説明

液質検査器具および液質検査方法

【課題】検査対象液体が供給対象機器(例えば、給湯機)に供給するのに適した液体であるか否かを容易かつ適切に検査することができる液質検査器具を提供する。
【解決手段】呈色指示薬が収容された呈色指示薬容器32と、アルカリ性溶液が収容されたアルカリ性溶液容器33と、を携帯可能なキットとして備える液質検査器具30であって、所定量の検査対象液体と、前記呈色指示薬と、前記検査対象液体の供給対象機器に許容される所定の許容遊離炭酸濃度に応じて予め定められた量の前記アルカリ性溶液と、を混合し、該混合された液体の色の変化で前記検査対象液体の遊離炭酸濃度が前記許容遊離炭酸濃度の範囲内であるか否かを示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の質(水質)を検査する液質検査器具および液質検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遊離炭酸を含んだ液体は、配管を孔蝕させたり、スケールの付着を誘発させたりするため、一般的には給湯機に供給する液体として不向きであると考えられている(例えば、特許文献1の段落0011参照)。
このため、給湯機を設置する際、給湯機に供給する液体の遊離炭酸濃度を測定する水質検査をする場合がある。遊離炭酸濃度の測定は、一般に、スポイト等を用いて正確な量の検査対象液体と、酸塩基指示薬としてのフェノールフタレイン溶液と、滴定剤としての水酸化ナトリウム水溶液とを取り、検査対象液体にフェノールフタレイン溶液や、水酸化ナトリウム水溶液を加えて色の変化等を観察することにより行なわれる(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−180452号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】厚生労働省健康局水道課、”水質管理目標設定項目の検査方法(平成15年10月10日付健水発第1010001号)(最終改正平成22年2月17日)”、p.19-20、[online]、[平成22年10月22日検索]、インターネット〈URL:http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/suishitsu/dl/06l.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、検査対象液体が給湯機に供給するのに適した液体であるか否かを検査する場合、給湯機の設置場所で非特許文献1に示すような遊離炭酸濃度の測定を行うこととなるが、給湯機の設置場所は本来上記のような測定作業を行うのに適した場所ではない。
また、遊離炭酸は検査対象液体から時間とともに抜けてしまうものであるため、測定作業を行うのに適した場所に検査対象液体を移して遊離炭酸濃度の測定作業を行うと、遊離炭酸濃度の測定の正確さに欠けるため好ましくない。
したがって、検査対象液体が給湯機に供給するのに適した液体であるか否かを検査する場合、非特許文献1に示すような遊離炭酸濃度の測定を正確に行う方法では、測定作業が煩雑になるか、困難であるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、検査対象液体が供給対象機器(例えば、給湯機)に供給するのに適した液体であるか否かを容易かつ適切に検査することができる液質検査器具および液質検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、請求項1に係る発明は、呈色指示薬が収容された呈色指示薬容器と、アルカリ性溶液が収容されたアルカリ性溶液容器と、を携帯可能なキットとして備え、所定量の検査対象液体と、前記呈色指示薬と、前記検査対象液体の供給対象機器に許容される所定の許容遊離炭酸濃度に応じて予め定められた量の前記アルカリ性溶液と、を混合し、該混合された液体の色の変化で前記検査対象液体の遊離炭酸濃度が前記許容遊離炭酸濃度の範囲内であるか否かを示すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、検査対象液体が供給対象機器(例えば、給湯機)に供給するのに適した液体であるか否かを容易かつ適切に検査することができる液質検査器具および液質検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る液質検査器具の構成図である。
【図2】本実施形態に係る液質検査器具を用いた液質検査フローである。
