説明

液状封止材、それを用いた半導体装置

【課題】印刷グレードのグラブトップ材として用いられる、難燃性に優れた液状封止材、および、該液状封止材を用いて封止部位を封止してなる半導体装置の提供。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)難燃剤、および、(D)フィラーを含む液状封止材であって、前記(C)難燃剤として、(HCA)若しくはその誘導体、または、(HCA−HQ)若しくはその誘導体を反応成分の一つとする有機リン系難燃剤を含有し、平均粒径が0.4〜5.0μmのフィラー(D1)、および、平均粒径が7.0〜25.0μmのフィラー(D2)を含むことを特徴とする液状封止材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状封止材に関する。本発明の液状封止材は、印刷グレードのグラブトップ材として好適である。
また、本発明は、該液状封止材を用いて封止部位を封止してなる半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の封止目的で使用されるグラブトップ材の中でも、印刷グレードのグラブトップ材は、生産性に優れ、装置コストも比較的安価であることから、半導体の封止材として好ましい。
印刷グレードのグラブトップ材としては、25℃における粘度が30〜2000Pa・s、特に30〜800Pa・sの液状封止材を用いることが、塗布性に優れる一方で、塗布後の形状安定性に優れることから好ましい。
【0003】
半導体の封止目的で使用されるグラブトップ材に対する要求特性の一つに難燃性がある。なお、ここで言う難燃性とは、封止後の難燃性、すなわち、グラブトップ材を加熱硬化させた後の難燃性である。
グラブトップ材として用いられる封止材に難燃性を付与する方法としては、臭素化エポキシ樹脂を使用する方法があるが、臭素化エポキシ樹脂の使用は、分解・燃焼時にハロゲン化物、特にダイオキシン類の発生の懸念が最近では問題視されており、ハロゲン化物を使用することなく、封止材に難燃性を付与することが求められている。
この点において、難燃剤としてリン系化合物が添加された封止用樹脂組成物が存在している(特許文献1〜3参照)。しかしながら、これらの封止用樹脂組成物は、いずれも高粘度であることから、印刷グレードのグラブトップ材として使用することができず、モールディンググレードのグラブトップ材として用いられる。
【0004】
一方、特許文献4には、特定の構造のリン含有エポキシ樹脂を含む難燃性液状エポキシ樹脂組成物が開示されているが、このエポキシ樹脂組成物は、25℃における粘度が5000mPa・s(5Pa・s)以下と低すぎるため、印刷グレードのグラブトップ材として使用することができない。
また、このリン含有エポキシ樹脂は、特許文献1〜3に記載のリン系化合物と、当該文献に記載の封止用樹脂組成物の主成分であるエポキシ樹脂と、の反応生成物に相当することから、樹脂組成物の製造に要する工程が増加する点でも好ましくない。
【0005】
印刷グレードのグラブトップ材として用いられる液状封止材には、難燃性が付与されているものはこれまで存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−037852号公報
【特許文献2】特開2002−030199号公報
【特許文献3】特開2002−020715号公報
【特許文献4】特開2001−106766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記した従来技術の問題点を解決するため、印刷グレードのグラブトップ材として用いられる、難燃性に優れた液状封止材、および、該液状封止材を用いて封止部位を封止してなる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)難燃剤、および、(D)フィラーを含む液状封止材であって、
前記(C)難燃剤として、下記一般式(1)に示す9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(HCA)若しくはその誘導体、または、下記一般式(2)に示す10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10−ハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(HCA−HQ)若しくはその誘導体を反応成分の一つとする有機リン系難燃剤を、液状封止材全体に対して5〜12質量%の割合で、かつ液状封止材全体に対するリン含有率が0.1〜3質量%となるように含有し、
【化1】

【化2】

(式(1)、(2)中、Rは水素原子であるかハロゲン以外の置換基であって、それらが互いに同じでも異なってもよい。)
前記(D)フィラーとして、平均粒径が0.4〜5.0μmのフィラー(D1)、および、平均粒径が7.0〜25.0μmのフィラー(D2)を、液状封止材全体に対して前記フィラー(D1)および(D2)の合計含有量で60質量%超80質量%未満の割合で含有することを特徴とする液状封止材を提供する。
【0009】
本発明の液状封止材は、前記(A)エポキシ樹脂として、液状エポキシ樹脂を含有することが好ましい。
【0010】
本発明の液状封止材は、前記(C)難燃剤として、HCA若しくはその誘導体を反応成分の一つとする有機リン系難燃剤を含有することが好ましい。
