説明

混繊糸

【課題】水にぬれても『透けない』特性を有しかつ防風性、保温性にも優れ、しかも膨らみ感がありシルキータッチな風合いを呈する混繊糸を提供する。
【解決手段】熱収縮率の異なる2種類のフィラメントからなる混繊糸とし、該2種類のフィラメントである高収縮フィラメントと低収縮フィラメントのうち該低収縮フィラメントが吸湿又は吸水により捲縮率が増加するフィラメントである混繊糸とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿度又は吸水により可逆的に捲縮率が大きく変化する混繊糸に関する。
【背景技術】
【0002】
木綿・羊毛・羽毛等の天然繊維が湿度変化にて可逆的に形態・捲縮率が変化することは、従来良く知られている。合成繊維にかかる機能を持たせようとする検討が古くから行われており、ナイロン6と変性ポリエチレンテレフタレートとをサイドバイサイド型複合繊維での提案がすでに特許文献1及び2等でなされている。これら公知の複合繊維では湿度変化による可逆的な捲縮率の変化が小さいため実用に到っていない。
【0003】
その後、熱処理条件を改良した特許文献3及び4等が提案されている。さらに、特許文献5〜8等、上記従来技術を応用したものが提案されている。しかしながら、上記の従来技術は、染色や仕上げといった工程を経ると、捲縮率の変化が小さくなり、実用的なレベルに到達していないのが実情である。
【0004】
これに対して、特許文献9には、ポリエステル成分とポリアミド成分とが扁平状に接合され、且つ、ポリアミド成分をナイロン4の如く吸湿率の高いポリアミドを用い前述の課題を改善する試みもなされているが、ナイロン4の製糸安定性が悪く、捲縮性能が熱処理を経ての低下し、やはりかかる複合繊維でも実用面で限界がある。
【0005】
また、近年では要求特性の多様化して、『透け』が問題になっている。すなわち、合成繊維や天然繊維などからなる通常の織編物を、スイミングウェアー、スポーツウェアーなどに使用すると、水や雨により湿潤することにより布帛が『透け』やすくなり、又その際防風性、保温性が低下するといった問題もある。また、風合い面でも膨らみ感がありシルキータッチなものが求められている。
【0006】
【特許文献1】特公昭45−28728号公報
【特許文献2】特公昭46−847号公報
【特許文献3】特開昭58−46118号公報
【特許文献4】特開昭58−46119号公報
【特許文献5】特開昭61−19816号公報
【特許文献6】特開2003−82543号公報
【特許文献7】特開2003−41444号公報
【特許文献8】特開2003−41462号公報
【特許文献9】特開平3−213518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来の技術を背景になされたもので、その目的は、水にぬれても『透けない』特性を有しかつ防風性、保温性にも優れ、しかも膨らみ感がありシルキータッチな風合いを呈する混繊糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者の研究によれば、上記目的は、熱収縮率の異なる2種類のフィラメントからなる混繊糸であって、該2種類のフィラメントである高収縮フィラメントと低収縮フィラメントのうち該低収縮フィラメントが吸湿又は吸水により捲縮率が増加するフィラメントであることを特徴とする混繊糸により達成できることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水にぬれても『透けない』特性を有し、さらにその際、防風性・保温性を発揮する混繊糸を提供することができる。すなわち本発明の混繊糸は、膨らみ感がありシルキータッチを有しており風合いの点で優れているだけでなく、これまでの混繊糸が持っていない新しい機能性による効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の混繊糸は、熱収縮率の異なる2種類のフィラメント、すなわち高収縮フィラメントと低収縮フィラメントからなる混繊糸である。これにより、単一のフィラメントでは得られない膨らみ感がありシルキータッチの風合いを得ることができる。
【0011】
本発明においては、膨らみを出すためには高収縮フィラメントの沸騰水中での収縮率(BWSA)は高いほうが望ましいが40%未満にすることが好ましい。
収縮率(BWSA)が40%を超えると得られる織編物の風合いが硬く傾向にあるためである。また、低収縮フィラメントの沸騰水中での収縮率(BWSB)は好ましくは12〜30%、より好ましくは13〜28%、さらに好ましくは14〜26%である。低収縮フィラメントの沸騰水中での収縮率(BWSB)が12%未満の場合は、収縮率を下げるための熱処理温度を高くする必要があり、混繊糸の製造での糸切れが増加するので好ましくない。一方、該低収縮成分(B)の沸騰水中での収縮率(BWSB)が30%を超える場合は、風合いが粗荒なものとなりやすく好ましくない。
