説明

混繊複合繊維およびその繊維を用いてなる織編物

【課題】 ドライ風合いを得ることができると共に、すぐれたドレープ性、ふくらみ感を有し、さらに制電性を兼ね備えた混繊複合繊維およびその繊維を用いてなる織編物を提供する。
【解決手段】 親水性の高いポリマーを制電剤として特定量含有する2種以上の異なる断面形状のポリエステルフィラメント糸であって、一方が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸、他方が3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸であり、それぞれのフィラメント糸がランダムな状態で混繊している混繊繊維であり、比抵抗、繊維表面状態を同時に満足する混繊複合繊維、およびその混繊複合繊維からなる、バイレック法による吸水特性が30mm以上、滴下法による拡散速度が10秒以下である織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライタッチと優れた吸水性、汗処理性、ドライ感を有する混繊複合繊維に関するものであり、さらに詳しくは吸水性、汗処理性、ドライ感に加えて制電性を兼ね備えた混繊複合繊維および織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は機械的性質、化学的性質、イージーケア性などの優れた特性から一般衣料用として広く利用されている。しかしながら一方でポリエステル繊維は吸湿、吸水性が極めて低いため、ブラウス、インナーなどに使用した際、特にムレ感などによる不快感を招くことが多いため、様々な方法でポリエステル繊維に吸湿・吸水性を付与する方法が提案されている。
【0003】
例えば、ポリエチレンテレフタレートを95%以上含有するポリエステル(A成分)とアルカリ減量速度がA成分より高い改質ポリエステル(B成分)とからなる中空率10〜30%のサイドバイサイド型複合中空太細繊維糸条であって、アルカリ減量により太部のA成分側には繊維軸と直角方向にのびると共に繊維の中空部に到達する横溝が多数存在し、且つ太部のB成分側には繊維軸方向にのびると共に繊維の中空部に到達する縦溝が存在するポリエステル複合中空太細繊維糸条からなる吸水性ポリエステル布帛が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、波形断面で凹部の開口角θが60°≦θ≦160°の範囲である凹部を2カ所以上有する扁平異形断面糸が提案されている(特許文献2参照)。しかしながらこのような高異形断面糸は吸水性は高くなるものの、一方で異形度が高いために異形の凹部同士がかみ合い、結果として単糸間空隙が小さくなってしまい、風合いが堅くなったり、吸水性効果が低下してしまうといった問題点があった。
【0005】
このような知見から、仮撚加工されてなる2種類以上の異なる断面形状のフィラメント糸から構成されるポリエステルマルチフィラメント糸の少なくとも1種類のフィラメント糸が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸、それ以外のフィラメント糸が3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸が外層・内層にランダムな状態で分散し混繊されている混繊複合糸を提供しており(特許文献3参照)、この混繊糸からなる織物は凹部を有しない断面と凹部を有する断面がランダムに分散しているため、異形断面同士がかみ合うことなく、毛細管現象を利用した吸水、拡散作用により、吸水性を向上し、ドライな風合いが得られることがわかった。また2種類以上の断面形状が混繊されているため、この混繊糸を熱水処理するとフィラメント間で異なった収縮挙動を示すことから、ふくらみ、ソフト感を得られることがわかった。
【0006】
しかしながら、ポリエステル繊維は、羊毛や絹の如き天然繊維、レーヨンやアセテートの如き繊維素繊維、アクリル系繊維に比較して疎水性であるため静電気が発生しやすく、静電気発生に伴うほこり付着や衣服のまとわりつきが起こるという欠点がある。
【0007】
したがって、ソフト、ドレープ性、吸水性、ドライ感は得られるものの、制電性(静電気発生防止)をも兼ね備えたものは得られないという欠点を有していた。かかる欠点を改良するため、例えば、有機スルホン酸金属塩及び平均分子量が5000〜50000のポリアルキレングリコールを含有するポリエステルからなる繊維を、特定の乾熱処理を施した後にアルカリ減量処理を行うことにより、繊維表面に筋状溝、繊維内部に不規則な空隙を形成させたポリエステル繊維が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、吸水性、ドライ感、制電性を併せ持つことは可能であったが、吸水性のレベルがそれほど高いものが得られず、また、アルカリ減量処理により繊維表面に筋状溝および繊維内部に空隙を形成するが故に、十分な布帛強度のものが得られず耐久性が劣るという問題点があった。
【特許文献1】特開平5−295633号公報(第2頁、図2)
【特許文献2】特開昭62−6983号公報(第2頁、第1図)
【特許文献3】特開平6−25930号公報(第2、3頁)
【特許文献4】特開平7−150468号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、ドライ風合いを得ることができると共に、すぐれたドレープ性、ふくらみ感を有し、さらに制電性を兼ね備えた混繊複合繊維およびその繊維を用いてなる織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は下記の構成を採用するものである。すなわち、親水性の高いポリマーを制電剤として0.2〜5重量%含有する2種類以上の異なる断面形状のポリエステルフィラメント糸であって、一方が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸、他方が3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸であり、それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で混繊している混繊繊維であり、下記(1)、(2)を同時に満足することを特徴とする混繊複合繊維。
