説明

液状レオロジー改質剤の製造方法

【課題】適度な粘度を有し、安定性に優れ、レオロジー改質効果が短時間でまた温度に依らず均一に発現し、且つ水硬性スラリーに対しては低温での硬化体強度を向上できる液状レオロジー改質剤が得られる製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物(A)、ジカルボン酸(B)、モノカルボン酸(C)、カチオン性ポリマー(D)、プロピレングリコール(E)をそれぞれ特定範囲で含有する液状レオロジー改質剤を製造するにあたり、化合物(A)として、原料としてアミンとアニオン性芳香族化合物を、アニオン性芳香族化合物/アミン=0.93〜1.02のモル比で用いて得られた化合物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状レオロジー改質剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水と粉体からなるスラリーにおいて粘性等のレオロジー物性を制御するには、水と粉体の比率を調節したり、pH調整剤などにより粒子の分散状態を変えたり、あるいは、吸水性ポリマーを添加して余剰水量を制御したりする等の技術や、水溶性高分子化合物をスラリー系に添加して高分子の絡み合いによる増粘作用を利用する技術が使われてきた。
【0003】
取り扱い性の良い粘度を有し、且つスラリー等に添加した場合の増粘効果等、改質効果を維持できる、液状で一剤の形態のレオロジー改質剤を提供することを目的として、(1)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物及びアニオン性芳香族化合物から選ばれる化合物の組み合わせ、(2)カチオン性界面活性剤から選ばれる化合物及び臭化化合物から選ばれる化合物の組み合わせ、からなる群より選択される2つの化合物と、ジカルボン酸とを含有する液状レオロジー改質剤が提案されている(特許文献1)。特許文献1には、更にモノカルボン酸、カチオン性ポリマーを含有できることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、4級塩型カチオン性界面活性剤と、アニオン性芳香族化合物又は無機臭素塩と、特定の溶解度パラメータを有するアルコールとを含有するレオロジー改質剤が開示されている。また、特許文献3には、特定の4級塩型化合物とアニオン性芳香族化合物とを特定条件で含有する、一剤型の製剤として入手可能なレオロジー改質剤が開示されている。また、特許文献4には、原料アミンに対してモル比で0.5以上1.0未満のアニオン性芳香族化合物の存在下、特定条件でエポキシ化合物を付加させる工程を有するレオロジー改質剤の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−280502号公報
【特許文献2】特開2004−211078号公報
【特許文献3】特開2010−65189号公報
【特許文献4】特開2010−65000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スラリー用のレオロジー改質剤には、粘性付与といったレオロジー改質効果が短時間の混練で十分に発現すること、且つその効果が温度に依らず均一に発現することが望まれる。また、一液型の液状形態の場合は、製品安定性に優れ、適切な粘度を有することが望まれる。更に、コンクリートのような水硬性粉体を含有するスラリーに適用した場合には、硬化体の強度、とりわけ低温での強度が十分に発現することが望まれる。特許文献1〜5には、こうした要求特性を全て満たす一液型の液状レオロジー改質剤を得るための具体的な構成の示唆はない。
【0007】
本発明は、適度な粘度を有し、安定性に優れ、レオロジー改質効果が短時間でまた温度に依らず均一に発現し、且つ水硬性スラリーに対しては低温での硬化体強度を向上できる液状レオロジー改質剤が得られる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一般式(1)で表される化合物(A)〔以下、化合物(A)又は(A)成分という〕を10〜40重量%、ジカルボン酸(B)〔以下、(B)成分という〕を3〜15重量%、モノカルボン酸(C)〔以下、(C)成分という〕を0.5〜1.5重量%、カチオン性ポリマー(D)〔以下、(D)成分という〕を1〜10重量%、プロピレングリコール(E)〔以下、(E)成分という〕を10〜40重量%含有する液状レオロジー改質剤の製造方法であって、
化合物(A)が、原料としてアミンとアニオン性芳香族化合物を、アニオン性芳香族化合物/アミン=0.93〜1.02のモル比で用いて得られた化合物であり、
該化合物(A)を、ジカルボン酸(B)、モノカルボン酸(C)、カチオン性ポリマー(D)、及びプロピレングリコール(E)から選ばれる少なくとも一種と混合する工程を有する、
液状レオロジー改質剤の製造方法に関する。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rlは炭素数10〜26のアルキル基、R2は炭素数1〜22のアルキル基又は炭素数2〜3のヒドロキシアルキル基、R3及びR4は、それぞれ、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数2〜3のヒドロキシアルキル基であり、少なくとも一方は炭素数2〜3のヒドロキシアルキル基である。X-はアニオン性芳香族化合物残基を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、適度な粘度を有し、安定性に優れ、レオロジー改質効果が短時間でまた温度に依らず均一に発現し、且つ水硬性スラリーに対しては硬化体の低温での強度を維持できる液状レオロジー改質剤を、効率よく製造することができる。本発明の製造方法では、ハロゲンフリーかつ一剤型で、容易かつ安定的に水溶液やスラリーの粘度を高めることが可能な、レオロジー改質効果に優れたレオロジー改質剤を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<(A)成分>