【0012】
さらに収縮率(BWSA)と収縮率(BWSB)との差(BWSA−BWSB)であるΔBWSは好ましくは10〜26%、より好ましくは12〜24%、さらに好ましくは14〜22%である。ΔBWSが10%未満の場合は膨らみのある織編物を得難くなる傾向にあり好ましくない。一方、ΔBWSが26%を超える場合はシルキータッチというよりもフカツイタ風合いとなり易く、さらにその製造においては低収縮フィラメントの収縮率を下げる結果となるので、製造時に糸切れが多発しやすくなり好ましくない。
【0013】
本発明の混繊糸においては、低収縮フィラメントが吸湿又は吸水により捲縮率が増加するフィラメントであることが肝要である。本発明者らは、かかる構成からなる混繊糸は、水に濡れても布帛が『透ける』ことがなく、またその際布帛の目が詰まって、防風性、保温性にも優れていることを見出した。水にぬれた場合でも膨らみ感を有している。
【0014】
本発明においては、低収縮フィラメントに用いる捲縮率が増加する繊維が、ポリエステル成分とポリアミド成分とが接合された繊維横断面形状を有する複合繊維であることが望ましい。
【0015】
上記ポリアミド成分は、主鎖中にアミド結合を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン12等が挙げられ、中でも、製糸安定性、汎用性の観点から特にナイロン6、ナイロン66が好ましい。また、上記ポリアミド成分には、これらをベースに他の成分が共重合されていてもよい。
【0016】
一方、ポリエステル成分としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を挙げることができ、中でもコスト及び汎用性の観点からポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0017】
本発明者らの検討によれば、上記複合繊維のポリマー構成、特にポリエステル成分によっては、ポリエステル成分とポリアミド成分からなる複合繊維でありながら、あたかもポリアミド成分のみからなる糸の如き紡糸性、延伸性が得られることがわかった。すなわち、上記ポリエステル成分を、後述する5−スルフォイソフタル酸が共重合されている変性ポリエステルとし、その際、該変性ポリエステルが適度な固有粘度を有していることが好ましい。具体的には、5−スルフォイソフタル酸による分子架橋効果によってポリエステル成分の粘度は増大し、該成分が紡糸性、延伸性を支配してしまうが、ポリエステル成分の固有粘度を大きく引き下げることにより、前述したポリアミド成分のみからなる糸の如き紡糸性、仮撚加工性を得ることができ、本発明の吸湿又は吸水によって捲縮率が増加する混繊糸を容易に得ることができる。しかしながら、ポリエステル成分の固有粘度があまり低すぎると、製糸性が低下すると共に毛羽が発生しやすくなり、工業的な生産および品質の面で好ましくない。このため、上記固有粘度は0.30〜0.43が好ましく、0.35〜0.41がより好ましい。
【0018】
また、上記変性ポリエステルにおいては、5−ナトリウムスルフォイソフタル酸の共重合量が少なすぎると、優れた捲縮特性が得られる半面、ポリアミド成分とポリエステル成分との接合界面にて剥離が生じ易くなり好ましくない。逆に、5−ナトリウムスルフォイソフタル酸の共重合量が多すぎると、延伸熱処理でポリエステルの結晶化が進み難くなるので高い捲縮率を有する膨らみ感のある複合繊維あるいは混繊糸を得ることが難しくなり、結晶化を促進するために延伸熱処理温度を上げると糸切れが多発するので好ましくない。このため、5−ナトリウムスルフォイソフタル酸の共重合量は、2.0〜4.5モル%が好ましく、2.3〜3.5モル%がより好ましい。
なお、以上に説明した両成分には、酸化チタンやカーボンブラック等の顔料、公知の抗酸化剤、帯電防止剤耐光剤等がそれぞれ含有されていてもよい。
【0019】
上記複合繊維における、ポリアミド成分とポリエステル成分との複合の形態としては、両成分がサイドバイサイド型に接合した形態が捲縮発現の観点から好ましい。上記複合繊維の断面形状としては、円形断面でも非円形断面でもよく、非円形断面では例えば三角断面や四角断面等を採用することができる。なお、上記複合繊維の断面内には中空部が存在していてもかまわない。
【0020】
