説明

液滴噴射装置

【課題】ヘッドユニットにメンテナンス部材が押し当てられたときの衝撃を緩和して、複数の液滴噴射ヘッドを保持するヘッド保持部材の変形を抑制すること。
【解決手段】ヘッドユニット2は、それぞれノズル13を備えた複数のインクジェットヘッド10と、これら複数のインクジェットヘッド10を保持するヘッド保持部材11とを有する。ヘッド保持部材11よりもノズル開口側の位置には、複数のインクジェットヘッド10に共通のノズルプレート21が配置されている。メンテナンスの際には、ノズルプレート21にはキャップ部材18が接触するが、このノズルプレート21の前記キャップ部材18が接触する部分とヘッド保持部材11との間には、空間が存在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を噴射する液滴噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液滴噴射装置として、それぞれ液滴噴射用のノズルを有する複数のヘッドが平面的に配置されて一体化された構成のヘッドユニットを備えたものがある。
【0003】
特許文献1には、上記構成を有するインクジェットプリンタのヘッドユニットが開示されている。この特許文献1のヘッドユニットは、複数のヘッドがヘッド保持部材(ベースプレート)にそれぞれ取り付けられることによって一体化され、複数のヘッドが平面的に配置された構成を有する。そして、このヘッドユニットは、プリンタ本体に固定された状態で、ヘッドユニットに対して搬送される被記録媒体に対して、前記複数のヘッドのノズルからそれぞれインクの液滴を噴射することにより、被記録媒体に所望の画像を記録する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−201790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インクジェットプリンタなどの液滴噴射装置において、ヘッド内の液体に異物や気泡等が混入したり、ノズル内の液体が乾燥(増粘)したりすると、ノズルからの液滴噴射に異常をきたすことがよく知られている。そのために、上記の液滴噴射装置は、一般的に、ヘッドの噴射性能を維持し又は回復させる(以下、メンテナンスともいう)ための構成(メンテナンス部材)を備えている。例えば、ノズル内の液体の乾燥防止の目的、あるいは、液体内に混入した異物や気泡、ノズル内の増粘した液体をノズルから吸引して排出するといった目的で、ヘッドの、複数のノズルが開口した液滴噴射面を覆う、キャップ部材などがこのメンテナンス部材に相当する。
【0006】
この点、上述したように、特許文献1のヘッドユニットは、平面的に配置された複数のヘッドがヘッド保持部材によって保持された構成であり、上記のメンテナンス部材がヘッドのメンテナンスを行うためにヘッドユニットに押し当てられたときに、メンテナンス部材がヘッド保持部材に接触することでヘッド保持部材に衝撃(押し付け力)が作用する。このとき、作用した衝撃によってヘッド保持部材に変形が生じると、複数のヘッドの位置関係にずれが生じる虞がある。即ち、複数のヘッド間でのノズルの位置関係がずれてしまうことになり、このことは、特許文献1のようなインクジェットプリンタであれば、印字品質の低下につながる。
【0007】
本発明の目的は、ヘッドユニットにメンテナンス部材が押し当てられたときの衝撃を緩和して、複数の液滴噴射ヘッドを保持するヘッド保持部材の変形を抑制することが可能な液滴噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の液滴噴射装置は、液滴を噴射するノズルを有する複数の液滴噴射ヘッドと、前記複数の液滴噴射ヘッドを保持するヘッド保持部材と、を有するヘッドユニットと、前記ヘッドユニットに対して前記ノズルの開口側から押し当てられて、前記複数の液滴噴射ヘッドの噴射性能の維持または回復を行うメンテナンス部材と、前記ヘッド保持部材よりも前記ノズル開口側の位置に設けられ、前記ヘッドユニットに押し当てられるときの前記メンテナンス部材に接触して、前記メンテナンス部材から前記ヘッド保持部材へ伝わる衝撃を緩和する緩衝部材を備え、前記緩衝部材は、少なくとも前記メンテナンス部材が接触する部分と、前記ヘッド保持部材との間に、空間が存在する状態で配置されていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明では、複数の液滴噴射ヘッドを保持するヘッド保持部材のノズル開口側の面に緩衝部材が配置されていることから、メンテナンス部材がヘッド噴射性能の維持または回復動作(メンテナンス)を行う際には、このメンテナンス部材は緩衝部材と接触し、ヘッド保持部材には直接接触しない。また、緩衝部材のメンテナンス部材が接触する部分と、ヘッド保持部材との間には空間(隙間)が存在している。これらの構成により、メンテナンス部材がヘッドユニットに押し当てられたときに緩衝部材が変形することによって、そのときの衝撃(押し当て力)が緩和されるため、ヘッド保持部材の変形が抑制される。
