説明

混注管および弁装置

【課題】衛生上の問題を生じさせることなく、注射器などを用いて複数回の採血、点滴、薬液の注入、または測定などを行うことのできる混注管を提供する。
【解決手段】主流路を形成する管本体11の管壁に主流路から分岐する分岐流路を形成する分岐管部12が設けられた混注管1であって、分岐管部12は、分岐流路を開閉する弁本体31を有した弁機構BKと、ロック式の注射器などを取り付けて分岐流路に接続するための取付け部TBと、を有し、取付け部TBは、流通位置P1と待機位置P2との間で弁本体31に対して移動可能であり、弁機構BKは、取付け部TBに注射器などを取り付けた状態において、取付け部TBを流通位置P1としたときに開き、取付け部TBを待機位置P2としたときに閉じるように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点滴および人工透析などにおいて、ロック式の注射器などを注射針を装着しない状態で取り付けて、血液の抽出、薬液の注入、または各種測定などを行うために用いられる混注管および弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、人工透析での血液の抽出などのために、体外に形成した血液管路の途中に分岐路を設けるための混注管が用いられている。
【0003】
従来において、分岐部分にゴムのシール体が設けられた混注管が用いられてきた。これは、注射器に装着した注射針をシール体に突き刺して貫通させ、注射針を介して主流路から血液を分岐させて抽出するものである。しかし、注射針を使用した場合には、注射針自体のコストや使用済みの注射針の廃棄のためのコストなど、コスト的な負担が大きいという問題などがある。
【0004】
この問題に対処するために、注射針を装着しない状態で注射器を用いて採血することのできる混注管が種々開発された(特許文献1および2)。これらは、ゴムのシール体の中央部に表裏に貫通するスリット状部を設けておき、注射針を装着していない注射器の口部をそのスリット状部に差し込んで使用する。
【0005】
しかし、そのような従来の混注管を用いた場合に、注射器はスリット状部で挟まれているだけであるから、注射器がゴムのシール体から抜けて脱落し易いという問題があった。
【0006】
これに対処するために、ロック式の注射器を使用して脱落しないように改良された混注管が提案された(特許文献3および4)。これらは、混注管のキャップの上面に筒状のスリーブを設けておき、このスリーブの先端に設けた螺合片に注射器のロック用カラーの雌ネジを螺合させる構造となっている。
【特許文献1】特開2000−354636
【特許文献2】特開2001−61971
【特許文献3】特開2003−325678
【特許文献4】特開2004−209278
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上に述べたロック式の注射器に適用できる従来の混注管では、注射器が混注管に確実に装着されるので、注射器が混注管から脱落することはないが、混注管を1回の採血にしか使用できないという問題がある。
【0008】
すなわち、採血を、例えば透析の進行に応じて適当な時間間隔で複数回行うことがある。一方、注射器を混注管に取り付けて採血を行った後で、注射器を混注管から取り外すと、ゴムのシール体の表面または他の部材の表面に血液が付着した状態となる。このように付着した血液は衛生上の点からも好ましくなく、直ぐに拭き取っておく必要があるが、従来のロック式の注射器に適用できる従来の混注管では、血液の付着する部分がスリーブにより囲まれてその奥深い場所にあるので、血液を拭き取って清掃することが非常に困難である。
【0009】
そのため、従来において、採血を行う回数と同じ個数の混注管を予め管路中に設けておき、1回の採血に1個ずつ使用するということが行われている。そのため、混注管の使用個数が増大し、混注管自体のコストや使用済みの混注管の廃棄のためのコストなど、やはりコスト的な負担が大きいという問題がある。
【0010】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、衛生上の問題を生じさせることなく、注射器などを用いて複数回の採血、点滴、薬液の注入、または測定などを行うことのできる混注管および弁装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る混注管は、主流路を形成する管本体の管壁に前記主流路から分岐する分岐流路を形成する分岐管部が設けられた混注管であって、前記分岐管部は、前記分岐流路を開閉する弁本体を有した弁機構と、ロック式の注射器などを取り付けて前記分岐流路に接続するための取付け部と、を有し、前記取付け部は、流通位置と待機位置との間で前記弁本体に対して移動可能であり、前記弁機構は、前記取付け部に前記注射器などを取り付けた状態において、前記取付け部を前記流通位置としたときに開き、前記取付け部を前記待機位置としたときに閉じるように構成される。
