説明

深紫外発光素子及びその製造方法

【課題】高発光効率であり製造が容易な深紫外発光素子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】深紫外発光素子(1)は、上部基板(6)と、下部基板(2)と、前記下部基板の一方の面に形成された複数の電極(3)、誘電体層(4)、及び保護層(5)と、前記上部基板の一方の面に形成された発光層(7)と、前記上部基板及び前記下部基板が、前記電極と前記発光層とを対向させて配置させて形成された密閉空間(8)に充填されたガス(Xe及びNe)とを備え、前記電極の間にRF電圧が印加された場合に前記ガスによって発生するプラズマ(P)によって、前記発光層が深紫外光(L)を発する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深紫外発光素子及びその製造方法に関し、特に、発光効率が高く、大面積化に適し、製造が容易な深紫外発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
深紫外光源は、照明、殺菌、医療、浄水、計測等の様々な分野で使用されている。深紫外光は主に約200〜約350nmの波長を言う、場合によってはそれ以下の100nm以上200nm以下の波長も含む(以下、DUV(Deep Ultraviolet)光とも記す)。深紫外光の発生手段としては、水銀ランプ、半導体発光素子(半導体LED)、エキシマランプなどが知られている。
【0003】
水銀ランプでは、ガラス管内の水銀蒸気中でアーク放電を起こし、特定の波長の紫外光(例えば254nm)を発生させる。エキシマランプでは、放電用ガス(希ガス又は希ガスハロゲン化合物)を二重石英管中に充填し、石英管を通して電極間に高周波・高電圧を印加することによって、放電用ガスを励起して紫外光を発生させる。
【0004】
一方、半導体LEDとしては、窒化物系深紫外発光素子が知られている(下記特許文献1参照)。特許文献1に開示された横型構造の素子では、電流がn型AlGaN層中を横方向に流れなければならないため、素子抵抗が高くなって発熱量が増大し、キャリアの注入効率への悪影響が生じる欠点がある。従って、高出力動作に適さない。また、チップサイズを大型化することができない。
【0005】
この欠点を改善するための素子として、縦型構造の窒化物系深紫外発光素子が知られている(下記特許文献2、3参照)。特許文献2、3に開示された縦型構造によって、素子抵抗を小さくすることができるので、駆動効率を高め、発熱を抑えることができ、高出力動作が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−307811号公報
【特許文献2】特開2006−278554号公報
【特許文献3】特表2006−104063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の深紫外光発生手段のうち、水銀ランプは環境に悪い水銀を使用している問題がある。また、水銀ランプは発生可能な波長が限定されており、寿命が短く、高電圧が必要であり使いにくい問題がある。
【0008】
エキシマランプは、ランプ寿命が短く、大型の装置になるので、特殊な用途に限定される問題がある。
【0009】
窒化物系深紫外発光素子は、小型であり、水銀ランプに代わるものとして期待されているが、特許文献1に開示された窒化物系深紫外発光素子は発光効率が低く、大出力化に対応できない問題がある。特許文献2、3に開示された窒化物系深紫外発光素子は小型化は出来るが、深紫外領域では、発光効率が低く大出力化が難しい。すなわち、多層構造が必要であり、ドーピングが必要でその準位が深いため担体濃度を上げることが出来ない。又、特に波長が短くなると電極の接触抵抗を下げることが難しい。これらのことにより、外部量子効率を上げることが難しく製造工程が複雑である。
【0010】
従って、本発明は、上記の問題を解決し、高発光効率であり製造が容易な深紫外発光素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、以下の手段によって達成される。
【0012】
即ち、本発明の第1の深紫外発光素子は、上部基板と、下部基板と、前記下部基板の一方の面に形成された複数の電極と、前記上部基板の一方の面に形成された発光層と、前記上部基板及び前記下部基板が、前記電極と前記発光層とを対向させて配置されて形成された空間に充填されたガスとを備え、前記電極の間に電圧が印加された場合に前記ガスによって発生するプラズマによって、前記発光層が深紫外光を発することを特徴としている。
【0013】
