説明

液状組成物およびこれを用いた香気成分の収着挙動評価方法

【課題】 PETのように高い極性を有する合成樹脂を用いた容器包装であっても、その香気成分の収着挙動を評価する目的で好適に用いることができ、さらに、評価の信頼性をより高めることができる液状組成物と、これを用いたこれを用いた香気成分の収着挙動評価方法とを提供する。
【解決手段】 本発明にかかる液状組成物は、収着成分として、炭化水素成分、エステル成分、アルデヒド成分、アルコール成分、およびフェノール成分を含有している。これら収着成分には、蒸発エネルギー値に基づく溶解度パラメーターが26.3以上の化合物が少なくとも1種含有されている。これを用いて香気成分の収着挙動を評価すれば、PET等の高極性材料を用いた容器包装においても、香気成分の収着挙動をより高い信頼性で評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意の材料に成分が収着する量を定量するために用いられる液状組成物と、その利用とに関するものであり、特に、香気成分の収着挙動を評価する目的で好適に用いることができ、さらに、評価の信頼性をより高めることができる液状組成物と、これを用いた香気成分の収着挙動評価方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品の官能評価の基準は味覚が主であるが、実際には、食品を口にしたときの感覚は単に味だけでなく、各種の物理的・化学的現象が複雑に作用しあって得られる総合的な感覚が重要となる。中でも香り(香気)は味覚について重要な要素となる。
【0003】
食品の中でも各種飲料は液状であるため、固形の食品に比べると、味に加えて香気の影響はより大きなものとなる。したがって、飲料メーカーにとって、設計された組成の飲料が製造、流通の過程を経て消費者が口にするまでの間、設計時の香味が全く変化せず保たれることが理想的となる。しかしながら、実際には消費者の手元に届くまでの過程で飲料の香味は多少なりとも変化してしまうことが多い。
【0004】
飲料の香味を変化させる要因は多岐にわたるが、これら要因のうち、飲料中の香気成分が、容器包装に収着する現象は代表的な要因のひとつである。そのため、飲料メーカーでは、香味変化を最小限にとどめるべく各飲料に最適な容器包装を選択することが必要となる。容器包装の材質としては様々なものが用いられているが、最近では、各種合成樹脂が広く用いられている。これら合成樹脂への香気成分収着については、例えば非特許文献1〜8並びに、特許文献1に示すように、これまでにも多くの研究が行なわれている。これら文献には、香気成分の収着量を定量するために用いる液状組成物(試料溶液、モデルフレーバー溶液等)が開示されている。
【0005】
具体的には、まず、非特許文献1および2には、エステル成分、アルデヒド成分、およびアルコール成分を含有する液状組成物が開示されている。また、非特許文献3〜8には、炭化水素成分、エステル成分、アルデヒド成分、およびアルコール成分を含有する液状組成物が開示されている。さらに、特許文献1には、炭化水素成分、エステル成分、アルコール成分、およびフェノール成分を含有する液状組成物が開示されている。
【特許文献1】特許第3504635号公報(登録日:2003年12月19日、特開2002−361784号公報、公開日:2002年12月18日)
【非特許文献1】M. Fukamachi, T.Matsui, Y. H. Hwang, M. Shimoda, and Y. Osajima, J. Agric. Food Chem., 44(9), 2810(1996)
【非特許文献2】D. K. Arora, A. P. Hansen, and M. S. Armagost, J. Food Sci., 56(5), 1421(1991)
【非特許文献3】池上徹、下田満哉、筬島豊、日食工誌、35(7)、457(1988)
【非特許文献4】池上徹、下田満哉、筬島豊、日食工誌、38(5)、425(1991)
【非特許文献5】T. Ikegami, K. Nagashima, M. Shimoda, Y. Tanaka, and Y. Osajima, J. Food Sci., 56(2), 500(1991)
【非特許文献6】池上徹、永島一史、下田満哉、筬島豊、日食工誌、37(10)、793(1990)
【非特許文献7】池上徹、下田満哉、小山正泰、筬島豊、日食工誌、34(5)、267(1987)
【非特許文献8】夏堀育子、島田博彰、日食工誌、41(3)、173(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術では、合成樹脂を用いた容器包装において、香気成分の収着挙動を十分に評価することができない場合がある。
【0007】
具体的には、本発明者らは、合成樹脂を用いた各種容器包装について検討したところ、上記各従来の技術に開示されている液状組成物では、それぞれ香気成分のモデルとなる各種化合物が含まれているものの、状況によっては容器包装の収着挙動を十分に評価することができない場合があることが明らかとなった。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、その目的は、合成樹脂を用いた容器包装において、香気成分の収着挙動を評価する目的で好適に用いることができ、さらに、評価の信頼性をより高めることができる液状組成物と、これを用いたこれを用いた香気成分の収着挙動評価方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、飲料の容器に使用する樹脂に対する各種香気成分の収着を高い信頼性で評価するためには、液状組成物として、(i)炭化水素成分、(ii)エステル成分、(iii)アルデヒド成分、(iv)アルコール成分、(v)フェノール成分5成分を必須成分として含有させたものを用いることが有効であることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明にかかる液状組成物は、上記の課題を解決するために、任意の材料に接触させ、当該材料に成分が収着する量を定量するために用いられる液状組成物であって、収着量の定量対象となる収着成分として、炭化水素成分、エステル成分、アルデヒド成分、アルコール成分、およびフェノール成分が含有されていることを特徴としている。
【0011】
