説明

清浄性水性ポリウレタンコーティング

【課題】高い表面エネルギーを有するにもかかわらず耐汚染性を示す水性ポリウレタン分散体を提供すること。
【解決手段】
A)1種類以上のOH官能性アクリレート分散体と、B)1種類以上のCAPS変性ポリイソシアネートとの反応生成物を含む清浄性水性ポリウレタン分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い表面エネルギーを有するにもかかわらず耐汚染性を示す水性ポリウレタン分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
高度の耐摩耗性および耐薬品性とともに優れた色彩安定性/UV安定性のため、ポリウレタントップコートは、建設業界において、機能性フロアコーティングまたはコンクリートのシーラーとして一般に使用されている。
【0003】
高い性能特性は、高官能性ポリエステル樹脂またはポリアクリレート樹脂と脂肪族ポリイソシアネートとにより作製され得る高度架橋ポリウレタンコーティングの使用によりもたらされる。典型的な適用用途としては、ブレーキ液、スカイドロールおよびタイヤによる汚染に対する抵抗性が必要とされる車庫や航空機格納庫の床面が挙げられる。また、このような性能属性により、高度架橋ポリウレタンコーティングは、耐落書き性コーティング、すなわち、基材上に最初からあるコーティングが破壊されることなく、強力なクリーナーで落書きペンキを落とすことができるコーティングとしても有用である。
【0004】
これまで、このような高度架橋ポリウレタンコーティングは、溶剤系の配合物でのみ利用可能であった。揮発性有機化合物(VOC)に分類される相当な量の溶剤は、大気汚染および/または悪臭の一因となり得る。
【0005】
例えば、耐落書き性コーティングは、低表面エネルギーコーティング組成物の使用によって得られている。例えば、米国特許第5,541,281号、同第5,574,122号、同第5,546,411号、同第5,646,227号、同第5,691,439号および同第5,747,629には、イソシアネートおよびポリオール(各々は、シロキサン基またはフッ素を含有する可能性がある)から調製される低表面エネルギー組成物が開示されている。これらに開示された組成物はすべて溶剤型組成物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5541281号明細書
【特許文献2】米国特許第5574122号明細書
【特許文献3】米国特許第5546411号明細書
【特許文献4】米国特許第5646227号明細書
【特許文献5】米国特許第5691439号明細書
【特許文献6】米国特許第5747629号明細書
【発明の概要】
【0007】
本発明は、
A) 1種類以上のOH官能性アクリル系分散体と、
B) 1種類以上のCAPS変性ポリイソシアネートと
の反応生成物を含む清浄性水性ポリウレタン分散体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】ヒドロキシル官能性樹脂のブレンド比の関数としての光沢のグラフを示す。
【図2】配合物2の清浄性を示す。
【図3】配合物5の清浄性を示す。
【図4】配合物1のAFMスキャンを示す。
【図5】配合物3のAFMスキャンを示す。
【図6】配合物2のAFMスキャンを示す。
【図7】配合物4のAFMスキャンを示す。
【図8】配合物5のAFMスキャンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書および以下の特許請求の範囲において用いる場合、特に記載のない限り、用語「分子量」は数平均分子量を意味すると解釈されたい。
【0010】
本明細書および以下の特許請求の範囲において用いる場合、コーティング組成物の説明に用いる用語「清浄性(の)」は、組成物が、ASTM-D6578に示された清浄性の試験に合格していることを意味する。
【0011】
本明細書および以下の特許請求の範囲において用いる場合、「(メタ)アクリレート」は、該当するアクリレートおよびメタクリレートを意味する。
【0012】
成分A)は、OH官能性のアクリル系コポリマー分散体を含み、該分散体は、
a) OH不含(メタ)アクリル系エステルおよび/またはビニル芳香族化合物、
b) ヒドロキシ官能性ビニルモノマーまたはヒドロキシ官能性(メタ)アクリル系エステル、
c) フリーラジカル共重合が可能なイオン性および/または潜在的にイオン性のモノマー、ならびに
d) 所望により、成分a)〜c)の化合物以外のフリーラジカル共重合が可能なさらなるモノマー
を含む1種類以上のビニルモノマー混合物を、
e) 式(I)
【化1】

〔式中、
R1は、1〜18個の炭素原子を有する脂肪族、芳香脂肪族または芳香族基であり、
R2は、HまたはCH3であり、
R3、R4は、1〜7個の炭素原子を有する同一または異なる脂肪族基であり、