また、本発明の第2の深紫外発光素子は、上記の第1の深紫外発光素子において、前記電極を覆って下部基板の前記一方の面に形成された誘電体層をさらに備え、前記電極の間に印加される電圧が交流電圧であることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の第3の深紫外発光素子は、上記の第2の深紫外発光素子において、前記誘電体層の上に、MgO、AlN、AlGaN及びAlGaInNからなる群の中から選択される少なくとも1つの材料からなる保護層、又は、ドーピングされた前記保護層を備えることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の第4の深紫外発光素子は、上記の第1の深紫外発光素子において、前記電極が前記ガスに露出され、前記電極の間に印加される電圧が直流電圧であることを特徴としている。
【0016】
また、本発明の第5の深紫外発光素子は、上記の第1〜第4の深紫外発光素子の何れかにおいて、前記電圧を印加される対を成す前記電極の各々に対応して発生する前記プラズマを、相互に離隔するための隔壁をさらに備えることを特徴としている。
【0017】
また、本発明の第6の深紫外発光素子は、上記の第1〜第5の深紫外発光素子の何れかにおいて、前記上部基板がサファイアで形成され、前記発光層が、AlGaN、ドーピングされたAlGaN、深紫外を発光出来るダイアモンド、SiC、ZnO、ZnMnO、又は窒化ボロンで形成されていることを特徴としている。
【0018】
また、本発明の第7の深紫外発光素子は、上記の第6の深紫外発光素子において、前記発光層が、超格子のAlGaNで形成されていることを特徴としている。
【0019】
また、本発明の第8の深紫外発光素子は、上記の第6又は第7の深紫外発光素子において、前記発光層がAlGaNであって、前記発光層中のAlの割合が、前記発光層の平面に沿って、あるいは前記発光層の平面の垂直方向に変化することを特徴としている。
【0020】
また、本発明の第9の深紫外発光素子は、上記の第1〜第8の深紫外発光素子の何れかにおいて、前記発光層と前記電極との間隔が、前記電圧を印加される対を成す前記電極の間隔よりも狭いことを特徴としている。
【0021】
また、本発明の第10の深紫外発光素子は、上記の第1〜第9の深紫外発光素子の何れかにおいて、前記ガスが、Xe、Ne、He、Ar、N及びHからなる群の中から選択される少なくとも1種類のガスあるいはその混合ガスであることを特徴としている。
【0022】
また、本発明の第11の深紫外発光素子は、上記の第1〜第10の深紫外発光素子の何れかにおいて、前記発光層の前記空間側の面に微少補助電極を備え、該補助電極に正電圧を印加して、前記空間に発生するプラズマ中の電子を引き付けることによって、前記空間に発生するプラズマ中の正イオン成分を前記発光層から遠ざけることを特徴としている。
【0023】
また、本発明の第12の深紫外発光素子は、上記の第1〜第11の深紫外発光素子の何れかにおいて、隣り合う前記電極の間隔、前記電極及び前記発光層の間隔、前記電極の幅、又は、前記電極の高さが、300μm以下、又は300μm〜1mmであることを特徴としている。
【0024】
また、本発明の第13の深紫外発光素子は、上記の第12の深紫外発光素子において、隣り合う前記電極の間隔、並びに、前記電極及び前記発光層の間隔の少なくとも一方が1μm以下であることを特徴としている。
【0025】
また、本発明の第14の深紫外発光素子は、上記の第3の深紫外発光素子において、前記誘電体層及び前記保護層の少なくとも一方が、前記発光層と同じ組成の材料で形成されていることを特徴としている。
【0026】
また、本発明の第15の深紫外発光素子は、上記の第1〜第14の深紫外発光素子の何れかにおいて、前記上部基板の前記発光層が形成された側の面、及び、前記上部基板の光が取り出される側の面の少なくとも一方の面ないし前記下部基板の一方の面あるいはその両方の面が、平面、凸面、凹面、柱状部分を有する面、壁状部分を有する面、又は、ランダムな高さを持つ形状の面であることを特徴としている。
【0027】
また、本発明の第16の深紫外発光素子は、上記の第1〜第15の深紫外発光素子の何れかにおいて、前記ガスが、密閉された前記空間に封入されている、又は、前記空間に前記ガスを流入させる手段を有することを特徴としている。
【0028】
また、本発明の第17の深紫外発光素子は、上記の第1〜第16の深紫外発光素子の何れかにおいて、前記上部基板又は下部基板に、温度上昇を防ぐための金属又は熱導電性材料が密着されていることを特徴としている。
【0029】
