説明

液状組成物および液晶ポリエステルフィルム

【課題】液晶ポリエステルと溶媒と充填剤とを含有する液状組成物において、その保存安定性を高める。
【解決手段】液状組成物の溶媒は、この溶媒の全体に対して50〜100質量%のN−メチルピロリドンを含んでいる。液状組成物には、平均粒子径100nm以下のシリカが充填剤に対して1〜5質量%の割合で添加されている。液晶ポリエステルと溶媒との合計質量に対する液晶ポリエステルの質量の割合は、15〜45質量%である。液晶ポリエステルと溶媒と充填剤との合計質量に対する充填剤の質量の割合は、10〜75質量%である。これにより、液状組成物のゲル化および充填剤の沈降を抑制し、液状組成物の保存安定性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルと溶媒と充填剤(フィラー)とを含有する液状組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ポリエステルは、熱伝導性が高いことや高周波特性および耐熱性に優れていることに加えて、吸湿性が低いこと等の理由から、電子回路基板用の絶縁フィルム形成材料として注目されている。そして、この液晶ポリエステルからなるフィルム、すなわち液晶ポリエステルフィルムや、この液晶ポリエステルフィルムを用いた電子回路基板に関する技術が、例えば、特許文献1、2に開示されている。
【0003】
まず、特許文献1には、芳香族ジアミン由来の構造単位等を10〜35モル%含有する液晶ポリエステル(液晶性ポリエステル)を非プロトン性溶媒に溶解させることにより、液状組成物(液晶性ポリエステル溶液組成物)の耐腐食性を改善する技術や、この液状組成物の流延物から溶媒を除去することにより、電子回路基板(エレクトロニクス基板)用の液晶ポリエステルフィルムの異方性や機械的強度を改善する技術が開示されている。
【0004】
一方、特許文献2には、液晶ポリエステルと、液晶ポリエステルを溶解し得る有機溶媒と、無機充填剤(無機フィラー)とを含有する液状組成物(樹脂層)を用いたフレキシブル配線基板に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−315678号公報(段落〔0002〕、〔0039〕の欄)
【特許文献2】特開2007−106107号公報(段落〔0001〕、〔0002〕、〔0046〕、〔0047〕〜〔0060〕の欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された液晶ポリエステルと非プロトン性溶媒とを含む液状組成物では、とりわけ液晶ポリエステルの濃度が高い場合、この液状組成物を長期間にわたって静置すると、粘度が経時的に上昇してゲル化する傾向がある。したがって、液状組成物を長期間にわたって安定して保存する能力、つまり保存安定性に欠けるという問題があった。
【0007】
また、特許文献2のように、液晶ポリエステル溶液に無機充填剤を加えた場合、粘度の上昇速度がますます速くなり、液状組成物のゲル化が促進されるばかりか、溶液中で無機充填剤が沈降してしまうこともある。したがって、液状組成物の保存安定性が低下するという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、保存安定性に優れた液状組成物と、この液状組成物から形成される液晶ポリエステルフィルムとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明者は、液状組成物のゲル化および充填剤の沈降を抑制して液状組成物の保存安定性を高めるべく、溶媒の主成分としてN−メチルピロリドンを採用するとともに、この溶媒に微粒のシリカを沈降防止剤として添加することに着目し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明は、液晶ポリエステルと溶媒と充填剤とを含有する液状組成物であって、前記溶媒は、当該溶媒の全体に対して50〜100質量%のN−メチルピロリドンを含み、平均粒子径100nm以下のシリカが前記充填剤に対して1〜5質量%の割合で添加されている液状組成物としたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルと前記溶媒との合計質量に対する前記液晶ポリエステルの質量の割合が、15〜45質量%であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルと前記溶媒と前記充填剤との合計質量に対する前記充填剤の質量の割合が、10〜75質量%であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルは、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計含有量に対して、式(1)で示される構造単位の含有量が30〜50モル%、式(2)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%、式(3)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Arは、フェニレン基、ナフチレン基または下記式(4)で表される基を表し、Arは、フェニレン基または下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。なお、Ar、ArおよびArの芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSOを表す。)
【0014】