nは1〜4である〕
の化合物の存在下で、フリーラジカル重合に供すること、および続いて、得られたコポリマーを、中和剤の添加前または後に水中に分散させることにより調製される。
【0013】
成分a)のモノマーとして、エステル基のアルコール部分内に1〜18個の炭素原子を有する(メタ)アクリレートが使用される。このアルコール部分は、直鎖脂肪族、分枝鎖脂肪族または脂環式であり得る。
【0014】
成分a)の好適なモノマーの例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、イソプロピル、イソブチル、t-ブチル、異性形態のペンチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、オクチル、ドデシル、ヘキサデシル、オクタデシルまたはシクロヘキシル、トリメチルシクロヘキシルおよびイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0015】
a)において、さらに、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アクリルアミド、アクリロニトリル、ビニルエーテル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、任意選択的に置換されたスチレン、ビニルトルエンおよびその混合物を使用することが可能である。
【0016】
成分b)において、OH基を含有するエチレン性不飽和モノマー、例えば、不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルなど、例えば、好ましくは、ヒドロキシアルキル基に2〜12個、好ましくは2〜6個の炭素原子を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを使用することが可能である。
【0017】
かかる化合物の例は、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、異性形態のヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-、3-および4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートならびに異性形態のヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0018】
同様に、b)において、アルキレンオキシドで鎖伸長または修飾され、数平均分子量3000g/mol、好ましくは500g/molを有するヒドロキシ官能性の重合性モノマーを使用することが可能である。この目的に使用されるアルキレンオキシドとしては、好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシドまたはブチレンオキシドの単独または混合物が挙げられる。
【0019】
フリーラジカル共重合が可能な成分c)のイオン性および/または潜在的にイオン性のモノマーとして、カルボン酸基または無水カルボン酸基を含有するオレフィン性不飽和モノマー(アクリル酸、メタクリル酸、β-カルボキシエチルアクリレート、クロトン酸、フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸など)、または二塩基酸もしくは無水物のモノアルキルエステル(マレイン酸モノアルキルなど)を使用することが可能であり、例えば、アクリル酸および/またはメタクリル酸が好ましい。
【0020】
さらに、リン酸基またはホスホン酸基またはスルホン酸基またはスルホネート基を含有するフリーラジカル重合可能な不飽和化合物(例えば、WO-A 00/39181(第8頁の第13行目〜第9頁の第19行目)に記載のもの)、特に、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸もまた、成分c)の化合物として好適である。
【0021】
場合により、フリーラジカル共重合が可能なさらなるモノマーを成分d)の化合物として使用することもまた可能である。これは、例えば、2以上の官能価を有する(メタ)アクリレートモノマーおよび/またはビニルモノマー、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートまたはジビニルベンゼンなどであり得る。さらなる可能性は、非イオン的親水化効果を有する重合性化合物、例えば、ヒドロキシ官能性ポリアルキレンオキシドエーテルのアクリレートなどの付加である。
【0022】
合成成分a)〜d)の割合は、典型的には、OH価が12〜200mg KOH/g、好ましくは25〜150mg KOH/g、より好ましくは50〜150mg KOH/g固形分となるように、および酸価が0〜50mg KOH/g、好ましくは5〜30、より好ましくは8〜25mg KOH/g固形分となるように選択される。
