説明

液状クリーム用油脂およびそれを使用した液状クリーム

【課題】本発明の目的は、パーム分別軟質油を使用しても良好な耐冷却性を有する液状クリームを開発することである。
【解決手段】ヨウ素価が60〜80であり、XU2型トリグリセリド55〜70質量%とX3型トリグリセリド2質量%未満とを含んでなり、全てのトリグリセリドの2位置に結合した脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量が6〜30質量%である、パーム分別軟質油を5〜70質量%と、油脂の全構成脂肪酸中に不飽和脂肪酸を70質量%以上含有し、20℃で液体である液体油及び/又は油脂の全構成脂肪酸中にラウリン酸を30質量%以上含有し、ヨウ素価が20以上であるラウリン系軟質油を30〜95質量%含有する、液状クリーム用油脂を使用した液状クリーム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状クリーム用油脂およびそれを使用した液状クリームに関する。
【背景技術】
【0002】
パーム油は、大規模プランテーションによる大量生産により価格的に安い油脂であったという背景がある。また、もともと固体脂ではあるが、分別処理により液体油に近い低融点のものから非常に硬質な脂肪まで様々な性状の油脂を得ることができる。さらに酸化安定性が良いという特性もあり、今や大豆油と並ぶ油糧資源として世界中で使用されている。また近年、世界的に食用油脂に含まれるトランス脂肪酸の問題がクローズアップされるようになってからは、トランス脂肪酸含量が極めて低いパーム油の活用はますます必要とされるようになってきた。しかしながら、パーム油を分別して得られる低融点部(パームオレイン)は、低融点部といえども夏季以外は固形を呈する傾向があり、そのためせいぜい半液体油と言える程度のものに過ぎない。この低融点部をさらに分別して得られるいわゆるパームスーパーオレインと呼ばれる低融点部においても、サラダ油なみの耐冷却性を有する液体油を得ることは困難であった。
【0003】
従って、パームオレインやパームスーパーオレインに代表されるパーム分別軟質油は、菜種油、大豆油、コーン油、紅花油、およびひまわり油などのサラダ油とブレンドすることにより、冬期に多少の油脂結晶が析出したとしても流動性は確保できるので、主に業務用フライ油として広く使用されている。しかしながら、コーヒークリームのような液状クリームにおいては、冷蔵保管中の温度低下による凍結や凝固が問題となっており、耐冷却性として凍結解凍耐性も求められる。従って、油脂結晶が析出しない、もしくは、析出したとしても乳化破壊が起こらないという耐冷却性が必要とされるため、パーム分別軟質油の配合は、極めて低いレベルに抑えざるを得ないものであり、パーム油を利用拡大する上での障壁となっていた。
【0004】
パーム分別軟質油の耐冷却性を向上させるには、低融点部の分別を繰り返し、より低融点となる画分を分取するのが一般的ではあるが、工程が嵩む割には目的とする低融点画分の収率は低く、生産コストに見合わないものであった。また、パーム油に含まれるジグリセリドに着目し、ジグリセリドの組成・含量を調整することにより、パーム分別軟質油やそれを使用した加工乳化食品の耐冷却性を向上させる試みも行なわれているが(例えば、特許文献1〜2を参照)、ジグリセリドの調整は、分別を繰り返すのと同程度に生産コストが嵩むものであり、実用的ではなかった。さらには、パーム分別軟質油と耐冷却性の高い液体油脂との1,3位を選択的にエステル交換した油脂を使用することで、加工乳化食品の耐冷却性を向上させる試みも行なわれてはいるが(例えば、特許文献3を参照)、油脂の1,3位を選択的にエステル交換するには、高価なリパーゼ製剤と複雑な製造装置が必要となるため、同様に実用性に乏しいものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−43149号公報
【特許文献2】特開平5−161471号公報
