説明

混和剤

【課題】所要の性能、所要の安定性および所要の圧縮強度を併せて有し、あらゆるタイプのセメントに対して機能する促進剤組成物の提供。
【解決手段】スプレー用セメント組成物へ使用に適合する、必須成分1〜3:成分1−硫酸アルミニウム成分2−アルカノールアミンおよびアルキレンジアミンまたはトリアミンのうちの少なくとも1種成分3−フッ化水素酸の配合物の水溶液または分散体である促進剤組成物であって、任意に、成分4〜7:成分4−水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウムおよび硫酸リチウムの少なくとも1種;成分5−C〜C10脂肪族モノ−およびジカルボン酸ならびにそれらの金属塩;成分6−水酸化アルミニウム;成分7−りん酸および亜リン酸の少なくとも1種、で存在する促進剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー用セメント組成物に使用する低アルカリ促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
スプレーにより施工されるコンクリートなどのセメント組成物において、従来のアルミン酸塩および他の強いアルカリ材料のかわりに、低アルカリおよびアルカリフリー促進剤の使用が、現在かなり定着している。そのような促進剤の主要成分は、アルミニウム化合物であり、もっとも一般的に使用されるものは硫酸アルミニウムおよびアモルファス水酸化アルミニウムである。これらのアルミニウム化合物に加えて、種々の他の成分、アルカノールアミン、他のアルミニウム塩(シュウ酸塩および硝酸塩など)およびさまざまな有機酸を含むものが、そのような促進剤に使用されている。より最近の組成物は、フッ化物イオンの使用を伴っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
当該技術分野での主な問題は、所要の性能、所要の安定性および所要の圧縮強度を併せて有する促進剤組成物を見いだすことである。安定性が問題となる場合があるが、過酷な条件、たとえば時にトンネル中で遭遇するような条件下では、適度な品質保持期限が実用的な促進剤には必要である。スプレー用コンクリート・モルタルで使用されるすべての促進剤は、促進剤なしの同一のコンクリートの圧縮強度と比較して、圧縮強度を低下させる。この低下を最小限に押さえることが必要である。加えて、スプレー後、1〜4時間の間の初期強度の良好な発現が、特に要求される。
【0004】
加えて、世界中で使用されるセメントのタイプの差異も問題を引き起こす。あるセメント、例えばヨーロッパのセメントでは良好に機能したところで、オーストラリアまたは日本のセメントでは同様には必ずしも機能しない。すべてのタイプに良好に受け入れられる機能を有する促進剤を処方することは、困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
材料のある特有の組み合わせが、殊に優れた機能を有しかつ非常に安定な促進剤を与えることが、現時点で見いだされた。すなわち、本発明は、スプレー用セメント組成物への使用に適合する、必須成分1〜3を配合したものの水溶液または分散体(dispersion)である促進剤組成物を提供する:
成分1 − 硫酸アルミニウム
成分2 − アルカノールアミンおよびアルキレンジアミンまたはトリアミンのうちの少なくとも1種
成分3 − フッ化水素酸
【0006】
任意に、成分4〜7の少なくとも1種を含み、ただし、成分4または成分5の少なくとも1種が存在し、および促進剤組成物がアルカリ金属をNaO当量で1〜8.5%の範囲で含むものであり:
成分4 − 水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウムおよび硫酸リチウムの少なくとも1種;
成分5 − C〜C10脂肪族モノ−およびジカルボン酸ならびにそれらの金属塩;
成分6 − 水酸化アルミニウム;
成分7 − リン酸および亜リン酸の少なくとも1種
【0007】
構成要素は以下の比率で存在する(活性成分の質量による)
成分1 − 30〜60%(17%粉末硫酸アルミニウムの質量換算)
成分2 − 0.1〜15%
成分3 − 0.2〜8.0%
成分4 − 15%まで
成分5 − 15%まで
成分6 − 15%まで
成分7 − 5%まで
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
成分1の硫酸アルミニウムは、促進剤の製造において使用される硫酸アルミニウムであればよい。それは完全に水和されてもよく、または全体としてもしくは部分的に焼かれてもよい。典型的なグレードであり、そして前記比率のベースとしたグレードは、17%硫酸アルミニウム(Al(SO・14.3HO)(その中の酸化アルミニウムの割合のためそう呼ばれる)である。他の硫酸アルミニウムが要求される場合には、その適量はこれを基礎として容易に計算できる。成分1は、好ましくは促進剤組成物全体の30〜46質量%の割合で存在する。
【0009】
成分2のアルカノールアミン、アルキレンジアミンおよびアルキレントリアミンは、そのようないずれの材料でもよいが、好ましくは、エチレンジアミン、エチレントリアミン、ジエタノールアミンまたはトリエタノールアミンであり、もっとも好ましくはジエタノールアミンである。それは、好ましくは促進剤組成物全体の0.1〜10質量%の割合で存在し、より好ましくは0.1〜8質量%である。これらの材料の2または3種以上の組み合わせを使用することができる。