(1)混繊繊維の比抵抗が10×10〜1000×10Ω・cmである。
(2)繊維表面に、繊維軸方向に配向した制電剤よりなる筋を多数有し、筋の幅が0.1〜3μm、隣接する筋の間隔が2μm以下である。
【0010】
さらに、その混繊複合繊維からなる、バイレック法による吸水特性が30mm以上、滴下法による拡散速度が10秒以下である織編物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生糸使用でもドレープ性とドライ感を有し、さらに良好な制電性と吸水性が付与された混繊複合繊維およびその繊維を用いてなる織編物を提供することができる。とくに婦人服のブラウス、ワンピース、スーツの裏地などに展開すると優雅なシルエットが得られるだけでなく、原糸の断面形状のミックス効果と繊維表面に存在する親水性を有する制電剤の相乗効果により、極めて優れた吸水・吸湿性効果を発現し、汗によるべたつき感から開放される。また、制電性付与によりドライ感に加え静電気発生にともなう不快な衣服のまとわりつきやほこりの付着を抑制することができる。とくにウィンターシーズンのインナー素材などでは静電気によるパチパチとした不快感を抑制でき、且つドライな着用感が得られ、これまでにない着用快適性の優れたインナー素材を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0013】
本発明の混繊複合繊維について説明する。本発明の混繊複合繊維は、フィラメント糸の断面形状とその複合状態の構造と制電剤を含むポリマを用いることにあり、独特のドライ感、吸水性、汗処理性が向上し、制電剤含有ポリマの効果により制電性が付与される。
【0014】
本発明の混繊複合繊維は、断面形状を異にするフィラメント糸が複合されてなるマルチフィラメント糸である。断面形状の種類は2種類以上であり、そのうち少なくとも一方のフィラメント糸が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸からなり、他方のフィラメント糸は3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸から構成されている。
【0015】
図1〜10は、繊維断面形状を説明する説明図である。図面を参照しながら更に詳細に説明すると、本発明でいう凹部を有してない断面形状とは、同一断面において断面輪郭に接する接線を引いた時に、複数の接点を有しない断面形状を原則としていうが、原糸では凹部を有しない(複数の接点を有しない断面形状)ものであって仮撚加工の際に隣接した糸との接触等により部分的に凹んだ断面形状をも含むものをいう。上記の凹部を有しない断面形状の具体例を挙げると、円形(図1)、楕円形(図2)、おにぎり型円形(図3)や3角形以上の多角形であって比較的角に丸みを持ったもの(図4)が挙げられる。これらには、図1に示すように、接線(L)を引いた時に複数の接点は存在せず、1つの接点(S)のみ存在する。
【0016】
一方、凹部を有する断面形状とは、同一断面において断面輪郭に接する接線(L)を引いた時に、複数の接点(S、S)を有し、その接点間に凹部(U)を形成しており、その凹部と凹部の間に凸部が形成されている断面形状をいう。本発明においては、3〜8個の凹部を有する断面形状であることが重要であり、対称型あるいは非対称型のいずれでもよく、凹部の大きさは特に制限されるものではない。そのような断面形状としては、たとえばY型(図5)、4葉型(図6)、6葉型(図7)、8葉型(図8)、櫛形(図9)などが挙げられる。これらには、図5に示すように、接線を引いた時に複数の接点を有する接線が存在する。凹部を有する断面形状において、凹部が3個未満あるいは8個を越える場合には、織物の風合いとして上記のドライ感が得られないので好ましくない。
【0017】
本発明においては、凹部を有するフィラメント糸の異形度を10以上、50以下とすることにより、繊維間空隙が確保され、毛細管効果による吸水性、汗処理性が向上し、さらに張りコシ感、ドレープ性も付与される。また、この高異形断面によりポリエステル特有のヌメリ感がなくなり、さらさらとしたドライタッチも得られるのである。
【0018】
ここでいう異形度とは、図5における凹部の最も凹んだ点(U)から接線S−Sまでの距離(H)と接点S、S間の距離(D)から下記式により算出される値である。
【0019】
異形度=(H/D)×100
図10に本発明の混繊複合繊維の一例を示す断面概略図を示した。この図に示すように、円形(丸)断面と6葉型断面のフィラメント糸からなる複合繊維は、凹部を有する断面形状が形成する凸部(凹部と凹部の間に形成される突起状部分の)の存在と凹部を有しない断面とがランダムに分散しているため、異形断面同士のかみ合いを防ぐことができ、ドライな風合いと、単糸間空隙による吸水、拡散性を可能とすることができる。
【0020】
本発明において、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸の繊度に換算した混合比率は20:80〜80:20であることが好ましい。40:60〜60:40であることがさらに好ましい。凹部を有する断面形状のフィラメント糸比率を80%以下とすることによって、断面形状の凹凸の効果による、撚数が増加した場合のザラツキ感を防ぐことが可能であり、反対に20%以上とすることにより凹部を有しない断面形状に独特のヌメリ感を防ぎ、サラッとしたドライな風合いが得られる。
【0021】
次に凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸との複合状態は、それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムに混繊されている。図11は本発明の混繊複合繊維の一例を示す側面概略図である。また、図11はインターレースノズルによる交絡が付与されたものを示している。一方、図12は従来の交互撚芯鞘2層構造糸を示す側面概略図、図13は従来の芯鞘多層構造糸を示す側面概略図である。図12及び図13は太線で表された芯糸と細線で表された鞘糸とにより2層構造形態となっている。
【0022】
