説明

液相エピタキシャル成長法による励起子発光型ZnOシンチレータの製造方法

【課題】シンチレータ結晶を放射線検出に利用する場合に、蛍光寿命が長い長波長発光により放射線検出の弁別機能の安定性が害されるという問題を解決できる450〜600nmの発光が少ない励起子発光型シンチレータZnO単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】溶質であるZnOと溶媒とを混合して融解させた後、得られた融液に、基板を直接接触させることによりZnO単結晶を成長させる液相エピタキシャル成長法により、ノンドープZnO単結晶やIII族元素やランタノイド元素をドープしたZnO単結晶を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレーション検出器におけるシンチレータとして用いるZnO単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線を計測するためのデバイスとして、シンチレーション検出器がある。典型的なシンチレーション検出器の構成を図1に示す。図1において、放射線がシンチレーション検出器100に入射すると、シンチレータ結晶110で入射した放射線に応じた蛍光が生じ、この光を光電子倍増管や半導体検出器120で検出することで、放射線を検出することができる。
【0003】
次世代シンチレータ・デバイスの候補として、TOF(Time of Flight)方式が提案されフッ化物を中心に検討が進められている。時間分解を行うためには、蛍光寿命が短ければ短いほど分解能を向上させることが可能であり、BaF2が最も理想に近いとされてきた。しかしながら、BaF2は発光量が少ない、発光波長が短いため石英窓を具備する高価な光電子倍増管(PMT)が必要になり、汎用のPMTが使用できないなどの問題点を抱えている。
【0004】
そこで、BaF2に替わる蛍光寿命が短いシンチレータとして、ワイドバンドギャップ化合物半導体の励起子発光シンチレータが提案されている。ZnO、CdSなどの化合物半導体をシンチレータとして用いれば、蛍光寿命が短く、発光波長も370nmとなり、汎用的なPMTや半導体検出器が使用可能となる。
【0005】
一方、シンチレーション応用として汚染物質の放射能分布の確認用途がある。従来は、この確認にオードジオグラフィー(ARG)やイメージングプレートが利用されてきた。これらは数十年にわたり使用されてきているため動作が安定している利点はあるが、前者は現像フィルムが必要で、かつフィルムからでは放射能強度がわからないという問題を持つ。後者はプレートそのものは使いやすいが、大型の測定装置にかけて解析する必要がある。また、両者とも測定対象物(汚染物)から測定試料を作製し、装置にセットする必要があるとともに、事前に露光時間を決定する(適切な露光時間を推測する)必要があるため、その場での確認はできずに、結果が出るまでに時間を要するという問題点がある。
【0006】
これらパッシブな計測装置に対し、リアルタイムに放射線を検知したら発光し、それを電気信号に変換することができれば、放射能汚染の早期発見、迅速対応に活かすことが可能となる。
【0007】
上記問題点を解決する手段として、ワイドバンドギャップ化合物半導体の励起子発光シンチレータがDerenzoらによって提案されている(非特許文献1;Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A505 (2003) 111−117、特許文献1;米国特許出願公開第2006/219928号明細書)。
【0008】
ZnO、CdSなどのワイドギャップ型化合物半導体をシンチレータとして用いれば、蛍光寿命が短く、発光波長も370〜380nmとなり、汎用的なPMTや半導体検出器が使用可能となる。同文献によれば、X線励起による蛍光寿命は0.11nsec〜0.82nsecと蛍光寿命が短い。しかしながら、これらの文献に記載されたシンチレータ材料は多結晶体である。多結晶体の場合、微結晶の向きなどにより発光強度のムラが生ずることがあり、粒径により空間分解能が左右されるという欠点を有する。高空間分解能および効率的なシンチレータ発光のためにはシンチレータは単結晶である方が好ましい。
【0009】
