説明

混合金属触媒組成物、その製造法および使用

【課題】少なくとも1種のVIII族非貴金属および少なくとも2種のVIB族金属を含むバルク触媒粒子を含む触媒組成物の製造法の提供。
【解決手段】少なくとも1種のVIII族非貴金属成分と少なくとも2種のVIB族金属成分とをプロトン性液体の存在下で配合し、そして反応させることを含み、金属成分の少なくとも1種は、全プロセスの間、少なくとも部分的に固体状態のままであるところの触媒組成物の製造法。さらに、該製造法によって得られる触媒組成物およびハイドロプロセッシング用途におけるそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種のVIII族非貴金属および少なくとも2種のVIB族金属を含むバルク触媒粒子を含む混合金属触媒組成物の製造法、該方法によって得られ得る触媒組成物、および該触媒をハイドロプロセッシング用途における触媒として使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素原料のハイドロプロセッシングでは、原料が、水素の存在下でハイドロプロセッシングされおよび/または水素クラッキングされる。ハイドロプロセッシングは、炭化水素原料を高められた温度および高められた圧力で水素と反応させる全てのプロセス、例えば、水素化、水素脱硫、水素脱窒、水素脱金属、水素化芳香族低減、水素異性化、水素脱蝋、水素クラッキング、および温和な圧力条件下での水素クラッキング(通常、マイルド水素クラッキングと言う)を包含する。
【0003】
一般に、ハイドロプロセッシング触媒は、担体と、その上に付着したVIB族金属成分およびVIII族非貴金属成分とで構成される。一般に、そのような触媒は、担体に、かかる金属の化合物の水性溶液を含浸させ、次いで1以上の乾燥および焼成工程を行うことにより製造される。そのような触媒製造プロセスは、例えば、米国特許第2,873,257号および欧州特許第0469675に記載されている。
【0004】
上記触媒の製造のための別の技術は、米国特許第4,113,605号に記載されている。ここでは、例えば炭酸ニッケルを例えばMoO3と反応させて結晶性モリブデン酸ニッケルを形成し、これを次いで、アルミナと混合し、押し出す。
【0005】
同様の方法が、ドイツ特許第3029266に開示されている。ここでは、炭酸ニッケルをWO3と混合し、得られた組成物を、例えば硝酸ニッケルおよびタングステン酸アンモニウムを含浸させたアルミナと混合させる。
【0006】
担体自体は触媒活性を全くまたはほとんど有しないので、ハイドロプロセッシングにおける上記担体含有触媒の活性はやや中庸である。したがって、本発明の目的は、担体なしで適用され得る触媒を提供することである。そのような担体なしの触媒を一般にバルク触媒という。
【0007】
バルク触媒の製造は、例えば英国特許836,936および欧州特許0014218から公知である。例えば欧州特許0014218の触媒は、炭酸カリウム、二クロム酸カリウム、酸化バナジウム、酸化鉄、ポルトランドセメント、メチルセルロースおよびグラファイトの水性スラリーをスプレー乾燥することにより製造される。
【0008】
なお、上記触媒は全て、1種のVIII族非貴金属および1種のVIB族金属を含む。そのような触媒は、ハイドロプロセッシングにおいて中程度の活性しか示さない。従って、本発明の目的は、高められた触媒活性を有する触媒を提供することである。
【0009】
さらに最近の開発は、1種のVIII族非貴金属および2種のVIB族金属を含む触媒の利用である。
【0010】
そのような触媒は、例えばJP09000929、米国特許第4,596,785号、米国特許第4,820,677号、米国特許第3,678,124号、米国特許第4,153,578号および非先公開国際特許出願WO9903578に開示されている。
【0011】
JP09000929の触媒は担体含有触媒であり、VIII族非貴金属としてのコバルトまたはニッケルおよびVIB族金属としてのモリブデンおよびタングステンを無機担体に含浸させることにより製造される。
【0012】
米国特許第4,596,785の触媒は、少なくとも1種のVIII族非貴金属および少なくとも1種のVIB族金属を含む。米国特許第4,820,677号の触媒は、VIII族非貴金属としての鉄およびVIB族金属としてのモリブデン、タングステンまたはそれらの混合物から選択される金属、ならびにエチレンジアミンなどの多価リガンドを含むアモルファス硫化物である。どちらの文献も、触媒は、硫化物の存在下で1種のVIII族非貴金属および2種のVIB族金属の水溶性源を共沈させることにより製造される。沈殿は単離され、乾燥、焼成される。プロセス工程の全てが不活性雰囲気中で行われなければならない。これは、この方法を行うためには高度に複雑な技術が必要であることを意味する。さらに、この共沈技術故に、排水が多量である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の更なる目的は、技術的に簡単かつ強く、触媒の製造に際して不活性雰囲気下での取扱いを必要とせず、かつ多量の排水を回避することができる方法を提供することである。
【0014】
米国特許第3,678,124号は、パラフィン系炭化水素の酸化脱水素において使用されるべき酸化物バルク触媒を開示している。その触媒は、対応する金属の水溶性成分を共沈させることにより製造される。この場合も、共沈技術が多量の排水を生じる。
【0015】
米国特許第4,153,578号の触媒は、ブチンジオールの水素化のために使用されるべきラネーニッケル触媒である。その触媒は、所望により例えばタングステンを含むラネーニッケルを水の存在下でモリブデン成分と接触させることにより製造される。モリブデンは、得られた懸濁物を室温で攪拌することによりラネーニッケル上に吸着される。
【0016】
最後に、非先公開国際特許出願WO9903578では、所定量のニッケル、モリブデンおよびタングステン源を硫化物の非存在下で共沈させることにより触媒が製造される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的は全て、少なくとも1種のVIII族非貴金属成分と少なくとも2種のVIB族金属成分とをプロトン性液体の存在下で配合し、そして反応させることを含み、金属成分の少なくとも1種は、全プロセスの間、少なくとも部分的に固体状態のままであるところの方法によって満たされ得ることが今見出された。
【0018】
本発明の別の局面は、新規な触媒組成物である。
【0019】
本発明のさらに別の局面は、炭化水素原料をハイドロプロセッシングするための上記組成物の使用方法である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1における焼成工程後に得られた本発明の触媒組成物のX線回折パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の方法
(A)バルク触媒粒子の製造
本発明は、少なくとも1種のVIII族非貴金属および少なくとも2種のVIB族金属を含むバルク触媒粒子を含む触媒組成物の製造法において、該方法が、少なくとも1種のVIII族非貴金属成分と少なくとも2種のVIB族金属成分とをプロトン性液体の存在下で配合し、そして反応させることを含み、金属成分の少なくとも1種は、全プロセスの間、少なくとも部分的に固体状態のままであるところの方法に関する。
【0022】
すなわち、少なくとも1種の金属成分が、本発明の全プロセスの間、少なくとも部分的に固体状態のままであることが本発明方法に必須である。この方法は、金属成分を配合し、反応させることを含む。特に、その方法は、金属成分を互いに添加し、同時におよび/またはその後、それらを反応させることを含む。その結果、少なくとも1種の金属成分を少なくとも部分的に固体状態で添加し、この金属成分が、全反応の間、少なくとも部分的に固体状態のままであることが本発明方法に必須である。この文脈において、「少なくとも部分的に固体状態」とは、金属成分の少なくとも一部が固体の金属成分として存在し、所望により金属成分の他の部分がこの金属成分のプロトン性液体中の溶液として存在することを意味する。この典型的な例は、金属が少なくとも部分的に固体として存在し、所望により部分的にプロトン性液体中に溶解しているところのプロトン性液体中の金属成分の懸濁物である。
【0023】
最初に、プロトン性液体中の金属成分の懸濁物を製造し、そして、プロトン性液体中に溶解したおよび/または懸濁した金属成分を含む溶液および/または更なる懸濁物を同時にまたは一つずつ添加することができる。また、最初に、溶液を同時にまたは一つずつ配合し、次いで、更なる懸濁物および所望により溶液を同時にまたは一つずつ添加することもできる。
【0024】
これら全ての場合に、金属成分を含む懸濁物は、固体の金属成分をプロトン性液体に懸濁することにより調製され得る。
【0025】
しかし、1以上の金属成分を(共)沈殿させることにより懸濁物を調製することもできる。得られる懸濁物は、本発明の方法において、そのまま適用することができる。すなわち得られた懸濁物に、更なる金属成分が、溶液、スラリーまたはそれ自体で添加される。得られた懸濁物は、固液分離の後および/または所望により乾燥された後および/または所望により熱処理された後および/または所望によりプロトン性液体中で濡らされたまたは再スラリー化された後に適用することもできる。金属成分の懸濁物の代わりに、湿った状態または乾燥した状態の金属成分が使用され得る。
【0026】
なお、上記方法の代替法は、反応混合物への金属成分の添加を例示するためのいくつかの実施例のみである。一般には、全ての添加順序が可能である。好ましくは、全てのVIII族非貴金属成分が同時に配合され、全てのVIB族金属成分が同時に配合され、得られた2つの混合物が次いで配合される。
【0027】
少なくとも1種の金属成分が、本発明のプロセスの間、少なくとも部分的に固体状態にある限り、少なくとも部分的に固体状態にある金属成分の数は重要ではない。すなわち、本発明方法において配合されるべき全ての金属成分を少なくとも部分的に固体状態で適用することが可能である。あるいは、少なくとも部分的に固体状態にある金属成分を、溶質状態にある金属成分と配合することができる。例えば、金属成分の1種を少なくとも部分的に固体状態で添加し、少なくとも2種、好ましくは2種の金属成分を溶質状態で添加する。別の実施態様では、2種の金属成分が、少なくとも部分的に固体状態で添加され、少なくとも1種、好ましくは1種の金属成分が溶質状態で添加される。
【0028】
金属成分が「溶質状態で」添加されるとは、この金属成分の全量が、プロトン性液体中のこの金属成分の溶液として添加されることを意味する。
【0029】
何らかの理論に縛られることを望まないが、本出願人は、本発明方法に際して添加される金属成分が少なくとも部分的に相互作用し、プロトン性液体が、溶解した金属成分の輸送を担っていると考える。この輸送故に、金属成分が互いに接触し、反応することができる。全ての金属成分が本質的に完全に固体状態にあっても、この反応は起こりうると考えられる。プロトン性液体の存在故に、金属成分の小さい画分はなおも溶解することができ、従って、上記したように反応し得る。従って、本発明方法に際してプロトン性の液体の存在は必須であると考えられる。
【0030】
