説明

液状エポキシ樹脂、それを含むエポキシ樹脂組成物及びその硬化物

【課題】難燃性、耐半田リフロー性、高密着性、低誘電率性、低吸湿性等の諸特性に優れる液状エポキシ樹脂、該液状エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物及びその硬化物を提供すること。
【解決手段】一般式(1)


[式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基またはアリル基を示し、mは0〜3、nは1〜5の整数を示す]
で表されるフェノールアラルキル樹脂をエポキシ化し、結晶性エポキシ樹脂を除去してなる液状エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂及び硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物、該組成物を硬化してなる硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高信頼性半導体封止用を始めとする電気・電子部品絶縁材料、積層板(プリント配線板等)やCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を始めとする各種複合材料、接着剤、塗料等に有用な組成物を与える液状エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物及びその硬化物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノールアラルキル樹脂のエポキシ樹脂及びその組成物は、半導体封止材等の電気・電子部品、構造用材料、接着剤、成形材料、塗料として有用であり、その硬化物は優れた電気特性、耐熱性、接着性、耐湿性(耐水性)等を有している。
【0003】
しかし、電気・電子分野の発展に伴い、耐熱性、耐湿性、密着性、低誘電性等の諸特性の一層の向上と、高純度化が求められている。また、近年の表面実装技術に関連して、耐半田リフロー性が要求され、更なる低吸湿化、低応力化、フィラー高充填化のためのエポキシ樹脂の低粘度化が求められている。
構造用材料としては、航空宇宙材料用またはレジャー・スポーツ器具用等において軽量で機械特性の優れた材料が求められている。
【0004】
特許文献1には、フェノールアラルキル樹脂をエポキシ化してなるエポキシ樹脂が難燃性、耐半田リフロー性、高密着性、低誘電性、低吸湿性等の諸特性がよいとされている。しかしながら、該エポキシ樹脂が固形(樹脂状)であったり、結晶性が極度に高かったりするため、特に液状封止材やアンダーフィル等の分野において使用する際の取り扱いに困難さがある。
【0005】
【特許文献1】特開2003−301031
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
難燃性、耐半田リフロー性、高密着性、低誘電率化、低吸湿化等の諸特性がよく、電気・電子部品用絶縁材料(高信頼性半導体封止材料等)及び積層板(プリント配線板等)やCFRPを始めとする各種複合材料、接着剤、塗料等に有用で、特に液状封止材、アンダーフィル等の分野に適する液状エポキシ樹脂、該樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物及びその硬化物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記のような特性を持つエポキシ樹脂について鋭意研究の結果、フェノールアラルキル樹脂をエポキシ化してなる液状エポキシ樹脂がこれらの要求を満たすものであることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち本発明は
1)一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
[式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基またはアリル基を示し、mは0〜3、nは1〜5の整数を示す]
で表されるフェノールアラルキル樹脂をエポキシ化し、結晶性エポキシ樹脂を除去してなる液状エポキシ樹脂;
2)一般式(3)
【0011】
【化2】

【0012】
[式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基またはアリル基を示し、mは0〜3、nは1〜5の整数を示す]
で表されるエポキシ樹脂であって、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる測定において、式(3)におけるnが1であるエポキシ樹脂の含有率が80%以上であり、主鎖のメチレン基と側鎖のグリシジルオキシ基の置換位置がオルト−オルト体であるエポキシ樹脂に対して、パラ−パラ体であるエポキシ樹脂の割合が0.5以下である液状エポキシ樹脂;
【0013】
3)mが0である上記1)または2)に記載の液状エポキシ樹脂;
4)上記1)〜3)のいずれか一項に記載の液状エポキシ樹脂及び硬化剤を含有してなるエポキシ樹脂組成物;