【0010】
第2の発明の液滴噴射装置は、前記第1の発明において、前記複数の液滴噴射ヘッドは、前記ノズルに連通する流路部分がそれぞれ形成されるとともに、前記ヘッド保持部材に保持された、複数の流路構造体をそれぞれ有し、前記緩衝部材は、前記複数の液滴噴射ヘッドの前記ノズルがそれぞれ形成された複数のノズル形成部分を有する、前記複数の液滴噴射ヘッドに共通のノズルプレートであり、前記ノズルプレートの1つの前記ノズル形成部分に、1つの前記流路構造体が接合されることによって、1つの前記液滴噴射ヘッドが構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明では、ノズルプレートが、複数の液滴噴射ヘッドのノズルがそれぞれ形成された複数のノズル形成部分を有し、これら複数のノズル形成部分において複数の流路構造体に接合される、複数の液滴噴射ヘッドに共通のノズルプレートである。そして、複数のノズル形成部分の、流路構造体と接合される面とは反対側の面が、ノズルが外部に向けて開口する液滴噴射面となる。また、当然ながら、このノズルプレートは、複数の流路構造体を保持するヘッド保持部材よりもノズル開口側に位置し、流路構造体と接合されるノズル形成部分以外の部分がヘッド保持部材と空間を空けて配置されることにより、ヘッドユニットにメンテナンス部材が接触したときの衝撃を緩和する緩衝部材として機能する。また、緩衝部材が、複数の液滴噴射ヘッドにわたって広がる1枚もののノズルプレートであることから、各ノズル形成部分のノズル開口側(液滴噴射面側)から、裏側(ヘッド保持部材側)へ液体が漏れることがない。
【0012】
第3の発明の液滴噴射装置は、前記第2の発明において、前記メンテナンス部材は、その外周部に形成されたリップ部を有するキャップ部材であり、前記キャップ部材の前記リップ部が、前記ノズルプレートの、前記複数のノズル形成部分よりも外側の部分に当接することによって前記複数の液滴噴射ヘッドのノズルが前記キャップ部材に覆われるように構成され、
前記ノズルプレートには、前記リップ部との当接部分又はその周囲部分の剛性を局所的に低下させて、前記キャップ部材が当接したときの衝撃が前記流路構造体と前記ノズル形成部分との接合部分に伝わることを抑制する、剛性低下部が設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
ノズルプレートが、複数の液滴噴射ヘッドに共通の1枚もののプレートであると、ノズルプレートにキャップ部材が当接したときの衝撃が、ノズル形成部分と流路構造体との接合部分まで伝わると、ノズルプレートが流路構造体から剥離する虞がある。本発明では、剛性低下部により、ノズルプレートのリップ部との当接部分、又は、その周囲部分の剛性が低下することによって、当接部分の変形が促進されて衝撃吸収効果が向上し、流路構造体との接合部分に衝撃が伝播することが抑制される。これにより、ノズルプレートの流路構造体からの剥離が防止される。
【0014】
第4の発明の液滴噴射装置は、前記第3の発明において、前記ノズルプレートは、その縁部において前記ヘッド保持部材に固定され、前記剛性低下部は、前記ノズルプレートの、前記リップ部との当接部分と、この当接部分よりも内側に位置する、前記流路構造体との接合部分との間にのみ設けられていることを特徴とするものである。
【0015】
ノズルプレートの、リップ部との当接部分と、これよりも内側の、流路構造体との接合部分の間に、剛性低下部が設けられていると、当接部分の変形が促進されて衝撃が吸収されるとともに、当接部分から流路構造体との接合部分に衝撃が伝わりにくくなる。一方、ノズルプレートの、リップ部との当接部分と、ヘッド保持部材に固定される縁部との間には剛性低下部が設けられていないことから、ノズルプレートの、前記当接部分よりも外側部分の剛性は高いままである。従って、キャップ部材が当接したときのノズルプレートの変形によって、キャップ部材のノズルプレートとの密着性が低下して、キャップ部材の気密性が低下することが極力防止される。
