説明

混濁果実酒の製造方法

(a)果実を搾汁する搾汁工程、(b)搾汁された果汁を加熱する加熱工程、および(c)加熱された果汁を発酵させる発酵工程を包含することを特徴とする混濁果実酒の製造方法、ならびに得られた混濁果実酒にさらに果実酒および/または透明果汁を混和させることを特徴とする混濁果実酒の製造方法。本製造方法により、アルコール度や濁度が高い、ドライで辛口の混濁果実酒が得られると共に、濁度、アルコール度、糖度などを種々変えたバラエティーに富んだ混濁果実酒が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は混濁果実酒の製造方法およびその製造方法によって製造される混濁果実酒に関する。
【背景技術】
【0002】
混濁果実酒は、近年その需要が増大しつつある。
混濁果実酒の製造方法としては、従来、果実酒に透明果汁を加え、これに着濁剤を添加して製造する方法、あるいは果実酒に混濁果汁を混和し、85〜95℃で加熱火入れして製造する方法(特許文献1)が知られている。
【0003】
しかしながら、前者の方法では原料由来でない着濁剤の添加により自然感を損なうという難点がある。また、後者の方法では、搾汁→発酵→加熱の工程を経て得られる果実酒に搾汁→加熱の工程を経て得られる混濁果汁が混和されているので、混濁果汁由来の糖度が多くなり、果汁特有の香味の混濁果実酒しか得られないという難点があり、また混濁果実酒のアルコール度を高くしようとすると、混和する混濁果汁の割合が小さくなり、濁度が低くなってしまうと共に、果汁本来の香味が低下するという難点がある。
【0004】
【特許文献1】日本特許第3118550号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来の混濁果実酒よりもアルコール度及び濁度が高い、これまでにない香味(ドライで辛口)の混濁果実酒を製造する方法を提供するものである。本発明の他の目的は、濁度、アルコール度、糖度などの調整が可能であり、バラエティーに富んだ混濁果実酒を製造する方法を提供するものである。さらに、本発明の他の目的は、簡便な方法で混濁果実酒を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、搾汁→加熱→発酵という簡便な方法により、果実から直接混濁果実酒が得られるという全く新規な知見を得、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)(a)果実を搾汁する搾汁工程;
(b)搾汁された果汁を加熱する加熱工程;および
(c)加熱された果汁を発酵させる発酵工程;
を包含することを特徴とする混濁果実酒の製造方法、
(2)加熱工程(b)を80〜95℃で行う上記(1)に記載の製造方法、
(3)上記(1)または(2)に記載の製造方法で得られた混濁果実酒に果実酒および/または透明果汁を混和させることを特徴とする混濁果実酒の製造方法、
(4)上記(1)または(2)に記載の製造方法で得られた混濁果実酒に果実酒を混和させることを特徴とする混濁果実酒の製造方法、
(5)上記(1)または(2)に記載の製造方法で得られた混濁果実酒100容量部に対して、果実酒を10〜1200容量部用いることを特徴とする上記(4)に記載の製造方法、
(6)上記(1)または(2)に記載の製造方法で得られた混濁果実酒に透明果汁を混和させることを特徴とする混濁果実酒の製造方法、
(7)上記(1)または(2)に記載の製造方法で得られた混濁果実酒100容量部に対して、透明果汁を10〜900容量部用いることを特徴とする上記(6)に記載の製造方法、
(8)上記(1)または(2)に記載の製造方法で得られた混濁果実酒に果実酒および透明果汁を混和させることを特徴とする混濁果実酒の製造方法、
(9)上記(1)または(2)に記載の製造方法で得られた混濁果実酒100容量部に対して、果実酒10〜1200容量部および透明果汁10〜900容量部用いることを特徴とする上記(8)に記載の製造方法、および
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法で得られた混濁果実酒、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アルコール度および濁度が高く、しかもこれまでにない香味(ドライで辛口)を有する混合果実酒を製造できるという利点が得られる。また、本発明の製造方法で得られる混濁果実酒は、常法で得られる果実酒および/または透明果汁と任意の割合で混和することができるので、濁度、アルコール度、糖度などを自由に変えたバラエティーに富んだ混濁果実酒を製造することができるという利点が得られる。さらに、本発明によれば、簡便な操作で混濁果実酒を製造できるという利点も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の一形態に係る混濁果実酒の製造方法を示す図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る混濁果実酒の製造過程における糖分の経時的変化を示す図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係る混濁果実酒の製造過程における比重の経時的変化を示す図である。
