説明

添加剤存在下でのイオン液体を用いる金属電着方法

本発明は、金属層の厚さを増すために、イオン液体を電解質として使用して基材上に金属を電気めっきまたは電解研磨する方法での非晶質シリカ、黒鉛粉末およびそれらの混合物からなる群から選択される添加剤の使用に関する。さらに、イオン液体が、電解質として使用され、前記イオン液体に加えられる金属塩または金属アノードが金属源として使用され、前記イオン液体が前記添加剤を含む、金属基材上に金属を電気めっきまたは電解研磨する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、添加剤の存在下で電解質としてイオン液体を用いて基材上に金属を電着させる方法、および析出金属層の層厚を増すための前記添加剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン液体は、イオンが十分に配位結合されていないため、このような溶媒が100℃以下の温度で液体になる塩である。多くは、室温でも液体である。イオン液体中の少なくとも1つのイオンは、非局在化した電荷を有し、1つの成分は、安定な結晶格子の形成を妨げる有機である。イオン液体は、通常蒸気圧が非常に低く、したがって、多くの従来の溶媒と比較して、実質的には有害な蒸気を生成しない。一般的に、イオン液体は、多くの用途、例えば反応溶媒、抽出溶媒、バッテリーおよび電着における電解質、触媒、熱交換流体として、被覆における添加剤として使用できることが公知である。
【0003】
周知の系としては、ハロゲン化アルミニウムを用いてハロゲン化アルキルピリジウムまたはハロゲン化ジアルキルイミダゾリウムから形成したもの、ならびに塩化コリンおよび(水和)金属塩、例えば塩化クロム(III)に基づくものが挙げられる。これらの系は、例えばEP0404188およびEP1322591に記載されているように、電気めっきにおける電解質として利用されてきた。
【0004】
さらに、WO2002/026381は、塩化コリンおよび(水和)金属塩、例えば塩化クロム(III)のイオン液体(共融混合物)、ならびに電着および電解研磨でのそれらの使用を開示している。混合物は、アンモニウムと金属イオンとの比が1:1〜1:2.5の間である、塩化コリンおよび(水和)金属塩からなり、具体的には、クロム、コバルト、亜鉛または銀を金属基材上に析出させるのに適していると言われている。
【0005】
さらに、PCT/EP/2007/051329は、
または

の群から選択されるイオン液体を電解質として使用し、かつイオン液体に加える金属塩を金属源として使用するか、または金属アノードを金属源として使用する、基材上に金属を電気めっきまたは電解研磨する方法を記載している
[式中、R〜Rのいずれか1つは、水素、またはOH、Cl、Br、F、I、フェニル、NH、CN、NO、COOR、CHO、CORまたはORから選択される基で置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を独立に表し、R〜Rの少なくとも1つは、脂肪族アルキル鎖であり、R〜Rの1つまたは複数は、(ポリ)オキシアルキレン基であってよく、ここでアルキレンはC〜Cアルキレンであり、オキシアルキレン単位の総数は1〜50オキシアルキレン単位であってよく、R〜Rの少なくとも1つはC〜Cアルキル鎖であり、Rは、アルキル基またはシクロアルキル基であり、Xは、N−アシルスルホニルイミドアニオン(−CO−N−SO−)官能基を有するアニオンであり、Yは、Nアンモニウムカチオンと適合するアニオン、例えばハロゲン化物アニオン、カルボン酸アニオン、硫酸(有機硫酸および無機硫酸の両方)アニオン、スルホン酸アニオン、炭酸アニオン、硝酸アニオン、亜硝酸アニオン、チオシアン酸アニオン、水酸化物アニオンまたはスルホニルイミドアニオンである]。
【0006】
電着法における電解質としてのイオン液体の使用は、いくつかの利点を有する。例えば、従来のクロム酸めっき法は、非常に有毒で発がん性のある六価クロムに主に依存するため、非常に有害である。他方で、イオン液体は、六価クロムを使用する必要がなく、危険性が極めて低いと考えられる三価クロムを使用することができる。また、従来のクロムめっき浴では、重大な処理問題を有する強酸を使用する必要があるのに対して、イオン液体の使用により、通常このような処理問題を最小限に抑えるか、または排除することもできる。さらに、イオン液体は、不揮発性であり、したがって大気汚染を引き起こさない。
【0007】
しかし、150〜200nmより厚いいくつかの金属の金属層を析出させることが困難であるか、または不可能でもあることは、イオン液体を電解質として使用する先行技術の電着法の欠点である。
【0008】