また、III族およびランタノイドを1ppm〜10mol%程度ドープしたZnO単結晶の励起子発光型シンチレータ応用が提案されている(特許文献2;国際公開第2007/094785号パンフレット、非特許文献2;Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A505 (2003) 82−84)。
【0010】
同文献によれば、InドープZnO単結晶において蛍光寿命が0.6nsecと記載されている。しかしながら、これらの文献に記載されたシンチレータ材料は“High pressure direct melting technique"法で作製されている。同法では、高圧かつ高温が必要で結晶成長コストが高い上、単結晶部分と多結晶部分の混在するため、前記多結晶体と同様の不具合が存在する。
【0011】
上記多結晶体の問題点を解決する手法として、ワイドバンドギャップ型ZnO単結晶の励起子発光を利用したシンチレータが提案されている(特許文献3;国際公開第2005/114256号パンフレット、非特許文献3;独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 平成17年度研究成果報告書“実用型TOF検出器用超高速シンチレータ単結晶材料の開発”)。
【0012】
同報告では、ZnO単結晶成長法としてPt内式のオートクレーブを用いて水熱合成法を採用している。同成長法を用いると、高い結晶性を有する大型のZnO単結晶を成長することが可能となる。しかしながら、同結晶は結晶表面の加工歪み、格子間亜鉛や酸素欠陥などの不純物準位に起因した蛍光および成長時に用いられる鉱化剤から混入するLiなどの影響で、α線などの電離放射線が照射されると励起子発光であるバンド端発光より長波長領域である450〜600nm付近に発光成分が存在するという欠点を有していた。また、ZnOを用いたシンチレータ結晶の発光量は、典型的なシンチレータ結晶であるBi4Ge312(BGO)の15%程度に留まっていた(非特許文献4;高エネルギーニュース Vol.21 No.2 41−50 2002)。
【0013】
一般的に、励起子発光の蛍光寿命は短いが、励起子発光以外の蛍光寿命は長くなる。したがって、シンチレータ結晶を放射線の検出に利用する場合、励起子発光以外に発光があると、放射線検出の弁別機能の安定性を害するという欠点を有しており、励起子発光のみが支配的となるシンチレータ結晶が求められていた。同報告では、結晶表面の加工歪みを低減させる研磨方法の改善やInドープによる励起子発光波長の長波長シフトによる発光量増大などの改善は見られたが、励起子発光より長波長成分の発光強度が大きいという問題点が解決できていなかった。
【0014】
一方、レーザパルス堆積法(PLD)、MBEおよびMOCVD法などの気相成長法を用いると高品質なZnO単結晶が成長可能であるが、気相成長法では製膜速度が遅く、1μm以上の膜厚を有するZnO単結晶を成長させるためには多大な時間が掛かる欠点を有していた。ZnO単結晶の場合、α線や電子線では5〜50μm程度の侵入深さがあり、ZnO単結晶だけでα線や電子線を阻止するのに十分な厚みを気相成長法では短時間で成長できない問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/219928号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/094785号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2005/114256号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2007/100146号パンフレット
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A505 (2003) 111−117
【非特許文献2】Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A505 (2003) 82−84
【非特許文献3】独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 平成17年度研究成果報告書“実用型TOF検出器用超高速シンチレータ単結晶材料の開発”