【0016】
第5の発明の液滴噴射装置は、前記第1〜第4の何れかの発明において、前記ヘッド保持部材又は前記緩衝部材に、両者の間に形成された前記空間を外部と連通させる連通部が設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
ヘッド保持部材と緩衝部材との間の空間が外部と連通していることから、緩衝部材が一層変形しやすくなり、メンテナンス部材が緩衝部材に押し当てられたときの衝撃を効果的に吸収できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、メンテナンス部材が液滴噴射ヘッドのメンテナンスを行う際には、このメンテナンス部材は緩衝部材と接触し、ヘッド保持部材には直接接触しない。また、緩衝部材のメンテナンス部材が接触する部分と、ヘッド保持部材との間には空間が存在している。従って、メンテナンス部材がヘッドユニットに押し当てられたときに緩衝部材が変形することによって、そのときの衝撃(押し当て力)が緩和されるため、ヘッド保持部材の変形が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの上面図である。
【図2】ヘッドユニットの縦断面図である。
【図3】ノズルプレートの剛性低下部の構成例を示す図である。
【図4】変更形態に係るヘッドユニットの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態は、本発明をインクジェットプリンタに適用した一例である。
【0021】
図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの上面図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ1(以下、単にプリンタ1という)は、インクを噴射するインクジェットヘッド10を有するヘッドユニット2と、このヘッドユニット2に対して記録用紙100を搬送する搬送機構3と、前記インクジェットヘッド10の液滴噴射性能の維持や回復(以下、メンテナンスともいう)を行うメンテナンスユニット4等を備えている。尚、図1における上下方向(副走査方向:記録用紙の搬送方向)を前後方向、図1における左右方向(主走査方向:前記搬送方向と直交する方向)を左右方向、図1の紙面垂直方向を上下方向(紙面手前側が上方)と定義し、以下では、前後、左右、上下といった方向語を適宜用いて説明する。
【0022】
図1に示すように、ヘッドユニット2は、記録用紙への画像記録時には、水平に設置されたプラテン5の上方(図1の紙面手前側)に配置される。このヘッドユニット2は、それぞれ左右方向(主走査方向)に配列されたノズル13を有する4つのインクジェットヘッド10(液滴噴射ヘッド)と、これら4つのインクジェットヘッド10を保持するヘッド保持部材11を有する。
【0023】
各インクジェットヘッド10には、プリンタ1の筐体6に装着されたインクカートリッジ(図示省略)からチューブ29(図2参照)を介してそれぞれインクが供給される。そして、インクジェットヘッド10は、下方(図1の紙面向こう側)に開口したノズル13からプラテン5上の記録用紙100に向けてインクの液滴を噴射する。尚、本実施形態では、図1に示すように、インクジェットヘッド10の各々が千鳥配置の2列のノズル列14を有し、さらに、4つのインクジェットヘッド10が、それぞれ、ノズル13の開口面(以下、液滴噴射面15ともいう:図2参照)を下側に向けた状態で、同一水平面内で千鳥状に4つ配置されている。
上記4つのインクジェットヘッド10を保持するヘッド保持部材11は板状の部材であり、その主走査方向における両端部においてフレーム部材12に連結され、このフレーム部材12を介してプリンタ1の筐体6に固定されている。
【0024】
搬送機構3は、ヘッドユニット2を前後に挟むように配置された供給ローラ16と排出ローラ17とを有し、これら2つのローラ16,17によって、記録用紙100をプラテン5に沿ってヘッドユニット2に対して副走査方向に搬送する。
【0025】
そして、プリンタ1は、搬送機構3のローラ16,17によって記録用紙100を副走査方向に搬送しつつ、ヘッドユニット2の4つのインクジェットヘッド10から記録用紙100に対してインクの液滴を噴射することによって、記録用紙100に所望の画像を記録するように構成されている。