また、本発明の第18の深紫外発光素子は、上記の第1の深紫外発光素子において、前記電圧が、直流電圧と交流電圧とが足し合わされた電圧であることを特徴としている。
【0030】
また、本発明の第19の深紫外発光素子は、上記の第1〜第5の深紫外発光素子の何れかにおいて、前記発光層がAlGaInNで形成され、前記深紫外光が、350nm以下100nm以上の範囲内の波長を有する光であることを特徴としている。
【0031】
また、本発明の第20の深紫外発光素子は、上記の第1〜第19の深紫外発光素子の何れかにおいて、前記ガスが充填された前記空間中に磁場を発生させる手段を前記電極の近傍に備え、発生する前記磁場によって、前記プラズマを増大させることを特徴としている。
【0032】
一方、本発明の第1の深紫外発光素子の製造方法は、上部基板の一方の面に発光層を形成する第1ステップと、下部基板の一方の面に複数の電極を形成する第2ステップと、前記電極と前記発光層とを対向させて、前記上部基板及び前記下部基板を所定の間隔で接合し、空間を形成する第3ステップと、前記空間にガスを封入する第4ステップとを含み、前記発光層がAlGaNであり、前記ガスが、前記電極の間に電圧が印加された場合にプラズマを発生させるガスであることを特徴としている。
【0033】
また、本発明の第2の深紫外発光素子の製造方法は、上記の第1の深紫外発光素子の製造方法において、前記第1ステップが、前記発光層中のAlの割合が前記発光層の平面方向又は前記発光層の平面に垂直方向に変化するように前記発光層を形成するステップであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、高い効率で深紫外光を発生させることができる。従来では、波長200nmの深紫外光の外部量子効率は、10−4%程度であるが、本発明によれば1%以上の外部量子効率を実現することができ、最適化すれば外部量子効率を約10%まで向上することが期待できる。なお、外部量子効率とは、投入電力エネルギーに対する発光エネルギーの比(%)である。また、従来の窒化物系深紫外発光素子で発光波長が210nmでは数nW(ナノワット)の出力しか実現できていないが、本発明によれば1W以上の出力を実現も可能である。
【0035】
本発明の深紫外発光素子は、構造が大変簡単であり、製造が容易である。即ち、従来の窒化物系深紫外発光素子では、製造に1週間以上かかるのに対して、本発明の深紫外発光素子では、約1日〜2日で製造することができる。また、大面積化も容易である。
【0036】
また、発光層としてAlGaNを使用する場合、発光層中のAlの割合を空間的に変化させることによって、所定の幅広い波長帯域にわたって深紫外光を発生させることもできる。
【0037】
また、電極に直流電圧を印加すれば、強度が時間的に安定な深紫外光を発生させることができるので、計測用途に使用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態に係る深紫外発光素子の概略構成を示す断面図である。
【図2】放電開始電圧V、電極間隔d、ガス圧pの関係を示すグラフである。
【図3】GaAlN中のAlの割合と発光波長の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の別の実施の形態に係る深紫外発光素子の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係る実施の形態を、添付した図面に基づいて説明する。
【0040】
図1は、本発明の実施の形態に係る深紫外発光素子(以下、単に発光素子とも記す)1の概略構成を示す断面図である。本発光素子1は、下部基板2と、下部基板2の上に形成された電極3と、電極3を覆って下部基板2の上に形成された誘電体層4と、誘電体層4の上に形成された保護層5と、上部基板6と、上部基板6の上に保護層5と対向させて形成された発光層7とを備え、密閉空間8を形成するように構成されている。
【0041】
隣接する電極3の間隔dは、例えば約300μmであり、保護層5と発光層7との間隔は、例えば約300μmである。電極3は、例えば金で形成されている。
【0042】
密閉空間8には、マイクロプラズマを発生させるためのガス、例えばXe及びNeの混合ガス(Xeの体積割合が約5%)が充填されている。プラズマ発生の動作については後述するが、電極3に電圧を印加した場合に放電が開始する電圧(放電開始電圧)Vは、図2に示すように、電極3の間隔dおよび密閉空間8中のガスの圧力pに依存する。横軸は、ガス圧pと電極間隔dとの積、縦軸は放電開始電圧Vである。従って、放電開始電圧Vが極小となる条件で使用できるように、電極間隔d、ガス圧p、電極に印加する電圧を設計することが望ましい。