【特許文献3】特開平2−92997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、パーム分別軟質油を使用しても良好な耐冷却性を有する液状クリームを開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ヨウ素価が特定範囲内であって、全てのトリグリセリドの2位置に結合した脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量を特定量に調整したパーム分別軟質油と、液体油および/またはラウリン系軟質油とを特定量含む油脂を、液状クリームに使用した場合、耐冷却性が良好な液状クリームが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一態様によれば、
以下のパーム分別軟質油を5〜70質量%と、液体油および/またはラウリン系軟質油を30〜95質量%含有する液状クリーム用油脂が提供される。
(パーム分別軟質油)
ヨウ素価が60〜80であるパーム分別軟質油であって、
炭素数16以上の飽和脂肪酸Xと炭素数16以上の不飽和脂肪酸Uとが結合したXU2型トリグリセリド55〜70質量%と、
X3型トリグリセリド2質量%未満と
を含んでなり、
前記パーム分別軟質油に含まれる全てのトリグリセリドの2位置に結合した脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量が、6〜30質量%である、パーム分別軟質油。
(液体油)
油脂の全構成脂肪酸中に不飽和脂肪酸を70質量%以上含有し、20℃で液体である油脂。
(ラウリン系軟質油)
油脂の全構成脂肪酸中にラウリン酸を30質量%以上含有し、ヨウ素価が20以上である油脂。
【0009】
また、本発明の他の態様によれば、
上記パーム分別軟質油が、
X2U型トリグリセリド10〜40質量%と、
U3型トリグリセリド5〜20質量%と、
をさらに含んでなる、上記の液状クリーム用油脂が提供される。
【0010】
また、本発明の他の態様によれば、
上記の液状クリーム用油脂を使用してなる、液状クリームが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のパーム分別軟質油と液体油および/またはラウリン系軟質油とを含む油脂を液状クリームに使用することにより、パーム分別軟質油を使用しても、耐冷却性が良好な液状クリームを得ることができる。
【0012】
I.パーム分別軟質油
本発明において、「パーム分別軟質油」とは、パームの果肉由来の油脂を分別処理に供して得られる油脂である。パーム分別軟質油として、パーム油を分別して得られる、低融点部および/または中融点部が用いられる。好ましい態様によれば、複数回の分別処理に供して得られる低融点部を用いてもよい。また、パーム分別軟質油は、エステル交換処理を経たものであってもよい。エステル交換処理は、分別処理の前後あるいは複数回の分別処理の間のいずれの段階で行われてもよい。
【0013】
本発明のパーム分別軟質油は、ヨウ素価が、60〜80、好ましくは62〜78、より好ましくは64〜74である。また、パーム分別軟質油は、炭素数16以上の飽和脂肪酸Xと炭素数16以上の不飽和脂肪酸Uとが結合したXU2型トリグリセリドを55〜70質量%、好ましくは57〜68質量%、さらに好ましくは59〜66質量%含むものである。パーム分別軟質油中のX3型トリグリセリドの含有量は、2質量%未満、好ましくは0質量%以上1質量%未満、より好ましくは0質量%以上0.5質量%未満であり、さらに好ましくは0質量%である。X3型トリグリセリドの含有量は少ないほうがよく、全く含まれなくてもよい。X3型トリグリセリドを2質量%未満に抑えることで、パーム分別軟質油を液状クリームに使用した場合、耐冷却性をより向上させることができる。
【0014】
好ましい態様によれば、パーム分別軟質油は、X2U型トリグリセリドを好ましくは10〜40質量%、より好ましくは10〜33質量%、より好ましくは10〜27質量%と、U3型トリグリセリドを好ましくは5〜20質量%、より好ましくは8〜20質量%、より好ましくは10〜18質量%とをさらに含むものである。
【0015】
トリグリセリドに結合した炭素数16以上の飽和脂肪酸Xとしては、例えば、パルミチン酸(16:0)、ステアリン酸(18:0)、アラキジン酸(20:0)、ベヘン酸(22:0)、およびリグノセリン酸(24:0)等が挙げられる。また、炭素数16以上の不飽和脂肪酸Uとしては、例えば、パルミトレイン酸(16:1)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、およびリノレン酸(18:3)等が挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数と二重結合数の組み合わせである。