【0026】
図1に示すように、メンテナンスユニット4は、ヘッドユニット2のメンテナンスを行わないときにはプラテン5の右側に設置されている。一方、ヘッドユニット2のメンテナンスが必要になったときには、メンテナンスユニット4は、適宜の構成を有する位置切換機構(図示省略)によって、ヘッドユニット2と対向する位置まで移動するように構成されている。
【0027】
このメンテナンスユニット4は、ゴム等の弾性部材からなるキャップ部材18と、このキャップ部材18に接続された吸引ポンプ19と、インクジェットヘッド10の液滴噴射面15に付着したインクを拭き取るワイパー27等を有する。キャップ部材18は、モータ等の駆動源とギヤ等の動力伝達部材で構成されるキャップ昇降機構(図示省略)によって上下方向駆動されるようになっている。そして、ヘッドユニット2がメンテナンス位置にある状態でキャップ部材18がヘッドユニット2に押し当てられて、その外周部のリップ部18aが密着したときに、4つのインクジェットヘッド10の液滴噴射面15を一度に覆うようになっている。これにより、ヘッドユニット2を使用しないときにノズル13が大気から遮断され、ノズル13内のインクの乾燥が防止される。
【0028】
また、吸引ポンプ19は、キャップ部材18が4つのインクジェットヘッド10の液滴噴射面15を覆っている状態で、キャップ部材18内を減圧することで、4つのインクジェットヘッド10のそれぞれのノズル13からインクを強制的に排出する(吸引パージ)。この吸引パージによって、ノズル13の噴射不能、あるいは、噴射曲がりといった噴射異常の原因となる、インク流路内に混入した異物や気泡、あるいは、ノズル13内の乾燥によって生じる増粘インクなどを、ノズル13から排出することができる。
【0029】
また、ワイパー27は、ゴム等の弾性部材からなる。このワイパー27は、その先端部が、インクジェットヘッド10の液滴噴射面15に密着した状態で、ヘッドユニット2に対して移動することにより、吸引パージ等の後に液滴噴射面15に付着したインクを拭き取る。
【0030】
尚、先の説明では、メンテナンスユニット4によるメンテナンスの際に、メンテナンスユニット4がヘッドユニット2と対向する位置まで移動するとしたが、これとは逆にメンテナンスユニット4に対して、ヘッドユニット2の方が移動して両者が対向するように構成されてもよい。
【0031】
次に、ヘッドユニット2の具体的な構成について説明する。図2は、図1のヘッドユニット2の縦断面図である。先にも述べたように、ヘッドユニット2は、4つのインクジェットヘッド10と、これら4つのヘッドユニット2を保持する矩形板状のヘッド保持部材11とを有する。
【0032】
インクジェットヘッド10は、流路ユニット20(流路構造体)と、この流路ユニットと接合されるノズルプレート21とで構成される。
【0033】
図2に示すように、流路ユニット20は、ほぼ直方体の外形形状を有し、左右方向(主走査方向)両端部には、流路ユニット20をヘッド保持部材11に固定するための2つの固定部22が流路ユニット20の側面から突出するように設けられている。
【0034】
流路ユニット20の上面には、インクカートリッジ(図示省略)とチューブ29で接続されたインク供給部23が設けられている。また、流路ユニット20の内部には、インク供給部23から供給されたインクを、次述のノズルプレート21に形成された複数のノズル13にそれぞれ供給するためのインク流路24(流路部分)が形成されている。より詳細には、インク流路24として、複数のノズル13にそれぞれ連通する複数の個別流路と、これら複数の個別流路にインクを分配する共通インク室等が形成されており、流路ユニット20の下面には複数の個別流路の流路端が開口している。また、これも図示は省略するが、流路ユニット20には、複数のノズル13にそれぞれ対応した個別流路内のインクに噴射圧力を付与するアクチュエータも設けられている。
【0035】
ノズルプレート21は、金属材料、あるいは、ポリイミド等の合成樹脂材料などで形成された、薄いプレートである。このノズルプレート21は、インクジェットヘッド10の複数のノズル13が、プレート厚み方向に貫通するように形成されたノズル形成部分21aを有する。そして、流路ユニット20の下面に開口した個別流路の流路端と、ノズルプレート21のノズル形成部分21aに形成されたノズル13とが位置合わせされた状態で、ノズル形成部分21aの上面が流路ユニット20の下面に接合されることにより、流路ユニット20側の個別流路とノズルプレート21側のノズル13とが連通している。また、ノズル形成部分21aの下面が、複数のノズル13が外部へ向けて開口した面、即ち、液滴噴射面15となる。
