深紫外光源
【課題】有害物質水銀を含まないワイドバンドギャップ半導体のAlxGa1-xN/AlN多重量子井戸(MQW)層を電子線で励起して励起状態の多重量子井戸から深紫外光を得る従来の深紫外光源において、有害なX線を阻止して、発光効率を高める。
【解決手段】深紫外光源は、AlN層4上に形成されたAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5、及びAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5上に形成されたアルミニウム(Al)メタルバック層6よりなる。電子放出源7より電子線EBが照射されると、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5が励起されて深紫外光DUVがサファイア(0001)基板1の光取り出し面Fより放射される。
【解決手段】深紫外光源は、AlN層4上に形成されたAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5、及びAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5上に形成されたアルミニウム(Al)メタルバック層6よりなる。電子放出源7より電子線EBが照射されると、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5が励起されて深紫外光DUVがサファイア(0001)基板1の光取り出し面Fより放射される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は消毒、殺菌、減菌用光源等として用いられる深紫外光源に関する。
【背景技術】
【0002】
消毒、殺菌、減菌用光源としてあるいは半導体製造設備等として、波長200〜260nm領域の深紫外光を放射する深紫外光源が広く用いられている。
【0003】
第1の従来の深紫外光源として、熱冷陰極を用いた低圧水銀放電装置がある(参照:特許文献1,2,3)。すなわち、ガラス放電管の両端に電極を封装し、ガラス放電管内部に水銀(Hg)を含むアルゴン(Ar)、ネオン(Ne)等の希ガスを低圧状態で封入した低圧水銀放電装置において、50kHz程度の交流電圧を印加することにより、電子→希ガス→水銀の衝突により水銀が電離して放電が開始する。このとき、励起状態の水銀から波長254nmの深紫外光が放射される。
【0004】
しかしながら、上述の第1の従来の深紫外光源においては、有害物質水銀を含んでいるので、環境保護の点から好ましくない。また、発光強度が水銀蒸気圧に依存しているので発光強度の温度依存性が大きい。すなわち、水銀蒸気圧が低いので、発光強度は小さい。また、周囲温度が低温のときには、発光強度が極端に低下し、他方、周囲温度が60℃以上のときも、発光強度が低下するので、最適温度が常温〜60℃と狭い。また、発光強度の立上り時間が長い。さらに、発光効率が低い。さらにまた、駆動電圧が高いので、電磁ノイズが大きい。
【0005】
第2の従来の深紫外光源として、熱冷陰極を用いた低圧水銀放電装置がある(参照:特許文献4)。これにより、第1の従来の深紫外光源よりも発光効率が上昇する。
【0006】
しかしながら、上述の第2の従来の深紫外光源においては発光効率以外の上述の第1の従来の深紫外光源の問題点は依然として存在する。
【0007】
第3の従来の深紫外光源として、熱陰極を用いた高圧水銀放電装置がある(参照:特許文献5)。すなわち、ガラス放電管内部に水銀を含む希ガスを高圧状態で封入し、発光強度を高めている。
【0008】
しかしながら、上述の第3の従来の深紫外光源においては、発光強度を高めた分、発光効率が低くなり、また、寿命が1000時間程度短くなる。さらに、高電圧放電を発生させる点灯回路を必要とするので、製造コストが高くなる。さらにまた、上述の第1の従来の深紫外光源と同様に、有害物質水銀を含んでいるので、環境保護の点から好ましくなく、また、駆動電圧が高いので、電磁ノイズが大きい。
【0009】
第4の従来の深紫外光源として、有害物質水銀を含まないワイドバンドギャップ半導体の六方晶ボロンナイトライド(hBN)粉を電子線で励起して励起状態の六方晶ボロンナイトライド粉から波長225nmの深紫外光を得るものがある(参照:非特許文献1)。
【0010】
しかしながら、上述の第4の従来の深紫外光源においては六方晶ボロンナイトライド粉の光自己吸収が大きいこと及び放射再結合確率が小さいことから、発光効率が低い。
【0011】
第5の従来の深紫外光源として、有害物質水銀を含まないワイドバンドギャップ半導体のAlxGa1-xN/AlN多重量子井戸(MQW)層を電子線で励起して励起状態の多重量子井戸から深紫外光を得るものがある(参照:非特許文献2)。具体的には、サファイア(0001)基板上にAlN層を形成し、AlN層上に厚さ1nmのAl0.69Ga0.31N井戸層及び厚さ15nmのAlN障壁層よりなる多重量子井戸層を形成する。この多重量子井戸層はAl0.69Ga0.31N井戸層の自己吸収を抑制して発光効率を高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5-54857号公報
【特許文献2】特開平5-217552号公報
【特許文献3】特開平6−96609号公報
【特許文献4】特開2006−12586号公報
【特許文献5】特開2007−518236号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Kenji Watanabe et al., "Far-ultraviolet plane emission handheld device based on hexagonal boron nitride", Nature Photonics, Vol.3, 591, October 2009
【非特許文献2】Takao Oto et al., "100 mW deep-ultraviolet emission from aluminium-nitride-based quantum wells pumped by an electron beam", Nature Photonics, Vol.4, 767, September 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述の第5の従来の深紫外光源においては、次の課題がある。
【0015】
第1に、多重量子井戸層の電子線照射による励起によって深紫外光以外に有害なX線を放射する。
【0016】
第2に、多重量子井戸層の導電性は悪いので、短時間の電子線照射によって多重量子井戸層が帯電して絶縁破壊を招く。
【0017】
第3に発光効率は未だ不充分である。
【0018】
第4に電子線照射のための電子放出源はタングステン(W)フィラメント等の熱電子放出源あるいは冷陰極電子放出源たとえばカーボンナノチューブ(CNT)が考えられるが、寿命は1000時間と短い。この結果、装置の寿命も短い。また、熱電子放出源は加熱電力を要するために発光効率が低く、また、冷陰極電子放出源では高真空封止を行う必要があり、この結果、製造コストが高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述の課題を解決するために、本発明に係る深紫外光源は、サファイア基板と、サファイア基板上に設けられ、300nm以下の波長を有するワイドギャップ半導体層とを具備し、ワイドギャップ半導体層側より電子線を照射してワイドギャップ半導体層を励起してワイドギャップ半導体層から発生した深紫外光をサファイア基板より放射するようにし、サファイア基板の厚さt1μmが
t1≧a・E3
但し、Eは電子線のエネルギー(keV)、
aは1μm/(keV)3
である。これにより、サファイア基板は深紫外光以外の有害な漏洩X線を阻止する。また、ワイドギャップ半導体層がAlxGa1-xN井戸層(0.2≦x≦0.8)及びAlN障壁層よりなるAlxGa1-xN/AlN多重量子井戸層を具備する。
【0020】
さらに、AlxGa1-xN/AlN多重量子井戸層上に設けられ、厚さ30〜60nmのアルミニウムメタルバック層を具備する。これにより、多重量子井戸層が帯電して絶縁破壊するのを防止する。
【0021】
また、AlxGa1-xN/AlN多重量子井戸層の厚さが300〜400nmであり、電子線のエネルギーが6〜7keVである。これにより、発光効率が最高となる。
【0022】
さらに、電子線を発生するためのグラファイトナノ針状ロッドにより構成される電子放出源を具備する。これにより、真空封止の真空度が下がり、電子放出源が長寿命となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、漏洩有害X線を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る深紫外光源の実施の形態を示す断面図である。
【図2】図1のサファイア(0001)基板の厚さを説明するためのグラフである。
【図3】図1の深紫外光源における電子線エネルギーを10keVとした場合の電子線の電子の拡散を説明するための図である。
【図4】図1のアルミニウムメタルバック層の反射率の入射角度依存性を示すグラフである。
【図5】図1のアルミニウムメタルバック層の反射率の入射角度依存性を示すグラフである。
【図6】図1の深紫外光源における電子線エネルギーを2keV、3keVとした場合の電子線の電子の拡散を説明するための図である。
【図7】図1の深紫外光源における電子線エネルギーを4keV、6keVとした場合の電子線の電子の拡散を説明するための図である。
【図8】図1の深紫外光源においてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層の厚さを一定値60nmとした場合の電子線エネルギー対深紫外光の発光強度特性を示すグラフである。
【図9】図1の深紫外光源においてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層の厚さを一定値60nmとした場合の電子線エネルギー対深紫外光の発光効率特性を示すグラフである。
【図10】図1の深紫外光源においてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層の厚さを60nm〜720nmと可変した場合の電子線エネルギー対深紫外光の発光強度特性を示すグラフである。
【図11】図1の深紫外光源においてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層の厚さを60nm〜720nmと可変した場合の電子線エネルギー対深紫外光の発光効率特性を示すグラフである。
【図12】図1の深紫外光源においてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層の厚さを60nm〜720nmと可変した場合の電子線エネルギー対最高発光効率特性を示すグラフである。
【図13】図1の電子放出源の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図14】図13のプラズマエッチング前後の電子放出源を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図15】図13のプラズマエッチング前後の電子放出源の電流電圧特性を示すグラフである。
【図16】図13のプラズマエッチング後の電子放出源の電流電圧特性及び他の比較例としての電子放出源の電流電圧特性を示すグラフである。