【図3】pHの変化と炭酸イオン、炭酸水素イオンおよび遊離炭酸の関係を示したグラフである。
【図4】変形例に係る液質検査器具が備える遊離炭酸検査器具の構成図である。
【図5】遊離炭酸濃度と水酸化ナトリウム水溶液の関係を示すテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
【0011】
≪液質検査器具1≫
図1は、本実施形態に係る液質検査器具1の構成図である。
液質検査器具1は、検査対象液体の遊離炭酸を検査する遊離炭酸検査器具10と、検査対象液体の硬度を検査する硬度検査器具20とを備えている。
【0012】
<遊離炭酸検査器具10>
遊離炭酸検査器具10は、検査対象液体の遊離炭酸濃度が所定値(許容遊離炭酸濃度(例えば、30mg/L))未満であるか否かを検査(以下、「遊離炭酸検査」と称する。)するための検査器具であり、空の検水容器11と、フェノールフタレイン溶液が収容されたフェノールフタレイン容器12と、水酸化ナトリウム水溶液が収容された水酸化ナトリウム容器13とを備えている。
【0013】
検水容器11は、検査対象液体を所定量X11(例えば、50ml)計量して収容することができる容器である。また、検水容器11は、計量して収容した検査対象液体と、フェノールフタレイン容器12に収容されたフェノールフタレイン溶液と、水酸化ナトリウム容器13に収容された水酸化ナトリウム水溶液とを合わせた液体を収容可能な容量(例えば、65ml)を有している。また、検水容器11は、容器内を密閉可能な蓋を備えていることが望ましい。また、検水容器11は、収容された液体の呈色状態が見えるように、透明または半透明(白色)の容器であることが望ましい。
【0014】
フェノールフタレイン容器12は、所定量X12のフェノールフタレイン溶液が収容されている。フェノールフタレイン容器12に収容されているフェノールフタレイン溶液は、フェノールフタレインをエタノールに溶かしさらに水で希釈した溶液であり、エタノールを含むことから蒸発しやすい。このため、フェノールフタレイン容器12は高い密閉性を有していることが望ましい。また、フェノールフタレイン容器12は光を遮断する容器とすることにより、フェノールフタレイン溶液に光が当たらないようにすることが望ましい。
フェノールフタレイン溶液は、pH8.3〜13.4で呈色(薄紅色〜赤色)するため、遊離炭酸検査において酸塩基指示薬として用いられる。このため、フェノールフタレイン容器12には、酸塩基指示薬として用いられるための所定量X12(例えば、0.1〜0.2ml)のフェノールフタレイン溶液が収容されている。なお、フェノールフタレイン溶液は、遊離炭酸検査において酸塩基指示薬として用いられるものであるため、検査対象液体の量に対する量は特に厳密に定められるものではないし、また、定めなくともよい。
【0015】
水酸化ナトリウム容器13は、所定量X13の水酸化ナトリウム水溶液(0.02mol/L)が収容されている。水酸化ナトリウム容器13は、液漏れ防止の観点から高い密閉性を有していることが望ましい。また、水酸化ナトリウム容器13の意匠(例えば、形状や色)は、フェノールフタレイン容器12の意匠(例えば、形状や色)と異なることが望ましい。
水酸化ナトリウム水溶液は、遊離炭酸検査において滴定用の試薬として用いられる。このため、水酸化ナトリウム容器13には、試薬として用いられるための所定量X13(例えば、1.7ml)の水酸化ナトリウム水溶液が収容されている。
なお、検査対象液体の遊離炭酸濃度の所定値(許容遊離炭酸濃度)および水酸化ナトリウム容器13に収容されている水酸化ナトリウム水溶液の量(所定量X13)については、後述する。
【0016】
<硬度検査器具20>
硬度検査器具20は、検査対象液体の硬度を測定(以下、「硬度検査」と称する。)するための検査器具であり、硬度検査チューブ21と、比色紙22とを備えている。
硬度検査チューブ21は、硬度により呈色が変化する指示薬が内部に封入されている。硬度検査チューブ21内に検査対象液体を入れ、指示薬により液体を呈色させ、所定時間経過後、呈色した液体を比色紙22の色見本と比較することにより、検査対象液体の硬度を測定するようになっている。
なお、硬度検査器具20は、市販されている硬度検査器具(例えば、株式会社共立理化学研究所製パックテスト(登録商標)WAK−TH)を用いてもよい。
【0017】
<その他>
