説明

混繊糸及びそれを用いた織編物

【課題】従来不可能であった高発色性、ふくらみ感、ソフト感などの審美性と耐摩擦特性、耐アイロンアタリ特性などの品質を両立させた織編物用の混繊糸を提供する。
【解決手段】少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメントAおよびBが混繊された強度2cN/dtex以下を満たす混繊糸9であり、また芯部を構成する該マルチフィラメントAの単糸繊度1dtex以下かつ沸騰水収縮率15%以上であり、鞘部を構成する該マルチフィラメントBは沸騰水収縮率3%以下かつ平均一次粒子径0.02〜0.1μmである微粒子を糸表面付近に含有する混繊糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は従来不可能であった高発色性、ふくらみ感、ソフト感などの審美性と耐摩擦特性、耐アイロンアタリ特性などの品質を両立させることができる混繊糸および織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は優れた物理的、化学的特性を有する故に最も広く使用されている合成繊維の一つであるが、アセテート、レーヨン、羊毛、絹等といった天然繊維と比較して染色布の発色性に劣り、さらに繊維表面のなめらかさにより特有の鏡面光沢があり、天然繊維のような色の深みが得られないといった欠点を有する。特に黒色の深みは天然繊維と比較して大幅に劣るため、ブラックフォーマル分野等では黒色の発色性向上が強くのぞまれている。
【0003】
このような問題を解決する手段として、ポリエステル繊維の繊維表面を粗面化することにより光の表面反射量を少なくして発色性を向上させる手法が開示されている。
【0004】
例えば、平均一次粒子径が100μm以下である不活性無機微粒子が0.5〜10wt%含有されたポリエステル繊維をアルカリ溶液処理することによって、繊維表面に0.2〜0.7μmの不規則でランダムな凹凸を発生させ発色性を向上させる方法が開示されている(特許文献1参照)。この方法では繊維に特定の表面形態を付与できるため、ある程度の発色性向上効果は期待できるが、得られた延伸糸が高配向となるため延伸糸の染料吸尽が十分ではなく、満足できる黒発色性を得ることができなかった。
【0005】
また、高収縮繊維と低収縮繊維を組み合わせて糸構造を凹凸化させることで、高発色性を得る方法が開示されている(特許文献2参照)。例えばこれらの繊維表面と糸構造の凹凸化を組み合わせることで、ある程度の発色性を得ることができるが、発色性が高いゆえに、摩擦堅牢度やアイロンあたりによる白化は避けられないものであった。
【0006】
このように高発色性、ふくらみ感、ソフト感などの審美性と耐摩擦特性、耐アイロンアタリ特性などの品質を両立させることは異収縮混繊糸を用いた織編物にとって長年の課題であった。
【特許文献1】特開昭55−107512号公報
【特許文献2】特開2000−144553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記の従来技術の問題点を解決しようとするものであり、高発色性、ふくらみ感、ソフト感などの審美性と耐摩擦特性、耐アイロンアタリ特性などの品質を両立させることができる混繊糸および織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、以下の構成を採用する。すなわち、
[1]少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメントAおよびBが混繊された、強度2cN/dtex以下の混繊糸であり、芯部を構成する該ポリエステルマルチフィラメントAは単繊維繊度が1dtex以下、かつ沸騰水収縮率が15%以上であり、鞘部を構成する該ポリエステルマルチフィラメントBは沸騰水収縮率が3%以下、かつ平均一次粒子径0.02〜0.1μmである微粒子を繊維表面付近に含有することを特徴とする混繊糸。
【0009】
