説明

混合C4留分を原料とするジイソブチレンの製造方法

【課題】混合C4留分を重合触媒に接触させて、1段反応でイソブテンのオリゴマー化反応を行い、高純度のジイソブチレンを高反応選択率で製造する方法を提供する。
【解決手段】固体酸触媒に、原料の混合C4留分を接触させることにより、ジイソブチレンを製造する方法であって、
(a)イソブテンのオリゴマー化反応工程、
(b)未反応のC4留分と生成したC8留分を含むオリゴマー留分とを蒸留分離する工程、及び
(c)C8留分中のジイソブチレンを蒸留精製する工程、
を含み、かつ前記(a)工程において、混合C4留分中のイソブテンの転化率を60〜95%の範囲に制御することを特徴とするジイソブチレンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合C4留分を原料とするジイソブチレンの製造方法に関し、さらに詳しくは、固体酸触媒、好ましくはシリカ−アルミナ触媒に混合C4留分を接触させて、1段反応でイソブテンのオリゴマー化反応を行ったのち、蒸留操作を施し、付加価値の高い高純度のジイソブチレンを高反応選択率で製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イソブテンの二量体であるジイソブチレン(以下、「DIB」と略記することがある。)は、オキソアルコールの原料、イソノナン酸の原料、p−オクチルフェノールの原料、ゴム粘着付与剤の原料、界面活性剤の原料、さらにはガソリン燃料添加剤、ゴム薬品などとして有用であることが知られている。
【0003】
ジイソブチレンの製造方法としては、一般的には、FCCやエチレンプラントより生成するC4留分からイソブテンを選択的に硫酸と反応させて硫酸イソブチルとして1−ブテンや2−ブテン、ブタン等から分離し、その後加熱分解することでジイソブチレンを得ている。あるいは、C4留分からイソブテンをMTBE(メチルターシャルブチルエーテル)やTBA(ターシャルブチルアルコール)とした後、分解、2量化してジイソブチレンを得ている。
前者は、目的とするジイソブチレン以外に3量体や4量体以上のオリゴマーが多量に生成し、DIBの反応選択性が低い上、高価な耐食材料が必要となる。さらに、両者とも反応工程が多く煩雑であるという問題を有している。
【0004】
一方、特許文献1には、酸性イオン交換体のプロトンの一部が金属イオンに交換されている、スルホン酸基を有する酸性イオン交換樹脂を使用するイソブテンのオリゴマー化法の技術が開示されている。この技術においては、C4混合留分を原料として高純度のジイソブチレンが得られるが、イソブテンは低転化率での成績しか示されておらず、またオリゴマー化触媒はシリカ−アルミナ触媒とは、全く異なるものである。
【0005】
また、特許文献2には、シリカ−アルミナ触媒を用いて、燃料、例えばガソリン及び/又は灯油・軽油を製造することができるオレフィン類のオリゴマー化方法の技術が開示されている。この技術においては、C4混合留分を原料としてイソブテン転化率90%以上あるいは1−ブテン転化率90%、2−ブテン転化率80%程度のオリゴマー化を実施しているが、目的物はC5以上のポリマー生成物である(ジイソブチレン純度の記述はない)。また、実施例におけるイソブテンの転化率は97〜100%であり、イソブテンの転化率が極めて高い領域で反応させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−123714号公報
【特許文献2】特開2006−28519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下になされたものであり、混合C4留分を重合触媒に接触させて、1段反応でイソブテンのオリゴマー化反応を行い、高純度のDIBを高反応選択率で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
オリゴマー化触媒として、固体酸触媒、好ましくはシリカ−アルミナ触媒を用い、これに混合C4留分を接触させるに際し、混合C4留分中のイソブテンの転化率を所定の範囲に制御することにより、高い反応選択率でDIBが得られること、そして反応生成物に特定の蒸留操作を施すことにより、高純度のDIBが得られることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]固体酸触媒に、原料の混合C4留分を接触させることにより、ジイソブチレンを製造する方法であって、
(a)イソブテンのオリゴマー化反応工程、