本発明において、化合物(A)は、原料としてアミンとアニオン性芳香族化合物を、アニオン性芳香族化合物/アミン=0.93〜1.02のモル比で用いて得られた化合物である。アミンとアニオン性芳香族化合物との反応は、バッチ式或いは連続式で行うことができるが、何れの場合も、前記モル比は、(A)成分を製造するために用いた全てのアミンとアニオン性芳香族化合物のモル数に基づいて算出する。また、化合物(A)は、アミンの反応率99〜100%でアミンとアニオン性芳香族化合物とを前記モル比で反応させて得られた化合物が好ましい。ここで、アミンの反応率とは、4級化率を意味する。
【0013】
本発明者らは、(A)〜(E)成分を所定濃度で含有する一剤型の液状レオロジー改質剤において、(A)成分として、(A)成分を製造するために用いられるアミンとアニオン性芳香族化合物とのモル比を特定範囲にしたものを用いることで、適度な粘度を有し、安定性に優れ、レオロジー改質効果が短時間でまた温度に依らず均一に発現し、且つ水硬性スラリーに対しては低温での硬化体の強度を向上できる液状のレオロジー改質剤を製造できることを見出した。本発明により製造されるレオロジー改質剤は、脱ハロゲン化、一液化、非危険物化を全て同時に達成でき、且つレオロジー改質効果の温度依存性が小さいという特徴を有する。
【0014】
本発明の製造方法においては、化合物(A)が、原料として更にエポキシ化合物を用いて得られた化合物であること、すなわち、原料としてアミンとアニオン性芳香族化合物とエポキシ化合物とを用いて得られた化合物であって、アニオン性芳香族化合物/アミンのモル比が0.93〜1.02である化合物であることが好ましい。この場合も、アミンの反応率は99〜100%が好ましい。従って、(A)成分は、アミンに、該アミンに対してモル比で0.93〜1.02のアニオン性芳香族化合物の存在下で、エポキシ化合物を付加させる工程(I)を有する製造方法により得られた化合物が好ましい。
【0015】
エポキシ化合物を付加させる場合も含め、本発明では、原料アミンに対するアニオン性芳香族化合物のモル比は、アニオン性芳香族化合物/原料アミンで、0.93〜1.02であり、好ましくは0.94〜1.01、更に好ましくは0.95〜1.00、更により好ましくは0.98〜1.00である。このモル比が0.93以上であれば、紐状ミセル成分が生成しやすくなるので、適度なスラリー粘度が得られ、1.02以下であれば、アニオン性芳香族化合物が多すぎないため、緩和時間が早くなることなく、適度なスラリー粘度が得られる。
【0016】
アミンは、一般式(1)中の4級カチオン基の由来となる化合物であり、具体的には、ドデシルジメチルアミン、テトラデシルジメチルアミン、ヘキサデシルジメチルアミン、オクタデシルジメチルアミン、ベヘニルジメチルアミン、ヘキサデカン酸アミドプロピルジメチルアミン、オクタデカン酸アミドプロピルジメチルアミン、ヘキサデカン酸アミドエチルジメチルアミン等が挙げられ、好ましくはヘキサデシルジメチルアミン、オクタデシルジメチルアミン、及びベヘニルジメチルアミンから選ばれるアミンであり、更に好ましくはヘキサデシルジメチルアミン及び/又はオクタデシルジメチルアミンである。
【0017】
本発明に係るレオロジー改質剤は、一般式(1)中のR1が炭素数16のアルキル基である化合物(A−C16)と炭素数18のアルキル基である化合物(A−C18)との比が、製品安定性と性能の温度依存性の観点から、モル比で(A−C16)/(A−C18)=20/100〜100/20が好ましく、より好ましくは40/60〜60/40、さらに好ましくは55/45〜45/55、より更に好ましくは50/50である。また、本発明に係るレオロジー改質剤は、一般式(1)中のR1が炭素数16又は18以外の炭素数の化合物の割合が、スラリーに対する粘性付与効果の観点から、一般式(1)で表される化合物の全量中10モル%以下であることが好ましく、より好ましくは5モル%以下、更に好ましくは1モル%以下である。前記モル比や前記割合を満たすようにアミンの種類、組成を選定することが好ましい。
【0018】
芳香族アニオン性化合物は、一般式(1)中のX-を構成し、スルホン酸基やカルボキシル基等のアニオン基と、ベンゼン環等の芳香族基とを有する化合物が挙げられる。具体的には、パラトルエンスルホン酸、サリチル酸、安息香酸、メタキシレンスルホン酸、クメンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等が挙げられる。これらのうち、パラトルエンスルホン酸が好ましい。また、これらの化合物は、例えばパラトルエンスルホン酸ナトリウムなど塩の形態のものを用いることができる。
【0019】
化合物(1)において、一般式(1)中のR3及びR4のヒドロキシアルキル基は、アミンへのエポキシ化合物の付加により生成させることができる。エポキシ化合物1分子の付加の後、連続して付加が行われ、例えばジエチレングリコール、ポリエチレングリコールのような連鎖を有している化合物が含まれていてもよい。
【0020】
エポキシ化合物としては、炭素数2〜3のものが挙げられ、反応性の観点から、具体的にはエチレンオキシド、プロピレンオキシド、エピクロルヒドリン等が挙げられる。
【0021】
また、原料として用いられるアミンに対するエポキシ化合物のモル比は、(A)成分の製造効率と製造コストの観点から決定することでき、エポキシ化合物/アミンで、好ましくは1.0〜3.0、より好ましくは1.05〜2.0、更に好ましくは1.2〜1.5である。このモル比が1.0以上であれば紐状ミセルが十分に形成されスラリーへの粘性付与効果が良好となり、3.0以下であれば紐状ミセルの緩和時間が適切となり、同様に粘性付与効果が良好となる。
