説明

混合方法

【課題】液体と試薬を混合する単純で効果的な方法であって、溶けにくい試薬の溶解促進に適した方法の提供。
【解決手段】本発明の方法は、互いから毛管距離のところにある実質的に平行な壁と壁の間に配置された液体薄層内で混合を実施する。混合は、壁を実質的に液体層の平面内で運動させ、前記運動を液体に接した壁によって生じた毛管力と釣り合わせ、液体層と周囲の媒体の間の界面をこの界面が弾性膜として機能するように選択することによって行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄い液体層(液体薄層)内で混合を実施する方法に関する。より詳細には本発明は、定量および定性分析ができるように使い捨て装置内で混合を実施する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨て装置、いわゆるミクロキュベット(microcuvette)が知られている(例えば、特許文献1および2を参照)。これらのミクロキュベットは、血液などの液体試料の採取、液体試料と試薬の混合、および試薬と混合した試料の直接光学分析を目的とする。ミクロキュベットは、測定領域を含む空洞を有する本体を備える。空洞は、入口を介して本体の外側の環境と連絡する。さらに空洞は所定の容積を有し、毛管力によって試料がその中に入るように設計される。乾性試薬が、測定空洞の表面に塗布される。この種のミクロキュベットは商業的にかなりの成功を収めており、現在は、例えば全血中のヘモグロビンおよびグルコースの定量に使用されている。この成功に寄与した重要な要因は、試料採取から応答までの時間が非常に短いということである。この時間が非常に短い1つの理由は、ヘモグロビンおよびグルコースの定量に使用される試薬組成物が、ミクロキュベットの毛管空洞に吸入された小量の血液に簡単に溶け、その結果、試薬成分が一様に分布した混合が実用上即座に得られることである。しかしこれらの従来技術ミクロキュベットは、溶けにくくかつ/または拡散に問題があり、したがって溶解および反応に比較的長い時間を要する試薬を必要とする成分の定量にはそれほど適していないことが判っている。
【特許文献1】特許刊行物EP469097号
【特許文献2】WO96/33399号
【0003】
ミクロキュベット内に存在する毛管薄層内で液体と試薬を混合することを目的に特に開発された方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この方法では、混合を達成する手段として小さな磁性粒子が使用され、実際の混合操作は、特別に設計され、特別な方法で配置され、所定の方法で操作される外部磁石を使用して実施される。混合手順の後、磁性粒子は試料の分析対象部分から分離される。この方法はある種の液体/試薬に対しては非常に有効であるが、磁石の特別な構成および設計が必要なため工業的および商業的見地からは特に魅力的というわけではない。繊細な磁性粒子を使用し、混合段階後にこれらの粒子を分離するのには時間と労力が必要であり、このことがこの方法を複雑で比較的費用のかかるものとしている。さらに、磁性粒子によって試料と試薬の両方に化学的障害が生じる危険もある。
【特許文献3】米国特許第4936687号
【0004】
さらに、毛管液体層内での混合の方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。この方法によれば、混合は、互いに向かって相対運動することができる2枚の平行なプレートを備える反応容器内で実施される。反応容器を充てんするときにはわずかに数マイクロリットルの試薬および試料をプレートの特定の接着面に或いは接着面内のさまざまな位置に適用し、試料と試薬の混合は、プレートを試料と試薬によって形成された液体層に垂直に互いに向かって運動させることによって実施される。したがってこの従来技術の方法では、試料と試薬がともに液体として存在する必要があり、これによって、溶解しにくい乾性試薬を用いる上記ミクロキュベットに比べて混合の実施が容易となる。液体層を層の平面に対して垂直に運動させるこの種の混合は、上記種類のミクロキュベット内で混合を達成することが確かめられているが、十分に有効であるとは見られていない。
【特許文献4】EP75605号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