【0023】
好ましくは、コポリマーに対して、50〜85wt%の成分a)、15〜40wt%の成分b)、0.5〜5wt%の成分c)、および0〜34.5wt%の成分d)が、OH価および酸価に関して上記の指定事項を満たすコポリマーが得られるように選択される。
【0024】
e)において、式中、
R1が、2〜6個の炭素原子を含み、
R3、R4が、1〜7個の炭素原子
R2が、HまたはCH3であり、
nが1〜4である、
式(I)の化合物を使用することが好ましい。
【0025】
特に、e)において、式中、
R1が2個または4個の炭素原子を含み
R3、R4が1〜7個の炭素原子
R2がCH3であり、
Nが2である、
式(I)化合物を使用することが好ましい。
【0026】
成分e)としての好適性を有するのは、例えば、脂肪族カルボン酸のグリシジルエステル(e1))と脂肪族、芳香脂肪族または芳香族カルボン酸(e2))との反応生成物である。
【0027】
この場合での成分e1)の好ましい化合物は、バーサチック酸のグリシジルエステルであり、これは、例えばCardura(登録商標)E10PとしてResolution BV.(オランダ)から入手可能である。
【0028】
この場合での成分e2)の好ましい化合物は、例えば、飽和脂肪族モノカルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸など)、または不飽和モノカルボン酸(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸など)または芳香族モノカルボン酸(安息香酸、脂肪族ジカルボン酸など)またはポリカルボン酸(コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ダイマー脂肪酸(これは、不飽和モノカルボン酸の二量体化によって得られ得る)など);芳香族ジカルボン酸またはポリカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、o-フタル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸もしくはトリメリット酸など)である。もちろん、成分e2)において記載の化合物の混合物を使用することも可能である。
【0029】
特に、e1)としてのバーサチック酸のグリシジルエステルを、e2)としての脂肪族モノカルボン酸(2-エチルヘキサン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸およびベヘン酸など)ならびに不飽和モノカルボン酸(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸など)、また、ジカルボン酸(コハク酸およびアジピン酸または異性形態のフタル酸など)と組み合わせて使用することが好ましい。特に好ましくは、アジピン酸がe2)に使用される。
【0030】
成分e)の化合物は、成分e1)およびe2)から、不飽和モノマーa)〜d)のフリーラジカル重合の前に、または同時に調製され得る。
【0031】
温度は、典型的には50〜200℃、好ましくは90〜140℃である。好ましくは、成分e)の化合物は、e1)およびe2)から、不飽和成分a)〜d)のフリーラジカル重合の前に調製される。
【0032】
a)〜e)の総量に対する成分e)の量は、典型的には5〜60wt%、好ましくは10〜30wt%、より好ましくは15〜30wt%である。
【0033】
成分B)としては、ポリイソシアネートと、2-(シクロヘキシルアミノ)-エタンスルホン酸および/または3-(シクロヘキシルアミノ)-プロパンスルホン酸との反応によって得られ得る変性ポリイソシアネートが挙げられる。これは、少なくとも一部のスルホン酸基が中和された後も水に分散性である。
【0034】
特に、
a) 少なくとも1.8の平均イソシアネート官能価、
b) 4.0〜26.0wt%のイソシアネート基含量(NCO;分子量=42として計算)、
c) 0.1〜7.7wt%のスルホン酸基含量(SO3-;分子量=80として計算)、および任意選択で、
d) 0〜19.5wt%の、ポリエーテル鎖内に結合されたエチレンオキシド単位の含量(C2H2O;分子量=44として計算)、ここで、ポリエーテル鎖は統計学的平均5〜55個のエチレンオキシド単位を含む、
を有し、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族および/または芳香族ポリイソシアネートと、2-(シクロヘキシルアミノ)-エタンスルホン酸および/または3-(シクロヘキシルアミノ)-プロパンスルホン酸との反応によって得られ得るポリイソシアネートが、成分B)として好適である。
【0035】
特に、この反応は、
