説明

液状乳酸組成物及びその調製方法

本発明は、少なくとも94%(w/w)の合計酸含有量を有し且つ10℃超の温度で結晶化しない液状乳酸組成物の調製方法であって、少なくとも94%(w/w)の合計酸含有量を有し且つ10℃超の温度で結晶化する出発液状乳酸組成物を得ること、そして、該出発液状乳酸組成物を、該出発液状乳酸組成物の結晶化点よりも高い温度で、10℃超の温度で結晶化しない液状乳酸組成物を得る為の時間、インキュベートすることを含む、前記方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常に濃厚な液状乳酸組成物の調製方法及び該方法により得られる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸並びにその塩及びエステルは、食品添加物として、及び種々の化学的及び医薬的用途において、長く用いられてきた。より最近に、乳酸は、現在のプラスチック材料についての代替物として並びに例えば医療インプラント及びゆっくり放出する薬剤などの為に生分解性が必要とされ又は所望されるところの種々の新たな用途としての生分解性ポリマーの製造において用いられてきた。従って、改善された且つ経済的に実行可能な乳酸製造プロセスについての増え続ける需要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
乳酸は一般に、薄い又は濃厚な水性溶液として売られており、それにより濃厚な乳酸溶液は一般に約90%(w/w)の乳酸濃度を有する。そのような濃厚な乳酸溶液の調製の為の方法は、例えば国際公開第00/56693号パンフレットに記載されている。例えばパッケージングコスト及び輸送コストを減少する為に及び技術的用途及び食料用途の全ての種類における使いやすさを改善する為に、さらにより高い濃度を有する乳酸組成物のマーケティングが、なお望ましい。しかしながら、より高い濃度は実行可能でなく、なぜなら、そのように非常に濃厚な組成物において乳酸の結晶化が雰囲気温度で容易に起こるからであり、これは該乳酸組成物の取扱いに問題をもたらす。
【0004】
本発明の目的は、雰囲気温度で結晶化しない非常に濃厚な液状乳酸組成物の提供を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的のために、第一の局面において、少なくとも94%(w/w)の合計酸含有量を有し且つ10℃超の温度で結晶化しない液状乳酸組成物の調製を可能にする、液状乳酸組成物の調製の為の方法が提供される。該方法は、少なくとも94%(w/w)の合計酸含有量を有し且つ10℃超の温度で結晶化する出発液状乳酸組成物を得ること、そして、該出発液状乳酸組成物を高められた温度で、すなわち該出発液状乳酸組成物の結晶化点よりも高い温度で、10℃超の温度で結晶化しない液状乳酸組成物を得る為に適した時間インキュベートすることを含む。
【0006】
本明細書内において記載されたとおりの、該方法により得られた該液状乳酸組成物は、パックされるのに適しており且つ市場に置かれるのに適した使用の準備ができた(ready-to-use)液状組成物である。
【0007】
好ましくは、10℃超の温度で結晶化しない該液状乳酸組成物は、少なくとも95%(w/w)、より好ましくは少なくとも96%、97%、98%、99% (w/w)の合計酸含有量を有する。特に好ましくは、10℃超の温度で結晶化しない該液状乳酸組成物は、100% (w/w)の合計酸含有量を有する。加えて、100% (w/w)より高い合計酸含有量を有する液状乳酸組成物は、本明細書内に記載されたとおりの高められた温度での該インキュベーションに付されている該液状乳酸組成物中に存在する水の一部又は全部を除去することにより得られる。そのような水は、適切には、エバポレーションにより除去されうる。そのような液状乳酸組成物中の水の存在は、高められた温度での該インキュベーションに部分的に又は完全に(100% (w/w)の合計酸含有量を有する液状組成物において)起因することが注意される。
【発明の効果】
【0008】
驚くべきことに、少なくとも94% (w/w)の高い合計酸含有量を有し且つ10℃超の温度で結晶化しない液状乳酸組成物が、該液状「最終」組成物と同じ酸含有量を有するが10℃超の温度で結晶化する出発乳酸組成物から、該出発乳酸組成物を、長時間、該出発液状乳酸組成物の結晶化点より高い高められた温度でインキュベートすることにより得られることが分かった。
