説明

液状体の含浸状況のモニタリング方法およびFRP構造体の製造方法

【課題】
液状体の流動を妨げたり、FRPの成形においては、成形後にモニタリング媒体が成形品に残留して強度を落としたりすることがない、液状体の含浸状況モニタリング方法を提供する。
【解決手段】
空隙を有する基材への液状体の含浸状況をモニタリングする、液状体の含浸状況のモニタリング方法であって、該基材の第1の面の側に第1の電極を設け、該第1の面と異なる第2の面の側に第2の電極を設け、前記第1および第2の電極の間に所定の電力を投入し、前記第1および第2の電極間に構成される電気回路の電気的特性を測定することにより、該液状体の含浸位置をモニタリングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状体のモニタリング方法に関し、さらに詳しくは、例えば、強化繊維基材に液状体の樹脂を含浸する際の含浸状況の、非接触モニタリングに特に有効な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
型枠もしくはコア材によって形を整えられた強化繊維基材に、液状体を含浸してFRP(繊維強化プラスチック)構造体を製造する際に、液状体が流動し所定の位置に到達したことを確認することは、FRP構造体の品質上および製作工程上および商品認可の上で非常に重要である。
【0003】
液状体の含浸状況は、型枠が透明な場合は外部から目視で確認可能であるが、型枠が金属などで不透明な場合には目視での確認ができないため、過去の経験から液状体の含浸状況を推測していたが、液状体が確実に所定の位置まで到達したことをモニタリングする方法の開発が望まれている。
【0004】
液状体の含浸状況をモニタリングする方法としては、光ファイバを強化繊維基材とともに型枠内に配置し、液状体が光ファイバー先端に到達すると、樹脂面で入射光が反射し、受光端へ戻ってくるように構成することによって、液状体の到達をモニタリングする方法が知られている(特許文献1)。しかし、この方法では、光ファイバー自身が液状体の流れを妨げる恐れがある。また、FRPの成形に、この方法を用いるときは、成形後も光ファイバーが成形品に残留し、強度が落ちるなどの問題がある。
【0005】
また、別の液状体の含浸状況をモニタリングする方法として、平行な縦電極部とその縦電極部の相互間に形成した櫛形の横電極部とからなる回路を有した、細長い薄肉形状の基板を、強化繊維基材とともに型枠内に配置し、誘電応答により液状体の到達をモニタリングする方法が知られている(特許文献2)。しかし、この方法でも、基板自体が液状体の流れを妨げる恐れがあり、また、FRPの成形にこの方法を用いるときは、成形後も基板が成形品に残留し、強度が落ちるなどの問題がある。
【0006】
さらに、別の液状体の含浸状況をモニタリングする方法として、上記のモニタリング媒体を複数個、液状体の含浸進行方向に並べることにより、液状体の到達位置をモニタリングする方法が知られている(特許文献3、4)。しかし、これらの方法でも、モニタリング媒体自身が液状体の流れを妨げる恐れがあり、また、FRPの成形にこの方法を用いるときは、成形後も基盤が成形品に残留し、強度が落ちるなどの問題がある。更に、強化繊維基材を積層する作業中にモニタリング媒体も設置していかねばならず、モニタリングコストが大きくなるなどの問題もある。
【0007】
また、液状体のモニタリング方法としては、空隙を有する基材表面に電極を直接設置し、交流電流を印加することで電気特性を測定し、液状体の含有率や硬化状態をモニタリングする方法も知られている(特許文献5)。しかし、この方法では、液状体の含浸位置はモニタリングしておらず、さらには空隙を有する基材表面に電極を直接設置するので、FRPの成形にこの方法を用いるときは、成形後も電極が成形品に残留し、強度が落ちるなどの問題がある。
【0008】
以上で述べたように、従来の液状体の含浸状況モニタリング方法においては、液状体の流動を妨げたり、FRPの成形において、成形後もモニタリング媒体が成形品に残留し、強度が落ちるなどの問題がある。
【特許文献1】特開2001−27678号公報
