説明

液状食品の噴霧乾燥方法及び乾燥された液状食品

【課題】噴霧乾燥法により液状食品を乾燥させる方法において、風味を変えずにビタミンC等ビタミン類や各種アミノ酸類等の栄養分の加熱による分解、色調の変化を可能な限り防止する。
【解決手段】茶類、果汁、野菜汁、乳などの液状食品にマンニトールを添加して、マンニトール含有液状食品とし、これを噴霧乾燥して乾燥食品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶類、果汁や乳等の液状食品の噴霧乾燥を促進するための乾燥促進剤に関し、さらにその乾燥促進剤を用いた乾燥促進方法、及び乾燥促進剤を用いて乾燥された液状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
D−マンニトール、キシリトール、エリスリトール等の水溶性糖類を賦形剤として、エカベトナトリウム等の苦みを有する成分や結合剤と共に流動層造粒法により造粒すること、その流動層造粒法では造粒される成分が全て固体で流動層に供給されることは知られており(特許文献1)、エリスリトールやキシリトール等を甘味料として添加し、さらに賦形剤として澱粉加水分解物、糖アルコールおよびオリゴ糖から選ばれる少なくとも1種と香料等を含有する溶液を噴霧乾燥して粉末組成物を得ることも公知である(特許文献2)。
【0003】
緑茶等の飲料を噴霧乾燥してなる粉末生成物に非還元糖類およびエリスリトール等の糖アルコールやアスコルビン酸等を添加し、これを造粒機により造粒して緑茶等の粉末飲料を製造することも公知であり、該糖アルコールとして他の糖アルコールと共にマンニトールも例示されているが、実施例においてマンニトールを使用した具体的な例がなく、しかも糖アルコールの添加は噴霧乾燥後である。(特許文献3)。
【0004】
さらに、レモンを果皮ごと切断しミキサー内でペースト状とし、これに砂糖やLアスコルビン酸等の酸度補強剤を一定割合で加えながら混合し、これを乾燥室内で35〜60℃で乾燥後、粉状に粉砕するレモン果汁粉末の製造方法、及び乾燥温度が高温になるとビタミンCが破壊されるので好ましくないことも知られている(特許文献4)。
【0005】
また、噴霧乾燥機に供給される被噴霧液流量が多い程、乾燥用気体の入口温度を高く、及び/又は流量を大きくする必要があり、かつ該被噴霧液流量が一定のときに乾燥用気体の流量を大きくすると入口温度が低くてもよいことも知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−7420号公報
【特許文献2】特開2003−250450号公報
【特許文献3】特開2009−72188号公報
【特許文献4】特開昭60−114177号公報
【特許文献5】特開平8−290001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
食品の保存性の向上や減量化(取り扱い易さ、軽量化)を目的として、食品中の水分を取り除き乾燥することは広く行われており、特に食品の劣化を防止して保存性を向上させるための急速に乾燥できる技術としては凍結乾燥法や噴霧乾燥法が一般的に簡便で有効といわれている。
凍結乾燥法は食品をいったん凍結させ、減圧下で水分を昇華させて乾燥物(粉末状、固形状)を得る方法であり、加熱を伴う乾燥法ではないので品質劣化やフレーバー揮散は少ないものの、減圧下とするための装置が大がかりとなり、かつ連続生産、大量生産に不向きであって、多大なコストと製造に時間を要するという欠点を有する。
また、特許文献1に記載されているようにマンニトール等の広範な各種の賦形剤を用いて粉末の材料を造粒することは知られているが、この際のマンニトール等は固体の造粒に寄与するに留まるものである。
【0008】
また、噴霧乾燥法は連続生産・大量生産に向き、低コストで粉末状の乾燥食品を製造できるものの、製造時に加熱を伴う方法であるので、食品中に含まれるビタミンC等のビタミン類やアミノ酸類等の機能性成分や色調及び旨味成分等が、乾燥時の熱により分解や変化するという問題があった。
また、噴霧乾燥を減圧下において行い加熱温度を下げる方法も知られているが、この方法も凍結乾燥と同様に減圧下におくための装置が大がかりとなる。
一方従来から、ビタミンCは皮膚や粘膜の健康維持を助けるとともに抗酸化作用を持つので、メラミン色素の生成を抑えて美白効果を有することが知られており、1日当たり24〜1000mgを摂取することが必要とされている。