(b)未反応のC4留分と生成したC8留分を含むオリゴマー留分とを蒸留分離する工程、及び
(c)C8留分中のジイソブチレンを蒸留精製する工程、
を含み、かつ前記(a)工程において、混合C4留分中のイソブテンの転化率を60〜95%の範囲に制御することを特徴とするジイソブチレンの製造方法、
[2]固体酸触媒が、シリカ−アルミナ触媒である上記[1]に記載のジイソブチレンの製造方法、
[3](a)工程において、イソブテンのオリゴマー化反応工程における反応条件は、固体酸触媒に対する混合C4留分のWHSV(1時間当たりの触媒質量に対する供給原料質量)が0.1〜5hr-1、反応温度が150℃以下及び反応圧力が0.2MPa以上であって、原料が液化できる圧力である上記[1]又は[2]に記載のジイソブチレンの製造方法、及び
[4](c)C8留分中のジイソブチレンを蒸留精製する工程において、C4留分の含有量が1質量%以下で、純度が95質量%以上のジイソブチレンを得る上記[1]〜[3]のいずれかに記載のジイソブチレンの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のDIBの製造方法によれば、オリゴマー化触媒として、固体酸触媒、好ましくはシリカ−アルミナ触媒を用い、これに混合C4留分を接触させるに際し、混合C4留分中のイソブテンの転化率を所定の範囲に制御すると共に、反応生成物に特定の蒸留操作を施すことにより、反応選択率が高く、かつ高純度のDIBを効率よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のDIBの製造方法は、固体酸触媒に、原料の混合C4留分を接触させることにより、ジイソブチレンを製造する方法であって、
(a)イソブテンのオリゴマー化反応工程、
(b)未反応のC4留分と生成したC8留分を含むオリゴマー留分とを蒸留分離する工程、及び
(c)C8留分中のジイソブチレンを蒸留精製する工程、
を含み、かつ前記(a)工程において、混合C4留分中のイソブテンの転化率を60〜95%の範囲に制御することを特徴とする。
【0012】
[混合C4留分]
本発明のDIBの製造方法においては、原料として混合C4留分が用いられる。
当該混合C4留分は、例えばFCCプロセスで生産されるオレフィン留分、ナフサクラッカーで生産される留分からジエン成分を抽出や選択的水素化によって除去したオレフィン留分などが挙げられ、またこれらを任意の割合で混合したものでもよい。さらに、それらに対し蒸留などの公知の方法を用いて、特定の留分の含有量を増減させて調整してもよい。例えば、ナフサクラッカーで生成するC4留分からブタジエンを抽出したラフィネートやFCC−C4留分を蒸留(または反応蒸留)し、ノルマルブテン類およびノルマルブタン類を除いたイソブテンを高濃度に含有するイソブテン−イソブタン留分を用いることができる。
当該混合C4留分中には、一般に1−ブテン、trans−2−ブテン、cis−2−ブテン、イソブテン、n−ブタン、イソブタン、ブタジエンなどの成分が含まれている。
【0013】
(混合C4留分の前処理)
本発明のDIBの製造方法においては、原料の混合C4留分は、下記(1)〜(3)に示す前処理を施し、不純物を除去・精製しておくことが好ましい。
(1)触媒活性低下やジイソブチレン純度低下の原因となる混合C4留分中のブタジエン等のジエン類はN,N−ジメチルホルムアミドやアセトニトリル等の抽出溶剤にて除去が可能である。さらに必要に応じてPdやNiなどの水素化触媒にて選択的に水素化してジエンを低減することが可能である。一般的には1000質量ppm以下が目安となる。
(2)触媒活性低下の原因となる硫黄分・塩基性窒素分は水洗あるいは活性アルミナや活性炭、モレキュラーシーブ等の吸着剤処理によって除去が可能である。
(3)ジイソブチレン純度低下の原因となるC3留分は蒸留により塔頂より除去しておくことが可能である。
【0014】
〔(a)イソブテンのオリゴマー化反応工程〕
本発明のDIBの製造方法においては、固体酸触媒に、好ましくは前処理を施してなる前述した原料の混合C4留分を接触させることにより、DIBを製造する方法であって、当該(a)工程のイソブテンのオリゴマー化反応工程において、混合C4留分中のイソブテンの転化率を60〜95%に制御する。
イソブテン転化率が、95%を超えると目的とするジイソブチレンである2,4,4−トリメチル−1−ペンテンと2,4,4−トリメチル−2−ペンテン以外に1−ブテンや2−ブテンが反応したC8成分、さらには3量体や4量体等の重質成分が増加し、あとに続く蒸留によりジイソブチレンを高純度化することができない。イソブテン転化率が60%より低下すると未反応原料が増加し、高収率でジイソブチレンを製造することができない。以上の観点より、イソブテンの転化率は65〜90%が好ましく、70〜90%がより好ましい。
