されるインクを必要に応じて交換することが可能な切り替え手段を備えた液滴吐出装置が提案されている。これによれば、例えば、フォトブラックおよびマットブラックのいずれか1種を同一のノズルから選択的に吐出させることができる。
【0005】
一方、このような液滴吐出装置にあっては、ノズルにインクが充填された状態で長時間放置すると、インクの固着等によってノズルに目詰まりを生じ、インク滴が正常に吐出されないことがある。かかる場合には、記録媒体上に正確なドットを形成することができないため、きれいな記録を行うことができなくなる。このような観点から、インクと該ノズルを洗浄するための洗浄液との切り替え手段を備えた液滴吐出装置が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−230006号公報
【特許文献2】特開2006−240010号公報
【特許文献3】特開2009−269291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述したような同一のノズルから吐出されるインクと洗浄液との切り替え手段を備えた液滴吐出装置において切り替えを実行すると、切り替える際に両者が互いに混ざり合い、切り替えに要する液体量が非常に多く、時間がかかるという課題があった。
【0008】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の一つは、切り替えに要するインクの量を低減させることができる液滴吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0010】
[適用例1]
本発明にかかる液滴吐出装置の一態様は、
複数種のインクから一種のインクを選択する選択手段と、
前記選択手段によって選択されたインクを流通させるインク流路と、
前記インク流路を流通させたインクを吐出させるノズルと、
前記インク流路のインクを加熱する加熱手段と、
を有する。
【0011】
適用例1の液滴吐出装置によれば、インク流路内のインクを加熱することによって、インク流路内のインクの粘度を低下させることができる。これにより、インク流路内のインクを別のインクで置き換える際に、置き換えが効率的にでき、置き換えに要する別のインクの使用量を低減させることができる。
【0012】
[適用例2]
適用例1において、
前記インク流路の第1インクを前記選択手段によって選択された第2インクで置き換える際に、前記加熱手段により前記第1インクを加熱させる加熱動作を行うことができる。
【0013】
適用例2の液滴吐出装置によれば、第1インクの粘度を低下させることができ、置き換えに要する第2インクの使用量を低減させることができる。
【0014】
[適用例3]
適用例2において、
前記加熱動作により、
(第1インクの粘度)<(第2インクの粘度)
の関係とすることができる。
【0015】
適用例3の液滴吐出装置によれば、インクの置き換えをより効率的に行うことができ、置き換えに要する第2インクの使用量をより低減することができる。
【0016】
[適用例4]
適用例2または適用例3において、
前記加熱動作は、該加熱動作前に、
(第1インクの粘度)−(第2インクの粘度)≧0.9[mPa・s]
の関係にあるときに行われることができる。
【0017】
適用例4の液滴吐出装置によれば、加熱動作における第1インクの加熱を効率的に行うことができ、省エネルギー化を図ることができる。
【0018】
[適用例5]
適用例2ないし適用例4のいずれか1例において、
前記加熱動作は、該加熱動作前に、
(第1インクの粘度)−(第2インクの粘度)≧0[mPa・s]
の関係にあるときに行われることができる。
【0019】
適用例5の液滴吐出装置によれば、加熱動作における第1インクの加熱を効率的に行うことができ、より効率的に第2インクへの置き換えを行うことができる。
【0020】
[適用例6]
適用例2ないし適用例5のいずれか1例において、
前記加熱動作により、
0.8[mPa・s]≦(第2インクの粘度)−(第1インクの粘度)
の関係とすることができる。
【0021】
適用例6の液滴吐出装置によれば、インクの置き換えをより一層効率的に行うことができ、置き換えに要する第2インクの使用量をより一層低減することができる。
【0022】
[適用例7]
適用例1ないし適用例6のいずれか1例において、
前記複数種のインクの少なくとも1種は、色材を含有することができる。
【0023】
[適用例8]
適用例1ないし適用例7のいずれか1例において、
前記複数種のインクの少なくとも1種は、洗浄液であることができる。
【0024】
適用例8の液滴吐出装置によれば、液滴吐出装置を長期間放置した場合において、ノズルの目詰まりを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】選択手段を備えたプリンターの主要構成部を示す概略斜視図。
【図2】図1に示したプリンターの電気的な構成を示すブロック図。
【図3】プリンターの電源がON状態のときに行う切り替え処理の流れを説明するためのフローチャート。
【図4】プリンターの電源がOFF状態になる前に行う切り替え処理の流れを説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の好適な実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。なお、以下の実施形態で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0027】
1.液滴吐出装置
1.1.装置構成
以下、液体吐出装置の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、液滴吐出装置としてインクジェットプリンター(以下、「プリンター」という。)を例に挙げて、その主要な構成について説明する。図1は、プリンターの主要構成部を示す概略斜視図であり、図2は、図1に示したプリンターの電気的な構成を示すブロック図である。
【0028】
本実施形態では、図1および図2を用いて、2種のインクを切り替えることができる選択手段56を有するプリンター20について記述するが、本発明にかかるプリンターが備える選択手段は、3種以上のインクを切り替えるものであってもよい。また、以下の説明では、第1インクは、顔料が分散された分散体の性状であって、長期間の放置により顔料成分が沈降して沈殿を生じる可能性があるものとする。そして、第2インクは、例えば洗浄液のように、沈殿を生じにくい性状の溶液であるものとする。なお、第3インクを備える場合には、第3インクは、例えば洗浄液のように、沈殿を生じにくい性状の溶液であるものとする。
【0029】
図1に示すように、プリンター20は、用紙スタッカー22と、図示しないステップモーターで駆動される紙送りローラー24と、プラテン26と、キャリッジ28と、キャリッジモーター30と、キャリッジモーター30によって駆動される牽引ベルト32と、キャリッジ28の走査を案内するガイドレール34と、を備えることができる。また、キャリッジ28には、多数のノズルを備える記録ヘッド36が搭載されている。
【0030】
図1に示すように、記録ヘッド36は、液体供給路41、42、43、44、45を介して各カートリッジ11a、11b、12、13、14、15と接続されている。具体的には、記録ヘッド36の内部には、液体供給路毎に対応する液体流路が設けられており、各液体供給路とこれに対応する液体流路とが接続されている。また、液体流路には、インクを吐出するための開口部が形成されている。なお、開口部は、本実施形態におけるノズルに相当する。
【0031】
図1に示すように、カートリッジ12にはブラックインク(K)、カートリッジ13にはシアンインク(C)、カートリッジ14にはマゼンタインク(M)、カートリッジ15にはイエローインク(Y)がそれぞれ収容されている。さらに、カートリッジ11aには第1インクが、カートリッジ11bには第2インクがそれぞれ収容されている。
【0032】