図1に示すように、1つの液質検査器具1(遊離炭酸検査器具10)に対してフェノールフタレイン容器12および水酸化ナトリウム容器13の組を2組以上有し、1つの液質検査器具1(遊離炭酸検査器具10)で複数回の液質検査(遊離炭酸検査)を行うことができるようにすることが望ましい。これにより、検査作業者の利便性を高め、一般の人でも、失敗をおそれずに液質検査(遊離炭酸検査)を行うことができる。
同様に、1つの液質検査器具1に対して、フェノールフタレイン容器12および水酸化ナトリウム容器13の組数と同数の硬度検査チューブ21を有していることが望ましい。
【0018】
使用前の液質検査器具1は、気密可能なファスナー付きの袋(図示せず)に収め、外気と遮断されていることが望ましい。なお、液質検査器具1を収める袋(図示せず)は透明であっても、光を遮断するものであってもよい。また、液質検査器具1を収める袋(図示せず)には、内容物を示すラベル(図示せず)を貼付してもよい。さらに、袋に収めた液質検査器具1を紙製の箱(図示せず)に収めてもよい。
また、袋、ラベル、箱には、社名や薬品類の使用期限を記載してもよい。
また、液質検査器具1の取り扱い説明書(図示せず)を液質検査器具1と同封してもよい。
【0019】
≪液質検査器具1を用いた液質検査≫
次に、図2を用いて本実施形態に係る液質検査器具1による検査対象液体の液質検査(遊離炭酸検査および硬度検査)の流れを説明する。図2は、本実施形態に係る液質検査器具1を用いた液質検査フローである。
ステップS101において、検査作業者は、給水源から検査対象液体を採取し、検水容器11内に検査対象液体を所定量X11(例えば、50ml)計量して入れる。
ステップS102において、検査作業者は、検水容器11内にフェノールフタレイン容器12内のフェノールフタレイン溶液を全量(所定量X12(例えば、0.1〜0.2ml))入れる。なお、検査対象液体の量は正確に計量することが好ましいが、簡便性の観点からは計量は必ずしも必要ではない。上述したように、検水容器11は、検査対象液体と、フェノールフタレイン溶液と、水酸化ナトリウム水溶液とを合わせた液体を収容可能な容量を有するものであるが、混合液体の殆どは検査対象液体である。従って、検水容器11の容積を混合液体の体積に相当する容積のものであれば、検水容器11に検査対象液体を入れた後、フェノールフタレイン溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを注入する領域を得るために少量の検査対象液体を捨てた上で、フェノールフタレイン溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを注入するという検査方法であってもよい。
【0020】
ステップS103において、検査作業者は、検水容器11内に水酸化ナトリウム容器13内の水酸化ナトリウム水溶液を全量(所定量X13(例えば、1.7ml))入れる。
そして、検査作業者は、検水容器11の蓋を閉じて容器内を密閉する。そして、検水容器11全体を軽く揺り動かすことにより、内部の液体を混ぜ合わせる。
【0021】
ステップS104において、検査作業者は、検水容器11内の水溶液が呈色(薄紅色〜赤色)しているか否かを判定する。呈色している場合(S104・Yes)、液質検査処理は、ステップS105に進む。一方、水溶液が透明な状態で呈色していない場合(S104・No)、液質検査処理はステップS106に進む。
ステップS105において(即ち、検水容器11内の水溶液が呈色(薄紅色〜赤色)している場合)、検査作業者は、検査対象液体の遊離炭酸濃度は所定値(許容遊離炭酸濃度(例えば、30mg/L))未満であると判定する。そして、液質検査処理はステップS107に進む。
ステップS106において(即ち、検水容器11内の水溶液が透明の場合)、検査作業者は、検査対象液体の遊離炭酸濃度は所定値(許容遊離炭酸濃度(例えば、30mg/L))以上であると判定する。そして、液質検査処理は、ステップS110に進む。
なお、ステップS105およびステップS106で用いた遊離炭酸濃度の所定値(許容遊離炭酸濃度)とは、検査対象液体が供給対象機器(例えば、給湯機)に供給するのに適合した遊離炭酸濃度未満であるか否かを判定する閾値であり、経験および実験により供給対象機器ごとにあらかじめ設定されている値である。
【0022】
ステップS107において、検査作業者は、給水源から検査対象液体を採取し、硬度検査器具20を用いて検査対象液体の硬度検査を行う。なお、ステップS107で行われる硬度検査は、周知の技術で行えばよく、説明を省略する。
【0023】
ステップS108において、検査作業者は、ステップS107で検査した検査対象液体の硬度が所定値(許容硬度(例えば、200mg/L))未満であるか否かを判定する。