また、繊維横断面におけるポリエステル成分とポリアミド成分との比率としては、面積を基準として、ポリエステル成分/ポリアミド成分が30/70〜70/30が好ましく、60/40〜40/60がより好ましい。
【0021】
本発明においては、低収縮フィラメントを30分間沸水処理し、さらに100℃で30分間乾熱処理して捲縮を発現させ、これを160℃で1分間乾熱処理したフィラメントの捲縮率DCと、引き続きこれを水浸漬した後の捲縮率HCの差(HC−DC)であるΔCは0.5〜5.0%であることが好ましく、0.8〜6.0%であることがより好ましい。ΔCが0.5%未満の場合は、水浸漬後の捲縮率増加の効果が少なく、水に濡れて透け難くかつ防風性・保温性にも優れた布帛を得られ難くなる。一方、ΔCが5.0%を超える場合は、水を含んだとき布帛が大きく収縮するため風合いも低下する傾向にあり好ましくない。
【0022】
上記複合繊維を製造するには例えば特開2000−144518号公報に記載されているが如き、高粘度成分側と低粘度側の吐出孔を分離し且つ、高粘度側の吐出線速度を小さくした(吐出断面積を大きくした)紡糸口金を用い、高粘度側吐出孔に溶融ポリエステルを通過させ低粘度側吐出孔側に溶融ポリアミドを通過させて接合させ、冷却固化させることによって得ることができる。この際、紡糸速度としては1000〜4500m/分が好ましく、さらにこれを延伸熱処理して複合繊維を製造することができる。
【0023】
混繊糸を製造する方法としては、高収縮フィラメントと低収縮フィラメントを別々に製造して、空気交絡(インターレース)処理を行うことにより製造することができる。あるいは、紡糸口金から溶融紡糸した低収縮フィラメント糸条を2000〜4500m/分の比較的高速にて巻き取り、破断伸度が80〜200%の未延伸糸とし、これを熱処理して高収縮フィラメントと混繊する方法によっても製造することができる。未延伸糸を使用する場合、その破断伸度が200%を超えるものは混繊糸前の熱処理にて糸切れが多発するので好ましくない。一方、破断伸度が80未満の場合は紡糸段階での糸切れが多発するので好ましくない。
【0024】
一方、高収縮フィラメントとして、例えば、ポリエステル単独成分、前述した低収縮フィラメントとして用いることができる複合繊維と同一の組成からなる複合繊維、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートからなる複合繊維、あるいは、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートからなる複合繊維などを使用できる。ただ、コストの観点からポリエステル単独成分の場合が好ましい。この際、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が使用できるが、コスト面からポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0025】
本発明の混繊糸の総繊度は、通常の衣料用素材として用いられるのは40〜200dtex、芯糸条及び鞘糸条の単糸繊度は1〜6dtexのものを用いることができる。
本発明の混繊糸は単独で使用することができるのはもちろん、他繊維と混繊又は複合して使用することができる。
勿論、本発明の混繊糸と天然繊維との複合にてもより一層効果を発揮することができ、更に、ウレタンあるいはポリトリメチレンテレフタレートとの組み合わせにて更にストレッチ性を付与して用いても構わない。
【0026】
本発明の複合仮撚加工糸は衣料用の各種の用途に使用することができ、例えば、各種のスポーツウェアー、インナー素材、ユニフォーム等において防透性や、防風性、保温性といった快適性を要求される用途において、特に好ましく使用することができる。
【実施例】
【0027】
以下実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
【0028】
(1)ポリアミド及びポリエステルの固有粘度
ポリアミドはm−クレゾールを溶媒として使用し30℃で測定した。又、ポリエステルはオルソクロロフェノールを溶媒として使用し35℃で測定した。
【0029】
(2)製糸性
○:10時間連続紡糸を行い、糸切れが0〜1回と製糸性は良好である。
△:10時間連続紡糸を行い、糸切れが2〜4回と製糸性はやや悪い。
×:10時間連続紡糸を行い、糸切れが5回以上と製糸性は極めて悪い。
【0030】
(3)強度(cN/dtex)、伸度(%)
繊維試料を気温25℃、湿度60%の恒温恒湿に保たれた部屋に一昼夜放置した後、サンプルの長さ100mmを(株)島津製作所製引っ張り試験機テンシロンにセットし、200mm/分の速度にて伸張し、破断時の強度、伸度を測定した。
【0031】
