説明

深絞り成形用発泡シート、およびそれを用いてなる発泡容器

【課題】 酸素に対するガスバリア性及び防湿性に優れ、高倍率な深絞り成形・熱成形が可能な発泡シート、更にはそのシートを深絞り成形してなる発泡容器を提供する。
【解決手段】 少なくとも1層の酸素バリア層、少なくとも1層の防湿層、少なくとも1層の耐衝撃性補助層及びポリスチレン発泡シートが積層されてなる深絞り成形用発泡シートであって、酸素バリア層がエチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)を0.1〜20モル%含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有し、防湿層がポリプロピレンからなり、耐衝撃性補助層がハイインパクトポリスチレンからなることを特徴とする深絞り成形用発泡シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種食品容器用の成形材料として、酸素に対するガスバリア性及び防湿性に優れ、高倍率な深絞り成形・熱成形が可能な発泡シート、更にはそのシートを深絞り成形してなる発泡容器に関する。詳しくは、即席麺などを入れる容器、あるいはスープを入れるコップなどの深さが深い容器を成形するための深絞り成形用発泡シート、および該シートを深絞り成形してなる発泡容器に関する。
【背景技術】
【0002】
食品用容器に要求される特性は、食品の種類によって様々であるが、主に酸素の透過による内容物の酸化などを防止し、食品の味、香り、色などの変化を防止すること、或いは水分が蒸散することによる内容物の乾燥を防ぐことが挙げられる。この観点から、酸素及び水蒸気の通過を抑制できるものであることが必要となる。
【0003】
従来、ポリスチレン系樹脂深絞り成形容器の酸素バリア性や防湿性を改善するために、ポリスチレン系樹脂発泡シートにガスバリア性を有するフィルム、特に高ガスバリア性を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いたフィルムを積層することが検討されてきた(特許文献1〜5)。
【0004】
しかしながら、ポリスチレン系樹脂発泡シートを成形して、容器の深さを容器の開口部内寸で割った値である絞り比が大きい深絞り成形容器を得ることは難しく、特にエチレン−ビニルアルコール共重合体からなるバリア層を含む多層構造を有するポリスチレン系樹脂発泡シートを用いた深絞り容器の成形は極めて難しいとされてきた。
【0005】
それを解決する一つの手段として、熱可塑性樹脂フィルムとポリスチレン系樹脂発泡シートとを積層し、成形のための加熱による変形であるMDの加熱後の長さ/TDの加熱後の長さを0.90〜l.10に抑え、かつ成形のための加熱後の長さを成形加熱前の長さで割った加熱変形比をMDおよびTD共に0.95〜l.10に抑えることが提案されている(特許文献6)。
【0006】
しかしながら、このように成形時の発泡シートの歪みをできるだけ小さくして成形性を向上させるためには、設備的な制約が大きいだけでなく、発泡シートの成形条件を狭い範囲で管理する必要があり、生産効率の低下やコストアップにも繋がる。また、多層発泡シートにおける各層の厚みのバランスや成形される容器の形状についても同様に制限されてしまい、十分なガスバリア性が得られないだけなく、深絞り成形自体が難しくなり、意図した容器を製造できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開平1−163121号公報
【特許文献2】実開平6−79529号公報
【特許文献3】特開平10−119947号公報
【特許文献4】特開2000−79665号公報
【特許文献5】特開2003−20070号公報
【特許文献6】特開平10−324759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、本発明の目的は酸素に対するガスバリア性及び防湿性に優れ、高倍率な深絞り成形・熱成形が可能な発泡シート、更にはそのシートを深絞りしてなる成形発泡容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、少なくとも1層の酸素バリア層、少なくとも1層の防湿層、少なくとも1層の耐衝撃性補助層及びポリスチレン発泡シートが積層されてなる深絞り成形用発泡シートであって、酸素バリア層がエチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)を0.1〜20モル%含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、変性EVOHと略することがある)を含有し、防湿層がポリプロピレンからなり、耐衝撃性補助層がハイインパクトポリスチレンからなることを特徴とする深絞り成形用発泡シートを提供することによって解決される。
【0010】
このとき、構造単位(I)が、下記構造単位(Ia)、(Ib)及び/又は(Ic)であることが好ましい。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ、水素原子、水酸基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。R、R、R及びRは互いに結合していてもよい。)
【0015】
深絞り成形用発泡シートを120℃で3分間熱処理した後に示差走査熱量計(DSC)によって測定される変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する酸素バリア層の結晶融解熱量(ΔHmA2)と、該熱処理をする前に測定される酸素バリア層の結晶融解熱量(ΔHmA1)の差(ΔHmA2−ΔHmA1)が5J/g以上であることが好ましい。
【0016】
また、深絞り成形用発泡シートを120℃で3分間熱処理した後に示差走査熱量計(DSC)によって測定されるポリプロピレンからなる防湿層の結晶融解熱量(ΔHmB2)と、該熱処理をする前に測定される防湿層の結晶融解熱量(ΔHmB1)の差(ΔHmB2−ΔHmB1)が5J/g以上であることも好ましい。
【0017】
さらに、防湿層に用いられるポリプロピレンがエチレン単位を共重合成分として含むことが好ましく、120℃での引張り伸度が100%以上であることも好ましい。
【0018】
前記深絞り成形用発泡シートを深絞り成形してなる発泡容器が好適な実施態様である。このとき、絞り比が0.5以上であり、酸素透過速度が50cc/m・day・atm以下であり、かつ透湿度が30g/m・day以下であることが好ましい。食品を充填して密封してなる前記発泡容器も好適な実施態様である。
【0019】
また、上記課題は、少なくとも1層の酸素バリア層及び少なくとも1層の防湿層を有する熱可塑性樹脂多層フィルムを予め製造し、前記ポリスチレン発泡シートと積層することを特徴とする深絞り成形用発泡シートの製造方法を提供することによっても解決される。
【0020】
このとき、押出機から押し出された溶融多層体を60℃以下の冷却ロールで冷却して上記熱可塑性多層フィルムを得ることが好ましい。
【0021】
また、上記の方法によって得られた深絞り成形用発泡シートを深絞り成形する発泡容器の製造方法も好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の深絞り成形発泡シートは、酸素に対するガスバリア性及び防湿性に優れ、高倍率な深絞り成形・熱成形が可能であり、更にはそのシートを深絞り成形してなる発泡容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の深絞り成形用発泡シートは、少なくとも1層の酸素バリア層、少なくとも1層の防湿層、少なくとも1層の耐衝撃性補助層及びポリスチレン発泡シートが積層されてなる深絞り成形用発泡シートであって、酸素バリア層がエチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)を0.1〜20モル%含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有し、防湿層がポリプロピレンからなり、耐衝撃性補助層がハイインパクトポリスチレンからなるものである。
【0024】
ポリスチレン発泡シートに用いられるポリスチレンとしては、スチレン;2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−4−メチルスチレンなどのアルキル置換スチレン;2−クロロスチレン、4−クロロスチレンなどのハロゲン化スチレン等のスチレン系モノマーの単独重合体または共重合体が挙げられる。
【0025】
このとき、上記ポリスチレンは、本発明の目的が阻害されない範囲で上記スチレン系モノマーと共重合可能な他の共重合成分を含んでいてもよい。例えば、(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸(C〜C)エステル;アクリロニトリル;無水マレイン酸またはその誘導体;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミドなどのN−置換マレイミドなどのマレイミドまたはその誘導体などから選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0026】
また本発明において、ポリスチレンにはゴム変性ポリスチレンを用いることもできる。ゴム変性ポリスチレンにおいて用いるゴムとしては、ブタジエンゴム、ブタジエン−イソプレンゴム、ブタジエン−アクリロニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニルゴムなどの非スチレン系ゴム;スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴムなどのスチレン系ゴムから選ばれる1種以上を挙げることができる。なお、ブタジエンゴムは、シス−1,4構造の含有率の高いハイシス型のものであっても、シス−1,4構造の含有率の低いローシス型のものであってもよい。ゴム変性ポリスチレンとする場合には、ポリスチレン中におけるゴム成分の含有量が1〜20質量%であることが好ましい。1〜20質量%の範囲でゴム成分を有することにより耐衝撃性を向上させることができる。20質量%を越える場合は、強度不足を生じる場合がある。
【0027】
ポリスチレンとして共重合体を用いる場合の重合形態は特に限定されるものではなく、ブロック共重合体、ランダム共重合体、テーパードブロック構造を有する共重合体であってもよい。
【0028】
また、ポリスチレンにポリオレフィンを混合することもできる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられ、1〜50質量%の割合で混合することにより耐熱性、脆性を良くすることができる。
【0029】
ポリスチレン発泡シートには充填材を0.2〜20質量%添加して、型面の出、表面の美観、耐熱性などを改良することができる。このような充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、シラス、石膏、カーボンブラック、ホワイトカーボン、炭酸マグネシウム、クレー、天然ケイ酸などの一般無機充填材および金属粉などが挙げられ、押出機に投入する前にマスターバッチ化して使用してもよい。また、配合剤として、例えば気泡調整剤、顔料などを添加してもよい。気泡調整剤としては、タルク、シリカなどの無機粉末;多価カルボン酸などの酸性塩;多価カルボン酸と炭酸ナトリウムまたは重炭酸ナトリウムとの反応混合物などが挙げられる。
【0030】
本発明においては、上記したポリスチレンに発泡剤などを添加して、押出発泡成形することにより発泡シートを製造できる。発泡剤としては、種々の揮発性発泡剤や分解型発泡剤などを使用できる。揮発性発泡剤としては、例えば、炭化水素、プロパン、i−ブタン、n−ブタン、i−ペンタン、n−ペンタン、あるいはこれらの混合物、そして、N2、CO2、N2/CO2、水などが挙げられる。
【0031】
分解型発泡剤として、例えば、アゾジカルボン酸アミド、ジニトロペンタメチレンテトラミン、4、4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)などを挙げることができる。さらに、重炭酸ナトリウムや、クエン酸などの有機酸もしくはその塩と重炭酸塩との組合せなども使用することができる。また、例えば重炭酸ナトリウムや、クエン酸などの有機酸もしくはその塩と重炭酸塩との組合せは、低分子オレフィン化合物、流動パラフィン、牛脂油などでコーティングしても使用することができる。その他、これらの混合物を使用することも可能で、これらを2種以上混合してもよい。これらはいずれも粉末、フレーク、または熱可塑性樹脂とのマスターバッチとして入手することもできる。特に、ポリオレフィンをポリスチレンに混合して分解型発泡剤を使用すると、該ポリオレフィンは気泡調整剤としての効果がある。また、分解型発泡剤とN2、CO2、i−ブタン、n−ブタン、i−ペンタン、n−ペンタンとを併用すると気泡が細かく、かつ成形性がよい。
【0032】
本発明で用いるポリスチレン発泡シートの密度は0.05〜0.80g/cm3であることが好ましく、より好ましくは0.07〜0.70g/cm3である。ポリスチレン発泡シートの密度が0.05g/cm3未満では深絞り成形に適さず、一方0.80g/cm3を越えると成形サイクルが長くなる傾向となるので好ましくない。
【0033】
また、ポリスチレン発泡シートの厚みは0.3〜5.0mmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜3.0mmである。ポリスチレン発泡シートの厚みが0.3mm未満では強度が不充分となる傾向となり、成形品としての用途が少なくなる。一方、3.0mmを越えると、深絞り成形品の場合、壁面や底面の厚みのバランスが取り難くなる傾向となり、また残存する発泡剤量のコントロールが難しくなる。
【0034】
本発明では、ポリスチレン発泡シートを基材とし、かかる基材にエチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)を0.1〜20モル%含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する酸素バリア層が少なくとも1層以上積層されることが必要である。エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)が0.1モル%未満である場合、十分な深絞り成形性が得られず、高倍率な深絞り成形・熱成形ができない。一方、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)が20モル%を越える場合には、十分な酸素ガスバリア性が得られなくなる。エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)の好ましい共重合比率は0.5モル%〜15モル%の範囲であり、より好ましくは1モル%〜10モル%の範囲である。
【0035】
本発明におけるエチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)としては、下記構造単位(Ia)、(Ib)及び/又は(Ic)であることが好適である。
【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
【化6】