【0016】
本発明においては、パーム分別軟質油に含まれる全てのトリグリセリドの2位置に結合した脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量は、6〜30質量%、好ましくは8〜25質量%、より好ましくは9〜20質量%、さらに好ましくは12〜18質量%である。全トリグリセリドの2位置に結合した脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量が上記範囲内にあることで、低温時の固形脂含量(SFC)が低く抑えられ、かつ微細な結晶を生じるため、パーム分別軟質油を含む液状クリームの耐冷却性を向上させることができる。
なお、トリグリセリドの2位置に結合した脂肪酸の測定は、例えば、油化学,29,587,(1980)に準じて行うことができる。
【0017】
本発明においては、パーム分別軟質油中にジグリセリドが5質量%以上含まれてもよいが、ジグリセリドの含有量を5質量%未満、さらには3質量%未満に抑えることもできる。本発明のパーム分別軟質油によれば、ジグリセリド含有量が5質量%未満と低くても、液状クリームに使用した場合に十分な耐冷却性を有することができる。ジグリセリドの調整や添加が必要ないため、コストを削減することができる。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、パーム分別軟質油に含まれるトランス脂肪酸の含有量は、パーム分別軟質油に含まれる全てのトリグリセリドを構成する脂肪酸の全量に対して、5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下であるのがよい。トランス脂肪酸の含有量が上記範囲程度であれば、栄養学的に好ましい。
【0019】
II.パーム分別軟質油の製造方法
本発明において、パーム分別軟質油は本発明の構成を満たす限り、製造方法は特に限定されず、いかなる製造方法により得られてもよいが、製造方法を例示すると以下の通りである。パーム分別軟質油の製造方法は、エステル交換処理に供した第1のパーム分別油と、エステル交換処理を経ていない第2のパーム分別油とを特定量で混合した後、この混合油脂をさらに分別処理に供して得られたパーム分別油を用いる方法である。より詳細には、上記のパーム分別軟質油の製造方法は、
パーム油を分別処理に供した後、エステル交換処理にさらに供して、第1のパーム分別油を得る工程と、
パーム油を分別処理に供した後、エステル交換処理を経ずに、第2のパーム分別油を得る工程と、
第1のパーム分別油10〜90質量%、好ましくは20〜80質量%と、第2のパーム分別油10〜90質量%、好ましくは20〜80質量%とを混合して、第3のパーム分別油を得る工程と、
第3のパーム分別油を分別処理に供して、第4のパーム分別油を得る工程と
を含んでなるものであり、
第4のパーム分別油と、その他のパーム分別油とを混合して、上記のパーム分別軟質油を得る工程をさらに含んでもよい。上記のパーム分別軟質油は、第4のパーム分別油を10質量%以上、好ましくは15〜100質量%含むものであり、他のパーム分別油をさらに含んでもよい。他のパーム分別油とは、第4のパーム分別油以外であればよく、パーム油を分別処理に供して得られたものである。
【0020】
本発明においては、各工程で得られるパーム分別油のヨウ素価は、いずれも50〜80であることが好ましく、特に、第4のパーム分別油は、60〜80であることが好ましい。また、第4のパーム分別油は、第4のパーム分別油に含まれる全てのトリグリセリドの2位置に結合した脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量は、好ましくは6〜30質量%であり、より好ましくは8〜25質量%であり、さらに好ましくは9〜20質量%である。このような第4のパーム分別油を単独で、あるいは、その他のパーム分別油と混合することで、得られたパーム分別軟質油の全てのトリグリセリドの2位置に結合した脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量を6〜30質量%に調製することができる。
