説明

液状封止材、それを用いた電子部品

【課題】注入性、接着性、硬化性、保存安定性等に優れ、かつ、ボイドが発生することがなく、さらに、封止した部位の耐湿性、耐サーマルサイクル性、耐リフロー、耐クラック性、耐反り等に優れた液状封止材、および、液状封止材を用いて封止部位を封止してなる電子部品の提供。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)芳香族アミン硬化剤、(C)金属錯体、(D)カップリング剤、および(E)シリカフィラーを含む液状封止材であって、前記(D)成分のカップリング剤が少なくともビニルトリメトキシシランを含有し、前記(E)成分のシリカフィラーがシランカップリング剤にて予め表面処理されていることを特徴とする液状封止材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンダーフィルとして用いられる液状封止材に関する。また、本発明は、該液状封止材を用いて封止部位を封止してなる電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化、高性能化に伴い半導体の実装形態がワイヤーボンド型からフリップチップ型へと変化してきている。
フリップチップ型の半導体装置は、バンプ電極を介して基板上の電極部と半導体素子とが接続された構造を持っている。この構造の半導体装置は、温度サイクル等の熱付加が加わった際に、エポキシ樹脂等の有機材料製の基板と、半導体素子と、の熱膨張係数の差によってバンプ電極に応力がかかり、バンプ電極にクラック等の不良が発生することが問題となっている。この不良発生を抑制するためにアンダーフィルと呼ばれる封止剤を用いて、半導体素子と基板との間のギャップを封止し、両者を互いに固定することによって、耐サーマルサイクル性を向上させることが広く行われている。
【0003】
アンダーフィルとして用いられる液状封止剤は、注入性、接着性、硬化性、保存安定性等に優れ、かつ、ボイドが発生しないことが求められる。また、液状封止材によって封止した部位が、耐湿性、耐サーマルサイクル性、耐リフロー、耐クラック性、耐反り等に優れることが求められる。
【0004】
上記の要求を満足するため、アンダーフィルとして用いられる液状封止材としては、エポキシ樹脂を主剤とするものが広く用いられている(特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−218624号公報
【特許文献2】特開平8−104795号公報
【特許文献3】特開2008−255178号公報
【特許文献4】特開平11−315189号公報
【特許文献5】特開2003−268206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液状封止材によって封止した部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性、特に耐サーマルサイクル性を向上させるためには、シリカフィラーのような無機物質からなる充填材(以下、「フィラー」という。)を液状封止材に添加することにより、エポキシ樹脂等の有機材料製の基板と、半導体素子と、の熱膨張係数差のコントロールを行うことや、バンプ電極を補強することが有効であることが知られている。
特許文献1〜3に記載の発明では、封止した部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性を向上させる目的で、シリカフィラーのようなフィラーを、これらの文献に記載のエポキシ樹脂組成物および液状樹脂封止材に添加することは記載も示唆もされていない。
特に、特許文献2には、以下に示すように、液状樹脂封止材へのシリカフィラーの添加について否定的な記載がなされている。
『また、一般に樹脂硬化物の耐熱性、耐湿性、電気特性を向上させるためには、その架橋密度を高くしてガラス転移温度(Tg )を高くすることが知られている。ところがこのような効果を期待して(Tg )を高くしすぎると、樹脂硬化物の弾性率を高くする結果となる。応力は一般に熱膨張率と弾性率との積に比例すると考えられているため、シリカ等の無機質充填材を添加して熱膨張係数を小さくできたとしても、結果的には応力歪みの低下につながらず、ストレスによる樹脂と基材(半導体チップやポリイミドテープ)との密着性の低下や、硬化物にクラックが発生する問題が生じていた。』
このため、特許文献1〜3に記載のエポキシ樹脂組成物および液状樹脂封止材をアンダーフィルとして使用した場合、液状封止材によって封止した部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性、特に耐サーマルサイクル性に劣ると考えられる。
【0007】
なお、特許文献2に記載の発明の場合、TAB(テープ・オートメーテッド・ボンディング)に使用される液状封止樹脂組成物とされており(同文献段落番号[0001]参照)、特許文献3に記載の発明の場合、COF(チップオンフィルム)型半導体封止用エポキシ樹脂組成物とされていることから(同文献の[要約]の[課題]、段落番号[0001]等参照)、封止した部位の耐サーマルサイクル性を向上させる目的で、シリカフィラーのようなフィラーを、液状樹脂封止樹脂組成物およびエポキシ樹脂組成物に添加する必要性は認識されていなかったものと考えられる。
TABやCOFの場合、柔軟性を有するフレキシブル配線基板を用いるため、温度サイクル等の熱付加が加わったとしても、基板と、半導体素子と、の熱膨張係数の差によってバンプ電極に応力がかかることはない。このため、TABやCOFの場合、シリカフィラーのようなフィラーを、液状樹脂封止樹脂組成物およびエポキシ樹脂組成物に添加し、バンプ電極を補強する必要がない。
【0008】
特許文献4に記載の発明は、エポキシ樹脂、硬化剤及び無機充填材を含む半導体装置封止用樹脂組成物であって、該無機充填材が、その表面に水酸基を含有するシリカを含みかつその水酸基含有シリカにおいて、トリメトキシシランを脱アルコール反応させた時、その反応に関与するトリメトキシシランの量が0.05ミリモル/g以上であることを特徴とする半導体装置封止用樹脂組成物に関する。