装飾めっきなどのいくつかの用途については、金属薄層を有することは、許容範囲である。しかし、金属層が、摩耗または摩滅から保護されるか、または硬度が改善されることを必要とする用途(機能めっき)については、200nmよりはるかに厚い金属層が必要とされる。より詳細には、数マイクロメーター、さらには数10マイクロメーターの層が望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、厚さを増した金属層が析出される、イオン液体を基にした電着系の改良が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、イオン液体を基にしためっき浴に特定の添加剤を加えることにより、より厚い金属層が析出されることが判明した。より詳細には、本発明は、イオン液体が、金属層の厚さを増すために電解質として使用される、基材上に金属を電気めっきまたは電解研磨する方法での非晶質シリカ、黒鉛粉末またはそれらの混合物の添加剤としての使用に関する。
【0011】
添加剤は、いくつかの理由で電解質を含むイオン液体に加えられてきた。例えば、US7196221は、金属めっきおよび電解研磨法で、特にクロムめっき法でのイオン液体溶媒/電解質中で得られる被膜の外観を改善するための増白剤の使用について開示している。増白剤としては、チオ尿素、サッカリン、バニリン、アリル尿素、ニコチン酸、クエン酸、ゼラチン、2−メルカプトベンゾチアゾール、フッ化テトラエチルアンモニウム二水和物または水酸化テトラメチルアンモニウム五水和物が挙げられる。しかし、これらの添加剤は、析出層の均質性に対して悪影響を与えるか、またはまったく影響を与えない。
【0012】
WO2006/074523は、レドックス試薬、錯化剤、導電性向上剤が存在してもよい、イオン液体からの白金族金属の電着を含む、白金族金属の回収法に関する。
【0013】
電磁放射線の反射および/または透過を制御するための、調整可能なミラー、スマートウィンドー、光減衰器およびディスプレーなどの装置に関するUS6552843は、イオン液体電解質を使用する可逆的電着光変調装置について開示している。イオン液体電解質は、イオン有機化合物と電着可能な金属の塩との混合物からなる。イオン有機化合物は、複素環カチオン、例えばN−アルキルピロリジニウム、ピロリジニウム、1−アルキル−3−メチルイミダゾリウム、N−アルキルピリジニウム、2−アルキル−1−ピロリニウム、1−アルキルイミダゾリウムを含む。電着可能な金属としては、銀、銅、錫、亜鉛、パラジウム、ビスマス、カドミウム、水銀、インジウム、鉛、アンチモン、タリウムおよびそれらの合金がある。前記イオン液体電解質は、有機または無機のゲル化剤を加えることにより、より粘性が高い半固体または固体になり得ることが言及されている。懸濁炭素および溶解色素を含む無機物または有機物を電解質に加えて、所望の色を与えるか、またはバックグラウンド反射を低減させることができる。
【0014】
これらの文書は、電解質を含むイオン液体を用いる電着法において、より厚い金属層を得る方法を教示するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本出願で電着という用語は、電気めっきおよび電解研磨の両方を含むことを理解すべきである。電気めっきとは、導電性物体を金属層で被覆するために電流を使用する方法を意味する。物体上に金属が薄く滑らかでムラなく被覆されることが、好ましい結果である。電気めっきの主な用途は、いくつかの所望の特性(例えば、耐摩耗性、防食、潤滑性、美的性質の向上など)を有する金属層をその特性が不足している表面上に析出させることである。別の用途は、小型の部品上で厚さを増すために電気めっきを使用する。電解研磨とは、元は粗いか、または不均一な金属表面を、比較的薄い金属層で被覆することによりその外観を滑らかにし、向上させることを意味する。
【0016】
析出した金属層の厚さを増すために本発明に従って使用する添加剤としては、非晶質シリカ、黒鉛粉末またはそれらの混合物がある。
【0017】
非晶質シリカという用語は、シリカゾルとも称されるコロイドシリカ粒子が、例えば沈殿シリカ、シリカゲル、焼成シリカ(ヒュームドシリカ)、マイクロシリカ(シリカヒューム)またはそれらの混合物に由来し得る任意の形態のコロイドシリカ粒子を含むことを意味する。本発明によるコロイドシリカは、修飾されていてもよく、粒子および/または連続相中に存在することができる他の要素、例えばアミン、アルミニウムおよび/またはホウ素を含有していてもよい。
【0018】