本発明の混繊複合繊維は、図10あるいは図11に示すようにそれぞれの断面形状の糸が外層・内層にランダムな状態で分散していることで、追撚を施した時に、糸の表面においてそれぞれの断面形状が分散配置するので、凹部を有する断面と凹部を有しない断面との調和した複合効果によるサラッとしたドライ感が得られる。また、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で分散していることによって、追撚数を増加したとき凹部と凹部のかみ合いが起こりにくいことから嵩高性の減少を防ぎ、ふくらみ感を保持できるからである。
【0023】
一方、それぞれの断面形状のフィラメント糸が集合して構成される芯鞘2層構造形態を有する複合糸の場合には、調和した複合効果によるサラッとしたドライ感が得られず好ましくない。
【0024】
本発明のポリエステルとしては、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンフタレート等が挙げられるが、中でも前者のテレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2〜6のアルキレングリコール成分、すなわちエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール及びヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも一種のグリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルを対象とする。
【0025】
尚、このポリエステルはそのテレフタル酸成分を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えても良い。かかるカルボン酸としては、たとえばイソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェノキシエタンカルボン酸、β−オキシエトキシ安息香酸の如き二官能性芳香族カルボン酸等を挙げることができる。
【0026】
また上記グリコール成分の一部を他のグリコール成分で置き換えてもよく、かかるグリコール成分としては例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、2,2−ビス〔3,5−ジブロモ−4−(2−ハイドロキシエトキシ)エトキシ)フェニル〕プロパンの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオールが挙げられる。
【0027】
さらに上述のポリエステルに必要に応じて他のポリマを少量ブレンド溶融したもの、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸等の鎖分岐剤を少割合使用したものであっても良い。このほか本発明のポリエステルは通常のポリエステルと同様に酸化チタン、カーボンブラック等の顔料の他、従来公知の抗酸化剤、着色防止剤等が添加されても勿論良い。
【0028】
本発明においてポリエステルに含有させる制電剤の量はポリエステルに対し0.2重量%以上、5重量%以下である。特に好ましくは0.5重量%以上、3重量%以下である。0.2重量%未満では得られるポリエステル繊維の制電性が不十分であり、5重量%を越える場合は製糸時に糸切れ等の製糸不調の原因となるばかりか、繊維の黄味が強くなってしまうため好ましくない。
【0029】
本発明のポリエステル混繊複合繊維は前述のような組成のポリエステルからなり、混繊繊維の比抵抗が10×10Ω・cm以上、1000×10Ω・cm以下である。比抵抗値(以下、Rと略す)はフィラメント糸を束ねて約2200dtexとし、弱アニオン系洗剤を用い、十分に精錬して油剤などを除いた後、20℃、43%RH(相対湿度)の状態で24時間放置後、その両端の抵抗を測定する事によって求めることができ、織編物の制電性に大きな影響を及ぼす。Rが10×10Ω・cm未満ではポリエステル混繊複合繊維中の制電成分が局在化してしまい、混繊繊維の糸斑を生じやすいうえに、染色後の布帛品位を著しく低下させる。反対にRが1000×10Ω・cmを越えるものは制電性をほとんど示さず本発明の目的を達成できない。混繊繊維の比抵抗が500×10Ω・cm以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明のポリエステル混繊複合繊維は、繊維表面に、繊維軸方向に配向した制電剤よりなる筋を多数有し、筋の幅が0.1μm以上、3μm以下、隣接する筋の間隔が2μm以下である。ここで、繊維表面に繊維軸方向に配向した制電剤よりなる筋を多数有するとは、該ポリエステル繊維を弱アルカリ水溶液により15%減量した繊維の側面を走査型電子顕微鏡で観察した時、筋状の溝が繊維軸方向に多数存在している状態をいい、筋の幅とはその筋状溝の幅のことを意味する。また、隣接する筋の間隔とは、減量した繊維の側面について、繊維軸方向に直交する直線を無作為に5本引いた時、該直線が横切る繊維側面での隣接する筋状溝の間隔を測定し、測定値を平均化した値を意味する。
【0031】
筋の幅が0.1μm未満では得られるポリエステル繊維の制電性、吸水性ともに不十分であり、3μmを越える場合は、制電性、吸水性は良好であるが、染色斑を生じ染色品位の悪化を招く。筋の幅は0.3μm以上、2.5μm以下であることがより好ましい。
【0032】
また、筋の長さについては、特に限定するものではないが、5μm以上、100μm以下であることが制電性が良好となり好ましい。ここで、筋の長さとは該ポリエステル繊維を弱アルカリ水溶液により15%減量した繊維の側面を走査型電子顕微鏡で観察した時、繊維軸方向に多数存在している筋状の溝の繊維軸方向の長さを意味する。
【0033】
本発明において制電剤として使用されるポリマーとしては、エチレンオキシドやプロピレンオキシドの縮合生成物あるいは両者の縮合生成物などのポリアルキレンエーテル(ポリアルキレンオキシド)や、ポリアルキレンオキシド成分にアミノカルボン酸、ラクタム、ジアミン、ジカルボン酸、ジカルボン酸エステルなどを反応させたポリエーテルアミド、ポリエーテルエステル、ポリエーテルエステルアミドなどのブロック共重合ポリマーなどが挙げられる。なかでもポリエーテルエステルアミドが好ましい。
【0034】