[2]前記ポリエステルマルチフィラメントBに含有される微粒子がコロイダルシリカであることを特徴とする前記[1]に記載の混繊糸。
【0010】
[3]撚係数18000以上の撚を付与したことを特徴とする前記[1]または[2]に記載の混繊糸。
【0011】
[4]前記[3]に記載の混繊糸を用いた織編物。
【0012】
[5]前記[1]〜[3]のいずれかに記載の混繊糸を表側に配し、捲縮発現機能を有するコンジュゲートマルチフィラメントを裏側に配したことを特徴とする二重織物。
【0013】
[6]混繊糸の鞘部のポリエステルマルチフィラメントが繊維表面にミクロボイドを有することを特徴とする前記[5]に記載の二重織物。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、高発色性、ふくらみ感、ソフト感などの審美性と耐摩擦特性、耐アイロンアタリ特性などの品質を両立させることができる混繊糸および織編物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の混繊糸は、ポリエステルマルチフィラメントAおよびポリエステルマルチフィラメントBという、少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメントが混繊された、強度2cN/dtex以下を満たす混繊糸であり、ポリエステルマルチフィラメントAが芯部、ポリエステルマルチフィラメントBが鞘部を構成する。そして、芯部を構成するポリエステルマルチフィラメントAの単繊維繊度は1dtex以下、かつ沸騰水収縮率は15%以上であり、鞘部を構成するポリエステルマルチフィラメントBは沸騰水収縮率が3%以下、かつ平均一次粒子径0.02〜0.1μmである微粒子を繊維表面付近に含有することを特徴とする。
【0016】
芯部を構成するポリエステルマルチフィラメントAの沸騰水収縮率を15%以上、かつ鞘部を構成するポリエステルマルチフィラメントBの沸騰水収縮率を3%以下とすることで、混繊糸の鞘部をバルキー化させることができる。ポリエステルマルチフィラメントAの沸騰水収縮率が15%未満、またはポリエステルマルチフィラメントBの沸騰水収縮率が3%を超えると、混繊糸の鞘部を十分にバルキー化させることができず、織編物にふくらみ及び黒発色性を付与することが難しい。ポリエステルマルチフィラメントAの沸騰水収縮率は15%〜30%がより好ましく、鞘部を構成するポリエステルマルチフィラメントBの沸騰水収縮率は3〜−10%がより好ましい。ポリエステルマルチフィラメントAの沸騰水収縮率が30%を超えると風合いがかたくなってしまうので、あまり好ましくない。また、ポリエステルマルチフィラメントBの沸騰水収縮率が−10%未満であるとタルミ発生によるスナッグが発生しやすくなるので、あまり好ましくない。
【0017】
また、ポリエステルマルチフィラメントAは単繊維繊度1dtexが以下であることがアイロンあたり性向上の観点から重要である。一般的な異収縮混繊糸では、バルキー性が高いためにアイロンあたりが悪いということが大きな問題となっていた。鋭意検討した結果、この原因は、布帛のハリ腰を追求するあまり、芯部を構成するポリエステルマルチフィラメントAの単繊維繊度が大きい糸を使用しているためであることを見出した。すなわち、バルキー性が高いために、アイロンの際に鞘部が倒れ、発色性に劣る芯部がむき出しやすかったのである。本発明では、ポリエステルマルチフィラメントAの単繊維繊度1dtex以下にすることで高いバルキー性を保持したまま芯部カバリング性を大幅に向上することができ、アイロン使用時においても鞘部が芯部を完全に被覆しているので、アイロンあたり性に問題はなくなった。
【0018】
一方、最低限のハリ腰を織編物に付与する点から、ポリエステルマルチフィラメントAの単繊維繊度は0.1dtex以上であることが好ましい。さらに好ましい単繊維繊度は0.6dtex以上1dtex以下である。
【0019】
また、ポリエステルマルチフィラメントAの総繊度においても、ハリ腰と摩擦堅牢度を両立する点から10dtex以上35dtex以下が好ましい。