反応は、IR分光分析法またはラマン分光分析法などの慣用の技術によってモニターすることができる。反応は、この場合、信号の変化によって示される。いくつかの場合は、反応混合物のpHをモニターすることによって反応をモニターすることもできる。この場合の反応は、pH変化によって示される。さらに、反応の完全性は、X線回折によってモニターすることができる。これは、「本発明の触媒組成物」の項でさらに詳細に述べる。
【0031】
明らかなように、ある触媒組成物の製造のために必要な全金属成分を含む溶液を最初に調製し、次いでこれらの成分を共沈させることは適切でない。また、本発明方法の場合、少なくとも部分的に固体状態にある金属成分を添加し、そして、全ての添加された金属成分が少なくともある段階で完全に溶質状態で存在するように、プロセス条件、例えば温度、pHまたはプロトン性液体の量を選択することも適切でない。これに対して、上記したように、少なくとも部分的に固体状態で添加されるところの金属成分の少なくとも1種は、全反応工程の間、少なくとも部分的に固体状態のままでなければならない。
【0032】
好ましくは、VIB族およびVIII族非貴金属成分の全ての総重量に基づいて金属酸化物として計算して、少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、さらにより好ましくは少なくとも15重量%の金属成分が、本発明のプロセスの間固体状態で添加される。高収率、すなわち多量の最終触媒組成物を得ることを望む場合は、本発明のプロセスの間その多くの量が固体状態のままであるところの金属成分の使用が好ましい方法であり得る。その場合、少量の金属成分は、母液中に溶解したままであり、続く固液分離の間に排水中に至る金属成分の量は減少する。固液分離の結果得られる母液が本発明方法において再循環されるならば、金属成分のいかなる損失も完全に回避することができる。なお、共沈法に基づく触媒製造と比較して、排水の量がかなり減少され得ることは、本発明方法の特定の利点である。
【0033】
金属成分の反応性に応じて、全金属成分の総重量に基づいて、金属酸化物として計算して、本発明方法で最初に使用される全金属成分の好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.05重量%、最も好ましくは少なくとも0.1重量%が溶液として添加される。このようにして、金属成分の適切な接触が確実にされる。添加されるべき特定の金属成分の反応性が低いならば、多量のこの金属成分を溶液として添加することが好ましい。
【0034】
本発明方法において適用されるべきプロトン性液体は、任意のプロトン性液体であり得る。例は、水、カルボン酸およびアルコール、例えばメタノール、エタノールまたはそれらの混合物である。好ましくは、水を含む液体、例えばアルコールと水との混合物、好ましくは水が、本発明方法におけるプロトン性液体として使用される。また、本発明方法では、種々のプロトン性液体が同時に適用され得る。例えば、エタノール中の金属の懸濁物を別の金属成分の水性溶液に添加することができる。いくつかの場合は、それ自体の結晶水に溶解する金属成分を使用することができる。この場合、結晶水がプロトン性液体として作用する。もちろん、プロトン性液体は、反応を妨害しないものが選択されなければならない。
【0035】
本発明方法では、少なくとも1種のVIII族非貴金属成分と少なくとも2種のVIB族金属成分が適用される。適するVIB族金属は、クロム、モリブデン、タングステンまたはそれらの混合物を包含し、モリブデンとタングステンの組み合わせが最も好ましい。適するVIII族非貴金属は、鉄、コバルト、ニッケルまたはそれらの混合物を包含し、好ましくはコバルトおよび/またはニッケルである。本発明方法では、好ましくは、二ッケル、モリブデンおよびタングステンまたはニッケル、コバルトおよびタングステン、またはコバルト、モリブデンおよびタングステンを含む金属成分の組み合わせが適用される。
【0036】
ニッケルおよびコバルトが、酸化物として計算して、VIII族非貴金属成分の全体の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70重量%、さらにより好ましくは少なくとも90重量%を占めるのが好ましい。VIII族非貴金属成分が本質的にニッケルおよび/またはコバルトから成るのが特に好ましくあり得る。
【0037】
モリブデンおよびタングステンが、三酸化物として計算して、VIB族金属成分の全体の少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも70重量%、さらにより好ましくは少なくとも90重量%を占めるのが好ましい。特に好ましくは、VIB族金属成分が本質的にモリブデンおよびタングステンから成る。
【0038】
本発明方法で適用されるVIB族金属とVIII族非貴金属とのモル比は一般に、10:1〜1:10、好ましくは3:1〜1:3の範囲である。種々のVIB族金属の互いのモル比は一般に重要でない。同じことが、1より多くのVIII族非貴金属が適用される場合にも当てはまる。モリブデンおよびタングステンがVIB族金属として使用されるとき、モリブデン:タングステンのモル比は好ましくは、9:1〜1:19、より好ましくは3:1〜1:9、最も好ましくは3:1〜1:6の範囲である。
【0039】
プロトン性液体が水であるならば、本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態にあるVIII族非貴金属成分およびVIB族金属成分の溶解度は一般に、0.05モル/(100mlの水、18℃)未満である。
【0040】
プロトン性液体が水であるならば、本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態にあるVIII族非貴金属成分は、水中の溶解度が低いVIII族非貴金属成分、例えばクエン酸塩、シュウ酸塩、炭酸塩、ヒドロキシ炭酸塩、水酸化物、リン酸塩、リン化物、硫化物、アルミン酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、酸化物、またはそれらの混合物を含む。好ましくは、本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態にあるVIII族非貴金属成分は、シュウ酸塩、炭酸塩、ヒドロキシ炭酸塩、水酸化物、リン酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、酸化物またはそれらの混合物を含み、より好ましくは、本質的にそれらから成り、ヒドロキシ炭酸塩および炭酸塩が最も好ましい。一般に、ヒドロキシ炭酸塩中のヒドロキシ基とカーボネート基とのモル比は、0〜4、好ましくは0〜2、より好ましくは0〜1、最も好ましくは0.1〜0.8の範囲にある。最も好ましくは、本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態にあるVIII族非貴金属成分が、VIII族非貴金属塩である。
【0041】
プロトン性液体が水であるならば、本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態にある適するニッケルおよびコバルト成分は、水不溶性ニッケルまたはコバルト成分、例えばニッケルおよび/またはコバルトのシュウ酸塩、クエン酸塩、アルミン酸塩、炭酸塩、ヒドロキシ炭酸塩、水酸化物、モリブデン酸塩、リン酸塩、リン化物、硫化物、タングステン酸塩、酸化物、またはそれらの混合物を含む。好ましくは、ニッケルまたはコバルト成分が、ニッケルおよび/またはコバルトのシュウ酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、ヒドロキシ炭酸塩、水酸化物、モリブデン酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、酸化物、またはそれらの混合物を含み、より好ましくは本質的にそれらから成り、ニッケルおよび/またはコバルトのヒドロキシ炭酸塩、ニッケルおよび/またはコバルトの水酸化物、ニッケルおよび/またはコバルトの炭酸塩、またはそれらの混合物が最も好ましい。一般に、ニッケルまたはコバルトまたはニッケル−コバルトのヒドロキシ炭酸塩におけるヒドロキシ基とカーボネート基とのモル比は、0〜4、好ましくは0〜2、より好ましくは0〜1、最も好ましくは0.1〜0.8の範囲にある。少なくとも部分的に固体状態にある適する鉄成分は、クエン酸鉄(II)、鉄の炭酸塩、ヒドロキシ炭酸塩、水酸化物、リン酸塩、リン化物、硫化物、酸化物またはそれらの混合物であり、クエン酸鉄(II)、鉄の炭酸塩、ヒドロキシ炭酸塩、水酸化物、リン酸塩、リン化物、酸化物またはそれらの混合物が好ましい。
【0042】
プロトン性液体が水である場合、接触の間少なくとも部分的に固体状態にある適するVIB族金属成分は、水中での溶解度が低いVIB族金属成分、例えば二酸化物、三酸化物、カーバイド、ニトリド、アルミニウム塩、酸、硫化物またはそれらの混合物を含む。接触の間少なくとも部分的に固体状態にある好ましいVIB族金属成分は、二酸化物、三酸化物、酸またはそれらの混合物を含み、好ましくは、本質的にそれらから成る。
【0043】
本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態にある適するモリブデン成分は、水不溶性のモリブデン成分、例えば二酸化モリブデン、三酸化モリブデン、硫化モリブデン、モリブデンカーバイド、モリブデンニトリド、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸(例えば、H2MoO4)、ホスホモリブデン酸アンモニウム、またはそれらの混合物を含み、モリブデン酸、二酸化モリブデンおよび三酸化モリブデンが好ましい。
【0044】
最後に、本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態にある適するタングステン成分は、水不溶性のタングステン化合物、例えば二酸化タングステン、三酸化タングステン、硫化タングステン(WS2およびWS3)、タングステンカーバイド、オルソ−タングステン酸(H2WO4・H2O)、タングステンニトリド、タングステン酸アルミニウム(メタ−またはポリタングステン酸塩も)、ホスホタングステン酸アンモニウム、またはそれらの混合物を含み、オルトタングステン酸、二酸化タングステンおよび三酸化タングステンが好ましい。
【0045】
上記成分は全て、一般的に市販されており、または、例えば析出によって製造することができる。例えば、ヒドロキシ炭酸ニッケルは、塩化ニッケル、硫酸ニッケルまたは硝酸ニッケル溶液から、適量の炭酸ナトリウムを添加することにより製造することができる。望ましい形態学およびテクスチャーが得られるように析出条件を選択することは、一般に、当業者には公知である。
【0046】
一般に、金属の他にC、Oおよび/またはHを主として含む金属成分が好ましい。なぜならば、それらは環境にあまり有害でないからである。VIII族非貴金属炭酸塩およびヒドロキシ炭酸塩が、少なくとも部分的に固体状態で添加されるべき好ましい金属成分である。というのは、炭酸塩またはヒドロキシ炭酸塩が適用されると、CO2が発生し、反応混合物のpHに好ましい影響を及ぼすからである。さらに、炭酸塩はCO2に転化され、排水中に至らないので、排水を再循環することができる。更に、この場合、得られたバルク触媒粒子から望ましくないアニオンを除くための洗浄工程が不要である。
【0047】