ポリエーテルエステルアミドとしては、構成成分である(A)アミノカルボン酸、またはラクタムもしくはジアミンとジカルボン酸の塩としては、炭素数6以上のアミノカルボン酸、またはラクタムもしくは炭素原子数6以上のジアミンとジカルボン酸の塩が好ましく、より好ましくはω−アミノカプリル酸、ω−アミノベルコン酸、ω−アミノカプロン酸、及び11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸あるいはカプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム及びラウロラクタムなどのラクタム及びヘキサメチレンジアミン−アジピン酸塩、ヘキサメチレンジアミン−セバシン酸塩、及びヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸などのジアミン−ジカルボン酸の塩が用いられ、その中でもカプロラクタム、1,2−アミノドデカン酸、ヘキサメチレンジアミン−アジピン酸塩がさらに好ましく用いられる。
【0035】
ポリエーテルエステルアミドの構成成分である(B)ポリ(アルキレンオキシド)グリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックまたはランダム共重合体などが好ましく用いられるが、これらの中でも、制電性が優れる点で、特にポリエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0036】
ポリエーテルエステルアミドの構成成分である(C)ジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2、7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4’ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸及び5−スルホイソフタル酸の如き芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸及びジシクロヘキシル−4,4’ジカルボン酸の如き脂肪族ジカルボン酸、及びコハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸及びドデカンジ酸(デカンジカルボン酸)の如き脂肪族カルボン酸などが挙げられ、特にテレフタル酸、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、セバシン酸、アジピン酸及びドデカジン酸が重合性、色調及び物性の点から好ましく用いられる。
【0037】
ポリ(アルキレンオキシド)グリコールとジカルボン酸は反応上は1:1のモル比で反応するが使用するジカルボン酸の種類により通常仕込み比を変えて支給される。
【0038】
本発明のポリエーテルエステルアミドの構成単位でポリエーテルエステル単位は30重量%以上70重量%以下の範囲で用いられ、優れた機械的性質、製糸性良好で、得られる繊維の制電性を十分満足できる。
【0039】
本発明の制電剤におけるスルホン酸の金属塩化合物とは、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸とナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属から形成される塩や、アルキルスルホン酸とナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属から形成される塩であり、中でもドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0040】
該スルホン酸金属塩化合物のポリエーテルエステルアミドへの配合量は、ポリエーテルエステルアミドが100重量部に対し2重量部以上、20重量部以下であり、特に好ましくは3重量部以上、10重量部以下である。配合量が本範囲を満足する制電剤を用いて得られる繊維は、より制電性に優れ、かつ製糸性も良好となる。尚、本発明においてポリエステルに含有させるポリエーテルエステルアミド系制電剤には従来公知の抗酸化剤、着色防止剤等が添加されても勿論良い。
【0041】
制電剤が上記構成を満足することにより、制電成分の筋が均一に分散しやすくなり、制電性が十分に発揮できるものと推定される。
【0042】
以上のような制電剤を添加させる方法は、ポリエステルの重合工程から紡糸工程における溶融までの任意の段階でよいが、特に紡糸前にポリエステルチップと制電剤チップとを所定の比率にてブレンドし、紡糸機内で溶融混合させる方法が制電剤の分散性、制電性の両者の観点から好ましい。チップブレンドの方法としては、ブレンダーなどにより機械的にブレンドさせる手段もあるが、ブレンドチップ移動時の脱混合を防止する面から、計量供給装置により溶融押出装置の供給部へ各チップを所定の比率にて連続的に計量・供給し、ブレンドする方がより好ましい。
【0043】
紡糸機は、スクリュープレッシャーメルター型溶融紡糸機やエクストルダー型溶融紡糸機を用いることができる。制電剤の分散性、制電性の観点からエクストルダーが好ましい。また、エクストルダーのスクリューは、下記式で表される圧縮比
圧縮比(以下VCRと略す)=Hf(D−Hf)/Hm(D−Hm)
Hf:スクリュー供給部溝深さ(mm)
Hm:スクリュー溶融部溝深さ(mm)
D:スクリュー径(mm)
が2.0以上、3.0以下の特性を満たすことが好ましく、2.0以上、2.5以下がより好ましい。
【0044】
また、それぞれの断面形状のフィラメント糸を構成するものとしては、別々の断面形状のフィラメント糸を構成するものであるが、本特許の目的を満足する範囲内で別々のポリマー種であっても良い。
【0045】
凹部を有しない断面形状のフィラメント糸の単糸繊度D1と凹部を有する断面形状フィラメント糸の単糸繊度D2の関係は0.5≦D2/D1≦2.0であり、D1、D2はいずれも1.11dtex以上、11.11dtex以下であることが良い。D2/D1が0.5以上であることによって、凹部を有する断面形状のフィラメント糸の効果によりヌメリ感を防ぐことができ、D2/D1が2.0以下とすることにより、凹部を有する断面形状フィラメント糸のザラザラ感を強調しすぎることなくサラッとした風合いを得られる。
【0046】