【非特許文献4】高エネルギーニュース Vol.21 No.2 41−50 2002
【非特許文献5】Appl. Phys. Lett. 78 1237 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述するような状況において、励起子発光以外の可視域発光が抑制されたZnO系シンチレータ単結晶を液相エピタキシャル成長法(LPE法)で製造する方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、溶液成長法によるZnO単結晶の成長方法について出願している(特許文献4;国際公開第2007/100146号パンフレット)。同出願の方法を用いれば、溶質であるZnOと溶媒であるPbOおよびBi23あるいはPbF2およびPbOとを混合して融解させた後、得られた融液に基板を直接接触させることにより、ノンドープZnO単結晶を基板上に成長させることができる。また、同出願の方法を用いるとAl、Ga、InなどのIII族元素およびランタノイド元素を1mol%以下の量で含有させたZnO単結晶も製造することができる。
【0019】
一方、本発明者らは鋭意研究の結果、水熱合成法などの方法で成長したZnO単結晶は、格子間亜鉛や酸素空孔などのn型結晶欠陥および高濃度の不純物Liが存在し、このような結晶欠陥や不純物Liはα線や電子線が照射されると450〜600nmの波長域で減衰寿命が長い発光の原因となることを見出した。そこで、上記特許文献4の方法を用いて製造した、ノンドープZnO単結晶やIII族元素やランタノイド元素をドープしたZnO単結晶を用いると、450〜600nmの発光が少ない励起子発光型ZnO単結晶を得ることができることを見出した。
【発明の効果】
【0020】
本発明の好ましい実施形態によれば、450〜600nmの発光が少ない励起子発光型ZnO単結晶を製造することができるため、シンチレータ結晶を放射線検出に利用する場合に、蛍光寿命が長い長波長発光により放射線検出の弁別機能の安定性が害されるという問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、典型的なシンチレーション検出器の構成である。
【図2】図2は、本発明の実施形態において使用する一般的なLPE(Liquid phase epitaxial:LPE)成長炉である。
【図3】図3は、実施例で用いたLPE成長炉の構成図である。
【図4】図4は、水熱合成基板のα線励起透過スペクトルである。
【図5】図5は、実施例1に係るα線励起シンチレータ光の透過スペクトルである。
【図6】図6は、実施例2に係るα線励起シンチレータ光の透過スペクトルである。
【図7】図7は、実施例3に係るα線励起シンチレータ光の透過スペクトルである。
【図8】図8は、実施例4に係るα線励起シンチレータ光の透過スペクトルである。
【図9】図9は、実施例5に係るα線励起シンチレータ光の透過スペクトルである。
【図10】図10は、実施例6に係るα線励起シンチレータ光の透過スペクトルである。
【図11】図11は、比較例1に係るα線励起シンチレータ光の透過スペクトルである。
【図12】図12は、実施例1〜6および比較例1に係るα線励起シンチレータ光の発光量の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態は、溶質であるZnOと溶媒との混合・溶融物に、基板を直接接触させることによりZnO単結晶を成長させる液相エピタキシャル成長法により作製されることを特徴とする、励起子発光型ZnOシンチレータの製造方法である。
【0023】
すなわち、溶質であるZnOと溶媒とを混合して融解させた後、得られた融液に基板を直接接触させ、さらに温度を降下させることで過飽和となった融液中に析出するZnO単結晶を、基板上に成長させるLPE法により、励起子発光型ZnOシンチレータを製造する方法である。
【0024】
本実施形態に係る製造方法により得られた励起子発光型ZnOシンチレータによれば、α線および電子線などの電離放射線による励起時の蛍光寿命が短い励起子発光のみが支配的となり、蛍光寿命が長い発光成分が低減され、放射線検出の弁別機能を安定化することが可能となる。さらに、α線など電離放射線を照射したときの発光量をBGO比15%以上に向上させることができる。したがって、本実施形態で得られたZnO単結晶シンチレータは、高速のα線や電子線などの検出器に応用が可能となる。なお、励起子発光型ZnOシンチレータに照射される電離放射線としては、α線、γ線、電子線、X線、中性子線などが挙げられる。