【0011】
本発明の液状封止材は、前記フィラー(D1)および前記フィラー(D2)を、含有量の相対比で1:99〜40:60となるように含有することが好ましい。
【0012】
本発明の液状封止材は、前記(D)フィラーとして、さらに平均粒径が25μm超100μm以下のフィラー(D3)を、液状封止材全体に対して、前記フィラー(D1)、(D2)および(D3)の合計含有量で60質量%超80質量%未満の割合で含有してもよい。
【0013】
本発明の液状封止材は、前記(B)硬化剤として、酸無水物系硬化剤を含有することが好ましい。
【0014】
本発明の液状封止材は、さらに、(E)硬化促進剤を含有してもよい。
【0015】
本発明の液状封止材は、さらに、(F)カップリング剤を含有してもよい。
【0016】
また、本発明は、本発明の液状封止材を用いて封止部位を封止してなる半導体装置を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液状封止材は、25℃における粘度が30〜2000Pa・s、好ましくは30〜800Pa・sであることから、印刷グレードのグラブトップ材として使用するのに好適である。
本発明の液状封止材は、加熱硬化後における難燃性に優れている。具体的には、液状封止材の加熱硬化物が、UL94に基づく難燃性評価でV−2以上、好ましくはV−1以上、より好ましくはV−0相当の優れた難燃性を有している。
本発明の液状封止材は、必須成分である(A)〜(D)成分、および、必要に応じて含める任意成分を、通常の手順で所定量攪拌・混合することによって得ることができ、各成分としては市販品も使用することができるので、製造手順が複雑になることがなく、歩留りという点でも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、以下に示す(A)〜(D)成分を必須成分として含有する。
【0019】
(A)成分:エポキシ樹脂
(A)成分のエポキシ樹脂は、本発明の液状封止材の主剤をなす成分である。
(A)成分のエポキシ樹脂は、常温で液状であることが好ましいが、常温で固体のものであっても、他の液状のエポキシ樹脂又は希釈剤により希釈し、液状を示すようにして用いることができる。
具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、エーテル系又はポリエーテル系エポキシ樹脂、オキシラン環含有ポリブタジエン、シリコーンエポキシコポリマー樹脂等が例示される。
【0020】
特に、液状であるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の平均分子量が約400以下のもの;p−グリシジルオキシフェニルジメチルトリスビスフェノールAジグリシジルエーテルのような分岐状多官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂;ビスフェノールF型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂の平均分子量が約570以下のもの;ビニル(3,4−シクロヘキセン)ジオキシド、3,4−エポキシシクロヘキシルカルボン酸(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチル、アジピン酸ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)5,1−スピロ(3,4−エポキシシクロヘキシル)−m−ジオキサンのような脂環式エポキシ樹脂;3,3´,5,5´−テトラメチル−4,4´−ジグリシジルオキシビフェニルのようなビフェニル型エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジル、3−メチルヘキサヒドロフタル酸ジグリシジル、ヘキサヒドロテレフタル酸ジグリシジルのようなグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、テトラグリシジルビス(アミノメチル)シクロヘキサンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ならびに1,3−ジグリシジル−5−メチル−5−エチルヒダントインのようなヒダントイン型エポキシ樹脂;ナフタレン環含有エポキシ樹脂が例示される。また、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンのようなシリコーン骨格をもつエポキシ樹脂も使用することができる。さらに、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグルシジルエーテル、ブタンジオールグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルのようなジエポキシド化合物;トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテルのようなトリエポキシド化合物等も例示される。
【0021】
常温で固体ないし超高粘性のエポキシ樹脂を併用することも可能であり、そのようなエポキシ樹脂として、高分子量のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂等が例示される。これらは、常温で液体であるエポキシ樹脂及び/又は希釈剤と組み合わせて、流動性を調節して使用することができる。