溶質状態で添加されるべき好ましいVIII族非貴金属成分は、水溶性のVIII族非貴金属塩、例えば硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、ギ酸塩、次亜リン酸塩およびそれらの混合物を含む。例は、水溶性のニッケルおよび/またはコバルト成分、例えば水溶性のニッケルおよび/またはコバルト塩、例えばニッケルおよび/またはコバルトの硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、ギ酸塩またはそれらの混合物、ならびに次亜リン酸ニッケルを包含する。溶質状態で添加されるべき適する鉄成分は、鉄の酢酸塩、塩化物、ギ酸塩、硝酸塩、硫酸塩またはそれらの混合物を含む。
【0048】
溶質状態で添加されるべき適するVIB族金属成分は、水溶性のVIB族金属塩、例えばアンモニウムまたはアルカリ金属の正モノモリブデン酸塩およびタングステン酸塩、ならびにモリブデンおよびタングステンの水溶性イソポリ化合物、例えばメタタングステン酸、または、例えばP、Si、NiまたはCoまたはそれらの組合せをさらに含む、モリブデンまたはタングステンの水溶性ヘテロポリ化合物を包含する。適する水溶性イソポリおよびヘテロポリ化合物は、Molybdenum Chemical, Chemical dataseries, Bulletin Cdb-14, February 1969およびMolybdenumChemical, Chemical data series, BulletinCdb-12a-revised, November 1969に記載されている。適する水溶性のクロム化合物は、例えば正クロム酸塩、イソポリクロム酸塩および硫酸クロムアンモニウムである。
【0049】
金属成分の好ましい組合せは、VIII族非貴金属ヒドロキシ炭酸塩および/または炭酸塩、例えばニッケルまたはコバルトのヒドロキシ炭酸塩および/または炭酸塩とVIB族金属酸化物および/またはVIB族金属酸、例えばタングステン酸および酸化モリブデンの組み合わせ、または三酸化モリブデンおよび三酸化タングステンの組み合わせとであり、あるいは、VIII族非貴金属ヒドロキシ炭酸塩および/または炭酸塩、例えばニッケルまたはコバルトのヒドロキシ炭酸塩および/または炭酸塩とVIB族金属塩、例えばジモリブデン酸アンモニウム、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、およびメタタングステン酸アンモニウムとである。金属成分のさらに適する組み合わせを選択することは当業者の能力の範囲内である。
【0050】
本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態のままである1または2以上の金属成分の形態学およびテクスチャーは、本発明のプロセスの間保持され得ることが分かった。その結果、ある形態学およびテクスチャーを有する金属成分粒子を適用することにより、最終触媒組成物に含まれるバルク触媒粒子の形態学およびテクスチャーは、少なくともある程度制御され得る。本発明の意味において「形態学およびテクスチャー」は、孔体積、孔サイズ分布、表面積、粒子形状および粒子サイズを意味する。最終触媒組成物に含まれる「バルク触媒粒子」は、「本発明の触媒組成物」の項で説明する。
【0051】
一般に、酸化物バルク触媒粒子の表面積は、本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態のままである金属成分の表面積の少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%である。表面積はこの場合、金属酸化物として計算される、この金属成分の重量に対する表面積として表される。さらに、酸化物バルク触媒粒子の孔直径の中央値(窒素吸着によって測定)は一般に、本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態のままである金属成分の孔直径の中央値の少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%である。さらに、酸化物触媒粒子における孔体積(窒素吸着により測定)は一般に、本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態のままである金属成分の孔体積の少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%である。孔体積は、金属酸化物として計算される、この金属成分の重量に対する孔の体積で表される。
【0052】
粒子サイズの保持は一般に、処理の間、特に混合または混練などの工程の間に酸化物バルク触媒粒子によって受けた機械的損傷の程度に依存する。粒子直径は、これらの処理が短くかつ穏やかであるならば、高程度に保持され得る。この場合、酸化物バルク触媒粒子の粒子直径の中央値は、本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態のままである金属成分の粒子直径の中央値の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%である。粒子サイズも、特に更なる物質が存在するならば、スプレー乾燥などの処理によって影響され得る。そのような処理の間の粒子サイズ分布を制御するための適する条件を選択することは、当業者の能力の範囲内である。
【0053】
少なくとも部分的に固体状態で添加され、かつ粒子直径の中央値が大きい金属成分が選択されると、他の金属成分は、大きい金属成分の外部層と反応するに過ぎない。この場合、いわゆる「コア−シェル」構造のバルク触媒粒子が生じる。
【0054】
金属成分の適する形態学およびテクスチャーは、適する予め形成された金属成分を適用するか、または上記した析出または再結晶化または適する形態学およびテクスチャーが得られるような条件下での当業者によって公知の任意の他の技術によってこれらの金属成分を調製することにより達成され得る。適する沈殿条件の適切な選択は、ごく普通の実験によってなされ得る。
【0055】
高い触媒活性を有する最終触媒組成物を得るために、本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態にある1または2以上の金属成分は、多孔性金属成分であることが好ましい。これらの金属成分の総孔体積および孔サイズ分布は、慣用のハイドロプロセッシング触媒のものと同じである。慣用のハイドロプロセッシング触媒は一般に、水銀または水ポロシメトリーによって測定されるとき、0.05〜5ml/g、好ましくは0.1〜4ml/g、より好ましくは0.1〜3ml/g、最も好ましくは0.1〜2ml/gの孔体積を有する。さらに、慣用のハイドロプロセッシング触媒は一般に、B.E.T.法によって測定されるとき、少なくとも10m2/g、より好ましくは少なくとも50m2/g、最も好ましくは少なくとも100m2/gの表面積を有する。
【0056】
本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態にある1または2以上の金属成分の粒子直径の中央値は、少なくとも0.5μm、より好ましくは少なくとも1μm、最も好ましくは少なくとも2μの範囲であるが、好ましくは5000μm以下、より好ましくは1000μm以下、さらにより好ましくは500μm以下、最も好ましくは150μm以下である。さらにより好ましくは、粒子直径の中央値は、1〜150μmの範囲、最も好ましくは2〜150μmの範囲である。一般に、金属成分の粒子サイズが小さいほど、それらの反応性は高い。従って、好ましい下限値より下の粒子サイズを有する金属成分は、原則として、本発明の好ましい実施態様である。しかし、健康、安全および環境の理由から、そのような小さい粒子の取扱いは特別の注意を必要とする。
【0057】
以下において、金属成分の配合および(続く)反応工程中の好ましいプロセス条件を説明する。
a)金属成分の配合:
金属成分の配合の際のプロセス条件は一般に、重要でない。全ての成分を、室温で、それらの自然のpH(懸濁物または溶液が適用される場合)で添加することが可能である。一般に、添加されるべき金属成分の温度を反応混合物の常圧沸点より下に保持して、添加の際の成分の容易な取扱いを確実にすることはもちろん好ましい。しかし、所望ならば、反応混合物の常圧沸点より上の温度または種々のpH値も適用され得る。反応工程が高められた温度で行われるならば、反応混合物に添加される懸濁物および所望により溶液は一般に、反応温度と同じであり得る高められた温度に予め加熱され得る。
【0058】
上記したように、1以上の金属成分の添加は、すでに配合された金属成分が互いに反応する間にも行われ得る。この場合、金属成分の配合およびそれらの反応は、部分的に重複し、単一プロセス工程を構成する。
【0059】
b)反応工程:
添加中および/または添加後、金属成分は一般に、所定の温度で所定の時間攪拌されて、反応を起こさせる。反応温度は好ましくは、0°〜300℃、より好ましくは50°〜300℃、さらにより好ましくは70°〜200℃、最も好ましくは70°〜180℃の範囲である。温度が反応混合物の常圧沸点より下である場合、プロセスは一般に、大気圧力で行われる。この温度より上では、反応は一般に、高められた圧力で、好ましくはオートクレーブおよび/またはスタティックミキサー中で行われる。
【0060】
一般に、混合物は、反応工程の間、その自然のpHで保持される。pHは好ましくは、0〜12の範囲、より好ましくは1〜10の範囲、さらにより好ましくは3〜8の範囲である。上記したように、pHおよび温度は、反応工程中に金属の全てが溶解されるのではないように選択されるよう注意しなければならない。
【0061】
反応時間は一般に、1分から数日の範囲、より好ましくは1分〜24時間の範囲、最も好ましくは5分〜20時間の範囲である。上記したように、反応時間は温度に依存する。
【0062】
反応工程の後、必要ならば、固体を液体から例えば濾過によって分離することができる。
【0063】
本発明の方法は、バッチ法としておよび連続法としての両方で行われ得る。
【0064】
所望ならば、下記で説明するように、バインダー物質、慣用のハイドロプロセッシング触媒、クラッキング成分、またはそれらの混合物の群から選択される物質を、バルク触媒粒子の上記製造中に、またはそれらの製造後の粒子に添加することができる。これらの物質に関する詳細は、下記(B)の項で示す。
【0065】
本発明方法の実施態様のために、下記の選択が利用できる。VIB族金属およびVIII族非貴金属成分は、一般に、金属成分の反応の前または反応中に上記物質のいずれかと配合することができる。それらは、例えば、同時にまたは一つずつ物質に添加することができる。あるいは、VIB族およびVIII族非貴金属成分を、上記したように配合し、次いで、配合された金属成分に物質を添加することができる。VIB族金属およびVIII族非貴金属成分の一部を同時にまたは一つずつ配合し、次いで物質を添加し、最後にVIB族およびVIII族非貴金属成分の残りを同時にまたは一つずつ添加することも可能である。例えば、本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態であるVIB族金属成分またはVIII族非貴金属成分を最初に混合し、所望ならば、物質と共に成形し、次いで、更なるVIB族金属成分および/またはVIII族非貴金属成分を、所望により成形された混合物に添加することができる。しかし、物質を溶質状態にあるVIB族金属成分およびVIII族非貴金属成分と配合し、次いで少なくとも部分的に固体状態にある金属成分を添加することも可能である。最後に、金属成分および物質の同時添加が可能である。