【0025】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態は、溶質であるZnOと溶媒との混合・溶融物に、基板を直接接触させることによりZnO単結晶を成長させる液相エピタキシャル成長法において、ZnOに対し、Al、Ga、Inおよびランタノイド元素を585ppm以下ドープすることを特徴とする、励起子発光型ZnOシンチレータの製造方法である。
【0026】
本実施形態に係る製造方法により得られた励起子発光型ZnOシンチレータによれば、α線および電子線などの電離放射線による励起時の蛍光寿命が短い励起子発光のみが支配的となり、蛍光寿命が長い発光成分が低減され、放射線検出の弁別機能を安定化することが可能となる。さらに、α線など電離放射線を照射したときの発光量をBGO比15%以上に向上させることができる。したがって、本実施形態で得られたZnO単結晶シンチレータは、高速のα線や電子線などの検出器に応用が可能となる。
【0027】
第2の実施形態では、III族およびランタノイド元素のドープ量は、ZnOに対し585ppm以下が好適である。より好ましくはZnOに対し146ppm以下であり、さらに好ましくはZnOに対し59ppm以下であり、もっとも好ましくはノンドープである。585ppmを越えると、発光量がBGO比15%以下となるので好ましくない。
【0028】
<第3の実施形態>
本発明の第3の実施形態は、前記溶媒がPbF2およびPbOであり、溶質と溶媒との混合比が溶質:溶媒=2〜20mol%:98〜80mol%であり、溶媒であるPbF2とPbOとの混合比がPbF2:PbO=20〜80mol%:80〜20mol%である、上述する励起子発光型ZnOシンチレータの製造方法である。
【0029】
この実施形態によれば、PbOとPbF2とが共晶系を形成し、PbOまたはPbF2単独の融点よりも低い温度でのLPE成長が可能となるため、溶媒の蒸発が抑制できる。したがって、組成変動が少なく安定な結晶育成が行える上、炉材消耗が抑制でき、育成炉が密閉系でなくてもよくなるため、低コストでの製造が可能となる。
【0030】
また、結晶成長法として熱平衡成長に近いLPE法を用いているため、転移や欠陥が少ない高品質なZnO単結晶を製造することができる。この実施形態で得られたドープZnO単結晶シンチレータは、高速のα線や電子線などの検出器に応用が可能となる。
【0031】
溶媒組成としては、好ましくはPbF2:PbO=20〜80mol%:80〜20mol%であり、より好ましくはPbF2:PbO=30〜70mol%:70〜30mol%であり、さらに好ましくはPbF2:PbO=40〜60mol%:60〜40mol%である。この範囲であれば、溶媒であるPbF2とPbOとの蒸発量を抑制でき、その結果、溶質濃度の変動が少なくなり、LPE法でノンドープ、あるいは、III族およびランタノイドドープのZnO単結晶を安定に成長させることができる。さらに、炉材消耗が抑制でき育成炉が密閉系でなくてもよくなることで、低コストでZnO単結晶を育成できる。
【0032】
溶質であるZnOと溶媒であるPbF2とPbOとの混合比は、溶質:溶媒=2〜20mol%:98〜80mol%であることが好ましい。より好ましくは、溶質濃度が5mol%〜10mol%である。溶質濃度が5mol%以上では実効的成長速度をより速くすることができ、10mol%以下では溶質成分を溶解させる温度をより低く抑えることができ、溶媒蒸発量を少なくすることができる。
【0033】
<第4の実施形態>
本発明の第4の実施形態は、前記溶媒がPbOおよびBi23であり、溶質と溶媒との混合比が溶質:溶媒=5〜30mol%:95〜70mol%であり、溶媒であるPbOとBi23との混合比がPbO:Bi23=0.1〜95mol%:99.9〜5mol%である、上述する励起子発光型ZnOシンチレータの製造方法である。
【0034】
