説明

清涼飲料およびその製造方法

【課題】ワイン風味の清涼飲料であって、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻に優れた清涼飲料とその製造方法を提供する。3-メルカプトヘキサノール(3MH)とその前駆体であるS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システイン(3MH-S-Cys)を多量に含む香味料とその製造方法を提供する。
【解決手段】パッションフルーツ果汁を含有する水溶液を乳酸菌発酵させ、発酵後に前記乳酸菌を除去して、少なくとも3MH-S-Cysの含有量をパッションフルーツ果汁より高めた発酵液を得ることを含む、食品用香味料として用いられる発酵液とその製造方法。この製造方法で得られた発酵液を、水、糖含有液、および酸味料の少なくとも1種以上と混合して、3MH-S-Cysを100〜1,500nM含有し、かつ3MHおよび3-メルカプトヘキシルアセテート(3MHA)の一方または両方を合計で10〜135nM含有する水溶液を得る、清涼飲料とその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻に優れた清涼飲料およびその製造方法に関する。さらに本発明は、前記本発明の清涼飲料の製造に用いる、優れた芳香性を有する3-メルカプトヘキサン-1-オール(以下3MHと略記することがある)の前駆体であるS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システイン(以下3MH-S-Cysと略記することがある)を豊富に含有する香味料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノンアルコール飲料またはアルコールフリー飲料に対する需要が高まっており、ビールでは、ノンアルコールビールが多数市場に出回っている。一方、ワインについては、これまでノンアルコールのワインは市場にあまり出回っておらず、ほとんど開発もされていないのが実情である。ノンアルコールのワインと銘打ったワイン風味の清涼飲料もほとんど知られていない。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルコールフリーまたは微量アルコール発酵飲料の製造方法が記載されている。この方法で製造されるアルコールフリーまたは微量アルコール発酵飲料は、ビール風味のものであり、ワイン風味のものではない。
【0004】
特許文献2には、アロマ化合物が欠如したノンアルコール飲料に、抽出したアロマ化合物を添加して、官能的品質が改良された(富化されたまたはバランスが取れたアロマプロフィールを有する)ノンアルコール飲料を製造する方法が開示されている。アロマ化合物の抽出は、原料飲料からアロマパーベーパレーションにより行うことが記載され、さらに原料飲料としてワインも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-157号公報
【特許文献2】特開2010-517559号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本ブドウ・ワイン学会誌 15 (3) : 109-110 (2004).
【非特許文献2】バイオサイエンスとインダストリー 64(4) : 36-37 (2006).
【非特許文献3】J. Agric. Food Chem., 2002, 50, 4076-4079.
【非特許文献4】J. Agric. Food Chem., 1998b, 46, 52151-5219.
【非特許文献5】J. Agric. Food Chem., 2008, 56, 9230-9235.
【非特許文献6】Am. J. Enol. Vitic., 53 :2 (2002).
【非特許文献7】化学と生物 Vol.45, No.8, 2007 564-569
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように特許文献1に記載のアルコールフリーまたは微量アルコール発酵飲料は、ビール風味のものであり、ワイン風味のものではない。また、特許文献2には、原料飲料としてワインも記載されているが、実施例において原料飲料として具体的に用いられているのはビールのみであり、ワインについても同様に実施できるかは不明である。
【0008】
このように、ワイン風味のアルコールフリーまたは微量アルコール発酵飲料(以下、清涼飲料と呼ぶ)についてはほとんど知られていないのが実情である。その一方で、市場におけるワイン風味の清涼飲料に対する要望は益々強く、しかも、通常のワインに勝るとも劣らない風味を有するワイン風味の清涼飲料の出現が待ち望まれている。
【0009】
ところで、ワインをテイスティングする際、その香りは、植物、野菜、果物、動物等を由来とする様々なタームで表現され、ブドウ品種ごとにそれぞれ違った言葉が用いられる。これは、ブドウ品種に対応したワインの香り(品種香)の存在が大きく影響していることを示している。ブドウ品種の個性を活かしたワイン醸造は、その土地の気候、風土を反映したワインの個性化に繋がる技術であり、世界的にも注目されている研究分野である。近年、日本の甲州種にもそれらの知見が応用され、3MHに起因する特徴的な品種香をもつ新しいタイプの甲州ワインが誕生している(非特許文献1および2参照)。
【0010】
3MHは、その分子構造内に-SH基を有するチオール化合物であり、その閾値は非常に低く(閾値60ng/L)、ワインにグレープフルーツやパッションフルーツのニュアンスを与えている。3MHは、ブドウ果粒中でグルタチオンと抱合体S-3-(ヘキサン-1-オール)グルタチオン (以下、3MH-S-GSHと略記することがある)を形成し(非特許文献3参照)、ブドウの酵素によりシステイン抱合体、3MH-S-Cysとなる(非特許文献4参照)。これらが前駆体となり、発酵時に酵母のもつβ-リアーゼ様酵素の働きにより、ワイン中に3MHとして遊離される。また、近年3MH-S-GSHが直接酵母に取り込まれ、3MHに変換されているという学説も発表されている(非特許文献5参照)。
【0011】
遊離された3MHの一部は、酵母由来のアルコールアセチルトランスフェラーゼ等の酵素により酢酸エステル体である3-メルカプトヘキシルアセテート(以下3MHAと略記することがある)となる。3MHAはツゲやエニシダのニュアンスを与え、ワイン中でソーヴィニヨン・ブラン・ワインの果実香のひとつとして知られており、閾値4ng/Lと香りへの貢献度が高い物質である。一般的に遊離された3MHの量が増加すれば、3MHAの量も増加する。ソーヴィニヨン・ブラン種の果汁および果皮における3MH-S-Cys濃度は、果汁よりも果皮でおよそ8倍以上多いが、ブドウ果粒の組織中の重量分布を考慮した場合、3MH-S-Cysは、果汁と果皮に均等に分布することが報告されている(非特許文献6参照)。一方、3MH-S-GSHの果粒中の分布についての報告はない。
【0012】
ワインの製造においては、その風味を向上させるために、3MH-S-Cysがより多く含まれる果汁を得ることや、3MHおよび3MHAの量を増やすことなど方法が試みられている。しかし、いまだ、満足のいく方法は見あたらないのが現実である。
【0013】
また、このように風味に関して奥が深いワインと、風味において遜色のない清涼飲料を提供することは至難の業である。何故なら、ワインについてさえ、その風味を向上させる技術が完成されてはいないからである。
【0014】
ところで、近年、嗅覚の研究の中で、人が香りを感じる経路としてオルトネーザルとレトロネーザルという2つの経路の存在が明らかとなっている。前者は、鼻先から鼻腔内に呼気に乗って入ってくる経路であり、後者は、食べ物を口に入れた際に喉から鼻に抜ける経路である。このレトロネーザルの嗅覚は、口中香とも呼ばれ、食べ物を食べて、「おいしい」、「風味がいい」と表現するとき、それらのほとんどが口中香に由来すると言われている(非特許文献7)。また、口中香の中には、食品を口中に入れたときに唾液中にある様々な酵素と反応して新たに生成される香り、いわゆる「もどり香」も含まれる。これは、食品を口中に入れてから生成するまでに数秒程度の反応時間を要するため、食品の余韻に貢献すると言われている。また、「もどり香」は口中で意図せずに発生することによって、食品を口に入れた人に驚きを体験させ、食品を記憶するきっかけを演出する可能性を秘めていると考えられる。このように口中香は、食品にとって非常に重要な要素である。しかしながら、このような口中香は、鼻で感じる香ではなく舌で感じる味として誤認されることが多いため、一般に認知度が低く、真に口中香、とくに「もどり香」に注目した食品開発はほとんど成されていないのが現状である。
【0015】
ワイン風味の清涼飲料の開発についてのこのような現状の下、本発明の第1の目的は、ワイン風味の清涼飲料であって、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻に優れた清涼飲料とその製造方法を提供することにある。
【0016】
さらに本発明の第2の目的は、3MHとその前駆体である3MH-S-Cysを多量に含む香味料とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記の目的を達成するために種々の検討を行い、その結果、パッションフルーツの果汁が、3MH-S-Cysおよびその前駆体である3MH-S-GSHを極めて多量に含有することを見出し、かつパッションフルーツの果汁に含まれる3MH-S-GSHを、清涼飲料での使用に適した方法で、即ち、アルコールを含有しないかまたはアルコールの含有量が抑制され、かつ飲料としての利用に適した安全な方法によって、3MH-S-Cysに変換できること、3MH-S-Cysへの変換に並行して適量の3MHも生成することを見出し、得られた多量の3MH-S-Cysと適量の3MHを含有する果汁を用いることで、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻に優れた清涼飲料、その一例が、ワイン風味の清涼飲料を提供できることを見出して、本発明を完成させた。
【0018】
さらに、本発明では、上記パッションフルーツの果汁または、パッションフルーツの果汁由来の高濃度の3MH-S-Cysと適量の3MHを含有する果汁に、特定の条件で製造した3MH-S-GSHを多量に含むブドウ果皮抽出液またはブドウ果皮抽出液由来の3MH-S-Cysおよび3MHの含有液を組み合わせて用いることで、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻に優れた清涼飲料を提供できることを見出して本発明を完成させた。
【0019】
本発明は以下のとおりである。
[1]
パッションフルーツ果汁を含有する水溶液を乳酸菌発酵させ、発酵後に前記乳酸菌を除去して、少なくともS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインの含有量をパッションフルーツ果汁より高めた発酵液を得ることを含む、発酵液の製造方法。
[2]
前記乳酸菌が、ラクトバチルス・マリ(Lactobacillus mali)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、またはラクトバチルス・ペントウサス(Lactobacillus pentosus)である[1]に記載の製造方法。
[3]
前記パッションフルーツ果汁を含有する水溶液は、発酵前にpHを4〜6の範囲に調整したものである[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]
前記パッションフルーツ果汁を含有する水溶液は、Brixが、10〜25%の範囲になるように調整する[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
前記パッションフルーツ果汁を含有する水溶液に含まれるS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-グルタチオンの10〜100%がS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインに変換される条件で、前記乳酸菌発酵を実施する[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]
前記発酵液は、S-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインの含有量が5,000〜40,000nMの範囲であり、S-3-(ヘキサン-1-オール)-L-グルタチオンの含有量が0〜10,000nMの範囲であり、3-メルカプトヘキサノールおよび3-メルカプトヘキシルアセテートの一方または両方の含有量が300〜8,500nMの範囲である[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
前記発酵液は食品用香味料として用いられる[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]
パッションフルーツ果汁を含有する水溶液が、パッションフルーツ以外の果汁およびブドウ果皮抽出液から成る群から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]
