説明

液状シリコーンゴムコーティング剤組成物及びエアーバッグ

【解決手段】 (A)(A−1)分子鎖両末端の各々にのみアルケニル基を有する実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサン、
(A−2)一分子中に平均2個以上のアルケニル基を分子鎖非末端にのみ有する実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサン、
(B)一分子中に平均2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)付加反応触媒、
(D)接着性向上剤、
(E)光触媒酸化チタン
を含有し、25℃の粘度が1万〜10万mPa・sである液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
【効果】 本発明の組成物は、有機溶剤に溶解しなくても好適に使用可能であり、繊維に対する接着性及びゴム強度に優れ、その硬化物は引張り強度、引裂き強度、せん断時伸び等の物理的特性に優れるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤に溶解しなくても使用可能な接着性を有するコーティング剤であって、特に織りにより袋部を形成したエアーバッグ用として好適な液状シリコーンゴムコーティング剤組成物、並びに該組成物の硬化物からなるゴムコーティング層を有し、硬化時及び/又は硬化後のにおいが抑制されたエアーバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維用のコーティング剤には様々なシリコーンゴムが使用されており、該コーティング剤は、例えば、自動車等の輸送機に備え付けられるエアーバッグ等に使用されている。エアーバッグには、内面にゴムコーティング層が施された2枚の平織り基布の外周部を接着剤で貼り合わせ、更にその接着剤層を縫い合わせて作製されるものがある(以下、「平織りタイプ」という)。また、このような接着剤により貼り合わせる必要がない織りにより袋部を形成したエアーバッグ(以下、「袋織りタイプ」という)が提案されている(特許文献1:特開平2−158442号公報)。
【0003】
しかし、袋織りタイプのものはコンパクトではあるが、種々の問題を有していた。袋織りタイプのものは、その構造上、エアーバッグの外面にゴムコーティング層が施されるため、エアーバッグ膨張時のインフレーターガスは基布面側からかかる点で、ゴムコーティング層側からかかる平織りタイプのものとは異なる。このため、従来の平織りタイプで使用されていたコーティング剤を袋織りタイプに適用しても、エアーバッグが膨張した状態を一定時間維持できないという問題等が挙げられる。そこで、このような袋織りタイプに好適に使用できるコーティング剤の開発が望まれている。
【0004】
上記問題を解決するために、種々のシリコーンゴムコーティング剤が提案されているが(特許文献2〜特許文献7:特開平5−25435号公報、特開平5−179203号公報、特開平6−41874号公報、特開平7−70923号公報、特開平7−195990号公報、特開平7−300774号公報)、いずれも実質的には有機溶剤に希釈してから使用するものであった。また、有機溶剤に希釈する必要のない液状シリコーンゴムコーティング剤も提案されているが(特許文献8〜特許文献11:特開平5−214295号公報、特開2000−191915号公報、特開2002−138249号公報、特許第3349516号公報)、いずれも繊維(基布)に対する接着性、ゴム強度、及びエアーバッグに適用した場合に求められる膨張状態での持続性等の特性をすべて満足するものではなかった。更に、これらのコーティング剤を使用する際に、有機溶剤を併用しないと、硬化時及び/又は硬化後に基布の繊維処理剤に由来するにおいが発生するという問題もあった。
【0005】
【特許文献1】特開平2−158442号公報
【特許文献2】特開平5−25435号公報
【特許文献3】特開平5−179203号公報
【特許文献4】特開平6−41874号公報
【特許文献5】特開平7−70923号公報
【特許文献6】特開平7−195990号公報
【特許文献7】特開平7−300774号公報
【特許文献8】特開平5−214295号公報
【特許文献9】特開2000−191915号公報
【特許文献10】特開2002−138249号公報
【特許文献11】特許第3349516号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、有機溶剤に溶解しなくても好適に使用可能な、繊維に対する接着性及びゴム強度に優れる液状シリコーンゴムコーティング剤組成物、並びに該組成物の硬化物からなるゴムコーティング層を有し、硬化時及び/又は硬化後のにおいが抑制されたエアーバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、(A)(A−1)分子鎖両末端の各々にのみアルケニル基を有する実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサン、(A−2)一分子中に平均2個以上のアルケニル基を分子鎖非末端にのみ有する実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサン:(A−1)成分及び(A−2)成分の合計で100質量部、(B)一分子中に平均2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:組成物中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して本成分中のケイ素原子に結合した水素原子が1〜7モルの範囲となる量、(C)付加反応触媒:有効量、(D)接着性向上剤:0.1〜10質量部、及び(E)光触媒酸化チタン:0.1〜10質量部を含有してなり、25℃における粘度が10,000〜100,000mPa・sである液状シリコーンゴムコーティング剤組成物が、有機溶剤に溶解しなくても硬化時及び硬化後のにおいの発生が抑制されて好適に使用でき、繊維に対する接着性及びゴム強度に優れるものであり、該組成物をエアーバックに適用すると、形成されるゴムコーティング層の剥がれが生じ難いためにインフレーターガスの漏れが生じにくく、膨張状態の持続性にも優れるエアーバッグが得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、
(A)(A−1)分子鎖両末端の各々にのみアルケニル基を有する実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサン、