この実施形態によれば、結晶成長法として熱平衡成長に近いLPE法を用い、さらにZnO結晶内へ取込まれづらいイオン半径の大きい元素で構成される融剤であるPbOおよびBi23を用いることにより、結晶内への不純物の混入が少ない高品質なZnO単結晶を製造することができる。特に、フッ素不純物の混入を低減した高品質なZnO単結晶を製造することができる。この実施形態で得られたZnO単結晶シンチレータは、高速のα線や電子線などの検出器に応用が可能となる。
【0035】
溶媒組成としては、PbO:Bi23=0.1〜95mol%:99.9〜5mol%が好ましい。より好ましくは、PbO:Bi23=30〜90mol%:70〜10mol%であり、特に好ましくは、PbO:Bi23=60〜80mol%:40〜20mol%である。PbOもしくはBi23単独溶媒では、液相成長温度が高くなるので、上記のような混合比を有するPbOとBi23との混合溶媒が好適である。
【0036】
溶質であるZnOと溶媒であるPbOおよびBi23との混合比は、溶質:溶媒=5〜30mol%:95〜70mol%であることが好ましい。より好ましくは、溶質濃度が5mol%〜10mol%である。溶質濃度が、5mol%以上では成長速度をより速くすることができ、10mol%以下では成長温度をより低く抑えることができる。
【0037】
<本発明に適当な結晶成長法>
ノンドープZnO単結晶、あるいは、III族やランタノイドをドープしたZnO単結晶を成長させる方法としては、大別して気相成長法と液相成長法が用いられてきた。気相成長法としては、化学気相輸送法(特開2004−131301号公報参照)、分子線エピタキシーや有機金属気相成長法(特開2004−84001号公報参照)、昇華法(特開平5−70286号公報参照)などが用いられてきたが、転移、欠陥などが多く、結晶品質が不十分であった。
【0038】
一方、液相成長法では、原理的に熱平衡で結晶育成が進行するため、気相成長法より高品質な結晶を製造しやすい利点を有する。しかしながら、ZnOは融点が1975℃程度と高温である上、蒸発しやすいことから、シリコン単結晶などで採用されているチョクラルスキー法を用いてZnO単結晶を成長させることは困難であった。そのため、ZnO単結晶を成長させる方法としては、目的物質を適当な溶媒に溶解し、その混合溶液を降温して飽和状態とし、目的物質を融液から成長させる静置徐冷法、水熱合成法、フラックス法、フローティングゾーン法、トップシードソリューショングロース(TSSG)法、溶液引上法およびLPE成長法などが用いられてきた。
【0039】
本発明におけるZnO単結晶成長法としては、液相エピタキシャル法(LPE法)、フラックス法、TSSG法および溶液引上法などを用いることができる。これらの様々な方法の中でも、ZnO系単結晶を成長させる方法としては、比較的低コストかつ大面積成長が可能であり、特にシンチレータなどへの応用を考慮すると、機能別の層構造を形成しやすいLPE法が好適である。特に、結晶性が高く大面積基板を容易に得ることができる水熱合成法で製造されたZnO単結晶を基板として、ノンドープZnO単結晶、あるいは、III族やランタノイドをドープしたZnO単結晶をLPE法で成長させる方法(液相ホモエピタキシャル成長法)が好適である。
【0040】
<本発明に適当なLPE成長炉>
本発明の実施形態において使用する一般的なLPE成長炉を図2に示す。LPE成長炉内には、原料を溶融し融液として収容する白金るつぼ4が、ムライト製(アルミナ+シリカ)のるつぼ台9の上に載置されている。白金るつぼ4の外側にあって側方には、白金るつぼ4内の原料を加熱して溶融する3段の側部ヒーター(上段ヒーター1、中央部ヒーター2、下段ヒーター3)が設けられている。ヒーターは、それらの出力が独立に制御され、融液に対する加熱量が独立して調整される。ヒーターと製造炉の内壁との間にムライト製の炉心管11が、炉心管11上部にはムライト製の炉蓋12が設けられている。白金るつぼ4の上方には引上げ機構が設けられている。引上げ機構にアルミナ製の引上軸5が固定され、その先端には、基板ホルダー6とホルダーで固定された基板7が設けられている。引上軸5上部には、軸を回転させる機構が設けられている
【0041】
従来、LPE炉を構成する部材において、上記るつぼ台9、炉心管11、引上軸5および炉蓋12にはアルミナやムライトが専ら使用されてきた。したがって、LPE成長温度や原料溶解温度である700〜1100℃の温度域では、アルミナやムライト炉材からAl成分が揮発し、溶媒内に溶解して、これがZnO単結晶薄膜内に混入していると考えられる。