5)上記4)に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物;
6)一般式(2)
【0014】
【化3】

【0015】
[式中、Xは脱離基を示す]
で表される化合物と、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基若しくはアリル基で置換されていてもよいフェノール類とを酸存在下で反応してフェノールアラルキル樹脂を得、次いで、該樹脂とエピハロヒドリンとをアルカリ条件下で反応して得られるエポキシ樹脂から、結晶性エポキシ樹脂を除去することを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一項に記載の液状エポキシ樹脂の製造法;
【0016】
7)一般式(2)の化合物1モルに対してフェノール類10〜50モルを反応することを特徴とする上記6)記載の液状エポキシ樹脂の製造法;
8)結晶性エポキシ樹脂の除去がメチルイソブチルケトン、シクロヘキサン及びイソプロパノールの混合溶媒を用いて行うことを特徴とする上記6)または7)に記載の液状エポキシ樹脂の製造法;
に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液状エポキシ樹脂、その組成物及びその硬化物は難燃性、耐半田リフロー性、高密着性、低誘電率化等の諸特性が優れており、また、低粘度であるため低吸湿化、低応力化、フィラー高充填化が可能であり、電気・電子部品用絶縁材料、積層板やCFRPを始めとする各種複合材料、接着剤、塗料等に使用でき、特に液状封止材、アンダーフィル等の分野において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、上記一般式(1)[式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基またはアリル基を示し、mは0〜3、nは1〜5の整数を示す]で表されるフェノールアラルキル樹脂をエポキシ化し、結晶性エポキシ樹脂を除去してなる液状エポキシ樹脂である。
一般式(1)のRにおける炭素数1〜6のアルキル基とは、直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0019】
本発明の液状エポキシ樹脂の製造に使用される上記一般式(1)で表されるフェノールアラルキル樹脂は、例えば、上記一般式(2)[式中、Xは脱離基を示す]で表される化合物と、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基若しくはアリル基で置換されていてもよいフェノール類とを酸存在下で反応させて得られる。
【0020】
一般式(2)における脱離基としては、例えば、炭素数1〜8の脂肪族アルコキシ基、置換基を有していてもよいフェノキシ基若しくはハロゲン原子が挙げられる。炭素数1〜8の脂肪族アルコキシ基としては特に限定されず、直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシ基が挙げられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロペンチルオキシ基等が好ましい。置換基を有していてもよいフェノキシ基としては、フェノキシ基、p−ニトロフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。後記のオルト結合体の生成割合を高める目的で嵩高い脱離基が好ましい。
【0021】
上記一般式(1)で表されるフェノールアラルキル樹脂の合成に使用される炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基若しくはアリル基で置換されていてもよいフェノール類とは、フェノール性水酸基を有していれば無置換でも、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基若しくはアリル基で置換されていてもよく、置換基は同一でも異なっていてもよく、置換位置も特に限定されず、置換基を有する場合の置換基数は1〜3であるフェノール類である。好ましいフェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール(オルト、メタ若しくはパラ)、エチルフェノール(オルト、メタ若しくはパラ)、n−プロピルフェノール(オルト、メタ若しくはパラ)、イソプロピルフェノール(オルト、メタ若しくはパラ)、t−ブチルフェノール(オルト、メタ若しくはパラ)、シクロヘキシルフェノール(オルト、メタ若しくはパラ)、2−メチル−4−プロピルフェノール、4−ブチル−2−メチルフェノール、フェニルフェノール(オルト、メタ若しくはパラ)、アリルフェノール(オルト、メタ若しくはパラ)等が挙げられ、本発明の液状エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物の硬化物の難燃性の点から無置換のフェノールが特に好ましい。また、上記フェノール類を2種以上混合して使用してもよい。