1) 平均官能価が2.0〜5.0であり、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族および/または芳香族結合されたイソシアネート基の含量(NCO;分子量=42として計算)が8.0〜27.0wt%であるポリイソシアネート成分
2) 成分A)およびB)の総重量に対して0.3〜25.0wt%の2-(シクロヘキシルアミノ)-エタンスルホン酸および/または3-(シクロヘキシルアミノ)-プロパンスルホン酸、ならびに任意選択で、
3) 成分A)、B)およびC)の総重量に対して25wt%までの統計学的平均5〜35個のエチレンオキシド単位を含む一価のポリアルキレンオキシドポリエーテルアルコール
を互いに、
4) 成分B)のスルホン酸基に対して0.2〜2.0当量の第3級アミンの存在下で、
NCO基に反応性である基に対するNCO基の当量比2:1〜400:1が観察されるように反応させる手順によって行なわれる。あるいはまた、記載の出発化合物の性質および量比は、本明細書において、得られる反応生成物が上記のa)〜d)の条件を満たすように選択される。
【0036】
成分1)は、2.0〜5.0、好ましくは2.3〜4.5の平均NCO官能価、8.0〜27.0wt%、好ましくは14.0〜24.0wt%のイソシアネート基含量、および1wt%未満、好ましくは0.5wt%未満の単量体ジイソシアネート含量を有する。これは、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族および/または芳香族結合されたイソシアネート基を有する少なくとも1種類の有機ポリイソシアネートを含む。
【0037】
成分1)のポリイソシアネートは、少なくとも2種類のジイソシアネートで構成され、単純脂肪族、脂環式、芳香脂肪族および/または芳香族ジイソシアネートの変性によって調製され、ウレトジオン、イソシアヌレート、アロファネート、ビウレット、イミノオキサジアジンジオンおよび/またはオキサジアジントリオン構造を有する任意の所望のポリイソシアネート、例えば、J. Prakt. Chem. 336(1994)185-200、DE-A 1670666、DE-A 1954093、DE-A 2414413、DE-A 2452532、DE-A 2641380、DE-A 3700209、DE-A 3900053およびDE-A 3928503またはEP-A 0336205、EP-A 0339396およびEP-A 0798299に例として記載のものなどである。
【0038】
かかるポリイソシアネートの調製に好適なジイソシアネートは、ホスゲン化またはホスゲンフリープロセス(例えば、熱的ウレタン切断)によって入手され得る任意の所望のジイソシアネートである。好ましいイソシアネートは、分子量範囲が140〜400で、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族および/または芳香族結合されたイソシアネート基を有するもの、例えば、1,4-ジイソシアナトブタン、1,6-ジイソシアナトヘキサン(HDI)、2-メチル-1,5-ジイソシアナトペンタン、1,5-ジイソシアナト-2,2-ジメチルペンタン、2,2,4-および2,4,4-トリメチル-1,6-ジイソシアナトヘキサン、1,10-ジイソシアナトデカン、1,3-および1,4-ジイソシアナトシクロヘキサン、1,3-および1,4-ビス-(イソシアナトメチル)-シクロヘキサン、1-イソシアナト-3,3,5-トリメチル-5-イソシアナトメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート、IPDI)、4,4’-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン、1-イソシアナト-1-メチル-4(3)イソシアナト-メチルシクロヘキサン、ビス-(イソシアナトメチル)-ノルボルナン、1,3-および1,4-ビス-(2-イソシアナト-プロプ-2-イル)-ベンゼン(TMXDI)、2,4-および2,6-ジイソシアナトトルエン(TDI)、2,4’-および4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)、1,5-ジイソシアナトナフタレンなど、またはかかるジイソシアネートの任意の所望の混合物である。
【0039】
出発成分1)は、好ましくは、脂肪族および/または脂環式結合されたイソシアネート基のみを有する記載の型のポリイソシアネートである。
【0040】
特に非常に好ましい出発成分1)は、HDI、IPDIおよび/または4,4’-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタンに基づくイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネートである。