検査対象液体の硬度が所定値未満である場合(S107・Yes)、液質検査処理はステップS109に進む。一方、検査対象液体の硬度が所定値未満でない場合(ステップS107でNo)、液質検査処理はステップS110に進む。
なお、ステップS108で用いた硬度の所定値(許容硬度)とは、検査対象液体が供給対象機器(例えば、給湯機)に供給するのに適合した硬度未満であるか否かを判定する閾値であり、経験および実験により供給対象機器ごとにあらかじめ設定されている値である。
【0024】
ステップS109において(即ち、S104・YesかつS108・Yes)、検査作業者は、検査対象液体を採取した給水源が供給対象機器(例えば、給湯機)の給水源として使用可能であると判定する。
【0025】
ステップS110において(即ち、S104・NoまたはS108・No)、検査作業者は、検査対象液体を採取した給水源が供給対象機器(例えば、給湯機)の給水源として使用不可であると判定する。
【0026】
なお、上記液質検査フローでは、遊離炭酸検査を行った後に硬度検査を行うものであったが、これに限定されるものではなく、逆の順序で硬度検査を行った後に遊離炭酸検査を行うものであってもよい。
【0027】
≪遊離炭酸検査の原理≫
図2のステップS105およびステップS106で用いた遊離炭酸濃度の所定値(許容遊離炭酸濃度)とは、検査対象液体が供給対象機器(例えば、給湯機)に供給するのに適合した遊離炭酸濃度未満であるか否かを判定する閾値であり、経験および実験により供給対象機器ごとにあらかじめ設定されている値である。ここでは、許容遊離炭酸濃度を30mg/Lとして、説明する。
【0028】
まず、一般的な遊離炭酸の中和滴定法について説明する。
一般的な遊離炭酸の中和滴定法では、遊離炭酸を含む検査対象液体50[ml](所定量X11)を被滴定物質として、酸塩基指示薬としてフェノールフタレイン溶液を採用し、滴定剤として0.02[mol/L]の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、液体の呈色(薄紅色)が消えずに残るまで滴定する。
【0029】
フェノールフタレインは、pH6〜8(一般的な水道水のpH)では透明を呈し、pH8.3〜13.4で赤色に呈色する。即ち、フェノールフタレインは、一般的な水のpHの範囲で呈色する呈色指示薬である。また、図3に示すように、遊離炭酸(炭酸HCO)はpH8.3以上において、ほぼ存在しないことから、遊離炭酸の存在を近似的に捉えることができる好適な呈色指示薬であるといえる。また、フェノールフタレイン溶液は、指示薬として市販されており入手しやすく、安価な試験薬であることも好適である。
【0030】
ここで、水酸化ナトリウム水溶液の滴定量をa[ml]、遊離炭酸(CO)の分子量を44[g/mol]、とすると、検査対象液体の遊離炭酸濃度であるY[mg/L]は、以下の式(1)を用いて表すことができる。
Y=a×(1000/50)×0.02×44 ・・・(1)
【0031】
本実施形態に係る液質検査器具1の遊離炭酸検査器具10は、供給対象機器に許容される許容遊離炭酸濃度を予め決定し、この許容遊離炭酸濃度を基に、上記の式(1)を用いて水酸化ナトリウム水溶液の量を決定している。即ち、式(1)において、Y=30[mg/L](許容遊離炭酸濃度)とすれば、a=1.7[ml]を算出することができる。この供給対象機器の許容遊離炭酸濃度(30[mg/L])から導き出された量(a=1.7[ml])を水酸化ナトリウム容器13(図1参照)に収容されている水酸化ナトリウム水溶液の所定量X13とする。
【0032】
これにより、50[ml]の検査対象液体に、フェノールフタレイン溶液と、1.7[ml]の水酸化ナトリウム水溶液(0.02[mol/L])とを加えたとき(図2のステップS101からステップS103参照)、中和されてアルカリ側にあり、液体が呈色する状態にあれば(図2のステップS104・Yes参照)、検査対象液体の遊離炭酸濃度は30[mg/L](許容遊離炭酸濃度)未満であると判断することができる(図2のステップS105参照)。
一方、中和に至らず酸性側にあり、液体が透明となる状態にあれば(図2のステップS104・No参照)、検査対象液体の遊離炭酸濃度は30[mg/L](許容遊離炭酸濃度)以上であると判断することができる(図2のステップS106参照)。
【0033】
