説明

液状熱硬化性樹脂組成物、樹脂硬化物、銅張積層板、銅張積層板の製造方法

【課題】銅張積層板の製造等に用いられるラジカル重合型樹脂とエポキシ樹脂とを含有する液状樹脂組成物において、保存中に増粘しにくい液状樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、(B)ラジカル重合型熱硬化性樹脂、(C)スチレン系モノマー、(D)(メタ)アクリル酸、(E)イミダゾール系化合物、及び(F)ラジカル重合開始剤、を含有し、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計100質量部に対し、(D)(メタ)アクリル酸を2〜20質量部含有する液状熱硬化性樹脂組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅張積層板等の製造に用いられる液状熱硬化性樹脂組成物、樹脂硬化物、それらを用いた銅張積層板、及び、銅張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅張積層板等の製造に用いられる液状熱硬化性樹脂として、ビニルエステル樹脂等のラジカル重合型樹脂やエポキシ樹脂が広く用いられている。
【0003】
ビニルエステル樹脂等のラジカル重合型樹脂は、樹脂の粘度が低いために、成形性、特に、ガラスクロス等の基材に含浸させる際の含浸性に優れており、また、過酸化物の分解によるラジカル反応により硬化されるために硬化時間が短いという点においても優れている。しかし、得られる硬化物の靭性や耐熱性が低いという欠点があった。
【0004】
一方、エポキシ樹脂は、硬化物の靭性や耐熱性が高いなど、硬化物の特性においては優れているが、硬化反応に時間がかかり、また、樹脂の粘度が高いためにガラスクロス等の基材への含浸性に乏しいという欠点があった。
【0005】
このようなラジカル重合型樹脂及びエポキシ樹脂の長所を活かし、欠点を補った、ラジカル重合型樹脂とエポキシ樹脂とを樹脂成分として含有する熱硬化性樹脂が知られている(例えば、下記特許文献1)。このような熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂の欠点である含浸性等が改良され、且つ、ラジカル重合型樹脂の欠点である硬化物の靭性や耐熱性等が改良されたものである。
【特許文献1】特開平8−118542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ラジカル重合型樹脂とエポキシ樹脂とを樹脂成分として含有する液状熱硬化性樹脂組成物においては、ラジカル重合型樹脂とエポキシ樹脂とが互いに相溶性が低く、保存中に増粘しやすいという問題があった。このような増粘の発生は、例えば、銅張積層板の製造の際においては、ガラスクロス等の基材に対する含浸性の低下を引き起こす。そして、このような含浸性の低下により、積層板の内部にボイドが生じたり、厚み精度の低下を引き起こすという問題があった。
【0007】
本発明は、ラジカル重合型樹脂とエポキシ樹脂とを含有する液状樹脂組成物において、保存中に増粘しにくい保存安定性(ポットライフ)に優れた液状樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物は、(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、(B)ラジカル重合型熱硬化性樹脂、(C)スチレン系モノマー、(D)(メタ)アクリル酸、(E)イミダゾール系化合物、及び(F)ラジカル重合開始剤、を含有し、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計100質量部に対し、(D)(メタ)アクリル酸を2〜20質量部含有するものである。このような構成によれば、ラジカル重合型樹脂とエポキシ樹脂とを含有する前記液状熱硬化性樹脂組成物において、保存時に増粘しにくくなる。これは、上記のように、特定の割合で(メタ)アクリル酸を含有させることにより、樹脂成分の相溶性が高まるために液状熱硬化性樹脂組成物が安定化するためであると考えられる。また、得られる硬化物の吸水率は低く、また耐熱性も高い。
【0009】
前記樹脂組成物中のワニス(樹脂溶液)成分の酸価としては5〜130であることが、保存安定性がさらに高くなる点から好ましい。なお、前記樹脂組成物中のワニス(樹脂溶液)成分とは、樹脂組成物中の不溶物である、無機フィラーや難燃剤を除いた、溶解成分を意味する。
【0010】
また、前記液状熱硬化性樹脂組成物中の(A)成分と(B)成分との含有比率が30/70〜70/30(質量比)である場合には、優れた硬化性を維持しながら、高い耐熱性及び靭性を維持することができる点から好ましい。
【0011】
また、前記液状熱硬化性樹脂組成物中の(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計100質量部に対し、(E)イミダゾール系化合物を、0.3〜2質量部含有する場合には、速硬化性と保存安定性とのバランスに優れる点から好ましい。