【0020】
ポリエステルマルチフィラメントBは平均一次粒子径0.02〜0.1μmである微粒子を繊維表面付近に含有することが、摩擦堅牢度を向上させる点で重要である。一般的な異収縮混繊糸ではバルキー性が高いために、摩擦抵抗が大きく、布帛同士が摩擦を受けた際に、鞘部が剥離し、芯部がむき出すことによる堅牢度の低下が問題であった。本発明では、この問題を次のような手段で解消したものである。すなわち、ポリエステルマルチフィラメントBに微粒子を含有させ、アルカリ減量工程でこの微粒子のうちの繊維表面付近の微粒子を脱落させることで、繊維表面にミクロボイドを発生させるのである。ミクロボイドにより繊維表面は凹凸状態となるが、鞘部の繊維は繊維表面が凹凸状態であることから点接触となり、これによって鞘部が剥離し、芯部がむき出しになることを低減できる。結果として、摩擦抵抗を下げ、摩擦堅牢度を向上することができるのである。さらには、ミクロボイドを発生することにより、発色性向上、点接触によるソフト感向上も期待できる。なお、ミクロボイドの大きさは微粒子の大きさに依存し、微粒子の平均粒子径とほぼ同程度となる。なお、平均粒子径のより好ましい範囲は0.02〜0.07μmの範囲である。
【0021】
なお、本発明における平均一次粒子径は、HORIBA製粒径分析装置(LA−700)にて粒子の外接径を測定し、かつn数50で測定した値をいう。
【0022】
本発明において好ましく用いられる微粒子としては、例えばコロイダルシリカなどが挙げられる。コロイダルシリカとはケイ素酸化物を主成分とし、単粒子状で存在する粒子が水または単価のアルコール類またはジオール類またはこれらの混合物を分散媒としてコロイドとして存在するものをいう。
【0023】
また、ポリエステルマルチフィラメントBの単繊維繊度についても、発色性とアイロンあたり性を両立する点から、0.1dtex以上5dtex以下であることが好ましい。
【0024】
また、ポリエステルマルチフィラメントBの総繊度においても、発色性とアイロンあたり性を両立する点から、30dtex以上120dtex以下が好ましい。
本発明の混繊糸は、強度2cN/dtex以下を満たす混繊糸であることが摩擦堅牢度を向上させる点で非常に重要である。従来の混繊糸の開発では、強度が3.0cN/dtex以上となるように原糸・糸加工条件を設計することが普通であった。撚糸や製織等の後工程における作業性、さらには布帛とした際の引き裂き強力等の品質を考慮してのことである。しかし、前述したようにバルキー性が高い異収縮混繊糸では摩擦堅牢度の低下が大きな問題となっていた。本発明では摩擦により変形しにくい糸構造について鋭意検討した結果、摩擦によって糸構造内に単繊維毛羽を発生させ、単繊維同士のからまりを強くすることが、摩擦堅牢度を大幅に向上させることを見出した。すなわち、混繊糸の糸強度を2cN/dtex以下に設計することで、摩擦を受けた際に単繊維毛羽を発生させることができ、すなわち、芯糸が露出することがなくなり、摩擦堅牢度に問題が発生しなくなる。より好ましい混繊糸の糸強度は1.7cN/dtex以下である。
【0025】
混繊糸の強度2cN/dtex以下とするためには、ポリエステルマルチフィラメントA及びBの繊度(単繊維繊度及び総繊度)、繊度比率、沸騰水収縮率等を適宜調整すればよいが、例えば、芯部のポリエステルマルチフィラメントAの総繊度を35dtex以下及び混繊糸総繊度に占める芯部総繊度の比率を40%以下に設計し、さらに鞘部となるマルチフィラメントBの沸騰水収縮率を3%以下にするように弛緩熱処理などを施してやることで、強度2cN/dtex以下の混繊糸が得ることができる。
【0026】
また、撚糸・製織工程において最低限の強度を維持するためには、混繊糸総繊度に占める芯部総繊度の比率は10%以上であることが好ましい。
【0027】
当然ながら、強度が低すぎると撚糸・製織工程で糸切れが多発するので、混繊糸の強度は1.0cN/dtex以上であることが好ましい。
【0028】