【0042】
本発明ではIII族のドープ量の制御が重要である。III族のドープ量は仕込み組成で制御することが望ましい。したがって、LPE炉を構成する炉材を非Al系材料にすることで、LPE成長ZnO単結晶薄膜へのAl不純物混入を低減することができる。非Al系炉材としては、ZnO炉材が最適であるが、市販されていないことを考慮すると、ZnO薄膜に混入してもキャリヤとして働かない材料としてMgOが好適である。また、アルミナとシリカで構成されるムライト製炉材を使用してもLPE膜中のSi不純物濃度が増えないSIMS分析結果を考慮すると、石英炉材も好適である。その他には、カルシヤ、シリカ、ZrO2およびジルコン(ZrO2+SiO2)、SiC、Si34なども利用可能である。
【0043】
以上より、本発明の好ましい実施形態では、非Al系の炉材としてMgOおよび/または石英から構成されるLPE成長炉を用いて、ノンドープZnO単結晶、あるいは、III族およびランタノイドドープZnO単結晶を製造する。さらに、成長炉が、るつぼを載置するためのるつぼ台、該るつぼ台の外周を取り囲むように設けられた炉心管、該炉心管の上部に設けられ、炉内の開閉を行う炉蓋、および基板を上下させるための引上軸を備え、これらの部材が、それぞれ独立に、MgOまたは石英によって作製されている態様も好ましい。
【0044】
<本発明に適当なその他の要件>
本発明の実施形態において、ZnO溶解度やPbF2とPbOの蒸発量あるいはPbOとBi23の蒸発量が大きく変化しない範囲で、LPE成長温度の制御、溶媒粘性の調整を目的として、溶媒に第三成分を1種または2種以上添加することができる。例えば、第三成分としては、B23、P25、V25、MoO3、WO3、SiO2、MgO、BaOなどが挙げられる。また、本発明の第3の実施形態の溶媒に、第三成分としてBi23を添加してもよい。
【0045】
本発明の実施形態において用いられる基板としては、ZnOと同類の結晶構造を有し、成長薄膜と基板とが反応しないものであれば特に限定されず、格子定数が近いものが好適に用いられる。例えば、サファイヤ、LiGaO2、LiAlO2、LiNbO3、LiTaO3、ZnOなどが挙げられる。本発明における目的単結晶がZnOであることを考慮すると、基板と成長結晶の格子整合度が高いZnOが最適である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の一実施態様に係るノンドープZnO単結晶、III族およびランタノイドドープZnO単結晶の育成法として、これらのZnO単結晶膜をZnO単結晶基板上にLPE法で製膜する方法について説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
<LPE成長炉の運転条件の概要>
実施例で用いたLPE成長炉の構成図を図3に示す。単結晶製造炉内には原料を溶融し融液として収容する白金るつぼ4がるつぼ台9’の上に設けられている。白金るつぼ4の外側にあって側方には、白金るつぼ4内の原料を加熱して溶融する3段の側部ヒーター(上段ヒーター1、中央部ヒーター2、下段ヒーター3)が設けられている。ヒーターは、それらの出力が独立に制御され、融液に対する加熱量が独立して調整される。ヒーターと製造炉の内壁との間には、炉心管11’が設けられ、炉心管11’の上部には炉内の開閉を行う炉蓋12’が設けられている。白金るつぼ4の上方には引上げ機構が設けられている。引上げ機構には石英製の引上軸5’が固定され、その先端には、基板ホルダー6とホルダーで固定された基板7が設けられている。石英製の引上軸5’上部には、引上軸5’を回転させる機構が設けられている。白金るつぼ4の下方には、るつぼ内の原料を溶融するための熱電対10が設けられている。
【0048】
白金るつぼ内の原料を溶融するため、原料が溶融するまで製造炉を昇温する。好ましくは650〜1000℃まで、さらに好ましくは700〜900℃に昇温し、2〜3時間静置して原料融液を安定化させる。このとき、3段ヒーターにオフセットを掛け、融液表面よりるつぼ底が数℃高くなるよう調節する。好ましくは、−100℃≦H1オフセット≦0℃、0℃≦H3オフセット≦100℃、さらに好ましくは、−50℃≦H1オフセット≦0℃、0℃≦H3オフセット≦50℃である。
【0049】