特に果汁や茶類等のビタミンCを多く含有する乾燥食品の場合、乾燥時の加熱によりビタミンCを失う量は、他のビタミンCの含有量が少ない食品と比較して多いので、これらの食品により効率よくビタミンCを摂取することが困難となっていた。また、ビタミンC以外の各種ビタミン類やアミノ酸類も熱に弱いものが多く、加熱によりこれらの他のビタミン類やアミノ酸類も分解により失われたり、乾燥物の変色(褐変)の原因になる可能性がある。
しかも、加熱温度が200℃を超えると乾燥後の食品が加熱臭を有するものとなり、また、加熱温度が高い程、より多くのエネルギーを要することになる。
【0009】
一方、噴霧乾燥に際してキシリトールやエリスリトール等を賦形剤として添加しておくこともなされているが、これは賦形剤としての機能を期待するものであって、それによる乾燥温度の低下の程度が小さいものであった。さらに、これらを多く添加すると特に甘味が強くなり、液状食品の風味が本来のものから変化するという欠点がある。そのため、一般的には風味に影響しにくいデキストリンや乳糖を使うケースが多く、この場合には180〜200℃の温度で乾燥を行っていた。
また、液状食品を噴霧乾燥する際に、食品中のビタミンC等や熱に弱いアミノ酸等の分解を防止できるように、比較的低温の加熱温度で行うことは可能であるが、そのような加熱温度条件下では噴霧乾燥機への加熱用気体の供給量に対する液状食品の供給量を大きく減少させることを余儀なくされるので、大量生産に向くという噴霧乾燥機の特性と乾燥能力を十分に発揮できず、結果的に乾燥食品の生産性は劣ることとなる。
【0010】
そこで、連続生産・大量生産に向く噴霧乾燥法の特性を活かして液状食品を乾燥させる方法において、風味を変えずにビタミンC等ビタミン類や各種アミノ酸類等の栄養分の加熱による分解、色調の変化を可能な限り防止することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は液状食品にマンニトールを添加してマンニトール含有液状食品とし、賦形剤を添加した場合よりも15℃以上低下した温度で該マンニトール含有液状食品を噴霧乾燥する乾燥食品の製造方法に至った。その製造方法は、マンニトールの該液状食品中の可溶性固形分に対する添加比率を45〜200重量%または45〜300重量%としてもよく、噴霧乾燥する際のマンニトール含有液状食品の温度を135〜180℃とすることができ、マンニトール含有液状食品がさらに賦形剤を含有してもよく、液状食品が茶類、果汁、野菜汁、乳またはこれらの混合物でもよい方法とし、およびこれらの方法に使用される液状食品の乾燥促進用マンニトールと、これらの方法により得られた乾燥食品を得るものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液状食品に一定量のマンニトールを含有させた後に、これを噴霧乾燥させることにより、マンニトールを含有させない場合又は賦形剤として知られるキシリトールやエリスリトール等の他の糖アルコールを使用した場合と比較して、より低温での乾燥が可能になるので、噴霧乾燥機に供給される乾燥用気体をより低温にできる。このため、耐熱性が弱いビタミンC等のビタミン類や各種アミノ酸等の栄養素の加熱による分解を極力防止することができる。
かつその供給量と比較してより多くの液状食品を噴霧乾燥炉内に供給することが可能となり、生産性の向上を図ることが可能である。また、温度を15℃低下させることで、加熱に伴うエネルギー消費の低減につながる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】茶固形分に対するマンニトール添加量の比と低下温度の関係を示すグラフ
【図2】賦形剤添加量を一定とした茶固形分に対するマンニトール添加量の比と低下温度の関係を示すグラフ
【図3】茶固形分及びレモン果汁固形分に対するマンニトール添加量の比と低下温度の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における液状食品としては、例えば緑茶、抹茶、煎茶、烏龍茶、紅茶等の茶葉から抽出される茶類、コーヒー・ココア類、オレンジ、グレープ、アップル、アセロラ、ミカン、グアバ、グレープフルーツ、ゆず、ライム、レモン等のストレートジュース、これらの濃縮液や濃縮還元ジュース等の果物の果汁、ケール、キャベツ、にんじん、トマト等の野菜類の絞り汁、これらの濃縮液や希釈液、生乳、加工乳、乳飲料、クリーム、コーヒーホワイトナー、ヨーグルト、乳酸菌飲料等の牛乳及び乳製品、ウスターソース類、しょうゆ類、かつおだし、昆布だし、しいたけだし、コンソメ、めんつゆ等のだし類、スープ及びこれらのブレンド物が挙げられるが、これらは特に限定されず加熱により分解されるビタミンC等のビタミン類や、各種アミノ酸類等の栄養素を含有する他の液状の食品でもよい。