(A−2)一分子中に平均2個以上のアルケニル基を分子鎖非末端にのみ有する実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサン:
(A−1)成分及び(A−2)成分の合計で100質量部、
(B)一分子中に平均2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:組成物中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して本成分中のケイ素原子に結合した水素原子が1〜7モルの範囲となる量、
(C)付加反応触媒:有効量、
(D)接着性向上剤:0.1〜10質量部、及び
(E)光触媒酸化チタン:0.1〜10質量部
を含有してなり、25℃における粘度が10,000〜100,000mPa・sである液状シリコーンゴムコーティング剤組成物を提供する。
更に本発明は、上記組成物の硬化物からなるゴムコーティング層を有するエアーバッグを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物は、有機溶剤に溶解しなくても好適に使用可能であり、繊維に対する接着性及びゴム強度に優れるだけでなく、その硬化物は引張り強度、引裂き強度、せん断時伸び等の物理的特性に優れるものである。この組成物は、塗工性にも優れることから、エアーバッグに適用すると、形成されるゴムコーティング層の剥がれが生じ難いためにインフレーターガスの漏れが生じにくく、膨張状態の持続性にも優れるエアーバッグとなり得る。また、特に袋織りタイプのエアーバッグに好適に適用することができる。更に、前記エアーバッグは、前記組成物の硬化時及び硬化後のにおいが抑制されたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳しく説明する。本発明の液状シリコーンゴムコーティング剤組成物は、下記(A)〜(E)成分を含有してなるものである。なお、本明細書中において、室温とは25℃を意味する。また、粘度は回転粘度計等により測定した25℃における値であり、比表面積はBET法による測定値である。
【0011】
<(A)オルガノポリシロキサン>
(A)成分であるオルガノポリシロキサンは、本発明の組成物の主剤となる成分であって、下記の(A−1)分子鎖両末端の各々のケイ素原子上にのみアルケニル基を有する実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサンと、(A−2)一分子中に平均2個以上のアルケニル基を分子鎖非末端(分子鎖途中)ケイ素原子上にのみ有する実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサンとからなるものである。
【0012】
中でも、(A−1)成分として、分子鎖両末端が独立に、式:RAB2SiO1/2(式中、RAはアルケニル基を表し、RBは独立に脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の一価炭化水素基を表す。以下同じである。)で表される基、式:RA2BSiO1/2で表される基、又は式:RA3SiO1/2で表される基で封鎖され、主鎖がRB2SiO2/2で表されるジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるジオルガノポリシロキサンと、(A−2)成分として、分子鎖両末端が、式:RB3SiO1/2で表される基で封鎖され、主鎖がRB2SiO2/2、RABSiO2/2で表されるジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなる(但し、RB2SiO2/2単位とRABSiO2/2単位の配列はランダムである。)ジオルガノシロキサン・アルケニルオルガノシロキサン共重合体とを併用してなるオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0013】
Aで表されるアルケニル基は、炭素原子数が通常2〜8、好ましくは2〜4のものである。その具体例としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、イソブテニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基等が挙げられ、ビニル基が好ましい。
【0014】
Bで表される脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の一価炭化水素基は、炭素原子数が通常1〜12、好ましくは1〜10のものである。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子で置換されたクロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられ、メチル基、フェニル基が好ましい。
【0015】
以下、(A−1)成分及び(A−2)成分について、より詳細に説明する。
・(A−1)分子鎖両末端アルケニル基封鎖オルガノポリシロキサン
(A−1)成分のオルガノポリシロキサンは、分子鎖両末端の各々にのみ少なくとも1個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するものであり、好ましくは一分子中に平均2〜6個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するものである。
【0016】
前記アルケニル基は、炭素原子数が通常2〜8、好ましくは2〜4のものである。その具体例としては、前記RAで表されるアルケニル基として例示したものが挙げられ、ビニル基が好ましい。本成分中のアルケニル基の含有量は、本成分中のケイ素原子に結合した全一価有機基の0.001〜10モル%であることが好ましく、0.01〜5モル%であることがより好ましい。
【0017】
本成分のオルガノポリシロキサンにおいて、上記分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基以外の有機基は、炭素原子数が通常1〜12、好ましくは1〜10の非置換又は置換の一価炭化水素基である。その具体例としては、RBで表される非置換又は置換の一価炭化水素基として例示したものが挙げられ、メチル基、フェニル基が好ましい。
【0018】
本成分の粘度は、硬化物の上述した引張り強度、引裂き強度、せん断時伸び等の物理的特性及び組成物の作業性が良好であれば特に限定されず、中でも100〜500,000mPa・sの範囲であることが好ましく、300〜100,000mPa・sの範囲であることがより好ましい。