【0066】
上記したように、バルク触媒粒子の製造中に添加されるべき物質は、バインダー物質であり得る。本発明に係るバインダー物質は、バインダーおよび/またはその前駆体を意味する。前駆体が溶液の形状で添加されるならば、本発明のプロセスの間にバインダーが固体状態に転化されることに留意しなければならない。これは、バインダーの析出が生じるようにpH条件を調整することにより行われ得る。バインダーの析出に適する条件は、当業者には公知であり、更なる説明を要しない。得られる触媒組成物の液体の量が多すぎる場合は、所望により、固液分離を行うことができる。
【0067】
さらに、リン含有化合物、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物、フッ素含有化合物、追加の遷移金属、希土類金属またはそれらの混合物などの更なる物質を、上記物質に関して記載したのと同じ方法でバルク触媒粒子の製造中に添加することができる。これらの更なる物質に関する詳細を以下に示す。
【0068】
なお、上記の(更なる)物質の何れが粒子の製造中に添加されるかにかかわらず、上記(A)で記載したプロセスから得られる粒子を本発明の「バルク触媒粒子」という。
【0069】
(B)続くプロセス工程
好ましくは、バルク触媒粒子は、そのままでまたは上記の(更なる)物質を含んで、下記プロセス工程の1以上に付される。
(i)バインダー物質、慣用のハイドロプロセッシング触媒、クラッキング成分またはそれらの混合物の群から選択される物質との複合化、
(ii)スプレー乾燥、(フラッシュ)乾燥、粉砕、混練、スラリー混合、乾式または湿式混合、またはそれらの組み合わせ、
(iii)成形、
(iv)乾燥および/または熱処理、および
(v)硫化。
【0070】
これらのプロセス工程を、以下でより詳細に説明する。
【0071】
プロセス工程(i)
物質は、熱処理されたまたはされていない乾燥状態で、湿ったおよび/または懸濁した状態でおよび/または溶液として添加され得る。
【0072】
物質は、バルク触媒粒子の製造(上記を参照)中、バルク触媒組成物の製造の後であるが何らかの工程(ii)の前、および/または何らかの工程(ii)の間、および/または何らかの工程(ii)の後であるが何らかの成形工程(iii)の前に添加され得る。
【0073】
好ましくは、物質は、バルク触媒粒子の製造の後でかつスプレー乾燥または任意の代替技術の前に添加され、あるいは、スプレー乾燥または任意の代替技術が適用されない場合は、成形の前に添加される。所望により、上記したように製造されたバルク触媒組成物は、物質と複合化される前に固液分離に付され得る。固液分離の後、所望により、洗浄工程が含まれ得る。さらに、任意的な固液分離および乾燥工程の後でかつ物質と複合化される前にバルク触媒組成物を熱処理することが可能である。
【0074】
全ての上記したプロセス代替法において、「バルク触媒組成物を物質と複合化する」とは、物質をバルク触媒組成物にまたはその逆に添加し、得られた組成物を混合することを意味する。混合は好ましくは、液体の存在下で行われる(「湿式混合」)。これは、最終の触媒組成物の機械的強度を改善する。
【0075】
バルク触媒粒子を物質と複合化し、および/またはバルク触媒粒子の製造中に物質を混入することは、特に高い機械的強度のバルク触媒組成物をもたらすことが分かった。これは特に、バルク触媒粒子の粒子サイズの中央値が、少なくとも0.5μm、好ましくは少なくとも1μm、最も好ましくは少なくとも2μmの範囲であるが、好ましくは5000μm以下、より好ましくは1000μm以下、さらにより好ましくは500μm以下、および最も好ましくは150μm以下である場合にそうである。更により好ましくは、粒子直径の中央値が1〜150μmの範囲、最も好ましくは2〜150μmの範囲にある。
【0076】
バルク触媒粒子を物質と複合化することは、この物質に埋包されたまたはその逆のバルク触媒粒子を生じる。通常、バルク触媒粒子の形態学は、得られる触媒組成物において本質的に保持される。
【0077】
上記したように、物質は、バインダー物質、慣用のハイドロプロセッシング触媒、クラッキング成分、またはそれらの混合物から選択され得る。これらの物質は、以下でより詳細に説明する。
【0078】
適用されるべきバインダー物質は、ハイドロプロセッシング触媒におけるバインダーとして通常適用される任意の物質であり得る。例は、シリカ、シリカ−アルミナ、例えば慣用のシリカ−アルミナ、シリカ被覆アルミナおよびアルミナ被覆シリカ、アルミナ、例えば(擬似)ベーマイト、またはギブサイト、チタニア、チタニア被覆アルミナ、ジルコニア、カチオン性クレーまたはアニオン性クレー、例えばサポナイト、ベントナイト、カオリン、セピオライトまたはヒドロタルサイト、またはそれらの混合物である。好ましいバインダーは、シリカ、シリカ−アルミナ、アルミナ、チタニア、チタニア被覆アルミナ、ジルコニア、ベントナイト、またはそれらの混合物である。これらのバインダーは、そのまま、または解膠の後に適用され得る。
【0079】
本発明の方法に際して上記のバインダーのいずれかに転化されるこれらのバインダーの前駆体を適用することもできる。適する前駆体は、例えば、アルカリ金属アルミン酸塩(アルミナバインダーとなる)、水ガラス(シリカバインダーとなる)、アルカリ金属アルミン酸塩および水ガラスの混合物(シリカ−アルミナバインダーとなる)、2、3および/または4価の金属源の混合物、例えばマグネシウム、アルミニウムおよび/またはケイ素の水溶性塩の混合物(カチオン性クレーおよび/またはアニオン性クレーを生成する)、アルミニウムクロロヒドロール、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、またはそれらの混合物である。
【0080】
所望ならば、バインダー物質は、バルク触媒組成物と複合化される前、および/またはその製造中に添加される前に、VIB族金属含有化合物および/またはVIII族非貴金属化合物と複合化され得る。バインダー物質とこれらの金属含有化合物のいずれかとの複合化は、バインダーにこれらの物質を含浸させることにより行われ得る。適する含浸技術は、当業者には公知である。バインダーが解膠される場合は、VIB族および/またはVIII族非貴金属含有化合物の存在下で解膠を行うことも可能である。
【0081】
アルミナがバインダーとして適用されるならば、アルミナの表面積は一般に、B.E.T.法によって測定されるとき、50〜600m2/g、好ましくは100〜450m2/gの範囲にある。アルミナの孔体積は好ましくは、窒素吸着によって測定されるとき、0.1〜1.5ml/gの範囲にある。アルミナの解析の前に、600℃で1時間熱処理される。
【0082】
一般に、本発明の方法において添加されるべきバインダー物質は、バルク触媒組成物よりも触媒活性が小さいか、触媒活性を全く持たない。その結果、バインダー物質を添加することにより、バルク触媒組成物の活性は減少され得る。さらに、バインダー物質の添加は、最終触媒組成物の機械的強度のかなりの増加をもたらす。したがって、本発明の方法において添加されるべきバインダー物質の量は一般に、最終触媒組成物の所望の活性および/または所望の機械的強度に依存する。意図される触媒用途に応じて、組成物全体の0〜95重量%のバインダー量が適しうる。しかし、本発明の組成物の得られる非常に高い活性を利用するために、添加されるべきバインダー量は一般に、組成物全体の0〜75重量%、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0〜30重量%の範囲である。
【0083】
慣用のハイドロプロセッシング触媒は、例えば慣用の水素脱硫、水素脱窒または水素クラッキング触媒である。これらの触媒は、使用された、再生された、新鮮な、または硫化された状態で添加され得る。所望ならば、慣用のハイドロプロセッシング触媒が、本発明の方法において適用される前に、粉砕され、または任意の他の常法で処理され得る。
【0084】
本発明に係るクラッキング成分は、任意の慣用のクラッキング成分、例えばカチオン性クレー、アニオン性クレー、結晶性クラッキング成分、例えばゼオライト、例えばZSM−5、(超安定)ゼオライトY、ゼオライトX、ALPO、SAPO、MCM−41、無定形クラッキング成分、例えばシリカ−アルミナ、またはそれらの混合物である。いくつかの物質は、同時にバインダーおよびクラッキング成分として作用しうることは明らかである。例えば、シリカーアルミナは、同時にクラッキングおよび結合機能を有し得る。
【0085】
所望ならば、クラッキング成分は、バルク触媒組成物と複合化する前および/またはその製造の間に添加される前に、VIB族金属および/またはVIII族非貴金属と複合化され得る。クラッキング成分とこれらの金属のいずれかとの複合化は、クラッキング成分にこれらの物質を含浸させた形態をとり得る。
【0086】
一般に、上記クラッキング成分がある場合、そのどれが添加されるかは、最終触媒組成物の意図される触媒用途に依存する。得られる組成物が水素クラッキングにおいて適用されるべきであるならば、結晶性クラッキング成分が好ましくは添加される。最終触媒組成物がハイドロプロセッシング用途またはマイルド水素クラッキングにおいて使用されるべきならば、他のクラッキング成分、例えばシリカ−アルミナまたはカチオン性クレーが好ましくは添加される。添加されるクラッキング物質の量は、最終組成物の所望の活性および意図される用途に依存し、すなわち、触媒組成物の総重量に基づいて、0〜90重量%の範囲であり得る。
【0087】
所望により、更なる物質、例えばリン含有化合物、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物、フッ素含有化合物、追加の遷移金属化合物、希土類金属化合物またはそれらの混合物が、触媒組成物に混入され得る。
【0088】
リン含有化合物として、リン酸アンモニウム、リン酸または有機リン含有化合物が適用され得る。リン含有化合物は、成形工程の前および/または成形工程の後に本発明方法の任意の段階で添加され得る。バインダー物質が解膠される場合は、リン含有化合物が解膠のためにも使用され得る。例えば、アルミナバインダーは、リン酸とまたはリン酸および硝酸の混合物と接触させることにより解膠され得る。
【0089】
ホウ素含有化合物としては、例えばホウ酸またはホウ素とモリブデンおよび/またはタングステンとのヘテロポリ化合物が適用され得、フッ素含有化合物としては、例えばフッ化アンモニウムが適用され得る。典型的なケイ素含有化合物は、水ガラス、シリカゲル、テトラエチルオルトシリケートまたはケイ素とモリブデンおよび/またはタングステンとのヘテロポリ化合物である。さらに、FとSi、BおよびPとの組み合わせが望ましいならば、各々、フルオロケイ酸、フルオロホウ酸、ジフルオロリン酸またはヘキサフルオロリン酸などの化合物が適用され得る。
【0090】
適する追加の遷移金属は、例えば、レニウム、マンガン、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、クロム、バナジウム、鉄、白金、パラジウム、チタン、ジルコニウム、ニオブ、コバルト、ニッケル、モリブデン、またはタングステンである。これらの金属は、成形工程の前の本発明プロセスの任意の段階で添加され得る。本発明のプロセスの間にこれらの金属を添加することとは別に、最終の触媒組成物をそれらと複合化することも可能である。すなわち、最終の触媒組成物にこれらの金属のいずれかを含む含浸溶液を含浸させることが可能である。