【0015】
また、これらの液状食品又はこれを噴霧乾燥して得た粉末食品には、公知の食品用の甘味料、香料、安定剤、賦形剤、ミネラル等を含有させることができる。甘味料としてはアスパルテーム、スクラロース、サッカリン、アセスルファム−K、L−アスパルチル−L−フェニルアラニン低級アルキルエステル甘味料、L−アスパルチル−D−アラニンアミド、L−アスパルチル−D−セリンアミド、L−アスパルチル−ヒドロキシメチルアルカンアミド甘味料、L−アスパルチル−1−ヒドロキシエチルアルカンアミド甘味料などの高甘味度甘味料、グリチルリチン、合成アルコキシ芳香族化合物などがある。更に、ステビオシド及び他の天然源の甘味料も使用できる。
【0016】
香料としては、食品用であることを前提にして、天然物からなる香料、合成して得られる香料のいずれでも良く、液状食品又はこれを噴霧乾燥して得た粉末食品の品質に影響を及ぼさない香料であれば特に限定されない。
【0017】
安定剤としては、pH調整剤として炭酸水素アルカリ金属塩、炭酸アルカリ金属塩、酸味料としてクエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸などの酸等が使用される。
【0018】
賦形剤としては、マンニトール以外の糖アルコール、デキストリン、キシリトール、エリスリトール等の公知のものを使用できるが、過剰に添加すると、これらの賦形剤が有する甘味等が目立ち、食品の風味等を損なう可能性がある。
【0019】
ミネラルとしては、ナトリウムやカリウム以外のものであって、カルシウム、ヨウ素、鉄、マグネシウム、亜鉛等を含有できる。
【0020】
上記の甘味料、香料、安定剤や賦形剤、ミネラルの他に、乳化剤、染料等食品に添加可能な公知の添加物や副原料を含有させてもよい。
なお、本発明における可溶性固形分は、液状食品が元々含有する可溶性固形分のことであり、本発明の方法を採用する前のマンニトールや賦形剤等を添加していない段階での可溶性固形分である。
【0021】
本発明においてマンニトールは他のキシリトール等の糖アルコールやデキストリン等の公知の賦形剤とは区別して用いられるものであり、その使用の目的は液状食品の噴霧乾燥時における乾燥温度の低下にある。乾燥後にマンニトールも他の賦形剤と共に粉体形状を維持するための剤としても機能するものではあるが、本発明においては、マンニトールは賦形剤として使用されるものではなく、乾燥温度を低下させるための剤として使用されるものであり賦形剤には包含されないし、逆に本発明における賦形剤はマンニトールを包含するものではない。この点については実施例に記載されているように、他の糖アルコールはマンニトール程に乾燥温度の低下効果を発揮するものではない。
そして、賦形剤を添加した場合よりも15℃以上低下した温度とは、液状食品の元来の固形分に対してマンニトールを添加せずに賦形剤のみを添加した場合に乾燥できる最低の温度(ダマが発生したりせず、流動性がよく、水分含量5%未満の粉末ができる乾燥温度)を基準にして15℃以上低下した温度を指している。そして、該賦形剤の一部又は全部をマンニトールに置き換えた場合の乾燥できる最低の温度が、その基準となる最低の乾燥温度よりも15℃以上低下した温度で乾燥できる場合には、本発明中の温度条件にて乾燥することができる。
このようにマンニトールを添加して乾燥を行うと、デキストリン等を用いる従来の180℃以上の温度ではなく、同程度の粒径の乾燥粉体を得る場合であっても、180℃未満の所定の温度にて乾燥が可能となる。この結果はマンニトールが結晶化しやすいという性質によって、より低温での乾燥温度において速やかに結晶化できることを反映したものと考えられる。
【0022】
噴霧乾燥に使用する装置は、液状食品の乾燥に使用できる公知の噴霧乾燥装置であれば二流体式等の形式は問わないが、噴霧乾燥装置は気流中に液状材料を噴霧して、液体と気流の間の熱交換により液状食品を乾燥する装置であり、比較的低温域の温度に調節可能であること、確実に乾燥を行うために液状食品の装置への送液量や装置内への送風量、及びこれらの温度等を精密に制御可能な装置である必要がある。
そして、本発明における乾燥温度は、噴霧乾燥装置における乾燥用加熱空気の入り口温度をいい、加熱乾燥時の液状食品の温度を示すものではない。
【0023】