【0022】
上記一般式(1)で表されるフェノールアラルキル樹脂の合成の際のフェノール類の使用量は、一般式(2)の化合物1モルに対して、通常2〜50モルであり、特にnが1であるフェノールアラルキル樹脂の含有率を高めるために10〜50モルが好ましい。
【0023】
上記一般式(1)で表されるフェノールアラルキル樹脂の合成においては、酸触媒の使用が好ましい。酸触媒としては、種々のものが使用できるが、硫酸、p−トルエンスルホン酸、シュウ酸等の有機あるいは無機酸、塩化第二錫、塩化亜鉛、塩化第二鉄等のルイス酸等が挙げられ、硫酸、p−トルエンスルホン酸、塩化第二錫が好ましい。酸触媒を使用する場合、その使用量は触媒の種類により異なるが、上記一般式(2)で表される化合物に対して0.0001〜1重量%程度の範囲内で添加する。
【0024】
また、上記一般式(1)で表されるフェノールアラルキル樹脂の合成においては、後記のオルト結合体の生成割合を高める目的で塩基性の添加剤を用いてもよい。塩基性の添加剤としては塩基性無機塩が好ましく、具体的には炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、ポリ燐酸ナトリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。塩基性の添加剤を使用する場合、その使用量は一般式(2)で表される化合物に対して30〜200重量%程度の範囲内で添加する。
【0025】
前記フェノールアラルキル樹脂の合成において、反応温度は通常40〜200℃、好ましくは50〜150℃であり、反応時間は0.5〜20時間、好ましくは1〜15時間である。また、全原料を反応容器へ一括投入後昇温しながら反応しても、フェノール類を予め一定の温度に昇温して一般式(2)で表される化合物を逐次添加して反応してもよい。合成は無溶媒でも、反応に関与しないトルエン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、低級アルコール等を溶媒として用いてもよい。
【0026】
一般式(2)で表される化合物における脱離基が、例えば塩素原子の場合、反応で生成する塩酸ガスを、窒素ガス等の不活性ガスを流したり、反応容器内を減圧状態にして系外へ除去してもよい。
【0027】
反応終了後、必要により反応系内の酸性物質を中和し、水洗によって取り除く。次いで、未反応フェノール類等を回収し、一般式(1)で表されるフェノールアラルキル樹脂を得ることができる。未反応フェノール類等の回収は、常圧下または減圧下(0.1kPa〜25kPa程度)で100〜180℃程度で留去するのが好ましい。また、水蒸気蒸留で留去することも可能である。
得られたフェノールアラルキル樹脂の重合度はゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができ、エポキシ化後の諸特性からnが1であるフェノールアラルキル樹脂の含有率が80%以上であることが好ましい。
【0028】
本発明の液状エポキシ樹脂は、上記一般式(1)で表されるフェノールアラルキル樹脂をエポキシ化して得られ、例えば、上記一般式(3)で表される。エポキシ化とは、例えば、フェノール性水酸基とエピハロヒドリンとをアルカリ条件下に反応させ、グリシジル基をエーテル結合させればよい。
アルカリとしては、通常、アルカリ金属水酸化物を固形物または水溶液として使用する。水溶液を使用する場合は、連続的に反応系内に添加すると共に、減圧下または常圧下連続的に水及びエピハロヒドリンを留去させ、水とエピハロヒドリンを分液し、エピハロヒドリンを反応系内に戻す方法でもよい。アルカリ金属水酸化物の使用量は一般式(1)で表される化合物のフェノール性水酸基に対して通常0.9〜2.5モル当量であり、好ましくは0.95〜2.0モル当量である。
【0029】
エピハロヒドリンの使用量は一般式(1)の化合物のフェノール性水酸基に対して通常0.8〜12モル当量、好ましくは0.9〜11モル当量である。
この際、一般式(1)で表される化合物の溶解性を高めるために、メタノール、エタノール等のアルコール類、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等を添加して反応を行うことが好ましい。
【0030】
アルコール類を使用する場合、その使用量はエピハロヒドリンの量に対して通常2〜20重量%、好ましくは4〜15重量%である。また、非プロトン性極性溶媒を用いる場合はエピハロヒドリンの量に対して通常5〜100重量%、好ましくは10〜80重量%である。
【0031】
更に、反応をより確実にするために四級アンモニウム塩を添加するのが好ましい。四級アンモニウム塩としては塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、塩化トリメチルベンジルアンモニウム等が挙げられる。四級アンモニウム塩を使用する場合、その使用量としては一般式(1)で表される化合物のフェノール性水酸基に対して通常0.1〜15重量部であり、好ましくは0.2〜10重量部である。