【0012】
好ましくは、前記弁本体は、ゴム材料からなり、その中央部に表裏に貫通し且つ弾性力によって密着して閉じられるスリット状部が設けられ、前記弁機構は、前記取付け部の移動とともに移動して前記弁本体の前記スリット状部に挿通可能であり且つ前記分岐流路の一部である内部流路が形成される移動弁体を有し、前記移動弁体は、前記流通位置において前記スリット状部を貫通して前記内部流路が前記主流路に露出し、前記待機位置において前記内部流路が前記スリット状部内において閉じられる。
【0013】
また、前記移動弁体は、筒状の外側弁部材と、前記外側弁部材の内側に同心状に配置されて前記外側弁部材に対して軸方向に相対移動可能な内側弁部材と、を有する。
【0014】
また、前記外側弁部材は、円錐面状に形成された内周面を有し、前記内側弁部材は、前記外側弁部材の内周面と密着可能な外周面を有し、前記内側弁部材と前記外側弁部材とが軸方向に相対移動することによって、それらの間に前記内部流路が形成される。
【0015】
また、前記内側弁部材は、前記外側弁部材に対して軸方向の外方に突出して設けられており、注射器などを前記取付け部に取り付けたときに、その注射器などの口部の先端が前記内側弁部材の突出端に当接して押し、前記内側弁部材と前記外側弁部材とが軸方向に相対移動して前記内部流路が形成される。
【0016】
また、前記外側弁部材の外方の端部には、注射器などの口部の先端が嵌まり込む凹部が設けられており、前記凹部は、外方に拡がる円錐面状に形成された内周面を有し、注射器などの口部の先端の外周縁が前記凹部の内周面に当接することによってシールが行われる。
【0017】
また、前記内側弁部材の外方の端部には、その中央に注射器などの口部の内径よりも小さい外径を有する断面円形の突起が設けられ、且つ当該内側弁部材の外周面に接続する凹溝が形成される。
【0018】
また、前記弁本体は、前記管本体に設けられた略円筒状の分岐管基部の中に配置され、前記分岐管基部の外周面に、当該外周面に外嵌して軸方向に摺動可能なキャップ部材が設けられており、前記キャップ部材は、前記外側弁部材の外周面を囲んで支持する内周面を有したスリーブ部を有し、前記スリーブ部の外周面には、前記注射器などのロック用カラーの雌ネジに係合する係合部片が設けられる。
【0019】
また、前記外側弁部材の外方の端部は、前記スリーブ部に対して軸方向の外方に突出して設けられており、注射器などの前記雌ネジを前記係合部片に係合させたときに、その注射器などの口部の先端が前記外側弁部材の前記端部および前記内側弁部材の突出端に当接して押し、それらを前記スリーブ部の内方に押し込む。
【0020】
また、前記スリーブ部の内周面は、円錐面状に形成され、前記外側弁部材の外周面は、前記スリーブ部の内周面と密着可能な円錐面状に形成されており、前記内側弁部材および前記外側弁部材は、前記弁本体の弾性力によって軸方向の外方に向かうように付勢されており、これによって、注射器などを前記取付け部に取り付けない状態において、前記外側弁部材の外周面が前記スリーブ部の内周面と密着してシールされ、前記内側弁部材の外周面が前記外側弁部材の内周面と密着してシールされる。
【0021】
また、前記キャップ部材の内周面の前記分岐管基部の外周面に外嵌する位置には、その内周面から半径方向の内方へ突出する係止突起が設けられ、前記分岐管基部の外周面には、前記係止突起と当接することによって前記キャップ部材を前記流通位置および前記待機位置において保持するための保持突起が設けられる。
【0022】
また、前記分岐管基部の外周面には、前記係止突起と当接して前記キャップ部材の周方向の回転角度を規制するためのストッパが設けられる。
【0023】
本発明に係る弁装置は、流体容器または管路の開口部に装着されて前記流体容器または管路に接続する分岐流路を外部に引き出すための弁装置であって、前記分岐流路を開閉する弁本体を有した弁機構と、ロック式の注射器などを取り付けて前記分岐流路に接続するための取付け部と、を有し、前記取付け部は、流通位置と待機位置との間で前記弁本体に対して移動可能であり、前記弁機構は、前記取付け部に前記注射器などを取り付けた状態において、前記取付け部を前記流通位置としたときに開き、前記取付け部を前記待機位置としたときに閉じるように構成される。
【0024】