さらに、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の液状組成物の流延物から溶媒を除去して形成された液晶ポリエステルフィルムとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶媒の主成分としてN−メチルピロリドンを採用するとともに、この溶媒に微粒のシリカを沈降防止剤として添加することにより、液状組成物のゲル化および充填剤の沈降を抑制し、液状組成物の保存安定性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
<液晶ポリエステル>
【0017】
本発明に使用される液晶ポリエステルは、サーモトロピック液晶ポリマーと呼ばれるポリエステルであり、450℃以下の温度で光学的に異方性を示す溶融体を形成するものである。好適には、芳香族基がエステル結合で連結しているような液晶ポリエステルを挙げることができる。なお、この液晶ポリエステルは、エステル結合の一部がアミド結合に置き換わったような液晶ポリエステル−アミドも含む概念である。特に、このような液晶ポリエステル−アミドは、後述する液晶ポリエステル溶液において、液晶ポリエステルの溶媒に対する溶解性が良好になるという利点がある。
【0018】
好適な液晶ポリエステルを具体的に例示すると、例えば、次の(1)〜(4)である。
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸およびヒドロキシル基(水酸基)を有する芳香族ヒドロキシアミンの組み合わせを重合して得られるもの
(2)異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合して得られるもの
(3)芳香族ジカルボン酸とヒドロキシル基を有する芳香族アミンとを重合して得られるもの
(4)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させたもの
【0019】
なお、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および芳香族ヒドロキシアミンの代わりに、それらのエステル形成性誘導体やアミド形成性誘導体を使用してもよい。
【0020】
芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸のように、カルボキシル基を有する化合物のエステル形成性誘導体としては、例えば、カルボキシル基が、ポリエステル生成反応を促進するような、酸塩化物、酸無水物などの反応性が高い誘導体となっているもの、カルボキシル基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するような、アルコール類やエチレングリコールなどとエステルを形成しているものなどが挙げられる。
【0021】
また、芳香族ヒドロキシカルボン酸やヒドロキシル基を有する芳香族アミンのように、フェノール性ヒドロキシル基を有する化合物のエステル形成性誘導体としては、例えば、フェノール性ヒドロキシル基がエステル交換反応によりポリエステルを生成するように、フェノール性ヒドロキシル基がカルボン酸類とエステルを形成しているものなどが挙げられる。
【0022】
さらに、ヒドロキシル基を有する芳香族アミンのように、アミノ基を有する化合物のアミド形成性誘導体としては、例えば、エステル交換反応によりポリアミドを生成するように、アミノ基がカルボン酸類とエステルを形成しているものなどが挙げられる。
【0023】
また、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸およびヒドロキシル基を有する芳香族アミンは、エステル形成性を阻害しない程度であれば、その芳香環上に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基を置換基として有していてもよい。
【0024】
液晶ポリエステルの繰り返し構造単位としては、下記のものを例示することができる。
【0025】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位:

【0026】
前記の構造単位は、その芳香環上の水素原子がハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0027】
芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位:

【0028】
前記の構造単位は、その芳香環上の水素原子がハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0029】
ヒドロキシル基を有する芳香族アミンに由来する構造単位:

【0030】
前記の構造単位は、その芳香環上の水素原子がハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0031】
ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。また、アルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、ブチル基などが挙げられる。さらに、アリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、典型的にはフェニル基が挙げられる。
【0032】