成分3のフッ化水素酸は、一般的に約40質量%のHF水溶液として使用される。合計の促進剤組成物中に存在するフッ化水素酸の割合は(HFとして)、促進剤全体の1〜4質量%が好ましい。
【0010】
1〜8.5%のNaO当量程度までアルカリ金属(ナトリウムまたはカリウム)が存在しなければならず、そのため成分4または成分5のうち少なくとも1種が存在する必要がある。当該NaO当量は、水溶液または分散体に供給する水も含めた、促進剤組成物全体を基に測定される。その範囲は「低アルカリ」とみなされ、使用目的は多岐にわたる−なぜなら多くの場合、健康上や環境上の理由からアルカリを厳密に排除することは必ずしも必要ではなく、少なくとも1種類のアルカリ金属少量で、初期強度の発現を高めることができるからである。この割合としては、NaO当量として5%より高くないものが好ましい。従って、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウムのうち少なくとも1種類と、少なくとも1種類のC〜C10脂肪族モノ−およびジカルボン酸のうち、少なくとも1種類のアルカリ金属塩が存在しなければならない。
【0011】
これらのアルカリ提供成分4および5に加えて、非アルカリ成分4または5の少なくとも1種が存在してもよい。存在する成分4および5の総量は、促進剤組成物のそれぞれ15%である。
成分5は、上記に記載された物質の中から選択してもよい。成分5の好ましい割合は、促進剤組成物全体の1〜10質量%である。成分5は典型的に、30質量%の水溶液として促進剤組成物に加えられる。
成分5は、1または2種以上の酸の前記群から選択されてもよい。殊に好ましいのは、ギ酸、シュウ酸およびグリコール酸ならびにその金属塩であるが、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、クエン酸および酒石酸などの他の酸もまた使用できる。成分5の好ましい割合は、促進剤組成物全体の2〜10質量%であり、より好ましくは、4〜8質量%である。
【0012】
本発明の目的のために好ましい成分4および/または成分5は、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウムおよびこれらのうちの1種または両方と水酸化リチウムとの混合物である。水酸化リチウム/シュウ酸ナトリウム−カリウム混合物は、特に好ましい。
【0013】
成分6の水酸化アルミニウムは、好ましくはスプレー用コンクリートの促進剤に一般的に使用される型のアモルファス水酸化アルミニウムである。それは、促進剤組成物の合計の10質量%までの割合で好ましく存在する。結晶質水酸化アルミニウムを使用することもできる:これはかなり安価なものであるが、溶解するのが困難で、アモルファス材料と同程度の性能を与えない。
成分7のリン酸(HPO)または亜リン酸(HPO)は、安定剤として働く。それを除くことも可能であるが、これは本発明の促進剤組成物において、促進剤が長期間使用できる状態で保管しなければならないようなトンネル工事などで十分に考慮されるべき有効な安定性を与える。したがって、それは、好ましくは存在し、および促進剤組成物の3%まで、より好ましくは0.1〜2質量%の濃度である。両者を配合して使用することもできるが、亜リン酸単独で使用することが好ましい。
【0014】
促進剤組成物は、上記に説明した成分を任意の順序で混合し、および攪拌することにより簡便に調製することによって、水溶液を与える。ある場合には、追加の水を加える必要がある。最終的な組成物は、一般的に40〜70質量%の水を含む。
構成要素の本質により、得られる促進剤組成物は、単なる構成要素の混合物ではなく、反応生成物の複雑なブレンドとなる。たとえば、HFは、他のいくつかの成分、とりわけアルミニウムを含む成分と反応する(存在する場合は、水酸化アルミニウムと最もよく反応する)。この組成物は、非常に安定であるので、一般的な貯蔵条件下では数ヶ月の品質保持期限を有する。
【0015】
使用に際しては、本発明の促進剤組成物は、慣用の方法でスプレーノズルに注入される。添加量は、典型的にセメント質量に対して促進剤組成物は5〜12質量%である。本発明はまた、まだ固まらないセメント組成物を混合し、それを上記で記載した促進剤が注入されるスプレーノズルに搬送するステップを含む、スプレーにより基材にセメント組成物を施工する方法を提供する。
【0016】
本発明の促進剤組成物を用いたスプレー用セメント組成物は、特別に早い圧縮強度の発現を示す。加えて、前記促進剤組成物は、他のアルカリフリー促進剤が満足する結果を与えない日本のセメントを含む、非常に広い種類のセメントに対しても良好に機能する。本発明はまた、上記に記載した促進剤が加えられた、スプレーノズルを通してスプレーにより基材に施工され、硬化したセメント組成物の層を提供する。
【実施例】
【0017】
本発明は、さらに以下に制限されない例を示すが、すべての部分は、質量で与えられる。
いくつかの促進剤を、以下の構成を有する練り混ぜた試験用モルタルに添加する。
水 198部
普通ポルトランドセメント 450部
砂(DIN196-1) 1350部
高性能減水剤 2.7部
セメントは、一般的に使用される日本のセメントの太平洋OPCである。使用される高性能減水剤は、NT−1000(たとえば株式会社エヌエムビー、日本)である。
【0018】
例1
上記で説明したセメントミックスに以下の組成を有する本発明の促進剤、31.5部を完全に混合しながら加える(質量パーセントで与える)。
硫酸アルミニウム(16水和物) 35
ジエタノールアミン 2.1
硫酸ナトリウム 11.2
シュウ酸 7.5
フッ化水素酸(40%水溶液) 6
アモルファス水酸化アルミニウム 9.5
水 100%まで加える

