説明

深絞り食品包装用多層フィルム

【課題】商品の型崩れが発生し難く、耐ピンホール性、光沢、臭いバリア性に優れる、柔軟な深絞り食品包装用多層フィルムを提供する。
【解決手段】最外層がポリブチレンテレフタレート単独重合体および/またはポリブチレンテレフタレート共重合体、最内層がヒートシール性樹脂にて構成され、最外層と最内層との間にはガスバリア性樹脂層が配置され、各層間には接着性樹脂層が配置されて成り、そして、そして、ヒートシール性樹脂が、(A)密度0.923〜0.963g/cmのポリエチレン樹脂、または(B)添加剤としてメタロセンポリオレフィン又はスチレン系エラストマーを1〜30重量%プレンドした密度0.923〜0.963g/cmのポリエチレン樹脂から成る深絞り食品包装用多層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は深絞り食品包装用多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
深絞り包装は、食品包装の分野で周知であり、プラスチックフィルム(底材)を加熱成形して1個又は複数個の容器(くぼみ)を形成し、その中に食品を入れ、開口部をプラスチックフィルム等(蓋材)で覆い、その周辺部を容器に接着又は溶着固定することによって包装する方法である。そして、成型された容器内を真空にする包装は「真空パック」、容器内にガスを充填する包装は「ガスパック」、成型容器そのままの包装は「ブリスターパック」と呼ばれる。
【0003】
底材に使用されるプラスチックフィルムは、深絞り包装に良否に影響を与えるため、従来より、数多くの提案がなされている。例えば、最外層に6−66ナイロンを使用した深絞り包装用共押出複合フィルム(特許文献1)、最外層にPPを使用した深絞り包装体(特許文献2)が知られている。
【0004】
ところが、容器の最外層がナイロンで構成された場合は、ナイロンは比較的に吸湿性であるため、冷凍保存り際に、吸湿された水分の凍結によるヒビ割れ発生が危惧される。また、容器の最外層がポリプロピレン樹脂で構成された場合は、耐ピンホール性などの点で十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−145699号公報
【特許文献2】特開2005−289403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その目的は、商品の型崩れが発生し難く、耐ピンホール性、光沢、臭いバリア性に優れる、柔軟な深絞り食品包装用多層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、最外層がポリブチレンテレフタレート単独重合体および/またはポリブチレンテレフタレート共重合体、最内層がヒートシール性樹脂にて構成され、最外層と最内層との間にはガスバリア性樹脂層が配置され、各層間には接着性樹脂層が配置されて成り、そして、ヒートシール性樹脂が、(A)密度0.923〜0.963g/cmのポリエチレン樹脂、または(B)添加剤としてメタロセンポリオレフィン又はスチレン系エラストマーを1〜30重量%プレンドした密度0.923〜0.963g/cmのポリエチレン樹脂から成ることを特徴とする深絞り食品包装用多層フィルムに存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により前記の課題が解決される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。以下において、本発明の食品包装用多層フィルムを「多層フィルム」と略記する。
【0010】
(最外層)
本発明の多層フィルムの最外層は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)単独重合体および/またはPBT共重合体にて構成される。PBT単独重合体およびPBT共重合体としては、包装フイルムの分野に常用されている公知の重合体(樹脂)を使用することが出来る。共重合体の共重合成分としては次の各成分が挙げられる。
【0011】
すなわち、ジカルボン酸としては、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、P−オキシ安息香酸など)等が挙げられ、グリコ−ル成分としては、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、プロピレングリコ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリプロピレンオキシドグリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール等が挙げられる。これらのジカルボン酸成分およびグリコ−ル成分は、二種以上を併用してもよい。そして、テレフタル酸とブチレングリコールから誘導されるPBT単位の割合は、通常70〜99モル%、好ましくは85〜99モル%であり、残余が上記の共重合成分から誘導される単位である。
【0012】
本発明において、PBT共重合体の共重合成分としては、ポリテトラメチレンオキシドグリコールが推奨され、その数平均分子量は、好ましくは300〜6000、更に好ましくは500〜2000の範囲である。第三成分としてポリテトラメチレングリコールを共重合させたPBT共重合体としては、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製の「ノバデュラン5505」等がある。
【0013】
本発明の多層フィルムは、最外層がPBT単独重合体および/またはPBT共重合体によって構成されているため、最外層がPPのようなポリオレフィン系樹脂で構成された場合に比し、光沢、耐ピンホール性などの点で優れる。
【0014】
(最内層)
本発明の多層フィルムの最内層はヒートシール性樹脂にて構成されるが、その内容については後述する。