上記液状組成物においては、上記炭化水素成分には、テルペン類および芳香族化合物の少なくとも一方が含まれることが好ましく、α−ピネンまたはリモネンが含まれることがより好ましく、両方が含まれることが特に好ましい。また、上記エステル成分には、酢酸エチル、酪酸エチル、カプロン酸エチル、カプリン酸エチル、ラウリン酸エチル、ミリスチン酸エチル、アントラニル酸メチルから選択される少なくとも1種の化合物が含まれることが好ましく、全てが含まれていることが特に好ましい。さらに、上記アルデヒド成分には、シトラール、iso−ブタナール、n−ブタナール、n−オクタナール、n−ドデカナール、ベンズアルデヒドから選択される少なくとも1種の化合物が含まれることが好ましく、全てが含まれていることが特に好ましい。また、上記アルコール成分には、リナロール、ゲラニオール、iso−ブタノール、n−ブタノール、n−オクタノール、n−ドデカノール、ベンジルアルコールから選択される少なくとも1種の化合物が含まれることが好ましく、全てが含まれていることが特に好ましい。さらに、上記フェノール成分には、フェノールまたはクレゾールが含まれることが好ましく、両方が含まれることが特に好ましい。
【0012】
上記液状組成物においては、さらに、蒸発エネルギー値に基づく溶解度パラメーターが26.3MPa1/2以上の化合物が少なくとも1種含有されることが好ましく、加えて、蒸発エネルギー値に基づく溶解度パラメーターが22.0MPa1/2以上の化合物が少なくとも1種含有されることがより好ましい。上記溶解度パラメーターが26.3MPa1/2以上の化合物は、フェノール成分に含まれていればよく、上記溶解度パラメーターが22.0MPa1/2以上の化合物は、エステル成分、アルデヒド成分、およびアルコール成分の少なくとも何れかに含まれていればよいが、特に限定されるものではない。
【0013】
上記液状組成物においては、上記アルコール成分に含まれる化合物は、上記溶解度パラメーターが20.1〜26.2MPa1/2の範囲内にあることが好ましく、上記エステル成分に含まれる化合物は、上記溶解度パラメーターが18.0〜23.6MPa1/2の範囲内にあることが好ましく、上記アルデヒド成分に含まれる化合物は、上記溶解度パラメーターが18.7〜23.8MPa1/2の範囲内にあることが好ましく、上記炭化水素成分に含まれる化合物は、上記溶解度パラメーターが16.2〜18.5MPa1/2の範囲内にあることが好ましい。
【0014】
また、上記液状組成物においては、上記収着成分を溶解する溶媒として、水、炭素数4以下のアルコール、炭素数5以上17以下の飽和炭化水素の少なくとも何れかが用いられることが好ましい。
【0015】
さらに、上記液状組成物においては、収着成分の可溶化剤として、多価アルコール型非イオン性界面活性剤を含むことが好ましい。この多価アルコール型非イオン性界面活性剤が、シュガーエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルの少なくとも何れかを好適に用いることができる。
【0016】
また、上記液状組成物においては、上記収着成分として用いられる化合物の最終濃度が1〜100ppmの範囲内となるように溶媒に溶解していることが好ましい。
【0017】
上記液状組成物を用いて成分の収着量を定量する材料としては、特に限定されるものではないが、合成樹脂を挙げることができ、より具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、およびポリアミド(PA)の何れかを挙げることができる。
【0018】
さらに、本発明には、上記液状組成物を、任意の材料に接触させる接触工程と、当該材料に液状組成物の溶質が収着した量を測定する収着量測定工程とを含む香気成分の収着挙動評価方法を挙げることができる。このとき用いられる任意の材料は、フィルム状であることが好ましい。上記収着挙動評価方法はキット化されていてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以上のように、液状組成物において、(i)炭化水素成分、(ii)エステル成分、(iii)アルデヒド成分、(iv)アルコール成分、および(v)フェノール成分を含有させている。
【0020】
従来では、上記(i)〜(v)の各成分については、2〜4成分をそれぞれ組み合わせて液状組成物として用いることは知られているものの、上記5成分を全て含有させることは全く知られていなかった。具体的には、非特許文献1・2に開示されている液状組成物には、(i)炭化水素成分、(v)フェノール成分は含有されておらず、また、非特許文献3〜8に開示されている液状組成物には、(v)フェノール成分は含有されておらず、さらに、特許文献1に開示されている液状組成物には、(iii)アルデヒド成分は含有されていない。これは、従来では、複数種類の香気成分を組み合わせる場合に、香気成分と合成樹脂との親和性を良好に評価することができるバランスについては全く考慮されていなかったためである。
【0021】
これに対して、本発明では、香気成分のモデルとして必須となる上記5成分を含んでおり、さらに、必要に応じてこれら5成分について、その溶解度パラメーターの範囲を特定した上で組み合わせて用いている。そのため、様々な飲料のモデルとして汎用性が高く、かつ、香気成分の収着挙動を包括的に評価することが可能となる。その結果、例えば、さまざまな容器包装においても、香気成分の収着挙動をより高い信頼性で評価することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の一形態について以下に詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0023】
(1)本発明にかかる液状組成物
本発明にかかる液状組成物は、水または低級アルコールの水溶液を溶媒とし、溶質として、炭化水素成分、エステル成分、アルデヒド成分、アルコール成分、およびフェノール成分が少なくとも含有されている。これら成分は一般に香気成分のモデルとして用いられる化合物であればよい。なお、これら成分(溶質)は、任意の材料に接触させ、当該材料に収着されるものであり、収着量の定量対象となるものであるため、説明の便宜上、本発明では「収着成分」と称する。本発明では、これら溶質のうち少なくとも1種の化合物として、蒸発エネルギー値に基づく溶解度パラメーターが26.3以上の化合物が用いられることが好ましい。