【図4】本発明の実施の一形態に係る混濁果実酒の製造過程における濁度の経時的変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いられる果実としては、特に限定されず、例えばブドウ、モモ、リンゴ、グレープフルーツ、オレンジなどがあげられるが、これらのうち、とくにブドウが好ましい。以下、各工程の好ましい態様を説明する。
本発明の搾汁工程(a)は、通常の果実酒の製造方法におけると同様にして、果実(例えば、ブドウ果)を搾汁することにより実施できる。搾汁された果汁は次の加熱工程(b)に付すに先立ち、必要により、亜硫酸またはその塩(例えば、メタ重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなど)が添加される。亜硫酸の添加量は、果汁中の微生物の繁殖が抑制できる程度でよい。得られた果汁は遠心分離などを行って夾雑固形物を除去したのち、次の加熱工程に付すのがよい。
続く加熱工程(b)は、80〜95℃、好ましくは85〜90℃で実施する。加熱時間は、加熱温度にもよるが、通常30〜90秒、好ましくは30〜60秒である。
【0011】
加熱工程後、果汁を15〜30℃に調整し、必要により、糖分が添加される。糖分としては、砂糖、ブドウ糖(グルコース)などがあげられる。糖分の添加量は、発酵後のアルコール分が10〜14度となるようにするのが好ましい。
【0012】
続く発酵工程(c)は、果汁(もろみ)に酒母を添加して発酵を行う。酒母としては、果実酒の製造に用いられる酵母を使用することができる。発酵温度は、通常15〜30℃、好ましくは20〜25℃である。なお、発酵期間により、濁度、アルコール度、糖度などが異なるので、発酵期間を適宜選択することにより、混濁果実酒の製品設計をすることができる。
発酵後は、必要により、亜硫酸またはその塩(例えば、メタ重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなど)を添加し、ついで遠心分離などにより酵母等を除去することにより混濁果実酒が得られる。
上記製造方法の工程図を示せば、図1の通りである。
【0013】
得られる混濁果実酒はそのまま製品とすることもできるが、アルコール分や糖度、濁度を変えたり、あるいは味や香りにバラエティーを持たせるために、通常の方法で得られる果実酒および/または透明果汁を添加することができる。
混濁果実酒に果実酒を添加する場合は、混濁果実酒100容量部に対して果実酒を10〜1200容量部、好ましくは600〜800容量部の割合で添加するのが好ましい。また、混濁果実酒に透明果汁を添加する場合は、混濁果実酒100容量部に対して果実酒を10〜900容量部、好ましくは80〜150容量部の割合で添加するのが好ましい。さらに、混濁果実酒に果実酒および透明果汁を添加する場合は、混濁果実酒100容量部に対して、果実酒を10〜1200容量部、好ましくは600〜800容量部の割合で、また透明果汁を10〜900容量部、好ましくは80〜150容量部の割合で添加するのが好ましい。
【0014】
上記の如くして得られた混濁果実酒、あるいはこれに果実酒および/または透明果汁を添加したものは、以下通常の果実酒の場合と同様にして、殺菌後、ビン詰めして混濁果実酒の製品とすることができる。
以下、実施例をあげて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例において、濁度は、3000rpmで10分間遠心分離した後、その上清を分光光度計(株式会社島津製作所製、UV−1600)を用い、660nmにおける吸光度(セル光路:10mm)を測定することにより求めた。また、実施例の表中、各項目は第4回改正国税庁所定分析法注解に記載の方法に従って測定した。
【実施例1】
【0015】
甲州種ブドウを搾汁してブドウ果汁を得る。このブドウ果汁にメタ重硫酸カリウムを亜硫酸として50ppmになるように添加した後、遠心分離し、得られる上清を85〜90℃で60秒加熱した。加熱処理後、15〜20℃に冷却した。ついで、上白糖をアルコール含量が11.0±0.5%となるように添加し、酒母(a、b、c)を添加後のもろみに対して3%となる量添加して20〜25℃で11日間発酵させた。発酵後、メタ重亜硫酸カリウムを亜硫酸として30±5ppmになるように添加し、遠心分離することにより、極めて濃厚な濁りを有し、ドライで辛口の混濁果実酒を得た。
原料の果汁と製成酒である混濁果実酒の比重、各種成分(糖分、アルコール、エキス、総酸、揮発酸、遊離型亜硫酸、総亜硫酸)、pH等を分析した結果は、下記表1の通りであった。
【表1】

【0016】
混濁果実酒の製造過程における糖分の経時的変化を示せば、図2の通りである。図2から発酵期間7日で糖分がほとんどなくなっていることが分かる。また、比重の経時的変化を示せば、図3の通りである。さらに、濁度(OD660nm)の経時的変化を示せば、図4の通りであり、発酵期間2〜3日で濁度が最大になっていることが分かる。なお、発酵させた後、製成した混濁果実酒を室温で17日間保存し、濁度を測定したところ、いずれの酒母を用いた場合も、0.4以上で濁度の実質的な低下は認められなかった。
【実施例2】
【0017】
実施例1で得た混濁果実酒(酒母aを使用)100容量部に、常法により得られた果実酒800容量部および透明ブドウ果汁100容量部を混和して、混濁果実酒と果実酒と透明果汁とのブレンド品である混濁果実酒を得た。
【0018】