次に、本発明の混繊複合繊維からなる織編物について説明する。本発明の混繊複合繊維は凹部を有しない断面形状のフィラメント糸と凹部を3〜8個有する断面形状のフィラメント糸との組み合わせによる形状の効果と繊維表面に存在する親水性を有する制電剤の効果により吸水性が優れており、バイレック法による吸水性が30mm以上、滴下法による拡散速度が10秒以下となる。バイレック法による吸水性の上限は200mm以下であり、滴下法による拡散速度の下限は0秒である。
【0047】
なお、バイレック法による吸水性の測定は、JIS L 1097:2004「繊維製品の吸水性試験方法」に規定されているバイレック法を準用し、次の方法で行った。まず、サンプルとして200mm×25mmの試験片をたて、よこ方向にそれぞれ5枚採取する。次に水(JIS K 0050に規定するもので、その温度は20℃±2℃とする)を入れた水槽の水面上に支えた水平棒上に試験片をピンなどで固定した後、水平棒を降下させて、試験片の下端が水に浸せきするように調整し、そのまま10分間放置する。放置後、毛細管現象によって水が上昇した高さをスケールで1mmまで測定し、たて、よこそれぞれの5回の平均値で表す(整数位まで)。また、水の上昇した高さが読みとりにくい場合は、水の代わりに水溶性染料を薄く水に溶かした水溶液を用いてもよい。
【0048】
また、滴下法による吸水性の測定は、JIS L 1097:2004「繊維製品の吸水性試験方法」における滴下法を準用し、次の方法で行った。まず、サンプルとして約200mm×約200mmの試験片を5枚採取する。次に試験片を試験片保持枠に取り付け、試験片の表面からビュレットの先端までが10mmの高さになるように調整し、ビュレットから水(JIS K 0050に規定するもので、その温度は20℃±2℃とする)を1滴滴下させ、水滴が試験片の表面に達したときからその水滴が特別な反射をしなくなるまでの時間をストップウォッチで0.5秒まで測定し、5回の平均値で表す(整数位まで)。
【0049】
本発明の混繊複合繊維からなる織編物は、摩擦帯電圧を3000(V)以下として、より優れた制電性を発現せしめるものである。
【0050】
また、織編物の摩擦帯電圧の測定は、JIS L 1094:1997「織物および編物の帯電性試験方法」における摩擦帯電圧測定法を準用し、次の方法で行った。まず、サンプルとして50mm×80mmの試験片をたて、よこ方向にそれぞれ10枚採取する。また、摩擦布から約25mm、長さ約150mmの大きさのものを10枚採取する。摩擦帯電圧測定機に、オシロスコープを接続し、受電部の電極板と試験片取付枠面との距離を約15mmにする。次に除電装置を用いてサンプルおよび摩擦布を除電し、除電した摩擦布を摩擦帯電圧測定機に取り付けて高さを調節し、4.9Nの荷重を加え、試験片取付枠の1か所に試験片の表面が摩擦面になるように取り付ける。回転ドラムを回転させて試験片を摩擦し、摩擦開始から60秒後の帯電圧(V)を測定する。試験片及び摩擦布を取り替えて、この操作をたて、よこ方向にそれぞれ5枚の試験片について行い、5枚の平均値で表す(有効数字2ケタ)。
【0051】
本発明の混繊複合繊維を用いて得られる織物は、従来の芯鞘2層構造を有する複合構造仮撚加工糸を用いて得られる織物とは異なる、優れたドレープ性を有し、ドライな風合い効果の織物を得ることができる。
【0052】
次に、本発明の混繊複合繊維を製造する方法について説明する。本発明の混繊複合糸は、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸が混繊されたポリエステル未延伸糸または半延伸糸を得、次いで延伸あるいは延伸仮撚加工を施すことにより得ることが出来るが、重要なことは、紡糸工程の引き取りローラーに引き取られる前に混繊集束し、異なる断面形状のフィラメント糸が混繊されたポリエステル未延伸糸または半延伸糸とすることである。また、公知の直接紡糸延伸のような紡糸工程と延伸工程を連続して処理する方法や特公昭45−1932号公報、特開昭60−75609号公報に記載されているような溶融紡糸した糸条を一旦ガラス転移温度以下まで冷却した後再び加熱帯域中を通過せしめ、熱延伸を施す方法を用いても勿論よい。具体的にはたとえば、図14〜18に示す工程により得ることができる。
【0053】
図14〜18は、それぞれ本発明の混繊複合糸を得る方法の例を示す工程概略図である。図14は、少なくとも1種類が凹部を有しない形状で、それ以外の形状が3〜8個の凹部を有する形状であって、2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される1枚の口金(A)から紡出された糸条を収束・給油し、その後インターレースノズルにより混繊収束し、引き取りローラーに引き取る方法を示す。
【0054】
図15には凹部を有しない形状の紡糸孔で構成される1枚の口金(B)、一方は3〜8個の凹部を有する形状の紡糸孔で構成される1枚の口金(C)からそれぞれ紡出された糸条を集束・給油し、その後インターレースノズルによって混繊集束し、引き取りローラーに引き取る方法を示す。
【0055】
図16には凹部を有しない形状の紡糸孔で構成される1枚の口金(B)、一方は3〜8個の凹部を有する形状の紡糸孔で構成される1枚の口金(C)からそれぞれ紡出された糸条をそれぞれ集束・給油し、その後インターレースノズルで混繊集束し、引き取りローラーに引き取る方法を示す。
【0056】
図17には少なくとも1種類が凹部を有しない形状で、それ以外の形状が3〜8個の凹部を有する形状であって、2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される1枚の口金(A)から紡出された糸条を収束・給油し、加熱引き取りローラーに引き取り、一旦巻き取らずに続いて加熱延伸ローラーに引き取り延伸熱処理した後、インターレースノズルで混繊集束し、巻き取る方法を示す。
【0057】
図18には少なくとも1種類が凹部を有しない形状で、それ以外の形状が3〜8個の凹部を有する形状であって、2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される1枚の口金(A)から紡出された糸条を一旦冷却し、筒状加熱装置に導入し延伸・熱処理を施し集束・給油し、その後インターレースノズルで混繊集束し、引き取りローラーに引き取る方法を示す。
【0058】
