説明

混合物の分離方法

【課題】分離システムや分離装置に使用される金属材料が支持液体に起因して腐食する恐れがなく、分離した粒体から付着物を取り除く後工程や支持液体のリサイクル工程を必要としない勾配磁場を用いた混合物の分離方法を提供する。
【解決手段】
本発明の混合物の分離方法は、複数種類の物質の粒体を含む混合物と支持液体とを混合して勾配磁場を印加することで、複数種類の物質の粒体を、鉛直方向について種類に応じて異なる位置に配置する混合物の分離方法であって、支持液体19には、パーフルオロカーボンが使用される。支持液体19として使用するパーフルオロカーボンに、酸素を加圧溶解させてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種類の粒体を含む混合物を勾配磁場を利用して種類ごとに分離する、又は当該混合物から特定の種類の粒体を分離する混合物の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁場勾配を有する磁場(以下、「勾配磁場」)による磁気アルキメデス効果を用いて、反磁性物質を支持液体中に浮遊又は浮揚させることは知られている。例えば、下記の特許文献1と非特許文献1には、磁気アルキメデス効果を用いて複数種類のプラスチック粒体からなる混合物を種類ごとに分離する磁気分離方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−59026号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】木村恒久、間々田省吾「化学と教育 50巻4号」、第264〜265ページ、日本化学会、2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記文献に開示された磁気分離方法では、支持液体として塩化マンガン水溶液が使用されている。しかしながら、塩化マンガンなどの遷移金属のハロゲン化合物を水に溶解させた支持液体を用いると、分離システムや分離装置に使用される(例えば、分離槽や管路を形成する)ステンレス鋼などの金属材料が腐食する点で好ましくない。このような支持液体中のハロゲンイオンは、金属材料表面の不動態皮膜を破壊して孔食や隙間腐食を引き起こす原因となる。
【0006】
また、遷移金属のハロゲン化合物を水に溶解させた支持液体を用いて混合物を磁気分離する場合には、分離した物質に付着したハロゲン化合物を除去する後工程が必要となる。さらに、使用済みの支持液体からハロゲン化合物を回収するリサイクル工程も必要とされる。
【0007】
以上の問題があることから、上記文献に開示された磁気分離方法の実用化は進んでいない。本発明は、混合物を含んだ支持液体に勾配磁場を印加することで混合物を分離する混合物の分離方法であって、分離システムや分離装置に使用される金属材料が支持液体に起因して腐食する恐れがなく、上述したような後工程やリサイクル工程を必要としない混合物の分離方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の混合物の分離方法は、複数種類の物質の粒体を含む混合物と支持液体とを混合して勾配磁場を印加することで、前記複数種類の物質の粒体を、鉛直方向について種類に応じて異なる位置に配置する混合物の分離方法において、前記支持液体は、パーフルオロカーボンであることを特徴とする。前記複数種類の物質の粒体のある種類の粒体又は全ての種類の粒体は、反磁性体であってよい。
【0009】
本発明の第2の混合物の分離方法は、複数種類の物質の粒体を含む混合物と支持液体とを混合して勾配磁場を印加することで、前記複数種類の物質の粒体に含まれる特定の種類の粒体を前記支持液体中にて浮遊又は浮揚させて、前記混合物から前記特定の種類の粒体を分離する混合物の分離方法において、前記支持液体は、パーフルオロカーボンであることを特徴とする。前記特定の種類の粒体は、反磁性体であってよい。
【0010】