パッションフルーツ以外の果汁がブドウ果汁であり、ブドウ果皮抽出液がS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインおよびS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-グルタチオンを合計で500nM以上含有するブドウ果皮抽出液である[8]に記載の製造方法。
[10]
前記発酵液はワイン風味の食品用香味料として用いられる[9]に記載の製造方法。
[11]
[1]〜[10]のいずれかに記載の製造方法で得られた発酵液を、水、糖含有液、および酸味料の少なくとも1種以上と混合して、S-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインを100〜1,500nM含有し、かつ3-メルカプトヘキサノールおよび3-メルカプトヘキシルアセテートの一方または両方を合計で10〜135nM含有する水溶液を得る、清涼飲料の製造方法。
[12]
ブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液をさらに混合する[11]に記載の製造方法。
[13]
ブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液は、S-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインおよびS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-グルタチオンを合計で500nM以上含有するブドウ果皮抽出液を、ラクトバチルス・マリ(Lactobacillus mali)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、またはラクトバチルス・ペントウサス(Lactobacillus pentosus)である乳酸菌で発酵することで製造される[12]に記載の製造方法。
[14]
[1]〜[10]のいずれかに記載の製造方法で得られた発酵液とブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液の混合割合(容量比)を1:99〜99:1の範囲とする[12]または[13]に記載の製造方法。
[15]
糖含有液がパッションフルーツ以外の果汁である[11]〜[14]のいずれかに記載の製造方法。
[16]
パッションフルーツ以外の果汁がブドウ果汁であり、ワイン風味な清涼飲料を得る[15]に記載の製造方法。
[17]
混合後の水溶液に炭酸ガスを溶解させて炭酸飲料を得る[11]〜[16]のいずれかに記載の製造方法。
[18]
[1]〜[10]のいずれかに記載の製造方法で得られた発酵液を、S-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインの濃度が100〜1,500nMで、かつ3-メルカプトヘキサノールおよび3-メルカプトヘキシルアセテートの一方または両方の合計濃度が10〜135nMで含有する清涼飲料。
[19]
香りが、パッションフルーツ果汁に比べて複雑化したものである、[18]に記載の清涼飲料。
[20]
ブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液をさらに含有する、[18]または[19]に記載の清涼飲料。
[21]
パッションフルーツ以外の果汁をさらに含有する、[18]〜[20]のいずれかに記載の製造方法。
[22]
パッションフルーツ以外の果汁がブドウ果汁であり、ワイン風味を有する[21]に記載の清涼飲料。
[23]
炭酸ガスをさらに含有する炭酸飲料である[18]〜[22]のいずれかに記載の清涼飲料。
[24]
エタノールの含有量が1%未満である[18]〜[23]のいずれかに記載の清涼飲料。
[25]
Brixが1〜20%であり、かつ滴定酸度が1〜16mLである[18]〜[24]のいずれかに記載の清涼飲料。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻に優れたワイン風味の清涼飲料を提供することができる。さらに本発明によれば、ワイン風味の清涼飲料の調製に有用な、3MHとその前駆体である3MH-S-Cysを多量に含む香味料を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】参考例8における、冷凍処理、冷蔵処理をしたブドウ果皮(シャルドネ種)の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の抽出速度比較試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[発酵液の製造方法]
本発明の第1の態様は、パッションフルーツ果汁を含有する水溶液を乳酸菌発酵させ、発酵後に前記乳酸菌を除去して、少なくともS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システイン(3MH-S-Cys)の含有量をパッションフルーツ果汁より高めた発酵液を得ることを含む、発酵液の製造方法である。
【0023】
パッションフルーツは、アメリカ大陸の亜熱帯地方を原産とするトケイソウ科の果物であり、和名はクダモノトケイソウ(果物時計草)である。パッションフルーツは、ブラジルが最大の生産国であり、日本国内でも生産されている。パッションフルーツは、果肉をそのまま食べる他にジュースやジャムとして利用されている。パッションフルーツジュースは、市販されている。
【0024】
本発明では、パッションフルーツ果汁を含有する水溶液を原料として用いる。この水溶液に含有させるパッションフルーツの果汁は、特に制限はない。但し、パッションフルーツの果汁は、通常、3MH-S-Cysおよび3MH-S-GSHを多量に含有するものであり、生成物である発酵液は、少なくとも高濃度で3MH-S-Cysを含有するものであることが好ましいことから、この観点からは、原料とするパッションフルーツの果汁も、3MH-S-Cysおよび3MH-S-GSHの濃度が高いものが好ましい。一般的なパッションフルーツの果汁は、3MH-S-Cysの含有量が1,000〜20,000nMの範囲であり、3MH-S-GSHの含有量が10,000〜100,000nMの範囲である。但し、この範囲に限定される意図ではない。3MH-S-Cysおよび3MH-S-GSHの合計の含有量は15,000〜120,000nMの範囲である。さらにパッションフルーツ果汁は、Brixが例えば、10〜25%の範囲である。但し、いずれの成分の濃度も、果汁を希釈または濃縮することで、上下する。
【0025】
乳酸菌発酵の原料となるパッションフルーツ果汁を含有する水溶液には、パッションフルーツ果汁を、単独で、あるいは適宜水等で希釈して用いることができ、あるいは、例えば公知の糖液、果汁、麦芽汁、穀類を原料とした糖化液と混合することができる。パッションフルーツ果汁を含有する水溶液は、パッションフルーツ果汁のみからなることもできるが、乳酸菌発酵に適した条件とするために、パッションフルーツ果汁に水や糖化液のような糖含有液を添加することもできる。パッションフルーツ果汁を含有する水溶液は、乳酸菌発酵条件等を考慮すると、Brixが例えば、10〜25%の範囲になるように調整することが好ましい。但し、この範囲に限定される意図ではない。Brixの調整は、パッションフルーツ果汁、水、糖含有液等の配合割合と、パッションフルーツ果汁および糖含有液それぞれのBrixを考慮して適宜決定できる。混合の割合は、上記のようにBrixを考慮して決定できる他、生成する発酵液中の3MH-S-Cysおよび3MH-S-GSH濃度等を考慮して調整することもできる。但し、生成する発酵液中の3MH-S-Cysおよび3MH-S-GSH濃度は、発酵条件によっても変化することは言うまでもない。さらに、上記水溶液に添加物を加えることもできる。
【0026】
パッションフルーツ果汁を含有する水溶液は、乳酸菌による発酵を最適化するために、Brixに加えて、発酵前にpHを例えば、4〜6の範囲に調整することが好ましい。但し、使用する乳酸菌の種類に応じて、pHの調整値は適宜設定できる。pHの調整には、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウムなどのアルカリや塩酸などの酸を適宜使用できる。
【0027】
添加物としては、例えば、発酵を助成促進する目的で、酸類(例えば乳酸、リンゴ酸、酒石酸等)、塩類(例えば、食塩、リン酸水素カルシウム、リン酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウム等)、除酸剤(例えば、炭酸カルシウム、アンモニア等)、酵母発酵助成剤(不活性酵母、酵母エキス、酵母細胞壁、リン酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、チアミン塩酸塩、葉酸、パントテン酸カルシウム、ナイアシン、ビオチンの全部または一部で構成されるもの)等を加えてもよい。
【0028】
乳酸菌は、3MH-S-GSHの3MH-S-Cysへの変換効率(変換能)が高く、かつアルコール生成能を有しないか、またはアルコール生成能が低い乳酸菌から選択される。そのような乳酸菌の例としては、ラクトバチルス・マリ(Lactobacillus mali)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、またはラクトバチルス・ペントウサス(Lactobacillus pentosus)を挙げることができる。但し、これらの乳酸菌に限定される意図ではなく、その他の乳酸菌も、3MH-S-Cysの変換能とアルコール生成能を考慮して、適宜選択できる。乳酸菌の代表例は実施例において示す。
【0029】
乳酸菌発酵の条件は、原料水溶液に含まれる3MH-S-GSHの10〜100%が3MH-S-Cysに変換される条件から適宜決定できる。3MH-S-Cysへの変換率は、高いほど好ましく、好ましくは50〜100%、より好ましくは70〜100%の範囲である。発酵温度は、例えば、15〜40℃の範囲、発酵時間は、例えば、12〜96時間の範囲、初発pHは、前述のように例えば、4〜6の範囲で適宜設定できる。発酵温度、発酵時間および初発pHは、使用する乳酸菌の種類と使用量、原料水溶液に含まれる3MH-S-GSHの濃度、3MH-S-Cysへの所望の変換率等を考慮して適宜決定できる。
【0030】
上記発酵により、原料水溶液に含まれる3MH-S-GSHおよび3MH-S-Cysの含有量にもよるが、例えば、5,000〜40,000nMの範囲の濃度の3MH-S-Cysを含有する発酵液を得ることができる。発酵液に残存する3MH-S-GSHの含有量は、原料水溶液に含まれる3MH-S-GSHの濃度や発酵条件によって変化するが、例えば、0〜10,000nMの範囲である。但し、これらの数値範囲に限定される意図ではない。
【0031】
さらに、発酵液には、3MH-S-Cysの生成と並行して、3MHおよび3MHAも生成する。パッションフルーツ果汁を含有する水溶液の3MHおよび3MHAの一方または両方の含有量は5〜250nMの範囲であるが、発酵液の3MHおよび3MHAの一方または両方の含有量は300〜8,500nMの範囲である。
【0032】
発酵終了後は、発酵液から乳酸菌を除去する。乳酸菌が残存すると、発酵液および発酵液を用いた清涼飲料の品質を低下させる原因となる。発酵液からの乳酸菌の除去は、遠心分離法やフィルター法等の公知の方法を単独または組み合わせて用いることができる。
【0033】
本発明の方法で得られた発酵液は、例えば、1,000〜40,000nMの範囲の濃度の3MH-S-Cys並びに3MHおよび3MHAの一方または両方を、例えば、300〜8,500nMの範囲で含有するものであり、食品用香味料として用いることができる。特に、ワイン風味の清涼飲料の原料としても用いることができる。本発明の方法で得られた発酵液を用いたワイン風味の清涼飲料の製造については、後述する。また、本発明の方法で得られた発酵液は、必要に応じ、さらに果実酒あるいはその他アルコール含有飲料とブレンドし、3MH-S-Cys並びに3MHおよび3MHAの一方、または両方を付与し、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻に優れたアルコール飲料を製造することができる。
【0034】
また、本発明の方法で得られた発酵液は、果汁などと混合して、酵母による発酵に供し、3MH香に優れた果実酒を製造することができる。果汁としては、酵母による発酵に用いられる果汁であれば特に限定されないが、例えば、ブドウ果汁、リンゴ果汁、カンキツ果汁(オレンジ、ミカン、グレープフルーツ、レモン、ライムなどの果汁)、パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ、チェリー、カキ、スモモ、アンズ、ビワ、モモ、ナシ、ウメ、ベリー、キウイフルーツ、イチゴ、メロンの各果汁などが挙げられる。特にワインを作る目的ではブドウ果汁を好適に用いることができる。酵母の例としては、サッカロミセス属酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等)が挙げられる。また、サッカロミセス属酵母と共にクロイベロマイセス属酵母(例えば、クロイベロマイセス・サーモトラレンス(Kluyveromyces thermotolerans)等)、トルラスポラ属酵母(例えば、トルラスポラ・デルブレキ(Torulaspora delbrueckii)等)を混合して使用してもよい。本発明の方法で得られた発酵液と果汁の混合比は、特に制限されるものではないが、5:95〜100:0の範囲が適当である。例えば、3MH-S-Cysを5,000nM含有する本発明の方法で得られた発酵液の場合、本発明の方法で得られた発酵液と果汁の混合比を5:95で混合し、発酵することで3-メルカプトヘキサン-1-オールが程よく発現した果実酒を得ることができ、本発明の方法で得られた発酵液のみで発酵させた3-メルカプトヘキサン-1-オールが高度に発現した果実酒では、必要に応じて他の果実酒とブレンドし、香味を調整することができる。なお、乳酸菌発酵後、連続して酵母による発酵に供する場合は、作業の効率向上の観点から、本発明の方法の発酵液製造工程の中の乳酸菌の除去は酵母による発酵後に酵母の除去と合せて実施してもよい。