【0012】
また、(E)イミダゾール系化合物としては、−NH、及び−OH基を含有しないものが好ましい。−NH、及び−OH基はラジカル反応を阻害する。従って、−NH、及び−OH基を含有しないイミダゾール系化合物を用いることにより、ラジカル反応性が高くなり、硬化性に優れた液状熱硬化性樹脂組成物が得られる。
【0013】
また、前記液状熱硬化性樹脂組成物が、液状エラストマーをさらに含有する場合には、靭性に優れた硬化物が得られる。
【0014】
また、本発明の樹脂硬化物は、前記液状熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなるものである。このような硬化物は、耐熱性に優れたものであり、また、硬化時間が短時間であるために、連続生産することが容易である。
【0015】
また、本発明の銅張積層板は、前記液状熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸させて硬化させてなる樹脂絶縁層と、前記樹脂絶縁層表面に張り合わされた銅箔層とを備える。
【0016】
また、本発明の銅張積層板の製造方法は、前記液状熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸させる工程と、前記樹脂組成物を含浸させた基材の少なくとも1面に銅箔を張り合わせる工程と、前記樹脂組成物を加熱することにより硬化させる工程とを有することを特徴とする。このような製造方法は、前記液状熱硬化性樹脂組成物が増粘しにくいために、製造安定性に優れる。従って、特に、銅張積層板を大量に連続生産する場合においても、高い製造安定性が得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ラジカル重合型樹脂とエポキシ樹脂とを含有する液状樹脂組成物において、経時的な増粘が起こりにくい、保存安定性に優れた液状樹脂組成物が得られる。また、その硬化物は、低吸水性、高い耐熱性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物に含有される、(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を含有する、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0019】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等が挙げられ、ノボラック型エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。また、これらが、ブロム化ビスフェノールやブロム化フェノールノボラック等のような臭素含有化合物の誘導体である場合には、難燃性を付与できる点から、さらに好ましい。
【0020】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ基の数としては、一分子中に2個以上であれば特に制限はないが、製造を考慮すれば、一分子中に5個以下のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物に含有される、(B)ラジカル重合型熱硬化性樹脂は、分子中にラジカル重合性不飽和基を有する樹脂である。ラジカル重合型熱硬化性樹脂(B)の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂とアクリル酸やメタクリル酸のような不飽和脂肪酸との反応物であるビニルエステル樹脂や、プロピレングリコール,ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物等と無水マレイン酸やフマル酸等の多塩基不飽和酸との反応物である不飽和ポリエステル等が挙げられる。
【0022】
前記ビニルエステル樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物の(メタ)アクリレート、ノボラック型エポキシ化合物の(メタ)アクリレート、多官能エポキシ化合物の(メタ)アクリレート等が挙げられ、前記不飽和ポリエステルの具体例としては、例えば、イソフタル酸系不飽和ポリエステルやビスフェノール系不飽和ポリエステル等が挙げられる。
【0023】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物に含有される、(C)スチレン系モノマーは液状熱硬化性樹脂組成物の粘度を調整するための希釈剤として用いられるとともに、ラジカル重合することにより樹脂成分の一部となる成分である。
【0024】
(C)スチレン系モノマーの具体例としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ハロゲン化スチレン等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。(C)スチレン系モノマーの配合量としては、ワニス中に15〜40質量%、さらには25〜30質量%配合されることが好ましい。