【0009】
特許文献4では、エポキシ樹脂と硬化剤の硬化反応を促進するための硬化触媒を用いてもよいとされており、硬化触媒として、2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−メチル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール化合物、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール,2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7,1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5などの3級アミン化合物、ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、テトラキス(アセチルアセトナト)ジルコニウム、トリ(アセチルアセトナト)アルミニウムなどの有機金属化合物及びトリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボラン、テトラフェニルホスフォニウム・テトラフェニルボレートなどの有機ホスフィン化合物が例示されている(同文献段落番号[0025])。
【0010】
また、特許文献4には、封止用樹脂組成物の無機充填材は、必要に応じて、シラン系カップリング剤で表面処理を行うことができるとされており、シラン系カップリング剤として、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランが例示されている(同文献段落番号[0032]、[0033])。
【0011】
特許文献5に記載の発明は、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、充填材(C)、および、2−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジヒドロキシベンゼン、1,2,3−トリヒドロキシベンゼン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、3,4,5−トリヒドロキシベンゾイックアシッド、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンを具体例とする特定の構造のベンゼン環化合物(D)を含有するエポキシ樹脂組成物であって、前記充填材(C)が該エポキシ樹脂組成物中に80重量%以上含有されていることを特徴とする精密部品用エポキシ樹脂組成物に関する。
【0012】
特許文献5では、エポキシ樹脂(A)と硬化剤(B)の硬化反応を促進するため硬化触媒を用いても良いとされており、硬化触媒として、2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール化合物、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、α−メチルベンジルメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7などの3級アミン化合物およびそれらの塩、ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、テトラキス(アセチルアセトナト)ジルコニウム、トリ(アセチルアセトナト)アルミニウムなどの有機金属化合物およびそれらの塩、およびトリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィンなどの有機ホスフィン化合物およびそれらの塩、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンとp−ベンゾキノンとの付加物などが例示されている(同文献段落番号[0014])。
【0013】
また、特許文献5では、エポキシ樹脂組成物がカップリング剤を含んでいることが好ましいとされており、カップリング剤として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネートなどのチタネート系カップリング剤、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどのアルミニウム系カップリング剤が例示されている。これらカップリング剤は、あらかじめ充填材に表面処理してもよいが、エポキシ樹脂組成物中に添加するだけでもかまわないとされている(同文献段落番号[0026]、[0027])。
【0014】
上述したように、封止した部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性を向上させるためには、シリカフィラーのようなフィラーを液状封止材に添加することが有効である。
しかしながら、液状封止材にシリカフィラーのようなフィラーを添加すると、該液状封止材の注入性が低下する傾向がある。
近年、半導体装置における狭ギャップ化の進行により、アンダーフィルとして用いられる液状封止材には注入性の向上が強く求められている。
【0015】
本発明は上記した従来技術の問題点を解決するため、注入性、接着性、硬化性、保存安定性等に優れ、かつ、ボイドが発生することがなく、さらに、封止した部位の耐湿性、耐サーマルサイクル性、耐リフロー、耐クラック性、耐反り等に優れた液状封止材、および、液状封止材を用いて封止部位を封止してなる電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明は、(A)エポキシ樹脂、(B)芳香族アミン硬化剤、(C)金属錯体、(D)カップリング剤、および、(E)シリカフィラーを含む液状封止材であって、前記(D)成分のカップリング剤が少なくともビニルトリメトキシシランを含有し、前記(E)成分のシリカフィラーがシランカップリング剤にて予め表面処理されていることを特徴とする液状封止材を提供する。
