混合物及びセルロースファイバー分散組成物並びにそれらの製造方法
【課題】セルロースファイバーと熱可塑性樹脂との複合化が簡便であり、得られた混合物(複合材料)をポリ乳酸等の熱可塑性樹脂に溶融ブレンドした際には、熱可塑性樹脂へのセルロースファイバーの分散性が高く、且つ成形性に優れる組成物を得られる製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)、該混合物及び該混合物と溶融ブレンド可能なマトリックス樹脂を含む、セルロースファイバー分散組成物、並びにこれらの製造方法。
【解決手段】熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)、該混合物及び該混合物と溶融ブレンド可能なマトリックス樹脂を含む、セルロースファイバー分散組成物、並びにこれらの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースファイバーと熱可塑性樹脂微粒子とが交絡して存在する混合物(複合材料)、該混合物とマトリックス樹脂を含むセルロースファイバー分散組成物及びそれらの製造方法に関し、詳細にはマトリックス樹脂に配合した際のセルロースファイバーの分散性が良好であり、簡便な方法による成形が可能となる、混合物(複合材料)及びセルロースファイバー分散組成物並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境保護の観点からこれまで未利用の資源を有効活用する研究が盛んに行われている。中でもセルロースは、現存量が豊富であること、生分解性を有し環境負荷が低い資源であること、高い結晶化度、高い引張強度、低い熱膨張率など、材料として優れた性質を持つことなどから今後期待される材料である。
セルロースを有効活用する方法の一つとして補強材としての利用が挙げられる。従来では、樹脂成形体の機械的強度を高めるために、ガラス等の無機繊維を配合したものが補強材として用いられている。しかし、無機繊維が配合された樹脂成形体は、焼却時に無機繊維に由来する残渣が発生するため、埋め立て処理等により廃棄せざるを得ない点が問題となっている。
このため、補強材として相対的に強度の高い竹、麻、ケナフ等の植物繊維を有効利用できるなら、これら補強材は最終的に水と二酸化炭素に分解されるため、上記の廃棄の問題の解消につながるとして注目されている。
【0003】
ところで植物由来の生分解性樹脂であるポリ乳酸は、非晶質であると耐熱性に劣り、結晶化させても弾性率が向上しないという不利点を有することから、これら物性を補うための補強材の併用が有効であると考えられる。ポリ乳酸それ自体が植物由来材料であることから、その補強材においても植物性天然繊維を使用することが好ましく、この観点から、セルロースとポリ乳酸との複合材料に関する特許がいくつか提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、ポリ乳酸系樹脂と粉末状セルロース(平均粒径:1〜60μm)を溶融混合し、複合化させた成形品が開示されている。
特許文献2には、市販のミクロフィブリル化セルロース(繊維径:0.01〜10μm)をアセトンに浸漬して脱水したミクロフィブリル化セルロースを、分散剤を用いてポリ乳酸と複合化させた材料が提案されている。
また、特許文献3には、疎水化されたセルロース系繊維とポリプロピレンをはじめとする合成樹脂を含む樹脂組成物並びに該組成物より形成された樹脂成形体が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セルロースとポリ乳酸との複合材料に関する提案において、たとえば微細化していない粉末状のセルロースとポリ乳酸とを単に溶融・混合した複合材料(特許文献1)では、成形後にセルロースが粒状に表面露出することが度々あり、成形品の外観を損ねるという問題がある。
このように、セルロースとポリ乳酸からなる複合材料において、ポリ乳酸と繊維の界面の接着性や、成形体の外観を考慮すると、セルロースの平均粒子径や平均繊維径をおよそ1μmより小さい程度にまで微細化することが好ましいといえる。
しかしながら、これまでに提案されている技術では、たとえば微細化したセルロースファイバーとポリ乳酸との複合化(特許文献2)においては水分のアセトン置換を伴い、工
程が煩雑なものとなることから、工業スケールでのセルロースファイバー含有の複合材料の作製は困難なものとされていた。
また、疎水化されたセルロース系繊維を用いた場合(特許文献3)、簡便にセルロースファイバーと熱可塑性樹脂が複合化できるものの、この技術において用いる熱可塑性樹脂は水による加水分解が起きない樹脂であることが条件であり、対象樹脂が限定され、ポリ乳酸には適用できない。
【0006】
一方で、ナノサイズに微細化されたセルロースは、自身の柔軟性や高アスペクト比、表面の水酸基に起因するファイバー同士の水素結合により、乾燥状態を経ると強固な凝集塊を形成するという問題がある。この凝集塊は、たとえばマトリックスとなる溶融樹脂との混練などによっても解離することはないため、セルロースファイバーの分散性を考慮すると、乾燥状態を経る複合材料作製方法は実際には現実的な製造方法とはいえない。
このため、セルロースを乾燥させることなく複合化する試みも検討されているが、たとえば、特許文献1に示すような粉末状のセルロースと樹脂との複合化技術をナノサイズのセルロースファイバーに適用しようとすると、セルロースファイバー水分散液の水を除去する必要が生ずる。このとき、セルロースファイバー同士が凝集して凝集塊を形成することとなり、結果として得られる複合材料は、ナノサイズのセルロースファイバーが凝集した凝集塊が樹脂中に分散したものとなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、セルロースファイバーと熱可塑性樹脂との複合化が簡便であり、得られた複合材料をポリ乳酸等の熱可塑性樹脂に溶融ブレンドした際には、熱可塑性樹脂へのセルロースファイバーの分散性が高く、且つ成形性に優れる組成物を得られる製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決する為に鋭意検討を進めた結果、水媒体における乳化重合・分散重合による熱可塑性樹脂の微粒子作製という手法を取り入れることにより、水に分散したナノサイズのセルロースファイバー(セルロースファイバー分散液)を、乾燥状態を経ることなく、そのまま利用することが可能であること、その上、セルロースファイバーを反応系に共存させることにより、乳化重合・分散重合時に粒子同士の融着を抑制して二次凝集を防ぐために通常必要となる安定剤・分散剤を添加せずとも、微粒子状の熱可塑性樹脂とセルロースファイバーとを含む混合物(複合材料)が得られ、且つ、該混合物とマトリックス樹脂からなる組成物は、マトリックス樹脂へのセルロースファイバーの分散性が非常に高い組成物となることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)に関する。
【0010】
前記混合物(複合材料)は、粉末形態にあることが好ましい。
また前記セルロースファイバーは、0.001乃至1μmの繊維径を有するファイバーであることが好ましい。また、前記熱可塑性樹脂微粒子は、10nm乃至5μmの平均一次粒子径を有する微粒子であることが好ましく、より好ましくは50nm乃至1μmである。
【0011】
また本発明は、その他の成分として添加剤をさらに含む、混合物(複合材料)に関する。
【0012】
さらに本発明は、前記混合物(複合材料)、及び該混合物と溶融ブレンド可能なマトリックス樹脂を含む、セルロースファイバー分散組成物も対象とする。
【0013】
そして本発明は、前記組成物から形成されたセルロースファイバー分散成形体に関する。
【0014】
さらに本発明は、セルロースファイバーの水分散液中で、アゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物から選択されるラジカル開始剤の存在下、60℃乃至90℃の温度で加熱することにより、熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を重合反応させる工程、前記重合反応系から水を除去する工程、及び前記ラジカル開始剤を反応系から除去する精製工程、を含む、前記混合物(複合材料)の製造方法に関する。
【0015】
前記製造方法において、前記ラジカル開始剤として水溶性のラジカル開始剤を用いることが好ましい。あるいは、前記ラジカル開始剤として疎水性のラジカル開始剤を用いる場合には、前記セルロースファイバーの水分散液はメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチル−2−ピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶剤を含むことが好ましい。
また前記重合性基は、アクリロイル基、メタクリロイル基又はビニル基であることが好ましい。
さらに前記精製工程は、前記重合により得られた熱可塑性樹脂が不溶な溶剤を用いて行われることが好ましい。
そして前記セルロースファイバー及び前記単量体の合計100質量%に基いて、前記セルロースファイバーは0.1乃至50質量%の割合で用いられることが好ましい。
【0016】
さらに本発明は、セルロースファイバーの水分散液中で、アゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物から選択されるラジカル開始剤の存在下、60℃乃至90℃の温度で加熱することにより、熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を重合反応させる工程、前記重合反応系から水を除去する工程、前記ラジカル開始剤を反応系から除去する精製工程、及び前記精製工程後、乾燥させて得られた混合物(複合材料)と該混合物と溶融ブレンド可能なマトリックス樹脂とを溶融ブレンドする工程、を含む、前記セルロースファイバー分散組成物の製造方法をも対象とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)は、詳細には、セルロースファイバーが熱可塑性微粒子表面に絡まった状態で存在し、セルロースファイバーと熱可塑性樹脂微粒子がいわば均一に分散して存在する状態にある。
そして該混合物において、熱可塑性樹脂が10nm乃至5μmの平均一次粒子径を有する微粒子状の形態であると、該微粒子の表面積が大きいものとなり、該混合物をポリ乳酸樹脂等のマトリックス樹脂と溶融混練などにより複合化(組成物化)する際、熱可塑性樹脂に熱が伝わりやすく溶融しやすい。このため、溶融混練時に、マトリックス樹脂と熱可塑性樹脂との相溶性が高まり、ひいては、熱可塑性樹脂微粒子に交絡した状態で存在するセルロースファイバーのマトリックス樹脂への分散性が高まることとなる。また、たとえ熱可塑性樹脂(微粒子)がマトリックス樹脂よりもガラス転移温度が高い樹脂である場合であっても、微粒子状の形態を有していると溶融ブレンド時に熱可塑性樹脂間に溶融状態となったマトリックス樹脂が浸透しやすく、結果として得られるアロイ化複合樹脂の均一性が高まることとなる。
このように、本発明の混合物(複合材料)は、熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在し、また該熱可塑性樹脂微粒子の平均一次粒子径が非常に小さい微粒子であるために、該混合物をマトリックス樹脂にブレンドした組成物中のセルロースファイバー分散性を非常に優れたものとすることができる。
また該混合物は粉末形態を有するため、該混合物の製造時に製造装置からの抜き出し性が良好であり、該混合物とマトリックス樹脂との溶融ブレンド時、さらには溶融混練物(組成物)の成形時において、ハンドリングが向上したものとなる。