本発明において、上記のようにマンニトール以外の物質も液状食品に添加することが可能である。そのような物質には、例えばデキストリン等の賦形剤のようにマンニトールには遠く及ばないが、その後の乾燥可能な温度に影響を与える物質もあり、液状食品の乾燥可能温度は賦形剤等とマンニトールの添加量を反映して決定される。
【0024】
噴霧乾燥装置に供給する液状食品へのマンニトールの添加量は、例えば該液状食品中の可溶性固形分に対して45〜300重量%であることが必要であり、さらに45〜200重量%とするのが良く、また、マンニトール添加量の単位増加量に対する乾燥温度低下効果の向上度合いを考慮すると50〜150重量%とすることがより好ましい。マンニトールの添加量が45重量%未満の場合には、噴霧乾燥しても、温度を低下させると十分に乾燥できない。また、300重量%を超えるとマンニトール添加によるさらなる温度低下の程度は若干穏やかになり、乾燥に伴うエネルギー効率がよくならない。
【0025】
また、乾燥温度をさらに低下させる場合には、マンニトールの添加量を135〜300重量%とすることも好ましく、この範囲の量のマンニトールを添加して乾燥すると低下温度が45℃以上となり、噴霧乾燥時の乾燥温度をさらに低下させることにより、結果的にビタミンCやアミノ酸等の分解を防止でき、乾燥前のビタミンCの90%以上を乾燥後においても残すことができる。
【0026】
これらの点から明らかなように、本発明において、マンニトールの添加量を可溶性固形分に対して45〜300重量%の量となるように添加すること、そして液状食品中の可溶性固形分の濃度を考慮すると、マンニトールは該液体食品全体に対して2.2〜20重量%となるように添加することが必要である。さらに、このような量の添加により噴霧乾燥する温度を15〜45℃低下することが可能であり、その結果として噴霧乾燥する際のマンニトール含有液状食品の温度を135〜180℃としても十分に乾燥を行うことが可能である。
このような温度範囲の中から、マンニトールの添加量に対する乾燥温度の低下の程度の効果からみると140〜160℃に加熱して乾燥することが可能となるし、また温度の低下効果に着目すると135℃まで加熱温度を低下させることも可能である。
【0027】
このようなマンニトールの性質、つまり乾燥温度を低下させることができるという性質によると、乾燥温度を低下させない場合には、乾燥時間を短縮できる効果や単位時間あたりの水分蒸発量(噴霧流量)を増加できる効果を発揮できることは、乾燥一般の技術からみて明らかである。
【実施例】
【0028】
実施例1
緑茶試料の調整方法
緑茶葉500gをニーダー抽出機で、70℃の水3250gにより5分かけて抽出した。この抽出液を粗ろ過し、これを脱水遠心分離機にかけて固形分を分離して、ろ液を冷却した後3000rpmで30℃、5分間遠心分離して茶抽出液とした。
抽出液のブリックス(Bx)は約5.0であった。
この抽出液にデキストリン(DE8〜10)およびD−マンニトールを合計で一定量となるように添加して、表1に記載された各テスト1〜9区分、15区分と16区分と、さらに10〜14区分の茶溶液を作成してこれを噴霧乾燥した。また、コントロールとしてデキストリンのみを添加して実験を行い、比較実験としてエリスリトール、キシリトールを用いて同様の実験を行った。
【0029】
評価項目は以下の通り。
乾燥結果:噴霧乾燥後に7%以下の水分含量である場合には乾燥されていると判断し、この場合を○で、またそうでない場合には×で示す。
遊離アミノ酸量:HPLCにより測定した(mg/カフェイン1000ppm)。
還元型ビタミンC量:ヨウ素法により測定を行った(mg/100g)。
褐変変化:乾燥した粉末を水に溶かして水溶液とし、この水溶液の色調を乾燥前の溶液と比較し、および420nmの波長の光を用いて吸光度(ABSat420nm)を測定した。
これらの判断基準、測定方法は以下の各実施例においても同じである。
【0030】
表1のテスト区分1〜9は全て賦形剤であるデキストリンとマンニトールの合計添加量を茶固形分に対して270重量%とし、茶のブリックスをほぼ5.1の条件下とした例である。
この条件下において、マンニトールの添加量を0〜13.1重量%(茶溶液重量に対して)、マンニトールの添加割合を0〜270重量%(茶固形分に対して)、マンニトール/(賦形剤+マンニトール)を0〜1として茶溶液を調整した後、これを上記の条件で噴霧乾燥してテスト区分1から9とした。
【0031】