毛管薄層内で液体と試薬を混合する単純で効果的な方法であって、さらに溶けにくい試薬の溶解促進に適した方法があれば、ミクロキュベットおよびそれと同じ基本設計の装置の双方で実施できる定量の数は増大するであろう。その結果、現在のところ実施できない分析、または試料採取と分析を実質的に同時に実施する使い捨て装置および試料の毛管吸入に関して以前には関心が持たれなかった分析も、興味を呼ぶものとなろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、実質的に面平行な2つの壁の間に配置された毛管液体層内での混合が、互いに対して実質的に不動の壁を実質的に液体層の平面内で運動させ、この運動を液体に接した壁によって生じた毛管力と釣り合わせ、液体層と周囲の媒体の間の界面をこの界面が弾性膜として機能するように選択することによって実施される。
【0007】
この方法は、比較的溶解しにくいある乾性試薬のより速やかな溶解、ならびに上記種類の使い捨て装置またはミクロキュベット内にある液体薄層内での試料と試薬のより効率的な混合を達成するのによく適している。しかしこの混合方法は原則的に、互いから毛管距離のところに配置された実質的に平行な壁と壁の間の薄層の形態をとる全ての液体に対して適用することができる。
【0008】
毛管力は、壁の材質、試薬などの添加剤を含む試料の種類、そして壁と壁の間の距離によって決まる。運動の振動数および振幅パラメータは、個々のケースで存在する毛管力と釣り合っていなければならず、これらのパラメータは、振動数/振幅が大きすぎる場合に起こる可能性がある、液体の一部がミクロキュベットから漏れる危険なしに混合を実施するのに十分なものでなければならない。
【0009】
液体試料の体積が平行な壁によってのみ制限され、空洞内に封じ込められていない場合には、弾性膜の長さ、すなわち空気などの周囲の媒体と試料との界面の長さに上限が存在する。下限は、試料液体、試薬、適当なうなり振動数、空洞の深さなどに基づいて実験的に決定される。
【0010】
適切な運動条件が存在するときには、界面が、試料液体中の化学化合物および溶解した或いは溶解途中の試薬組成物中の化合物を液体の運動とともに運動させる弾性膜として機能し、その結果、液体薄層中の試料液体と試薬が混合される。
【0011】
したがって本発明によれば、液体試料と試薬の液体層を含む装置を実質上液体層の平面内で、所望の混合を達成するのに十分な時間および速度で運動させることによって混合が実施される。運動は回転運動でもよいが、往復運動のほうが好ましい。これらの運動を任意に組み合わせて使用することもできる。前述のとおり、この新規な混合方法の重要な特徴は、液体試料が装置から流れ出ないように運動を毛管力と釣り合わせることにある。毛管力は、試料の種類および装置の壁の材料によって決まり、釣り合いをとる操作は実験的に実施することが好ましい。先に指摘したように、試料と周囲の環境との間の界面をこの界面が弾性膜として機能するように選択することは重大な特徴である。使い捨て装置またはミクロキュベットの入口の試料と空気の間の界面が弾性膜として機能するのは、この入口の長さが十分であるか、または装置が、実質的に非毛管空洞であり、別の弾性膜を形成することができる少なくとももう一つの空洞を含む場合に限られる。後者の場合には、キュベットの入口が、測定空洞を画定する実質的に面平行な壁と壁の間の距離よりも大きい必要はないが、前者の場合、すなわち試料液体のボリュームが周囲の媒体(空気)に対して連続する界面(連続する膜)を形成するときには、入口の長さが、測定空洞内の液体層の深さの少なくとも5倍、好ましくは少なくとも10倍でなければならない。
【0012】
混合に適した本発明に基づくミクロキュベットは、光路を画定し、互いから所定の距離のところに配置された実質的に平行な2つの面によって画定された測定空洞を有する本体を備える。測定空洞は所定の容積を有し、毛管入口が空洞を本体の外側の環境に接続する。毛管力の作用下で試料は入口を通して測定空洞内に吸入される。所定量の乾性試薬が測定空洞内に配置される。例えば空洞の表面に塗布される。ミクロキュベットの壁は透明かつ非弾性であることが好ましい。キュベットの容積は0.1μl〜1mlとすることができ、薄層の厚さは0.01〜2.00mm、好ましくは0.1〜1.0mmとすることができる。キュベットの入口または開口のところの壁と壁の間の距離は0.01〜1mmであることが好ましく、測定空洞内での壁と壁との間の距離よりも大きいことが好ましい。
【0013】