【0018】
また、本発明の製造方法によれば、セルロースファイバーの水分散液中で、熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を分散・重合させることによる、熱可塑性樹脂の微粒子作製方法を採用することにより、セルロースファイバーと熱可塑性樹脂の微粒子との複合化が簡便にワンポットで行うことができ、また、特殊な装置を使用せず、工業的スケールで製造することができる。
しかも、本製造方法によれば、セルロースファイバーと熱可塑性樹脂微粒子が、その後のマトリックス樹脂とのブレンド時に問題となるようなセルロースファイバーの凝集塊を形成することなく、均一に分散・複合化した微粒子状(粉末)の混合物(複合材料)が得られる。
そして該混合物の乾燥工程においても、セルロースファイバーと複合化している熱可塑性樹脂が微粒子であることから、表面積が大きいものとなり、このため乾燥効率が高く、該混合物の生産効率を向上させることができる。
そして本発明の製造方法によれば、使用するセルロース種によらずに、ポリ乳酸中のセルロースファイバーの均一分散性が高く、且つ成形性に優れるセルロースファイバー分散組成物を製造することができる、熱可塑性微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)を製造でき、ひいては、該混合物より、表面外観に優れた成形体を製造することができるセルロースファイバー分散組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は実施例1で作製した混合物を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は実施例2で作製した混合物を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図3は実施例5で作製したセルロースファイバー分散組成物におけるセルロースファイバーの分散状態を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図4】図4は実施例6で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図5】図5は実施例7で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図6】図6は実施例8で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図7】図7は実施例13で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図8】図8は実施例14で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図9】図9は実施例15で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図10】図10は実施例16で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図11】図11は比較例3で作製した組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図12】図12は比較例4で作製した組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、先に述べたように、セルロースファイバーと熱可塑性樹脂との複合化にあたり、セルロースファイバーの乾燥に伴うセルロースファイバーの凝集塊形成といった問題点を解消し、より簡便な工程で複合材料を作製するため、水媒体における乳化重合・分散重合による熱可塑性樹脂の微粒子作製方法を根幹に取り入れている。そして、乳化重合・分散重合時に通常必要となる分散剤・安定剤の代わりに、セルロースファイバーを共存さ
せておくことで、微粒子状の熱可塑性樹脂とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)が形成される。
このとき、熱可塑性樹脂の微粒子表面は疎水性であることが多く、親水性表面を有するセルロースとの親和性が低いことから、そのまま重合させるとそれぞれ別に凝集塊を生成し、不均一な混合物(複合材料)となる虞がある。そこで、熱可塑性樹脂の微粒子表面を、使用する重合開始剤の選択により制御することにより、すなわち、例えばアミノ基や水酸基、カルボキシル基などの極性基を有するラジカル開始剤を用いることによって、熱可塑性樹脂微粒子とセルロースの親和性を高めることが可能である。
このように、重合方法や重合条件、ラジカル開始剤の選択等を種々検討することにより、本発明の混合物(複合材料)、そしてその製造方法を完成させるに至った。以下、本発明について詳述する。
【0021】
[熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)]
本発明は、熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)に関する。
該混合物は、セルロースファイバーの水分散液中で、ラジカル開始剤の存在下、60℃乃至90℃の温度で加熱することにより熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を重合反応させる工程、前記重合反応系から水を除去する工程、及び前記ラジカル開始剤を反応系から除去する精製工程を経て、製造される。
このようにして得られた本発明の混合物(複合材料)は、セルロースファイバーが単独で凝集塊を形成することなく、またろ過など極めて簡便な方法によって、単離することができる。
以下、本発明の混合物(複合材料)について、その製造手順とともに詳述する。
【0022】
<セルロースファイバーの水分散液中で重合性基を有する単量体を重合させる工程>
まず、セルロースファイバーの水分散液中で、アゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物から選択されるラジカル開始剤の存在下、60℃乃至90℃の温度で加熱し熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を重合させる。
こうした重合条件で単量体を重合させることにより、微粒子状の重合体を得ることができる。
【0023】
本発明で使用するセルロースファイバー(セルロースファイバーが分散した水分散液)に用いるセルロースとしては特に限定されず、たとえば、高等植物由来のセルロース繊維、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維、ジン皮繊維、葉繊維などの天然セルロース繊維、動物由来のセルロース繊維、バクテリア由来のセルロース繊維などが挙げられる。これらセルロースは、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本発明においては、これらセルロースを粉砕し、微細化されたセルロースファイバーを用いる。セルロースの粉砕法は特に限定されず、ビーズミルやホモジナイザー等を用いた湿式粉砕法を用いて製造することができる。具体的には、特開2005−270891号公報に開示されるような湿式粉砕法、すなわち、セルロースを分散させた分散液を、一対のノズルから高圧でそれぞれ噴射して衝突させることにより、セルロースを粉砕するものであって、例えば(株)スギノマシン製の高圧粉砕装置を用いることにより実施できる。
こうして微細化されたセルロースファイバーは、0.001乃至1μmの繊維径を有する。
【0025】
上述の湿式粉砕法によって得られるセルロースファイバー水分散液は、その後の前記混合物の製造に使用するにあたり、セルロースファイバー濃度が高い水分散液の方が、前記混合物の製造時の容積効率が向上し、コスト削減が期待できるという利点がある。この反
面、セルロースファイバーはアスペクト比が著しく高く、ファイバー同士の絡み合いが無視できないため、セルロースファイバーの濃度があまり高いと、濃度上昇に伴う粘度上昇が顕著で液体としての取扱いが困難になる。このため、セルロースファイバー水分散液のセルロースファイバー濃度は、0.1乃至10質量%が好ましく、より好ましくは1乃至5質量%である。
【0026】
重合性基を有する単量体のセルロースファイバー水分散液への添加量は、該水分散液に含まれるセルロースファイバーの含量よりも多量であることが好ましく、すなわち、分散液中のセルロースファイバー含量と前記単量体の合計量を100質量%としたとき、重合性基を有する単量体が99.9乃至50質量%であり、よってセルロースファイバーの含量が前記合計量の0.1乃至50質量%であることが好ましい。
より好ましくは、重合性基を有する単量体の分散液への添加量が、単量体とセルロースファイバーの合計量の99乃至70質量%、すなわちセルロースファイバーの含量を前記合計量の1乃至30質量%とすることがより好ましい。
重合性基を有する単量体がセルロースファイバーに対して多量に存在していないと、後の工程でポリ乳酸等の熱可塑性樹脂と溶融ブレンドして組成物を得る際、ファイバー同士が凝集して塊を形成する虞がある。このため、組成物中にセルロースファイバーが均一に分散した組成物を得るべく、重合性基を有する単量体を前記配合量に示すように、セルロースファイバーに対して多量に存在させることが肝要である。
【0027】
本発明で用いられる重合性基を有する単量体は、重合後に熱可塑性樹脂を形成する単量体であれば特に限定されないが、中でも、アクリロイル基、メタクリロイル基又はビニル基を有する単量体が好ましい。具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸単量体;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル等のアルキル酸ビニル単量体などが挙げられる。重合性基を有する単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本発明で用いられるラジカル開始剤は、アゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物から選択され、水溶性開始剤、疎水性開始剤のいずれも使用可能である。ラジカル開始剤としてアゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物を用いることにより、前記単量体が重合した後、微粒子状の重合体とセルロースファイバーが均一に分散した混合物を形成することができる。
【0029】
前記ラジカル開始剤の具体例としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル及び2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等の疎水性のアゾ化合物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及び2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等の水溶性のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;過酸化ベンゾイル、t−ブチルヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられる。
前記ラジカル開始剤は、重合性基を有する単量体に対して0.01乃至100モル%添加することが好ましく、1乃至10モル%添加することがより好ましい。
【0030】
前記ラジカル開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル等の疎水性開始剤を用いる際には、この疎水性開始剤を溶解し且つ水と親和性のある有機溶剤を添加することにより、粉末状の熱可塑性樹脂が得られる。
