説明

液状生姜調味料

【課題】醤油や味噌等の醸造調味料を含まず、極めて低塩分の調味料であって、調理の種類を選ばず汎用的に生姜の風味を付与することができ、同時に長期間にわたって生姜の風味を損なわない保存性が担保された生姜液状調味料を提供すること。
【解決手段】生姜由来物を5.0重量%以上含有した液状調味料において、低甘味度(甘味度20以下)の糖類を66.5重量%以上、及び有機酸を0.2重量%以上含有した調味料を得る。これにより、味噌、醤油などの醸造調味料により塩分による制菌がなされなくとも、長期に保存可能な調味料が得られる。かつ味噌、醤油などのような独特の呈味、風味を持たないことから、さまざまな調理に汎用的に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汎用性と保存安定性とを備えた液状生姜調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
生姜はショウガ科の多年草であり、食材・香辛料・生薬などとして用いられる。食用或いは香辛料としての生姜は、すりおろして、或いは千切りにして食用に供されるほか、搾り汁が生姜焼きをはじめとした各種調理における風味づけに用いられる。
【0003】
ここで、一般家庭において生の生姜から生姜の搾り汁を得るためには、生姜の皮を剥き、おろし器ですりおろし、これをペーパータオル等に取って絞り出す、といった一連の作業が必要であり、かつひとかけらの生姜から得られる搾り汁の量は僅かであり、所望の量を得るためには手間がかかり容易でない。
【0004】
一方、以下の参考例1ないし2に示すように、生姜の搾り汁それ自体の保存性は高くない。
【0005】
生姜搾汁液(ジンジャーエキス)の特徴を生かした生姜調味料を発明するにあたり、生の生姜搾汁液の可溶性固形分濃度(Bx)、pH、水分活性(AW)を表1に示す。なお、生の生姜は、市販の高知県産及び中国産の大生姜を50gずつすりおろしてから、不織布にて濾した生姜搾汁液を分析した。
【0006】
【表1】