中でも、本発明に適用する液晶ポリエステルとして特に好適なものは、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計含有量に対して、式(1)で示される構造単位の含有量が30〜50モル%、式(2)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%、式(3)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%の液晶ポリエステルである。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Arは、フェニレン基、ナフチレン基または下記式(4)で表される基を表し、Arは、フェニレン基または下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。なお、Ar、ArおよびArの芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSOを表す。)
【0033】
特に、式(1)で示される構造単位としては、Arが1,4−フェニレンの構造単位(A)および/または2,6−ナフチレンの構造単位(A)であるものが好ましい。
【0034】
また、式(2)で示される構造単位としては、Arが1,4−フェニレンの構造単位(B)、1,3−フェニレンの構造単位(B)および/または2,6−ナフチレンの構造単位(B)であるものが好ましい。
【0035】
さらに、式(3)で示される構造単位としては、Arが1,4−フェニレンの構造単位(C)および/または1,3−フェニレンの構造単位(C)であるものが好ましい。
【0036】
液晶ポリエステルに関し、溶媒に対する溶解性を一層良好にするためには、前記(A)で示される構造単位を全構造単位の合計含有量に対して少なくとも30モル%含むことが好ましい。
【0037】
構造単位のより好ましい組み合わせとしては、例えば、下記(a)〜(c)が挙げられる。
(a):
前記構造単位(A)、(B)、(C)からなる液晶ポリエステル。
前記構造単位(A)、(B)、(C)からなる液晶ポリエステル。
前記構造単位(A)、(B)、(B)、(C)からなる液晶ポリエステル。
前記構造単位(A)、(B)、(B)、(C)からなる液晶ポリエステル。
前記構造単位(A)、(B)、(B)、(C)からなる液晶ポリエステル。
前記構造単位(A)、(B)、(C)からなる液晶ポリエステル。
(b):前記(a)において、(C)の一部または全部を(C)に置換した液晶ポリエステル。
(c):前記(a)において、(A)の一部を(A)に置換した液晶ポリエステル。
【0038】
液晶ポリエステルとしては、絶縁材料として十分な耐熱性を有する点においては、(A)および/または(A)の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位の合計含有量が全構造単位の合計含有量に対して30〜50モル%、(B)、(B)および/または(B)の芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の合計含有量が全構造単位の合計含有量に対して25〜35モル%、(C)および/または(C)のヒドロキシル基を有する芳香族アミンに由来する構造単位の合計含有量が全構造単位の合計含有量に対して25〜35モル%のものが好ましく、(A)の含有量が全構造単位の合計含有量に対して30〜50モル%、(B)および/または(B)の芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の合計含有量が全構造単位の合計含有量に対して25〜35モル%、(C)の含有量が全構造単位の合計含有量に対して25〜35モル%の液晶ポリエステルが、さらに好ましい。
【0039】
また、液晶ポリエステルの質量平均分子量は、100000〜500000であると好ましい。
【0040】
本発明に用いる液晶ポリエステルの製造方法としては、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸およびヒドロキシル基を有する芳香族アミンを過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化してアシル化物を得、得られたアシル化物(芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物およびヒドロキシル基を有する芳香族アミンアシル化物)のアシル基と、芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物および芳香族ジカルボン酸のカルボキシル基とがエステル交換を起こすようにして重縮合するといった溶融重合が挙げられる。アシル化物としては、予めアシル化して得た芳香族ヒドロキシカルボン酸アシル化物やヒドロキシル基を有する芳香族アミンアシル化物を溶融重合に供してもよい。
【0041】
アシル化反応においては、脂肪酸無水物の使用量が、フェノール性ヒドロキシル基とアミノ基の合計含有量の1〜1.2倍当量であることが好ましく、より好ましくは1.05〜1.1倍当量である。脂肪酸無水物の使用量が1倍当量未満では、エステル交換(重縮合)時にアシル化物や芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸などが昇華し、反応系が閉塞しやすい傾向がある。逆に、脂肪酸無水物の使用量が1.2倍当量を超える場合には、得られる液晶ポリエステルの着色が著しくなる傾向がある。
【0042】
アシル化反応は、130〜180℃で5分〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分〜3時間反応させることがより好ましい。
【0043】