【0022】
(A)成分が原料として更にエポキシ化合物を用いて得られた化合物である場合、化合物(A)は、下記工程(I)及び工程(II)を有する製造方法により得られた化合物であり、工程(I)及び工程(II)で用いるアニオン性芳香族化合物の合計が、工程(I)で用いたアミンに対してモル比で0.93〜1.02であることが好ましい。
工程(I):アニオン性芳香族化合物の存在下で、アミンにエポキシ化合物を付加させる工程
工程(II):工程(I)で得られた反応生成物に、更にアニオン性芳香族化合物を添加する工程
【0023】
工程(I)は、原料アミンに、所定量のアニオン性芳香族化合物の存在下で、エポキシ化合物を付加させる工程である。エポキシ化合物の付加反応は、公知の方法に準じて行うことができる。例えば、反応温度は好ましくは30〜150℃、更に好ましくは50〜120℃、反応時間は好ましくは0.05〜20時間、更に好ましくは0.1〜10時間である。エポキシ化合物の付加反応の終結は、原料として用いたアミンの残存量を定量することにより確認できる。原料アミンの残存量は電位差滴定を用いた逆滴定により求めることができる。
【0024】
本発明では、工程(I)で得られた反応生成物に、更にアニオン性芳香族化合物を添加する工程(II)を有することが、エポキシ化合物の付加反応を高められる、すなわち4級化反応が進むので、粘弾性発現に優れるレオロジー改質剤が得られることから好ましい。ただし、工程(II)を行う場合、工程(I)及び工程(II)で用いるアニオン性芳香族化合物の合計は、工程(I)で用いた原料として用いたアミンに対してモル比で0.93〜1.02である。すなわち、工程(I)で仕込んだアミンを基準にして、工程(I)で用いたアニオン性芳香族化合物と工程(II)で更に添加するアニオン性芳香族化合物との合計モル比が0.93〜1.02となるように、工程(I)で得られた反応生成物に、更にアニオン性芳香族化合物を添加する。
【0025】
工程(I)におけるアミンに対するアニオン性芳香族化合物のモル比は0.90〜0.98、更に0.92〜0.96が好ましく、工程(II)における工程(I)で用いたアミンに対するアニオン性芳香族化合物のモル比は0.01〜0.12、更に0.03〜0.06が好ましい。
【0026】
また、工程(I)におけるアミンに対するアニオン性芳香族化合物のモル比(M1)と工程(II)における工程(I)で用いたアミンに対するアニオン性芳香族化合物のモル比(M2)との比率(M2)/(M1)は、0.01〜0.13、更に0.03〜0.07が好ましい。
【0027】
本発明に係る(A)成分は、水溶液やスラリー中で会合体を形成し増粘させる機能を有する4級カチオン基と芳香族アニオン基の両方を有する4級塩型化合物であることから、4級カチオン性化合物と芳香族アニオン性化合物という2種の薬剤を別々に計量・添加する必要がなく、1種の薬剤の計量・添加で同様の増粘状態が得られるため作業性に優れる。
【0028】
本発明に係る(A)成分は、その製造方法上、ハロゲン元素が含まれないため、使用する場所に金属が存在していた場合でも、その腐食を促進する恐れがない。
【0029】
本発明に係る(A)成分は、増粘する温度領域を広くする観点から、一般式(1)中のR1の炭素数が異なる4級カチオン基を2種以上有することが好ましい。更に、レオロジー改質剤の水への溶解性とレオロジー改質の効果を高める観点から、4級カチオン基のアルキル基(R1)の長さが異なる(A)成分を2種以上用いることが好ましい。
【0030】
本発明により製造される液状レオロジー改質剤中の(A)成分の含有量は、10〜40重量%が好ましく、15〜35重量%がより好ましく、20〜30重量%が更に好ましい。この含有量が10重量%以上であれば、使用時のレオロジー改質剤の添加量が少なくてすみ、また、40重量%以下であれば、製品粘度が増大せず、取り扱い性に優れる。
【0031】
<(B)成分>
(B)成分のジカルボン酸としては、炭素数4〜10のものが好ましく、炭素数4〜6のものがより好ましい。具体的には、炭素数4〜6のジカルボン酸として、イタコン酸、マレイン酸、グルタル酸、メチルグルタル酸、シトラコン酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸及びクエン酸が挙げられ、液状レオロジー改質剤の低粘度化の効果とスラリー系での紐状ミセル再形成の観点から、イタコン酸、グルタル酸が好ましく、イタコン酸がより好ましい。炭素数4〜6のジカルボン酸は、一液製品である本発明の液状レオロジー改質剤の粘度低下と、スラリーでの紐状ミセル再形成による粘性発現に寄与する成分であると考えられる。
【0032】
また、ジカルボン酸としては、炭素数8〜10のジカルボン酸も挙げられる。具体的には、スペリン酸、アゼライン酸、ブタンテトラカルボン酸、2,4−ジエチルグルタル酸、4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸、4−メチルシクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸及びセバシン酸が挙げられる。
【0033】
本発明により製造される液状レオロジー改質剤中の(B)成分の含有量は、3〜15重量%が好ましく、5〜10重量%がより好ましく、6〜9重量%が更に好ましい。この含有量が3重量%以上であれば、製品粘度が増大せず、また、15重量%以下であれば、製品粘度が適切で且つレオロジーを改質したい水溶液やスラリーに本発明にかかるレオロジー改質剤を添加した場合の粘度も適切となる。
【0034】
<(C)成分>