なお、供給対象機器の許容遊離炭酸濃度を30mg/Lとして説明したが、これに限られるものではなく、供給対象機器の耐力に併せて水酸化ナトリウム容器13(図1参照)に収容されている水酸化ナトリウム水溶液の所定量X13を変更すればよい。例えば、許容遊離炭酸濃度を50mg/Lとした場合、式(1)から水酸化ナトリウム水溶液の所定量X13を2.8mlとすればよい。
【0034】
≪まとめ≫
なお、水道法(昭和32年6月15日法律第177号)、水質基準に関する省令(平成15年5月30日厚生労働省令第101号)等にて、人の飲用に適する水の水質基準が列挙されている。しかしながら、人の飲用に適する水であるか否かの判断と、供給対象機器(例えば、給湯機)に適する水であるか否かの判断とは必ずしも一致するものではない。
特に、遊離炭酸や硬度は、銅管の腐食、孔蝕を生じさせたり、スケールを析出し流路を閉塞させたりするおそれがあるため、飲用水道水よりも高い基準を要求されている。
【0035】
これに対し、本実施形態に係る液質検査器具1の遊離炭酸検査器具10(図1参照)を用いて遊離炭酸検査を行い検査対象液体の遊離炭酸濃度が所定値(許容遊離炭酸濃度)未満であるか否かを判定し、本実施形態に係る液質検査器具1の硬度検査器具20(図1参照)を用いて硬度検査を行い検査対象液体の硬度が所定値(許容硬度)未満であるか否かを判定することができる。
このように、検査作業者は、液質検査器具1を用いることにより、試薬を取り扱う専門知識や専門技術が無くても容易に液質を検査し、供給対象機器(例えば、給湯機)の給水源として使用可能であるか否かを判定することができる。
【0036】
ここで、遊離炭酸について、供給対象機器(例えば、給湯機)に供給するのに適合しているか否かは、遊離炭酸濃度が所定値(許容遊離炭酸濃度)未満であるか否かが判定できれば足り、必ずしも遊離炭酸濃度を数値化する必要はない。
このため、非特許文献1に記載されている遊離炭酸の滴定法と比較して、本実施形態の液質検査器具1(遊離炭酸検査器具10)は、検査対象液体の遊離炭酸濃度を数値化することはできないが、遊離炭酸濃度が所定値未満であるか否かを容易かつ速やかに検出することができる。
【0037】
また、前述のように、遊離炭酸は検査対象液体から時間とともに抜けてしまうものである。検査作業者は、携帯可能な液質検査器具1(遊離炭酸検査器具10)を用いることにより、供給対象機器(例えば、給湯機)を設置しようとする場所(即ち、検査対象液体を採取した給水源の近く)で液質検査(遊離炭酸検査)をすることができ、高精度に遊離炭酸濃度の判定を行うことができる。
【0038】
≪変形例に係る液質検査器具≫
次に、本実施形態に係る液質検査器具1の変形例について説明する。なお、本実施形態に係る液質検査器具1(図1参照)と、変形例に係る液質検査器具との差異は、遊離炭酸検査器具10(図1参照)に代えて遊離炭酸検査器具30(図4参照)を備える点で異なる。即ち、変形例に係る液質検査器具は、遊離炭酸検査器具30(図4参照)と、硬度検査器具20(図1参照)とを備えている。このため、変形例に係る液質検査器具の遊離炭酸検査器具30について説明し、他の構成については説明を省略する。
【0039】
<遊離炭酸検査器具30>
図4は、変形例に係る液質検査器具が備える遊離炭酸検査器具30の構成図である。
遊離炭酸検査器具30は、検査対象液体の遊離炭酸濃度が所定値(許容遊離炭酸濃度(例えば、20、30、40、50mg/L))未満であるか否かを遊離炭酸検査するための検査器具であり、空の検水容器31と、フェノールフタレイン溶液が収容されたフェノールフタレイン容器32と、水酸化ナトリウム水溶液が収容された水酸化ナトリウム容器33と、検査したい遊離炭酸濃度と対応する水酸化ナトリウム水溶液の量を計量する水酸化ナトリウム水溶液計量容器34とを備えている。なお、遊離炭酸検査器具30は、検査作業者が携帯可能であることが望ましい。
さらに、検査したい遊離炭酸濃度と対応する水酸化ナトリウム水溶液の量の相関を示したテーブル35(図5参照)を備えていることが望ましい。
【0040】
検水容器31は、検査対象液体を所定量X31(例えば、50ml)計量して収容することができる容器である。また、検水容器31は、計量して収容した検査対象液体の量(例えば、50ml)と、1回の遊離炭酸検査に用いるフェノールフタレイン溶液の略規定量(例えば、0.1〜0.2ml)と、テーブル35(図5参照)に示された水酸化ナトリウム水溶液の最大量(図5では、5.7ml)と、を合わせた液体を収容可能な容量(例えば、65ml)を有している。また、検水容器31は、容器内を密閉可能な蓋を備えていることが望ましい。また、検水容器31は、収容された液体の呈色状態が見えるように、透明または半透明の容器であることが望ましい。
【0041】
