説明

液質調整剤、これを用いた液質調整装置および水冷システム

【課題】イオン交換樹脂を用いなくても、長期間に渡って液体の交換を不要にする液質調整剤を提供する。
【解決手段】反応セル(液質調整剤)80は、反応物質11と、前記反応物質を包含する刺激応答性ゲル83と、前記反応物質11及び前記刺激応答性ゲル83を封入するカプセル12と、液体の性質の変化に応答して前記反応物質を前記液体中の物質と反応させるために前記刺激応答性ゲル83に設けられた開閉部84と、を有する。一つの例として、液体のpH値が一定の値よりも低くなったときに、刺激応答性ゲルは収縮してカプセル内で反応物質に到達する経路85を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液質調整剤、これを用いた液質調整装置および水冷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
循環系によって温度調整された液体を循環させるシステムでは、銅の配管が用いられることが多い。たとえばコンピュータ水冷システムでは、温度調整した冷媒をクーリングプレートに流し、CPUを冷却している。クーリングプレートや配管に銅が使用されている場合、冷媒である水には銅の腐食防止剤であるBTA(ベンゾトリアゾール)を溶解させている。BTAは銅の表面に皮膜を形成し、腐食を防止する。この皮膜は冷媒がアルカリ性のときに安定であるため、冷媒にはBTAの他に、pHを弱アルカリ性にするために水酸化カリウム等のpH調整剤が少量溶解されている。なんらかの影響でpHが酸性を示すようになると銅は腐食しやすい状態となるため、冷媒は常に中性〜弱アルカリ性に保っておく必要がある。
【0003】
ところで、冷却装置への注水時やカプラの挿抜時に配管内に混入した空気を抜くため、配管には複数の空気抜き弁が設置されている。これらの空気抜き弁から大気中の気体が冷媒へ溶解する。たとえば大気中には二酸化炭素が存在しており、水溶液中に溶解すると、炭酸水素イオンや炭酸イオンとなり、冷媒は酸性に傾く。これにより銅は腐食しやすい状態となる。
【0004】
これらのイオンを除去するため、系内にイオン交換樹脂を設置する方法が一般に用いられている。しかし、イオンの除去と同時に、冷媒に必要なカリウムやBTAまで吸着されてしまうという問題がある。これに対し、初期状態において冷媒に多量の水酸化カリウムを溶解させておけば、強アルカリとなるため酸性にはなりにくい。しかし、この場合は導電率が高くなるため、逆に腐食が促進されてしまう。したがって、pHが低下した場合には、イオン交換樹脂でイオンを除去後に、必要な成分を再添加する必要がある。
【0005】
イオン交換樹脂を用いない場合は、冷媒の交換頻度が高くなる。同様の問題は、自動販売機の温度調整機構など、一般に配管によって液体を供給する任意の液体循環システムに生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−292513
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、イオン交換樹脂を用いなくても、長期間に渡って溶媒の交換を不要にする液質調整剤、これを用いた液質調整装置及び水冷システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1の側面では、液質調整剤は、反応物質と、前記反応物質を包含する刺激応答性ゲルと、前記反応物質及び前記刺激応答性ゲルを封入するカプセルと、液体の性質の変化に応答して前記反応物質を前記液体中の物質と反応させるために前記刺激応答性ゲルに設けられた開閉部と、を有する。
【0009】
別の側面では、上述の液質調整剤を用いた液質調整装置を提供する。この液質調整装置は、
調整すべき液体を導入する第1配管と、調整した液体を流出させる第2配管との間に接続される調整槽と、
前記調整槽内でフィルタによって隔てられて液質調整剤を収容する反応槽と、
を有し、前記液質調整剤は、反応物質と、前記反応物質を包含する刺激応答性ゲルと、前記反応物質及び前記刺激応答性ゲルを封入するカプセルとを有し、前記刺激応答性ゲルは前記液体の性質の変化に応答して膨張又は収縮することによって、前記反応物質を前記液体中の物質と反応させる。