【0041】
しかしながら、このような疎水性ポリイソシアネートに加え、エチレンオキシドポリエーテルを用いて親水性に変性され、例えば、EP-A 0959087、第2頁、第25〜46行に記載の方法によって得られ得るものなどのポリイソシアネートもまた、出発化合物1)として好適である。
【0042】
成分2)は、2-(シクロヘキシルアミノ)-エタンスルホン酸(CHES)、3-(シクロヘキシルアミノ)-プロパンスルホン酸(CAPS)またはこれらの2種類のアミノスルホン酸の任意の所望の混合物である。このような化合物は既知であり、両性イオン物質として結晶形態で存在し、300℃より高い融点を有する。CHESおよびCAPSの調製は、例えば、Bull. Soc. Chim. France 1985,463およびZ. Chem. 7,151(1967)に記載されている。
【0043】
このようなアミノスルホン酸2)は、本発明による方法において、成分1)および2)の総重量に対して0.3〜25wt%、好ましくは0.5〜25wt%の量で使用される。
【0044】
任意選択で同時使用される成分3)は、1分子あたり統計学的平均5〜35個、好ましくは7〜30個のエチレンオキシド単位を含む一価のポリアルキレンオキシドポリエーテルアルコール、例えば、それ自体既知の様式で適当な出発分子のアルコキシル化によって入手され得るもの(例えば、Ullmanns Encyclopaedie der technischen Chemie、第4版、第19巻、Verlag Chemie,Weinheim 第31〜38頁参照)などである。
【0045】
本発明による方法に使用されるポリエーテルアルコール3)の調製に好適な出発分子としては、本明細書において例として、飽和一価アルコール(メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、異性形態のペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびノナノール、n-デカノール、n-ドデカノール、n-テトラデカノール、n-ヘキサデカノール、n-オクタデカノール、シクロヘキサノール、異性形態のメチルシクロヘキサノールもしくはヒドロキシメチルシクロヘキサン、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、またはテトラヒドロフルフリルアルコールなど);不飽和アルコール(アリルアルコール、1,1-ジメチル-アリルアルコールまたはオレイルアルコールなど)、芳香族アルコール(フェノール、異性形態のクレゾールまたはメトキシフェノールなど)、芳香脂肪族アルコール(ベンジルアルコール、アニシルアルコールまたはシンナミルアルコールなど);第2級モノアミン(ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ビス-(2-エチルヘキシル)-アミン、N-メチル-およびN-エチルシクロヘキシルアミンまたはジシクロヘキシルアミンなど)、ならびに複素環式の第2級アミン(モルホリン、ピロリジン、ピペリジンまたは1H-ピラゾールなど)が挙げられ得る。
【0046】
好ましい出発分子は、4個までの炭素原子を有する飽和モノアルコールである。メタノールが出発分子として特に好ましく使用される。
【0047】
アルコキシル化反応に好適なアルキレンオキシドは、特にエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドであり、これらは、アルコキシル化反応において任意の所望のシーケンスで使用され得、または、混合物としても使用され得る。
【0048】
ポリアルキレンオキシドポリエーテルアルコール3)は、純粋なポリエチレンオキシドポリエーテルまたは混合型ポリアルキレンオキシドポリエーテルのいずれかであり、そのアルキレンオキシド単位は、少なくとも30mol%程度、好ましくは少なくとも40mol%程度のエチレンオキシド単位を含む。
【0049】
好ましい出発成分3)は、統計学的平均7〜30個、特に非常に好ましくは7〜25個のエチレンオキシド単位を含む純粋なポリエチレングリコールモノメチルエーテルアルコールである。
【0050】
ポリエーテルアルコール3)は、可能であれば、成分1)、2)および3)の総重量に対して25wt%まで、好ましくは20wt%までの量で使用され得る。
【0051】
第3級アミン4)は、出発成分2)のスルホン酸基の中和に使用され得る。これは、例えば、第3級モノアミン(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-メチルピペリジンもしくはN-エチルピペリジンなど)、または第3級ジアミン(例えば、1,3-ビス-(ジメチルアミノ)-プロパン、1,4-ビス-(ジメチルアミノ)-ブタンもしくはN,N’-ジメチルピペラジンなど)である。しかしながら、イソシアネートに対して反応性である基を有する第3級アミンである中和アミン、例えば、アルカノールアミン(例えば、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミンまたはトリエタノールアミンなど)も適しているが、あまり好ましくない。