【0035】
パッションフルーツ果汁を含有する水溶液は、パッションフルーツ以外の果汁およびブドウ果皮抽出液から成る群から選ばれる少なくとも1種をさらに含有することができ、これらの果汁またはブドウ果皮抽出液をパッションフルーツ果汁とともに含有する水溶液を乳酸菌発酵させることができる。
【0036】
パッションフルーツ以外の果汁やブドウ果皮抽出液を追加して用いることで、各果汁や抽出液由来の風味を追加することができる。パッションフルーツ以外の果汁としては、飲用に用いられる果汁であれば特に限定されないが、例えば、ブドウ果汁、リンゴ果汁、カンキツ果汁(オレンジ、ミカン、グレープフルーツ、レモン、ライムなどの果汁)、パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ、チェリー、カキ、スモモ、アンズ、ビワ、モモ、ナシ、ウメ、ベリー、キウイフルーツ、イチゴ、メロンの各果汁などが挙げられる。特にワイン風味の清涼飲料を作る目的ではブドウ果汁を好適に用いることができる。パッションフルーツ以外の果汁がブドウ果汁である場合には、パッションフルーツ果汁のみの場合に比べて得られる発酵液は、ワイン風味が豊かになり、ワイン風味の食品用香味料としてより適したものになる。さらに、ブドウ果皮抽出液を用いる場合にも、ブドウ果皮抽出液に含まれるブドウ果皮由来の微量成分によって、パッションフルーツ果汁のみの場合に比べて得られる発酵液は、ワイン風味が豊かになり、ワイン風味の食品用香味料としてより適したものになる。但し、ブドウ果皮由来の微量成分の詳細については不明であり、例えば、テルペンの配糖体等が考えられるが、これらの限定する意図ではない。ブドウ果皮抽出液については後述する。
【0037】
パッションフルーツ果汁を含有する水溶液が、パッションフルーツ以外の果汁およびブドウ果皮抽出液から成る群から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する場合の、発酵条件は、前述の発酵条件と同様である。但し、パッションフルーツ以外の果汁を用いる場合には、香味のバランスを崩さないよう、配合に注意すること等が必要である。
【0038】
<ブドウ果皮抽出液>
ブドウ果皮抽出液は、3MH前駆体(以下、3MH-S-Cysおよび3MH-S-GSHの総称として3MH前駆体を用いることがある)をBrix20%換算で、例えば、500nM(およそ200ppbに相当)以上含有するものである。ブドウ果皮抽出液における3MH前駆体の濃度は、パッションフルーツ果汁に比べて低いが、3MH前駆体以外にブドウ果皮抽出液に含有される微量成分が、ワイン風味の清涼飲料とする上で有用である。
【0039】
なお、本発明におけるBrix(%)とは屈折糖度計を用いて計測した可溶性固形分を表す数値であり、パッションフルーツ果汁やブドウ果皮抽出液中の可溶性固形分を重量パーセント濃度で示したものである。また、Brix20%換算時の3MH前駆体濃度とは、例えば、得られたブドウ果皮抽出液中の3MH前駆体濃度を、同抽出液のBrix濃度を基準として、Brix20%に換算したときの3MH前駆体濃度を示す。
【0040】
例えば、ブドウ果皮抽出液がBrixA%、その抽出液中の3MH前駆体濃度がB nM(ppb)であるとき、Brix20%換算時の3MH前駆体濃度C nM(ppb)とは、以下の式で計算できる。
C = B × 20/A
【0041】
ブドウ果皮抽出液は、ブドウ果皮を、ブドウ果皮の湿重量に対して0.5〜3倍量の水に浸漬し、0〜20℃で0.5〜96時間保持し、3MH前駆体を抽出し、次いで固液分離し、ブドウ果皮を除去してブドウ果皮抽出液を取得することにより製造することができる。また必要により減圧濃縮、膜処理等を用いて濃縮することもできる。ブドウ果皮を浸漬する水の量はブドウ果皮の湿重量に対して、例えば、0.5〜3倍量が適当である。3倍を超えると、3MH前駆体や糖分の濃度が薄くなり、そのままでは発酵原料として使用しにくくなるうえ、総ポリフェノール濃度が相対的に高くなる傾向がある。0.5倍より少ないと、抽出や固液分離の操作性が悪くなる傾向がある。
【0042】
また抽出効率向上、固液分離の操作性向上を目的として、浸漬中にペクチナーゼ等の酵素活性を有する酵素剤を使用することができる。市販の酵素剤としては、スクラーゼ(三共(株)社製)、ペクチナーゼG、ペクチナーゼPL、ニューラーゼF、ペクチナーゼPL、ペクチナーゼG(以上天野エンザイム(株)社製)、LAFASE FRUIT、LAFAZYM PRESS(以上、LAFFORT社製)、SCOTTZYME BG、SCOTTZYME CINFREE、SCOTTZYME HC、SCOTTZYME KS、SCOTTZYME PEC5L(以上、SCOTT LABORATORIES社製)、LALLZYME EXV、LALLZYME EXV、LALLZYME BETA(以上、LALLEMAND社製)等を例示することができるが、特に限定されるものではない。酵素の使用量は、酵素活性にもよるが、上記の浸漬条件では10ppm〜500ppmの使用で充分である。同様な目的で、ブドウ果皮を冷凍した後に水に浸漬することで3MH前駆体の抽出効率が増し、浸漬時間を短縮することができる。
【0043】
またブドウ果皮を浸漬し、3MH前駆体を抽出する温度は、0〜20℃が適当である。0℃以上であれば3MH前駆体を効率的に抽出できるが、0℃を下回ると浸漬中に凍結し、抽出や固液分離の操作性が悪くなり、20℃を超えると呈味性や発酵特性の点でマイナス要因となる総ポリフェノールの抽出量が相対的に多くなってしまうからである。また抽出時のpHは、pH2〜11の範囲ではpHによる抽出効率の変動がほとんどないので、特にpHを調整する必要はない。総ポリフェノールの抽出量が多くなると、渋味や苦味等、呈味性の著しい悪化、発酵性の悪化がみられる。そのため、果皮抽出液中の総ポリフェノール濃度がBrix20%換算で6,000ppm以下となるように抽出条件を決定することが好ましく、2,000ppm以下に抑えられる条件とすることがより好ましく、600ppm以下に抑えられる条件とすることが最も好ましい。浸漬水の量、温度、攪拌速度等の条件にもよるが、抽出時間は0.5〜96時間の範囲とすることができる。抽出された3MH前駆体の濃度を適宜測定し、その結果から抽出作業終了時間を決定できる。抽出作業終了時間は、例えば、測定された濃度がほぼ一定になった時点とすることができる。
【0044】
こうして抽出作業を終えた後、圧搾機(メンブランプレス、バスケットプレス)、遠心分離、フィルタープレス等の固液分離装置を用いて、抽出粕と分離し、清澄なブドウ果皮抽出液を取得することができる。得られたブドウ果皮抽出液を濃縮する場合には、蒸発濃縮(例えば、減圧蒸発濃縮等)、膜濃縮、冷凍濃縮等の公知の濃縮方法を適用することができる。蒸発濃縮であれば、循環式(液膜流下型)濃縮装置、ワンパス式(噴流薄膜型)濃縮装置、フラッシュエバポレーター等の通常の減圧蒸発濃縮装置等を用いることができる。減圧蒸発濃縮は、品温30℃〜110℃、圧力0.04〜0.4bar等の条件で実施できる。3MH前駆体の分解を防ぐために比較的低い温度、例えば品温30〜60℃の条件が好ましい。膜処理であれば逆浸透膜を利用し、操作圧力60〜150bar等の条件で、Brix10〜68%程度まで濃縮できる。本発明の製造方法に用いられるブドウ果皮抽出液は、固液分離により得られたブドウ果皮抽出液(非濃縮品)およびその後濃縮されたブドウ果皮抽出液(濃縮品)のいずれをも包含する。さらに、こうして得られたブドウ果皮抽出液(濃縮品および非濃縮品)は、必要に応じて清澄化、殺菌をしてもよく、それらの処理方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適用すればよい。
【0045】
本発明で用いるブドウ果皮は、厳密な意味でのブドウ果実の果皮だけに限定されるものでなく、ブドウ果汁やワインの製造工程中で多量に排出されるブドウ果実の搾汁粕のようにブドウ種子を含んでいてもよいものである。通常のブドウ果汁やワインの製造工程中で得られるブドウ果皮の水分含量は、常圧加熱乾燥法で計測した場合、50%(w/w)〜80%(w/w)である。酸化防止、微生物の繁殖防止のため、ブドウ果皮は搾汁後、比較的速やかに使用することが望ましい。但し、搾汁後、ブドウ果皮を所定の時間放置することでブドウ果皮中の3MH前駆体が増加する。そのため、所定時間放置後に水浸漬による抽出を行うことで3MH前駆体濃度が高くかつ総ポリフェノール濃度が低い抽出液が得られる。搾汁後、0.5〜24時間放置後に水に浸漬することが好ましい。放置時間が24時間を超えると雑菌による汚染などが発生する可能性が高くなるため望ましくない。搾汁後、水浸漬までの放置時間は、得られる抽出液の3MH前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を考慮すると1〜4時間程度がより好ましい。尚、放置によるブドウ果皮中の3MH前駆体の増加は、ブドウ果皮中の酵素による反応であり、冷凍処理や加熱処理などの酵素の失活を伴う操作、水浸漬による酵素および基質の拡散を伴う操作で反応が停止すると推察され、また放置によるブドウ果皮抽出液中の総ポリフェノール濃度の低下は、ポリフェノール類が酸化重合することによって不溶化し、沈殿するためと推察される。また、作業の都合上一定期間ブドウ果皮を保存する場合は、例えば冷凍での保存、保存料を使用することによって酸化防止、微生物の繁殖を抑制することが適当である。冷凍保存する場合には、上述の理由のため、冷凍保存する前に搾汁後のブドウ果皮を上述した範囲で所定の時間放置することが好ましい。
【0046】
ブドウ果皮として用いることのできるブドウの品種は、特に制限はなく、甲州、巨峰、デラウエア、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ソーヴィニヨン・ヴェール、ソーヴィニヨン・グリ、リースリング、トンプソン・シードレス、セミヨン、ヴィオニエ、コロンバール、マスカット・オブ・アレキサンドリア、モスカテル・デ・アウストリア、モスカテル・ロサーダ、ピノ・ノワール、ピノ・グリ、ピノ・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラー、マルベック、ペドロ・ヒメネス、トロンテス・リオハーノ、トロンテス・メンドシーノ、トロンテス・サンファニーノ、トロンテル、シュナン・ブラン、ユニ・ブラン、セレサ、クリオージャ、レッドグローブ等の多くの品種を使用することができる。但し、3MH前駆体を多く含む点においてソーヴィニヨン・ブラン種、シャルドネ種のブドウ果皮を用いることが好ましい。
【0047】
上記方法で得られるブドウ果皮抽出液は、原料とするブドウ果皮の種類や抽出条件、さらには濃縮の有無や程度により、3MH前駆体の濃度は変化するが、Brix20%換算した場合、3MH-S-GSH濃度が300nM〜8,000nMの範囲であり、3MH-S-Cys濃度が70nM〜10,000nMの範囲であるものである。さらに、上記方法で得られるブドウ果皮抽出液は、Brix20%換算した場合、3MH-S-GSHおよび3MH-S-Cysの合計濃度が500nM〜15,500nMの範囲である。但し、3MH-S-GSH濃度、3MH-S-Cys濃度、両者の合計濃度は上記範囲より低いものも抽出や濃縮条件を変更することで、適宜調製することができる。
【0048】
[清涼飲料の製造方法]
本発明の第2の態様は、上記本発明の第1の態様の方法で得られた発酵液を、水、糖含有液、および酸味料の少なくとも1種以上と混合して、3MH-S-Cysを100〜1,500nM含有し、かつ3MHおよび3MHAの一方または両方を合計で10〜135nM含有する水溶液を得る、清涼飲料の製造方法である。
【0049】
上記本発明の第1の態様の方法で得られた発酵液は、3MH-S-Cysを例えば、1,000〜40,000nM含有し、かつ3MHおよび3MHAの一方または両方を合計で300〜8,500nM程度含有するものである。従って、この発酵液を、水、糖含有液、および酸味料の少なくとも1種以上の適量と混合して、上記濃度範囲の3MH-S-Cys並びに3MHおよび3MHAの一方または両方を含有する清涼飲料を製造することができる。
【0050】
清涼飲料は、上記発酵液を飲用可能でアルコール1%未満の水溶液と混合して、3MH-S-Cysの濃度を上記範囲に調整することで調製できる。そのような水溶液としては、水を挙げることができる。あるいは、そのような水溶液としては、例えば、糖類、有機酸および水の混合物を挙げることもでき、その場合、得られた発酵液を、糖類、有機酸および水と混合して、3MH-S-Cysの濃度を100〜1,500nMの範囲に調整し、さらに、例えば、Brixを1〜20%、および滴定酸度を1〜16mLに調整することができる。糖類としては、食品用に用いられる糖類であれば特に限定されないが、例えば、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、ショ糖、乳糖等を挙げることができる。有機酸としては、食品用に用いられる有機酸であれば特に限定されないが、例えば、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、コハク酸、グルコン酸等を挙げることができる。