【0091】
プロセス工程(ii)
上記の(更なる)物質のいずれかを所望により含むバルク触媒粒子が、スプレー乾燥、(フラッシュ)乾燥、粉砕、混練、スラリー混合、乾式または湿式混合、またはそれらの組み合わせに付され得る。湿式混合および混練またはスラリー混合およびスプレー乾燥の組み合わせが好ましい。
【0092】
これらの技術は、(少しでも)使用されるならば上記の(更なる)物質が添加される前または後、固液分離の後、熱処理の前または後、および再湿潤の後のいずれかで適用され得る。
【0093】
好ましくは、バルク触媒粒子は、上記物質のいずれかと複合化され、上記技術のいずれかに付される。スプレー乾燥、(フラッシュ)乾燥、粉砕、混練、スラリー混合、乾式または湿式混合、またはそれらの組み合わせの上記技術のいずれかを適用することにより、バルク触媒組成物と上記物質のいずれかとの混合の度合が改善される。これは、物質が、上記方法のいずれかの適用の前および後に添加される場合に当てはまる。しかし、一般には、工程(ii)の前に物質を添加することが好ましい。、工程(ii)に続いて物質が添加される場合、得られる組成物は、好ましくは、成形などの任意の更なるプロセス工程の前に任意の慣用の技術によって完全に混合される。例えばスプレー乾燥の利点は、この技術が適用されると排水流が得られないということである。
【0094】
スプレー乾燥は典型的には、100°〜200℃、好ましくは120°〜180°の範囲の出口温度で行われる。
【0095】
乾式混合は、乾燥状態のバルク触媒粒子を、乾燥状態の上記物質のいずれかと混合することを意味する。湿式混合は例えば、バルク触媒粒子を含む湿ったフィルターケーキおよび所望により粉末または湿ったフィルターケーキとしての上記物質のいずれかを混合してそれらの均一なペーストを形成することを含む。
【0096】
プロセス工程(iii)
所望ならば、所望により上記の(更なる)物質のいずれかを含むバルク触媒は、工程(ii)が適用された後に所望により成形され得る。成形は、押出、ペレット化、ビーズ化および/またはスプレー乾燥を含む。触媒組成物がスラリー型反応器、流動床、移動床または発泡床(expanded bed)中で適用されるべきであるならば、一般には、スプレー乾燥またはビーズ化が適用される。固定床または噴流床(ebullating bed)用途の場合は、一般に、触媒組成物は押出され、ペレット化され、および/またはビーズ化される。後者の場合、成形工程の前または間の任意の段階で、成形を促進するために通常使用される任意の添加剤を添加することができる。これらの添加剤は、ステアリン酸アルミニウム、界面活性剤、グラファイト、澱粉、メチルセルロース、ベントナイト、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシドまたはそれらの混合物を含み得る。さらに、アルミナがバインダーとして使用されるとき、押出物の機械的強度を高めるために成形工程の前に硝酸などの酸を添加することが望ましい。
【0097】
成形が押出し、ビーズ化および/またはスプレー乾燥を含む場合は、成形工程が、水などの液体の存在下で行われるのが好ましい。好ましくは、押出および/またはビーズ化の場合は、LOIとして表される、成形混合物中の液体の量が20〜80%の範囲である。
【0098】
所望ならば、上記物質のいずれかと、所望により上記物質のいずれかを含むバルク触媒粒子との同軸押出が適用され得る。特に、2つの混合物を共押出することができ、その場合、所望により上記物質のいずれかを含むバルク触媒粒子は内部押出媒体に存在し、一方、バルク触媒粒子を有しない上記物質のいずれかは外部押出媒体に存在し、あるいはその逆である。
【0099】
工程(iv)
任意的な乾燥工程の後に、好ましくは100℃より上で、得られた成形触媒組成物は所望ならば熱処理され得る。しかし、熱処理は、本発明の方法に必須ではない。本発明に係る「熱処理」は、例えば100°〜600℃、好ましくは150°〜550℃、より好ましくは150℃〜450℃の温度で、0.5〜48時間の時間、窒素などの不活性気体中、または酸素含有気体、例えば空気または純粋な酸素中で行われる処理を意味する。熱処理は、水流の存在下で行われ得る。
【0100】
上記プロセス工程の全てにおいて、液体の量は、制御されなければならない。例えば触媒組成物をスプレー乾燥に付す前の液体の量が少なすぎると、追加の液体が添加されなければならない。他方、例えば触媒組成物の押出の前に液体の量が多すぎると、例えば、例えば濾過、デカンテーション、または蒸発による固液分離によって、液体の量を減少させなければならず、必要ならば、得られた物質は乾燥され、続いてある程度まで再湿潤され得る。上記プロセス工程の全てに関して、液体の量を適切に制御することは、当業者の範囲内である。
【0101】
工程(v)
本発明のプロセスは、硫化工程をさらに含み得る。硫化は一般に、バルク触媒粒子を、その製造の直後またはプロセス工程(i)〜(iv)のいずれか1つの後に、硫黄含有化合物、例えば元素硫黄、硫化水素、DMDS、またはポリスルフィドと接触させることにより行われる。硫化工程は、液体中および気相中で行われ得る。硫化は、バルク触媒組成物の製造の後であるが工程(i)の前に、および/または工程(i)の後であるが工程(ii)の前に、および/または工程(ii)の後であるが工程(iii)の前に、および/または工程(iii)の後であるが工程(iv)の前に、および/または工程((iv)の後に行われ得る。硫化は、得られた金属硫化物がそれらの酸化物に戻るところの任意のプロセス工程の前には行われないのが好ましい。そのようなプロセス工程は、例えば、酸素含有雰囲気下で行われるならば熱処理またはスプレー乾燥または任意の他の高温処理である。その結果、触媒組成物が、酸素含有雰囲気下でのスプレー乾燥および/または任意の代替法または熱処理に付されるならば、硫化は好ましくは、これらの方法のいずれかの適用の後に行われる。もちろん、これらの方法が不活性雰囲気下で適用されるならば、硫化は、これらの方法の前に行うこともできる。
【0102】
触媒組成物が固定床プロセスで使用される場合、硫化は好ましくは、成形工程の後に行われ、適用されるならば酸化雰囲気での最後の熱処理の後に行われる。
【0103】
硫化は一般に、その場で(in situ)および/または別の場所で(ex situ)行われ得る。好ましくは、硫化は別の場所で行われる。すなわち、硫化は、硫化された触媒組成物がハイドロプロセッシング装置に充填される前に別個の反応器で行われる。さらに、触媒組成物は、別の場所で(ex situ)およびその場で(in situ)の両方で硫化されるのが好ましい。
【0104】
本発明の好ましい方法は、次の連続プロセス、すなわち上記したバルク触媒粒子の製造、得られたバルク触媒粒子と例えばバインダーとのスラリー混合、得られた組成物のスプレー乾燥、再湿潤、混練、押出、乾燥、焼成および硫化を含む。別の好ましいプロセス態様は、次の連続プロセス、すなわち上記したバルク触媒粒子の製造、濾過による粒子の単離、フィルターケーキとバインダーなどの物質との湿式混合、混練、押出、乾燥、焼成および硫化を含む。
【0105】
本発明の触媒組成物
本発明はさらに、上記方法によって得られ得る触媒組成物に関する。好ましくは、本発明は、工程(A)および所望により上記プロセス工程B(i)〜(iv)の1以上によって得られた触媒組成物に関する。
【0106】
好ましい実施態様では、本発明は、上記方法によって得られ得る触媒組成物に関する。ここで、該方法の間少なくとも部分的に固体状態である金属成分の形態学は、触媒組成物において保持される。形態学のこの保持は、「本発明の方法」の項で詳細に説明する。
【0107】
(a)酸化物触媒組成物
さらに、本発明は、少なくとも1種のVIII族非貴金属および少なくとも2種のVIB族金属を含むバルク触媒粒子を含む触媒組成物に関する。ここで、金属は酸化物状態で触媒組成物中に存在し、VIB族金属がモリブデン、タングステンおよび所望によりクロムであるとき、最大値の半分における特徴的全幅が2.5°を超えず、あるいはVIB族金属がモリブデンおよびクロムまたはタングステンおよびクロムであるときは4.0°を超えない。
【0108】
「解析法」の項で説明するように、最大値の半分における特徴的全幅は、2θ=53.6°(±0.7°)(VIB族金属がモリブデン、タングステンおよび所望によりクロムであるとき、またはVIB族金属がタングステンおよびクロムであるとき)または、2θ=63.5°(±0.6°)(VIB族金属がモリブデンおよびクロムであるとき)に位置するピークに基づいて測定される。
好ましくは、最大値の半分における特徴的全幅は2.2°を超えず、より好ましくは2.0°、さらにより好ましくは1.8°、最も好ましくは1.6°を超えない(VIB族金属がモリブデン、タングステンおよび所望によりクロムであるとき)か、または、3.5°、より好ましくは3.0°、さらにより好ましくは2.5°、最も好ましくは2.0°を超えない(VIB族金属がモリブデンおよびクロムまたはタングステンおよびクロムであるとき)。
【0109】
好ましくは、VIB族金属がモリブデン、タングステンおよび所望によりクロムであるとき、X線回折パターンが2θ=38.7°(±0.6°)および40.8°(±0.7°)の位置での2つのピーク(これらのピークをダブレットPという)および/または2θ=61.1°(±1.5°)および64.1°(±1.2°)の位置での2つのピーク(これらのピークをダブレットQという)を示す。
【0110】
本発明の酸化物触媒組成物の最大値の半分における特徴的全幅および所望により2つのダブレットPおよびQの少なくとの1つの存在から、本発明の触媒のミクロ構造は、WO9903578または米国特許第3,678,124に記載されている共沈によって製造された対応する触媒とは異なることが推論され得る。
【0111】
典型的なX線回折パターンは実施例で説明する。
【0112】
バルク触媒粒子のX線回折パターンは好ましくは、反応されるべき金属成分に特徴的なピークを何ら含まない。もちろん、所望ならば、これらの金属成分の少なくとも1つに特徴的な1以上のピークをさらに含むX線回折パターンによって特徴付けられるバルク触媒粒子が得られるように金属成分の量を選択することもできる。例えば、本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態である金属成分を多量に添加するか、この金属成分を大きい粒子の形状で添加するならば、この金属成分の少量が、得られるバルク触媒粒子のX線回折パターンにおいて確かめられ得る。
【0113】
VIB族金属とのVIII族非貴金属とのモル比は一般に、10:1〜1:10、好ましくは3:1〜1:3の範囲である。コア−シェル構造の粒子の場合は、これらの比はもちろん、シェルに含まれる金属に当てはまる。種々のVIB族金属の互いの比は一般に重要でない。同じことが、1より多くのVIII族非貴金属が適用されるときにも当てはまる。モリブデンおよびタングステンがVIB族金属として存在する場合、モリブデン:タングステン比は好ましくは、9:1〜1:19、より好ましくは3:1〜1:9、最も好ましくは3:1〜1:6の範囲である。
【0114】