【0024】
(1−1)溶媒
本発明において、液状組成物の溶媒、すなわち上記収着成分を溶解する溶媒としては、特に限定されるものではなく、上記収着成分の収着挙動を妨げないような溶媒であればよいが、一般的には、水、炭素数4以下のアルコール(低級アルコール)、炭素数5以上17以下の飽和炭化水素の少なくとも何れかを好ましく用いることができる。これら溶媒は室温(一般的には、15〜25℃の範囲内)で液体であり、かつ、様々な分野において溶媒として広く用いられているため好ましい。
【0025】
上記溶媒のうち、水は純度が高いほど好ましく、蒸留水や超純水等を好適に用いることができる。また、水は、他の溶媒との混合液すなわち水溶液として用いることもできる。水溶液としては、例えば低級アルコールの水溶液を挙げることができるが特に限定されるものではない。
【0026】
上記溶媒のうち低級アルコールは、炭素数4以下のアルコールであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール(n−プロパノール)、2−プロパノール(イソプロパノール)、1−ブタノール(n−ブタノール)、2−ブタノール、tert−ブチルアルコール等を挙げることができるが特に限定されるものではない。これら低級アルコールは単独で用いてもよいし、2種類以上を用いてもよいし、水と混合して水溶液として用いてもよい。特に、本発明では、飲料の容器包装分野に好適に用いることができるため、上記低級アルコールの中でもエタノールが一般的に用いられる。
【0027】
低級アルコールを水溶液として用いる場合、そのアルコール濃度は、特にエタノール水溶液の場合は、10〜25体積%の範囲内にあることが好ましく、約20体積%の範囲内にあることがより好ましい。上記範囲内であれば、溶質の溶解度に対する影響を十分に考慮した溶媒として用いることができる(後述の実施例3参照)。もちろんエタノール以外のアルコールが含まれている場合であってもこの範囲内が好ましく採用される。
【0028】
上記炭素数5以上17以下の飽和炭化水素としては、具体的には、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ウンデカン、n−ドデカン、n−トリデカン、n−テトラデカン、n−ペンタデカン、n−ヘキサデカン、n−ヘプタデカン等の直鎖状アルカン;2−メチルメンタン、3−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン等の側鎖を有するアルカン;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の環状アルカン;等を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。また、低級アルコール等、飽和炭化水素に溶解可能なの他の溶媒と組み合わせて用いてもよい。
【0029】
なお、液状組成物の使用目的に応じて、溶媒としては、上記水、低級アルコール、飽和炭化水素以外の溶媒を用いてもよいことは言うまでもない。
【0030】
(1−2)収着成分としての香気成分のモデル化合物
本発明において、液状組成物の溶質すなわち収着成分としては、香気成分として用いられる各種化合物を好適に用いることができるが、本発明では、炭化水素成分、エステル成分、アルデヒド成分、アルコール成分(上記溶媒以外)、およびフェノール成分の5成分全てが必須成分として用いられる。
【0031】
本発明にかかる液状組成物は、これら5成分を含むことで、例えば、ウイスキーや茶、フルーツフレーバー等、各種飲料に含まれる香気成分(収着成分)そのものか、またはその類縁化合物を含むことになり、収着挙動をより信頼性高く評価することが可能となる。
【0032】
<炭化水素成分>
本発明で用いられる炭化水素成分は、各種飲料や食品のフレーバーとして用いることが可能な炭化水素化合物であれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、α−ピネン、リモネン、ミルセン等のテルペン類;シメン等の芳香族化合物;等を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0033】
これら化合物の中でも、テルペン類および芳香族化合物の少なくとも一方が好ましく用いられる。中でも、α−ピネンまたはリモネンが含まれることがより好ましく、両方が含まれることが特に好ましい。これら化合物類は、植物等に多く含まれる揮発性物質であり、香気成分として重要なものである。それゆえ、香気成分のモデルとして好適に用いることができる。なお、後述するアルデヒド成分やアルコール成分にもテルペン類に含まれる化合物が存在する。例えば、ネラール、ネロール、シトラール、シトロネラール、メントール等はアルデヒド成分やアルコール成分に分類されるが、テルペン類である。しかしながら、本実施の形態では、説明の便宜上、(アルコール性)水酸基やアルデヒド基を有する化合物はテルペン類でも炭化水素成分には加えないものとする。
【0034】
<エステル成分>
本発明で用いられるエステル成分は、構造中にエステル結合を有しており、各種飲料や食品のフレーバーとして用いることが可能な化合物であれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル等の酢酸エステル;酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、酪酸アミル、酪酸イソアミル等の酪酸エステル;ラウリン酸エチル等のラウリン酸(ドデカン酸)エステル;ミリスチン酸エチル等のミリスチン酸(テトラデカン酸)エステル;吉草酸エチル等の吉草酸(ペンタン酸)エステル;カプロン酸メチル、カプロン酸エチル等のカプロン酸(ヘキサン酸)エステル;エナント酸エチル等のエナント酸(ヘプタン酸)エステル;カプリル酸エチル等のカプリル酸(オクタン酸)エステル;ペラルゴン酸エチル等のペラルゴン酸(ノナン酸)エステル;カプリン酸エチル等のカプリン酸(デカン酸)エステル;2−メチル酪酸エチル等の2−メチル酪酸エステル;イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸イソアミル等のイソ吉草酸エステル;安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸アミル等の安息香酸エステル;乳酸エチル、乳酸cis−3−ヘキシニル、乳酸trans−3−ヘキシニル、乳酸ベンジル等の乳酸エステル;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸アリル、プロピオン酸シクロヘキシル等のプロピオン酸エステル;ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチル等のケイ皮酸エステル;アントラニル酸メチル等のアントラニル酸エステル;を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0035】
