説明

清浄度評価方法及びそれに用いる標準物質

【課題】 物品の清浄度を評価するための、良好な吸光特性を示し、安定に使用できる、紫外分光光度分析の標準物質、並びに清浄度評価方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 ジプロピルベンゼン類、ブチルベンゼン類、nが1または2の−(CHOH基で置換されたベンゼン類、及びC〜Cのシクロアルキル基で置換されたベンゼン類の群から選ばれる1種以上の物質を主要成分とする、物品の清浄度評価のための紫外分光光度法の標準物質、及びそれを用いた清浄度評価方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品の油分を溶剤により抽出して得られた抽出液中のその油分を紫外分光光度法により測定することによって物品の清浄度を評価する方法、並びにその物品の清浄度を評価する際に用いられる紫外分光光度法の標準物質に関するものである。
【0002】
更に詳細には、本発明は、自動車、電機、電子、光学、機械、精密機器等の各種加工部品等(以下、「部品等」と言う。)に付着した熱処理油、切削油、塑性加工油等の各種油系汚れ(以下、「付着油分」と言う。)等を溶剤により抽出して得られた抽出液中のその油分を紫外分光光度法により測定することによる部品等の清浄度評価方法、並びにその清浄度評価の際に用いられる紫外分光光度法の標準物質に関するものである。
【背景技術】
【0003】
ある部品または製品を製造するに際しては、金属、樹脂、セラミックなどの部材を切削、熱処理、プレス、研磨等を行うが、その際、部品や工具の摩耗や焼き付き防止、潤滑、錆止めなどの目的で、各種の工作油、機械油、グリース、ワックス等を塗布して加工を行う。しかし、部品等の付着油分は、その後のメッキ処理や塗装等の表面処理加工において悪影響を及ぼし、その後の処理がない場合でも部品等の変色や腐食、及び外観不良などの問題原因となる。
【0004】
従って、部品等は加工後にそれらの付着油分を洗浄し、洗浄後に部品等の汚れ具合(以下、「清浄度」と言う。)を確認するため、清浄度評価を行うのが通例である。特に、精密機械分野、電子分野等の高い品質が要求される部品等の場合、微量の付着油分でさえ問題となる場合が多く、精密な洗浄だけでなく精度の高い清浄度評価が必要である。また、洗浄条件を設定する際などのように、洗浄後に限らず、部品等の清浄度評価の必要性は高い。
【0005】
従来の清浄度評価方法としては、部品等の付着油分を目視観察により評価する方法(以下、「目視判定法」と言う)、部品等にヌレ試薬を塗布し、その試薬のヌレ度合から清浄度を評価する方法(以下、「ヌレ性判定法」と言う)、付着油分を四塩化炭素やCFC等のハロゲン系溶剤に抽出し、赤外分光光度法により付着油分を測定し評価する方法(以下、「赤外分析法」と言う)等により行なわれてきた。
【0006】
目視判定法やヌレ性判定法は、簡便な評価方法ではあるが、目視で判定を行うため、測定者の主観が入りやすく判定基準が曖昧になり、また、微量の付着油分は評価できないため、付着油分の検出感度が定量的に評価できる赤外分析法が広く一般に使用されてきた。
【0007】
赤外分析法は、JIS K 0102「工場排水試験方法」に規定される四塩化炭素抽出赤外線分析法(油分測定)が部品等の清浄度評価に応用されたものであり、付着油分のC−H結合に基づく赤外線吸光度が、付着油分量に比例することを利用している。尚、これらのハロゲン系溶剤にはC−H結合がなく測定波長での赤外線吸収がほとんど無いため、付着油分は感度よく測定できる。
【0008】
工場排水試験においては、試料中の炭化水素誘導体類、動物油脂類、植物油脂類、脂肪酸類などが抽出されると同時に、これらの油分以外の有機物も抽出され、3.4μmの波長付近に吸収帯を持つ成分のみが測定される。この赤外分析法は、通常「油分」と呼ばれる物質を選択的に定量する分析法ではないため、2,2,4‐トリメチルペンタン(イソオクタン)‐ヘキサデカン(セタン)‐ベンゼン混合標準油(OCB混合標準油)を標準物質として使用し、赤外分光計のスパン調整等や、測定結果の換算基準として使用されている。
【0009】
部品等の清浄度評価の場合、部品等に付着する汚れは、加工後に洗浄を行えば加工油そのものの成分組成であるとは限らず、また、加工工程によっては複数の加工油が付着し、現実に汚れを一元的に決められない場合が多いため、工場排水試験と同様に、OCB混合標準油が標準物質として使用されている。
【0010】