【0019】
本成分のオルガノポリシロキサンの分子構造は、実質的に直鎖状であれば特に限定されない。本明細書において、分子構造が「実質的に直鎖状」とは、該分子構造が直鎖状であっても、その直鎖状構造の一部が分岐状であってもよいことを意味する。例えば、分子鎖非末端が主として、−Si(R12O−(式中、R1は独立に脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の一価炭化水素基を表す。)からなり、分子鎖両末端が−SiR23(式中、R2は独立に非置換又は置換の一価炭化水素基を表し、但し少なくとも1個はアルケニル基を表す。)で封鎖されたオルガノポリシロキサンが挙げられる。より具体的には、例えば、一般式(1):
【0020】
【化1】

(式中、R1、R2は独立に前述のとおりであり、nは25℃における粘度が100〜500,000mPa・sとなる数である。)
で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0021】
1で表される非置換又は置換の一価炭化水素基は、上記で分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基以外の一価炭化水素基RBとして定義した要件を満たすもの、そしてR2で表される非置換又は置換の一価炭化水素基は、該RBとして定義した要件又は上記でアルケニル基RAとして定義した要件を満たすものであり、それらの具体例としては、上記で例示したものと同じものが挙げられる。
【0022】
以上の条件を満たす(A−1)成分としては、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジビニルメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。(A−1)成分のオルガノポリシロキサンは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0023】
・(A−2)分子鎖非末端アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
(A−2)成分のオルガノポリシロキサンは、一分子中に平均2個以上のアルケニル基を分子鎖非末端にのみ有するものであり、好ましくは一分子中に平均4〜50個、より好ましくは一分子中に平均8〜30個のアルケニル基を有するものである。
【0024】
前記アルケニル基は、炭素原子数が通常2〜8、好ましくは2〜4のものであり、具体例としては、前記RAで表されるアルケニル基として例示したものが挙げられ、ビニル基が好ましい。本成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量は、本成分中のケイ素原子に結合した全有機基の0.001〜10モル%であることが好ましく、0.01〜5モル%であることがより好ましい。
【0025】
本成分のオルガノポリシロキサンにおいて、上記分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基以外の有機基は、炭素原子数が通常1〜12、好ましくは1〜10の非置換又は置換の一価炭化水素基である。その具体例としては、RBで表される非置換又は置換の一価炭化水素基として例示したものが挙げられ、メチル基、フェニル基が好ましい。
【0026】
本成分の粘度は、得られるシリコーンゴムの引張り強度、引裂き強度、せん断時伸び等の物理的特性及び組成物の作業性が良好であれば特に限定されず、中でも100〜500,000mPa・sの範囲であることが好ましく、300〜100,000mPa・sの範囲であることがより好ましい。
【0027】
このオルガノポリシロキサンの分子構造は、実質的に直鎖状であれば特に限定されない。例えば、分子鎖非末端が主として、−Si(R32O−(式中、R3は独立に非置換又は置換の一価炭化水素基を表し、但し一分子中の平均2個以上はアルケニル基である。)からなり、分子鎖両末端が−SiR43(式中、R4は独立に脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の一価炭化水素基を表す。)で封鎖されたオルガノポリシロキサンが挙げられる。より具体的には、例えば、一般式(2):
【0028】
【化2】


(式中、R3、R4は独立に前述のとおりであり、mは25℃における粘度が100〜500,000mPa・sとなる数である。)
で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。
【0029】
4で表される非置換又は置換の一価炭化水素基は、上記で分子鎖両末端のケイ素原子に結合したアルケニル基以外の一価炭化水素基RBとして定義した要件を満たすもの、そしてR3で表される非置換又は置換の一価炭化水素基は、該RBとして定義した要件又は上記でアルケニル基RAとして定義した要件を満たすものであり、それらの具体例としては上記で例示したものと同じものが挙げられる。
【0030】
以上の条件を満たす(A−2)成分としては、例えば、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体等のメチルビニルシロキサン単位を含有してなるものが挙げられる。(A−2)成分のオルガノポリシロキサンは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0031】
(A)成分[即ち、(A−1)成分及び(A−2)成分]中における(A−2)成分の配合量は、特に限定されないが、通常0.1〜30質量%であり、好ましくは1〜28質量%であり、より好ましくは2〜25質量%であり、特に好ましくは5〜20質量%である。この配合量が0.1〜30質量%を満たす場合には、硬化物の引張り強度、引裂き強度、せん断時伸び等の物理的特性がより良好なものとなる。
【0032】
<(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン>
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分と反応し、架橋剤として作用する成分であって、硬化物に接着性を付与する成分である。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中に平均2個以上、好ましくは3個以上のケイ素原子に結合した水素原子(以下、「SiH基」ともいう)を有し、好ましくは分子中にアルケニル基を有しないものである。このSiH基は、平均で一分子中に通常2〜500個、好ましくは3〜200個、より好ましくは3〜100個である。また、SiH基は分子鎖末端又は分子鎖非末端のいずれに位置していてもよく、それらの両方に位置していてもよい。