上記化合物の中でも、上記エステル成分には、酢酸エチル、酪酸エチル、カプロン酸エチル、カプリン酸エチル、ラウリン酸エチル、ミリスチン酸エチル、アントラニル酸メチルから選択される少なくとも1種の化合物が含まれることが好ましく、全てが含まれていることが特に好ましい。
【0036】
<アルデヒド成分>
本発明で用いられるアルデヒド成分は、構造中にアルデヒド基を有しており、各種飲料や食品のフレーバーとして用いることが可能な化合物であれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、trans−2−ヘキサナール、2−エチルヘキサナール、ヘプタナール、ノナナール、オクタナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、イソブチルアルデヒド等の飽和炭化水素系アルデヒド;ゲラニアール、シトラール(cis、trans)、シトロネラール、ネラール、ペリラアルデヒド等の不飽和炭化水素系アルデヒド;ベンゾアルデヒド、シンナムアルデヒド、アニスアルデヒド、フェニルプロピオン酸アルデヒドなどの芳香族系アルデヒド;等を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0037】
上記化合物の中でも、上記アルデヒド成分には、シトラール、iso−ブタナール、n−ブタナール、n−オクタナール、n−ドデカナール、ベンズアルデヒドから選択される少なくとも1種の化合物が含まれることが好ましく、全てが含まれていることが特に好ましい。
【0038】
<アルコール成分>
本発明で用いられる収着成分としてのアルコール成分は、構造中に水酸基を有しており、各種飲料や食品のフレーバーとして用いることが可能な化合物であれば特に限定されるものではない。なお、溶媒として好適に用いられる低級アルコール等と重複する化合物も存在し得るが、成分の役割は異なるため、成分としても異なるものとして取り扱う。
【0039】
上記アルコール成分としては、具体的には、例えば、n−ブタノール、iso−ブタノール、ヘキサノール、イソアミルアルコール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ウンデカノール、n−ドデカノール、メントール等の飽和炭化水素系アルコール;cis−3−ヘキセン−1−オール、ゲラニオール、リナロール、シトロール、ネロール、テルピネオール等の不飽和炭化水素系アルコール;ベンジルアルコール、メチルオイゲノール等の芳香族系アルコール;等を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0040】
上記化合物の中でも、上記アルコール成分には、リナロール、ゲラニオール、iso−ブタノール、n−ブタノール、n−オクタノール、n−ドデカノール、ベンジルアルコールから選択される少なくとも1種の化合物が含まれることが好ましく、全てが含まれていることが特に好ましい。
【0041】
<フェノール成分>
本発明で用いられるフェノール成分は、構造中にフェノール性水酸基を有しており、各種飲料や食品のフレーバーとして用いることが可能な化合物であれば特に限定されるものではない。なお、フェノール成分は、広義には上記アルコール成分に含まれると見なすこともできるが、化学的な物性が異なるだけでなく、本発明においては、収着成分(香気成分)としての役割が異なるため、成分としても異なるものとして取り扱う。
【0042】
上記フェノール成分としては、具体的には、例えば、フェノール、クレゾール、ヒドロキノン、カテコール等を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、フェノールまたはクレゾールが好ましく、フェノールがより好ましく、フェノールおよびクレゾールの両方が含まれることが特に好ましい。フェノール・クレゾールは後述するように極性が高いため、本発明における蒸発エネルギー値に基づく溶解度パラメーターが26.3以上の化合物として好適に用いることができる。
【0043】
<その他の収着成分>
本発明にかかる液状組成物には、上記5成分以外の収着成分が含まれていてもよい。その他の収着成分としては、各種飲料や食品のフレーバーとして用いることが可能な化合物であれば特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、2−ヘプタノン、2−オクタノン、2−ノナノン、2−デカノン等のケトン類;2−メチルチオプロパノール、3−メチルチオフェン、ベンジルメチルスルフィド等の含イオウ化合物;メチルピラジン、エチルピラジン等の含窒素化合物:等を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0044】
<収着成分の濃度>
本発明にかかる液状組成物において、収着成分(香気成分)すなわち上記炭化水素成分、エステル成分、アルデヒド成分、アルコール成分、フェノール成分、その他の収着成分として用いられる化合物の最終濃度は特に限定されるものではないが、1〜100ppmの範囲内であることが好ましく、約10ppmであることがより好ましい。この範囲内であれば、一般的な飲料とほぼ同様の濃度で香気成分が含まれていることになり、本発明にかかる液状組成物を飲料のモデル液として好適に用いることができる。
【0045】
(1−3)収着成分以外の成分
本発明にかかる液状組成物には、上記収着成分以外の成分が溶質として含まれていてもよい。このような他の溶質としては特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、収着成分(香気成分)の可溶化剤を挙げることができる。このような可溶化剤としては、具体的には、多価アルコール型非イオン性界面活性剤を好適に用いることができる。