【0039】
(式中、R、R、R及びRは、それぞれ、水素原子、水酸基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。R、R、R及びRは互いに結合していてもよい。)
【0040】
炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基などのアルキル基;アリル基、イソプロペニル基、クロチル基、プレニル基などのアルケニル基などが挙げられる。炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としてはシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;シクロブテニル基、シクロへキセニル基、シクロオクテニル基などのシクロアルケニル基などが挙げられる。炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としてはフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。またこれらの脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。
【0041】
エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)が前記構造単位(Ia)である場合、より好適な実施態様では、前記R、RおよびRは水素原子、メチル基またはエチル基である。さらに好ましくはR、RおよびRがともに水素原子である。R、RおよびRがともに水素原子、メチル基またはエチル基である場合には、良好な深絞り成形性および良好なガスバリア性が得られる。
【0042】
エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)が前記構造単位(Ib)である場合、より好適な実施態様では、前記RおよびRがともに水素原子である。さらに好適な実施態様では、前記RおよびRがともに水素原子であり、前記RおよびRのうち、一方が炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基であって、かつ他方が水素原子である。好適には、前記脂肪族炭化水素基がアルキル基またはアルケニル基である。変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のガスバリア性を特に重視する観点からは、前記RおよびRのうち、一方がメチル基またはエチル基であり、他方が水素原子であることがより好ましい。
【0043】
また、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のガスバリア性の観点からは、前記RおよびRのうち、一方が(CHOHで表される基(ただし、iは1〜8の整数を表す)であり、他方が水素原子であることも好ましい。ガスバリア性を特に重視する場合は、前記の(CHOHで表される基において、iが1〜4の整数であることが好ましく、1または2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
【0044】
エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)が上記構造単位(Ic)である場合、より好適な実施態様では前記R、RおよびRは水素原子、メチル基、エチル基、水酸基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基である。さらに好適な実施態様ではR、RおよびRは水素原子、メチル基、水酸基、ヒドロキシメチル基である。R、RおよびRが水素原子、メチル基、水酸基、ヒドロキシメチル基である場合には、良好な深絞り成形性および良好なガスバリア性が得られる。
【0045】
本発明に用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体に含まれる、上記構造単位(Ia)、(Ib)および/または(Ic)、並びにエチレン単位以外の構成成分は、主としてビニルアルコール単位である。このビニルアルコール単位は、通常、エチレンとビニルエステルからなる共重合体をアルカリ触媒などでケン化することにより生成される。
【0046】
一方、構造単位(Ia)を含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、ケン化を完全に行わず、部分的にエステル基を残すことにより合成される。なお、構造単位(Ia)を生成するためのビニルエステルとしては、酢酸ビニルが代表的なものとしてあげられるが、その他のビニルエステルとしてプロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステルが挙げられる。
【0047】
上記構造単位(Ia)を含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は目的が阻害されない範囲であれば、他の共重合成分、例えば、プロピレン、ブチレン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸またはその塩;アルキルチオール類;N−ビニルピロリドンなどのビニルピロリドンなどを含んでいてもよい。
【0048】
また、本発明に用いる構造単位(Ib)を含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の合成方法については、特に限定されないが、エチレン−ビニルアルコール共重合体に一価エポキシ化合物を反応させることにより合成することができる。一価エポキシ化合物としては、下記式(II)〜(VIII)で示される化合物が、好適に用いられる。
【0049】
【化7】