なかでも、各構成フィラメント糸の混繊状態および生産性の観点より、少なくとも1種類が凹部を有しない形状で、それ以外の形状が3〜8個の凹部を有する形状であって、2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される一枚の紡糸口金から、溶融したポリエステル共重合体を紡出する方法が好ましく、本発明では図14で生産する。
【0059】
本発明で用いられる2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される一枚の紡糸口金とは、たとえば図19〜22に示すように、同心円状に窄孔されたもの(図19)、群配列されたもの(図20)、格子状に窄孔されたもの(図21、図22)などが挙げられる。なお、図中の○は凹部を有しない形状の紡糸孔、×は凹部を有する形状の紡糸孔を示す。
【0060】
一方、凹部を有するフィラメント糸を紡糸して一旦巻き取り、それとは別に凹部を有しないフィラメント糸を紡糸して一旦巻き取った糸をその後引き揃えて混繊加工し得られたポリエステル未延伸糸または半延伸糸を延伸する方法では、混繊状態が外層・内層にランダムとならないので好ましくない。
【0061】
また、生産性向上の観点から、一枚の口金から複数の糸条を巻き取る方法も好ましく採用できる。
【0062】
上記の方法により得られたポリエステル未延伸糸または半延伸糸を延伸することによって、各断面形状のフィラメント糸が実質的に芯鞘2層構造を形成することなく、各単糸がランダムな状態で外層から内層まで分散している混繊複合糸とすることができる。
【0063】
本発明の製造方法において各断面形状のフィラメント糸が実質的に芯鞘2層構造を形成することなく、各単糸が比較的ランダムな状態で外層から内層まで分散している混繊複合糸とすることができるのは、凹部を有する断面形状のフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のフィラメント糸の形状の相違から、紡糸工程における冷却速度や紡糸張力の差等により、断面形状の異なるフィラメント間において配向度差を有する糸が得られ、それを延伸すると、断面形状の異なるフィラメント間に延伸張力差が生じ、外層・内層にランダムな状態で分散し、混繊された延伸糸が得られると考えられる。また、得られた延伸糸は熱水処理時に断面形状の異なるフィラメント間において異なった収縮挙動を示すことからふくらみを生むものと考えられる。
【0064】
また、本発明の混繊複合糸の製造工程において、延伸を行った後、巻き取る前にインターレースノズルにより単糸間に交絡を付与することはさらに効果的である。混繊複合糸が芯・鞘2層構造でないため、凹部を有する断面形状のマルチフィラメント糸と凹部を有しない断面形状のマルチフィラメント糸の混繊効果を高め、マイグレーションさせることによって本発明の効果を大きくすることができるので好ましい。また、それはいわゆる混繊複合糸の後工程での通過性を高めるという効果も奏する。後工程通過性が悪いと、織編物としたときに布の表面形態の品質低下を招きやすくなる。交絡数は10コ/m以上であることが好ましい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を詳述するが、これら実施例のみに本発明の範囲が限定されるものではない。なお、実施例中の原糸、織物の特性値は発明を実施するための最良の形態中に記載の方法により求め、ドライ感、汗処理性、静電気防止効果、布帛品位は次の方法により評価した。
(1)ドライ感
ハンドリングによる官能試験により10人のパネラーに10点満点で採点してもらい、下記のとおり3段階で評価した。◎、○が本発明の目標レベルである。
【0066】
◎ :10人のパネラーの平均点が9点以上
○ :10人のパネラーの平均点が6点以上9点未満
× :10人のパネラーの平均点が6点未満
(2)汗処理性
布帛におけるバイレック法による吸水高さと滴下法による拡散速度より、下記のとおり3段階で評価した。◎、○が本発明の目標レベルである。
【0067】
◎ :吸水高さが50mm以上かつ拡散速度が5秒以下
○ :吸水高さが30mm以上50mm未満かつ拡散速度が10秒以下、或いは吸水高さが30mm以上かつ拡散速度が5秒超過10秒以下
× :吸水高さが30mm未満または拡散速度が10秒超過
(3)静電気防止効果
布帛における摩擦帯電圧より、下記のとおり3段階で評価した。◎、○が本発明の目標レベルである。
【0068】
◎ :摩擦帯電圧が2000V以下
○ :摩擦帯電圧が2000V超過3000V以下
× :摩擦帯電圧が3000V超過
(4)布帛品位
布帛の染色性(斑感、スジ)および毛羽節などを総合的にみて10点満点で採点し、下記のとおり3段階で評価した。
【0069】
◎ :9点以上
○ :6点以上9点未満
× :6点未満
実施例1〜7、比較例1〜6
制電性ポリマ組成を表1に示すように変更したポリエーテルエステルアミド系制電剤チップを調整した。なお、調整時には抗酸化剤として1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリ(3,5−ジ−terブチル−4−ヒドロキシル)ベンゼンをポリエーテルエステルアミド100重量部に対し5.5重量部添加した。ポリエーテルエステルアミド系制電剤チップを80℃で6時間乾燥した後、160℃で6時間真空乾燥したポリエチレンテレフタレート(以下PETと略す)チップと表1に示す混率にてブレンドして、スクリュープレッシャーメルター型溶融紡糸機にて溶融し、丸孔24穴、6葉型(ヘキサローバル型)孔24穴を図19に示すように配した口金を用い、図14に示すような工程により3000m/minの速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20コ/mの半延伸糸を得た。この半延伸糸を通常のホットロール−ホットロール系延伸機を用いて延伸温度90℃、熱セット温度130℃、延伸倍率1.67倍、延伸速度500m/minで延伸し、84デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。得られた混繊複合糸の糸断面を包埋法による光学顕微鏡観察をした結果、図10に示すように、丸断面形状とヘキサローバル断面が内層・外層にランダムに分散した状態の構造からなるマルチフィラメント糸であった。この延伸糸を用いて製織し、120℃の液流リラックス処理、190℃の中間セット、130℃の液流染色処理、160℃の仕上げセットを行い、仕上げ密度をタテ84本/2.54cm、ヨコ73本/2.54cmの織物を得た。表1に評価結果を示す。