NaO当量は4.8%である。
【0019】
例2
本発明の促進剤31.5部を、商業的に入手可能なアルカリフリー促進剤の「メイコ(MEYCO)SA162」に置き換えたことを除いて、例1を繰り返す。
【0020】
例3
本発明の促進剤31.5部を、商業的に入手可能なアルカリフリー促進剤の「メイコ(MEYCO)SA170」に置き換えたことを除いて、例1を繰り返す。
【0021】
サンプルをprEN(予備的なヨーロッパ基準)12394により圧縮強度を試験し、以下に得られた結果を示す。
【表1】

【0022】
本発明による促進剤を含む組成物は、市販される促進剤を含む組成物より、より早く圧縮強度が発現すること、および最終強度も実質的により高くなることを見いだすことができる。
【0023】
本発明によれば、長期間の優れた安定性を有し、多種のセメントに適用可能な、スプレー用セメント組成物の促進剤が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレー用セメント組成物への使用に適合する、必須成分1〜3:
成分1 − 硫酸アルミニウム
成分2 − アルカノールアミンおよびアルキレンジアミンまたはトリアミンのうちの少なくとも1種
成分3 − フッ化水素酸
の配合物の水溶液または分散体である促進剤組成物であって、
任意に、成分4〜7:
成分4 − 水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウムおよび硫酸リチウムの少なくとも1種;
成分5 − C〜C10脂肪族モノ−およびジカルボン酸ならびにそれらの金属塩;
成分6 − 水酸化アルミニウム;
成分7 − リン酸および亜リン酸の少なくとも1種
の少なくとも1種を含み、ただし、成分4または成分5の少なくとも1種が存在し、および促進剤成分がアルカリ金属をNaO当量で1〜8.5%の範囲で含むものであり、
前記成分は下記の比率(活性成分の質量による)
成分1 − 30〜60%(17%粉末硫酸アルミニウムの質量換算)
成分2 − 0.1〜15%
成分3 − 0.2〜8.0%
成分4 − 15%まで
成分5 − 15%まで
成分6 − 15%まで
成分7 − 5%まで
で存在する、前記促進剤組成物。
【請求項2】
成分4が存在する、請求項1に記載の促進剤。
【請求項3】
成分4がアルカリ金属を含み、およびアルカリ金属の含有量がNaO当量として最大で8.5%までの範囲で存在する、請求項2に記載の促進剤。
【請求項4】
スプレーにより基材にセメント組成物を施工する方法であって、まだ固まらないセメント組成物を混合し、それを、請求項1に記載の促進剤が注入されるスプレーノズルに搬送するステップを含む、前記方法。
【請求項5】
スプレーノズルを通してスプレーにより基材に施工された硬化したセメント組成物の層であって、請求項1に記載の促進剤を前記ノズルに加えた、前記硬化したセメント組成物の層。

【公開番号】特開2007−182378(P2007−182378A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29263(P2007−29263)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【分割の表示】特願2003−62114(P2003−62114)の分割
【原出願日】平成15年3月7日(2003.3.7)
【出願人】(503343336)コンストラクション リサーチ アンド テクノロジー ゲーエムベーハー (139)
【氏名又は名称原語表記】Construction Research & Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Dr.−Albert−Frank−Strasse 32, D−83308 Trostberg, Germany
【Fターム(参考)】