【0025】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物は、(D)(メタ)アクリル酸を含有する。ラジカル重合型樹脂とエポキシ樹脂とを含有する液状樹脂組成物において、アクリル酸、メタクリル酸の少なくともいずれか一方を、特定の割合で配合することにより、液状熱硬化性樹脂組成物の経時的に生じる増粘を抑制することができる。これは、(メタ)アクリル酸を含有させることにより樹脂成分の相溶性が高まり、液状熱硬化性樹脂組成物が安定化するためであると考えられる。
【0026】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物中の(D)(メタ)アクリル酸の含有割合は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計100質量部に対し、2〜20質量部であり、好ましくは、2〜10質量部、さらに好ましくは3〜8質量部である。前記(D)(メタ)アクリル酸の含有割合が2質量部未満の場合には、保存時の増粘を抑制する効果が充分に得られず、20質量部を超える場合には、得られる硬化物の吸水率が高くなり、そのために、吸湿耐熱性が低下し、銅張積層板に用いるような場合には、その信頼性が低下する。
【0027】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物に含有される、(E)イミダゾール系化合物は、前記エポキシ樹脂(A)に対する硬化剤である。(E)イミダゾール系化合物の具体例としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル6−4′,5′−ジヒドロキシメチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4メチルイミダゾール等が挙げられる。本発明に用いられる(E)イミダゾール系化合物としては、特に、−NH、及び−OH基を含有しないものが好ましい。−NH、及び−OH基はラジカル反応を阻害する。従って、−NH、及び−OH基を含有しないイミダゾール系化合物を用いることにより、ラジカル反応性が高くなり、硬化性に優れた液状熱硬化性樹脂組成物が得られる。
【0028】
また、前記液状熱硬化性樹脂組成物中の(E)イミダゾール系化合物の含有割合は、前記エポキシ樹脂(A)を充分に硬化させる割合である限り、特に限定されないが、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計100質量部に対し、0.3〜2質量部、さらには、0.5〜1.5質量部であることがワニスの保存安定性に優れている点から好ましい。
【0029】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物に含有される、(F)ラジカル重合開始剤は、(B)ラジカル重合型熱硬化性樹脂、(C)スチレン系モノマー、及び(D)(メタ)アクリル酸をラジカル重合させるための開始剤である。
【0030】
(F)ラジカル重合開始剤の具体例としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等のケトンパーオキシド類、ベンゾイルパーオキシド、イソブチルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキシド等のハイドロパーオキシド類、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド等のジアルキルパーオキシド類、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、2,2−ジ−(t−ブチルパーオキシ)−ブタン等のパーオキシケタール類、t−ブチルパーベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等のアルキルパーエステル類、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソブチルカーボネート等のパーカーボネート類等の有機過酸化物や、過酸化水素等の無機化酸化物が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
ラジカル重合開始剤(F)の配合量としては、特に限定されないが、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計100質量部に対して、0.3〜2質量部程度であることが好ましい。
【0032】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物は、さらに、靭性や耐衝撃性の改良を目的として、液状熱硬化性樹脂組成物中の樹脂成分との相溶性に優れた液状エラストマー等のエラストマー成分を含有させることが好ましい。
【0033】