【0052】
このような中和アミン4)は、本発明による方法において、成分2)のスルホン酸基に対する第3級アミノ基の当量比が0.2〜2.0、好ましくは0.5〜1.5に相当する量で使用される。
【0053】
ポリイソシアネートB)を調製するためには、出発成分1)、2)および任意選択で3)を互いに、第3級アミン4)の存在下、40〜150℃、好ましくは50〜130℃の温度で、NCO基に反応性である基に対するNCO基の当量比2:1〜400:1、好ましくは、4:1〜250:1が観察されるように、好ましくは理論計算されたNCO含量に達するまで反応させる。
【0054】
第3級アミン4)の存在により、成分1)、2)および任意選択で3)の反応が充分に触媒されるが、ポリウレタン化学反応の既知のさらなる慣用的な触媒、例えば、さらなる第3級アミン(トリエチルアミン、ピリジン、メチルピリジン、ベンジルジメチルアミン、N,N-エンドエチレンピペラジン、N-メチルピペリジン、ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N-ジメチル-アミノシクロヘキサンもしくはN,N’-ジメチルピペラジンなど)、または金属塩(塩化鉄(III)、トリ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、塩化亜鉛、n-オクタン酸亜鉛(II)、2-エチル-1-ヘキサン酸亜鉛(II)、2-エチルカプロン酸亜鉛(II)、ステアリン酸亜鉛(II)、ナフテン酸亜鉛(II)、亜鉛(II)アセチルアセトネート、n-オクタン酸スズ(II)、2-エチル-1-ヘキサン酸スズ(II)、エチルカプロン酸スズ(II)、ラウリン酸スズ(II)、パルミチン酸スズ(II)、酸化ジブチルスズ(IV)、二塩化ジブチルスズ(IV)、二酢酸ジブチルスズ(IV)、ジマレイン酸ジブチルスズ(IV)、ジラウリン酸ジブチルスズ(IV)、二酢酸ジオクチルスズ(IV)もしくはグリコール酸モリブデンなど)、またはかかる触媒の任意の所望の混合物が、本発明による方法の反応を加速させるために任意選択で使用され得る。
【0055】
このような触媒は、可能であれば、反応パートナーの総重量に対して0.001〜2wt%、好ましくは0.005〜0.5wt%の量で使用される。
【0056】
成分B)の調製は、任意選択で、イソシアネート基に対して不活性である好適な溶剤中で行なわれ得る。好適な溶剤は、例えば、それ自体既知である慣用的なペンキ溶剤、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルまたは-エチルエーテル-アセテート、酢酸1-メトキシプロプ-2-イル、酢酸3-メトキシ-n-ブチル、アセトン、2-ブタノン、4-メチル-2-ペンタノン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ホワイトスピリット、より高度に置換された芳香族化合物、例えば、Solvent Naphtha、Solvesso(登録商標)、Isopar(登録商標)、Nappar(登録商標)(Deutsche EXXON CHEMICAL GmbH、Cologne、DE)およびShellsol(登録商標)(Deutsche Shell Chemie GmbH、エシュボルン、DE)の名称で市販のものなど、炭酸エステル(炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸1,2-エチレンおよび炭酸1,2-プロピレンなど)、ラクトン類(β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトンおよびε-メチルカプロラクトンなど)、また、プロピレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルおよびブチルエーテル-アセテート、N-メチルピロリドンならびにN-メチルカプロラクタムなどの溶剤、またはかかる溶剤の任意の所望の混合物である。
【0057】
あるいはまた、出発成分の性質および量比は、記載内容と関連して、得られるポリイソシアネートがa)〜d)に上記の記載内容に相当するように選択され、ここで、a)平均NCO官能価は、好ましくは2.0〜4.8、特に好ましくは2.4〜3.8であり、b)NCO含量は、好ましくは7.0〜23.0wt%、特に好ましくは10.0〜22.0wt%であり、c)スルホン酸基含量(SO3-;分子量=80として計算)は、好ましくは0.2〜6.3wt%、特に好ましくは0.6〜4.8wt%であり、d)ポリエーテル鎖内に結合されたエチレンオキシド単位の含量は、好ましくは17wt%まで、特に好ましくは15wt%までである。