【0022】
常温で固体ないし超高粘性であるエポキシ樹脂を用いる場合、低粘度のエポキシ樹脂、例えば、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグルシジルエーテル、ブタンジオールグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルのようなジエポキシド化合物;トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテルのようなトリエポキシド化合物等と組み合わせることが好ましい。
【0023】
希釈剤を用いる場合、非反応性希釈剤及び反応性希釈剤のいずれをも使用することができるが、反応性希釈剤が好ましい。本明細書において、反応性希釈剤は、1個のエポキシ基を有する、常温で比較的低粘度の化合物をいうこととし、目的に応じて、エポキシ基以外に、他の重合性官能基、たとえばビニル、アリル等のアルケニル基;又はアクリロイル、メタクリロイル等の不飽和カルボン酸残基を有していてもよい。このような反応性希釈剤としては、n−ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p−s−ブチルフェニルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、α−ピネンオキシドのようなモノエポキシド化合物;アリルグリシジルエーテル、メタクリル酸グリシジル、1−ビニル−3,4−エポキシシクロヘキサンのような他の官能基を有するモノエポキシド化合物等が例示される。
【0024】
(A)成分としてのエポキシ樹脂は、単独でも、2種以上併用してもよい。エポキシ樹脂自体が、常温で液状であることが好ましい。中でも好ましくは、液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、液状アミノフェノール型エポキシ樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂である。さらに好ましくは液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状ビスフェノールF型エポキシ樹脂、p−アミノフェノール型液状エポキシ樹脂、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)テトラメチルジシロキサンである。
【0025】
(B)成分:硬化剤
硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤であれば特に限定されず、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤等の各種硬化剤を用いることができる。
フェノール系硬化剤の具体例としては、フェノール性水酸基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を指し、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル(フェニレン、ビフェニレン骨格を含む)樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリフェノールメタン樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂等が挙げられる。
アミン系硬化剤の具体例としては、2,4−ジアミノ−6−〔2´―メチルイミダゾリル−(1´)〕エチル−s−トリアジン等のトリアジン化合物、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBU)、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン等の第三級アミン化合物が挙げられる。
酸無水物系硬化剤の具体例としては、無水フタル酸、無水マレイン酸、ドデセニル無水コハク酸、無水トリメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルバン酸二無水物、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸が挙げられる。
なお、上記の硬化剤のうち、いずれか1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、酸無水物系硬化剤が、液状封止材の加熱硬化後における耐熱性の点で好ましい。
【0026】
本発明の液状封止材において、(B)成分の硬化剤の含有量は液状封止材に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ基当量で決定される。すなわち、(A)成分としてのエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基に対する当量比で決定される。
フェノール系硬化剤の場合、本発明の液状封止材に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して硬化剤が0.01〜5当量であることが好ましく、0.1〜3当量であることがより好ましく、0.5〜1.8当量であることがさらに好ましい。