ここで、第2インクは、記録ヘッド36に備えられたノズルのうち、第1インクが吐出されるノズルと同一のノズルから吐出される。すなわち、液体供給路41と、液体供給路41に接続された液体流路と、には、選択手段56を介して第1インクと第2インクとが選択的に供給されるようになっている。なお、請求項におけるインク流路は、本実施形態における液体供給路41および液体供給路41に接続された液体流路に相当する。
【0033】
なお、図示しないカートリッジをさらに設けて、これに第3インクを収容して、該第3インクを第1インクが吐出されるノズルに、選択手段56を介して第1インク、第2インクおよび第3インクが選択的に充填されるように構成してもよい。この場合は、選択手段56は、3種のインクの切り替えが可能となるように適宜構成される。
【0034】
各カートリッジは、各インク(画像形成液)を収容したインクパックを備えており、インクパックの周囲には空気室が形成されている。図示しない加圧手段によって空気室を加圧することによって各インクパック内のインクが液体供給路41、42、43、44、45を経由して記録ヘッド36へ供給される。このように、本実施形態では、プリンター20は、キャリッジ28上にインクカートリッジが搭載されるいわゆるオンキャリッジタイプのプリンターとは異なり、プリンター20本体の所定の位置に固定的に装着されるオフキャリッジタイプのインクジェットプリンターを例示する。また、ここでは、加圧手段によって、ノズルからインクを吐出させる(押し出す)ことによって置換させる態様を例示しているが、ノズル側から吸引手段によってインクを吐出させる(抜き出す)ことによって置換させる態様であってもよい。
【0035】
図1に示すように、選択手段56は、カートリッジ11aおよびカートリッジ11bに接続されている。また、選択手段56は液体供給路41に接続されている。選択手段56は、例えば液体供給路41に供給するインクを切り替える弁を備えることができる。これにより、弁の開閉動作によってインクを選択して、選択したインクを液体供給路41に供給することができる。
【0036】
図1に示すように、プリンター20は、加熱手段59を有する。加熱手段59は、液体供給路41および液体供給路41に接続された液体流路に充填されているインクを加熱できるのであれば、その形状や設置位置が限定されるものではない。例えば、加熱手段59を液体供給路41および液体供給路41に接続された液体流路の全体に渡って設けてもよいし、図1に示すように加熱手段59を液体供給路41の一部に設けてもよい。また、加熱手段59は複数設けられていてもよい。なお、加熱手段59の加熱機構としては、特に限定されず、例えば電熱ヒーター等を用いることができる。
【0037】
記録用紙P(記録媒体)は、用紙スタッカー22から紙送りローラー24によって巻き取られてプラテン26の表面上を、記録ヘッド36の主走査方向と直交する副走査方向へ送られる。キャリッジ28は、キャリッジモーター30により駆動される牽引ベルト32に牽引されて、ガイドレール34に沿って主走査方向に移動する。
【0038】
プリンター20は、図2に示すように、ホストコンピューター90から供給された信号を受信する受信バッファメモリー50と、画像データを格納するイメージバッファー54と、プリンター20全体の動作を制御するシステムコントローラー51(制御手段)と、メインメモリー52と、EEPROM53と、を備えている。EEPROM53に記憶されたファームウェアをメインメモリー52に読み出し実行することによって、プリンター20の各種動作が実現される。
【0039】
また、システムコントローラー51には、キャリッジモーター30を駆動する主走査駆動回路61と、紙送りモーター31を駆動する副走査駆動回路62と、記録ヘッド36を駆動するヘッド駆動回路63と、が接続されている。副走査駆動回路62、紙送りモーター31および紙送りローラー24は、紙送り機構を構成している。
【0040】
システムコントローラー51は、受信バッファメモリー50が受信した記録データに含まれる各種コマンドや、予めEEPROM53に書き込まれた設定条件等に応じて、主走査駆動回路61および副走査駆動回路62を制御する。
【0041】
例えば、高画質の画像を記録するように設定されている場合は、主走査駆動回路61および副走査駆動回路62によって、ラスタを副走査方向に間欠的に形成しつつ画像を記録するいわゆるインターレース方式の記録を行う。また、1ラスタを形成するノズルを間欠的タイミングで駆動させて記録するいわゆるオーバーラップ方式の記録を行うこともできる。
【0042】
さらに、システムコントローラー51には、表示手段55と、選択手段56と、計時手段57と、ノズル吐出検査手段58と、加熱手段59と、が接続されている。表示手段55は、プリンター20の液晶表示画面に表示内容を表示する。あるいは、表示内容をホストコンピューター90のプリンタードライバ91へ送信し、ドライバの表示画面91に表示する。選択手段56は、上述したように切り替え弁を備えることができ、システムコントローラー51からの指示に応じて液体供給路41に供給する液体を自動的に第1インクまたは第2インクのいずれかに切り替える。また、図示しないが、選択手段56は、3種以上のインクを切り替えるように構成されてもよい。計時手段57は、液体供給路41および液体供給路41に接続された液体流路に第1インクが充填されたまま吐出動作がない状態(第1充填状態)が継続する時間、すなわち放置時間を計時する。また、加熱手段59は、上述したように電熱ヒーター等の加熱機構を備えることができ、システムコントローラー51からの指示に応じて、液体供給路41や液体流路のインクを加熱する。
【0043】
ノズル吐出検査手段58は、キャリッジ28上の記録ヘッド36による記録可能なエリアから外れた非記録エリアに配置されている。キャリッジ28が、主走査方向に沿って記録エリアから非記録エリアへ移動することで、吐出状態の検査を行う状態となる。ノズル吐出検査手段58は、非記録エリアに移動した記録ヘッド36の各ノズルと対向するように記録ヘッド36の下方に配置されている。そして、ノズル吐出検査手段58は、記録ヘッド36の各ノズルから吐出されたインク滴を受けるための導電性インク吸収体と、帯電したインク滴の接近によって導電性インク吸収体に生じる誘導電流を検出する検出部と、各ノズルからインク滴を吐出する際にこのインク滴を帯電させるべく導電性インク吸収体に電圧を印加する電圧印加部と、導電性インク吸収体を収容するための有底容器と、を備えている。
【0044】
帯電したインク滴が各ノズルから導電性インク吸収体へ向けて吐出されると、このインク滴の接近に伴って導電性インク吸収体には、静電誘導現象等に基づいて誘導電流が生じる。すなわち、インク滴の接近に伴って、導電性インク吸収体にはインク滴とは逆極性の電荷が誘起されるように誘導電流が流れる。この誘導電流の検出の有無によってノズル詰まりを検査する。
【0045】
1.2.インクの切り替え方法
以上の構成を備えたプリンター20において、第1インクと第2インクとを切り替える方法について説明する。システムコントローラー51は、液体供給路41および液体供給路41に接続された液体流路(以下、単に「液体供給路41および液体流路」ともいう。)において、第2インクが充填された第2充填状態から、第1インクが充填された第1インク充填状態に切り替えたり、第1充填状態から第2充填状態に切り替えたりする制御を行うことができる。以下では、プリンター20の電源がON状態のときに行う切り替え処理と、プリンター20の電源がOFF状態になる前に行う切り替え処理についてそれぞれ説明する。
【0046】
(1)プリンターの電源がON状態のときに行う切り替え処理
図3は、プリンターの電源がON状態の時に行う切り替え処理の流れを説明するためのフローチャートである。システムコントローラー51は、例えば、プリンター20の電源がオンにされたときに発信される信号や、プリンター20に印刷ジョブが入力されたときに発信される信号などを受信した場合に、図3のフローを開始させる。
【0047】
まず、システムコントローラー51は、EEPROM53に記憶されている現在液体供給路41および液体流路に充填されているインクの情報を読み出す(ステップS11)。
【0048】