アシル化反応に使用される脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸などが挙げられ、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格および取扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸が好ましく、より好ましくは、無水酢酸である。
【0044】
エステル交換においては、アシル化物のアシル基の合計含有量がカルボキシル基の合計含有量の0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0045】
エステル交換は、130〜400℃で0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行なうことが好ましく、150〜350℃で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行なうことがより好ましい。
【0046】
アシル化物と芳香族ジカルボン酸とをエステル交換させる際には、ル・シャトリエ‐ブラウンの法則(平衡移動の原理)により、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させるなどして系外へ留去することが好ましい。
【0047】
なお、アシル化反応、エステル交換は、触媒の存在下で行なってもよい。この触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒などを挙げることができる。この触媒は、通常、モノマー類の投入時に投入され、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、この触媒を除去しない場合には、そのままエステル交換を行なうことができる。
【0048】
但し、これらの触媒は、生成する液晶ポリエステルから除去されず、液晶ポリエステルに残存したままとなることがある。そのため、金属を含む触媒を用いた場合、液晶ポリエステルに残存した金属が絶縁材料として悪影響を及ぼすことがある。そのような観点から、触媒としては前記有機化合物触媒が好ましい。
【0049】
エステル交換による重縮合は、通常、溶融重合により行なわれるが、溶融重合と固相重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、その後、粉砕してパウダー状またはフレーク状にした後、熱処理により行うことができる。具体的には、例えば、窒素などの不活性ガスの雰囲気下、20〜350℃で、1〜30時間固相状態で熱処理するという操作により、固相重合を実施することができる。この固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、攪拌することなく静置した状態で行っても構わない。なお、適当な攪拌機構を備えることにより、溶融重合槽と固相重合槽とを同一の反応槽とすることもできる。また、こうして固相重合した後、得られた液晶ポリエステルは、公知の方法によりペレット化してもよい。
【0050】
液晶ポリエステルの製造は、例えば、回分装置、連続装置等を用いて行うことができる。
<液晶ポリエステル溶液>
【0051】
このようにして得られた液晶ポリエステルを所定の溶媒に溶解して液晶ポリエステル溶液を調製する。
【0052】
この溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)を主成分とする溶媒、具体的には、全体の半分以上(50〜100質量%)、好ましくは80〜100質量%がN−メチルピロリドンである溶媒を用いる。
【0053】
なお、N−メチルピロリドン以外に含まれうる溶媒は、適宜選択されるが、非プロトン性溶媒であることが好ましく、また、低沸点溶媒であることが好ましい。その例としては、1−クロロブタン、クロロベンゼン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、γ−ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系溶媒、アセトニトリル、サクシノニトリルなどのニトリル系溶媒、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素などのアミド系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルフィド系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸などのリン酸系溶媒が挙げられる。
<液状組成物>
【0054】
こうして得られた液晶ポリエステル溶液は、必要に応じて、フィルターなどによってろ過して、液晶ポリエステル溶液中に含まれる微細な異物を除去した後、この液晶ポリエステル溶液に、無機充填剤を添加するとともに、沈降防止剤として微粒のシリカ(二酸化ケイ素)、具体的には、平均粒子径100nm以下、好ましくは20nm以下のシリカを無機充填剤に対して1〜5質量%の割合で添加して、本発明の液状組成物を調製する。微粒のシリカの添加により、液状組成物の粘度、チキソトロピー性が増大し、無機充填剤の沈降が抑制されるが、微粒のシリカの添加量があまり多いと、液状組成物の粘度が高すぎて取り扱い難く、また、液状組成物の粘度が経時的に上昇し易くなる。微粒のシリカとしては、親水性シリカが、沈降防止効果が特に高いので、好ましく使用し得る。ここで、シリカの平均粒子径は、シリカの電子顕微鏡写真をとり、3000〜5000個の一次粒子の直径を測定し、それらを数平均することにより求められる値である。