コロイドシリカ粒子は、水性シリカゾルを形成するために、適切には、安定化カチオン、例えば、K、Na、Li、NH、有機カチオン、第1級、第2級、第3級および第4級のアミン、ならびにそれらの混合物の存在下で、実質的に水性の溶媒中に分散させてもよい。しかし、有機シリカゾルとしても示される、有機溶媒、例えば低級アルコール、アセトンまたはそれらの混合物を含む分散液も使用できる。ゾル中のシリカ含有量は、約5〜約80重量%であることが好ましい。
【0019】
本発明に従って使用するのに適した水性シリカゾルは、例えばAkzo Novelから商業的に入手できる。適切な有機シリカゾルは、例えばNissan Chemical Industriesから商業的に入手できる。
【0020】
黒鉛粉末とは、例えばDegussaから商業的に入手できる、微粉化したカーボンパウダーまたはカーボンブラックを意味する。
【0021】
電解質の全重量に対して、少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.05重量%、最も好ましくは少なくとも0.1重量%の量で添加剤を使用することが好ましい。電解質の全重量に対して、5重量%以下、より好ましくは3重量%以下、最も好ましくは1重量%以下の添加剤を使用することが好ましい。電解質という用語は、全電解質混合物、即ち溶解した金属塩および添加剤を含むことを表すことが留意される。
【0022】
本発明を用いて、即ち記載の添加剤(複数可)を添加することで、前記添加剤(複数可)なしでの電着と比較したとき、層厚は、少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも20倍、最も好ましくは少なくとも40倍増加させることができる。
【0023】
電解質として使用するイオン液体は、N、Nおよびそれらの混合物
[式中、R〜Rのいずれか1つは、水素、またはOH、Cl、Br、F、I、フェニル、NH、CN、NO、COOR、CHO、CORまたはORから選択される基で置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を独立に表し、R〜Rの少なくとも1つは、場合により分岐した脂肪族アルキル鎖であり、Rは、(C〜Cアルキル)−N161718基(R16、R17、R18は各々R、R、Rと同じである)、またはC〜Cアルキル鎖であってよく、R〜Rの1つまたは複数は、(ポリ)オキシアルキレン基であってよく、ここで、アルキレンがC〜Cアルキレンであり、オキシアルキレン単位の総数は1〜50オキシアルキレン単位であってよく、R〜Rの少なくとも1つはC〜Cアルキル鎖であり、Rは、アルキル基またはシクロアルキル基であり、Xは、Nアンモニウムカチオンと適合するアニオン、例えばハロゲン化物アニオン、カルボン酸アニオン、硫酸(有機硫酸および無機硫酸の両方)アニオン、スルホン酸アニオン、炭酸アニオン、硝酸アニオン、亜硝酸アニオン、チオシアン酸アニオン、水酸化物アニオン、サッカリン酸アニオンまたはスルホニルイミドアニオンであり、Yは、スルホニルイミドアニオンまたはN−アシルスルホニルイミドアニオン(−CO−N−SO−)官能基を有するアニオンである]
からなる群から選択されることが好ましい。
【0024】
一実施形態において、Xは、F、Cl、Br、Iの群;R10COOアニオン(式中、R10は、水素、C〜C22のアルキル基、アルケニル基または芳香族基であってよい)の群;R11SOアニオン(式中、R11は、存在しなくてもよく、この場合、カチオンは、2価、水素、C〜C22のアルキル基、アルケニル基または芳香族基である)の群;R12SOアニオン(式中、R12は存在しなくてもよく、この場合、カチオンは2価、水素、C〜C22のアルキル基、アルケニル基または芳香族基である)の群;R13COアニオン(式中、R13は存在しなくてもよく、この場合、カチオンは2価、水素、C〜C22のアルキル基、アルケニル基または芳香族基である)の群;R14−N−SO−R15アニオン(式中、R14および/またはR15は独立に、水素、C〜C22のアルキル基、アルケニル基または芳香族基であってよく、R14は、カルボニル基を有する窒素原子に結合していてもよい)の群から選択される。
【0025】
脂肪族アルキル鎖とは、飽和鎖および/または不飽和鎖を含むことを意味し、8〜22個の炭素原子、好ましくは10〜22個の炭素原子、最も好ましくは12〜20個の炭素原子を含有する。
【0026】
別の実施形態において、R、RおよびRが上に記載したとおりであり、Rが、(C〜Cアルキル)−N−R161718基である、式Nのイオン液体を使用する。好ましくは、R16、R17およびR18は、各々R、RおよびRと同一であり、それらの少なくとも1つが場合により分岐した脂肪族アルキル鎖であり、それによりジェミニ型構造(即ち対称ジ四級アンモニウム化合物)となる。
【0027】