液状エラストマーは、樹脂組成物中において、分子レベルで微分散する液状のエラストマー成分であり、得られる硬化物の靭性を向上させる成分である。液状熱硬化性樹脂組成物に液状エラストマーを含有させることにより靭性に優れた硬化物が得られる。従って、熱衝撃試験におけるようなヒートショックを受けた場合においても、クラックが発生しにくい硬化物が得られる。このような、液状エラストマーの具体例としては、例えば、カルボキシル基末端アクリロニトリルブタジエン(CTBN)やエポキシ化ポリブタジエンのような液状ポリブタジエンや、液状NBRなどの低揮発性の液状ゴム等が挙げられる。
【0034】
また、その他のエラストマー成分としては、樹脂組成物中で相溶せずに、島状に分散する非相溶型のエラストマーが挙げられる。このような非相溶型のエラストマーは、得られる硬化物の耐衝撃性を向上させることができる。このような非相溶型のエラストマーを含有する場合には、耐衝撃性に優れた硬化物が得られ、ラジカル重合性樹脂の硬くて脆い特性をさらに改良することができる。このような、非相溶型のエラストマーとしては、各種ゴム粒子、具体的には、NBRゴム、SBRゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム等の架橋または非架橋性のゴム粒子等が挙げられる。また、ゴム粒子の形態としては、コアシェル構造を有するコアシェルゴムが特に好ましい。
【0035】
液状エラストマーの含有量としては、前記(A)〜(F)成分の合計100質量部に対し、0.1〜20質量部、好ましくは1〜10重量部であることが、硬化物の靭性を充分に改良できる点から好ましい。また、非相溶型のエラストマーの含有量としては、前記(A)〜(F)成分の合計100質量部に対し、0.1〜30質量部、好ましくは1〜10重量部であることが、硬化物の耐衝撃性を充分に改良できる点から好ましい。エラストマー成分の含有量が多すぎる場合には、ワニスの粘度が上昇し、また、硬化物のガラス転移点(Tg)が低下することにより耐熱性が低下する傾向がある。
【0036】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物は、さらに、無機フィラーを含有することが好ましい。無機フィラーは、得られる硬化物の寸法安定性を維持したり、難燃性を高める目的で配合される。
【0037】
無機フィラーの種類は、特に限定されないが、具体的には、例えば、球状シリカ、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、ニッケル,鉄,コバルト,クロムからなる群から選ばれる少なくとも2種の金属元素を含む複合金属酸化物等が特に好ましく用いられる。これらの中では、水酸化アルミニウムが難燃性に特に優れている点から好ましく用いられる。
【0038】
無機フィラーの添加量としては、前記(A)〜(F)成分の合計100質量部に対し、20〜200質量部であることが、樹脂組成物の硬化物の寸法安定性や難燃性を充分に向上させることができ、また、樹脂組成物のワニスの粘度を極端に増加させない点からも好ましい。
【0039】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに、難燃剤、難燃助剤、流動改質剤、滑剤、シランカップリング剤、着色剤等の添加剤が配合されてもよい。
【0040】
難燃剤としては、反応型または添加型の各種難燃剤、具体的には、例えば、環状ホスファゼン化合物、縮合リン酸エステル、環状リン酸エステル等が好ましく用いられる。これらの中でも特に、下記一般式(1)で表される環状ホスファゼン化合物が好ましい。
【0041】
【化1】

【0042】
一般式(1)で示す環状ホスファゼン化合物は、ハロゲン原子を含有しないために環境負荷が低く、また、優れた難燃性を有する。なお、一般式(1)中のnは3〜25の整数であり、R1及びR2は、それぞれアリール基または末端に不飽和結合を有する(メタ)アクリル酸エステル基であり、R1とR2は同じであっても異なっていてもよい。前記アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基等が挙げられ、末端に不飽和結合を有する(メタ)アクリル酸エステル基としては、(‐CH2CH2OCOC(CH3)=CH2)等が挙げられる。これらの中でも、R1及び/またはR2が、末端に不飽和結合を有する(メタ)アクリル酸エステル基であることが好ましい。末端に不飽和結合を有する(メタ)アクリル酸エステル基は、反応性の官能基であり、ラジカル重合反応により樹脂中に取り込まれるために、比較的大量の難燃剤を添加しても、Tgを大幅に低下させることがなく、耐熱性が高い硬化物が得られる。
【0043】
環状ホスファゼン化合物の添加量としては、(A)〜(F)成分の合計量100質量部に対し、10〜80質量部であることが、得られる硬化物のガラス転移点を大幅に低下させることなく、難燃性を充分に付与できる点から好ましい。
【0044】
液状熱硬化性樹脂組成物は、例えば、上記各成分のうち液状成分を混合してワニスを調製した後、さらに、無機フィラーや難燃剤等の不溶成分を添加して、ボールミル等を用いて分散させることにより得られる。