また本発明において、混繊糸としての繊度は布帛としての軽量感を考慮して160dtex以下、また肉厚感や布帛強度を考慮して60dtex以上であることが好ましい。
【0029】
また、布帛とした際の強度の向上及び芯部カバリング性向上のために、本発明の混繊糸には撚係数18000以上の撚を付与した後、織編物を作成することが好ましい。また適度なふくらみを維持するためには撚係数は35000以下であることが好ましい。
【0030】
この際、撚係数は下記の方法で計算する。
【0031】
撚り係数=T×(dtex)1/2
T:1mあたりの撚り数(ターン/m)
なお、本発明の混繊糸においては、ポリエステルマルチフィラメントA及びBに加えて、ポリエステルマルチフィラメントA及びB以外のフィラメントを混繊していてもよい。
【0032】
本発明の織編物は、一般的に使用される織編物の織編組織や密度等の規格に制約されることはない。また、本発明の効果を妨げない範囲で、レーヨンやウールなどの天然繊維との混紡、交撚、交織および交編などを施したものも含まれるが、これらに限られるものではない。
【0033】
特にストレッチ織物を作成する際には、本発明の混繊糸を表側に配し、捲縮発現機能を有するコンジュゲートマルチフィラメントを裏側に配した二重織物とすることが好ましい。表側に本発明の混繊糸を配することで、高発色性、ふくらみ感、ソフト感のある織物とすることができ、裏側に配したコンジュゲートマルチフィラメントにより、織物に優れたストレッチ性を付与することができる。
【0034】
この際のコンジュゲートマルチフィラメントは、例えば熱処理を施すことにより、座屈や機械捲縮特有の角張った部分のないコイル旋回状の捲縮を発現するものである。
【0035】
コンジュゲートマルチフィラメントとしては、少なくとも2種類のポリマーまたは同種のポリマーでも固有粘度の異なるポリマーをサイドバイサイド型または偏芯シースコア型に混繊したコンジュゲートマルチフィラメントが挙げられる。つまり、少なくとも2種類のポリマーを混繊する場合は、上記ポリエステルうち少なくとも2種類を任意に選んで混繊すればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレートとポリプロピレンレンテレフタレートとを混繊すればよい。また、同種のポリマーを混繊する場合は、例えば、極限粘度の異なるポリエチレンテレフタレートを混繊するなどすればよい。
【0036】
また、本発明のポリエステルマルチフィラメントA及びBの断面は、丸型、三角、扁平、六角、L型、T型、W型、八葉型、ドッグボーン型などの多角形型、多様型、中空型など任意に選択することができる。
【0037】
また、ポリエステルマルチフィラメントAまたはBには、必要に応じて、難燃剤、蛍光増白剤、つや消し剤、着色剤、制電剤などの添加剤やカチオン可染ポリエステルを使用してもよい。
【0038】
次に、本発明の混繊糸の製造方法について説明する。
【0039】
本発明に用いるポリエステルマルチフィラメントAおよびポリエステルマルチフィラメントBは、テレフタル酸を主成分とし、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ペンタメチレングリコール、およびヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも1種を主たるグリコール成分とするポリエステルである。ポリエステルマルチフィラメントAにはイソフタル酸など第3成分が共重合されたポリエステルを用いることで高収縮特性を得ることができる。
【0040】
また、ポリエステルマルチフィラメントBの低収縮特性を得るためには、高配向未延伸糸を低倍率延伸熱処理や延伸後に弛緩熱処理、直接弛緩熱処理を施す方法など既知の糸加工を任意に用いることができる。好ましくは高発色性と糸加工性を両立した延伸後に弛緩熱処理を施す方法である。
【0041】
また、ポリエステルマルチフィラメントAおよびポリエステルマルチフィラメントBを混繊する方法としては合撚撚糸やインターレース加工、タスラン加工等の任意の混繊手段を用いることができるが、好ましくは、微小ループが形成されソフトな風合い、黒発色性が期待できるタスラン加工である。