るつぼ底温度が700〜900℃の種付け温度になるよう調節し、融液の温度が安定化した後、基板を5〜120rpmで回転させながら、引上軸を下降させることで基板を融液表面に接液する。基板を融液になじませた後、温度一定または、0.025〜5.0℃/hrで温度降下を開始し、基板の面に目的とするノンドープまたはドープZnO単結晶を成長させる。成長時も基板は引上軸の回転によって5〜300rpmで回転しており、一定時間ごとに逆回転させる。
【0050】
30分〜24時間程度かけて結晶成長させた後、基板を融液から切り離し、引上軸を200〜300rpm程度の高速で回転させることで、融液成分を分離させる。その後、室温まで1〜24時間かけて冷却して目的のZnO単結晶薄膜を得る。また、成長膜厚によっては、経時的あるいは連続的に石英軸を引上げながら成長させることもできる。
【0051】
<実施例1〜6、比較例1>
本実施例では、溶媒としてPbOおよびBi23を用いて、ノンドープまたはGaドープのZnO単結晶を液相エピタキシャル成長法で作製した。
【0052】
内径75mmφ、高さ75mmh、厚さ1mmの白金るつぼに、以下に示す表1の配合で原料を仕込んだ。溶媒組成はPbO:Bi23=66.67mol%:33.33mol%、ZnOの溶質濃度は約7.00mol%となる。Ga組成は、ZnOに対しノンドープ(実施例1)、あるいは29ppm、59ppm、146ppm、293ppm、585ppm、2920ppm(それぞれ実施例2〜6、比較例1)となる。
【0053】
【表1】

【0054】
原料を仕込んだるつぼを図3に示す炉に設置し、るつぼ底温度約900℃で溶解させた。その後、同温度で3時間保持後、るつぼ底温度が約800℃になるまで降温してから、水熱合成法で育成した+C面方位でサイズが10mm×10mm×0.5mmtのZnO単結晶基板を接液し、石英製の引上軸を60rpmで回転させながら同温度で12時間成長させた。このとき、軸の回転方向は5分おきに反転させた。その後、石英製の引上軸を上昇させることで、融液から切り離し、200rpmで軸を回転させることで、融液成分を振り切り、無色透明のノンドープまたはGaドープのZnO単結晶薄膜を得た。
【0055】
得られたノンドープまたはGaドープのZnO単結晶薄膜の成長時間、LPE膜厚、および成長速度の結果を表2に示す。得られたこれらのZnO膜の厚みは50〜70μmであった。また、LPE成長法は比較的成長速度が高く、成長速度は4.2〜5.8μm/hrであった。したがって、α線や電子線の侵入深さに対応した50μm以上の厚みを容易に成長することが可能である。
【0056】
【表2】

【0057】
また、表2には、得られたZnO膜を研磨した後の(002)面のロッキングカーブ半値幅(結晶性の評価)、α線励起時の450〜600nmの長波長発光の有無、およびシンチレータ特性の結果も示してある。研磨は、得られたZnO膜にラップとポリッシュを施し、表面を平坦化するとともにLPE膜厚を40μmとした。
【0058】
シンチレータ特性としては、α線励起透過スペクトル測定およびα線励起シンチレータ発光量測定を実施した。α線源として241Amを用いた。受光素子としてPMT(R7600:浜松ホトニクス製)を用い、研磨したLPE成長ZnO単結晶の5面をテフロン(登録商標)テープで覆い、シンチレーション光を1面のみから得られるようにした。その際、α線通過用に1mm角の窓を残した。シンチレーション光が出る面にPMTを設置し、PMTに高電圧をかけてシグナルを増幅して読み出しを行った。波高値はpre−ampで増幅し、Pulse shape ampで波形を整え、multi channel analyzerを経てコンピューターに信号として取得して発光量とし、BGOと比較した。
【0059】
実施例1〜6の結果から分かるように、熱平衡成長に近いLPE法を用いてノンドープまたはGaドープのZnO膜を成長させると、(002)面ロッキングカーブ半値幅は19〜60arcsecであった。実施例1〜6に係るZnO膜の半値幅は、基板として用いた水熱合成基板の半値幅(20arcsec)と大差がないことから、実施例1〜6に係るZnO膜は高い結晶性を有することが明らかとなった。
【0060】