次に、システムコントローラー51は、EEPROM53から読み出した情報から、液体供給路41および液体流路に充填されているインクが第2インクであるか否かを判定する(ステップS12)。第2インクであれば(ステップ12:Yes)、システムコントローラー51は、液体供給路41および液体流路の第2インクを第1インクに切り替える(ステップS13)。ステップS13において、システムコントローラー51は、選択手段56に対して第2インク側の弁を閉じて、第1インク側の弁を開けるよう指示する。次に、システムコントローラー51は、カートリッジ11aの図示しない加圧手段を駆動させて、第1インクを液体供給路41および液体流路に供給する。このようにして、液体流路へ供給された第1インクは、液体流路におけるノズル位置に充填される。すなわち、それまで充填されていた第2インクは、第1インクによってノズルから押し出され、第1インクに切り替えられる(ステップS13)。
【0049】
また、システムコントローラー51は、インクの切り替え(ステップ13)とともに、EEPROM53に記憶されている液体供給路41および液体流路に充填されているインクの情報を、第1インクであることに書き換える(ステップ14)。本フローは、このようなステップを経て終了する。
【0050】
一方、ステップ12でNOであれば、システムコントローラー51は、ノズル吐出検査手段58にノズル吐出検査を実行させて(ステップS15)、検査結果に基づき第1インクが充填されていた液体流路におけるノズルにノズル抜けがあるか否かを判定する(ステップ16)。システムコントローラー51は、ノズル抜けがあると判定すると(ステップS16:Yes)、ノズルのクリーニングを行わせて、ノズル抜けを解消させる(ステップS17)。なお、ノズルのクリーニングは、図示しない吸引機構を用いてノズル内のインクの吸引や、ノズルから液滴を吐出させてノズルの詰まりを解消させるいわゆるフラッシング動作によって、行うことができる。本フローは、このようなステップを経て終了する。また、ステップ16において、システムコントローラー51がノズル抜けがないと判定すると(ステップS16:No)、本フローは終了する。
【0051】
なお、本フローにおけるステップS12では、予め、第2インクから第1インクに切り替えることが設定されていたものとする。このような第2インクから第1インクへの切り替えの設定は、例えば、第1インクを用いるという入力情報に基づいて行われる。入力情報は、例えば、ユーザーによる入力手段(プリンター20に設けられた入力手段や、プリンター20に有線または無線で接続されたPC等の入力手段)の操作によって、システムコントローラー51に入力される。
【0052】
(2)プリンター20の電源がOFF状態になる前に行う切り替え処理
次に、プリンター20の電源がOFF状態になる前に行う切り替え処理について説明する。図4は、プリンターの電源がOFF状態になる前に行う切り替え処理の流れを説明するためのフローチャートである。システムコントローラー51は、外部からプリンター20の電源をOFFする指示があると(ステップS21:Yes)、ホストコンピューター90のプリンタードライバ91に対して電源OFF継続予定時間の入力を促すメッセージを表示するよう指示する(ステップS22)。表示されたメッセージを読んだユーザーが電源OFF継続予定時間を入力すると、入力された値がプリンター20に送信される。
【0053】
システムコントローラー51は、入力を検知すると(ステップS23:Yes)、プリンタードライバ91から送信された電源OFF継続予定時間が予め設定された1ヶ月以上であるか否かを判定する(ステップS24)。システムコントローラー51は、電源OFF継続予定時間が1ヶ月以上であると判定すると(ステップS24:Yes)、選択手段56に対して第1インク側の弁を閉じて、第2インク側の弁を開けるよう指示する。次に、カートリッジ11bの図示しない加圧手段を駆動させて、第2インクを液体供給路41および液体流路に供給する。そして、液体流路へ供給された第2インクは、液体流路におけるノズル位置に充填される。すなわち、それまで充填されていた第1インクは、第2インクによってノズルから押し出され、第2インクに切り替えられる(ステップ25)。また、システムコントローラー51は、インクの切り替え(ステップ25)とともに、EEPROM53に記憶されている液体供給路41および液体流路に充填されているインクの情報を、第2インクであることに書き換える(ステップ26)。そして、システムコントローラー51は、電源OFF処理を実行する(ステップS27)。このようなステップを経て、本フローは終了する。
【0054】
一方、システムコントローラー51は、ステップS24で電源OFF継続予定時間が1ヶ月より短期間であると判定すると(ステップS24:No)、第1インクを第2インクへ切り替えることなく、そのまま電源OFF処理を実行する(ステップS27)。このようなステップを経て、本フローは終了する。
【0055】
以上のように、電源をOFFする指示があっても、電源OFF処理を実行する前に第1インクが充填された状態から第2インクが充填された状態へ切り替えることができる。すなわち、電源OFF中は、液体供給路41および液体供給路41に接続された液体流路に第2インクを充填させておくことができる。これにより、液体供給路41に接続された液体流路に、第1インクが充填されたままで長時間放置されることを防止することができる。一方、電源OFF継続予定時間が液体供給路41に接続された液体流路におけるノズルに目詰まりが発生する時間として経験的に得られた1ヶ月よりも短い場合は、第2インクが充填されることなく電源がOFFされる。すなわち、目詰まりが発生する前に電源がON状態となり吐出動作が行われる予定であるため、目詰まりを発生させる可能性が低く、第2インクを充填することなく電源をOFFする。これにより、第2インクを無駄に消費することを防止することができる。
【0056】
上記(1)および(2)で述べた通り、プリンター20は、所定の条件のときにシステムコントローラー51からの指示に応じて、第1充填状態および第2充填状態のいずれにも自動的に切り替える。そのため、インクの切り替えは、ユーザーが手動で行う必要がない。このため、液体供給路41および液体供給路41に接続された液体流路に第1インクまたは第2インクが自動的に充填される。
【0057】
さらに、選択手段56が、3種以上のインクを切り替えるように構成され、第1インク、第2インクおよび第3インクを切り替える構成とする場合には、選択手段56は、システムコントローラー51からの指示に応じて、第1充填状態、第2充填状態、および液体供給路41および液体供給路41に接続された液体流路に第3インクが充填された第3充填状態のいずれにも任意のタイミングで切り替えることができるように構成することができる。このようにすれば、所望の種類のインクを、液体供給路41および液体供給路41に接続された液体流路に充填することができる。
【0058】
1.3.インクの加熱
本実施形態に係るプリンター20は、液体供給路41および液体供給路41に接続された液体流路に充填されているインクを加熱することができる加熱手段59を備えている。そのため、第1インクとして温度上昇に伴って粘度が低下する性質のインクを用いると、第1充填状態から第2充填状態への切り替える場合の加熱動作によって、第1インクの粘度を低下させることができる。これにより、第1インクから第2インクへの置き換えが容易になる。なお、本実施形態における加熱動作とは、インク流路内のインクを別のインクで置き換える際に、インク流路内のインクを加熱手段によって加熱することをいう。
【0059】
また、第1充填状態から第2充填状態への切り替える場合の加熱動作によって、第1インクおよび第2インクの粘度の関係が、(第1インクの粘度)<(第2インクの粘度)の関係とすることが好ましく、0.8[mPa・s]≦(第2インクの粘度)−(第1インクの粘度)の関係とすることがより好ましい。加熱動作後に、第1インクの粘度と第2インクの粘度とが上記関係にあると、液体供給路41および液体流路の第1インクが、第2インクによって押し出されやすくなり、効率的にインクの切り替えを行うことができる。また、(第1インクの粘度)<(第2インクの粘度)の関係にあると、これと逆の関係((第1インクの粘度)>(第2インクの粘度))にある場合と比較して、第2インクの消費量を低減することができる。
【0060】