本発明の第1及び第2の混合物の分離方法では、前記パーフルオロカーボンに酸素を加圧溶解させてよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の混合物の分離方法では、支持液体としてパーフルオロカーボンが使用されているので、分離システムや分離装置に使用されているステンレス鋼などの金属材料が支持液体に起因して腐食する恐れはない。パーフルオロカーボンには、溶存酸素の常磁性によって支持液体として好適な常磁性と体積磁化率(の大きさ)とがもたらされるので、本発明では、従来技術のように、遷移金属のハロゲン化合物を支持液体の調製に使用する必要はなく、それ故に、従来技術で必要とされるハロゲン化合物の分離工程及びリサイクル工程は不要となる。さらに、本発明では、パーフルオロカーボンに酸素を加圧溶解させることで、支持液体の体積磁化率をより大きくして、印加する勾配磁場及び/又はその磁場勾配の大きさを小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の混合物の分離方法を実施するための分離システムの概要を示す説明図である。
【図2】本発明の混合物の分離方法に係る第1実施例の説明図である。
【図3】本発明の混合物の分離方法に係る第1実施例の説明図である。
【図4】本発明の混合物の分離方法に係る第5実施例の説明図である。
【図5】本発明の混合物の分離方法に係る第5実施例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳述する。本発明は、勾配磁場を用いた混合物の分離方法において、パーフルオロカーボンを支持液体として使用することを特徴とする。本発明では、支持液体と混合物を混合させて(或いは、支持液体に混合物を混入、懸濁、又は分散させて)、勾配磁場を印加することで、支持液体中にて粒体が種類ごとに異なる位置又は場所に配置される。また、本発明では、支持液体と混合物を混合させて、勾配磁場を印加することで、支持液体中にて特定の種類の粒体が浮遊又は浮揚して、混合物から当該粒体が分離される。
【0014】
本発明の原理は、次の通りである。支持液体中の粒体に、鉛直方向(z方向)の磁場勾配を有する勾配磁場を印加すると、液体中の単位体積当たりの粒体のみかけの重さは、以下の式で与えられる(zは、鉛直上向きを正とする)。
−ρ)g−(χ−χ)/μB∂B/∂z
ここで、Bは磁場の大きさ、gは重力加速度、ρは粒体の密度、χは粒体の体積磁化率、ρは支持液体の密度、χは支持液体の体積磁化率、gは重力加速度、μは真空中の透磁率である。粒体のみかけの重さが負である場合、粒体は支持液体中にて上昇し、粒体のみかけの重さが正である場合、粒体は支持液体中にて下降又は沈降する。粒体のみかけの重さがゼロである場合、所謂磁気アルキメデス効果によって、粒体は、鉛直方向のある位置若しくは高さに浮遊又は浮揚する。
【0015】
ρ−ρ<0である場合(つまり、勾配磁場が印加されないと、粒体が支持液体の液面に浮遊する場合)、χ−χ<0なる支持液体を選択し、磁場と磁場勾配の積を正で大きくすると(例えば、下向きに大きさが単調に減少する鉛直下向きの磁場を印加すると)、粒体のみかけの重さを正にできる。粒体のみかけの重さが正である場合、(勾配磁場がないと支持液体の液面に浮揚する)粒体は支持液体中にて下降する。そして、粒体のみかけの重さがゼロになる位置又は高さに至ると、粒体は、支持液体中にてその位置で安定に浮遊又は浮揚する。
【0016】
ρ−ρ>0である場合(つまり、勾配磁場が印加されないと、粒体が支持液体中にて下降する場合)、χ−χ<0なる支持液体を選択し、磁場と磁場勾配の積を負で大きくすると(例えば、上向きに大きさが単調に減少する鉛直上向きの勾配磁場を印加すると)、粒体のみかけの重さを負にできる。粒体のみかけの重さが負である場合、(勾配磁場がないと下降する)粒体は支持液体中にて上昇する。そして、粒体のみかけの重さがゼロになる位置に至ると、粒体は、支持液体中にてその位置にて浮遊する。
【0017】
粒体のみかけの重さがゼロになる位置又は高さは、粒体の物性、つまり、粒体の体積磁化率χと密度ρに応じて異なることから、複数種類の粒体は種類ごとに異なる位置に配置されて分離される。なお、ρ−ρ<0である場合にて、粒体のみかけの重さがゼロになる位置が、支持液体を貯蔵する容器の底面又はそれより下であると、粒体は、容器の底面に沈殿する。また、ρ−ρ>0である場合にて、粒体のみかけの重さがゼロになる位置が、支持液体の液面の位置若しくはそれより上であると、粒体は、支持液体の液面に浮遊する。
