説明

清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水

【課題】清涼飲料水製造原水基準に適合し、かつ高い殺菌力を備える電解水を提供する。
【解決手段】3室型の電解水生成装置を用い、pH10.0〜12.8及びORP−900〜30mVである還元水と、pH1.8〜3.5、ORP800〜1400mV及び残留塩素濃度5〜250ppmである酸化水とを生成し、これらを混合してpH5.8〜6.5、残留塩素濃度15〜25ppm及び酸化還元電位(ORP)700〜1200mVの物性を備える清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水に関し、特に、高い殺菌力を備えた清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水に塩化ナトリウム、塩化カリウム等の電解質を添加し、電気分解することで得られる電解水が公知である。電極の陰極側から得られる電解水は還元水と呼ばれ、アルカリ性を示して油脂やタンパク質などの有機物を分解、洗浄することができる効果が知られている。陽極側から得られる電解水は酸化水と呼ばれ、塩素イオン等を含んで酸性を示し、その殺菌効果から、感染症対策として手や内視鏡の洗浄に利用されている。例えば、下記特許文献1では、このような電解水を生成するための方法および装置に係る発明が提案されている。
【0003】
また、下記特許文献2では、酸性水の殺菌力を利用して低温殺菌により製品とすることができる清涼飲料水に係る発明が提案されている。このほか、電解水を生成するための電気分解を利用し、飲料水等の改質改善を行う方法に係る発明が下記特許文献3に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3988827号公報
【特許文献2】特許第3545742号公報
【特許文献3】特開2004−73056号公報
【0005】
このように、電解水は、その有用な機能に基づいて、物の洗浄、消毒、皮膚等の消毒、感染症対策をはじめとする様々な用途に利用されている。しかし、これまで清涼飲料水等の原水とする等、電解水を体内に取り込んで利用する用途は開発されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、清涼飲料水を製造するための原水として電解水を利用するためには、電解水が食品衛生法(昭和22年法律第233号)第7条第1項及び、第10条の規定に基づいて定められた「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年12月28日厚生省告示第370号)中の「清涼飲料水の製造基準(1)の2.」表に掲げられている26項目の基準を満たしている必要がある。具体的には、大腸菌が検出されないことをはじめ、細菌類や余分なイオン(無機イオン、有機イオン)を基準以下に抑えること、pHを基準に適合させること等の種々の制御を行って電解水を生成することが必要となる。
【0007】
電解水は、電気分解により生成されるため、例えば、管理を十分に行うことによって、大腸菌等を含めた細菌類の混入の虞を除外することが可能である。また、例えば、適切な装置、手段を設けることにより、余分なイオンを基準以下に取り除くことが達成可能になると期待される。しかし、酸化水及び還元水を混ぜた上で、pHを基準に適合させることについては、相当な困難性が伴う。原料となる酸化水、還元水の流量の僅かな変化、pHの僅かな変化が、生成しようとする電解水のpHに大きく影響するため、基準に適合したpHの電解水を安定して生成すること、すなわち、清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水を工業的に自動生成することを極めて困難とさせているのである。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑み提案され、原料となる酸化水、還元水の流量及びpHを安定させることで、基準に適合したpHの電解水を安定して生成し、併せて、塩素を基準の範囲内で高めること等により、生体内に取り込むことができ、さらに、高い殺菌力を備えた清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、清涼飲料水の製造に用いることが可能な清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水であって、pH5.8〜8.6、残留塩素濃度5〜40ppm及び酸化還元電位(ORP)700〜1200mVであることを特徴とする。
【0010】
特に、本発明は、pH10.0〜12.8及びORP−900〜30mVである還元水と、pH1.8〜3.5、ORP800〜1400mV及び残留塩素濃度5〜250ppmである酸化水とから構成される。