別の実施形態において、Yは、甘味料として公知の化合物に基づくものである。別の実施形態において、N(式中、基R〜Rは、水素、またはOHもしくはClで場合により置換されているアルキルもしくはシクロアルキルであり;より好ましくは、それらの少なくとも3つがアルキル、より好ましくはC〜Cアルキルである)は、アミンである。
【0028】
好ましい実施形態において、イオン液体は、サッカリン酸コリン、アセスルファミン酸コリン、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ココトリメチルアンモニウム、塩化タロートリメチルアンモニウム、塩化水素化タロートリメチルアンモニウム、塩化水素化パームトリメチルアンモニウム、塩化オレイルトリメチルアンモニウム、塩化ソヤトリメチルアンモニウム、塩化ココベンジルジメチルアンモニウム、塩化C1216アルキルベンジルジメチルアンモニウム、塩化水素化タローベンジルジメチルアンモニウム、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、亜硝酸ジココジメチルアンモニウム、塩化ジココジメチルアンモニウム、塩化ジ(水素化タロー)ジメチルアンモニウム、塩化ジ(水素化タロー)ベンジルメチルアンモニウム、塩化ジタロージメチルアンモニウム、塩化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、塩化水素化タロー(2−エチルヘキシル)ジメチルアンモニウム、メチル硫酸水素化タロー(2−エチルヘキシル)ジメチルアンモニウム、塩化トリヘキサデシルメチルアンモニウム、塩化オクタデシルメチルビス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、硝酸ココビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、塩化ココビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、塩化ココビス(2−ヒドロキシエチル)ベンジルアンモニウム、塩化オレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、塩化ココ[ポリオキシエチレン(15)]メチルアンモニウム、メチル硫酸ココ[ポリオキシエチレン(15)]メチルアンモニウム、塩化ココ[ポリオキシエチレン(17)]メチルアンモニウム、塩化オクタデシル[ポリオキシエチレン(15)]メチルアンモニウム、塩化水素化タロー[ポリオキシエチレン(15)]メチルアンモニウム、酢酸トリス(2−ヒドロキシエチル)タローアンモニウム、二塩化タロー−1,3−プロパンペンタメチルジアンモニウムのいずれか1つから選択される。
【0029】
本発明に従って使用するのに適した上記のイオン液体の多くは、単純な塩の反応により、例えばサッカリン酸(アセスルファミン酸)コリンイオン液体を形成するための塩化コリンおよびサッカリン酸(アセスルファミン酸)ナトリウムのメタセシス反応により、または対応するアミンの四級化により調製することができる。
【0030】
溶解塩または金属アノードに由来する、イオン液体のアンモニウムカチオンと金属塩の金属カチオンとのモル比は、好ましくは1000:1〜3:1の間である。イオン液体のアンモニウムカチオンと金属塩の金属カチオンとのモル比は、500:1〜5:1の間がより好ましく、100:1〜7:1の間のモル比が最も好ましく、これにより、良質な金属層、イオン液体での金属の優れた溶解、およびプロセスコストとめっき基材製品の外観との間の良好なバランスが提供される。
【0031】
好ましくは、クロム、アルミニウム、チタン、亜鉛もしくは銅などの金属の1つ、またはそれらの合金を析出させる。より好ましくはクロムまたはアルミニウム、最も好ましくはクロムを析出させる。この金属析出は、電解質中で溶解した金属塩、例えば金属ハロゲン化物、好ましくはそれだけに限らないが金属塩化物から行うことができる。アノードとして適用される純金属(即ち、クロムアノード、アルミニウムアノード、チタンアノード、亜鉛アノードまたは銅アノード)を用いて行うこともできる。金属アノードを使用する実施形態において、アノードは、金属片、金属塊、金属屑の形態、または当業者に公知の任意の他の適切な形態であってよい。
【0032】
本発明に従って電気めっきまたは電解研磨することができる基材は、任意の導電性物体であってよい。好ましくは、それはカーボンスチール物体などの固体金属である物体であるか、または複合材料物体などの導電性要素を含む。
【0033】
本発明はさらに、イオン液体が、N、Nおよびそれらの混合物