また、第1充填状態から第2充填状態への切り替える場合の加熱動作は、加熱動作前に、第1インクおよび第2インクの粘度の関係が、(第1インクの粘度)−(第2インクの粘度)≧0.9[mPa・s]であるときに行われることが好ましく、(第1インクの粘度)−(第2インクの粘度)≧0[mPa・s]であるときに行われることがより好ましい。このようにすると、効率的に第1インクの加熱を行って、第1インクの粘度を低下できる。これにより、液体供給路41および液体流路の第1インクを、第2インクによって押し出しやすくすることができる。
【0061】
なお、第1充填状態から第2充填状態への切り替える場合の加熱動作は、加熱動作前に上記の条件((第1インクの粘度)−(第2インクの粘度)≧0[mPa・s])の場合に行われることが省エネルギー化の観点から好ましいが、これに限定されず、(第1インクの粘度)−(第2インクの粘度)<0[mPa・s]の場合にも行ってもよい。これにより、第1インクと第2インクとの粘度差をさらに広げることができ、第1インクから第2インクへの置き換えを容易にしたり、第1インクから第2インクへの置き換えにおける第2インクの消費量を低減させたりすることができる。
【0062】
プリンター20は、インク充填状態を切り替える際に、インク充填状態を切り替える内容に応じて、加熱動作およびインクの切り替えを行うか、あるいは加熱動作を行わずにインクの切り替えを行うかの判断をして、判断結果に応じてインクの切り替えを行っても良い。
【0063】
また、プリンター20は、加熱動作を行うことの可否や、インクの切り替えの内容に応じて、インク切り替えの際に第2インクをノズルに供給するインク供給量を変更させてもよい。例えば、第1充填状態から第2充填状態へ切り替える場合の加熱動作において、第2インクの供給量は、加熱動作を行わない場合の第2インクの供給量よりも、少なく設定してもよい。
【0064】
なお、プリンター20は、インクの切り替えの際に行う加熱(加熱動作)を行うよりも前から第1インクの加熱を行わせてもよい。この場合において、インクの切り替えの際にインクの切り替えに伴い行う加熱(加熱動作)によって、この加熱動作を行う前よりも第1インクの温度を上昇させて粘度を低下させることができる。
【0065】
各インクの粘度は、例えば、振動式粘度計VM−100AL(山一電機株式会社製)を用いて測定することができる。また、加熱前における各インクの粘度差は、各インクを同一温度(例えば20℃)に保ったときの粘度をあらかじめ測定しておき、その測定結果から求めることができる。
【0066】
また、インクの加熱温度は、使用するインクの各温度における粘度をあらかじめ測定おき、これを基に所望の温度に設定することができる。
【0067】
なお、インクの加熱について、第1充填状態から第2充填状態への切り替えを例に挙げて説明したが、これに限定されない。いかなる状態への切り替え(例えば、第2充填状態から第1充填状態への切り替え)であっても、切り替えられるインクおよび切り替えるためのインクの粘度関係が、上記の第1インクおよび第2インクの粘度関係と同様になるように、インクの加熱を行えばよい。これにより、上記の第1充填状態から第2充填状態への切り替えと同様の効果が得られる。
【0068】
1.4.インクの組成
上述した第1インク、第2インクおよび第3インクのそれぞれの成分は、いずれも特に限定されず、例えば、水、有機溶剤、色材、界面活性剤、およびその他の成分の少なくとも一種が適宜配合されたものであることができる。第1インク、第2インクおよび第3インクのそれぞれの性状は、いずれも液体または分散体である。
【0069】
以下、第1インク、第2インクおよび第3インクのそれぞれに配合されることができる成分について述べるが、第1インク、第2インクおよび第3インクは、互いに異なる成分を含有してもよいし、互いに同じ成分を含有して各成分の含有量が異なっていてもよい。したがって、第1インク、第2インクおよび第3インクのいずれか一種のインクを単に「インク」と称して説明する。
【0070】
(1)水
本実施形態のインクは、水を含有することができる。インクに使用可能な水としては、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水などの純水または超純水などである。上述の粒子の分散の妨げにならない程度であれば、水中にはイオン等が存在してもよい。特に、これらの水を紫外線照射または過酸化水素添加などにより滅菌処理した水は、カビやバクテリアの発生を長期間抑制することができ、インクを長期に安定に保つことができるためより好ましい。
【0071】
本実施形態のインクに水を含有させる場合の水の含有量は、限定されないが、インクの全量に対して50質量%以上95質量%以下であることが好ましい。インクにおける水の含有量が、この範囲内であると、例えば、顔料をインクに配合した場合の顔料の分散性を高めることができ、インクの保存安定性を高めることができる。
【0072】
なお、水の含有量が50質量%以上95質量%以下であるということは、水以外の成分の含有量が5質量%以上50質量%以下であることを示している。本明細書では、水以外の成分のことを固形分と称することがあり、水の含有量が50質量%以上95質量%以下であるということは、インクにおける固形分の濃度が5質量%以上50質量%以下であることを指している。
【0073】
(2)浸透助剤または保湿剤
本実施形態のインクは、必要に応じて、浸透助剤および保湿剤の少なくとも一方を含有してもよい。浸透助剤の機能の一つとしては、記録媒体などの被記録面への濡れ性を高めてインクの浸透性を高めることが挙げられる。また、保湿剤の機能の一つとしては、インクの乾燥を抑制することが挙げられる。
【0074】
浸透助剤および保湿剤の典型例としては、多価アルコール類、アミノ酸誘導体、ピロリドン誘導体、および糖類などが挙げられる。これらの中でも多価アルコール類は、単一の化合物であっても、浸透助剤および保湿剤の両方の機能を果たすことができる場合がある。
【0075】
多価アルコール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールなどの炭素数が4以上8以下のアルカンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、およびグリコールエーテル類が挙げられる。
【0076】
グリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテルを挙げることができる。この中でも、トリエチレングリコールモノブチルエーテルがインクに配合されると、さらに良好な記録品質を得ることができる。
【0077】
これらの多価アルコール類は、インクをインクジェット記録装置に適用した場合に、インクの乾燥を防止し、インクジェット記録ヘッド部分における目詰まりを防止する効果およびインクの記録媒体への浸透性を高める効果の少なくとも一方を有することができる。
【0078】
なお、上述したアルカンジオールのうち、インクの記録媒体への浸透性を向上させる効果に優れているという観点から、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールなどの炭素数が4ないし8の1,2−アルカンジオールであることが好ましい。さらにこの中でも炭素数が6ないし8の1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオールは、浸透性を高める作用が特に良好であるため、より好ましく用いることができる。
【0079】
アミノ酸誘導体としては、例えば、グリシンベタイン、アトリニン、カルニチン、γ−ブチロベタイン、トリゴネリン、β−アラニンベタイン、ホマリン、ホモセリンベタイン、アントプレウリン、バリンベタイン、リジンベタイン、オルニチンベタイン、アラニンベタイン、タウロベタイン、スタキドリン、グルタミン酸ベタイン、フェニルアラニンベタイン等のアミノ酸のN−トリアルキル置換体であるベタイン類等が挙げられる。
【0080】
ピロリドン誘導体としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ブチル−2−ピロリドン、5−メチル−2−ピロリドン、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0081】