上記有機溶剤としてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチ
ルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。有機溶剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
また、上記有機過酸化物及び過硫酸塩は還元剤と組み合わせてレドックス系開始剤として用いることもできる。
【0031】
こうして重合性基を有する単量体を重合することにより形成される熱可塑性樹脂の微粒子の平均一次粒子径は好ましくは10nm乃至5μmであり、より好ましくは50nm乃至1μmである。
【0032】
<重合反応系から水を除去する工程及び前記ラジカル開始剤を除去する精製工程>
前記単量体の重合工程に引き続き、反応系から水を除去する。本工程は、重合の終了を確認後、ろ過することにより容易に実施される。
その後、ラジカル開始剤を除去する精製工程は、先の工程で得られた重合体が不溶である溶剤を用いて実施される。具体的には、前工程でろ過して得られた残留物を、水、メタノール、エタノール、アセトン等を用いて洗浄する。
こうして析出した樹脂を、好ましくは25乃至100℃にて、上記洗浄に用いた溶剤を除去するために例えば真空乾燥させることにより、熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)を得る。
【0033】
[前記混合物(複合材料)とマトリックス樹脂を含むセルロースファイバー分散組成物]
このようにして得られた混合物(複合材料)と、該混合物と溶融ブレンド可能なマトリックス樹脂を含むセルロースファイバー分散組成物も、本発明の対象である。
前記マトリックス樹脂としては、セルロースが分解する温度(約240℃)以下で成形できる熱可塑性樹脂(ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、エチルセルロース、酢酸セルロース等)が挙げられる。
【0034】
<その他添加剤>
本発明の組成物は、公知の無機充填剤を含有し得る。無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、シリカ、カオリン、クレー、ウオラストナイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酸化チタン等が挙げられる。これらの無機充填剤の形状は、繊維状、粒状、板状、針状、球状、粉末のいずれでもよい。これらの無機充填剤は、ポリ乳酸100質量部に対して、300質量部以内で使用できる。
また、本発明の組成物は、公知の難燃剤を含有し得る。難燃剤としては、例えば、臭素化合物、塩素化合物等のハロゲン系難燃剤、メラミン系難燃剤、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリコーン化合物等の無機系難燃剤、赤リン、リン酸エステル類、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン等のリン系難燃剤、PTFE等のフッ素樹脂等が挙げられる。これらの難燃剤は、ポリ乳酸100質量部に対して、200質量部以内で使用できる。
さらに上記成分以外にも、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、衝撃改良剤、帯電防止剤、顔料、着色剤、離型剤、滑剤、可塑剤、相溶化剤、発泡剤、香料、抗菌抗カビ剤、その他の各種充填剤、一般的な合成樹脂の製造時に通常使用される各種添加剤も、本発明の組成物に併用することができる。
なお、これら<その他添加剤>をさらに含む混合物(複合材料)もまた、本発明の対象である。
【0035】
本発明の組成物は、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形等の慣用の成形法を使用することによって、各種成形体を容易に製造可能である。
【実施例】
【0036】
下記実施例1乃至実施例4、実施例9乃至実施例12、比較例1及び比較例2で使用したセルロースファイバー水分散液は、特開2005−270891号公報に開示された「多糖類の湿式粉砕方法」の手順に準拠し、市販パルプ由来セルロース(Celite社製
BH−100)を用いて調製した、1.0質量%、0.7質量%又は3.5質量%のパルプ由来セルロースファイバー水分散液である。
【0037】
<実施例1乃至実施例4:ラジカル開始剤としてアゾ化合物を用いた混合物(複合材料)の製造>
[実施例1]
1.0質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液50gに、酢酸0.5g及びメタクリル酸メチル2.75gを加え、80℃に加熱した。別途、水3gに酢酸30mg及びラジカル開始剤として2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]100mgを加え開始剤水溶液を調製した。この水溶液を80℃に加熱した前記セルロースファイバー水分散液に添加し、80℃に維持して撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.73gを作製した。
得られた混合物のポリメタクリル酸メチル(以下、PMMAと略称する。)の重量平均分子量;92,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0038】
[実施例2]
1.0質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液50gに、エタノール10gに溶解したアゾビスイソブチロニトリル65.8mgを添加し、さらにメタクリル酸メチル2.75gを加え、70℃に加熱し撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.79gを作製した。
得られた混合物のPMMAの重量平均分子量;310,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0039】
[実施例3]
0.7質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液68gに、酢酸0.7g及びラジカル開始剤として2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]104mgを添加し、撹拌して溶解させた後、酢酸ビニル2.41gを添加し、70℃に加熱し撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物を水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.04gを作製した。
得られた混合物のポリ酢酸ビニルの重量平均分子量;1,255,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0040】
[実施例4]
3.5質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液68gに、酢酸0.7g及びメタクリル酸メチル8.40gを加え、70℃に加熱した。別途、水9gに酢酸90mg及びラジカル開始剤として2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]300mgを加え、開始剤水溶液を調製した。この水溶液を前記セルロースファイバー水分散液に添加し、70℃に維持して撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノールと水で洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)9.9
0gを作製した。
得られた混合物のPMMAの重量平均分子量;161,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0041】
<実施例5乃至実施例8:実施例1乃至実施例4で作製した混合物(複合材料)を用いたセルロースファイバー分散組成物の製造>
[実施例5]
実施例1で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0042】
[実施例6]
実施例2で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0043】
[実施例7]
実施例3で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0044】
[実施例8]
実施例4で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0045】
<実施例9及び実施例10:ラジカル開始剤として過硫酸塩を用いた混合物(複合材料)の製造>
[実施例9]
0.7質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液68gに、メタクリル酸メチル2.75gを加え、80℃に加熱した。別途、水4gにラジカル開始剤として過硫酸カリウム218mgを加え開始剤水溶液を調製した。この水溶液を前記セルロースファイバー水分散液に添加し、80℃に維持して撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.99gを作製した。
得られた混合物のPMMAの重量平均分子量;141,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0046】
[実施例10]
0.7質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液60gに、メタクリル酸メチル3.96gを加え、80℃に加熱した。別途、水2gにラジカル開始剤として過硫酸アンモニウム920mgを加え開始剤水溶液を調製した。この水溶液を前記セルロースファイバー水分散液に添加し、80℃に維持して撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、6N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和を行い、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水10
0gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.95gを作製した。
得られた混合物のPMMAの重量平均分子量;118,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0047】
<実施例11及び実施例12:ラジカル開始剤として実施例1乃至実施例4とは異なるアゾ化合物を用いた混合物(複合材料)の製造>
[実施例11]
1.0質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液50gに、メタクリル酸メチル2.75gを加え、80℃に加熱した。別途、水3gにラジカル開始剤として2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩100mgを加え開始剤水溶液を調製した。この水溶液を前記セルロースファイバー水分散液に添加し、80℃に維持して撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.29gを作製した。
得られた混合物のPMMAの重量平均分子量;115,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0048】