【0017】
本発明の液状封止材において、前記(E)成分のシリカフィラーが、トリメトキシシラン化合物およびトリエトキシシラン化合物のうち、少なくとも一方を含むシランカップリング剤にて予め表面処理されていることが好ましい。
【0018】
本発明の液状封止材において、前記(E)成分のシリカフィラーが、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランおよび3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのうち、少なくとも一方を含むシランカップリング剤にて予め表面処理されていることが好ましい。
【0019】
本発明の液状封止材において、前記(E)成分のシリカフィラーの平均粒径が0.05〜10μmであることが好ましい。
【0020】
本発明の液状封止材において、前記(E)成分のシリカフィラーの含有量が40〜80wt%であることが好ましい。
【0021】
本発明の液状封止材において、前記(C)成分の金属錯体が、アルミニウムトリアセチルアセトネートおよびアルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネートからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0022】
本発明の液状封止材において、前記(B)成分の芳香族アミン硬化剤の割合が、前記(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.7〜1.5当量であることが好ましい。
【0023】
本発明の液状封止材において、前記(D)成分のカップリング剤としてのビニルトリメトキシシランの含有量が0.2〜2.0wt%であることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、本発明の液状封止材を用いて封止部位を封止してなる電子部品を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の液状封止材は、注入性、接着性、硬化性、保存安定性等に優れ、かつ、ボイドを発生することがなく、さらに、封止した部位の耐湿性、耐サーマルサイクル性、耐リフロー、耐クラック性、耐反り等に優れている。
本発明の液状封止材は、(D)成分に含まれるビニルトリメトキシシランと、(C)成分の金属錯体と、の相互作用により、(A)成分のエポキシ樹脂の付加反応(硬化)を促進する触媒成分として作用することにより、液状封止材の硬化物表面に皺が発生する等の外観不良が生じるのを防止できる。
本発明の電気部品は、封止部の耐湿性に優れているため、配線間の絶縁劣化や回路短絡がない。また、封止部の耐サーマルサイクル性に優れているため、温度サイクル等の熱付加が加わることによって、エポキシ樹脂等の有機材料製の基板と、半導体素子と、の熱膨張係数の差によってバンプ電極に応力がかかり、バンプ電極にクラック等の不良が発生することがない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、実施例1の液状封止材の硬化物の外観を示した写真である。
【図2】図2は、比較例2の液状封止材の硬化物の外観を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の液状封止材は、以下に示す(A)〜(E)成分を必須成分として含有する。
【0028】
(A)成分:エポキシ樹脂
(A)成分のエポキシ樹脂は、本発明の液状封止材の主剤をなす成分である。
(A)成分のエポキシ樹脂は、常温で液状であることが好ましいが、常温で固体のものであっても、他の液状のエポキシ樹脂又は希釈剤により希釈し、液状を示すようにして用いることができる。
【0029】
具体的には、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのグリシジルエーテルであるビスフェノール型エポキシ樹脂:ジグリシジルアニリン、ジグリシジルオルソトルイジン、パラアミノフェノール型エポキシ樹脂などの液状グリシジルアミン型エポキシ樹脂;(3’,4’−エポキシシクロヘキサン)メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、1−メチル−4−(2−メチルオキシラニル)−7−オキサビシクロ[4,1,0]ヘプタンなどの脂環型エポキシ樹脂;2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジグリシジルエーテルなどの水添型エポキシ樹脂、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンなどのエポキシ基を有するシクロヘキサンオリゴマー、ノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。好ましいのは液状ビスフェノール型エポキシ樹脂、液状グリシジルアミン型エポキシ樹脂、エポキシ基を有するシクロヘキサンオリゴマーであり、特に好ましいのは液状ビスフェノールAエポキシ樹脂、液状ビスフェノールFエポキシ樹脂、液状パラアミノフェノール型エポキシ樹脂、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、液状ビスフェノールAエポキシ樹脂の水素化物、(3’,4’−エポキシシクロヘキサン)メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、1,2:8,9−ジエポキシネンなどである。
(A)成分としてのエポキシ樹脂は、上述したエポキシ樹脂のうち、いずれか1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
(B)成分:芳香族アミン硬化剤
(B)成分の芳香族アミン硬化剤は、(A)成分のエポキシ樹脂の硬化剤である。