アミン系硬化剤の場合、本発明の液状封止材に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して硬化剤が、0.05〜10当量であることが好ましく、0.1〜5当量であることがより好ましく、0.7〜1.3当量であることがさらに好ましい。
酸無水物系エポキシ硬化剤の場合、本発明の液状封止材に含まれるエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して硬化剤が0.05〜10当量であることが好ましく、0.1〜5当量であることがより好ましく、0.5〜1.8当量であることがさらに好ましい。
ここで、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤のうち、2種以上を併用する場合、個々のエポキシ硬化剤が、上記の配合割合になるように添加する。
【0027】
(C)成分:難燃剤
本発明の液状封止材は、(C)成分の難燃剤として、下記一般式(1)に示す9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(HCA)若しくはその誘導体、または、下記一般式(2)に示す10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10−ハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(HCA−HQ)若しくはその誘導体を反応成分の一つとする有機リン系難燃剤を含有する。
【化3】

【化4】

式(1)、(2)中、Rは水素原子であるかハロゲン以外の置換基であって、それらが互いに同じでも異なってもよい。式(1)中のRが水素原子であるものがHCAであり、Rがハロゲン以外の置換基であるものがHCAの誘導体である。
また、式(2)中のRが水素原子であるものがHCA−HQであり、Rがハロゲン以外の置換基であるものがHCA−HQの誘導体である。
Rがハロゲン以外の置換基である場合の具体例としては、メチル基等の炭素数1〜6のアルキル基、アミノ基、フェニル基等が挙げられる。
Rとしては、水素原子が、液状封止材の加熱硬化時における反応性の点から好ましい。
【0028】
本発明の液状封止材は、液状封止材全体に対して、(C)成分としての有機リン系難燃剤を5〜12質量%の割合で、かつ液状封止材全体に対するリン含有率が0.1〜3質量%となるように含有する。液状封止材全体に対する有機リン系難燃剤の割合が5質量%未満だと、難燃性の効果が十分に得られず、液状封止材の加熱硬化物がUL94に基づく難燃性評価でV−2以上の難燃性を発揮することができない。液状封止材全体に対する有機リン系難燃剤の割合が12質量%超だと、液状封止材の粘度が上昇し、25℃における粘度が2000Pa・s超となる。液状封止材全体に対する有機リン系難燃剤の割合は、7〜10質量%であることが好ましい。
液状封止材全体に対するリン含有率が0.1質量%未満では、難燃性の効果が十分に得られず、また3質量%を超えると硬化物の特性が劣化して実用に適さず好ましくない。液状封止材全体に対するリン含有率は0.1〜0.5質量%であることが好ましい。
【0029】
(C)成分としての、HCA若しくはその誘導体、又はHCA−HQ若しくはその誘導体を反応成分の一つとする有機リン系難燃剤は、出発原料として、ポリエポキシド化合物と、HCA若しくはその誘導体、又はHCA−HQ若しくはその誘導体と、を用い、例えば反応触媒としてテトラメチルアンモニウムクロライドの水溶液を用いるなどエポキシ樹脂反応として公知の方法を用いて得ることができる。
【0030】
(D)成分:フィラー
本発明の液状封止材は、(D)成分のフィラーとして、平均粒径が0.4〜5.0μmのフィラー(D1)、および、平均粒径が7.0〜25.0μmのフィラー(D2)を、液状封止材全体に対して、フィラー(D1)および(D2)の合計含有量で60質量%超80質量%未満の割合で含有する。
【0031】
(C)成分の難燃剤として、上記の有機リン系難燃剤を使用する場合、難燃性の補助添加剤として、液状封止材にフィラーを含めることが必要となる。この点に関して、本発明と同様の有機リン系難燃剤を、難燃性を発揮する成分として用いる特許文献3に記載の接着性組成物においても、難燃性の補助添加剤として無機充填剤を含有している。ここで、液状封止材の難燃性を高めるためには、フィラーの含有量が高いほうが好ましいと考えられる。しかしながら、フィラーの含有量を高めた場合、液状封止材の粘度が上昇して、印刷グレードのグラブトップ材として使用することができず、フィラーの含有量を液状封止材の粘度が印刷グレードのグラブトップ材として使用可能な粘度となる量に留めた場合は、液状封止材の加熱硬化物が十分な難燃性、具体的にはUL94に基づく難燃性評価でV−2以上の難燃性を発揮できないことを本願発明者は見出した。
本願発明者らは、鋭意検討した結果、フィラー(D1)および(D2)を上記の量含有させることで、液状封止材を印刷グレードのグラブトップ材として使用可能な粘度、具体的には、25℃における粘度を30〜2000Pa・s、好ましくは30〜800Pa・sに維持したままで、液状封止材の加熱硬化物がUL94に基づく難燃性評価でV−2以上の難燃性、好ましくはV−1以上、より好ましくはV−0相当の難燃性を発揮することができることを見出した。
【0032】