【0050】
【化8】

【0051】
【化9】

【0052】
【化10】

【0053】
【化11】

【0054】
【化12】

【0055】
【化13】

【0056】
(式中、R、R、R、RおよびRは、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。また、i、j、k、lおよびmはそれぞれ独立して1〜8の整数を表す。)
【0057】
、R、R、RおよびRが表す炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としては、前記したR、R、RおよびRが表す基が挙げられる。
【0058】
上記式(II)で表される一価エポキシ化合物としては、エポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、3−メチル−1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、3−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−2,3−エポキシペンタン、3−エチル−1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、2,3−エポキシヘキサン、3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、3−エチル−1,2−エポキシヘキサン、3−プロピル−1,2−エポキシヘキサン、4−エチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−2,3−エポキシヘキサン、4−エチル−2,3−エポキシヘキサン、2−メチル−3,4−エポキシヘキサン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシへプタン、4−メチル−1,2−エポキシへプタン、5−メチル−1,2−エポキシへプタン、6−メチル−1,2−エポキシへプタン、3−エチル−1,2−エポキシへプタン、3−プロピル−1,2−エポキシへプタン、3−ブチル−1,2−エポキシへプタン、4−エチル−1,2−エポキシへプタン、4−プロピル−1,2−エポキシへプタン、5−エチル−1,2−エポキシへプタン、4−メチル−2,3−エポキシへプタン、4−エチル−2,3−エポキシへプタン、4−プロピル−2,3−エポキシへプタン、2−メチル−3,4−エポキシへプタン、5−メチル−3,4−エポキシへプタン、5−エチル−3,4−エポキシへプタン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシへプタン、2−メチル−5−エチル−3,4−エポキシへプタン、1,2−エポキシヘプタン、2,3−エポキシヘプタン、3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、2,3−エポキシオクタン、3,4−エポキシオクタン、4,5−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、2,3−エポキシノナン、3,4−エポキシノナン、4,5−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、2,3−エポキシデカン、3,4−エポキシデカン、4,5−エポキシデカン、5,6−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、2,3−エポキシウンデカン、3,4−エポキシウンデカン、4,5−エポキシウンデカン、5,6−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、2,3−エポキシドデカン、3,4−エポキシドデカン、4,5−エポキシドデカン、5,6−エポキシドデカン、6,7−エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1−フェニル−1,2−エポキシプロパン、3−フェニル−1,2−エポキシプロパン、1−フェニル−1,2−エポキシブタン、3−フェニル−1,2−エポキシブタン、4−フェニル−1,2−エポキシブタン、1−フェニル−1,2−エポキシペンタン、3−フェニル−1,2−エポキシペンタン、4−フェニル−1,2−エポキシペンタン、5−フェニル−1,2−エポキシペンタン、1−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、3−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、4−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、5−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、6−フェニル−1,2−エポキシヘキサンなどが挙げられる。
【0059】
上記式(III)で表される一価エポキシ化合物としては、メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、n−プロピルグリシジルエーテル、イソプロピルグリシジルエーテル、n−ブチルグリシジルエーテル、イソブチルグリシジルエーテル、tert−ブチルグリシジルエーテル、1,2−エポキシ−3−ペンチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘキシルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ヘプチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−オクチルオキシプロパン、1,2−エポキシ−3−フェノキシプロパン、1,2−エポキシ−3−ベンジルオキシプロパン、1,2−エポキシ−4−メトキシブタン、1,2−エポキシ−4−エトキシブタン、1,2−エポキシ−4−プロポキシブタン、1,2−エポキシ−4−ブトキシブタン、1,2−エポキシ−4−ペンチルオキシブタン、1,2−エポキシ−4−ヘキシルオキシブタン、1,2−エポキシ−4−ヘプチルオキシブタン、1,2−エポキシ−4−フェノキシブタン、1,2−エポキシ−4−ベンジルオキシブタン、1,2−エポキシ−5−メトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−エトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−プロポキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ブトキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ペンチルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−ヘキシルオキシペンタン、1,2−エポキシ−5−フェノキシペンタン、1,2−エポキシ−6−メトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−エトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−プロポキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ブトキシヘキサン、1,2−エポキシ−6−ヘプチルオキシヘキサン、1,2−エポキシ−7−メトキシへプタン、1,2−エポキシ−7−エトキシへプタン、1,2−エポキシ−7−プロポキシへプタン、1,2−エポキシ−7−ブチルオキシへプタン、1,2−エポキシ−8−メトキシへプタン、1,2−エポキシ−8−エトキシへプタン、1,2−エポキシ−8−ブトキシへプタン、グリシドール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、4,5−エポキシ−1−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、6,7−エポキシ−1−へプタノール、7,8−エポキシ−1−オクタノール、8,9−エポキシ−1−ノナノール、9,10−エポキシ−1−デカノール、10,11−エポキシ−1−ウンデカノールなどが挙げられる。
【0060】
上記式(IV)で表される一価エポキシ化合物としては、エチレングリコールモノグリシジルエーテル、プロパンジオールモノグリシジルエーテル、ブタンジオールモノグリシジルエーテル、へプタンジオールモノグリシジルエーテル、ヘキサンジオールモノグリシジルエーテル、へプタンジオールモノグリシジルエーテル、オクタンジオールモノグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0061】
上記式(V)で表される一価エポキシ化合物としては、3−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−プロペン、4−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ブテン、5−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ペンテン、6−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘキセン、7−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−ヘプテン、8−(2,3−エポキシ)プロポキシ−1−オクテンなどが挙げられる。
【0062】
上記式(VI)で表される一価エポキシ化合物としては、3,4−エポキシ−2−ブタノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ペンタノール、1,2−エポキシ−3−ペンタノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘキサノール、4,5−エポキシ−3−ヘキサノール、1,2−エポキシ−3−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−エチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジエチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−4−エチル−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5−メチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5,5−ジメチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−ヘプタノール、4,5−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−4−ヘプタノール、1,2−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−オクタノール、3,4−エポキシ−2−オクタノール、4,5−エポキシ−3−オクタノール、5,6−エポキシ−4−オクタノール、2,3−エポキシ−4−オクタノール、1,2−エポキシ−3−オクタノール、2,3−エポキシ−1−ノナノール、3,4−エポキシ−2−ノナノール、4,5−エポキシ−3−ノナノール、5,6−エポキシ−4−ノナノール、3,4−エポキシ−5−ノナノール、2,3−エポキシ−4−ノナノール、1,2−エポキシ−3−ノナノール、2,3−エポキシ−1−デカノール、3,4−エポキシ−2−デカノール、4,5−エポキシ−3−デカノール、5,6−エポキシ−4−デカノール、6,7−エポキシ−5−デカノール、3,4−エポキシ−5−デカノール、2,3−エポキシ−4−デカノール、1,2−エポキシ−3−デカノールなどが挙げられる。
【0063】
上記式(VII)で表される一価エポキシ化合物としては、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロヘプタン、1,2−エポキシシクロオクタン、1,2−エポキシシクロノナン、1,2−エポキシシクロデカン、1,2−エポキシシクロウンデカン、1,2−エポキシシクロドデカンなどが挙げられる。
【0064】
上記式(VIII)で表される一価エポキシ化合物としては、3,4−エポキシシクロペンテン、3,4−エポキシシクロヘキセン、3,4−エポキシシクロヘプテン、3,4−エポキシシクロオクテン、3,4−エポキシシクロノネン、1,2−エポキシシクロデセン、1,2−エポキシシクロウンデセン、1,2−エポキシシクロドデセンなどが挙げられる。
【0065】
上記構造単位(Ib)を含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の合成に用いられる一価エポキシ化合物としては、炭素数が2〜8のエポキシ化合物が特に好ましい。化合物の取り扱いの容易さ、およびエチレン−ビニルアルコール共重合体との反応性の観点からは、一価エポキシ化合物の炭素数は好適には2〜6であり、より好適には2〜4である。また、一価エポキシ化合物が、上記式(II)または(III)で表される化合物であることが好ましい。エチレン−ビニルアルコール共重合体との反応性、および得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のガスバリア性の観点からは、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタンおよびグリシドールが特に好ましく、中でもエポキシプロパンおよびグリシドールが好ましい。食品包装用途、飲料包装用途、医薬品包装用途などの、衛生性を要求される用途では、エポキシ化合物として1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパンおよびエポキシエタンを用いることが好ましく、特にエポキシプロパンを用いることが好ましい。
【0066】
また、上記構造単位(Ib)を含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は目的が阻害されない範囲であれば、他の共重合成分、例えば、プロピレン、ブチレン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸またはそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸またはその塩;アルキルチオール類;N−ビニルピロリドンなどのビニルピロリドンなどを含んでいてもよい。
【0067】
なお、構造単位(Ib)を含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、具体的にはWO02/092643号公報に記載の方法等によって製造することができる。
【0068】