【0036】
また、本実施形態では、ノズルプレート21は、4つのインクジェットヘッド10にわたって設けられた、4つのインクジェットヘッド10に共通の構成である。即ち、ノズルプレート21は、4つのインクジェットヘッド10のノズル13がそれぞれ形成された4つのノズル形成部分21aを有し、これら4つのノズル形成部分21aに4つの流路ユニット20がそれぞれ接合されることによって、4つのインクジェットヘッド10が構成されている。
【0037】
図2に示すように、ヘッド保持部材11には4つのインクジェットヘッド10にそれぞれ対応した4つの装着穴11aが形成されている。そして、これら4つの装着穴11aに4つのインクジェットヘッド10の流路ユニット20がそれぞれ挿入された状態で、各流路ユニット20は、その側面から突出した2つの固定部22においてネジ等でヘッド保持部材11に固定されている。
【0038】
また、図2に示すように、流路ユニット20の下端部は、ヘッド保持部材11の装着穴11aを突き抜けてヘッド保持部材11からさらに下方へ突出している。その結果、4つの流路ユニット20の下面にそれぞれ接合されるノズルプレート21は、ヘッド保持部材11の下側(ノズル13の開口側:液滴噴射面15側)において、ヘッド保持部材11との間に空間(隙間)を空けて配されることとなる。尚、ヘッド保持部材11には、ノズルプレート21との間の上記空間を外部に連通させるための1又は複数の連通孔11bが形成されている。また、ノズルプレート21の縁部は、ヘッド保持部材11の縁部と接合されてヘッド保持部材11に固定されている。さらに、互いに接合されたヘッド保持部材11とノズルプレート21の縁部はそれぞれフレーム部材12に固定されている。
【0039】
ところで、上述したノズルプレート21は、4つのインクジェットヘッド10の流路ユニット20にそれぞれ接合されるとともに、ヘッド保持部材11を下側から覆うように配置されている。そのため、インクジェットヘッド10のメンテナンスの際に、ヘッドユニット2に対して、前述したメンテナンスユニット4のキャップ部材18が押し当てられたときには、図2に示すように、キャップ部材18のリップ部18aは、ノズルプレート21の4つのノズル形成部分21a(液滴噴射面15)を取り囲む部分21bに当接し、ヘッド保持部材11には直接接触しない。
【0040】
また、ノズルプレート21の、キャップ部材18が当接する当接部分21bと、ヘッド保持部材11との間には空間が存在することから、この当接部分21bにおいてノズルプレート21が変形しやすくなっており、キャップ部材18のリップ部18aが当接したときにノズルプレート21が変形することによって、当接時に作用する衝撃(押し当て力)が緩和される。即ち、ノズルプレート21が、キャップ部材18が当接したときの衝撃を緩和する緩衝部材としても機能する。これにより、ヘッド保持部材11にはほとんど衝撃が作用しなくなり、ヘッド保持部材11の変形が抑制される。
【0041】
さらに、ヘッド保持部材11には、ノズルプレート21との間の空間を外部に連通させる連通孔11b(連通部)が形成されていることから、キャップ部材18が当接したときにノズルプレート21が一層変形しやすくなり、衝撃をより効果的に吸収できる。尚、ノズルプレート21側に、上記空間を大気に連通させる連通孔が形成されてもよいが、この場合は、キャップ部材18の装着時における気密性を損なわないように、少なくとも、リップ部18aとの当接部分21bよりも外側の部分に設けられる必要がある。
【0042】
また、本実施形態では、ノズルプレート21が、4つのインクジェットヘッド10にわたって広がる1枚もののプレートであることから、ノズル13から排出されて液滴噴射面15に付着したインク(特に、吸引パージ時にノズル13から排出されて、キャップ部材18内に満たされたインク)が、ノズルプレート21の裏側(ヘッド保持部材11側)へ漏れ出すことがない。さらに、1枚のノズルプレート21に、4つのインクジェットヘッド10のノズル形成部分21aが形成されることから、製造段階において、このノズルプレート21に4つの流路ユニット20をそれぞれ接合する際に、流路ユニット20の接合位置に若干のずれがあった場合でも、4つのインクジェットヘッド10間のノズル13の位置ずれは生じない、という効果もある。