【0055】
なお、この無機充填剤としては、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、ジルコニア、カオリン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ケイ素など公知のものを挙げることができる。
【0056】
また、本発明の液状組成物には、必要に応じて、カップリング材、レべリング材、消泡剤、紫外線吸収剤、難燃化剤などの添加剤や着色用顔料その他を添加してもよい。
【0057】
このように、本発明の液状組成物においては、溶媒の主成分としてN−メチルピロリドンが採用されているとともに、微粒のシリカが沈降防止剤として添加されている。そのため、液状組成物のゲル化および無機充填剤の沈降を抑制し、液状組成物の保存安定性を高めることができる。
<液晶ポリエステルフィルム>
【0058】
こうして得られた液状組成物を支持体上に表面平坦かつ均一に流延し、その後、この液状組成物から溶媒を除去してフィルム化することにより、本発明の液晶ポリエステルフィルムを形成する。
【0059】
ここで、液状組成物の流延方法としては、例えば、ローラーコート法、ディップコート法、スプレイコート法、スピナーコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーン印刷法など各種の方法を採用することができる。
【0060】
また、溶媒の除去方法としては、特に限定されないが、溶媒の蒸発によって行うことが好ましい。溶媒を蒸発させる方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられる。これらの中でも、生産効率、取扱い性の点から、加熱して蒸発させることが好ましく、通風しつつ加熱して蒸発させることが一層好ましい。この場合、温度は80℃〜200℃程度が好ましく、時間は10〜120分程度が適切である。
【0061】
このようにして得られる液晶ポリエステルフィルムの厚さは、特に限定されることはないが、成膜性や機械特性の観点からは、0.5〜500μmであることが好ましく、さらに、取扱い性の観点を加味すると、1〜200μmであることがより好ましい。
【0062】
本発明の液状組成物は、腐食性が低く、取扱いが容易であり、この液状組成物を用いて得られる液晶ポリエステルフィルムは、縦方向(流延方向)と横方向(流延方向に対して直角な方向)の異方性が小さく、機械的強度に優れており、また、液晶ポリエステルが本来有する高周波特性、低吸水性などの性能にも優れている。したがって、プリント配線板などの電子部品用フィルムの用途に好適に使用することができる。
【0063】
なお、本明細書中において使用される用語「フィルム」とは、シート状の極薄のフィルムから肉厚のフィルムまで含有するものであり、シート状のみならず、瓶状の容器形態などをも含有するものである。
[発明のその他の実施の形態]
【0064】
なお、上述した実施の形態1では、無機充填剤を含有する液状組成物について説明したが、この無機充填剤に代えて、或いは、この無機充填剤に加えて、有機充填剤(例えば、エポキシ樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、尿素樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、スチレン樹脂など)を含有する液状組成物に本発明を同様に適用することも可能である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
(a)液晶ポリエステルの製造
【0066】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)および無水酢酸2374g(23.25モル)を仕込んだ。この反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、その温度(150℃)を保持して3時間還流させた。
【0067】
その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了点とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕し、粉末状の液晶ポリエステルのプレポリマーを得た。
【0068】
こうして得られたプレポリマーを窒素雰囲気下223℃で3時間保持して固相重合を行なうことにより、液晶ポリエステルを得た。こうして得られた液晶ポリエステルの流動開始温度は270℃であった。
【0069】
なお、この液晶ポリエステルの流動開始温度は次の方法で測定した。すなわち、(株)島津製作所製のフローテスター「CFT−500型」を用いて、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターに試料約2gを充填する。そして、9.8MPa(100kgf/cm)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度を液晶ポリエステルの流動開始温度とした。
(b)液晶ポリエステル溶液の調製
<調製例1>
【0070】
上記(a)で得られた液晶ポリエステル594gをN−メチルピロリドン(溶媒)2106gに加え、100℃で2時間攪拌した後、室温(23℃)まで冷却して、褐色透明な液晶ポリエステル溶液を得た。この液晶ポリエステル溶液を目視で観察したところ、液晶ポリエステルは溶媒に完全に溶解していた。また、この液晶ポリエステル溶液の粘度を測定したところ、420cPであった。
【0071】