【0043】
下部基板2は、例えばガラス基板である。上部基板6は、深紫外光に対する透過性の基板であり、例えば単結晶のサファイア基板である。
【0044】
誘電体層4は、例えばガラスで形成されている。
【0045】
保護層5は、例えば酸化マグネシウム(MgO)である。
【0046】
発光層7は、例えば、厚さ約1μmの単結晶AlGaNの層である。なお、本明細書において、AlGaNとの表記は、Al及びGaのどちらか一方を含まない組成をも含む。即ち、AlGaNには、AlN、GaNも含まれる。
【0047】
次に、本発光素子1によるDUV光の発生動作について説明する。
外部の電源(図示せず)から、隣接する電極3に高周波電圧を印加する。例えば、周波数約15〜20kHzの電圧を印加する。これによって、隣接する電極3間に変動する電磁場が形成され、封入されているガスが電磁場よってマイクロプラズマPを発生する。発生したマイクロプラズマPによって、発光層7からDUV光Lが発生し、DUV光Lは上部基板6を通って外部に放射される。
【0048】
図3は、AlGaN中のAlの割合を変化させて、発生する光の波長をシミュレーションした結果を示すグラフである。ここで、Alの割合とは、Al原子の数/(Ga原子の数+Al原子の数)である。図3において、Alの割合が0である点はGaNに対応し、Alの割合が1である点はAlNに対応する。図3から分かるように、発生する光の波長は、AlGaN中のAlの割合に依存するので、例えば、水銀ランプが発する約254nmのDUV光を発生させるには、Alの割合を約0.6にすればよい。このように、発光素子1において発光層7としてAlGaNを採用する場合には、Alの割合を調節すれば、約200〜約360nmのうちの任意の波長のDUV光を発生させることができる。
【0049】
また、発光素子1において発光層7としてAlGaNを採用し、Alの割合が縦方向ないし横方向を含む空間的に変化するように発光層7を形成すれば、複数の波長のDUV光や、所定帯域にわたって連続する波長のDUV光を発生させることができる。例えば、発光層7の面方向に(又は、面に向かって垂直方向に)Al濃度が変化するようにAlGaNを形成すればよい。
【0050】
次に、本発明の実施の形態に係る深紫外発光素子1の製造方法について説明する。本製造方法では、上部構造と下部構造とを別に作製した後、それらを接合する。
【0051】
上部構造の作製では、上部基板6(例えばサファイア基板)を真空チャンバ内に配置し、その上に発光層7を形成する。例えば、有機金属化学相蒸着法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によって、発光層7としてAlGaNの単結晶を形成する。
【0052】
下部構造の作製では、先ず、下部基板2を真空チャンバ内に配置し、リフトオフ法あるいは直接パターン蒸着法によって電極3を形成する。例えばリフトオフ法では、下部基板2の上に所定のマスクパターンを形成し、金属を蒸着した後、マスクパターンを除去して、残存する蒸着層を電極3として形成する。
【0053】
次に、電極3が形成された側の下部基板2の面に、電極3を覆うように誘電体層4を、例えばスパッタリングによって形成する。誘電体層4の材質に応じて、スパッタリングの代わりに塗布などによって形成してもよい。
【0054】
次に、誘電体層4の上に、保護層5(例えばMgO)を、例えば電子ビーム蒸着によって形成する。電子ビーム蒸着の代わりに、スパッタ蒸着などによって形成してもよい。
【0055】
次に、上部構造と下部構造とを、電極3と発光層7とが対向するように、所定の間隔を空けて接合して準密閉空間を形成する。その後、真空状態の準密閉空間内に所定のガスを注入し、完全に密閉して密閉空間8を形成する。
以上によって深紫外発光素子1を製造することができる。
【0056】
以上、実施の形態を用いて本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されず、種々変更して実施することができる。
【0057】
図2はその一例を示す。図2に示した本発明の別の実施の形態に係る深紫外発光素子1’は、図1に示した深紫外発光素子1においてマイクロプラズマの発生領域を区画するための隔壁9を備えている。隔壁9によって、発生したマイクロプラズマの横方向への拡散を抑制することができ、より多くのマイクロプラズマを上方に、即ち発光層7に向けて拡散させることができるので、発光効率をより大きくすることができる。
【0058】