【0043】
但し、本実施形態のように、4つのインクジェットヘッド10に共通のノズルプレート21が、キャップ部材18が当接したときの衝撃を緩和する緩衝部材として機能する場合、キャップ部材18が当接したときの衝撃が、この当接部分21bから、ノズル形成部分21aと流路ユニット20との接合部分まで伝わり、ノズルプレート21が流路ユニット20から剥離する虞がある。そこで、上記当接部分21bの変形を促進して衝撃を効果的に吸収しつつ、流路ユニット20との接合部分への衝撃伝播を抑制するために、ノズルプレート21に、当接部分21b又はその周囲部分の剛性を低下させる、剛性低下部が設けられてもよい。
【0044】
図3に、上記の、ノズルプレート21の剛性低下部の具体例をいくつか挙げる。例えば、図3(a)に示すように、剛性低下部が、当接部分21bの上面(下面、あるいは、両面でもよい)に形成された凹部25aであり、当接部分21b自体の厚みがそれ以外の部分よりも薄くなることによって当接部分21bの変形が促進されてもよい。このように、当接部分21bが変形しやすくなることで、キャップ部材18が当接したときの衝撃が確実に吸収され、その結果、流路ユニット20との接合部分に衝撃が作用しにくくなり、ノズルプレート21の流路ユニット20からの剥離が防止される。
【0045】
また、図3(b)に示すように、当接部分21bの周囲に剛性低下部としての凹部25bが形成されてもよい。このように、当接部分21bの周囲の部分の剛性が低下することによって、当接部分21bに対する周囲からの変形拘束力が弱まることから、やはり当接部分21bの変形が促進される。
【0046】
あるいは、図3(c)に示すように、ノズルプレート21の、前記当接部分21bと流路ユニット20の接合部分との間にのみ、凹部25cが設けられてもよい。この場合、ノズルプレート21の、リップ部18aとの当接部分21bと、これよりも内側の、流路ユニット20との接合部分の間に、凹部25c(剛性低下部)が設けられていると、当接部分21bの変形が促進されて衝撃が吸収されるとともに、当接部分21bから流路ユニット20との接合部分に衝撃が伝わりにくくなる。一方、ノズルプレート21の、リップ部18aとの当接部分21bと、ヘッド保持部材11に固定される縁部との間には凹部が設けられていないことから、ノズルプレート21の、前記当接部分21bよりも外側の部分の剛性は高いままである。従って、キャップ部材18の当接時のノズルプレート21の変形によって、キャップ部材18のノズルプレート21との密着性が低下して、キャップ部材18の気密性が低下することが極力防止される。
【0047】
あるいは、ノズルプレート21の当接部分21bの内側(流路ユニット20との接合側)と外側(縁部側)にそれぞれ凹部25c,25dが形成された上で、これら2つの凹部25c,25dの形状や数が互いに異なっていてもよい。例えば、図3(d)に示すように、内側の凹部25cが外側の凹部25dよりも深く形成されてもよい。または、図3(e)に示すように、内側の凹部25cが外側の凹部25dよりも幅が広く形成されてもよい。また、図示は省略するが、内側の凹部25cが外側の凹部25dよりも長さが長くなっていてもよい。あるいは、内側の凹部25cの数が外側の凹部25dより多くてもよい。これらの構成では、当接部分21bの両側にそれぞれ設けられた凹部25c,25dによって当接部分21bの変形が促進されるとともに、当接部分21bよりも外側(縁部側)の部分が内側部分と比べて変形しにくくなるため、キャップ部材18のノズルプレート21との密着性の低下が抑制される。
【0048】
尚、剛性低下部は、図3(a)〜(e)のような、ノズルプレート21の表面に形成された凹部には限定されない。例えば、図3(f)に示すように、ノズルプレート21が2層以上のシート26が積層された構造を有し、シート26間に、剛性低下部としての空洞25eが形成されてもよい。あるいは、ノズルプレート21の一部が、それ以外の部分と比べて、弾性率の低い材料で形成されることによって、剛性低下部が構成されてもよい。
【0049】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0050】
1]前記実施形態では、4つのインクジェットヘッド10に共通のノズルプレート21が、ヘッド保持部材11よりもノズル13の開口側に配置され、このノズルプレート21が、キャップ部材18が押し当てられたときの衝撃を緩和する緩衝部材としても機能する構成であったが、本発明は、専用の緩衝部材が設けられた構成であってもよい。
