説明

液面位置検出及び液体体積計測装置

【課題】微小重力環境下であっても、タンク中に収容された燃料等の液面位置及び体積を、簡易にかつ精度良く計測することができる装置を提供する。
【解決手段】液体を収容するための容器と、前記容器の側面に設けられた、容器に収容された前記液体を加熱するための加熱手段と、加熱手段の近傍に設けられ、該加熱手段による加熱により生ずる温度変化を測定するようにされた、温度測定手段と、前記温度測定手段により測定された温度変化から、前記容器内に収容された液体の体積を算出する、演算処理手段とを備える、液体体積計測装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク等の容器内に収容された液体の、容器内部での液面の位置を検出し、容器内の液体の体積を計測するための装置に関するものである。特に、本発明は、人工衛星等に搭載された燃料タンク中の残液量を高精度に計測することを可能にする、液面位置検出及び液体体積計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星やその他将来型宇宙機には、燃料あるいは酸化剤を収容したタンクが搭載されている。このタンク内の燃料あるいは酸化剤の残存量を正確に把握しておくことは、人工衛星等の航行や姿勢制御を適切に行うために、極めて重要である。
地球上での一般的な環境、すなわち通常重力下では、タンクに収容された液体の液面は、静水圧により水平に保持されている。したがって、タンク内の液面位置を検出することはさほど困難ではなく、しかも何らかの手法で液面位置を検出すれば、タンク内の液量を容易に把握することが出来る。
しかしながら、人工衛星等に搭載される上記燃料あるいは酸化剤タンクは、微小重力環境で使用されることになる。微小重力環境では、表面張力が支配的になるため、液体の位置、形状はタンクの上下に関係なく表面張力が安定した形状になろうとする。このため、重力の働く地上とは異なり液面の形状が湾曲したものとなる。このため、通常重力下におけるように、容易にタンク内の液面位置を検出し、液量を把握することは出来ない。
【0003】
上記を考慮し、液体排出中にガスの供給を行わないブローダウン式の燃料タンクにおいて、タンク内部のガス相の圧力および温度を計測し、ボイル・シャルルの法則からガス相体積を算出するPVT法が用いられてきた。しかしながら、この手法は、液量が少ない場合に精度良く液量を計測することが困難であるとされている。
また、微小重力環境で液体体積を計測する方法として、音響信号を用いる方法が提案されている(特開2006−308565号公報)。この方法によれば、液量が少ない場合であっても、容器内の液体の体積を精度良く計測できるとされている。しかしながら、この方法を実施するためには、設計変更の難しいタンクの新規設計が必要になり、あるいは音響発生装置、信号処理装置等で構成される複雑な計測システムが必要となる。
【0004】
したがって、微小重力環境下で、タンク中の燃料等の残液量を、簡易な構成をもって精度良く計測することができる液面位置検出装置あるいは液体体積計測装置は、得られていないのが実情であった。
【0005】
【特許文献1】特開2006−308565号公報
【特許文献2】米国特許第5209115号明細書
【非特許文献1】J. Spacecraft and Rockets, Vol. 37, No. 6, pp. 833-835 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
人工衛星等で使用されるタンクに収容された液体の液面形状は、重力環境により変化する。図1は、重力変化による、球形タンクWに収容された液体Lの液面形状の変化の模式図である。通常重力環境下でタンクが静置されている場合は、1Gで示すように、気液相面が平面を保っている。一方、宇宙環境など、重力が減少した場合には、気液界面における重力の支配に対する表面張力の支配が強くなってくるため、気液相面はμGで示すように曲面を形成するようになる。したがって、タンク内の液体の体積が一定の場合であっても、重力の大きさによって液面形状は変化し、またタンク内壁と液体とが接触する面積も異なるものとなる。このような場合に、所定の体積の液体に働く重力の大きさと液面位置との関係についてシミュレーションを行うこと等により、ある条件下での液面位置をある程度推測することは、不可能ではない。しかしながら、タンク内部に様々なタンク部品が存在するような場合には、液面位置を推測するのに非常に複雑な計算をすることとなり、計算結果の信頼性を確認するのも困難となる。