【0021】
本発明において、上記の各工程で行われる分別処理は、少なくとも1回であり、複数回行ってもよい。分別処理およびエステル交換処理の方法の詳細については、以下で説明する。
【0022】
分別処理
本発明において、分別処理の方法は、特に限定されないが、ドライ分別、乳化分別、および溶剤分別等により行なうことができ、特に、ドライ分別により経済的に行なうことができる。ドライ分別は、一般的には槽内で攪拌しながら分別原料油脂を冷却し、結晶を析出させた後、圧搾および/または濾過によって硬質部(結晶画分)と軟質部(液状画分)を得ることにより行なうことができる。分別温度は、求められる分別油脂の性状に応じて適宜調節するのが良く、例えば10〜40℃で行うことができる。
【0023】
エステル交換処理
本発明において、エステル交換処理の方法は、特に限定されないが、公知の方法により行うことができる。例えば、ナトリウムメトキシド等の合成触媒を使用した化学的エステル交換や、リパーゼを触媒とした酵素的エステル交換のどちらの方法でも行うことができる。いずれの方法においても、ランダムエステル交換もしくは位置特異性の乏しいエステル交換により、パーム分別油に含まれる全てのトリグリセリドの2位置に結合した脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量を調整することが好ましい。
【0024】
化学的エステル交換は、例えば、原料油脂を十分に乾燥させ、ナトリウムメトキシドを原料油脂に対して0.1〜1質量%添加した後、減圧下、80〜120℃で0.5〜1時間攪拌しながら反応を行うことができる。
【0025】
酵素的エステル交換は、例えば、リパーゼ粉末または固定化リパーゼを原料油脂に対して0.02〜10質量%、好ましくは0.04〜5質量%添加した後、40〜80℃、好ましくは40〜70℃で0.5〜48時間、好ましくは0.5〜24時間攪拌しながら反応を行うことができる。
【0026】
III.液体油
本発明において液体油とは、油脂の全構成脂肪酸中に不飽和脂肪酸を70質量%以上含有し、20℃で液体である油脂である。より具体的には、菜種油、高オレイン酸菜種油、オリーブ油、米油、ゴマ油、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、大豆油、高オレイン酸大豆油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油等、又はこれらの混合油等が挙げられる。特に冷却試験に合格するサラダ油グレードの液体油であることが好ましい。ここでサラダ油とは、JAS(日本農林規格)にもとづいて、0℃で5.5時間曇り又は結晶が析出しないものをいう。また、オレイン酸含量が70質量%以上であると、風味安定性がよくなるので好ましい。
【0027】
IV.ラウリン系軟質油
本発明においてラウリン系軟質油とは、油脂の全構成脂肪酸中にラウリン酸を30質量%以上含有し、ヨウ素価が20以上である油脂である。より具体的には、パーム核油等を分別処理した低融点部や、ヤシ油、パーム核油等と上記液体油との混合油をエステル交換した油脂等が挙げられる。本発明におけるラウリン系軟質油は、分別処理された低融点部であることが好ましく、ヨウ素価は好ましくは23以上であり、より好ましくは25以上であり、さらに好ましくは27以上である。ヨウ素価の上限は特に限定されないが、好ましくは50以下、より好ましくは40以下である。ラウリン系軟質油が上記条件を満たすと、これを使用した液状クリームの風味安定性と耐冷却性を向上できるので好ましい。
【0028】
V.液状クリーム用油脂