【0032】
エポキシ化の反応温度は通常30〜90℃、好ましくは35〜80℃であり、反応時間は通常0.5〜10時間、好ましくは1〜8時間である。
エポキシ化反応後、必要に応じて反応物を水洗し、加熱減圧下でエピハロヒドリン等を留去する。
【0033】
更に、加水分解性ハロゲン化合物の少ないエポキシ樹脂を得るために、エポキシ樹脂を含む残渣をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解し、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の水溶液を加えて、50〜120℃で0.5〜2時間反応を行い、エポキシ環の閉環を確実なものにすることもできる。この場合、アルカリ金属水酸化物の使用量はエポキシ化に使用した一般式(1)の化合物のフェノール性水酸基に対して通常0.01〜0.3モル当量、好ましくは0.05〜0.2モル当量である。
反応終了後、生成した塩を濾過、水洗等により除去し、加熱減圧下溶剤を留去することにより加水分解性ハロゲン化合物の少ないエポキシ樹脂を得ることができる。
【0034】
得られたエポキシ樹脂の重合度はゲルパーミエーションクロマトグラフィー等により測定することができ、通常平均値で1〜8の正数をとるが、1〜5が好ましく、1〜2が特に好ましい。また、nが1であるエポキシ樹脂の含有率が80%以上であることが殊更に好ましい。
【0035】
即ち、上記一般式(3)で表される液状エポキシ樹脂は、上記一般式(1)におけるnが1で表される成分の割合が高いフェノールアラルキル樹脂をエポキシ化して得られる。本発明の液状エポキシ樹脂では特にmが0の場合、上記一般式(3)で表され、nが1であるエポキシ樹脂の割合が80重量%以上であるエポキシ樹脂が好ましい。80%以下では液状とはならず、半固形状、樹脂状若しくは固形となりやすい。また、nが3以上のフェノールアラルキル樹脂をエポキシ化して得られる成分の割合が5%以下であるエポキシ樹脂が好ましい。
【0036】
本発明の液状エポキシ樹脂は、得られたエポキシ樹脂を含む残渣を適切な有機溶媒により結晶化し、結晶化エポキシ樹脂を除去することにより得られる。一般式(3)の構造にもよるが、一般的な結晶化について説明する。
有機溶媒としては、トルエン、キシレン、クレゾール等の芳香族化合物;アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類等が挙げられる。これらの使用量は残渣の重量に対して通常50〜400重量%、好ましくは50〜200重量%である。
【0037】
結晶化は40〜150℃で上記有機溶媒に溶解し、徐々に放冷しながら結晶が出始めたら約4℃まで5〜40時間かけて冷却して行う。十分結晶が析出した後、濾過器等を用いて結晶を濾過し結晶性エポキシ樹脂を除去する。このようにして得られたろ液から加熱減圧下溶剤を留去することにより、一般式(3)
【0038】
【化4】

【0039】
[式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基またはアリル基を示し、mは0〜3、nは1〜5の整数を示す]で、且つ、メチレン基とグリシジルエーテルがオルト位にあるオルト結合体の含有割合が高いエポキシ樹脂が得られる。オルト結合体の含有割合が低いエポキシ樹脂は結晶となったり樹脂状となったりする。
一般式(3)で表される化合物以外の副生成物としては、反応中のグリシジル基と未反応のフェノール体が付加した化合物あるいはエポキシ環が閉環せずに残ったクロロヒドリン体等が含まれる。
【0040】
本発明の液状エポキシ樹脂について、一般式(3)のmが0、nが1である場合を例に説明する。エポキシ樹脂としてオルト−オルト体、オルト−パラ体、パラ−パラ体が存在する。
【0041】

[式中、Gはグリシジル基を示す]
【0042】
本発明の液状エポキシ樹脂は、パラ−パラ体等の結晶性の高いエポキシ樹脂を結晶として除去し、液状のオルト−オルト体の含有割合を高めたものである。オルト−パラ体はパラ−パラ体と同様に結晶として除去されることから、液状エポキシ樹脂中のオルト−オルト体とパラ−パラ体の存在比を規定すればよい。
結晶性エポキシ樹脂を除去しないとパラ−パラ体/オルト−オルト体は0.8〜1.2程度であるが、結晶を除去することにより、本発明の液状エポキシ樹脂のパラ−パラ体/オルト−オルト体は0.5以下であり、好ましくは0.2以下である。
【0043】
以下、本発明のエポキシ樹脂組成物について説明する。本発明のエポキシ樹脂組成物には、前記の本発明のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を使用してもよい。
【0044】
本発明のエポキシ樹脂と併用し得るエポキシ樹脂としては、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール共縮合型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。更に、これらを2種以上併用してもよい。