【0018】
本発明では、パーフルオロカーボンが支持液体として使用される。上記の式にて、χ−χ<0の条件を得るためには、支持液体を常磁性とし、さらには、その体積磁化率が大きいことが望ましい。パーフルオロカーボンは、常磁性体である酸素に対して高い親和性を有しており、パーフルオロカーボンの酸素の溶解度は、例えば、水と比較して数十倍も高い。豊富な溶存酸素が寄与することで、パーフルオロカーボンには、支持液体として機能するのに好適な磁性(常磁性)と好適な大きさの体積磁化率とがもたらされる。
【0019】
本発明において支持液体として使用されるパーフルオロカーボンとしては、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロノナン、パーフルオロデカン、ヘキサフルオロベンゼン、オクタフルオロトルエン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロブチルパーフルオロテトラヒドロフラン、パーフルオロ−1−イソプロポキシヘキサン、パーフルオロ−1,4−ジイソプロポキシブタンなどが挙げられる。
【0020】
従来技術では、遷移金属のハロゲン化合物の水溶液を支持液体として使用しているので、ステンレス鋼などの金属材料が腐食する恐れがあった。本発明では、腐食の原因となるハロゲンイオンは支持液体中に存在せず、さらには、支持液体として使用するパーフルオロカーボンは化学的に安定であるので、支持液体に起因した金属材料の腐食が生じる恐れはない。また、本発明では、パーフルオロヘキサンには、その溶存酸素によって支持液体として好適な特性が与えられるので、従来技術のように遷移金属のハロゲン化合物を支持液体の調製に使用する必要はなく、分離回収した粒体から遷移金属のハロゲン化合物を除去する工程は不要であり、さらには、使用済みの支持液体を処分する際に、支持液体から遷移金属のハロゲン化合物を回収するリサイクル工程も不要である。
【0021】
本発明では、常圧下にて空気中の酸素が飽和溶解したパーフルオロカーボンが支持液体として使用されてもよいが、酸素を加圧溶解させたパーフルオロカーボン(酸素の圧力又は分圧が常圧空気の酸素分圧を越える状態下にて酸素を溶解させたパーフルオロカーボン)を支持液体として使用するのが好ましい。パーフルオロカーボン中の溶存酸素の量をより増やすことで、支持液体の体積磁化率がより大きくなって、印加する勾配磁場の大きさやその磁場勾配の大きさを小さくできる。酸素の加圧溶解は、例えば、オートクレーブなどの圧力容器にパーフルオロカーボンを入れて、当該圧力容器に、酸素ガス、空気、又は酸素を含む気体を加圧封入することで行われる。その際の酸素のゲージ圧は、5.0MPaG以下とされるのが好ましく(ゲージ圧はゼロでもよい)、0.5〜2.0MPaGとされるのがより好ましい。パーフルオロカーボンを入れた圧力容器に酸素や空気を加圧封入する前に、酸素ガスや空気を液中ノズルを介してパーフルオロカーボン中に噴出して、溶存酸素の量を増加させる前処理が行われてもよい。
【0022】
本発明の作用効果が得られる限りにおいて、分離される混合物及び支持液体に印加する勾配磁場の大きさ及び向きは限定されないが、その磁場勾配は、鉛直成分を有する。本発明の作用効果が得られる限りにおいて、勾配磁場を生成する手段は限定されず、永久磁石、電磁石、超伝導バルク磁石、又は超伝導電磁石が使用されてよい。また、印加する勾配磁場は、複数の磁石が生成する磁場を合成することで与えられてもよい。
【0023】
本発明で分離される混合物は、複数種類の物質の粒体で構成されるが、それらの物質の少なくとも一種或いは各々は、反磁性体又は常磁性体とされるであろう。本発明で分離される混合物に強磁性体の粒体が含まれていても(又は混在していても)、本発明を用いて混合物を種類ごとに分離すること、又は混合物から反磁性体又は常磁性体である特定の種類の粒体を分離することは可能である。強磁性体の粒体は、支持液体中にて勾配磁場を与える磁石に吸引されて、例えば、支持液体を貯蔵する容器の上面又は底面に至るであろう。混合物に含まれる反磁性体又は常磁性体の粒体が、強磁性体の粒体と同じ位置又は高さに配置されなければ、強磁性体の粒体と、反磁性体又は常磁性体の粒体とを含む混合物を本発明を用いて分離することができる。本発明で分離される混合物に含まれる粒体としては、例えば、ナイロン6樹脂粒体、PET樹脂粒体、塩化ビニル樹脂粒体、シリカガラス粒体、赤色ガラス粒体、塩化カリウム粒体などがある。