【図17】図13の変更例を示すフローチャートである。
【図18】図1の深紫外光源の実際に組立てた部分断面図である。
【図19】図18の深紫外光源の発光強度スペクトルを示すグラフである。
【図20】図18の深紫外光源の寿命を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は本発明に係る深紫外光源の実施の形態を示す断面図である。
【0026】
図1において、深紫外光源は、サファイア(0001)基板1、サファイア(0001)基板上に形成された厚さ約600nmのAlNバッファ層2、AlNバッファ層2上に形成された厚さ約3μmのグレーティングAlN層3、グレーティングAlN層3上に形成された厚さ約15μmのAlN層4、AlN層4上に形成された厚さ約3nmのAl0.7Ga0.3N井戸層及び厚さ約3nmのAlN障壁層を1周期として10繰返周期を含む厚さ約60nmのAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5、及びAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5上に形成されたアルミニウム(Al)メタルバック層6よりなる。図1においては、電子放出源7より電子線EBが照射されると、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5が励起されて深紫外光DUVがサファイア(0001)基板1の光取り出し面Fより放射される。
【0027】
始めに、サファイア(0001)基板1について詳述する。
【0028】
図2の黒点はそれぞれの電子線エネルギーE(keV)の時、シミュレーションによって求めた漏洩X線が法定規定値となるサファイア(0001)基板の厚さを示したものである。サファイア(0001)基板の厚さを黒点が示す値以上にすることで漏洩X線を法定規定値以下とすることができる。これをプロットすると点線のようなカーブを描く。従って、サファイア(0001)基板1の厚さt1は漏洩X線を防止するために、プロットされた点線を表す式から、図2に示すように、
t1≧a・E3
但し、Eは電子線EBのエネルギー(keV)
aは1μm/(keV)3
である。すなわち、制動幅射によって発生するX線の最も高いエネルギーは電子線EBのエネルギーと同一である。従って、たとえば、E=6keVのときに、サファイア(0001)基板の厚さt1は216μm以上、E=10keVのときに、サファイア(0001)基板の厚さt1は1000μm以上である。このように、サファイア(0001)基板の厚さt1を上述の式に基づいて設定することにより漏洩X線の強度を法定規定値以下とすることができる。
【0029】
また、サファイア(0001)基板1上の光取り出し面Fは砂面状(凹凸状)になっている。すなわち、深紫外光DUVはサファイア(0001)基板を通して大気中に放射されるが、サファイア(0001)基板の屈折率nは1.84と大きいので、もし、サファイア(0001)基板の光取り出し面Fを鏡面状(フラット状)にすると、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5で発生した深紫外光DUVはほとんど空気とサファイア(0001)基板との界面である鏡面状の光取り出し面Fで反射されて深紫外光DUVは大気中に取り出すことができない。そこで、サファイア(0001)基板1の光取り出し面Fをたとえば平均周期が750nm以上アスペクト比が1以上の砂面状(凹凸状)にする。これにより、光取り出し効率を光取り出し面Fを鏡面状にした場合に比較して50%以上向上させることができる。サファイア基板を砂面状にする手法としては、フォトリソグラフィーを利用したサファイア基板上へのレジストパターン(砂面)の形成およびこれをマスクとした反応性イオンエッチング(RIE)法によるサファイアエッチング手法を取れば良い。
【0030】
次に、サファイア(0001)基板1上のAlNバッファ層2、グレーティングAlN層3、AlN層4、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の形成方法を詳述する。
【0031】
サファイア(0001)基板1を有機金属化学的気相成長(MOCVD)装置に装着し、キャリアガスとして水素(H2)ガスを供給すると共に基板温度を1200℃にして10分間保持し、サファイア(0001)基板1の表面の前処理を行う。
【0032】
次に、MOCVD装置において、基板温度を1200℃に保持したままで、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)及びアンモニア(NH3)を、それぞれ、流量10sccm及び5slmで供給して厚さ約600nmのAlNバッファ層2を形成する。
【0033】
次に、MOCVD装置において、基板温度を1300℃に上昇させ、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)及びアンモニア(NH3)を、それぞれ、流量10sccm及び5slmで供給して厚さ約3μmのAlN層を形成する。
【0034】
次に、後述のAlN層4の転位密度をエピタキシャル横方向成長法によって低減させるために、上述の厚さ約3μmのAlN層表面に周期約3μm、深さ約500nmのグレーティング構造を形成してグレーティングAlN層3を形成する。具体的には、AlN層上にフォトリソグラフィ法を用いて幅約3μmのストライプ状のレジストパターン(図示せず)を形成し、次いで、反応性イオンエッチング(RIE)法を用いて上述のレジストパターンをマスクとしてAlN層をエッチングする。次いで、有機溶剤等を用いてレジストパターンを除去する。この結果、ラインアンドスペース周期が約3μm、深さが500nmの溝(凹凸)構造が形成される。本実施の形態においてはグレーティング構造としたが凹凸状の形状であればよく、たとえば凹凸がドット状に並ぶ形状としてもかまわない。
【0035】
次に、再びMOCVD装置において、基板温度を1300℃に上昇させ、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)及びアンモニア(NH3)を、それぞれ流量10sccm及び5slmで供給して厚さ約15μmのAlN層4を形成する。AlN層4を約15μmと厚くすることにより次に成長させるAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の膜質を良質にできる。
【0036】
次に、AlN層4上にAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を形成する。すなわち、MOCVD装置において、化学量論比でAl:Ga:N=0.7:0.3:1となるように、トリメチルガリウム((CH3)3Ga)、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)及びアンモニア(NH3)を、それぞれ、流量20sccm、8sccm及び7slmで供給すると共に、基板温度を1080℃とする。これにより、厚さ3nmのAl0.7Ga0.3N井戸層を形成する。また、同一MOCVD装置において、化学量論比でAl:N=1:1となるように、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)及びアンモニア(NH3)を、それぞれ、流量10sccm、及び5slmで供給すると共に、基板温度を1200℃とする。これにより、厚さ3nmのAlN障壁層を形成する。このAl0.7Ga0.3N井戸層及びAlN障壁層を1周期として10周期〜150周期繰返して厚さ約60〜900nmのAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を形成する。
【0037】
図3は、電子線EBのエネルギーを10keVとし、電子線EBのビーム径を1μmとし、Alメタルバック層6の厚さを30nmとし、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さを720nmとした場合、電子線EBの反射電子の拡散のモンテカルロシミュレーション結果を示す図である。すなわち、電子線EBはほとんどたとえば99%以上Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5に吸収されており、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5がこれ以上厚いと、製造コストの点で無駄となる。他方、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5が薄すぎると、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5は電子線EBの励起エネルギーを十分に吸収できず、この結果、得られる深紫外光DUVの発光効率が低下する。
【0038】
尚、図3において、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5は縦縞で図示されているが、これは便宜上のものであり、実際には、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層及びAlN障壁層は横方向に積層されている。後述の図6、図7も同様である。
【0039】
次に、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5上に形成されたアルミニウムメタルバック層6はAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5が短時間の電子線EBの照射によって帯電した場合に電荷を逃がしてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の絶縁破壊を防止するものであるが、アルミニウムメタルバック層6の厚さは重要であるので、これについて詳述する。
【0040】
上述のごとく、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さは約60〜900nmと小さいので、電子線EBがAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を励起するには発光効率の点から電子線EBのエネルギーは小さい方がよい。また、漏洩X線の影響を回避するためにも、電子線EBのエネルギーは小さい方がよい。従って、電子線EBのエネルギーは10keV以下と小さく、言い換えると、電子線EBの電子は低速である。低速電子がアルミニウムメタルバック層6を透過するためには、アルミニウムメタルバック層6の厚さは小さい方がよい。尚、アルミニウムメタルバック層の厚さが大きいと、電子線EBがアルミニウムメタルバック層6によって吸収されてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を十分に励起できず、やはり、発光効率が低下する。このような点からは、アルミニウムメタルバック層6の厚さはできるだけ小さい方がよい。
【0041】