好ましくは、前記弁本体は、ゴム材料からなり、その中央部に表裏に貫通し且つ弾性力によって密着して閉じられるスリット状部が設けられ、前記弁機構は、前記取付け部の移動とともに移動して前記弁本体の前記スリット状部に挿通可能であり且つ前記分岐流路の一部である内部流路が形成される移動弁体を有し、前記移動弁体は、前記流通位置において前記スリット状部を貫通して前記内部流路が前記主流路に露出し、前記待機位置において前記内部流路が前記スリット状部内において閉じられる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、衛生上の問題を生じさせることなく、注射器などを用いて複数回の採血、点滴、薬液の注入、または測定などを行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は本発明に係る実施形態の混注管1の断面正面図、図2は混注管1の待機位置P2の状態を示す断面正面図、図3は混注管1の流通位置P1の状態を示す断面正面図、図4は図2の一部を拡大して示す断面図、図5は移動弁体40を上から見て示す平面図、図6はキャップ部材50の上方から見て示す一部断面平面図、図7はキャップ部材50の断面正面図、図8はキャップ部材50の待機位置と流通位置との状態を示す拡大断面図、図9はキャップ部材50の待機位置と流通位置との切り換え状態を示す側面図、図10は弁本体31の形状を示す図、図11は弁本体31の他の例を示す断面図、図12は弁本体31の他の例を示す断面図である。
【0027】
図1〜図4において、混注管1は、主流路SRを形成する管本体11、および管本体11の胴部21の管壁に設けられて主流路SRから分岐する分岐流路BRを形成する分岐管部12からなる。
【0028】
管本体11は、ポリプロピレンなどの合成樹脂材料により略円筒状に形成されている。管本体11は、中央の胴部21と、胴部21の両端部に設けられてチューブなどの配管部材HBを接続するためのポート22,23とを有する。
【0029】
分岐管部12は、分岐流路BRを開閉する弁本体31を有した弁機構BK、ロック式の注射器TKを取り付けて分岐流路BRに接続するための取付け部TBを有する。
【0030】
取付け部TBは、流通位置P1と待機位置P2との間で弁本体31に対して移動可能である。
【0031】
弁機構BKは、取付け部TBに注射器TKを取り付けた状態において、取付け部TBを流通位置P1としたときに開き、取付け部TBを待機位置P2としたときに閉じるように構成されている。
【0032】
弁本体31は、シリコンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴムなどのゴム材料からなり、その中央部に、表裏に貫通し且つ弾性力によって密着して閉じられるスリット状部32が設けられている。
【0033】
弁機構BKは、取付け部TBの移動とともに移動して弁本体31のスリット状部32に挿通可能であり、且つ、分岐流路BRの一部である内部流路BNが形成される移動弁体40を有する。移動弁体40は、流通位置P1においてスリット状部32を貫通して内部流路BNが主流路SRに露出し、待機位置P2において内部流路BNがスリット状部32内において閉じられる、
移動弁体40は、筒状の外側弁部材41、および、外側弁部材41の内側に同心状に配置されて外側弁部材41に対して軸方向に相対移動可能な内側弁部材42からなる。
【0034】
外側弁部材41は、円錐面状に形成された内周面411を有する。内側弁部材42は、外側弁部材41の内周面411と密着可能な外周面421を有する。内側弁部材42と外側弁部材41とが軸方向に相対移動することによって、それらの間に隙間ができ、これによって上に述べた内部流路BNが実際に形成される。
【0035】
内側弁部材42は、外側弁部材41に対して軸方向の外方に突出して設けられており、図2〜図4に示すように注射器TKを取付け部TBに取り付けたときに、その注射器TKの口部TKKの先端が内側弁部材42の突出端に当接して図の下方へ押し、これによって内側弁部材42と外側弁部材41とが軸方向に相対移動して内部流路BNが形成されるようになっている。
【0036】
外側弁部材41の外方の端部には、注射器TKの口部TKKの先端が嵌まり込む凹部412が設けられている。凹部412は、外方に拡がる円錐面状に形成された内周面413を有し、注射器TKの口部TKKの先端の外周縁が凹部412の内周面413に当接することによってこの部分のシールが行われる。
【0037】
内側弁部材42の外方の端部には、その中央に注射器TKの口部TKKの内径よりも小さい外径を有する断面円形で半球状の突起422が設けられ、且つ、突起422をも含めた位置に当該内側弁部材42の外周面421に連通する凹溝423が形成されている。
【0038】
弁本体31は、管本体11に一体に設けられた略円筒状の分岐管基部33の中に配置されている。分岐管基部33には、その外周面に外嵌して軸方向および回転方向に摺動可能なキャップ部材50が設けられている。