【0042】
図1は、本発明の混繊糸の製造工程の一例である。図1において、AはポリエステルマルチフィラメントA、BはポリエステルマルチフィラメントBの高配向未延伸マルチフィラメントを示す。まず、ポリエステルマルチフィラメントBはホットピン2で熱処理を受けながら、フィードローラ1とフィードローラ3の間でプレ延伸される。この際のホットピンの温度は60℃〜120℃であれば、均一に熱延伸処理できるので好ましい。次に、中空ヒーター4で非接触熱処理を受けながら、フィードローラ3とフィードローラ5の間で弛緩熱処理を受ける。この際の中空ヒータ温度は160℃〜240℃であれば、熱処理ムラがなく、効果的な弛緩熱処理を実施することが可能である。
【0043】
その後、フィードローラ8でポリエステルマルチフィラメントAを、フィードローラ5でポリエステルマルチフィラメントBをオーバーフィード供給し、タスランノズル6で交絡を付与し、糸を収束させる。この際、糸に強固な交絡を付与するため、またコスト面も考慮して交絡圧に関しては0.3〜0.8(MPa)であることが好ましい。交絡の際には、水付与の有無はどちらでも構わないが、水なしの方がノズルが汚れにくいので生産性の面から有利である。交絡オーバーフィードに関してはポリエステルマルチフィラメントBが鞘部を構成するようするため、Aの交絡オーバーフィード−Bの交絡オーバーフィードは3%以上であることが好ましい。またネップ発生を防ぐため好ましい上限は10%以下である。
【0044】
その後、デリベリーローラ7を経由して、最後にワインダーで混繊糸9として巻き取られる。
糸加工速度については早ければ生産性が高くなり好ましいが、安定加工性を考慮すると、200〜1000(m/min)が好ましい。
【0045】
このようにして製造した本発明の混繊糸を、公知の製織方法、編成方法を用いて、織物や編物とする。織組織や編組織としては公知の如何なる組織をも適用できる。
【0046】
本発明において、織物と編物を総称して「織編物」という。本発明の混繊糸を織編物にする場合、組織あるいは密度になんら制約されることはない。
【0047】
さらに、本発明の混繊糸を用いた織編物を染色仕上げ加工する場合にも、加工方法あるいは加工装置などになんら制約されることはないが、リラックスで充分に解撚効果によるストレッチやふくらみ感を出すために、液流リラックス加工を実施することが好ましい。また、中間セット時には混繊糸のアルカリ減量耐性を強めるため、セット温度を180℃以上230℃以下にすることが好ましい。230℃を越えると、鞘部が融着する恐れがあるので好ましくない。
【0048】
本発明においては、織編物にアルカリ減量を施すことが好ましい。その理由は前述したとおり、アルカリ減量によって、ポリエステルマルチフィラメントBにミクロボイドを形成することができるためである。アルカリ減量率は5〜35重量%であることが好ましい。35重量%を超えるとポリエステルマルチフィラメントにクラックが発生しやすくなり好ましくない。一方、5重量%未満ではマルチフィラメントBの繊維表面にミクロボイドを十分に発生させることができない。
なお、アルカリ減量としては公知の方法、装置を採用することができる。
【0049】
また、黒発色性を向上させるために、織編物に低屈折率の化合物を付与するといった任意の深色加工を施すことができる。深色加工としては、例えば、フッ素系化合物で処理する方法、ウレタン系化合物で処理する方法、シリコーン系化合物で処理する方法、およびウレタン系化合物とエポキシ系化合物で処理する方法などいずれの処方を用いても構わない。
【0050】
本発明の混繊糸を用いて織編物にすることで、従来不可能であった高発色性、ふくらみ感、ソフト感などの審美性と耐摩擦特性、耐アイロンアタリ特性などの品質を両立させることができる。
【0051】
