説明

液状組成物およびこれを用いた透明乃至半透明な水性組成物

【課題】水不存在下で形成された両親媒性物質会合体からなる新規な液状組成物、およびこれを水で希釈して使用性に優れた透明乃至半透明な水性組成物を提供する。
【解決手段】(a)大豆リン脂質、ポリオキシエチレンフィトステロール、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムの中から選ばれる1種または2種以上の両親媒性物質と、(b)グリセリンと、(c)グリコール類からなり、60〜80℃の温度において両親媒性物質会合体を形成保持してなる液状組成物、および該水性組成物を水で希釈してなる透明乃至半透明な水性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性物質会合体を形成保持した液状組成物、および該液状組成物を水で希釈してなる透明乃至半透明な水性化粧料組成物に関する。液状組成物は洗浄剤(例えば工業設備用品洗浄剤等)として、水性組成物は使用性(なめらかさ)に優れる皮膚外用剤として、それぞれ適用され得る。
【背景技術】
【0002】
従来、界面活性剤等の両親媒性物質が水中で会合体(例えば、リポソーム、ミセル、ラメラ等)を形成することが知られており、これを利用した化粧料等も提案されている。例えば特許文献1では常温で液体の高級アルコール/高級脂肪酸と、非イオン性親水性界面活性剤と、水溶性二価アルコールと、水を混合してラメラ液晶相を形成すること、および、該ラメラ液晶相を水溶性溶媒で希釈して皮膚外用剤とすることが記載されている。しかし該特許文献1の皮膚外用剤は、ラメラ液晶相形成に液状油分を用いているため、油っぽい使用感となり、これを解消するためにワセリン等の半固形〜固形油分を配合しようとしても、それらが析出してしまうという問題がある。
【0003】
このように、従来は水存在下での両親媒性物質会合体の形成は知られているが、水不存在下における両親媒性物質会合体の形成については、本発明者らが知る限りにおいて、これまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−120857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、特定の両性媒性物質を、グリセリンおよび二価アルコールと併用することによって、水不存在下であっても会合体(リポソーム、ミセル、ラメラ等)を形成することができることを見出した。水よりもグリセリン、二価アルコールのほうが界面張力を低下させるので、このような条件下で形成された両親媒性物質会合体は、水存在下で形成されたものに比べ油分等の洗浄力に優れると考えられる。またこのようにして得られた両親媒性物質会合体は乳化しやすく、水で希釈することで容易に水性組成物(エマルジョン)を製造することができるが、この水性組成物が、透明乃至半透明を呈し、使用性(なめらかさ)に優れることから、皮膚外用剤に好適に用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、(a)大豆リン脂質、ポリオキシエチレンフィトステロール、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムの中から選ばれる1種または2種以上の両親媒性物質と、(b)グリセリンと、(c)グリコール類からなり、60〜80℃の温度において両親媒性物質会合体を形成保持してなる液状組成物を提供する。
【0007】
また本発明は、(c)成分が1,3−ブチレングリコールおよび/またはジプロピレングリコールである、上記液状組成物を提供する。
【0008】
また本発明は、(b)成分/(c)成分(質量比)が20/1〜1/10である、上記液状組成物を提供する。
【0009】
また本発明は、さらに(d)ワセリン、セラミド、炭素原子数16〜22の高級アルコール、水添ポリブテンの中から選ばれる1種または2種以上の油分を、(a)成分に対して3/5以下(質量比)の割合で含む、上記液状組成物を提供する。
【0010】
また本発明は、上記液状組成物を水で希釈してなる、透明乃至半透明な水性組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、水不存在下で形成された新規な両親媒性物質会合体からなる液状組成物が提供される。該液状組成物は、水に比べ界面張力を低下させるので油分に対する洗浄力に優れる。またこれを用いて、水に希釈することで、使用性に優れた透明乃至半透明な水性組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳述する。なお以下において、POEはポリオキシエチレンを示す。
【0013】
<液状組成物>
本発明の液状物質は、(a)大豆リン脂質、ポリオキシエチレンフィトステロール、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムの中から選ばれる1種または2種以上の両親媒性物質と、(b)グリセリンと、(c)グリコール類からなり、60〜80℃の温度において両親媒性物質会合体を形成保持してなるものである。
【0014】
[(a)成分]
大豆リン脂質はグリセロールを基本骨格とするグリセロリン脂質が主成分をなす。グリセロリン脂質としては、具体的にはホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール等が例示される。
【0015】
ポリオキシエチレンフィトステロールは、エチレンオキシド付加モル数が5〜35、特には10〜30、程度のものが好ましく用いられる。市販品として、POE(10)フィトステロールである「ニッコールBPS−10」(日本サーファクタント(株)製)等が挙げられる。
【0016】
塩化ジステアリルジメチルアンモニウムはカチオン界面活性剤で、「カチオンDSV」(三洋化成(株)製)等として市販されている。
【0017】