本発明のエポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂の使用量は、エポキシ樹脂組成物に対して0〜90重量%、好ましくは0〜80重量%である。
【0045】
本発明のエポキシ樹脂組成物に含有される硬化剤としては、アミン系化合物、酸無水物系化合物、アミド系化合物、フェノ−ル系化合物等が挙げられ、具体的には例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンから調製されるポリアミド樹脂、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、フェノ−ルノボラック及びこれらの変性物、イミダゾ−ル、トリフルオロボラン−アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いても、2種以上併用してもよい。
【0046】
その使用量は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.7〜1.2当量が好ましく、良好な硬化物性が得られる。
【0047】
更に、本発明のエポキシ樹脂組成物は硬化促進剤を含有してもよく、具体的には例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾ−ル類;2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン(DBU)等の三級アミン類;トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;オクチル酸錫等の金属化合物等が挙げられる。硬化促進剤を使用する場合、その量はエポキシ樹脂100重量部に対して0.1〜5.0重量部程度である。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物には必要により無機充填材を含有し得る。該無機充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、タルク等が挙げられる。その量は、エポキシ樹脂組成物に対して0〜90重量%である。
更に、本発明のエポキシ樹脂組成物には、シランカップリング剤;ステアリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の離型剤;顔料等の種々の配合剤を添加することができる。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記各成分を所定の割合で必要に応じて押出機、ニ−ダ、ロ−ル等を用いて均一になるまで充分に混合して得られる。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、従来知られている方法と同様の方法で容易にその硬化物となり、該硬化物も本発明に含まれる。即ち、本発明のエポキシ樹脂組成物を溶融後、注型あるいはトランスファ−成型機等を用いて成型し、80〜200℃で2〜10時間加熱することにより硬化物を得る。
【0050】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物をトルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解し、ガラス繊維、カ−ボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維、紙等の基材に含浸させ、加熱半乾燥して得たプリプレグを熱プレス成型して硬化物を得ることもできる。この際の溶剤の量は、エポキシ樹脂組成物と該溶剤の混合物中の10〜70重量%、好ましくは15〜70重量%である。
【0051】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、例えば、半導体の封止材として用いることが可能である。該エポキシ樹脂組成物で半導体素子(半導体チップ)を封止することにより製造される半導体装置としては、例えば、DIP(デュアルインラインパッケージ)、QFP(クワッドフラットパッケージ)、BGA(ボールグリッドアレイ)、CSP(チップサイズパッケージ)、SOP(スモールアウトラインパッケージ)、TSOP(シンスモールアウトラインパッケージ)、TQFP(シンクワッドフラットパッケージ)等が挙げられる。
また、光半導体分野においては、発光ダイオード(LED)、フォトトランジスタ、CCD(荷電結合素子)、UV−EPROM等のEPROM等の光半導体素子(半導体チップ)を封止した物が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例で更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、合成例、実施例、比較例において部は重量部を意味する。また、パラ−パラ体/オルト−オルト体は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:測定波長;UV254nm)を用い、クロマトグラムの面積比から求めた。軟化点、エポキシ当量は以下の条件で測定した。
