説明

液状発酵残渣を含有する固形飼料及びその使用

【課題】食品発酵残渣を有効利用でき、保存性が高い液状発酵残渣を含有する固形飼料及びその使用を提供すること。
【解決手段】液状の食品発酵残渣を含み、有機酸含有量が0.10eq/kg以上、水分活性値(A)が0.80以下であることを特徴とし、好ましくは、前記食品発酵残渣が、焼酎粕、食塩を含有する植物系発酵残液から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする液状発酵残渣を含有する固形飼料、及び、前記液状発酵残渣を含有する固形飼料を、魚餌、家畜用飼料、ペットフード、又は配合飼料原料として用いることを特徴とする液状発酵残渣を含有する固形飼料の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状発酵残渣を含有する固形飼料及びその使用に関し、詳しくは、食品発酵残渣を含み、防カビ性に優れる液状発酵残渣を含有する固形飼料及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵食品の製造工程からは、大量の食品発酵残渣が発生する。
【0003】
環境保護の観点から、食品発酵残渣は投棄が困難な状況であり、有効利用する方法が求められている。
【0004】
特許文献1の実施例1には、デカンターを通して分離した焼酎粕の液部をさらに濃縮した濃縮液(水分約75%)を、副原料とともにエクストルーダで混合、乾燥して、水分活性値が0.831の成形飼料を得ることが記載されている。また、得られた成形飼料は、貯蔵中のカビ等の発生が抑制され、保存性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−229825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水分活性値は、食品の保存性の指標として広く使用されており、この値が高いと、細菌やカビ等の増殖が活性化し、低いと増殖が抑えられる。
【0007】
一般に、細菌の最低水分活性は0.9、カビは0.8程度であるが、中には、水分活性の値が0.7や0.65といった環境下でも生育可能なカビがいることも知られている。したがって、水分活性の値を低下させることでカビ等の繁殖を抑制したい場合は、水分活性を0.65といった低い値にしなければならない。
【0008】
しかし、食品発酵残渣(焼酎粕や食品加工残渣)の液側成分には親水性の固形分や、溶解物が多いので、固形飼料の水分活性を著しく低下させることは困難である。
【0009】
さらに、焼酎粕濃縮液、食品加工残渣濃縮液は、その素材により、形状と固形分濃度が異なる。また、素材により、濃縮のしやすさが異なるので、固形試料を製造する際に供給される濃縮度(固形分濃度)も異なるので、異なる種類の食品発酵残渣が供給されると、その配合を再検討する必要が生じてしまう。
【0010】
本発明者らは、液状発酵残渣を含有する固形飼料について、水分活性の他に、固形飼料中の有機酸濃度に着目して研究し、有機酸の含有量を所定の範囲とすることで、保存性が高い飼料の条件を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
そこで、本発明の課題は、食品発酵残渣を有効利用でき、保存性が高い液状発酵残渣を含有する固形飼料及びその使用を提供することにある。
【0012】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0014】
(請求項1)
液状の食品発酵残渣を含み、有機酸含有量が0.10eq/kg以上、水分活性値(A)が0.80以下であることを特徴とする液状発酵残渣を含有する固形飼料。
【0015】
(請求項2)
前記食品発酵残渣が、焼酎粕、食塩を含有する植物系発酵残液から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の液状発酵残渣を含有する固形飼料。
【0016】
(請求項3)
請求項1又は2記載の液状発酵残渣を含有する固形飼料を、魚餌、家畜用飼料、ペットフード、又は配合飼料原料として用いることを特徴とする液状発酵残渣を含有する固形飼料の使用。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、食品発酵残渣を有効利用でき、保存性が高い液状発酵残渣を含有する固形飼料及びその使用を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。
【0019】
本発明において、保存性が高い、とは、カビ等の微生物の増殖(腐敗)や、内容物の酸化など化学的変化が抑制され、製造時の品質を維持していることである。品質を維持する期間は、固形飼料がおかれる環境にもよるが、10日〜2年を目安とする。
【0020】
本発明の液状発酵残渣を含有する固形飼料は、液状の食品発酵残渣を含み、有機酸含有量が0.10eq/kg以上、水分活性値(A)が0.80以下である。
【0021】
液状の食品発酵残渣は、食品を発酵して得られる液状の残渣であり、焼酎を蒸留した残渣である焼酎粕や、食塩を含有する植物系発酵残液を好ましく用いることができる。