また、発光層7と保護層5との間隔は、上記した値に限定されない。上記では、プラズマによる発光層7の損傷を抑制するために、発光層7と保護層5との間隔を比較的大きく(電極間隔dと同じ約300μm)設定する場合を説明した。しかし、発光層7と保護層5との間隔を、電極間隔dよりも狭くして、発光層7がプラズマにより多くさらされるようにすると、発光効率を高くすることができ、10%以上の発光効率を実現することも可能である。AlGaNは強度の大きい材料であるので、プラズマにさらされても損傷は少ないと考えられる。また、プラズマによる損傷を考慮して、発光層7を比較的厚く形成してもよい。例えば、発光層7と保護層5(又は電極3)との間隔は、約0.1μm〜10μmであることができる。
【0059】
また、発光層7のプラズマによる損傷を抑制するために、発光層7の密閉空間8の側の表面に、複数の補助電極を備えてもよい。補助電極に正電圧を印加すれば、プラズマ中の電子が、発光層7側(補助電極)に引き付けられ又、プラズマ中の正イオンを発光層7から遠ざけることができ、発光層7の損傷を抑制することができる。複数の補助電極の配置パターンは、特に限定されないが、発光層7の表面上に一様な分布で配置させることが望ましい。なお、補助電極の大きさが大きくなると発光効率(外部量子効率)が低下するので、微少な補助電極を形成することが望ましい。即ち、補助電極を有する場合の発光効率が、補助電極を有しない場合の発光効率から大きく低下しない許容範囲内の値になるように、補助電極の大きさを設計することが望ましい。
【0060】
また、発光層7は、超格子であってもよい。超格子であれば、発光効率をさらに大きくすることができる。この場合、超格子の発光層7の上に保護膜を形成してもよい。
【0061】
また、発光層7は、Inを含むAlGaInNであってもよい。AlGaInN中のInの割合は0%超100%以下であることができる。ここで、Inの割合とは、In原子の数/(Ga原子の数+Al原子の数+In原子の数)である。発光層7は、InNあるいはAlInN、あるいはGaInNであってもよい。AlInN、GaInNの場合、Al、Gaの元素は0%以上100%未満の値をとることができる。発光層7としてAlGaInNを使用する場合、Al、Ga及びInの各割合を調節すれば、深紫外光(約200〜約350nm)よりも長い波長の光を発生することができる。例えば420nm等の、波長が350nm以上の光を発生することができる。
【0062】
また、深紫外を発光させる材料はAlGaNに限らずダイアモンド、その他深紫外を発光することが出来るいかなる材料であってもよい。
【0063】
また、電極間隔dは、上記した値に限定されない。例えば、電極間隔dは約10nm〜1μm、あるいは1μmから300μm、あるいは300μmから1mm、あるいはそれ以上であってもよい。電極の幅や高さも同様である。
【0064】
また、電極3の形状及び配置は、発光層7のほぼ全面に、できるだけ一様にプラズマを発生させることができる形状及び配置であればよい。例えば、点電極を格子状に配置しても、線状の電極をストライプ状に配置しても、櫛形の電極を櫛歯を対向させて配置してもよい。
【0065】
また、プラズマを発生させるための印加電圧は、上記したRF波に限定されず、マイクロ波であってもよい。使用する周波数に応じて、電極間隔d、ガスの種類及び圧力に応じて適切な印加電圧を設定することができる。例えば、直流電圧を印加してもよい。その場合には、誘電体層4および保護層5を備えず、電極3が直接、密閉空間内のガスと接するようにすればよい。直流電圧の場合にも、電極間隔d、ガスの種類及び圧力に応じて適切な印加電圧を使用すればよく、例えば電極間隔により、あるいは封印ガス圧により100〜150Vあるいはそれ以上又はそれ以下の直流電圧を使用することができる。直流電圧を使用すれば、RF波などの交流電圧による発光の時間的変動を抑制することができ、一定の出力が要求される計測用途に使用することが可能になる。また、プラズマを発生させるための印加電圧は、直流電圧と交流電圧とが足し合わされた電圧(交流電圧を直流電圧でバイアスした電圧)であってもよい。
【0066】
また、下部基板、電極、誘電体層、保護層、発光層、上部基板、封入ガスは、上記した材質に限定されず、種々変更することができる。
【0067】
上部基板は、サファイアに限らず、深紫外光に対して透過性が高く、発光層の形成が容易な材質であればよい。例えば、AlNあるいは石英でもよい。
【0068】
また、発光層7として使用するAlGaNは、単結晶に限らず、多結晶、アモルファスであってもよく、蒸着膜であってもよい。又発光層7は、深紫外を発光出来るダイアモンド、希土類添加型AlGaNあるいは、希土類添加型SiC、又はZnO、ZnMnO、窒化ボロンであってもよい。
【0069】