テスト区分2と3は乾燥温度、つまり噴霧乾燥機の乾燥用空気の入口温度が異なる他は同じ条件であるが、テスト区分2は160℃で乾燥できたのに対し、テスト区分3は乾燥温度155℃では乾燥しなかった。同じくテスト区分4と5では、テスト区分4は145℃で乾燥できたのに対し、テスト区分5は139℃では乾燥できず、テスト区分6と7では、テスト区分6は140℃で乾燥できたのに対し、テスト区分7は135℃で乾燥できなかった。さらにテスト区分8と9においてテスト区分8は135℃で乾燥できたのに対し、テスト区分9は130℃では乾燥できなかった例である。
【0032】
これらのテストによれば、マンニトールとデキストリンの合計量が一定であっても、マンニトールの添加量を増加させるにつれて必要な乾燥温度がより低温で良いことである。つまり、デキストリンのみを含有する茶を乾燥したコントロールであるテスト区分1を基準にして、このコントロール中のデキストリン分をマンニトールに置換する。そして、マンニトールの添加量を増加させると、最も乾燥温度が低下したテスト区分8においては従来の賦形剤であるデキストリンのみを添加したコントロールと比較して45℃も低下した。
【0033】
同様にデキストリンとマンニトールの合計添加量を茶固形分に対して180重量%と一定にし、茶のブリックスをほぼ5.1の条件下としたテスト区分10〜14において、乾燥温度のみが異なるテスト区分11と12では、テスト区分11は180℃で乾燥できるが、テスト区分12は170℃で乾燥できず、テスト区分13と14では、テスト区分13は160℃で乾燥できるのに対し、テスト区分14は150℃で乾燥できないものであった。この結果からは、デキストリンとマンニトールの合計添加量を変えてもマンニトールの含有量を増加させると乾燥温度も低下できるという傾向には変化がないことであり、さらに、デキストリンとマンニトールの合計の添加量を増加させると共にマンニトールの添加量を増加させると乾燥温度が低下するといえる。
【0034】
さらにテスト区分15と16は茶のブリックスが他のテスト区分とほぼ同じであり、テスト区分2および3に対してマンニトールではなく、テスト区分15はキシリトール、テスト区分16はエリスリトールのみを添加した点において異なる例であるが、テスト区分15および16共に170℃でも乾燥できなかった。さらに、賦形剤の4分の1をマンニトールに置き換えたテスト区分2によっては160℃で乾燥でき、この温度はテスト区分15や16による乾燥温度よりも低温であることからみると、マンニトールの使用が従来のキシリトール、エリスリトール、デキストリンを使用した場合よりも明らかに乾燥温度の低下の程度が大きいことが理解できる。
【0035】
なお、表1のコントロールであるテスト区分1と10の結果を比較すると、デキストリンの添加量が茶固形分濃度の1.8倍と2.7倍では2.7倍のほうの乾燥温度がより低下しているので、この結果からみても賦形剤であるデキストリン自体にも若干の乾燥温度の低下効果が備えられている。
【0036】
この表1において乾燥できたテスト区分の結果をグラフ化したものが図1のグラフである。この図示されたプロットの傾向は曲線で示され、この曲線を表すy=2.6858x−18.23x+46.171xを境に、この曲線よりも上の温度では十分に乾燥できず、下では乾燥できる範囲を示している。
この曲線からみても、マンニトール添加量/茶固形分の値を増加させるにつれ、乾燥に要する温度は低下するものである。
【0037】
これらの例からみると、本発明によればマンニトールとデキストリンの合計量が一定であっても、マンニトールの添加量を増加させると乾燥に要する温度が低下する。この傾向は、下記のようにマンニトールとデキストリンの合計量を変えても同じである。そしてマンニトールに代えてキシリトールやエリスリトールを採用して得られる結果と比較して、マンニトールを使用すると明らかに茶の乾燥温度の低下がみられる。
【0038】
【表1】

【0039】
さらに表2の遊離アミノ酸の残存量をみると、マンニトール及び賦形剤を含有させないテスト区分10は889.6mg/カフェイン1000ppmであるのに対し、マンニトールを配合して乾燥温度を低下させたテスト区分11は926.9mg/カフェイン1000ppmと高くなっている。なかでも、マンニトールを添加して乾燥温度を低下させた場合は茶の旨み成分であるテアニン等のアミノ酸がテスト区分10は275.8mg/カフェイン1000ppmであるのに対し、テスト区分11は285.9mg/カフェイン1000ppmと、テスト区分11の方がより多く残っているので、やはりより低温での乾燥がより茶の旨みを残すことができる。
【0040】
【表2】

【0041】