本発明に基づく混合方法は当然ながら、光学測定、例えば比濁またはネフェロ測定に使用することが目的ではない装置の中での混合にも適しているが、液体薄層内での混合一般に適用可能である。その他の種類の測定の例は放射能測定であり、この場合には光路長および透明な壁が不要である。一般的には、試料採取装置は目的とする分析に関して設計され、試料採取装置の共通の特徴は、毛管力の作用下で試料を毛管空洞中に吸入することができ、試料と試薬の混合が毛管液体層内で実施されるということにあると言うことができる。
【0014】
本発明に基づく混合方法は、試料採取とミクロキュベットなどの毛管使い捨て装置内の液体試料中の成分の定量とを実質的に同時に実行することが望ましいときに特に適用可能である。この試料採取/定量は、
−定量する成分を含む試料を、前記成分用の乾性試薬を少なくとも含む使い捨て装置に挿入する段階であって、この装置には、実質的に面平行な2つの壁によって画定された毛管空洞内の入口を通して毛管力の作用下で試料を吸い込むことができる段階、
−試薬の溶解および液体薄層内での試薬と試料の混合を促進するために装置を運動させる段階であって、前記層が、空洞を画定する面平行な壁と壁の間に形成され、前記運動が実質的に液体層の平面内で起こり、壁によって液体に及ぼされる毛管力と釣合いがとられ、液体層と周囲の媒体の間の界面が弾性膜として機能するよう界面が選択される段階、および
−その結果得られた混合物を測定領域内での測定にかける段階
を含む。
【0015】
本発明に基づく混合方法の重要な特徴は、運動が実質的に液体層の平面内で実施されること、すなわち運動が毛管空洞の主平面に実質的に平行に実施されることにあり、この運動は、実験的に決定された振動数および振幅で往復運動する振動であることが好ましい。主平面からの小さな偏差は許容されるが、この面からの偏差が20゜を超えると混合効果が明らかに低下することが判っている。
【0016】
任意の種類の試薬をキュベット内に適用できる場合でも、タンパク質、炭水化物などの比較的溶解しにくい試薬を使用するときに特別な利点が得られる。
【0017】
本発明の測定方法で分析するのに特に興味深い成分は、タンパク質、例えばアルブミンやその他のタンパク質などの高分子化合物である。その他のタンパク質には、例えば比濁測定が可能な抗原−抗体凝集体を生成することができるCRP(C反応性タンパク質)がある。本発明の応用としてさらに、多糖などの非タンパク質ベースの抗原を含めることができる。本発明の原理は、比濁測定による検体の定量が可能な多くの文脈で適用可能である。ミクロキュベット内でのこのような光学測定では、所定の光路長を有する壁が測定領域に配置される。
【0018】
ミクロキュベット内での混合が実用上広範に使用される分析の例は抗原抗体反応に基づく分析であり、人間のアルブミンに対する抗体を尿試料中のアルブミンと反応させる尿中のμアルブミンの定量などがある。所定量の抗アルブミン抗体をPEG6000とともにキュベットの空洞に供給し、乾燥させる。所定の容積およびすき間を有するキュベット空洞の中に試料を入れると、キュベットを振動数60ビート/秒で振動させた場合に試薬が溶解する。尿試料中に存在するアルブミンが溶解した抗体と反応し、凝集体が形成される。この凝集体によって、試料中のアルブミン濃度に比例し470nmで分光測光可能な濁りが生じる。これに対応して、血液または血漿中のアルブミンまたはその他のタンパク質の分析を実行することが可能となる。本発明に基づく混合は迅速で再現可能な応答の重要な条件であり、ある型の分光光度計で実施することが好ましい(特許文献5を参照)。
【特許文献5】スウェーデン特許出願第9800072−2号
【0019】
好ましい実施形態によれば、実質的に非毛管の空洞が乾性試薬を含む毛管測定空洞に隣接して配置され、入口および測定空洞と実質的に一列に配置される。この実施形態の液体試料を本発明に基づいてキュベット内に吸い込ませ混合するときには、空洞内の液体と通常は空気である非毛管空洞内に存在する媒体が、やはり弾性膜として機能する別の界面を形成する。
【実施例】
【0020】
本発明の測定キュベットを添付図面に示す。
【0021】
図1において、1はミクロキュベットを示し、2は、試料をキュベット内に吸い込ませたときに周囲の空気に対して弾性膜を形成する毛管入口を示す。
【0022】
同様に、図3および4に示したミクロキュベットでは、空気に対して2つの弾性膜が形成され、3は毛管入口を示し、4は実質的に非毛管のより深い空洞を示す。
【0023】
本発明に基づく撹拌の例を以下に示す。