[実施例12]
1.0質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液50gに、メタクリル酸メチル5.00g及び2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]297mgを加え75℃に加熱し撹拌した。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)を作製した。
得られた混合物のPMMAの重量平均分子量;612,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0049】
<実施例13及び実施例14:実施例9及び実施例10で作製した混合物(複合材料)を用いたセルロースファイバー分散組成物の製造>
[実施例13]
実施例9で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0050】
[実施例14]
実施例10で作製した混合物(複合材料)0.40gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.60gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0051】
<実施例15及び実施例16:実施例11及び実施例1で作製した混合物(複合材料)を用いたセルロースファイバー分散組成物の製造>
[実施例15]
実施例11で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0052】
[実施例16]
実施例1で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリメタクリル酸メチル3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(240℃、50rpm、5分)し、ポリメタクリル酸メチルを主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0053】
[比較例1]
本比較例は、セルロースファイバー水分散液中で重合性基を有する単量体を重合させていない点で、本明細書の実施例と異なる。
水50gにメタクリル酸メチル2.75gと酢酸0.5gを加え80℃に加熱した。別途、水3gに酢酸36mg及びラジカル開始剤として2,2’−アゾビス[2−(2−イ
ミダゾリン−2−イル)プロパン]100mgを加え開始剤水溶液を調製した。この水溶
液を80℃に維持したメタクリル酸メチル水溶液に添加し、80℃に加熱し撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、0.7質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液68gを加えた。撹拌した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.73gを作製した。
得られた混合物(複合材料)のPMMAの重量平均分子量;55,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0054】
[比較例2]
本比較例は、アゾ化合物、過硫酸塩、有機過酸化物のいずれでもない開始剤を用いる点で、本明細書の実施例と異なる。
0.7質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液68gに、メタクリル酸メチル2.75g、硝酸二アンモニウムセリウム0.83gを加え、室温で撹拌した。48時間撹拌した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノールと水で洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)1.02gを作製した。
得られた混合物(複合材料)のPMMAの重量平均分子量;549,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0055】
[比較例3]
比較例1で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とする組成物を作製した。
【0056】
[比較例4]
比較例2で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とする組成物を作製した。
【0057】
[走査型電子顕微鏡による混合物(複合材料)の観察]
実施例1及び実施例2で作製した各混合物(複合材料)について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、セルロースファイバーとPMMA(熱可塑性樹脂)の微粒子からなる混合物の状態を観察した。結果を図1及び図2に示す。
なお、使用した走査型電子顕微鏡は以下の通りである。
<測定装置>JEOL(日本電子(株))製 JSM−7400F
【0058】
図1及び図2に示すように、実施例1及び実施例2で作製した混合物(複合材料)にお
いて、セルロースファイバーはPMMAの微粒子表面に絡まった状態にあり、微粒子間にいわば抱きこまれている状態で存在していることが確認された。
また、これら顕微鏡写真より、PMMA微粒子の粒径は50nm乃至1μmの範囲内であった。
【0059】
[偏光顕微鏡によるセルロースファイバー分散組成物の観察]
実施例5乃至実施例8、実施例13乃至実施例16及び、比較例3及び比較例4で作製した各組成物について、偏光顕微鏡を用いて各組成物におけるセルロースファイバーの分散状態を観察した。結果を図3乃至図12に示す。
なお、偏光顕微鏡写真の撮影条件は以下の通りである。
<測定装置>(株)ニコン製 偏光顕微鏡 ECLIPSE LV100POL
<測定条件>200℃に組成物を加熱し、溶融状態を観察
【0060】
図3乃至図12中、白く輝度の高い部分は、セルロースの存在を示している。なおセルロースファイバー分散組成物におけるセルロースの分散性が非常に高い場合(例;図5:実施例7、図8:実施例14、図10:実施例16等)には、輝度の高い部分が消失したように見える。
図3乃至図10に示すように、実施例5乃至実施例8及び実施例13乃至実施例16で作製した各セルロースファイバー分散組成物は、ポリ乳酸又はポリメタクリル酸メチルへのセルロースファイバーの分散性が高いことが観察された。一方、比較例3及び比較例4で作製した組成物(図11及び図12)は実施例に比べてセルロースが凝集しており、均一分散性に劣ることが観察された。
【0061】
[セルロースファイバー分散性評価]
実施例5乃至実施例8、実施例13乃至実施例16及び、比較例3及び比較例4で作製した各組成物の偏光顕微鏡写真を観察し、撮影写真に見られるセルロースファイバーの凝集塊の大きさを評価した。そして下記表1の基準に基づき、セルロースファイバーの分散性を評価した。得られた結果を表2に示す。
評価方法:偏光顕微鏡写真を目視することによる凝集塊の大きさ評価
【表1】
【表2】
【0062】
表2に示すとおり、実施例5乃至実施例8、実施例13乃至実施例16のセルロースファイバー分散組成物は、偏光顕微鏡写真において50μmを超えるセルロースファイバーの凝集塊の存在は認められず、セルロースファイバーの分散性に優れるものであるとする結果が得られた。
一方、比較例3及び比較例4の組成物は、偏光顕微鏡写真において100μmを超えるセルロースファイバーの凝集塊の存在が確認され、セルロースファイバーの分散性に劣るとする結果が得られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0063】
【特許文献1】特開2005−145028号公報
【特許文献2】特開2007−238812号公報
【特許文献3】特開2010−106251号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースファイバーと熱可塑性樹脂微粒子とが交絡して存在する混合物(複合材料)、該混合物とマトリックス樹脂を含むセルロースファイバー分散組成物及びそれらの製造方法に関し、詳細にはマトリックス樹脂に配合した際のセルロースファイバーの分散性が良好であり、簡便な方法による成形が可能となる、混合物(複合材料)及びセルロースファイバー分散組成物並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境保護の観点からこれまで未利用の資源を有効活用する研究が盛んに行われている。中でもセルロースは、現存量が豊富であること、生分解性を有し環境負荷が低い資源であること、高い結晶化度、高い引張強度、低い熱膨張率など、材料として優れた性質を持つことなどから今後期待される材料である。
セルロースを有効活用する方法の一つとして補強材としての利用が挙げられる。従来では、樹脂成形体の機械的強度を高めるために、ガラス等の無機繊維を配合したものが補強材として用いられている。しかし、無機繊維が配合された樹脂成形体は、焼却時に無機繊維に由来する残渣が発生するため、埋め立て処理等により廃棄せざるを得ない点が問題となっている。
このため、補強材として相対的に強度の高い竹、麻、ケナフ等の植物繊維を有効利用できるなら、これら補強材は最終的に水と二酸化炭素に分解されるため、上記の廃棄の問題の解消につながるとして注目されている。
【0003】
ところで植物由来の生分解性樹脂であるポリ乳酸は、非晶質であると耐熱性に劣り、結晶化させても弾性率が向上しないという不利点を有することから、これら物性を補うための補強材の併用が有効であると考えられる。ポリ乳酸それ自体が植物由来材料であることから、その補強材においても植物性天然繊維を使用することが好ましく、この観点から、セルロースとポリ乳酸との複合材料に関する特許がいくつか提案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、ポリ乳酸系樹脂と粉末状セルロース(平均粒径:1〜60μm)を溶融混合し、複合化させた成形品が開示されている。
特許文献2には、市販のミクロフィブリル化セルロース(繊維径:0.01〜10μm)をアセトンに浸漬して脱水したミクロフィブリル化セルロースを、分散剤を用いてポリ乳酸と複合化させた材料が提案されている。
また、特許文献3には、疎水化されたセルロース系繊維とポリプロピレンをはじめとする合成樹脂を含む樹脂組成物並びに該組成物より形成された樹脂成形体が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セルロースとポリ乳酸との複合材料に関する提案において、たとえば微細化していない粉末状のセルロースとポリ乳酸とを単に溶融・混合した複合材料(特許文献1)では、成形後にセルロースが粒状に表面露出することが度々あり、成形品の外観を損ねるという問題がある。
このように、セルロースとポリ乳酸からなる複合材料において、ポリ乳酸と繊維の界面の接着性や、成形体の外観を考慮すると、セルロースの平均粒子径や平均繊維径をおよそ1μmより小さい程度にまで微細化することが好ましいといえる。
しかしながら、これまでに提案されている技術では、たとえば微細化したセルロースファイバーとポリ乳酸との複合化(特許文献2)においては水分のアセトン置換を伴い、工
程が煩雑なものとなることから、工業スケールでのセルロースファイバー含有の複合材料の作製は困難なものとされていた。
また、疎水化されたセルロース系繊維を用いた場合(特許文献3)、簡便にセルロースファイバーと熱可塑性樹脂が複合化できるものの、この技術において用いる熱可塑性樹脂は水による加水分解が起きない樹脂であることが条件であり、対象樹脂が限定され、ポリ乳酸には適用できない。