糖類としては、単糖類、オリゴ糖類および多糖類が挙げられ、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、フコース、リボース、フルクトース、キシロース、アラビノース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、ラフィノース、パノース、イルマルトース、スタキオース、ゲンチオビース、ゲンチアノース等が挙げられる。
【0082】
アミノ酸誘導体、ピロリドン誘導体および糖類は、インクをインクジェット記録装置に適用した場合に、インクの乾燥を防止し、インクジェット記録ヘッド部分における目詰まりを防止する効果およびインクの記録媒体への浸透性を高める効果の少なくとも一方を有することができる。
【0083】
本実施形態のインクをインクジェット記録装置に適用する場合であって、インクを浸透助剤および保湿剤を含有させる場合には、これらの含有量は、インクの全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上15質量%以下である。
【0084】
(3)粘度調整剤
本実施形態のインクは、粘度調整剤を含有することができる。粘度調整剤は、インクの粘度を調節する機能を有する。粘度調整剤を用いると、インクの粘度調整が容易になる観点から好ましい。なお、インクの粘度調整は、粘度調整剤によって行わなくてもよく、インクに含まれる成分の含有量等を調整することによっても行うことができる。
【0085】
粘度調整剤としては、アルギン酸類、セルロース誘導体、上述した保湿剤等が挙げられる。これらの中でも、インクの粘度調整と同時に、インクジェット記録ヘッド部分における目詰まりを防止できるという点から、上述した保湿剤を好ましく用いることができる。
【0086】
アルギン酸類としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウムおよびアルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、アルギン酸エステル等のアルギン酸誘導体などが挙げられる。
【0087】
セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等が挙げられる。
【0088】
本実施形態のインクに粘度調整剤を用いる場合には、所望の粘度になるように添加量を調整すればよく、その添加量は特に限定されるものではない。
【0089】
(4)界面活性剤
本実施形態のインクは、界面活性剤を含有することができる。本実施形態のインクに好適な界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤およびポリシロキサン系界面活性剤の少なくとも一種が挙げられる。これらの界面活性剤がインクに配合されると、記録媒体の被記録面への濡れ性が高まり、インクの記録媒体への浸透性をさらに向上させることができる。
【0090】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,4−ジメチル−5−ヘキシン−3−オール等が挙げられる。また、アセチレングリコール系界面活性剤は、市販品を利用することもでき、例えばオルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学株式会社製)、サーフィノール104、82、465、485、TG(以上、Air Products and Chemicals Inc.製)が挙げられる。ポリシロキサン系界面活性剤としては、市販品を利用することができ、例えばBYK−347、BYK−348、BYK−UV3500(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。さらに、本実施形態のインク組成物には、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等のその他の界面活性剤を添加してもよい。
【0091】
本実施形態のインクに界面活性剤を含有させる場合には、界面活性剤の含有量は、インクの全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下である。
【0092】
(5)pH調整剤
本実施形態のインクは、pH調整剤を含有することができる。本実施形態のインクに好適なpH調整剤としては、特に制限されず、例えばリン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、および炭酸水素ナトリウムの少なくとも一種が挙げられる。またこれらのうち、pH調整剤としてトリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の第三級アミンを選択すると、インクのpHの調整がより容易となる。インクにpH調整剤を含有させる場合には、その含有量は、インクの全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上10質量%であり、より好ましくは0.1質量%以上2質量%以下である。
【0093】
(6)色材
本実施形態のインクには、色材として顔料、染料、金属酸化物および中空構造を有する粒子から選択される少なくとも1種を含有させてもよい。本実施形態のインク中における色材の含有量は、インク全質量に対して、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上10質量%以下である。
【0094】
(6−1)顔料
本実施形態において使用可能な顔料としては、特に制限されないが、無機顔料や有機顔料が挙げられる。
【0095】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0096】
また、有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0097】
更に詳しくは、ブラック用として使用される無機顔料としては、以下のカーボンブラック、例えば、三菱化学製のNo.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、又はNo2200B等;コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、又はRaven700等;キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、またはMonarch 1400等;あるいは、デグッサ社製のColor Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color Black S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、またはSpecial Black 4等が挙げられる。
【0098】
イエロー有機顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180等が挙げられる。
【0099】
マゼンタ有機顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、またはC.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
【0100】
シアン有機顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、15:34、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー4、60等が挙げられる。
【0101】
また、マゼンタ、シアンおよびイエロー以外の有機顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン7、10、C.I.ピグメントブラウン3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63等が挙げられる。
【0102】