【0009】
また、少なくとも94% (w/w)の合計酸含有量を有する該得られた液状乳酸組成物は、1.2〜1.7、好ましくは1.2〜1.4の合計酸/遊離酸比を有することが分かった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
組成物の合計酸含有量(TA)は、過剰塩基の正確に既知の量によるいずれの分子間エステル結合についてもの完全な加水分解後に測定され、そして、残る塩基の酸による逆滴定によって決定されたモノマー酸含有量である。すなわち、合計酸含有量は、モノマー及びオリゴマーの乳酸の含有量を与え、そして、モノマー乳酸のパーセンテージ(w/w)として表される。オリゴマー乳酸は典型的には、二量体の酸(HL2)、三量体の酸(HL3)、四量体の酸(HL4)、及び五量体の酸(HL5)、並びに少量のジラクチド(L2)を含む。
【0011】
組成物の遊離酸含有量(FA)は、塩基による直接滴定、すなわち分子間エステル結合の加水分解無しで、決定される。
【0012】
該出発液状乳酸組成物は、10℃超であり且つその結晶化点より低い温度で結晶化する組成物である。該結晶化点は、該出発液状乳酸組成物の濃度に依存するであろう。例えば、94% (w/w)乳酸組成物の結晶化点は37℃であり、そして、100%乳酸のものは53℃である。典型的には、該出発液状乳酸組成物は、雰囲気温度で、たとえば15℃〜25℃の温度で、結晶化する。そのような出発組成物は種々の方法で得られる。
【0013】
該出発組成物は、例えば、乳酸の溶液、例えば市販の溶液を、合計酸含有量が94%又はそれより高くなるなるまで濃厚にすることにより得られる。乳酸溶液の濃厚化は、薄い乳酸溶液を蒸発することにより、膜又は分子ふるいを用いた処理により、及び/又は減圧下での蒸留により行われうる。
【0014】
該出発組成物は、また、適切な量の溶媒中で固形乳酸を撹拌すること、及び、該混合物を液状になるまで加熱することにより得られる。
【0015】
該出発組成物は、また、乳酸の調製の為のプロセスにおける適切な処理工程後すぐに得られうる。乳酸の調製の為の適切なプロセスは、国際公開第98/55442号パンフレット及び国際公開第01/38283号パンフレットに開示されており、これらは、引用することにより本明細書に組み込まれる。それに関して、特に適切な処理工程は、本明細書内以下に記載されるとおりの蒸留工程である。
【0016】
乳酸は一般に、微生物、例えばバクテリア、酵母、及び菌類など、による発酵によって製造される。発酵基質は、典型的には、炭水化物、例えばグルコース、スクロース、デンプン、及び同様物などを、適切なミネラル及び窒素含有栄養素と一緒に含む。S−乳酸を生産する既知の微生物は、Lactobacillus属の種々のバクテリア、例えばLactobacillus caseiなど、又はBacillus属の種々のバクテリア、例えばBacillus coagulansなど、である。加えて、(R)−乳酸を選択的に生産する微生物が知られている。
【0017】
発酵後、水性発酵培地が、所望のとおりの純度を有する乳酸を得る為に処理される。通常の産業的処理経路は一般に、バイオマスの分離、そして1又はそれより多い追加の処理工程からなる。
【0018】
通常は、該バイオマスは、ろ過、遠心分離、凝集、凝固、浮選、又はそれらの組み合わせにより分離される。これは例えば、国際公開第01/38283号パンフレットに記載されており、ここでは、発酵による乳酸の調製の為の連続的プロセスが記載されている。
【0019】
発酵液はさらに、所望のとおりの純度を有する乳酸溶液を得る為に必要に応じて処理される。これらの処理工程は、周知の処理工程を包含してよく、例えばイオン交換、蒸留、結晶化、溶融、エステル化、水蒸発、鹸化、酸性化、ろ過、抽出、吸着など、を包含しうる。
【0020】
乳酸溶液は、減圧下で蒸留されて、本明細書内に記載されたとおりの高められた温度でのインキュベーションに付される出発乳酸組成物を得ることが好ましい。減圧は、0.01〜100mbar、好ましくは0.1〜20mbar、特には1〜10mbarの圧力と理解される。減圧下の蒸留の間の温度は、100〜200℃、特には110〜14O℃でありうる。
【0021】