【0046】
前述したように、収着成分は親水性の低いものが多いため、水またはアルコールの水溶液に溶けにくい。そこで、上記多価アルコール型非イオン性界面活性剤を用いれば収着成分を十分に溶解させることが可能となり、より飲料に近いモデル液を得ることができる。また、上記多価アルコール型非イオン性界面活性剤は食品用界面活性剤として用いられているものも多いため、飲料のモデル液に添加する成分としては好適である。
【0047】
上記多価アルコール型非イオン性界面活性剤は、具体的には、例えば、シュガーエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等を挙げることができる。これら化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて用いてもよい。なお、後述する実施例では、シュガーエステルを用いている。
【0048】
上記可溶化剤の添加量は特に限定されるものではなく、収着成分を溶媒に十分に溶解させることができる量であればよい。具体的には、0.01〜1%(w/v)の範囲内であればよい。この範囲内であれば、収着成分を十分に溶媒に溶解できるとともに、可溶化剤の量が多すぎて収着成分の収着挙動が飲料のモデルから外れるような事態を回避することができる。
【0049】
(1−4)液状組成物の製造方法
本発明にかかる液状組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、上述した各成分を混合して調製すればよい。混合の順序は特に限定されるものではないが、収着成分の絶対量が少ないため、先に溶媒を準備してから収着成分を添加すればよい。ここでいう溶媒の準備は、溶媒が水のみの場合は所望量の水を準備すればよく、溶媒がアルコールの水溶液であれば、所望の濃度となるようにアルコールと水とを所定量混合させればよい。
【0050】
また、可溶化剤を加える場合は、所定量の可溶化剤を予め添加して溶解させておけばよい。可溶化剤を十分に溶解するために必要に応じて加熱してもよい。加熱温度は特に限定されるものではなく、水やアルコールが過剰に蒸発しないような温度範囲であればよい。
【0051】
(2)液状組成物に含まれる収着成分の溶解度パラメーター
本発明において、収着成分として用いられる溶質は、上述したように、蒸発エネルギー値に基づく溶解度パラメーターが26.3MPa1/2以上の化合物が少なくとも1種含有されることが好ましい。ここでいう蒸発エネルギー値に基づく溶解度パラメーター(solubility parameter :SP値)は、R. F. Fedors, Polym. Eng. Sci., 14, 147 (1974) に開示されている蒸発エネルギー値を用いて算出するものである。
【0052】
具体的には、蒸発エネルギーをEcoh (J/モル)とし、モル体積をV(cm3 /モル)とし、さらに、SP値の算出対象となる化合物において、当該化合物に含まれる全ての基の蒸発エネルギーEcoh の和をΣEcoh とし、モル体積Vの和をΣVとすれば、
SP値δv は次の式(1)から算出される。
【0053】
【数1】

【0054】
なお、算出対象となる化合物に含まれる基の蒸発エネルギーEcoh およびモル体積Vの具体的な値は、公知の文献(例えば、Van Krevelen, D. W. "Cohesive Properties and Solubility"; In Properties of Polymers, Elsevier Scientific Publishing, Netherlands, Chapter 7 (1997) 等)に記載されている数値を利用することができる。
【0055】
各種飲料においては、様々な材料で容器包装がなされているが、合成樹脂を用いた容器包装を一つの系として見た場合、香気成分、合成樹脂(容器)、溶媒(飲料)が存在し、このときの収着現象では、香気成分と合成樹脂との親和性が重要な要因となる。そこで、本発明では、SP値が26.3MPa1/2以上である高極性化合物を収着成分(香気成分)として用いる。これにより、溶媒や容器包装の材質に関わらず、香気成分の収着挙動をより正確に評価することができる。その結果、香気成分の収着挙動をより高い信頼性で評価することができる。
【0056】
(2−1)液状組成物に含まれる高極性化合物のSP値
上記のように、本発明にかかる液状組成物においては、SP値が26.3MPa1/2以上の化合物が少なくとも1種含有されていればよい。このような化合物は、上述した必須の5成分中いずれの成分に含まれるものであってもよいが、例えば、フェノール成分に含まれる化合物であればよい。より具体的には、上記の例では、o−クレゾール(SP値:26.3MPa1/2)、フェノール(SP値27.5MPa1/2)を挙げることができ、特にSP値の高さからフェノールをより好ましく用いることができる。
【0057】
さらに、上記SP値が26.3MPa1/2以上の化合物を「上位の高極性化合物」と定義すれば、本発明にかかる液状組成物は、当該「上位の高極性化合物」に加えて、「中位の高極性化合物」を少なくとも1種含有していることが好ましい。ここでいう「中位の高極性化合物」は、SP値が22.0MPa1/2以上の化合物と定義することができる。
【0058】
このような「中位の高極性化合物」は、従来の液状組成物でも用いられている例がある(例えば、非特許文献6・7等)ため、上記「上位の高極性化合物」と併用することで、収着挙動をより信頼性高く評価することが可能となる。
【0059】
上記「中位の高極性化合物」も上述した必須の5成分中のいずれかに含まれていればよいが、例えば、エステル成分、アルデヒド成分、アルコール成分の少なくとも何れかに含まれる例を挙げることができる。より具体的には、iso−ブタノール(アルコール成分)、n−ブタノール(アルコール成分)、メチルアントラニレート(エステル成分)、ベンズアルデヒド(アルデヒド成分)、ベンジルアルコール(アルコール成分)等を挙げることができる。
【0060】
なお、「上位の高極性化合物」の一例であるフェノールをモデル液として用いている例としては、特許文献1に開示されている技術が挙げられる。しかしながら、この技術では、アルデヒド成分を含んでいないため、当該特許文献1に開示されている技術範囲では有効なモデル液として用いることができるが、上記香気成分の収着挙動を包括的に評価するためには不十分な点がある。