【特許文献2】特開2004−309332号公報
【特許文献3】特開2003−53744号公報
【特許文献4】特開2004−309333号公報
【特許文献5】特開2002−257770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、液状体の流動を妨げたり、FRPの成形においては、成形後にモニタリング媒体が成形品に残留して強度を落としたりすることがない、液状体の含浸状況モニタリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、次の(1)〜(9)を特徴とするものである。
(1)空隙を有する基材への液状体の含浸状況をモニタリングする、液状体の含浸状況のモニタリング方法であって、該基材の第1の面の側に第1の電極を設け、該第1の面と異なる第2の面の側に第2の電極を設け、前記第1および第2の電極の間に所定の電力を投入し、前記第1および第2の電極間に構成される電気回路の電気的特性を測定することにより、該液状体の含浸位置をモニタリングすることを特徴とする、液状体の含浸状況のモニタリング方法。
(2)前記第1の電極を前記基材の第1の面の側に複数個設け、該複数個の第1の電極それぞれにおいて電気的特性を測定することを特徴とする、上記(1)に記載の液状体の含浸状況のモニタリング方法。
(3)前記複数個の第1の電極に対して前記第2の電極を1個とする、上記(2)に記載の液状体の含浸状況のモニタリング方法。
(4)前記第1の電極と前記基材との間に絶縁スペーサを設け、前記第1の電極を前記基材および前記液状体に対して非接触に保ってモニタリングすることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の液状体の含浸状況のモニタリング方法。
(5)前記基材の第1の面の側に絶縁スペーサを設け、該絶縁スペーサの前記基材とは反対側に複数個の前記第1の電極を設け、該複数個の第1の電極を前記基材および前記液状体に対して非接触に保ちながら該複数個の第1の電極それぞれにおいて電気的特性を測定することを特徴とする、上記(1)に記載の液状体の含浸状況のモニタリング方法。
(6)前記複数個の第1の電極に対して前記第2の電極を1個とする、上記(5)に記載の液状体の含浸状況のモニタリング方法。
(7)前記絶縁スペーサの少なくとも一部が、剥離可能な樹脂フィルムで構成されていることを特徴とする、上記(4)〜(6)のいずれかに記載の液状体の含浸状況のモニタリング方法。
(8)強化繊維基材に液状体の樹脂を含浸させるFRP構造体の製造方法であって、上記(1)〜(7)のいずれかに記載のモニタリング方法を実施し、このモニタリング結果に基づいて樹脂の含浸状態を判定し、含浸工程を制御することを特徴とするFRP構造体の製造方法。
(9)前記基材の第1の面の側に絶縁スペーサを設ける場合、前記樹脂の硬化後に該絶縁スペーサを剥離することを特徴とする、上記(8)に記載のFRP構造体の製造方法。
なお、本発明において、空隙を有する基材とは、FRP構造体製造時に用いる強化繊維基材や、多孔質のスポンジ基材など、繊維間や表面に液状体が含浸することができる空間を有する物体をいう。
【0011】
また、液状体とは、樹脂、硬化中の樹脂、液体、ゲル(ジェリー)、スラリーなどをいう。
【0012】
樹脂としては、エポキシ、不飽和ポリエステル、フェノール、ビニルエステルなどの熱硬化性樹脂や、ナイロンやABS樹脂などの熱可逆性樹脂、およびそれら熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を混合したものを言う。
【0013】
絶縁スペーサとは、剥離可能な樹脂フィルムや樹脂板、樹脂繊維編物、樹脂繊維織物、樹脂繊維積層物、ガラス板、セラミックス板、離型布など、絶縁体で、かつ、空隙を有する基材や液状体に対して第1の電極を非接触に保つことができるものをいう。
【発明の効果】
【0014】