(6−2)染料
染料としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料等の通常インクジェット記録に使用する各種染料を使用することができる。
【0103】
イエロー系染料としては、C.I.アシッドイエロー1、3、11、17、19、23、25、29、36、38、40、42、44、49、59、61、70、72、75、76、78、79、98、99、110、111、127、131、135、142、162、164、165、C.I.ダイレクトイエロー1、8、11、12、24、26、27、33、39、44、50、58、85、86、87、88、89、98、110、132、142、144、C.I.リアクティブイエロー1、2、3、4、6、7、11、12、13、14、15、16、17、18、22、23、24、25、26、27、37、42、C.I.フードイエロー3、4、C.I.ソルベントイエロー15、19、21、30、109等が挙げられる。
【0104】
マゼンタ系染料としては、C.I.アシッドレッド1、6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、37、42、51、52、57、75、77、80、82、85、87、88、89、92、94、97、106、111、114、115、117、118、119、129、130、131、133、134、138、143、145、154、155、158、168、180、183、184、186、194、198、209、211、215、219、249、252、254、262、265、274、282、289、303、317、320、321、322、C.I.ダイレクトレッド1、2、4、9、11、13、17、20、23、24、28、31、33、37、39、44、46、62、63、75、79、80、81、83、84、89、95、99、113、197、201、218、220、224、225、226、227、228、229、230、231、C.I.リアクティブレッド1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13、15、16、17、19、20、21、22、23、24、28、29、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、45、46、49、50、58、59、63、64、C.I.ソルビライズレッド1、C.I.フードレッド7、9、14等が挙げられる。
【0105】
シアン系染料としては、C.I.アシッドブルー1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、41、43、45、54、59、60、62、72、74、78、80、82、83、90、92、93、100、102、103、104、112、113、117、120、126、127、129、130、131、138、140、142、143、151、154、158、161、166、167、168、170、171、182、183、184、187、192、199、203、204、205、229、234、236、249、C.I.ダイレクトブルー1、2、6、15、22、25、41、71、76、77、78、80、86、87、90、98、106、108、120、123、158、160、163、165、168、192、193、194、195、196、199、200、201、202、203、207、225、226、236、237、246、248、249、C.I.リアクティブブルー1、2、3、4、5、7、8、9、13、14、15、17、18、19、20、21、25、26、27、28、29、31、32、33、34、37、38、39、40、41、43、44、46、C.I.ソルビライズバットブルー1、5、41、C.I.バットブルー4、29、60、C.I.フードブルー1、2、C.I.ベイシックブルー9、25、28、29、44等が挙げられる。
【0106】
また、マゼンタ、シアンおよびイエロー以外の染料としては、例えば、C.I.アシッドグリーン7、12、25、27、35、36、40、43、44、65、79、C.I.ダイレクトグリーン1、6、8、26、28、30、31、37、59、63、64、C.I.リアクティブグリーン6、7、C.I.アシッドバイオレット15、43、66、78、106、C.I.ダイレクトバイオレット2、48、63、90、C.I.リアクティブバイオレット1、5、9、10、C.I.ダイレクトブラック154等が挙げられる。
【0107】
(6−3)金属酸化物粒子
金属酸化物粒子としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、酸化マグネシウム等の粒子が挙げられる。
【0108】
金属酸化物粒子の平均粒子径(d50)は、好ましくは30nm以上600nm以下であり、より好ましくは200nm以上400nm以下である。平均粒子径が前記範囲を超えると、インク組成物中で粒子が沈降するなどして分散安定性を損なうことがあり、またヘッドの目詰まり等信頼性を損なうことがある。一方、平均粒子径が前記範囲未満であると、所望の色が得られない場合がある。
【0109】
なお、本明細書における平均粒子径d50は、粒径加積曲線を用いて測定することができる。粒径加積曲線とは、水等の分散媒に分散された粒子について、粒子の直径、および当該粒子の存在数を求めることができる測定を行った結果を、統計的に処理して得られる曲線の一種である。本明細書における粒径加積曲線は、粒子の直径を横軸にとり、粒子の質量(粒子を球と見なしたときの体積、粒子の密度および数の積)について、直径の小さい粒子から大きい粒子に向かって積算した値(積分値)を縦軸にとったものである。そして、粒径d50とは、粒径加積曲線において、縦軸を規格化(測定された粒子の総質量を1と)したときに、縦軸の値が50%(0.50)となるときの、横軸の値すなわち粒子の直径のことをいう。
【0110】
粒径加積曲線は、例えば、動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置を使用することによって求めることができる。動的光散乱法は、分散している有機粒子にレーザー光を照射し、その散乱光を光子検出器で観測するものである。一般に分散している粒子は、通常ブラウン運動をしている。粒子の運動の速度は、粒子直径の大きな粒子ほど大きく、粒子直径の小さな粒子ほど小さい。ブラウン運動をしている粒子にレーザー光を照射すると、散乱光において、各粒子のブラウン運動に対応した揺らぎが観測される。この揺らぎを測定し、光子相関法等により自己相関関数を求め、キュムラント法およびヒストグラム法解析等を用いることで粒子の直径や、直径に対応した粒子の頻度(個数)を求めることができる。本実施の形態に用いられる金属酸化物粒子のようにサブミクロンサイズの粒子を含む試料に対しては、動的光散乱法が適しており、動的光散乱法により比較的容易に粒径加積曲線を得ることができる。動的光散乱法に基づく粒子径分布測定装置としては、例えばナノトラックUPA−EX150(日機装株式会社製)、ELSZ−2、DLS−8000(以上、大塚電子株式会社製)、LB−550(株式会社堀場製作所製)等が挙げられる。
【0111】
(6−4)中空構造を有する粒子
中空構造を有する粒子としては、特に限定されず、スチレン−アクリル樹脂等の有機化合物から形成されるものや、無機化合物から形成されるものなど、公知のものを用いることができる。
【0112】
中空構造を有し有機化合物からなる粒子としては、例えば、米国特許第4,880,465号や特許第3,562,754号等の明細書に記載されている粒子を好ましく用いることができる。中空構造を有し有機化合物からなる粒子の調製方法は、特に限定されず、例えば以下のような公知の方法を適用することができる。中空構造を有し有機化合物からなる粒子の調製方法としては、例えば、ビニルモノマー、界面活性剤、重合開始剤、および水系分散媒を窒素雰囲気下で加熱しながら撹拌することにより中空構造を有する粒子エマルジョンを形成する、いわゆる乳化重合法や、特表2000−500113号公報、特開2009−234854号公報などに記載された製造方法を利用することができる。また、中空構造を有し有機化合物からなる粒子は、市販のものを用いることもできる。