(B)成分の芳香族アミン硬化剤は、常温で液状であることが好ましいが、常温で固体のものであってもよい。常温で固体の場合は、加熱して液状化してから(A)成分のエポキシ樹脂と混合することが好ましい。
【0031】
(B)成分の芳香族アミン硬化剤は、アルキレンジアニリン構造を有する芳香族アミンであることが好ましく、芳香環に少なくとも一つの置換基を有する芳香族アミンであることが好ましい。置換基はメチル基、エチル基などの低級アルキル基、メトキシ基などの低級アルコキシ基であることが好ましい。(B)成分の芳香族アミン硬化剤(B)は、それを合成する際に副生するオリゴマーなどを含有していても差支えない。(B)成分の芳香族アミン硬化剤は単独使用でも複数を併用することもできる。勿論、(B)成分の芳香族アミン硬化剤の特性を損なわない限り、その他のアミン硬化剤を併用することができる。
【0032】
(B)成分の芳香族アミン硬化剤は、具体的には、メタフェニレンジアミン、1,3−ジアミノトルエン、1,4−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノトルエン、3,5−ジエチル−2,4−ジアミノトルエン、3,5−ジエチル−2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノアニソールなどの芳香環1個の芳香族アミン硬化剤;2,4−ジアミノジフェニルメタン、4,4−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノフェニルメタンなどの芳香環2個の芳香族アミン硬化剤;該芳香族アミン硬化剤の加水分解縮合物;ポリテトラメチレンオキシドジ−p−アミノ安息香酸エステル、ポリテトラメチレンオキシドジパラアミノベンゾエートなどの芳香族アミン硬化剤;芳香族ジアミンとエピクロロヒドリンとの縮合物や芳香族ジアミンとスチレンとの反応生成物などが挙げられる。
【0033】
好ましいのは、アルキレンジアニリン構造を有する芳香族アミンであり、特に好ましいのは反応性などの点から液状の4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)である。
また、粘度が低い液状封止材を得ることができることから、3,5−ジエチル−2,4−ジアミノトルエン、3,5−ジエチル−2,6−ジアミノトルエンの併用が好ましい。
【0034】
(B)成分の芳香族アミン硬化剤は、そのアミノ基がエポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対し0.7〜1.5当量、好ましくは0.8〜1.2当量の割合になるように配合される。上記範囲外であると、液状封止材の半導体素子に対する接着強度の低下やガラス転移点の低下などの問題が起きることがある。
【0035】
(C)成分:金属錯体
(C)成分の金属錯体は、(A)成分のエポキシ樹脂の硬化を、(D)成分のカップリング剤と協同して促進する触媒成分である。(C)成分の金属錯体は、硬化促進作用を有するものであれば特に限定されないが、所望の加熱温度における硬化促進作用を発現し、保存安定性が良好で、ポットライフ性にも優れるものが好ましい。
金属としてはアルミニウム、鉄、亜鉛、インジウム、マグネシウム等が挙げられるが、アルミニウムが好ましい。
配位子としては、アセチルアセトナート、ピリジン、トリフェニルホスフィン、エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸などが挙げられるが、アセチルアセトナートが好ましい。特に好ましいのはアルミニウムのアセチルアセトナート錯体である。
勿論、(C)成分の金属錯体を二種以上併用することもできる。また、(C)成分の金属錯体の特性を損なわない限り、その他の金属錯体を併用することもできる。
【0036】
アルミニウムのアセチルアセトナート錯体としては、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムトリス(オクタデシルアセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(ヘキサデシルアセチルアセトネート)、アルミニウムエチルアセチルアセトネート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネートなどが挙げられるが、硬化性、保存安定性などの点からアルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネートが好ましい。勿論、これらの二種以上を併用することもできる。
【0037】
(C)成分の金属錯体は、(D)成分のカップリング剤と協同して触媒作用をすることから、その配合量を一義的に決めることができないが、(C)成分の金属錯体(C)の配合量の目安は、(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分の芳香族アミン硬化剤の合計量100質量部に対し0.1〜2質量部であり、好ましくは0.2〜1.8質量部である。該範囲より少ないと、液状封止材が硬化性に劣るおそれがあり、該範囲より多いと液状封止材の保存安定性が悪化するおそれがある。
【0038】
(D)成分:カップリング剤
(D)成分のカップリング剤は、(B)成分の芳香族アミン硬化剤による、(A)成分のエポキシ樹脂の付加反応(硬化)を促進する触媒成分として、(C)成分の金属錯体と協同して作用する。
(D)成分のカップリング剤の具体例としては、後述するシランカップリング剤や下記構造式で表されるケイ素化合物が挙げられる。
【化1】

上記構造式中、Rは炭素数1〜10の直鎖状または分岐状のアルキル基であり、R′は炭素数1〜2のアルキル基であり、nは1〜3の整数である。
【0039】
シランカップリング剤としては、ビニル系、グリシドキシ系、メタクリル系、アミノ系、メルカプト系などがあるが、ビニルシランカップリング剤が、他のシランカップリング剤に比べ、(C)成分の金属錯体と組合せた場合、液状封止材の硬化物の膨れなどの外観不良を起こさないので好ましい。