バルク触媒粒子は、少なくとも1種のVIII族非貴金属成分と少なくとも2種のVIB族金属成分を含む。適するVIB族金属は、クロム、モリブデン、タングステンまたはそれらの混合物を包含し、モリブデンおよびタングステンの組み合わせが最も好ましい。適するVIII族非貴金属は、鉄、コバルト、ニッケルまたはそれらの混合物を包含し、好ましくはニッケルおよび/またはコバルトである。
【0115】
好ましくは、ニッケル、モリブデンおよびタングステン、またはニッケル、コバルト、モリブデンおよびタングステン、またはコバルト、モリブデンおよびタングステンの組み合わせが、本発明のバルク触媒粒子に含まれる。
【0116】
ニッケルおよびコバルトが、酸化物として計算して、VIII族非貴金属成分の全体の少なくとも50重量%を占めるのが好ましく、より好ましくは少なくとも70重量%、さらにより好ましくは少なくとも90重量%である。VIII族非貴金属成分がニッケルおよび/またはコバルトから本質的に成ると特に好ましい。
【0117】
モリブデンおよびタングステンが、三酸化物として計算して、VIB族金属成分の全体の少なくとも50重量%を占めるのが好ましく、より好ましくは少なくとも70重量%、さらにより好ましくは少なくとも90重量%である。VIB族金属成分がモリブデンおよびタングステンから本質的に成ると特に好ましい。
【0118】
好ましくは、B.E.T.法によって測定されるとき、これらの組成物に含まれる酸化物バルク触媒粒子が、少なくとも10m2/g、より好ましくは少なくとも50m2/g、最も好ましくは少なくとも80m2/gのB.E.T.表面積を有する。
【0119】
バルク触媒粒子の製造中に、上記の(更なる)物質、例えばバインダー物質、クラッキング成分または慣用のハイドロプロセッシング触媒が添加されていないならば、バルク触媒粒子は、約100重量%のVIB族金属およびVIII族非貴金属を含む。バルク触媒粒子の製造中に上記の物質のいずれかが添加されているならば、それらは好ましくは、30〜100重量%、より好ましくは50〜100重量%、最も好ましくは70〜100重量%のVIB族金属およびVIII族非貴金属を含み、残りが上記の(更なる)物質のいずれかである。VIB族金属およびVIII族非貴金属の量は、TEM−EDX、AASまたはICPによって測定され得る。
【0120】
酸化物バルク触媒粒子の孔直径の中央値(孔体積の50%が該直径より下であり、他の50%がそれより上である)は好ましくは、3〜25nm、より好ましくは5〜15nm(N2吸着により測定)である。
【0121】
酸化物バルク触媒粒子の総孔体積は好ましくは、N2吸着により測定されるとき、少なくとも0.05ml/g、より好ましくは少なくとも0.1ml/gである。
【0122】
バルク触媒粒子の孔サイズ分布が、慣用のハイドロプロセッシング触媒のものとほぼ同じであることが望ましい。特に、バルク触媒粒子は、好ましくは、窒素吸着により測定されるとき、3〜25nmの孔直径の中央値を有し、窒素吸着により測定されるとき、0.05〜5ml/g、より好ましくは0.1〜4ml/g、さらにより好ましくは0.1〜3ml/g、最も好ましくは0.1〜2ml/gの孔体積を有する。
【0123】
さらに、これらのバルク触媒粒子は好ましくは、、少なくとも0.5μm、より好ましくは少なくとも1μm、最も好ましくは少なくとも2μmの範囲の粒子サイズ中央値を有するが、好ましくは5000μm以下、より好ましくは1000μm以下、さらにより好ましくは500μm以下、最も好ましくは150μm以下である。さらにより好ましくは、粒子直径の中央値は、1〜150μmの範囲であり、最も好ましくは2〜150μmの範囲である。
【0124】
上記したように、所望ならば、本発明の方法を使用して、コア−シェル構造のバルク触媒粒子を製造することができる。これらの粒子では、金属の少なくとも1種が、バルク触媒粒子中に異方的に分布される。その金属成分が本発明のプロセスの間少なくとも部分的に固体状態であるところの金属の濃度は一般に、内側部分、すなわち最終バルク触媒粒子のコアの方が、外側部分、すなわち最終バルク触媒粒子のシェルよりも高い。一般に、最終バルク触媒粒子のシェルにおけるこの金属の濃度は、最終バルク触媒粒子のコアにおけるこの金属の濃度の高々95%、ほとんどの場合は高々90%である。さらに、本発明のプロセスの間溶質状態で適用される金属成分の金属も、最終バルク触媒粒子中に異方的に分布されることが分かった。特に、最終バルク触媒粒子のコアにおけるこの金属の濃度は一般に、シェルにおけるこの金属の濃度より低い。さらには、最終バルク触媒粒子のコアにおけるこの金属の濃度は、シェルにおけるこの金属の濃度の高々80%、しばしば高々70%、多くの場合高々60%である。なお、上記の異方性金属分布は、あるならば、触媒組成物が熱処理されおよび/または硫化されているかどうかにかかわらず、本発明の触媒組成物中に見出すことができる。上記の場合、シェルは一般に、10〜1,000nmの厚さを有する。
【0125】
上記の異方性金属分布は、本発明方法によって達成され得るが、VIB族金属およびVIII族非貴金属は一般に、バルク触媒粒子中に均一に分布される。この実施態様が一般には好ましい。
【0126】
好ましくは、触媒組成物は、適するバインダー物質をさらに含む。適するバインダー物質は好ましくは、上記したものである。粒子は一般に、バインダー物質に埋包され、バインダー物質は、粒子を互いに保持するための接着剤として機能する。好ましくは、粒子は、バインダー内で均一に分布される。バインダーの存在は一般に、最終触媒組成物の高められた機械的強度をもたらす。一般に、本発明の触媒組成物は、側面粉砕強度(side crush strength)として表される機械的強度が、少なくとも1lbs/mm(0.4536kg/mm)、好ましくは少なくとも3lbs/mm(1.3608kg/mm)である(1〜2mmの直径を有する押出物に関して測定)。
【0127】
バインダーの量は、触媒組成物の望ましい活性に特に依存する。意図される触媒用途に応じて、組成物全体の0〜95重量%のバインダー量が適切であり得る。しかし、本発明の組成物の非常に高い活性を利用するために、バインダー量は一般に、組成物全体の0〜75重量%の範囲であり、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0〜30重量%である。
【0128】
所望ならば、触媒組成物は、適するクラッキング成分を含み得る。適するクラッキング成分は、好ましくは、上記したものである。クラッキング成分の量は好ましくは、触媒組成物の総重量に基づいて0〜90重量%の範囲である。
【0129】
さらに、触媒組成物は、慣用のハイドロプロセッシング触媒を含み得る。慣用のハイドロプロセッシング触媒は一般に、上記バインダー物質およびクラッキング成分のいずれかを含む。慣用のハイドロプロセッシング触媒の水素化金属は一般に、VIB族金属およびVIII族非貴金属、例えばニッケルまたはコバルトとモリブデンまたはタングステンとの組み合わせを含む。適する慣用のハイドロプロセッシング触媒は、例えばハイドロプロセッシングまたは水素クラッキング触媒である。これらの触媒は、使用された、再生された、新鮮な、または硫化された状態であり得る。
【0130】
さらに、触媒組成物は、ハイドロプロセッシング触媒に通常存在する任意の更なる物質、例えばリン含有化合物、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物、フッ素含有化合物、追加の遷移金属、希土類金属、またはそれらの混合物を含み得る。これらの更なる物質に関する詳細は、上記に示されている。遷移金属または希土類金属は一般に、触媒組成物が酸化雰囲気で熱処理されているときは酸化物形状で存在し、および/または触媒組成物が硫化されているときは硫化された状態で存在する。
【0131】
高い機械的強度を有する触媒組成物を得るためには、本発明の触媒組成物が低いマクロ多孔性を有することが望ましい。好ましくは、触媒組成物の孔体積の30%未満が100nmより大きい直径(水銀圧入法により測定、接触角:130°)を有する孔にあり、より好ましくは20%未満である。
【0132】
本発明の酸化物触媒組成物は一般に、触媒組成物の総重量に基づいて、金属酸化物として計算して、10〜100重量%、好ましくは25〜100重量%、より好ましくは45〜100重量%、最も好ましくは65〜100重量%のVIB族金属およびVIII族非貴金属を含む。
【0133】
なお、JP09000929に記載された、アルミナ担体上のVIB族金属およびVIII族非貴金属による段階的含浸によって製造された触媒は、いかなるバルク触媒粒子も含まず、従って、本発明とは完全に異なる形態学を有する。
【0134】
(b)硫化された触媒組成物
所望ならば、本発明の触媒組成物を硫化することができる。その結果、本発明はさらに、少なくとも1種のVIII族非貴金属および少なくとも2種のVIB族金属を含み、かつ使用条件下での硫化度が90%を超えないところの硫化物バルク触媒粒子を含む触媒組成物に関する。
【0135】
さらに、本発明は、少なくとも1種のVIII族非貴金属および少なくとも2種のVIB族金属を含み、使用条件下での硫化度が90%を超えず、かつ、非先公開国際特許出願WO9903578に開示されたように、触媒組成物が式NibMOcdz(b/(c+d)は0.75〜1.5、さらには0.5〜3の範囲であり、c/dは0.1〜10の範囲、さらには0.01以上であり、z=「2b+6(c+d)」/2である)の化合物の硫化された形状を含まず、または触媒組成物が、モリブデンの少なくとも一部であるが全てではないモリブデンがタングステンで置き換えられたモリブデン酸ニッケルの硫化された形状を何ら含まないところの硫化物バルク触媒粒子を含む触媒組成物に関する。
【0136】
上記の硫化された触媒組成物は、上記の(更なる)物質をいずれかを含み得る。
【0137】
本発明はさらに、下記:
(i)少なくとも1種のVIII族非貴金属および少なくとも2種のVIB族金属を含む硫化物バルク触媒粒子、ここで、使用条件下での硫化度は90%を越えない、および
(ii)バインダー物質、慣用のハイドロプロセッシング触媒、クラッキング成分またはそれらの混合物の群から選択される物質
を含む成形されかつ硫化された触媒組成物に関する。
【0138】
使用条件下での硫化物バルク触媒粒子の硫化度が90%を超えないことが必須である。好ましくは、使用条件下での硫化度が10〜90%の範囲、より好ましくは20〜90%、最も好ましくは40〜90%である。硫化度は、「解析法」の項に記載されているように決定される。
【0139】
本発明方法において慣用の硫化技術が適用される場合、使用前の硫化物バルク触媒粒子の硫化度は、使用条件下での硫化度と本質的に同じである。しかし、非常に特殊な硫化技術が適用されるならば、使用中に硫化物または元素硫黄の一部が触媒から除去されるので、触媒の使用前の硫化度は、その使用中よりも高くあり得る。この場合、硫化度は、触媒の使用前ではなく、使用中に得られる値である。使用条件は、下記の「本発明に従う使用」の項で述べる。触媒が「使用条件下」にあるということは、触媒がその反応環境と平衡になるのに十分な時間これらの条件に付されていることを意味する。
【0140】
本発明の触媒組成物は、VIII族非貴金属二硫化物を本質的に含まないことがさらに好ましい。特に、VIII族非貴金属は好ましくは、(VIII族非貴金属)ySx(x/yは0.5〜1.5の範囲である)として存在する。
【0141】