本発明に用いる構造単位(Ic)を含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の合成方法については、特に限定されないが、ビニルエステル系モノマーおよびエチレンを共重合しエチレン−ビニルエステル共重合体を製造する際に構造単位(Ic)が誘導されるモノマーを加え共重合した後、得られた共重合体をケン化する方法が挙げられる。構造単位(Ic)が誘導されるモノマーとしては、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセンなどのアルケン系モノマー、3−プロペン−1−オール、3−アシロシキ−1−プロペン、3−アシロキシ−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−1−ブテン、3−アシロキシ−4−オール−1−ブテン、4−アシロキシ−1−ブテン−3−オール、3−アシロキシ−2−メチル−1−ブテン、3−アシロキシ−4−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アシロキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアシロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−ペンテン−2−オール、5−ペンテン−1−オール、4,5−ジオール−1−ペンテン、4−アシロキシ−1−ペンテン、5−アシロキシ−1−ペンテン、4,5−ジアシロキシ−1−ペンテン、4−オール−3−メチル−1−ペンテン、5−オール−3−メチル−1−ペンテン、4,5−ジオール−3−メチル−1−ペンテン、5,6−ジオール−1−ヘキセン、4−オール−1−ヘキセン、5−オール−1−ヘキセン、6−オール−1−ヘキセン、4−アシロキシ−1−ヘキセン、5−アシロキシ−1−ヘキセン、6−アシロキシ−1−ヘキセン、5,6−ジアシロキシ−1−ヘキセンなどのビニルエステル系モノマーが挙げられる。共重合反応性、および得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のガスバリア性の観点からは、プロピレン、3−アセトキシ−1−プロペン、3−アセトキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンがより好ましい。
【0069】
本発明に用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量は10〜55モル%であることが好ましい。本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する酸素バリア層が良好な深絞り成形性を有する観点からは、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量の下限はより好適には20モル%以上であり、さらに好適には25モル%以上である。一方、本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する酸素バリア層の酸素ガスバリア性の観点からは、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量の上限はより好適には50モル%以下であり、さらに好適には45モル%以下である。エチレン含有量が10モル%未満の場合は溶融成形性が悪化する傾向となり、55モル%を超えるとガスバリア性が不足する傾向となる。
【0070】
さらに、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体として、本発明の目的を阻外しない範囲内で、ホウ素化合物をブレンドした変性EVOHを用いることもできる。ここでホウ素化合物としては、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類などが挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と表示する場合がある)が好ましい。
【0071】
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体として、ホウ素化合物をブレンドした変性EVOHを用いる場合、ホウ素化合物の含有量は好ましくはホウ素元素換算で20〜2000ppm、より好ましくは50〜1000ppmである。この範囲内でホウ素化合物をブレンドすることで加熱溶融時のトルク変動が抑制された変性EVOHを得ることができる。20ppm未満ではそのような効果が小さく、2000ppmを超えるとゲル化しやすく、成形性不良となる場合がある。
【0072】
また、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体として、リン酸化合物を配合した変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を用いてもよい。これにより樹脂の品質(着色など)を安定させることができる場合がある。本発明に用いられるリン酸化合物としては特に限定されず、リン酸、亜リン酸などの各種の酸やその塩などを用いることができる。リン酸塩としては第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩のいずれの形で含まれていても良いが、第一リン酸塩が好ましい。そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩であることが好ましい。これらの中でもリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸二水素カリウムが好ましい。リン酸化合物を配合した変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を用いる場合の、リン酸化合物の含有量は、好適にはリン酸根換算で200ppm以下であり、より好適には5〜100ppmである。
【0073】
本発明における酸素バリア層は、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)を0.1〜20モル%含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有することが必要であるが、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のみからなってもよいし、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体及びそれ以外の熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなってもよい。
【0074】
本発明における酸素バリア層が、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体及びそれ以外の熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなる場合、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体及びそれ以外の熱可塑性樹脂の配合比(変性EVOH/変性EVOH以外の熱可塑性樹脂;重量比)は1/99〜99/1であることが好ましい。
【0075】
このとき、酸素ガスバリア性の観点からは、上記酸素バリア層が、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体及び未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、未変性EVOHと略することがある)を含む樹脂組成物からなることが好ましく、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体及び未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の配合比(変性EVOH/未変性EVOH;重量比)が1/99〜50/50であることが好適である。
【0076】
ここで、使用される未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のケン化度は、通常90〜100モル%であり、95〜100モル%が好ましい。また、未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン含有量は特に限定されないが、5〜60モル%であることが好ましい。
【0077】
さらに、未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は特に限定されないが、好適には0.5〜16g/10分である。ただし、融点が190℃付近又は190℃を超える未変性EVOHにおいては、2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値をMFRとする。
【0078】
一方、上記酸素バリア層が、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体、及び、未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を除くその他の熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなることも可能である。このとき、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体、及び、未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を除くその他の熱可塑性樹脂の配合比(変性EVOH/未変性EVOHを除くその他の熱可塑性樹脂;重量比)は50/50〜99/1(重量比)であることが好ましい。未変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を除くその他の熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリエチレンイミン等が例示される。
【0079】
本発明に用いる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体には、必要に応じて各種の添加剤を配合することもできる。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、あるいは他の高分子化合物を挙げることができ、これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲でブレンドすることができる。添加剤の具体的な例としては次のようなものが挙げられる。
【0080】
酸化防止剤:2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス(6−t−ブチルフェノール)など。
【0081】
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなど。
【0082】
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステルなど。
【0083】
帯電防止剤:ペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カーボワックスなど。
【0084】
滑剤:エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレートなど。
【0085】
着色剤:カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラなど。
【0086】
充填剤:グラスファイバー、アスベスト、バラストナイト、ケイ酸カルシウムなど。
【0087】
また、他の多くの高分子化合物を本発明の作用効果が阻害されない程度にブレンドすることもできる。
【0088】
また、本発明で用いられる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体には、溶融安定性などを改善するために、本発明の作用効果が阻害されない程度に、ハイドロタルサイト化合物、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系熱安定剤、高級脂肪族カルボン酸の金属塩(たとえば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムなど)の一種または二種以上を変性エチレン−ビニルアルコール共重合体に対し本発明の作用効果が阻害されない程度(0.01〜1質量%)添加することもできる。
【0089】
本発明の深絞り成形用発泡シートを120℃で3分間熱処理した後に示差走査熱量計(DSC)によって測定される変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する酸素バリア層の結晶融解熱量(ΔHmA2)と、該熱処理をする前に測定される酸素バリア層の結晶融解熱量(ΔHmA1)の差(ΔHmA2−ΔHmA1)が、5J/g以上であることが好ましい。より好ましくは、10J/g以上である。ΔHmA2−ΔHmA1の値が5J/g未満の場合、十分な深絞り成形性が得られない場合がある。
【0090】
本発明においては、上記したエチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)が含まれることにより変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の結晶化速度を低下させ、また深絞り成形用発泡シートを構成している酸素バリア層の結晶化度を制御し、高い深絞り成形性を実現することができたものである。ΔHmA2−ΔHmA1を5J/g以上にするためには、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する酸素バリア層を形成させる過程で溶融状態の融点以上の温度から固体状態のガラス転移温度以下の温度までに冷却する速度を大きくすることが好ましい。さらに、押出機から押出された溶融変性EVOHを60℃以下の冷却ロールで冷却することが好適である。
【0091】
また、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する酸素バリア層の厚みは、0.001〜1.0mmの範囲であることが好ましい。より好ましくは、0.005〜0.5mmであり、さらに好ましくは0.01〜0.1mmである。0.01mm未満では、十分な酸素ガスバリア性が得られない場合があり、1.0mmを越えると、深絞り成形性が悪化し壁面や底面の厚みのバランスが取り難く、良好な形状の深絞り成形容器を得ることが難しくなる傾向となる。
【0092】
本発明では、ポリスチレン発泡シート基材に少なくとも1層以上のポリプロピレンからなる防湿層が積層されることが必要である。ポリプロピレンからなる防湿層を設けることにより、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する酸素バリア層との相乗効果で、深絞り成形容器の性能をより良好なものにすることができ、深絞り成形容器に充填される食品などのシェルフライフを長くすることが可能となる。
【0093】
本発明の深絞り成形用発泡シートを120℃で3分間熱処理した後に示差走査熱量計(DSC)によって測定されるポリプロピレンからなる防湿層の結晶融解熱量(ΔHmB2)と、該熱処理をする前に測定される防湿層の結晶融解熱量(ΔHmB1)の差(ΔHmB2−ΔHmB1)が、5J/g以上であることが好ましい。ΔHmB2−ΔHmB1の値が5J/g未満の場合、十分な深絞り成形性が得られない場合がある。より高い深絞り成形性を実現するためにはΔHmB2−ΔHmB1の値が8J/g以上であることがさらに好ましい。
【0094】
また、本発明の防湿層に用いるポリプロピレンとしては、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−エチレン−ブテン−1共重合体などのプロピレン−α−オレフィン共重合体が挙げられる。防湿性および深絞り成形性の観点から、ポリプロピレンがエチレン単位を共重合成分として含むことが好ましい。また、防湿性および深絞り成形性、さらには耐熱性、耐油性、強度・剛性の観点から、プロピレン単位の含有率は80モル%〜99モル%の範囲が好ましい。
【0095】
ポリプロピレンは、アタクチック構造であってもよく、アイソタクチック構造、シンジオタクチック構造などの立体規則性を有していてもよい。これらのうち、製造の面からの簡便性および経済性の点から、アイソタクチック構造を有するポリプロピレンが好ましい。
【0096】
また、ポリプロピレンからなる防湿層は0.001〜1.0mmの範囲であることが好ましい。より好ましくは0.005〜0.5mmであり、さらに好ましくは0.01〜0.1mmである。0.01mm未満では、十分な防湿性が得られない場合があり、1.0mmを越えると、深絞り成形性が悪化し壁面や底面の厚みのバランスが取り難く、良好な形状の深絞り成形容器を得ることが難しくなる。
【0097】