実施例2
実施例1と同様の調整方法により茶抽出液を得た。抽出液のブリックス(Bx)としては5.4であった。
この抽出液に賦形剤としてのデキストリン(DE8〜10)を、抽出液の固形分に対して180重量%となるように添加した茶溶液をテスト区分1のコントロールとした。
さらに、このコントロールの茶固形分に対して36重量%、72重量%及び108重量%となるようにマンニトールを添加して、マンニトールの含有比率のみを変化させた試料を作成し、これを噴霧乾燥して、乾燥に必要な温度条件を測定した。
その結果を下記表3に示す。
【0042】
乾燥結果をみると、マンニトールを茶固形分に対して36重量%、72重量%、108重量%と添加した場合には、テスト区分2、4及び6に示すように、それぞれ180℃、165℃、155℃で乾燥が可能であり、テスト区分3、5及び7に示すように、それ以下の温度では十分に乾燥ができなかった。
コントロールの乾燥温度を基準にこれらの乾燥の低下温度をみると、茶固形分に対するマンニトールの濃度を増加させると、図2に示すように、それにほぼ比例するようにして、低下温度が増加することが理解できる。この図2において、プロットや近似式を示す線上及びその線より下の区域の低下温度の範囲では噴霧乾燥が可能であるが、その線より上の区域においては十分な乾燥ができないことを示している。
実施例1の結果から理解できる、マンニトールはデキストリン等の賦形剤よりも乾燥温度の低下効果に優れるという効果を合わせて検討すると、実施例2の結果は、賦形剤に加えてマンニトールを添加しても、その添加量にほぼ比例して、乾燥温度の低下温度分が増加するのであって、乾燥温度の低下にはマンニトールの添加が大きく寄与することが理解できる。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例3
レモン果汁は以下の通りに調整した。
ブリックスが37の濃縮レモン果汁に純水を加えてブリックス10に希釈し、これにデキストリン(DE8〜10)およびD−マンニトールを一定量添加して表4に記載されたテスト区分1〜4のレモン果汁溶液を作成し、これを噴霧乾燥した。また、コントロールとしてデキストリンのみを添加して実験を行った。
茶とレモン果汁共に、噴霧乾燥にはヤマト科学株式会社製パルビスミニヘッドGA22を使用し、試料を4.8ml/minの流量で送液すると共に、風量を0.45もしくは0.40Nm/minで送風して乾燥した。乾燥の調整は入口温度を変化させることにより行った。具体的な温度として、入口温度を195〜130℃まで調整しながら乾燥を行った。
【0045】
さらに表4のテスト区分1〜4は全て賦形剤であるデキストリンとマンニトールの合計添加量をレモン果汁固形分に対して400重量%とし、レモン果汁のブリックスをほぼ10.05の条件下とした。この例において、レモン果汁にはクエン酸や糖等の吸湿性が高い物質が含有されているので、乾燥するには茶の場合よりもより多くの賦形剤を添加する必要があり、そのために上記の通りデキストリンとマンニトールの合計添加量は茶の場合よりも多くレモン果汁固形分に対して400重量%とした。
【0046】
この条件下において、マンニトールの添加量を0〜20.1重量%(レモン果汁溶液重量に対して)、マンニトールの添加割合を0〜200重量%(レモン果汁固形分に対して)、マンニトール/(賦形剤+マンニトール)を0〜0.5としてレモン果汁を調整した後、これを上記の茶の場合と同じ条件で噴霧乾燥した。
【0047】
テスト区分2と3は乾燥温度が異なる他は同じ条件であるが、テスト区分2は165℃で乾燥できたのに対し、テスト区分3は乾燥温度155℃では乾燥しなかった。またテスト区分4は160℃で乾燥ができている。
このレモン果汁の例においてもコントロールであるマンニトールを添加しなかった例では180℃で乾燥できるに留まることから、マンニトールを添加することにより乾燥温度が低下することを確認できる。
【0048】
さらにレモン果汁のビタミンCの濃度は133.34mg/100mlであるところ、テスト区分1にて180℃にて乾燥すると、108.99mg/100mlとなり81.7%のビタミンCが残存するに留まるが、テスト区分2にて165℃で乾燥すると122.06mg/100mlと91.5%が残存する結果となり、乾燥温度が低下するとビタミンCの残存率が向上することがいえる。
【0049】
【表4】

【0050】