【0051】
図4のヘッドユニット2Aでは、前記実施形態の図2のものと異なり、各インクジェットヘッド10の流路ユニット20Aが複数のノズル13も有し、流路ユニット20の下面が、複数のノズル13が開口した液滴噴射面15となっている。一方で、ヘッド保持部材11の下方には、このヘッド保持部材11との間に空間を空けて板状の緩衝部材30が平行に配置され、緩衝部材30の縁部はヘッド保持部材11に固定されている。緩衝部材30には4つの穴30aが形成されており、これら4つの穴30aに4つのインクジェットヘッド10Aの流路ユニット20Aの下端部がそれぞれ挿入される。また、4つの流路ユニット20Aの下面(液滴噴射面15)と緩衝部材30の下面とがほぼ面一となっており、メンテナンスの際には、緩衝部材30の下面の、4つの穴30aよりも外側の部分にキャップ部材18のリップ部18aが当接する。尚、緩衝部材30の穴30aは流路ユニット20よりもやや大きめの穴となっているが、この穴30aと流路ユニット20の間に封止材31が充填されている。これにより、吸引パージ時のキャップ部材18内の気密性が維持される。
【0052】
この構成においても、前記実施形態と同様に、キャップ部材18が、ヘッド保持部材11の下方に空間を空けて位置する緩衝部材30に当接し、ヘッド保持部材11には直接接触しないことから、キャップ部材18が押しつけられたときの衝撃が緩衝部材30によって緩和され、ヘッド保持部材11の変形が抑制される。但し、緩衝部材30に形成された穴30aにインクジェットヘッド10A(流路ユニット20A)が挿入された構成であるため、液滴噴射面15側のインク(特に、吸引パージによってノズル13から排出されてキャップ部材18内に満ちたインク)が、裏側(ヘッド保持部材11側)に漏れ出す虞があることから、穴30aと流路ユニット20との間を封止材によって確実に封止する必要がある。また、ヘッドユニット2Aの組立時に、緩衝部材30の穴30aに対する流路ユニット20Aの位置決め精度が悪いと、4つの流路ユニット20Aの間でノズル13の位置がずれてしまうことから、穴30aへの挿入する際の流路ユニット20Aの位置決めを精度よく行う必要がある。
【0053】
2]ヘッド保持部材と緩衝部材の間の空間を外部と連通させる連通部は、前記実施形態のような連通孔11b(図2参照)には限られない。例えば、先に挙げた図4において、ヘッド保持部材11と流路ユニット20Aとの間に存在するわずかな隙間32が、ヘッド保持部材11と緩衝部材30の間の空間を外部と連通させる連通部として機能するものであってもよい。
【0054】
3]前記実施形態では、複数のインクジェットヘッド10の液滴噴射面15を、共通のキャップ部材18で覆う構成が挙げられているが、各インクジェットヘッド10の液滴噴射面15が個別のキャップ部材によって覆われる構成であってもよい。尚、上記構成においては、複数のインクジェットヘッド10の間に、これら複数のインクジェットヘッド10に跨って配置される緩衝部材30(ノズルプレート21)を液滴噴射面15と反対側から支える支持部が設けられることが好ましい。
【0055】
4]前記実施形態のキャップ部材18は、ヘッドユニット2を使用しない待機時に、インクジェットヘッド10の液滴噴射性能を維持するために液滴噴射面15を覆ってノズル13の乾燥を防止する、いわゆる保護キャップとしての機能と、低下した液滴噴射性能を回復する吸引パージを行うための、いわゆる吸引キャップとしての機能の、両方を果たすものであったが、何れか一方の機能のみを専ら果たすものであってもよい。
【0056】
5]インクジェットヘッド10の液滴噴射性能の維持または回復を行うメンテナンス部材として、前記実施形態ではキャップ部材18を例に挙げて説明したが、本発明のメンテナンス部材はキャップ部材18には限られず、ノズル13の噴射性能の維持または回復を行うためにヘッドユニット2に押し付けられるものであれば、他のメンテナンス部材を備えた構成に対しても本発明を適用可能である。
【0057】
例えば、インクジェットヘッド10の液滴噴射面15に付着したインクをワイパー27(図1参照)で拭き取る場合、複数のインクジェットヘッド10の液滴噴射面15を含む、ヘッドユニット2の下面を、ワイパー27にて一度に拭き取ることを考えたときに、ワイパー27がヘッド保持部材11に直接接触するような構成では、ワイパー27から受ける衝撃(押し付け力)によってヘッド保持部材11が変形する虞がある。このような場合も、ヘッド保持部材11よりもノズル13の開口側(液滴噴射面15側)に緩衝部材を設けることにより、ヘッド保持部材11にワイパー27が直接接触しなくなり、ヘッド保持部材11の変形を抑制できる。