【0061】
これに対して、本発明にかかる液状組成物は、収着成分(香気成分)として、炭化水素成分、エステル成分、アルデヒド成分、アルコール成分、およびフェノール成分という5つの成分を用いている。そのため、飲料に含まれる香気成分の代表的なカテゴリーの化合物を網羅できている上に、上記「上位の高極性化合物」がこれらの中に含有されている。それゆえ、本発明では、香気成分の収着挙動をより包括的かつ信頼性高く評価することができる。
【0062】
(2−2)各成分のSP値
本発明では、収着成分(香気成分)として、炭化水素成分、エステル成分、アルデヒド成分、アルコール成分、およびフェノール成分という5つの成分を含有している。このうち、フェノール成分は、「上位の高極性化合物」として好適に用いられるため、SP値は26.3MPa1/2以上であり、27.5MPa1/2(フェノール)を含む範囲となっていればよいが、他の成分についても好ましいSP値の範囲が存在する。
【0063】
具体的には、まず、炭化水素成分として用いられる化合物、すなわち液状組成物において炭化水素成分に含まれる化合物は、上記SP値が16.2〜18.5MPa1/2の範囲内にあることが好ましい。また、エステル成分として用いられる化合物、すなわち液状組成物においてエステル成分に含まれる化合物は、上記SP値が18.0〜23.6MPa1/2の範囲内にあることが好ましい。さらに、アルデヒド成分として用いられる化合物、すなわち液状組成物においてアルデヒド成分に含まれる化合物は、上記SP値が18.7〜23.8MPa1/2の範囲内にあることが好ましい。また、アルコール成分として用いられる化合物、すなわち液状組成物においてアルコール成分に含まれる化合物は、上記SP値が20.1〜26.2MPa1/2の範囲内にあることが好ましい。
【0064】
上記各成分におけるSP値が上記範囲に入っていれば、飲料に含まれる香気成分の代表的なカテゴリーの化合物を網羅できている上に、それぞれのカテゴリーにおける化合物の極性が一般的な香気成分の極性の範囲内に入っていることになる。それゆえ、本発明では、香気成分の収着挙動をより包括的かつ信頼性高く評価することができる。
【0065】
さらに、包括的にとらえれば、本発明にかかる液状組成物は、収着成分として、炭化水素成分、エステル成分、アルデヒド成分、アルコール成分、およびフェノール成分が含有されており、SP値が17.6〜27.5MPa1/2の範囲内に入っていればよい。ただし、収着挙動をより正確に評価するためには、SP値が26.3MPa1/2以上である「上位の高極性化合物」を含有していることは非常に好ましい。
【0066】
(3)本発明の利用
本発明にかかる液状組成物は、具体的には、合成樹脂を用いた容器包装において、飲料の香気成分の収着挙動を評価する用途により好適に用いることができる。もちろん、本発明はこれに限定されるものではなく、任意の材料に接触させ、当該材料に成分が収着する量を定量する用途であれば、その用途は、容器包装分野や飲料分野に限定されるものではない。
【0067】
(3−1)成分の収着を定量する対象となる材料
成分の収着を定量する対象となる材料(説明の便宜上、収着定量材料と称する)は、特に限定されるものではないが、本発明では、飲料の容器包装として広く用いられる合成樹脂全般を挙げることができる。具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン樹脂;エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)等のビニル系樹脂;ポリアミド(PA);等を挙げることができる。
【0068】
特に、本発明にかかる液状組成物は、上述した5成分を含み、かつ、上位の高極性化合物を含有している。そのため、収着定量材料が、構造中にエステル結合を有するPETや、酸アミド結合を有するPA等のように、極性の高い材料(高極性材料)であっても、収着挙動を香気成分の収着挙動をより包括的かつ信頼性高く評価することができる。
【0069】
なお、本発明における収着定量材料の具体的な構成は特に限定されるものではないが、容器包装として好適に用いられることからも板状またはフィルム状となっていることが好ましい。また、この板状またはフィルム状の収着定量材料は、合成樹脂が含まれる構造を有しておれば、必ずしも合成樹脂のみからなる板やフィルムでなくてもよい。例えば、紙や金属層等の非合成樹脂材料を積層してなる積層体であってもよいし、合成樹脂同士を積層した積層体であってもよいし、複数の合成樹脂を混合したポリマーブレンドであってもよい。
【0070】
(3−2)具体的な利用技術
本発明のより具体的な利用技術としては、特に限定されるものではないが、上記液状組成物を、任意の材料に接触させる接触工程と、当該材料に液状組成物の溶質が収着した量を測定する収着量測定工程とを含む香気成分の収着挙動評価方法を挙げることができる。
【0071】
上記接触工程は、本発明にかかる液状組成物を任意の材料に接触させて香気成分(収着成分)を収着させることができる工程であれば特に限定されるものではない。後述する実施例では、所望のサイズに切り取ったフィルムを液状組成物に浸漬させ密封し、収着が飽和に達するまで保管しているが、これに限定されるものではなく、材料の使用条件に応じて、飽和に達する前に接触状態から開放してもよいし、密封状態ではない状態で浸漬させてもよい。
【0072】
上記収着量測定工程は、接触から開放された材料から成分の収着量を測定(定量)できる工程であれば特に限定されるものではない。後述する実施例では、ジエチルエーテルで収着している成分を抽出して濃縮し、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析しているがこれに限定されるものではない。
【0073】
成分の収着の挙動を評価する材料(サンプル)の形状は特に限定されるものではないが、一般的には、フィルム状の成形物を挙げることができる。これは、PETボトル等の容器包装に合わせた形状である。もちろん本発明はこれに限定されるものではなく、材料の使用状態によってはブロック状の成形物をサンプルとして用いてもよい。
【0074】