本発明では、ポリスチレン発泡シート基材に少なくとも1層以上のハイインパクトポリスチレン(HIPS)からなる耐衝撃性補助層が積層されることが必要である。HIPSからなる耐衝撃性補助層を設けることにより、深絞り成形性を向上させるだけでなく、深絞り成形容器自体の耐衝撃性を向上させることが可能となる。また、深絞り成形容器の最表面にHIPSからなる耐衝撃性補助層を配置することにより、深絞り成形容器の表面光沢を高めることもできる。
【0098】
また、本発明の耐衝撃性補助層に用いるHIPSとして、ゴム変性ポリスチレンを用いることができる。ゴム変性ポリスチレンにおいて用いるゴムとしては、ブタジエンゴム、ブタジエン−イソプレンゴム、ブタジエン−アクリロニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、イソプレンゴム、アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニルゴムなどの非スチレン系ゴム;スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴムなどのスチレン系ゴムから選ばれる1種以上を挙げることができる。なお、ブタジエンゴムは、シス−1,4構造の含有率の高いハイシス型のものであっても、シス−1,4構造の含有率の低いローシス型のものであってもよい。HIPSとしてゴム変性ポリスチレンを用いる場合には、ゴム変性ポリスチレン中におけるゴム成分の含有量が1〜20質量%であることが好ましい。1〜20質量%の範囲でゴム成分を有することにより耐衝撃性を向上させることができる。20質量%を越える場合は、強度不足を生じる場合がある。
【0099】
また、HIPSからなる耐衝撃性補助層の厚さは0.001〜1.0mmの範囲であることが好ましい。より好ましくは0.005〜0.5mmの範囲であり、さらに好ましくは0.01〜0.1mmの範囲である。0.001mm未満では十分な深絞り性が得られない場合あるいは耐衝撃性が得られない場合があり、一方、1.0mmを越えると、深絞り成形後の収縮が大きくなる傾向となり、絞り成形容器の寸法安定性が悪化する場合がある。
【0100】
本発明の深絞り成形用発泡シートにおけるポリスチレン発泡シート基材は、公知の押出発泡法により成形することができる。押出発泡法は、所望の密度になるように押出機に上記したポリスチレン、発泡剤および発泡に必要な添加剤を入れ、溶融および混合した後、ダイから押し出すことにより行われる。なお、予めポリスチレン、発泡剤および添加剤を均一に溶融および混合した後、押出機に送ってもよい。また、添加剤は、予めポリスチレンと同様の樹脂に高濃度に添加した所望のマスターバッチとしておいてもよい。
【0101】
溶融および混合されたポリスチレンは、発泡に最も適する温度に調整されたダイから、直接シート状または一旦円筒状に押出した後、任意のラインで切断することによりシート状にされる。ここで、ポリスチレン発泡シートを製造する場合、使用するポリスチレンの種類などにより異なるが、押出機内の樹脂温度は90℃〜260℃程度に保たれる。また、ポリスチレン100質量部に対して、発泡剤は0.05〜7.0質量部、気泡調整剤は0.01〜7.0質量部添加することが好ましい。
【0102】
少なくとも1層の酸素バリア層、少なくとも1層の防湿層、少なくとも1層の耐衝撃性補助層及びポリスチレン発泡シートを積層する方法は特に制限はないが、共押出法、接着剤を用いたラミネーション法、または熱を使用したドライラミネーション法など公知の方法を採用することができる。
【0103】
このとき、少なくとも1層の酸素バリア層及び少なくとも1層の防湿層を有する熱可塑性樹脂多層フィルムを予め製造し、上記ポリスチレン発泡シートと積層することが好ましい。前記熱可塑性樹脂多層フィルムは、例えば、押出機中で原料となる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリプロピレン及び/またはハイインパクトポリスチレンを溶融し、ダイ(Tダイ、コートハンガーダイ、スクリューダイなど)からフィルム状に押し出す方法により製造することができる。
【0104】
このとき、押出機から押し出された溶融多層体を60℃以下の冷却ロールで冷却して上記熱可塑性多層フィルムを得ることが好適である。これによって、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する酸素バリア層を形成させる過程において、溶融状態の変性EVOHの冷却速度を大きくすることができる。好ましくは50℃以下である。
【0105】
共押出法を適用する場合には、それぞれの層の間に接着層を介在させることが望ましい。接着層を形成するための接着剤としては公知のものを用いることが可能である。接着剤の例としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、変性ポリオレフィンなどの接着性樹脂が挙げられる。中でも、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する酸素バリア層と他の層とを良好に接着させるためには、変性ポリオレフィンが好ましく用いられ、カルボン酸変性ポリオレフィンが特に好ましく用いられる。ここで、カルボン酸変性ポリオレフィンとは、不飽和カルボン酸またはその無水物(無水マレイン酸など)をオレフィン系重合体または共重合体に共重合またはグラフト変性したものである。かかるカルボン酸変性ポリエチレンの例としては、ポリエチレン{低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)}、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステル、またはエチルエステル)共重合体などをカルボン酸変性したものが挙げられる。接着層は、通常0.005mm〜0.15mm程度の厚さで使用される。
【0106】
また、ラミネーション法を適用する場合には、接着剤は各層間を接着できるものであれば特に限定されるものではないが、ポリウレタン系、ポリエステル系、エーテル系一液型あるいは二液型硬化性接着剤が用いられる。ウレタン結合、エステル結合、エーテル結合を1種ないし2種以上を主鎖に含み、かつ水酸基を2個ないし2個以上含む主剤と、多官能イソシアネートの硬化剤とからなる、2液硬化型のアンカーコート剤を用いることが耐熱水性の点で望ましい。前記主剤としては、ポリプロピレングリコールとビスフェノールAとを反応させたポリエーテル;ポリプロピレングリコールとトルイレンジイソシアネートやm−キシリレンジイソシアネートとを反応させたポリエーテルポリウレタン;イソフタル酸、テレフタル酸、セバシン酸、アジピン酸とジエチレングリコール、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールとを反応させたポリエステル;イソフタル酸、アジピン酸とエチレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコールとイソホロンジイソシアネートとを反応させたポリエステルポリウレタンなどが例示される。また、前記硬化剤としては、トリメチロールプロパンとイソホロンジイソシアネートとの反応物;ポリプロピレングリコール付加グリセリンとm−キシリレンジイソシアネートとの反応物;m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネートなどが例示される。アンカーコート剤の塗布量は固形分として0.05〜4g/m、好ましくは0.05〜1g/m、より好ましくは0.1〜0.5g/mである。
【0107】
本発明の深絞り成形用発泡シートの多層構成に関しては特に限定されないが、深絞り成形性、ガスバリア性、防湿性およびコストなどを考慮した場合、具体的な層構成として、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する酸素バリア層をA、ポリプロピレンからなる防湿層をB、ハイインパクトポリスチレンからなる耐衝撃性補助層をC、ポリスチレン発泡シート層をDとすると、C/D/C/A/B、A/C/D/C/B、B/A/C/D/C、C/D/C/B/A/B、C/D/C/B/A/C、B/A/C/D/C/Bなどの層構成が例示される。これらの層構成にさらに他の層を適宜付加することは何ら差しつえない。また、各層の間には接着層が配置されることができる。両外層に熱可塑性樹脂層を設ける場合は、かかる熱可塑性樹脂は異なった種類のものでもよいし、同じものでもよい。さらに、成形時に発生するトリムなどのスクラップからなる回収樹脂層を別途設けてもよいし、回収樹脂を熱可塑性樹脂層にブレンドしてもよい。
【0108】
本発明の深絞り成形用発泡シートは120℃での引張り伸度が100%以上であることが好ましい。これにより高倍率な深絞り成形が可能となる。120℃での引張り伸度が150%以上であることがより好ましくは、200%以上であることがさら好ましい。
【0109】
本発明の深絞り成形用発泡シートは、公知の方法により深絞り成形することができる。本発明でいう深絞り成形とは、シートを加熱して軟化させた後に、金型形状に成形することをいう。成形方法としては、真空あるいは圧空を用い、必要によりさらにプラグを併せ用いて金型形状に成形する方法(ストレート法、ドレープ法、エアスリップ法、スナップバック法、プラグアシスト法など)やプレス成形する方法などが挙げられる。成形温度、真空度、圧空の圧力または成形速度などの各種成形条件は、プラグ形状や金型形状または原料フィルムやシートの性質などにより適当に設定される。
【0110】
成形温度は特に限定されるものではなく、成形するのに十分なだけ樹脂が軟化する温度であればよいが、使用するシートによってその好適な温度範囲は異なる。本発明の発泡シートを深絞り成形する際には、100〜180℃の温度範囲で成形が行われる。
【0111】
本発明の深絞り成形発泡容器は発泡シートの平面に凹部を形成した形の3次元状に熱成形されてなる容器である。凹部の形状は内容物の形状に対応して決定されるが、特に凹部の深さが深いほど、凹部の形状が滑らかでないほど通常のエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる積層体では厚みムラを発生しやすく、コーナー部などが極端に薄くなるので、本願発明による改善効果は大きい。本発明の深絞り成形発泡容器は絞り比(S)は、好適には0.5以上、より好適には1.0以上、さらに好適には1.2以上のときに本願発明の効果はより有効に発揮される。
【0112】
ここで、絞り比(S)とは、下記式(1)で示される値をいう。
S=(容器の深さ)/(容器の開口部に内接する最大径の円の直径) (1)
【0113】
すなわち、絞り比(S)とは、容器の最深部の深さの値を、フィルムあるいはシートの平面に形成された凹部(開口部)の形状に接する最も大きい内接円の円の直径で割ったものである。例えば、凹部の形状が円である場合にはその直径、楕円である場合にはその短径、長方形である場合にはその短辺の長さがそれぞれ内接する最大径の円の直径になる。
【0114】
本発明の深絞り成形発泡容器における酸素透過速度は50cc/m・day・atm以下であることが好ましい。酸素透過速度が50cc/m・day・atmを越える場合、内容物である食品の味、香り、色などの変化を防止することが困難となる傾向となる。酸素透過速度は10cc/m・day・atm以下であることがより好ましく、5cc/m・day・atm以下であることが更に好ましい。ここでいう酸素透過速度は、酸素透過速度測定装置にて、20℃、容器内部0%RH、容器外部65%RHの条件で容器1個当たりの酸素透過速度(cc/package・day・atm)を測定し、得られた値を容器壁の面積で除して求めた、容器壁1mあたりの酸素透過速度(cc/m・day・atm)である。
【0115】
また、本発明の深絞り成形発泡容器における透湿度は30g/m・day以下であることが好ましい。透湿度が30g/m・dayを越える場合、水分が蒸散することによる内容物の乾燥を防ぐことが困難になる傾向となる。透湿度は20g/m・day以下であることがより好ましく、15g/m・day以下であることがさらに好ましい。ここでいう透湿度は、40℃、90%RHの条件でJIS Z0208の記載に従って測定して得られた値である。
【実施例】
【0116】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。本発明における各種試験方法は以下の方法にしたがって行った。
【0117】
<結晶融解熱量>
結晶融解熱量は、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量計(DSC)RDC220/SSC5200H型を用い、JIS K7121に基づいて測定した。但し、温度の校正にはインジウムと鉛を用いた。
【0118】
<引張り伸度>
JIS K 7127に準拠し、シートの流れ方向(MD方向)に沿って、2号形試験形に打ち抜いたシートを島津製作所製オートグラフAGS−H型で引張試験(試験速度10mm/分)し、引張破断するまでの変位L(mm)を測定した。その結果に基づいて、破断点引張り伸度を、(L/つかみ具間距離)×100=(100×L)/80として求めた。なお、測定は各10サンプルについて行い、その平均値を求めた。
【0119】
<容器の成形性>
◎:破れがなく厚みも均一で、表面が平滑であった。
○:破れがなく厚みも均一であるが、表面に若干の和紙様の凸凹が認められた。
△:破れはないが、厚みが不均一で、表面にかなり目立つ和紙様の凸凹があった。
×:破れがあり、表面の凸凹の程度も著しかった。
【0120】
<酸素透過速度>
試料容器の形態のままで、20℃、容器内部0%RH、容器外部65%RHに湿度調整した後、酸素透過速度測定装置(モダンコントロール社製、OX−TRAN−10/50A)にて、20℃、容器内部0%RH、容器外部65%RHの条件で容器1個当たりの酸素透過速度(cc/package・day・atm)を測定し、容器壁の面積で除して、容器壁1mあたりの酸素透過速度(cc/m・day・atm)を求めた。
【0121】
<透湿度>
成形し得られた容器を試料とし、40℃、90%RHの条件でJIS Z0208の記載に従って透湿度の測定(g/package・day)を測定し、容器壁の面積で除して、容器壁1mあたりの透湿度(g/m・day)を求めた。
【0122】
<食品保存性>
各実施例および比較例で得られたカップ状容器に、調理しフリーズドライ加工された新鮮なニンジンを入れ、該容器内部を窒素置換したのち、該容器をアルミ製の蓋材で密封した。20℃、65%RH雰囲気下で4ヶ月間放置した後、ニンジンの変色度合いを目視で観察し、下記の基準で評価した。なお、変色度合いが小さいほど、酸素および水分の通過が抑制された(酸化および吸湿による変色が抑制された)ことを意味する。
○:鮮やかな赤色のままであった。
△:白っぽい褐色に変色しかけていた。
×:白っぽい褐色に変色し、しかも湿気を帯びていた。
【0123】
<容器の耐衝撃性>
カップ状容器(開口部径100mm、底部径80mm、高さ120mm:絞り比1.2)に水200gを入れ、所定高さからコンクリート面上に落下させて容器の50%以上が割れる高さを求め、下記の基準により耐衝撃性を評価した。
○:50cm以上。
△:10cm以上50cm未満。
×:10cm未満。
【0124】
<変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の合成方法>
実施例で用いられる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の合成方法を下記に示す。
【0125】
合成例1
エチレン含量32モル%、ケン化度99.6%、極限粘度0.0882dl/g、MFR=8g/10分(190℃、2160g荷重下)のエチレン−ビニルアルコール共重合体を用い、東芝機械社製二軸押出機「TEM−35BS」(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、下記押出条件にてエポキシブタンを反応させ、未反応のエポキシブタンをベントより除去し、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)として下記の構造を有するエポキシブタン変性のエチレン−ビニルアルコール共重合体を得た。
【0126】
【化14】