【0033】
本成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、特に限定されず、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状(樹脂状)のいずれであってもよいが、硬化物の引張り強度、引裂き強度、せん断時伸びが良好である点から、直鎖状が好ましい。得られるシリコーンゴムの引張り強度、引裂き強度、せん断時伸び等の物理的特性及び組成物の作業性が良好である点から、一分子中のケイ素原子数(即ち、重合度)は、通常2〜1,000個であり、好ましくは3〜300個であり、より好ましくは4〜150個である。また、その粘度は、通常0.1〜5,000mPa・sであり、好ましくは0.5〜1,000mPa・sであり、より好ましくは5〜500mPa・sである。なお、本成分は、通常室温で液状である。
【0034】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、下記平均組成式(3):
5abSiO(4-a-b)/2 (3)
[式中、R5は、好ましくは脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の一価炭化水素基を表し、aは0.7〜2.1の数であり、bは0.001〜1.0の数であり、但しa+bは0.8〜3.0の数である。]
で表されるものが挙げられる。
【0035】
上記式中、R5で表される非置換又は置換の一価炭化水素基は、炭素原子数1〜10のものであることが好ましく、1〜6のものであることがより好ましい。このようなR5で表される非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子で置換した、クロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等が挙げられ、好ましくはアルキル基、アリール基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基である。
【0036】
上記式中、aは1.0〜2.0の数であることが好ましく、bは0.01〜1.0の数であることが好ましく、a+bは1.0〜2.5の数であることが好ましく、これらを同時に満たすことがより好ましい。
【0037】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン環状共重合体、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、(H)(CH32SiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(H)(CH32SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(H)(CH32SiO1/2単位と(C65)SiO3/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体等が挙げられる。
【0038】
中でも、(1)脂肪族不飽和結合を有しない分子鎖両末端が、式:RC3SiO1/2(式中、RCは独立に脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の一価炭化水素基を表す。以下同じである。)で表される基で封鎖され、主鎖がRC(H)SiO2/2で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン単位の繰り返しからなるオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(2)脂肪族不飽和結合を有しない分子鎖両末端が独立に、式:RC3SiO1/2で表される基、又は式:RC2HSiO1/2で表される基で封鎖され、主鎖がRC2SiO2/2で表されるジオルガノシロキサン単位とRC(H)SiO2/2で表されるオルガノハイドロジェンシロキサン単位とのランダムな繰り返しからなるジオルガノシロキサン・オルガノハイドロジェンシロキサン共重合体とを併用したものが好ましい。
具体的には、(1)分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサンと、(2)分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基又はジメチルハイドロジェンシロキシ基で封鎖されたジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体とを併用したものが好ましい。
【0039】
Cで表される脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の一価炭化水素基は、炭素原子数が通常1〜10、好ましくは1〜6のものである。その具体例としては、R5で表される非置換又は置換の一価炭化水素基として例示したアルケニル基以外のものが挙げられ、メチル基、フェニル基が好ましい。
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0040】
(B)成分の配合量は、本発明の組成物中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子が1〜7モルの範囲となる量であることが必要であり、好ましくは2〜5モルの範囲となる量である。この配合量が1モルとなる量未満である場合には、硬化物(ゴムコーティング層)の強度が不十分となり、また7モルとなる量を超える場合には、該硬化物の耐熱性、強度が著しく劣るものとなる。なお、後述するように、本発明の組成物は、任意成分として、(A)成分以外のケイ素原子に結合したアルケニル基を有する成分を含有することができるが、ケイ素原子に結合した全アルケニル基に占める(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基の割合は、90〜100モル%が好ましく、特に95〜100モル%、とりわけ99〜100モル%が好ましい。
【0041】
<(C)付加反応触媒>