(4)ポリアミド成分とポリエステル成分との界面剥離
複合繊維の任意の断面について、1070倍のカラー断面写真をとり、フィラメント中のポリアミド成分とポリエステル成分との界面剥離の状況を調査した。
○:界面での剥離が殆ど(0〜1個)存在しなかった。
△:界面での剥離が2〜10個のフィラメントに存在していた。
×:殆ど全てのフィラメントに界面での剥離が存在していた。
【0032】
(5)捲縮率DC、水浸漬後の捲縮率HC、およびそれらの差ΔC
低収縮フィラメントで2700dtexのカセを作り、6g(2.2mg/dtex)の軽荷重の下で沸騰水中にて30分間処理した。濾紙にて水分を軽くのぞき、次いで6g(2.2mg/dtex)の荷重下で100℃の乾熱にて30分間乾燥して水分を除去した。さらに、このカセを6g(2.2mg/dtex)の荷重下で160℃の乾熱にて1分間熱処理して測定試料とした。
(a)捲縮率DC(%)
上記の処理を行った測定資料(カセ)を6g(2.2mg/dtex)の荷重下にて5分処理し、次いで、このかせを取り出し、さらに600g(合計606g:2.2mg/dtex+220mg/dtex)の荷重をかけ1分放置しそのカセの長さL0を求めた。次いで、600gの荷重を外し、6g(2.2mg/dtex)の荷重下にて1分放置しその長さL1を求めた。下記の計算式より、捲縮率DCを求めた。
DC(%)=(L0−L1)/L0×100
(b)水浸漬後の捲縮率HC(%)
捲縮率DCを求めた後の同じカセを用い、6g(2.2mg/dtex)の荷重下で水中(室温)にて10時間処理した。このカセを濾紙にて水をふき取り、更に600g(合計606g:2.2mg/dtex+220mg/dtex)の荷重を更にかけ1分放置し、そのカセの長さL2を求めた。次いで、600gの荷重を外し、6g(2.2mg/dtex)の荷重下にて1分放置しその長さL3を求めた。下記の計算式より、水浸漬後の捲縮率DCを求めた。
HC(%)=(L2−L3)/L2×100
(c)ΔC(%)
上記の捲縮率DCと水浸漬後の捲縮率HCとの差ΔCは次の式により求めた。
ΔC(%)=HC(%)−DC(%)
【0033】
(6)混繊加工性
○:10時間連続混繊加工を行い、糸切れが0〜1回と製糸性は良好である。
△:10時間連続混繊加工を行い、糸切れが2〜4回と製糸性はやや悪い。
×:10時間連続混繊加工を行い、糸切れが5回以上と製糸性は極めて悪い。
【0034】
(7)高収縮フィラメント及び低収縮フィラメントの沸騰水中での収縮率
高収縮フィラメント沸騰水中での収縮率(BWSA)及び低収縮フィラメントの沸騰水中での収縮率(BWSB)はそれぞれ、次の方法により求めた。すなわち、枠周1.125mの捲尺機にてカセを作成し、荷重27.7cN/dtexにてカセ長(L4)を測定する。上記カセの荷重を外して沸騰水中で30分間処理する。水を拭取り、室温にて1時間放置後のカセ長(L5)を測定し、下記式より算出した。
収縮率(%)=(L4−L5)/L4×100
【0035】
(8)筒編の形態変化
混繊糸を筒編みし、カチオン染料にてボイル染色を行い、水洗後160℃の乾熱中にて1分セットし、測定試料とした。この筒編に水を滴下し、筒編の側面写真(倍率200)にて水滴下部及びその周辺の状況を調査し、水滴下による編目の膨らみ或いは縮み状況、及び筒編の透け感を肉眼にて判定した。
(a)編目変化
○:水滴下にて編目が顕著に縮んでいる(空隙が少なくなっている)。
×:水滴下にて編目がむしろ伸びている(空隙が広くなっている)。
(b)不透明感
○:水滴下にて透け感が低下し不透明感が増加している。
×:水滴下にて透け感が大きくなり透明感が増加(不透明感が低下)している。
【0036】
(9)風合い
混繊糸を筒編みし、カチオン染料にてボイル染色を行い、水洗後160℃の乾熱中にて1分セットし、測定試料とし、その触感にて評価した。
○:膨らみ感がありシルキータッチである。
×:風合いが固い、あるいはペーパーライクで膨らみが無い。
【0037】
(10)交絡数
混繊糸を水中にいれ、その交絡の数を肉眼にて数え1mあたりの数に換算して求めた。
【0038】
[実施例1]
固有粘度[η]が1.3のナイロン6と、固有粘度[η]が0.39で3.0モル%の5−ナトリウムスルフォイソフタル酸を共重合させた変性ポリエチレンテレフタレートとを夫々270℃、290℃にて溶融し、特開2000−144518号公報記載の複合紡糸口金を用い、それぞれ11.7g/分の吐出量にて押し出しサイドバイサイド型複合糸条を形成させ、冷却固化・油剤を付与したあと、糸状を速度1000m/分で引取り、これを温度60℃の第1ローラーにて予熱し、ついで、速度2800m/分で、温度130℃に加熱された第2ローラー間で延伸熱処理(延伸倍率2.80倍)を行い、これを巻き取って83dtex24filの複合繊維を得た。