【0022】
食塩を含有する植物系発酵残液としては、梅干や、漬物を製造する際の下漬け、本漬けに用いられた漬液、漬け上げ後調味液(梅残液)、梅酢などを好ましく例示できる。
【0023】
焼酎粕としては、芋焼酎粕、米焼酎粕、麦焼酎粕など、種々のものを好ましく用いることができる。
【0024】
梅残液のように高濃度の食塩を含有する食品発酵残渣であれば、これを脱塩処理に供して得られる脱塩残渣を好ましく用いることができる。
【0025】
液状の食品発酵残渣は、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、乳酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、シュウ酸や、グルタミン酸、アスパラギン酸などの酸性アミノ酸等の有機酸の含有量に富んでいる。これらの有機酸は、食品原料に由来するもの、及び、発酵過程で生成したものを含んでいる。
【0026】
液状の食品発酵残渣は、あらかじめ濃縮された濃縮液として配合されることが好ましい。濃縮は、公知の方法で行うことができ、濃縮度が高いほど固形飼料の水分活性を抑えることができる。
【0027】
液状の食品発酵残渣は、飼料配合材と混合される。飼料配合材は、格別限定されないが、魚粉(カタクチイワシほか)、魚油(カタクチイワシほか)、小麦粉、大豆油粕、ビートパルブ、フスマ、オカラ、大豆ヌカ、ビタミン、米糠等の食品加工副産物、残渣等を好ましく用いることができる。
【0028】
水分活性値(A)は、固形飼料を入れた密閉容器内の水蒸気圧(P)とその温度における純水の蒸気圧(P)の比で定義され、A=P/Pにより求められる。測定には、市販の静電容量式湿度検出器を用いることができる。
【0029】
水分活性値(A)が、低いほど腐敗を防ぐ効果が高いことは周知であるが、前述のように、全ての微生物の増殖を抑えることは困難である。
【0030】
有機酸含有量(eq/kg)は、固形飼料を粉末化し、水に分散させて、1N−NaOHを用いた中和滴定法によって定量した値である。
【0031】
水分活性値(A)が0.80以下で、有機酸含有量に着目し、有機酸含有量が0.10eq/kg以上である固形試料は、有機酸含有量がこの範囲から外れている固形飼料に比べて保存性が高い。
【0032】
有機酸含有量が、0.10eq/kgに満たない場合は、水分活性が0.8以下であっても高い保存性が得られない。
【0033】
本発明の固形飼料を製造するに際して、食品発酵残渣の濃縮率と混合率は、種々の組合せがあり、それぞれの条件設定は容易でないが、得られた固形飼料において、有機酸含有量が0.10eq/kg以上、水分活性値(A)が0.80以下という2つの条件を満たせば、本発明の目的を達成できる。
【0034】
本発明では、異なる種類の食品発酵残渣や、濃縮度などについてロットの差が大きい食品発酵残渣が供給されても、試作された固形飼料の有機酸濃度と水分活性値(A)を測定することで、原料の食品発酵残渣の水分率(濃縮度)や配合量について細かく検討しなくても、保存性の高い固形試料を安定して製造することができる。さらに、原料の食品発酵残渣の水分率(濃縮度)や配合量のみを検討した場合よりも、保存性の高い固形試料を確実に製造することができる。
【0035】
一例として、固形飼料の生産ラインにおいて、食品発酵残渣の濃縮度や配合量等を適宜設定し、得られる固形飼料の有機酸含有量が0.10eq/kg以上、水分活性値(A)が0.80以下という2つの条件を満たす場合は、該設定を継続し、得られる固形飼料の有機酸含有量が0.10eq/kgに満たなくなる場合は食品発酵残渣の配合量を増加し、あるいは、水分活性値(A)が0.80を超える場合は、食品発酵残渣の濃縮度を高くする等の制御を行うことができる。このとき、食品発酵残渣の配合量や濃縮度等の設定変更は、変更前の設定に対する相対的な変更とすることができ、大まかな変更でも対応できるため、保存性の高い固形試料を製造するための制御を容易に安定して行うことができる効果を奏する。
【0036】
飼料配合材及び食品発酵残渣の混合物から固形飼料を成形する成形手段は、格別限定されず、例えば、エクストルーダ等を好ましく用いることができる。
【0037】
有機酸含有量が0.10eq/kg以上、水分活性値(A)が0.80以下を満たすように、成形時の圧力、温度、成形速度等の条件を決定することも好ましいことである。
【0038】
固形飼料の形状は、格別限定されず、球状、円柱状、錐状、立方体状、直方体状等の種々の形状を有することができる。また、固形飼料の大きさについても、用途に応じて適宜設定できる。
【0039】
本発明の固形飼料は、食品発酵残渣を有効利用でき、保存性(防カビ性)に優れ、特に夏季などの高温、高湿度条件下においてもカビの発生が防止される効果が得られる。
【0040】
本発明の固形飼料は、魚餌、家畜用飼料、ペットフード、配合飼料原料等として好ましく使用できる。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0042】
(固形飼料Aの調製)