しかし、赤外分析法は、抽出溶剤として四塩化炭素やCFC等のハロゲン系溶剤を使用するため、これらの毒性問題や、地下水汚染、大気汚染及びオゾン層破壊等の環境問題から、今後の使用がますます困難になっている状況である。
【0011】
これらの方法に対して、特許文献1では、エステル類を含む非ハロゲン系溶剤で付着油分を抽出し、紫外分光光度法によりその油分を分析する方法(以下、「紫外分析法」と言う。)が提案されている。その紫外分析法では、従来、赤外分析法で標準物質として使用されてきたOCB混合標準油は感度が低く、標準物質として不適切である。従って、清浄度評価を赤外分析法の代替として紫外分析法で行う場合、加工工程毎に使用した加工油を標準物質として分析に使用しているのが現状であるが、使用する加工油ごとに清浄度評価基準を新たに設定する必要があり、更にそれらに管理も非常に煩雑になる問題がある。
【0012】
【特許文献1】特開2003−128631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、紫外分析法による部品等の清浄度評価において、従来の赤外分析法による評価結果との良好な相関関係が確保でき、そのものの入手が容易で且つ経済的であって、安全に使用できるような標準物質を提供することを目的としている。更に、本発明は、容易に使用できる安定で汎用的な標準物質を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、物品の油分を溶剤により抽出して得られた抽出液中のその油分を紫外分光光度法により測定することによって物品の清浄度を評価する方法において、ジプロピルベンゼン類、ブチルベンゼン類、nが1または2の−(CHOH基で置換されたベンゼン類、及びC〜Cのシクロアルキル基で置換されたベンゼン類の群から選ばれる1種以上の物質を主要成分とする標準物質を紫外分光光度法で使用することを特徴とする、清浄度評価方法を提供するものである。
【0015】
更に、本発明は、物品の油分を溶剤により抽出して得られた抽出液中のその油分を紫外分光光度法により測定することによって物品の清浄度を評価する際に用いられる紫外分光光度法の標準物質であって、ジプロピルベンゼン類、ブチルベンゼン類、nが1または2の−(CHOH基で置換されたベンゼン類、及びC〜Cのシクロアルキル基で置換されたベンゼン類の群から選ばれる1種以上の物質を主要成分とすることを特徴とする、清浄度評価用紫外分光光度法の標準物質を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、良好な吸光特性を示し、安定に使用できる、清浄度評価用紫外分光光度分析の標準物質、並びにそのような標準物質を用いた清浄度評価方法を提供し得るものである。本発明は、より好ましい態様において、従来の赤外分析法による清浄度評価結果との良好な相関関係が確保できて、そのものの入手が容易で且つ経済的であって、安全に使用できるような汎用的な標準物質、並びにそれを用いた清浄度評価方法を提供し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の標準物質及び清浄度評価方法は、その適用分野が特に限定されるものではなく、例えば、自動車、電機、電子、光学、機械、精密機器等で扱われる部品等の清浄度評価に利用され得る。即ち、本発明における物品とは、主として自動車、電機、電子、光学、機械、精密機器等の各種加工部品等の部品等を言うが、それ以外の物であっても、本発明の清浄度評価方法が適用可能であって、本発明の効果を奏し得る物であれば、本発明の物品に含まれ得る。また、本発明における油分とは、主としてその物品に付着した熱処理油、切削油、塑性加工油等の各種油系汚れ等の付着油分を言うが、物品から洗浄等で除去するなどして清浄度を評価することが必要な油分であれば、上記の付着以外の形態でその物品に含まれる油分も、本発明の油分に含まれ得る。
【0018】
本発明の標準物質は、ジプロピルベンゼン類、ブチルベンゼン類、nが1または2の−(CHOH基で置換されたベンゼン類、及びC〜Cのシクロアルキル基で置換されたベンゼン類の群から選ばれる1種以上の物質を主要成分とするものであって、通常、物品の油分を溶剤で抽出して得られた抽出液に溶解させた状態で紫外分光光度分析に使用される。
【0019】