本発明により得られた繊維は衣料として特にブラックフォーマル素材に好適であるが、その他婦人・紳士衣料、またジャージ、アスレチックウェア、スキーウェアなどのスポーツ衣料用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
【0053】
(1)沸騰水収縮率
混繊糸からポリエステルマルチフィラメントA、Bを6cmづつ取り出し、サンプルとする。0.1g/dtexの荷重下で5cmの間隔でマークしたサンプルをガーゼにくるんで、無緊張下で98℃・30分で熱処理する。その後、サンプルを取り出し、24時間風乾し、再び、0.1g/dtexの荷重下において、発現した捲縮を完全に伸ばした後、熱処理前にマークした間隔(L)を読みとり、次の式でポリエステルマルチフィラメントA、Bの沸騰水収縮率を表す。
沸騰水収縮率(%)={(5−L)/5}×100
(2)繊度
JIS L1013 8.3(2004)の繊度測定に準ずる。
【0054】
(3)伸度、強度
JIS−L−1013(2004)に基づいて測定した。
【0055】
(4)摩擦堅牢度
JIS L 0849(1996)に規定される方法で、乾燥時(乾摩擦堅牢度)と湿潤時(湿摩擦堅牢度)の試験を行い、汚染用グレースケールを用いて級判定した。
【0056】
(5)アイロンあたり
160℃のスチームアイロンで生地に20cm間隔で10秒間2往復の割合でアイロン処理を行い、そのあたり具合の程度をグレースケールを用いて級判定した。
【0057】
(6)発色性
SMカラーコンピューター(スガ試験機(株)製)を用いて、L値を測定した。数値の低いものほど、発色性に優れていることを示す。
【0058】
(7)風合い評価
ふくらみ感、ソフト感のそれぞれの評価について、熟練者10名にて4段階判定法で評価した。
○○:優
○:良
△:可
×:不可。
【0059】
実施例1
イソフタル酸8モル%共重合させたポリエチレンテレフタレートを紡速1700(m/min)で紡糸、その後130℃で延伸熱処理を実施し、総繊度22dtex、24フィラメント(断面円形)のポリエステルマルチフィラメントAを得た。一方、平均一次粒子径が0.05μmであるコロイダルシリカを1.0重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを紡速3000(m/min)で紡糸して、総繊度90dtex、48フィラメント(断面円形)、伸度150%の高配向未延伸フィラメントであるポリエステルマルチフィラメントBを得た。
【0060】
このポリエステルマルチフィラメントAとポリエステルマルチフィラメントBを引き揃えた後、表1および図1記載の製造方法・製造条件で、混繊を実施し、表1に示す混繊糸特性を示す混繊糸を得た。
【0061】
次に、このようにして得られた混繊糸に、村田(株)製のダブルツイスター撚糸機を用いて、S方向に撚係数(K)=20000で追撚を施し、その後、75℃×30分のスチーム撚止めセットを実施した。得られた追撚糸を経糸および緯糸に用い、経密度:160本/2.54cm、緯密度:120本/2.54cm、平二重織物を作成した。次いで、得られた織物に、常法に従い液流リラックス処理を施し、続いて、乾燥・中間セットを施した。中間セット条件は、温度180℃で実施した。その後、3%苛性ソーダ水溶液中に浸漬し、20%のアルカリ減量加工を行い、市販のブラック染料で135℃染色した後、常法に従い還元洗浄(80℃、20分)を行い、水洗し乾燥した。得られた染色布を、下記の組成の樹脂液の中に浸漬し、液の付着量が90重量%になるようにマングルで絞り、130℃の温度で乾燥し、160℃の温度でヒートセットした。
・“マックスガード”(登録商標)EC470(京絹化成社製、フッ素系化合物、屈折率1.38)・・・4%
・“トーレシリコーン”(登録商標)SM8702(東レシリコーン社製、アミノ変性シリコーン、屈折率1.48)・・・1%
・“ナイスポール”(登録商標)NF20(日華化学社製、耐電防止剤)・・・1%
得られた織物は、表面にコロイダルシリカ脱落によるミクロボイドを有し、発色性、ふくらみ、ソフト感に優れていた。また、課題であった摩擦堅牢度、アイロンあたりにおいても良好な結果であった。結果を表1に示す。