【0058】
本発明によるポリウレタン分散体は、任意選択の安定剤および添加剤(水性ポリウレタン分散体における使用のために当該技術分野においての既知である)と混合されたOH官能性アクリレート水性分散体を含む第1の成分を調製することにより作製され得る。次いで、第1の成分をCAPS変性ポリイソシアネートを含む第2の成分と混合する。これらの成分は、NCO:OHの当量比が1:5〜5:1、より好ましくは1:3〜3:1で混合される。
【0059】
当業者には、所望の性質を得るために、種々のOH官能性アクリレート水性分散体の混合物、ならびに種々のCAPS変性ポリイソシアネートの混合物が使用され得ることが認識されよう。
【実施例】
【0060】
実施例で使用した製品:
Desmophen(登録商標)65 1A 65:飽和ポリエステルポリオール;OH含量5.2wt%;当量330
Desmophen(登録商標)R 221 75:飽和ポリエステル樹脂;OH含量3.3wt%;当量522
Bayhydrol(登録商標)XP 2542:水性のヒドロキシ官能性アクリル系樹脂(Bayer Material Science LLC(ピッツバーグ,PA)から入手可能);当量630
Bayhydrol(登録商標)XP 2546:アニオン性ヒドロキシ官能性ポリアクリル系分散体(Bayer Material Science LLC(ピッツバーグ,PA)から入手可能);当量1000
Bayhydrol(登録商標)A XP 2695:水性のヒドロキシ官能性ポリアクリル系分散体;ヒドロキシル含量5wt%;酸価9.4mg KOH/g
ビウレットN: HDIに基づくビウレット含有ポリイソシアネート;NCO含量16.5wt%;当量255
HDI三量体2: HDIに基づくCAPS変性ビウレット-およびイソシアヌレート-基含有ポリイソシアネート;NCO含量22.5wt%;当量82
HDI三量体3: HDIに基づくCAPS変性ビウレット-およびイソシアヌレート-基含有ポリイソシアネート;NCO含量20.6wt%;当量204
【0061】
表1の配合物を使用し、100グラムの成分1を58グラムの成分2と合わせた。配合物はすべて、NCO:OH比3:1がもたらされる比で混合した。成分は、メカニカルスターラーおよびインペラーブレードを用いておよそ60秒間の撹拌下で合わせた。次に、この物質を、ドローダウンバーを用いて10ミルの湿潤膜厚で4×6インチアルミニウムパネルに塗布した。このパネルを、72°Fの一定温度および50%の相対湿度にて14日間硬化させた。次いで、このパネルをASTM-D6578に従って抗落書き性について試験した。
【0062】
配合物を、4種類の水性の系および1種類の標準的な溶剤型の系を用いて調製し、膜特性の差を調べた。これらの5種類の系を表1に示す。これらのコーティングの光沢は、図1に示されるように、2種類のヒドロキシル官能性樹脂の比を変えることにより制御され得る。この例として、配合物3は、グラフ上の左端の点で示されているが、配合物2は、光沢60度で10未満の右側の試料によって示されている。
【0063】
【表1】

【0064】
配合物1および配合物3では光沢性の膜が作製され、したがって良好な耐落書き性を有する。配合物2は、図2からわかるように、マットな仕上りを有するが、驚くべきことに良好な耐落書き性を有する。エポキシ系の落書きペンキが水系の柑橘系清浄剤によって除去されたため、強力な溶剤は必要でなかった。配合物4および5はマットな仕上りを有するが、耐落書き性は不充分である。配合物5の清浄性を図3に示す;エポキシ系の落書きペンキは、この試験で使用した最も強力な溶剤であるMEKでも除去することができなかった。
【0065】
これらの3種類の非光沢性の膜を、表面エネルギーについて試験した。表2は、配合物2が良好な耐落書き性を示し、他の2種類の配合物が不充分な耐落書き性を示すにもかかわらず、これらの3種類の系の表面エネルギーが同様であることを示す。実際、最も良好な耐落書き性を示す配合物2が最も高い表面エネルギーを有する。この驚くべき結果から、本発明者らは、これらの膜の良好な耐落書き性の原因を調べることにした。
【0066】
【表2】

【0067】
これらの5種類の配合物を原子間力顕微鏡検査(AFM)によって検査し、各物質の表面形態を調べた。以下のスキャンからわかるように、配合物1および配合物3は、光沢性の膜から予測される平滑表面を示す。配合物1は、表面への塗布前に2種類の成分の混合を可能にする溶剤から得られたものである。これにより、合体(コアレッセンス)が改善され、図4に見られるような光沢性の膜がもたらされる。
【0068】