【0024】
本発明の実施において、混合物の粒体の大きさは限定されないが、粒体の分離精度に影響を与えないような大きさにされるのが好ましい。粒体の大きさは、数十ミクロン〜数センチ程度にされるであろう。また、本発明の実施において、粒体の形状は限定されない。混合物は、例えば、複数の物質で構成された塊状物を破砕又は粉砕することで生成されてよく、粒体の形状は均一又は同一でなくともよい。
【0025】
本発明では、例えば、バッチ法若しくは連続法を用いて、混合物から種類ごとに粒体を分離回収してよく、又は、混合物から特定の種類の粒体が分離回収されてよい。図1は、本発明の混合物の分離方法を実施するための分離システムの一実施形態を示す説明図である。本実施形態の分離システム(11)は、コイル中心軸Aが鉛直方向に沿うように配置されたソレノイドコイル型超伝導電磁石(13)を備えており、超伝導電磁石(13)のボア内には、縦長で筒状の圧力容器(15)が配置されている。圧力容器(15)は、ステンレス鋼などの非磁性の金属材料で形成されるが、ガラスやプラスチック樹脂などの非金属の非磁性材料が使用されてもよい。
【0026】
圧力容器(15)には、支持液体供給ライン(17)の管路が接続されている。図示を省略した貯槽から支持液体供給ライン(17)を介して、混合物を含んだ支持液体(19)、つまりパーフルオロカーボンが圧力容器(15)内に供給される。圧力容器(15)の上部には、酸素供給ライン(21)の管路と、脱気ライン(23)の管路とが接続されている。酸素供給ライン(21)の上流側には、圧力容器(15)に供給される酸素を貯蔵する酸素ボンベ(25)が設けられており、酸素供給ライン(21)には、圧力容器(15)に供給される酸素ガスの圧力を調整する圧力調整バルブ(27)が設けられている。さらに、圧力容器(15)には、圧力容器(15)から支持液体を排出するための支持液体排出ライン(29)の管路と、分離回収する粒体の種類に応じて夫々設けられた第1乃至第3粒体回収ライン(31)(33)(35)の管路とが接続されている。
【0027】
本実施形態の分離システム(11)は、バッチ法を採用しており、酸素供給ライン(21)の圧力調整バルブ(27)が閉じられて、さらには、支持液体排出ライン(29)のバルブ(37)と、粒体回収ライン(31)(33)(35)のバルブ(39)(41)(43)とが閉じられた状態にて、支持液体供給ライン(17)のバルブ(45)が開けられて、圧力容器(15)に所定量の支持液体(19)が入れられる。脱気ライン(23)のバルブ(47)は開けられている。
【0028】
分離される混合物を含む所定量の支持液体(19)が圧力容器(15)に入れられると、支持液体供給ライン(17)のバルブ(45)は閉じられる。そして、酸素供給ライン(21)の圧力調整バルブ(27)が開けられて、圧力容器(15)内に酸素ガスが導入される。支持液体(19)の液面上の空間が酸素ガスで占められると、脱気ライン(23)のバルブ(47)が閉じられて、圧力容器(15)内の支持液体(パーフルオロカーボン)(19)に酸素を加圧溶解させる工程が行われる。圧力容器(15)内の酸素圧力は、圧力調整バルブ(27)の開度を調整することで所望の値にされる。
【0029】
本実施形態の分離システム(11)で分離される混合物は、3種類の粒体を含んでおり、図1にて、第1種類の物質で形成された粒体(以後、「第1粒体」)を白丸(○)で、第2種類の物質で形成された粒体(以後、「第2粒体」)を黒丸(●)で、第3種類の物質で形成された粒体(以後、「第3粒体」)を白三角(△)で示す。図示した例では、第1乃至第3粒体の各々は、反磁性体又は常磁性体であって、これら粒体の密度は、パーフルオロカーボンの密度よりも小さく、勾配磁場が存在しない場合には、(例えば、図2に示すように)支持液体(19)の液面に浮遊する。本実施形態の分離システム(11)では、図1に示すように、支持液体(19)の液面は、ソレノイドコイル型超伝導電磁石(13)のコイル中心軸A上にある磁石(13)の中心点Pに合うように、又は中心点Pの下に位置するように調整されるのが好ましい。なお、第1乃至3粒体の密度がパーフルオロカーボンの密度よりも大きい場合には、圧力容器(15)は、その下端が、磁石(13)の中心点Pに合うように、又は、磁石(13)の中心点Pの上に位置するように配置されるのが好ましい(図4及び図5参照)。