【0051】
あるいは、前記飲用可能でアルコール1%未満の水溶液としては、例えば、果汁を挙げることもでき、その場合、得られた発酵液を、果汁と混合して、3MH-S-Cysの濃度を100〜1,500nMとし、さらに、例えば、Brixを1〜20%、および滴定酸度を1〜16mLに調整することもできる。果汁としては、飲用に用いられる果汁であれば特に限定されないが、例えば、ブドウ果汁、リンゴ果汁、カンキツ果汁(オレンジ、ミカン、グレープフルーツ、レモン、ライムなどの果汁)、パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ、チェリー、カキ、スモモ、アンズ、ビワ、モモ、ナシ、ウメ、ベリー、キウイフルーツ、イチゴ、メロンの各果汁などが挙げられる。特にワイン風味の清涼飲料を作る目的ではブドウ果汁を好適に用いることができる。
【0052】
また、本発明の清涼飲料においては、水や糖類、有機酸、果汁の他にも、通常飲料に配合するような香料、ビタミン、色素類、酸化防止剤、甘味料、酸味料、乳化剤、保存料、調味料、エキス類、pH調整剤、品質安定剤、炭酸ガスなどを配合することができる。
【0053】
本発明の製造方法で得られる清涼飲料は、3MHおよび3MHAの一方または両方を合計で10〜135nM含有することが、果実香(フルーティな香り)を有し、香味が優れているという観点から好ましい。
【0054】
上記発酵液には、ブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液をさらに混合することもできる。ブドウ果皮抽出液は前記のとおりであり、これを、乳酸菌発酵する。乳酸菌発酵の条件は、乳酸菌の種類やブドウ果皮抽出液の組成等を考慮して適宜設定でき、発酵温度は、例えば、15〜40℃の範囲、発酵時間は、例えば、12〜96時間の範囲、初発pHは例えば、3〜10の範囲で適宜設定できる。乳酸菌の種類は、パッションフルーツの果汁を含有する水溶液の発酵に用いることができる乳酸菌と同様であり、3MH-S-GSHの3MH-S-Cysへの変換効率(変換能)が高く、かつアルコール生成能を有しないか、またはアルコール生成能が低い乳酸菌から選択される。
【0055】
本発明の第1の態様の方法で得られた発酵液とブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液の混合割合(容量比)は、例えば、1:99〜99:1の範囲とすることができ、好ましくは、10:90〜90:10の範囲である。希望する風味になるように、混合割合は適宜調整できる。
【0056】
本発明の第1の態様の方法で得られた発酵液とブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液を混合して用いて清涼飲料を得る場合には、混合割合にもよるが、3MH-S-Cys並びに3MHおよび3MHAの濃度は、本発明の第1の態様の方法で得られた発酵液を単独で用いた場合に比べて低濃度で、所望のワイン風味を得られる場合がある。これは、詳細な理由は明らかではないが、ブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液に含有される微量成分が影響しているものと推察される。従って、3MH-S-Cysの濃度は、上記100〜1,500nMの範囲より低い値で、かつ3MHおよび3MHAの一方または両方を合計の濃度も、10〜135nMの範囲より低い値で、所望のワイン風味を得られる場合がある。どの程度の濃度で、所望のワイン風味を得られるかは、ブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液の混合割合や、ブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液の性状に依存する。
【0057】
混合後の水溶液に炭酸ガスを溶解させて炭酸飲料を得ることもできる。炭酸飲料の調製は公知の方法で適宜実施できる。例えば、冷却した水溶液に炭酸ガスを直接注入して溶解させることで、炭酸飲料を得ることができる。
【0058】
[清涼飲料]
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様の方法で得られた発酵液を、3MH-S-Cysの濃度が100〜1,500nMで、かつ3MHおよび3MHAの一方または両方の合計濃度が10〜135nMで含有する清涼飲料である。
【0059】
本発明の清涼飲料は、3MH-S-Cysを100〜1,500nM含有する。3MH-S-Cysは、3MH前駆体の一種であり、β-リアーゼの作用によって3MHに変換される。唾液中にはβ-リアーゼ活性を持つ酵素が含まれており、極微量の3MH-S-Cysを含む飲食物を口に含むと、唾液中のβ-リアーゼ活性を持つ酵素の作用で数秒間の反応時間の後にもどり香として3MHが生成して、優れた果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻が与えられるとともに、口中で香りが意図せず発生したことによる驚きを体験することができる。但し、3MH-S-Cysの濃度が100nM未満では、優れた果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻は与えられない。一方、3MH-S-Cysの濃度が1,500nMを超えると、果実香(フルーティーな香り)と飲み込んだ後の果実香の余韻が強すぎてくどい印象を与える傾向がある。そこで本発明の飲料では、3MH-S-Cysの含有量を上記範囲とする。上記範囲内であれば、3MH-S-Cysの含有量は、清涼飲料の種類や消費者の嗜好に応じて適宜設定できる。3MH-S-Cysの好ましい含有量は、250〜1,000nMの範囲である。
【0060】
また、3MHおよび3MHAの一方または両方の合計濃度が10nM以上であることで、清涼飲料にワイン様の香気を付与できるという利点が有り、一方、3MHおよび3MHAの一方または両方の合計濃度が135nM未満であることで、清涼飲料に3MHおよび3MHAの香りだけが突出しておらず、他の香りと調和した、いわゆる様々な香気が一体となったワイン様の香気特徴を付与できるという利点が有る。3MHおよび3MHAの一方または両方の合計濃度は、好ましくは40〜110nM、より好ましくは50〜100nMの範囲である。
【0061】
本発明の清涼飲料は、ブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液をさらに含有するものであることもできる。ブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液をさらに含有する本発明の清涼飲料は、香りが、パッションフルーツ果汁の乳酸菌発酵液のみから調製した清涼飲料に比べて複雑化したものである。この場合の複雑化とは、ブドウ由来の香味成分が加わり、清涼飲料中に含まれる香味成分の種類、量が豊富になったことで、深く豊かで且つ全体の調和のとれた状態であり、ワインテイスト飲料により望まれる品質特徴である。
【0062】
本発明の清涼飲料が、ブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液をさらに含有するものである場合には、本発明の第1の態様の方法で得られた発酵液およびブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液を合計して、3MH-S-Cysの濃度が、100〜1,500nMで、かつ3MHおよび3MHAの一方または両方の合計濃度が10〜135nMとなるように調整することが好ましい。
【0063】
本発明の清涼飲料は、パッションフルーツ以外の果汁をさらに含有するものであることもできる。パッションフルーツ以外の果汁の例は、前述のとおりである。パッションフルーツ以外の果汁がブドウ果汁である場合には、ワイン風味を有する清涼飲料が得られる。パッションフルーツ以外の果汁をさらに含有する場合、果汁の添加量は、清涼飲料の風味を考慮して適宜決定できる。
【0064】
本発明の清涼飲料は、炭酸ガスをさらに含有する炭酸飲料であることもできる。炭酸ガスの含有量は、液温20℃のときのガスボリュームとして例えば、1〜5.5L/Lの範囲であることができ、好ましくは2〜5L/Lの範囲であることができる。なお、ガスボリュームとは炭酸ガスの溶解量の単位で、標準状態で1Lの液体に1Lの炭酸ガスの溶けている場合を1ガスボリュームといい、本発明の標準状態とは液温20℃の状態と定義される。
【0065】
本発明の清涼飲料は、エタノールの含有量が1%未満である清涼飲料である。エタノールの含有量は、好ましくは0%である。本発明の清涼飲料は、上記のように、パッションフルーツ果汁の乳酸菌発酵液を原料とするものであることができるが、乳酸菌発酵の際にアルコール(エタノール)の生成が抑制され、乳酸菌発酵液を用いて調製される清涼飲料中のエタノール含有量が1%未満に抑えられることが、ノンアルコール飲料の提供という観点からは好ましい。
【0066】
本発明の清涼飲料は、少なくとも所定量の3MH-S-Cysを含む以外に、好ましい香味を呈するという観点から、例えば、Brixが1〜20%であり、かつ滴定酸度が1〜16mLであることが好ましい。Brixおよび滴定酸度は、清涼飲料の種類や消費者の嗜好に応じて適宜設定できる。但し、清涼飲料の種類や消費者の嗜好によっては、Brixおよび/または滴定酸度が、上記範囲外になることもあり得る。
【0067】
本発明の清涼飲料は、上記本発明の第2の態様の製造方法で製造できる。
【0068】
なお、本明細書における3MH前駆体とは、酵母による発酵の過程中で3MH(分子量134)を遊離する性質をもつ物質を意味し、具体的には、3MH-S-GSH(分子量407)および3MH-S-Cys(分子量221)である。また3MH前駆体の量は、これら2物質を以下の分析方法を用いて測定し、それらの量の和で示したものである。尚、3MHAの分子量は176である。
【0069】
(分析法)
試料を0.1%(v/v)蟻酸を含む10%(v/v)メタノール水溶液を用いて適当な倍率で希釈し、0.45μmのフィルターでろ過したものをLC/MS/MSシステムを用いて定量する。検量線を引くために用いた標品は、3MH-S-GSHはC. P. des Gachons、T. Tominagaらの方法(J. Agric. Food Chem., 2002, 50, 4076-4079.)に従い、また3MH-S-CysはC. Thibon、S. Shinkaruk らの方法(J. Chromatogr. A, 2008, 1183, 150-157.)に従い、有機合成することで得た。
【0070】
[使用機器]
3200 QTRAP LC/MS/MSシステム(アプライドバイオシステムズ社)
[LC/MS/MS条件]
インターフェース:Turbo V source
イオン化モード:ESI(positiveモード)
イオン源パラメーター:curtain gas 15psi、collision gas 3psi、ionspray voltage 5500V、temperature 700℃、ion source gas 170psi、ion source gas 270psi、interface heater ON
測定モード:MRMモード
選択イオン:3MH-S-GSH m/z 408.2→162.1(collision energy 27V)、3MH-S-Cys m/z 222.2→83.2(collision energy 19V)
【0071】
[LC条件]
カラム:カラム:アトランティス(Atlantis)T3、3μm、2.1×150mm(ウォーターズ社)
カラム温度:40℃
注入量:10μL
移動相 A:0.1%(v/v)蟻酸を含む水
移動相 B:0.1%(v/v)蟻酸を含むアセトニトリル
流速:0.2mL/min
グラジエント:移動相Aと移動相Bの混合率を移動相A:移動相B=90:10から移動相A:移動相B=0:100まで10分かけて上げ、その後移動相A:移動相B=90:10に戻し、5分間キープした。
【0072】
また本明細書における総ポリフェノール濃度とは、SingletonとRossiらの方法(Am. J. Agric. Enol. Vitic. 16: 144 (1965).)に従い、ガリック酸換算で算出した数値である。この方法は、ガリック酸に含まれる水酸基換算で定量を行うため、フラボノイド系のみならず、非フラボノイド系(ヒドロキシシンナム酸類等)も含めた全てのフェノール化合物が定量される。
【0073】
アルコール濃度(%v/v)は、国税庁所定分析法(改正平成19年国税庁訓令第6号)p5−7、アルコール分の項に記載のガスクロマトグラフ分析法に基づいて測定した。
【0074】
滴定酸度(mL)は、国税庁所定分析法(改正平成19年国税庁訓令第6号)p28−29、総酸(遊離酸)の項に記載の分析法に基づいて測定した。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
実施例1
乳酸菌発酵液製造時のpHの影響調査
パッションフルーツ濃縮果汁(Brix65%)と含水結晶ブドウ糖(日本食品化工社製)を混合したものを水で希釈し、表1記載の発酵原料を5種類調製し、これを発酵原料とした。また、pH調整はアンモニア水と塩酸を用いて行った。
【0077】
【表1】