成形されかつ硫化された触媒粒子は、多くの異なる形状を有し得る。適する形状は、球状、円筒状、環状、および対称または非対称ポリローブ、例えばトリローブおよびクアドルローブを包含する。押出、ビース化またはピリングにより得られる粒子は通常、0.2〜10mmの範囲の直径を有し、長さは同様に0.5〜20mmの範囲である。スプレー乾燥により得られる粒子は一般に、粒子直径の中央値が1μm〜100μmの範囲である。
【0142】
バインダー物質、クラッキング成分、慣用のハイドロプロセッシング触媒および任意の更なる物質に関する詳細は、それらの量とともに上記に示してある。さらに、硫化された触媒組成物に含まれるVIII族非貴金属およびVIB族金属およびそれらの量に関する詳細も上記に示してある。
【0143】
なお、酸化物触媒組成物に関して上記したコア−シェル構造は、硫化によって破壊されない。すなわち、硫化された触媒組成物も、このコア−シェル構造を含み得る。
【0144】
さらに、硫化された触媒は、少なくとも部分的に結晶性物質である。すなわち、硫化物バルク触媒粒子のX線回折パターンは一般に、VIII族非貴金属およびVIB族金属の硫化物に特徴的ないくつかの結晶性ピークを含む。
【0145】
酸化物触媒組成物に関しては、好ましくは、硫化物触媒組成物の孔体積の30%未満が、100nmより大きい直径を有する孔にあり(水銀圧入法により測定、接触角:130°)、より好ましくは20%である。
【0146】
一般に、硫化物バルク触媒売粒子の粒子直径の中央値は、酸化物バルク触媒粒子に関して上記したものと同じである。
【0147】
本発明に従う使用
本発明に従う触媒組成物は、例えば200°〜450℃の範囲の温度、5〜300バールの範囲の水素圧および0.05〜10h-1の範囲の空間速度(LHSV)の広範囲の反応条件で複数の原料を処理する事実上全てのハイドロプロセッシング法において使用することができる。この文脈において、「ハイドロプロセッシング」とは、炭化水素原料を高められた温度および高められた圧力で水素と反応させる全てのプロセスを包含し、例えば、水素化、水素脱硫、水素脱窒、水S脱金属、水素化芳香族低減、水素異性化、水素脱蝋、水素クラッキングおよび温和な圧力条件下での水素クラッキング(一般に、マイルド水素クラッキングと言う)を包含する。本発明の触媒組成物は、炭化水素原料のハイドロプロセッシングに特に適する。そのようなハイドロプロセッシング法は、例えば、水素脱硫、水素脱窒および水素化芳香族低減を含む。適する原料は、例えば中間留分、ケロシン、ナフサ、減圧軽油、重質軽油である。慣用のプロセス条件、例えば250°〜450℃の範囲の温度、5〜250バールの圧力、0.1〜10h-1の範囲の空間速度および50〜2000Nl/lのH2/オイル比が使用され得る。
【0148】
解析法
1. 横破壊強度の決定
最初に、例えば押出物粒子の長さを測定し、次いで、可動ピストンにより押出物粒子を圧縮荷重(25lbs/8.6秒(11.34kg/8.6秒))に付した。その粒子を破壊するのに要した力を測定した。その手順を少なくとも40個の押出物粒子について繰り返し、平均を単位長さ(mm)あたりの力(lb)として計算した。その方法を好ましくは、7mmを超えない長さを有する成形された粒子に適用した。
【0149】
2. N2吸着による孔体積
2吸着測定は、J.C.P. Broekhoff の博士論文(DelftUniversity of Technology 1969)の記載に従って行われた。
【0150】
3. 添加された固体金属成分の量
定性的決定:本発明プロセスの間の固体金属成分の存在は、金属成分が可視光線の波長より長い直径を有する粒子の形状で存在するならば、目視検査により容易に検出することができる。もちろん、当業者に公知の擬弾性光散乱(quasi-elastic light scattering:QELS)または近前方散乱(near-formard scattering)などの方法を使用して、本発明のプロセスの間のどの時点においても全ての金属が溶質状態にないことを確かめることもできる。
【0151】
定量的決定:少なくとも部分的に固体状態で添加される金属成分が懸濁物として添加されるならば、本発明のプロセス中に添加される固体金属成分の量は、懸濁物に含まれる全ての固体物質が固体濾過ケーキとして集められるような方法で、添加中に適用される条件(温度、pH、圧力、液体の量)下で添加されるべき懸濁物を濾過することによって決定され得る。固体の乾燥された濾過ケーキの重量から、固体金属成分の重量を標準法によって決定することができる。もちろん、固体金属成分の他に、固体バインダーなどの更なる固体成分が濾過ケーキに存在するならば、この固体の乾燥したバインダーの重量は、固体の乾燥した濾過ケーキから差し引かなければならない。
【0152】
濾過ケーキ中の固体金属成分の量は、原子吸収分光分析法(AAS)、XRF、湿式化学分析またはICPなどの標準法によって決定することもできる。
【0153】
少なくとも部分的に固体状態で添加される金属成分が、湿ったまたは乾燥した状態で添加されるならば、濾過は一般に、使用できない。この場合、固体金属成分は、対応する最初に使用された金属成分の重量(乾燥基準)に等しいと考えられる。全金属成分の総重量は、金属酸化物として計算される、最初に使用される全金属成分の量(乾燥基準)である。
【0154】
4. 最大値の半分における特徴的全幅
酸化物触媒の最大値の半分における特徴的全幅は、直線バックグラウンド(linear background)を使用して触媒のX線回折パターンに基づいて測定された。すなわち、
(a)VIB族金属がモリブデンおよびタングステンである場合、最大値の半分における特徴的全幅は、2θ=53.6°(±0.7°)でのピークの最大値の半分における特徴的全幅(2θに関して)である、
(b)VIB族金属がモリブデンおよびクロムである場合、最大値の半分における特徴的全幅は、2θ=63.5°(±0.6°)でのピークの最大値の半分における特徴的全幅(2θに関して)である、
(c)VIB族金属がタングステンおよびクロムである場合、最大値の半分における特徴的全幅は、2θ=53.6°(±0.7°)でのピークの最大値の半分における特徴的全幅(2θに関して)である、
(d)VIB族金属がモリブデン、タングステンおよびクロムである場合、最大値の半分における特徴的全幅は、2θ=53.6°(±0.7°)でのピークの最大値の半分における特徴的全幅(2θに関して)である。
【0155】
X線回折パターンの決定に関しては、グラファイトモノクロメーターを備えた標準的な粉末回折計(例えば、PhilipsPW1050)を使用することができる。測定条件は、例えば以下のように選択することができる。
X線発生器の設定:40kVおよび40mA
開度(divergence)および散乱防止スリット:1°
検出器スリット:0.2mm
ステップサイズ:0.04(°2θ)
時間/ステップ:20秒
【0156】
5. 硫化度
硫化物バルク触媒組成物に含まれる硫黄は、誘導加熱炉内で加熱することにより酸素流中で酸化される。得られる二酸化硫黄は、赤外セルを用い、二酸化硫黄のIR特性に基づく検出系により分析される。硫黄の量を得るために、二酸化硫黄に関するシグナルを、既知の標準物質を用いた較正により得られるシグナルと比較する。次いで、硫化度を、硫化物バルク触媒粒子に含まれる硫黄の量と、VIB族金属およびVIII族非貴金属がそれらの二硫化物の形状で存在するならばバルク触媒粒子に存在するであろう硫黄の量との比として計算する。その硫化度が測定されるべきであるところの触媒が、硫化度の決定の前に不活性雰囲気下で取り扱われるべきであることは、当業者には明らかである。
【実施例】
【0157】
本発明を、以下の実施例によってさらに説明する。
【0158】
実施例1
17.65gのヘプタモリブデン酸アンモニウム(NH46Mo724・4H2O(0.1モルMo、Aldrich製)および24.60gのメタタングステン酸アンモニウム(NH4621240(0.1モルW、Strem Chemical製)を800mlの水に溶解して、室温で約5.2のpHを有する溶液を得た。その溶液を次いで90℃に加熱した(溶液A)。35.3gのヒドロキシ炭酸ニッケル2NiCO3・3Ni(OH)2・4H2O(0.3モルNi、Aldrich製)を200mlの水に懸濁し、この懸濁物を90℃に加熱した(懸濁物B)。ヒドロキシ炭酸ニッケルは、B.E.T.表面積が239m2/g(=376m2/g NiO)であり、孔体積が0.39cm3/g(=0.62cm3/g NiO)であり(窒素吸着により測定)、孔直径の中央値が6.2nmであり、粒子直径の中央値が11.1μmであった。
【0159】
次いで、懸濁物Bを溶液Aに10分で添加し、得られた懸濁物を、連続的に攪拌しながら90℃で18〜20時間保持した。この後、懸濁物を濾過した。得られた個体を120℃で4時間乾燥し、次いで400℃で焼成した。収率は、酸化物に転化された全金属成分の計算された重量に基づいて、約92%であった。
酸化物バルク触媒粒子は、B.E.T.表面積が167m2/g(=486m2/g NiO=ヒドロキシ炭酸ニッケルの対応する表面積の128%)であり、孔体積が0.13cm3/g(=0.39cm3/g NiO=ヒドロキシ炭酸ニッケルの孔体積の63%)であり、孔直径の中央値が3.4nm(=ヒドロキシ炭酸ニッケルの孔直径の中央値の55%)であり、粒子直径の中央値が10.6μm(=ヒドロキシ炭酸ニッケルの粒子直径の中央値の95%)であった。
焼成工程後に得られたX線回折パターンを図1に示す。最大値の半分における特徴的全幅は、1.38°(2θ=53.82°でのピークに基づく)であると決定された。
【0160】
次いで、触媒を硫化した。1.5〜2gの触媒を石英ボートに入れ、それを水平石英管に挿入し、リンドバーグ炉に入れた。温度を、50ml/分の窒素流を用いて約1時間で370℃に上げ、窒素流を370℃で1.5時間継続した。窒素を止め、次いで、10%のH2S/H2を20ml/分で反応器に添加した。温度を400℃に上げ、この温度で2時間保持した。次いで加熱を止め、触媒をH2S/H2流中で70℃に冷却し、この時点でこの気流を止め、窒素下で触媒を室温に冷却した。
【0161】
硫化した触媒を、定水素流量用に設計された300mlの変形Carberryバッチ反応器で評価した。触媒を20/40メッシュの大きさに錠剤化し、1gをステンレススチール製のバスケットに充填し、ムライトビーズの層の間に挟んだ。デカリン中に5重量%のジベンゾチオフェン(DBT)を含む100mlの液体原料をオートクレーブに加えた。100ml/分の水素流を反応器に通し、背圧調整器を用いて圧を3150kPaで保持した。温度を5〜6℃/分で350℃に上げ、DBTの50%が転化されるまで、または7時間が経過するまで試験を行った。30分ごとに少量のサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析した。総転化の速度定数を、M. Daage and R. R. Chianelli(J. Catal., 149, 414-427 (1994))の記載に従って計算した。
350℃での総DBT転化(速度定数として表される)(χtotal)は、138×1016分子/(g・s)であると決定された。
【0162】
比較例A