[式中、R〜Rのいずれか1つは、水素、またはOH、Cl、Br、F、I、フェニル、NH、CN、NO、COOR、CHO、CORまたはORから選択される基で置換されていてもよい、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を独立に表し、R〜Rの少なくとも1つは、場合により分岐した脂肪族アルキル鎖であり、Rは、(C〜Cアルキル)−N161718基(R16、R17、R18が各々R、R、Rと同じである)、またはC〜Cアルキル鎖であってよく、R〜Rの1つまたは複数は、(ポリ)オキシアルキレン基であってよく、ここで、アルキレンはC〜Cアルキレンであり、オキシアルキレン単位の総数は1〜50オキシアルキレン単位であってよく、R〜Rの少なくとも1つはC〜Cアルキル鎖であり、Rは、アルキル基またはシクロアルキル基であり、Xは、Nアンモニウムカチオンと適合するアニオン、例えばハロゲン化物アニオン、カルボン酸アニオン、硫酸(有機硫酸および無機硫酸の両方)アニオン、スルホン酸アニオン、炭酸アニオン、硝酸アニオン、亜硝酸アニオン、チオシアン酸アニオン、水酸化物アニオン、サッカリン酸アニオンまたはスルホニルイミドアニオンであり、Yが、スルホニルイミドアニオンまたはN−アシルスルホニルイミドアニオン(−CO−N−SO−)官能基を有するアニオンである]
からなる群から選択され、
前記イオン液体に加える金属塩、または金属アノードが、金属源として使用され、
前記イオン液体が、非晶質シリカ、黒鉛粉末およびそれらの混合物からなる群から選択される添加剤を、電解質の全重量に対して少なくとも0.01重量%含む、
金属基材上に金属を電気めっきまたは電解研磨する方法に関する。
【0034】
添加剤は、上記の量で使用するのが好ましい。
【0035】
電着は、90℃以下の温度、より好ましくは室温にて、開放電着容器中で行われるのが好ましいが、電着はこれらの条件に限定されるものではない。
【0036】
以下の実施例により本発明による方法をさらに例示する。
【実施例】
【0037】
(比較実施例1)−添加剤なしでのココアルキルメチル[ポリオキシエチレン(15)]塩化アンモニウム中でのカーボンスチール上へのCrCl六水塩からのクロムの電気めっき
塩化クロム(III)六水塩を、水を0.2重量%含有するココアルキルメチル[ポリオキシエチレン(15)]塩化アンモニウムイオン液体に加え、混合物を約50℃の温度で、固体塩が溶解するまで撹拌した。調製した溶液中の塩化クロム(III)六水和物の濃度は、75g/kgであった。
【0038】
該溶液約250mlを、アノード側での長さが65mm、カソード側での長さが102mm、アノード−カソードの最短距離が48mm、アノード−カソードの最長距離が127mm、奥行が65mmである発熱体を備えたハルセルに注入した。セルを加熱し、温度を約80℃で維持した。液体は、中央に配置された上部挿入インペラを用いて撹拌した。
【0039】
白金めっきチタン板をアノードとして適用し、DC電源の正側端子に接続した一方で、カーボンスチール板をカソード(基材)として使用し、負側端子に接続した。浴に導入する前に、基材板を市販の磨き粉で清浄化し、脱塩水、アセトン、次いでエタノール、最終的に4M−HCl水溶液で洗浄した。両方の板を接続し、セルに導入したとき、電圧差を30Vに設定した。電流フローを直列に接続したメーターでモニターした。
【0040】
数時間の電気めっき後、カソードを電源から外し、セルから取り出した。板を水およびアセトンで洗浄した後、乾燥した。X線分光と組み合わせた走査電子顕微鏡法(SEM/EDX)により基材の化学分析を行った。それにより、カーボンスチール上へのクロムの析出が確認された。析出層の厚さを、Fischer、Germanyから入手した膜厚測定装置を用いて測定した。厚さは、0.5μmを下回ることが判明した。
【0041】
(実施例2)−非晶質シリカ0.2重量%を加えた、ココアルキルメチル[ポリオキシエチレン(15)]塩化アンモニウム中でのカーボンスチール上へのCrCl六水塩からのクロムの電気めっき
実施例1に記載したようなココアルキルメチル[ポリオキシエチレン(15)]塩化アンモニウムイオン液体中の塩化クロム(III)六水塩の調製溶液に、活性化合物を8重量%含有する非晶質シリカコロイド水溶液を加えた。活性化合物の量として表される、調製溶液中の非晶質シリカの濃度は、1.6g/kgであった。
【0042】
該溶液約250mlを、実施例1に記載のハルセルに注入した。セルを約80℃の温度に加熱した。
【0043】
実施例1と同じカーボンスチール基材(カソード)の前処理を行い、やはり白金めっきチタン板をアノードとして適用した。電位差を30Vに設定した。液体を、中央に配置された上部挿入インペラを用いて撹拌した。電極間の電流フローを、直列に接続したメーターでモニターした。