【0030】
溶解平衡に達して、圧力容器(15)内の支持液体(19)の溶存酸素が飽和すると、ソレノイドコイル型超伝導電磁石(13)が作動して、圧力容器(15)内の支持液体(19)と混合物に、例えば、下向きに大きさが単調に減少する鉛直下向きの勾配磁場が印加される(磁石(13)にて逆向きに電流が流されて、鉛直上向きの勾配磁場が印加されてもよい)。これにより、第1乃至3粒体は、支持液体(19)中を下降して、鉛直方向について夫々異なる位置又は高さにて安定浮揚する。
【0031】
図1は、支持液体中にて、第1乃至第3粒体が、鉛直方向について夫々異なる位置又は高さに配置された模様を示している。第1粒体回収ライン(31)は、第1粒体の回収に使用されて、その管路の一端は、圧力容器(15)内にて、分離された第1粒体の浮遊位置に合わせて配置されている。第1粒体回収ライン(31)のバルブ(39)が開けられると、支持液体(19)中にて浮遊している第1粒体は、圧力容器(15)内にある支持液体の一部と共に第1粒体回収ライン(31)に流れて、図示を省略した第1粒体用貯槽に送られる。第1粒体が圧力容器(15)から取り出されると、第1粒体回収ライン(31)のバルブ(39)は閉じられる。第2粒体及び第2粒体回収ライン(33)と、第3粒体及び第3粒体回収ライン(35)とについても同様である。
【0032】
混合物が種類ごとに分離回収されると、酸素供給ライン(21)の圧力調整バルブ(27)が閉じられて、圧力容器(15)への酸素ガスの供給は停止される。そして、支持液体排出ライン(29)のバルブ(37)と脱気ライン(23)のバルブ(47)とが開けられて、圧力容器(15)内の支持液体(19)が外部に排出される。なお、支持液体排出ライン(29)を介して粒体を回収することで、第1乃至第3粒体回収ライン(31)(33)(35)の何れかは設けられなくてもよい。
【0033】
ソレノイドコイル型超伝導電磁石(13)は常時作動されてもよい。この場合、支持液体(パーフルオロカーボン)(19)中の溶存酸素の濃度が上昇するにつれて、第1乃至第3粒体は、支持液体(19)中を下降し、圧力容器(15)内のパーフルオロカーボンの溶存酸素が飽和すると、鉛直方向について夫々異なる位置又は高さにて安定浮揚する。
【0034】
図1に示す例では、勾配磁場が印加されると、第1粒体(○)は、支持液体(19)中を下降して、第2粒体(●)と第3粒体(△)よりも上の位置で安定浮遊するが、第1粒体(○)は、勾配磁場が印加されても支持液体(19)の液面に留まったままでもよい。この場合、第1粒体は、第2粒体と第3粒体とが回収された後に、支持液体排出ライン(29)を介して圧力容器(15)内の支持液体(19)と共に回収される。また、図1に示す例では、勾配磁場が印加されると、第3粒体は、支持液体(19)中を下降して、第1粒体と第2粒体よりも下の位置で安定浮遊するが、第3粒体は、圧力容器(15)の底面まで下降して当該底面上に配置されてもよい。この場合、第3粒体を回収するために、第3粒体回収ライン(35)の管路の一端が、圧力容器(15)の底面に合わせて配置されてよいが、第3粒体は、第1粒体と第2粒体とが回収された後に、支持液体排出ライン(29)を介して支持液体(19)と共に回収されてもよい。
【0035】
本実施形態の分離システム(11)は、第1乃至第3粒体の中の何れかの種類の粒体のみを回収するために使用されてよく、その場合、第1乃至3粒体回収ライン(31)(33)(35)の何れかのみが使用され、回収しない粒体の回収ラインは、分離システム(11)から削除されてよい。
【0036】