(C)成分のモノカルボン酸を含有する液状レオロジー改質剤は、希釈した時のスラリーの粘性、特に低温での粘性が早く発現する。(C)成分を含有するレオロジー改質剤では、ジカルボン酸とモノカルボン酸の親水性の差により、時間差で会合体構造の中からスラリーの水系溶媒中へ移動することで、より均一に早くスラリーの高粘度を発現するものと考えられる。
【0035】
(C)成分のモノカルボン酸は炭素数1〜26ものが好ましく、より高いスラリー粘度を発現する点から炭素数6〜18が更に好ましく、製品安定性の点から炭素数6〜12がより好ましい。また、直鎖で飽和のものが好ましい。具体的には、(C1)酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンコサン酸、ベヘン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、ペンタコサン酸、セロチン酸などの直鎖飽和モノカルボン酸、(C2)ウンデセン酸、リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、エライジン酸などの直鎖不飽和モノカルボン酸、(C3)イソ吉草酸、2−エチルヘキサン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸などの分岐飽和モノカルボン酸、(C4)分岐不飽和モノカルボン酸、(C5)コール酸、デオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リトコール酸などの胆汁酸、フェノキシ酢酸、マンデル酸などからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の化合物が挙げられる。これらの中でも(C1)で挙げた化合物群が好ましく、更にヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、より更にはデカン酸が好ましい。これらのモノカルボン酸は一部が中和された塩として使用することもできる。
【0036】
本発明により製造される液状レオロジー改質剤中の(C)成分の含有量は、0.5〜1.5重量%が好ましく、0.7〜1.3重量%がより好ましく、0.9〜1.1重量%が更に好ましい。この含有量が0.5重量%以上であれば、低温での粘度発現速度が良好となり、また、1.5重量%以下であれば、レオロジーを改質したい水溶液やスラリーに本発明にかかるレオロジー改質剤を添加した場合の粘度が適切となる。
【0037】
<(D)成分>
(D)成分のカチオン性ポリマーとしては、カチオン性窒素を含むものが好ましく、更に当該カチオン性ポリマーのカチオン性窒素に、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数2〜8のオキシアルキレン基を含んでなるポリオキシアルキレン基、水素原子及びアクリロイルオキシアルキル基から選ばれる基が結合しているものが好ましい。カチオン性ポリマーの具体例としては、ポリアリルトリメチルアンモニウム塩等のポリアリルトリアルキルアンモニウム塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ポリ(メタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩)、ポリメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、カチオン化でん粉、カチオン化セルロース、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。これらの中でも、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ポリ(メタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩)、ポリメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、メタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウム塩−ビニルピロリドン共重合体、及びメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩−ビニルピロリドン共重合体から選ばれるカチオン性ポリマーが好ましい。また、レオロジー改質効果の観点から、対イオンがアルキル硫酸イオンであるもの、中でもエチル硫酸塩、メチル硫酸塩がより好ましい。カチオン性ポリマーの分子量は、1000以上が好ましく、1000〜300万が更に好ましく、1万〜50万がより更に好ましい。この分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーにより、以下の条件で測定された重量平均分子量である。
カラム:α−M(東ソー製) 2本連結
溶離液:0.15mol/L硫酸Na、1%酢酸水溶液
流速 :1.0mL/min
温度 :40℃
検出器:RI
分子量標準はプルランを使用
【0038】
本発明により製造される液状レオロジー改質剤中の(D)成分の含有量は、1〜10重量%が好ましく、2〜8重量%がより好ましく、4〜7重量%が更に好ましい。この含有量が1重量%以上であれば、化合物(A)の粘土鉱物への吸着を抑制する効果が向上する傾向があり、化合物(A)の改質剤への配合量を少なくでき、また、10重量%以下であれば、レオロジー改質剤の製品安定性に優れ、長期間安定な透明均一液体が得られる。
【0039】
<(E)成分>