他方、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5から発生した深紫外光DUVがアルミニウムメタルバック層6に到達した場合には、アルミニウムメタルバック層6はできるだけ多くの深紫外光DUVを反射してサファイア(0001)基板1へ戻すことにより、発光効率を上げることができる。この点からはアルミニウムメタルバック層6の厚さはできるだけ大きい方がよい。但し、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が30nm以上の範囲では、アルミニウムメタルバック層6への入射角θに関係なくアルミニウムメタルバック層6の反射率は大きくなる。すなわち、図4の(A)に示すごとく、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が10nmのときには、十分な反射率は得られない。また、図4の(B)に示すごとく、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が21nmのときには、表面プラズモン吸収が顕著となり、やはり十分な反射率は得られない。さらに、図5の(A)に示すごとく、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が30nmのときには、表面プラズモン吸収は小さくなり、さらに十分な反射率が得られる。さらにまた、図5の(B)に示すごとく、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が60nmのときには、表面プラズモン吸収はなくなり、十分な反射率が得られる。尚、図4、図5はサファイア(0001)基板1からAlN層2,3,4を介してアルミニウムメタルバック層6に入射角θで入射した場合の全反射減衰(ATR)信号スペクトル図であって、シミュレーションソフトとしてはマックスプランク研究所開発のWinspall(商標名)を用いた。波長λ=240nmの深紫外光DUVの基における条件は次のごとくである。
サファイア(0001)基板1について、
屈折率n1=1.84
消衰係数k1=0
AlN層2,3,4について、
屈折率n2=1.87
消衰係数k2=0
アルミニウムメタルバック層6について、
屈折率n6=0.172
消衰係数k6=2.79
【0042】
以上から電子線EBの吸収損失を最小にし、かつ深紫外光DUVの反射率を最大とするアルミニウムメタルバック層6の厚さt6は約30〜60nmであることが好ましい。
【0043】
尚、深紫外光DUVを効率よく反射するメタルバック層としては、アルミニウム以外に銀(Ag)も考えられるが、銀等の重い金属は電子線阻止能が大きいので、電子線EBを吸収してAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を十分に励起つまり発光できない。結局、軽金属で制御性がよくかつ蒸着可能なアルミニウムがメタルバック層として最適である。
【0044】
次に、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5の最適値及び電子線EBのエネルギーEの最適値について検討する。
【0045】
図6、図7はアルミニウムメタルバック層6の厚さt6を30nmとし、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5を60nmとした場合に、電子線EBのエネルギーEを2keV、3keV、4keV、6keVと変化させたときの電子線EBの入射電子の量子井戸層内における拡散の様子をプログラムCASINO(商標)を用いてモンテカルロシミュレーションをした結果を示す図である。E=2keVのときには、図6の(A)に示すごとく、電子線EBの電子はAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5に吸収されるが、E=3keV、E=4keVとなると、図6の(B)、図7の(A)に示すごとく、電子線EBの電子の一部はAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を突き抜け、AlN層4を励起することになる。さらに、E=6keVとなると、図7の(B)に示すごとく、電子線EBの電子の大部分がAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を突き抜け、AlN層4を励起することになる。つまり、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の各厚さt5に対して電子線EBの最適なエネルギーEが存在することが分かる。
【0046】
ところで、現存する最高の計算技術を用いても、電子線EBのエネルギーEに対するAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの深紫外光DUVの物理的様子を知ることは困難であるが、半導体層2、3、4、5を構成する元素Al、Ga、NのうちAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5に存在する元素Gaに着目することにより上述の深紫外光DUVの物理的様子を知ることができる。すなわち、元素Gaが生成する特性X線(L線)の強度とAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの深紫外光DUVの発光強度とはほぼ線形関係を有すると仮定することができる。
【0047】
始めに、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6は30nm、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5は一定値たとえば60nmである場合を考察する。この場合、モンテカルロシミュレーション法を用いてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの深紫外光DUVの発光強度は図8に示す電子線EBのエネルギーEの関数として得られる。図8においては、電子線EBの最適なエネルギーEは5keVであり、これより大きいエネルギーの電子線EBを用いても深紫外光DUVのより大きな発光強度は得られない。他方、モンテカルロシミュレーション法を用いてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの深紫外光DUVの発光効率は図9に示す電子線EBのエネルギーEの関数として得られる。図9においては、電子線EBの最適なエネルギーEは4keVであり、これより大きいエネルギーの電子線EBを用いても深紫外光DUVのより大きな発光効率は得られない。
【0048】
以上から、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が30nmであり、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5が一定値たとえば60nmのときには、電子線EBの最適なエネルギーEは4〜5keVということができる。また、上述の実験結果から、発光強度の最適なエネルギーと発光効率の最適なエネルギーは異なるが、深紫外光源として発光強度を重視する場合には5keV、発光効率を重視する場合には4keVの電子線エネルギーを利用する。
【0049】
次に、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6は30nm、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5は可変値たとえば60〜720nmである場合を考察する。この場合、モンテカルロシミュレーション法を用いてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの深紫外光DUVの発光強度は図10に示す電子線EBのエネルギーEの関数として得られる。図10においては、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5が60nm、120nm、180nm、360nm、720nmと増加するに従ってAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5全体を励起する電子線EBのエネルギーEも増加するが、得られる深紫外光DUVの発光強度には最高値が存在する。この最高値となる電子線EBのエネルギーEを最適値Eop1とし、この最適値Eop1以上に電子線EBのエネルギーEを上げても、深紫外光DUVの発光強度は飽和もしくは低下する。たとえば、t5=60nmではEop1=5keVとなり、t5=120nmではEop1=6keVとなり、t5=180nmではEop1=6keVとなり、t5=360nmではEop1=9keVとなり、t5=720nmではEop1=15keVとなり、深紫外光DUVの発光強度は最高値となる。この最適値Eop1より大きいエネルギーの電子線EBを用いても深紫外光DUVのより大きな発光強度は得られない。他方、モンテカルロシミュレーション法を用いてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの深紫外光DUVの発光効率は図11に示す電子線EBのエネルギーEの関数として得られる。図11においては、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5が60nm、120nm、180nm、360nm、720nmと増加するに従って発光効率は増加するが、得られる深紫外光DUVの発光効率には最高値が存在する。この最高値となる電子線EBのエネルギーEを最適値Eop2とし、この最適値Eop2以上に電子線EBのエネルギーEを上げても、深紫外光DUVの発光効率は飽和もしくは低下する。たとえば、t5=60nmではEop2=4keVとなり、t5=120nmではEop2=5keVとなり、t5=180nmではEop2=5keVとなり、t5=360nmではEop2=6.5keVとなり、t5=720nmではEop2=9keVとなり、深紫外光DUVの発光効率は最高値となる。この最適値Eop2より大きいエネルギーの電子線EBを用いても深紫外光DUVのより大きな発光効率は得られない。尚、上述の実験結果から、上記各膜厚において発光強度の最適なエネルギーと発光効率の最適なエネルギーは異なるが、深紫外光源として発光強度を重視する場合には図10に示した特性を、発光効率を重視する場合には図11に示した特性を利用する。従って、電子線のエネルギーは4keV以上15keV以下の範囲から選ばれる。
【0050】
以上から、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が30nmのときに、電子線EBの加速電圧と電流値との積である入力パワーを一定として、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の各厚さt5が60nm、120nm、180nm、360nm、720nmのときの最高発光効率と電子線EBの最適エネルギーEop2とプロットすると、図12に示すごとくなる。従って、最適発光効率が最高となるAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の最適な厚さt5は約300〜400nmということができ、また、電子線EBの最適なエネルギーEは約6〜7keVということができる。尚、上述のモンテカルロシミュレーション法はAl0.7Ga0.3Nの化学量論比0.7:0.3:1を基に行われたものであり、この化学量論比が異なると、多重量子井戸層の最適な厚さ及び電子線の最適なエネルギーは異なる。しかしながら、定性的には、Gaの量が増加する程、多重量子井戸層の厚さは小さくなる。この理由は、元素Gaが他の元素Al、Nよりも重く、電子線阻止能が大きいからである。