【0039】
一方、高収縮成分となるポリエチレンテレフタレーと繊維は下記の如く作成した。極限粘度0.64でイソフタル酸が10モル%共重合され、艶消し剤として二酸化チタンを0.3%を含有するポリエチレンテレフタレートを285℃で溶融し吐出量12gにて押し出し、冷却固化が油剤を付与したあと紡糸速度1200m/分に巻取り、100dtex12filの未延伸糸を得た。この未延伸を通常の延伸機にて延伸し33dtex12filの高収縮フィラメントとなるポリエチレンテレフタレート繊維を得た。延伸条件は下記の通りであり、
(延伸条件)
・延伸速度 500m/分、
・延伸倍率 3.0
・延伸温度 80℃
・セット温度 室温
次に上記低収縮フィラメントと高収縮フィラメントとを引き揃え、交絡処理を施しながら巻取り117dtex36filの混繊糸を得た。得られた混繊糸の交絡数は43ケ/mであった。結果を表1に示す。
【0040】
[実施例2〜6、比較例2〜4]
第1ローラ温度を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして混繊糸を得た。結果を表1に示す。
【0041】
[実施例7〜11、比較例1及び5〜7]
第2ローラ速度を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして混繊糸を得た。結果を表1に示す。
【0042】
[実施例12〜13、比較例8〜9]
変性ポリエステル成分の5−スルフォイソフル酸の共重合量を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして混繊糸を得た。結果を表1に示す。
【0043】
[実施例14〜15、比較例10〜11]
変性ポリエステル成分の固有粘度〔η〕を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして混繊糸を得た。結果を表1に示す。
【0044】
なお、実施例1〜15においては、混繊糸においても、低収縮フィラメントが吸湿又は吸水により捲縮率が増加し、筒編の目が詰まっているのが確認された。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、水にぬれても『透けない』特性を有し、さらにその際、防風性・保温性を発揮する混繊糸を提供することができる。すなわち本発明の混繊糸は、膨らみ感がありシルキータッチを有しており風合いの点で優れているだけでなく、これまでの混繊糸が持っていない新しい機能をも有しており、その産業的価値が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱収縮率の異なる2種類のフィラメントからなる混繊糸であって、該2種類のフィラメントである高収縮フィラメントと低収縮フィラメントのうち該低収縮フィラメントが吸湿又は吸水により捲縮率が増加するフィラメントであることを特徴とする混繊糸。
【請求項2】
低収縮フィラメントを、30分間沸水処理し、さらに100℃で30分間乾熱処理して捲縮を発現させ、これを160℃で1分間乾熱処理したフィラメントの捲縮率DCと、引き続き該フィラメントを水浸漬した後の捲縮率HCとの下記式で表される捲縮率の差ΔCが0.5〜5.0%である請求項1記載の混繊糸。
ΔC(%)=HC(%)−DC(%)
【請求項3】
高収縮フィラメントの沸騰水中での収縮率(BWSA)が40%未満、低収縮フィラメントの沸騰水中での収縮率(BWSB)が12〜30%であり、高収縮フィラメントの沸騰水中での収縮率(BWSA)と低収縮フィラメントの沸騰水中での収縮率(BWSB)との下記式で表される収縮率の差ΔBWSが10〜26%である請求項1又は2記載の混繊糸。
ΔBWS(%)=BWSA(%)−BWSB(%)
【請求項4】
低収縮フィラメントが、ポリエステル成分とポリアミド成分とが接合された繊維横断面形状を有する複合繊維である請求項1〜3のいずれかに記載の混繊糸。
【請求項5】
ポリエステル成分が、5−ナトリウムスルフォイソフタル酸が酸成分を基準として2.0〜4.5モル%共重合されている変性ポリエステルであり、その固有粘度(IV)が0.30〜0.43である請求項4記載の混繊糸。

【公開番号】特開2007−239141(P2007−239141A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63176(P2006−63176)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】