【0006】
一方で、ナノサイズに微細化されたセルロースは、自身の柔軟性や高アスペクト比、表面の水酸基に起因するファイバー同士の水素結合により、乾燥状態を経ると強固な凝集塊を形成するという問題がある。この凝集塊は、たとえばマトリックスとなる溶融樹脂との混練などによっても解離することはないため、セルロースファイバーの分散性を考慮すると、乾燥状態を経る複合材料作製方法は実際には現実的な製造方法とはいえない。
このため、セルロースを乾燥させることなく複合化する試みも検討されているが、たとえば、特許文献1に示すような粉末状のセルロースと樹脂との複合化技術をナノサイズのセルロースファイバーに適用しようとすると、セルロースファイバー水分散液の水を除去する必要が生ずる。このとき、セルロースファイバー同士が凝集して凝集塊を形成することとなり、結果として得られる複合材料は、ナノサイズのセルロースファイバーが凝集した凝集塊が樹脂中に分散したものとなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、セルロースファイバーと熱可塑性樹脂との複合化が簡便であり、得られた複合材料をポリ乳酸等の熱可塑性樹脂に溶融ブレンドした際には、熱可塑性樹脂へのセルロースファイバーの分散性が高く、且つ成形性に優れる組成物を得られる製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決する為に鋭意検討を進めた結果、水媒体における乳化重合・分散重合による熱可塑性樹脂の微粒子作製という手法を取り入れることにより、水に分散したナノサイズのセルロースファイバー(セルロースファイバー分散液)を、乾燥状態を経ることなく、そのまま利用することが可能であること、その上、セルロースファイバーを反応系に共存させることにより、乳化重合・分散重合時に粒子同士の融着を抑制して二次凝集を防ぐために通常必要となる安定剤・分散剤を添加せずとも、微粒子状の熱可塑性樹脂とセルロースファイバーとを含む混合物(複合材料)が得られ、且つ、該混合物とマトリックス樹脂からなる組成物は、マトリックス樹脂へのセルロースファイバーの分散性が非常に高い組成物となることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)に関する。
【0010】
前記混合物(複合材料)は、粉末形態にあることが好ましい。
また前記セルロースファイバーは、0.001乃至1μmの繊維径を有するファイバーであることが好ましい。また、前記熱可塑性樹脂微粒子は、10nm乃至5μmの平均一次粒子径を有する微粒子であることが好ましく、より好ましくは50nm乃至1μmである。
【0011】
また本発明は、その他の成分として添加剤をさらに含む、混合物(複合材料)に関する。
【0012】
さらに本発明は、前記混合物(複合材料)、及び該混合物と溶融ブレンド可能なマトリックス樹脂を含む、セルロースファイバー分散組成物も対象とする。
【0013】
そして本発明は、前記組成物から形成されたセルロースファイバー分散成形体に関する。
【0014】
さらに本発明は、セルロースファイバーの水分散液中で、アゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物から選択されるラジカル開始剤の存在下、60℃乃至90℃の温度で加熱することにより、熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を重合反応させる工程、前記重合反応系から水を除去する工程、及び前記ラジカル開始剤を反応系から除去する精製工程、を含む、前記混合物(複合材料)の製造方法に関する。
【0015】
前記製造方法において、前記ラジカル開始剤として水溶性のラジカル開始剤を用いることが好ましい。あるいは、前記ラジカル開始剤として疎水性のラジカル開始剤を用いる場合には、前記セルロースファイバーの水分散液はメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチル−2−ピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶剤を含むことが好ましい。
また前記重合性基は、アクリロイル基、メタクリロイル基又はビニル基であることが好ましい。
さらに前記精製工程は、前記重合により得られた熱可塑性樹脂が不溶な溶剤を用いて行われることが好ましい。
そして前記セルロースファイバー及び前記単量体の合計100質量%に基いて、前記セルロースファイバーは0.1乃至50質量%の割合で用いられることが好ましい。
【0016】
さらに本発明は、セルロースファイバーの水分散液中で、アゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物から選択されるラジカル開始剤の存在下、60℃乃至90℃の温度で加熱することにより、熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を重合反応させる工程、前記重合反応系から水を除去する工程、前記ラジカル開始剤を反応系から除去する精製工程、及び前記精製工程後、乾燥させて得られた混合物(複合材料)と該混合物と溶融ブレンド可能なマトリックス樹脂とを溶融ブレンドする工程、を含む、前記セルロースファイバー分散組成物の製造方法をも対象とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)は、詳細には、セルロースファイバーが熱可塑性微粒子表面に絡まった状態で存在し、セルロースファイバーと熱可塑性樹脂微粒子がいわば均一に分散して存在する状態にある。
そして該混合物において、熱可塑性樹脂が10nm乃至5μmの平均一次粒子径を有する微粒子状の形態であると、該微粒子の表面積が大きいものとなり、該混合物をポリ乳酸樹脂等のマトリックス樹脂と溶融混練などにより複合化(組成物化)する際、熱可塑性樹脂に熱が伝わりやすく溶融しやすい。このため、溶融混練時に、マトリックス樹脂と熱可塑性樹脂との相溶性が高まり、ひいては、熱可塑性樹脂微粒子に交絡した状態で存在するセルロースファイバーのマトリックス樹脂への分散性が高まることとなる。また、たとえ熱可塑性樹脂(微粒子)がマトリックス樹脂よりもガラス転移温度が高い樹脂である場合であっても、微粒子状の形態を有していると溶融ブレンド時に熱可塑性樹脂間に溶融状態となったマトリックス樹脂が浸透しやすく、結果として得られるアロイ化複合樹脂の均一性が高まることとなる。
このように、本発明の混合物(複合材料)は、熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在し、また該熱可塑性樹脂微粒子の平均一次粒子径が非常に小さい微粒子であるために、該混合物をマトリックス樹脂にブレンドした組成物中のセルロースファイバー分散性を非常に優れたものとすることができる。
また該混合物は粉末形態を有するため、該混合物の製造時に製造装置からの抜き出し性が良好であり、該混合物とマトリックス樹脂との溶融ブレンド時、さらには溶融混練物(組成物)の成形時において、ハンドリングが向上したものとなる。
【0018】
また、本発明の製造方法によれば、セルロースファイバーの水分散液中で、熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を分散・重合させることによる、熱可塑性樹脂の微粒子作製方法を採用することにより、セルロースファイバーと熱可塑性樹脂の微粒子との複合化が簡便にワンポットで行うことができ、また、特殊な装置を使用せず、工業的スケールで製造することができる。
しかも、本製造方法によれば、セルロースファイバーと熱可塑性樹脂微粒子が、その後のマトリックス樹脂とのブレンド時に問題となるようなセルロースファイバーの凝集塊を形成することなく、均一に分散・複合化した微粒子状(粉末)の混合物(複合材料)が得られる。
そして該混合物の乾燥工程においても、セルロースファイバーと複合化している熱可塑性樹脂が微粒子であることから、表面積が大きいものとなり、このため乾燥効率が高く、該混合物の生産効率を向上させることができる。
そして本発明の製造方法によれば、使用するセルロース種によらずに、ポリ乳酸中のセルロースファイバーの均一分散性が高く、且つ成形性に優れるセルロースファイバー分散組成物を製造することができる、熱可塑性微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)を製造でき、ひいては、該混合物より、表面外観に優れた成形体を製造することができるセルロースファイバー分散組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は実施例1で作製した混合物を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は実施例2で作製した混合物を観察した走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】図3は実施例5で作製したセルロースファイバー分散組成物におけるセルロースファイバーの分散状態を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図4】図4は実施例6で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図5】図5は実施例7で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図6】図6は実施例8で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図7】図7は実施例13で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図8】図8は実施例14で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図9】図9は実施例15で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図10】図10は実施例16で作製したセルロースファイバー分散組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図11】図11は比較例3で作製した組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【図12】図12は比較例4で作製した組成物を観察した偏光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、先に述べたように、セルロースファイバーと熱可塑性樹脂との複合化にあたり、セルロースファイバーの乾燥に伴うセルロースファイバーの凝集塊形成といった問題点を解消し、より簡便な工程で複合材料を作製するため、水媒体における乳化重合・分散重合による熱可塑性樹脂の微粒子作製方法を根幹に取り入れている。そして、乳化重合・分散重合時に通常必要となる分散剤・安定剤の代わりに、セルロースファイバーを共存さ
せておくことで、微粒子状の熱可塑性樹脂とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)が形成される。
このとき、熱可塑性樹脂の微粒子表面は疎水性であることが多く、親水性表面を有するセルロースとの親和性が低いことから、そのまま重合させるとそれぞれ別に凝集塊を生成し、不均一な混合物(複合材料)となる虞がある。そこで、熱可塑性樹脂の微粒子表面を、使用する重合開始剤の選択により制御することにより、すなわち、例えばアミノ基や水酸基、カルボキシル基などの極性基を有するラジカル開始剤を用いることによって、熱可塑性樹脂微粒子とセルロースの親和性を高めることが可能である。