【0044】
数時間電流をかけた後、カソードを電源から外し、セルから取り出した。板を水およびアセトンで洗浄した後、乾燥した。X線分光と組み合わせた走査電子顕微鏡法(SEM/EDX)による基材の化学分析では、カーボンスチール板上へのクロムの析出が確認された。膜厚測定装置(Fischer、Germany)を用いて測定した析出層の厚さは、基材のある領域において8μmと大きく、これは添加剤を使用しなかったときよりも有意に厚いことが判明した。ハルセル実験ではよくあることだが、層厚は、基材上の位置により変化し、この場合は1μm〜8μmであった。この測定値を確認するために、クロスカット金属組織解析も行った。基材試料をエポキシ樹脂に埋め込み、析出物を顕微鏡下で評価した。この方法で決定した層厚は、膜厚測定装置の結果と一致した。
【0045】
(実施例3)−非晶質シリカ0.4重量%を加えた、ココアルキルメチル[ポリオキシエチレン(15)]塩化アンモニウム中でのカーボンスチール上へのCrCl六水塩からのクロムの電気めっき
実施例1に記載したようなココアルキルメチル[ポリオキシエチレン(15)]塩化アンモニウムイオン液体中の塩化クロム(III)六水塩の調製溶液に、活性化合物を8重量%含有する非晶質シリカコロイド水溶液を加えた。活性化合物の量として表される、調製溶液中の非晶質シリカの濃度は、4g/kgであった。
【0046】
該溶液約250mlを、実施例1に記載のハルセルに注入した。セルを約80℃の温度に加熱した。
【0047】
実施例1と同じカーボンスチール基材(カソード)の前処理を行い、やはり白金めっきチタン板をアノードとして適用した。電位差を30Vに設定した。液体を、中央に配置された上部挿入インペラを用いて撹拌した。電極間の電流フローを、直列に接続したメーターでモニターした。
【0048】
数時間電流をかけた後、カソードを電源から外し、セルから取り出した。板を水およびアセトンで洗浄した後、乾燥した。X線分光と組み合わせた走査電子顕微鏡法(SEM/EDX)による基材の化学分析では、カーボンスチール板上へのクロムの析出が確認された。膜厚測定装置(Fischer、Germany)を用いて、かつクロスカット金属組織解析により測定した析出層の厚さは、1μm〜9μmの範囲であることが判明した。
【0049】
(実施例4)−カーボンブラック1重量%を加えた、ココアルキルメチル[ポリオキシエチレン(15)]塩化アンモニウム中でのカーボンスチール上へのCrCl六水塩からのクロムの電気めっき
実施例1に記載のココアルキルメチル[ポリオキシエチレン(15)]塩化アンモニウムイオン液体中の塩化クロム(III)六水塩の調製溶液に、カーボンブラックを加えた。調製混合物中のカーボンブラックの濃度は、10g/kgであった。
【0050】
該混合物約250mlを、実施例1に記載のハルセルに注入した。セルを約70℃の温度に加熱した。
【0051】
実施例1と同じカーボンスチール基材(カソード)の前処理を行い、やはり白金めっきチタン板をアノードとして適用した。電位差を30Vに設定した。液体を、中央に配置された上部挿入インペラを用いて撹拌した。電極間の電流フローを、直列に接続したメーターでモニターした。
【0052】
数時間電流をかけた後、カソードを電源から外し、セルから取り出した。板を水およびアセトンで洗浄した後、乾燥した。X線分光と組み合わせた走査電子顕微鏡法(SEM/EDX)による基材の化学分析では、カーボンスチール板上へのクロムの析出が確認された。膜厚測定装置(Fischer、Germany)を用いて測定した析出層の厚さは、1μm〜7μmの範囲であることが判明した。基材試料のクロスカット金属組織解析により厚さ値が同じであることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層の厚さを増すために、イオン液体を電解質として使用して基材上に金属を電気めっきまたは電解研磨する方法での、非晶質シリカ、黒鉛粉末およびそれらの混合物からなる群から選択される添加剤の使用。
【請求項2】
前記イオン液体が、N、Nおよびそれらの混合物