【0127】
得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、MFR=2.5g/10分(190℃、2160g荷重下)、エポキシブタン変性量5.0モル%であった。20μm厚の前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のフィルムを作成し、20℃、65%RHの条件で酸素透過度を測定したところ、2.5cc・20μm/m・day・atmであった。
【0128】
シリンダー、ダイ温度設定:
C1/C2/C3/アダプター/ダイ
=160/200/200/240/240(℃)
スクリュー回転数:400rpm
エチレン−ビニルアルコール共重合体フィード量:11kg/hr
エポキシブタンフィード量:2.5kg/hrの割合(フィード時の圧力:6MPa)
【0129】
合成例2
エチレン−ビニルアルコール共重合体のフィード量を16kg/hrとし、エポキシブタンのフィード量を1.2kg/hrにした以外は、合成例1と同様な条件で押出を行い、MFR=3g/10分(190℃、2160g荷重下)、エポキシブタン変性量3.1モル%の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得た。
【0130】
合成例3
エチレン−ビニルアルコール共重合体のフィード量を16kg/hrとし、エポキシブタンの代わりにエポキシプロパンを2.4kg/hrの割合でフィードした以外は合成例1と同様な条件で押出を行い、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)として下記の構造を有する、MFR=2.8g/10分(190℃、2160g荷重下)、エポキシプロパン変性量5.2モル%の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得た。
【0131】
【化15】