配合物3では、水系から得られたものであるにもかかわらず、光沢性で容易に清浄される表面が得られる。これは、高度に架橋された2成分ウレタンであるためである。また、これは、両成分の粘度が低く反応性が充分に低いことから、ポリマーのハードセグメントが表面上に整列するのを可能にする可動性がもたらされるため、良好な合体が可能になり、光沢性で清浄性の表面が得られる。この表面は図5に見られる。
【0069】
配合物2(表1)では、容易に清浄されるマットな仕上りのコーティングが得られる。AFMスキャンにより、その表面が粗いことが示されている(図6)。これは、マットな仕上りの膜に予測されることである。このような粗い表面では光が種々の方向に回折され、そのため光沢性は見られない。このAFMスキャンは、表面粗さが配合物1および3よりも粗いことを示す。
【0070】
配合物4および5(表1)では、図7(配合物4)および図8(配合物5)に示された表面形態を有するマットな仕上りのコーティングが得られた。
【0071】
5種類の試料のうち、配合物4が最も高度な表面粗さを有し、配合物5が2番目に高度な表面粗さを有するのに加え、より明白な表面欠陥を有する。本発明者らは、この表面粗さにより、後にペンキ層(落書き)が該表面に充分付着することが可能となり、清浄による除去が困難になると理論付ける。配合物2は表面粗さが小さく、さらなるペンキ層に固着点を与える明白な孔隙を含まない。これにより、配合物2による清浄を容易にし得る。
【0072】
AFM試験により得られ得る値は粗さの値であり、二乗平均平方根(「RMS」)粗さで表示される。RMSは、AFMソフトウェアによって測定される統計学的パラメータであり、試料の表面粗さの程度の尺度として使用される。RMSパラメータにより、参照高さ(すなわち、平均高さ)からの表面高さの偏差が、表面座標xおよびyの関数として測定される。表5は、各配合物のRMS値を示す。
【0073】
【表3】

【0074】
本発明者らは、表面粗さの差は、各配合物の適切な時間量内での合体の可能性によってもたらされると考える。該物質は、水分が蒸発するにつれて、個々の粒子状態から連続した膜に移行するはずである。2成分系では、一部の初期粒子は両方の成分を含み、一部の粒子はOHのみを含み、他は一部のポリイソシアネートのみを含む。このような粒子間の相違によって、合体がより複雑になる。合体過程は、ポリイソシアネートとヒドロキシル官能基との反応と競合している。
【0075】
本発明を、例示の目的で上記において詳細に説明したが、かかる詳細は例示の目的にすぎないこと、ならびに本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当業者によって該詳細において変形がなされ得ること(特許請求の範囲によって限定され得るものを除く)を理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A) 1種類以上のOH官能性アクリル系分散体と、
B) 1種類以上のCAPS変性ポリイソシアネートと
の反応生成物を含む、清浄性水性ポリウレタン分散体。
【請求項2】
成分A)が少なくとも2種類のOH官能性アクリル系分散体を含む、請求項1に記載の分散体。
【請求項3】
成分B)が、脂肪族ジイソシアネートに基づく少なくとも1種類のCAPS変性ポリイソシアネートを含む、請求項1に記載の分散体。
【請求項4】
脂肪族ジイソシアネートが1,6-ジイソシアナトヘキサンである、請求項3に記載の分散体。
【請求項5】
請求項1に記載の分散体を基材に適用すること、およびこのコーティング組成物を硬化させることを含む、基材上への清浄性コーティングの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法により作製されるコーティング。
【請求項7】
コーティングの表面エネルギーが31.0dyne/cmより大きい、請求項6に記載のコーティング。
【請求項8】
コーティングの表面粗さが200nmより大きい、請求項7に記載のコーティング。
【請求項9】
コーティングの表面粗さが200〜300nmである、請求項8に記載のコーティング。
【請求項10】
コーティングの表面粗さが10〜300nmである、請求項6に記載のコーティング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−189640(P2010−189640A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−28907(P2010−28907)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(503349707)バイエル・マテリアルサイエンス・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (178)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience LLC
【Fターム(参考)】