したがって、特に従来での計測方法では誤差の関係上計測が難しかった、燃料の残量が少ない状態において、燃料液面位置情報から燃料の量を高精度で計測することを可能にする方法に対する要求が存在する。本発明は、微小重力環境下であっても、様々なタンク部品を内蔵するタンク中に収容された燃料等の液面位置及び体積を、簡易にかつ精度良く計測することができる、液面位置検出及び液体体積計測装置を提供することを、目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、タンクに収容された液体をタンク外部から加熱するとともに、加熱により生ずるタンク側壁の温度上昇を測定した場合に、温度上昇の速さは側壁の温度測定部分が接触している液量に依存し、同じ熱量で加熱した場合であっても、接触している液量の多い側壁部分における温度上昇速度は遅いのに対し、接触している液量の少ない、さらには液が全く存在せず気体と接触している側壁部分では、温度上昇速度が速いことに鑑み、本発明に到ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、液体を収容するための容器と、前記容器の側面に設けられた、容器に収容された前記液体を加熱するための加熱手段と、加熱手段の近傍に設けられ、該加熱手段による加熱により生ずる温度変化を測定するようにされた、温度測定手段と、前記温度測定手段により測定された温度変化から、前記容器内に収容された液体の体積を算出する、演算処理手段とを備えることを特徴とする、容器内に収容された液体の体積を計測するための装置を提供する。
【0009】
本発明はまた、液体を収容するための容器と、前記容器の側面に複数個設けられた、容器に収容された前記液体を加熱するための加熱手段と、前記複数個設けられた加熱手段のそれぞれの近傍に、少なくとも1個ずつ設けられ、該加熱手段による加熱により生ずる温度変化を測定するようにされた、温度測定手段と、前記温度測定手段により測定された温度変化から、前記温度測定手段付近における前記液体の液面位置を算出する、演算処理手段とを備えることを特徴とする、容器内に収容された液体の液面位置を検出するための装置を提供する。
この場合、前記複数個設けられた加熱手段は、前記容器の頂部と底部とを結ぶ前記容器の側面上の弧の全部又は一部の上に、等間隔だけ離隔して配置されているのが望ましい。
本発明はさらに、上記演算処理手段が、算出された液面位置から前記容器内に収容された液体の体積を算出する、容器内に収容された液体の液面位置を検出するための装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単なシステムで高精度な液量計測が可能となる。また、タンク内の残液量を高精度に把握することが出来るため、人工衛星の運用寿命を正確に予測することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
イ.液体体積計測装置
図2は、本発明による液体体積計測装置の構成例の概略構成図である。人工衛星等で使用する燃料あるいは酸化剤などの液体を収容するためのタンク1は、タンク1の内部に設けられたチャネル2と、タンク1の保温を目的としてタンク1の外部に設けられた多層断熱材(MLI)3を備えるとともに、排出口9から必要に応じてタンク内部の液体を排出する通常のタイプのものである。
タンク1の側面外側とMLI3の内側の面との間にはヒータ4が設けられており、これによってタンク1に収容された液体を加熱することができるようになっている。ヒータ4をMLI3の内側に設けることにより、ヒータの電力消費量の低減を図ることが可能となる。また、ヒータ4の近傍には、温度センサ5が設けられており、これによってヒータ4の加熱により生ずるタンク1の側壁の温度変化を測定することができるようになっている。温度センサ5をMLI3の内側に設けることにより、温度センサ5に対する外部の熱環境の影響が少なくなり、さらに高精度な温度計測が可能となる。さらに、これらヒータ4及び温度センサ5は、温度を監視しながら制御するための温度コントローラ6を介して、演算処理装置7に接続されており、演算処理装置7は記憶装置8に接続されている。演算処理装置7では、温度センサ5により測定され、演算処理装置7へ入力された温度変化についてのデータと、記憶装置8に予め記憶され、演算処理装置7へ読み込まれた温度変化と液体の体積との相関についてのデータとから、タンク1内に収容された液体の体積を算出し、結果を出力することができるようになっている。