【0010】
さらに別の側面では、上述した液質調整剤を用いた水冷システムを提供する。水冷システムは、1以上の被冷却体と、前記被冷却体を冷却するための冷媒を循環させる循環系とを有し、前記冷媒中に、当該冷媒の比重よりも小さい比重を有する液質調整剤が混入されており、前記液質調整剤は、前記冷媒中の物質と反応する反応物質と、前記反応物質を包含するpH応答性ゲルと、前記反応物質及びpH応答性ゲルとを封入するカプセルとを含み、前記pH応答性ゲルは、前記冷媒のpH値が一定値よりも小さくなったときに前記カプセル内で前記反応物質に至る経路を形成し、前記反応物質と前記冷媒中の物質とを反応させる。
【発明の効果】
【0011】
冷却システムにおける冷媒の交換頻度を大幅に低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態の反応セルの構成を示す模式図である。
【図2】本発明が適用されるコンピュータ水冷システムの概略構成図である。
【図3】第1実施形態の反応セルが用いられる沈殿槽の概略構成図である。
【図4】冷媒の性質の変化に応答する反応物質の放出を説明するための図である。
【図5】第1実施形態の反応セルを用いた冷媒と、従来のpH調整剤が添加された冷媒の経時変化を比較するグラフである。
【図6】第1実施形態の液質調整装置の変形例を示す図である。
【図7】第1実施例の液質調整装置を水冷式コンピュータシステムに適用した例を示す図である。
【図8】第2実施形態の反応セルの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の液質調整剤である反応セル10の構成を示す模式図である。図1において、反応セル10は、反応物質11と、反応物質11を包含する刺激応答性ゲル13と、反応物質11及び刺激応答性ゲル13を封入するカプセル12と、液体の性質の変化に応答して反応物質11を液体中の物質と反応させるために刺激応答性ゲル13に設けられた開閉部14とを有する。開閉部14は、液体の性質の変化に応答して刺激応答性ゲル13の状態が変化したときに開いて、反応物質11を液体に接触させる。
【0014】
刺激応答性ゲルとは、外部の刺激に応答して形状や物性を著しく変える高分子ゲルである。外部刺激として光照射、電場印加、温度変化など多様な刺激がある。形状や物性の変化としても、膨張と収縮との間の可逆変化、ゲルとゾルとの可逆変化など、多様な変化がある。実施例では、液体の性質の変化に応じて膨張又は伸縮する刺激応答性ゲルを用いる。
【0015】
第1実施形態では特に、刺激応答性ゲル13は、液体(溶媒)のpH値(水素イオン指数)の低下に応答して膨張するpH応答性ゲル13を選択する。この場合、後述するように、pH応答性ゲル13の膨張に応じてカプセル12が破壊され開閉部14が分断して、反応物質11を液体中に放出する。
【0016】
pH値の低下は液体の酸性化を意味する。液体が酸性化すると配管の腐食が進行する。これを防止するために、反応物質11として、液体の性質を弱アルカリ性に保つ物質を選択する。液体を酸性化する物質には様々なものがあるので、反応性物質11は、液体に溶け込む酸性化物質(ガス)の種類に応じて選択される。たとえば、二酸化炭素が水に溶け込む環境では、反応物質11として水酸化カルシウムを用いる。この場合、水酸化カルシウムと炭酸が反応して、炭酸カルシウムが沈殿し、液体は中和される。
Ca(OH)2+H2CO3 → CaCO3+2H2O (1)
【0017】
工場の運転や火山の近傍で酸化硫黄ガスが水に溶け込む環境の場合は、反応物質11として水酸化バリウムを用いる。この場合、水酸化バリウムと硫酸が反応して、硫酸バリウムが沈殿し、液体は中和される。
Ba(OH)2+H2SO4 →BaSO4+2H2O (2)
【0018】
水酸化カルシウムや水酸化バリウムを初期状態から多量に溶解させておくと、液体の導電率が上昇し、かえって腐食を促進することになる。そこで、液体のpH値が低下したときにだけ反応物質11が液体中に溶解し、炭酸イオンや硫酸イオンを沈殿させるのが望ましい。
【0019】