本実施形態の分離システム(11)で処理される混合物に含まれる粒体の種類の数は、限定されない(粒体回収ラインが粒体の種類に応じて設けられる)。混合物には、強磁性体の粒体が含まれていてもよい。図1に示す例にて、強磁性体の粒体が混合物に追加された場合、例えば、当該粒体は、勾配磁場が印加される前は、圧力容器(15)の底面に沈殿しているが、勾配磁場が印加されると、その作用により圧力容器(15)の上面に吸着される。
【0037】
パーフルオロカーボンを常圧空気下で支持液体(19)として使用する場合には、本実施形態の分離システム(11)に圧力容器(15)を用いる必要はなく(酸素供給ライン(21)や酸素ボンベ(25)も不要である)、例えば、上部が開口した槽や容器が圧力容器(15)の代わりに使用されてもよい。空気を用いて酸素を加圧溶解したパーフルオロカーボンを支持液体(19)として使用する場合には、酸素ボンベ(25)の代わりに、空気を圧縮するためのコンプレッサなどが配置される。また、本実施形態の分離システム(11)ではバッチ法が採用されているが、酸素が加圧溶解されたパーフルオロカーボンを、勾配磁場が印加された容器、分離槽や管路に混合物を含む状態で連続的に流入させることで、混合物の粒体を連続的に分離回収することも可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施して混合物を分離した実施例について説明する。
【0039】
[第1実施例(ナイロン6樹脂粒体、PET樹脂粒体及び塩化ビニル樹脂粒体)]
ナイロン6樹脂粒体1gと、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂粒体1gと、塩化ビニル樹脂粒体1gとからなる混合物を調製し、当該混合物をパーフルオロヘキサン50mLと共に、円筒状のガラス製圧力容器(オートクレーブ)(内容積96mL、内径27mm、高さ175mm)に入れた。ナイロン6樹脂粒体、PET樹脂粒体及び塩化ビニル樹脂粒体は、何れも反磁性体であって、それらの大きさは1〜2ミリ程度であった。
【0040】
次に、圧力容器内に酸素ガスを導入して、室温下2.0MPaGの酸素圧力で溶解平衡に達するまで、パーフルオロヘキサンに酸素を加圧溶解させて、当該圧力下で溶存酸素が飽和したパーフルオロヘキサンからなる支持液体を調製した。そして、コイル中心軸Aが鉛直方向に沿って配置されたソレノイドコイル型超伝導磁石(ボア径100mm、長さ460mm)のボア内に、圧力容器を配置した。圧力容器は、その高さ方向に沿った中心線が磁石のコイル中心軸Aに一致すると共に、パーフルオロヘキサンの液面が、コイル中心軸A上の磁石の中心点Pに合うように配置された(図2参照)。
【0041】
図2は、勾配磁場を印加する前の混合物の状態を示す説明図であって、ナイロン6樹脂粒体が白丸(○)で、PET樹脂粒体が黒丸(●)で、塩化ビニル樹脂粒体が白三角(△)で示されている。混合物に含まれるこれら粒体は、支持液体として使用したパーフルオロヘキサンの液面に浮遊していた。なお、図2では、圧力容器や磁石が模式的に示されているが、図2では、圧力容器の内径や高さ、磁石のボア径などに関する上記の値は忠実に反映されていないことに留意のこと(図3乃至図5についても同様である)。
【0042】
上述のように圧力容器を磁石内に配置した後、磁石の中心点Pにおける最大磁場(磁束密度)が10Tである勾配磁場を、圧力容器内の支持液体及び混合物に鉛直下向きに印加した。すると、図3に示すように、磁石の中心点Pから143mm下方にナイロン6樹脂粒体が層状に安定浮遊し、161mm下方にPET樹脂粒体が層状に安定浮遊し、168mm下方に塩化ビニル樹脂粒体が層状に安定浮遊した。
【0043】
[第2実施例(ナイロン6樹脂粒体、PET樹脂粒体及び塩化ビニル樹脂粒体)]
室温下1.5MPaGの酸素圧力で溶解平衡に達するまで、パーフルオロヘキサンに酸素を加圧溶解させた点を除いて、第1実施例と同様な分離工程を行った。その結果、磁石の中心点Pから135mm下方にナイロン6樹脂粒体が層状に安定浮遊し、155mm下方にPET樹脂粒体が層状に安定浮遊し、168mm下方に塩化ビニル樹脂粒体が層状に安定浮遊した。
【0044】
[第3実施例(ナイロン6樹脂粒体、PET樹脂粒体及び塩化ビニル樹脂粒体)]