【0051】
図1の電子放出源7はグラファイトナノ針状ロッドにより構成されている。
【0052】
上述のグラファイトナノ針状ロッドは図13に示す製造方法によって形成される。
【0053】
すなわち、ステップ1301において、図14の(A)に示すグラファイトロッド表面を有するグラファイト基板を水素ガスを用いたプラズマエッチング法によってエッチングして図14の(B)に示すナノオーダの凹凸構造のグラファイトナノ針状ロッドを得る。このプラズマエッチング条件は、たとえば、次のごとくである。
RFパワー:100-1000W
圧力:133-13300Pa (1-100Torr)
水素流量:5-500sccm
エッチング時間:1-100分
【0054】
尚、ステップ1301でのプラズマエッチング法は、電子サイクロトロン共鳴(ECR)エッチング法、反応性イオンエッチング(RIE)法、大気圧プラズマエッチング法等のいずれでもよく、また、処理ガスは、H2ガス以外のArガス、N2ガス、O2ガス、CF4ガス等のいずれでもよい。
【0055】
上述のプラズマエッチングを行うことによって得られたグラファイトナノ針状ロッド基板は、図15に示すごとく、良好な電子放出特性を示す。
【0056】
図16に示すごとく、本発明に係るグラファイトナノ針状ロッドは他の材料であるカーボンナノチューブCNTグラファイトナノファイバGNFと比較して高い放出電流密度を有する。従って、本発明に係るグラファイトナノ針状ロッドを導電性カソード基材と一体で構成すれば、グラファイトナノ針状ロッドの密着性、グラファイトナノ針状ロッドと基材との界面での電圧降下、ひいては、電子放出特性の劣化(電流飽和)、界面電場集中によるカソード破壊の問題を解決できる。
【0057】
図17は図13のフローの変更例を示し、図13のプラズマエッチングステップ1301の前にステップ1701において、サンドブラスト等の機械的表面研磨による不規則的周期のミクロン(サブミクロン)機械的凹凸構造加工を行う。また、図13のプラズマエッチングステップ1301の後にステップ1702において、CO2レーザ、YAGレーザ、エキシマレーザ等のハイパワーレーザ照射による表面研磨による不規則的周期のミクロン(サブミクロン)レーザ照射凹凸構造加工を行う。尚、ステップ1701、1702は両方を行ってもよいが、いずれか一方のみを行えばよい。この場合、小さいナノオーダの凹凸のほうが壊れやすいためにステップ1701を行うことが好ましい。これにより、不規則的周期のたとえばミクロンオーダ、サブミクロンオーダの凹凸構造を形成する。従って、グラファイト基板の表面積が増大してより放出電子が高くなる。
【0058】
尚、図17の不規則的周期のミクロン(サブミクロン)機械的凹凸構造加工ステップ1701において、グラファイト基板の表面に不規則的周期のミクロンオーダもしくはサブミクロンオーダの凹みを多数形成して表面積を増大させてもよい。たとえば、レジスト層を塗布し、次いで、不規則的周期パターンを有するフォトマスクを用いたフォトリソグラフィによりレジスト層のパターンを形成し、このレジスト層のパターンを用いてグラファイト基板をH2ガス及びO2ガスを用いたプラズマエッチングたとえばRIEを行い、その後、レジスト層のパターンを除去する。また、機械的ルーリングエンジン等を用いた切削方法によって不規則的周期のミクロンオーダあるいはサブミクロンオーダの剣山型凹凸構造を形成して表面積を増大させることもできる。この剣山型凹凸構造はエッチングで逆剣山型の金型を形成し、これに液体状のグラファイト材料、例えばカーボンブラック等を流し込んでも形成できる。尚、電子放出源7は放出する電子線のエネルギーを可変できるものであっても良いし、固定されているものの何れでも良い。サファイア(0001)基板1の厚さは使用する電子放出源7に併せて設定される。たとえば、電子線のエネルギーがE=6keVで固定されているなら216μm以上、E=10keVで固定されているなら1000nm以上の厚さが選ばれる。電子放出源7の電子線のエネルギーが可変ならば想定している使用範囲の上限に合わせてサファイア(0001)基板1の厚さが決まり、上限が10keV以上の範囲なら厚さも1000nm以上の範囲から選ばれる。
【0059】
図18は図1の深紫外光源を実際に組み立てた部分断面図である。
【0060】
図18において、サファイア(0001)基板1、AlNバッファ層2、グレーティングAlN層3、AlN層4、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5及びアルミニウムメタルバック層6よりなる積層体S及びグラファイトナノ針状ロッドよりなる電子放出源7をガラス管8及び陽極電極9にステムピン(真空導入端子等)(図示せず)を用いて真空封止する。この場合、陽極電極9は適当な金属板に穴あけした金属構造あるいはガラス管8に金属蒸着して電極をとれる構造である。次に、積層体Sを陽極電極9にインジウム(In)シール等を利用して真空を保つようにガラス管8の開口部を覆うように密着させる。密着に使用するものはインジウムシールに限らず導電性の材料ならよい。積層体Sと陽極電極9の間にはアルミニウムメタルバック層6があり、使用時にはアルミニウムメタルバック層6から導電性の材料を伝って陽極電極9に電荷を逃がすことができるようになる。また、ガラス管8と陽極電極9とを溶着させる。このとき、ガラスとガラスとの溶着は容易であるが、陽極電極9が穴あけした金属構造の場合には、ガラスから金属に向って徐々に変化する段シールしたガラスを準備する。ガラス管8の陰極側には、ステムピン等を利用してグラファイトナノ針状ロッドよりなる電子放出源7及び円筒状金属よりなる静電レンズ10を取付ける。この静電レンズ10は電子放出源7の電子線EBを積層体S上にフォーカスさせるためのものである。電子放出源7及び静電レンズ10を取付けたステムピンを溶着させた上で真空封止する。図18のように電子放出源7にグラファイトナノ針状ロッドを使用すると、その先端を積層体Sの平面に向けて垂直に設置されることになり、省スペースであるためガラス管も小さくでき装置全体を小型化することができる。このとき、ガラス管8は2極管動作をするので、陰極側の電子放出源7と陽極電極9との距離が所定値となるように、上述のステムピンの溶着を行う。具体的には、上記距離は電子放出源7と陽極電極9との間の電圧(kV)に対して所定値約0.5mm/kVとなるようにする。
【0061】
直流電源11は陽極電極9と電子放出源7との間に電子から見て低いポテンシャルとなる直流電圧V1を印加するのに対し、直流電源12は電子放出源7と静電レンズ10との間に電子から見て高いポテンシャルとなる直流電圧V2を印加する。
【0062】
グラファイトナノ針状ロッドよりなる電子放出源7を安定的に動作させて深紫外光源の寿命を延ばすには、ガラス管8内真空度を上げればよい。但し、通常の電界放出型電子放出源が10-7Pa以上の真空度を必要とするのに対し、本発明に係るグラファイトナノ針状ロッドよりなる電子放出源7の場合、10-6Pa程度の真空度でよい。従って、真空封止時間を大幅に短縮でき、この結果、深紫外光源製造に関しては、タクトタイムを短縮でき、より安価な深紫外光源を提供できる。尚、確立した真空度を長時間保持するためには、ガラス管8内にゲッタ等(図示せず)を封入しておけばよい。
【0063】
図19は図18の深紫外光源に直流電圧V1として3kV、5kV、10kVを印加して得られる発光強度スペクトルを示す。尚、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5は60nmとする。
【0064】
図19において、AlN1はAlN層2、3、4からの発光、QW1はAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの発光、AlN2はAlN層2、3、4の欠陥からの発光、QW2はAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の深い準位からの発光を示す。発光効率及び発光強度の評価結果から、V1=5kVでの特性がV1=3kV、10kVでの特性より良好であった。その際の電子線EBの電流値は0.2mAで入力電力=5kV・0.2mA=1W、深紫外光DUVの発光強度は100mWであったので、深紫外光DUVの発光効率は約10%であった。図18におけるAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5を300〜400nmとした場合、深紫外光DUVの発光効率は、理論的に、上述の10%の2倍以上の約20%に高めることができる。
【0065】
図20は図18の深紫外光源の寿命を説明するための発光強度を示すタイミング図である。
【0066】
図20に示すごとく、2400時間(=24時間×100日)を超えても、安定な発光強度を維持している。従って、指数関数的寿命予測から寿命は40,000時間を超えると期待され、従来の深紫外光源よりも長寿命となると共に、高発光強度かつ高発光効率が期待される。
【0067】
尚、上述の実施の形態においては、ワイドギャップ半導体としてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層を用いているが、x=0.7以外のAlxGa1-xN/AlN(0.2≦x≦0.8)多重量子井戸層を用いてもよく、また、他の300nm以下の波長を有するワイドギャップ半導体たとえばBN等の窒化物半導体を用いることもできる。
【符号の説明】
【0068】
1:サファイア(0001)基板
2:AlNバッファ層
3:グレーティングAlN層
4:AlN層
5:Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層
6:アルミニウムメタルバック層
7:電子放出源
8:ガラス管
9:陽極電極
10:静電レンズ
11、12:直流電源
EB:電子線
DUV:深紫外光
F:光取り出し面
【技術分野】
【0001】
本発明は消毒、殺菌、減菌用光源等として用いられる深紫外光源に関する。
【背景技術】
【0002】
消毒、殺菌、減菌用光源としてあるいは半導体製造設備等として、波長200〜260nm領域の深紫外光を放射する深紫外光源が広く用いられている。
【0003】
第1の従来の深紫外光源として、熱冷陰極を用いた低圧水銀放電装置がある(参照:特許文献1,2,3)。すなわち、ガラス放電管の両端に電極を封装し、ガラス放電管内部に水銀(Hg)を含むアルゴン(Ar)、ネオン(Ne)等の希ガスを低圧状態で封入した低圧水銀放電装置において、50kHz程度の交流電圧を印加することにより、電子→希ガス→水銀の衝突により水銀が電離して放電が開始する。このとき、励起状態の水銀から波長254nmの深紫外光が放射される。
【0004】
しかしながら、上述の第1の従来の深紫外光源においては、有害物質水銀を含んでいるので、環境保護の点から好ましくない。また、発光強度が水銀蒸気圧に依存しているので発光強度の温度依存性が大きい。すなわち、水銀蒸気圧が低いので、発光強度は小さい。また、周囲温度が低温のときには、発光強度が極端に低下し、他方、周囲温度が60℃以上のときも、発光強度が低下するので、最適温度が常温〜60℃と狭い。また、発光強度の立上り時間が長い。さらに、発光効率が低い。さらにまた、駆動電圧が高いので、電磁ノイズが大きい。
【0005】
第2の従来の深紫外光源として、熱冷陰極を用いた低圧水銀放電装置がある(参照:特許文献4)。これにより、第1の従来の深紫外光源よりも発光効率が上昇する。