さらに、上記収着挙動評価方法を行うキットも本発明に含めることができる。キットの具体的な構成は特に限定されるものではなく、少なくとも液状組成物が含まれていればよいが、さらに、収着挙動のコントロールとなる対照サンプルとしてのフィルムや、サンプルから成分を抽出するための溶媒(上記ジエチルエーテル等)を含めてもよい。
【実施例】
【0075】
本発明について、実施例および図1に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0076】
〔試薬〕
蒸留水は和光純薬社製高速液体クロマトグラフ用蒸留水を、エタノールは同社製精密分析用エタノールを用いた。収着成分(香気成分)は、和光純薬、関東化学社製の特級試薬を用いた。収着成分(香気成分)の回収には和光純薬社製残留農薬分析用ジエチルエーテルを用いた。
【0077】
〔フィルムに収着した収着成分の回収〕
以下の実施例において、フィルムからの収着成分の回収は次のように行った。まず、液状組成物(モデル液)に浸漬したフィルムは、当該液状組成物から取り出し、蒸留水100mlで2回洗浄した後、当該フィルム表面の水を風乾した。ヘキサン溶液に浸漬したフィルムは表面のヘキサンを揮発させた。気相で収着させたフィルムはそのまま用いた。得られたフィルムを細片化して50ml容の三角フラスコに入れ、残留農薬分析用ジエチルエーテル50mlに浸漬した。溶媒を入れ替えながら3日間浸漬し、収着している成分を抽出した。全抽出液をあわせ、K.D.濃縮により1〜5mlまで濃縮した。
【0078】
濃縮した抽出液をガスクロマトグラフィー(GC)により分析した。GC条件を次に示す。
装置:Agilent HP6890(商品名:横河アナリティカルシステムズ社製)
検出器:FID
カラム:HP-INNOWax(50m×0.32mm,0.5μm)
オーブン温度:40℃(5分)−10℃/分−100℃−5℃/分−220℃(5分)
キャリアガス:ヘリウム
注入口圧:76kPa
注入条件:1μl、split(10:1)
注入口温度:220℃
検出温度:240℃
〔実施例1〕
蒸留水またはエタノール水溶液に、可溶化剤として、三菱化学社製、商品名:リョートーシュガーエステルP−1570(HLB値15)を0.1%(w/v)となるよう添加し、加熱しながら攪拌し溶解させた。得られた水溶液に対して、収着成分を含むエタノール溶液を各成分の最終濃度が10ppmとなるように添加し、本発明にかかる液状組成物(モデル液)とした。添加した成分(収着成分)は飲料中に含まれる成分の中から極性の異なる22物質を選定し、それぞれの溶解度パラメーター(SP値)をFedorsの蒸発エネルギー値を用いて算出した(前記(2)の項参照)。収着成分の一覧を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
〔実施例2〕
硬質ガラス製セパラブルフラスコに実施例1の液状組成物(モデル液)3000mlを入れ、100cm2(5cm×20cm)に切り取ったLDPEフィルム(密度:0.0920g/cm2 、膜厚50μm)およびPETフィルム(結晶化度32%、膜厚50μm)を浸漬して蓋をし、フッ素樹脂テープ、アルミテープで密閉した。その後、PEフィルムは35℃で25日間、PETフィルムは35℃で35日間、収着が飽和に達するまで保管した。その後、フィルムを取り出し、前述したように収着成分を回収した。収着成分のSP値と収着量との関係を表すようにプロットした結果を図1(A)・(B)に示す。
【0081】
図1(A)・(B)に示すように、本発明にかかる液状組成物では、PEおよびPETの双方において収着しやすい成分を網羅的に含んでおり、それゆえ、液状組成物が炭化水素成分、エステル成分、アルデヒド成分、アルコール成分、およびフェノール成分を含有していれば、PEであってもPETであっても収着挙動を評価するには好ましいことが明らかとなった。
【0082】
このように、炭化水素成分、エステル成分、アルデヒド成分、アルコール成分、およびフェノール成分の5成分を必須成分として含有させれば、香気成分の収着挙動をより正確に評価することができる。その結果、溶媒や容器包装の材質に関わらず、香気成分の収着挙動をより高い信頼性で評価することができる。
【0083】
〔実施例3〕
n−ブタナールを含まない以外は実施例1と同様にして液状組成物(モデル液)を調製した。エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、およびフェノール樹脂の共重合体からなる金属缶用内面塗装塗料A(パルスパーロック社製)を塗装した塗装板を上記液状組成物に浸漬し、実施例2と同様にして35℃で1ヶ月間保管した。その後、フィルムを取り出し、前述したように収着成分を回収し、塗料Aへの収着挙動の違いを評価した。各成分の収着量を表2および図2に示す。
【0084】
〔実施例4〕
金属缶用内面塗装塗料Bとして、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂の共重合体からなるもの(パルスパーロック社製)を用いた以外は実施例3と同様にして、塗料Bへの収着挙動の違いを評価した。各成分の収着量を表2および図2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
実施例3・4の結果から明らかなように、本発明にかかる液状組成物では、金属缶用内面塗装塗料にも収着しやすい成分を網羅的に含んでいる。それゆえ、本発明にかかる液状組成物は、塗料における収着挙動を評価するには好ましいことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明にかかる液状組成物は、以上のように、例えば、高極性材料を用いた容器包装においても、収着成分の収着挙動をより高い信頼性で評価することができる。これにより、例えばPETボトル入り飲料を考えた場合、ボトルの外側における気相からの異臭等の収着と、ボトルの内側における飲料中成分の収着では挙動が異なることになる。それゆえ、本発明は、今後の合成樹脂製容器入り飲料の開発、または異臭問題対策等に広く用いることができるため、各種飲料の包装分野に広く用いることができるだけでなく、飲料以外の食品の包装や、容器包装に用いられる合成樹脂等の素材加工産業にも好適に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】(A)は、実施例2において、PEフィルムにおける収着成分(香気成分)のSP値と収着量との関係を示すグラフであり、(B)は、実施例2において、PETフィルムにおける収着成分(香気成分)のSP値と収着量との関係を示すグラフである。