【0015】
(ガスバリア性樹脂層)
本発明の包装用多層フィルムの最外層と最内層との間にはガスバリア性樹脂層が配置される。ガスバリヤ性樹脂層の構成樹脂としては、ポリアミド(PA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。これらの中では、ポリアミド(PA)又はエチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物(EVOH)が好ましく、特にポリアミド(PA)が好ましい。ポリアミドの具体例としては、ナイロン4、6、7、8、11、12、6・6、6・10、6・11、6・12、6T、6/6・6、6/12、6/6T、6I/6T等が挙げられる。
【0016】
(接着性樹脂層)
本発明の包装用多層フィルムの前記の各層間には接着性樹脂層が配置される。接着性樹脂層を構成樹脂としては、接着性樹脂層は、通常、変性ポリオレフィン樹脂(APO)にて構成される。斯かるAPOは、エチレン成分および/またはプロピレン成分を主たる構成成分としたポリオレフィン樹脂にα,β不飽和カルボン酸またはその誘導体を共重合および/またはグラフト重合させて製造される。
【0017】
上記のポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸ナトリウム共重合体などが挙げられる。
【0018】
上記の共重合されるα,β−不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸亜鉛、酢酸ビニル、グリシジルメタクリレート等が挙げられ、分子鎖中に40モル%以内の範囲内で含まれる。共重合変性ポリオレフィン樹脂としては、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸ナトリウム共重合体などが挙げられる。
【0019】
上記のグラフトされるα,β−不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸あるいはこれらの酸無水物、または、これらの酸のエステル等が挙げられる。これらの変性用化合物の中では、特に無水マレイン酸が好適である。また、グラフト量は、ポリオレフィン樹脂に対し0.01〜25重量%、好ましくは0.05〜1.5重量%の範囲から選択される。
【0020】
グラフト反応は、常法に従い、通常、ポリオレフィン樹脂とα,β−不飽和カルボン酸またはその誘導体とを樹脂温度150〜300℃で溶融混合することにより行われる。グラフト反応に際しては、反応を効率よく行なわせるために、α,α′−ビス−t−ブチルパーオキシ−p−ジイソプロピルベンゼン等の有機過酸化物を0.001〜0.05重量%配合するのがよい。
【0021】
本発明の多層フィルムの特徴の1つは、最内層を構成するヒートシール性樹脂が、(A)密度0.923〜0.963g/cmのポリエチレン樹脂、または(B)添加剤としてメタロセンポリオレフィン又はスチレン系エラストマーを1〜30重量%プレンドした密度0.923〜0.963g/cmのポリエチレン樹脂から成る点にある。
【0022】
ポリエチレン樹脂の密度が0.923g/cm未満の場合は、その融点が通常122℃未満と低く、ボイル殺菌後に角部が丸くなり、また、フランジ(ヒートシール部)がカールし、商品価値が損なわれる。一方、ポリエチレン樹脂の密度が0.963g/cmを超える場合、その融点は通常134℃を超えて高く、硬いが故に耐ピンホール性に劣り、また、白濁化によって透明性が低下し、商品価値が損なわれる。好ましい密度は0.926〜0.950g/cmであり、融点で言えば、124〜130℃である。
【0023】
上記ポリエチレン樹脂としては、例えば、線状低密度ポリエチレン(L−LDPE)が挙げられ、L−LDPEは、エチレンと炭素数3〜13のα−オレフィンとの共重合体(エチレン含有量:86〜99.5モル%)であり、エチレンと共重合されるα−オレフィンとしては、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1等が挙げられる。上記の密度を有するポリエチレン樹脂としては、日本ポリエチレン株式会社の商品「ノバテックLL」や「ノバテックHD」シリーズの中から選択することが出来る。
【0024】
添加剤としてのメタロセンポリオレフィンとしては、日本ポリエチレン(株)製の商品名「カーネル」、「ハーモレックス」等のメタロセンポリエチレン(M−PE)、日本ポリプロ(株)製の商品名「WINTEC(ウィンテック)」、「WELNEX(ウェルネックス)」等のメタロセンポリプロピレン(M−PP)等が挙げられる。
【0025】
また、添加剤としてのスチレン系エラストマーとしては、芳香族ビニル単量体と共役ジエンとのランダム共重合体、芳香族ビニル単量体と共役ジエンとのブロック共重合体(AB型、ABA型、テーパー型、ラジアルテレブロック型など)が挙げられる。また、スチレン系エラストマーには、上記ブロック共重合体の水素化物のほかに、芳香族ビニル単量体ブロックと芳香族ビニル単量体−共役ジエンランダム共重合体のブロック体の水素化物などが含まれる。ここで、芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等のα−アルキルスチレン、t−ブチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジメチルスチレン等の核置換アルキルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のハロ置換スチレン、ビニルナフタレン等が挙げられ、特にスチレンが好ましい。また、共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3−ジメチルブタジエン等が挙げられ、特にブタジエン、イソプレンが好ましい。スチレン系エラストマーとしては、この他、スチレン−エチレン−α−オレフィン共重合体も含まれる。