【0006】
しかしながら、上述の第2の従来の深紫外光源においては発光効率以外の上述の第1の従来の深紫外光源の問題点は依然として存在する。
【0007】
第3の従来の深紫外光源として、熱陰極を用いた高圧水銀放電装置がある(参照:特許文献5)。すなわち、ガラス放電管内部に水銀を含む希ガスを高圧状態で封入し、発光強度を高めている。
【0008】
しかしながら、上述の第3の従来の深紫外光源においては、発光強度を高めた分、発光効率が低くなり、また、寿命が1000時間程度短くなる。さらに、高電圧放電を発生させる点灯回路を必要とするので、製造コストが高くなる。さらにまた、上述の第1の従来の深紫外光源と同様に、有害物質水銀を含んでいるので、環境保護の点から好ましくなく、また、駆動電圧が高いので、電磁ノイズが大きい。
【0009】
第4の従来の深紫外光源として、有害物質水銀を含まないワイドバンドギャップ半導体の六方晶ボロンナイトライド(hBN)粉を電子線で励起して励起状態の六方晶ボロンナイトライド粉から波長225nmの深紫外光を得るものがある(参照:非特許文献1)。
【0010】
しかしながら、上述の第4の従来の深紫外光源においては六方晶ボロンナイトライド粉の光自己吸収が大きいこと及び放射再結合確率が小さいことから、発光効率が低い。
【0011】
第5の従来の深紫外光源として、有害物質水銀を含まないワイドバンドギャップ半導体のAlxGa1-xN/AlN多重量子井戸(MQW)層を電子線で励起して励起状態の多重量子井戸から深紫外光を得るものがある(参照:非特許文献2)。具体的には、サファイア(0001)基板上にAlN層を形成し、AlN層上に厚さ1nmのAl0.69Ga0.31N井戸層及び厚さ15nmのAlN障壁層よりなる多重量子井戸層を形成する。この多重量子井戸層はAl0.69Ga0.31N井戸層の自己吸収を抑制して発光効率を高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5-54857号公報
【特許文献2】特開平5-217552号公報
【特許文献3】特開平6−96609号公報
【特許文献4】特開2006−12586号公報
【特許文献5】特開2007−518236号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Kenji Watanabe et al., "Far-ultraviolet plane emission handheld device based on hexagonal boron nitride", Nature Photonics, Vol.3, 591, October 2009
【非特許文献2】Takao Oto et al., "100 mW deep-ultraviolet emission from aluminium-nitride-based quantum wells pumped by an electron beam", Nature Photonics, Vol.4, 767, September 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述の第5の従来の深紫外光源においては、次の課題がある。
【0015】
第1に、多重量子井戸層の電子線照射による励起によって深紫外光以外に有害なX線を放射する。
【0016】
第2に、多重量子井戸層の導電性は悪いので、短時間の電子線照射によって多重量子井戸層が帯電して絶縁破壊を招く。
【0017】
第3に発光効率は未だ不充分である。
【0018】
第4に電子線照射のための電子放出源はタングステン(W)フィラメント等の熱電子放出源あるいは冷陰極電子放出源たとえばカーボンナノチューブ(CNT)が考えられるが、寿命は1000時間と短い。この結果、装置の寿命も短い。また、熱電子放出源は加熱電力を要するために発光効率が低く、また、冷陰極電子放出源では高真空封止を行う必要があり、この結果、製造コストが高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述の課題を解決するために、本発明に係る深紫外光源は、サファイア基板と、サファイア基板上に設けられ、300nm以下の波長を有するワイドギャップ半導体層とを具備し、ワイドギャップ半導体層側より電子線を照射してワイドギャップ半導体層を励起してワイドギャップ半導体層から発生した深紫外光をサファイア基板より放射するようにし、サファイア基板の厚さt1μmが
t1≧a・E3
但し、Eは電子線のエネルギー(keV)、
aは1μm/(keV)3
である。これにより、サファイア基板は深紫外光以外の有害な漏洩X線を阻止する。また、ワイドギャップ半導体層がAlxGa1-xN井戸層(0.2≦x≦0.8)及びAlN障壁層よりなるAlxGa1-xN/AlN多重量子井戸層を具備する。
【0020】
さらに、AlxGa1-xN/AlN多重量子井戸層上に設けられ、厚さ30〜60nmのアルミニウムメタルバック層を具備する。これにより、多重量子井戸層が帯電して絶縁破壊するのを防止する。
【0021】
また、AlxGa1-xN/AlN多重量子井戸層の厚さが300〜400nmであり、電子線のエネルギーが6〜7keVである。これにより、発光効率が最高となる。
【0022】
さらに、電子線を発生するためのグラファイトナノ針状ロッドにより構成される電子放出源を具備する。これにより、真空封止の真空度が下がり、電子放出源が長寿命となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、漏洩有害X線を阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る深紫外光源の実施の形態を示す断面図である。
【図2】図1のサファイア(0001)基板の厚さを説明するためのグラフである。
【図3】図1の深紫外光源における電子線エネルギーを10keVとした場合の電子線の電子の拡散を説明するための図である。
【図4】図1のアルミニウムメタルバック層の反射率の入射角度依存性を示すグラフである。
【図5】図1のアルミニウムメタルバック層の反射率の入射角度依存性を示すグラフである。
【図6】図1の深紫外光源における電子線エネルギーを2keV、3keVとした場合の電子線の電子の拡散を説明するための図である。
【図7】図1の深紫外光源における電子線エネルギーを4keV、6keVとした場合の電子線の電子の拡散を説明するための図である。
【図8】図1の深紫外光源においてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層の厚さを一定値60nmとした場合の電子線エネルギー対深紫外光の発光強度特性を示すグラフである。
【図9】図1の深紫外光源においてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層の厚さを一定値60nmとした場合の電子線エネルギー対深紫外光の発光効率特性を示すグラフである。
【図10】図1の深紫外光源においてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層の厚さを60nm〜720nmと可変した場合の電子線エネルギー対深紫外光の発光強度特性を示すグラフである。
【図11】図1の深紫外光源においてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層の厚さを60nm〜720nmと可変した場合の電子線エネルギー対深紫外光の発光効率特性を示すグラフである。
【図12】図1の深紫外光源においてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層の厚さを60nm〜720nmと可変した場合の電子線エネルギー対最高発光効率特性を示すグラフである。
【図13】図1の電子放出源の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図14】図13のプラズマエッチング前後の電子放出源を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図15】図13のプラズマエッチング前後の電子放出源の電流電圧特性を示すグラフである。
【図16】図13のプラズマエッチング後の電子放出源の電流電圧特性及び他の比較例としての電子放出源の電流電圧特性を示すグラフである。
【図17】図13の変更例を示すフローチャートである。
【図18】図1の深紫外光源の実際に組立てた部分断面図である。
【図19】図18の深紫外光源の発光強度スペクトルを示すグラフである。
【図20】図18の深紫外光源の寿命を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は本発明に係る深紫外光源の実施の形態を示す断面図である。
【0026】
図1において、深紫外光源は、サファイア(0001)基板1、サファイア(0001)基板上に形成された厚さ約600nmのAlNバッファ層2、AlNバッファ層2上に形成された厚さ約3μmのグレーティングAlN層3、グレーティングAlN層3上に形成された厚さ約15μmのAlN層4、AlN層4上に形成された厚さ約3nmのAl0.7Ga0.3N井戸層及び厚さ約3nmのAlN障壁層を1周期として10繰返周期を含む厚さ約60nmのAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5、及びAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5上に形成されたアルミニウム(Al)メタルバック層6よりなる。図1においては、電子放出源7より電子線EBが照射されると、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5が励起されて深紫外光DUVがサファイア(0001)基板1の光取り出し面Fより放射される。
【0027】
始めに、サファイア(0001)基板1について詳述する。
【0028】
図2の黒点はそれぞれの電子線エネルギーE(keV)の時、シミュレーションによって求めた漏洩X線が法定規定値となるサファイア(0001)基板の厚さを示したものである。サファイア(0001)基板の厚さを黒点が示す値以上にすることで漏洩X線を法定規定値以下とすることができる。これをプロットすると点線のようなカーブを描く。従って、サファイア(0001)基板1の厚さt1は漏洩X線を防止するために、プロットされた点線を表す式から、図2に示すように、
t1≧a・E3
但し、Eは電子線EBのエネルギー(keV)
aは1μm/(keV)3
である。すなわち、制動幅射によって発生するX線の最も高いエネルギーは電子線EBのエネルギーと同一である。従って、たとえば、E=6keVのときに、サファイア(0001)基板の厚さt1は216μm以上、E=10keVのときに、サファイア(0001)基板の厚さt1は1000μm以上である。このように、サファイア(0001)基板の厚さt1を上述の式に基づいて設定することにより漏洩X線の強度を法定規定値以下とすることができる。
【0029】