・軟化点
JIS K−7234に準じた方法で測定した。
・エポキシ当量
JIS K−7236に準じた方法で測定し、単位はg/eqである。
【0053】
実施例1
撹拌機、温度計、コンデンサーを備えた四つ口フラスコに窒素をパージしながらフェノール1647部、パラトルエンスルホン酸0.1部を仕込み、80℃で撹拌しながら4,4'−ビス(クロロメチル)ビフェニル176部を1時間かけて加えた。続けて80℃にて、95〜105kPaの減圧下で2時間の反応を行った。その後、加熱減圧下(140℃、1.33kPa)で未反応フェノールを留去した。得られた残渣は結晶状であり、GPC(測定波長;UV254nm)の測定からnが1であるフェノールアラルキル樹脂を87%含有していた。その水酸基当量は、188g/eqであった。
【0054】
得られた結晶状化合物にジメチルスルホキシド300部、エピクロロヒドリン1198部を仕込み、50℃に昇温し溶解させた。温度計、滴下ロート、冷却管、撹拌器を取り付けたフラスコに移液し、窒素ガスパージを施しながらこの溶液を40℃で一定に保った。次いで、フレーク状水酸化ナトリウム52部を90分かけて分割添加し、更に、45℃で2時間、60℃で2時間、70℃で30分反応させた。反応終了後、水洗を繰り返し中性に戻した後、油層から加熱減圧下で過剰のエピクロルヒドリンを留去し、残留物に380部のメチルイソブチルケトンを添加し溶解した。
【0055】
このメチルイソブチルケトンの溶液を70℃に加熱し、30重量%の水酸化ナトリウム水溶液13部を添加し1時間反応させた後、洗浄液が中性になるまで水洗を繰り返した。更に、水層を分離除去し、有機層から溶媒を留去してエポキシ樹脂(A1;比較樹脂1とする)291部を得た。得られたエポキシ樹脂は結晶性を有し、GPC(測定波長;UV254nm)の測定からnが1であるエポキシ樹脂を84%含有していた。HPLCからnが1であるエポキシ樹脂におけるパラ−パラ体/オルト−オルト体の存在比は0.84であった。
【0056】
得られた結晶状エポキシ樹脂200部に、メチルイソブチルケトン290部、シクロヘキサン40部、イソプロピルアルコール20部を加え70℃で溶解させた後、室温まで徐々に放冷し、結晶が出てきたら一昼夜放置した。析出した結晶をろ過し、そのろ液を加熱減圧下で溶剤を留去することで、目的とするエポキシ樹脂(B1)142部を得た。エポキシ樹脂(B1)は黄色の液状であり、25℃での粘度は121Pa・s、エポキシ当量は261g/eqであった。得られた液状のエポキシ樹脂(B1)は、1ヵ月間、4℃で放置しても結晶は析出しなかった。
【0057】
GPC(測定波長;UV254nm)の測定からnが1であるエポキシ樹脂を83%含有していた。HPLCからnが1であるエポキシ樹脂におけるパラ−パラ体/オルト−オルト体の存在比は0.19であった。
【0058】
比較例1
撹拌機、温度計、コンデンサーを備えた四つ口フラスコに窒素をパージしながらフェノール1185部、パラトルエンスルホン酸0.1部を仕込み、80℃で撹拌しながら4,4'−ビス(クロロメチル)ビフェニル176部を1時間かけて加えた。続けて80℃にて、95〜105kPaの減圧下で2時間の反応を行った。その後、加熱減圧下(140℃、1.33kPa)で未反応フェノールを留去した。得られた残渣は結晶状であり、GPC(測定波長;UV254nm)の測定からnが1であるフェノールアラルキル樹脂を71%含有していた。その水酸基当量は、197g/eqであった。
【0059】
得られた結晶状化合物にジメチルスルホキシド268部、エピクロロヒドリン1073部を仕込み、50℃に昇温し溶解させた。温度計、滴下ロート、冷却管、撹拌器を取り付けたフラスコに移液し、窒素ガスパージを施しながらこの溶液を40℃で一定に保った。次いで、フレーク状水酸化ナトリウム47部を90分かけて分割添加し、更に、45℃で2時間、60℃で2時間、70℃で30分反応させた。反応終了後、水洗を繰り返し中性に戻した後、油層から加熱減圧下で過剰のエピクロルヒドリンを留去し、残留物に350部のメチルイソブチルケトンを添加し溶解した。
【0060】
このメチルイソブチルケトンの溶液を70℃に加熱し、30重量%の水酸化ナトリウム水溶液11部を添加し1時間反応させた後、洗浄液が中性になるまで水洗を繰り返した。更に、水層を分離除去し、有機層から溶媒を留去してエポキシ樹脂(A2)275部を得た。得られたエポキシ樹脂は結晶性を有し、GPC(測定波長;UV254nm)の測定からnが1であるエポキシ樹脂を70%含有していた。高速液体クロマトグラフィー(HPLC:測定波長;UV254nm)からnが1であるエポキシ樹脂におけるパラ−パラ体/オルト−オルト体の存在比は0.86であった。
【0061】
得られた結晶状エポキシ樹脂100部に、メチルイソブチルケトン145部、シクロヘキサン20部、イソプロピルアルコール10部を加え70℃で溶解させた後、室温まで徐々に放冷し、結晶が出てきたら一昼夜放置した。析出した結晶をろ過し、そのろ液を加熱減圧下で溶剤を留去することで、エポキシ樹脂(A3)67部を得た。エポキシ樹脂(A3)は黄色の半固形状であり、その軟化点は44℃で、エポキシ当量は268g/eqであった。