[式中、R〜Rのいずれか1つは、水素、またはOH、Cl、Br、F、I、フェニル、NH、CN、NO、COOR、CHO、CORもしくはORから選択される基で置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を独立に表し、R〜Rの少なくとも1つは、場合により分岐した脂肪族アルキル鎖であり、Rは、(C〜Cアルキル)−N161718基(R16、R17、R18は各々R、R、Rと同じである)、またはC〜Cアルキル鎖であってよく、R〜Rの1つまたは複数は、(ポリ)オキシアルキレン基であってよく、ここで、該アルキレンはC〜Cアルキレンであり、オキシアルキレン単位の総数は1〜50オキシアルキレン単位であってよく、R〜Rの少なくとも1つはC〜Cアルキル鎖であり、Rは、アルキル基またはシクロアルキル基であり、Xは、Nアンモニウムカチオンと適合するアニオン、例えばハロゲン化物アニオン、カルボン酸アニオン、硫酸(有機硫酸および無機硫酸の両方)アニオン、スルホン酸アニオン、炭酸アニオン、硝酸アニオン、亜硝酸アニオン、チオシアン酸アニオン、水酸化物アニオン、サッカリン酸アニオンまたはスルホニルイミドアニオンであり、Yは、スルホニルイミドアニオンまたはN−アシルスルホニルイミドアニオン(−CO−N−SO−)官能基を有するアニオンである]
からなる群から選択される、請求項1に記載の添加剤の使用。
【請求項3】
前記基材上で電気めっきまたは電解研磨される金属が、クロム、アルミニウム、チタン、亜鉛および銅の塩からなる群から選択される金属塩、またはクロム、アルミニウム、チタン、亜鉛および銅のアノードからなる群から選択されるアノードのいずれかである金属源に由来する、請求項1または2に記載の添加剤の使用。
【請求項4】
前記イオン液体のカチオンと、前記金属塩の金属カチオンまたは前記金属アノード由来の金属カチオンとのモル比が、1000:1〜3:1の間、好ましくは100:1〜7:1の間である、前記請求項のいずれか一項に記載の添加剤の使用。
【請求項5】
電解質の全重量に対して0.1重量%〜5重量%の間の量での、請求項4に記載の添加剤の使用。
【請求項6】
前記イオン液体が、サッカリン酸コリン、アセスルファミン酸コリン、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ココトリメチルアンモニウム、塩化タロートリメチルアンモニウム、塩化水素化タロートリメチルアンモニウム、塩化水素化パームトリメチルアンモニウム、塩化オレイルトリメチルアンモニウム、塩化ソヤトリメチルアンモニウム、塩化ココベンジルジメチルアンモニウム、塩化C1216アルキルベンジルジメチルアンモニウム、塩化水素化タローベンジルジメチルアンモニウム、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、亜硝酸ジココジメチルアンモニウム、塩化ジココジメチルアンモニウム、塩化ジ(水素化タロー)ジメチルアンモニウム、塩化ジ(水素化タロー)ベンジルメチルアンモニウム、塩化ジタロージメチルアンモニウム、塩化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、塩化水素化タロー(2−エチルヘキシル)ジメチルアンモニウム、メチル硫酸水素化タロー(2−エチルヘキシル)ジメチルアンモニウム、塩化トリヘキサデシルメチルアンモニウム、塩化オクタデシルメチルビス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、硝酸ココビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、塩化ココビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、塩化ココビス(2−ヒドロキシエチル)ベンジルアンモニウム、塩化オレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、塩化ココ[ポリオキシエチレン(15)]メチルアンモニウム、メチル硫酸ココ[ポリオキシエチレン(15)]メチルアンモニウム、塩化ココ[ポリオキシエチレン(17)]メチルアンモニウム、塩化オクタデシル[ポリオキシエチレン(15)]メチルアンモニウム、塩化水素化タロー[ポリオキシエチレン(15)]メチルアンモニウム、酢酸トリス(2−ヒドロキシエチル)タローアンモニウム、二塩化タロー−1,3−プロパンペンタメチルジアンモニウムからなる群から選択される、前記請求項のいずれか一項に記載の添加剤の使用。
【請求項7】
イオン液体が、N、Nおよびそれらの混合物
[式中、R〜Rのいずれか1つは、水素、またはOH、Cl、Br、F、I、フェニル、NH、CN、NO、COOR、CHO、CORまたはORから選択される基で置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を独立に表し、R〜Rの少なくとも1つは、場合により分岐した脂肪族アルキル鎖であり、Rは、(C〜Cアルキル)−N161718基(R16、R17、R18が各々R、R、Rと同じである)、またはC〜Cアルキル鎖であってよく、R〜Rの1つまたは複数は、(ポリ)オキシアルキレン基であってよく、ここで、該アルキレンはC〜Cアルキレンであり、オキシアルキレン単位の総数は1〜50オキシアルキレン単位であってよく、R〜Rの少なくとも1つはC〜Cアルキル鎖であり、Rは、アルキル基またはシクロアルキル基であり、Xは、Nアンモニウムカチオンと適合するアニオン、例えばハロゲン化物アニオン、カルボン酸アニオン、硫酸(有機硫酸および無機硫酸の両方)アニオン、スルホン酸アニオン、炭酸アニオン、硝酸アニオン、亜硝酸アニオン、チオシアン酸アニオン、水酸化物アニオン、サッカリン酸アニオンまたはスルホニルイミドアニオンであり、Yは、スルホニルイミドアニオンまたはN−アシルスルホニルイミドアニオン(−CO−N−SO−)官能基を有するアニオンである]