フェノールフタレイン容器32は、1回の遊離炭酸検査に用いる所定量X32の数倍(遊離炭酸検査数回分)のフェノールフタレイン溶液が収容されている。フェノールフタレイン容器32に収容されているフェノールフタレイン溶液は、フェノールフタレインをエタノールに溶かしさらに水で希釈した溶液であり、エタノールを含むことから蒸発しやすい。このため、フェノールフタレイン容器32は高い密閉性を有していることが望ましい。また、フェノールフタレイン容器32は光を遮断する容器とすることにより、フェノールフタレイン溶液に光が当たらないようにすることが望ましい。
【0042】
フェノールフタレイン溶液は、pH8.3〜13.4で呈色(薄紅色〜赤色)するため、遊離炭酸検査において酸塩基指示薬として用いられる。このため、フェノールフタレイン容器32は、酸塩基指示薬として用いられるための所定量X32(例えば、0.1〜0.2ml)のフェノールフタレイン溶液が取り出し可能であることが望ましい。例えば、フェノールフタレイン容器32は、点眼薬容器のような、略規定量の溶液を滴下可能な細口の抽出口(図示せず)を有する滴下型の容器であることが望ましい。これにより、1回の遊離炭酸検査に用いる所定量X32のフェノールフタレイン溶液を取り出す際、フェノールフタレイン容器32からフェノールフタレイン溶液を滴下させることにより、滴数と対応させて所定量X32に略等しい量のフェノールフタレイン溶液を滴下させることができる。
なお、フェノールフタレイン溶液は、遊離炭酸検査において酸塩基指示薬として用いられるものであるため、検査対象液体の量に対する量は特に厳密に定められるものではない。
【0043】
水酸化ナトリウム容器33は、1回の遊離炭酸検査に用いる量の数倍(遊離炭酸検査数回分)以上の量の水酸化ナトリウム水溶液(0.02mol/L)が収容されている。水酸化ナトリウム容器33は、液漏れ防止の観点から高い密閉性を有していることが望ましい。また、水酸化ナトリウム容器33は、水酸化ナトリウム水溶液計量容器34に水酸化ナトリウム水溶液を滴下させるため、点眼薬容器のような、略規定量の溶液を滴下可能な細口の抽出口(図示せず)を有する滴下型の容器であることが望ましい。また、水酸化ナトリウム容器33の意匠(例えば、形状や色)は、フェノールフタレイン容器32の意匠(例えば、形状や色)と異なることが望ましい。さらに、水酸化ナトリウム容器33の容積は、フェノールフタレイン容器32の容積よりも大きいことが望ましい。
【0044】
水酸化ナトリウム水溶液は、遊離炭酸検査において滴定用の試薬として用いられる。このため、水酸化ナトリウム水溶液計量容器34は、試薬として用いられるための所定量X34の水酸化ナトリウム水溶液を正確に計量することが可能となるように、細径(例えば、内径5mm以下)なものであることが望ましい。なお、所定量X34とは、検査したい遊離炭酸濃度と対応する水酸化ナトリウム水溶液の規定量であり、例えば、図5において、検査したい遊離炭酸濃度が30mg/Lの場合、1.7mlである。
また、滴下した水酸化ナトリウム水溶液の量が確認しやすいように、透明または半透明(白色)の容器で、内容量を読み取る目盛りを有しているものであることが望ましい。このようにすると、注入する量を必要に応じて変更することも可能となる。
また、水酸化ナトリウム水溶液計量容器34に形成される目盛りは、内容量単位(例えば、0.1ml)ごとに設ける代わりに、所定量X34(図5では、0.6ml、1.1ml、1.7ml・・・)と対応する位置に目印を設けるものであってもよい。このように、目印を設けることにより、水酸化ナトリウム水溶液の必要量を把握しなくても、正確な計量を行うことができる。
【0045】
図5は、遊離炭酸濃度と水酸化ナトリウム水溶液の関係を示すテーブルである。
テーブル35には、検水容器31で採取する検査対象液体において、検査したい遊離炭酸濃度と、それに対応する水酸化ナトリウム水溶液の規定量が表として整理されている。なお、遊離炭酸濃度と、水酸化ナトリウム水溶液の規定量との関係は、前述する式(1)に基づいて算出されたものである。
また、テーブル35には、遊離炭酸検査の結果により検査対象液体が対象となる機種(図5では、機器A、機器B)と、使用可能か否かの印(図5では、○×で示す)が示されていてもよい。
【0046】