これを実現するために、第1実施形態では、液体のpH値の低下に応答して膨張する刺激応答性ゲル13を用いる。pHの低下に応答して膨張するゲル材料として、塩基性基を有する高分子化合物、たとえば、アミノ酸基、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、第4級アンモニウム基などを有するポリマーを用いることができる。具体例としては、ジアルキルアミノアルキルアクリレート(例えば、ジメチルアミノエチルアクリレート)を主モノマーとするポリアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート(例えば、ジメチルアミノエチルアクリレート)を主モノマーとするポリアクリレート、アルキルジアリルアミン(例えば、メチルジアリルアミン)を主モノマーとするポリアクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド(例えば、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)を主モノマーとするポリアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリルルアミド(例えば、ジメチルアミノプロピルメタクリルルアミド)を主モノマーとするポリアクリレート、などのポリマーが挙げられる。
【0020】
カプセル12は、イオン透過性のある浸透膜(例えば、ポリアミドやポリビニルアルコール等の浸透膜)や濾紙状の多孔質体でできている。反応セル13の直径は、たとえば数ミクロン〜数百ミクロンであり、水冷コンピュータシステムや自動販売機の配管の腐食を防止するために、冷媒の中に混入される。反応セル13のサイズはそれが用いられるシステムの設計に応じて選択され、たとえば、水冷システムのフィンの隙間を通過することのできる大きさである。
【0021】
このような反応セル10を作製する方法として、(1)モノマーを出発原料として重合体を製造し、重合体に、反応物質11を分散させた液体を包含させることにより製造する方法と、(2)高分子化合物を出発原料として架橋反応により重合体を製造し、重合体に反応物質11を分散させた液体を包含させることにより製造する方法が挙げられる。
【0022】
反応物質11を分散させた液体としては、水、水とアルコールの混合液などが挙げられる。水を用いる場合は、精製した水を用いることが好ましく、例えば蒸留水を用いるのが好ましい。
【0023】
反応物質11を分散させた液体を重合体に包含させる方法としては、特に限定はないが、重合を液体中で行い、重合と同時に重合体中に液体を包含させる方法、重合体を液体中に浸漬する方法、重合体を液体で洗浄する方法などが挙げられ、これらの中の複数の方法を組み合わせても良い。通常は、製造した重合体中に含まれる未反応モノマー(出発原料として用いたもの)や未反応高分子化合物を取り除くとともに、重合体中に液体を包含させるために、重合体を液体で洗浄する方法が好ましい。
【0024】
高分子化合物を出発原料としてpH応答性ゲルを製造する場合は、通常は放射線を照射して重合体を得る。放射線としては、電子線、γ線、X線、紫外線などが挙げられるが、なかでも電子線、紫外線が好ましい。放射線を部分的に照射すれば、ゲルを分割して重合することができるので、放射線の部分照射により、pH応答ゲル13に開閉部14を設けることができる。
【0025】
カプセル12は、界面重合法、コアセルベーション法、界面沈殿法、液中乾燥法などが挙げられる。界面重合法は界面における重合反応をマイクロカプセル化に利用する。反応物質11を包含するpH応答ゲル13を材料溶液中に分散させたときに、pH応答ゲル13の表面でカプセル材料となるものを重合反応させる。
【0026】
図2は、図1の反応セル10をコンピュータ水冷システム20に適用した構成例を示す図である。コンピュータ水冷システムは、1以上のコンピュータ、冷却水循環装置22、液質調整装置としての沈殿槽30、及びこれらを接続する配管24を含む。冷却水循環装置22は、熱交換器やポンプにより構成され、配管24を通じてコンピュータ23へ冷却水(冷媒)を供給する。
【0027】