このように、重合方法や重合条件、ラジカル開始剤の選択等を種々検討することにより、本発明の混合物(複合材料)、そしてその製造方法を完成させるに至った。以下、本発明について詳述する。
【0021】
[熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)]
本発明は、熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)に関する。
該混合物は、セルロースファイバーの水分散液中で、ラジカル開始剤の存在下、60℃乃至90℃の温度で加熱することにより熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を重合反応させる工程、前記重合反応系から水を除去する工程、及び前記ラジカル開始剤を反応系から除去する精製工程を経て、製造される。
このようにして得られた本発明の混合物(複合材料)は、セルロースファイバーが単独で凝集塊を形成することなく、またろ過など極めて簡便な方法によって、単離することができる。
以下、本発明の混合物(複合材料)について、その製造手順とともに詳述する。
【0022】
<セルロースファイバーの水分散液中で重合性基を有する単量体を重合させる工程>
まず、セルロースファイバーの水分散液中で、アゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物から選択されるラジカル開始剤の存在下、60℃乃至90℃の温度で加熱し熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を重合させる。
こうした重合条件で単量体を重合させることにより、微粒子状の重合体を得ることができる。
【0023】
本発明で使用するセルロースファイバー(セルロースファイバーが分散した水分散液)に用いるセルロースとしては特に限定されず、たとえば、高等植物由来のセルロース繊維、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維、ジン皮繊維、葉繊維などの天然セルロース繊維、動物由来のセルロース繊維、バクテリア由来のセルロース繊維などが挙げられる。これらセルロースは、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本発明においては、これらセルロースを粉砕し、微細化されたセルロースファイバーを用いる。セルロースの粉砕法は特に限定されず、ビーズミルやホモジナイザー等を用いた湿式粉砕法を用いて製造することができる。具体的には、特開2005−270891号公報に開示されるような湿式粉砕法、すなわち、セルロースを分散させた分散液を、一対のノズルから高圧でそれぞれ噴射して衝突させることにより、セルロースを粉砕するものであって、例えば(株)スギノマシン製の高圧粉砕装置を用いることにより実施できる。
こうして微細化されたセルロースファイバーは、0.001乃至1μmの繊維径を有する。
【0025】
上述の湿式粉砕法によって得られるセルロースファイバー水分散液は、その後の前記混合物の製造に使用するにあたり、セルロースファイバー濃度が高い水分散液の方が、前記混合物の製造時の容積効率が向上し、コスト削減が期待できるという利点がある。この反
面、セルロースファイバーはアスペクト比が著しく高く、ファイバー同士の絡み合いが無視できないため、セルロースファイバーの濃度があまり高いと、濃度上昇に伴う粘度上昇が顕著で液体としての取扱いが困難になる。このため、セルロースファイバー水分散液のセルロースファイバー濃度は、0.1乃至10質量%が好ましく、より好ましくは1乃至5質量%である。
【0026】
重合性基を有する単量体のセルロースファイバー水分散液への添加量は、該水分散液に含まれるセルロースファイバーの含量よりも多量であることが好ましく、すなわち、分散液中のセルロースファイバー含量と前記単量体の合計量を100質量%としたとき、重合性基を有する単量体が99.9乃至50質量%であり、よってセルロースファイバーの含量が前記合計量の0.1乃至50質量%であることが好ましい。
より好ましくは、重合性基を有する単量体の分散液への添加量が、単量体とセルロースファイバーの合計量の99乃至70質量%、すなわちセルロースファイバーの含量を前記合計量の1乃至30質量%とすることがより好ましい。
重合性基を有する単量体がセルロースファイバーに対して多量に存在していないと、後の工程でポリ乳酸等の熱可塑性樹脂と溶融ブレンドして組成物を得る際、ファイバー同士が凝集して塊を形成する虞がある。このため、組成物中にセルロースファイバーが均一に分散した組成物を得るべく、重合性基を有する単量体を前記配合量に示すように、セルロースファイバーに対して多量に存在させることが肝要である。
【0027】
本発明で用いられる重合性基を有する単量体は、重合後に熱可塑性樹脂を形成する単量体であれば特に限定されないが、中でも、アクリロイル基、メタクリロイル基又はビニル基を有する単量体が好ましい。具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸単量体;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル等のアルキル酸ビニル単量体などが挙げられる。重合性基を有する単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本発明で用いられるラジカル開始剤は、アゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物から選択され、水溶性開始剤、疎水性開始剤のいずれも使用可能である。ラジカル開始剤としてアゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物を用いることにより、前記単量体が重合した後、微粒子状の重合体とセルロースファイバーが均一に分散した混合物を形成することができる。
【0029】
前記ラジカル開始剤の具体例としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル及び2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等の疎水性のアゾ化合物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及び2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等の水溶性のアゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩;過酸化ベンゾイル、t−ブチルヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物が挙げられる。
前記ラジカル開始剤は、重合性基を有する単量体に対して0.01乃至100モル%添加することが好ましく、1乃至10モル%添加することがより好ましい。
【0030】
前記ラジカル開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル等の疎水性開始剤を用いる際には、この疎水性開始剤を溶解し且つ水と親和性のある有機溶剤を添加することにより、粉末状の熱可塑性樹脂が得られる。
上記有機溶剤としてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチ
ルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンが挙げられる。有機溶剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
また、上記有機過酸化物及び過硫酸塩は還元剤と組み合わせてレドックス系開始剤として用いることもできる。
【0031】
こうして重合性基を有する単量体を重合することにより形成される熱可塑性樹脂の微粒子の平均一次粒子径は好ましくは10nm乃至5μmであり、より好ましくは50nm乃至1μmである。
【0032】
<重合反応系から水を除去する工程及び前記ラジカル開始剤を除去する精製工程>
前記単量体の重合工程に引き続き、反応系から水を除去する。本工程は、重合の終了を確認後、ろ過することにより容易に実施される。
その後、ラジカル開始剤を除去する精製工程は、先の工程で得られた重合体が不溶である溶剤を用いて実施される。具体的には、前工程でろ過して得られた残留物を、水、メタノール、エタノール、アセトン等を用いて洗浄する。
こうして析出した樹脂を、好ましくは25乃至100℃にて、上記洗浄に用いた溶剤を除去するために例えば真空乾燥させることにより、熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物(複合材料)を得る。
【0033】
[前記混合物(複合材料)とマトリックス樹脂を含むセルロースファイバー分散組成物]
このようにして得られた混合物(複合材料)と、該混合物と溶融ブレンド可能なマトリックス樹脂を含むセルロースファイバー分散組成物も、本発明の対象である。
前記マトリックス樹脂としては、セルロースが分解する温度(約240℃)以下で成形できる熱可塑性樹脂(ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、エチルセルロース、酢酸セルロース等)が挙げられる。
【0034】
<その他添加剤>
本発明の組成物は、公知の無機充填剤を含有し得る。無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ、シリカ、カオリン、クレー、ウオラストナイト、ガラスビーズ、ガラスフレーク、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、酸化チタン等が挙げられる。これらの無機充填剤の形状は、繊維状、粒状、板状、針状、球状、粉末のいずれでもよい。これらの無機充填剤は、ポリ乳酸100質量部に対して、300質量部以内で使用できる。
また、本発明の組成物は、公知の難燃剤を含有し得る。難燃剤としては、例えば、臭素化合物、塩素化合物等のハロゲン系難燃剤、メラミン系難燃剤、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、シリコーン化合物等の無機系難燃剤、赤リン、リン酸エステル類、ポリリン酸アンモニウム、フォスファゼン等のリン系難燃剤、PTFE等のフッ素樹脂等が挙げられる。これらの難燃剤は、ポリ乳酸100質量部に対して、200質量部以内で使用できる。
さらに上記成分以外にも、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、衝撃改良剤、帯電防止剤、顔料、着色剤、離型剤、滑剤、可塑剤、相溶化剤、発泡剤、香料、抗菌抗カビ剤、その他の各種充填剤、一般的な合成樹脂の製造時に通常使用される各種添加剤も、本発明の組成物に併用することができる。
なお、これら<その他添加剤>をさらに含む混合物(複合材料)もまた、本発明の対象である。
【0035】
本発明の組成物は、射出成形、ブロー成形、真空成形、圧縮成形等の慣用の成形法を使用することによって、各種成形体を容易に製造可能である。
【実施例】
【0036】
下記実施例1乃至実施例4、実施例9乃至実施例12、比較例1及び比較例2で使用したセルロースファイバー水分散液は、特開2005−270891号公報に開示された「多糖類の湿式粉砕方法」の手順に準拠し、市販パルプ由来セルロース(Celite社製
BH−100)を用いて調製した、1.0質量%、0.7質量%又は3.5質量%のパルプ由来セルロースファイバー水分散液である。
【0037】
<実施例1乃至実施例4:ラジカル開始剤としてアゾ化合物を用いた混合物(複合材料)の製造>
[実施例1]