なお、イソブテン転化率の制御については後で詳述する。
【0015】
(固体酸触媒)
本発明のDIBの製造方法において、オリゴマー化反応触媒として用いる固体酸触媒としては、例えば、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、シリカ−ボリア、アルミナ−ボリア、塩素化アルミナ、フッ素化アルミナ、シリカゲルやアルミナゲルに塩酸、硫酸、リン酸、BF3などを付着させたもの、陽イオン交換樹脂、合成ゼオライト、ヘテロポリ酸、酸化モリブデン/ジルコニアや酸化タングステン/ジルコニア等のジルコニア系複合金属酸化物、さらには酸性白土、ベントナイト、カオリン、モンモリロナイトなどの粘土鉱物等を挙げることができる。これらの固体酸触媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、特にシリカ−アルミナが好適である。
【0016】
このシリカ−アルミナ触媒は、シリカゲルにAl2(SO43溶液とNH4OHによってアルミナを付着させる沈着法、又はケイ酸ナトリウム(水ガラス)溶液をAl2(SO43溶液に添加する沈殿法などの方法によって製造することができる。このゲルを550℃程度の温度で焼成したものは、活性が極めて大きい。
このシリカ−アルミナ触媒としては、通常下記の性状を有するものが用いられる。
・SiO2/Al23質量比:2〜20
・窒素吸着法にて測定される平均細孔直径:2〜10nm
・窒素吸着法にて測定される総細孔容積:0.2〜1mL/g
・BET比表面積:200〜600m2/g
【0017】
(イソブテン転化率の制御)
イソブテン転化率の制御は、下記の反応条件の範囲で行うことができる。
(1)固体酸触媒に対する混合C4留分のWHSV(1時間当たりの触媒質量に対する供給原料質量)は、0.1〜5hr-1が好ましく、0.2〜2hr-1がより好ましい。このWHSVが0.1hr-1以上であると、イソブテンの転化率を95%以下に保持することができ、一方、5hr-1以下であるとイソブテンの転化率を60%以上に保持することができる。
(2)反応温度は150℃以下が好ましく、25〜100℃がより好ましい。反応温度が25℃以上であると、適当な反応速度を有し、多量の触媒を必要としない。一方、150℃以下であるとDIBの反応選択率低下を抑えることができ、高純度のDIBを得ることができる。
(3)反応圧力は0.2MPa以上であることが好ましく、原料が液化できる圧力であればよい。
(4)反応を行うにあたっては、断熱反応器や多管式反応器などが利用できる。反応温度の制御(除熱)のために、反応生成液の反応器へのリサイクル(原料と混合してフィード)や希釈剤による原料希釈を行うこともできる。反応生成液の反応器へのリサイクルを行う場合は、リサイクル液が原料に対して0〜4質量倍率であることが好ましく、0〜3質量倍率であることがより好ましい。リサイクル量が4質量倍率以下であると、原料濃度低下により反応速度が小さくなることがなく、多量の触媒を必要としない。
【0018】
なお、イソブテンのオリゴマー化反応に用いる反応器及び反応形式には特に制限はなく、槽型反応器によるバッチ式、セミバッチ式、連続流通式反応や、固定床、流動床、移動床の流通反応器による連続流通式反応などを採用することができる。
【0019】
本発明のDIBの製造方法においては、(b)工程として、未反応のC4留分と生成したC8留分を含むオリゴマー留分とを蒸留分離する工程、及び(c)工程として、C8留分中のDIBを蒸留精製する工程を有する。
[(b)工程]
当該(b)工程は、オリゴマー化反応における反応生成液中の未反応のC4留分と生成したC8留分を含むオリゴマー成分とを蒸留分離する工程である。
当該(b)工程においては、前記反応生成液を蒸留塔にフィードし、塔底液中のC4留分が1質量%以下になるように蒸留条件(還流比(R/D)、圧力等)を調節して、塔頂より未反応原料であるC4留分を除去し、塔底液としてC8留分中のジイソブチレンを含む重合物を得る。
【0020】
[(c)工程]
当該(c)工程は、前記(b)工程で得られたC8留分中のジイソブチレンを蒸留精製する工程であり、前記(b)工程におけるジイソブチレンを含む塔底液を蒸留塔にフィードし、塔頂よりジイソブチレンを主とするC8留分、塔底より3量体以上の重合物を主とする成分を得る。