本発明によれば、液状体の含浸状況を簡単かつ確実にモニタリングできる。そして、本発明のモニタリング方法を用いてFRP構造体を生産する場合には、強化繊維基材に含浸する液状体が所定の位置に到達したことを簡単かつ確実にモニタリングすることが可能となるため、生産を安定にし、生産歩留まりの向上や品質向上が可能になり、また商品認可基準をより確実に満足することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に本発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る液状体の含浸状況のモニタリング方法を模式的に示す側面図、図2は図1の平面図であり、液状体1が、空隙を有する基材2の中を左から右に含浸していく状況を示している。空隙を有する基材2の上面(第1の面)側には電極3a(第1の電極)が3つ設けられているとともに、下面(第2の面)側には基材と同じ広さの電極3b(第2の電極)が設けられている。そして、各電極3aおよび電極3bは、電力投入を兼ねた電気的特性測定装置4に、回路状に接続されている。
【0016】
本発明においてはこのような回路を形成し、第1の電極および第2の電極の間に所定の電力を投入し、それら電極間の電気的特性の変化を測定することにより、液状体の含浸位置をモニタリングすることができる。その原理を説明するために、図1において液状体が未含浸であるI部分に設けた電極間の等価回路を、図3に示す。また、図1において液状体が含浸済であるII部分に設けた電極間の等価回路を、図4に示す。
【0017】
図3の等価回路は、第1と第2の電極間の等価抵抗21と、第1と第2の電極間の等価キャパシタンス22が並列に接続された構成になっている。また、図4の等価回路は、前記等価抵抗21と、第1と第2の電極間に液状体が含浸したときの等価キャパシタンス31とが並列に接続された構成になっている。すなわち、液状体が空隙を有する基材に含浸することで、例えば液状体の誘電率に応じて、等価キャパシタンスの静電容量が変化する。このように、等価キャパシタンスの静電容量の変化により等価回路全体の電気特性が変化するので、等価回路に電力を投入し、電気的特性を測定すれば液状体の含浸状況をモニタリングすることができる。
【0018】
このような本発明のモニタリング方法においては、例えば図5に示すように、上面(第1の面)側に設けた第1の電極3aと空隙を有する基材2との間に絶縁スペーサ12を設けることが好ましい。
図5において、液状体が未含浸であるIII部分に設けた電極間の等価回路を、図6に示す。また、図5において、液状体が含浸済であるIV部分に設けた電極間の等価回路を、図7に示す。図6の等価回路は、第1と第2の電極間の等価抵抗21と、第1と第2の電極間の等価キャパシタンス22とが並列に接続されたものに、絶縁スペーサの等価キャパシタンス23と、絶縁スペーサと前記基材との間の等価キャパシタンス24とが直列に接続された構成になっている。図7の等価回路は、前記等価抵抗21と第1と第2の電極間に液状体が含浸したときの等価キャパシタンス31とが並列に接続されたものに、絶縁スペーサの等価キャパシタンス23と、絶縁スペーサと前記基材との間に液状体が含浸したときの等価キャパシタンス32とが直列に接続された構成になっている。
【0019】
上述したように、通常であれば、等価キャパシタンス22、31の静電容量の変化により等価回路全体の電気特性が変化するので、等価回路に電力を投入し、電気的特性を測定することで液状体の含浸状況をモニタリングすることが可能である。
【0020】
しかしながら、空隙を有する基材2が炭素繊維など導電性の基材であるときは、図3と図4の等価回路において等価抵抗21が非常に小さくなるため、第1の電極と第2の電極の間が導通し、並列に接続された等価キャパシタンスでは等価回路全体の電気特性の変化に寄与せず、電気特性を測定することで液状体の含浸状況をモニタリングすることが可能でない場合がある。
【0021】