1.0質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液50gに、酢酸0.5g及びメタクリル酸メチル2.75gを加え、80℃に加熱した。別途、水3gに酢酸30mg及びラジカル開始剤として2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]100mgを加え開始剤水溶液を調製した。この水溶液を80℃に加熱した前記セルロースファイバー水分散液に添加し、80℃に維持して撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.73gを作製した。
得られた混合物のポリメタクリル酸メチル(以下、PMMAと略称する。)の重量平均分子量;92,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0038】
[実施例2]
1.0質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液50gに、エタノール10gに溶解したアゾビスイソブチロニトリル65.8mgを添加し、さらにメタクリル酸メチル2.75gを加え、70℃に加熱し撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.79gを作製した。
得られた混合物のPMMAの重量平均分子量;310,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0039】
[実施例3]
0.7質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液68gに、酢酸0.7g及びラジカル開始剤として2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]104mgを添加し、撹拌して溶解させた後、酢酸ビニル2.41gを添加し、70℃に加熱し撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物を水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.04gを作製した。
得られた混合物のポリ酢酸ビニルの重量平均分子量;1,255,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0040】
[実施例4]
3.5質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液68gに、酢酸0.7g及びメタクリル酸メチル8.40gを加え、70℃に加熱した。別途、水9gに酢酸90mg及びラジカル開始剤として2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]300mgを加え、開始剤水溶液を調製した。この水溶液を前記セルロースファイバー水分散液に添加し、70℃に維持して撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノールと水で洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)9.9
0gを作製した。
得られた混合物のPMMAの重量平均分子量;161,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0041】
<実施例5乃至実施例8:実施例1乃至実施例4で作製した混合物(複合材料)を用いたセルロースファイバー分散組成物の製造>
[実施例5]
実施例1で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0042】
[実施例6]
実施例2で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0043】
[実施例7]
実施例3で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0044】
[実施例8]
実施例4で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0045】
<実施例9及び実施例10:ラジカル開始剤として過硫酸塩を用いた混合物(複合材料)の製造>
[実施例9]
0.7質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液68gに、メタクリル酸メチル2.75gを加え、80℃に加熱した。別途、水4gにラジカル開始剤として過硫酸カリウム218mgを加え開始剤水溶液を調製した。この水溶液を前記セルロースファイバー水分散液に添加し、80℃に維持して撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.99gを作製した。
得られた混合物のPMMAの重量平均分子量;141,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0046】
[実施例10]
0.7質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液60gに、メタクリル酸メチル3.96gを加え、80℃に加熱した。別途、水2gにラジカル開始剤として過硫酸アンモニウム920mgを加え開始剤水溶液を調製した。この水溶液を前記セルロースファイバー水分散液に添加し、80℃に維持して撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、6N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和を行い、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水10
0gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.95gを作製した。
得られた混合物のPMMAの重量平均分子量;118,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0047】
<実施例11及び実施例12:ラジカル開始剤として実施例1乃至実施例4とは異なるアゾ化合物を用いた混合物(複合材料)の製造>
[実施例11]
1.0質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液50gに、メタクリル酸メチル2.75gを加え、80℃に加熱した。別途、水3gにラジカル開始剤として2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩100mgを加え開始剤水溶液を調製した。この水溶液を前記セルロースファイバー水分散液に添加し、80℃に維持して撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.29gを作製した。
得られた混合物のPMMAの重量平均分子量;115,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0048】
[実施例12]
1.0質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液50gに、メタクリル酸メチル5.00g及び2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]297mgを加え75℃に加熱し撹拌した。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)を作製した。
得られた混合物のPMMAの重量平均分子量;612,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0049】
<実施例13及び実施例14:実施例9及び実施例10で作製した混合物(複合材料)を用いたセルロースファイバー分散組成物の製造>
[実施例13]
実施例9で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0050】
[実施例14]
実施例10で作製した混合物(複合材料)0.40gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.60gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0051】
<実施例15及び実施例16:実施例11及び実施例1で作製した混合物(複合材料)を用いたセルロースファイバー分散組成物の製造>
[実施例15]
実施例11で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0052】
[実施例16]
実施例1で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリメタクリル酸メチル3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(240℃、50rpm、5分)し、ポリメタクリル酸メチルを主成分とするセルロースファイバー分散組成物を作製した。
【0053】
[比較例1]
本比較例は、セルロースファイバー水分散液中で重合性基を有する単量体を重合させていない点で、本明細書の実施例と異なる。
水50gにメタクリル酸メチル2.75gと酢酸0.5gを加え80℃に加熱した。別途、水3gに酢酸36mg及びラジカル開始剤として2,2’−アゾビス[2−(2−イ
ミダゾリン−2−イル)プロパン]100mgを加え開始剤水溶液を調製した。この水溶
液を80℃に維持したメタクリル酸メチル水溶液に添加し、80℃に加熱し撹拌を行った。加熱及び撹拌を中止して室温に放置し、重合が終了したことを確認した後、0.7質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液68gを加えた。撹拌した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノール100gと水100gで洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)2.73gを作製した。
得られた混合物(複合材料)のPMMAの重量平均分子量;55,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0054】
[比較例2]
本比較例は、アゾ化合物、過硫酸塩、有機過酸化物のいずれでもない開始剤を用いる点で、本明細書の実施例と異なる。
0.7質量%パルプ由来セルロースファイバー水分散液68gに、メタクリル酸メチル2.75g、硝酸二アンモニウムセリウム0.83gを加え、室温で撹拌した。48時間撹拌した後、ろ過により水を除去した。水を除去した後の残留物をメタノールと水で洗浄し、40℃で真空乾燥を行い、混合物(複合材料)1.02gを作製した。
得られた混合物(複合材料)のPMMAの重量平均分子量;549,000(測定装置:東ソー(株)製HLC−8220GPC、標準試料:ポリスチレン)
【0055】
[比較例3]
比較例1で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とする組成物を作製した。
【0056】
[比較例4]
比較例2で作製した混合物(複合材料)0.26gとポリ乳酸(NatureWorks社製3001D)3.74gをラボプラストミルマイクロ((株)東洋精機製作所製)で溶融混練(200℃、50rpm、5分)し、ポリ乳酸を主成分とする組成物を作製した。
【0057】
[走査型電子顕微鏡による混合物(複合材料)の観察]