(E)成分はプロピレングリコールである。プロピレングリコールは、従来、一液型のレオロジー改質剤の溶剤として知られている化合物、例えばメタノール、エタノール、2−プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル等と比べて、引火点が100℃付近と高く、前記紐状ミセルの形成への影響が小さい。また、水硬性粉体を含有するスラリーに適用した場合、低温環境下でのセメント硬化体の強度増進効果がある点で好適である。本発明により製造される液状レオロジー改質剤中の(E)成分の含有量は、10〜40重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましく、12〜20重量%が更に好ましい。この含有量が10重量%以上であれば、本発明に係るレオロジー改質剤の製品粘度が増大せず、且つ、水硬性スラリーに対しては低温での十分な硬化体の強度増進効果が得られ、また、40重量%以下であれば、高温時でもスラリー粘度の低下を抑制できる。特許文献2には、プロピレングリコールが、本発明のように、水硬性スラリーに対して、低温での硬化体の強度を向上できる効果を付与できることについては示唆がない。
【0040】
本発明では、上記のように特定条件で製造された(A)成分と、(B)〜(E)成分から選ばれる少なくとも一種とを混合することで、液状レオロジー改質剤を製造することができる。また、本発明の液状レオロジー改質剤は水を含有することが好ましく、その場合、本発明の製造方法は、(A)成分を、(B)〜(E)成分から選ばれる少なくとも一種と水と混合する工程を有する。水は、液状レオロジー改質剤の残部であってよい。本発明の製造方法は、(A)成分と、(B)〜(E)成分と、水とを混合するものであってもよい。本発明は、特定の液状レオロジー改質剤を製造するにあたり、(A)成分として上記特定条件で製造された化合物を用いることを特徴とするものであり、(A)成分と他の成分との混合に際して、混合順序、混合条件などは、適宜選定して行うことができる。通常、(A)成分は、アミン及びアニオン性芳香族化合物から、水を含む混合物として得られるが、該反応生成物をそのまま使用してよい。また、(E)成分は、工程(I)において添加して、(A)成分と(E)成分とを含む反応混合物として得ることもできる。
【0041】
本発明の好ましい態様は、上記一般式(1)で表される化合物(A)を10〜40重量%、ジカルボン酸(B)を3〜15重量%、モノカルボン酸(C)を0.5〜1.5重量%、カチオン性ポリマー(D)を1〜10重量%、プロピレングリコール(E)を10〜40重量%含有する液状レオロジー改質剤の製造方法であって、
化合物(A)が、下記工程(I)及び工程(II)を有する製造方法であって、工程(I)及び工程(II)で用いるアニオン性芳香族化合物の合計が、工程(I)で用いたアミンに対してモル比で0.93〜1.02である製造方法、好ましくは更にアミンの反応率が99〜100%である製造方法により得られた化合物であり、
該化合物(A)を、ジカルボン酸(B)、モノカルボン酸(C)、カチオン性ポリマー(D)、及びプロピレングリコール(E)から選ばれる少なくとも一種と混合する工程を有する、
液状レオロジー改質剤の製造方法が挙げられる。この方法の工程(I)、工程(II)の好ましい態様は前述の通りである。
工程(I):アニオン性芳香族化合物の存在下で、アミンにエポキシ化合物を付加させる工程
工程(II):工程(I)で得られた反応生成物に、更にアニオン性芳香族化合物を添加する工程
【0042】
本発明の別の好ましい態様は、上記一般式(1)で表される化合物(A)を10〜40重量%、ジカルボン酸(B)を3〜15重量%、モノカルボン酸(C)を0.5〜1.5重量%、カチオン性ポリマー(D)を1〜10重量%、プロピレングリコール(E)を10〜40重量%含有する液状レオロジー改質剤の製造方法であって、
化合物(A)として、アニオン性芳香族化合物の存在下で、アミンにエポキシ化合物を付加させる工程(I)と、工程(I)で得られた反応生成物に、更にアニオン性芳香族化合物を添加する工程(II)を有する製造方法であって、工程(I)及び工程(II)で用いるアニオン性芳香族化合物の合計が、工程(I)で用いたアミンに対してモル比で0.93〜1.02である製造方法、好ましくは更にアミンの反応率が99〜100%である製造方法により得られた化合物を用いる、
液状レオロジー改質剤の製造方法が挙げられる。この方法の工程(I)、工程(II)の好ましい態様は前述の通りである。
【0043】
本発明により製造されたレオロジー改質剤は、必要に応じて、(A)〜(E)成分以外の成分を含有することができる。例えば、レオロジー改質剤製造時の発泡抑制や、レオロジー改質剤製品充填時の抑泡、スラリーに巻き込まれる空気量の抑制を目的に、消泡剤が挙げられる。消泡剤としては、下記のものを使用することができる。
(1)灯油、流動パラフィン等の鉱物油。
(2)牛脂、菜種油、ヒマシ油等の動植物油、およびこれらのアルキレンオキサイド付加物。
(3)オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、およびこれらの塩。
(4)グリセリン、ポリグリセリン、ソルビトール等の多価アルコールの高級脂肪酸エステル。
(5)ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸へのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド付加物。
(6)ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコールへのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド付加物。
(7)2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3−メチル−1−ブチン−3−オール等のアセチレンアルコールへのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド付加物。
(8)リン酸トリブチル等のリン酸エステル系化合物。