【0011】
上記還元水及び上記酸化水は電流値3〜25Aの条件で生成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、清涼飲料水の製造に用いることが可能な清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水であって、pH5.8〜8.6であるので、生体内に取り込むことができる。さらに、残留塩素濃度5〜40ppm及びORP700〜1200mVであるので、塩素による高い殺菌力を備えつつ、電解水の酸化力に基づく有用な機能も維持することができる。
【0013】
特に、pH10.0〜12.8及びORP−900〜30mVである還元水と、pH1.8〜3.5、ORP800〜1400mV及び残留塩素濃度5〜250ppmである酸化水とから構成されるので、清涼飲料水製造原水基準に適合したpHの電解水を安定して生成することができ、この還元水及び酸化水は電流値3〜25Aの条件で生成されるので、流量を安定させることもできる。
【0014】
したがって、本発明では、生体内に取り込むことができ、かつ、高い殺菌力を備えた清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水を製造するための3室型電解装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水が高い殺菌力を有する理由を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、この一実施形態は本発明の構成を具現化した例示に過ぎず、特許請求の範囲に記載した事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことができる。
【0017】
本発明に係る清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水(以下、「本発明電解水」という。)は、pH5.8〜8.6(好ましくはpH5.8〜7.0)、残留塩素濃度5〜40ppm(好ましくは10〜25ppm)及び酸化還元電位(ORP)700〜1200mVの物性を備える。さらに詳述すれば、pH10.0〜12.8及びORP−900〜30mVである還元水と、pH1.8〜3.5、ORP800〜1400mV及び残留塩素濃度5〜250ppmである酸化水とから、適量混合されて構成される。
【0018】
本発明電解水を構成する酸化水、還元水はそれぞれ、図1に示すような3室型の電解水生成装置(以下、「本装置」という。)を利用して生成される。本装置は、純水や水道水等の種々の原料水及び、この原料水に溶け込んだ塩化ナトリウム(NaCl)あるいは塩化カリウム(KCl)等の支持電解質が循環して流出入する中間室1と、この中間室1との間に陽イオン交換膜及び陰極が仕切りとして配設され、支持電解質のうちの陽イオン(図1において、ナトリウムイオン)が溶け込むカソード室2と、中間室1との間に陰イオン交換膜及び陽極が仕切りとして配設され、支持電解質のうちの陰イオン(図1において、塩素イオン)が溶け込むアノード室3とから構成されている。中間室1とアノード室3との間には、不織布が所定の厚みで配置されている。この不織布により、アノード室3に溶け込む塩素イオンの量が調整される。また、本装置は、150W又は300Wの定電圧回路を備え、電流値の稼働可能範囲が3A〜25Aである。
【0019】
本装置を用い、中間室1で支持電解質が溶け込んだ原料水を循環させ、電気分解を行うとともに、カソード室2、アノード室3に原料水をそれぞれ流し入れることにより、カソード室2から還元水を、アノード室3から塩素イオンを含む酸化水を、それぞれ生成する。その際、下記パラメータに基づいて物性を制御して還元水及び酸化水を生成し、これらを適量混合することで本発明電解水は得られる。
【0020】
なお、食品衛生法に基づく清涼飲料水製造原水基準に適合するには、下記[表1]に示す26項目の基準を満たす必要がある。
【0021】
【表1】

【0022】
本発明電解水を生成するためにコントロールすべきパラメータには、原料水の性質、原料水の流量(L/分)、原料水の温度(粘性)のほか、電気分解を行う電圧値、電流値、残留塩素濃度を調整するための不織布の厚さ、pH、ORP、残留塩素濃度等が挙げられる。特に、還元水を生成するためのパラメータには、原料水の温度、流量、電圧、電流値、pH及びORPが挙げられ、酸化水を生成するためのパラメータには、原料水の温度と流量、電圧、電流値、pH、ORP、不織布の厚さ及び残留塩素濃度が挙げられる。原料水には、水道水、イオン交換水、RO水、純水等、食品衛生法に基づく清涼飲料水原水基準に適合しているものを用いる。