(C)成分の付加反応触媒は、(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基と、(B)成分中のSiH基との付加反応を促進するものである。この付加反応触媒は、特に限定されず、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の白金族金属;塩化白金酸;アルコール変性塩化白金酸;塩化白金酸と、オレフィン類、ビニルシロキサン又はアセチレン化合物との配位化合物;テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の白金族金属化合物等が挙げられ、好ましくは白金化合物である。(C)成分の付加反応触媒は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0042】
(C)成分の配合量は、有効量であればよいが、(A)成分及び(B)成分の合計量に対して白金族金属の質量換算で、通常0.1〜1,000ppmであり、好ましくは1〜500ppmであり、より好ましくは10〜100ppmである。この配合量が0.1〜1,000ppmを満たすと、付加反応を効果的に促進することができる。
【0043】
<(D)接着性向上剤>
(D)成分の接着性向上剤は、エアーバッグ用の合成繊維織物基材、不織布基材、熱可塑性樹脂シート状又はフィルム状基材等に対する接着性を向上させる作用を有する成分である。この接着性向上剤は、組成物の自己接着性を向上させることができるものであれば特に限定されない。例えば、有機ケイ素化合物系接着性向上剤及び非ケイ素系有機化合物系接着性向上剤が挙げられる。具体的には、有機ケイ素化合物系接着性向上剤としては、例えば、有機ケイ素化合物からなる接着性向上剤が挙げられ、非ケイ素系化合物系接着性向上剤としては、例えば、有機酸アリルエステル、エポキシ開環触媒又は有機チタン化合物からなる接着性向上剤が挙げられる。これらは一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0044】
有機酸アリルエステルは、分子中にケイ素原子を有しないものであって、例えば、一分子中に1個のアルケニル基と少なくとも1個のエステル基を有する有機酸アリルエステルが挙げられる。有機酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸等の不飽和カルボン酸;安息香酸、フタル酸、ピロメリト酸等の芳香族カルボン酸;酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリン酸等の飽和脂肪酸等が挙げられる。これらの有機酸を含む有機酸アリルエステルとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸等の不飽和カルボン酸等のアリルエステル;安息香酸アリルエステル、フタル酸ジアリルエステル、ピロメリト酸テトラアリルエステル等の芳香族カルボン酸アリルエステル;酢酸アリルエステル、プロピオン酸アリルエステル、酪酸アリルエステル、吉草酸アリルエステル、ラウリン酸アリルエステル等の飽和脂肪酸アリルエステル等が挙げられる。
【0045】
エポキシ開環触媒は、分子中にケイ素原子を有しないものであって、例えば、有機金属キレート、アミン系、アミド系、イミダゾール系、酸無水物系等のエポキシ開環触媒が挙げられる。
【0046】
有機ケイ素化合物としては、例えば、ケイ素原子に直接結合した、ビニル基、アリル基等のアルケニル基;γ−グリシドキシプロピル基、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基等の、アルキレン基等の炭素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基;γ−アクリロキシプロピル基、γ−メタクリロキシプロピル基等の、アルキレン基等の炭素原子を介してケイ素原子に結合したアクリロキシ基、メタクリロキシ基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基;エステル構造、ウレタン構造、エーテル構造を1〜2個含有していてもよい、アルキレン基を介してケイ素原子に結合したトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基等のアルコキシシリル基;イソシアネート基;及びSiH基からなる群から選ばれる少なくとも1種、好ましくは2種以上の官能基を有するオルガノシラン、ケイ素原子数3〜100、好ましくは3〜50、より好ましくは5〜20の直鎖状又は環状のシロキサンオリゴマー、トリアリルイソシアヌレートの(アルコキシ)シリル変性物、そのシロキサン誘導体等が挙げられ、これらの官能基を一分子中に2種以上有するものが好ましい。
【0047】
これらの有機酸アリルエステル、エポキシ開環触媒又は有機ケイ素化合物が分子中にエポキシ基を有する場合には、組成物の粘度及び硬化時の接着性を良好に保つために、該化合物のエポキシ当量が100〜5,000g/molであることが好ましく、150〜3,000g/molであることがより好ましい。
【0048】
このような有機ケイ素化合物の具体例としては、例えば、
【化3】

【0049】
【化4】

(式中、nは1〜98の整数である。)
【0050】
【化5】

等が挙げられる。
【0051】
有機チタン化合物は、分子中にケイ素原子を有しないものであって、その具体例としては、テトラブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン、チタニウムステアレート、テトラオクチルオキシチタン、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコレート、トリエタノールアミンチタネート、チタニウムアセチルアセトネート、チタニウムエチルアセトネート、チタニウムラクトネート、これらの縮合反応生成物であるオリゴマー及びポリマー等が挙げられる。
【0052】
これらの(D)成分としては、エポキシ当量が100〜5,000g/molの有機酸アリルエステル、エポキシ当量が100〜5,000g/molのエポキシ開環触媒、エポキシ当量が100〜5,000g/molの有機ケイ素化合物、分子中にアルケニル基及び/又はヒドロシリル基とアルコキシ基とを有する有機ケイ素化合物、窒素原子を含有する有機ケイ素化合物、並びに炭素原子数12以上の有機チタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。なお、(D)成分の接着性向上剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0053】