【0039】
キャップ部材50は、キャップ本体51およびスリーブ部52を有しており、2段の有底円筒状である。キャップ本体51は、分岐管基部33の外周面に外嵌して軸方向に摺動可能である。スリーブ部52は、その内周面521が外側弁部材41の外周面414を囲んでおり、外側弁部材41の径方向の位置決めを行って軸心位置が安定するように支持する。スリーブ部52の外周面には、注射器TKのロック用カラーTKCの雌ネジTKMに螺合して係合する係合部片522が設けられている。係合部片522は、図6によく示されるように、スリーブ部52の外周面の互いに180度の角度位置に2つ設けられている。
【0040】
なお、この係合部片522が設けられたスリーブ部52またはキャップ部材50の全体が、本発明における取付け部TBに相当する。
【0041】
外側弁部材41の外方の端部は、スリーブ部52に対して軸方向の外方に突出して設けられており、注射器TKの雌ネジTKMを係合部片522に係合させたときに、その注射器TKの口部TKKの先端が外側弁部材41の端部および内側弁部材42の突出端に当接して押し、図2〜図4に示すようにそれらをスリーブ部52の内方に押し込む。
【0042】
スリーブ部52の内周面521は、円錐面状に形成され、外側弁部材41の外周面414は、スリーブ部52の内周面521と密着可能な円錐面状に形成されている。
【0043】
内側弁部材42および外側弁部材41は、弁本体31の弾性力によって軸方向の外方に向かうように付勢されており、これによって、注射器TKを取り付けない状態において、外側弁部材41の外周面414がスリーブ部52の内周面521と密着し、内側弁部材42の外周面421が外側弁部材41の内周面411と密着してシールされる。
【0044】
キャップ部材50の内周面の分岐管基部33の外周面に外嵌する位置、つまりキャップ本体51の内周面には、その内周面から半径方向の内方へ突出する係止突起511が設けられている。分岐管基部33の外周面には、係止突起511と軸方向に当接することによってキャップ部材50を流通位置P1および待機位置P2において保持するための保持突起331,332が設けられている。また、分岐管基部33の外周面には、係止突起511と当接してキャップ部材50の周方向の回転角度を規制するためのストッパ333が設けられている。
【0045】
以下、さらに詳しく説明する。
【0046】
図1において、弁本体31は、分岐管基部33の内側に圧縮された状態で収納されている。弁本体31の上部には、弁本体31が抜け出るのを防止するための保持部材34が設けられている。保持部材34は、円環状であり、分岐管基部33の上端部の内周面に設けられた突起部334を弾性的変形により乗り越えて嵌め込まれている。
【0047】
なお、保持部材34を省略することも可能である。保持部材34を省略した場合には、である。突起部334を設けることなく、分岐管基部33の内周面をストレートな円周面に形成してもよい。
【0048】
図10によく示されるように、弁本体31は、円柱状の胴部311の上部に円板状の突出部312が設けられ、下部に円錐台状の突出部313が設けられている。スリット状部32は、弁本体31の上部の表面から下部の表面(裏面)までにわたって貫通して設けられている。スリット状部32の幅寸法は、突出部312の外径よりも少し小さい程度である。
【0049】
図1に戻って、弁本体31は圧縮された状態で収納されているので、弁本体31の内部に圧縮応力が発生し、これによる弾性力でスリット状部32が密着して閉じられている。スリット状部32に移動弁体40が挿入されたときには、移動弁体40によってスリット状部32が押し広げられるが、スリット状部32の表面は移動弁体40の外周面に弾性的に密着し、それらの間はシールされる。
【0050】
したがって、図2に示すように移動弁体40が待機位置P2にあるときに、内側弁部材42はスリット状部32を貫通することがあるが、外側弁部材41はスリット状部32の中にあり、そのため内部流路BNを形成する隙間の下方の開口部および内側弁部材42の外周面421の開口部よりも下方の部分はスリット状部32の表面によって塞がれ、内部流路BNはスリット状部32内において閉じられた状態である。
【0051】
また、図3に示すように移動弁体40が流通位置P1にあるときに、内側弁部材42および外側弁部材41のいずれもスリット状部32を貫通し、そのため内部流路BNは主流路SRに露出する。この状態で、内部流路BNを含んで形成される分岐流路BRは主流路SRと連通し、これによって、主流路SRに流れる流体は分岐流路BRにも流入する。分岐流路BRに流入した流体は、凹溝423を通って口部TKKの内部へと流入することが可能である。