蒸留は以下のとおりに、例えば国際公開第01/38283号パンフレット(これは引用することにより本明細書に組み込まれる)に記載されたとおりに、実施されてよく、及び、必要なときに1又はそれより多くの回数繰り返されてよい。
【0022】
簡潔には、第一の工程において、水性乳酸溶液が、例えば膜蒸発により、気相に持ち込まれる。膜蒸発は、潤滑化膜蒸発(lubricated film evaporation)、薄膜蒸発、及び/又は流下膜蒸発により達成されうる。次に、蒸気が、蒸留カラム(これにおいて2つの画分への分離が還流条件下で起こる)を通過させられる。該蒸留カラムは、1〜10の多くのトレイを有しうる。減圧下での蒸留は、乳酸より高い沸点を有する不純物の除去を結果し、該乳酸が、トッププロダクト(top product)として得られる。該トッププロダクトは、少なくとも94%(w/w)の合計酸を含有し、そして、残りは、糖及び/又はポリマー乳酸を含む。
【0023】
乳酸溶液の場合、他の溶媒、例えばC1-C5アルカノール(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、及び2, 2-ジメチルプロパノール)などもまた適しており、又は水と混合されうるけれども、溶媒は好ましくは水である。
【0024】
少なくとも94% (w/w)の合計酸含有量を有する該出発乳酸組成物は、高められた温度、すなわちその結晶化点よりも高い温度に持ち込まれ、そして、該温度で、10℃超の温度で結晶化しない液状乳酸組成物を得る為に適した時間インキュベートされる。該インキュベーション温度についての上限は、適切には、関係した圧力での該乳酸組成物の沸点でありうる。該インキュベーションは、当技術分野の当業者に既知の任意の撹拌装置を用いた撹拌下で行われうる。
【0025】
好ましくは、該インキュベーション温度は、40℃〜120℃、より好ましくは50℃〜100℃、最も好ましくは60℃〜90℃である。インキュベーションの時間は、典型的には、適用される温度又は温度範囲によるであろう。該インキュベーション温度が高ければ高いほど、該インキュベーション時間はより短い。例えば、100℃の温度では、該インキュベーション時間は、約1〜4時間であってよく、80℃の温度では、該インキュベーション時間は約3〜12時間であってよく、そして、約60℃の温度では、該インキュベーション時間は、約10〜40時間でありうる。すなわち、該インキュベーション時間は、少なくとも約30分であり、好ましくは少なくとも約1時間であり、より好ましくは少なくとも約2時間であり、最も好ましくは少なくとも約3時間でありうる。インキュベーションは、固定された温度で又は温度範囲を用いて実施されてよく、雰囲気温度に冷却する時間を含みうる。
【0026】
液状乳酸組成物を10℃の温度への冷却の際に、なお液状であり且つ結晶を含まない液状乳酸組成物が得られる時点で、該インキュベーションが終了されうることを、当業者は理解するであろう。そのような時点は、適切には、50mlの試料をとり、この試料を10℃の温度に付し、そして、撹拌下で1gの乳酸シード結晶を添加することにより決定されうる。もし該シード結晶が撹拌下で約1時間内で溶解するならば、該液状乳酸組成物は10℃超の温度で結晶化せず、そして、該インキュベーションが終了されうる。
【0027】
本明細書内に記載されたとおりの、該出発乳酸組成物のその結晶化点超の高められた温度でのインキュベーションは、有利には、前処理工程及び/又は後処理工程を含んでよく、ただし該処理工程は該高められた温度で行われることを条件とする。例えば、さらなる処理工程は、着色性物質などの残存する不純物の除去でありうる。この除去は、該液状乳酸組成物をカーボンカラムを通過させることにより行われうる。該通過の時間、例えば3時間などは、上記で言及された該インキュベーション時間に含まれうる。
【0028】
本発明は、いずれかの立体化学配置にある乳酸、すなわち、L+-乳酸又はD--乳酸又は、L+-乳酸とD--乳酸との混合物、を含む組成物に適用可能である。
【0029】
さらなる局面において、少なくとも94% (w/w)の合計酸含有量を有し且つ10℃超の温度で結晶化しない液状乳酸組成物が提供される。好ましくは、10℃超の温度で結晶化しない該液状乳酸組成物は、少なくとも95% (w/w)、より好ましくは少なくとも96%、97%、98%、99% (w/w)の合計酸含有量を有する。特に好ましくは、10℃超の温度で結晶化しない該液状乳酸組成物は、100% (w/w)の合計酸含有量を有する。