室温下0.8MPaGの酸素圧力で溶解平衡に達するまで、パーフルオロヘキサンに酸素を加圧溶解させた点を除いて、第1実施例と同様な分離工程を行った。その結果、磁石の中心点Pから120mm下方にPET樹脂粒体が層状に安定浮遊し、130mm下方に塩化ビニル樹脂粒体が層状に安定浮遊した。なお、勾配磁場が印加されても、ナイロン6樹脂粒体は、支持液体、つまり、パーフルオロヘキサンの液面に浮遊したままであった。
【0045】
[第4実施例(ナイロン6樹脂粒体、PET樹脂粒体及び塩化ビニル樹脂粒体)]
室温下0.5MPaGの酸素圧力で溶解平衡に達するまで、パーフルオロヘキサンに酸素を加圧溶解させた点を除いて、第1実施例と同様な分離工程を行った。その結果、磁石の中心点Pから90mm下方に塩化ビニル樹脂粒体が層状に安定浮遊した。なお、勾配磁場が印加されても、ナイロン6樹脂粒体及びPET樹脂粒体は、支持液体の液面に浮遊したままであった。
【0046】
第1乃至第3実施例から、本発明により、ナイロン6樹脂粒体、PET樹脂粒体及び塩化ビニル樹脂粒体を含む混合物を粒体の種類ごとに分離できること、ナイロン6樹脂粒体、PET樹脂粒体又は塩化ビニル樹脂粒体を含む混合物を粒体の種類ごとに分離できること、ナイロン6樹脂粒体、PET樹脂粒体及び塩化ビニル樹脂粒体の何れかの粒体を含む混合物からその粒体を分離できることが確認された。第4実施例から、本発明により、ナイロン6樹脂粒体及び/又はPET樹脂粒体と塩化ビニル樹脂粒体とを含む混合物から、支持液体中にて塩化ビニル樹脂粒体のみを移動させて分離できることが確認された。また、第1乃至第4実施例から、パーフルオロカーボンに加圧溶解させるための酸素圧力が高い方が、つまり、パーフルオロカーボンの溶存酸素濃度が高い方が、混合物を種類ごとに分離するのには好ましいことが推測される。さらに、ナイロン6樹脂粒体、PET樹脂粒体及び塩化ビニル樹脂粒体以外のパーフルオロヘキサンより密度が小さい反磁性体の粒体を含む混合物についても、本発明の分離方法が適用可能であることも推測される。
【0047】
[第5実施例(シリカガラス粒体及び赤色ガラス粒体)]
シリカガラス粒体(アズワン株式会社製ガラスビーズBZ−2)1gと赤色ガラス粒体(佐竹ガラス株式会社製カラーフリットG40(赤))1gとからなる混合物を調製し、当該混合物をパーフルオロヘキサン50mLと共に、第1実施例で使用したガラス製圧力容器に入れた。シリカガラス粒体及び赤色ガラス粒体は、何れも反磁性体であって、それらの大きさは最大で1ミリ程度であった。
【0048】
次に、圧力容器内に酸素ガスを導入して、室温下2.0MPaGの酸素圧力で溶解平衡に達するまで、パーフルオロヘキサンに酸素を加圧溶解させて、当該圧力下で溶存酸素が飽和したパーフルオロヘキサンからなる支持液体を調製した。そして、第1実施例で使用したソレノイドコイル型超伝導磁石のボア内に、圧力容器を配置した。圧力容器は、その高さ方向に沿った中心線が磁石のコイル中心軸Aに一致すると共に、圧力容器の下端が、コイル中心軸A上の磁石の中心点Pに合うように配置された。図4は、勾配磁場を印加する前の混合物の状態を示す説明図であって、シリカガラス粒体が白丸(○)で、赤色ガラス粒体が黒丸(●)で示されている。混合物を構成するこれら粒体は、圧力容器の底面に沈殿していた。
【0049】
上述のように圧力容器を磁石内に配置した後、磁石の中心点Pにおける最大磁場が10Tである勾配磁場を、圧力容器内の支持液体及び混合物に鉛直下向きに印加した。すると、図5に示すように、磁石の中心点Pから130mm上方にシリカガラス粒体が層状に配置され、135mm上方に赤色ガラス粒体が層状に安定浮遊した。
【0050】
第5実施例から、本発明により、シリカガラス粒体及び/又は赤色ガラス粒体を含む混合物を粒体の種類ごとに分離できること、シリカガラス粒体及び赤色ガラス粒体の何れかを含む混合物からその粒体を分離できることが理解できる。さらに、シリカガラス粒体及び赤色ガラス粒体以外のパーフルオロヘキサンより密度が大きい反磁性体の粒体を含む混合物についても、本発明の分離方法が適用可能であることも推測される。
【0051】
次に、本発明に関連して行われた実験例について説明する。
【0052】
[第1実験例]