また、保護層5あるいは誘電体膜4は、AlN、あるいは発光層と同じ組成、例えばAlGaNあるいは上記各材料であってもよい。保護層5にAlNを使用すれば、保護層5からも波長約200nmのDUV光を発生させることができる。
【0070】
また、保護層5は、MgO、AlN、AlGaN及びAlGaInNからなる群の中から選択される材料で形成された層、又はそれらの材料が混合されて形成された層、さらにはそれらの層が積層されて形成された層であってもよい。また、それらの層に、ある種の材料が数ppmから数%の範囲でドーピングされていてもよい。
【0071】
下部基板2、電極3、誘電体層4、及び保護層5は、DUV光の取り出し方向に位置しないので、透光性の材料で形成される必要はない。電極3は導電性の材料で形成されていればよくAl、Cr、NiCu等全ての金属を用いることができる。誘電体層4および保護層5は、電気絶縁材料で形成されていればよい。誘電体層4に十分なプラズマに対する強度があれば、保護層5を備えていなくてもよい。
【0072】
また、本発明の紫外発光素子は、任意の大きさに形成されてもよく、曲面状に形成されてもよい。例えば、上部基板6や下部基板2の表面が曲面状に形成されていてもよい。また、上部基板6の、発光層7が形成された側の面並びに大気にさらされる光を取り出す面は、平面、凸面、凹面、柱状もしくは壁状等の特殊な形状を有する面、又は、ランダムな構造が形成された面など、任意の形状であってもよい。さらに、下部基板を上部基板に合わせ込んで形成する場合には、下部基板2の一方の面又は両面も同様に形成される。
【0073】
また、上部基板6及び下部基板2が、電極3と発光層7とが対向するように配置されて形成された空間(密閉空間8に対応)は、密閉されていなくてもよく、ガスを流入させる手段を有していてもよい。
【0074】
また、本発明の深紫外発光素子は、−50℃〜100℃の温度環境で使用されることができる。高温の環境で使用される場合には、深紫外発光素子の温度上昇を防ぐために、金属又はその他の熱導電性材料を、上部基板6や下部基板5に密着させた構造に形成することが望ましい。
【0075】
また、プラズマをより強くたてるためにフェライト等の磁場発生手段を電極側に密着させ発光効率を上げることもできる。例えば、コイルに電流を流すことにより磁場が発生し、この磁場によって電子とイオンの運動の軌道が曲げられプラズマ化していないガスにも衝突する確率が上がり、プラズマ濃度が増大する。コイルに電流を流す代わりにフェライトの様な永久磁場でもよい。より具体的には、下部電極の裏側にフェライト板を貼り付けるかあるいは金属を蒸着して形成したコイルパターンに電流を流し、フェライトからの磁場あるいはコイルに電流を流して出来る磁場を用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
1、1’ 深紫外発光素子
2 下部基板
3 電極
4 誘電体層
5 保護層
6 上部基板
7 発光層
8 密閉空間
9 隔壁
P マイクロプラズマ
L 深紫外光(DUV光)
d 電極間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部基板と、
下部基板と、
前記下部基板の一方の面に形成された複数の電極と、
前記上部基板の一方の面に形成された発光層と、
前記上部基板及び前記下部基板が、前記電極と前記発光層とを対向させて配置されて形成された空間に充填されたガスとを備え、
前記電極の間に電圧が印加された場合に前記ガスによって発生するプラズマによって、前記発光層が深紫外光を発することを特徴とする深紫外発光素子。
【請求項2】
前記電極を覆って下部基板の前記一方の面に形成された誘電体層をさらに備え、
前記電極の間に印加される電圧が交流電圧であることを特徴とする請求項1に記載の深紫外発光素子。
【請求項3】
前記誘電体層の上に、MgO、AlN、AlGaN及びAlGaInNからなる群の中から選択される少なくとも1つの材料からなる保護層、又は、ドーピングされた前記保護層を備えることを特徴とする請求項2に記載の深紫外発光素子。
【請求項4】
前記電極が前記ガスに露出され、
前記電極の間に印加される電圧が直流電圧であることを特徴とする請求項1に記載の深紫外発光素子。
【請求項5】
前記電圧を印加される対を成す前記電極の各々に対応して発生する前記プラズマを、相互に離隔するための隔壁をさらに備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の深紫外発光素子。
【請求項6】
前記上部基板がサファイアで形成され、