また、サファイア(0001)基板1上の光取り出し面Fは砂面状(凹凸状)になっている。すなわち、深紫外光DUVはサファイア(0001)基板を通して大気中に放射されるが、サファイア(0001)基板の屈折率nは1.84と大きいので、もし、サファイア(0001)基板の光取り出し面Fを鏡面状(フラット状)にすると、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5で発生した深紫外光DUVはほとんど空気とサファイア(0001)基板との界面である鏡面状の光取り出し面Fで反射されて深紫外光DUVは大気中に取り出すことができない。そこで、サファイア(0001)基板1の光取り出し面Fをたとえば平均周期が750nm以上アスペクト比が1以上の砂面状(凹凸状)にする。これにより、光取り出し効率を光取り出し面Fを鏡面状にした場合に比較して50%以上向上させることができる。サファイア基板を砂面状にする手法としては、フォトリソグラフィーを利用したサファイア基板上へのレジストパターン(砂面)の形成およびこれをマスクとした反応性イオンエッチング(RIE)法によるサファイアエッチング手法を取れば良い。
【0030】
次に、サファイア(0001)基板1上のAlNバッファ層2、グレーティングAlN層3、AlN層4、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の形成方法を詳述する。
【0031】
サファイア(0001)基板1を有機金属化学的気相成長(MOCVD)装置に装着し、キャリアガスとして水素(H2)ガスを供給すると共に基板温度を1200℃にして10分間保持し、サファイア(0001)基板1の表面の前処理を行う。
【0032】
次に、MOCVD装置において、基板温度を1200℃に保持したままで、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)及びアンモニア(NH3)を、それぞれ、流量10sccm及び5slmで供給して厚さ約600nmのAlNバッファ層2を形成する。
【0033】
次に、MOCVD装置において、基板温度を1300℃に上昇させ、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)及びアンモニア(NH3)を、それぞれ、流量10sccm及び5slmで供給して厚さ約3μmのAlN層を形成する。
【0034】
次に、後述のAlN層4の転位密度をエピタキシャル横方向成長法によって低減させるために、上述の厚さ約3μmのAlN層表面に周期約3μm、深さ約500nmのグレーティング構造を形成してグレーティングAlN層3を形成する。具体的には、AlN層上にフォトリソグラフィ法を用いて幅約3μmのストライプ状のレジストパターン(図示せず)を形成し、次いで、反応性イオンエッチング(RIE)法を用いて上述のレジストパターンをマスクとしてAlN層をエッチングする。次いで、有機溶剤等を用いてレジストパターンを除去する。この結果、ラインアンドスペース周期が約3μm、深さが500nmの溝(凹凸)構造が形成される。本実施の形態においてはグレーティング構造としたが凹凸状の形状であればよく、たとえば凹凸がドット状に並ぶ形状としてもかまわない。
【0035】
次に、再びMOCVD装置において、基板温度を1300℃に上昇させ、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)及びアンモニア(NH3)を、それぞれ流量10sccm及び5slmで供給して厚さ約15μmのAlN層4を形成する。AlN層4を約15μmと厚くすることにより次に成長させるAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の膜質を良質にできる。
【0036】
次に、AlN層4上にAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を形成する。すなわち、MOCVD装置において、化学量論比でAl:Ga:N=0.7:0.3:1となるように、トリメチルガリウム((CH3)3Ga)、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)及びアンモニア(NH3)を、それぞれ、流量20sccm、8sccm及び7slmで供給すると共に、基板温度を1080℃とする。これにより、厚さ3nmのAl0.7Ga0.3N井戸層を形成する。また、同一MOCVD装置において、化学量論比でAl:N=1:1となるように、トリメチルアルミニウム((CH3)3Al)及びアンモニア(NH3)を、それぞれ、流量10sccm、及び5slmで供給すると共に、基板温度を1200℃とする。これにより、厚さ3nmのAlN障壁層を形成する。このAl0.7Ga0.3N井戸層及びAlN障壁層を1周期として10周期〜150周期繰返して厚さ約60〜900nmのAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を形成する。
【0037】
図3は、電子線EBのエネルギーを10keVとし、電子線EBのビーム径を1μmとし、Alメタルバック層6の厚さを30nmとし、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さを720nmとした場合、電子線EBの反射電子の拡散のモンテカルロシミュレーション結果を示す図である。すなわち、電子線EBはほとんどたとえば99%以上Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5に吸収されており、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5がこれ以上厚いと、製造コストの点で無駄となる。他方、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5が薄すぎると、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5は電子線EBの励起エネルギーを十分に吸収できず、この結果、得られる深紫外光DUVの発光効率が低下する。
【0038】
尚、図3において、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5は縦縞で図示されているが、これは便宜上のものであり、実際には、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層及びAlN障壁層は横方向に積層されている。後述の図6、図7も同様である。
【0039】
次に、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5上に形成されたアルミニウムメタルバック層6はAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5が短時間の電子線EBの照射によって帯電した場合に電荷を逃がしてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の絶縁破壊を防止するものであるが、アルミニウムメタルバック層6の厚さは重要であるので、これについて詳述する。
【0040】
上述のごとく、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さは約60〜900nmと小さいので、電子線EBがAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を励起するには発光効率の点から電子線EBのエネルギーは小さい方がよい。また、漏洩X線の影響を回避するためにも、電子線EBのエネルギーは小さい方がよい。従って、電子線EBのエネルギーは10keV以下と小さく、言い換えると、電子線EBの電子は低速である。低速電子がアルミニウムメタルバック層6を透過するためには、アルミニウムメタルバック層6の厚さは小さい方がよい。尚、アルミニウムメタルバック層の厚さが大きいと、電子線EBがアルミニウムメタルバック層6によって吸収されてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を十分に励起できず、やはり、発光効率が低下する。このような点からは、アルミニウムメタルバック層6の厚さはできるだけ小さい方がよい。
【0041】
他方、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5から発生した深紫外光DUVがアルミニウムメタルバック層6に到達した場合には、アルミニウムメタルバック層6はできるだけ多くの深紫外光DUVを反射してサファイア(0001)基板1へ戻すことにより、発光効率を上げることができる。この点からはアルミニウムメタルバック層6の厚さはできるだけ大きい方がよい。但し、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が30nm以上の範囲では、アルミニウムメタルバック層6への入射角θに関係なくアルミニウムメタルバック層6の反射率は大きくなる。すなわち、図4の(A)に示すごとく、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が10nmのときには、十分な反射率は得られない。また、図4の(B)に示すごとく、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が21nmのときには、表面プラズモン吸収が顕著となり、やはり十分な反射率は得られない。さらに、図5の(A)に示すごとく、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が30nmのときには、表面プラズモン吸収は小さくなり、さらに十分な反射率が得られる。さらにまた、図5の(B)に示すごとく、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が60nmのときには、表面プラズモン吸収はなくなり、十分な反射率が得られる。尚、図4、図5はサファイア(0001)基板1からAlN層2,3,4を介してアルミニウムメタルバック層6に入射角θで入射した場合の全反射減衰(ATR)信号スペクトル図であって、シミュレーションソフトとしてはマックスプランク研究所開発のWinspall(商標名)を用いた。波長λ=240nmの深紫外光DUVの基における条件は次のごとくである。
サファイア(0001)基板1について、
屈折率n1=1.84
消衰係数k1=0
AlN層2,3,4について、
屈折率n2=1.87
消衰係数k2=0
アルミニウムメタルバック層6について、
屈折率n6=0.172
消衰係数k6=2.79
【0042】
以上から電子線EBの吸収損失を最小にし、かつ深紫外光DUVの反射率を最大とするアルミニウムメタルバック層6の厚さt6は約30〜60nmであることが好ましい。
【0043】
尚、深紫外光DUVを効率よく反射するメタルバック層としては、アルミニウム以外に銀(Ag)も考えられるが、銀等の重い金属は電子線阻止能が大きいので、電子線EBを吸収してAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を十分に励起つまり発光できない。結局、軽金属で制御性がよくかつ蒸着可能なアルミニウムがメタルバック層として最適である。
【0044】
次に、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5の最適値及び電子線EBのエネルギーEの最適値について検討する。
【0045】