図3は、液質調整装置としての沈殿槽30の構成を示す概略図である。沈殿槽30は、配管24aによって導入される冷媒31の液質を調整するための調整槽35を有する。調整槽35の内部には、フィルタ(濾紙)32を介して反応槽33が設けられ、反応槽33には反応セル10が多数存在する。冷媒31は、フィルタ32を通って反応槽33内の反応セル10と接触する。反応セル10は、冷媒31のpH値が一定値以上の場合は、冷媒31に対して作用しない。冷媒31のpH値が一定値よりも低くなった場合に、内包する反応物質11を冷媒31中に放出して、冷媒のpH値を所定のレベルに回復する。放出された反応物質11と冷媒31中の物質との化学反応によって沈殿物が生成されるが、この沈殿物はフィルタ32の存在により反応槽33内にとどまる。調整槽35内で液質が回復された冷媒は、配管24bから循環系に流れ出て、コンピュータ23を冷却する。
【0028】
図4は、pH値の変化に応じた反応セル10の変化を説明するための図である。図4(A)は、冷媒31のpH値が7以上である場合の反応セル10の状態、図4(B)は、冷媒31のpH値が7より低くなった場合の反応セル10の状態を示す。上述のように、第1実施形態では、ポリアミドやポリビニルアルコール等の浸透膜カプセル12内に封入されたpH応答性ゲル13は、pHが7より低くなると膨張するゲルである。反応物質11としては、水酸化カルシウムを用いる。
【0029】
図4(A)に示すように、冷媒31のpHが7以上のときはpH応答性ゲル13に変化はなく、開閉部14は閉じている。pH応答性ゲル13は冷媒を吸収しないため、反応セル10内の反応物質はなんら系に作用しない。一方、冷媒31の液質が酸性に傾いてpHが7より小さくなると、図4(B)に示すように、pH応答性ゲル13が膨張し、カプセル12を破壊する。pH応答ゲル13は開閉部14で分断され、反応物質(水酸化カルシウム)11を冷媒31中へ放出する。放出された反応物質11は、冷媒31中の炭酸イオンと反応して沈殿物を生成する(式(1)参照)。反応セル10の破断及び冷媒中の物質との反応は、冷媒31中の炭酸イオン濃度が低下してpHが7以上になるまで続く。反応槽33はフィルタ(濾紙)32を介しているため、破断後の反応セル10や沈殿物が系内に流れ出ることはない。
【0030】
図5(A)は、第1実施形態の反応セル10を用いた液質調整装置30のpH維持効果を示すグラフである。比較例として、図5(B)に、反応セル10を用いない従来の冷却システムにおけるpHの経時変化を示す。図5(A)及び図5(B)の双方の場合において、当初の液質が弱アルカリになるように少量のpH調整剤(水酸化カリウム等)を添加して、pHの初期値を9.0に設定してある。仮に水冷システムで冷媒のpHの運用範囲を6.5以上とした場合、図5(B)の例では、初期値9.0から徐々に低下し、6.5よりも低くなるC2の時点で冷媒の交換等の措置が必要である。C2の時期は配管の構造、弁の数等によって異なるが、半年から1年程度で交換が必要になる場合もある。
【0031】
これに対して、第1実施形態の反応セル10を用いた図5(A)の場合は、初期値である9.0から徐々に低下し、pHが7.0より低くなると、反応セル10から反応物質11が反応槽33内に放出されて、pHの自動調整が開始する。反応物質11の放出は冷媒のpHが7.0以上に回復するまで続く。pHが再び低下すると、反応物質11の放出、pHの回復、pHの低下と繰り返す。この繰り返しは、反応セル10が使用し尽くされるまで継続する。反応セルがすべて使用されると、冷媒のpHは徐々に低下する。pHが6.5より小さくなると(グラフのC1の時点)、反応セル10の交換や冷媒の交換等の処置を行う。C1の時点は、混入する反応セル10の量、配管の構造、弁の数等によっても異なるが、図5(B)と同じサイズの沈殿槽、同じ配管構造を採用している場合に、冷媒の交換が5年以上の間不要になる。反応セル10が十分に混入される場合は、製品の保証期間中は処置が不要になる。
【0032】