からなる群から選択され、前記イオン液体に加える金属塩または金属アノードが、金属源として使用され、前記イオン液体が、非晶質シリカ、黒鉛粉末およびそれらの混合物からなる群から選択される添加剤を、電解質の全重量に対して少なくとも0.01重量%含む、金属基材上で金属を電気めっきまたは電解研磨する方法。
【請求項8】
前記基材上で電気めっきまたは電解研磨される金属が、クロム、アルミニウム、チタン、亜鉛および銅の塩からなる群から選択される金属塩、またはクロム、アルミニウム、チタン、亜鉛および銅のアノードからなる群から選択されるアノードのいずれかである金属源に由来する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン液体のカチオンと、前記金属塩の金属カチオンまたは前記金属アノード由来の金属カチオンとのモル比が、1000:1〜3:1の間、好ましくは100:1〜7:1の間である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記イオン液体が、サッカリン酸コリン、アセスルファミン酸コリン、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ココトリメチルアンモニウム、塩化タロートリメチルアンモニウム、塩化水素化タロートリメチルアンモニウム、塩化水素化パームトリメチルアンモニウム、塩化オレイルトリメチルアンモニウム、塩化ソヤトリメチルアンモニウム、塩化ココベンジルジメチルアンモニウム、塩化C1216アルキルベンジルジメチルアンモニウム、塩化水素化タローベンジルジメチルアンモニウム、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、亜硝酸ジココジメチルアンモニウム、塩化ジココジメチルアンモニウム、塩化ジ(水素化タロー)ジメチルアンモニウム、塩化ジ(水素化タロー)ベンジルメチルアンモニウム、塩化ジタロージメチルアンモニウム、塩化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、塩化水素化タロー(2−エチルヘキシル)ジメチルアンモニウム、メチル硫酸水素化タロー(2−エチルヘキシル)ジメチルアンモニウム、塩化トリヘキサデシルメチルアンモニウム、塩化オクタデシルメチルビス(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、硝酸ココビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、塩化ココビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、塩化ココビス(2−ヒドロキシエチル)ベンジルアンモニウム、塩化オレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム、塩化ココ[ポリオキシエチレン(15)]メチルアンモニウム、メチル硫酸ココ[ポリオキシエチレン(15)]メチルアンモニウム、塩化ココ[ポリオキシエチレン(17)]メチルアンモニウム、塩化オクタデシル[ポリオキシエチレン(15)]メチルアンモニウム、塩化水素化タロー[ポリオキシエチレン(15)]メチルアンモニウム、酢酸トリス(2−ヒドロキシエチル)タローアンモニウム、二塩化タロー−1,3−プロパンペンタメチルジアンモニウムからなる群から選択される、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−535283(P2010−535283A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518655(P2010−518655)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059962
【国際公開番号】WO2009/016189
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】