本発明の液状クリーム用油脂は、上記パーム分別軟質油を5〜70質量%と、上記液体油および/またはラウリン系軟質油を30〜95質量%含有する。本発明の液状クリーム用油脂は、パーム分別軟質油を10〜60質量%と、液体油および/またはラウリン系軟質油を40〜90質量%含有することが好ましく、パーム分別軟質油を20〜50質量%と、液体油および/またはラウリン系軟質油を50〜80質量%含有することがさらに好ましい。本発明の液状クリーム用油脂は、パーム分別軟質油と液体油および/またはラウリン系軟質油との混合油からなることが好ましいが、液状クリームの耐冷却性を損なわない範囲において、任意成分として、その他の食用油脂を含んでもよい。その他食用油脂としては、乳脂やラウリン系軟質油を除くラウリン系油脂を含んでもよい。ここで、ラウリン系油脂とは、油脂の全構成脂肪酸中におけるラウリン酸含量が30質量%以上である油脂を意味し、具体的には、ヤシ油、パーム核油及びこれらの分別油、硬化油、エステル交換油等を例示することができる。ラウリン系油脂の分別油の具体例としては、パーム核オレイン(パーム核油を分別して得られる軟質部)、パーム核ステアリン(パーム核油を分別して得られる硬質部)、ヤシステアリン(ヤシ油を分別して得られる硬質部)等が挙げられる。これらのラウリン系油脂は1種又は2種以上を混合して用いることもできる。本発明の液状クリーム用油脂がラウリン系軟質油を除くラウリン系油脂を含有する場合、ラウリン系軟質油を除くラウリン系油脂の含量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、5〜15質量%であることが最も好ましい。本発明の液状クリーム用油脂がラウリン系軟質油を除くラウリン系油脂を5〜15質量%含有する場合、パーム分別軟質油を5〜55質量%と、液体油および/またはラウリン系軟質油を30〜90質量%含有することが好ましい。
【0029】
VI.液状クリーム
本発明の液状クリームは、本発明の液状クリーム用油脂を使用した液状クリーム(水中油型乳化物)である。本発明の好ましい態様によれば、本発明の液状クリームは、本発明の液状クリーム用油脂を好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜40%、さらに好ましくは、10〜30質量%含むものである。本発明の液状クリームは、油脂として本発明の液状クリーム用油脂のみを使用することが好ましいが、生クリームを併用することにより、生クリーム由来の脂肪を含んでいてもよい。本発明の液状クリームにおける、生クリーム由来の脂肪含量は、本発明の液状クリーム用油脂含量に対して50質量%以下であることが好ましい。本発明の液状クリームは、特に、コーヒークリームのように飲料に添加される飲料用クリームとして好適である他、プリンやゼリー等の冷菓のトッピングとしてや、調理用クリームとして、シチューやスープ等の調理食品にも好適に使用することができる。
【0030】
本発明の液状クリームには、油脂以外の成分として、通常、水中油型乳化物である食用クリームに配合される成分を適量使用することができる。具体的には、水、乳化剤、乳固形分、糖類、増粘剤、塩類、抗酸化剤、香料等を使用することができる。乳化剤としては、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸脂肪酸エステル等の従来公知の乳化剤が挙げられる。乳固形分としては、例えば、脱脂乳、脱脂粉乳、ホエーパウダー、カゼインナトリウム、生クリーム、牛乳、加糖練乳等が挙げられる。乳固形分は、一部を植物性蛋白で置換して利用することもできる。糖類としては、例えば、グルコース、マルトース、ソルビトール、シュークロース、ラクトース等が挙げられる。増粘剤としては、例えば、キサンタンガム、グアーガム、ジェランガム等が挙げられる。塩類としては、例えば、リン酸のアルカリ金属塩、クエン酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0031】
VII.液状クリームの製造方法
本発明の液状クリームの製造方法には、公知の方法を用いることができる。一例としては、上記の液状クリーム用油脂に、油溶性のその他の成分を溶解または分散させて油相を調製する。一方、水に水溶性のその他の成分、必要に応じて生クリームを、溶解または分散させて調製した水相も調製する。それぞれ調製した油相と水相を混合し、予備的に乳化させた乳化物を均質化処理することにより製造することができる。また、必要に応じて殺菌処理することもできる。均質化処理は、殺菌処理の前に行う前均質であっても、殺菌処理の後に行う後均質であってもよく、また前均質および後均質の両者を組み合わせた二段均質を行うこともできる。均質化処理の後は、冷却、エージングの工程に供してもよい。