なお、混和する果実酒は次のように製造した。すなわち、ブドウ果汁にメタ重亜硫酸カリウムを亜硫酸として50ppmになるように添加した後、遠心分離し、得られる上清に酒母を3%添加して20〜25℃12日間発酵させた。発酵後、メタ重亜硫酸カリウムを亜硫酸として30±5ppmになるように添加し、遠心分離することにより、果実酒を得た。この果実酒は遠心分離したのち、混和工程に付した。また、混和する透明果汁は次のように製造した。すなわち、メタ重亜硫酸カリウムを亜硫酸として100ppmとなるように添加したブドウ果汁を遠心分離した。ついで、15〜20℃、50ppmでペクチナーゼ処理を行った後、5〜10℃に冷却し、一夜静置後、遠心分離し、得られる上清にメタ重亜硫酸カリウムを加えて亜硫酸濃度が80ppmとなるように調整した。殺菌処理のため85〜90℃、60秒間加熱処理し、0〜5℃に冷却後、混和するまで同温度で保冷した。
【実施例3】
【0019】
実施例1で得た混濁果実酒(酒母aを使用)80容量部に、常法により得られた果実酒320容量部および透明果汁600容量部を混和し、混濁果実酒と果実酒と透明果汁とのブレンド品である混濁果実酒を得た。これにより、実施例2よりもアルコール度および濁度が低い混濁果実酒を製造することができた。
なお、混和する果実酒および透明果汁は、実施例2において使用したものと同様のものを使用した。
【実施例4】
【0020】
実施例1で得た混濁果実酒(酒母aを使用)300容量部に、常法により得られた果実酒100容量部および透明果汁600容量部を混和し、混濁果実酒と果実酒と透明果汁とのブレンド品である混濁果実酒を得た。これにより、実施例2よりアルコール度が低く、濁度は高い混濁果実酒を製造することができた。
なお、混和する果実酒および透明果汁は、実施例2で使用したものと同様のものを使用した。
【実施例5】
【0021】
実施例1で得た混濁果実酒(酒母aを使用)80容量部に、常法により得られた果実酒870容量部および透明果汁50容量部を混和し、混濁果実酒と果実酒と透明果汁とのブレンド品である混濁果実酒を得た。これにより、実施例2よりアルコール度が高く、濁度は低い混濁果実酒を製造することができた。
なお、混和する果実酒および透明果汁は、実施例2で使用したものと同様のものを使用した。
【実施例6】
【0022】
実施例1で得た混濁果実酒(酒母aを使用)300容量部に、常法により得られた果実酒650容量部および透明果汁50容量部を混和し、混濁果実酒と果実酒と透明果汁とのブレンド品である混濁果実酒を得た。これにより、実施例2よりアルコール度および濁度が高い混濁果実酒を製造することができた。
なお、混和する果実酒および透明果汁は、実施例2で使用したものと同様のものを使用した。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の混濁果実酒の製造方法は、アルコール度や濁度が高い、ドライで辛口の混濁果実酒の製造方法として有用である。また、濁度、アルコール度、糖度などを種々変えたバラエティーに富んだ混濁果実酒の製造方法として有用である。さらに、簡便な混濁果実酒の製造方法としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)果実を搾汁する搾汁工程;
(b)搾汁された果汁を加熱する加熱工程;および
(c)加熱された果汁を発酵させる発酵工程;
を包含することを特徴とする混濁果実酒の製造方法。
【請求項2】
加熱工程(b)を80〜95℃で行う請求の範囲第1項に記載の製造方法。
【請求項3】
請求の範囲第1項または第2項に記載の製造方法で得られた混濁果実酒に果実酒および/または透明果汁を混和させることを特徴とする混濁果実酒の製造方法。
【請求項4】
請求の範囲第1項または第2項に記載の製造方法で得られた混濁果実酒に果実酒を混和させることを特徴とする混濁果実酒の製造方法。
【請求項5】
請求の範囲第1項または第2項に記載の製造方法で得られた混濁果実酒100容量部に対して、果実酒を10〜1200容量部用いることを特徴とする請求の範囲第4項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求の範囲第1項または第2項に記載の製造方法で得られた混濁果実酒に透明果汁を混和させることを特徴とする混濁果実酒の製造方法。
【請求項7】
請求の範囲第1項または第2項に記載の製造方法で得られた混濁果実酒100容量部に対して、透明果汁を10〜900容量部用いることを特徴とする請求の範囲第6項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求の範囲第1項または第2項に記載の製造方法で得られた混濁果実酒に果実酒および透明果汁を混和させることを特徴とする混濁果実酒の製造方法。
【請求項9】
請求の範囲第1項または第2項に記載の製造方法で得られた混濁果実酒100容量部に対して、果実酒10〜1200容量部および透明果汁10〜900容量部用いることを特徴とする請求の範囲第8項に記載の製造方法。
【請求項10】
請求の範囲第1項〜第9項のいずれかに記載の製造方法で得られた混濁果実酒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【国際公開番号】WO2005/042691
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515147(P2005−515147)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016019
【国際出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】