(a)成分の配合量は、液状組成物全量中に0.5〜20質量%が好ましく、より好ましくは1〜10質量%である。(a)成分の配合量が低すぎると洗浄効果が低くなりがちであり、一方、多すぎると結晶化し不安定となりがちである。
【0018】
[(b)]成分
グリセリンを用いる。
【0019】
[(c)]成分
グリコール類としては、一般に化粧料に用いられ得るものであれば特に限定されるものでなく、例えば1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、イソプレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。中でも1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール等が特に好ましく用いられる。(c)成分は1種または2種以上を用いることができる。
【0020】
上記(b)成分、(c)成分の配合量は、液状組成物全量中に、(b)成分/(c)成分=20/1〜1/10(質量比)の割合で配合するのが好ましく、より好ましくは8/2〜4/6である。(b)成分と(c)成分の配合割合を上記範囲内とすることにより、より界面張力を低い状態にすることができる。
【0021】
本発明では上記(a)〜(c)成分の他に、特に、液状組成物を水で希釈して得られる液状組成物(後述)のなめらかさ付与等の点から、所望によりさらに(d)成分として、ワセリン、セラミド、炭素原子数16〜22の高級アルコール、水添ポリブテンの中から選ばれる1種または2種以上の油分を配合してもよい。(d)成分を配合する場合、(a)成分に対して3/5以下(質量比)の割合で配合するのが安定性の点から好ましい。より好ましくは1/4以下(質量比)である。(d)成分の配合量が多すぎると凝集するなど不安定となりがちで、好ましくない。
【0022】
本発明では、上記(a)〜(c)成分、あるいは(a)〜(d)成分を混合し、60〜80℃に加熱し溶解させる。この60〜80℃の状態において、(a)成分が会合体を形成することが確認された。会合体としては、リポソーム、ミセル、ラメラ等が挙げられる。これら会合体を形成したかどうかは、偏光顕微鏡等による観察など、常法により確認することができる。
【0023】
このように本発明では、水を添加することなく、(b)成分、(c)成分の存在下で、特定の両親媒性物質である(a)成分が、60〜80℃の温度下において会合体を形成する。(b)成分、(c)成分は水に比べ界面張力を低下させることから、該会合体からなる液状組成物は、油分等の洗浄に好適に適用され得る。この液状組成物を、60〜80℃で維持した状態で、洗浄剤として適用可能性が考えられる。洗浄剤としては、例えば高温での使用対応可能な、製造工場の備品洗浄等、工業用途が考えられる。
【0024】
<透明乃至半透明な水性組成物>
本発明では、上記60〜80℃の会合体を、水で希釈することにより、透明乃至半透明な水性組成物を製造することができる。この場合、会合体としては、特にラメラ構造を形成するものが好ましい。水による希釈は、得られる水性組成物全量100質量%中に液状組成物が5〜30質量%の配合割合になるよう、希釈するのが好ましい。これにより、両親媒性物質会合体からなる液状組成物は冷却され、水中で容易に乳化分散されて、透明乃至半透明な液状組成物となる。該水性組成物は、特になめらかさの点において優れ、皮膚外用剤等として適用される。
【0025】
ここで「透明乃至半透明」とは、透明性の指標であるL値が40以上であるものが好ましい。「L値」は色差計〔例えば、COLOR-EYE 7000A(Gretag Macbeth社製)〕等で測定することができる。L値は100に近いほど透明度が高い。
【0026】
また本発明の液状組成物では、乳化粒子径が300nm以下の微粒子径が好ましく、より好ましくは150nm以下である。
【0027】
本発明の透明乃至半透明な水性組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分のほかに、通常化粧料に基剤として配合される保湿剤、粉末成分、水溶性高分子(天然、半合成、合成)、増粘剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール(エタノール等)、糖類(単糖、オリゴ糖、多糖)、有機アミン、pH調整剤、ビタミン類、酸化防止剤、酸化防止助剤、その他の配合可能成分等を、必要に応じて適宜配合することができる。ただしこれら例示に限定されるものでない。
【0028】
また、油分についても液状油分、個体油脂、ロウ類等を本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分の他に適宜配合することができる。ただしこれら例示に限定されるものでない。これら油分は(d)成分の50質量%以下であることが望ましい。
【0029】
本発明の液状組成物を皮膚外用剤として適用する場合、その剤型は、皮膚に適用可能であれば特に限定されるものでないが、化粧水、ローション、シート状基剤に含浸させる含浸液等が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれによってなんら限定されるものではない。配合量は特記しない限りすべて質量%である。
【0031】
1.両親媒性物質会合体からなる水性組成物
[60〜80℃での状態]
試料(60〜80℃)を目視および偏光の照射により異方性の有無を観察し、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
◎:試料全体がラメラ相(異方性あり)を呈していた
○:試料全体がリポソームまたはミセル相(異方性なし)を呈していた
×:分離した
【0032】
(比較例1〜5、実施例1〜15)
下記表1〜3に示す試料を製造した。すなわち表1〜3に示す全成分を混合し、60〜80℃に加熱して溶解し、試料を得た。得られた試料(60〜80℃)の状態(外観)を目視観察および偏光によって異方性の有無を確認し、上記評価基準に基づき評価した。結果を表1〜3に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