図6は、第1実施形態の液質調整装置(沈殿槽)の変形例を示す図である。図6の例では、複数の沈殿槽40−1、40−2、40−3を接続して液質調整装置40を構成する。刺激応答性ゲル13の反応が極端に敏感である場合や、反応槽33でのイオンの拡散が速い場合、図3のような単槽構造だと、pHが低下した際に一度に過剰の反応物質11が反応セル10から放出される可能性がある。これを解決するために、沈殿槽40−nを複数接続する。冷媒31のpHが低下すると、まず上流側の第1沈殿槽40−1で反応が起こり、pHが回復する。下流側の第2沈殿槽40−2と第3沈殿槽40−3には、pHが回復した冷媒が流れるため、第2沈殿槽40−2、第3沈殿槽40−3では反応セル10は反応しない。
【0033】
第1沈殿槽40−1の反応セル10がすべて使用されると、第2沈殿槽40−2で反応が開始する。第2沈殿槽40−2の反応セル10がすべて使用されると、第3沈殿槽40−3で反応が始まる。このように、一度に過剰の反応物質11が反応セル10から放出されることを防止して、pH回復を分散して行うことにより、冷媒の交換頻度をさらに低減することができる。
【0034】
図7は、図6の液質調整装置40をコンピュータ水冷システムに適用した例を示す。図7では、沈殿槽40−1〜40−3を連続して接続するのではなく、コンピュータ23のラックごとに配置する。特に大規模水冷システムでは、循環経路内でpH値に分布が生じる可能性がある。沈殿槽40−1〜40−3を系内に分散して設置することにより、局所的にpHを回復することができる。
【0035】
<第2実施形態>
図8は、第2実施形態の反応セル80を示す図である。第2実施形態では、刺激応答性ゲルとして、pHの低下に応答して収縮するpH応答性ゲル83を採用する。反応セル80は、水酸化カルシウム等の反応物質11と、反応物質11を包含するpH応答性ゲル83と、反応物質11及びpH応答性ゲル83を封入するカプセル12を有する。pH応答性ゲル83は、環境の変化に応じて反応物質11を外部環境と接触させるための開閉部84を有する。開閉部84は、pHが7以上の場合は、図8(A)に示すように閉じており、冷媒を内部へ通さない。一方、冷媒のpHが7未満になると、図8(B)に示すように、pH応答性ゲル83の収縮にともなって開閉部84に亀裂を生じさせ、液体導入用の経路(チャネル)85を形成する。経路85は反応物質11に達し、これにより冷媒はカプセル11から経路85を通って反応物質11に到達する。
【0036】
カプセル12はセルロース等の濾紙状の多孔質体であり、冷媒中に溶解する炭酸イオンもカプセル12を通過して、反応物質11に到達する。炭酸イオンはカプセル12内で反応物質11と反応して反応物資(炭酸カルシウム)を生成する。この反応物質は、カプセル12を通過することができないので、カプセル12内にとどまる。
【0037】
pHの低下に応答して収縮する刺激応答性ゲル(pH応答性ゲル)83としては、酸性で可逆的に収縮するように、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基などの酸性基を有するポリマーが挙げられる。たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸、2−メチル−2−(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ−1−プロパンスルホン酸などを主モノマーとするポリマーである。
【0038】
pH応答性ゲル83を作製する際には、pH応答性ゲル83の収縮によって反応物質11に至る1以上の経路(チャネル)85が形成されるように、1以上の部分に放射線の照射を行う。高分子化合物を出発原料としてpH応答性ゲル83を製造する場合、通常は電子線、γ線、X線、紫外線等の放射線を照射して重合体を得るが、このとき、1以上の箇所に部分的に放射線を照射することによって、開閉部84を形成しておく。開閉部84はpHが7以上のときは閉じており、反応セル80は冷媒に対してなんら作用しない。冷媒のpH値が7よりも低くなったときに、開閉部84が開いて経路85を形成する。pHが7以上に回復すると、pH応答性ゲル83は再び膨張するので、経路85が閉じられる。これにより生成された炭酸カルシウムはカプセル12の内部に閉じ込められる。
【0039】