褐変変化の確認のための420nmの波長の光を用いた吸光度(ABSat420nm)の結果は、コントロールであるテスト区分1が0.283で、本発明に沿ってなされたテスト区分2が0.256である。これらの結果をみると、本発明によるテスト区分2の吸光度の値がコントロールよりも小さく、本発明による噴霧乾燥によれば、得られるレモン果汁等の褐変の程度はマンニトールを添加しない場合より小さくなる。
【0051】
実施例4
牛乳を噴霧乾燥して、マンニトールの効果を検討した。
牛乳は以下の通りに調整した。
全脂粉乳60gを熱湯に溶解し、500mlとなるように調整し、室温まで急冷し、コントロール(Bx.12.0)とした。そしてコントロール100gあたりマンニトールを12g溶解したものを実施例とした。このテスト区分3及び4はデキストリン等の賦形剤を使用することなく、牛乳にマンニトールのみを添加したものを試料としたものである。
この結果によると、脂肪分が多く含有されている牛乳に対してもマンニトールを添加することにより、噴霧乾燥の乾燥温度を低下させることができることがわかる。
【0052】
【表5】

【0053】
これらの実施例の結果をまとめると、図3に記載されたレモン果汁と茶のマンニトールの添加量に対する低下温度のように、液状食品毎の性質によって、マンニトールの添加による乾燥温度低下の効果には差があるものの、マンニトールの添加によるその乾燥温度の低下効果は共通して有するものである。
【0054】
上記のように、お茶やレモン果汁、牛乳等の液状食品を噴霧乾燥するにあたり、該液状食品に予め賦形剤とは別にマンニトールを所定量添加させることによって、乾燥に必要な温度を特に低下させることができる。このため、該液状食品に元来含有されているビタミンC等のビタミン類や各種アミノ酸類等の加熱により分解されやすく、体に有用な物質を極力分解させないように乾燥することができる。さらに、大量生産に向く噴霧乾燥の条件下、つまり乾燥用気体の供給量に対して十分に大量の液状食品を噴霧乾燥機に導入する場合においても、乾燥温度をより低下させた条件にて乾燥を行うことができるものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状食品にマンニトールを添加してマンニトール含有液状食品とし、賦形剤を添加した場合よりも15℃以上低下した温度で、該マンニトール含有液状食品を噴霧乾燥する乾燥食品の製造方法。
【請求項2】
該液状食品中の可溶性固形分に対するマンニトールの添加比率が45〜200重量%である請求項1記載の方法。
【請求項3】
噴霧乾燥する際のマンニトール含有液状食品の温度が135〜180℃である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
液状食品が茶類のとき、乾燥温度が135〜160℃である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
液状食品が果汁のとき、乾燥温度が135〜165℃である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
噴霧乾燥する際のマンニトール含有液状食品がさらに賦形剤を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
液状食品に含有されるビタミンCの90%以上が乾燥後に残存する請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
液状食品に含有されるテアニンの分解が防止される請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
液状食品が茶類、果汁、野菜汁、乳またはこれらの混合物である請求項1〜8のいずれか記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法により得られた乾燥食品。
【請求項11】
マンニトールを液状食品由来の可溶性固形分に対して45〜300重量%含有する請求項10に記載の乾燥食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−103818(P2011−103818A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262961(P2009−262961)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(308009277)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】