当該(c)工程においては、C4留分の含有量が1質量%以下で、純度が95質量%以上のジイソブチレンを得ることができる。
【0021】
[ジイソブチレンの用途]
本発明のDIBの製造方法により得られたジイソブチレン(2,4,4−トリメチル−1−ペンテン及び2,4,4−トリメチル−2−ペンテン)は、例えばオキソアルコールの原料、イソノナン酸の原料、p−オクチルフェノールの原料、ゴム粘着付与剤の原料、界面活性剤の原料、さらにはガソリン燃料添加剤、ゴム薬品などとして用いられる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0023】
実施例1〜3及び比較例1
ナフサのクラッキングから得られた混合C4留分中のブタジエン等のジエン成分をジメチルホルムアルデヒドにて抽出後、さらに市販のPd触媒にて選択的に水素化してジエン濃度を10質量ppm以下とした。続いて水洗によりS成分とN成分を5質量ppm以下に除去した。さらに連続蒸留によりC3成分を塔頂より除去し、ジイソブチレン製造の原料とした。(表1中の原料組成)。
重合触媒としてシリカ−アルミナ触媒[SiO2/Al23質量比:9、平均細孔直径:6nm、総細孔容積:0.5mL/g、BET比表面積:400m2/g]を管型反応器に充填し、固定床連続反応を実施した。反応器はマントルヒーターで加熱し、触媒床は等温となるように制御した。反応条件と反応成績を表1に示す。
実施例1〜3は、反応圧力及びWHSVを固定し、反応温度を変動させてイソブテン転化率を95%未満としたものである。一方、比較例として実施例1〜3と同様に、反応圧力及びWHSVを固定し、反応温度を80℃にして、イソブテン転化率を98%とした結果を記載した。
さらに、得られた反応生成液を18段、R/D:0.29、塔頂圧力0.38MPaの連続蒸留に供して未反応原料のC4成分を除去し、続いてジイソブチレンを含む塔底液をフィード液として40段、R/D:5、塔頂圧力0.65MPaの連続蒸留に供してジイソブチレンを含むC8成分を塔頂より得た。得られたC8成分中の目的とするジイソブチレンである2,4,4−トリメチル−1−ペンテンと2,4,4−トリメチル−2−ペンテン濃度を表1最下段に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1より、イソブテン転化率を74〜93%の範囲とした実施例1〜3は、ジイソブチレン濃度95%以上の高純度品が得られることが判る。一方、イソブテン転化率98%の比較例ではジイソブチレン純度は90%であった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のDIBの製造方法は、固体酸触媒、好ましくはシリカ−アルミナ触媒に原料の混合C4留分を接触させて、1段反応でイソブテンのオリゴマー化反応を行ったのち、蒸留操作を施すことにより、付加価値の高い高純度のジイソブチレンを高反応選択率で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸触媒に、原料の混合C4留分を接触させることにより、ジイソブチレンを製造する方法であって、
(a)イソブテンのオリゴマー化反応工程、
(b)未反応のC4留分と生成したC8留分を含むオリゴマー留分とを蒸留分離する工程、及び
(c)C8留分中のジイソブチレンを蒸留精製する工程、
を含み、かつ前記(a)工程において、混合C4留分中のイソブテンの転化率を60〜95%の範囲に制御することを特徴とするジイソブチレンの製造方法。
【請求項2】
前記固体酸触媒が、シリカ−アルミナ触媒である請求項1に記載のジイソブチレンの製造方法。
【請求項3】
前記(a)工程において、イソブテンのオリゴマー化反応工程における反応条件は、固体酸触媒に対する混合C4留分のWHSV(1時間当たりの触媒質量に対する供給原料質量)が0.1〜5hr-1、反応温度が150℃以下及び反応圧力が0.2MPa以上であって、原料が液化できる圧力である請求項1又は2に記載のジイソブチレンの製造方法。
【請求項4】
前期(c)C8留分中のジイソブチレンを蒸留精製する工程において、C4留分の含有量が1質量%以下で、純度が95質量%以上のジイソブチレンを得る請求項1〜3のいずれかに記載のジイソブチレンの製造方法。

【公開番号】特開2013−10717(P2013−10717A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144900(P2011−144900)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】