なお、本発明の液状クリームの製造工程において、本発明の液状クリーム用油脂は、油相を調製する前に予め、パーム分別軟質油と、液体油および/またはラウリン系軟質油、及び任意のその他食用油脂を混合した混合油として配合してもよいし、油相中の油脂として本発明の液状クリーム用油脂の構成を満たす限りは、各油脂を油相調製の際に別々に配合してもよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0033】
I.パーム分別軟質油の製造
パーム分別軟質油の原料油Aの調製
パーム油を分別処理に供して、パーム分別油を得た。パーム分別油のヨウ素価は、56.6であった。このパーム分別油を12℃の空冷条件で17時間冷却した後、圧搾濾過を行い、パーム分別軟質油の原料油Aを得た。原料油Aのヨウ素価は、66.7であった。
【0034】
パーム分別軟質油の原料油Bの調製
パーム油を分別処理に供した後、ナトリウムメチラートを触媒としてランダムエステル交換処理にさらに供して、第1のパーム分別油を得た。第1のパーム分別油のヨウ素価は、56.6であった。また、パーム油を分別処理に供して、第2のパーム分別油を得た。第2のパーム分別油のヨウ素価は、64.1であった。次に、第1のパーム分別油50質量%と、第2のパーム分別油50質量%とを混合して、第3のパーム分別油を得た。第3のパーム分別油を16℃で3時間冷却し、12℃で3時間さらに冷却した後、圧搾濾過を行い、第4のパーム分別油(原料油B)を得た。原料油Bのヨウ素価は、67.0であった。
【0035】
上記で得られたパーム分別軟質油の原料油AおよびBを表1に記載の混合比で混合して、例1〜5のパーム分別軟質油を得た。さらに、例5のパーム分別軟質油にX3型トリグリセリドを添加して、例6のパーム分別軟質油を得た。例1〜6のパーム分別軟質油の、ヨウ素価、X3型、X2U型、XU2型、およびU3型の各トリグリセリド割合、パーム分別軟質油に含まれる全てのトリグリセリドの2位置に結合した脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量(TG−2−X)は、表1に示すとおりであった。
【0036】
【表1】

【0037】
II.コーヒークリーム(1)の製造
以下の製造手順1〜6により、表2に示す配合量(質量%)の例7〜例12のコーヒークリームを製造した。例7〜例12のコーヒークリームは、それぞれ例1〜6のパーム分別軟質油50質量部と、ハイオレイックひまわり油(日清オイリオグループ株式会社試作品、不飽和脂肪酸含量92.2質量%、オレイン酸含量81.8質量%、サラダ油グレード)50質量部との混合油を試料油脂(例2〜5のパーム分別軟質油を使用した試料油脂が実施例)としたものである。
製造手順
1.水相原料および油相原料をそれぞれ別々の容器を用いて、70℃で加熱混合溶解した。
2.該水相原料を撹拌しながら、そこに油相原料を徐々に加え予備乳化した。
3.ホモジナイザーを用いてホモジナイズした(1段目200kg/cm、2段目50kg/cm)。
4.湯浴を用いて、85℃で10分間殺菌した。
5.ホモジナイザーを用いてホモジナイズした(1段目150kg/cm、2段目50kg/cm)。
6.氷水浴を用いて30℃まで冷却して、コーヒークリームを得た。
【0038】
【表2】

【0039】
III.コーヒークリーム(1)の評価
上記で製造した例7〜例12のコーヒークリームついて、以下の評価を行った。
【0040】
(1)乳化安定性
コーヒークリームを−15℃で24時間凍結した後、室温で解凍した。下記の基準で目視評価した。
評価基準
◎:全く凝固しておらず、極めて良好であった。
○:わずかに凝固していたが、実用上問題なかった。
△:多少凝固していた。
×:完全に凝固していた。
【0041】
(2)分散性
インスタントコーヒー2gに熱湯100gを注ぎ、コーヒークリームを5g添加して撹拌した後、外観を下記の基準で目視評価した。
評価基準
◎:オイルオフやフェザリングが全くなく、均一な状態であった。
○:わずかにオイルオフやフェザリングが生じたが、実用上問題なかった。
△:オイルオフやフェザリングが多少生じた。
×:オイルオフやフェザリングが明らかに生じた。
【0042】
例7〜例12のコーヒークリームの評価結果は、表3に示すとおりであった。
【0043】
【表3】

【0044】