フィラー(D1)および(D2)の合計含有量が60質量%以下だと、液状封止材の加熱硬化物の難燃性が不十分となり、UL94に基づく難燃性評価でV−2以上の難燃性を発揮することができない。一方、フィラー(D1)および(D2)の合計含有量が80質量%以上だと、液状封止材の粘度が上昇し、25℃における粘度が2000Pa・s超となり、印刷グレードのグラブトップ材として使用することができなくなる。
本発明の液状封止材において、フィラー(D1)および(D2)の合計含有量が65〜75質量%であることが好ましい。
【0033】
本発明の液状封止材において、フィラー(D1)およびフィラー(D2)を、含有量の相対比で1:99〜40:60となるように含有することが好ましい。
フィラー(D1)の含有量がフィラー(D2)の含有量との相対比で1:99よりも少なくなると、液状封止材の粘度が上昇し、25℃における粘度が2000Pa・s超となり、印刷グレードのグラブトップ材として使用することができなくなるおそれがある。フィラー(D1)の含有量がフィラー(D2)の含有量との相対比で40:60よりも多い場合も、液状封止材の粘度が上昇し、25℃における粘度が2000Pa・s超となり、印刷グレードのグラブトップ材として使用することができなくなるおそれがある。
【0034】
本発明の液状封止材は、(D)成分のフィラーとして、フィラー(D1)および(D2)に加えて、平均粒径が25μm超100μm以下のフィラー(D3)を液状封止材の粘度調節等の目的で含有してもよい。
液状封止材にフィラー(D3)を含める場合、液状封止材全体に対して、フィラー(D1)、(D2)および(D3)の合計含有量が60質量%超80質量%未満、好ましくは65〜75質量%となるようにする必要がある。
液状封止材にフィラー(D3)を含める場合、液状封止材全体に対するフィラー(D3)の含有量が0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜7質量%であることがより好ましい。
【0035】
本発明の液状封止材において、フィラー(D1)、(D2)および(D3)は、平均粒径が上記の範囲を満たすものである限り特に限定されず、封止剤用途の樹脂組成物に添加されるものから広く選択することができる。具体的には、シリカ、アルミナ、チタニア、マグネシア、ガラス等の無機物質からなるフィラーが挙げられる。これらの中でも、シリカ、マグネシアからなるフィラーが低熱膨張性、低吸水率の理由から好ましい。
これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、フィラー(D1)、(D2)および(D3)の形状も特に限定されず、粒状、粉末状、りん片等のいずれの形態であってもよい。なお、フィラー(D1)、(D2)および(D3)の形状が粒状以外の場合、フィラーの平均粒径とはフィラーの平均最大径を意味する。
また、フィラー(D1)、(D2)および(D3)は、必要に応じて、表面処理を施されたものであってもよい。例えば、粒子表面に酸化皮膜を形成させたものであってもよい。
【0036】
本発明の液状封止材は、上記(A)〜(D)成分以外に、以下に述べる成分を必要に応じて含有してもよい。
【0037】
(E)成分:硬化促進剤
本発明の液状封止材は、必要に応じて(E)成分として硬化促進剤を含有してもよい。この場合、使用する硬化促進剤は、エポキシ樹脂の硬化促進剤であれば特に限定されず、ノバキュア系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤等の各種硬化促進剤を用いることができる。
ノバキュア系硬化促進剤とは、アミン化合物のエポキシアダクトの水酸基に付加反応させたものである、マイクロカプセル化イミダゾールとも呼ばれる。具体例としては、例えばノバキュアHX−3088、ノバキュアHX−3722、ノバキュアHX−3941HP(いずれも旭化成ケミカルズ社製、商品名)等として入手可能である。
イミダゾール系硬化促進剤の具体例としては、2−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物等が挙げられる。
なお、上記の硬化促進剤のうち、いずれか1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ノバキュア系硬化促進剤が保存安定性の理由から好ましい。
【0038】
本発明の液状封止材において、(E)成分として硬化促進剤を含有する場合、硬化促進剤の含有量の好適範囲は硬化促進剤の種類によって異なるため、硬化促進剤の種類ごとに、含有量の好適範囲を以下に示す。
ノバキュア系硬化促進剤の場合、エポキシ樹脂100質量部に対して硬化促進剤が0.001〜20質量部であることが好ましく、0.005〜15質量部であることがより好ましく、0.01〜10質量部であることがさらに好ましい。
イミダゾール系硬化促進剤の場合、エポキシ樹脂100質量部に対して硬化促進剤が0.001〜10質量部であることが好ましく、0.005〜8質量部であることがより好ましく、0.01〜5質量部であることがさらに好ましい。
【0039】
(F)カップリング剤
本発明の液状封止材は、封止対象に対する密着性や、封止信頼性を向上させるために、(F)成分としてカップリング剤を含有してもよい。
(F)成分としてカップリング剤を含有させる場合、液状封止材全体に対するカップリング剤の含有量が0.001〜10質量%であることが好ましく、0.005〜5質量%であることがより好ましく、0.01〜2質量%であることがさらに好ましい。