【0012】
図2のような装置構成における液体の加熱と温度測定の様子を模式化すると、図3のようになる。MLIを備えたチタン合金タンクに収容された、液体燃料であるヒドラジンM[kg](初期温度20[℃])を、タンク外部に設けたヒータにより単位時間当たりの熱量Q[W]で加熱すると、熱の一部は輻射放熱Qr[W]として失われるが、その他はタンク及びタンク内部の液体の温度を上昇させるのに使われ、タンク表面の温度が単位時間当たりΔT[K]だけ上昇する。
【0013】
このような温度変化を測定することにより、タンク内に収容された液体の量を推算する方法を、図4に示す。通常重力下ではあり得ないが、微小重力環境下では、タンク内に収容された液体の充填量が十分である場合には、図4に示すように、タンク内壁に均一の厚さで付着しているような状況があり得る。タンク内の液面がこのような形状であることが推定される場合には、図4に示すような、所定の加熱量による昇温速度の液量依存性を事前に調べておき、実際に測定された温度変化の様子から、液量を推算することができる。図4は、容積が1m3の球形のタンクに液体を5kg(充填量0.5%)、10kg(1%)、15kg(1.5%)、20kg(2%)、30kg(3%)及び40kg(4%)の液体を充填した場合の、所定の加熱量による昇温速度の液量依存性を示している。
実際の宇宙用のタンクには、図1に示したように、内部部品や、液保持機構が存在するため、液量が少なくなるとタンク壁が全て液体で覆われる状態(理想界面)とは異なる状態の液面位置となる。その場合、図5に示すように、図4の液体充填量2%の条件で比較すると、液体が接触する場所(A)での壁温度は、理想界面の場合から予測される温度よりも低くなり(図中の矢印イ)、一方、液体が接触しない、ガス部分(B)での壁温度は、理想界面の場合から予測される温度よりも高くなる(図中の矢印ロ)。このように温度分布を持つため、計測部が液体が接している壁の温度を計測しているのか、または、ガスが接している壁の温度を計測しているのかを知ることが重要になる。
【0014】
ロ.液面位置検出装置
図5は、本発明による液面位置検出装置の構成例の概略構成図である。タンク11の内部には、微小重力下において液体Lを重力の方向に依らず一定の位置に保持するための、表面張力を利用した液体保持機構12が設けられている。ただし、このタンクは、宇宙用タンクとしての一例である。
タンク11の側面外側には、複数個の加熱/温度測定部材13が、液体保持機構12により液体が保持されるタンク11の部分、すなわち、タンク11の頂部と底部とを結ぶタンク11の側面上の弧(図面では底部から円周の4分の1程度までの部分のみが示されている)の上に、任意の間隔で配置されている。加熱/温度測定部材13は、小型ヒータと、そこから所定の距離だけ離隔して取り付けられた温度センサから構成されている。そして、小型ヒータによってタンク11を加熱し、温度センサによって小型ヒータの加熱により生ずるタンク11の側壁の温度の時間変化を測定することができるようになっている。さらに、加熱/温度測定部材13は、温度コントローラを介して、記憶装置を備える演算処理装置に接続されている。複数の小型ヒータにより同じ熱量でタンク11に収容された液体を加熱しても、加熱/温度測定部材13付近に存在するタンク11内部の液量が多い場合には、温度センサによって観測される温度上昇は、遅く、液量が小さい場合には、温度上昇は早くなる。また、液体が接するタンク11の側壁の温度上昇は、タンク11に収容されている全液体量にも依存する。すなわち、タンク11に収容されている液体量が同じであっても、タンク11の側壁と液体(燃料)が接する面積によって、タンク11の側壁の温度上昇は変化する。液体量が同じ場合の、このような温度上昇の違いを判別するためには、液体面の位置を温度センサで知ることが必須となる。演算処理装置では、このようにして得られた温度変化についてのデータと、記憶装置に予め記憶されていた温度変化と液面位置との相関についてのデータとから、タンク11内に収容された液体の液面位置を算出し、結果を出力することができるようになっている。さらに、この結果を利用して、演算処理装置において、タンク11内に収容された液体の体積を算出することができる。