なお、この液晶ポリエステル溶液の粘度は次の方法で測定した。すなわち、液晶ポリエステル溶液を110mlのスクリュー瓶に入れ、東機産業(株)製のB型粘度計「TVL−20型」(ローターNo.22、回転速度5rpm)を用いて、23℃における粘度を測定した。
【0072】
このようにして調製された液晶ポリエステル溶液を液晶ポリエステル溶液Aとする。この液晶ポリエステル溶液Aでは、液晶ポリエステルと溶媒(N−メチルピロリドン)との合計質量(2700g)に対する液晶ポリエステルの質量(594g)の割合が約22質量%となる。
<調製例2>
【0073】
上記(a)で得られた液晶ポリエステル594gをN,N−ジメチルアセトアミド(溶媒)2106gに加え、100℃で2時間攪拌した後、室温(23℃)まで冷却して、褐色透明な液晶ポリエステル溶液を得た。この液晶ポリエステル溶液を目視で観察したところ、液晶ポリエステルは溶媒に完全に溶解していた。また、上述した調製例1と同様の方法により、この液晶ポリエステル溶液の粘度を測定したところ、223cPであった。
【0074】
このようにして調製された液晶ポリエステル溶液を液晶ポリエステル溶液Bとする。この液晶ポリエステル溶液Bでは、液晶ポリエステルと溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド)との合計質量(2700g)に対する液晶ポリエステルの質量(594g)の割合が約22質量%となる。
(c)液状組成物の調製
<実施例1>
【0075】
上記(b)の調製例1で得られた液晶ポリエステル溶液A105.8gに、水島合金鉄(株)製の窒化ホウ素(BN)粉末「HP−40P」46.7gを無機充填剤として添加するとともに、平均粒子径12nmのシリカ(日本アエロジル(株)製のシリカ「AE200」)1.06g(つまり、窒化ホウ素粉末の質量に対して、2.3質量%)を沈降防止剤として添加し、遠心脱泡機で攪拌および脱泡して、液晶ポリエステル溶液Aに窒化ホウ素粉末およびシリカが分散している液状組成物を得た。
【0076】
なお、この液状組成物では、液晶ポリエステルと溶媒(N−メチルピロリドン)と無機充填剤(窒化ホウ素粉末)との合計質量(152.5g)に対する無機充填剤の質量(46.7g)の割合が約31質量%となる。
【0077】
この液状組成物について、東機産業(株)製のB型粘度計「TVL−20型」(ローターNo.22、回転速度5rpm)を用いて23℃における粘度(初期粘度)を測定したところ、4000cPであった。
【0078】
次に、こうして得られた液状組成物を室温(23℃)で72時間静置した後、上記B型粘度計で23℃における粘度(72時間後粘度)を測定したところ、5100cP(つまり、初期粘度の約1.28倍)に上昇した。また、ワニス(液晶ポリエステルが溶媒に溶解したもの)の状態を目視で確認したところ、無機充填剤の沈降は確認されなかった。
<比較例1>
【0079】
シリカの添加量を2.7g(つまり、窒化ホウ素粉末の質量に対して、6.0質量%)としたこと以外は実施例1と同様にして、液状組成物を調製し、その初期粘度および72時間後粘度を測定するとともに、ワニスの状態を確認した。
【0080】
その結果、液状組成物の初期粘度は12000cPであった。一方、72時間後粘度は28000cP(つまり、初期粘度の約2.33倍)に上昇した。また、ワニスの状態を目視で確認したところ、無機充填剤の沈降は確認されなかった。
【0081】
なお、この液状組成物では、液晶ポリエステルと溶媒(N−メチルピロリドン)と無機充填剤(窒化ホウ素粉末)との合計質量(152.5g)に対する無機充填剤の質量(46.7g)の割合は、実施例1の液状組成物と同じ割合、つまり約31質量%となる。
<比較例2>
【0082】
シリカの添加量を0.18g(つまり、窒化ホウ素粉末の質量に対して、0.4質量%)としたこと以外は実施例1と同様にして、液状組成物を調製し、その初期粘度および72時間後粘度を測定するとともに、ワニスの状態を確認した。
【0083】
その結果、液状組成物の初期粘度は3060cPであった。一方、72時間後粘度は3400cP(つまり、初期粘度の約1.11倍)に上昇した。また、ワニスの状態としては、窒化ホウ素の沈降により、二相に分離していることが確認された。
【0084】
なお、この液状組成物では、液晶ポリエステルと溶媒(N−メチルピロリドン)と無機充填剤(窒化ホウ素粉末)との合計質量(152.5g)に対する無機充填剤の質量(46.7g)の割合は、実施例1の液状組成物と同じ割合、つまり約31質量%となる。
<比較例3>
【0085】
シリカを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、液状組成物を調製し、その初期粘度および72時間後粘度を測定するとともに、ワニスの状態を確認した。
【0086】
その結果、液状組成物の初期粘度は2800cPであった。一方、72時間後粘度は3100cP(つまり、初期粘度の約1.11倍)に上昇した。また、ワニスの状態としては、窒化ホウ素の沈降により、二相に分離していることが確認された。
【0087】
なお、この液状組成物では、液晶ポリエステルと溶媒(N−メチルピロリドン)と無機充填剤(窒化ホウ素粉末)との合計質量(152.5g)に対する無機充填剤の質量(46.7g)の割合は、実施例1の液状組成物と同じ割合、つまり約31質量%となる。
<比較例4>
【0088】
上記(b)の調製例2で得られた液晶ポリエステル溶液Bを液晶ポリエステル溶液Aの代わりに同量だけ用いたこと以外は実施例1と同様にして、液状組成物を調製し、その初期粘度および72時間後粘度を測定するとともに、ワニスの状態を確認した。