【0024】
空洞の深さとうなり振動数の関数として撹拌を調べた。同じ設計の空洞を有するキュベットを使用した。
【0025】
【表1】

【0026】
この結果によれば、撹拌は、うなり振動数と空洞の深さの両方によって決定される。良好な撹拌は、深さ400μmのキュベットでの60ビート/秒の振動で得られたが、30ビート/秒では得られなかった。空洞の深さがこれよりも浅くなると撹拌は起こらない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】ミクロキュベットの斜視図である。
【図2】図1のミクロキュベットの断面図である。
【図3】2つの空洞を有するミクロキュベットの斜視図である。
【図4】図3のミクロキュベットの断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ミクロキュベット
2 毛管入口
3 毛管入口
4 空洞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使い捨て装置内の液体薄層内で混合を実施する方法であって、この装置(1)が、液体試料中の成分を分析させるために、入口(2,3)と、2つの面平行な壁により画定された毛管空洞とを有し、乾燥試薬を含み、前記入口(2,3)が前記毛管空洞を、使い捨て装置(1)外の周囲媒体に接続し、この入口(2,3)が、前記面平行な壁間の距離の少なくとも5倍、好ましくは少なくとも10倍である長さを有し、或いは、使い捨て装置(1)が、前記毛管空洞に隣接して配置した非毛管空洞(4)を含む方法において、
定量する前記成分を含む液体試料を、毛管力作用で使い捨て装置(1)内へ吸い込んで、この使い捨て装置(1)の毛管空洞内に液体薄層を形成する段階と、
使い捨て装置(1)を実質的に前記液体薄層の平面内で運動させ、この運動を、前記面平行な壁が該液体薄層へ及ぼす毛管力と釣り合わせて、該液体薄層と周囲媒体の間の界面を弾性膜として動かし、前記毛管空洞の液体薄層内で前記乾燥試薬の溶解と、該乾燥試薬と前記液体試料の混合とを促進する段階とを含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記動きが、実質的に往復動である、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記面平行な壁間の距離が最大で1000μm、好ましくは400μmから600μmである、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法において、前記面平行な壁が透明で、実質的に非弾性である、方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法において、前記分析が光学測定である、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記光学測定が比濁測定またはネフェロ測定である、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記成分が、タンパク質や炭化水素などの高分子化合物である、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、前記試薬が抗体またはレクチンである、方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の方法において、混合時に、前記試薬と高分子化合物が、抗体−抗原複合体またはレクチン−炭水化合物複合体から成る凝集体を形成する、方法。
【請求項10】
請求項2に記載の方法において、前記高分子化合物が、アルブミン、C反応性タンパク質などの血漿タンパク質から成る、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−53201(P2009−53201A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−249582(P2008−249582)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【分割の表示】特願2000−540426(P2000−540426)の分割
【原出願日】平成11年1月14日(1999.1.14)
【出願人】(500154353)ヘモク アクチボラゲット (11)
【Fターム(参考)】