かかる本発明の標準物質としては、紫外分光光度分析における優れた吸光特性と共に優れた安定性を有し、本発明の効果を奏し易い点で、ベンジルアルコール、ジイソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン及びシクロヘキシルベンゼンの群から選ばれる1種以上の物質を主要成分とするものが好ましく、ベンジルアルコールを主要成分とするものが更に好ましく、特にベンジルアルコールのみのものが好ましい。
【0020】
本発明において、物品の油分を抽出するために使用される溶剤(以下において、「抽出溶剤」とも言う)としては、前記の特許文献1において開示される、下記の一般式(1)または(2)で表されるエステル類を一種以上含む非ハロゲン系の溶剤が適している。
式(1); R‐COO‐R
式(2); R‐COO‐R‐O‐R
そこでは、R1がCHまたはCであり、RがC〜Cの直鎖、分岐または環式アルキル基であり、RがC〜Cの直鎖または分岐アルキル基であり、RがCHである。
【0021】
上記エステル類の非限定的な具体的例示としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸メチルトリメチル、酢酸アミル、酢酸エチルトリメチル、酢酸イソアミル、酢酸メトキシブチル、酢酸3−メチル−3−メトキシブチル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソアミル等が挙げられる。それらのエステル類としては、引火点が高く火災の危険性が少ないもの、低毒性で法的規制が少ないものが好ましく使用されるが、上記中でこのような特徴を併せ持つ物質として、酢酸シクロヘキシル、酢酸3−メチル−3−メトキシブチル等が例示され得る。尚、これらのエステル類は、1種で、または2種以上を混合して使用しても構わない。
【0022】
その溶剤は、更にC〜C12の直鎖、分岐または環式飽和炭化水素または脂環式飽和炭化水素をも含み得る。その場合、上記エステル類と、C〜C12の直鎖、分岐または環式飽和炭化水素または脂環式飽和炭化水素の組成としては、それぞれ5容量%以上、95容量%未満が好ましい。エステル類が5容量%未満の場合、付着油分が十分に抽出できなくなる。C〜C12の直鎖、分岐または環式飽和炭化水素または脂環式飽和炭化水素が5容量%未満の場合、紫外線吸収量の増加による測定精度の低下の可能性がある。
【0023】
上記のC〜C12の直鎖、分岐または環式飽和炭化水素または脂環式飽和炭化水素の非限定的な具体的例示としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、n−ノナン、デカヒドロナフタレン、n−ブチルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、イソデカン、イソウンデカン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン等の物質が挙げられる。これらも、1種または2種以上を混合して使用することができ、特に、引火点が高く、低毒性等の特徴を有するデカヒドロナフタレン、n−ブチルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、イソデカン、イソウンデカン、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン等が好適に使用され得る。
【0024】
本発明において使用される標準物質の濃度は、通常物品の油分を抽出するのに使用する溶剤との溶液(標準物質溶液)中で、通常500mg/リットル以下の範囲にあることが好ましい。この濃度範囲においては、標準物質の濃度とその紫外分光光度分析によって得られる吸光度の間に概ね直線の相関関係、特に好ましくは比例関係が得られやすい。両者が比例関係にある場合には、両者の相関座標において、原点と標準物質溶液のある濃度における吸光度を結ぶ直線を検量線として使用することが出来る。
【0025】
本発明の清浄度評価のための紫外分光光度分析においては、一般に汚れに対して高い感度が確実に得られ易い、260nm〜270nmの範囲付近の波長(以下、「測定波長」と言う。)が使用されるが、標準物質の濃度が500mg/リットルを超えて高過ぎる場合には、測定波長での吸光度が1を超えるようになり、分析精度が低下するので好ましくない。尚、吸光度が小さくなり、紫外分光光度計のSN比が小さくなることを避けるために、100mg/リットル以上の標準物質濃度がより好ましい。それ故、100mg/リットル〜500mg/リットルの標準物質濃度がより好ましい。
【0026】