【0089】
その結果、液状組成物の初期粘度は3010cPであった。一方、72時間後粘度を測定しようとしたところ、粘度計の測定限界(約100000cP)を超えるほど粘度が上昇し、液状組成物がゲル化してゼリー状を呈したため、粘度測定を正確に行えない状態となった。
【0090】
なお、この液状組成物では、液晶ポリエステルと溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド)と無機充填剤(窒化ホウ素粉末)との合計質量(152.5g)に対する無機充填剤の質量(46.7g)の割合は、実施例1の液状組成物と同じ割合、つまり約31質量%となる。
<比較例5>
【0091】
上記(b)の調製例2で得られた液晶ポリエステル溶液Bを液晶ポリエステル溶液Aの代わりに同量だけ用いたことと、シリカを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、液状組成物を調製し、その初期粘度および72時間後粘度を測定するとともに、ワニスの状態を確認した。
【0092】
その結果、液状組成物の初期粘度は1540cPであった。一方、72時間後粘度を測定しようとしたところ、粘度計の測定限界を超えるほど粘度が上昇し、液状組成物がゲル化してゼリー状を呈したため、粘度測定を正確に行えない状態となった。
【0093】
なお、この液状組成物では、液晶ポリエステルと溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド)と無機充填剤(窒化ホウ素粉末)との合計質量(152.5g)に対する無機充填剤の質量(46.7g)の割合は、実施例1の液状組成物と同じ割合、つまり約31質量%となる。
<実施例2>
【0094】
窒化ホウ素粉末の代わりに酸化アルミニウム(アルミナ)を無機充填剤として添加したこと以外は実施例1と同様にして、液状組成物を調製し、その初期粘度および72時間後粘度を測定するとともに、ワニスの状態を確認した。
【0095】
すなわち、上記(b)の調製例1で得られた液晶ポリエステル溶液A94.1gに、住友化学(株)製の酸化アルミニウム「AA−1.5」109.3gを無機充填剤として添加するとともに、平均粒子径12nmのシリカ(日本アエロジル(株)製のシリカ「AE200」)2.51g(つまり、酸化アルミニウムの質量に対して、2.3質量%)を沈降防止剤として添加し、遠心脱泡機で攪拌および脱泡して、液晶ポリエステル溶液Aに酸化アルミニウムおよびシリカが分散している液状組成物を得た。
【0096】
なお、この液状組成物では、液晶ポリエステルと溶媒(N−メチルピロリドン)と無機充填剤(酸化アルミニウム)との合計質量(203.4g)に対する無機充填剤の質量(109.3g)の割合が約54質量%となる。
【0097】
この液状組成物について、東機産業(株)製のB型粘度計「TVL−20型」(ローターNo.22、回転速度5rpm)を用いて23℃における粘度(初期粘度)を測定したところ、3990cPであった。
【0098】
次に、こうして得られた液状組成物を室温(23℃)で72時間静置した後、上記B型粘度計で23℃における粘度(72時間後粘度)を測定したところ、5010cP(つまり、初期粘度の約1.26倍)に上昇した。また、ワニスの状態を目視で確認したところ、無機充填剤の沈降は確認されなかった。
<比較例6>
【0099】
シリカを添加しなかったこと以外は実施例2と同様にして、液状組成物を調製し、その初期粘度および72時間後粘度を測定するとともに、ワニスの状態を確認した。
【0100】
その結果、液状組成物の初期粘度は2700cPであった。一方、72時間後粘度は4700cP(つまり、初期粘度の約1.74倍)に上昇した。また、ワニスの状態としては、酸化アルミニウムの沈降により、二相に分離していることが確認された。
【0101】
なお、この液状組成物では、液晶ポリエステルと溶媒(N−メチルピロリドン)と無機充填剤(酸化アルミニウム)との合計質量(203.4g)に対する無機充填剤の質量(109.3g)の割合は、実施例2の液状組成物と同じ割合、つまり約54質量%となる。
<比較例7>
【0102】
上記(b)の調製例2で得られた液晶ポリエステル溶液Bを液晶ポリエステル溶液Aの代わりに同量だけ用いたこと以外は実施例2と同様にして、液状組成物を調製し、その初期粘度および72時間後粘度を測定するとともに、ワニスの状態を確認した。
【0103】
その結果、液状組成物の初期粘度は4010cPであった。一方、72時間後粘度を測定しようとしたところ、粘度計の測定限界を超えるほど粘度が上昇し、液状組成物がゲル化してゼリー状を呈したため、粘度測定を正確に行えない状態となった。
【0104】
なお、この液状組成物では、液晶ポリエステルと溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド)と無機充填剤(酸化アルミニウム)との合計質量(203.4g)に対する無機充填剤の質量(109.3g)の割合は、実施例2の液状組成物と同じ割合、つまり約54質量%となる。
<比較例8>
【0105】
上記(b)の調製例2で得られた液晶ポリエステル溶液Bを液晶ポリエステル溶液Aの代わりに同量だけ用いたことと、シリカを添加しなかったこと以外は実施例2と同様にして、液状組成物を調製し、その初期粘度および72時間後粘度を測定するとともに、ワニスの状態を確認した。
【0106】
その結果、液状組成物の初期粘度は2920cPであった。一方、72時間後粘度を測定しようとしたところ、粘度計の測定限界を超えるほど粘度が上昇し、液状組成物がゲル化してゼリー状を呈したため、粘度測定を正確に行えない状態となった。