【0070】
【表1】

【0071】
実施例8
実施例1と同一組成のポリエーテルエステルアミド系制電剤チップを80℃で6時間乾燥した後、160℃で6時間真空乾燥したPETチップとブレンドして、スクリュープレッシャーメルター型溶融紡糸機にて溶融し、丸孔24穴、4葉型孔24穴を図19に示すように配した口金を用い、図14に示すような工程により3000m/minの速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20コ/mの半延伸糸を得た。この半延伸糸を通常のホットロール−ホットロール系延伸機を用いて延伸温度90℃、熱セット温度130℃、延伸倍率1.67倍、延伸速度500m/minで延伸し、84デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。得られた混繊複合糸の糸断面を包埋法による光学顕微鏡観察をした結果、丸断面形状と4葉断面が内層・外層にランダムに分散した状態の構造からなるマルチフィラメント糸であった。この延伸糸を用いて製織し、120℃の液流リラックス処理、190℃の中間セット、130℃の液流染色処理、160℃の仕上げセットを行い、仕上げ密度をタテ84本/2.54cm、ヨコ73本/2.54cmの織物を得た。表2に評価結果を示す。
【0072】
比較例7
実施例1と同一組成のポリエーテルエステルアミド系制電剤チップを80℃で6時間乾燥した後、160℃で6時間真空乾燥したPETチップとブレンドして、紡糸、延伸して得たポリエステルフィラメントで8個の凹部を有するオクタローバル糸(84デシテックス36フィラメント)と、それとは別に同様のチップを紡糸、延伸して得たポリエステルフィラメントで凹部を有しない丸断面糸(84デシテックス36フィラメント)とを引き揃え、混繊交絡処理を施して1本の混繊複合糸を得た。得られた混繊複合糸の糸断面を包埋法による光学顕微鏡観察をした結果、丸断面形状とオクタローバルが2層に分かれた状態の構造からなるマルチフィラメント糸であった。この混繊複合糸を用いて製織し、120℃の液流リラックス処理、190℃の中間セット、130℃の液流染色処理、160℃の仕上げセットを行い、仕上げ密度をタテ69本/2.54cm、ヨコ60本/2.54cmの織物を得た。表2に評価結果を示す。
【0073】
比較例8
実施例1と同一組成のポリエーテルエステルアミド系制電剤チップを80℃で6時間乾燥した後、160℃で6時間真空乾燥したPETチップとブレンドして、スクリュープレッシャーメルター型溶融紡糸機にて溶融し、丸孔48穴を配した口金を用い、図14に示すような工程により3000m/minの速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20コ/mの半延伸糸を得た。この半延伸糸を通常のホットロール−ホットロール系延伸機を用いて延伸温度90℃、熱セット温度130℃、延伸倍率1.67倍、延伸速度500m/minで延伸し、84デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて製織し、120℃の液流リラックス処理、190℃の中間セット、130℃の液流染色処理、160℃の仕上げセットを行い、仕上げ密度をタテ84本/2.54cm、ヨコ73本/2.54cmの織物を得た。表2に評価結果を示す。
【0074】
比較例9
実施例1と同一組成のポリエーテルエステルアミド系制電剤チップを80℃で6時間乾燥した後、160℃で6時間真空乾燥したPETチップとブレンドして、スクリュープレッシャーメルター型溶融紡糸機にて溶融し、6葉型(ヘキサローバル型)孔48穴を配した口金を用い、図14に示すような工程により3000m/minの速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20コ/mの半延伸糸を得た。この半延伸糸を通常のホットロール−ホットロール系延伸機を用いて延伸温度90℃、熱セット温度130℃、延伸倍率1.67倍、延伸速度500m/minで延伸し、84デシテックス48フィラメントの延伸糸を得た。この延伸糸を用いて製織し、120℃の液流リラックス処理、190℃の中間セット、130℃の液流染色処理、160℃の仕上げセットを行い、仕上げ密度をタテ84本/2.54cm、ヨコ73本/2.54cmの織物を得た。表2に評価結果を示す。
【0075】
実施例9
実施例1と同一組成のポリエーテルエステルアミド系制電剤チップを80℃で6時間乾燥した後、160℃で6時間真空乾燥したPETチップとブレンドして、VCR=2.3、Q/N=1.4の特性を有するエクストルーダー型溶融紡糸機にて溶融し、丸孔12穴、6葉型(ヘキサローバル型)孔12穴を配した口金を用い、図18に示すような工程により口金から紡出された糸条を一旦冷却し、筒状加熱装置(加熱域の温度=200℃)に導入して延伸した後、ゴデッドローラーを経由して4900m/minの速度で巻き取り、56デシテックス24フィラメント、交絡数13コ/mの延伸糸を得た。得られた混繊複合糸の糸断面を包埋法による光学顕微鏡観察をした結果、図11に示すように、丸断面形状とヘキサローバル型断面が内層・外層にランダムに分散した状態の構造からなるマルチフィラメント糸であった。この延伸糸を用いて丸編機にて製編し、中間セット、液流染色処理、仕上げセットを行い、編物を得た。表2に評価結果を示す。
【0076】
実施例10
実施例1と同一組成のポリエーテルエステルアミド系制電剤チップを80℃で6時間乾燥した後、160℃で6時間真空乾燥したPETチップとブレンドして、スクリュープレッシャーメルター型溶融紡糸機にて溶融し、丸孔24穴、6葉型(ヘキサローバル型)孔24穴を図19に示すように配した口金を用い、図14に示すような工程により3000m/minの速度で紡糸し、140デシテックス48フィラメント、交絡数20コ/mの半延伸糸を得た。この半延伸糸を東レエンジニアリング社製フリクション方式延伸仮撚機DF−7型で、延伸倍率1.67倍、加撚撚数3000T/Mで延伸仮撚加工を実施し、84デシテックス48フィラメントの仮撚捲縮糸(混繊複合糸)を得た。得られた混繊複合糸の糸断面を包埋法による光学顕微鏡観察をした結果、丸断面形状が延伸仮撚加工によっておにぎり状等に変形した凹部を有しない断面形状フィラメント糸と、6葉型断面形状が延伸仮撚加工によって変形した凹部を有する断面形状フィラメント糸が2層構造を形成することなく内層・外層にランダムに分散した状態の構造からなるマルチフィラメント糸であった。この仮撚加工糸を用いて丸編機にて製編し、中間セット、液流染色処理、仕上げセットを行い、編物を得た。表2に評価結果を示す。