本発明の標準物質では、例えば100mg/リットル標準物質溶液における紫外分光光度分析の265nmでの吸光度が0.05〜0.20である。その吸光度が0.05未満の場合、または0.20を超えた場合には、従来のOCB混合標準油を標準物質とする赤外分析法での測定値との相関が次第に悪化するようになり、本発明の目的を達成することが困難になるので好ましくない。
【0027】
本発明の標準物質は、上記の紫外分光光度分析の測定波長付近において極大吸収を示すピークが無く、吸光度が大きく変化しないために、いずれの測定波長でも好適に使用されることが出来ると言う、利点を有している。
【0028】
本発明の標準物質は、安定性に優れており、長期間に亘って有利に使用され得る。本発明の標準物質は、沸点が高く、使用時において蒸発等による逸散が極めて少ないために、容易に標準物質溶液を調合することが出来て、また引火点が39℃以上であるために、火災の危険性が少ない。更に、本発明の標準物質は、毒性も低いために比較的安全に取り扱うことが可能である。
【0029】
かかる本発明の標準物質は、当業者にとって公知の化学的方法等によって合成されることが可能であり、また市販品としても容易に入手可能である。
【0030】
本発明の標準物質は、ジプロピルベンゼン類、ブチルベンゼン類、nが1または2の−(CHOH基で置換されたベンゼン類、及びC〜Cのシクロアルキル基で置換されたベンゼン類の群から選ばれる1種以上の物質を、好ましくはベンジルアルコール、ジイソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン及びシクロヘキシルベンゼンの群から選ばれる1種以上の物質を主要成分とするものであり、それらの物質を単独で、或いは必要に応じてそれらの物質の2種以上を組み合わせて使用することも可能である。特別な理由の無い限り、通常は単独で使用するのが好ましい。2種以上を組み合わせて使用する場合、その各々の物質の濃度については適宜選択可能であり、特に制限は無い。
【0031】
本発明の標準物質の主要な成分である、ジプロピルベンゼン類、ブチルベンゼン類、nが1または2の−(CHOH基で置換されたベンゼン類、及びC〜Cのシクロアルキル基で置換されたベンゼン類、好ましくは、ベンジルアルコール、ジイソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン及びシクロヘキシルベンゼンは、その紫外分析法による測定値が、従来のOCB混合標準油を標準物質とする赤外分析法での測定値との相関性に優れており、測定波長範囲での吸光度変化が少なく、取り扱いが容易なため、好適に使用され得る。
【0032】
本発明の標準物質は、かかる主要成分以外の成分が含まれても良いが、通常は、ジプロピルベンゼン類、ブチルベンゼン類、nが1または2の−(CHOH基で置換されたベンゼン類、及びC〜Cのシクロアルキル基で置換されたベンゼン類の群から選ばれる1種以上の物質のみからなる標準物質が好ましい。それらの主要成分以外の成分が含まれる場合には、主要成分が90容量%以上、好ましくは95容量%以上であり、その他の成分が10容量%未満、好ましくは5容量%未満である。かかる他の成分の濃度が10容量%以上の場合には、上記した吸光特性、安定性、または抽出溶剤への溶解性等の点で問題が生じるために、実用上好ましくない。
【0033】
かかる他の成分としては、以下に記載するような、本発明の標準物質における主要な成分としての使用に適しにくい物質が挙げられ、それらは1種のみで、或いは2種以上の組合せでも使用され得る。尚、2種以上の組合せで使用される場合、それらの物質の比率に特に制限は無い。
【0034】
例えば、抽出溶剤への溶解性のある油溶性物質の内、測定波長付近に吸収を持つ分子内に不飽和結合または芳香族結合を有するものとして、デカヒドロナフタレン、インダン等の環式炭化水素類;ドデシルベンゼン等のアルキルベンゼン類;安息香酸n‐ブチル、p‐ヒドロキシ安息香酸n‐プロピル、没食子酸n‐プロピル等の芳香族を含むエステル類;メトキシフェノール、カテコール、カンファー、オイゲノール等のフェノール類;α‐フェランドレン、α‐テルピネン、γ‐テルピネン、α‐テルピネオール、カルベオール、ぺリリルアルコール、リモネン等のテルペン系炭化水素類、リノール酸、オレイン酸等の高級脂肪酸類及びそれらのエステル類;平均分子量が495のポリスチレン等の精製ポリスチレン類などが知られている。これらの物質は、吸光度が高過ぎるか或いは低すぎる等のために本発明の標準物質の主要成分の使用には適していないが、上記のその他の成分としての使用が可能である。
【0035】