【0040】
ビニルシランカップリング剤としては、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどが挙げられるが、特に好ましいのはビニルトリメトキシシランである。これらは併用することができる。
【0041】
グリシドキシシランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランなどが挙げられる。好ましいのは3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランである。
【0042】
アミノシランカップリング剤としては、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリメトキシシリル)−1−プロピルアミン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−2−(トリメトキシシリル)−1−プロピルアミン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロピルアミン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−2−(トリエトキシシリル)−1−プロピルアミンなど、および、それらの加水分解縮合物が挙げられる。好ましいのはN−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロピルアミンなどである。
【0043】
メルカプトシランカップリング剤としては、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が好ましい。
【0044】
上記構造式で表されるケイ素化合物としては、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、ジフェニルメチルメトキシシランなどのモノアルコキシシラン;ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどのジアルコキシシラン;トリ(パラメトキシフェニル)シラン、パラメチルベンジルトリメトキシシランなどのトリアルコキシシランなどである。好ましいのはジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランなどのジアルコキシシランである。これらは併用することができる。また、これらのケイ素化合物は、上述したシランカップリング剤と併用することもできる。
【0045】
(D)成分のカップリング剤として、上述したシランカップリング剤、および、上記構造式で表わされるケイ素化合物のうちの1種、または、2種以上を用いることができる。但し、硬化物の表面での皺発生防止等の理由から、(D)成分のカップリング剤は、少なくともビニルトリメトシキシランを含有する。
(D)成分のカップリング剤が、少なくともビニルトリメトシキシランを含有することにより、硬化物の表面での皺発生を防止できる理由を以下に説明する。
【0046】
本発明の液状封止材のように、エポキシ樹脂の硬化剤として、芳香族アミン硬化剤を使用する場合、酸がエポキシ樹脂の付加反応(硬化)を促進する触媒成分として作用する。
しかしながら、液状封止材に酸を含有させると、液状封止材の保存安定性が悪化するため、液状封止材を加熱した際に酸を発生し、硬化促進作用を発現する潜在性硬化触媒が好ましく使用される。
このような潜在性硬化触媒としては、シランカップリング剤と、金属錯体と、の組み合わせが、所望の加熱温度で酸を発生し、硬化促進作用を発現するので好ましく用いられる。
【0047】
潜在性硬化触媒として、シランカップリング剤と、金属錯体と、の組み合わせを使用する場合、液状封止材を加熱した際、雰囲気中の水分によってシランカップリング剤が加水分解が進行し、それによって生じたブレンステッド酸が硬化促進作用を発現する。
シランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルメトキシシランが、エポキシ樹脂との親和性を有することから通常用いられるが、加水分解速度が比較的遅いため、液状封止材の表層と、内部で、は加水分解速度に差が生じる。具体的には、液状封止材の表層のほうが、該液状封止材の内部よりも加水分解速度が速い。この結果、エポキシ樹脂の硬化も、液状封止材の内部よりも表層のほうが速く進行し、エポキシ樹脂の硬化時には収縮反応を伴うため、液状封止材の硬化物表面に皺が発生することとなる。
【0048】
一方、ビニルトリメトキシシランは、加水分解しやすいため、液状封止材の表層と、内部と、の加水分解速度の差がないか、差があってもその差がきわめて小さい。この結果、液状封止材の内部と、表層と、でエポキシ樹脂の硬化の進行に差が生じることがなく、液状封止材の硬化物表面に皺が発生することがない。
【0049】
特許文献4には、封止用樹脂組成物の無機充填材は、必要に応じて、シラン系カップリング剤で表面処理を行うことができるとされているが、これは本発明の液状封止材の(E)成分と同様の目的での使用であり、エポキシ樹脂の潜在性硬化触媒成分として、シランカップリング剤を使用することは記載も示唆もされていない。
この点については、特許文献4の段落番号[0007]〜[0011]、および、[0034]には、封止用樹脂組成物中に未反応のシラン系カップリング剤が存在すると、大気中の水分とシラン系カップリング剤とが反応してアルコールが発生し、このアルコールがボイドやクラックの原因となると記載されていることからも明らかである。
なお、本願発明の液状封止材では、(C)成分の金属錯体と、(D)成分のカップリング剤と、を組み合わせて、エポキシ樹脂の潜在性硬化触媒として使用するため、特許文献4の段落番号[0007]〜[0011]、および、[0034]に記載されているような問題を生じることがない。
【0050】