また、図4〜図11に示すように、ノンドープ、あるいはGaをZnに対して29ppm〜2920ppmドープすることで、α線励起において長波長発光成分を低減できる。さらには、表2および図12に示すように、ノンドープまたはGaドープZnO単結晶の発光量は、ノンドープまたは29ppm〜585ppmの範囲のGaドープ量で、BGO比で16%以上となり、一般的なZnO系シンチレータの発光量である15%を越える。
【0061】
実施例1〜6に係るノンドープまたはGaドープZnO単結晶は、α線および電子線による励起時の蛍光寿命が短い励起子発光のみが支配的となり、蛍光寿命が長い発光成分が低減され、放射線検出の弁別機能を安定化させることが可能となる。したがって、本実施例で得られたZnO単結晶シンチレータは、高速のα線や電子線検出器に応用が可能となる。一方、水熱合成基板はBGO並みの94%の発光量を有するが、長波長発光成分を含むため、放射線検出の弁別機能を安定化させることが困難である。
【0062】
<実施例7〜10>
表3に示す配合で、実施例1と同様の方法により、各元素ドープZnO単結晶のLPE成長を行った。得られた各種元素ZnO単結晶膜の物性を表4に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
実施例7〜10の結果から分かるように、熱平衡成長に近いLPE法を用いて各元素ドープのZnO膜を成長させると、(002)面ロッキングカーブ半値幅は22〜70arcsecであった。実施例7〜10に係るZnO膜の半値幅は、基板として用いた水熱合成基板の半値幅(20arcsec)と大差がないことから、実施例7〜10に係るZnO膜は高い結晶性を有することが明らかとなった。また、LPE成長法は比較的成長速度が高く、成長速度は2.9〜5.3μm/hrであった。したがって、α線や電子線の侵入深さに対応した50μm以上の厚みを容易に成長することが可能である。
【0066】
また、実施例1〜6の結果と同様に、長波長発光成分がなく、α線励起シンチレータ光の発光量は何れも15%以上の38〜48%となった。本実施例で示すAl、InおよびランタノイドをドープしたZnO単結晶は、α線および電子線による励起時の蛍光寿命が短い励起子発光のみが支配的となり、蛍光寿命が長い発光成分が低減され、放射線検出の弁別機能を安定化させることが可能となる。したがって、本実施例で得られたZnO単結晶シンチレータは、高速のα線や電子線検出器に応用が可能となる。
【符号の説明】
【0067】
1・・・上段ヒーター
2・・・中央部ヒーター
3・・・下段ヒーター
4・・・白金るつぼ
5・・・引上軸
6・・・基板ホルダー
7・・・基板
9・・・るつぼ台
11・・・炉心管
12・・・炉蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶質であるZnOと溶媒との混合・溶融物に、基板を直接接触させることによりZnO単結晶を成長させる液相エピタキシャル成長法により作製されることを特徴とする、励起子発光型ZnOシンチレータの製造方法。
【請求項2】
溶質であるZnOと溶媒との混合・溶融物に、基板を直接接触させることによりZnO単結晶を成長させる液相エピタキシャル成長法において、ZnOに対し、Al、Ga、Inおよびランタノイド元素を585ppm以下ドープすることを特徴とする、励起子発光型ZnOシンチレータの製造方法。
【請求項3】
前記溶媒がPbF2およびPbOであり、溶質と溶媒との混合比が溶質:溶媒=2〜20mol%:98〜80mol%であり、溶媒であるPbF2とPbOとの混合比がPbF2:PbO=20〜80mol%:80〜20mol%である、請求項1または2に記載する励起子発光型ZnOシンチレータの製造方法。
【請求項4】
前記溶媒がPbOおよびBi23であり、溶質と溶媒との混合比が溶質:溶媒=5〜30mol%:95〜70mol%であり、溶媒であるPbOとBi23との混合比がPbO:Bi23=0.1〜95mol%:99.9〜5mol%である、請求項1または2に記載する励起子発光型ZnOシンチレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−280533(P2010−280533A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135475(P2009−135475)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】