また、分子内に不飽和結合または芳香族結合を有さないパラフィン類、エーテル類、アルコール類等は、測定波長での紫外線吸収がないか、或いはその吸収が少な過ぎる等の本発明の標準物質として適当でない吸収特性をもつために、本発明の標準物質の主要成分の使用には適していないが、上記のその他の成分としての使用が可能である。
【0036】
このように、ジプロピルベンゼン類、ブチルベンゼン類、nが1または2の−(CHOH基で置換されたベンゼン類、及びC〜Cのシクロアルキル基で置換されたベンゼン類が、好ましくは、ベンジルアルコール、ジイソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン及びシクロヘキシルベンゼンが、物品の清浄度評価用の紫外分光光度分析における標準物質の主要成分として好適に使用できることを見出して、本発明に至ったものである。
【0037】
本発明において用いられる紫外分光光度法は、通常油分の分析に使用される紫外分光光度計を用いて、通常の紫外分光光度分析の方法によって実施され得る。尚、通常の油分の分析と同様に、物品に金属粉やゴミ等が付着している場合には、抽出操作の後に抽出液から濾過等の手段によってかかる金属粉やゴミ等を除去した上で紫外分光光度分析を行うことで、その金属粉やゴミ等による油分の測定誤差を排除することが望ましい。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1〜7
〈吸光度の評価〉
2,2,4,6,6−ペンタメチルへプタンを主成分とする抽出溶剤HC‐UV45(東ソー(株)製)100mLに、表1に示される物質0.01gを溶解することによって作製した各実施例の吸光度評価サンプルについて、紫外分光光度計U‐2001型ダブルビーム((株)日立製作所製)を使用し、その抽出溶剤をリファレンスとして、265nmにおける吸光度をそれぞれ測定した。各々の実施例において得られた吸光度より、以下のような評価基準に基づいて得られた評価結果を、各実施例について表1に記載する。どの実施例においても、良好な吸光特性が得られている。
(評価基準) 吸光度が0.05〜0.20−−−−−−−−−−−−−−−良好
吸光度が0.01〜0.05または0.20〜0.25、或いは265 nm付近に0.5以上の極大吸収を有する−−−−−−−−−やや不良
吸光度が0.01未満または0.25を超える−−−−−−−不良
【0039】
〈安定性の評価〉
2,2,4,6,6−ペンタメチルへプタンを主成分とする抽出溶剤HC‐UV45(東ソー(株)製)100mLに、表1に示される物質0.01gを溶解することによって作製した各実施例の安定性評価サンプルを、それぞれガラス容器に入れて密封して、50℃のオーブン内に静止して1ヶ月間保管した。保管後に上記の〈吸光度の評価〉と同様にして吸光度の測定及びその結果の評価を行い、以下のような評価基準に基づいて得られた評価結果を、各実施例について表1に記載する。どの実施例においても、良好な安定性が得られている。
(評価基準) 吸光度変化が0.01未満−−−−−−−−−−−−−−−−良好
吸光度変化が0.01以上−−−−−−−−−−−−−−−−不良
【0040】
【表1】

【0041】
比較例1〜43
物質を変える以外は実施例1と同様にして、表2に示される物質について作製した各比較例の吸光度評価サンプルについて、実施例1と同様にして、265nmにおける吸光度をそれぞれ測定した。各々の比較例において得られた吸光度より、実施例1と同様な評価基準に基づいて得られた評価結果を、各比較例について表2に記載する。いずれの比較例においても良好な吸光特性が得られなかった。それ故、それらの比較例についての更なる安定性の評価は行わなかった。
【0042】
【表2】

【0043】
実施例8〜32
〈付着油分量試験サンプルの調製〉
下記の工作油(A〜E)をそれぞれテトラクロロエチレン(和光純薬工業(株)製)に所定濃度(水準1〜水準5)となるように調整した汚染液を作製し、各汚染液にあらかじめ脱脂した六角ボルト(M5×20mm/SUS製)を1分間浸漬した。汚染液中から六角ボルトを引揚げ、80℃において60分間オーブン(RCOF−2220/エスペック(株)製)で、テトラクロロエチレンを蒸発除去した後、六角ボルトが室温に戻るまで放冷したものを試験サンプルとした。
工作油;
A: 切削油ユシロンNo.2(ユシロ化学工業(株)製)
B: 切削油サルクラットS90(協同油脂(株)製)
C: 切削油ユシローケンX88(ユシロ化学工業(株)製)
D: 切削油ユシロンNo.4C(ユシロ化学工業(株)製)