そこで、上述したように絶縁スペーサを用いることが好ましい。第1の電極3aと空隙を有する基材2との間に絶縁スペーサ12を設けることで、その第1の電極3aを基材2および液状体に対して非接触に保つことができ、その結果、空隙を有する基材2が導電性の基材であるときでも、図6と図7の等価回路において非常に小さい等価抵抗21に比較して、大きいインピーダンスの絶対値を持つ、直列に接続された等価キャパシタンス24が、絶縁スペーサ12と基材2との間に液状体が含浸したときの等価キャパシタンス32に変化するため、等価回路全体の電気特性の変化に寄与し、電気特性を測定することで液状体の含浸状況をモニタリングすることが可能である。
【0022】
前記絶縁スペーサとしては、剥離可能な樹脂フィルムや、樹脂板、樹脂繊維編物、樹脂繊維織物、樹脂繊維積層物、ガラス板、セラミックス板、離型布などで構成されたものを用いることができる。中でも、少なくとも電極に接触する部分が剥離可能な樹脂フィルムで構成されたものを用いることが好ましい。樹脂フィルムを用いる場合、その樹脂フィルムでキャビティーを形成することができ、その樹脂フィルムで構成された、基材を含むキャビティーを減圧すれば、大気圧との差圧により液状体を基材に含浸させることができる。したがって、従来のコストが高い金型を用いた成形法に比較して、低コストである金型レスの成形法を、FRPの製造に使うことが可能になる。
【0023】
また、FRP構造体を成形する場合に空隙を有する基材表面に電極を直接設置すると、成形後も電極が成形品に残留し、強度が落ちるなどの問題があったが、樹脂フィルムを絶縁スペーサーとして用い、かつ、成形後にその樹脂フィルムを電極と一緒に剥離すれば、確実に樹脂の含浸状況をモニタリングできるうえに電極による成型品の強度落ちといった問題を解決することができる。
【0024】
そして、本発明においては、特定の場所1箇所に一対の電極を設けて液状体の含浸状況をモニタリングしてもよいが、図1〜図3に示すように、空隙を有する基材に複数対の電極を設け、各対の電極間に構成される電気回路の電気的特性を測定することで広範囲にわたって液状体の含浸状況をモニタリングすることが可能となる。その場合、第1の電極と第2の電極とは対になっていればよいが、上記実施形態のように、複数個の第1の電極に対して第2の電極が1個であることが好ましい。第2の電極を1個にまとめることで、多数の電極を製作するコストを削減し、かつ、キャビティーとなる電極の位置合わせなどの手間を省けたり、設置にかかる工数も減らすことができる。なお、その場合、第2の電極の総数が第1の電極の総数よりも少なければよいが、図1〜3に示すように全ての第1の電極に対して1個の第2の電極で対をなすことが好ましい。
【0025】
また、本発明においては、複数個の第1の電極に対して絶縁スペーサーを1個とすることが好ましい。この場合も、絶縁スペーサの総数が第1の電極の総数よりも少なければよいが、図1〜3に示すように全ての第1の電極に対して1個の絶縁スペーサーで対をなすことが好ましい。全ての第1の電極に対して絶縁スペーサーを1個にするということは、上述したように、樹脂フィルムを用い、その樹脂フィルムでキャビティーを形成することができ、その樹脂フィルムで構成された基材を含むキャビティーを減圧すれば、大気圧との差圧により液状体を基材に含浸させることができる。したがって、従来のコストが高い金型を用いた成形法に比較して、低コストである金型レスの成形法を、FRPの製造に使うことが可能になる。
【0026】
このような本発明のモニタリング方法は、FRP構造体を製造するうえで好適に用いられる。すなわち、例えば下記のような工程において液状体である樹脂の含浸状況をモニタリングするにあたって用いられる。
・ ステンレス板の片面に炭素繊維基材からなる強化繊維基材を配置し、全体をバギングフィルムで覆いバギングフィルムで覆われた内部を真空にする。
・ バギングフィルムで覆う際に別に設けた注入口より液状体の樹脂を注入し、強化繊維基材に含浸させ、その後、樹脂を硬化させることで、FRP構造体を得ることができる。
【0027】
本発明によれば、液状体である樹脂の含浸状況、特に樹脂が所定の位置にきたことを、オンラインで容易に判断することができるので、含浸工程を瞬時に制御することができ、生産性を向上することが容易となる。そして、炭素繊維などの導電性基材への樹脂含浸プロセスにおいて、樹脂含浸による有意な電気的特性の変化を検出するために設けた絶縁スペーサを、樹脂硬化後に剥離すれば、最終製品であるFRP構造体には電極が残らないので、FRP構造体の生産性をより高めることができる。
【実施例】
【0028】
図5に示すように、FRP構造体製造時の樹脂含浸工程において、200mm×400mmの寸法の、厚さ1mmのアルミニウム板である電極3bを設置し、その上に、同じ寸法の炭素繊維織物(東レ(株)製、T700の炭素繊維を使用したUD基材。)を最終的なFRP構造体の体積に占める炭素繊維の割合が50%となるように24プライ積層した強化繊維基材(空隙を有する基材)を設置し、密封するようにバギングフィルム(絶縁スペーサ)を被せた。なお、図面では省略しているが、離型布および樹脂拡散媒体を基材とバギングフィルムの間に挟んだ。同様に、積層した基材の下側にも離型布を設け剥離を容易にし、さらにその下に樹脂拡散媒体を設けて、図5における左下から流入した樹脂が最初に最下層に流れ込んで樹脂溜まり形成することで下側から上側へ含浸するようにし、その後、左側から右側へ流動するようにし、その結果、樹脂が左下側から右上側へ含浸できるように調整した。
【0029】
次に、バギングフィルムの上から、図2に示すように、50mm×50mmの寸法の、厚さ1mmのアルミニウム板である電極3aを、それぞれ中心点が他の電極や、基材端から100mm離れるように、バギングフィルム表面に設置した。なお、この図では省略しているが、真空度を高めるために電極3aのさらに上側にはバギングフィルムをもう1枚被せ、二重バッグとした。
【0030】
その後、バギングした基材を減圧・加熱し、70℃で1時間保持した。横河HP製LFインピーダンスアナライザー(モデル4192A)である、電力投入および電気的特性測定装置4を、電極3a、3bに接続し、図2に示す電極3aを左から電極A、電極B、電極Cとして、左側から右側へエポキシ樹脂を流したとき、樹脂の含浸先端が電極A〜Cをそれぞれ通過したときの通過開始時刻、通過完了時刻を目視により確認した。この結果を、樹脂注入開始時間を0.0分として、表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
ここで、電極Aの位置の樹脂含浸が完了した後、電極Bおよび電極Cの位置で同時に通過開始、通過完了となっているが、これは図5の左下から含浸した樹脂の含浸先端が電極Aの位置を通過したあと、前記樹脂拡散媒体に形成した樹脂溜まりの作用により、下側から上側へ含浸する傾向が、左側から右側へ含浸する傾向より強くなった結果、電極Aを通過した後の領域には、樹脂が湧き出すように含浸したためである。
【0033】
一方、電気的特性としてインピーダンスの絶対値を電極A〜Cで測定した結果を、初期値を0%として、図8に示し、インピーダンスの絶対値(図8では|Z|と表記)のプロファイルから読み取った降下開始時刻、降下完了時刻を、樹脂注入開始時刻を0.0分として、表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
以上より、電極A〜Cでインピーダンスの絶対値である電気的特性が変化している間に、目視によっても図5における樹脂の含浸先端が電極A〜Cをそれぞれ通過し始めており、電気的特性の変化が完了する時刻に、目視によっても樹脂の含浸先端が電極を通過し終えていることが分かる。このように、電気的特性が変化することから、樹脂の含浸位置をモニタリングできる。
【0036】
樹脂含浸完了後は、50分間のブリード(樹脂の供給は止めるが、真空引きは続けること)を行い、その後130℃に昇温し、130℃で2時間保持して、エポキシ樹脂を硬化させた。室温までオーブンを降温した後、硬化した基材を取り出し、バギングフィルムを電極と共に剥離することで、意匠性に優れたFRP構造体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
上述した本発明の液状体の含浸状況のモニタリング方法は、FRP構造体の製造に限らず、射出成形による樹脂の成形のような分野においても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】

