説明

液状ガラス

【課題】水素と鉄筋との相互作用を原因とする鉄筋コンクリートの劣化が、抑制できるようにする。
【解決手段】ポリシラザンが溶解した有機溶剤101と、アルカリ金属を含むガラスより構成されて有機溶剤101に分散した複数のガラス粒子102とを備える。アルカリ金属は、例えばナトリウムである。この場合、ガラス粒子102は、いわゆるソーダガラスの粒子である。また、ガラス粒子102は、多孔質状態のコンクリートの孔内に入り込める大きさとされていればよい。例えば、ガラス粒子102は、粒径が1μm程度であればよい。また、有機溶剤101は、ベンゼンなどの芳香族炭化水素から構成されていればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋を有するコンクリートに塗布して用いる液状ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄筋を配することで引っ張り強度を補強したコンクリート(鉄筋コンクリート)は、多くの建築物、建造物に用いられている。このような鉄筋コンクリートにおいては、二酸化炭素,水素などのガスが侵入して内部の鉄筋に悪い影響を及ぼすことが知られている。二酸化炭素が侵入すると、コンクリート中のアルカリ成分が中和され、鉄筋の表面がアルカリ性から中性に傾き、鉄筋が腐食しやすくなる。この鉄筋の腐食により、対となる水の分解によって水素が発生する。このようにして発生する水素量は、3.6×10-6[mol/cm2]程度であると見積もられている(非特許文献1参照)。また、上述したことにより発生する水素は、鉄筋と相互作用し、鉄筋の種類によっては遅れ破壊を生じさせることがある。
【0003】
従って、上述したようなガスのコンクリート中への進入を抑制することが、鉄筋コンクリートの強度を維持するために重要となる。ここで、二酸化炭素などのガスの侵入を抑制することを目的として、SiO2を主成分とするアルカリ水溶液を塗布してコンクリートに含浸させることが行われいる(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】藤本憲弘・東康弘・齋藤博之・半田隆夫「コンクリート中での鉄筋腐食に伴う水素発生量」2009年電子情報通信学会ソサイエティ大会予稿#A−9―1,p.151。
【非特許文献2】http://www.kanedakensetsu.co.jp/cryst.pdf(2009年9月4日).
【非特許文献3】http://www.j-sl.com/chn/write_06/06_main04.html(2009年9月4日).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、SiO2を主成分とするアルカリ水溶液をコンクリートに含浸させる技術では、ガスの浸入を完全に抑制できないという問題がある。非特許文献2にもあるように、SiO2を主成分とするアルカリ水溶液をコンクリートに含浸させてもガスの侵入を完全に抑えるわけではなく、また、水蒸気程度のガスでも透過してしまう。このため、上述した技術では、水より分子量の小さい水素ガスに対しての遮断能力がない。したがって、遅れ破壊を防止するという観点からは、上述した技術では、あまり効果が得られていない。このため、鉄筋コンクリートにおける、遅れ破壊などの劣化を未然に防ぐことのできる技術が期待されている。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、水素と鉄筋との相互作用を原因とする鉄筋コンクリートの劣化が、抑制できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る液状ガラスは、ポリシラザンが溶解した有機溶剤と、アルカリ金属を含むガラスより構成されて有機溶剤に分散した複数のガラス粒子とを少なくとも備える。
【0008】
上記液状ガラスにおいて、アルカリ金属は、ナトリウムおよびリチウムより選択されたものであればよい。また、液状ガラスは、コンクリートの表面に塗布されて用いられるものであり、ガラス粒子は、多孔質状態のコンクリートの孔内に入り込める大きさとされていればよい。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、ポリシラザンが溶解した有機溶剤に、アルカリ金属を含むガラスより構成された複数のガラス粒子を分散しているので、水素と鉄筋との相互作用を原因とする鉄筋コンクリートの劣化が、抑制できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態における液状ガラスの構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における液状ガラスの構成を示す構成図である。図1では、液状ガラスの一部断面を模式的に示している。
【0012】
この液状ガラスは、ポリシラザンが溶解した有機溶剤101と、アルカリ金属を含むガラスより構成されて有機溶剤101に分散した複数のガラス粒子102とを備える。アルカリ金属は、例えばナトリウムである。この場合、ガラス粒子102は、いわゆるソーダガラスの粒子である。また、ガラス粒子102は、多孔質状態のコンクリートの孔内に入り込める大きさとされていればよい。例えば、ガラス粒子102は、粒径が1μm程度であればよい。また、有機溶剤101は、ベンゼンなどの芳香族炭化水素から構成されていればよい。
【0013】