【0052】
なお、外側弁部材41などがスリット状部32を貫通した状態において、必ずしも外側弁部材41が弁本体31よりも突出する必要はない。弁本体31はゴム材料からなり、大きな可撓性を有するので、弁本体31や内側弁部材42の形状や保持状態によっては貫通して内部流路BNが露出した際にも弁本体31が外側弁部材41の前方に存在することもあり得る。
【0053】
図4および図5によく示されるように、内側弁部材42の上端部に設けられた半球状の突起422は、口部TKKの開口部の中に突入することが可能である。したがって、図1に示す状態から注射器TKの口部TKKを取付け部TBに取り付けようとする際に、口部TKKの開口部の中に突起422が入るようにあてがい、その状態で下方に押し下げることにより、口部TKKと突起422とが係合してこれらが外れることなく移動弁体40を容易にスリーブ部52の中へ押し込むことができる。押し込んだ状態で、注射器TKを回転させてその雌ネジTKMを係合部片522に螺合させることにより、図2〜図4に示すように注射器TKが取付け部TBに取り付けられる。
【0054】
その状態では、注射器TKの口部TKKの先端部が外側弁部材41の凹部412の内周面413に当接してシールが行われるので、分岐流路BRと口部TKKとが外部に漏れることなく結合される。また、凹溝423が突起422の部分にも形成されているので、突起422によって口部TKKの開口部が塞がれてしまうことがない。
【0055】
図1に示すように、注射器TKを取り付けない状態において、移動弁体40の下端部は弁本体31の中に若干入り込んでおり、これによって移動弁体40は軸方向の上方へ付勢された状態となる。この付勢力によって、内側弁部材42は外側弁部材41よりも多く上方へ押し上げられる力を受け、内側弁部材42の外周面421が外側弁部材41の内周面411に押しつけられ、それらの間が密着してシールされる。
【0056】
これと同時に、外側弁部材41が上方へ押し上げられる力を受けるので、外側弁部材41の外周面414がスリーブ部52の内周面521に押しつけられ、それらの間が密着する。
【0057】
したがって、注射器TKを取り付けない状態では、スリーブ部52に対して外側弁部材41および内側弁部材42のいずれもがほぼ正確に芯出しされた状態となる。これとは逆に、注射器TKを取り付ける際には、スリーブ部52、外側弁部材41、および内側弁部材42のそれぞれの間に隙間ができるので、これによって注射器TKの係合部片522への螺合などの際の偏心や位置ずれなどによる影響を吸収することができる。
【0058】
なお、図1においては、外側弁部材41の下端部が弁本体31の上面に接したように見えるが、実際は外側弁部材41の下端部が弁本体31の内部に入り込んむことによって内部流路BNの全てがシールされている。しかし、必要に応じて、外側弁部材41の下端部が弁本体31の上面に接する状態または上面から離れた状態としてもよい。
【0059】
また、外側弁部材41の外周面414とスリーブ部52の内周面521とを円錐面としたが、これらを円筒面とし、且つそれぞれに突起部を設けて軸方向に互いに係合するようにして外側弁部材41の軸方向外方への抜け止めと位置決めとを行うようにしてもよい。その場合に、外側弁部材41の外周面とスリーブ部52の内周面との間に適当な間隙を設けておいてもよい。また、必要に応じてシール部材を設けてもよい。
【0060】
図7に示すように、キャップ部材50の係止突起511は、キャップ本体51の内周面に設けられた環状体が2ヵ所において切り欠かれた状態に形成されている。つまり、係止突起511は2つ設けられている。分岐管基部33の外周面に設けられた保持突起332およびストッパ333も、周方向の互いに180度の角度位置に2つずつ設けられており2つの係止突起511の端部が2つの保持突起332およびストッパ333と係合する。また、キャップ本体51の下端縁には2つの切り欠き部512が設けられている。
【0061】
キャップ部材50は、分岐管基部33の外周面を摺動可能であるが、キャップ本体51の内周面に設けられた係止突起511が分岐管基部33の外周面に設けられた保持突起331と係合することによって軸方向の抜け止めが図られている。なお、キャップ部材50を分岐管基部33に装着する際には、それらの弾性的変形によって互いに乗り越えて嵌め込まれる。
【0062】
このキャップ部材50を回転させ且つ軸方向に移動させることにより、その待機位置P2と流通位置P1とを切り換えることができる。
【0063】