(9)ジメチルシリコーン、シリコーンペースト、シリコーンエマルジョン、有機変性ポリシロキサン(ジメチルポリシロキサン等のポリオルガノシロキサン)、フルオロシリコーン油、シリコーンコンパウンド等のシリコーン系化合物。
【0044】
これらの中でも、少量の添加量で高い消泡効果を発揮し、かつ、レオロジー改質剤の粘性発現への影響が小さいことから、(9)のシリコーン系化合物が好適である。消泡剤としてのシリコーン系化合物の添加量は、本発明により製造された液状レオロジー改質剤中に、好ましくは5〜100ppm、より好ましくは10〜50ppm、更に好ましくは15〜30ppmである。5ppm以上であれば、製造時や製品の充填時において十分な抑泡効果が得られ、100ppm以下であれば、スラリー系における粘弾性の発現効果が良好となる。また、消泡剤のレオロジー改質剤への添加のタイミングは、(A)成分の合成時から(A)、(B)、(C)、(D)、(E)成分を混合した後のどこでもよいが、系が増粘して気泡を巻き込みやすくなる(A)成分を合成する際の工程(II)が好ましい。
【0045】
本発明により製造されたレオロジー改質剤は、20℃での粘度が50〜250mPa・s、更に80〜225mPa・s、より更に100〜200mPa・sであることが、取り扱い性の点で好ましい。ここで、粘度は、B型粘度計(東京計器、DVM−B)により測定されたものである。なお、本発明により製造された液状レオロジー改質剤は、(A)〜(E)成分と水とを含有し、更に、消泡剤等の任意成分を含有することができる。
【0046】
本発明に係るレオロジー改質剤を、増粘させたい水溶液に添加することで当該水溶液の粘度を上げることができ、また、増粘させたい水と粉体を含有するスラリーに添加することで当該スラリーの粘度を上げることができる。本発明に係るレオロジー改質剤の水溶液又はスラリーへの添加量は、当該水溶液又はスラリーの水相中での(A)成分の濃度として0.01〜20重量%であることが好ましく、0.1〜10重量%がより好ましい。すなわち、水溶液又はスラリーの水相中における(A)成分の濃度が0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%となるように、本発明の製造方法により得られたレオロジー改質剤を、前記水溶液又はスラリーに添加する、レオロジーが制御された水溶液又はスラリーの製造方法が提供される。また、当該水溶液又はスラリーの水相中における(A)成分の濃度が0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜10重量%となるように、本発明の製造方法により得られたレオロジー改質剤を、前記水溶液又はスラリーに添加する、水溶液又はスラリーのレオロジー制御方法が提供される。この場合、当該水溶液又はスラリーの制御は、粘度調整、具体的には増粘を目的とすることが好ましい。
【0047】
本発明に係るレオロジー改質剤は、水溶液やスラリー中でレオロジー改質剤自体が会合体を形成し増粘させる機能を有するので、スラリー中に存在する粉体の影響を受けにくく、また、イオン強度の高い水溶液でも増粘できる点から、スラリー系に適しており、特に水硬性粉体と水とを含有するスラリーに好適である。よって、本発明により、本発明の製造方法により製造された液状レオロジー改質剤と水硬性粉体と水とを含有するスラリーが提供できる。
【0048】
本発明に係るレオロジー改質剤は、水粉体比(水/粉体、重量比)10〜1000%のスラリーに適用できる。このスラリーを製造する際の粉体としては、水和反応により硬化する物性を有するセメントや石こうといった水硬性粉体を用いることができる。例えばセメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、対硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形)、ビーライトセメント(例えば低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント製)ハイフローセメント(太平洋セメント製))、各種混合セメント(高炉セメント、シリカフュームセメント、フライアッシュセメント)、エコセメント(太平洋セメント製)などのセメントが挙げられる。また、フィラーも用いることができ、例えば炭酸カルシウム(石粉)、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム、ベントナイト、クレー(含水珪酸アルミニウムを主成分とする天然鉱物:カオリナイト、ハロサイト等)が挙げられる。これらの粉体は単独でも、混合されたものでもよい。更に、必要に応じてこれらの粉体に骨材として砂や砂利、及びこれらの混合物が添加されてもよい。また、酸化チタン等の上記以外の無機酸化物系粉体のスラリーや土に適用することもできる。
【0049】
本発明に係るレオロジー改質剤と、水硬性粉体と、水とを含有する水硬性スラリーでは、スラリーの水相における(A)成分の濃度が0.01〜20重量%、更に0.1〜10重量%を満たした上で、(A)成分と水硬性粉体の重量比は、水硬性粉体/(A)成分=100000/1〜1/2、更に10000/1〜1/1であることが好ましい。
【0050】
本発明に係るレオロジー改質剤を水硬性スラリーに適用しても、粉体の硬化を妨げず良好な硬化体が得られる。本発明に係るレオロジー改質剤はコンクリート構造体やコンクリート製品等に適用できる。水硬性スラリーとしては、水硬性粉体と水とを含有する水硬性組成物、例えばコンクリート、モルタル、セメントミルク等が挙げられる。なかでも、本発明に係るレオロジー改質剤は、地盤改良工法、柱列式連続壁、注入工法などのグラウチングに使用されるグラウト材、ボーリング用セメントミルク、セルフレベリング材、軽量盛土、ひび割れ補修材、軽量モルタル、高流動コンクリート、繊維補強コンクリート、杭周固定液、水中盛土、空隙充填材、ポーラスコンクリート、エアーグラウト材、ECL用コンクリート、PCグラウト、コンクリート流動化剤、リバウンド低減剤、押出成形用増粘剤等に好適に使用できる。よって、本発明により、本発明の製造方法により製造された液状レオロジー改質剤と水硬性粉体と水と分散剤とを含有するECL工法用コンクリートおよびPCグラウトが提供される。