【図2】実施例3および4において、金属缶内面塗装用塗料AおよびBにおける収着成分(香気成分)と収着量との関係を示すレーダーチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の材料に接触させ、当該材料に成分が収着する量を定量するために用いられる液状組成物であって、
収着量の定量対象となる収着成分として、炭化水素成分、エステル成分、アルデヒド成分、アルコール成分、およびフェノール成分が含有されていることを特徴とする液状組成物。
【請求項2】
上記炭化水素成分には、テルペン類および芳香族化合物の少なくとも一方が含まれることを特徴とする請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
上記炭化水素成分には、α−ピネンおよび/またはリモネンが含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の液状組成物。
【請求項4】
上記エステル成分には、酢酸エチル、酪酸エチル、カプロン酸エチル、カプリン酸エチル、ラウリン酸エチル、ミリスチン酸エチル、アントラニル酸メチルから選択される少なくとも1種の化合物が含まれることを特徴とする請求項1、2または3に記載の液状組成物。
【請求項5】
上記アルデヒド成分には、シトラール、iso−ブタナール、n−ブタナール、n−オクタナール、n−ドデカナール、ベンズアルデヒドから選択される少なくとも1種の化合物が含まれることを特徴とする請求項1ないし4の何れか1項に記載の液状組成物。
【請求項6】
上記アルコール成分には、リナロール、ゲラニオール、iso−ブタノール、n−ブタノール、n−オクタノール、n−ドデカノール、ベンジルアルコールから選択される少なくとも1種の化合物が含まれることを特徴とする請求項1ないし5の何れか1項に記載の液状組成物。
【請求項7】
上記フェノール成分には、フェノールおよび/またはクレゾールが含まれることを特徴とする請求項1ないし6何れか1項に記載の液状組成物。
【請求項8】
蒸発エネルギー値に基づく溶解度パラメーターが26.3MPa1/2以上の化合物が少なくとも1種含有されることを特徴とする請求項1ないし7の何れか1項に記載の液状組成物。
【請求項9】
上記溶解度パラメーターが26.3MPa1/2以上の化合物は、フェノール成分に含まれていることを特徴とする請求項8に記載の液状組成物。
【請求項10】
さらに、蒸発エネルギー値に基づく溶解度パラメーターが22.0MPa1/2以上の化合物が少なくとも1種含有されることを特徴とする請求項8または9に記載の液状組成物。
【請求項11】
上記溶解度パラメーターが22.0MPa1/2以上の化合物は、エステル成分、アルデヒド成分、およびアルコール成分の少なくとも何れかに含まれていることを特徴とする請求項10に記載の液状組成物。
【請求項12】
上記アルコール成分に含まれる化合物は、上記溶解度パラメーターが20.1〜26.2MPa1/2の範囲内にあることを特徴とする請求項8ないし11の何れか1項に記載の液状組成物。
【請求項13】
上記エステル成分に含まれる化合物は、上記溶解度パラメーターが18.0〜23.6MPa1/2の範囲内にあることを特徴とする請求項8ないし12の何れか1項に記載の液状組成物。
【請求項14】
上記アルデヒド成分に含まれる化合物は、上記溶解度パラメーターが18.7〜23.8MPa1/2の範囲内にあることを特徴とする請求項8ないし13の何れか1項に記載の液状組成物。
【請求項15】
上記炭化水素成分に含まれる化合物は、上記溶解度パラメーターが16.2〜18.5MPa1/2の範囲内にあることを特徴とする請求項8ないし14の何れか1項に記載の液状組成物。
【請求項16】
上記収着成分を溶解する溶媒として、水、炭素数4以下のアルコール、炭素数5以上17以下の飽和炭化水素の少なくとも何れかが用いられることを特徴とする請求項1ないし15の何れか1項に記載の液状組成物。
【請求項17】
さらに、収着成分の可溶化剤として、多価アルコール型非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする請求項1ないし16の何れか1項に記載の液状組成物。
【請求項18】
上記多価アルコール型非イオン性界面活性剤が、シュガーエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルの少なくとも何れかであることを特徴とする請求項18に記載の液状組成物。
【請求項19】
上記収着成分として用いられる化合物の最終濃度が1〜100ppmの範囲内となるように溶媒に溶解していることを特徴とする請求項1ないし18の何れか1項に記載の液状組成物。
【請求項20】
上記材料が合成樹脂であることを特徴とする請求項1ないし19の何れか1項に記載の液状組成物。
【請求項21】
上記合成樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、エチレンビニルアルコール共重合体、およびポリアミドの何れかであることを特徴とする請求項20に記載の液状組成物。
【請求項22】
請求項1ないし21の何れか1項に記載の液状組成物を、任意の材料に接触させる接触工程と、当該材料に液状組成物の溶質が収着した量を測定する収着量測定工程とを含むことを特徴とする香気成分の収着挙動評価方法。
【請求項23】
上記材料がフィルム状であることを特徴とする請求項22に記載の香気成分の収着挙動評価方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−90886(P2006−90886A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277627(P2004−277627)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年(2004年)6月1日 日本包装学会発行の「日本包装学会誌 2004年 第13巻 第3号」に発表
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)