【0062】
実施例2
イソフタル酸6モル%共重合させたポリエチレンテレフタレートを紡速1700(m/min)で紡糸、その後130℃で延伸熱処理を実施し、総繊度30dtex、36フィラメント(断面円形)のポリエステルマルチフィラメントAを得た。一方、平均一次粒子径が0.05μmであるコロイダルシリカを1.0重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを紡速3000(m/min)で紡糸して、総繊度90dtex、48フィラメント(断面円形)、伸度150%高配向未延伸フィラメントであるのポリエステルマルチフィラメントBを得た。
【0063】
このポリエステルマルチフィラメントAとポリエステルマルチフィラメントBを引き揃えた後、表1および図1記載の製造方法・製造条件で、混繊を実施し、表1に示す混繊糸特性を示す混繊糸を得た。次に、このようにして得られた混繊糸に、実施例1と同様の方法で織物を作成、染色加工を実施し、評価した。
【0064】
得られた織物は、表面にコロイダルシリカ脱落によるミクロボイドを有し、発色性、ふくらみ、ソフト感に優れていた。また、課題であった摩擦堅牢度、アイロンあたりにおいても良好な結果であった。結果を表1に示す。
【0065】
実施例3
平均一次粒子径が0.05μmであるコロイダルシリカを1.0重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを紡速3000(m/min)で紡糸して、総繊度90dtex、48フィラメント(断面円形)、伸度150%高配向未延伸フィラメントであるポリエステルマルチフィラメントBを得た。このポリエステルマルチフィラメントBを用いた以外は、実施例1と同様の方法を用い、表1に示す混繊糸特性を示す混繊糸を得た。次に、このようにして得られた混繊糸に、実施例1と同様の方法で織物を作成、染色加工を実施し、評価した。
【0066】
得られた織物は、表面にコロイダルシリカ脱落によるミクロボイドを有し、発色性、ふくらみ、ソフト感に優れていた。また、課題であった摩擦堅牢度、アイロンあたりにおいても良好な結果であった。結果を表1に示す。
【0067】
比較例1
イソフタル酸8モル%共重合させたポリエチレンテレフタレートを紡速1700(m/min)で紡糸、その後130℃で延伸熱処理を実施し、総繊度60dtex、68フィラメント(断面円形)のポリエステルマルチフィラメントAを得た。このポリエステルマルチフィラメントAを用いた以外は実施例1と同様の方法で混繊を実施し、表1に示す混繊糸特性を示す混繊糸を得た。次に、このようにして得られた混繊糸に、実施例1と同様の方法で織物を作成、染色加工を実施し、評価した。
【0068】
得られた織物は、表面にコロイダルシリカ脱落によるミクロボイドを有し、発色性に優れてはいたが、摩擦堅牢度が2級と品質に問題があった。
【0069】
比較例2
ポリエチレンテレフタレート100%成分で紡速1700(m/min)で紡糸、その後130℃で延伸熱処理を実施し、総繊度22dtex、24フィラメント(断面円形)のポリエステルマルチフィラメントAを得た。このポリエステルマルチフィラメントAを用いた以外は実施例1と同様の方法で混繊を実施し、表1に示す混繊糸特性を示す混繊糸を得た。次に、このようにして得られた混繊糸に、実施例1と同様の方法で織物を作成、染色加工を実施し、評価した。
【0070】
得られた織物は、ふくらみ・ソフト感が不十分であり、発色性も物足りないものであった。
【0071】
比較例3
イソフタル酸8モル%共重合させたポリエチレンテレフタレートを紡速1700(m/min)で紡糸、その後130℃で延伸熱処理を実施し、総繊度22dtex、16フィラメント(断面円形)のポリエステルマルチフィラメントAを得た。このポリエステルマルチフィラメントAを用いた以外は実施例1と同様の方法を用い、表1に示す混繊糸特性を示す混繊糸を得た。次に、このようにして得られた混繊糸に、実施例1と同様の方法で織物を作成、染色加工を実施し、評価した。