【0023】
本装置を用いて電気分解を行うとき、直接コントロールできるパラメータは、原料水の性質、原料水の流量、原料水の温度、電圧値、不織布の厚さである。電流値、pH、ORP、残留塩素濃度は、直接コントロールできるパラメータを決定すれば必然的に決まる。
【0024】
ただし、清涼飲料水原水基準に適合し、無味、無臭で高い殺菌力を備える本発明電解水を生成するため、本発明では、残留塩素濃度、ORP及びpHのパラメータをコントロールしている。ORPは、値が高いほど高い殺菌力を備えるとされるため、酸化水と還元水とを混ぜ合わせる際に、値が低下しないように制御している。具体的には、生成された直後の還元水のORPは−800mV程度の値を示すが、この値は時間の経過とともに変化する。例えば、生成後一週間程度が経つと、−800mV程度の値が30mV程度の値にまで変化する。一方、pHが変化することはないため、このORPの値が変化した還元水を混ぜ合わせることにより、酸化側のORPの低下を抑えることができる。
【0025】
また、本発明では、次亜塩素酸イオンの80倍の殺菌力を有するとされる次亜塩素酸の殺菌力を利用するが、本発明電解水を、酸化水と還元水を混ぜ合わせて生成した後に、すぐに全量を使用するのか、タンク等にためて、全量をある程度の期間をかけて使用するのかで、pHの調整範囲が違ってくる。すぐに全量を使用する場合はpHを5.8〜6.5の範囲になるように制御している。図2に示すように、pH5.8〜6.5の範囲に収めることで次亜塩素酸の存在率が高くなり、残留塩素濃度が同一であっても殺菌力を最大化させることができるからである。しかし、全量をある程度の期間をかけて使用する場合は、使用する期間の幅によって、pHを6.1〜7.0の範囲になるように制御している。その理由は、中性域に制御された電解水が、時間が経つと不均化を起こすからである。不均化とは、同一種類の化学種(多くの場合は分子)が2個以上、互いに反応して2種類以上の異なる種類の生成物を与える化学反応のことをいう。次亜塩素酸の場合、下記[化1]のような反応をし、電解水のpHは酸化側に傾いてゆく。
【0026】
【化1】

【0027】
本発明電解水について日本薬局方に基づく加速度試験を行うと、pH6.8、残留塩素濃度25ppmの検体(本発明電解水)を、40℃、75%の湿度のチャンバーで2カ月間保持したところ、pHは6.3に変化していた。つまり、不均化がおきていた。一方、上記加速度試験では、添加した大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、カンジダおよびクロコウジカビが検出されないという結果が得られ、防腐、防カビ効力を示して殺菌力が十分に保持されていることが確認されている。加速度試験において2カ月間保持したということは、本発明電解水の品質が実質上1年間、保証されることを意味する。なお、残留塩素濃度は、上述の通り、流量、電流値、不織布の厚みにより制御している。
【0028】
また、還元水及び酸化水を生成する際には、原料水の流量、原料水の温度、電圧値及び電流値、pH、ORP、残留塩素濃度が相互に影響を受ける。本装置は定電圧回路(150W又は300W)であるので、電流値が原料水の温度と原料水の流量によって変化し、この変化が生成される還元水及び酸化水のpH、ORP、残留塩素濃度に影響を与える。原料水の流量に関し、例えば、150Wタイプを用いた場合、流量が2L/分、水温が14℃のとき、電流値が12A程度を示し、生成される還元水は、pH11.5、ORP−600mV程度となる。また、流量を1L/分にすると、電流値が13A程度を示し、生成される還元水は、pH11.8、ORP−700mV程度となる。さらに、水の温度に関し、原料水の水温を8℃にすると、電流値が10A程度を示し、生成される還元水は、pH11.3、ORP−500mV程度となる。
【0029】
酸化水についても同様な変化を示し、残留塩素濃度は、電流値が高いほど上昇する。
【0030】
本発明では、原料水の流量を毎分0.3〜4.0L、原料水の温度を8〜35℃、不織布の厚さを0.00mm(不織布なし)〜2.00mmとした条件で本発明電解水を生成する。このとき、本装置の電流値は3A〜25Aを示す。
【0031】
その結果、pH10.0〜12.8、ORP−500〜−900mVの還元水と、pH1.8〜3.5、ORP800〜1400mV、残留塩素濃度5〜250ppmの酸化水とが生成される。
【0032】
なお、好ましい条件の下では、pH10.8〜12.0、ORP−500〜−900mVの還元水と、pH1.8〜3.2、ORP800〜1400mV、残留塩素濃度5〜250ppmの酸化水とを得ることができる。還元水は、生成後の時間の経過を制御することで、ORPが−900〜30mVの値を示す各種のものを用意することができる。
【0033】