E: 切削油スピードK30(エヌ・エスルブリカンツ(株)製)
濃度水準;
水準1: 0.1重量%
水準2: 0.5重量%
水準3: 1.0重量%
水準4: 3.0重量%
水準5: 5.0重量%
【0044】
〈紫外分析法に関する付着油分量測定〉
得られた各々の試験サンプルについて、清浄にした100mlSUS製ビーカに、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタンを主成分とする抽出溶剤HC−UV45(東ソー(株)製)50mlとその試験サンプル10個を入れ、超音波洗浄機(25kHz、300W)により、室温で1分間付着油分を抽出し、付着油分測定サンプルを得た。得られた付着油分測定サンプルは、紫外分光光度計UV−8020(東ソー(株)製)にて、265nmでの吸光度の測定を行い、本発明のベンジルアルコールを標準物質として、単位面積当たりの試験片の付着油分量を算出した。それらの結果を、表3に示す。
【0045】
〈赤外分析法に関する付着油分量測定〉
一方、上記の各々の試験サンプルについて、清浄にした100mlSUS製ビーカに四塩化炭素(和光純薬工業(株)製)50mlとその試験サンプル10個を入れ、超音波洗浄機(25kHz、300W)により、室温で1分間付着油分を抽出し、付着油分測定サンプルを得た。得られた付着油分測定サンプルは、赤外分光光度計POC−100((株)島津製作所製)にて、OCB混合標準油(和光純薬工業(株)製)を標準物質として、単位面積当たりの試験片の付着油分量を算出した。それらの結果を、表3に合わせて示す。
【0046】
【表3】

【0047】
〈紫外分析法と赤外分析法の相関関係〉
更に、それらの付着油分量の測定値に基づいて、紫外分析法と赤外分析法の相関関係を図1に示す。図1に示されるように、本発明によるベンジルアルコールを標準物質とした紫外分析法による測定結果が、OCB混合標準油を標準物質とした赤外分析法による測定結果と良好な相関関係にあることが認められる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明のベンジルアルコールを標準物質とした紫外分析法による清浄度評価と、OCB混合標準油を標準物質とした赤外分析法による清浄度評価との相関関係を例示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の油分を溶剤により抽出して得られた抽出液中の該油分を紫外分光光度法により測定することによって該物品の清浄度を評価する方法において、ジプロピルベンゼン類、ブチルベンゼン類、nが1または2の−(CHOH基で置換されたベンゼン類、及びC〜Cのシクロアルキル基で置換されたベンゼン類の群から選ばれる1種以上の物質を主要成分とする標準物質を該紫外分光光度法で使用することを特徴とする、清浄度評価方法。
【請求項2】
前記標準物質が、ベンジルアルコール、ジイソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン及びシクロヘキシルベンゼンの群から選ばれる1種以上の物質を主要成分とするものである、請求項1に記載の清浄度評価方法。
【請求項3】
物品の油分を溶剤により抽出して得られた抽出液中の該油分を紫外分光光度法により測定することによって該物品の清浄度を評価する際に用いられる該紫外分光光度法の標準物質であって、ジプロピルベンゼン類、ブチルベンゼン類、nが1または2の−(CHOH基で置換されたベンゼン類、及びC〜Cのシクロアルキル基で置換されたベンゼン類の群から選ばれる1種以上の物質を主要成分とすることを特徴とする、清浄度評価用紫外分光光度法の標準物質。
【請求項4】
前記主要成分が、ベンジルアルコール、ジイソプロピルベンゼン、n−ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン及びシクロヘキシルベンゼンの群から選ばれる1種以上の物質である、請求項3に記載の清浄度評価用紫外分光光度法の標準物質。

【図1】
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【公開番号】特開2007−64750(P2007−64750A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249680(P2005−249680)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】