【0058】
6]前記実施形態のヘッドユニット2は、画像記録時に位置が固定され、搬送されてくる記録用紙100にインクの液滴を噴射する、固定型のヘッドユニットであったが、記録用紙100の幅方向(用紙の搬送方向と直交する方向)に移動しながら、記録用紙100に対してインクの液滴を噴射する、いわゆる、シリアルタイプのヘッドユニットに対しても本発明を適用することは可能である。
【0059】
以上説明した実施形態及びその変更形態は、液滴噴射装置の一種である、インクを噴射して記録用紙に画像等を記録するインクジェットプリンタに本発明を適用した例であるが、本発明の適用対象はこれには限られない。即ち、噴射される液体の種類、用途、技術分野に関係なく、本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 インクジェットプリンタ
2,2A ヘッドユニット
10,10A インクジェットヘッド
11 ヘッド保持部材
11b 連通孔
13 ノズル
15 液滴噴射面
18 キャップ部材
18a リップ部
20,20A 流路ユニット
21 ノズルプレート
21a ノズル形成部分
21b 当接部分
24 インク流路
25a 〜25c 凹部
25d 空洞
27 ワイパー
30 緩衝部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を噴射するノズルを有する複数の液滴噴射ヘッドと、前記複数の液滴噴射ヘッドを、保持するヘッド保持部材と、を有するヘッドユニットと、
前記ヘッドユニットに対して前記ノズルの開口側から押し当てられて、前記複数の液滴噴射ヘッドの噴射性能の維持または回復を行うメンテナンス部材と、
前記ヘッド保持部材よりも前記ノズル開口側の位置に設けられ、前記ヘッドユニットに押し当てられるときの前記メンテナンス部材に接触して、前記メンテナンス部材から前記ヘッド保持部材へ伝わる衝撃を緩和する緩衝部材を備え、
前記緩衝部材は、少なくとも前記メンテナンス部材が接触する部分と、前記ヘッド保持部材との間に、空間が存在する状態で配置されていることを特徴とする液滴噴射装置。
【請求項2】
前記複数の液滴噴射ヘッドは、前記ノズルに連通する流路部分がそれぞれ形成されるとともに、前記ヘッド保持部材に保持された、複数の流路構造体をそれぞれ有し、
前記緩衝部材は、前記複数の液滴噴射ヘッドの前記ノズルがそれぞれ形成された複数のノズル形成部分を有する、前記複数の液滴噴射ヘッドに共通のノズルプレートであり、
前記ノズルプレートの1つの前記ノズル形成部分に、1つの前記流路構造体が接合されることによって、1つの前記液滴噴射ヘッドが構成されていることを特徴とする請求項1に記載の液滴噴射装置。
【請求項3】
前記メンテナンス部材は、その外周部に形成されたリップ部を有するキャップ部材であり、
前記キャップ部材の前記リップ部が、前記ノズルプレートの、前記複数のノズル形成部分よりも外側の部分に当接することによって前記複数の液滴噴射ヘッドのノズルが前記キャップ部材に覆われるように構成され、
前記ノズルプレートには、前記リップ部との当接部分又はその周囲部分の剛性を局所的に低下させて、前記キャップ部材が当接したときの衝撃が前記流路構造体と前記ノズル形成部分との接合部分に伝わることを抑制する、剛性低下部が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の液滴噴射装置。
【請求項4】
前記ノズルプレートは、その縁部において前記ヘッド保持部材に固定され、
前記剛性低下部は、前記ノズルプレートの、前記リップ部との当接部分と、この当接部分よりも内側に位置する、前記流路構造体との接合部分との間にのみ設けられていることを特徴とする請求項3に記載の液滴噴射装置。
【請求項5】
前記ヘッド保持部材又は前記緩衝部材に、両者の間に形成された前記空間を外部と連通させる連通部が設けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の液滴噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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