【0051】
本発明により、前記一般式(1)で表される化合物(A)を10〜40重量%、ジカルボン酸(B)を3〜15重量%、モノカルボン酸(C)を0.5〜1.5重量%、カチオン性ポリマー(D)を1〜10重量%、プロピレングリコール(E)を10〜40重量%含有する液状レオロジー改質剤の製造工程であって、
化合物(A)が、原料としてアミンとアニオン性芳香族化合物を、アニオン性芳香族化合物/アミン=0.93〜1.02のモル比で用いて得られた化合物、好ましくは更にアミンの反応率99〜100%で反応させて得られた化合物であり、
該化合物(A)を、ジカルボン酸(B)、モノカルボン酸(C)、カチオン性ポリマー(D)、及びプロピレングリコール(E)から選ばれる少なくとも一種と混合する工程を有する、
液状レオロジー改質剤の製造工程(イ)と、
前記工程(イ)により得られた液状レオロジー改質剤と水硬性粉体と水とを混合してスラリーを調製する工程(ロ)とを有する、
スラリーの製造方法が提供される。この製造方法では、工程(イ)の化合物(A)が、原料として更にエポキシ化合物を用いて得られた化合物であることが好ましく、更に、化合物(A)が、下記工程(I)及び工程(II)を有する製造方法であって、工程(I)及び工程(II)で用いるアニオン性芳香族化合物の合計が、工程(I)で用いたアミンに対してモル比で0.93〜1.02である製造方法により得られた化合物であることが好ましい。
工程(I):アニオン性芳香族化合物の存在下で、アミンにエポキシ化合物を付加させる工程
工程(II):工程(I)で得られた反応生成物に、更にアニオン性芳香族化合物を添加する工程
【0052】
これらの製造方法における工程(イ)は、本発明の液状レオロジー改質剤の製造方法で説明した方法で実施できる。また、工程(ロ)では、液状レオロジー改質剤を、スラリーの水相中における(A)成分の濃度や、水硬性粉体と(A)成分の質量比が前記範囲となるよいうに用いて、水硬性粉体と水と混合することで実施できる。この製造方法では、スラリーがPCグラウトであることが好ましく、更に、工程(ロ)において更に分散剤を混合することが好ましい。分散剤としては、リグニンスルホン酸Na、ナフタレン系、メラミン系、フェノール系、ポリカルボン酸エチレンオキサイド付加物系、リン酸エチレンオキサイド付加物系が挙げられ、対象スラリーの粘性や流動性等の要求性能のレベルに応じて種類や添加量を調整し適宜選択すればよい。分散剤は水硬性粉体100重量部に対して、0.02〜2重量部、更に0.1〜1重量部の割合で用いることが好ましい。分散剤としては、ポリカルボン酸エチレンオキサイド付加物系やリン酸エチレンオキサイド付加物系が好適である。
【実施例】
【0053】
合成例1
フラスコにへキサデシルジメチルアミン404g(1.48モル)、オクタデシルジメチルアミン444g(1.48モル)を仕込み、65℃に昇温した。前記アミン混合物中、炭素数18のアルキル基を有する化合物は50モル%であった。さらに、1,2−プロピレングリコール893gとイオン交換水1556g、p−トルエンスルホン酸の63.2%水溶液760g〔p−トルエンスルホン酸として2.81モル、前記の全アミン(以下単にアミンともいう。)に対するモル比0.95〕を仕込み、1時間攪拌し均一化させた。得られた混合水溶液の全量をオートクレーブに仕込み、85℃まで昇温し、攪拌後、系内を窒素置換した。エチレンオキサイド157g(3.56モル)を仕込み、3時間80〜90℃で反応させた〔工程(I)〕。その後、65℃に冷却して反応器内の残圧を系外にブローし、65℃で400torr(53.3kPa)、15分間の脱気を行った。さらにp−トルエンスルホン酸の63.2%水溶液40g(p−トルエンスルホン酸として0.15モル、前記全アミンに対するモル比0.05)とシリコーン消泡剤(東レ・ダウコーニング(株)製、自己乳化型コンパウンド DK Q1−1183)0.12gを仕込み〔工程(II)〕、最後に48%NaOH水溶液を使用してpH(反応品の1%水溶液)を6.5に調製して、目的とするジメチルヒドロキシエチルアルキルアンモニウムp−トルエンスルホネート混合水溶液4254gを得た(水分43.7%)。原料として用いたアミンの反応率は99.5%であった。
【0054】
合成例2
合成例1の工程(II)において、p−トルエンスルホン酸の62%水溶液24g(p−トルエンスルホン酸として0.09モル、アミンに対するモル比0.03)を仕込んだ以外は同様にして、ジメチルヒドロキシエチルアルキルアンモニウムp−トルエンスルホネート混合水溶液を得た(水分43.8%)。原料として用いたアミンの反応率は99.4%であった。
【0055】
合成例3
合成例1の工程(II)を実施せずに、ジメチルヒドロキシエチルアルキルアンモニウムp−トルエンスルホネート混合水溶液を得た(水分43.9%)。原料として用いたアミンの反応率は99.5%であった。
【0056】
比較合成例1
合成例1の工程(II)において、p−トルエンスルホン酸の62%水溶液仕込み量を、p−トルエンスルホン酸がアミンに対してモル比0.1となる量とし、合成例1と同様にジメチルヒドロキシエチルアルキルアンモニウムp−トルエンスルホネート混合水溶液を製造した(水分43.9%)。原料として用いたアミンの反応率は99.6%であった。
【0057】
比較合成例2
合成例1の工程(II)において、p−トルエンスルホン酸の62%水溶液仕込み量を、p−トルエンスルホン酸がアミンに対してモル比0.15となる量とし、合成例1と同様にジメチルヒドロキシエチルアルキルアンモニウムp−トルエンスルホネート混合水溶液を製造した(水分44.0%)。原料として用いたアミンの反応率は99.5%であった。