すなわち、図8(A)および図9(A)に示すように、係止突起511が保持突起331と332との間にあるときは、図2に示す状態の待機位置P2であり、その状態でロックされている。キャップ部材50を左回転させ、図9(B)に示すように係止突起511を保持突起332から離し、その状態で押し込んで図9(C)に示すように係止突起511を保持突起332よりも下方に位置させ、この状態で右回転させることによって、図8(B)および図9(D)に示すように、係止突起511が保持突起332の下面に係合し、図3に示す状態の流通位置P1となり、この状態でロックされる。流通位置P1から待機位置P2に切り換えるには上と逆の操作を行えばよい。
【0064】
なお、外側弁部材41、内側弁部材42、キャップ部材50なども、ポリプロピレンなどの合成樹脂材料により形成される。
【0065】
次に、混注管1の使用方法について説明する。
【0066】
まず、混注管1の管本体11を例えば輸血流路の途中に接続しておく。キャップ部材50は待機位置P2としておく。この状態では、分岐流路BRは弁本体31によって閉塞されており、血液などの外部への流出はない。採血や薬液の注入を行うために、注射器TKを取付け部TBに取り付ける。そうすると、図2に示す状態となるが、この状態においても、内部流路BNは主流路SRに接続されておらず、血液などの外部への流出はない。
【0067】
そこで、キャップ部材50を流通位置P1に切り換えることによって、図3に示す状態となり、内部流路BNが主流路SRに接続されて分岐流路BRに血液が流入する。この状態で、注射器TKによる採血や薬液の注入を行う。1回目の採血などが終わると、注射器TKを取付け部TBに取り付けた状態のままで、キャップ部材50を待機位置P2に切り換える。これによって、内部流路BNは主流路SRから再び遮断される。2回目以降の採血などを行うときには、キャップ部材50を再度流通位置P1に切り換えて必要な操作を行う。全回の採血などが終われば、待機位置P2に切り換えた状態で注射器TKを取付け部TBから取り外す。
【0068】
このように、待機位置P2と流通位置P1とを切り換えることによって、注射器TKを取り付けた状態で何回でも採血などを行うことができる。その間において注射器TKを取り外さないので、操作が極めて簡単であるとともに、従来のように部材の表面に付着した血液による衛生上の問題は生じない。また、1個の混注管1によって何回でも採血などを行うことができるので、混注管1の使用個数が大幅に低減し、そのコストを初めとして使用済みの混注管の廃棄のためのコストなどを大幅に低減することができる。
【0069】
また、注射器TKを取付け部TBから一旦取り外した場合でも、移動弁体40の端部がキャップ部材50のスリーブ部52から突出するので、血液が付着した場合でもその拭き取りが容易であり、十分な拭き取りやアルコールなどによる清掃などを行うことができる。したがって、その場合でも再度の使用が可能であり、コスト的に極めて有利である。
【0070】
上に述べた実施形態においては、分岐管基部33を管本体11に一体に設けたが、これらを別体で形成して適当な嵌め込み構造としてもよい。外側弁部材41の凹部412の内周面413を円錐面状に形成してシールが行わせたが、凹部412の周壁部を柔らかい材料で形成することによってシール性を高めることができる。また、内周面413によるシールに代えて、またはこれとともに、Oリングなどの他の適当なシール部材を設けてもよい。
【0071】
上に述べた実施形態においては、管本体11と分岐管部12とからなる混注管1を例にとって説明したが、管本体11を設けることなく、適当な流体容器または管路の開口部に分岐管部12を装着するようにし、流体容器または管路に接続する分岐流路を外部に引き出すための弁装置として構成することも可能である。その場合には、例えば、分岐管基部33の部分の外周面にテーパネジまたは平行ネジなどの雄ネジを形成し、その雄ネジを流体容器または管路の開口部に設けた雌ネジに螺合させることによって結合することが可能である。
【0072】
上に述べた実施形態においては、取付け部TBにロック式の注射器TKをニードルレスで取り付けることとした。このような注射器TKについては、ISO594−2:1998(E)に規格が定められている。したがって、取付け部TBの構造として、上に述べた以外に、このような注射器TKを取り付けることが可能な種々の構造を採用することが可能である。また、このような規格の注射器TK以外に、他の種々の注射器TK、または注射器TK以外の種々の器具または配管部材を取付け部TBに取り付け、採血、点滴、薬液の注入、または測定などを行うことが可能である。
【0073】
上に述べた実施形態の弁本体31の形状、寸法、材料、硬度、スリット状部32の形状、寸法などは、上に述べた以外の種々のものを採用することが可能である。
【0074】