【0026】
上記スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン(ブロック)共重合体の水素添加物、スチレン−イソプレン(ブロック)共重合体の水素添加物、スチレン−ブタジエンランダム共重合体の水素添加物、スチレン−ペンタジエンの(ブロック)共重合体およびその水素添加物、スチレン−2,3−ジメチルブタジエン(ブロック)共重合体およびその水素添加物などが挙げられる。
【0027】
前記の添加剤のブレンド量(1〜30重量%)は、密度0.923〜0.963g/cmのポリエチレン樹脂に対する割合を意味し、ブレンド量1が重量%未満の場合は透明性を付与する効果に欠け、ブレンド量が30重量%超過の場合はボイル殺菌の際に包装容器の内面が融着する。添加剤の好ましいブレンド量は10〜20重量%である。
【0028】
本発明の多層フィルムは、共押出しインフレーション法にて得られ、実質的には未延伸フィルムである。具体的には、例えば水冷急冷法を採用した共押出しインフレーション法によって製造することが出来る。ここに、水冷急冷法とは、一般的には、ダイから押し出されたフイルムをダイの下方に配置した水槽に導いて冷却した後に巻き取る方法を言う。通常、環状ダイの下方にサイズ用リングが内部に備えられた水槽を配置し、当該水槽の下方に安内板と巻取ロールとを順次に配置して成る設備を使用し、そして、環状ダイから複数種類の原料樹脂を実質的に延伸が起こらない様に共押し出しし、サイズ用リングの間を通過させて冷却した後、積層フイルムの円筒体を安内板を通して巻取ロールに供給して折り畳み、ダブルフイルムとして巻き取る。
【0029】
上記の様にして得られる本発明の多層フィルムは、通常、長さ方向(MD)及び幅方向(TD)の加熱収縮率(JIS K 6734)が何れも5%以下である。
【0030】
本発明の多層フィルムにおいて、最外層の厚さは、通常2〜50μm、好ましくは4〜30μm、最内層の厚さは、通常20〜100μm、好ましくは30〜70μm、ガスバリヤ性樹脂層の厚さは、通常5〜70μm、好ましくは10〜50μm、各層間に配置される接着性樹脂層の厚さは、通常2〜30μm、好ましくは5〜15μmとされる。
【0031】
本発明の多層フィルムは、底材として各種の食品の深絞り包装に使用されるが、蓋材としては、本発明の多層フィルムの他、延伸ナイロン(ONy)/LLDPE、未延伸ポリプロピレン(CPP)/ONy/LLDPE等の蓋材として従来公知の多層フィルムが使用される。特に、本発明の多層フィルムは、その特徴を活かし、包装後に90℃以上125℃未満の加熱殺菌工程のある深絞り包装工程で使用するのが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1〜8及び比較例1〜6:
先ず、表1に示す材料を使用し、水冷急冷法を採用した共押出インフレーション法によって、表2に示す総厚み150μの多層フィルムを製膜した。次いで、底材に表2に示す多層フィルムを使用し、蓋材に表3に示す多層フィルムを使用し、ムルチバック社製の深絞り成型機「R530」によって、ハンバーグを真空包装し、真空包装後、96℃で30分間ボイル殺菌した。そして、以下の各項目についての評価を行った。結果を表4及び表5に示す。
【0034】
(1)ヒートシール性:
底材と蓋材をヒートシールした際にシール部の白化や熱盤への貼付きが無いかを確認した。
【0035】
(2)角部の収縮とフランジのカール:
ボイル殺菌後に角部の収縮具合を比較した。角部が成型時の状態を保持していた場合は「○」、角部が成型時の状態より丸くなっていた場合は「×」とした。また、10mm幅のフランジのカール高さが2mm未満の場合は「○」、2mm以上の場合は「×」とした。
【0036】
(3)臭いバリア性:
ボイル殺菌後にボイル槽又は包装材から内容物の臭いが漏れているか官能試験で確認した。臭いが漏れていなかった場合は「○」、臭いが漏れていた場合は「×」とした。
【0037】
(4)光沢:
ボイル殺菌後に目視にて比較した。光沢が失われていなかった場合は「○」、光沢が失われた場合は「×」とした。
【0038】
(5)耐ピンホール性:
ボイル殺菌後に、−15℃の冷凍庫に24時間保管し、ダンボールケースに5段積みに詰めた、1.5mより5回落下させ、ピンホールの発生の有無を確した。ピンホールが発生しなかった場合は「○」、ピンホールが発生した場合は「×」とした。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
最外層がポリブチレンテレフタレート単独重合体および/またはポリブチレンテレフタレート共重合体、最内層がヒートシール性樹脂にて構成され、最外層と最内層との間にはガスバリア性樹脂層が配置され、各層間には接着性樹脂層が配置されて成り、そして、そして、ヒートシール性樹脂が、(A)密度0.923〜0.963g/cmのポリエチレン樹脂、または(B)添加剤としてメタロセンポリオレフィン又はスチレン系エラストマーを1〜30重量%プレンドした密度0.923〜0.963g/cmのポリエチレン樹脂から成ることを特徴とする深絞り食品包装用多層フィルム。
【請求項2】
添加剤がメタロセンポリエチレン又はメタロセンポリプロピレンである請求項1に記載の深絞り食品包装用多層フィルム。
【請求項3】
包装後に90℃以上125℃未満の加熱殺菌工程のある深絞り包装工程で使用される請求項1又は2に記載の深絞り食品包装用多層フィルム。

【公開番号】特開2013−86276(P2013−86276A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225955(P2011−225955)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(591200575)四国化工株式会社 (16)
【Fターム(参考)】