【0058】
比較合成例3
合成例1の工程(I)において、p−トルエンスルホン酸の62%水溶液720g(p−トルエンスルホン酸として2.67モル、アミンに対するモル比0.90)を仕込み後に1時間攪拌し均一化し、工程(II)を行わず、ジメチルヒドロキシエチルアルキルアンモニウムp−トルエンスルホネート混合水溶液を得た(水分43.9%)。原料として用いたアミンの反応率は99.6%であった。
【0059】
上記合成例及び比較合成例の反応条件等を表1にまとめた。
【0060】
【表1】

【0061】
*1 へキサデシルジメチルアミン(C16)とオクタデシルジメチルアミン(C18)のモル比(仕込み時)
【0062】
<実施例及び比較例>
合成例及び比較合成例で得られた混合水溶液〔(A)成分及び(E)成分を含む混合物〕と、表2に示す成分とを混合して、液状レオロジー改質剤を製造した。なお、(E)成分の量は、各合成例の工程(I)において、(E)成分とイオン交換水の仕込量を調整することにより、所定の量となるように調整した。
【0063】
(1)粘度の測定
得られた液状レオロジー改質剤の粘度をB型粘度計(東京計器、DVM−B)により測定した。この粘度が200mPa・s以下であれば、工業的に通常用いられる種々の液体薬剤の計量装置に対応できるため好ましい。結果を表2に示す。
【0064】
(2)安定性の評価
また、得られた液状レオロジー改質剤を、10℃、20℃、又は30℃で6ヶ月間静置し、白濁や析出状態を観察し、安定性評価とした。10℃、20℃、30℃のいずれにおいても均一透明であるものを「○」、いずれかの温度で白濁や析出があるものを「×」として製品安定性を評価した。結果を表2に示す。
【0065】
(3)スラリー粘度の測定
普通ポルトランドセメント400g、水400gをケーキ用ハンドミキサーで10℃、20℃、30℃の各温度において、30秒攪拌混合後、表2の液状レオロジー改質剤28gを加え、各サンプルについて、60秒間攪拌混合した。この攪拌混合中のスラリーを目視で観察し、60秒間攪拌混合しても粘度上昇が一定に到達しない場合でも、攪拌混合を60秒で打ち切り、ビスコテスター(リオン製VT−04E)でスラリーの粘度を各サンプルについて10℃、20℃、30℃の各温度で測定した。この評価を、スラリー温度10℃、20℃及び30℃の混練温度のそれぞれについて行った。スラリー粘度が大きいほど、レオロジー改質効果が速やかに発現していることを意味する。結果を表2に示す。
【0066】
(4)低温強度の評価
混練温度10℃のサンプル(前記60秒間攪拌混合後)を、5℃で28日間養生後、圧縮強度試験を実施した。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
表中の成分は以下のものである。また、液状レオロジー改質剤の残部は、全体を100重量%とする量の水である。
・B−1:イタコン酸
・B−2:グルタル酸
・C−1:デカン酸
・D−1:ポリ(メタクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフエート)(重量平均分子量12万)
・E−1:1,2−プロピレングリコール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される化合物(A)を10〜40重量%、ジカルボン酸(B)を3〜15重量%、モノカルボン酸(C)を0.5〜1.5重量%、カチオン性ポリマー(D)を1〜10重量%、プロピレングリコール(E)を10〜40重量%含有する液状レオロジー改質剤の製造方法であって、
化合物(A)が、原料としてアミンとアニオン性芳香族化合物とを、アニオン性芳香族化合物/アミン=0.93〜1.02のモル比で用いて得られた化合物であり、
該化合物(A)を、ジカルボン酸(B)、モノカルボン酸(C)、カチオン性ポリマー(D)、及びプロピレングリコール(E)から選ばれる少なくとも一種と混合する工程を有する、
液状レオロジー改質剤の製造方法。
【化1】


(式中、Rlは炭素数10〜26のアルキル基、R2は炭素数1〜22のアルキル基又は炭素数2〜3のヒドロキシアルキル基、R3及びR4は、それぞれ、炭素数1〜3のアルキル基又は炭素数2〜3のヒドロキシアルキル基であり、少なくとも一方は炭素数2〜3のヒドロキシアルキル基である。X-はアニオン性芳香族化合物残基を表す。)
【請求項2】
化合物(A)が、原料として更にエポキシ化合物を用いて得られた化合物である、請求項1記載の液状レオロジー改質剤の製造方法。
【請求項3】
化合物(A)が、下記工程(I)及び工程(II)を有する製造方法であって、工程(I)及び工程(II)で用いるアニオン性芳香族化合物の合計が、工程(I)で用いたアミンに対してモル比で0.93〜1.02である製造方法により得られた化合物である、請求項2記載の液状レオロジー改質剤の製造方法。
工程(I):アニオン性芳香族化合物の存在下で、アミンにエポキシ化合物を付加させる工程
工程(II):工程(I)で得られた反応生成物に、更にアニオン性芳香族化合物を添加する工程
【請求項4】
工程(I)におけるアミンに対するアニオン性芳香族化合物のモル比が0.90〜1.00であり、工程(II)における工程(I)で用いたアミンに対するアニオン性芳香族化合物のモル比が0.01〜0.12である請求項3記載の液状レオロジー改質剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−31277(P2012−31277A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171926(P2010−171926)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】