【0078】
この発酵原料各100mLを180mL容のガラス容器に分注し、それぞれ乳酸菌(Lactobacillus plantarum:THT030702(THT社製))を約1.0×106cfu/mL接種し、発酵温度30℃で2日間静置培養した。培養した後、基質である3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を前記分析方法に従って分析した。また、3MH-S-Cys生成量は培養後の発酵液中の3MH-S-Cys濃度から培養前の発酵原料中の3MH-S-Cys濃度を引くことで求めた。結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
表2に示したように、実施例1b、1c、1d、すなわちpH4.0〜6.0の範囲で3MH-S-Cys生成が効率的に行われていた。
【0081】
実施例2
乳酸菌発酵液製造時の最適3MH-S-GSH濃度の調査
パッションフルーツ濃縮果汁(Brix65%)と含水結晶ブドウ糖(日本食品化工社製)を混合したものを水で希釈し、表3記載の発酵原料を5種類調製し、これを発酵原料とした。また、pH調整はアンモニア水と塩酸を用いて行った。
【0082】
【表3】

【0083】
この発酵原料各100mLを180mL容のガラス容器に分注し、それぞれ乳酸菌(Lactobacillus plantarum:THT030702(THT社製))を約1.0×106cfu/mL接種し、発酵温度30℃で2日間静置培養した。培養した後、基質である3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を前記分析方法に従って分析した。3MH-S-Cys生成量は培養後の発酵液中の3MH-S-Cys濃度から培養前の発酵原料中の3MH-S-Cys濃度を引くことで求めた。また、各発酵原料中に含まれていた3MH-S-GSH濃度に対する発酵後の3MH-S-Cys生成量の割合を計算し、3MH-S-Cys生成率を算出した。結果を表4に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
表4に示したように、実施例2b、2c、2d、2e、すなわち3MH-S-GSH濃度約5,000〜42,000nMの範囲、中でも約15,000〜30,000nMの範囲で3MH-S-Cys生成が効率的に行われていた。
【0086】
実施例3
パッションフルーツ濃縮果汁と白ブドウ濃縮果汁を含む水溶液の乳酸菌発酵前後を原料の一部に使用したワイン風味飲料の官能評価による比較
【0087】
[水溶液の調製]
パッションフルーツ濃縮果汁(Brix65%)30gと白ブドウ濃縮果汁(Brix68%)270gを混合した後、水で希釈することで、パッションフルーツ濃縮果汁と白ブドウ濃縮果汁を含む水溶液(Brix約20%)を1000mL調製した。
【0088】
[乳酸菌発酵液の調製]
上記水溶液を水酸化ナトリウムでpH4.5に調整し、これを発酵原料とした。このとき、発酵原料中に含まれる3MH-S-Cys濃度は1,801nM、3MH-S-GSH濃度は8,848nMであった。この発酵原料1000mLを1500mL容のガラス容器に分注し、乳酸菌(Lactobacillus plantarum:THT030702(THT社製))を約1.0×106cfu/mL接種し、発酵温度30℃で2日間静置培養した。その後、遠心分離(9,000g、10分)をすることで乳酸菌を除去した。
【0089】
[ワイン風味飲料の調製]
上記水溶液および乳酸菌発酵液をそれぞれ調製しようとする飲料の最終液量に対して15v/v%となるように水を混合し、果糖ブドウ糖液糖(フジフラクトH-100(日本食品化工社製)、高果糖液糖(フジフラクトL-95(日本食品化工社製)を1:1の割合でおよそBrix9%となるように添加したのち、酒石酸とリンゴ酸を4:1の割合で添加し、滴定酸度がおよそ12mLの飲料をそれぞれ調製した。水溶液を原料として用い、調製したものを比較例3、乳酸菌発酵液を原料として用い、調製したものを実施例3とした。
【0090】
[官能評価]
調製した比較例3および実施例3の飲料について、7名の専門パネラーにより、「鼻で嗅いだときの果実香(フルーティな香り)の強さ」、「飲み込んだ後の果実香の余韻の強さ」、「嗜好性」をそれぞれ5段階で評価した。結果を表5に示す。その結果、乳酸菌発酵液を混合した実施例3で「鼻で嗅いだときの果実香(フルーティな香り)の強さ」、「飲み込んだ後の果実香の余韻の強さ」が向上し、「ワイン風味飲料としての嗜好性」が増すと評価された。この結果、乳酸菌発酵をすることの有意性を確認した。
【0091】
【表5】