【0113】
また、中空構造を有し無機化合物からなる粒子は、市販のものを用いることもできる。中空構造を有し無機化合物からなる粒子を製造する場合、その製造方法としては、特に限定されず、例えば、熱による発泡を利用して製造する方法、液相中でエマルションを利用して製造する方法、および、後に除去できる性質を有するコア(テンプレート)の周囲に所望の無機化合物のシェルを形成した後に、酸化、溶解等によりコアを除去して空洞を形成する方法などが挙げられる。
【0114】
中空構造を有する粒子の平均粒子径(d50:上述したシェルの外径)は、好ましくは200nm以上1000nm以下であり、より好ましくは400nm以上800nm以下である。中空構造を有する粒子の外径がこのような範囲にあれば、インク組成物中の分散を良好に保つことができ、また、記録媒体に付着された際に、所望の色を呈することができる。また、外径が1,000nmを超えると、粒子が沈降するなどして分散安定性を損なうことがあり、記録ヘッドの目詰まりなど信頼性を損なうことがある。一方、外径が200nm未満であると、所望の色が得られない場合がある。また、中空構造を有する粒子の内径(すなわち、上述したコアの外径)は、100nm以上800nm以下程度が適当である。中空構造を有する粒子の平均粒子径d50は、金属酸化物粒子の平均粒子径d50と同様の方法で測定することができる。
【0115】
(7)その他の成分
本実施形態のインクが顔料を含有する際には、顔料を分散させるための顔料分散剤を添加してもよい。好ましい分散剤としては、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、例えば高分子分散剤を使用することができる。このような分散剤としては、通常のインクにおいて用いられている任意の分散剤を用いることができる。インクに顔料分散剤を含有させる場合の含有量としては、インク中の顔料の含有量に対して、5〜200質量%、好ましくは30〜120質量%であり、分散すべき顔料によって適宜選択するとよい。
【0116】
本実施形態のインクは、例えば画像の記録媒体への定着を目的として、樹脂を含有してもよい。このような樹脂としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、塩化ビニリデンの単独重合体または共重合体、あるいはその変性体、あるいはポリウレタン、フッ素樹脂、天然樹脂等が挙げられる。なお、共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でもよい。また、樹脂として、ポリウレタンを用いる場合には、インクにおける分散性、記録媒体に付着した際の記録媒体への接着性が良好な点で、ポリカーボネート系またはポリエーテル系のポリウレタンが好ましい。さらに、ポリウレタンを用いる場合は、該ポリウレタンの合成は、公知の方法を適用することができ、例えば、2個以上のイソシアネート基を有する化合物と、2個以上の水酸基を有する化合物と、を反応させる方法を用いることができる。樹脂の機能の一つとしては、顔料を記録媒体に定着させることが挙げられる。
【0117】
本実施形態のインクは、必要に応じて、重合開始剤を含有してもよい。例えば、インクには、重合性官能基を有する化合物を配合してもよく、その場合、熱を加えたり、放射線を照射したりすることにより、重合することができるが、その重合の速度をより高める必要がある場合には、熱重合開始剤や放射線重合開始剤を添加することができる。
【0118】
なお、インクを水性とする場合には、重合開始剤は、必ずしも水溶性でなくてもよく、油溶性であってもよいし、難溶性であってもよい。これは、例えば、重合開始剤が油溶性である場合には、重合開始剤は、水系のインクにおいて、油相に存在することになり、また、難溶性であれば、重合開始剤は、例えば、画像形成工程の後、記録媒体上で水分がある程度除去された際に、重合性官能基に接触するようになり、所望の作用を発揮することができる。さらに、重合開始剤は、相間を移動する性質を有してもよく、インクの配合に応じて、かつ、必要に応じて適宜選択されることができる。
【0119】
また、本実施形態のインクには、有機溶剤を添加してもよい。このような有機溶剤としては、特に限定されないが、極性有機溶媒、例えば、アルコール類(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、フッ化アルコール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、カルボン酸エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等)、またはエーテル類(例えば、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)の他、2−ピロリドン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等を用いることができる。
【0120】
また、本実施形態のインクは、水溶性ロジンなどの定着剤、安息香酸ナトリウムなどの防黴剤・防腐剤、アロハネート類などの酸化防止剤、湿潤剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤、防腐剤、および防かび剤などの添加剤を含有してもよい。これらの添加剤は、1種単独で用いることもできるし2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0121】
本実施形態のインクは、従来公知の装置、例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、バスケットミル、ロールミルなどを使用して、従来のインクと同様に調製することができる。調製に際しては、メンブランフィルターやメッシュフィルターなどを用いて粗大粒子を除去することが好ましい。
【0122】
2.実施例
以下、本発明を以下の実験例により具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0123】
2.1.インクの調製
表1に示す配合量で、色材、有機溶剤(浸透助剤、保湿剤)、第三級アミン、界面活性剤およびイオン交換水を混合撹拌し、孔径5μmの金属フィルターにてろ過し、真空ポンプを用いて脱気処理をした。このようにして、色材を含有するインクをそれぞれ調製した。なお、表1に記載されている濃度の単位は質量%であり、粒子の欄については固形分換算濃度である。
【0124】
また、表2に示す配合量で、有機溶剤(浸透助剤、保湿剤)、第三級アミン、界面活性剤およびイオン交換水を混合撹拌し、孔径5μmの金属フィルターにてろ過し、真空ポンプを用いて脱気処理をした。このようにして、色材を含有しないインクをそれぞれ調製した。これらの色材を含有しないインクは、上述した洗浄液に該当する。なお、表2に記載されている濃度の単位は質量%である。
【0125】
【表1】

【0126】
【表2】

【0127】
表1および表2に示した各成分は、以下の通りである。
・シアン顔料(C.I.ピグメントブルー15:6)
・マゼンタ顔料(C.I.ピグメントバイオレット19)
・イエロー顔料(C.I.ピグメントイエロー74)
・ブラック顔料(カーボンブラック)
・中空構造を有する有機粒子(JSR株式会社製、商品名「SX8782(D)」、中空構造を有するスチレン−アクリル樹脂粒子の水分散タイプ、外径1,000nm、内径800nm、固形分濃度28%)
・二酸化チタン粒子(シーアイ化成株式会社製、商品名「NanoTek(R) Slurry」、固形分濃度15%、平均粒子径300nm)
・グリセリン(関東化学株式会社製)
・1,2−ヘキサンジオール(三菱ガス化学株式会社製)
・トリエタノールアミン(ナカライテスク株式会社製)
・BYK−348(商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製、ポリシロキサン系界面活性剤)
【0128】
2.2.インクの置換試験