前記発光層が、AlGaN、ドーピングされたAlGaN、深紫外を発光出来るダイアモンド、ドーピングされたSiC、ZnO、ZnMnO、又は窒化ボロンで形成されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の深紫外発光素子。
【請求項7】
前記発光層が、超格子のAlGaNで形成されていることを特徴とする請求項6に記載の深紫外発光素子。
【請求項8】
前記発光層がAlGaNであって、
前記発光層中のAlの割合が、前記発光層の平面に沿って、あるいは前記発光層の平面の垂直方向に変化することを特徴とする請求項6又は7に記載の深紫外発光素子。
【請求項9】
前記発光層と前記電極との間隔が、前記電圧を印加される対を成す前記電極の間隔よりも狭いことを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の深紫外発光素子。
【請求項10】
前記ガスが、Xe、Ne、He、Ar、N及びHからなる群の中から選択される少なくとも1種類のガスあるいはその混合ガスであることを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の深紫外発光素子。
【請求項11】
前記発光層の前記空間側の面に微少補助電極を備え、
該補助電極に正電圧を印加して、前記空間に発生するプラズマ中の電子を引き付けることによって、前記空間に発生するプラズマ中の正イオン成分を前記発光層から遠ざけることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の深紫外発光素子。
【請求項12】
隣り合う前記電極の間隔、前記電極及び前記発光層の間隔、前記電極の幅、又は、前記電極の高さが、300μm以下、又は300μm〜1mmであることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の深紫外発光素子。
【請求項13】
隣り合う前記電極の間隔、並びに、前記電極及び前記発光層の間隔の少なくとも一方が1μm以下であることを特徴とする請求項12に記載の深紫外発光素子。
【請求項14】
前記誘電体層及び前記保護層の少なくとも一方が、前記発光層と同じ組成の材料で形成されていることを特徴とする請求項3に記載の深紫外発光素子。
【請求項15】
前記上部基板の前記発光層が形成された側の面、及び、前記上部基板の光が取り出される側の面の少なくとも一方の面ないし前記下部基板の一方の面あるいはその両方の面が、平面、凸面、凹面、柱状部分を有する面、壁状部分を有する面、又は、ランダムな高さを持つ形状の面であることを特徴とする請求項1〜14の何れか1項に記載の深紫外発光素子。
【請求項16】
前記ガスが、密閉された前記空間に封入されている、又は、
前記空間に前記ガスを流入させる手段を有することを特徴とする請求項1〜15の何れか1項に記載の深紫外発光素子。
【請求項17】
前記上部基板又は下部基板に、温度上昇を防ぐための金属又は熱導電性材料が密着されていることを特徴とする請求項1〜16の何れか1項に記載の深紫外発光素子。
【請求項18】
前記電圧が、直流電圧と交流電圧とが足し合わされた電圧であることを特徴とする請求項1に記載の深紫外発光素子。
【請求項19】
前記発光層がAlGaInNで形成され、
前記深紫外光が、350nm以下100nm以上の範囲内の波長を有する光であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の深紫外発光素子。
【請求項20】
前記ガスが充填された前記空間中に磁場を発生させる手段を前記電極の近傍に備え、
発生する前記磁場によって、前記プラズマを増大させることを特徴とする請求項1〜19の何れか1項に記載の深紫外発光素子。
【請求項21】
上部基板の一方の面に発光層を形成する第1ステップと、
下部基板の一方の面に複数の電極を形成する第2ステップと、
前記電極と前記発光層とを対向させて、前記上部基板及び前記下部基板を所定の間隔で接合し、空間を形成する第3ステップと、
前記空間にガスを封入する第4ステップとを含み、
前記発光層がAlGaNであり、
前記ガスが、前記電極の間に電圧が印加された場合にプラズマを発生させるガスであることを特徴とする深紫外発光素子の製造方法。
【請求項22】
前記第1ステップが、前記発光層中のAlの割合が前記発光層の平面方向又は前記発光層の平面に垂直方向に変化するように前記発光層を形成するステップであることを特徴とする請求項21に記載の深紫外発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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