【0132】
合成例4
エチレン−ビニルアルコール共重合体のフィード量を15kg/hrとし、エポキシブタンの替わりにグリシドールを2.5kg/hrの割合でフィードした以外は合成例1と同様な条件で押出を行い、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)として下記の構造を有する、MFR=1.6g/10分(190℃、2160g荷重下)、グリシドール変性量6.3モル%の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得た。
【0133】
【化16】

【0134】
合成例5
エチレン含有量44モル%、ケン化度99.6%、極限粘度0.0855dl/g、MFR=12g/10分(190℃、2160g荷重下)のエチレン−ビニルアルコール共重合体を用い、エチレン−ビニルアルコール共重合体のフィード量を15kg/hrとし、エポキシブタンの替わりにグリシドールを2.5kg/hrの割合でフィードした以外は合成例1と同様な条件で押出を行い、エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)として下記の構造を有する、MFR=1.6g/10分(190℃、2160g荷重下)、グリシドール変性量5.9モル%の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得た。
【0135】
【化17】

【0136】
合成例6
冷却コイルを有する重合槽に酢酸ビニルを500質量部、メタノール100質量部、アセチルパーオキシド500ppm(酢酸ビニル量に対して)、クエン酸20ppm(酢酸ビニル量に対して)、および3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを14質量部を仕込み、重合槽内を窒素ガスで一旦置換した後、次いでエチレンで置換して、エチレン圧が35kg/cmとなるまで圧入し、攪拌しながら、67℃まで昇温して、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを15g/分で全量4.5質量部を添加しながら重合し、重合率が50%になるまで6時間重合した。その後、重合反応を停止してエチレン含有量29モル%のエチレン−酢酸ビニル共重合体を得た。該エチレン−酢酸ビニル共重合体のメタノール溶液を0.012当量の水酸化ナトリウムを含むメタノール溶液を用いてケン化し、該エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物を得た。該エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物のケン化度は99.5モル%であった。
【0137】
次いで、得られた該エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物のメタノール溶液をメタノール/水溶液調整塔の塔上部から供給し、120℃のメタノール蒸気および水蒸気を塔下部から仕込み、塔頂部よりメタノールを8kg/時で留出させると同時に、ケン化で用いた水酸化ナトリウム量に対して6当量の酢酸メチルを塔内温95〜110℃塔の塔中部から仕込んで塔底部から該エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物の水/アルコール溶液(樹脂濃度35%)を得た。
【0138】
得られた該エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物の水/アルコール溶液を、孔径4mmのノズルより、メタノール5%、水95%よりなる5℃に維持された凝固液槽にストランド状に押し出して、凝固終了後、ストランド状物をカッターで切断し、直径3.8mm、長さ4mmの含水率45%の該エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物の多孔性ペレットを得た。
【0139】
該多孔性ペレット100質量部に対して水100質量部で洗浄した後、0.032%のホウ酸および0.007%のリン酸二水素カルシウムを含有する混合液中に投入し、30℃で5時間撹拌した。さらにかかる多孔性ペレットを回分式通気箱型乾燥器にて、温度70℃、水分含有率0.6%の窒素ガスを通過させて12時間乾燥を行って、含水率を30%とした後に、回分式塔型流動層乾燥器を用いて、温度120℃、水分含有率0.5%の窒素ガスで12時間乾燥の処理を行って目的とする変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のペレットを得た。かかるペレットは、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体に対して、ホウ酸およびリン酸をそれぞれ150ppm(ホウ素換算)および50ppm(リン酸根換算)含有していた。また、この変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のMFRは1.2g/10分(190℃ 2160gで測定)であった。
【0140】
なお、上記の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)としては、下記の構造を有する構造単位(Ic)が導入されており、その導入量はH−NMR(内部標準物質:テトラメチルシラン、溶媒:d6−DMSO)の測定から2.5モル%であった。
【0141】
【化18】

【0142】
実施例1
押出機として、直径65mmと直径90mmの2台の押出機をタンデム型に連結して使用し、その口金(ダイス)としては、直径84mm、隙間間隔0.5mmの円筒状スリットを有するものを用いた。直径65mmの押出し機のホッパーに、ポリスチレンとして、ポリスチレン(東洋スチレン株式会社製「トーヨースチロールGP HRM26」;MFR1.5g/10分)90質量部、ハイインパクトポリスチレン(東洋スチレン株式会社製「トーヨースチロールHI E649N」;MFR2.7g/10分)5質量部、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)(旭化成工業株式会社製「タフテックH1043」;MFR2.0g/10分)5質量部の混合物を、また気泡調整剤としてタルク(松村産業株式会社製「ハイフィラー#12」)を0.8質量部を投入した。その押出機内で加熱混練し、約200℃に調整された樹脂混合物に発泡剤としてn−ブタン70質量%とiso−ブタン30質量%のブタン混合物3.0質量部を圧入した。次いで、直径90mmの押出機に供給し、樹脂温度約165℃に調整して、口金より樹脂を押出した。なお、ポリスチレンおよび気泡調整剤をホッパーに投入する際の混合は、押出機のホッパー上にセットしたバッチ式連続混合装置を使用した。押出された円筒状発泡樹脂を直径200mmの冷却された円筒に沿わせて引き取り、その後切り開くことにより厚み2.0mmの単層のポリスチレン発泡シートを得て、それを巻き取った。この発泡シートの密度は0.10であった。
【0143】
また、下記3種3層共押出装置を用いて、下記条件で熱可塑性樹脂多層フィルム(変性エチレン−ビニルアルコール共重合体/接着性樹脂/ポリプロピレン)を作製した。フィルムの構成は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体層が30μm、接着性樹脂層が20μm、ポリプロピレン層が30μmである。
【0144】
共押出成形条件は以下のとおりである。
層構成:変性エチレン−ビニルアルコール共重合体/接着性樹脂/ポリプロピレン(厚み30/20/30:単位はμm)(酸素バリア層/接着層/防湿層)
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の押出温度:
C1/C2/C3/C4=175/210/220/220℃
接着性樹脂の押出温度:
C1/C2/C3=170/170/220/220℃
ポリプロピレンの押出温度:
C1/C2/C3=170/170/230/230℃
アダプターの温度:235℃、ダイの温度:235℃
各樹脂の押出機、Tダイ仕様:
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体:
40φ押出機 VSVE−40−24型(大阪精機工作株式会社製)
接着性樹脂:
40φ押出機 10VSE−40−22型(大阪精機工作株式会社製)
ポリプロピレン:
65φ押出機 20VS−65−22型(大阪精機工作株式会社製)
Tダイ:
650mm幅4種4層用 (プラスチック工学研究所製)
冷却ロールの温度:30℃
引き取り速度 :10m/分
【0145】
なお、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体、接着性樹脂およびポリプロピレンについては、それぞれ下記のものを使用した。
【0146】
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体:エチレン含有量32モル%、ケン化度97%、MFR(190℃−2160g荷重)1.7g/10分のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物を使用した。エチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)は下記の構造であり、共重合比率は2.0モル%であった。
【0147】
【化19】