【0077】
【表2】

【0078】
実施例1〜10は吸水性、汗処理性ともに優れ、ドライな風合いを有したものとなった。また、優れた静電気防止効果を示し、布帛品位ともに良好なものとなった。
【0079】
これに対し、比較例1は制電剤の含有量が少ない上に繊維表面の制電剤よりなる筋の間隔が狭く、汗処理性、静電気防止効果が悪いものとなった。比較例2は制電剤の含有量が多い上に繊維表面の制電剤よりなる筋の幅が大きく、布帛品位が悪いものとなった。比較例3および比較例5は、原糸比抵抗が高く静電気防止効果が悪いものとなった。比較例4は繊維表面の制電剤よりなる筋の幅が小さく汗処理性が悪いものとなった。比較例6は繊維表面の制電剤よりなる筋の幅が大きく布帛品位が悪いものとなった。比較例7は凹部を有する断面糸と凹部を有しない断面糸をそれぞれ別々に紡糸、延伸し、後混繊により混繊複合糸を得ており、凹部を有する断面と凹部を有しない断面が2層に分かれており、凹部を有する断面がかみ合うことにより単糸間の空隙が十分にとれないため、バイレック法による吸水高さが低い上に滴下法による吸水拡散速度も低く、ドライ感、汗処理性が悪いものとなった。比較例8は凹部を有しない断面のみよりなるフィラメントで構成されており、ドライ感、汗処理性が悪いものとなった。比較例9は凹部を有する断面のみよりなるフィラメントで構成されており、ドライ感、汗処理性が悪いものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】繊維断面形状の説明図
【図2】凹部を有しないフィラメント糸の断面形状の一例示図
【図3】凹部を有しないフィラメント糸の断面形状の一例示図
【図4】凹部を有しないフィラメント糸の断面形状の一例示図
【図5】繊維断面形状の説明図
【図6】凹部を有するフィラメント糸の断面形状の一例示図
【図7】凹部を有するフィラメント糸の断面形状の一例示図
【図8】凹部を有するフィラメント糸の断面形状の一例示図
【図9】凹部を有するフィラメント糸の断面形状の一例示図
【図10】本発明の混繊複合糸の一例を示す断面概略図
【図11】本発明の混繊複合糸の一例を示す側面概略図
【図12】従来の交互撚芯鞘2層構造糸を示す側面概略図
【図13】従来の芯鞘多層構造糸を示す側面概略図
【図14】本発明の混繊複合糸を得る方法の一例を示す工程概略図
【図15】本発明の混繊複合糸を得る方法の他の一例を示す工程概略図
【図16】本発明の混繊複合糸を得る方法のさらに他の一例を示す工程概略図
【図17】本発明の混繊複合糸を得る方法のさらに他の一例を示す工程概略図
【図18】本発明の混繊複合糸を得る方法のさらに他の一例を示す工程概略図
【図19】本発明で用いられる口金の一例を示す平面概略図
【図20】本発明で用いられる口金の他の一例を示す平面概略図
【図21】本発明で用いられる口金のさらに他の一例を示す平面概略図
【図22】本発明で用いられる口金のさらに他の一例を示す平面概略図
【符号の説明】
【0081】
1:口金
2:チムニー
3:給油ガイド
4:インターレースノズル
5:引き取りローラー
6:パッケージ
7:筒状加熱装置
A:2種類以上の異なる形状の紡糸孔で構成される1枚の口金
B:凹部を有しない形状の紡糸孔で構成される1枚の口金
C:3〜8個の凹部を有する形状の紡糸孔で構成される1枚の口金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性の高いポリマーを制電剤として0.2〜5重量%含有する2種類以上の異なる断面形状のポリエステルフィラメント糸であって、一方が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸、他方が3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸であり、それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で混繊している混繊繊維であり、下記(1)、(2)を同時に満足することを特徴とする混繊複合繊維。
(1)混繊繊維の比抵抗が10×10〜1000×10Ω・cmである。
(2)繊維表面に、繊維軸方向に配向した制電剤よりなる筋を多数有し、筋の幅が0.1〜3μm、隣接する筋の間隔が2μm以下である。
【請求項2】
制電剤が(A)アミノカルボン酸、またはラクタム、もしくはジアミンとジカルボン酸の塩、(B)ポリ(アルキレンオキシド)グリコール、および(C)ジカルボン酸から構成されるポリエーテルエステルアミドであって、ポリエーテルエステル単位が30〜70重量%である該ポリエーテルエステルアミド100重量部とスルホン酸の金属化合物2〜20重量部からなるポリエーテルエステルアミド系制電剤であることを特徴とする請求項1記載の混繊複合繊維。
【請求項3】
親水性の高いポリマーを制電剤として0.2〜5重量%含有しているとともに、2種類以上の異なる断面形状のポリエステルフィラメント糸であって、一方が凹部を有しない断面形状のフィラメント糸、他方が3〜8個の凹部を有する断面形状のフィラメント糸であり、それぞれの断面形状のフィラメント糸がランダムな状態で混繊している混繊複合繊維からなる、バイレック法による吸水特性が30mm以上、滴下法による拡散速度が10秒以下である織編物。
【請求項4】
摩擦帯電圧が3000(V)以下であることを特徴とする請求項3記載の織編物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2006−274473(P2006−274473A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94342(P2005−94342)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】