配合飼料材として魚粉(カタクチイワシほか)、魚油(カタクチイワシほか)、小麦粉、大豆油粕、この他に添加剤としてビタミン等を含む飼料配合材と、芋焼酎粕を固形分15重量%まで濃縮してなる芋焼酎粕濃縮液(食品発酵残渣)とを混合した(原料混合物 以下、混合物)。
【0043】
混合物100重量%中における、芋焼酎粕濃縮液の混合率は、10重量%とした。
【0044】
混合物をエクストルーダにて成形し、固形飼料Aを得た。
【0045】
(固形飼料Bの調製)
固形飼料Aの調製において、混合物100重量%中における、芋焼酎粕濃縮液の混合率を、20重量%とした以外は、固形飼料Aの調製と同様にして、固形飼料Bを得た。
【0046】
(固形飼料Cの調製)
固形飼料Aの調製において、混合物100重量%中における、芋焼酎粕濃縮液の混合率を、40重量%とした以外は、固形飼料Aの調製と同様にして、固形飼料Cを得た。
【0047】
(固形飼料Dの調製)
固形飼料Aの調製において、混合物100重量%中における、芋焼酎粕濃縮液の混合率を、60重量%とした以外は、固形飼料Aの調製と同様にして、固形飼料Dを得た。
【0048】
(固形飼料Eの調製)
固形飼料Aの調製において、食品発酵残渣として、米焼酎粕を固形分40重量%まで濃縮してなる米焼酎粕濃縮液を用い、混合物100重量%中における、米焼酎粕濃縮液の混合率を、20重量%とした以外は、固形飼料Aの調製と同様にして、固形飼料Eを得た。
【0049】
(固形飼料Fの調製)
固形飼料Eの調製において、混合物100重量%中における、米焼酎粕濃縮液の混合率を、40重量%とした以外は、固形飼料Eの調製と同様にして、固形飼料Fを得た。
【0050】
(固形飼料Gの調製)
固形飼料Fの調製において、混合物100重量%中における、米焼酎粕濃縮液の混合率を、60重量%とした以外は、固形飼料Fの調製と同様にして、固形飼料Gを得た。
【0051】
(固形飼料Hの調製)
固形飼料Aの調製において、食品発酵残渣として、梅残液脱塩残渣を固形分20重量%まで濃縮してなる梅残液脱塩濃縮液を用い、混合物100重量%中における、梅残液脱塩濃縮液の混合率を、20重量%とした以外は、固形飼料Aの調製と同様にして、固形飼料Hを得た。
【0052】
(固形飼料Iの調製)
固形飼料Hの調製において、混合物100重量%中における、梅残液脱塩濃縮液の混合率を、40重量%とした以外は、固形飼料Hの調製と同様にして、固形飼料Iを得た。
【0053】
<評価方法>
1.水分活性値の測定
市販の露点測定法による水分活性測定装置(アイネクス社製4TEシリーズ(測定範囲:0.03〜1.00水分活性値、公称精度:±0.003))を使用して、固形飼料A〜Iの水分活性値(A)を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
2.有機酸含有量の定量
固形飼料A〜Iを粉末化し、水に分散させて、1N−NaOHを用いた中和滴定法によって、有機酸含有量を定量した。結果を表1に示す。
【0055】
3.カビの発生
固形飼料A〜Iを、温度35℃、湿度約85%RHの条件下で、10日間放置し、カビの発生について以下の5段階で評価した。
◎:色、感触等の外見及び芳香性に変化がないものを◎とした。
○:外見上の変化はないが芳香性が若干低下したものを○とした。
△:外見上多少の変化はあるがカビの発生はないものを△とした。
×:培養10日目頃に若干のカビが発生したものを×とした。
××:培養2〜3日目でカビが発生したものを××とした。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
<評価>
表1より、固形飼料B、E、F及びHについて、有機酸含有量が0.10eq/kg以上、水分活性値(A)が0.80以下を満たすことがわかる(実施例)。これら、固形飼料B、E、F及びHは、カビの発生が認められず、防カビ性に優れることがわかる。
【0058】
一方、有機酸含有率が0.10eq/kgに満たない固形飼料A(比較例)、及び、水分活性値(A)が0.80を超える固形飼料C、D、G及びI(比較例)については、カビの発生が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の食品発酵残渣を含み、有機酸含有量が0.10eq/kg以上、水分活性値(A)が0.80以下であることを特徴とする液状発酵残渣を含有する固形飼料。
【請求項2】
前記食品発酵残渣が、焼酎粕、食塩を含有する植物系発酵残液から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の液状発酵残渣を含有する固形飼料。
【請求項3】
請求項1又は2記載の液状発酵残渣を含有する固形飼料を、魚餌、家畜用飼料、ペットフード、又は配合飼料原料として用いることを特徴とする液状発酵残渣を含有する固形飼料の使用。

【公開番号】特開2012−39962(P2012−39962A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185341(P2010−185341)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】