果実香:鼻で嗅いだときの果実香(フルーティな香り)の強さ(5段階評価)
余韻の強さ:飲み込んだ後の果実香の余韻の強さ(5段階評価)
嗜好性評価:ワインテイスト飲料としての嗜好性評価(5段階評価)
【0092】
実施例4
パッションフルーツ濃縮果汁と白ブドウ濃縮果汁を含む水溶液を発酵原料とする乳酸菌発酵液を原料の一部に使用したワイン風味飲料の調製と官能評価
【0093】
[乳酸菌発酵液の調製]
パッションフルーツ濃縮果汁(Brix65%)30gと白ブドウ濃縮果汁(Brix68%)270gを混合した後、水で希釈し、発酵原料(Brix約20%)を1000mL調製した。pHは水酸化ナトリウムを使用し、pH4.5に調整した。このとき、発酵原料中に含まれる3MH-S-Cys濃度は1,801nM、3MH-S-GSH濃度は8848nMであった。この発酵原料1000mLを1500mL容のガラス容器に分注し、乳酸菌(Lactobacillus plantarum:THT030702(THT社製))を約1.0×106cfu/mL接種し、発酵温度30℃で2日間静置培養した。その後、遠心分離(9,000g、10分)をすることで乳酸菌を除去した。
【0094】
[ワイン風味飲料の調製]
上記の乳酸菌発酵液を調製しようとする飲料の最終液量に対して2〜30v/v%となるように水を混合し、果糖ブドウ糖液糖(フジフラクトH-100(日本食品化工社製)、高果糖液糖(フジフラクトL-95(日本食品化工社製)を1:1の割合でおよそBrix9%となるように添加したのち、酒石酸とリンゴ酸を4:1の割合で添加し、滴定酸度がおよそ12mLの飲料をそれぞれ調製した。また、乳酸菌発酵液の代わりにBrix約20%に調整した白ブドウ濃縮果汁を15v/v%混合し、上記と同様に液糖、有機酸を加え、調製したものを比較例4、2〜30v/v%含むものをそれぞれ実施例4a〜4fとした。
【0095】
[官能評価]
調製した比較例4および実施例4a〜4fの飲料について、6名の専門パネラーにより、「鼻で嗅いだときの果実香(フルーティな香り)の強さ」、「飲み込んだ後の果実香の余韻の強さ」、「嗜好性」をそれぞれ5段階で評価した。結果を表6に示す。その結果、本発酵液を混合した実施例1a〜1fで「鼻で嗅いだときの果実香(フルーティな香り)の強さ」、「飲み込んだ後の果実香の余韻の強さ」が向上し、「ワイン風味飲料としての嗜好性」が増すと評価された。なかでも実施例4d、4eが果実香、果実香の余韻の強さのバランスが優れていた。また実施例4fでは果実香、果実香の余韻がやや強すぎると評価された。
【0096】
【表6】

果実香:鼻で嗅いだときの果実香(フルーティな香り)の強さ(5段階評価)
余韻の強さ:飲み込んだ後の果実香の余韻の強さ(5段階評価)
嗜好性評価:ワインテイスト飲料としての嗜好性評価(5段階評価)
【0097】
実施例5
パッションフルーツ濃縮果汁、白ブドウ濃縮果汁およびブドウ果皮抽出液を含む水溶液を発酵原料とする乳酸菌発酵液を原料の一部に使用したワイン風味飲料の調製と官能評価
【0098】
[乳酸菌発酵液の調製]
パッションフルーツ濃縮果汁(Brix65%)30g、白ブドウ濃縮果汁(Brix68%)180gおよびブドウ果皮抽出液(Brix52%)122gを混合した後、水で希釈し、発酵原料(Brix約20%)を1000mL調製した。pHは水酸化ナトリウムを使用し、pH4.5に調整した。このとき、発酵原料中に含まれる3MH-S-Cys濃度は2385nM、3MH-S-GSH濃度は9632nMであった。この発酵原料1000mLを1500mL容のガラス容器に分注し、乳酸菌(Lactobacillus plantarum:THT030702(THT社製))を約1.0×106cfu/mL接種し、発酵温度30℃で2日間静置培養した。その後、遠心分離(9,000g、10分)をすることで乳酸菌を除去した。
【0099】
[ワイン風味飲料の調製]
上記の乳酸菌発酵液を調製しようとする飲料の最終液量に対して2〜30v/v%となるように水を混合し、果糖ブドウ糖液糖(フジフラクトH-100(日本食品化工社製)、高果糖液糖(フジフラクトL-95(日本食品化工社製)を1:1の割合でおよそBrix9%となるように添加したのち、酒石酸とリンゴ酸を4:1の割合で添加し、滴定酸度がおよそ12mLの飲料をそれぞれ調製した。また、乳酸菌発酵液の代わりにBrix約20%に調整した白ブドウ濃縮果汁を15v/v%混合し、上記と同様に液糖、有機酸を加え、調製したものを比較例5、2〜30v/v%含むものをそれぞれ実施例5a〜5fとした。
【0100】
[官能評価]
調製した比較例5および実施例5a〜5fの飲料について、6名の専門パネラーにより、「鼻で嗅いだときの果実香(フルーティな香り)の強さ」、「飲み込んだ後の果実香の余韻の強さ」、「嗜好性」をそれぞれ5段階で評価した。結果を表7に示す。その結果、本発酵液を混合した実施例1a〜1fで「鼻で嗅いだときの果実香(フルーティな香り)の強さ」、「飲み込んだ後の果実香の余韻の強さ」が向上し、「ワイン風味飲料としての嗜好性」が増すと評価された。なかでも実施例5c、5dが果実香、果実香の余韻の強さのバランスが優れており、ワインらしい品質をしていた。また実施例5e、5fでは果実香、果実香の余韻がやや強すぎるため、ワインではなくジュース様であると評価された。
【0101】
【表7】