例えば、図11に示す弁本体31Bのように、胴部311Bの下部の円錐台状の突出部313Bの高さを低くした形状でもよい。また、図12に示す弁本体31Cのように、胴部311Cの下部に凹所314Cを設けた形状でもよい。また、各部材の縁部などにおいて適当な面取りやアールを形成してもよい。
【0075】
混注管1を構成する各部材は、射出成形、その他の型成形、または切削加工などによって製作することが可能である。
【0076】
その他、管本体11、分岐管部12、および混注管1の全体または各部の構造、形状、寸法、個数、材質、組み込み構成などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る実施形態の混注管の断面正面図である。
【図2】混注管の待機位置の状態を示す断面正面図である。
【図3】混注管の流通位置の状態を示す断面正面図である。
【図4】図2の一部を拡大して示す断面図である。
【図5】移動弁体を上から見て示す平面図である。
【図6】キャップ部材の上方から見て示す一部断面平面図である。
【図7】キャップ部材の断面正面図である。
【図8】キャップ部材の待機位置と流通位置との状態を示す拡大断面図である。
【図9】キャップ部材の待機位置と流通位置との切り換え状態を示す側面図である。
【図10】弁本体の形状を示す図である。
【図11】弁本体の他の例を示す断面図である。
【図12】弁本体の他の例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 混注管
11 管本体
12 分岐管部
31 弁本体
32 スリット状部
33 分岐管基部
331、332 保持突起
333 ストッパ
40 移動弁体
41 外側弁部材
412 凹部
413 内周面
42 内側弁部材
422 突起
423 凹溝
50 キャップ部材
51 キャップ本体
52 スリーブ部
522 係合部片
BK 弁機構
TB 取付け部
SR 主流路
BR 分岐流路
BN 内部流路
TK 注射器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主流路を形成する管本体の管壁に前記主流路から分岐する分岐流路を形成する分岐管部が設けられた混注管であって、
前記分岐管部は、
前記分岐流路を開閉する弁本体を有した弁機構と、
ロック式の注射器などを取り付けて前記分岐流路に接続するための取付け部と、を有し、
前記取付け部は、流通位置と待機位置との間で前記弁本体に対して移動可能であり、
前記弁機構は、
前記取付け部に前記注射器などを取り付けた状態において、前記取付け部を前記流通位置としたときに開き、前記取付け部を前記待機位置としたときに閉じるように構成されてなる、
ことを特徴とする混注管。
【請求項2】
前記弁本体は、ゴム材料からなり、その中央部に表裏に貫通し且つ弾性力によって密着して閉じられるスリット状部が設けられ、
前記弁機構は、前記取付け部の移動とともに移動して前記弁本体の前記スリット状部に挿通可能であり且つ前記分岐流路の一部である内部流路が形成される移動弁体を有し、
前記移動弁体は、前記流通位置において前記スリット状部を貫通して前記内部流路が前記主流路に露出し、前記待機位置において前記内部流路が前記スリット状部内において閉じられる、
請求項1記載の混注管。
【請求項3】
前記移動弁体は、
筒状の外側弁部材と、
前記外側弁部材の内側に同心状に配置されて前記外側弁部材に対して軸方向に相対移動可能な内側弁部材と、
を有する請求項2記載の混注管。
【請求項4】
前記外側弁部材は、円錐面状に形成された内周面を有し、
前記内側弁部材は、前記外側弁部材の内周面と密着可能な外周面を有し、
前記内側弁部材と前記外側弁部材とが軸方向に相対移動することによって、それらの間に前記内部流路が形成される、
請求項3記載の混注管。
【請求項5】
前記内側弁部材は、前記外側弁部材に対して軸方向の外方に突出して設けられており、
注射器などを前記取付け部に取り付けたときに、その注射器などの口部の先端が前記内側弁部材の突出端に当接して押し、前記内側弁部材と前記外側弁部材とが軸方向に相対移動して前記内部流路が形成される、
請求項4記載の混注管。
【請求項6】
前記外側弁部材の外方の端部には、注射器などの口部の先端が嵌まり込む凹部が設けられており、
前記凹部は、外方に拡がる円錐面状に形成された内周面を有し、
注射器などの口部の先端の外周縁が前記凹部の内周面に当接することによってシールが行われる、
請求項3ないし5のいずれかに記載の混注管。
【請求項7】
前記内側弁部材の外方の端部には、その中央に注射器などの口部の内径よりも小さい外径を有する断面円形の突起が設けられ、且つ当該内側弁部材の外周面に接続する凹溝が形成されている、
請求項3ないし6のいずれかに記載の混注管。
【請求項8】
前記弁本体は、前記管本体に設けられた略円筒状の分岐管基部の中に配置され、