図1に示すような選択手段56を備えたインクジェットプリンターを用意し、カートリッジ11aには色材を含有するインク(A)を充填し、カートリッジ11bには色材を含有しないインク(B)を充填した。各インクの組み合わせについて、表3および表4に示す。
【0129】
【表3】

【0130】
【表4】

【0131】
2.2.1.加熱後の(A)→(B)への置換
選択手段56により、色材を含有しないインク(B)を記録ヘッド36へ供給できるようにし、記録ヘッド36、供給路41および選択手段56を色材を含有するインク(A)で満たした。次いで、加熱手段59により、色材を含有するインク(A)を60℃まで加熱した。次いで、選択手段56により、色材を含有しないインク(B)を記録ヘッド36へ供給できるようにし、色材を含有するインク(A)を色材を含有しないインク(B)で置換する操作を行った。記録ヘッド36、供給路41および選択手段56の内容量の合計を100とした時に、置換するのに必要な色材を含有しないインク(B)の量を測定した。
【0132】
具体的には、色材を含有しないインク(B)の供給量が150、180、210、240、300となる時にノズルから吐出される液体で、PETフィルム(商品名「ルミラー」、東レ株式会社製)上に記録することにより評価用試料を作製した。なお、記録は1440×720dpiの解像度で行い、記録パターンは100%dutyベタパターンとした。なお、「duty」とは、下式(1)で算出される値である。
【0133】
duty(%)=実記録ドット数/(縦解像度×横解像度)×100 …(1)
(式中、「実記録ドット数」は単位面積当たりの実記録ドット数であり、「縦解像度」および「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
これとは別途、印刷ヘッド36が完全に色材を含有しないインク(B)によって満たされた状態で、PETフィルム(商品名「ルミラー」、東レ株式会社製)に対して印刷することにより印刷物(リファレンス)を得た。
【0134】
得られた評価用試料およびリファレンスのそれぞれについて、Gretag Macbeth SpetroscanおよびSpectrolino(X−Rite社製)を用いてL値を測定した。評価用試料のL値とリファレンスのL値との差ΔE(色差)3以下となった時にインクの置換が完了したものとみなした。なお、インクの置換の容易性を示す評価基準は、以下の通りであり、評価結果を表3に併せて示す。
【0135】
記録ヘッド36、供給路41および選択手段56の内容量の合計を100とした時のインクの量が、
A:必要なインク量が150未満
B:必要なインク量が150以上、180未満
C:必要なインク量が180以上、210未満
D:必要なインク量が210以上、240未満
E:必要なインク量が240以上、300未満
F:必要なインク量が300以上
【0136】
2.2.2.(A)→(B)への置換
選択手段56により、色材を含有しないインク(B)を記録ヘッド36へ供給できるようにし、記録ヘッド36、供給路41および選択手段56を色材を含有するインク(A)で満たした。次いで、選択手段56により、色材を含有しないインク(B)を記録ヘッド36へ供給できるようにし、色材を含有するインク(A)を加熱しないで、色材を含有するインク(A)を色材を含有しないインク(B)で置換する操作を行った。記録ヘッド36、供給路41および選択手段56の内容量の合計を100とした時に、置換するのに必要な色材を含有しないインク(B)の量を測定した。
【0137】
そして、上記「2.2.1.加熱後の(A)→(B)への置換」と同様に、評価用試料を作成した。その後、上記「2.2.1.加熱後の(A)→(B)への置換」と同様のインクの置換の容易性を示す評価を行った。評価結果を表4に示す。
【0138】
2.3.評価結果
表3における例1〜9では、充填されていたインク(A)を加熱することによって、粘度を低下させた。その結果、例1〜2および例4〜9では、インク(A)の粘度をインク(B)の粘度よりも低くすることができ、表3に示すように、インク(A)をインク(B)で置き換えるために必要なインク(B)の量を少なくできることが示された。また、置換される側のインク(インク(A))の粘度が、置換する側のインク(インク(B))の粘度よりも小さくなるのにしたがって、置換効率が優れることが示された。なお、例3では、インク(A)の粘度をインク(B)の粘度よりも低くすることができなかったため、インク(A)をインク(B)で置き換えるために必要なインク(B)の量を少なくできない傾向がみられた。
【0139】
一方、表4における例10〜18では、充填されていたインク(A)の加熱を行っていない。その結果、インク(A)の粘度をインク(B)の粘度よりも低くすることができず、表4に示すように、インク(A)をインク(B)で置き換えるために、インク(B)の量を多くする必要があった。なお、例11、例12および例18では、インク(A)とインク(B)との粘度差(インク(A)−インク(B))が0.9[mPa・s]以上であるため、置換時にインク(B)の量を特に多くする必要があった。このように、表4の置換試験結果から、置換される側のインク(インク(A))の粘度が、置換する側のインク(インク(B))の粘度よりも大きくなるのにしたがって、置換効率が低下することが示された。
【0140】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0141】
11a、11b、12、13、14、15…カートリッジ、20…プリンター、22…用紙スタッカー、24…紙送りローラー、26…プラテン、28…キャリッジ、30…キャリッジモーター、31…紙送りモーター、32…牽引ベルト、34…ガイドレール、36…記録ヘッド、41、42、43、44、45…液体供給路、50…受信バッファメモリー、51…システムコントローラー、52…メインメモリー、53…EEPROM、54…イメージバッファー、55…表示手段、56…選択手段、57…計時手段、59…加熱手段、58…ノズル検査手段、61…主走査駆動回路、62…副走査駆動回路、63…ヘッド駆動回路、90…ホストコンピューター、91…プリンタードライバ、P…記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種のインクから一種のインクを選択する選択手段と、
前記選択手段によって選択されたインクを流通させるインク流路と、
前記インク流路を流通させたインクを吐出させるノズルと、
前記インク流路のインクを加熱する加熱手段と、
を有する、液滴吐出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記インク流路の第1インクを前記選択手段によって選択された第2インクで置き換える際に、前記加熱手段により前記第1インクを加熱させる加熱動作を行う、液体吐出装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記加熱動作により、
(第1インクの粘度)<(第2インクの粘度)
の関係とする、液滴吐出装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、
前記加熱動作は、該加熱動作前に、
(第1インクの粘度)−(第2インクの粘度)≧0.9[mPa・s]
の関係にあるときに行われる、液滴吐出装置。
【請求項5】
請求項2ないし請求項4のいずれか1項において、
前記加熱動作は、該加熱動作前に、
(第1インクの粘度)−(第2インクの粘度)≧0[mPa・s]
の関係にあるときに行われる、液滴吐出装置。
【請求項6】
請求項2ないし請求項5のいずれか1項において、
前記加熱動作により、
0.8[mPa・s]≦(第2インクの粘度)−(第1インクの粘度)
の関係とする、液滴吐出装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、
前記複数種のインクの少なくとも1種は、色材を含有する、液滴吐出装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、
前記複数種のインクの少なくとも1種は、洗浄液である、液滴吐出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate