液状化防止構造
【課題】地震時に間隙水が発生したときに、より迅速に間隙水を周囲の地盤から分離することで液状化を回避できるようにした液状化防止構造を提供する。
【解決手段】間隙水を貯留可能な空隙を有し周囲から間隙水が流入可能な液状化防止層30を地中に埋設する。具体例の一つとして、空間を持つ樹脂製部材31が透水性シート32によって覆われた構造の液状化防止層30が道路10の下に当該道路10に沿うようにして所定距離に亘って埋設される。液状化が生じたときに間隙水は液状化防止層30の空間内に入り込む。それにより、道路面10が液状化するのを回避できる。
【解決手段】間隙水を貯留可能な空隙を有し周囲から間隙水が流入可能な液状化防止層30を地中に埋設する。具体例の一つとして、空間を持つ樹脂製部材31が透水性シート32によって覆われた構造の液状化防止層30が道路10の下に当該道路10に沿うようにして所定距離に亘って埋設される。液状化が生じたときに間隙水は液状化防止層30の空間内に入り込む。それにより、道路面10が液状化するのを回避できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時などにおいて周囲の土壌に液状化が生じたときに、その液状化の影響が地表面等に及ぶのを効果的に回避できるようにした液状化防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水(間隙水)で飽和した砂を多く含む砂質土や砂質地盤は、砂の粒子同士の剪断応力による摩擦によって地盤の安定を保っている。このような砂質地盤は、強い地震動を受けると短時間で体積を縮小しようとする。そのときに、水が逃げ切れずに間隙水の水圧が高くなり、その圧力が砂粒同士の押し合う圧力よりも大きくなると、地盤全体が比重の大きい液体の状態となる。この現象が、一般に、地盤の液状化と呼ばれている。このような地盤の液状化が発生すると、地表面の変状や、砂が噴出するような状況が発生する。
【0003】
そのような液状化が発生すると、道路面の変化による通交障害、埋設物(マンホールなど)の隆起による通交障害、さらには埋設管(下水管など)の破断および高さが変化したことによる流下不良、など生活面での多くの不具合が生じる。現在、道路あるいは軌道に対する液状化対策、すなわち周囲の地盤に液状化が生じたときに、その影響が道路あるいは軌道には及ばないようにする対策は、ほとんど提案がなされていない。特許文献1には、地中埋設物の浮力防止構造として、地震時に間隙水が透水層に流入した場合、透水層に作用する間隙水圧を低減し、透水層の液状化、さらには下水管およびマンホールの浮上を防止する技術が記載さているが、液状化の影響が道路や軌道に及ぶ場合での対策までは考察がなされていない。また、特許文献2には、建築物の人工地盤構造として、十分な沈下防止効果を持ち、かつ通水性に富む構造が開示されており、それにより、地震により液状化現象が発生した場合でも、不同沈下事故などを防止できる信頼性の高い建築物が提供されることが記載されている、しかし、ここでも、液状化の影響が道路や軌道に及ぶ場合の対策については、考察がなされていない。
【0004】
また、災害時の避難所となるべき場所(例えば、グランド、公園、大型駐車場など)に、液状化現象によって前記したような地表面の変状や砂の噴出現象が発生すると、避難場所として機能しなくなるので、そのような場所に対して液状化防止対策を施すことが求められる。そのための対策として、従来、液状化の可能性のある地盤内に礫材あるいは砕石のような透水性の大きい材料を排水材として埋設し、該排水材を介して地盤内の間隙水を排除する工法が行われている。この工法は平常時での目詰まりが生じやすく、その後は液状化防止効果が期待できなくなることから、特許文献3には、液状化の可能性のある地盤内に縦穴を掘削し、その中に外周面に多数の排水孔を有するパイプを挿入して、該パイプを介して間隙水を排水あるいはパイプ内に貯水するようにした地盤の液状化防止工法が記載されている。
【0005】
さらに、地盤中に埋設されている比重の小さい建造物等は、液状化した地盤から浮力を受けるようになり、地表面に浮き上がることが起こる。特許文献4には、そのような液状化が生じたときに、マンホールが浮き上がるのを防止するためのマンホールの浮き上がり防止構築構造が記載されており、そこでは、マンホールの管壁周囲に透水性の良好な礫材を設置することで、間隙水を上層の透水性舗装に逃がすようにしている。しかし、マンホール底部に生じる浮力については格別の措置がなされていない。また、地中に埋設された埋設物一般に対する浮き上がり防止対策については、現在、ほとんど提案がなされていない。
【0006】
一方、中小河川の排水能力を上回る規模の降雨が短期間に集中して生じたときに、河川からの溢水によって災害が生じるのを防止する目的で、地中に貯水槽や浸透槽を埋設して雨水の一部を一時的に当該貯水槽に貯水するようにした雨水処理施設が知られており、特許文献5や特許文献6には、そのような地中に埋設する貯水槽や浸透槽を構築するための空間を持つ樹脂製部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−332542号公報
【特許文献2】特許第4210312号公報
【特許文献3】特開昭63−89718号公報
【特許文献4】特開平8−165666号公報
【特許文献5】特開2010−229803号公報
【特許文献6】特開2009−24447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記したように、地震により大規模な液状化現象が発生した場合、実生活面に大きな不都合を生じさせる。本発明はそれを回避することを目的および課題としており、より具体的には、地震時に間隙水が発生したときに、より迅速に間隙水を周囲の地盤から分離することで液状化を回避できるようにした液状化防止構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による液状化防止構造は、間隙水を貯留可能な空隙を有し周囲から間隙水が流入可能な液状化防止層が地中に埋設されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、地震時などに地盤に液状化が発生して地盤の間隙水圧が上昇したときに、その水は、地中に埋設された周囲から間隙水が流入可能な液状化防止層内に浸入していく。それにより、本発明による液状化防止層の周囲部では発生した間隙水が有効に除去されることとなり、地盤の液状化は軽減される。
【0011】
本発明による液状化防止構造の一態様では、前記液状化防止層が道路下または軌道下に当該道路または軌道に沿うようにして埋設されていることを特徴とする。この態様では、地震時などに周囲の地盤に液状化が発生して地盤の間隙水圧が上昇したときに、その水は、道路下または軌道下に埋設された液状化防止層の空間内に浸入していく。それにより、少なくとも該液状化防止層の上部および周囲部では、発生した間隙水が有効に除去されることとなり、液状化が軽減される。そのために、道路および軌道は路線に沿った所定距離に亘って、液状化現象発生前の状態がほぼそのまま維持されることとなり、車両や列車が通行不能となるのを回避できる。すなわち、震災時等において緊急車両や列車が通行できる経路を確保することができるので、災害救助作業も円滑に行えるようになる。
【0012】
本発明による液状化防止構造の他の態様では、前記液状化防止層が平坦な土地領域の地表面から所定深さの地盤中に当該土地領域のほぼ全面積に亘って埋設されていることを特徴とする。この態様では、地震時の振動により地盤中に間隙水が生じたときに、その間隙水は地盤中に埋設された前記液状化防止層の空隙内に迅速に流入することができる。それにより、液状化の発生した地盤から間隙水を迅速に分離することが可能となり、地盤の液状化がそれ以上に進行するのを阻止することができる。したがって、一時的に地盤に液状化が発生しても、その影響が平坦な土地領域の地表面に現れるのを確実に回避することができ、例えば、平坦な土地領域が災害時に避難場所として指定されている領域である場合に、その地表面の平坦性を維持することができる。それにより、避難場所として機能が喪失するのを回避することができる。
【0013】
本発明による液状化防止構造のさらに他の態様では、前記液状化防止層が地中に埋設された埋設物の少なくとも底部領域の下方に設置されていることを特徴とする。この態様の液状化防止構造では、地震時などに埋設物の周囲の地盤に液状化が発生して地盤の間隙水圧が上昇したときに、その水は、埋設物の少なくとも底部領域の下方に設置された前記液状化防止層の空隙内に浸入していく。それにより、該液状化防止層の周囲部では発生した間隙水が有効に除去されることとなり、地盤の液状化は軽減される。そのために、液状化した地盤に起因して埋設物が受ける浮力は小さくなり、埋設物が浮き上がるのを効果的に阻止することができる。液状化防止層を、底部領域のみでなく埋設物の周囲の領域にも配置することにより、埋設物周囲の地盤の液状化を一層確実に阻止することができ、埋設物の浮き上がり防止効果はさらに向上する。
【0014】
本発明による液状化防止構造において、液状化防止層を構成する部材は、そこに作用する上載荷重に耐える強度を持つことを条件に任意の部材を用いることができる。一例として、前記特許文献5または6に記載のような空間を持つ樹脂製部材の複数枚を交互に直角に交差した姿勢で積層した後、あるいは筒状をなすブロック状の樹脂製部材等を適宜積み重ねることで液状化防止層とすることができる。この種の空間を持つ樹脂製部材は、軽量であることから重機を用いずに人力施工が可能であり、施工も容易となる。透水性シートとしては、水は透過するが周囲の土砂は透過することのない不織布を用いるが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地震時に間隙水が発生したときに、より迅速に間隙水を周囲の地盤から分離することで液状化を回避できるようにした液状化防止構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による液状化防止構造を施した片側2車線の道路の一例を上から見て示す概略図。
【図2】片側2車線の道路下に液状化防止層を埋設した状態を説明する図。
【図3】車道の中心線と道路下に埋設された液状化防止層との位置関係を説明する3つの図。
【図4】本発明による液状化防止構造を施した軌道の一例を説明する図。
【図5】液状化防止層を構成する空間を持つ樹脂製部材の一例を説明する図。
【図6】本発明による液状化防止構造を施した土地構造の一例を示す図であり、図6(a)は上方から見た図、図6(b)は図6(a)のb−b線に沿う断面図。
【図7】本発明による液状化防止構造を施した土地構造で用いる液状化防止層を示す断面図。
【図8】本発明による液状化防止構造を施した土地構造の他の例を示す図であり、図8(a)は上方から見た斜視図、図8(b)は図8(a)のb−b線に沿う断面図。
【図9】本発明による液状化防止構造を施した土地構造の2つの形態を示す断面図(図9(a)(b))とそこで用いる液状化防止構造体を示す断面図(図9(c))。
【図10】本発明による液状化防止構造を施した土地構造のさらに2つの形態を示す断面図(図10(a)(b))とそこで用いる液状化防止構造体の一部を示す断面図(図10(c))。
【図11】本発明による液状化防止構造を施した土地構造のさらに他の形態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施の形態に基づき説明する。
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態は、液状化防止層が道路下または軌道下に埋設されて構成された液状化防止構造であり、図1は、第1の実施の形態の液状化防止構造が施された道路の一例を上から見て示している。
【0018】
図1において、10は片側2車線の道路(車道)であり、道路の幅方向中央部には中央分離帯11が設けられている。登り車線10aおよび下り車線10bには、走行車線と追い越し車線との境界を示す境界線12が道路面に線引きされている。13は、各車線(登り車線および下り車線)での中央部を示す仮想線である。30は、道路下に埋設された液状化防止層であり、単に説明の都合から、登り車線10aと下り車線10bとでは、異なった態様で道路下に埋設された液状化防止層30(30a,30b)の群を示しているが、同じ態様ですべての液状化防止層30が埋設されていても差し支えない。
【0019】
登り車線10aでは、道路面に線引きされた境界線12の垂下位置が含まれるように、長さの長い液状化防止層30aの複数個が間隔をおいて道路(車道)の路線方向に沿って埋設されている。また、下り車線10bでは、走行車線の中央部である仮想線13の垂下位置が含まれるように、比較して長さの短い液状化防止層30bの複数個が、やはり適宜の間隔をおいて道路(車道)の路線方向に沿って埋設されている。図示のものにおいて、各液状化防止層30aと30bの横幅(道路横断方向での幅)は、1つの車線の道路幅よりもわずかに狭いが、もちろん、1車線分の横幅であってもよく、さらに広い横幅であってもよい。また、施工現場の状況によっては、異なる横幅の液状化防止層30が組み合わされていてもよい。いずれにしろ、液状化防止層30は、少なくとも、1.0m〜2.5mの横幅を備えることが好ましい。
【0020】
液状化防止層30の路線方向の長さも任意であり、制限はない。必要とされる路線方向距離を長さの長い1つの液状化防止層30で埋め込むようにしてもよいが、施工の容易性、特に道路のカーブしている箇所での施工の容易性を考慮すると、図1に示すように、長さの短い液状化防止層30の多数個を間隔をおいて埋設することが好ましい。後者では、各液状化防止層30の4周の側面から、液状化時に発生する間隙水が液状化防止層30内に流入することができることからも好ましい。
【0021】
図2は、本発明による液状化防止層30を片側2車線の道路下に埋設した状態を断面で示している。図2に示す例では、片側2車線道路の各車線の下に、各車線の中央部の垂下位置が含まれるようにして、液状化防止層30が道路の路線方向に沿って2列に埋設されている。図2において、11は中央分離帯、14は歩道である。
【0022】
車道面は、密粒度アスファルトで構成される表層21、祖粒度アスファルトで構成される基層22、粒度調整砕石で構成される上層路盤23、クラッシャランで構成される下層路盤24、とがこの順で積層している舗装部分20とされており、その下には路床25が、さらにその下には路体(現地盤)26が位置している。そして、図示の例において、前記液状化防止層30は、道路における前記下層路盤24より下の層、すなわち一般に砂質層であることが多い前記路床25の部分における下層路盤24に近接した位置に埋設されている。施工現場の状況によっては、路体(現地盤)26部分に一部が位置するようにして液状化防止層30が埋設される場合もある。
【0023】
液状化防止層30の全体形状は任意であり、特に制限はないが、好ましくは、図1および図2に示すように、平面視で矩形状であり、かつ垂直断面において厚みよりも横幅が大きい平板状であることが好ましい。その理由は、少ない施工コストでもって、道路表層部に発生する前記間隙水がより多く流入してくる液状化防止層30が得られることによる。
【0024】
液状化防止層30は、図5に一例を示すように空間を持つ樹脂製部材31を積み重ね、その全体を不織布のような透水性シート32で覆うことで形成される。この空間を持つ樹脂製部材31は、前記した特許文献5に記載されるものであり、下端が開放された箱状部35aの複数個が間隔を空けながらX方向に配列した箱列35が、X方向に直交するY方向に間隔を空けながら必要列数だけ配列した構成を基本的に備えている。必要な場合には、異なった大きさの複数個の樹脂製部材31を箱列(凸部からなる列)35の方向が同じ方向となるように寄せ集めて樹脂製部材31としてもよい。そして、樹脂製部材31の多数枚を、前記箱列(凸部からなる列)35の方向が交互に直角に交差した姿勢で上下方向に積み上げることにより、前記間隙水の流入空間を備えた本体部分が形成される。そして、前記のように、その全体を不織布のような透水性シート32で覆うことで液状化防止層30とされる。
【0025】
施工に当たっては、車道における前記液状化防止層30を埋設施工する部位を所定深さに掘削し、掘削面を均平化した後、前記した液状化防止層30を路線方向に沿って必要距離に埋め込み、その後、覆土して、表面の舗装を行う。それにより、本発明による道路での液状化防止構造が完成する。
【0026】
地震時の振動により、道路10の周囲に液状化現象が発生したとする。液状化により生じた間隙水は、埋設された液状化防止層30の周囲では、より圧力の低い箇所である液状化防止層30内の空間内に流入する。それにより、少なくとも液状化防止層30が埋設されている道路の上およびその周囲において、液状化によって路面が変化することや間隙水が路面に吹き出すことを防止することができる。前記したように、液状化防止層30は当該道路10における少なくとも1つの車線の中央部13の垂下位置が含まれるようにして路線方向に所定距離に亘って地中に埋設されており、周囲の地盤に液状化が生じても、少なくとも一車線幅の道路はほぼ現状を維持した状態で保持される。それにより、緊急用車両の通行路は確保されるので、円滑な災害救助作業を遂行することが可能となる。なお、間隙水が液状化防止層30内の空間に流入するのをより円滑化するために、液状化防止層30の空間内の空気を排出するための排気管(不図示)を、出口が地表面に達するようにして取り付けておくことはより好ましい。
【0027】
図3は、車線の中央部を示す仮想線13と道路下に埋設された液状化防止層30との3つの位置関係を示している。図3(a)では、液状化防止層30は、前記車線の中央部を示す仮想線13の垂下位置を含むもののやや図で右方向に変位した位置に埋設されている。図3(b)では、液状化防止層30は、前記車線の中央部を示す仮想線13の垂下位置をその中央に含むようにして埋設されている。図3(c)では、液状化防止層30は、前記車線の中央部を示す仮想線13の垂下位置を含むもののやや図で左方向に変位した位置に埋設されている。このような埋設状態は、平面視で矩形状の液状化防止層30を地中に埋設するときに、道路がカーブしている部分では起こりがちである。しかし、一車線幅よりもやや狭い横幅の液状化防止層30が、図3(a)〜(b)のいずれの態様で埋設されている場合であっても、またそれらが組み合わされた埋設態様であっても、液状化の発生時に、所定路線長に亘って、少なくとも一車線部の幅の道路(車道)は確実に確保されるので、緊急用車両の通行が不能となることはない。また、このことは液状化防止層30の埋設に高い精度を要求されないことを意味しており、結果として、現場での施工も容易化する。
【0028】
図4は、本発明による液状化防止構造を施した軌道の一例を示している。通常、軌道40の施工に当たっては、図示のように、現地盤41が所定深さに掘削され、その部分が砕石のような材料で埋め戻されて路盤42とされ、その上にバラストなどによる道床43が造られる。そして、その上に枕木44が配置されてレール45が敷設される。このような軌道40の構造においても、レール45下の路盤42と現地盤41との境界に近接した位置に、レール45幅よりも横幅の広い前記液状化防止層30を、レール45の下にかつレール45に沿い所定距離に亘って埋設しておくことで、軌道(レール45)の周囲の地盤に液状化が発生したときに生じる前記間隙水を効果的に液状化防止層30内に吸収することができる。それにより、軌道(レール45)の安定した状態は維持されることとなり、列車等の安定した走行は維持されるようになる。
【0029】
なお、図4では路盤42と現地盤41との境界を跨いで液状化防止層30の上半分が路盤42に埋設され、下半分が現地盤41に埋設されているが、液状化防止層30の下面が境界に接しており液状化防止層30の全体が路盤42に埋設されていても、液状化防止層30の上面が境界に接しており液状化防止層30の全体が現地盤41に埋設されていてもよい。
【0030】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態は、平坦な土地領域の地表面から所定深さの地盤中に当該土地領域のほぼ全面積に亘って埋設されている液状化防止構造であり、「平坦な土地領域」が学校の校庭である場合を例として、以下に説明する。
【0031】
図6において、ある区域aが学校の区域として用いられており、その一部に学校の建物100が建てられている。この例において、建物100の前方領域200は校庭として利用されている。校庭として利用される領域200は、この区域aでの平坦な土地領域であり、5000m2程度の広い面積であるのが普通である。このような校庭領域200は平坦な土地領域であることから、災害時における住民の避難場所として指定されることが多い。
【0032】
この校庭として利用される平坦な土地領域200の地表面から所定深さ(例えば、1〜2mの深さ)だけ下がった地盤中に、本発明でいう液状化防止層30が埋設されている。液状化防止層30は全体としては平板状のものであり、地表面とほぼ平行状態をなすようにして、前記領域200のほぼ全面に亘って地盤中に埋設されている。
【0033】
図7は、該液状化防止層30の一例を詳細に示しており、この例では、図5に一例を示したような空隙を持つ樹脂製部材31を例えば0.5〜2mm程度の高さまで積み重ね、その全体を不織布のような透水性シート32で覆うことで形成される。具体的には、この形態で用いる液状化防止層30は、第1の実施の形態で用いた液状化防止層30と同じものであってよく、詳細な説明は省略する。なお、ここでも、樹脂製部材31は液状化防止層30を構成する構成部材の一例であって、これに限らない。水を貯留可能な空隙を有し周囲から間隙水が流入可能な部材であれば、任意の部材を用いることができる。
【0034】
施工に当たっては、前記平坦な土地領域200の区画を所定深さに掘削し、掘削面を均平化した後、前記した液状化防止層30を設置する。設置した後、従来法により埋め戻しを行い、かつ地表面の整地を行う。それにより、本発明による第2の形態の液状化防止構造が完成する。
【0035】
上記の構成を備えた液状化防止構造(土地構造)では、地震により、埋め込んだ液状化防止層30の周囲の地盤が振動し、液状化の原因となる間隙水が発生したときに、間隙水はより圧力の低い箇所である液状化防止層30内の空隙内に迅速に流入する。それにより、少なくとも液状化防止層30が埋設されている周囲では、地盤が液状化するのを低減することができ、間隙水に起因して地表面に変状が生じたり、地表面から砂が噴出したりするのを阻止することができる。そのために、液状化防止層30を埋め込んだ平坦な土地領域200の地表面はその平坦さを維持することが可能となり、そこが災害時に避難所として指定されている場合に、避難場所として機能が喪失するのを回避することができる。
【0036】
図8は、本発明による第2の形態の液状化防止構造を施した土地構造の他の例を示している。ここでは、液状化防止層30が2以上の分割構造体3x・・で構成されており、各分割構造体3x・・はほぼ等しい隙間pを置いた状態で平坦な土地領域200の地盤中のほぼ同じ深さ位置に埋設されている点で、図6に示した本発明による第2の形態の液状化防止構造(土地構造)と相違している。この形態では、2以上の分割構造体3xが相互の間に隙間pを保持した状態で配置されることで、液状化防止層30全体としての地盤との接触面積を増やすことができる。それにより、周囲の地盤中の間隙水が液状化防止層30内に一層流入し易くなり、周囲の地盤の液状化の抑制効果をより高めることができる。
【0037】
なお、間隙水が液状化防止層30内の空隙に流入するのをより円滑化するために、液状化防止層30の空隙内の空気を排出するための排気管(不図示)を、出口が地表面に達するようにして取り付けておくことはより好ましい。また、通常時においても、雨水が地盤中に浸透することにより、設置した液状化防止層30内の空隙に雨水が入り込むことは起こり得る。しかし、入り込んだ雨水は時間とともに地盤中に浸透することで排出され、通常は、空隙内は無水の状態となっているので、地震時での地盤の液状化には十分に対処することができる。
【0038】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態は、本発明による液状化防止構造であって、前記液状化防止層30が地中に埋設された埋設物の少なくとも底部領域の下方に設置されていることを特徴とする液状化防止構造である。
【0039】
図9(a)(b)は、第3の液状化防止構造の2つの例を断面で示している。図9(a)において、300は地表面であり、地表面下の地盤中には、例えばコンクリート作りの地下貯水槽である埋設物400が埋設されている。埋設物400の下には、当該埋設物400の底面部のほぼ全面を覆うようにして、液状化防止層30が設置されている。図9(c)に該液状化防止層30の一例を示すように、この液状化防止層30は、第1および第2の実施の形態で説明したと同様なものであってよく、図5に一例を示すように空隙を持つ樹脂製部材31を積み重ね、その全体を不織布のような透水性シート32で覆うことで形成される。なお、ここでも、樹脂製部材31は液状化防止層30を構成する構成部材の一例であって、これに限らない。水を貯留可能な空隙を有し周囲から間隙水が流入可能な部材であれば、任意の部材を用いることができる。
【0040】
施工に当たっては、前記埋設物400を埋設施工すべき場所を所定深さに掘削し、掘削面を均平化した後、前記した液状化防止層30を埋め込み、その上に、従来法により埋設物400を構築する。構築後、埋め戻しと地表面300の整地を行う。それにより、本発明による第3の形態の液状化防止構造が完成する。
【0041】
地震時の振動により、埋設物400の周囲の地盤に液状化が発生したとする。液状化により生じた間隙水は、埋設された液状化防止層30の周囲では、より圧力の低い箇所である液状化防止層30内の空隙内に流入する。それにより、少なくとも液状化防止層30が埋設されている周囲では地盤が液状化するのが低減される。それにより、間隙水に起因して埋設物400に生じる浮力は作用しないか、作用するとしても極めて小さくなり、結果として、埋設物400の浮き上がりを防止できる。
【0042】
図9(b)は、第3の液状化防止構造のさらに他の形態を示す図9(a)に相当する図であり、液状化防止層30は、埋設物400の底部との間に一定の距離をおいて設置されており、その間は、地盤の土壌あるいは別途用意した砂質土または砕石350で埋められている点で、図9(a)に示した液状化防止構造と相違している。この形態の液状化防止構造は、液状化防止層30の上面側に土壌や採石の層350が存在しており、間隙水はそこを介して液状化防止層30の上面側からも内部空隙に流入することができる。間隙水の流入面積が増大することで、より多くの間隙水を液状化防止層30内に取り込むことができ、結果として、埋設物400に作用する浮力を一層低減することができる。
【0043】
図10(a)は、第3の形態の液状化防止構造のさらに他の例を示している。この例では、液状化防止層30が、埋設物400の底部ばかりでなく周囲の側壁部分をも覆っている点で、図9(a)に示した液状化防止構造と相違している。この場合、液状化防止層30は、水平部分30Hと垂直部分30Pとで構成されることとなるが、水平部分30Hには、図9(c)に示した形態のものをそのまま用いることができる。垂直部分30Pには、図10(c)に示すように、より横幅の狭い樹脂製部材31を多段に積み上げたものを不織布のような透水性シート32で覆うことで形成したものを用いる。もちろん、水平部分30Hと垂直部分30Pとを一体に形成した液状化防止層30であってもよい。
【0044】
この形態の液状化防止構造では、埋設物400の底面近傍および4周の側面近傍の地盤で発生する間隙水を、液状化防止層30内に流入させることができるので、液状化発生時に、間隙水に起因して埋設物400に生じる浮力を一層確実に低減できる。
【0045】
図10(b)は、第3の形態の液状化防止構造のさらに他の例を示している。ここでは、液状化防止層30が埋設物400の底部および4周の側面との間に一定の距離をおいて設置されていて、その間は、地盤の土壌あるいは別途用意した砂質土または砕石からなる層350で埋められている点で、図10(a)に示した液状化防止構造と相違している。この形態の液状化防止構造では、液状化防止層30の内面側のすべてに土壌や採石の層350が存在しており、間隙水はそこを介して液状化防止層30の上面側および4周の側面側から内部空隙に流入する。間隙水の流入面積が増大することで、より多くの間隙水を液状化防止層30内に取り込むことができ、埋設物400に作用する浮力を一層低減することが可能となる。
【0046】
図11は、第3の形態の液状化防止構造のさらに他の例を示している。ここでは、液状化防止層30は、2以上(図示のものでは4個)の分割構造体3x・・で構成されており、各分割構造体3x・・は隙間pを置いた状態で埋設物400の底部領域の下方に設置されている点で、図9(b)に示した液状化防止構造と相違している。この形態の液状化防止構造では、2以上の分割構造体3xが相互の間に隙間pを保持した状態で配置されることで、液状化防止層30全体としての地盤との接触面積を増やすことができる。それにより、周囲の地盤中の間隙水が液状化防止層30内に流入し易くなり、液状化の抑制効果をより高めることができる。なお、図示しないが、液状化防止層30を2以上の分割構造体3x・・で構成する態様は、上記した図9(b)、図10(a)(b)に示した液状化防止構造にも適用できる。
【0047】
なお、第3の形態の液状化防止構造においても、第2の形態の液状化防止構造の場合と同様、間隙水が液状化防止層30内の空隙に流入するのをより円滑化するために、液状化防止層30の空隙内の空気を排出するための排気管(不図示)を、出口が地表面300に達するようにして取り付けておくことはより好ましい。また、通常時においても、雨水が地盤中に浸透することにより、設置した液状化防止層30内の空隙に雨水が入り込むことは起こり得る。しかし、入り込んだ雨水は時間とともに地盤中に浸透することで排出され、通常時は、空隙内は無水の状態となっており、地震時での地盤の液状化には十分に対処することができる。
【0048】
なお、図1〜図5に基づき説明した第1の形態の液状化防止構造において、液状化防止層30は、前記したように、目的とする路線長の全長にわたり、1つの長尺状のものを道路または軌道に沿うようにして埋設するようにしてもよく、作業の容易性の観点から、長さの短い2個以上の液状化防止層を一定間隔をおいて道路または軌道に沿うようにして埋設するようにしてもよい。
【0049】
また、液状化防止層30は、垂直断面において厚みよりも横幅が大きい形状であることが好ましい。第1の形態の液状化防止構造において、地表面に近い部分に発生する間隙水が液状化防止層30内に浸入できるようにすれば、所期の目的は達成可能であり、上記の形状の液状化防止層とすることにより、少ない材料費と少ない施工費でもって、所期の目的を達成可能な液状化防止構造を構築することができる。
【0050】
また、前記液状化防止層30は、1つの車線の中央部の垂下位置が含まれるようにして地中に埋設されていること、前記液状化防止層30は当該道路の一車線分の横幅を有することは好ましい態様である。
【0051】
この態様では、曲がりのある道路においても液状化防止層の埋設施工を容易化できるとともに、道路周囲の地盤に液状化が発生したときに、少なくとも一車線分の道幅の車道を全路線長に亘りほぼ連続状に確保することができる。それにより、多くの施工費用をかけることなく、災害時に緊急用車両が通過するのに必要な最小限の車道を確保することができる。より具体的には、前記液状化防止層30の横幅を少なくとも1.0m〜2.5mの幅で確保することで、災害時の緊急用車両に対する車道を確保することができる。もちろん、費用が十分であれば、複数車線の道路において、2車線あるいは3車線分の幅にわたる横幅の液状化防止層を道路に沿って埋設することで、液状化時に、より広い幅の車道を確保することができる。
【0052】
好ましい態様では、前記液状化防止層30は当該道路における路盤層より下の層であって、該路盤層に近接した位置に埋設される。より具体的な態様では、当該道路は路盤層の下に砂質層を有しており、前記液状化防止層は前記砂質層に埋設されている。
【0053】
第1の形態の液状化防止構造において、液状化防止層30の一部が路盤(上層路盤および下層路盤)内に位置する場合には、路盤の領域においては上方からの荷重が十分に分散されないために、液状化防止層に大きな集中荷重が掛かる恐れがあり、破損を招くので好ましくない。また、路盤は主に砕石層であり上記した液状化現象(間隙水)は発生しないので、路盤内に位置する液状化防止層30の部分は無駄な部分となる。液状化防止層30を道路における路盤層より下の層であって、路盤層に近接した位置に埋設することにより、それらの不都合を解消した液状化防止層が得られる。当該道路が路盤層の下に砂質層を有している場合には、液状化防止層を当該砂質層内に埋設することにより、一層確実に液状化抑制効果を達成することができる。
【0054】
第1の形態の液状化防止構造において、前記液状化防止層の横幅は当該軌道の横幅より広いことは好ましい。それにより、軌道の周囲の土壌に液状化が生じても、当該軌道に液状化が及ぶのを効果的に回避することができる。また、軌道の場合、現地盤の上に路盤が構築され、その上にバラストなどの道床が施工され、その上に枕木を配置してレール(軌道)を敷設するのが一般的であるが、この場合には、前記液状化防止層30は、当該軌道下の路盤と現地盤との境界に近接した位置に埋設されていることが好ましい。この態様により、液状化防止層の埋設状態が安定すると共に、軌道周囲の地盤が液状化したときに生じる間隙水を効果的に液状化防止層内に吸収することができる。
【0055】
さらに、図6〜図8に基づき説明した第2の形態の液状化防止構造において、第2の形態の液状化防止構造を施す平坦な土地領域には、例として、各種のグランド、テニスコート、学校の校庭、公園の広場、大型の駐車場などを挙げることができる。平坦な土地領域の面積に特に制限はないが、液状化対策を施す趣旨からいって、100m2程度以上の広い面積を持つ領域であることが望ましい。また、液状化防止層30を埋設する深さは、1〜2m程度であることが、液状化阻止には特に効果的である。
【0056】
さらに、図9〜図11に基づき説明した第3の形態の液状化防止構造において、対象となる埋設物に制限はない。例として、地下室、地下タンク、地下浄化槽などが挙げられる。コンクリート構造物が一般であるが、これに限らない。また、全部が地中に埋設しているものはもちろん、主要部分が地中に埋設しており一部が地上に露出しているようなもの含まれる。
【0057】
第3の形態の液状化防止構造において、前記したように、前記液状化防止層30は埋設物400の少なくとも底部に接して設置されていてもよく、埋設物の少なくとも底部との間に好ましくは砂質土または砕石の層を挟んで設置されていてもよい。前者の態様では、液状化防止層が埋設物と接している領域部分は間隙水が流入する領域として機能しない。後者の態様では、液状化防止層と埋設物との間に、好ましくは砂質土または砕石である層が存在するので、該層を通して周囲の地盤中の間隙水が液状化防止構造体内に流入することできる利点がある。
【0058】
また、前記のように、液状化防止層30は2以上の分割構造体3xで構成され、各分割構造体3xは隙間を置いた状態で埋設物の少なくとも底部領域の下方に設置されていてもよい。この形態では、2以上の分割構造体が相互の間に隙間を保持した状態で配置されることで、液状化防止構造体と地盤との接触面積を増やすことができ、周囲の地盤中の間隙水が液状化防止構造体内に流入し易くなる。それにより、液状化の抑制効果をより高めることができる。
【符号の説明】
【0059】
10…道路(車道)、
11…中央分離帯、
12…走行車線と追い越し車線との境界を示す境界線、
13…各車線での中央部を示す仮想線、
20…舗装部分、
21…表層、
22…基層、
23…上層路盤
24…下層路盤、
25…路床、
26…路体(現地盤)、
30…液状化防止層、
31…空間を持つ樹脂製部材、
32…透水性シート、
40…軌道、
41…現地盤、
42…路盤、
43…道床、
44…枕木、
45…レール、
a…ある区域
100…建物(学校)、
200…平坦な土地領域(校庭)、
300…地表面、
400…地中埋設物。
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時などにおいて周囲の土壌に液状化が生じたときに、その液状化の影響が地表面等に及ぶのを効果的に回避できるようにした液状化防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水(間隙水)で飽和した砂を多く含む砂質土や砂質地盤は、砂の粒子同士の剪断応力による摩擦によって地盤の安定を保っている。このような砂質地盤は、強い地震動を受けると短時間で体積を縮小しようとする。そのときに、水が逃げ切れずに間隙水の水圧が高くなり、その圧力が砂粒同士の押し合う圧力よりも大きくなると、地盤全体が比重の大きい液体の状態となる。この現象が、一般に、地盤の液状化と呼ばれている。このような地盤の液状化が発生すると、地表面の変状や、砂が噴出するような状況が発生する。
【0003】
そのような液状化が発生すると、道路面の変化による通交障害、埋設物(マンホールなど)の隆起による通交障害、さらには埋設管(下水管など)の破断および高さが変化したことによる流下不良、など生活面での多くの不具合が生じる。現在、道路あるいは軌道に対する液状化対策、すなわち周囲の地盤に液状化が生じたときに、その影響が道路あるいは軌道には及ばないようにする対策は、ほとんど提案がなされていない。特許文献1には、地中埋設物の浮力防止構造として、地震時に間隙水が透水層に流入した場合、透水層に作用する間隙水圧を低減し、透水層の液状化、さらには下水管およびマンホールの浮上を防止する技術が記載さているが、液状化の影響が道路や軌道に及ぶ場合での対策までは考察がなされていない。また、特許文献2には、建築物の人工地盤構造として、十分な沈下防止効果を持ち、かつ通水性に富む構造が開示されており、それにより、地震により液状化現象が発生した場合でも、不同沈下事故などを防止できる信頼性の高い建築物が提供されることが記載されている、しかし、ここでも、液状化の影響が道路や軌道に及ぶ場合の対策については、考察がなされていない。
【0004】
また、災害時の避難所となるべき場所(例えば、グランド、公園、大型駐車場など)に、液状化現象によって前記したような地表面の変状や砂の噴出現象が発生すると、避難場所として機能しなくなるので、そのような場所に対して液状化防止対策を施すことが求められる。そのための対策として、従来、液状化の可能性のある地盤内に礫材あるいは砕石のような透水性の大きい材料を排水材として埋設し、該排水材を介して地盤内の間隙水を排除する工法が行われている。この工法は平常時での目詰まりが生じやすく、その後は液状化防止効果が期待できなくなることから、特許文献3には、液状化の可能性のある地盤内に縦穴を掘削し、その中に外周面に多数の排水孔を有するパイプを挿入して、該パイプを介して間隙水を排水あるいはパイプ内に貯水するようにした地盤の液状化防止工法が記載されている。
【0005】
さらに、地盤中に埋設されている比重の小さい建造物等は、液状化した地盤から浮力を受けるようになり、地表面に浮き上がることが起こる。特許文献4には、そのような液状化が生じたときに、マンホールが浮き上がるのを防止するためのマンホールの浮き上がり防止構築構造が記載されており、そこでは、マンホールの管壁周囲に透水性の良好な礫材を設置することで、間隙水を上層の透水性舗装に逃がすようにしている。しかし、マンホール底部に生じる浮力については格別の措置がなされていない。また、地中に埋設された埋設物一般に対する浮き上がり防止対策については、現在、ほとんど提案がなされていない。
【0006】
一方、中小河川の排水能力を上回る規模の降雨が短期間に集中して生じたときに、河川からの溢水によって災害が生じるのを防止する目的で、地中に貯水槽や浸透槽を埋設して雨水の一部を一時的に当該貯水槽に貯水するようにした雨水処理施設が知られており、特許文献5や特許文献6には、そのような地中に埋設する貯水槽や浸透槽を構築するための空間を持つ樹脂製部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−332542号公報
【特許文献2】特許第4210312号公報
【特許文献3】特開昭63−89718号公報
【特許文献4】特開平8−165666号公報
【特許文献5】特開2010−229803号公報
【特許文献6】特開2009−24447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記したように、地震により大規模な液状化現象が発生した場合、実生活面に大きな不都合を生じさせる。本発明はそれを回避することを目的および課題としており、より具体的には、地震時に間隙水が発生したときに、より迅速に間隙水を周囲の地盤から分離することで液状化を回避できるようにした液状化防止構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による液状化防止構造は、間隙水を貯留可能な空隙を有し周囲から間隙水が流入可能な液状化防止層が地中に埋設されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、地震時などに地盤に液状化が発生して地盤の間隙水圧が上昇したときに、その水は、地中に埋設された周囲から間隙水が流入可能な液状化防止層内に浸入していく。それにより、本発明による液状化防止層の周囲部では発生した間隙水が有効に除去されることとなり、地盤の液状化は軽減される。
【0011】
本発明による液状化防止構造の一態様では、前記液状化防止層が道路下または軌道下に当該道路または軌道に沿うようにして埋設されていることを特徴とする。この態様では、地震時などに周囲の地盤に液状化が発生して地盤の間隙水圧が上昇したときに、その水は、道路下または軌道下に埋設された液状化防止層の空間内に浸入していく。それにより、少なくとも該液状化防止層の上部および周囲部では、発生した間隙水が有効に除去されることとなり、液状化が軽減される。そのために、道路および軌道は路線に沿った所定距離に亘って、液状化現象発生前の状態がほぼそのまま維持されることとなり、車両や列車が通行不能となるのを回避できる。すなわち、震災時等において緊急車両や列車が通行できる経路を確保することができるので、災害救助作業も円滑に行えるようになる。
【0012】
本発明による液状化防止構造の他の態様では、前記液状化防止層が平坦な土地領域の地表面から所定深さの地盤中に当該土地領域のほぼ全面積に亘って埋設されていることを特徴とする。この態様では、地震時の振動により地盤中に間隙水が生じたときに、その間隙水は地盤中に埋設された前記液状化防止層の空隙内に迅速に流入することができる。それにより、液状化の発生した地盤から間隙水を迅速に分離することが可能となり、地盤の液状化がそれ以上に進行するのを阻止することができる。したがって、一時的に地盤に液状化が発生しても、その影響が平坦な土地領域の地表面に現れるのを確実に回避することができ、例えば、平坦な土地領域が災害時に避難場所として指定されている領域である場合に、その地表面の平坦性を維持することができる。それにより、避難場所として機能が喪失するのを回避することができる。
【0013】
本発明による液状化防止構造のさらに他の態様では、前記液状化防止層が地中に埋設された埋設物の少なくとも底部領域の下方に設置されていることを特徴とする。この態様の液状化防止構造では、地震時などに埋設物の周囲の地盤に液状化が発生して地盤の間隙水圧が上昇したときに、その水は、埋設物の少なくとも底部領域の下方に設置された前記液状化防止層の空隙内に浸入していく。それにより、該液状化防止層の周囲部では発生した間隙水が有効に除去されることとなり、地盤の液状化は軽減される。そのために、液状化した地盤に起因して埋設物が受ける浮力は小さくなり、埋設物が浮き上がるのを効果的に阻止することができる。液状化防止層を、底部領域のみでなく埋設物の周囲の領域にも配置することにより、埋設物周囲の地盤の液状化を一層確実に阻止することができ、埋設物の浮き上がり防止効果はさらに向上する。
【0014】
本発明による液状化防止構造において、液状化防止層を構成する部材は、そこに作用する上載荷重に耐える強度を持つことを条件に任意の部材を用いることができる。一例として、前記特許文献5または6に記載のような空間を持つ樹脂製部材の複数枚を交互に直角に交差した姿勢で積層した後、あるいは筒状をなすブロック状の樹脂製部材等を適宜積み重ねることで液状化防止層とすることができる。この種の空間を持つ樹脂製部材は、軽量であることから重機を用いずに人力施工が可能であり、施工も容易となる。透水性シートとしては、水は透過するが周囲の土砂は透過することのない不織布を用いるが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地震時に間隙水が発生したときに、より迅速に間隙水を周囲の地盤から分離することで液状化を回避できるようにした液状化防止構造が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による液状化防止構造を施した片側2車線の道路の一例を上から見て示す概略図。
【図2】片側2車線の道路下に液状化防止層を埋設した状態を説明する図。
【図3】車道の中心線と道路下に埋設された液状化防止層との位置関係を説明する3つの図。
【図4】本発明による液状化防止構造を施した軌道の一例を説明する図。
【図5】液状化防止層を構成する空間を持つ樹脂製部材の一例を説明する図。
【図6】本発明による液状化防止構造を施した土地構造の一例を示す図であり、図6(a)は上方から見た図、図6(b)は図6(a)のb−b線に沿う断面図。
【図7】本発明による液状化防止構造を施した土地構造で用いる液状化防止層を示す断面図。
【図8】本発明による液状化防止構造を施した土地構造の他の例を示す図であり、図8(a)は上方から見た斜視図、図8(b)は図8(a)のb−b線に沿う断面図。
【図9】本発明による液状化防止構造を施した土地構造の2つの形態を示す断面図(図9(a)(b))とそこで用いる液状化防止構造体を示す断面図(図9(c))。
【図10】本発明による液状化防止構造を施した土地構造のさらに2つの形態を示す断面図(図10(a)(b))とそこで用いる液状化防止構造体の一部を示す断面図(図10(c))。
【図11】本発明による液状化防止構造を施した土地構造のさらに他の形態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施の形態に基づき説明する。
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態は、液状化防止層が道路下または軌道下に埋設されて構成された液状化防止構造であり、図1は、第1の実施の形態の液状化防止構造が施された道路の一例を上から見て示している。
【0018】
図1において、10は片側2車線の道路(車道)であり、道路の幅方向中央部には中央分離帯11が設けられている。登り車線10aおよび下り車線10bには、走行車線と追い越し車線との境界を示す境界線12が道路面に線引きされている。13は、各車線(登り車線および下り車線)での中央部を示す仮想線である。30は、道路下に埋設された液状化防止層であり、単に説明の都合から、登り車線10aと下り車線10bとでは、異なった態様で道路下に埋設された液状化防止層30(30a,30b)の群を示しているが、同じ態様ですべての液状化防止層30が埋設されていても差し支えない。
【0019】
登り車線10aでは、道路面に線引きされた境界線12の垂下位置が含まれるように、長さの長い液状化防止層30aの複数個が間隔をおいて道路(車道)の路線方向に沿って埋設されている。また、下り車線10bでは、走行車線の中央部である仮想線13の垂下位置が含まれるように、比較して長さの短い液状化防止層30bの複数個が、やはり適宜の間隔をおいて道路(車道)の路線方向に沿って埋設されている。図示のものにおいて、各液状化防止層30aと30bの横幅(道路横断方向での幅)は、1つの車線の道路幅よりもわずかに狭いが、もちろん、1車線分の横幅であってもよく、さらに広い横幅であってもよい。また、施工現場の状況によっては、異なる横幅の液状化防止層30が組み合わされていてもよい。いずれにしろ、液状化防止層30は、少なくとも、1.0m〜2.5mの横幅を備えることが好ましい。
【0020】
液状化防止層30の路線方向の長さも任意であり、制限はない。必要とされる路線方向距離を長さの長い1つの液状化防止層30で埋め込むようにしてもよいが、施工の容易性、特に道路のカーブしている箇所での施工の容易性を考慮すると、図1に示すように、長さの短い液状化防止層30の多数個を間隔をおいて埋設することが好ましい。後者では、各液状化防止層30の4周の側面から、液状化時に発生する間隙水が液状化防止層30内に流入することができることからも好ましい。
【0021】
図2は、本発明による液状化防止層30を片側2車線の道路下に埋設した状態を断面で示している。図2に示す例では、片側2車線道路の各車線の下に、各車線の中央部の垂下位置が含まれるようにして、液状化防止層30が道路の路線方向に沿って2列に埋設されている。図2において、11は中央分離帯、14は歩道である。
【0022】
車道面は、密粒度アスファルトで構成される表層21、祖粒度アスファルトで構成される基層22、粒度調整砕石で構成される上層路盤23、クラッシャランで構成される下層路盤24、とがこの順で積層している舗装部分20とされており、その下には路床25が、さらにその下には路体(現地盤)26が位置している。そして、図示の例において、前記液状化防止層30は、道路における前記下層路盤24より下の層、すなわち一般に砂質層であることが多い前記路床25の部分における下層路盤24に近接した位置に埋設されている。施工現場の状況によっては、路体(現地盤)26部分に一部が位置するようにして液状化防止層30が埋設される場合もある。
【0023】
液状化防止層30の全体形状は任意であり、特に制限はないが、好ましくは、図1および図2に示すように、平面視で矩形状であり、かつ垂直断面において厚みよりも横幅が大きい平板状であることが好ましい。その理由は、少ない施工コストでもって、道路表層部に発生する前記間隙水がより多く流入してくる液状化防止層30が得られることによる。
【0024】
液状化防止層30は、図5に一例を示すように空間を持つ樹脂製部材31を積み重ね、その全体を不織布のような透水性シート32で覆うことで形成される。この空間を持つ樹脂製部材31は、前記した特許文献5に記載されるものであり、下端が開放された箱状部35aの複数個が間隔を空けながらX方向に配列した箱列35が、X方向に直交するY方向に間隔を空けながら必要列数だけ配列した構成を基本的に備えている。必要な場合には、異なった大きさの複数個の樹脂製部材31を箱列(凸部からなる列)35の方向が同じ方向となるように寄せ集めて樹脂製部材31としてもよい。そして、樹脂製部材31の多数枚を、前記箱列(凸部からなる列)35の方向が交互に直角に交差した姿勢で上下方向に積み上げることにより、前記間隙水の流入空間を備えた本体部分が形成される。そして、前記のように、その全体を不織布のような透水性シート32で覆うことで液状化防止層30とされる。
【0025】
施工に当たっては、車道における前記液状化防止層30を埋設施工する部位を所定深さに掘削し、掘削面を均平化した後、前記した液状化防止層30を路線方向に沿って必要距離に埋め込み、その後、覆土して、表面の舗装を行う。それにより、本発明による道路での液状化防止構造が完成する。
【0026】
地震時の振動により、道路10の周囲に液状化現象が発生したとする。液状化により生じた間隙水は、埋設された液状化防止層30の周囲では、より圧力の低い箇所である液状化防止層30内の空間内に流入する。それにより、少なくとも液状化防止層30が埋設されている道路の上およびその周囲において、液状化によって路面が変化することや間隙水が路面に吹き出すことを防止することができる。前記したように、液状化防止層30は当該道路10における少なくとも1つの車線の中央部13の垂下位置が含まれるようにして路線方向に所定距離に亘って地中に埋設されており、周囲の地盤に液状化が生じても、少なくとも一車線幅の道路はほぼ現状を維持した状態で保持される。それにより、緊急用車両の通行路は確保されるので、円滑な災害救助作業を遂行することが可能となる。なお、間隙水が液状化防止層30内の空間に流入するのをより円滑化するために、液状化防止層30の空間内の空気を排出するための排気管(不図示)を、出口が地表面に達するようにして取り付けておくことはより好ましい。
【0027】
図3は、車線の中央部を示す仮想線13と道路下に埋設された液状化防止層30との3つの位置関係を示している。図3(a)では、液状化防止層30は、前記車線の中央部を示す仮想線13の垂下位置を含むもののやや図で右方向に変位した位置に埋設されている。図3(b)では、液状化防止層30は、前記車線の中央部を示す仮想線13の垂下位置をその中央に含むようにして埋設されている。図3(c)では、液状化防止層30は、前記車線の中央部を示す仮想線13の垂下位置を含むもののやや図で左方向に変位した位置に埋設されている。このような埋設状態は、平面視で矩形状の液状化防止層30を地中に埋設するときに、道路がカーブしている部分では起こりがちである。しかし、一車線幅よりもやや狭い横幅の液状化防止層30が、図3(a)〜(b)のいずれの態様で埋設されている場合であっても、またそれらが組み合わされた埋設態様であっても、液状化の発生時に、所定路線長に亘って、少なくとも一車線部の幅の道路(車道)は確実に確保されるので、緊急用車両の通行が不能となることはない。また、このことは液状化防止層30の埋設に高い精度を要求されないことを意味しており、結果として、現場での施工も容易化する。
【0028】
図4は、本発明による液状化防止構造を施した軌道の一例を示している。通常、軌道40の施工に当たっては、図示のように、現地盤41が所定深さに掘削され、その部分が砕石のような材料で埋め戻されて路盤42とされ、その上にバラストなどによる道床43が造られる。そして、その上に枕木44が配置されてレール45が敷設される。このような軌道40の構造においても、レール45下の路盤42と現地盤41との境界に近接した位置に、レール45幅よりも横幅の広い前記液状化防止層30を、レール45の下にかつレール45に沿い所定距離に亘って埋設しておくことで、軌道(レール45)の周囲の地盤に液状化が発生したときに生じる前記間隙水を効果的に液状化防止層30内に吸収することができる。それにより、軌道(レール45)の安定した状態は維持されることとなり、列車等の安定した走行は維持されるようになる。
【0029】
なお、図4では路盤42と現地盤41との境界を跨いで液状化防止層30の上半分が路盤42に埋設され、下半分が現地盤41に埋設されているが、液状化防止層30の下面が境界に接しており液状化防止層30の全体が路盤42に埋設されていても、液状化防止層30の上面が境界に接しており液状化防止層30の全体が現地盤41に埋設されていてもよい。
【0030】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態は、平坦な土地領域の地表面から所定深さの地盤中に当該土地領域のほぼ全面積に亘って埋設されている液状化防止構造であり、「平坦な土地領域」が学校の校庭である場合を例として、以下に説明する。
【0031】
図6において、ある区域aが学校の区域として用いられており、その一部に学校の建物100が建てられている。この例において、建物100の前方領域200は校庭として利用されている。校庭として利用される領域200は、この区域aでの平坦な土地領域であり、5000m2程度の広い面積であるのが普通である。このような校庭領域200は平坦な土地領域であることから、災害時における住民の避難場所として指定されることが多い。
【0032】
この校庭として利用される平坦な土地領域200の地表面から所定深さ(例えば、1〜2mの深さ)だけ下がった地盤中に、本発明でいう液状化防止層30が埋設されている。液状化防止層30は全体としては平板状のものであり、地表面とほぼ平行状態をなすようにして、前記領域200のほぼ全面に亘って地盤中に埋設されている。
【0033】
図7は、該液状化防止層30の一例を詳細に示しており、この例では、図5に一例を示したような空隙を持つ樹脂製部材31を例えば0.5〜2mm程度の高さまで積み重ね、その全体を不織布のような透水性シート32で覆うことで形成される。具体的には、この形態で用いる液状化防止層30は、第1の実施の形態で用いた液状化防止層30と同じものであってよく、詳細な説明は省略する。なお、ここでも、樹脂製部材31は液状化防止層30を構成する構成部材の一例であって、これに限らない。水を貯留可能な空隙を有し周囲から間隙水が流入可能な部材であれば、任意の部材を用いることができる。
【0034】
施工に当たっては、前記平坦な土地領域200の区画を所定深さに掘削し、掘削面を均平化した後、前記した液状化防止層30を設置する。設置した後、従来法により埋め戻しを行い、かつ地表面の整地を行う。それにより、本発明による第2の形態の液状化防止構造が完成する。
【0035】
上記の構成を備えた液状化防止構造(土地構造)では、地震により、埋め込んだ液状化防止層30の周囲の地盤が振動し、液状化の原因となる間隙水が発生したときに、間隙水はより圧力の低い箇所である液状化防止層30内の空隙内に迅速に流入する。それにより、少なくとも液状化防止層30が埋設されている周囲では、地盤が液状化するのを低減することができ、間隙水に起因して地表面に変状が生じたり、地表面から砂が噴出したりするのを阻止することができる。そのために、液状化防止層30を埋め込んだ平坦な土地領域200の地表面はその平坦さを維持することが可能となり、そこが災害時に避難所として指定されている場合に、避難場所として機能が喪失するのを回避することができる。
【0036】
図8は、本発明による第2の形態の液状化防止構造を施した土地構造の他の例を示している。ここでは、液状化防止層30が2以上の分割構造体3x・・で構成されており、各分割構造体3x・・はほぼ等しい隙間pを置いた状態で平坦な土地領域200の地盤中のほぼ同じ深さ位置に埋設されている点で、図6に示した本発明による第2の形態の液状化防止構造(土地構造)と相違している。この形態では、2以上の分割構造体3xが相互の間に隙間pを保持した状態で配置されることで、液状化防止層30全体としての地盤との接触面積を増やすことができる。それにより、周囲の地盤中の間隙水が液状化防止層30内に一層流入し易くなり、周囲の地盤の液状化の抑制効果をより高めることができる。
【0037】
なお、間隙水が液状化防止層30内の空隙に流入するのをより円滑化するために、液状化防止層30の空隙内の空気を排出するための排気管(不図示)を、出口が地表面に達するようにして取り付けておくことはより好ましい。また、通常時においても、雨水が地盤中に浸透することにより、設置した液状化防止層30内の空隙に雨水が入り込むことは起こり得る。しかし、入り込んだ雨水は時間とともに地盤中に浸透することで排出され、通常は、空隙内は無水の状態となっているので、地震時での地盤の液状化には十分に対処することができる。
【0038】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態は、本発明による液状化防止構造であって、前記液状化防止層30が地中に埋設された埋設物の少なくとも底部領域の下方に設置されていることを特徴とする液状化防止構造である。
【0039】
図9(a)(b)は、第3の液状化防止構造の2つの例を断面で示している。図9(a)において、300は地表面であり、地表面下の地盤中には、例えばコンクリート作りの地下貯水槽である埋設物400が埋設されている。埋設物400の下には、当該埋設物400の底面部のほぼ全面を覆うようにして、液状化防止層30が設置されている。図9(c)に該液状化防止層30の一例を示すように、この液状化防止層30は、第1および第2の実施の形態で説明したと同様なものであってよく、図5に一例を示すように空隙を持つ樹脂製部材31を積み重ね、その全体を不織布のような透水性シート32で覆うことで形成される。なお、ここでも、樹脂製部材31は液状化防止層30を構成する構成部材の一例であって、これに限らない。水を貯留可能な空隙を有し周囲から間隙水が流入可能な部材であれば、任意の部材を用いることができる。
【0040】
施工に当たっては、前記埋設物400を埋設施工すべき場所を所定深さに掘削し、掘削面を均平化した後、前記した液状化防止層30を埋め込み、その上に、従来法により埋設物400を構築する。構築後、埋め戻しと地表面300の整地を行う。それにより、本発明による第3の形態の液状化防止構造が完成する。
【0041】
地震時の振動により、埋設物400の周囲の地盤に液状化が発生したとする。液状化により生じた間隙水は、埋設された液状化防止層30の周囲では、より圧力の低い箇所である液状化防止層30内の空隙内に流入する。それにより、少なくとも液状化防止層30が埋設されている周囲では地盤が液状化するのが低減される。それにより、間隙水に起因して埋設物400に生じる浮力は作用しないか、作用するとしても極めて小さくなり、結果として、埋設物400の浮き上がりを防止できる。
【0042】
図9(b)は、第3の液状化防止構造のさらに他の形態を示す図9(a)に相当する図であり、液状化防止層30は、埋設物400の底部との間に一定の距離をおいて設置されており、その間は、地盤の土壌あるいは別途用意した砂質土または砕石350で埋められている点で、図9(a)に示した液状化防止構造と相違している。この形態の液状化防止構造は、液状化防止層30の上面側に土壌や採石の層350が存在しており、間隙水はそこを介して液状化防止層30の上面側からも内部空隙に流入することができる。間隙水の流入面積が増大することで、より多くの間隙水を液状化防止層30内に取り込むことができ、結果として、埋設物400に作用する浮力を一層低減することができる。
【0043】
図10(a)は、第3の形態の液状化防止構造のさらに他の例を示している。この例では、液状化防止層30が、埋設物400の底部ばかりでなく周囲の側壁部分をも覆っている点で、図9(a)に示した液状化防止構造と相違している。この場合、液状化防止層30は、水平部分30Hと垂直部分30Pとで構成されることとなるが、水平部分30Hには、図9(c)に示した形態のものをそのまま用いることができる。垂直部分30Pには、図10(c)に示すように、より横幅の狭い樹脂製部材31を多段に積み上げたものを不織布のような透水性シート32で覆うことで形成したものを用いる。もちろん、水平部分30Hと垂直部分30Pとを一体に形成した液状化防止層30であってもよい。
【0044】
この形態の液状化防止構造では、埋設物400の底面近傍および4周の側面近傍の地盤で発生する間隙水を、液状化防止層30内に流入させることができるので、液状化発生時に、間隙水に起因して埋設物400に生じる浮力を一層確実に低減できる。
【0045】
図10(b)は、第3の形態の液状化防止構造のさらに他の例を示している。ここでは、液状化防止層30が埋設物400の底部および4周の側面との間に一定の距離をおいて設置されていて、その間は、地盤の土壌あるいは別途用意した砂質土または砕石からなる層350で埋められている点で、図10(a)に示した液状化防止構造と相違している。この形態の液状化防止構造では、液状化防止層30の内面側のすべてに土壌や採石の層350が存在しており、間隙水はそこを介して液状化防止層30の上面側および4周の側面側から内部空隙に流入する。間隙水の流入面積が増大することで、より多くの間隙水を液状化防止層30内に取り込むことができ、埋設物400に作用する浮力を一層低減することが可能となる。
【0046】
図11は、第3の形態の液状化防止構造のさらに他の例を示している。ここでは、液状化防止層30は、2以上(図示のものでは4個)の分割構造体3x・・で構成されており、各分割構造体3x・・は隙間pを置いた状態で埋設物400の底部領域の下方に設置されている点で、図9(b)に示した液状化防止構造と相違している。この形態の液状化防止構造では、2以上の分割構造体3xが相互の間に隙間pを保持した状態で配置されることで、液状化防止層30全体としての地盤との接触面積を増やすことができる。それにより、周囲の地盤中の間隙水が液状化防止層30内に流入し易くなり、液状化の抑制効果をより高めることができる。なお、図示しないが、液状化防止層30を2以上の分割構造体3x・・で構成する態様は、上記した図9(b)、図10(a)(b)に示した液状化防止構造にも適用できる。