【0007】
以上の結果より、生の生姜搾汁液そのものでは、pHや水分活性では、微生物の増殖を抑えることができない品質であることがわかった。
【0008】
こうした事情から、一般的に生姜の風味が付与されることが望ましい調理に用いる調味料(生姜焼のたれ、生姜シロップ、生姜風味を加味したドレッシング)などには予め生姜由来の原料としておろし生姜や生姜エキス、生姜パウダー等が含有されている。しかしこれらはいずれも他の調味原料が配合された調味料であり、醤油や味噌等の醸造調味料の風味、塩分、酢の酸味、糖類由来の甘味などが強く、或いは含まれる多量の繊維質が見た目を悪くするなど、使用できる食品が極めて限定的であった。
もっとも、上記のような多種の成分が配合されている調味料は、塩分濃度やpH調整、Bxの調整により長期保存が実現されるという点は認められた。生姜の風味の付加のみを目的とした生姜エキス等の抽出物だけでは保存性を確保することが難しく、商品として一般に流通させることに困難があった。特許文献1には生姜汁の色調変化抑制方法として生姜汁に有機酸又はその塩を添加し、当該生姜汁のpHを3.5〜5.5に調整することを特徴とする生姜汁の色調変化抑制方法が開示されている。しかしこの特許文献1では、主として飲料の配合原料として生姜汁を使用する観点から褐変による見た目の劣化を防止することを意図したものであり、風味を損なうことなく長期に保存可能な生姜風味調味料を実現するものではなかった。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−152063
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、醤油や味噌等の醸造調味料を含まず、極めて低塩分の調味料であって、調理の種類を選ばず汎用的に生姜の風味を付与することができ、同時に長期間にわたって生姜の風味を損なわない保存性が担保された液状生姜調味料を提供することを課題とし鋭意検討したところ知見するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、上記課題を解決すべく、本発明は以下の構成を有する。
(1)生姜由来物を5.0重量%以上含有し、低甘味度(甘味度20以下)の糖類を66.5重量%以上含有し、有機酸を0.2重量%以上含有し、醸造調味料を含まないことを特徴とする液状調味料(請求項1)。
(2)生姜由来物を5.0重量%以上含有し、低甘味度(甘味度20以下)の糖類を66.5〜85.0重量%含有し、有機酸を0.2〜1.2重量%含有し、醸造調味料を含まないことを特徴とする液状調味料(請求項2)。
(3)生姜由来物を5.0重量%以上含有し、低甘味度(甘味度20以下)の糖類を66.5%重量以上含有し、有機酸を0.2重量%以上含有し、他の果実又は野菜の抽出物を含まず、醸造調味料を含まず、食塩を実質的に含まないことを特徴とする液状調味料(請求項3)。
(4)生姜由来物を5.0重量%以上含有し、低甘味度(甘味度20以下)の糖類を66.5〜85.0重量%含有し、有機酸を0.2〜1.2重量%含有し、他の果実又は野菜の抽出物を含まず、醸造調味料を含まず、食塩を実質的に含まないことを特徴とする液状調味料(請求項4)。
(5)生姜由来物を5.0重量%以上含有し、醸造調味料を含まず、低甘味度(甘味度20以下)の糖類及び有機酸を添加することにより、可溶性固形分濃度(Bx)が51.5〜64.0、pHが3.1〜4.4に調整されたことを特徴とする液状調味料(請求項5)。
(6)生姜由来物を5.0重量%以上含有し、他の果実又は野菜の抽出物を含まず、醸造調味料を含まず、食塩を実質的に含まない、低甘味度(甘味度20以下)の糖類及び有機酸を添加することにより、可溶性固形分濃度(Bx)が51.5〜64.0、pHが3.1〜4.4に調整されたことを特徴とする液状調味料(請求項6)。
(7)前記糖類が還元澱粉分解物であることを特徴とする、(1)から(6)のいずれか1に記載の液状調味料(請求項7)。
(8)前記有機酸がクエン酸であることを特徴とする(1)から(7)のいずれか1に記載の液状調味料(請求項8)。
【0012】
なお本発明において
(1)「生姜由来物」としては、生姜抽出物(生姜エキス)、生姜破砕物(生姜パウダー)または生姜抽出物と生姜破砕物の混合物など、性状、態様を問わず生姜に由来する成分が含まれる。生姜由来物の原料としての生姜(学名:Zingiber officinale)は、ショウガ科ショウガ属の多年草であり、日本国内及び海外において広く栽培され、容易に入手可能である。
【0013】
生姜エキスの精製方法の例としては、以下の通りである。まず原料を洗浄、カットし、熱水抽出の後ろ過し繊維質を除去する。その後所定条件下で加熱し、濃縮を行う。また生姜パウダーの生成方法の例としては、以下の通りである。まず原料である生姜を粗挽きし、均一混合・殺菌した後粉砕機による粉砕を行う。その後篩別を行い所望の粒度の粉末を得る。
【0014】
(2)「甘味度」とは、ある化合物についてその水溶液が甘味を知覚しうることのできる最小限界濃度(閾値)に対するショ糖水溶液の閾値の比であり、ショ糖の閾値を100としたものである。
【0015】
(3)また、本発明における有機酸としては、例えば、クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、酒石酸等をあげることができる。これらのうち、特にクエン酸を好適に用いることができる。クエン酸を添加することにより、他の有機酸を添加した場合に比べて生姜搾り汁の風味及び香りが優れた調味料とすることができる。
【0016】
(4)また本発明にいう「醸造調味料」には、味噌、醤油などの旨味を有する発酵調味料及びこれらを原料として含むだしつゆ、みりん、酢、また加塩酒など不可飲処理が施された料理酒等の調味料が含まれる。
【0017】
(5)「可溶性固形分」とは、水溶性固形分ともいい、食品中の、水に溶ける成分又は食品中の水に溶けている成分をいい、「可溶性固形分濃度」とは、溶液中の固形分濃度をいう。Brix或いはBxとも表される。
【0018】
(6)「食塩を実質的に含まない」とは、配合として食塩を添加していないことを意味する。すなわち最終的な液状生姜調味料において食塩が含まれないものはもちろん、或いは含まれるとしても添加された複合原材料中に微量食塩が含まれている場合であっても該当する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、生姜の風味以外に不要な塩分や甘味、旨味等が付加されていないため、汎用性が高く、かつ保存性が担保された、生姜風味の付与に優れた調味料を提供することができる。特に醸造調味料を添加していないことはもちろんであるが、食塩等の塩分を添加することがなく、また実質的に塩分を含んでいないことから、塩気が好まれる調理だけでなく、例えば飲料や菓子類を作成する際にも適用が可能であるといった特徴を有した調味料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳述する。なお下記実施例は本発明の一実施形態を示したものであり、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0021】
生姜エキスに、所定量の還元澱粉分解物、クエン酸、水を添加して所定のBxに調整した後加熱殺菌し、生姜調味料を得た。また、加熱時に蒸発した水分は、補正してから充填し、常温(25℃)まで冷却した(配合例1〜9)。なお各原料のBx、pH、甘味度を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
得られた生姜調味料の配合量、分析値を表3に示す。表3の結果より、還元澱粉分解物を66.5%以上添加することにより、品質上の安全性が確認できた。なおここでいう「品質上の安全性」とは、常圧殺菌(100℃未満での加熱殺菌)による、商業的無菌をいう。
【0024】
【表3】



【0025】
次に、表2記載の各原料を用い、生姜エキスに、所定量の還元澱粉分解物、クエン酸、水を添加して所定のpHに調整した後加熱殺菌し、生姜調味料を得た。また、加熱時に蒸発した水分は、補正してから充填し、常温(25℃)まで冷却した(配合例10〜17)。
配合量、分析値を表4に示す。表4の結果より、クエン酸を0.2g以上添加することにより、品質上の安全性が確認できた。
【0026】
【表4】