また、ガラス粒子102は、有機溶剤101に溶解しているポリシラザンが水分と反応することで得られる石英ガラス(SiO2)の量に対し、1:1(重量比)程度含まれていればよい。液状ガラスに対するガラス粒子102の混合量は、上述した量に限らず、得られる石英ガラスの量に対し、1:10(重量比),1:100(重量比)としてもよく、また、10:1(重量比)としてもよい。後述するように、ガラス粒子102の量は、可能な範囲で多いほどよいが、少量であっても、ガラス粒子102が混合されていれば、後述する効果が得られる。
【0014】
本実施の形態における液状ガラスを、コンクリートからなる構造体の表面に塗布すると、多孔体であるコンクリートの複数の孔より、有機溶剤101と共にガラス粒子102が含浸していく。このようにしてコンクリートに含浸した液状ガラスは、例えば、大気中の水分と反応し、石英ガラスとガラス粒子102との混合物となる。このようにしてコンクリート内に取り込まれたガラス粒子102の存在により、コンクリート内部における水素ガス濃度を低下させることが可能となる。また、液状ガラスは、塗布してコンクリートの表面を覆う状態としてもよい。
【0015】
以下、本実施の形態における水素ガス濃度の低下について説明する。
【0016】
よく知られているように、水中における水素は、「H2⇔2H++e-」の平衡状態ある。ここに、ソーダガラスが存在すると、ソーダガラスの表面からナトリウムイオン(Na+)が溶け出し、この代わりに、ソーダガラス内に水素イオン(H+)が入り込み、ソーダガラスの表面に、珪酸基SiO−Hの層が形成されるようになる。これは、「SiO−H⇔SiO-+H+」の平衡状態として維持される。この反応系は、よく知られたソーダガラスによるガラス電極を用いたpHの測定における反応と同様である(非特許文献3参照)。
【0017】
ここで、上述した液相の平衡反応系に接する気相において、水素ガスが存在する場合を考える。気相における水素ガスは、一定量が液相に溶解し、液相に水素ガスが溶解してこの濃度が上昇することで、「H2⇔2H++e-」の平衡状態は、右に傾くことになり、液相における水素イオン濃度が上昇する。ところが、上述した系では、「SiO−H⇔SiO-+H+」の反応系も存在しているので、液相の水素イオンの濃度が高くなると左に傾き、液相において上昇した水素イオン濃度を低くする。このため、「H2⇔2H++e-」の平衡状態は右に傾き、液相における水素ガスの濃度を低下させる。この結果、気相における水素ガスが液相に溶解し、気相における水素ガスの濃度を低下させる。
【0018】
また、上述した平衡反応系(液相)において、水素イオン濃度が増加した場合を考える。例えば、鉄筋コンクリート中の鉄筋の腐食により、水素イオンが発生する場合などである。この場合、「SiO−H⇔SiO-+H+」の反応系が、液相の水素イオンの濃度の上昇により左に傾き、液相においける水素イオン濃度の上昇を抑制する。この結果、「H2⇔2H++e-」の平衡状態が左に傾くことが抑制され、水素ガスの発生が抑制されるようになる。
【0019】
以上のように、ソーダガラスの存在により、水素ガスの濃度を低下させ、水素ガスの濃度を一定の範囲に制御することが可能となる。この結果、鉄筋コンクリートにおける遅れ破壊の発生を抑制できるようになる。また、これらのことは、外部より水素ガスが侵入した場合に限らず、鉄筋の腐食に伴ってコンクリート構造体内部に発生した水素についても一定濃度範囲に制御することができる。この作用は、SiO−Hの量が多いほど顕著に得られるようになり、水素ガスの濃度を低下の効果をより高くすることができる。また、上述した平衡に達する反応を、電気化学的に加速すれば、より効果的である。
【0020】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が実施可能であることは明白である。例えば、上述では、アルカリ金属としてナトリウムを例に説明したが、これに限るものではない。例えば、アルカリ金属としてリチウムを含むガラス(リチウム−バリウムガラス)より、ガラス粒子を構成しても、水の中ではこのガラス粒子の表面からリチウムイオン(Li+)が溶け出し、この代わりに、ガラス内に水素イオン(H+)が入り込むので、上述同様の作用効果が得られる。同様に、カリウムなどのアルカリ金属を含むガラスでもよい。
【符号の説明】
【0021】
101…ポリシラザンが溶解した有機溶剤、102…ガラス粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシラザンが溶解した有機溶剤と、
アルカリ金属を含むガラスより構成されて前記有機溶剤に分散した複数のガラス粒子と
を少なくとも備えることを特徴とする液状ガラス。
【請求項2】
請求項1記載の液状ガラスにおいて、
前記アルカリ金属は、ナトリウムおよびリチウムより選択されたものであることを特徴とする液状ガラス。
【請求項3】
請求項1または2記載の液状ガラスにおいて、
前記液状ガラスは、コンクリートの表面に塗布されて用いられ、
前記ガラス粒子は、多孔質状態の前記コンクリートの孔内に入り込める大きさとされている
ことを特徴とする液状ガラス。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−126723(P2011−126723A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284050(P2009−284050)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】