図6、図7はアルミニウムメタルバック層6の厚さt6を30nmとし、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5を60nmとした場合に、電子線EBのエネルギーEを2keV、3keV、4keV、6keVと変化させたときの電子線EBの入射電子の量子井戸層内における拡散の様子をプログラムCASINO(商標)を用いてモンテカルロシミュレーションをした結果を示す図である。E=2keVのときには、図6の(A)に示すごとく、電子線EBの電子はAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5に吸収されるが、E=3keV、E=4keVとなると、図6の(B)、図7の(A)に示すごとく、電子線EBの電子の一部はAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を突き抜け、AlN層4を励起することになる。さらに、E=6keVとなると、図7の(B)に示すごとく、電子線EBの電子の大部分がAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5を突き抜け、AlN層4を励起することになる。つまり、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の各厚さt5に対して電子線EBの最適なエネルギーEが存在することが分かる。
【0046】
ところで、現存する最高の計算技術を用いても、電子線EBのエネルギーEに対するAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの深紫外光DUVの物理的様子を知ることは困難であるが、半導体層2、3、4、5を構成する元素Al、Ga、NのうちAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5に存在する元素Gaに着目することにより上述の深紫外光DUVの物理的様子を知ることができる。すなわち、元素Gaが生成する特性X線(L線)の強度とAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの深紫外光DUVの発光強度とはほぼ線形関係を有すると仮定することができる。
【0047】
始めに、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6は30nm、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5は一定値たとえば60nmである場合を考察する。この場合、モンテカルロシミュレーション法を用いてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの深紫外光DUVの発光強度は図8に示す電子線EBのエネルギーEの関数として得られる。図8においては、電子線EBの最適なエネルギーEは5keVであり、これより大きいエネルギーの電子線EBを用いても深紫外光DUVのより大きな発光強度は得られない。他方、モンテカルロシミュレーション法を用いてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの深紫外光DUVの発光効率は図9に示す電子線EBのエネルギーEの関数として得られる。図9においては、電子線EBの最適なエネルギーEは4keVであり、これより大きいエネルギーの電子線EBを用いても深紫外光DUVのより大きな発光効率は得られない。
【0048】
以上から、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が30nmであり、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5が一定値たとえば60nmのときには、電子線EBの最適なエネルギーEは4〜5keVということができる。また、上述の実験結果から、発光強度の最適なエネルギーと発光効率の最適なエネルギーは異なるが、深紫外光源として発光強度を重視する場合には5keV、発光効率を重視する場合には4keVの電子線エネルギーを利用する。
【0049】
次に、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6は30nm、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5は可変値たとえば60〜720nmである場合を考察する。この場合、モンテカルロシミュレーション法を用いてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの深紫外光DUVの発光強度は図10に示す電子線EBのエネルギーEの関数として得られる。図10においては、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5が60nm、120nm、180nm、360nm、720nmと増加するに従ってAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5全体を励起する電子線EBのエネルギーEも増加するが、得られる深紫外光DUVの発光強度には最高値が存在する。この最高値となる電子線EBのエネルギーEを最適値Eop1とし、この最適値Eop1以上に電子線EBのエネルギーEを上げても、深紫外光DUVの発光強度は飽和もしくは低下する。たとえば、t5=60nmではEop1=5keVとなり、t5=120nmではEop1=6keVとなり、t5=180nmではEop1=6keVとなり、t5=360nmではEop1=9keVとなり、t5=720nmではEop1=15keVとなり、深紫外光DUVの発光強度は最高値となる。この最適値Eop1より大きいエネルギーの電子線EBを用いても深紫外光DUVのより大きな発光強度は得られない。他方、モンテカルロシミュレーション法を用いてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの深紫外光DUVの発光効率は図11に示す電子線EBのエネルギーEの関数として得られる。図11においては、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5が60nm、120nm、180nm、360nm、720nmと増加するに従って発光効率は増加するが、得られる深紫外光DUVの発光効率には最高値が存在する。この最高値となる電子線EBのエネルギーEを最適値Eop2とし、この最適値Eop2以上に電子線EBのエネルギーEを上げても、深紫外光DUVの発光効率は飽和もしくは低下する。たとえば、t5=60nmではEop2=4keVとなり、t5=120nmではEop2=5keVとなり、t5=180nmではEop2=5keVとなり、t5=360nmではEop2=6.5keVとなり、t5=720nmではEop2=9keVとなり、深紫外光DUVの発光効率は最高値となる。この最適値Eop2より大きいエネルギーの電子線EBを用いても深紫外光DUVのより大きな発光効率は得られない。尚、上述の実験結果から、上記各膜厚において発光強度の最適なエネルギーと発光効率の最適なエネルギーは異なるが、深紫外光源として発光強度を重視する場合には図10に示した特性を、発光効率を重視する場合には図11に示した特性を利用する。従って、電子線のエネルギーは4keV以上15keV以下の範囲から選ばれる。
【0050】
以上から、アルミニウムメタルバック層6の厚さt6が30nmのときに、電子線EBの加速電圧と電流値との積である入力パワーを一定として、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の各厚さt5が60nm、120nm、180nm、360nm、720nmのときの最高発光効率と電子線EBの最適エネルギーEop2とプロットすると、図12に示すごとくなる。従って、最適発光効率が最高となるAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の最適な厚さt5は約300〜400nmということができ、また、電子線EBの最適なエネルギーEは約6〜7keVということができる。尚、上述のモンテカルロシミュレーション法はAl0.7Ga0.3Nの化学量論比0.7:0.3:1を基に行われたものであり、この化学量論比が異なると、多重量子井戸層の最適な厚さ及び電子線の最適なエネルギーは異なる。しかしながら、定性的には、Gaの量が増加する程、多重量子井戸層の厚さは小さくなる。この理由は、元素Gaが他の元素Al、Nよりも重く、電子線阻止能が大きいからである。
【0051】
図1の電子放出源7はグラファイトナノ針状ロッドにより構成されている。
【0052】
上述のグラファイトナノ針状ロッドは図13に示す製造方法によって形成される。
【0053】
すなわち、ステップ1301において、図14の(A)に示すグラファイトロッド表面を有するグラファイト基板を水素ガスを用いたプラズマエッチング法によってエッチングして図14の(B)に示すナノオーダの凹凸構造のグラファイトナノ針状ロッドを得る。このプラズマエッチング条件は、たとえば、次のごとくである。
RFパワー:100-1000W
圧力:133-13300Pa (1-100Torr)
水素流量:5-500sccm
エッチング時間:1-100分
【0054】
尚、ステップ1301でのプラズマエッチング法は、電子サイクロトロン共鳴(ECR)エッチング法、反応性イオンエッチング(RIE)法、大気圧プラズマエッチング法等のいずれでもよく、また、処理ガスは、H2ガス以外のArガス、N2ガス、O2ガス、CF4ガス等のいずれでもよい。
【0055】
上述のプラズマエッチングを行うことによって得られたグラファイトナノ針状ロッド基板は、図15に示すごとく、良好な電子放出特性を示す。
【0056】
図16に示すごとく、本発明に係るグラファイトナノ針状ロッドは他の材料であるカーボンナノチューブCNTグラファイトナノファイバGNFと比較して高い放出電流密度を有する。従って、本発明に係るグラファイトナノ針状ロッドを導電性カソード基材と一体で構成すれば、グラファイトナノ針状ロッドの密着性、グラファイトナノ針状ロッドと基材との界面での電圧降下、ひいては、電子放出特性の劣化(電流飽和)、界面電場集中によるカソード破壊の問題を解決できる。
【0057】
図17は図13のフローの変更例を示し、図13のプラズマエッチングステップ1301の前にステップ1701において、サンドブラスト等の機械的表面研磨による不規則的周期のミクロン(サブミクロン)機械的凹凸構造加工を行う。また、図13のプラズマエッチングステップ1301の後にステップ1702において、CO2レーザ、YAGレーザ、エキシマレーザ等のハイパワーレーザ照射による表面研磨による不規則的周期のミクロン(サブミクロン)レーザ照射凹凸構造加工を行う。尚、ステップ1701、1702は両方を行ってもよいが、いずれか一方のみを行えばよい。この場合、小さいナノオーダの凹凸のほうが壊れやすいためにステップ1701を行うことが好ましい。これにより、不規則的周期のたとえばミクロンオーダ、サブミクロンオーダの凹凸構造を形成する。従って、グラファイト基板の表面積が増大してより放出電子が高くなる。
【0058】