特許文献5についても、エポキシ樹脂組成物がカップリング剤を含んでいることが好ましいとされているが、本発明の液状封止材の(E)成分と同様の目的での使用、すなわち、充填材を表面処理する目的での使用である。特許文献5の段落番号[0027]には、カップリング剤は、エポキシ樹脂組成物中に添加するだけでもかまわないと記載されているが、充填材を表面処理する目的での使用である。この点については、カップリング剤と、金属錯体と、を組み合わせて、エポキシ樹脂の潜在性硬化触媒として使用することが全く記載されていないことや、充填剤をカップリング剤であらかじめ表面処理したうえで、ささらにエポキシ樹脂組成物中にカップリング剤を添加するとは記載されていないことからも明らかである。
【0051】
本発明の液状封止材において、(D)成分のカップリング剤としてのビニルトリメトシキシランの含有量は、0.2〜2.0wt%であることが好ましく、0.3〜1.5wt%であることがより好ましく、0.5〜1.0wt%であることがさらに好ましい。
ビニルトリメトシキシランの含有量が0.2wt%未満だと、硬化物の表面に皺が発生するおそれがある。一方、ビニルトリメトシキシランの含有量が2.0wt%超だと、硬化時においてボイドが発生するおそれがある。
なお、(D)成分のカップリング剤自体の配合割合の好適範囲については後述する。
【0052】
(D)成分のカップリング剤は、(D)成分の金属錯体と協同して触媒作用をすることから、その配合量を一義的に決めることができないが、(D)成分のカップリング剤の配合割合の目安は、(A)成分のエポキシ樹脂と(B)成分の芳香族アミン硬化剤の合計量100質量部に対し、0.5〜4質量部であることが好ましく、より好ましくは0.8〜3質量部である。該範囲より少ないと、液状封止材が硬化性に劣るおそれがあり、該範囲より多いと液状封止材の保存安定性が悪化するおそれがある。
【0053】
(E)成分:シリカフィラー
(E)成分のシリカフィラーは、封止した部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性、特に耐サーマルサイクル性を向上させる目的で液状封止材に添加される。
しかしながら、上述したように、液状封止材にシリカフィラーのようなフィラーを添加すると、該液状封止材の注入性が低下する傾向がある。
本発明の液状封止材では、(E)成分のシリカフィラーとして、シランカップリング剤で予め表面処理されたものを用いることで、液状封止材の注入性を低下させることなしに、封止した部位の耐湿性および耐サーマルサイクル性、特に耐サーマルサイクル性を向上させる。
【0054】
シリカフィラーの表面処理には、ビニル系、グリシドキシ系、メタクリル系、アミノ系、メルカプト系などの各種シランカップリング剤を用いることができる。シリカフィラーの表面処理に用いるシランカップリング剤は、トリメトキシシラン化合物およびトリエトキシシラン化合物のうち、少なくとも一方を含むことが液状封止材の注入性の低下を抑制する効果に優れることから好ましい。また、シリカフィラーの分散安定性に優れ、液状封止剤の保存安定性の点からも好ましい。
なお、シリカフィラーの表面処理に用いるシランカップリング剤は、トリメトキシシラン化合物およびトリエトキシシラン化合物のうち一方のみ含有してもよく、これらの両方を含有してもよい。トリメトキシシラン化合物およびトリエトキシシラン化合物の具体例については後述する。
【0055】
トリメトキシシラン化合物の具体例としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシランが例示される。
トリエトキシシラン化合物の具体例としては、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロピルアミン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランが例示される。
これらの中でも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランおよび3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが、液状封止材の注入性の低下を抑制する効果、および、保存安定性に優れることから好ましい。
【0056】
シランカップリング剤によって、シリカフィラーを表面処理する方法は特に限定されず、例えば、撹拌法や湿式法等により実施することができる。
撹拌法は、予めシランカップリング剤とシリカフィラーとを撹拌装置に仕込み、適切な条件で撹拌する方法である、上記撹拌装置としては、ヘンシェルミキサー等の高速回転で撹拌・混合が可能なミキサーを用いることができるが、特に限定されるものではない。撹拌の条件も特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、シリカフィラーをヘンシェルミキサーに仕込み、1000rpmで3分間予備混合した後、シランカップリング剤を滴下し、さらに1000rpmで5分間本混合する条件を挙げることができる。なお、上記予備混合および本混合の回転速度や混合時間は、用いるシランカップリング剤の種類や、シリカフィラーおよびシランカップリング剤の配合内容や配合量により適切な条件を選択すればよい。
湿式法は、表面処理しようとするシリカフィラーの表面積に対して十分な量のシランカップリング剤を水または有機溶剤に溶解して、シランカップリング剤をなす化合物の分子を加水分解させることにより、表面処理溶液とする。この表面処理溶液の濃度は特に限定されるものではないが、例えば、約3質量%を挙げることができる。得られた表面処理溶液に対してシリカフィラーを添加し、スラリー状となるように撹拌する。撹拌によってシランカップリング剤およびシリカフィラーを十分反応させた後、濾過や遠心分離等の方法によりシリカフィラーを表面処理溶液から分離し、加熱乾燥する。
なお、上記撹拌法や湿式法以外にも、例えば、シリカフィラーを溶媒中に分散させてなるシリカフィラー分散液に直接シランカップリング剤を添加し、シリカフィラーの表面を改質するインテグラルブレンド法も好適に用いることができる。
【0057】