IV.コーヒークリーム(2)の製造
表4に示す配合量(質量%)の例13〜例18のコーヒークリームをコーヒークリーム(1)の製造と同様の手順で製造した。表4中のパーム分別軟質油は、上記例3及び例4で得られたパーム分別軟質油であり、ハイオレイックひまわり油、ハイオレイック紅花油、ハイオレイック菜種油はそれぞれ以下のものを使用した。
ハイオレイックひまわり油(日清オイリオグループ株式会社試作品、不飽和脂肪酸含量92.2質量%、オレイン酸含量81.8質量%、サラダ油グレード)
ハイオレイック紅花油(日清オイリオグループ株式会社製、不飽和脂肪酸含量91.4質量%、オレイン酸含量76.5質量%、サラダ油グレード)
ハイオレイック菜種油(日清オイリオグループ株式会社製、不飽和脂肪酸含量93.1質量%、オレイン酸含量73.4質量%、サラダ油グレード)
【0045】
【表4】














【0046】
V.コーヒークリーム(2)の評価
上記で製造した例13〜例18のコーヒークリームついて、コーヒークリーム(1)の評価と同様の評価を行った。
例13〜例18のコーヒークリームの評価結果は、表5に示すとおりであった。
【0047】
【表5】

【0048】
VI.コーヒークリーム(3)の製造
表6の配合に従って、例19〜23の油脂を得た。例19〜23の油脂を使用し、表2に示す配合量(質量%)の例24〜例28のコーヒークリームを製造した。表6中のパーム分別軟質油は、上記例1及び例4で得られたパーム分別軟質油であり、ラウリン系軟質油I、II、ラウリン系油脂、ハイオレイックひまわり油はそれぞれ以下のものを使用した。
ラウリン系軟質油I:パーム核油分別低融点部(日清オイリオグループ株式会社試作品、ラウリン酸含量44.1質量%、ヨウ素価22.3)
ラウリン系軟質油II:パーム核油分別低融点部(日清オイリオグループ株式会社試作品、ラウリン酸含量41.5質量%、ヨウ素価25.8)
ラウリン系油脂:パーム核油分別高融点部(日清オイリオグループ株式会社試作品、ラウリン酸含量55.1%、ヨウ素価7.0)
ハイオレイックひまわり油(日清オイリオグループ株式会社試作品、不飽和脂肪酸含量92.2質量%、オレイン酸含量81.8質量%、サラダ油グレード)
【0049】
【表6】

【0050】
VII.コーヒークリーム(3)の評価
上記で製造した例24〜例28のコーヒークリームついて、コーヒークリーム(1)の評価と同様の評価を行った。
例24〜例28のコーヒークリームの評価結果は、表7に示すとおりであった。
【0051】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のパーム分別軟質油を5〜70質量%と、液体油および/またはラウリン系軟質油を30〜95質量%含有することを特徴とする液状クリーム用油脂。
(パーム分別軟質油)
ヨウ素価が60〜80であるパーム分別軟質油であって、
炭素数16以上の飽和脂肪酸Xと炭素数16以上の不飽和脂肪酸Uとが結合したXU2型トリグリセリド55〜70質量%と、
X3型トリグリセリド2質量%未満と
を含んでなり、
前記パーム分別軟質油に含まれる全てのトリグリセリドの2位置に結合した脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量が、6〜30質量%である、パーム分別軟質油。
(液体油)
油脂の全構成脂肪酸中に不飽和脂肪酸を70質量%以上含有し、20℃で液体である油脂。
(ラウリン系軟質油)
油脂の全構成脂肪酸中にラウリン酸を30質量%以上含有し、ヨウ素価が20以上である油脂。
【請求項2】
前記パーム分別軟質油が、
X2U型トリグリセリド10〜40質量%と、
U3型トリグリセリド5〜20質量%と、
をさらに含んでなる、請求項1に記載の液状クリーム用油脂。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液状クリーム用油脂を使用してなる、液状クリーム。

【公開番号】特開2013−9665(P2013−9665A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−118235(P2012−118235)
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】