なお、テーブル35は、変形例に係る液質検査器具の取り扱い説明書(図示せず)、変形例に係る液質検査器具を収める袋(図示せず)、袋に収めた変形例に係る液質検査器具を収める紙製の箱(図示せず)の少なくともいずれかに記載されていることが望ましい。もしくは、検水容器31、フェノールフタレイン容器32、水酸化ナトリウム容器33の少なくともいずれかに記載されていてもよい。また、テーブル35に代えて、携帯情報端末(図示せず)にテーブル35を表示させるための情報(例えば、URLやバーコード)が記載されていてもよい。
また、テーブル35とともに、「色が変化したら許容遊離炭酸濃度の範囲内である」旨の記載や、「色が変化したら給湯機が使用可能である」旨の記載がされていることが望ましい。
また、対象となる機種に使用可能か否かの判定は、図5に示すように記号で示されていてもよく、文章や文字で示されていてもよい。
【0047】
なお、遊離炭酸検査器具30は、遊離炭酸検査器具10(図1参照)と異なり、遊離炭酸検査において、検査作業者が、テーブル35を参照して検査したい遊離炭酸濃度と対応する水酸化ナトリウム水溶液の量(規定量)を求め、水酸化ナトリウム水溶液計量容器34を使用して、水酸化ナトリウム容器33から規定量の水酸化ナトリウム水溶液を取り分ける必要がある。しかし、このような作業は、試薬を取り扱う専門知識や専門技術が無くても容易に行えるものである。
【0048】
≪変形例に係る液質検査器具(遊離炭酸検査器具30)を用いた液質検査≫
次に、変形例に係る液質検査器具(遊離炭酸検査器具30)を用いた液質検査(遊離炭酸検査)について図2を参照しつつ説明する。
ステップS101において、検査作業者は、給水源から検査対象液体を採取し、検水容器31内に検査対象液体を所定量X31(例えば、50ml)計量して入れる。
ステップS102において、検査作業者は、検水容器31内にフェノールフタレイン容器32内のフェノールフタレイン溶液を所定の滴数滴下させる。前述のように、フェノールフタレイン溶液は、遊離炭酸検査において酸塩基指示薬として用いられるものであるため、検査対象液体の量に対する量は特に厳密に定められるものではない。このため、滴数と対応させて所定量X32に略等しい量のフェノールフタレイン溶液を滴下させることができる。
【0049】
ステップS103において、検査作業者は、テーブル35を参照して検査したい遊離炭酸濃度と対応する水酸化ナトリウム水溶液の量(規定量)を求め、水酸化ナトリウム水溶液計量容器34を使用して、水酸化ナトリウム容器33から規定量の水酸化ナトリウム水溶液を取り分ける。そして、検査作業者は、検水容器31内に取り分けた水酸化ナトリウム水溶液計量容器34内の水酸化ナトリウム水溶液を全量入れる。
以後の流れは、液質検査器具1による液質検査の流れと同様であり説明を省略する。
【0050】
このように、遊離炭酸検査器具30は、水酸化ナトリウム水溶液を必要に応じて計量して液質検査(遊離炭酸検査)することができるため、許容遊離炭酸濃度が異なる機器にも対応することができる汎用性を付与することができる。
また、遊離炭酸検査器具10(図1参照)は、遊離炭酸検査1回ごとの規定量を小容器(フェノールフタレイン容器12,水酸化ナトリウム容器13)に収容しているため液質検査(遊離炭酸検査)の簡便性において、遊離炭酸検査器具30よりも優位的である。しかし、遊離炭酸検査器具10は小容器を1度の検査ごとに使い捨てなければならない。これに対し、遊離炭酸検査器具30は、一組の器具で複数回の遊離炭酸検査を行うことができ、環境にも配慮した実施形態とすることができる。
【0051】
なお、本実施形態に係る液質検査器具1(遊離炭酸検査器具10,30)は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態の構成においては、遊離炭酸検査器具10は、3つの容器(検水容器11、フェノールフタレイン容器12、水酸化ナトリウム容器13)を備えていたが、検水容器11に代えて、所定量の水酸化ナトリウム水溶液が収容された水酸化ナトリウム容器13にメモリを設け、所定量の検査対象液体を計量して収容することができる容器としてもよい。このようにすれば、水酸化ナトリウム容器とは別に検水容器を設ける必要がなく、一つの容器に集約することができるため、遊離炭酸検査器具10を構成する部材を少なくすることができる。
また、呈色指示薬およびアルカリ性溶液はこれに限られるものではなく、中和滴定法に用いられる呈色指示薬と、供給対象機器の許容遊離炭酸濃度に基づいて定めた所定量のアルカリ性溶液とを組み合せて、遊離炭酸検査器具10(液質検査器具1)を構成してもよい。
例えば、呈色指示薬としては、クレゾールレッドが考えられる。クレゾールレッドはpH8.8以上で赤紫色に呈色する。即ち、遊離炭酸がほぼ存在しないpH8.3以上の領域で呈色することから、呈色指示薬として好適である。