(E)成分のシリカフィラーは、平均粒径が0.05〜10μmであることが、液状封止材の粘度調整、液状封止剤の注入性、ボイドの発生防止等の観点から好ましく、0.1〜5μmであることがより好ましく、0.3〜3μmであることがさらに好ましい。
ここで、シリカフィラーの形状は特に限定されず、粒状、粉末状、りん片等のいずれの形態であってもよい。なお、シリカフィラーの形状が粒状以外の場合、シリカフィラーの平均粒径とはシリカフィラーの平均最大径を意味する。
【0058】
本発明の液状封止材において、(E)成分のシリカフィラーの含有量が40〜80wt%であることが、バンプ電極の補強や、エポキシ樹脂等の有機材料製の基板と、半導体素子と、の熱膨張係数の差の低減等の理由から好ましく、50〜70wt%であることがより好ましく、55〜65wt%であることがさらに好ましい。
【0059】
本発明の液状封止材は、上記(A)〜(E)成分以外に、以下に述べる成分を必要に応じて含有してもよい。
【0060】
(その他の配合剤)
本発明の液状封止材は、上記(A)〜(E)成分以外の成分を必要に応じてさらに含有してもよい。
このような成分の具体例としては、レベリング剤、着色剤、イオントラップ剤、消泡剤、難燃剤などを配合することができる。各配合剤の種類、配合量は常法通りである。また、オキタセン、アクリレート、ビスマレイミドなどの熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、エラストマーなどを配合してもよい。
【0061】
(液状封止材の調製)
本発明の液状封止材は、上記(A)〜(E)成分、および、さらに必要に応じて配合するその他の配合剤を混合し、攪拌して調製される。混合攪拌は、ロールミルを用いて行うことができるが、勿論、これに限定されない。(A)成分のエポキシ樹脂が固形の場合には、加熱などにより液状化ないし流動化し混合することが好ましい。
各成分を同時に混合しても、一部成分を先に混合し、残り成分を後から混合するなど、適宜変更しても差支えない。
【0062】
本発明の液状封止材において、(B)成分として使用する芳香族アミン硬化剤はガラス転移点(Tg)の調整が容易である点でフェノール系硬化剤や酸無水物系硬化剤に比べて優れているが、硬化が遅く、ブリードやクリーピングが発生しやすい問題がある。本発明では、(D)成分として特定のカップリング剤を使用し、かつ、(E)成分として特定の表面処理をしたシリカフィラーを使用することにより、(C)成分としての金属錯体の併用が可能になり、硬化性が向上して結果的に短所であるブリード、クリーピングを抑制できる。
【0063】
次に本発明の液状封止材の使用方法について説明する。
本発明の液状封止材を使用する場合、封止対象とする部位(封止対象とする面)に対して、本発明の液状封止材をディスペンサ、印刷機等を用いて塗布する。ここで、塗布時の温度は70〜120℃であることが好ましい。
その後、所定温度で所定時間、具体的には、140〜170℃で20分〜3時間加熱硬化させることによって封止が完了する。
【0064】
本発明の電子部品は、本発明の液状封止材を用いて上記の手順で封止部位を封止したものである。ここで封止を行う電子部品としては、半導体素子が挙げられ、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタおよびダイオードおよびコンデンサ等で特に限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
(実施例1〜5、比較例1〜5)
表1に示す成分を、表1に示す量(質量部)で量り取り、一挙に混合した混合物を三本ロールミル混練し、均一な液状封止材を得た。ついで、該液状封止材を減圧下に置き、液状封止材中の気泡を除去し、評価用試料にした。
なお、表中の記号は、それぞれ以下を表わす。
エポキシ樹脂(A):ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量158)
芳香族アミン系硬化剤(B):4,4’−ジアミノ−3,3’ −ジエチルジフェニルメタン
金属錯体(C):アルミニウムトリスアセチルアセトナート
カップリング剤(D1):3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
カップリング剤(D2):ビニルトリメトキシシラン
シリカフィラー(E1):3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン表面処理シリカフィラー(平均粒径2μm)
シリカフィラー(E2):3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン表面処理シリカフィラー(平均粒径2μm)
シリカフィラー(E3):表面未処理シリカフィラー(平均粒径2μm)
【0067】
上記の手順で得られた液状封止材の硬化性、注入性、該液状封止材の硬化物の外観、および耐サーマルサイクル性を下記方法により評価した。
【0068】
(硬化性)
150±2℃の熱板上に評価用試料を約5mmφの大きさに滴下し、糸引きがなくなるまでの時間を、ストップウォッチにより測定した。
【0069】
(注入性)
ガラス基板を50μmのギャップを空けて張り合わせ、該ギャップの中に評価用試料を毛管作用により注入し、20mmまでの到達時間を測定する。
【0070】
(外観)
評価用試料の約5gを金属ケース(50mmφ)に量り取り、150℃で90分間加熱し、硬化させて、試験片を作製した。該試験片の硬化状態(皺、ボイド)を目視観察した。
また、ガラス基板を50μmのギャップを空けて張り合わせ、該ギャップの中に評価用試料を毛管作用により注入し、その後、150℃で90分間加熱し硬化させ、試験片を作製した。該試験片の注入部およびフィレット部の硬化状態を目視観察し、ボイドおよび皺の有無を確認した。いずれにおいても皺、ボイドがない場合を、外観良好と見て合格(○)とし、いずれか一方に皺、ボイドがある場合を、外観不良と見て不合格(×)とした。