好ましくは、反応セル80の比重は冷媒の比重以下であり、冷媒中に浮遊する。第2実施形態の場合、反応物質11と冷媒中の物質との反応の結果生成される生成物(たとえば炭酸カルシウムや硫酸バリウム)は、カプセル12内に閉じ込められたままなので、循環系の配管内に沈殿物を沈殿させることはない。したがって、図2のコンピュータ水冷システム20において、沈殿槽30を設けなくても、反応セル80を冷媒に直接混入して、循環系により配管内を循環させることができる。反応セル80を冷媒中に浮遊させて系内を循環させることにより、特に大規模冷却システムの循環系内でpHに分布が生じた場合でも、局所的にpHを回復することができる。
【0040】
第1実施形態および第2実施形態では、冷媒中のpH値の変化に応じて膨張、収縮する刺激応答性ゲルを用いて、液質調整剤および液質調整装置を構成した。本発明はこれに限定されず、たとえば、液体の導電率の変化に応じて反応物質を放出させる構成とすることも可能である。この場合は、刺激応答性ゲルとして、光照射または電場印可などの外部刺激により収縮または膨張する高分子化合物を使用する。沈殿槽に、液体の導電率が一定値以上に上昇したことを検知するセンサを設け、センサの出力をトリガとして光照射または電場印可を行う照射源または電場印可源を設置する。光照射または電場の印加により刺激応答性ゲルを膨張または収縮させて、反応物質を液体中の導電性イオンと反応させる。このような構成によっても、液体の液質を所望のレベルに維持することができる。
【0041】
以上の説明に対し、以下の付記を提示する。
(付記1)
反応物質と、前記反応物質を包含する刺激応答性ゲルと、前記反応物質及び前記刺激応答性ゲルを封入するカプセルと、液体の性質の変化に応答して前記反応物質を前記液体中の物質と反応させるために前記刺激応答性ゲルに設けられた開閉部と、を有することを特徴とする液質調整剤。
(付記2)
前記刺激応答性ゲルは、前記液体の性質の変化に応答して膨張または収縮することによって、前記開閉部を開放して前記反応物質を前記液体に接触させることを特徴とする付記1に記載の液質調整剤。
(付記3)
前記刺激応答性ゲルは、前記液体のpH値が低下したときに収縮し、前記開閉部は、前記刺激応答性ゲルの収縮によって、前記カプセル内に前記反応物質に到達する経路を形成することを特徴とする付記2に記載の液質調整剤。
(付記4)
前記カプセルは多孔質体であり、前記液体中の物質を通過させることを特徴とする付記3に記載の液質調整剤。
(付記5)
前記刺激応答性ゲルは、前記反応物質と前記液体中の物質との反応によって前記pH値が回復した場合に膨張して、前記反応により生成された生成物を前記カプセル内に閉じ込めることを特徴とする付記4に記載の液質調整剤。
(付記6)
前記刺激応答性ゲルは、前記液体のpHが低下したときに膨張し、前記開閉部は、前記刺激応答性ゲルの膨張によって、前記カプセル及び前記刺激応答性ゲルを破断させることを特徴とする付記2に記載の液質調整剤。
(付記7)
前記反応物質は水酸化カルシウムであり、前記液体中に溶解する炭酸ガスと反応することを特徴とする付記1〜6のいずれかに記載の液質調整剤。
(付記8)
前記反応物質は水酸化バリウムであり、前記液体中に溶解する酸化硫黄ガスと反応することを特徴とする付記1〜6のいずれかに記載の液質調整剤。
(付記9)
前記液質調整剤の比重は、前記液体の比重よりも小さいことを特徴とする付記1〜8のいずれかに記載の液質調整剤。
(付記10)
前記液質調整剤は、水冷システムの循環経路に使用されることを特徴とする付記1〜9のいずれかに記載の液質調整剤。
(付記11)
調整すべき液体を導入する第1配管と調整した液体を流出させる第2配管との間に接続される調整槽と、
前記調整槽内でフィルタによって隔てられて液質調整剤を収容する反応槽と、
を有する液質調整装置であって、
前記液質調整剤は、反応物質と、前記反応物質を包含する刺激応答性ゲルと、前記反応物質及び前記刺激応答性ゲルを封入するカプセルとを有し、前記刺激応答性ゲルは前記液体の性質の変化に応答して膨張又は収縮することによって、前記反応物質を前記液体中の物質と反応させることを特徴とする液質調装置。
(付記12)
前記調整槽は、複数の調整槽が接続されたものであり、各調整槽の前記反応槽内に、前記液質調整剤が収容されていることを特徴とする付記12に記載の液質調整装置。