接着性樹脂:変性ポリプロピレン(三井化学株式会社製「アドマーQF−500」)
ポリプロピレン:住友化学工業(株)社製「住友ノーブレンRW150XG」(エチレン−プロピレン共重合体、エチレン含量:3.2モル%)
【0148】
さらに、40φ押出機(プラスチック工学研究所製「PLABOR GT−40−A」)とTダイからなる製膜機を用いて、下記押出条件でハイインパクトポリスチレン(東洋スチレン株式会社製「トーヨースチロールHI E649N」;MFR2.7g/10分)を製膜し、厚み30μmの単層フィルムを得た。
形式:単軸押出機(ノンベントタイプ)
L/D:24
口径:40mmφ
スクリュー:一条フルフライトタイプ、表面窒化鋼
スクリュー回転数:40rpm
ダイス:550mm幅コートハンガーダイ
リップ間隙:0.3mm
シリンダー、ダイ温度設定:
C1/C2/C3/アダプター/ダイ
=160/180/190/200/200(℃)
冷却ロールの温度:30℃
引き取り速度 :10m/分
【0149】
上記で得られたポリスチレン発泡シートの両面に、ハイインパクトポリスチレンからなる単層フィルムを熱ロールで加熱積層したのち、ウレタン系接着剤(三井化学(株)製「タケラックA−385/タケネートA−50」)を用いて変性エチレン−ビニルアルコール共重合体およびポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂多層フィルムをラミネートし、下記層構成の深絞り成形用発泡シートを得た。
【0150】
層構成:ハイインパクトポリスチレン/ポリスチレン発砲シート/ハイインパクトポリスチレン/接着剤/変性エチレン−ビニルアルコール共重合体/接着性樹脂/ポリプロピレン(耐衝撃性補助層/ポリスチレン発砲シート/耐衝撃性補助層/接着層/酸素バリア層/接着層/防湿層)
【0151】
得られた深絞り成形用発泡シートについて、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる酸素バリア層の結晶融解熱量(ΔHmA1)と、120℃で3分間熱処理した後の前記酸素バリア層の結晶融解熱量(ΔHmA2)を、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した。結晶融解熱量の差(ΔHmA2−ΔHmA1)は8.8J/gであった。
【0152】
また、得られた深絞り成形用発泡シートについて、ポリプロピレンからなる防湿層の結晶融解熱量(ΔHmB1)と、120℃で3分間熱処理した後の前記防湿層の結晶融解熱量(ΔHmB2)を測定した。結晶融解熱量(ΔHmB1)の差(ΔHmB2−ΔHmB1)は9.2J/gであった。
【0153】
得られた深絞り成形用発泡シートから、単発真空圧空深絞り成形機(株式会社浅野研究所製「FX−0431−3型」」)を用いて深絞り成形を行い、カップ形状の発泡容器(開口部径100mm、底部径80mm、高さ120mm:絞り比1.2)を得た。得られた深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器についての評価結果を表1および表2に示す。
【0154】
実施例2〜7
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体として、上記合成例1〜6に示した方法にて得られたものを使用した以外には、実施例1と同様にして深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器を作成した。得られた深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器についての評価結果を表1および表2に示す。
【0155】
実施例8
ポリプロピレンとして、ホモポリプロピレン(住友化学工業(株)社製「住友ノーブレンFH1016」)を使用した以外には、実施例1と同様にして深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器を作成した。得られた深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器についての評価結果を表1および表2に示す。
【0156】
実施例9
熱可塑性樹脂多層フィルム製造時の冷却ロールの温度を80℃に変更した以外には、実施例1と同様にして深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器を作成した。得られた深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器についての評価結果を表1および表2に示す。
【0157】
比較例1
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の代わりに、エチレン含有量32モル%、ケン化度99.7%、MFR(190℃−2160g荷重)1.7g/10分のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物を使用した以外には、実施例1と同様にして深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器を作成した。成形した深絞り発泡容器には破れが認められ、表面の凸凹の程度も著しい状態であった。また深絞り発泡容器のエチレン−ビニルアルコール共重合体は均一に延伸できておらず、層内で断裂(クラック)が認められた。また、ポリプロピレン層についても同様に均一に延伸できておらず、層内で断裂(クラック)が認められた。その結果、容器の酸素透過速度は測定装置の測定限界(5000cc/m・day・atm)を超えて大きく測定を行えず、透湿度の測定も実施できなかった。得られた深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器についての評価結果を表1および表2に示す。
【0158】
比較例2
熱可塑性樹脂多層フィルムを作成する際に変性エチレン−ビニルアルコール共重合体および接着性樹脂を使用しない以外には、実施例1と同様にして深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器を作成した。得られた深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器についての評価結果を表1および表2に示す。なお、容器の酸素透過速度については測定装置の測定限界を超えて大きく測定を行えなかった。
【0159】
比較例3
熱可塑性樹脂多層フィルムを使用しない以外には、実施例1と同様にして深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器を作成した。得られた深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器についての評価結果を表1および表2に示す。なお、容器の酸素透過速度については測定装置の測定限界を超えて大きく測定を行えなかった。
【0160】
比較例4
ポリスチレン発泡シートにハイインパクトポリスチレン層を積層しない以外には、実施例1と同様にして深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器を作成した。得られた深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器についての評価結果を表1および表2に示す。
【0161】
比較例5
ポリスチレン発泡シートにハイインパクトポリスチレン層を積層せず、また変性エチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリプロピレンからなる熱可塑性樹脂多層フィルムを使用せず、単層発泡シートのみを用いた以外には、実施例1と同様にして深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器を作成した。得られた深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器についての評価結果を表1および表2に示す。なお、容器の酸素透過速度については測定装置の測定限界を超えて大きく測定を行えなかった。
【0162】
比較例6
変性エチレン−ビニルアルコール共重合体として、エチレン含有量32モル%、ケン化度50%、MFR(190℃−2160g荷重)1.4g/10分のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物を使用した以外には、実施例1と同様にして深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器を作成した。この変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)は実施例1と同様の構造であり、共重合比率は34.0モル%であった。この変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる酸素バリア層の結晶融解ピークは認められず(結晶融解熱量は観測されず)、非晶性であった。得られた深絞り成形用発泡シートおよび深絞り発泡容器についての評価結果を表1および表2に示す。なお、容器の酸素透過速度については測定装置の測定限界を超えて大きく測定を行えなかった。
【0163】
【表1】

【0164】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の酸素バリア層、少なくとも1層の防湿層、少なくとも1層の耐衝撃性補助層及びポリスチレン発泡シートが積層されてなる深絞り成形用発泡シートであって、酸素バリア層がエチレン単位及びビニルアルコール単位以外の構造単位(I)を0.1〜20モル%含む変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有し、防湿層がポリプロピレンからなり、耐衝撃性補助層がハイインパクトポリスチレンからなることを特徴とする深絞り成形用発泡シート。
【請求項2】
構造単位(I)が、下記構造単位(Ia)、(Ib)及び/又は(Ic)である請求項1記載の深絞り成形用発泡シート。
【化1】

【化2】

【化3】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ、水素原子、水酸基、置換基を有していてもよい炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。R、R、R及びRは互いに結合していてもよい。)
【請求項3】
深絞り成形用発泡シートを120℃で3分間熱処理した後に示差走査熱量計(DSC)によって測定される変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する酸素バリア層の結晶融解熱量(ΔHmA2)と、該熱処理をする前に測定される酸素バリア層の結晶融解熱量(ΔHmA1)の差(ΔHmA2−ΔHmA1)が5J/g以上である請求項1又は2記載の深絞り成形用発泡シート。
【請求項4】
深絞り成形用発泡シートを120℃で3分間熱処理した後に示差走査熱量計(DSC)によって測定されるポリプロピレンからなる防湿層の結晶融解熱量(ΔHmB2)と、該熱処理をする前に測定される防湿層の結晶融解熱量(ΔHmB1)の差(ΔHmB2−ΔHmB1)が5J/g以上である請求項1〜3のいずれか記載の深絞り成形用発泡シート。
【請求項5】
防湿層に用いられるポリプロピレンがエチレン単位を共重合成分として含む請求項1〜4のいずれか記載の深絞り成形用発泡シート。
【請求項6】
120℃での引張り伸度が100%以上である請求項1〜5のいずれか記載の深絞り成形用発泡シート。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の深絞り成形用発泡シートを深絞り成形してなる発泡容器。
【請求項8】
絞り比が0.5以上であり、酸素透過速度が50cc/m・day・atm以下であり、かつ透湿度が30g/m・day以下である請求項7記載の発泡容器。
【請求項9】
食品を充填して密封してなる請求項7又は8記載の発泡容器。
【請求項10】
少なくとも1層の酸素バリア層及び少なくとも1層の防湿層を有する熱可塑性樹脂多層フィルムを予め製造し、前記ポリスチレン発泡シートと積層することを特徴とする請求項1〜6記載の深絞り成形用発泡シートの製造方法。
【請求項11】
押出機から押し出された溶融多層体を60℃以下の冷却ロールで冷却して上記熱可塑性多層フィルムを得る請求項10記載の深絞り成形用発泡シートの製造方法。
【請求項12】
請求項10又は11記載の方法によって得られた深絞り成形用発泡シートを深絞り成形する発泡容器の製造方法。

【公開番号】特開2011−51264(P2011−51264A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203129(P2009−203129)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】