前記分岐管基部の外周面に、当該外周面に外嵌して軸方向に摺動可能なキャップ部材が設けられており、
前記キャップ部材は、前記外側弁部材の外周面を囲んで支持する内周面を有したスリーブ部を有し、
前記スリーブ部の外周面には、前記注射器などのロック用カラーの雌ネジに係合する係合部片が設けられている、
請求項3ないし7のいずれかに記載の混注管。
【請求項9】
前記外側弁部材の外方の端部は、前記スリーブ部に対して軸方向の外方に突出して設けられており、
注射器などの前記雌ネジを前記係合部片に係合させたときに、その注射器などの口部の先端が前記外側弁部材の前記端部および前記内側弁部材の突出端に当接して押し、それらを前記スリーブ部の内方に押し込む、
請求項8記載の混注管。
【請求項10】
前記スリーブ部の内周面は、円錐面状に形成され、
前記外側弁部材の外周面は、前記スリーブ部の内周面と密着可能な円錐面状に形成されており、
前記内側弁部材および前記外側弁部材は、前記弁本体の弾性力によって軸方向の外方に向かうように付勢されており、これによって、注射器などを前記取付け部に取り付けない状態において、前記外側弁部材の外周面が前記スリーブ部の内周面と密着してシールされ、前記内側弁部材の外周面が前記外側弁部材の内周面と密着してシールされる、
請求項9記載の混注管。
【請求項11】
前記キャップ部材の内周面の前記分岐管基部の外周面に外嵌する位置には、その内周面から半径方向の内方へ突出する係止突起が設けられ、
前記分岐管基部の外周面には、前記係止突起と当接することによって前記キャップ部材を前記流通位置および前記待機位置において保持するための保持突起が設けられている、
請求項8ないし10のいずれかに記載の混注管。
【請求項12】
前記分岐管基部の外周面には、前記係止突起と当接して前記キャップ部材の周方向の回転角度を規制するためのストッパが設けられている、
請求項11記載の混注管。
【請求項13】
主流路を形成する管本体の管壁に前記主流路から分岐する分岐流路を形成する分岐管部が設けられた混注管であって、
前記分岐管部は、
前記分岐流路を開閉する弁機構と、
ロック式の注射器などを取り付けて前記分岐流路に接続するためのものであって流通位置と待機位置との間で移動可能な取付け部と、を有し、
前記弁機構は、 ゴム材料からなってその中央部に表裏に貫通し且つ弾性力によって密着して閉じられるスリット状部が設けられた弁本体と、
筒状の外側弁部材と前記外側弁部材の内側に同心状に配置されて前記外側弁部材に対して軸方向に相対移動可能な内側弁部材とを有し、前記取付け部の移動とともに移動して前記弁本体の前記スリット状部に挿通可能であり且つ前記分岐流路の一部である内部流路が形成される移動弁体と、
前記移動弁体は、前記流通位置において前記スリット状部を貫通して前記内部流路が前記主流路に露出して前記分岐流路を開き、前記待機位置において前記内部流路が前記スリット状部内において閉じられて前記分岐流路を閉じる、
ことを特徴とする混注管。
【請求項14】
流体容器または管路の開口部に装着されて前記流体容器または管路に接続する分岐流路を外部に引き出すための弁装置であって、
前記分岐流路を開閉する弁本体を有した弁機構と、
ロック式の注射器などを取り付けて前記分岐流路に接続するための取付け部と、を有し、
前記取付け部は、流通位置と待機位置との間で前記弁本体に対して移動可能であり、
前記弁機構は、
前記取付け部に前記注射器などを取り付けた状態において、前記取付け部を前記流通位置としたときに開き、前記取付け部を前記待機位置としたときに閉じるように構成されてなる、
ことを特徴とする弁装置。
【請求項15】
前記弁本体は、ゴム材料からなり、その中央部に表裏に貫通し且つ弾性力によって密着して閉じられるスリット状部が設けられ、
前記弁機構は、前記取付け部の移動とともに移動して前記弁本体の前記スリット状部に挿通可能であり且つ前記分岐流路の一部である内部流路が形成される移動弁体を有し、
前記移動弁体は、前記流通位置において前記スリット状部を貫通して前記内部流路が前記主流路に露出し、前記待機位置において前記内部流路が前記スリット状部内において閉じられる、
請求項14記載の弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−117210(P2007−117210A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310424(P2005−310424)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(592041074)株式会社旭金属製作所 (6)
【出願人】(504322921)
【Fターム(参考)】