【0040】
本発明の液状封止材は、上記(A)〜(F)以外の成分を必要に応じてさらに含有してもよい。このような成分の具体例としては、充填剤、イオントラップ剤、着色剤(例えば、カーボンブラック、染料等)、消泡剤等が挙げられる。
消泡剤を含有させる場合、樹脂組成物の粘性、流動性、充填性等を考慮して選択すればよく、特に限定されないが、シリカ、ガラス、タルク、アルミナ、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどが一般的である。
【0041】
(液状封止材の調製)
本発明の液状封止材は、上記の(A)〜(D)成分、ならびに、場合により、上記(E)〜(F)、および、充填剤等の任意成分を混合し、攪拌して調製される。混合攪拌は、ロールミルを用いて行うことができるが、勿論、これに限定されない。(A)成分としてのエポキシ樹脂、(C)成分としての有機リン系難燃剤が固形の場合には、加熱などにより液状化ないし流動化し混合することが好ましい。
各成分を同時に混合しても、一部成分を先に混合し、残り成分を後から混合するなど、適宜変更しても差支えない。
【0042】
以下、本発明の液状封止材の特性について述べる。
【0043】
本発明の液状封止材は、25℃における粘度が30〜2000Pa・s、好ましくは30〜800Pa・sであることから、印刷グレードのグラブトップ材として使用するのに好適である。
本発明の液状封止材は、25℃における粘度が上記範囲であることから、印刷グレードのグラブトップ材以外に、ポッティンググレードのグラブトップ材、先供給型封止剤、アンダーフィル剤等の用途にも好適である。
【0044】
本発明の液状封止材は、加熱硬化後において難燃性に優れている。具体的には、液状封止材の加熱硬化物がUL94に基づく難燃性評価でV−2以上、好ましくはV−1以上、より好ましくはV−0相当の優れた難燃性を有している。
【0045】
次に本発明の液状封止材の使用方法を、印刷グレードのグラブトップ材としての使用を挙げて説明する。
本発明の液状封止材を印刷グレードのグラブトップ材として使用するには、封止対象とする部位(封止対象とする面)に対して、本発明の液状封止材をディスペンサ、印刷機等を用いて塗布する。ここで、塗布時の温度は20〜40℃であることが好ましい。
封止対象とする部位(封止対象とする面)に対して、所望の厚さとなるように本発明の液状封止材を塗布した後、所定温度で所定時間、具体的には、150℃で20〜60分加熱硬化させることによって封止が完了する。
【0046】
本発明の半導体装置は、本発明の液状封止材を印刷グレードのグラブトップ材として使用し、上記の手順で封止部位を封止したものである。ここで半導体装置の種類は特に限定されない。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
(実施例1〜13、比較例1〜7)
下記表に示す配合割合となるように、ロールミルを用いて原料を混練して実施例1〜13、比較例1〜7の液状封止材を調製した。
【0049】
表中の記号は、それぞれ以下を表わす。
エポキシ樹脂:ナフタレン型エポキシ樹脂(HP4032D、DIC株式会社製)
硬化剤:酸無水物系硬化剤(YH306、三菱化学株式会社製)
硬化促進剤:ノバキュア系潜在性硬化触媒(製品名HX3088、旭化成ケミカルズ株式会社製)
難燃剤:HCA−HQ(三光化学工業株式会社製)
フィラー
フィラーA:シリカフィラー(製品名SOE5、株式会社アドマテックス製、平均粒径1.5μm)
フィラーB:シリカフィラー(製品名FB5SDX、電気化学工業株式会社製、平均粒径5μm)
フィラーC:シリカフィラー(製品名BSP6、株式会社龍森製、平均粒径6μm)
フィラーD:シリカフィラー(製品名FB7SDX、電気化学工業株式会社製、平均粒径7μm)
フィラーE:シリカフィラー(製品名MSV−25NH、株式会社龍森製、平均粒径25μm)
なお、表中のエポキシ基に対する当量比とは、液状封止材に含まれる全てのエポキシ基に対する当量比、すなわち、(A)成分としてのエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基に対する当量比である。
【0050】
調製した液状封止材について以下の評価を実施した。
粘度:調製した液状封止材について、ブルックフィールド回転粘度計(ブルックフィールド社HBT型粘度計)を用いて、50rpmで25℃における粘度(Pa・s)を測定した。粘度が測定できなかったものについては、10rpmで25℃における粘度(Pa・s)を測定した。また、10rpmで粘度測定できなかったものについては、5rpmで25℃における粘度(Pa・s)を測定した。
難燃性:調製した液状封止材を150℃で60分加熱硬化させた後、得られた硬化物から試験片を切り出しUL94に基づき水平燃焼試験および垂直燃焼試験を実施した。水平燃焼試験のみ合格したものについては、難燃性をHBグレードとした。垂直燃焼試験に合格したものについては、V−2、V−1、V−0のグレードで評価した。
信頼性:FR−4基板(4cm四方、厚み0.75mm)に3cm四方、厚さ1mmにとなるように、調製した液状封止材を印刷し、150℃で60分硬化させ、硬化物を作製した。得られた硬化物を30℃60%の恒温恒湿槽に192時間放置した後、直ちに260℃のハンダリフロー炉に3回通し、剥離を超音波探傷機(SAT)で観察し、剥離発生の有無を観察した。剥離がない場合は信頼性○、剥離の場合は信頼性×と表す。