(D)成分の配合量は、特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが必要であり、好ましくは0.5〜5質量部である。この配合量が0.1質量部未満である場合には、硬化物が十分なピール接着力を有さず、10質量部を超える場合には、硬化物のゴム強度やピール接着力が低下するだけでなく、コスト的にも高いものとなるため不経済である。
【0054】
<(E)光触媒酸化チタン>
(E)成分の光触媒酸化チタンは、アナターゼ型の結晶構造を有する酸化チタンであり、得られる組成物の硬化時及び/又は硬化後の基布の繊維処理剤に由来するにおいを抑制するための成分である。
【0055】
光触媒酸化チタンはにおいを抑制する光触媒反応による有機物やNOxなどを分解するために、平均粒子径が通常0.1nm〜1,000nmのものであり、好ましくは1nm〜300nmのものである。
【0056】
(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが必要であり、好ましくは1〜5質量部である。この配合量が0.1質量部未満の場合には、得られる組成物の硬化時及び/又は硬化後の基布の繊維処理剤に由来するにおいが十分に抑制されないことがあり、10質量部を超える場合には、硬化物のゴム物性が不十分となるだけでなく、コスト的にも高いものとなるため不経済である。
【0057】
<任意成分>
上記(A)〜(E)成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、以下の任意成分を配合してもよい。なお、これらの任意成分は一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0058】
・微粉末シリカ
微粉末シリカは、本発明の組成物を硬化して得られる硬化物に高引裂き強度を付与する補強剤として作用する成分である。この微粉末シリカは、より良好な引裂き強度を有するゴムコーティング層を形成することが可能となることから、BET法による比表面積が、通常50m2/g以上のものであり、好ましくは50〜400m2/gのものであり、より好ましくは100〜300m2/gのものである。
【0059】
本成分の微粉末シリカは、上記条件を満たすものであれば特に限定されず、シリコーンゴムの補強性充填剤として従来使用されている公知のものを用いてもよく、例えば、沈殿シリカ、ヒュームドシリカ、焼成シリカ等が挙げられる。これらの微粉末シリカは、そのまま使用してもよいが、組成物により良好な流動性を付与できることから、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン;メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジビニルジメトキシシラン、クロロプロピルトリメトキシシラン等のシランカップリング剤;ポリメチルシロキサン、オルガノハイドロジェンポリシロキサン等の有機ケイ素化合物等で表面疎水化処理することにより、疎水性微粉末シリカとして使用することが好ましい。本成分の微粉末シリカは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0060】
本成分の微粉末シリカの配合量は、特に限定されず、(A)成分100質量部に対して通常0〜50質量部であり、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは1〜30質量部である。この配合量が多すぎると、組成物の流動性が低下することにより作業性が悪くなる場合がある。
【0061】
・反応制御剤
反応制御剤は、上記(C)成分の付加反応触媒に対して硬化反応抑制作用を有する化合物であれば特に限定されず、従来公知のものを用いることもできる。その具体例としては、トリフェニルホスフィン等のリン含有化合物;トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の窒素原子を含有する化合物;硫黄原子を含有する化合物;アセチレンアルコール類等のアセチレン系化合物;メチルビニルシロキサン環状体等のアルケニル基を2個以上含む化合物;ハイドロパーオキシ化合物;マレイン酸誘導体等が挙げられる。
【0062】
反応制御剤の配合量は、反応制御剤の有する硬化反応抑制作用の度合いがその化学構造により異なるため、使用する反応制御剤ごとの最適な量に調整することが好ましい。最適な量の反応制御剤を配合することにより、組成物は、室温での長期貯蔵安定性及び硬化性に優れたものとなる。
【0063】
・無機充填剤
無機充填剤としては、例えば、結晶性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維等の無機充填剤;これらをオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物により表面疎水化処理した無機充填剤;シリコーンゴムパウダー;シリコーンレジンパウダー等が挙げられる。
【0064】
・その他
その他の任意成分として、例えば、分子鎖の一方の末端にアルケニル基又はヒドロシリル基を有し、他方の末端がトリアルキルシロキシ基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサンや、分子鎖両末端がトリアルキルシロキシ基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサン等のような、一分子中に1個のSiH基又は1個のアルケニル基を有し、他の官能基を含有しないオルガノポリシロキサン;SiH基及びアルケニル基を含有しない非反応性のオルガノポリシロキサン;クリープハードニング防止剤、可塑剤、チクソ性付与剤、顔料、染料、防カビ剤等や、硬化物のゴム強度を向上させるために、例えばR3SiO1/2単位(Rは前述で定義したR1又はR2と同じである)及びSiO4/2単位を含有するアルケニル基含有あるいは非含有の三次元網状構造のオルガノポリシロキサンレジン等を配合することができる。
【0065】
更に、本発明の組成物は、有機溶剤を配合することなく好適に用いることができるものであるが、該組成物を各種基材にコーティングする際、コーティング装置等の条件により、トルエン、キシレン等の有機溶剤で該組成物を任意の濃度に希釈することもできる。
【0066】
<コーティング剤>
本発明の組成物は、上記(A)〜(E)成分、及び場合によっては任意成分を混合することにより調製することができる。このようにして得られた組成物は、繊維用のコーティング剤として、中でもエアーバッグ用のコーティング剤として、特に袋織りタイプのエアーバッグ用のコーティング剤として有用である。
【0067】