果実香:鼻で嗅いだときの果実香(フルーティな香り)の強さ(5段階評価)
余韻の強さ:飲み込んだ後の果実香の余韻の強さ(5段階評価)
嗜好性評価:ワインテイスト飲料としての嗜好性評価(5段階評価)
【0102】
参考例1
「各種ブドウの果汁および果皮(果汁搾汁粕)中の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の含有量」
表8に記載した各種ブドウを手動の圧搾式ジューサーで搾汁し、果汁と果皮(果汁搾汁粕)を得た。果皮からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の抽出は、果皮20gに対して2.5倍量の水(50g)を加え、10℃で24時間浸漬することにより行った。各種ブドウの果汁、果皮100g当りに含有する3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の含有量(μg)を測定した。結果を表8に示す。
【0103】
【表8】

【0104】
その結果、表8に示すように果皮には果汁と比較して1.6倍〜19.2倍も多く3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体を含有しており、中でもソーヴィニヨンブラン種、シャルドネ種が多く含有していることが示された。
【0105】
参考例2
「ブドウ果皮(リースリング種)からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体抽出-浸漬水量依存性」
ブドウ(リースリング種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量69.5%(w/w)のブドウ果皮100gに対して、50〜1000g(0.5〜10倍量)の範囲のいずれかの量の水を加え、5℃で72時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、ブドウ果皮抽出液を得た。得られたブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出した。結果を表9に示す。
【0106】
【表9】

【0107】
表9に示したとおり、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体はブドウ果皮に対して0.5倍量〜3倍量の水で浸漬することで充分量抽出された。一方、ブドウ果皮に対して5倍量以上の水で浸漬すると相対的に総ポリフェノール濃度が高くなった。
【0108】
参考例3
「ブドウ果皮(リースリング種)からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体抽出-pH依存性」
ブドウ(リースリング種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量69.5%(w/w)のブドウ果皮100gに対して、250g(2.5倍量)の水を加えた後、水酸化ナトリウムおよび塩酸を用いてpHを1〜11の範囲のいずれかに調整を行った。5℃で96時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、ブドウ果皮抽出液を得た。得られたブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体含量および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出した。結果を表10に示す。
【0109】
【表10】

【0110】
表10に示したとおり、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体はブドウ果皮の浸漬中のpHは2〜11の範囲で充分量抽出された。一方ブドウ果皮の浸漬中のpHが1になると相対的に総ポリフェノール濃度が高くなった。
【0111】
参考例4
「ブドウ果皮(リースリング種)からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体抽出-抽出温度依存性」
ブドウ(リースリング種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量69.5%(w/w)のブドウ果皮100gに対して、250g(2.5倍量)の水を加え、5〜120℃の範囲のいずれかの温度で2〜48時間の範囲いずれかの時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、ブドウ果皮抽出液を得た。得られたブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出した。結果を表11に示す。
【0112】
【表11】

【0113】
表11に示したとおり、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の抽出は5〜20℃の浸漬温度で十分であり、それ以上の浸漬温度となると総ポリフェノール濃度が高くなり、呈味性が悪化していた。
【0114】
参考例5
「ブドウ果皮(トンプソンシードレス種)からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体抽出」
ブドウ(トンプソンシードレス種)を手動の圧搾式ジューサーで搾汁し、果汁1200mLと水分含量70%(w/w)の果皮(果汁搾汁粕)800gを得た。得られたブドウ果皮800gに対して、2000g(2.5倍量)の水を加え、5℃で24時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、Brix4.8%のブドウ果皮抽出液を得た。得られたブドウ果皮抽出液を、フラッシュエバポレーターにて品温60℃で減圧濃縮し、Brix55%まで濃縮した。得られた果汁およびブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出した。結果を表12に示す。
【0115】
【表12】

【0116】
表12に示したとおり、果汁中の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体は検出が不可能なほど少量しか含まれていなかった。一方、果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度は5,000.1nM(1866.7ppb)であり、多量に含有していた。
【0117】
参考例6
「ブドウ果皮(ソーヴィニヨンブラン種)からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体抽出」
ブドウ(ソーヴィニヨンブラン種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量68.6%(w/w)のブドウ果皮を1ヶ月間冷凍保存した。冷凍状態のブドウ果皮1kgに対して、2500g(2.5倍量)の水を加え、20℃で72時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、Brix4%のブドウ果皮抽出液を得た。得られたブドウ果皮抽出液にベントナイトを500ppm添加後30分攪拌し、5℃で24時間静置した。上澄みを珪藻土濾過した後、フラッシュエバポレーターにて品温60℃で減圧濃縮し、Brix50%まで濃縮した。ブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出した結果、S-3-(ヘキサン-1-オール)グルタチオンが4,398.0nM(1,790ppb)(A)、S-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインが11,086.0(2,450ppb)(B)であり、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の濃度は15484.0nM(4,240ppb)[(A)+(B)]、総ポリフェノール濃度は1,780ppmであった。
【0118】
参考例7
「ブドウ果皮(シャルドネ種)からの3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体抽出」
ブドウ(シャルドネ種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量66.8%(w/w)のブドウ果皮を30〜50日間冷凍保存した。冷凍状態のブドウ果皮8tに対して、16t(2倍量)の水を加え、15〜20℃でメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)内で回転させながら3時間浸漬した後、圧搾し、Brix4.6%のブドウ果皮抽出液を得た。得られたブドウ果皮抽出液に混濁成分の沈降促進のため、ポリビニルポリピロリドン(PVPP)1,000ppmとベントナイト500ppm添加後30分攪拌し、5℃で24時間静置した。上澄みを遠心(4,000rpm)し、95℃で加熱殺菌した後、真空薄膜式循環濃縮機にて品温30〜40℃で減圧濃縮して、Brix50%まで濃縮した。ブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出した結果、S-3-(ヘキサン-1-オール)グルタチオンが1,960.8nM(800ppb)(A)、S-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインが5,203.6nM(1150ppb)(B)であり、3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の濃度は7,164.4nM(1950ppb)[(A)+(B)]、総ポリフェノール濃度は568ppmであった。
【0119】
参考例8
「冷凍処理、冷蔵処理をしたブドウ果皮(シャルドネ種)の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体の抽出速度比較」
ブドウ(シャルドネ種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量66.8%(w/w)のブドウ果皮を一方は-30℃で24時間冷凍し、他方は5℃で24時間冷蔵した。それらの果皮100gに対して、250g(2.5倍量)の水を加え、20℃で0時間、1時間、24時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、ブドウ果皮抽出液を得た。得られたブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体含量を測定し、Brix20%換算で算出した。結果を図1に示す。
【0120】
図1に示したとおり、冷蔵処理をしたブドウ果皮を24時間浸漬した場合のブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度と冷凍処理をしたブドウ果皮を1時間浸漬した場合のブドウ果皮抽出液の3-メルカプトヘキサン-1-オール前駆体濃度は同等であった。
【0121】
参考例9
「放置時間毎の3MH前駆体と総ポリフェノール量の試験(シャルドネ種)」
ブドウ(シャルドネ種)を手動の圧搾式ジューサーで搾汁して得た水分含量およそ70%の新鮮なブドウ果皮を1L容のビーカーに入れ、およそ25℃で0〜4時間放置した。それぞれ0、0.5、1、2、4時間毎にブドウ果皮を50gずつ採取し、200mL容のビーカーに入れ、100g(2倍量)の水を加え、5℃で24時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、放置時間の異なるブドウ果皮抽出液を得た。このときのブドウ果皮抽出液のBrix(%)、3MH前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定した。結果を表13に示す。
【0122】
【表13】

【0123】
結果、放置時間を0.5〜4時間おくことによって、得られるブドウ果皮抽出液の3MH前駆体濃度が飛躍的に向上していた。さらに乳酸菌の生育阻害や苦味の要因となる総ポリフェノール量が放置時間を0.5〜4時間置くことによって減少した。
【0124】
参考例10
「3MH前駆体からみた放置時間上限の試験(シャルドネ種)」
ブドウ(シャルドネ種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量およそ67%のブドウ果皮をそれぞれ200gずつ採取し、1L容のビーカーに入れ、およそ25℃で0〜2時間したもの、およそ25℃で5時間放置後、およそ5℃で19時間放置し、合計24時間放置したものをそれぞれ用意した。それぞれ0、0.5、1、2、24時間経過したブドウ果皮に400g(2倍量)の水を加え、15℃で1時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、放置時間の異なるブドウ果皮抽出液を得た。このときのブドウ果皮抽出液のBrix(%)、3MH前駆体濃度を測定した。結果を表14に示す。
【0125】
【表14】