【0027】
上記のように得られた生姜調味料のうち、安全性が確認できた配合例4〜9、及び配合例12〜17について官能評価試験を行った。
【0028】
官能評価試験は、7名のパネリスト(パネリストA,B,C,D,E,F,G)により、上記調味料について、還元澱粉分解物の甘味によって生姜調味料の風味が生姜シロップ類と同様であると感じるもの、また、有機酸による酸味によって、生姜エキスの特徴を維持した生姜調味料としての特徴を著しく消失しているものについて「×」の評価をした。
試験結果を表5に示す。なお、表5の評価は、「〇」と評価したパネリストの人数を百分率化し、100〜50%を「◎」、50%〜1%を「○」、0%を「×」とした。
【0029】
【表5】

【0030】
表5に示すように、還元澱粉分解物を添加して生姜搾汁液の可溶性固形分(Bx)を51.5〜64.0で調整することによって、かつ、クエン酸を添加して生姜搾汁液のpHを3.1〜4.4に調整することによって、甘味をほとんど感じることなく、塩分を加えないで、生姜搾汁液の特徴を維持した液体生姜調味料が製造可能であることが確認できた。好ましくは、可溶性固形分は、51.5〜58.6、pHは、3.2〜4.4に調整することにより、より生姜エキスの特徴を生かした生姜調味料が製造可能である。さらにより望ましくは、可溶性固形分が51.5〜57.8かつpHが3.3〜3.4に調整すれば、生姜の風味が阻害されることがない、一層生姜の風味の際立った生姜調味料を得ることができる。上記性状を実現するために添加すべき還元澱粉分解物の分量としては、66.5〜85.0重量%、好ましくは66.5〜76.0重量%が、また添加すべきクエン酸の分量としては0.2〜1.2重量%、好ましくは0.2〜1.0重量%が適切である。さらにより望ましくは、還元澱粉分解物を66.5〜76.0重量%、クエン酸を0.8〜1.0重量%添加することにより、生姜の風味が阻害されることの無い、生姜の風味に優れた生姜調味料を得ることができる。
【0031】
なお、有機酸としてクエン酸に代えて0.1%リンゴ酸を添加した生姜調味料につき検証を行った。その配合量、分析値を表6に示す。その結果として、リンゴ酸は穏やかで爽快な酸味が品質特徴であるため、強い酸味が品質特徴のクエン酸よりも味がまろやかになってしまい、生姜エキスの刺激的な辛味の雰囲気には、クエン酸の方がより望ましいことがわかった。よって、有機酸の選定については、クエン酸以外の有機酸においても、同様の効果が期待できるが、クエン酸の酸味質が、特に生姜調味料と相性が良いことがわかった。
【0032】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、生姜の風味以外に不要な塩分や甘味、旨味等が付加されることなく、また生姜シロップのような過度な甘味を有することもない、汎用に好適な液状生姜調味料であって、長期保存が可能な液状生姜調味料を得ることができる。特に醤油や味噌、料理酒や酢といった醸造調味料を添加していないことはもちろんであるが、食塩等の塩分を添加することがなく、そのため実質的に塩分を含んでいないことから、塩気が好まれる調理だけでなく、例えば飲料や菓子類を作成する際にも適用が可能である。これにより家庭の台所、食卓における味覚のバリエーションが増大し、調理食材の更なる需要増大に寄与しうる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生姜由来物を5.0重量%以上含有し、低甘味度(甘味度20以下)の糖類を66.5重量%以上含有し、有機酸を0.2重量%以上含有し、醸造調味料を含まないことを特徴とする液状調味料。
【請求項2】
生姜由来物を5.0%以上含有し、低甘味度(甘味度20以下)の糖類を66.5〜85.0重量%含有し、有機酸を0.2〜1.2重量%含有し、醸造調味料を含まないことを特徴とする液状調味料。
【請求項3】
生姜由来物を5.0重量%以上含有し、低甘味度(甘味度20以下)の糖類を66.5重量%以上含有し、有機酸を0.2重量%以上含有し、他の果実又は野菜の抽出物を含まず、醸造調味料を含まず、食塩を実質的に含まないことを特徴とする液状調味料。
【請求項4】
生姜由来物を5.0重量%以上含有し、低甘味度(甘味度20以下)の糖類を66.5〜85.0重量%含有し、有機酸を0.2〜1.2重量%含有し、他の果実又は野菜の抽出物を含まず、醸造調味料を含まず、食塩を実質的に含まないことを特徴とする液状調味料。
【請求項5】
生姜由来物を5.0重量%以上含有し、醸造調味料を含まず、低甘味度(甘味度20以下)の糖類及び有機酸を添加することにより、可溶性固形分濃度(Bx)が51.5〜64.0、pHが3.1〜4.4に調整されたことを特徴とする液状調味料。
【請求項6】
生姜由来物を5.0重量%以上含有し、他の果実又は野菜の抽出物を含まず、醸造調味料を含まず、食塩を実質的に含まない、低甘味度(甘味度20以下)の糖類及び有機酸を添加することにより、可溶性固形分濃度(Bx)が51.5〜64.0、pHが3.1〜4.4に調整されたことを特徴とする液状調味料。
【請求項7】
前記糖類が還元澱粉糖化物であることを特徴とする、請求項1又は請求項6に記載の液状調味料。
【請求項8】
前記有機酸がクエン酸であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1に記載の液状調味料。