反磁性体である塩化カリウム粒体(和光純薬工業製 特級品)1gを、パーフルオロヘキサン50mLと共に、第1実施例で使用したガラス製圧力容器に入れた。そして、圧力容器内に酸素ガスを導入して、室温下0.5MPaGの酸素圧力で溶解平衡に達するまで、パーフルオロヘキサンに酸素を加圧溶解させて、溶存酸素が飽和したパーフルオロヘキサンからなる支持液体を調製した。塩化カリウム粒体は、圧力容器の底面に沈殿した。
【0053】
次に、第1実施例で使用したソレノイドコイル型超伝導磁石のボア内に、第5実施例と同様にして図4に示すように圧力容器を配置して、磁石の中心点Pにおける最大磁場が10Tである勾配磁場を、圧力容器内の支持液体に鉛直下向きに印加した。すると、磁石の中心点Pから130mm上方に塩化カリウム粒体が層状に安定浮遊した。
【0054】
[第2実験例]
磁石の中心点Pにおける最大磁場が8Tである勾配磁場を印加した点以外は、第1実験例と同様な試験を行った。その結果、磁石の中心点Pから125mm上方に塩化カリウム粒体が層状に安定浮遊した。
【0055】
第1及び第2実験例では、塩化カリウム粒体がパーフルオロヘキサン中にて安定浮遊していることから、本発明により、塩化カリウム粒体を含む混合物を粒体の種類ごとに分離できること、塩化カリウム粒体を含む混合物から塩化カリウム粒体を分離できることが理解できる。
【0056】
上記の実施例及び実験例では、反磁性体の粒体のみが取り扱われているが、常磁性体の粒体を含む又は複数種類の常磁性体の粒体からなる混合物についても本発明が適用可能であることは、本明細書の記載から容易に理解できるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、例えば、家庭ゴミや産業廃棄物からそれらに含まれるポリマー(ナイロン樹脂、PET樹脂や塩化ビニル樹脂)を種類ごとに分離回収するのに使用される。また、本発明は、家庭ゴミや産業廃棄物から鉄やレアメタルなどの有価金属を回収する際の前処理工程としても使用できる。
【0058】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0059】
(11) 分離システム
(13) ソレノイドコイル型超伝導電磁石
(15) 圧力容器
(19) 支持液体
(21) 酸素供給ライン
(25) 酸素ボンベ
(29) 支持液体排出ライン
(31) 第1粒体回収ライン
(33) 第2粒体回収ライン
(35) 第3粒体回収ライン













【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の物質の粒体を含む混合物と支持液体とを混合して勾配磁場を印加することで、前記複数種類の物質の粒体を、鉛直方向について種類に応じて異なる位置に配置する混合物の分離方法において、
前記支持液体は、パーフルオロカーボンであることを特徴とする混合物の分離方法。
【請求項2】
前記パーフルオロカーボンには酸素が加圧溶解されている、請求項1に記載の混合物の分離方法。
【請求項3】
前記複数種類の物質の粒体のある種類の粒体又は全ての種類の粒体は、反磁性体である、請求項1又は請求項2に記載の混合物の分離方法。
【請求項4】
複数種類の物質の粒体を含む混合物と支持液体とを混合して勾配磁場を印加することで、前記複数種類の物質の粒体に含まれる特定の種類の粒体を前記支持液体中にて浮遊又は浮揚させて、前記混合物から前記特定の種類の粒体を分離する混合物の分離方法において、
前記支持液体は、パーフルオロカーボンであることを特徴とする混合物の分離方法。
【請求項5】
前記パーフルオロカーボンには酸素が加圧溶解されている、請求項4に記載の混合物の分離方法。
【請求項6】
前記特定の種類の粒体は反磁性体である、請求項4又は請求項5に記載の混合物の分離方法。






















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−245485(P2012−245485A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120574(P2011−120574)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】