【0126】
結果、放置時間を0.5〜24時間おくことによって、得られるブドウ果皮抽出液の3MH前駆体濃度が飛躍的に向上していた。
【0127】
参考例11
「放置時間毎の3MH前駆体と総ポリフェノール量の試験(甲州種)」
ブドウ(甲州種)を手動の圧搾式ジューサーで搾汁して得た水分含量およそ70%の新鮮なブドウ果皮を1L容のビーカーに入れ、およそ25℃で0〜5時間放置した。それぞれ0、0.5、1、2、4、5時間毎にブドウ果皮を50gずつ採取し、200mL容のビーカーに入れ、100g(2倍量)の水を加え、5℃で24時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、放置時間の異なるブドウ果皮抽出液を得た。このときのブドウ果皮抽出液のBrix(%)、3MH前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定した。結果を表15に示す。
【0128】
【表15】

【0129】
結果、放置時間を0.5〜5時間おくことによって、得られるブドウ果皮抽出液の3MH前駆体濃度が飛躍的に向上していた。さらに乳酸菌の生育阻害や苦味の要因となる総ポリフェノール量が放置時間を0.5〜5時間置くことによって減少した。
【0130】
参考例12
「合成培地中での各種乳酸菌による変換1」
Lactobacilli MRS Broth(Difco社)55gを1000mLのイオン交換水と混合し、オートクレーブを用いて滅菌(120℃、15分)し、MRS培地(pH6.5)を調製した。これに有機合成により調製した3MH-S-GSHを1,250nMとなるように溶解させ、次いで滅菌済み15mLファルコンチューブに15mLずつ分注した。これに表16記載の各種乳酸菌を約1.0×106cfu/mL接種し、30℃で3日間静置培養した後、基質である3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を、前記実施例の直前に記載した分析方法に基づいて分析した。結果を表16に示す。
【0131】
【表16】

【0132】
参考例13
「合成培地中での各種乳酸菌による変換2」
参考例12と同様にMRS培地(pH6.5)を調製し、有機合成により調製した3MH-S-GSHを1,000nMにとなるように溶解させ、次いで滅菌済み15mLファルコンチューブに10mLずつ分注した。これに表17記載の各種乳酸菌を約1.0×106cfu/mL接種し、30℃で3日間静置培養した後、基質である3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を参考例12と同様の方法で分析した。結果を表10に示す。
【0133】
【表17】

【0134】
参考例14
「果皮抽出液中での各種乳酸菌による変換1」
ブドウ(シャルドネ種)をメンブランプレス(ブーハー・バスラン社製)で搾汁して得た水分含量66.8%のブドウ果皮を1ヶ月間冷凍保存した。冷凍状態のブドウ果皮1.5kgに対して、3.0kg(2倍量)の水を加え、20℃で24時間浸漬後、手動の圧搾式ジューサーで圧搾し、Brix5%のブドウ果皮抽出液を得た。得られたブドウ果皮抽出液にベントナイトを500ppm添加後30分攪拌し、5℃で24時間静置した。上澄みを珪藻土濾過した後、フラッシュエバポレーターにて品温60℃で減圧濃縮し、Brix50%まで濃縮した。ブドウ果皮抽出液の3MH前駆体濃度および総ポリフェノール濃度を測定し、Brix20%換算で算出したところ、ブドウ果皮抽出液中に含まれる3MH前駆体濃度9,014.2nM(3MH-S-Cys:2895.8nM、3MH-S-GSH:6118.4nM)、総ポリフェノール濃度は1414ppmであった。
【0135】
このブドウ果皮抽出液をBrix20%に調整し、発酵原料とした。このとき、発酵原料中に含まれる3MH前駆体濃度は9,014.2nM(3MH-S-Cys:2,895.8nM、3MH-S-GSH:6,118.4nM)、総ポリフェノール濃度は1,414ppmであった。これに発酵助成剤Fermaid K(Lallemand社)100mg/L、リン酸二水素アンモニウム1g/Lを加え、100mLずつ180mL容のガラス容器に分注した。このとき、pHは4.4であった。表18記載の乳酸菌をそれぞれ約1.0×107cfu/mL添加し、20℃で2日間静置培養した。培養した後、基質である3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を参考例12におけると同様の方法で分析した。また、3MH-S-Cys生成量は培養後の発酵液中の3MH-S-Cys濃度から培養前の発酵原料中の3MH-S-Cys濃度を引くことで求めた。結果を表18に示す。
【0136】
【表18】

【0137】
参考例15
「果皮抽出液中での各種乳酸菌による変換2」
【0138】
参考例7で調製したブドウ果皮抽出液をおよそBrix20%(pH4.2)に調整し、これを発酵原料とした。このとき、発酵原料中に含まれる3MH前駆体濃度は7,164.4nM(3MH-S-Cys:5,203.6nM、3MH-S-GSH:1,960.8nM)、総ポリフェノール濃度は568ppmであった。この発酵原料を300mLずつ360mL容のガラス容器に分注し、表19記載の乳酸菌を約1.0×107cfu/mL添加し、30℃で2日間静置培養した。培養した後、基質である3MH-S-GSHと生成物である3MH-S-Cysの濃度を参考例12におけると同様の方法で分析した。また、3MH-S-Cys生成量は培養後の発酵液中の3MH-S-Cys濃度から培養前の発酵原料中の3MH-S-Cys濃度を引くことで求めた。結果を表19に示す。
【0139】
【表19】

【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明は清涼飲料等の飲食品の製造技術分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッションフルーツ果汁を含有する水溶液を乳酸菌発酵させ、発酵後に前記乳酸菌を除去して、少なくともS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインの含有量をパッションフルーツ果汁より高めた発酵液を得ることを含む、発酵液の製造方法。
【請求項2】
前記乳酸菌が、ラクトバチルス・マリ(Lactobacillus mali)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、またはラクトバチルス・ペントウサス(Lactobacillus pentosus)である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記パッションフルーツ果汁を含有する水溶液は、発酵前にpHを4〜6の範囲に調整したものである請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記パッションフルーツ果汁を含有する水溶液は、Brixが、10〜25%の範囲になるように調整する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記パッションフルーツ果汁を含有する水溶液に含まれるS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-グルタチオンの10〜100%がS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインに変換される条件で、前記乳酸菌発酵を実施する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記発酵液は、S-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインの含有量が5,000〜40,000nMの範囲であり、S-3-(ヘキサン-1-オール)-L-グルタチオンの含有量が0〜10,000nMの範囲であり、3-メルカプトヘキサノールおよび3-メルカプトヘキシルアセテートの一方または両方の含有量が300〜8,500nMの範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記発酵液は食品用香味料として用いられる請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
パッションフルーツ果汁を含有する水溶液が、パッションフルーツ以外の果汁およびブドウ果皮抽出液から成る群から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
パッションフルーツ以外の果汁がブドウ果汁であり、ブドウ果皮抽出液がS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインおよびS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-グルタチオンを合計で500nM以上含有するブドウ果皮抽出液である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記発酵液はワイン風味の食品用香味料として用いられる請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法で得られた発酵液を、水、糖含有液、および酸味料の少なくとも1種以上と混合して、S-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインを100〜1,500nM含有し、かつ3-メルカプトヘキサノールおよび3-メルカプトヘキシルアセテートの一方または両方を合計で10〜135nM含有する水溶液を得る、清涼飲料の製造方法。
【請求項12】
ブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液をさらに混合する請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
ブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液は、S-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインおよびS-3-(ヘキサン-1-オール)-L-グルタチオンを合計で500nM以上含有するブドウ果皮抽出液を、ラクトバチルス・マリ(Lactobacillus mali)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、またはラクトバチルス・ペントウサス(Lactobacillus pentosus)である乳酸菌で発酵することで製造される請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法で得られた発酵液とブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液の混合割合(容量比)を1:99〜99:1の範囲とする請求項12または13に記載の製造方法。
【請求項15】
糖含有液がパッションフルーツ以外の果汁である請求項11〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
パッションフルーツ以外の果汁がブドウ果汁であり、ワイン風味な清涼飲料を得る請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
混合後の水溶液に炭酸ガスを溶解させて炭酸飲料を得る請求項11〜16のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法で得られた発酵液を、S-3-(ヘキサン-1-オール)-L-システインの濃度が100〜1,500nMで、かつ3-メルカプトヘキサノールおよび3-メルカプトヘキシルアセテートの一方または両方の合計濃度が10〜135nMで含有する清涼飲料。
【請求項19】
香りが、パッションフルーツ果汁に比べて複雑化したものである、請求項18に記載の清涼飲料。
【請求項20】
ブドウ果皮抽出液の乳酸菌発酵液をさらに含有する、請求項18または19に記載の清涼飲料。
【請求項21】
パッションフルーツ以外の果汁をさらに含有する、請求項18〜20のいずれかに記載の製造方法。
【請求項22】
パッションフルーツ以外の果汁がブドウ果汁であり、ワイン風味を有する請求項21に記載の清涼飲料。
【請求項23】
炭酸ガスをさらに含有する炭酸飲料である請求項18〜22のいずれかに記載の清涼飲料。
【請求項24】
エタノールの含有量が1%未満である請求項18〜23のいずれかに記載の清涼飲料。
【請求項25】
Brixが1〜20%であり、かつ滴定酸度が1〜16mLである請求項18〜24のいずれかに記載の清涼飲料。

【図1】
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【公開番号】特開2012−32(P2012−32A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136381(P2010−136381)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000001915)メルシャン株式会社 (48)
【Fターム(参考)】