【0030】
少なくとも94% (w/w)の合計酸含有量を有する該液状乳酸組成物は、さらに好ましくは、約1.2〜約1.7、好ましくは約1.2〜約1.4の合計酸/遊離酸比を有する。特に、該液状乳酸組成物は、約65%〜約85% (w/w)、好ましくは約75%〜約84% (w/w)のモノマー乳酸(HL1)プラス二量体乳酸(HL2)の含有量を有してよく、且つ/又は、約80%〜約91% (w/w)、好ましくは約87%〜約90% (w/w)のモノマー乳酸(HL1)プラス二量体乳酸(HL2)プラス三量体乳酸(HL3)の含有量を有しうる。
【0031】
そのような液状乳酸組成物は、(25℃の温度で)本明細書内以下に特定されたとおりの組成を有しうる。該組成は、マススペクトロスコピーを用いて決定されうる。
【0032】

【0033】
この局面の組成物は、好ましくは、前の局面に従う方法により得られる。
【0034】
本明細書内に開示された非常に濃厚な液状乳酸組成物は、有利には、任意の乳酸用途に用いられうる。該高い酸濃度と組み合わせられた該液状形態は、取扱いの容易さ及び見込みある最も低い輸送コストなどの利点を与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも94%(w/w)の合計酸含有量を有し且つ10℃超の温度で結晶化しない液状乳酸組成物の調製方法であって、少なくとも94%(w/w)の合計酸含有量を有し且つ10℃超の温度で結晶化する出発液状乳酸組成物を得ること、そして、該出発液状乳酸組成物を、該出発液状乳酸組成物の結晶化点よりも高い温度で、10℃超の温度で結晶化しない液状乳酸組成物を得るのに充分な時間、インキュベートすることを含む、前記方法。
【請求項2】
該出発液状乳酸組成物の該結晶化点よりも高い温度での該インキュベーション後に得られた該液状乳酸組成物中に存在する水の一部又は全部を除去することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該インキュベーション温度が40℃〜120℃である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該インキュベーション時間が、少なくとも約30分、好ましくは少なくとも約1時間、より好ましくは少なくとも約2時間、最も好ましくは少なくとも約3時間である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
該出発乳酸組成物が、乳酸の調製の為のプロセスにおける蒸留工程の直後に得られるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該出発液状乳酸組成物の該結晶化点よりも高い温度での該インキュベーションが、該出発液状乳酸組成物の該結晶化点より高い温度で実施される前処理工程及び/又は後処理工程を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも94%(w/w)の合計酸含有量を有し且つ10℃超の温度で結晶化しない液状乳酸組成物。
【請求項8】
少なくとも95%(w/w)の合計酸含有量、好ましくは少なくとも96%、97%、98%、99%(w/w)の合計酸含有量を有する、請求項7の液状乳酸組成物。
【請求項9】
100%(w/w)の合計酸含有量を有する、請求項7の液状乳酸組成物。
【請求項10】
約1.2〜約1.7、好ましくは約1.2〜1.4の、合計酸/遊離酸比を有する、請求項7〜9のいずれか1項に記載の液状乳酸組成物。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により得られた、請求項7〜10のいずれか1項の液状乳酸組成物。


【公表番号】特表2012−532917(P2012−532917A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520039(P2012−520039)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060218
【国際公開番号】WO2011/006965
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(306003419)ピュラック バイオケム ビー.ブイ. (40)
【Fターム(参考)】