実施例1及び実施例2で作製した各混合物(複合材料)について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、セルロースファイバーとPMMA(熱可塑性樹脂)の微粒子からなる混合物の状態を観察した。結果を図1及び図2に示す。
なお、使用した走査型電子顕微鏡は以下の通りである。
<測定装置>JEOL(日本電子(株))製 JSM−7400F
【0058】
図1及び図2に示すように、実施例1及び実施例2で作製した混合物(複合材料)にお
いて、セルロースファイバーはPMMAの微粒子表面に絡まった状態にあり、微粒子間にいわば抱きこまれている状態で存在していることが確認された。
また、これら顕微鏡写真より、PMMA微粒子の粒径は50nm乃至1μmの範囲内であった。
【0059】
[偏光顕微鏡によるセルロースファイバー分散組成物の観察]
実施例5乃至実施例8、実施例13乃至実施例16及び、比較例3及び比較例4で作製した各組成物について、偏光顕微鏡を用いて各組成物におけるセルロースファイバーの分散状態を観察した。結果を図3乃至図12に示す。
なお、偏光顕微鏡写真の撮影条件は以下の通りである。
<測定装置>(株)ニコン製 偏光顕微鏡 ECLIPSE LV100POL
<測定条件>200℃に組成物を加熱し、溶融状態を観察
【0060】
図3乃至図12中、白く輝度の高い部分は、セルロースの存在を示している。なおセルロースファイバー分散組成物におけるセルロースの分散性が非常に高い場合(例;図5:実施例7、図8:実施例14、図10:実施例16等)には、輝度の高い部分が消失したように見える。
図3乃至図10に示すように、実施例5乃至実施例8及び実施例13乃至実施例16で作製した各セルロースファイバー分散組成物は、ポリ乳酸又はポリメタクリル酸メチルへのセルロースファイバーの分散性が高いことが観察された。一方、比較例3及び比較例4で作製した組成物(図11及び図12)は実施例に比べてセルロースが凝集しており、均一分散性に劣ることが観察された。
【0061】
[セルロースファイバー分散性評価]
実施例5乃至実施例8、実施例13乃至実施例16及び、比較例3及び比較例4で作製した各組成物の偏光顕微鏡写真を観察し、撮影写真に見られるセルロースファイバーの凝集塊の大きさを評価した。そして下記表1の基準に基づき、セルロースファイバーの分散性を評価した。得られた結果を表2に示す。
評価方法:偏光顕微鏡写真を目視することによる凝集塊の大きさ評価
【表1】
【表2】
【0062】
表2に示すとおり、実施例5乃至実施例8、実施例13乃至実施例16のセルロースファイバー分散組成物は、偏光顕微鏡写真において50μmを超えるセルロースファイバーの凝集塊の存在は認められず、セルロースファイバーの分散性に優れるものであるとする結果が得られた。
一方、比較例3及び比較例4の組成物は、偏光顕微鏡写真において100μmを超えるセルロースファイバーの凝集塊の存在が確認され、セルロースファイバーの分散性に劣るとする結果が得られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0063】
【特許文献1】特開2005−145028号公報
【特許文献2】特開2007−238812号公報
【特許文献3】特開2010−106251号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物。
【請求項2】
粉末形態にある、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
前記セルロースファイバーは、0.001乃至1μmの繊維径を有する、請求項1又は請求項2に記載の混合物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂微粒子は、10nm乃至5μmの平均一次粒子径を有する、請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載の混合物。
【請求項5】
その他の成分として添加剤をさらに含む、請求項1乃至請求項4のうちいずれか一項に記載の混合物。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載の混合物、及び、該混合物と溶融ブレンド可能なマトリックス樹脂を含む、セルロースファイバー分散組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の組成物から形成されたセルロースファイバー分散成形体。
【請求項8】
セルロースファイバーの水分散液中で、アゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物から選択されるラジカル開始剤の存在下、60℃乃至90℃の温度で加熱することにより、熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を重合反応させる工程、
前記重合反応系から水を除去する工程、及び
前記ラジカル開始剤を反応系から除去する精製工程、
を含む、請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載の混合物の製造方法。
【請求項9】
前記ラジカル開始剤として水溶性のラジカル開始剤を用いる、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ラジカル開始剤として疎水性のラジカル開始剤を用いる場合であって、前記セルロースファイバーの水分散液はメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチル−2−ピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶剤を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記重合性基は、アクリロイル基、メタクリロイル基又はビニル基である、請求項8乃至請求項10のうちいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記精製工程は、前記重合により得られた熱可塑性樹脂が不溶な溶剤を用いて行われる、請求項8乃至請求項11のうちいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記セルロースファイバー及び前記単量体の合計100質量%に基いて、前記セルロースファイバーは0.1乃至50質量%の割合で用いられる、請求項8乃至請求項12のうちいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
セルロースファイバーの水分散液中で、アゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物から選択されるラジカル開始剤の存在下、60℃乃至90℃の温度で加熱することにより、熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を重合反応させる工程、
前記重合反応系から水を除去する工程、
前記ラジカル開始剤を反応系から除去する精製工程、及び
前記精製工程後、乾燥させて得られた混合物と該混合物と溶融ブレンド可能なマトリックス樹脂とを溶融ブレンドする工程、
を含む、請求項6に記載のセルロースファイバー分散組成物の製造方法。
【請求項1】
熱可塑性樹脂微粒子とセルロースファイバーとが交絡して存在する混合物。
【請求項2】
粉末形態にある、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
前記セルロースファイバーは、0.001乃至1μmの繊維径を有する、請求項1又は請求項2に記載の混合物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂微粒子は、10nm乃至5μmの平均一次粒子径を有する、請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載の混合物。
【請求項5】
その他の成分として添加剤をさらに含む、請求項1乃至請求項4のうちいずれか一項に記載の混合物。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載の混合物、及び、該混合物と溶融ブレンド可能なマトリックス樹脂を含む、セルロースファイバー分散組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の組成物から形成されたセルロースファイバー分散成形体。
【請求項8】
セルロースファイバーの水分散液中で、アゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物から選択されるラジカル開始剤の存在下、60℃乃至90℃の温度で加熱することにより、熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を重合反応させる工程、
前記重合反応系から水を除去する工程、及び
前記ラジカル開始剤を反応系から除去する精製工程、
を含む、請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載の混合物の製造方法。
【請求項9】
前記ラジカル開始剤として水溶性のラジカル開始剤を用いる、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ラジカル開始剤として疎水性のラジカル開始剤を用いる場合であって、前記セルロースファイバーの水分散液はメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド及びN−メチル−2−ピロリドンからなる群から選択される少なくとも1種の有機溶剤を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記重合性基は、アクリロイル基、メタクリロイル基又はビニル基である、請求項8乃至請求項10のうちいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記精製工程は、前記重合により得られた熱可塑性樹脂が不溶な溶剤を用いて行われる、請求項8乃至請求項11のうちいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記セルロースファイバー及び前記単量体の合計100質量%に基いて、前記セルロースファイバーは0.1乃至50質量%の割合で用いられる、請求項8乃至請求項12のうちいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
セルロースファイバーの水分散液中で、アゾ化合物、過硫酸塩又は有機過酸化物から選択されるラジカル開始剤の存在下、60℃乃至90℃の温度で加熱することにより、熱可塑性樹脂を形成する、重合性基を有する単量体を重合反応させる工程、
前記重合反応系から水を除去する工程、
前記ラジカル開始剤を反応系から除去する精製工程、及び
前記精製工程後、乾燥させて得られた混合物と該混合物と溶融ブレンド可能なマトリックス樹脂とを溶融ブレンドする工程、
を含む、請求項6に記載のセルロースファイバー分散組成物の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−92203(P2012−92203A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239877(P2010−239877)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
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