この還元水、酸化水を適量混合することにより、pH5.8〜7.0、ORP700〜1200mV及び残留塩素濃度が15〜25ppmの本発明電解水を安定して得ることができる。
【実施例】
【0034】
本実施例では、150Wの定電圧回路を備えた本装置により、原料水に純水を使用し、原料水の流量を還元側(カソード室2側)で毎分1.8L、酸化側(アノード室3側)で毎分2.0L、原料水の温度14℃(±0.5℃)、不織布の厚さ0.02mmの条件で還元水及び酸化水を自動生成した。
【0035】
生成された還元水は、pH11.7、ORP−700mV、生成された酸化水は、pH2.7、ORP1200mV、残留塩素濃度40ppmだった。
【0036】
これらを適量混合し、pH6.5、ORP900mV及び残留塩素濃度が25ppmの電解水(本発明電解水)を安定して得た。
【0037】
なお、300W定電圧回路の電解装置を用いれば、流量を多くすることができるので、本発明電解水の生成効率が向上する。また、150W定電圧回路と組み合わせることで、パラメータの制御が易しくなることも確認している。
【0038】
したがって、本発明電解水は、清涼飲料水の製造に用いることが可能な清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水であり、pH5.8〜7.0であるので、生体内に取り込むことができる。さらに、pH5.8〜7.0であって、かつ残留塩素濃度15〜25ppm及び酸化還元電位(ORP)700〜1200mVであるので、塩素(次亜塩素酸)による高い殺菌力を備えつつ、電解水のORPに基づく有用な機能も発揮される。さらに、pH10.0〜12.8及びORP−900〜30mVである還元水と、pH1.8〜3.5、ORP800〜1400mV及び残留塩素濃度5〜250ppmである酸化水とを得て、これらを適量混合して構成されるので、清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水を安定して生成することもできる。本発明電解水は、電流値3〜25Aの条件で生成され、流量を安定させることもできる。
【0039】
以上、本発明の一実施形態を例示して詳述したが、上述したとおり、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、定電流回路を持つ上記構成の3室型の電解水生成装置であっても、また上記構成の3室型の電解水生成装置を用いる以外であっても、上述した特許請求の範囲に記載されているパラメータ等を整備した条件を満たすのであれば、本発明電解水を得ることは可能である。アノード室に溶け込む塩素イオンの量の調整は、不織布以外の適宜の手段でも達成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明電解水は、清涼飲料水製造原水基準に適合し、生体内に取り込むことができるほか、高い殺菌力を備える。また、酸化水の機能も備えている。したがって、清涼飲料水をはじめとする食品分野への適用はもちろん、幅広い分野での活用が期待される。
【符号の説明】
【0041】
1 中間室
2 カソード室
3 アノード室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
清涼飲料水の製造に用いることが可能な清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水であって、
pH5.8〜8.6、残留塩素濃度5〜40ppm及び酸化還元電位(ORP)700〜1200mVである、
ことを特徴とする清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水。
【請求項2】
pH10.0〜12.8及びORP−900〜30mVである還元水と、
pH1.8〜3.5、ORP800〜1400mV及び残留塩素濃度5〜250ppmである酸化水と、
から構成されることを特徴とする請求項1に記載の清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水。
【請求項3】
前記還元水及び前記酸化水は電流値3〜25Aの条件で生成される、
ことを特徴とする請求項2に記載の清涼飲料水製造原水基準に適合した電解水。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−17405(P2013−17405A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151583(P2011−151583)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(506112340)株式会社レドックス (3)
【Fターム(参考)】