また、アルカリ性溶液としては、水酸化バリウムが考えられる。なお、アルカリ性溶液は、少量でも検査対象液体と充分反応させることができるという点で、強アルカリ性のものが好ましい。ただし、弱アルカリ性のものであってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 液質検査器具
10 遊離炭酸検査器具(液質検査器具)
11 検水容器(検査対象液体容器)
12 フェノールフタレイン容器(呈色指示薬容器)
13 水酸化ナトリウム容器(アルカリ性溶液容器)
20 硬度検査器具
21 硬度検査チューブ
22 比色紙
30 遊離炭酸検査器具(液質検査器具)
31 検水容器(検査対象液体容器)
32 フェノールフタレイン容器(呈色指示薬容器)
33 水酸化ナトリウム容器(アルカリ性溶液容器)
34 水酸化ナトリウム水溶液計量容器(計量容器)
35 テーブル(表示媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
呈色指示薬が収容された呈色指示薬容器と、
アルカリ性溶液が収容されたアルカリ性溶液容器と、を携帯可能なキットとして備え、
所定量の検査対象液体と、前記呈色指示薬と、前記検査対象液体の供給対象機器に許容される所定の許容遊離炭酸濃度に応じて予め定められた量の前記アルカリ性溶液と、を混合し、
該混合された液体の色の変化で前記検査対象液体の遊離炭酸濃度が前記許容遊離炭酸濃度の範囲内であるか否かを示す
ことを特徴とする液質検査器具。
【請求項2】
前記検査対象液体の所定量に応じた容積を有する検査対象液体容器と、
前記所定の許容遊離炭酸濃度に応じて予め定められた量のアルカリ性溶液を計量する計量容器と、をさらに備え、
前記検査対象液体容器に前記呈色指示薬と前記計量容器によって計量されたアルカリ性溶液とが注入される
ことを特徴とする請求項1に記載の液質検査器具。
【請求項3】
前記検査対象液体の必要量に応じた容積を有する検査対象液体容器をさらに備え、
前記アルカリ性溶液容器は、前記所定の許容遊離炭酸濃度に応じて予め定められた量のアルカリ性溶液が収容され、
前記検査対象液体容器に前記呈色指示薬と前記アルカリ性溶液とが注入される
ことを特徴とする請求項1に記載の液質検査器具。
【請求項4】
前記アルカリ性溶液容器は、
前記所定の許容遊離炭酸濃度に応じて予め定められた量のアルカリ性溶液が収容され、
前記検査対象液体の所定量に応じた容積を有し、
測定の際、前記アルカリ性溶液容器に前記検査対象液体が注入される
ことを特徴とする請求項1に記載の液質検査器具。
【請求項5】
混合時に色が変化することで、前記検査対象液体の遊離炭酸濃度が前記許容遊離炭酸濃度以下であることを示し、
混合時に色が変化しないことで、前記検査対象液体の遊離炭酸濃度が前記許容遊離炭酸濃度より多いことを示す
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の液質検査器具。
【請求項6】
前記検査対象液体の判定に用いられる情報の表示媒体をさらに備える
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の液質検査器具。
【請求項7】
前記呈色指示薬としてフェノールフタレイン溶液が用いられ、
前記アルカリ性溶液として水酸化ナトリウムが用いられる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の液質検査器具。
【請求項8】
呈色指示薬が収容された呈色指示薬容器と、アルカリ性溶液が収容されたアルカリ性溶液容器と、を携帯可能なキットとして備える液質検査器具を用いた液質検査方法であって、
該液質検査方法は、
所定量の検査対象液体と、前記呈色指示薬と、前記検査対象液体の供給対象機器に許容される所定の許容遊離炭酸濃度に応じて予め定められた量の前記アルカリ性溶液と、を混合する工程と、
該混合された液体の色の変化で前記検査対象液体の遊離炭酸濃度が前記許容遊離炭酸濃度の範囲内であるか否か判定する工程と、を有する
ことを特徴とする液質検査器具を用いた液質検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−98235(P2012−98235A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248152(P2010−248152)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】