なお、粘度測定で2000Pa・s超であった例については、難燃性および信頼性の評価は実施しなかった。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
実施例1〜13の液状封止材はいずれも25℃における粘度が30〜2000Pa・sの範囲であり、印刷グレードのグラブトップ材として使用可能である。特に、実施例1〜8,11〜13は25℃における粘度が30〜800Pa・sの範囲であり、印刷グレードのグラブトップ材として好適である。
また、実施例1〜13の液状封止材はいずれもUL94に基づく難燃性評価でV−2以上であり、難燃性に優れている。特に、実施例2,3,6〜13はV−0相当の優れた難燃性を有している。
フィラー(D1)および(D2)の合計含有量が60質量%以下の比較例1は、UL94に基づく難燃性評価でHBであり、難燃性に劣っていた。また、信頼性評価に不合格であった。
フィラー(D1)および(D2)の合計含有量が80質量%以上の比較例2は、25℃における粘度が2000Pa・s超と高く、印刷グレードのグラブトップ材として使用不可である。
難燃剤の含有量が5質量%未満の比較例3は、UL94に基づく難燃性評価でHBであり、難燃性に劣っていた。
フィラー(D1)に相当するフィラーのみを70質量%含有する比較例4,5はいずれも25℃における粘度が2000Pa・s超と高く、印刷グレードのグラブトップ材として使用不可である。
フィラー(D1)と平均粒径が6μmのフィラーを含有し、合計含有量が70質量%の比較例6、および、フィラー(D2)と平均粒径が6μmのフィラーを含有し、合計含有量が70質量%の比較例7は、いずれも25℃における粘度が2000Pa・s超と高く、印刷グレードのグラブトップ材として使用不可である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)難燃剤、および、(D)フィラーを含む液状封止材であって、
前記(C)難燃剤として、下記一般式(1)に示す9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(HCA)若しくはその誘導体、または、下記一般式(2)に示す10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10−ハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(HCA−HQ)若しくはその誘導体を反応成分の一つとする有機リン系難燃剤を、液状封止材全体に対して5〜12質量%の割合で、かつ液状封止材全体に対するリン含有率が0.1〜3質量%となるように含有し、
【化1】

【化2】

(式(1)、(2)中、Rは水素原子であるかハロゲン以外の置換基であって、それらが互いに同じでも異なってもよい。)
前記(D)フィラーとして、平均粒径が0.4〜5.0μmのフィラー(D1)、および、平均粒径が7.0〜25.0μmのフィラー(D2)を、液状封止材全体に対して前記フィラー(D1)および(D2)の合計含有量で60質量%超80質量%未満の割合で含有することを特徴とする液状封止材。
【請求項2】
前記(A)エポキシ樹脂として、液状エポキシ樹脂を含有する、請求項1に記載の液状封止材。
【請求項3】
前記(C)難燃剤として、HCA若しくはその誘導体を反応成分の一つとする有機リン系難燃剤を含有する、請求項1または2に記載の液状封止材。
【請求項4】
前記フィラー(D1)および前記フィラー(D2)を、含有量の相対比で1:99〜40:60となるように含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の液状封止材。
【請求項5】
前記(D)フィラーとして、さらに平均粒径が25μm超100μm以下のフィラー(D3)を、液状封止材全体に対して、前記フィラー(D1)、(D2)および(D3)の合計含有量で60質量%超80質量%未満の割合で含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の液状封止材。
【請求項6】
前記(B)硬化剤として、酸無水物系硬化剤を含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の液状封止材。
【請求項7】
さらに、(E)硬化促進剤を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載の液状封止材。
【請求項8】
さらに、(F)カップリング剤を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載の液状封止材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の液状封止材を用いて封止部位を封止してなる半導体装置。

【公開番号】特開2012−87226(P2012−87226A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235693(P2010−235693)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(591252862)ナミックス株式会社 (133)
【Fターム(参考)】