【0107】
なお、この液状組成物では、液晶ポリエステルと溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド)と無機充填剤(酸化アルミニウム)との合計質量(203.4g)に対する無機充填剤の質量(109.3g)の割合は、実施例2の液状組成物と同じ割合、つまり約54質量%となる。
<液状組成物の保存安定性の評価>
【0108】
以上の測定結果をまとめて表1に示す。表1において、「72時間後粘度(cP)」欄の「×」は、粘度計の測定限界を超えるほど粘度が上昇したことを表す。また、「無機充填剤」欄の「BN」および「アルミナ」はそれぞれ、窒化ホウ素粉末および酸化アルミニウムを意味し、「溶媒」欄の「NMP」および「DMAc」はそれぞれ、N−メチルピロリドンおよびN,N−ジメチルアセトアミドを意味する。
【表1】

【0109】
表1から明らかなように、液晶ポリエステルを溶解する溶媒がN,N−ジメチルアセトアミドである場合(比較例4、5、7、8参照)、無機充填剤が窒化ホウ素粉末であるか酸化アルミニウムであるかを問わず、また、シリカの添加の有無を問わず、長期間にわたって保存すると、液状組成物の粘度が大幅に上昇してゲル化するため、液状組成物の保存安定性に問題があることが判明した。
【0110】
また、液晶ポリエステルを溶解する溶媒がN−メチルピロリドンであっても、シリカが添加されていない場合(比較例3、6参照)、或いは、シリカが添加されていてもその添加量があまりにも少ない場合(比較例2参照)、長期間にわたって保存したとき、液状組成物の粘度の大幅な上昇は回避できるものの、無機充填剤(窒化ホウ素粉末または酸化アルミニウム)の沈降が生じてしまうため、液状組成物の保存安定性に問題があることが判明した。一方、シリカの添加量があまり多いと(比較例1参照)、無機充填剤(窒化ホウ素粉末)の沈降の発生は防ぐことができるが、液状組成物の粘度が高すぎて取り扱い難く、また、長期間にわたって保存したとき、液状組成物の粘度が上昇し易いことが判明した。
【0111】
これに対して、液晶ポリエステルを溶解する溶媒がN−メチルピロリドンであって、かつ、シリカが所定範囲の量で添加されていれば(実施例1、2参照)、無機充填剤が窒化ホウ素粉末であろうと酸化アルミニウムであろうと、長期間にわたって保存したときに、液状組成物の粘度の大幅な上昇を回避できるとともに、無機充填剤(窒化ホウ素粉末または酸化アルミニウム)の沈降の発生を防ぐことができるため、液状組成物の保存安定性が向上することが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は、電子回路基板、放熱基板、放熱シートなどに適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルと溶媒と充填剤とを含有する液状組成物であって、
前記溶媒は、当該溶媒の全体に対して50〜100質量%のN−メチルピロリドンを含み、
平均粒子径100nm以下のシリカが前記充填剤に対して1〜5質量%の割合で添加されていることを特徴とする液状組成物。
【請求項2】
前記液晶ポリエステルと前記溶媒との合計質量に対する前記液晶ポリエステルの質量の割合が、15〜45質量%であることを特徴とする請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
前記液晶ポリエステルと前記溶媒と前記充填剤との合計質量に対する前記充填剤の質量の割合が、10〜75質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の液状組成物。
【請求項4】
前記液晶ポリエステルは、以下の式(1)、(2)および(3)で示される構造単位を有し、全構造単位の合計含有量に対して、式(1)で示される構造単位の含有量が30〜50モル%、式(2)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%、式(3)で示される構造単位の含有量が25〜35モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の液状組成物。
(1)−O−Ar−CO−
(2)−CO−Ar−CO−
(3)−X−Ar−Y−
(式中、Arは、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Arは、フェニレン基、ナフチレン基または下記式(4)で表される基を表し、Arは、フェニレン基または下記式(4)で表される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。なお、Ar、ArおよびArの芳香環に結合している水素原子は、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11、Ar12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSOを表す。)
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の液状組成物の流延物から溶媒を除去して形成されたことを特徴とする液晶ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2011−201971(P2011−201971A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68779(P2010−68779)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】