本発明の組成物は、特にエアーバッグ用コーティング剤として用いる場合、室温(25℃)で液状・低粘度であることが必要であり、その粘度は10,000〜100,000mPa・sである。特に20,000〜90,000mPa・s、更には30,000〜80,000mPa・sであることが好ましい。この粘度が10,000mPa・s未満である場合には、得られるコーティング剤がエアーバッグの基布中に含浸してしまうため、エアーバッグの膨張状態が十分な時間持続せず、100,000mPa・sを超える場合には、コーティング後に良好なコーティング層表面が得られない。また、上記組成物の硬化は、従来公知の硬化方法・条件に従って行えばよく、通常120〜180℃で0.1〜10分間加熱することにより行うことができる。
【0068】
このようにして本発明の組成物を硬化して得られる硬化物は、引裂き強度が15kN/m以上、好ましくは15〜30kN/mであり、ピール接着力が30N/cm以上、好ましくは30〜60N/cmであることが望ましい。引裂き強度が15kN/m以上であると、基布接合部のゴムコーティング層の機械的強度が良好であり、エアーバッグの膨張状態を長く持続できる。また、ピール接着力が30N/cm以上であると、基布接合部のゴムコーティング層が基布と十分に接着することができるためエアーバッグの膨張状態を長く持続できる。
【0069】
<エアーバッグ>
本発明の組成物の硬化物からなるゴムコーティング層を有するエアーバッグ、好ましくは袋織りタイプのエアーバッグとしては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。その具体例としては、ナイロン66、ナイロン6、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維等の合成繊維;不織布基材;熱可塑性樹脂シート状又はフィルム状基材等の織生地を基布とするエアーバッグ等が挙げられる。
【0070】
これらのエアーバッグに、本発明の組成物をコーティングする方法としては、特に限定されず、常法を採用することができる。ゴムコーティング層を形成するためにエアーバッグ(基布)表面に塗布する組成物の量は、通常15〜150g/m2であり、好ましくは15〜80g/m2であり、より好ましくは20〜60g/m2である。
【実施例】
【0071】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、「部」は「質量部」を示し、粘度はB型回転粘度計により測定した25℃における値を示す。また、実施例中で用いた接着性向上剤(i)〜(iii)は、下記式で表される構造を有するものである。
【0072】
・接着性向上剤(i)[エポキシ当量:238g/mol]
【化6】

【0073】
・接着性向上剤(ii)
【化7】

【0074】
・接着性向上剤(iii)
【化8】

【0075】
[実施例1]
粘度が1,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン40部、粘度が5,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン40部、分子鎖非末端(主鎖)のジオルガノシロキサン単位中にメチルビニルシロキサン単位5モル%とジメチルシロキサン単位95モル%とを含有し、粘度が700mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体20部、トリメチルシリル基で表面疎水化処理されたBET比表面積120m2/gの疎水性微粉末シリカ17部、粘度が50mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(ケイ素原子に結合した水素原子:1.14質量%)5.0部、粘度が25mPa・sの分子鎖両末端及び分子鎖非末端にSiH基を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子に結合した水素原子:0.54質量%)2.2部[ここで、組成物中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子のモル数(以下、「SiH/アルケニル」という)=3.9モル/モル]、1−エチニルシクロヘキサノール0.05部、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体を白金金属の質量換算で、(A)成分と(B)成分との合計量に対して30ppm、接着性向上剤(i)1.5部、接着性向上剤(ii)0.5部、チタン酸オクチル0.5部、及び光触媒酸化チタン(商品名:ST−01、石原産業(株)製、平均粒子径7nm)3部を混合することにより、組成物Aを調製した。
【0076】
得られた組成物Aの25℃における粘度をB型回転粘度計により測定した。
この組成物Aを150℃で5分間加熱することにより硬化させ、得られた硬化物から、150mm×200mm×2mm(厚さ)の試験シートを作製した。この試験シートを用いて、JIS K6249に準じて一般物性(硬度、引張り強度、せん断時伸び、引裂き強度)を測定した。
また、該組成物を用いて下記の評価方法に従って、におい試験を行った(以下、一般物性の測定及びにおい試験の評価を単に「特性の評価」という)。得られた結果を表1に示す。
【0077】
<におい試験 評価方法>
前記で調製した組成物Aをエアーバッグに塗布し、180℃で3分間加熱した後、密閉袋に入れて室温(25℃)で24時間放置した。その後、前記エアーバッグのにおいを評価した。においの評価基準は、密閉袋の開放時に、袋内の空気及びエアーバッグのいずれに関してもテスター(官能試験者)が、全くあるいはほとんど異臭を感知しなかった場合には「良好」と評価し、「A」と示した。一方、密閉袋の開放時に、袋内の空気及びエアーバッグのいずれに関してもテスター(官能試験者)が、強い異臭を感知した場合には「不良」と評価し、「B」と示した。
【0078】
[実施例2]