【0062】
GPC(UV254nm)の測定からnが1であるエポキシ樹脂を68%含有していた。HPLCからnが1であるエポキシ樹脂におけるパラ−パラ体/オルト−オルト体の存在比は0.15であった。
エポキシ樹脂B1、A1、A2,A3の結果を表1にまとめる。
【0063】
[表1]

本発明の液状エポキシ樹脂は、GPCにおいて、一般式(1)におけるnが1であるフェノールアラルキル樹脂をエポキシ化してなるエポキシ樹脂の含有率が80%以上であり、且つ、そのメチレン基とグリシジルオキシ基の置換位置がパラ−パラ体であるエポキシ樹脂の、オルト−オルト体であるエポキシ樹脂に対する割合が0.5以下である。
【0064】
実施例2
エポキシ樹脂として実施例1で得られたエポキシ樹脂(B1)、硬化剤としてジエチルアミノジフェニルメタン(日本化薬(株)製、カヤハードA−A)を表2に示す割合(重量部)で配合した。
【0065】
比較例2
エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、RE−310S、エポキシ当量 185g/eq)、硬化剤としてジエチルアミノジフェニルメタン(日本化薬(株)製、カヤハードA−A)を表2に示す割合(重量部)で配合した。
【0066】
[表2]
実施例2 比較例2
エポキシ樹脂 B1 100
RE−310S 100
硬化剤 カヤハードA−A 24.3 34.3
【0067】
試験例
実施例2、比較例2で得られたエポキシ樹脂組成物について注型法により樹脂成形体を調製し、120℃で2時間、更に150℃で6時間加熱し硬化させた。このようにして得られた硬化物の物性の測定結果を表3に示す。
【0068】
物性値の測定は以下の方法で行った。
・ガラス転移温度(TMA):真空理工(株)製 TM−7000、昇温速度 2℃/分
・吸水率:直径5cm×厚み4mmの円盤状の試験片を100℃の水中で72時間煮沸した後、その重量増加率(%)を求める
【0069】
[表3]
実施例2 比較例2
ガラス転移温度(℃) 134 132
吸水率(%) 0.9 1.2
【0070】
上記の結果は、本発明の液状エポキシ樹脂の硬化物が低吸湿性であることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

[式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基またはアリル基を示し、mは0〜3、nは1〜5の整数を示す]
で表されるフェノールアラルキル樹脂をエポキシ化し、結晶性エポキシ樹脂を除去してなる液状エポキシ樹脂。
【請求項2】
一般式(3)
【化2】

[式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基またはアリル基を示し、mは0〜3、nは1〜5の整数を示す]
で表されるエポキシ樹脂であって、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる測定において、式(3)におけるnが1であるエポキシ樹脂の含有率が80%以上であり、主鎖のメチレン基と側鎖のグリシジルオキシ基の置換位置がオルト−オルト体であるエポキシ樹脂に対して、パラ−パラ体であるエポキシ樹脂の割合が0.5以下である液状エポキシ樹脂。
【請求項3】
mが0である請求項1または2に記載の液状エポキシ樹脂。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の液状エポキシ樹脂及び硬化剤を含有してなるエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項6】
一般式(2)
【化3】

[式中、Xは脱離基を示す]
で表される化合物と、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基若しくはアリル基で置換されていてもよいフェノール類とを酸存在下で反応してフェノールアラルキル樹脂を得、次いで、該樹脂とエピハロヒドリンとをアルカリ条件下で反応して得られるエポキシ樹脂から、結晶性エポキシ樹脂を除去することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液状エポキシ樹脂の製造法。
【請求項7】
一般式(2)の化合物1モルに対してフェノール類10〜50モルを反応することを特徴とする請求項6記載の液状エポキシ樹脂の製造法。
【請求項8】
結晶性エポキシ樹脂の除去がメチルイソブチルケトン、シクロヘキサン及びイソプロパノールの混合溶媒を用いて行うことを特徴とする請求項6または7に記載の液状エポキシ樹脂の製造法。

【公開番号】特開2006−63207(P2006−63207A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248246(P2004−248246)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】