(付記13)
1以上の被冷却体と、前記被冷却体を冷却するための冷媒を循環させる循環系とを有し、前記冷媒中に、当該冷媒の比重よりも小さい比重を有する液質調整剤が混入されており、前記液質調整剤は、前記冷媒中の物質と反応する反応物質と、前記反応物質を包含するpH応答性ゲルと、前記反応物質及びpH応答性ゲルとを封入するカプセルとを含み、前記pH応答性ゲルは、前記冷媒のpH値が一定値よりも小さくなったときに前記カプセル内で前記反応物質に至る経路を形成し、前記反応物質と前記冷媒中の物質とを反応させることを特徴とする水冷システム。
【産業上の利用可能性】
【0042】
液体の液質の調整が求められるシステム、たとえばコンピュータ水冷システム、自動販売機の冷却システム等に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10、80 反応セル(液質調整剤)
11 反応物質
12 カプセル
13、83 pH応答性ゲル(刺激応答性ゲル)
14、84 開閉部
85 経路(チャネル)
30、40、40−1、40−2、40−3 沈殿槽(液質調整装置)
31 冷媒
32 フィルタ
33 反応槽
35 調整槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応物質と、前記反応物質を包含する刺激応答性ゲルと、前記反応物質及び前記刺激応答性ゲルを封入するカプセルと、液体の性質の変化に応答して前記反応物質を前記液体中の物質と反応させるために前記刺激応答性ゲルに設けられた開閉部と、を有することを特徴とする液質調整剤。
【請求項2】
前記刺激応答性ゲルは、前記液体の性質の変化に応答して膨張または収縮することによって、前記開閉部を開放して前記反応物質を前記液体に接触させることを特徴とする請求項1に記載の液質調整剤。
【請求項3】
前記刺激応答性ゲルは、前記液体のpH値が低下したときに収縮し、前記開閉部は、前記刺激応答性ゲルの収縮によって、前記カプセル内に前記反応物質に到達する経路を形成することを特徴とする請求項2に記載の液質調整剤。
【請求項4】
前記カプセルは多孔質体であり、前記液体中の物質を通過させることを特徴とする請求項3に記載の液質調整剤。
【請求項5】
前記刺激応答性ゲルは、前記反応物質と前記液体中の物質との反応によって前記pH値が回復した場合に膨張して前記開閉部を閉じ、前記反応により生成された生成物を前記カプセル内に閉じ込めることを特徴とする請求項4に記載の液質調整剤。
【請求項6】
前記刺激応答性ゲルは、前記液体のpHが低下したときに膨張し、前記開閉部は、前記刺激応答性ゲルの膨張によって、前記カプセル及び前記刺激応答性ゲルを破断させることを特徴とする請求項2に記載の液質調整剤。
【請求項7】
調整すべき液体を導入する第1配管と、調整した液体を流出させる第2配管との間に接続される調整槽と、
前記調整槽内でフィルタによって隔てられて液質調整剤を収容する反応槽と、
を有する液質調整装置であって、
前記液質調整剤は、反応物質と、前記反応物質を包含する刺激応答性ゲルと、前記反応物質及び前記刺激応答性ゲルを封入するカプセルとを有し、前記刺激応答性ゲルは前記液体の性質の変化に応答して膨張又は収縮することによって、前記反応物質を前記液体中の物質と反応させることを特徴とする液質調装置。
【請求項8】
1以上の被冷却体と、前記被冷却体を冷却するための冷媒を循環させる循環系とを有し、前記冷媒中に、当該冷媒の比重よりも小さい比重を有する液質調整剤が混入されており、前記液質調整剤は、前記冷媒中の物質と反応する反応物質と、前記反応物質を包含するpH応答性ゲルと、前記反応物質及びpH応答性ゲルとを封入するカプセルとを含み、前記pH応答性ゲルは、前記冷媒のpH値が一定値よりも小さくなったときに前記カプセル内で前記反応物質に至る経路を形成し、前記反応物質と前記冷媒中の物質とを反応させることを特徴とする水冷システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図6】
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