粘度が1,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン40部、粘度が5,000mPa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン45部、分子鎖非末端(主鎖)のジオルガノシロキサン単位中にメチルビニルシロキサン単位10モル%とジメチルシロキサン単位90モル%とを含有し、粘度が500mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体15部、(CH33SiO1/2単位39.5モル%、(CH32(CH2=CH)SiO1/2単位6.5モル%、SiO2単位54モル%からなるオルガノポリシロキサン樹脂5部、トリメチルシリル基で表面疎水化処理されたBET比表面積170m2/gの疎水性微粉末シリカ22部、粘度が45mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(ケイ素原子に結合した水素原子:1.14質量%)5.8部、粘度が12mPa・sの分子鎖両末端及び分子鎖非末端にSiH基を有するジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(ケイ素原子に結合した水素原子:0.54質量%)5.3部[SiH/アルケニル=3.4モル/モル]、1−エチニルシクロヘキサノール0.03部、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンの錯体を白金金属の質量換算で、(A)成分と(B)成分との合計量に対して15ppm、接着性向上剤(i)1部、接着性向上剤(iii)0.5部、チタン酸オクチル0.5部、及び光触媒酸化チタン(商品名:ST−01、石原産業(株)製、平均粒子径7nm)3部を混合することにより、組成物Bを調製した。
実施例1と同様にして、組成物Bの粘度を測定し、また組成物Bから作製した試験シートを用いて、その特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0079】
[比較例1]
実施例1において、光触媒酸化チタン(商品名:ST−01、石原産業(株)製、平均粒子径7nm)を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、組成物Cを調製し、この組成物Cの粘度を測定すると共に、該組成物Cから作製した試験シートを用いて、その特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0080】
[比較例2]
実施例2において、光触媒酸化チタン(商品名:ST−01、石原産業(株)製、平均粒子径7nm)を配合しなかった以外は、実施例2と同様にして、組成物Dを調製し、この組成物Dの粘度を測定すると共に、該組成物Dから作製した試験シートを用いて、その特性の評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0081】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(A−1)分子鎖両末端の各々にのみアルケニル基を有する実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサン、
(A−2)一分子中に平均2個以上のアルケニル基を分子鎖非末端にのみ有する実質的に直鎖状のオルガノポリシロキサン:
(A−1)成分及び(A−2)成分の合計で100質量部、
(B)一分子中に平均2個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:組成物中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して本成分中のケイ素原子に結合した水素原子が1〜7モルの範囲となる量、
(C)付加反応触媒:有効量、
(D)接着性向上剤:0.1〜10質量部、及び
(E)光触媒酸化チタン:0.1〜10質量部
を含有してなり、25℃における粘度が10,000〜100,000mPa・sである液状シリコーンゴムコーティング剤組成物。
【請求項2】
前記(A−2)成分が、メチルビニルシロキサン単位を含有してなるオルガノポリシロキサンである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、(A−1)成分として、分子鎖両末端が独立に、式:RAB2SiO1/2(式中、RAはアルケニル基を表し、RBは独立に脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の一価炭化水素基を表す。以下同じである。)で表される基、式:RA2BSiO1/2で表される基又は式:RA3SiO1/2で表される基で封鎖され、主鎖がRB2SiO2/2単位の繰り返しからなるジオルガノポリシロキサンと、(A−2)成分として、分子鎖両末端が式:RB3SiO1/2で表される基で封鎖され、主鎖がRB2SiO2/2単位とRABSiO2/2単位とのランダムな繰り返しからなるジオルガノシロキサン・アルケニルオルガノシロキサン共重合体とを併用してなるものである請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記(A−2)成分の量が、(A−1)成分と(A−2)成分の合計に対して0.1〜30質量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記(B)成分が、(1)分子鎖両末端が、式:RC3SiO1/2(式中、RCは独立に脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の一価炭化水素基を表す。以下同じである。)で表される基で封鎖されたオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(2)分子鎖両末端が独立に、式:RC3SiO1/2で表される基又は式:RC2HSiO1/2で表される基で封鎖されたジオルガノシロキサン・オルガノハイドロジェンシロキサン共重合体を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記(D)成分が、エポキシ当量が100〜5,000g/molの有機酸アリルエステル、エポキシ当量が100〜5,000g/molのエポキシ開環触媒、エポキシ当量が100〜5,000g/molの有機ケイ素化合物、一分子中にアルケニル基及び/又はヒドロシリル基とアルコキシ基とを各々少なくとも1個有する有機ケイ素化合物、窒素原子を含有する有機ケイ素化合物、並びに炭素原子数12以上の有機チタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
有機溶剤を含まない請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物の硬化物からなるゴムコーティング層を有するエアーバッグ。
【請求項9】
織りにより袋部を形成した請求項8に記載のエアーバッグ。

【公開番号】特開2006−348068(P2006−348068A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172211(P2005−172211)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】