【図1】本発明に係る液状体の含浸状態のモニタリング方法の一実施形態を示す模式図である。
【図2】図1の一部平面図である。
【図3】図1におけるI部の等価な電気回路図である。
【図4】図1におけるII部の等価な電気回路図である。
【図5】本発明に係る液状体の含浸状態のモニタリング方法の他の実施形態を示す模式図である。
【図6】図5におけるIII部の等価な電気回路図である。
【図7】図5におけるIV部の等価な電気回路図である。
【図8】実施例における、樹脂注入時刻からの経過時間と、初期のインピーダンスの絶対値からの変化の割合との関係を示した線図である。
【符号の説明】
【0039】

1 液状体
2 空隙を有する基材
3a 第1の面に設けた第1の電極
3b 第2の面に設けた第2の電極
4 電力投入および電気特性測定装置
11 導電性の空隙を有する基材
12 絶縁スペーサ
21 第1と第2の電極間の等価抵抗
22 第1と第2の電極間の等価キャパシタンス
23 絶縁スペーサの等価キャパシタンス
24 絶縁スペーサと空隙を有する基材との間の等価キャパシタンス
31 第1の電極と第2の電極との間に液状体が含浸したときの等価キャパシタンス
32 絶縁スペーサと空隙を有する基材との間に液状体が含浸したときの等価キャパシタンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙を有する基材への液状体の含浸状況をモニタリングする、液状体の含浸状況のモニタリング方法であって、該基材の第1の面の側に第1の電極を設け、該第1の面と異なる第2の面の側に第2の電極を設け、前記第1および第2の電極の間に所定の電力を投入し、前記第1および第2の電極間に構成される電気回路の電気的特性を測定することにより、該液状体の含浸位置をモニタリングすることを特徴とする、液状体の含浸状況のモニタリング方法。
【請求項2】
前記第1の電極を前記基材の第1の面の側に複数個設け、該複数個の第1の電極それぞれにおいて電気的特性を測定することを特徴とする、請求項1に記載の液状体の含浸状況のモニタリング方法。
【請求項3】
前記複数個の第1の電極に対して前記第2の電極を1個とする、請求項2に記載の液状体の含浸状況のモニタリング方法。
【請求項4】
前記第1の電極と前記基材との間に絶縁スペーサを設け、前記第1の電極を前記基材および前記液状体に対して非接触に保ってモニタリングすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の液状体の含浸状況のモニタリング方法。
【請求項5】
前記基材の第1の面の側に絶縁スペーサを設け、該絶縁スペーサの前記基材とは反対側に複数個の前記第1の電極を設け、該複数個の第1の電極を前記基材および前記液状体に対して非接触に保ちながら該複数個の第1の電極それぞれにおいて電気的特性を測定することを特徴とする、請求項1に記載の液状体の含浸状況のモニタリング方法。
【請求項6】
前記複数個の第1の電極に対して前記第2の電極を1個とする、請求項5に記載の液状体の含浸状況のモニタリング方法。
【請求項7】
前記絶縁スペーサの少なくとも一部が、剥離可能な樹脂フィルムで構成されていることを特徴とする、請求項4〜6のいずれかに記載の液状体の含浸状況のモニタリング方法。
【請求項8】
強化繊維基材に液状体の樹脂を含浸させるFRP構造体の製造方法であって、請求項1〜7のいずれかに記載のモニタリング方法を実施し、このモニタリング結果に基づいて樹脂の含浸状態を判定し、含浸工程を制御することを特徴とするFRP構造体の製造方法。
【請求項9】
前記基材の第1の面の側に絶縁スペーサを設ける場合、前記樹脂の硬化後に該絶縁スペーサを剥離することを特徴とする、請求項8に記載のFRP構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−47067(P2007−47067A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233124(P2005−233124)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】