【0045】
なお、本発明の液状熱硬化性樹脂組成物は、ラジカル重合型熱硬化性樹脂等によるラジカル重合反応により、樹脂成分としてエポキシ成分のみを含有する樹脂組成物に比べて、硬化時間が短い。従って、優れた生産効率で銅張積層板を製造することができる。
【0046】
従来から、銅張積層板の製造方法としては、予め、ガラスクロス等のガラス基材に熱硬化性樹脂成分を含浸させたのち、熱硬化性樹脂を半硬化させて得られるプリプレグを形成しておき、そして、得られたプリプレグの表面に銅箔を張り合わせて、加熱加圧成形することにより製造する方法が広く知られている。しかしながら、このような製造方法によれば、プリプレグの形成工程と、加熱加圧成形工程が別々であるために、生産工程が煩雑であり、また、連続生産できないという問題があった。一方、本発明の液状熱硬化性樹脂組成物を用いた場合には、樹脂成分の硬化反応が早く、また、基材への含浸性も優れているために、プリプレグを形成せずに、基材に液状熱硬化性樹脂組成物を含浸させたのち、そのまま、その基材表面に銅箔を張り合わせ、樹脂成分を硬化させることにより銅張積層板を製造することができる。従って、このような製造方法によれば、含浸工程、銅箔の張り合わせ工程、硬化工程を連続的に行うことができるために、銅張積層板の連続生産が可能になるという利点がある。
【0047】
上記銅張積層板の製造方法について、以下に詳しく説明する。
【0048】
本発明の銅張積層板の製造方法は、前記液状熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸する工程と、上記樹脂組成物が含浸された基材の少なくとも1面に銅箔を張り合わせる工程と、前記液状熱硬化性樹脂組成物を加熱することにより硬化させる工程とを有する。
【0049】
具体的には、例えば、ガラスクロス等の基材を巻回した基材ロールから、塗布工程に基材を連続的に供給し、前記基材に液状熱硬化性樹脂組成物を塗布して含浸させ、前記樹脂組成物を含浸させた基材表面に銅箔を張り合わせ、加熱することにより樹脂成分を硬化させる。
【0050】
液状熱硬化性樹脂組成物の硬化においては、ラジカル重合による硬化反応を伴うために、酸素との接触により硬化性が低下する。このような硬化性の低下を抑制するために、両面に銅箔が張り合わせられているか、片面のみに銅箔を貼り合せる場合には、他の一面にはPETフィルム等のフィルムを張り合わせることにより、硬化の際に空気との接触を抑制することが好ましい。
【0051】
前記基材としては、例えば、ガラスクロス等の無機質繊維の織布又は不織布や、アラミド繊維の織布又は不織布、ポリエステル繊維の織布又は不織布、紙等が挙げられる。
【0052】
また、本発明で使用される銅箔としては、従来から銅張積層板の用途に用いられているものであれば特に限定なく用いられ、具体的には、電解銅箔や圧延銅箔等が用いられる。
【0053】
前記液状熱硬化性樹脂組成物を硬化させるための加熱条件は、その組成に依存するために一義的に特定することはできないが、連続生産性を考慮すると、80〜200℃程度の温度で10〜60分間程度加熱することが好ましい。
【0054】
以下に、本発明を実施例を用いて、さらに、具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に何ら限定されない。
【実施例】
【0055】
はじめに、本実施例で用いた原材料をまとめて示す。
(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を含有するエポキシ樹脂
・フェノールノボラックエポキシ樹脂 EPICLON N740 (大日本インキ化学工業製)
(B)ラジカル重合型熱硬化性樹脂
・ビニルエステル(ビスフェノールA型メタクリレートである、NKオリゴ EA1020(新中村化学製))
(C)スチレン系モノマー
・スチレン(新日鐵化学製)
(E)イミダゾール系化合物
・2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)、四国化成製
・2−フェニル6−4′,5′−ジヒドロキシメチルイミダゾール(2PHHZ)
(F)ラジカル重合開始剤
・クメンハイドロパーオキサイド(CHP) パークミルH‐80 (日本油脂製)
(G)液状エラストマー
・カルボキシル基末端アクリロニトリルブタジエン(CTBN) HycarCTBN 1300×13 (宇部興産製)
(H)無機フィラー
・水酸化アルミニウム CL303 (住友化学製)
・球状シリカ(SiO) SO25R (アドマテックス製)
(I)難燃剤
上記構造式(1)で表される環状ホスファゼン化合物(平均n=3)を主成分とするSPB100 (大塚化学製)
(実施例1〜7、及び比較例1〜2)
表1に示したそれぞれの配合比率で(A)〜(G)成分を容器に量り取り、混合してワニス(樹脂溶液)を調製した。そして、前記樹脂溶液に、表1に示した配合比率になるように(H)無機フィラー成分及び(I)難燃剤を添加し、ビーズミルで分散させることにより実施例1〜7、及び比較例1〜2の液状樹脂組成物を調製した。