【0047】
なお、第3の形態の液状化防止構造においても、第2の形態の液状化防止構造の場合と同様、間隙水が液状化防止層30内の空隙に流入するのをより円滑化するために、液状化防止層30の空隙内の空気を排出するための排気管(不図示)を、出口が地表面300に達するようにして取り付けておくことはより好ましい。また、通常時においても、雨水が地盤中に浸透することにより、設置した液状化防止層30内の空隙に雨水が入り込むことは起こり得る。しかし、入り込んだ雨水は時間とともに地盤中に浸透することで排出され、通常時は、空隙内は無水の状態となっており、地震時での地盤の液状化には十分に対処することができる。
【0048】
なお、図1〜図5に基づき説明した第1の形態の液状化防止構造において、液状化防止層30は、前記したように、目的とする路線長の全長にわたり、1つの長尺状のものを道路または軌道に沿うようにして埋設するようにしてもよく、作業の容易性の観点から、長さの短い2個以上の液状化防止層を一定間隔をおいて道路または軌道に沿うようにして埋設するようにしてもよい。
【0049】
また、液状化防止層30は、垂直断面において厚みよりも横幅が大きい形状であることが好ましい。第1の形態の液状化防止構造において、地表面に近い部分に発生する間隙水が液状化防止層30内に浸入できるようにすれば、所期の目的は達成可能であり、上記の形状の液状化防止層とすることにより、少ない材料費と少ない施工費でもって、所期の目的を達成可能な液状化防止構造を構築することができる。
【0050】
また、前記液状化防止層30は、1つの車線の中央部の垂下位置が含まれるようにして地中に埋設されていること、前記液状化防止層30は当該道路の一車線分の横幅を有することは好ましい態様である。
【0051】
この態様では、曲がりのある道路においても液状化防止層の埋設施工を容易化できるとともに、道路周囲の地盤に液状化が発生したときに、少なくとも一車線分の道幅の車道を全路線長に亘りほぼ連続状に確保することができる。それにより、多くの施工費用をかけることなく、災害時に緊急用車両が通過するのに必要な最小限の車道を確保することができる。より具体的には、前記液状化防止層30の横幅を少なくとも1.0m〜2.5mの幅で確保することで、災害時の緊急用車両に対する車道を確保することができる。もちろん、費用が十分であれば、複数車線の道路において、2車線あるいは3車線分の幅にわたる横幅の液状化防止層を道路に沿って埋設することで、液状化時に、より広い幅の車道を確保することができる。
【0052】
好ましい態様では、前記液状化防止層30は当該道路における路盤層より下の層であって、該路盤層に近接した位置に埋設される。より具体的な態様では、当該道路は路盤層の下に砂質層を有しており、前記液状化防止層は前記砂質層に埋設されている。
【0053】
第1の形態の液状化防止構造において、液状化防止層30の一部が路盤(上層路盤および下層路盤)内に位置する場合には、路盤の領域においては上方からの荷重が十分に分散されないために、液状化防止層に大きな集中荷重が掛かる恐れがあり、破損を招くので好ましくない。また、路盤は主に砕石層であり上記した液状化現象(間隙水)は発生しないので、路盤内に位置する液状化防止層30の部分は無駄な部分となる。液状化防止層30を道路における路盤層より下の層であって、路盤層に近接した位置に埋設することにより、それらの不都合を解消した液状化防止層が得られる。当該道路が路盤層の下に砂質層を有している場合には、液状化防止層を当該砂質層内に埋設することにより、一層確実に液状化抑制効果を達成することができる。
【0054】
第1の形態の液状化防止構造において、前記液状化防止層の横幅は当該軌道の横幅より広いことは好ましい。それにより、軌道の周囲の土壌に液状化が生じても、当該軌道に液状化が及ぶのを効果的に回避することができる。また、軌道の場合、現地盤の上に路盤が構築され、その上にバラストなどの道床が施工され、その上に枕木を配置してレール(軌道)を敷設するのが一般的であるが、この場合には、前記液状化防止層30は、当該軌道下の路盤と現地盤との境界に近接した位置に埋設されていることが好ましい。この態様により、液状化防止層の埋設状態が安定すると共に、軌道周囲の地盤が液状化したときに生じる間隙水を効果的に液状化防止層内に吸収することができる。
【0055】
さらに、図6〜図8に基づき説明した第2の形態の液状化防止構造において、第2の形態の液状化防止構造を施す平坦な土地領域には、例として、各種のグランド、テニスコート、学校の校庭、公園の広場、大型の駐車場などを挙げることができる。平坦な土地領域の面積に特に制限はないが、液状化対策を施す趣旨からいって、100m2程度以上の広い面積を持つ領域であることが望ましい。また、液状化防止層30を埋設する深さは、1〜2m程度であることが、液状化阻止には特に効果的である。
【0056】
さらに、図9〜図11に基づき説明した第3の形態の液状化防止構造において、対象となる埋設物に制限はない。例として、地下室、地下タンク、地下浄化槽などが挙げられる。コンクリート構造物が一般であるが、これに限らない。また、全部が地中に埋設しているものはもちろん、主要部分が地中に埋設しており一部が地上に露出しているようなもの含まれる。
【0057】
第3の形態の液状化防止構造において、前記したように、前記液状化防止層30は埋設物400の少なくとも底部に接して設置されていてもよく、埋設物の少なくとも底部との間に好ましくは砂質土または砕石の層を挟んで設置されていてもよい。前者の態様では、液状化防止層が埋設物と接している領域部分は間隙水が流入する領域として機能しない。後者の態様では、液状化防止層と埋設物との間に、好ましくは砂質土または砕石である層が存在するので、該層を通して周囲の地盤中の間隙水が液状化防止構造体内に流入することできる利点がある。
【0058】
また、前記のように、液状化防止層30は2以上の分割構造体3xで構成され、各分割構造体3xは隙間を置いた状態で埋設物の少なくとも底部領域の下方に設置されていてもよい。この形態では、2以上の分割構造体が相互の間に隙間を保持した状態で配置されることで、液状化防止構造体と地盤との接触面積を増やすことができ、周囲の地盤中の間隙水が液状化防止構造体内に流入し易くなる。それにより、液状化の抑制効果をより高めることができる。
【符号の説明】
【0059】
10…道路(車道)、
11…中央分離帯、
12…走行車線と追い越し車線との境界を示す境界線、
13…各車線での中央部を示す仮想線、
20…舗装部分、
21…表層、
22…基層、
23…上層路盤
24…下層路盤、
25…路床、
26…路体(現地盤)、
30…液状化防止層、
31…空間を持つ樹脂製部材、
32…透水性シート、
40…軌道、
41…現地盤、
42…路盤、
43…道床、
44…枕木、
45…レール、
a…ある区域
100…建物(学校)、
200…平坦な土地領域(校庭)、
300…地表面、
400…地中埋設物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隙水を貯留可能な空隙を有し周囲から間隙水が流入可能な液状化防止層が地中に埋設されていることを特徴とする液状化防止構造。
【請求項2】
前記液状化防止層が道路下または軌道下に当該道路または軌道に沿うようにして埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の液状化防止構造。
【請求項3】
前記液状化防止層が平坦な土地領域の地表面から所定深さの地盤中に当該土地領域のほぼ全面積に亘って埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の液状化防止構造。
【請求項4】
前記液状化防止層が地中に埋設された埋設物の少なくとも底部領域の下方に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の液状化防止構造。
【請求項1】
間隙水を貯留可能な空隙を有し周囲から間隙水が流入可能な液状化防止層が地中に埋設されていることを特徴とする液状化防止構造。
【請求項2】
前記液状化防止層が道路下または軌道下に当該道路または軌道に沿うようにして埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の液状化防止構造。
【請求項3】
前記液状化防止層が平坦な土地領域の地表面から所定深さの地盤中に当該土地領域のほぼ全面積に亘って埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の液状化防止構造。
【請求項4】
前記液状化防止層が地中に埋設された埋設物の少なくとも底部領域の下方に設置されていることを特徴とする請求項1に記載の液状化防止構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−83144(P2013−83144A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−183521(P2012−183521)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】
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