尚、図17の不規則的周期のミクロン(サブミクロン)機械的凹凸構造加工ステップ1701において、グラファイト基板の表面に不規則的周期のミクロンオーダもしくはサブミクロンオーダの凹みを多数形成して表面積を増大させてもよい。たとえば、レジスト層を塗布し、次いで、不規則的周期パターンを有するフォトマスクを用いたフォトリソグラフィによりレジスト層のパターンを形成し、このレジスト層のパターンを用いてグラファイト基板をH2ガス及びO2ガスを用いたプラズマエッチングたとえばRIEを行い、その後、レジスト層のパターンを除去する。また、機械的ルーリングエンジン等を用いた切削方法によって不規則的周期のミクロンオーダあるいはサブミクロンオーダの剣山型凹凸構造を形成して表面積を増大させることもできる。この剣山型凹凸構造はエッチングで逆剣山型の金型を形成し、これに液体状のグラファイト材料、例えばカーボンブラック等を流し込んでも形成できる。尚、電子放出源7は放出する電子線のエネルギーを可変できるものであっても良いし、固定されているものの何れでも良い。サファイア(0001)基板1の厚さは使用する電子放出源7に併せて設定される。たとえば、電子線のエネルギーがE=6keVで固定されているなら216μm以上、E=10keVで固定されているなら1000nm以上の厚さが選ばれる。電子放出源7の電子線のエネルギーが可変ならば想定している使用範囲の上限に合わせてサファイア(0001)基板1の厚さが決まり、上限が10keV以上の範囲なら厚さも1000nm以上の範囲から選ばれる。
【0059】
図18は図1の深紫外光源を実際に組み立てた部分断面図である。
【0060】
図18において、サファイア(0001)基板1、AlNバッファ層2、グレーティングAlN層3、AlN層4、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5及びアルミニウムメタルバック層6よりなる積層体S及びグラファイトナノ針状ロッドよりなる電子放出源7をガラス管8及び陽極電極9にステムピン(真空導入端子等)(図示せず)を用いて真空封止する。この場合、陽極電極9は適当な金属板に穴あけした金属構造あるいはガラス管8に金属蒸着して電極をとれる構造である。次に、積層体Sを陽極電極9にインジウム(In)シール等を利用して真空を保つようにガラス管8の開口部を覆うように密着させる。密着に使用するものはインジウムシールに限らず導電性の材料ならよい。積層体Sと陽極電極9の間にはアルミニウムメタルバック層6があり、使用時にはアルミニウムメタルバック層6から導電性の材料を伝って陽極電極9に電荷を逃がすことができるようになる。また、ガラス管8と陽極電極9とを溶着させる。このとき、ガラスとガラスとの溶着は容易であるが、陽極電極9が穴あけした金属構造の場合には、ガラスから金属に向って徐々に変化する段シールしたガラスを準備する。ガラス管8の陰極側には、ステムピン等を利用してグラファイトナノ針状ロッドよりなる電子放出源7及び円筒状金属よりなる静電レンズ10を取付ける。この静電レンズ10は電子放出源7の電子線EBを積層体S上にフォーカスさせるためのものである。電子放出源7及び静電レンズ10を取付けたステムピンを溶着させた上で真空封止する。図18のように電子放出源7にグラファイトナノ針状ロッドを使用すると、その先端を積層体Sの平面に向けて垂直に設置されることになり、省スペースであるためガラス管も小さくでき装置全体を小型化することができる。このとき、ガラス管8は2極管動作をするので、陰極側の電子放出源7と陽極電極9との距離が所定値となるように、上述のステムピンの溶着を行う。具体的には、上記距離は電子放出源7と陽極電極9との間の電圧(kV)に対して所定値約0.5mm/kVとなるようにする。
【0061】
直流電源11は陽極電極9と電子放出源7との間に電子から見て低いポテンシャルとなる直流電圧V1を印加するのに対し、直流電源12は電子放出源7と静電レンズ10との間に電子から見て高いポテンシャルとなる直流電圧V2を印加する。
【0062】
グラファイトナノ針状ロッドよりなる電子放出源7を安定的に動作させて深紫外光源の寿命を延ばすには、ガラス管8内真空度を上げればよい。但し、通常の電界放出型電子放出源が10-7Pa以上の真空度を必要とするのに対し、本発明に係るグラファイトナノ針状ロッドよりなる電子放出源7の場合、10-6Pa程度の真空度でよい。従って、真空封止時間を大幅に短縮でき、この結果、深紫外光源製造に関しては、タクトタイムを短縮でき、より安価な深紫外光源を提供できる。尚、確立した真空度を長時間保持するためには、ガラス管8内にゲッタ等(図示せず)を封入しておけばよい。
【0063】
図19は図18の深紫外光源に直流電圧V1として3kV、5kV、10kVを印加して得られる発光強度スペクトルを示す。尚、Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5は60nmとする。
【0064】
図19において、AlN1はAlN層2、3、4からの発光、QW1はAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5からの発光、AlN2はAlN層2、3、4の欠陥からの発光、QW2はAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の深い準位からの発光を示す。発光効率及び発光強度の評価結果から、V1=5kVでの特性がV1=3kV、10kVでの特性より良好であった。その際の電子線EBの電流値は0.2mAで入力電力=5kV・0.2mA=1W、深紫外光DUVの発光強度は100mWであったので、深紫外光DUVの発光効率は約10%であった。図18におけるAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層5の厚さt5を300〜400nmとした場合、深紫外光DUVの発光効率は、理論的に、上述の10%の2倍以上の約20%に高めることができる。
【0065】
図20は図18の深紫外光源の寿命を説明するための発光強度を示すタイミング図である。
【0066】
図20に示すごとく、2400時間(=24時間×100日)を超えても、安定な発光強度を維持している。従って、指数関数的寿命予測から寿命は40,000時間を超えると期待され、従来の深紫外光源よりも長寿命となると共に、高発光強度かつ高発光効率が期待される。
【0067】
尚、上述の実施の形態においては、ワイドギャップ半導体としてAl0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層を用いているが、x=0.7以外のAlxGa1-xN/AlN(0.2≦x≦0.8)多重量子井戸層を用いてもよく、また、他の300nm以下の波長を有するワイドギャップ半導体たとえばBN等の窒化物半導体を用いることもできる。
【符号の説明】
【0068】
1:サファイア(0001)基板
2:AlNバッファ層
3:グレーティングAlN層
4:AlN層
5:Al0.7Ga0.3N/AlN多重量子井戸層
6:アルミニウムメタルバック層
7:電子放出源
8:ガラス管
9:陽極電極
10:静電レンズ
11、12:直流電源
EB:電子線
DUV:深紫外光
F:光取り出し面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア基板と、
該サファイア基板上に設けられ、300nm以下の波長を有するワイドギャップ半導体層と、
前記ワイドギャップ半導体層に電子線を照射する電子線源と
を具備し、
前記ワイドギャップ半導体層側より前記電子線源からの電子線を照射して前記ワイドギャップ半導体層を励起して該励起されたワイドギャップ半導体層から発生した深紫外光を前記サファイア基板より放射するようにし、
前記サファイア基板の厚さt1μmが
t1≧a・E3
但し、Eは前記電子線のエネルギー(keV)、
aは1μm/(keV)3
である深紫外光源。
【請求項2】
前記ワイドギャップ半導体層がAlxGa1-xN井戸層(0.2≦x≦0.8)及びAlN障壁層よりなるAlxGa1-xN/AlN多重量子井戸層を具備する請求項1に記載の深紫外光源。
【請求項3】
さらに、前記AlxGa1-xN/AlN多重量子井戸層上に設けられ、厚さ30〜60nmのアルミニウムメタルバック層を具備する請求項2に記載の深紫外光源。
【請求項4】
前記AlxGa1-xN/AlN多重量子井戸層の厚さが300〜400nmであり、
前記電子線のエネルギーが6〜7keVである
請求項2に記載の深紫外光源。
【請求項5】
さらに、前記電子線を発生するためのグラファイトナノ針状ロッドにより構成される電子放出源を具備する請求項1に記載の深紫外光源。
【請求項6】
前記サファイア基板の光取り出し面は平均同期が750nm以上アスペクト比が1以上である砂面状をなしている請求項1に記載の深紫外光源。
【請求項7】
さらに、前記電子線を前記ワイドギャップ半導体層上にフォーカスさせるための静電レンズを具備する請求項1に記載の深紫外光源。
【請求項8】
前記電子線のエネルギーが4keV以上15keV以下である請求項1に記載の深紫外光源。
【請求項9】
さらに、内部が真空であるガラス管を具備し、
前記電子線源は前記ガラス管内に設置され、
前記ワイドギャップ半導体層は前記ガラス管に密着されている請求項1に記載の深紫外光源。
【請求項1】
サファイア基板と、
該サファイア基板上に設けられ、300nm以下の波長を有するワイドギャップ半導体層と、
前記ワイドギャップ半導体層に電子線を照射する電子線源と
を具備し、
前記ワイドギャップ半導体層側より前記電子線源からの電子線を照射して前記ワイドギャップ半導体層を励起して該励起されたワイドギャップ半導体層から発生した深紫外光を前記サファイア基板より放射するようにし、
前記サファイア基板の厚さt1μmが
t1≧a・E3
但し、Eは前記電子線のエネルギー(keV)、
aは1μm/(keV)3
である深紫外光源。
【請求項2】
前記ワイドギャップ半導体層がAlxGa1-xN井戸層(0.2≦x≦0.8)及びAlN障壁層よりなるAlxGa1-xN/AlN多重量子井戸層を具備する請求項1に記載の深紫外光源。
【請求項3】
さらに、前記AlxGa1-xN/AlN多重量子井戸層上に設けられ、厚さ30〜60nmのアルミニウムメタルバック層を具備する請求項2に記載の深紫外光源。
【請求項4】
前記AlxGa1-xN/AlN多重量子井戸層の厚さが300〜400nmであり、
前記電子線のエネルギーが6〜7keVである
請求項2に記載の深紫外光源。
【請求項5】
さらに、前記電子線を発生するためのグラファイトナノ針状ロッドにより構成される電子放出源を具備する請求項1に記載の深紫外光源。
【請求項6】
前記サファイア基板の光取り出し面は平均同期が750nm以上アスペクト比が1以上である砂面状をなしている請求項1に記載の深紫外光源。
【請求項7】
さらに、前記電子線を前記ワイドギャップ半導体層上にフォーカスさせるための静電レンズを具備する請求項1に記載の深紫外光源。
【請求項8】
前記電子線のエネルギーが4keV以上15keV以下である請求項1に記載の深紫外光源。
【請求項9】
さらに、内部が真空であるガラス管を具備し、
前記電子線源は前記ガラス管内に設置され、
前記ワイドギャップ半導体層は前記ガラス管に密着されている請求項1に記載の深紫外光源。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図3】
【図6】
【図7】
【図14】
【図2】
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図3】
【図6】
【図7】
【図14】
【公開番号】特開2012−199174(P2012−199174A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63651(P2011−63651)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
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