VIB族金属成分を1つだけ使用した以外は実施例1に記載したように触媒を製造した。すなわち、35.3gのヘプタモリブデン酸アンモニウム(NH46Mo724・4H2O(0.2モルMo)および35.3gのヒドロキシ炭酸ニッケル2NiCO3・3Ni(OH)2・4H2O(0.3モルNi)を使用して実施例1に記載したように触媒を製造した。収率は、酸化物に転化された全金属成分の計算された重量に基づいて、約85%であった。触媒を実施例1に記載したように硫化し、試験した。350℃での総DBT転化(速度定数として表される)(χtotal)は、95.2×1016分子/(g・s)であると決定され、従って、実施例1の値より有意に下であった。
【0163】
比較例B
VIB族金属成分を1つだけ使用した以外は実施例1に記載したように触媒を製造した。すなわち、49.2gのメタタングステン酸アンモニウム(NH4621240(0.2モルW)および35.3gのヒドロキシ炭酸ニッケル2NiCO3・3Ni(OH)2・4H2O(0.3モルNi)を使用して実施例1に記載したように触媒を製造した。収率は、酸化物に転化された全金属成分の計算された重量に基づいて、約90%であった。触媒を実施例1に記載したように硫化し、試験した。350℃での総DBT転化(速度定数として表される)(χtotal)は、107×1016分子/(g・s)であると決定され、従って、実施例1の値より有意に下であった。
【0164】
実施例2
28.8gのMoO3(0.2モルMo、Aldrich製)および50.0gのタングステン酸H2WO4(0.2モルW、Aldrich製)を800mlの水にスラリー化し(懸濁物A)、90℃に加熱した。70.6gのヒドロキシ炭酸ニッケル2NiCO3・3Ni(OH)2・4H2O(0.3モルNi、Aldrich製))を200mlの水に懸濁し、90℃に加熱した(懸濁物B)。
懸濁物Bを60分で懸濁物Aに添加し、得られた混合物を、連続的に攪拌しながら、90℃で18時間保持した。この後、懸濁物をろ過し、得られた個体を120℃で4〜8時間乾燥し、400℃で焼成した。収率は、酸化物に転化された全金属成分の計算された重量に基づいて、約99%であった。
【0165】
酸化物バルク触媒粒子は、B.E.T.表面積が139m2/g(=374m2/g NiO=ヒドロキシ炭酸ニッケルの対応する表面積の99%)であり、孔体積が0.13cm3/g(=0.35cm3/g NiO=ヒドロキシ炭酸ニッケルの孔体積の56%)であり、孔直径の中央値が3.7nm(=ヒドロキシ炭酸ニッケルの孔直径の中央値の60%)であり、粒子直径の中央値が14.5μm(=ヒドロキシ炭酸ニッケルの粒子直径の中央値の131%)であった。
【0166】
酸化物バルク触媒粒子のX線回折パターンは、2θ=23.95(非常に広い)、30.72(非常に広い)、35.72、38.76、40.93、53.80、61.67および64.23°でのピークを含んでいた。
最大値の半分における特徴的全幅は、焼成された触媒組成物に関して1.60°(2θ=53.80°でのピークに基づいて決定)であると決定された。
触媒を硫化し、触媒性能を、実施例1に記載したように試験した。350℃での総転化(χtotal)は、144×1016分子/(g・s)であると測定された。
【0167】
使用条件下での硫化度は62%であった。
【0168】
実施例3
実施例2の製造を繰り返したが、H2WO4の代わりに(NH4621240を使用した。収率は、酸化物に転化された全金属成分の計算された重量に基づいて、約96%であった。
【0169】
実施例4
種々の量のニッケルを使用して実施例2を繰り返した。収率および最大値の半分における特徴的全幅(2θ=53.66〜53.92°の範囲でのピークに基づいて決定)を下記表に示す。
【0170】
【表1】

【0171】
実施例5
種々のモリブデン:タングステン比を用いて実施例4を繰り返した。
収率および最大値の半分における特徴的全幅(2θ=53.80〜53.924の範囲でのピークに基づいて決定)を下記表に示す。
【0172】
【表2】

【0173】
実施例6
実施例1に記載した手順と同様の方法で触媒組成物を製造した。得られた混合物をスプレー乾燥した。スプレー乾燥した粉末は、43.5重量%のNiO、20.1重量%のMoO3、および34.7重量%のWO3を含んでいた。スプレー乾燥したバルク触媒粒子の孔体積は、0.14ml/gであり(窒素吸着により測定)、B.E.T.表面積は171m2/gであった。
【0174】
バルク触媒粒子は、触媒組成物の総重量に基づいて20重量%のアルミナバインダーと湿式混合した。押出可能な混合物を得るために混合物の水含量を調整し、次いでその混合物を押出した。押出後、押出物を120℃で乾燥し、385度で焼成した。得られた触媒組成物は、B.E.T.表面積が202m2/gであり、水銀ポロシメトリーにより測定した孔体積が0.25ml/gであり、横破壊強度が5.4lbs/mm(2.4494kg/mm)であった。
【0175】
得られた触媒の一部を、DMDS(二硫化ジメチル)を加えたSRGO(直留軽油)を使用して硫化して、30バールで2.5重量%の総S含量を得た(LHSV=4hr-1、H:オイル=200)。0.5℃/分のランプを使用して触媒温度を室温から320℃に上げ、320℃で10時間保持した。次いで、サンプルを室温に冷却した。
硫化された触媒組成物の使用条件下での硫化度は、52%であると決定された。
【0176】
触媒の別の一部を、DMDSを加えた供給物で硫化した。こうして硫化された触媒を次いで、LCCO(軽質分解サイクル油)を用いて試験した。市販のアルミナ担持ニッケルおよびモリブデン含有触媒と比較して、水素脱窒における相対体積活性は281であると測定された。
【0177】
実施例7
実施例1に記載の手順と同様の方法で触媒組成物を製造した。反応が完了した後、解膠されたアルミナ(触媒組成物の総重量に基づき15重量%)をバルク触媒粒子とともに共スラリー化し、スラリーをスプレー乾燥した。得られた触媒は、13.2重量%のAl23、33.9重量%のNiO、20.5重量%のMoO3、および30.2重量%のWO3を含んでいた。酸化物触媒組成物の孔体積は0.17ml/gであり(窒素吸着により測定)、B.E.T.表面積は114m2/gであった。スプレー乾燥した粒子を、押出可能な混合物を形成するのに必要な量の水と混合した。得られた混合物を押出し、得られた押出物を120℃で乾燥し、385℃で焼成した。得られた触媒組成物は、B.E.T.表面積が133m2/gであり、水銀ポロシメトリーにより測定した孔体積が0.24ml/gであり、横破壊強度が5.3lbs/mm(2.4041kg/mm)であった。
【0178】
得られた触媒の一部を、大気圧でH2中の10体積%のH2Sの混合物を使用して硫化した(GHSV(ガス時間当たり空間速度)=約8700Nm3・m-3.hr-1)。6℃/分のランプを使用して触媒温度を室温から400℃に上げ、400℃で2時間保持した。次いで、サンプルを、H2S/H2混合物中で室温に冷却した。
硫化された触媒組成物の使用条件下での硫化度は、64%であると決定された。
【0179】
触媒の別の一部を、DMDSを加えた供給物で硫化した。こうして硫化された触媒を次いで、LCCO(軽質分解サイクル油)を用いて試験した。市販のアルミナ担持ニッケルおよびモリブデン含有触媒と比較して、水素脱窒における相対体積活性は235であると測定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のVIII族非貴金属および少なくとも2種のVIB族金属を含むバルク触媒粒子を含む触媒組成物の製造法において、該方法が、少なくとも1種のVIII族非貴金属成分と少なくとも2種のVIB族金属成分とをプロトン性液体の存在下で配合し、そして反応させることを含み、金属成分の少なくとも1種は、全プロセスの間、少なくとも部分的に固体状態のままであるところの方法。
【請求項2】
金属成分を配合する間、金属成分の少なくとも1種は少なくとも部分的に固体状態にあり、金属成分の少なくとも1種は溶質状態にある、請求項1記載の方法。
【請求項3】
全金属成分が、金属成分を配合する間、少なくとも部分的に固体状態にある、請求項1記載の方法。
【請求項4】
プロトン性液体が水を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
VIII族非貴金属がコバルト、ニッケル、鉄またはそれらの混合物を含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
VIB族金属が、クロム、モリブデンまたはタングステンの少なくとも2種を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
VIB族金属およびVIII族非貴金属が、ニッケルおよび/またはコバルト、モリブデンおよびタングステンを含む、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
金属成分を配合しおよび/または反応させる間、バインダー物質、慣用のハイドロプロセッシング触媒、クラッキング成分またはそれらの混合物の群から選択される物質が添加される、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
バルク触媒粒子が、1以上の下記プロセス工程:
(i)バインダー物質、慣用のハイドロプロセッシング触媒、クラッキング成分またはそれらの混合物の群から選択される物質と複合化する工程、
(ii)スプレー乾燥、(フラッシュ)乾燥、粉砕、混練、スラリー混合、乾式または湿式混合、またはそれらの組み合わせ、
(iii)成形、
(iv)乾燥および/または熱処理、および
(v)硫化
に付される、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の方法によって得られる触媒組成物。
【請求項11】
少なくとも1種のVIII族非貴金属および少なくとも2種のVIB族金属を含むバルク触媒粒子を含む触媒組成物において、金属が酸化物状態で触媒組成物中に存在し、VIB族金属がモリブデン、タングステンおよび所望によりクロムであるとき、最大値の半分における特徴的全幅が2.5°を超えず、あるいはVIB族金属がモリブデンおよびクロムまたはタングステンおよびクロムであるときは4.0°を超えないところの触媒組成物。
【請求項12】
VIB族金属がモリブデン、タングステンおよび所望によりクロムであるとき、最大値の半分における特徴的全幅が2.0°を超えず、あるいはVIB族金属がモリブデンおよびクロムまたはタングステンおよびクロムであるときは3.0°を超えない、請求項11記載の触媒組成物。
【請求項13】
少なくとも1種のVIII族非貴金属および少なくとも2種のVIB族金属を含む硫化物バルク触媒粒子を含む触媒組成物、ここで、使用条件下での硫化度は90%を超えない。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか1項記載の触媒組成物を炭化水素供給原料のハイドロプロセッシングのために使用する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−66889(P2013−66889A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−264667(P2012−264667)
【出願日】平成24年12月3日(2012.12.3)
【分割の表示】特願2000−593413(P2000−593413)の分割
【原出願日】平成12年1月13日(2000.1.13)
【出願人】(505002495)アルベマーレ ネザーランズ ビー.ブイ. (19)
【Fターム(参考)】