2.透明乃至半透明な液状組成物
[外観判定]
調製直後の試料を、目視より透明乃至半透明な外観を呈するかどうか、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
○:透明〜半透明な外観を呈していた
×:白濁または分離していた
【0037】
[透明性(L値)]
分光光度計(サカタインクエンジニアリング(株))製を用いて、室温にてL値を測定した。コントロールとして蒸留水の透明度を100として、40〜98未満の範囲のものを半透明、98〜99.5未満の範囲のものを透明、99.5〜100の範囲のものを極めて透明と判定した。
【0038】
[粒子径]
動的光散乱法(ゼータサイザーNano−ZS:Malvern Instruments社製)により測定した。
【0039】
[使用感触(なめらかさ)]
女性パネル(10名)に試料を実際に皮膚に適用して使用してもらい、使用感(なめらかさ)について、下記評価基準により評価した。
<評価点>
5点:非常になめらかである
4点:なめらかである
3点:普通(どちらともいえない)
2点:ややなめらかでない
1点:なめらかでない
<評価基準>
◎:評価点合計が40点以上
○:評価点合計が30点以上40点未満
×:評価点合計が30点未満
【0040】
(比較例6〜7、実施例16〜19)
下記表4に示す試料を製造した。すなわち表4に示す水以外の成分を混合し、60〜80℃に加熱して溶解した後、水を添加して試料を得た。得られた試料(25〜40℃)について上記評価基準に基づき評価した。結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
以下にさらに処方例を示す。
【0043】
(処方例1:化粧水)
(配 合 成 分) (質量%)
精製水 残部
エタノール 5
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
EDTA−2ナトリウム 適量
ダイナマイトグリセリン 5
1,3−ブチレングリコール 6
水素添加大豆リン脂質 0.3
(「COATSOME NC−61」;日本油脂(株)製)
ワセリン 0.06
エリスリトール 1
フェノキシエタノール 適量
香料 0.01
【0044】
(処方例2:化粧水)
(配 合 成 分) (質量%)
精製水 残部
エタノール 3
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
EDTA−3ナトリウム 適量
ダイナマイトグリセリン 7
ジプロピレングリコール 5
水素添加大豆リン脂質 0.5
(「COATSOME NC−21」;日本油脂(株)製)
水添ポリブテン 0.1
イソステアリルアルコール 0.02
ポリエチレングリコール400 1
フェノキシエタノール 適量
【0045】
(処方例3:保湿美容液)
(配 合 成 分) (質量%)
精製水 残部
エタノール 3
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
EDTA−3ナトリウム 適量
ダイナマイトグリセリン 8
1,3−ブチレングリコール 10
水素添加大豆リン脂質 0.5
(「COATSOME NC−61」;日本油脂(株)製)
ステアリルアルコール 0.05
ポリエチレングリコール1500 1
フェノキシエタノール 適量
カルボキシビニルポリマー 0.2
水酸化カリウム 0.08
【0046】
(処方例4:シート状マスク用含浸掖)
(配 合 成 分) (質量%)
精製水 残部
エタノール 1
クエン酸 適量
クエン酸ナトリウム 適量
ヘキサメタリン酸ソーダ 適量
ダイナマイトグリセリン 6
ジプロピレングリコール 3
1,3−ブチレングリコール 3
水素添加大豆リン脂質 0.1
(「ニッコールレシノールS−10E」;日光ケミカル(株)製)
セラミド 0.05
ポリオキシエチレン(10)フィトステロール 0.05
カルボキシビニルポリマー 0.08
水酸化ナトリウム 0.03
メチルパラベン 0.15
フェノキシエタノール 0.2
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により、水不存在下で形成された両親媒性物質会合体からなる新規な液状組成物が提供される。該液状組成物は、水に比べ界面張力を低下させるので、油分等の洗浄力に優れる。また該液状組成物は乳化性に優れるため、これを水に希釈することで、使用性に優れた透明乃至半透明な水性組成物を容易に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)大豆リン脂質、ポリオキシエチレンフィトステロール、塩化ジステアリルジメチルアンモニウムの中から選ばれる1種または2種以上の両親媒性物質と、(b)グリセリンと、(c)グリコール類からなり、60〜80℃の温度において両親媒性物質会合体を形成保持してなる液状組成物。
【請求項2】
(c)成分が1,3−ブチレングリコールおよび/またはジプロピレングリコールである、請求項1記載の液状組成物。
【請求項3】
(b)成分/(c)成分(質量比)が20/1〜1/10である、請求項1または2記載の液状組成物。
【請求項4】
さらに(d)ワセリン、セラミド、炭素原子数16〜22の高級アルコール、水添ポリブテンの中から選ばれる1種または2種以上の油分を、(a)成分に対して3/5以下(質量比)の割合で含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項5】
請求項1〜4記載の液状組成物を水で希釈してなる、透明乃至半透明な水性組成物。

【公開番号】特開2012−201677(P2012−201677A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71256(P2011−71256)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】