実施例1と比較例2については、また、ステンレス板に厚さ約250μmになるように評価用試料を塗布し、165℃で90分間加熱し、硬化させて試験片の硬化状態(ワレ・フクレ)を観察した。図1は実施例1の試験片(液状封止材の硬化物)の外観を示した写真であり、図2は比較例2の試験片(液状封止材の硬化物)の外観を示した写真である。
【0071】
(耐サーマルサイクル性)
FR−4基板(基板サイズ52.5mm×30.0mm×厚さ0.73mm)上に、PIパッシベーションダイ(ダイサイズ10mm×10mm×厚さ0.73mm)、Sn5Pb95バンプ(バンプピッチ175μm)を形成させたテストエレメントグループ(TEG)(株式会社日立超LSIシステムズ製)を使用し、上記の手順で得られた液状封止材をダイ部分に注入し、165℃で120分間加熱し液状封止材を硬化させることによって、封止した試験片を260℃リフローを1回、JEDEC Lv3、260℃リフロー3回かけた後、サーマルサイクル(−55℃/30min.⇔125℃/30min.)を実施した後、超音波探傷装置を用いて観察し、内部クラック及び界面剥離の有無、抵抗値変化を調べた。内部クラック及び界面剥離がなく、抵抗値変化が10%未満であった場合を合格とし、内部クラック及び界面剥離の面積がダイ面積の1%以上か、または、抵抗値変化が10%以上の場合を不合格とし、1000サイクルまで実施した。
【0072】
(ポットライフ、増粘倍率)
調製後の評価用試料の粘度を回転粘度計(50rpm)を用いて測定した後、該評価用試料を密閉容器に入れて25℃、湿度50%の環境にて24時間保管した時点における粘度を同様の手順で測定し、調製直後の粘度に対する倍率を算出した。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
実施例1〜5の液状封止材は、硬化性、注入性、外観、耐サーマルサイクル性、ポットライフの評価結果がいずれも良好であった。一方、(E)成分として、表面未処理のシリカフィラーを使用した比較例1の液状封止材は注入性に劣っていた。また、(D)成分のカップリング剤として、ビニルトリメトキシシラン(D2)を含まない比較例2,3の液状封止材は硬化性に劣っていた。特に、(C)成分の金属錯体を含有する一方で、(D)成分のカップリング剤として、ビニルトリメトキシシラン(D2)を含まない比較例2の液状封止材は硬化物の外観も劣っていた。また、図1に示すように、実施例1の硬化物は表面に皺が発生せず、外観が良好であったのに対して、図2に示すように、比較例2の硬化物は、表面に皺が発生しており、外観が劣っていた。また、シリカフィラー((E1)〜(E3))を含まない比較例4の液状封止材は耐サーマルサイクル性に劣っており、250サイクルに達する前に不合格となった。また、金属錯体(C)を含まない比較例5の液状封止材は硬化性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)芳香族アミン硬化剤、(C)金属錯体、(D)カップリング剤、および(E)シリカフィラーを含む液状封止材であって、前記(D)成分のカップリング剤が少なくともビニルトリメトキシシランを含有し、前記(E)成分のシリカフィラーがシランカップリング剤にて予め表面処理されていることを特徴とする液状封止材。
【請求項2】
前記(E)成分のシリカフィラーが、トリメトキシシラン化合物およびトリエトキシシラン化合物のうち、少なくとも一方を含むシランカップリング剤にて予め表面処理されていることを特徴とする請求項1に記載の液状封止材。
【請求項3】
前記(E)成分のシリカフィラーが、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランおよび3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのうち、少なくとも一方を含むシランカップリング剤にて予め表面処理されていることを特徴とする請求項2に記載の液状封止材。
【請求項4】
前記(E)成分のシリカフィラーの平均粒径が0.05〜10μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液状封止材。
【請求項5】
前記(E)成分のシリカフィラーの含有量が40〜80wt%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液状封止材。
【請求項6】
前記(C)成分の金属錯体が、アルミニウムトリアセチルアセトネートおよびアルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネートからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液状封止材。
【請求項7】
前記(B)成分の芳香族アミン硬化剤の割合が、前記(A)成分のエポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.7〜1.5当量であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の液状封止材。
【請求項8】
前記(D)成分のカップリング剤としてのビニルトリメトキシシランの含有量が0.2〜2.0wt%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の液状封止材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の液状封止材を用いて封止部位を封止してなる電子部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−117033(P2012−117033A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120662(P2011−120662)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(591252862)ナミックス株式会社 (133)
【Fターム(参考)】