【0056】
そして、得られた液状樹脂組成物ごとに、それぞれ、銅箔(JTC、日鉱金属製)の上に、ガラスクロス(1504タイプ 平織り)を、重ねたのち、ガラスクロスに液状樹脂組成物を含浸した。そして、ガラスクロスの上面に銅箔を配し、オーブンに投入してそれぞれ105℃10分間加熱した後、200℃15分間で加熱する硬化条件で硬化させることにより、銅張積層板を得た。
【0057】
そして、得られた銅張積層板を以下のように評価した。
(増粘性)
調整直後の液状樹脂組成物、及び調整後室温で24時間放置した後の粘度(液温30℃)をB型粘度計で測定した。そして、前記24時間放置後の粘度と、調整直後の粘度の差を算出した。
(ガラス転移点(Tg))
粘弾性スペクトロメータ(エスアイアイナノテクノロジ製)を用いて動的粘弾性挙動を測定し、tanδのピーク値をTgとした。
(酸価)
ワニス(樹脂溶液)の酸価をJIS K6901に準じて測定した。
(吸水率)
JIS C6481に準拠して、測定した。なお、前処理は50±2℃の恒温槽に24時間放置した。
評価結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示すように、本発明に係る実施例1〜実施例7の樹脂組成物を用いて得られる銅張積層板は、いずれも増粘が100〜320cpsと低いものであり、また、得られる硬化物は耐熱性が高く、また、吸水率も低いものであった。
【0060】
一方、アクリル酸を含有しない以外は実施例1と同様の組成である、比較例1の樹脂組成物においては、1000cpsもの増粘が生じた。また、アクリル酸の含有量が多すぎる比較例2の樹脂組成物においては、増粘は抑制されたが、吸水率が高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、(B)ラジカル重合型熱硬化性樹脂、(C)スチレン系モノマー、(D)(メタ)アクリル酸、(E)イミダゾール系化合物、及び(F)ラジカル重合開始剤、を含有し、
(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計100質量部に対し、(D)(メタ)アクリル酸を2〜20質量部含有することを特徴とする液状熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂組成物中のワニス(樹脂溶液)成分の酸価が5〜130である請求項1に記載の液状熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
(A)成分と(B)成分との含有比率が30/70〜70/30(質量比)である請求項1または2に記載の液状熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計100質量部に対し、(E)イミダゾール系化合物を、0.3〜2質量部含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の液状熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
(E)イミダゾール系化合物が−NH、及び−OH基を含有しないものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の液状熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
液状エラストマーをさらに含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の液状熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の液状熱硬化性樹脂組成物を硬化させてなることを特徴とする樹脂硬化物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の液状熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸させて硬化させてなる樹脂絶縁層と、前記樹脂絶縁層表面に張り合わされた銅箔層とを備える銅張積層板。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の液状熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸させる工程と、前記樹脂組成物を含浸させた基材の少なくとも1面に銅箔を張り合わせる工程と、前記樹脂組成物を加熱することにより硬化させる工程とを有することを特徴とする銅張積層板の製造方法。

【公開番号】特開2008−291145(P2008−291145A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139220(P2007−139220)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】