【0072】
得られた織物は、表面にコロイダルシリカ脱落によるミクロボイドを有し、発色性に優れてはいたが、アイロンあたりが2級と品質に問題があった。
【0073】
比較例4
混繊方法として、延伸温度を150℃にして延伸熱処理を実施し、弛緩熱処理を実施しなかった以外は実施例1と同様の方法を用い、表1に示す混繊糸特性を示す混繊糸を得た。次に、このようにして得られた混繊糸に、実施例1と同様の方法で織物を作成、染色加工を実施し、評価した。
【0074】
得られた織物は、ふくらみ・ソフト感が不十分であり、発色性も物足りないものであった。
【0075】
比較例5
平均一次粒子径が0.7μmである酸化チタンを2.3重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを紡速3000(m/min)で紡糸して、総繊度90dtex、48フィラメント(断面円形)、伸度150%の高配向未延伸フィラメントであるポリエステルマルチフィラメントBを得た。このポリエステルマルチフィラメントBを用いた以外は、実施例1と同様の方法を用い、表1に示す混繊糸特性を示す混繊糸を得た。次に、このようにして得られた混繊糸に、実施例1と同様の方法で織物を作成、染色加工を実施し、評価した。
【0076】
得られた織物は、発色性・ソフト感が不十分なものであり、摩擦堅牢度も2−3級と品質に問題があった。
【0077】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明により得られた繊維は衣料として特にブラックフォーマル素材に好適であり、また、その他の婦人・紳士衣料、またジャージ、アスレチックウェア、スキーウェアなどのスポーツ衣料用途にも好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の混繊糸の製造工程を例示説明するための工程概略図である。
【符号の説明】
【0080】
A:ポリエステルマルチフィラメントA
B:ポリエステルマルチフィラメントBの高配向未延伸フィラメント
1:フィードローラ
2:ホットピン
3:フィードローラ
4:中空ヒータ
5:フィードローラ
6:タスランノズル
7:デリベリーローラ
8:フィードローラ
9:混繊糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメントAおよびBが混繊された、強度2cN/dtex以下の混繊糸であり、芯部を構成する該ポリエステルマルチフィラメントAは単繊維繊度が1dtex以下、かつ沸騰水収縮率が15%以上であり、鞘部を構成する該ポリエステルマルチフィラメントBは沸騰水収縮率が3%以下、かつ平均一次粒子径0.02〜0.1μmである微粒子を繊維表面付近に含有することを特徴とする混繊糸。
【請求項2】
前記ポリエステルマルチフィラメントBに含有される微粒子がコロイダルシリカであることを特徴とする請求項1に記載の混繊糸。
【請求項3】
撚係数18000以上の撚を付与したことを特徴とする請求項1または2に記載の混繊糸。
【請求項4】
請求項3に記載の混繊糸を用いた織編物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の混繊糸を表側に配し、捲縮発現機能を有するコンジュゲートマルチフィラメントを裏側に配したことを特徴とする二重織物。
【請求項6】
混繊糸の鞘部のポリエステルマルチフィラメントが繊維表面にミクロボイドを有することを特徴とする請求項5に記載の二重織物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−185416(P2009−185416A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27311(P2008−27311)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】