【実施例】
【0015】
液体を収容した容器の様々な位置を同一のエネルギーで加熱した場合に観測される、位置による温度の時間変化の違いから、容器内の液面位置を推定できることを確認するため、次のとおりの予備実験を行った。
図7に示すように、液体L(水)を半分ほど満たした容積3リットル、高さ25cmの円筒形タンク21の側壁に、複数のヒータ(リボンヒータ)24と温度センサ(熱電対)25を取り付け、これらを断熱材23で覆った。ヒータ24により、合計12Wで加熱を行った。
【0016】
温度センサで観測されたタンク21の側壁の温度の時間変化を、液体Lに接触している側壁部分と接触していない部分について、図8(a)に示す。観測位置による温度差は、比較的短時間で大きく現われ、時間経過後も維持されることがわかる。
また、所定時間だけ加熱した後に、タンク21の底部から上部まで等間隔の位置に配置された温度センサ25で観測された、各観測位置での温度を図8(b)に示す。図8(b)の横軸は、タンク21の底部(下部)を0、上部を10として、位置を表示している。気液界面位置付近(横軸5付近の位置)で顕著な温度の差が認められ、これにより液面位置を検出できることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】重力変化によるタンク内液面形状の変化の模式図である。
【図2】本発明による液体体積計測装置の構成例の概略構成図である。
【図3】液体の加熱と温度測定の様子を模式化した図である。
【図4】球形1m3タンクの壁が液体で覆われている理想的条件で液量を推算する方法を説明する図である。
【図5】液量が少ない条件で液量を推算する方法を説明する図である。
【図6】本発明による液面位置検出装置の構成例の概略構成図である。
【図7】温度の時間変化から液面位置を推定するための装置の概略構成図である。
【図8】温度センサにより検出された、温度の時間変化(a)と温度分布(b)の検出位置依存性である。
【符号の説明】
【0018】
1 タンク
2 チャネル
3 MLI
4 ヒータ
5 温度センサ
6 温度コントローラ
7 演算装置
8 記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に収容された液体の体積を計測するための装置であって、
液体を収容するための容器と、
前記容器の側面に設けられた、容器に収容された前記液体を加熱するための加熱手段と、
加熱手段の近傍に設けられ、該加熱手段による加熱により生ずる温度変化を測定するようにされた、温度測定手段と、
前記温度測定手段により測定された温度変化から、前記容器内に収容された液体の体積を算出する、演算処理手段と、
を備えることを特徴とする、前記装置。
【請求項2】
容器内に収容された液体の液面位置を検出するための装置であって、
液体を収容するための容器と、
前記容器の側面に複数個設けられた、容器に収容された前記液体を加熱するための加熱手段と、
前記複数個設けられた加熱手段のそれぞれの近傍に、少なくとも1個ずつ設けられ、該加熱手段による加熱により生ずる温度変化を測定するようにされた、温度測定手段と、
前記温度測定手段により測定された温度変化から、前記温度測定手段付近における前記液体の液面位置を算出する、演算処理手段と、
を備えることを特徴とする、前記装置。
【請求項3】
前記複数個設けられた加熱手段は、前記容器の頂部と底部とを結ぶ前記容器の側面上の弧の全部又は一部の上に、等間隔だけ離隔して配置されている
ことを特徴とする、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記演算処理手段はさらに、算出された液面位置から、前記容器内に収容された液体の体積を算出する
ことを特徴とする、請求項2又は3に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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